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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】半導体モジュールの劣化推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20231227BHJP
   H02M 1/00 20070101ALI20231227BHJP
【FI】
G01R31/26 A
H02M1/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020201856
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089450
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朽木 克博
(72)【発明者】
【氏名】青柳 勲
(72)【発明者】
【氏名】村松 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】中垣 真治
(72)【発明者】
【氏名】出口 昌孝
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-083237(JP,A)
【文献】特開2017-027329(JP,A)
【文献】特表2021-503086(JP,A)
【文献】特開2007-104778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/26
H02M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体モジュールの劣化推定装置であって、
前記半導体モジュールの劣化指標の劣化を記述する劣化数理モデルを記憶する数理モデル記憶部であって、前記劣化数理モデルは、少なくとも複数の前記半導体モジュールの製造プロセスデータと前記劣化指標の劣化の進行データに基づいて作成される、数理モデル記憶部と、
推定対象の前記半導体モジュールの前記製造プロセスデータである特定製造プロセスデータを記憶する製造プロセスデータ記憶部と、
少なくとも前記特定製造プロセスデータに基づいて前記劣化数理モデルを修正し、修正された修正劣化数理モデルに基づいて推定対象の前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定する推定部と、を備える、劣化推定装置。
【請求項2】
推定対象の前記半導体モジュールが使われ始めてからの前記半導体モジュールの動作データを取得する動作データ取得部、をさらに備えており、
前記推定部は、少なくとも前記特定製造プロセスデータと前記動作データに基づいて前記劣化数理モデルを修正し、修正された前記修正劣化数理モデルに基づいて推定対象の前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定する、請求項1に記載の劣化推定装置。
【請求項3】
前記動作データは、推定対象の前記半導体モジュールが使われ始めてからの経過時間と、その経過時間内の前記半導体モジュールの積算通電エネルギーと、を含む、請求項2に記載の劣化推定装置。
【請求項4】
推定対象の前記半導体モジュールが使われ始めてからの前記半導体モジュールの動作時の環境データを取得する環境データ取得部、をさらに備えており、
前記推定部は、少なくとも前記特定製造プロセスデータと前記環境データに基づいて前記劣化数理モデルを修正し、修正された前記修正劣化数理モデルに基づいて前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の劣化推定装置。
【請求項5】
前記環境データは、前記半導体モジュールが使われている環境の温度履歴を含む、請求項4に記載の劣化推定装置。
【請求項6】
前記劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差の劣化を記述する数理モデルであり、前記半導体モジュールの熱抵抗の劣化を記述する熱抵抗劣化数理モデルと前記半導体モジュールの電力損失の劣化を記述する電力損失劣化数理モデルの積を含んでおり、
前記熱抵抗劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの製造プロセスに依存しない数理モデルであり、
前記電力損失劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの製造プロセスに依存した数理モデルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の劣化推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体モジュールの劣化推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体モジュールは様々な用途で利用されている。例えば直流電力を交流電力に変換して負荷に交流電力を供給する電力変換装置は、複数の半導体モジュールで構成されている。このような半導体モジュールは、積算通電エネルギーに依存して劣化が進行する。このため、半導体モジュールの劣化を推定し、例えば交換時期を通知する技術が必要とされている。
