(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】トール様受容体4アンタゴニストの炎症促進性およびアジュバント機能
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20231227BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20231227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/39
A61P35/00
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2020213211
(22)【出願日】2020-12-23
(62)【分割の表示】P 2017555445の分割
【原出願日】2016-01-12
【審査請求日】2021-01-18
(32)【優先日】2015-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】カガン, ジョナサン シー.
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-503363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0257359(US,A1)
【文献】青枝大貴ら,Drug Delivery System,2012年,Vol.27, No.1,pp.19-27.
【文献】Gundacker, N.C. et al.,Journal of Proteome Research,2009年,Vol.8, No.6,pp.2799-2811.
【文献】Fruhwirth, G. O. et al.,Biochimica et Biophysica Acta - Molecular Basis of Disease,2007年,Vol.1772, No.7,pp.718-736.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TLRリガンド、oxPAPC種、及びがん免疫原を含む、
腫瘍性疾患を予防及び/又は治療するための組成物であって、
前記組成物が、対象においてがんに適応免疫応答を誘導又は増強するために対象に皮下投与され、
前記TLRリガンドが、LPS、モノホスホリルリピドA(MPLA)、Pam3CSK、Pam2CSK、又はCpGであり、及び
前記oxPAPC種が、HOdiA-PC、KOdiA-PC、HOOA-PC、又はKOOA-PCである、
組成物。
【請求項2】
前記oxPAPC種が、KOdiA-PCである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、対象の樹状細胞の過剰活性を誘導するのに有効な量で投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記対象が、哺乳動物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、医薬組成物の一部として投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記適応免疫応答が、予防的免疫応答である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記適応免疫応答が、治療的免疫応答である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記適応免疫応答が、T細胞活性化を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記がん免疫原が、腫瘍抗原である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記
腫瘍性疾患が、肉腫、リンパ腫、白血病、癌腫、メラノーマ、及び星状細胞腫からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記癌腫が、胸部のがん、前立腺のがん、卵巣がん、頚部のがん、結腸がん、肺のがん、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記星状細胞腫が、膠芽腫である、請求項11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年1月12日に出願された米国特許仮出願第62/102,245号、発明の名称「Pro-Inflammatory and Adjuvant Functions of Toll-Like Receptor 4 Antagonists」に対する米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張する国際特許出願である。この文献は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府支援研究における発明の権利に関する記載
本研究は、国立衛生研究所国立アレルギー感染病研究所により授与されたグラント番号AI103082-01A1に基づく支援により行われた。連邦政府は、本発明にある権利を有する。