【0003】
特許文献1は、半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差を測定し、その温度差をパワーサイクル寿命カーブに当てはめることにより、残りのパワーサイクル数、即ち、半導体モジュールの劣化を推定する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-196703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような半導体モジュールの劣化を推定する技術において、高精度に劣化を推定することが可能な技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体モジュールの劣化推定装置の一実施形態は、数理モデル記憶部と、製造プロセスデータ記憶部と、推定部と、を備えることができる。前記数理モデル記憶部は、前記半導体モジュールの劣化指標の劣化の進行を記述する劣化数理モデルを記憶している。前記劣化数理モデルは、少なくとも複数の前記半導体モジュールの製造プロセスデータと前記劣化指標の劣化の進行データに基づいて作成される。前記製造プロセスデータ記憶部は、推定対象の前記半導体モジュールの前記製造プロセスデータである特定製造プロセスデータを記憶している。前記推定部は、少なくとも前記特定製造プロセスデータに基づいて前記劣化数理モデルを修正し、修正された修正劣化数理モデルに基づいて推定対象の前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定する。この劣化推定装置は、推定対象の前記半導体モジュールの個別の前記特定製造プロセスデータを考慮して前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定することができるので、劣化を高精度に推定することができる。
【0007】
上記劣化推定装置の一実施形態は、推定対象の前記半導体モジュールが使われ始めてからの前記半導体モジュールの動作データを取得する動作データ取得部をさらに備えていてもよい。この場合、前記推定部は、少なくとも前記特定製造プロセスデータと前記動作データに基づいて前記劣化数理モデルを修正し、修正された前記修正劣化数理モデルに基づいて推定対象の前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定してもよい。この劣化推定装置は、推定対象の前記半導体モジュールの前記動作データも考慮して前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定することができるので、劣化を高精度に推定することができる。
【0008】
前記動作データは、前記半導体モジュールが使われ始めてからの経過時間と、その経過時間内の前記半導体モジュールの積算通電エネルギーと、を含んでもよい。このような動作データは、前記半導体モジュールの使用頻度を反映している。このため、この劣化推定装置は、推定対象の前記半導体モジュールの使用頻度も考慮して前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定することができるので、劣化を高精度に推定することができる。
【0009】
上記劣化推定装置の一実施形態は、推定対象の前記半導体モジュールが使われ始めてからの前記半導体モジュールの動作時の環境データを取得する環境データ取得部をさらに備えていてもよい。この場合、前記推定部は、少なくとも前記特定製造プロセスデータと前記環境データに基づいて前記劣化数理モデルを修正し、修正された前記修正劣化数理モデルに基づいて推定対象の前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定してもよい。この劣化推定装置は、推定対象の前記半導体モジュールの前記環境データも考慮して前記半導体モジュールの前記劣化指標の劣化を推定することができるので、劣化を高精度に推定することができる。
【0010】
前記環境データは、前記半導体モジュールが使われている環境の温度履歴を含んでもよい。前記環境データはさらに、前記半導体モジュールが使われている環境の湿度履歴を含んでもよい。
【0011】
前記劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差の劣化を記述する数理モデルであり、前記半導体モジュールの熱抵抗の劣化を記述する熱抵抗劣化数理モデルと前記半導体モジュールの電力損失の劣化を記述する電力損失劣化数理モデルの積を含んでいてもよい。前記熱抵抗劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの製造プロセスに依存しない数理モデルであってもよい。前記電力損失劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの製造プロセスに依存した数理モデルであってもよい。前記劣化数理モデルでは、前記熱抵抗劣化数理モデルから独立して前記電力損失劣化数理モデルが構築されている。これにより、前記電力損失劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの製造プロセスの影響を良好に反映することができる。この結果、前記劣化数理モデルは、前記半導体モジュールの製造プロセスの影響を良好に反映することができるので、劣化を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】半導体モジュールの劣化を推定する劣化推定装置の構成を示す図である。
図2】劣化推定数理モデルを作成するための複数の半導体モジュールの製造プロセスデータと劣化指標の劣化の進行データに関するビックデータを概略して示す図である。
図3】劣化数理モデルと修正された修正劣化数理モデルによって推定される劣化指標の劣化度の積算通電エネルギーに対する変動を概略して示す図である。
図4】半導体モジュールの個別の動作時の温度変化の温度差の劣化を推定するフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、半導体モジュール10の劣化を推定する劣化推定装置100の構成を示す。半導体モジュール10は、例えば直流電力を交流電力に変換して負荷に交流電力を供給する電力変換装置に搭載されている。このような電力変換装置は、例えば電動自動車に設けられており、バッテリの直流電力を交流電力に変換して交流モータに交流電力を供給するために用いられる。半導体モジュール10は、駆動制御部20から出力される駆動信号に基づいてスイッチング制御される。なお、半導体モジュール10の用途は上記に限られず、例えば、自然エネルギー発電(例えば太陽光発電)に用いられるパワーコンディショナ、又は、無停電電源装置(UPS)であってもよい。
【0014】
半導体モジュール10は、積算通電エネルギーに追随して劣化が進行する。半導体モジュール10の劣化を示す劣化指標には様々なものがある。特に限定されるものではないが、半導体モジュール10の劣化指標の1つは、半導体モジュール10の動作時の温度変化の温度差である。半導体モジュール10は、スイッチング動作に応じて温度が変化するが、この温度差が半導体モジュール10の劣化の増加に追随して増加する。このため、半導体モジュール10の寿命は、半導体モジュール10の動作時の温度変化の温度差が閾値に達したときとすることができる。劣化推定装置100は、例えば半導体モジュール10の動作時の温度変化の温度差が閾値を超えるタイミングを予測するように構成されていてもよい。
【0015】
なお、半導体モジュール10の劣化指標としては、他の物理量を採用することもできる。例えば、半導体モジュール10の劣化指標は、半導体モジュール10に組み込まれている半導体デバイス(例えば、IGBT、MOFET等)の電気特性(例えば、オン電圧又はオン抵抗)であってもよい。あるいは、半導体モジュール10の劣化指標は、半導体モジュール10の電気特性(例えば、オン電圧又はオン抵抗)であってもよい。
【0016】
劣化推定装置100は、データ取得部110と、記憶部120と、推定部130と、を備えている。劣化推定装置100は、劣化の推定対象である半導体モジュール10が搭載されている電力変換装置に設けられていてもよい。あるいは、劣化推定装置100は、劣化推定装置100を構成するデータ取得部110と記憶部120と推定部130のうちの少なくとも一部の要素が外部サーバに設けられ、例えばWeb通信を介して電力変換装置に通信可能に構成されていてもよい。
【0017】
データ取得部110は、半導体モジュール10に設けられている各種センサ30から各種データを受信するように構成されており、動作データ取得部112と環境データ取得部114を有している。
【0018】
動作データ取得部112は、劣化の推定対象である半導体モジュール10が使われ始めてからの半導体モジュール10の動作データを取得するように構成されている。半導体モジュール10の動作データは、例えば、半導体モジュール10が使われ始めてからの経過時間と、その経過時間内の半導体モジュール10の積算通電エネルギーと、を含む。経過時間と積算通電エネルギーの動作データは、半導体モジュール10の使用頻度を示すデータである。半導体モジュール10の使用頻度が多い場合、経過時間内の積算通電エネルギーが大きい。動作データはさらに、半導体モジュール10の動作時の温度の実測値を含んでもよい。半導体モジュール10が電動自動車用の電力変換装置に用いられている場合、動作データはさらに、アクセル開度とモータジェネレータ(MG)挙動を含んでもよい。