【0003】
本発明は、概して、アジュバント、免疫活性化、およびワクチンの分野に関する。
【背景技術】
【0004】
自己分子と非自己分子とを識別する能力は、あらゆる生物体の基本的特徴であるが、この識別に関する我々の理解は依然として不完全である。哺乳動物では、自然免疫系のパターン認識受容体(PRR)が、自己分子および非自己分子を識別する機能を果たすと一般に考えられている。この考えは、Charles Janeway Jr.氏により最初に提唱されたものであり、トール様受容体(TLR)、RIG-I様受容体(RLR)、NOD様受容体(NLR)、およびC型レクチン受容体(CLR)等の、様々なPRRファミリーの研究により広く検証されている(Iwasaki,A.,and Medzhitov,R.(2015)Nat Immunol 16,343-353)。PRRは、幅広い種類の微生物に共通する分子を直接的にまたは間接的にのいずれかで検出する。こうした分子は、伝統的には病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれており、中でも細菌性リポポリサッカリド(LPS)、細菌性フラジェリン、またはウイルス性二本鎖RNA等の因子が挙げられる(Janeway,C.A.,Jr.(1989)Spring Harb Symp Quant Biol 54 Pt 1,1-13)。微生物産物が検出されると、炎症促進性または免疫調節性のいずれかであるPRR依存性細胞応答が活性化される。後者の最も良い例は、抗原特異的T細胞の活性化による適応免疫の促進である(Iwasaki,A.,and Medzhitov,R.(2015)Nat Immunol 16,343-353)。PRR媒介性炎症促進性応答は、多数のタイプの細胞で生じるものであるとみなすことができるが、T細胞活性化を促進するための活性は、樹状細胞(DC)で特異的に生じることが多い。PRRにより誘導されるDC特異的活性としては、以下のものが挙げられる:エンドソームおよびファゴソームの酸性化(Delamarre,L.et al.,(2005)Science 307,1630-1634、およびTrombetta,E.S.et al.,(2003)Science 299,1400-1403)、微生物含有ファゴソームへの主要組織適合性複合体(MHC)分子の送達(Nair-Gupta,P.et al.(2014)Cell 158,506-521)、MHCへの微生物ペプチドの負荷、および細胞表面へのMHC分子の送達(Blander,J.M.,and Medzhitov,R.(2006).Nature 440,808-812;Inaba,K.et al.,(2000)J Exp Med 191,927-936;Pierre,P.et al.,(1997)Nature 388,787-792;Turley,S.J.et al.,(2000)Science 288,522-527)。こうした活性は全て、T細胞への効果的な抗原提示および適応免疫の開始を促進する。
【0005】
アジュバントは、抗原特異的免疫応答を加速および/または増強する物質である。アジュバントの目的は、免疫系の目に相当するもの(マクロファージ/樹状細胞)に対して、抗原を可視化することである。マクロファージおよび樹状細胞等の抗原提示細胞(APC)による抗原の認識は、本質的に、局所的炎症に至る重要な事象のカスケードを開始させ、局所的炎症は、APCを動員し、最終的に生殖細胞媒介性および/または抗体媒介性免疫応答の開始をもたらす。現在、大部分のヒトワクチンは、アジュバントとしてアルミニウム塩を含有しており、製薬会社は、ワクチンに組み込むための油性アジュバントを開発中である。改良型免疫賦活組成物(例えば、ワクチン)の開発には、樹状細胞(DC)を選択的に活性化するが、マクロファージの活性化が最小限であるアジュバントの特定および含有は、そのような組成物の投与に伴う、不快感および炎症等の有害作用の低減に有益だろう。現在、TLR-2、TLR-5、TLR7/8、およびTLR-9に対するアゴニストとして作用するアジュバントが研究中であり、1つのTLR-4アゴニスト、モノホスホリルリピドAが、FDAに認可されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Iwasaki,A.,and Medzhitov,R.(2015)Nat Immunol 16,343-353
【文献】Janeway,C.A.,Jr.(1989)Spring Harb Symp Quant Biol 54 Pt 1,1-13
【文献】Delamarre,L.et al.,(2005)Science 307,1630-1634
【文献】Trombetta,E.S.et al.,(2003)Science 299,1400-1403
【文献】Nair-Gupta,P.et al.(2014)Cell 158,506-521
【文献】Blander,J.M.,and Medzhitov,R.(2006).Nature 440,808-812
【文献】Inaba,K.et al.,(2000)J Exp Med 191,927-936