【0019】
環境データ取得部114は、半導体モジュール10が使われ始めてからの半導体モジュール10の環境データを取得するように構成されている。半導体モジュール10の環境データは、例えば半導体モジュール10が使用されている環境の温度履歴である。半導体モジュール10の環境データはさらに、例えば半導体モジュール10が使用されている環境の湿度履歴を含んでもよい。
【0020】
記憶部120は、メモリによって構成されており、数理モデル記憶部122と製造プロセスデータ記憶部124とを有している。
【0021】
数理モデル記憶部122は、半導体モジュールの劣化指標の劣化を記述する劣化数理モデルを記憶している。ここで、図2を参照し、劣化数理モデルの作成方法について説明する。図2は、複数の半導体モジュールの製造プロセスデータと劣化指標の劣化の進行データに関するビックデータを概略して示す図である。図2の左側のグラフは複数の半導体モジュールの製造プロセスデータを示しており、図2の右側のグラフは複数の半導体モジュールの劣化指標の劣化の進行データを示す。図2の線の1つが1つの半導体モジュールに対応している。なお、図2の右側のグラフは、半導体モジュールの積算通電エネルギーに対する半導体モジュールの劣化指標の劣化度の変動を示すグラフである。劣化指標の劣化度とは、劣化指標の劣化の上限値(閾値)を「100」とし、劣化指標の劣化の基準値を「0」としたときの割合(パーセント%)である。
【0022】
製造プロセスデータは、例えば、ウェハ品質と、プロセス条件と、半導体モジュールに組み込まれている半導体デバイスの出荷前の電気特性と、半導体モジュールの出荷前の電気特性と、の各種パラメータを含む。ウェハ品質は、例えば欠陥密度である。プロセス条件は、例えば熱処理のときのウェハの温度履歴である。半導体デバイスの出荷前の電気特性は、例えば半導体デバイスのオン抵抗である。半導体モジュールの出荷前の電気特性は、例えば半導体モジュールのオン抵抗である。なお、半導体デバイスの出荷前の電気特性と半導体モジュールの出荷前の電気特性には、出荷規格が設定されている。図2に示されるように、製造プロセスデータの各種パラメータは、半導体モジュール毎にバラツキがある。このため、半導体デバイスの出荷前の電気特性と半導体モジュールの出荷前の電気特性が出荷規格に収まっていても、半導体モジュール毎に劣化指標の劣化度の初期値にバラツキが生じている。
【0023】
劣化指標の劣化度の進行データは、積算通電エネルギーに対する劣化度の変動データである。このような劣化指標の劣化度の進行データは、複数の半導体モジュールに対する実験から収集してもよく、出荷された複数の半導体モジュールから収集してもよい。
【0024】
上記したように、この例の半導体モジュールの劣化指標は、半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差である。半導体モジュールの劣化指標、即ち、半導体モジュールの温度差は、積算通電エネルギーの増加に追随して増加する。図2に示されるように、劣化指標の劣化度は、積算通電エネルギーの増加に追随して増加し、初期値が高いほど劣化の進行が速い傾向にある。一方、データ1Aとデータ1Bを比較すると、劣化度の初期値についてはデータ1Bがデータ1Aよりも低いものの、劣化の進行についてはデータ1Bがデータ1Aよりも速い。これは、半導体モジュールの製造プロセスの各種パラメータ(例えばウェハ品質等)に加えて、半導体モジュールの使われ方(例えば使用頻度等)及び半導体モジュールが使われている環境(例えば温度及び湿度)による影響と考えられる。このように、半導体モジュールの劣化は、半導体モジュールの製造プロセスデータと半導体モジュールの使われ方のデータ(動作データ)と半導体モジュールが使われている環境(環境データ)に相関する。
【0025】
半導体モジュールの劣化指標の劣化を記述する劣化数理モデルは、複数の半導体モジュールの製造プロセスデータと動作データと環境データと劣化指標の劣化度の進行データのビックデータから作成される。したがって、劣化数理モデルは、積算通電エネルギーに対する劣化指標の劣化度の標準的な劣化を反映した数理モデルであり、劣化指標の劣化度の進行カーブを推定する数理モデルである。後述するように、劣化数理モデルは、劣化の推定対象である半導体モジュール10の個別の製造プロセスデータと動作データと環境データに基づいて修正され、半導体モジュール10の個別の劣化指標の劣化度の進行カーブを高精度に推定することができる。劣化数理モデルは、特に限定されるものではないが、機械学習を用いて作成されてもよい。劣化数理モデルの独立変数は、半導体モジュール10の累積動作時間を反映した物理量であればよく、積算通電エネルギーに代えて、パワーサイクル数であってもよい。数理モデル記憶部122には、このようにビックデータを用いて予め作成された劣化数理モデルが記憶されている。
【0026】
製造プロセスデータ記憶部124は、劣化の推定対象である半導体モジュール10の個別の製造プロセスデータを記憶している。なお、本明細書では、劣化の推定対象である半導体モジュール10の個別の製造プロセスデータを「特定製造プロセスデータ」と称し、他の半導体モジュールの製造プロセスデータと区別する。このような特定製造プロセスデータは、半導体モジュールの製造過程で半導体モジュール毎に紐づけられて管理され、半導体モジュールの出荷時に、その半導体モジュールに紐づけられた特定製造プロセスデータが製造プロセスデータ記憶部124に入力される。
【0027】
推定部130は、記憶部120から劣化数理モデル及び半導体モジュール10の個別の特定製造プロセスデータを読み出すとともに、データ取得部110から半導体モジュール10の動作データ及び環境データを読み出す。さらに、推定部130は、半導体モジュール10の個別の特定製造プロセスデータと動作データと環境データに基づいて劣化数理モデルを修正し、修正された修正劣化数理モデルに基づいて前記半導体モジュールの劣化指標の劣化度の進行カーブを推定する。
【0028】
図3に、劣化数理モデルと修正された修正劣化数理モデルによって推定される劣化指標の劣化度の積算通電エネルギーに対する変動を概略して示す。進行カーブ2A,2Bはいずれも、修正劣化数理モデルによって推定された劣化指標の劣化度の進行カーブである。進行カーブ2Aは、劣化度の初期値が高く推定されるとともに、劣化度の進行も速く劣化すると推定されている。例えば特定製造プロセスデータに含まれるウェハ品質のパラメータが悪い場合、動作データに含まれる使用頻度のパラメータが大きい場合、及び、環境データに含まれる温度の変化のパラメータが大きい場合に、修正劣化数理モデルが進行カーブ2Aのような推定を行うと考えられる。一方、進行カーブ2Bは、劣化度の初期値が低く推定されるとともに、劣化度の進行も遅く劣化すると推定されている。例えば特定製造プロセスデータに含まれるウェハ品質のパラメータが良い場合、動作データに含まれる使用頻度のパラメータが小さい場合、及び、環境データに含まれる温度の変化のパラメータが小さい場合に、修正劣化数理モデルが進行カーブ2Bのような推定を行うと考えられる。
【0029】
このように、劣化数理モデルを修正した修正劣化数理モデルは、半導体モジュール10の個別の特定製造プロセスデータ、動作データ及び環境データが反映した数理モデルであり、半導体モジュール10の劣化指標の劣化度の進行カーブを高精度に推定することができる。
【0030】
劣化数理モデルから修正劣化数理モデルへの修正は、劣化数理モデルに含まれる重み係数を変更してもよい。例えば、複数の重み係数を含む重み係数表が与えられており、特定製造プロセスデータと動作データと環境データに基づいて重み係数が決定され、その重み係数によって劣化数理モデルから修正劣化数理モデルに修正してもよい。特定製造プロセスデータと動作データと環境データの各々に重み係数表が与えられていてもよく、これらデータの組み合わせに対して1つの重み係数表が与えられていてもよい。
【0031】
図1に戻る。上記したように、劣化推定装置100の推定部130は、修正劣化推定モデルに基づいて半導体モジュール10の劣化指標の劣化度の進行カーブを推定する。推定部130は、推定された劣化指標の劣化度の進行カーブから劣化度が閾値(上限値)に達するタイミングを予測し、予測されたタイミングを表示部140に出力する。表示部140は、予測されたタイミングを使用者に報知し、例えば半導体モジュール10の交換を促すことができる。
【0032】
以下、半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差が劣化指標の場合の半導体モジュールの劣化を推定する方法についてさらに詳細に説明する。まず、劣化数理モデルについて説明する。
【0033】
半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差(ΔT)は、以下の数式に表すことができる。ここで、Rthは半導体モジュールの熱抵抗であり、Plossは半導体モジュールの電力損失である。
【数1】
【0034】
したがって、半導体モジュールの温度差(ΔT)の劣化を記述する劣化数理モデルは、熱抵抗(Rth)の劣化を記述する熱抵抗劣化数理モデルと半導体モジュールの電力損失(Ploss)の劣化を記述する電力損失劣化数理モデルの積に比例した数理モデルとして作成することができる。
【0035】
熱抵抗(Rth)は、半導体モジュール毎のバラツキが実質的に無視できる。このため、熱抵抗(Rth)の劣化を記述する熱抵抗劣化数理モデルは、半導体モジュールの製造プロセスに依存しないするモデルとすることができる。
【0036】
電力損失(Ploss)は、定常損失が主成分であり、以下の数式に表すことができる。ここで、Ronは半導体モジュールのオン抵抗であり、Iは半導体モジュールを流れる電流である。
【数2】
【0037】