【文献】Pierre,P.et al.,(1997)Nature 388,787-792
【文献】Turley,S.J.et al.,(2000)Science 288,522-527
【発明の概要】
【0007】
本発明は、組織損傷部位に見出されるトール様受容体(TLR)アンタゴニストである内因性酸化リン脂質が、過剰炎症性の樹状細胞状態を作り出したという発見に、少なくとも部分的に基づくものである。特に、oxPAPCが、抗原特異的T細胞を活性化するそれらの能力を促進するDC内での幾つかの応答を、状況依存的な様式で誘導したことを実証した。こうした知見により、oxPAPC(および非標準インフラマソームの活性化が可能である関連リン脂質、ならびに例えば、これも非標準インフラマソームを活性化することが見出されているRhodo LPS)は、予防用および治療用の免疫賦活組成物に使用するための強化型アジュバントとして機能することができたことが示された。
【0008】
多様なTLRリガンドの存在下で、oxPAPCが、DCの生存を促進し、T細胞活性化サイトカインであるインターロイキン1ベータ(IL-1β)の放出を引き起こすことを特定した。機構的には、oxPAPCは、DC表面のLPS受容体CD14と結合することが特徴だった。それによりoxPAPCがエンドソーム内へと送達され、その後細胞質タンパク質カスパーゼ-11に接近することができた。oxPAPCがカスパーゼ-11と結合することにより、インフラマソーム媒介性IL-1β放出が引き起こされた。こうしたoxPAPC誘発性応答は、マクロファージでは生じなかった。これは、この脂質の作用が、一般的な(マクロファージ媒介性)炎症応答ではなく、DCの免疫調節活性を促進するための独特な仕組みであることを示している。結果的に、oxPAPCは、微生物産物と相乗効果を示し、PAMPのみにより誘発され得るよりもロバストな抗原特異的T細胞活性化を誘導することを特定した。こうした分子(vita-DAMPと呼ぶ)は、PAMPと共に機能して、DCを過剰活性化し、最大限の適応免疫反応を誘発することを特定した。
【0009】
1つの態様では、本発明は、免疫原および非標準インフラマソーム活性化脂質を含む、免疫原に対する免疫応答を誘発するための組成物を提供する。
【0010】
1つの実施形態では、非標準インフラマソーム活性化脂質は、oxPAPCである。別の実施形態では、非標準インフラマソーム活性化脂質は、PAPCである。任意選択で、非標準インフラマソーム活性化脂質は、oxPAPCの1つまたは複数の種である。関連する実施形態では、非標準インフラマソーム活性化脂質は、HOdiA-PC、KOdiA-PC、HOOA-PC、およびKOOA-PCの1つまたは複数である。別の実施形態では、非標準インフラマソーム活性化脂質は、Rhodo LPSである。
【0011】
更なる実施形態では、非標準インフラマソーム活性化脂質は、組成物を対象に投与した際に、非標準インフラマソーム活性化脂質を欠如する組成物と比較して、免疫原の免疫応答を増強する。
【0012】
1つの実施形態では、免疫原および脂質は、組成物を対象に投与した際に樹状細胞(DC)活性化を誘導するのに十分な濃度で存在する。
【0013】
任意選択で、組成物は、対象に投与した際に、マクロファージ炎症応答を誘発しない。
【0014】
1つの実施形態では、免疫原は、ヒトパピローマウイルス抗原、単純ヘルペス抗原または帯状疱疹抗原等のヘルペスウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス1型抗原またはヒト免疫不全ウイルス2型抗原等のレトロウイルス抗原、肝炎ウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、ライノウイルス抗原、RSウイルス抗原、サイトメガロウイルス抗原、アデノウイルス抗原、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)抗原、サルモネラ属(Salmonella)、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス(Staphylococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、クロストリディウム(Clostridium)属、エシェリヒア(Escherichia)属、クレブシェラ(Klebsiella)属、ビブリオ(Vibrio)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属の細菌の抗原、アメーバ抗原、マラリア原虫抗原、および/またはトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)抗原を含む。
【0015】
任意選択で、組成物は、凍結乾燥されている。
【0016】
別の実施形態では、組成物は、非標準インフラマソーム活性化脂質と組み合わせた免疫原から本質的になる。
【0017】
本発明の別の態様は、本発明の免疫原アジュバント組成物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
1つの実施形態では、担体は、水性担体である。別の実施形態では、担体は、固形担体である。
【0019】
本発明の更なる態様は、対象の樹状細胞に炎症応答を誘導するための方法であって、請求項1に記載の組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0020】
本発明の更なる態様は、免疫原および非標準インフラマソーム活性化脂質を、対象の防御免疫応答を増強するために有効な量で対象に投与することにより、免疫原に対する対象の防御免疫応答を増強するための方法であって、非標準インフラマソーム活性化脂質が、アジュバント有効量で投与される方法を提供する。
【0021】
1つの実施形態では、免疫原および非標準インフラマソーム活性化脂質は、対象に同時投与される。
【0022】
本発明の別の態様は、対象に免疫応答を誘導するための方法であって、免疫原および非標準インフラマソーム活性化脂質を、対象に免疫応答を生成するのに有効な量で対象に同時投与すること含む方法を提供する。
【0023】
1つの実施形態では、対象はヒトである。
【0024】
別の実施形態では、免疫原および非標準インフラマソーム活性化脂質は、一般的な医薬担体と同時投与される。
【0025】
任意選択で、免疫原および非標準インフラマソーム活性化脂質は、非経口投与により投与される。
【0026】
1つの実施形態では、免疫応答は、予防的免疫応答である。
【0027】
別の実施形態では、免疫応答は、治療的免疫応答である。
【0028】
更なる実施形態では、免疫応答は、体液性免疫応答を含む。
【0029】
本発明の他の態様は、以下の開示に記載されているか、または以下の開示から明らかであり、それらは、本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、PAPC(例えば、oxPAPC)が、TLR4-アンタゴニストとしては作用するが、TLR4-アゴニストとしては作用しないことが特定されたことを示す図である。
【
図2】
図2は、様々な用量のPAPCがTLR4シグナル伝達を調節したことを示す図である。
【
図3】
図3は、様々な用量のPAPCが、原形質膜上のCD14レベルを調節したことを示す図である。
【
図4】
図4は、様々な用量のPAPCが、LPS依存性TLR4内部移行を調節したことを示す図である。
【
図5】
図5は、様々な用量のPAPCが、LPS依存性TLR4二量体化を調節したことを示す図である。
【
図6】
図6は、PAPCが、DCのインフラマソームを活性化したことを示す図である。
【
図7】
図7は、KOdiA-PCが、インフラマソームを活性化したことを示す図である。
【
図8】
図8は、CD14が、PAPCに応答してインフラマソーム活性化を制御したことを示す図である。
【
図9】
図9は、PAPCに応答したインフラマソーム活性化は、CD14特異的だったが、PAPCは、CD36内部移行を誘導することもできたことを示す図である。
【
図10】
図10は、CD14が、I型IFNとは独立して、PAPC媒介性インフラマソーム活性化を制御したことを示す図である。
【
図11】
図11は、カスパーゼ-1発現およびカスパーゼ-11発現の制御が、wtDCおよびCd14-/-DCで類似していたことを示す図である。
【
図12】
図12は、PAPCが、細胞タイプ特異的な様式でインフラマソーム活性化を誘導したことを示す図である。
【
図13】
図13は、他のPAMPが、PAPC誘導性インフラマソーム活性化を予備刺激したことを示す図である。
【
図14】
図14は、他のPAMPが、PAPC誘導性インフラマソーム活性化を予備刺激した更なる結果を示す図である。
【
図15】
図15は、全ての修飾PCが、インフラマソーム活性化を誘導した訳ではなかったことを示す図である。
【
図16】
図16は、インフラマソーム活性化の誘導には、Nlrp3が必要だったことを示す図である。
【
図17】
図17は、インフラマソーム活性化の誘導には、Ascが必要だったことを示す図である。
【
図18】
図18は、インフラマソーム活性化の誘導には、Casp1/Casp11が必要だったことを示す図である。
【
図19】
図19は、oxPAPC誘導性インフラマソーム活性化は、カスパーゼ-11依存性だったが、ATP誘導性インフラマソーム活性化はそうではなかったことを示す図である。
【
図20】
図20は、LPSおよびPam3の両方で予備刺激した後のPAPC誘導性インフラマソーム活性化には、カスパーゼ-11が必要であったことを示す図である。
【
図21】
図21は、ビオチン化PAPCが、CD14内部移行を強力に誘導したことを示す図である。
【
図22】
図22は、ビオチン化PAPCは、TLR4内部移行を誘導しなかったことを示す図である。
【
図23】
図23は、ビオチン化PAPCは、IL-1b分泌を誘導しなかったことを示す図である。
【
図24】
図24は、カスパーゼ11およびMD-2に対するビオチン化LPS、OxPac、およびPacのin vitro結合アッセイを示す図であり、このアッセイでは、カスパーゼ11依存的な様式での複合体形成が特定されると考えられた。
【
図25】