オン抵抗(Ron)は、製造プロセスの各種パラメータに依存する。例えば、ウェハの欠陥密度はウェハ毎にバラツキが大きく、これにより、ウェハの欠陥密度に依存して半導体モジュールのオン抵抗(Ron)が半導体モジュール毎にばらつく。さらに、オン抵抗(Ron)は、半導体モジュールの使われ方に依存して劣化の進行が変動する。例えば、炭化珪素(SiC)のウェハから製造される半導体デバイスでは、積算通電エネルギーの増加によりオン抵抗(Ron)が増加することが知られている。この現象は、ウェハ内の基底面転位と呼ばれる線欠陥を起点として通電中に積層欠陥が成長して高抵抗層が形成されることが原因であると考えられている。したがって、積算通電エネルギーに対するオン抵抗(Ron)の増加、即ち、電力損失(Ploss)の増加は、ウェハの欠陥密度、欠陥分布及び欠陥種類と相関があると考えられる。このため、電力損失(Ploss)の劣化を記述する電力損失劣化数理モデルは、半導体モジュールの製造プロセスに依存したモデルとすることができる。
【0038】
上記したように、半導体モジュールの温度差(ΔT)の劣化を記述する劣化数理モデルは、熱抵抗(Rth)の劣化を記述する熱抵抗劣化数理モデルと半導体モジュールの電力損失(Ploss)の劣化を記述する電力損失劣化数理モデルの積に比例した数理モデルであり、複数の半導体モジュールの製造プロセスデータと動作データと環境データからなるビックデータを利用して予め作成することができる。作成された劣化数理モデルは、劣化推定装置の記憶部(図1参照)に格納される。
【0039】
次に、図4を参照し、半導体モジュールの個別の動作時の温度変化の温度差(ΔT)の劣化を推定する方法を説明する。なお、以下の推定方法は、図1に示す劣化推定装置100が実行することができる。
【0040】
まず、ステップS11に示すように、劣化推定装置100は、半導体モジュールの出荷時に、推定対象の半導体モジュールの特定製造プロセスデータを製造プロセスデータ記憶部124に記憶する。半導体モジュールの特定製造プロセスデータは、半導体モジュールの製造工程において、半導体モジュール毎に紐づけて管理されている。この例では、特定製造プロセスデータは、ウェハの品質(欠陥密度、欠陥分布及び欠陥種類)である。ウェハの欠陥密度、欠陥分布及び欠陥種類のパラメータは、例えば画像認識技術を利用して分類することができる。
【0041】
次に、ステップS12に示すように、劣化推定装置100は、半導体モジュールの出荷後に、推定対象の半導体モジュールの個別の動作データを取得する。この例では、半導体モジュールの動作データは、半導体モジュールが使われ始めてからの経過時間と、その経過時間内の半導体モジュールの積算通電エネルギーと、半導体モジュールの動作時の温度変化の温度差(ΔT)の実測値である。
【0042】
次に、ステップS13に示すように、劣化推定装置100は、推定対象の半導体モジュールの個別の特定製造プロセスデータに基づいて電力損失劣化数理モデルを修正する。これにより、半導体モジュールの温度差(ΔT)の劣化を記述する劣化数理モデルが修正され、修正劣化数理モデルが作成される。
【0043】
次に、ステップS14において、劣化推定装置100は、半導体モジュールの温度差(ΔT)の実測値に修正劣化数理モデルを当て嵌め、半導体モジュールの温度差(ΔT)の劣化度の進行カーブを推定する。半導体モジュールの温度差(ΔT)の実測値を利用することにより、推定される進行カーブが調整され、より高精度な推定が可能である。
【0044】
次に、ステップS15において、劣化推定装置100は、推定された進行カーブが劣化度の閾値(上限値)に達するタイミングを予測する。例えば、動作データの使用頻度を利用して、推定された進行カーブが劣化度の閾値(上限値)に達する残り日数を予測することができる。
【0045】
次に、ステップS16において、劣化推定装置100は、例えばアラーム装置を利用して予測されたタイミングを使用者に報知する。これにより、使用者は、適切なタイミングで半導体モジュール10を交換することができる。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
例えば、修正劣化数理モデルで推定された進行カーブが実測値から乖離する場合、基準となる劣化数理モデルを修正してもよい。また、このような修正を同時期に出荷された他の半導体モジュールに設けられている劣化推定装置に記憶されている劣化数理モデルに展開してもよい。このような修正を例えばWeb通信を介して他の劣化推定装置にも展開することができる。
【0048】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0049】
10 :半導体モジュール
20 :駆動制御部
30 :センサ
100 :劣化推定装置
110 :データ取得部
112 :動作データ取得部
114 :環境データ取得部
120 :記憶部
122 :数理モデル記憶部
124 :製造プロセスデータ記憶部
130 :推定部
140 :表示部
図1
図2
図3
図4