図25は、Bio-LPSプルダウンでは、PAPCが、用量依存的な競合体として作用したことを示す図である。ビオチン-LPSは、1プルダウンアッセイ当たり5μgで使用した。PAPCは、MD-2およびカスパーゼ-11に対するLPS結合と競合するように、それぞれ5、50、および500μgで使用した。競合は、1:100(LPS:PAPC)の比率で効果的になり始めた。
【
図26】
図26は、oxPAPCおよびLPSが、CD14の同一ドメインと結合した可能性が高いことを示す図である。
【
図27】
図27は、LPS処理が、DCの生存に影響を及ぼしたことを示す図である。
【
図28】
図28は、予備刺激したDCのPAPC処理が、DCの生存を促進したことを示す図である。
【
図29】
図29は、観察されたPAPC依存性生存促進効果が、CD14依存性でなかったことを示す図である。
【
図30】
図30は、P2CおよびP3Cのみが、DCの生存を支援したことを示す図である。
【
図31】
図31は、P2CおよびP3Cで予備刺激したDCは、PAPC処理に応答して、それらの生存を増加させなかったことを示す図である。
【
図32】
図32は、インフラマソームは、予備刺激およびPAPCの同時投与により効率的に活性化されたが、ATPでは活性化されなかったことを示す図である。
【
図33】
図33は、予備刺激およびPAPCの同時投与は、wtDCのNF-κB活性化を変更しなかったことを示す図である。
【
図34】
図34は、CD14の非存在下では、oxPAPCが、TLR4シグナル伝達のアンタゴニストとして作用したことを示す図である。
【
図35】
図35は、LPSおよびoxPAPCの同時投与が、TLR4内部移行に影響を及ぼしたことを示す図である。
【
図36】
図36は、LPSおよびoxPAPCの同時投与が、CD14内部移行に影響を及ぼしたことを示す図である。
【
図37】
図37は、LPSおよびoxPAPCの同時投与が、部分的にTLR4二量体化に影響を及ぼしたことを示す図である。
【
図38】
図38は、Rhodo LPSが、インフラマソーム活性化の強力な誘導因子だったことを示す図である。
【
図39】
図39は、LPS誘導性インフラマソーム活性化が、Nlrp3依存性だったことを示す図である。
【
図40】
図40は、LPS誘導性インフラマソーム活性化が、Asc依存性だったことを示す図である。
【
図41】
図41は、LPS誘導性インフラマソーム活性化が、Casp1/11依存性だったことを示す図である。
【
図42】
図42は、Rhodo LPS誘導性インフラマソーム活性化が、CD14非依存性だったことを示す図である。
【
図43】
図43A~
図43Dは、oxPAPCが、TLR4に結合しなかったか、またはTL4Fシグナル伝達を誘導しなかったことを示す画像である。
図43Aには、表示の時間にわたってLPS(1μg/ml)またはoxPAPC(50μM)で処理したiMΦでのTLR4二量体化の程度を示す折れ線グラフが示されている。TLR4二量体化を、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは、2つの独立した実験の平均および標準偏差を表す。
図43Bには、LPS(1μg/ml)またはoxPAPC(50μM)で処理したiMΦでのIL-1β、IL-6、IFNβ、およびViperinのレベルを示す折れ線グラフが示されている。GAPDHに対する遺伝子発現を、指定の時間でqPCRにより分析した。全ての実験で、負の対照として未処理細胞を使用した。折れ線グラフは平均を表し、エラーバーは、3回の実験のうち1つの代表的な実験での3回測定の標準偏差を表す。
図43Cには、IRAK4をMyD88と共に共免疫沈殿(IP)し、その後表示のタンパク質のウエスタン分析を行うことにより、LPS(1μg/ml)またはoxPAPC(50μM)で処理した後の表示時点におけるiMΦでのミッドソーム(myddosome)形成を示すブロットが示されている。
図43Dには、収集した全細胞溶解物(WCL)、およびLPS(1μg/ml)またはoxPAPC(50μM)で処理した後、STAT-1リン酸化およびviperin発現をモニターしたDCを示すブロットが示されている。
【
図44】
図44A~
図44Fは、oxPAPCが、CD14アゴニストおよびTLR4アンタゴニストの両方として作用したことを示す画像である。
図44Aには、表示の時間にわたってLPS(1μg/ml)またはoxPAPC(50μM)で処理したiMΦ株のCD14およびTLR4の表面レベルを示す折れ線グラフが示されている。CD14およびTLR4の表面レベルを、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは、2つの独立した実験の平均および標準偏差を表す。
図44Bには、表示の時間にわたってoxPAPC(50μM)で処理した一次DCおよびMΦの結果を示す折れ線グラフが示されている。CD14およびTLR4の表面レベルおよびTLR4二量体化を、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは、2つの独立した実験の平均および標準偏差を表す。
図44Cには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(表示の濃度で)処理したか、またはoxPAPCで30’前処理しその後LPSで処理したiMΦの結果を示す折れ線グラフが示されている。TLR4の表面レベルおよびTLR4二量体化を、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは、3回のうち代表的な1つ実験での生物学的複製の平均および標準偏差を表す。
図44Dには、LPSのみで(表示の濃度で)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはoxPAPCで30’前処理しその後LPSで処理したiMΦの結果を示す画像が示されている。
図44D(左パネル)には、ELISAによりLPS刺激の18時間後に測定したTNFα分泌が示されている。折れ線グラフは平均を表し、エラーバーは、3回のうち1つの代表的な実験での3回測定の標準偏差を表す。
図44D(右パネル)には、ウエスタン分析によりLPS処理の4時間後に測定したSTAT-1リン酸化が示されている。
図44Eには、CD14突然変異体のoxPAPC結合能力を、ビオチン化oxPAPCプルダウンアッセイにより決定したことを示すブロットが示されている。表示のCD14突然変異体を発現する293T細胞の溶解物を、ビオチン化oxPAPC(10μg)と共にインキュベートした。その後、CD14-oxPAPC複合体を、ニュートラアビジンビーズを使用して捕捉した。oxPAPCにより保持されたCD14の量を、ウエスタン分析で決定した。26DEES29を26AAAA29に突然変異させたCD14突然変異体を、CD14 1Rと命名した。26DEES29および37PKPD40を26AAAA29および37AAAA40に突然変異させたCD14突然変異体を、CD14 2Rと命名した。26DEES29、37PKPD40、52DVE54、および74DLGQ77を、26AAAA29、37AAAA40、52AAA54、および74AAAA77に突然変異させたCD14突然変異体を、CD14 4Rと命名した。
図44Fには、4R CD14突然変異体が、oxPAPC処理またはLPS処理に応答して内部移行されなかったことを示すグラフが示されている。表示のiMΦ株を、表示の時間にわたって、LPS(1μg/ml)またはoxPAPC(50μM)で処理した。CD14の表面レベルを、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは平均を表し、エラーバーは、3回のうち1つの代表的な実験での生物学的複製の標準偏差を表す。
【
図45】
図45A~
図45Gは、oxPAPCが、DCのNLRP3インフラマソーム活性化を誘導したことを示す画像である。
図45Aには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、3つの用量のoxPAPCで(10、50、120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後oxPAPCで処理したDCのIL-1β分泌結果を示す棒グラフが示されている。この実験では、市販のoxPAPC、およびPEIPC中で富化されたoxPAPCを使用した。LPS投与の18時間後、分泌された(左パネル)および細胞結合した(右パネル)IL-1βを、ELISAで測定した。2回のうち代表的な1つ実験での生物学的複製の平均および標準偏差が示されている。
図45B~
図45Dには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間の予備激した後oxPAPCで処理したWT DCまたはカスパーゼ-1 KOおよびカスパーゼ-1/-11 dKO DC(
図45B)、ASC KO DC(
図45C)、およびNLRP3 KO DC(
図45D)の結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後、IL-1β分泌(左パネル)およびTNFα分泌(右パネル)を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図45Eには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、3つの用量のoxPAPCで(10、50、120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後oxPAPCで処理したMΦのIL-1β分泌結果を示す棒グラフが示されている。この実験では、市販のoxPAPC、およびPEIPC中で富化されたoxPAPCを使用した。LPS投与の18時間後、分泌された(左パネル)および細胞結合した(右パネル)IL-1βを、ELISAで測定した。2回のうち代表的な1つ実験での生物学的複製の平均および標準偏差が示されている。
図45Fには、Pam3CSK(P3C)のみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、ATPのみで(5mM)処理したか、またはPam3CSKで3時間予備刺激した後、oxPAPC、ATP、DOTAP、LPS(5μg)、またはDOTAPに封入されたoxPAPCで処理したMΦのIL-1β分泌結果を示す棒グラフが示されている。P3C投与の18時間後に、IL-1βを、ELISAで測定した。2回のうち1つの実験の3つの複製の平均および標準偏差が示されている。
図45Gには、LPSで予備刺激したDCおよびMΦが、ATP処理後のNLRP3活性化に対するそれらの応答に固有な差異を示したことを示す棒グラフが示されている。DC(左パネル)またはMΦ(右パネル)を、LPS(1μg/ml)で3時間の予備刺激し、ATP(3mM)で処理した。表示の時点で、IL-1βをELISAで測定し、細胞死をPI透過性アッセイで測定した。3回のうち1つの実験の4つの複製の平均および標準偏差が示されている。
【
図46】
図46A~
図46Gは、oxPAPC非標準インフラマソーム活性化を示す図である。
図46Aには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理したWT DCおよびカスパーゼ-11 KO DCのIL-1β分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後に、IL-1β分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図46Bには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理したWT DCおよびカスパーゼ-11 KO DCのTNFα分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後に、TNFα分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図46Cには、LPSで予備刺激したDCは、oxPAPCに応答して、カスパーゼ-11依存的な様式でスペックを形成したが、ATPでは形成しなかったことを示す画像が示されている。DCは、未処理のままだったか、またはLPS(1μg/ml)で3時間予備刺激し、その後ATP(1mM)またはoxPAPC(120μM)で刺激した。スペックを含むASC(緑色)およびカスパーゼ-1(Casp1、赤色)を、LPS刺激の18時間後に分析した。核は青色で示されている。パネルは、4つの独立した実験を表している。
図46Dには、内因性カスパーゼ-11が、in vitroでoxPAPCと結合したことを示すブロットが示されている。未処理(nt)MΦまたはP3C予備刺激(P3C)MΦのS100画分(0.5mg)を、ビオチン化LPS(Bio-LPS)またはビオチン化oxPAPC(Bio-oxPAPC)と共にインキュベートした。ビオチン化脂質と結合した内因性タンパク質を、ストレプトアビジンで捕捉し、ウエスタン分析で解明した。3つの独立した実験のうち代表的なブロットが示されている。
図46Eには、タンパク質と表示の脂質との相互作用のSPR分析のグラフが示されている。
図46Fには、oxPAPCとの接触前後の、カスパーゼ-11複合体のサイズのゲルろ過分析を示すグラフが示されている。図示されているように、複合体サイズは、A280またはウエスタン分析でモニターした。
図46Gには、pMSCV2.2-IRES-GFPベクター(空)、WTカスパーゼ-11(WTカスパーゼ-11)をコードするpMSCV2.2-IRES-GFPベクター、または触媒性突然変異体カスパーゼ-11(C254A)を含む同じベクターを感染させた骨髄細胞の分泌および生存能結果を示す棒グラフが示されている。GM-CSF含有培地中で7日間分化させた後、DCを、LPS(1μg/ml)で3時間予備刺激したかまたは予備刺激せず、その後oxPAPC(120μM)で刺激したか、またはLPS含有FuGENE(LPS、5μg)で形質移入した。LPS予備刺激の18時間後、上清を収集し、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。細胞の生存率を、LDH放出を測定することにより評価した。
【
図47】
図47A~
図47Eは、CD14が、DCからのカスパーゼ-11媒介性IL-1β放出を促進したことを示す棒グラフである。
図47Aには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、Pam3CSK(P3C)のみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSもしくはPam3CSKで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理したWT DCおよびCD14KO DCの分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与またはP3C投与の18時間後に、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図47Bには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(1.5mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPCまたはATPで処理した脾臓由来WT DC、CD14 KO DC、およびカスパーゼ-11 KO DCのIL-1βおよびTNFα分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後に、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。3回のうち1つの代表的な実験の2つの複製の平均および標準偏差が示されている。
図47Cには、LPSまたはPam3CSKで処理したWT DCおよびCD14 KO DCの遺伝子発現結果を示す棒グラフが示されている。TBPに対する遺伝子発現を、指定の時間でqPCRにより分析した。結果は、未処理細胞と比較した遺伝子発現として示されている。折れ線グラフは、3回のうち1つの代表的な実験での3回測定の平均を表す。
図47Dには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、rIFNβ(100U/ml)の存在下または非存在下にてoxPAPCで処理したWT DCおよびCD14 KO DCのIL-1βおよびTNFα分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後に、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図47Eには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、Pam3CSK(P3C)のみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはPam3CSKで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理したWT DCおよびCD14KO DCのIL-1β分泌結果を示す棒グラフが示されている。図示されているように、LPSまたはoxPAPCは、細胞培養に添加する前に、DOTAPと複合体化させた。図示されているように、細胞を、DOTAP/oxPAPC複合体の培養への添加前に、全カスパーゼ阻害剤zVADで30分間処理した。刺激投与の18時間後に、IL-1β分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
【
図48】
図48A~
図48Gは、oxPPACが、天然アジュバントのように作用して、DCの死滅を防止し、適応免疫応答を強化したことを示す画像である。
図48Aには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(1mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはFuGENE複合体化LPSで(5μg)(Fugene(LPS))処理したか、またはLPS(1μg/ml)で3時間予備刺激した後、表示の刺激で処理したDCの生存能結果を示す棒グラフが示されている。LPS予備刺激の4および18時間後に、細胞死を、LDH放出により測定した。
図48Bには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(1mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはFuGENE複合体化LPSで(5μg)(Fugene(LPS))処理したか、またはLPS(1μg/ml)で3時間予備刺激した後、表示の刺激で処理したDCのIL-1β分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS予備刺激の4および18時間後に、IL-1β分泌を、ELISAで測定した。
図48C~
図48Dには、LPS(1μg/ml)で3時間、前処理した後、ATP(1mM)またはoxPAPC(120μM)で活性化したDCの染色結果を示す画像が示されている。18時間後、細胞を、ASC(緑色)、核(青色)Zombie染料(赤色)(
図48C)、または活性ミトコンドリア(赤色)(
図48D)で染色した。パネルは、3つの独立した実験を表している。
図48E~
図48Fには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、ATPのみで(1mM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPCまたはATPで処理したDCの生存能結果を示す棒グラフが示されている。表示の時点で、細胞の生存率を、7-AAD染色により測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図48Gには、oxPAPCが、in vivoで記憶T細胞応答を強化したことを示す棒グラフが示されている。CD4+ T細胞を、WTマウス、カスパーゼ-1/-11 dKOマウス、またはカスパーゼ-11 KOマウスの、IFA(LPS)中のOVA+LPS、IFA(LPS+oxPAPC)中のOVA+LPS+oxPAPC、またはIFA(oxPAPC)中のOVA+oxPAPCで免疫した40日後の流入領域リンパ節から単離した。CD4+ T細胞は、DCの存在下にてOVAで再刺激したか、または再刺激しなかった。IFNγ分泌(左パネル)およびIL-17分泌(右パネル)を、5日後にELISAで測定した。棒グラフは、1群当たり5匹の動物を用いた2回の実験の平均および標準誤差を表す。
【
図49】
図49A~
図49Bは、oxPAPCが、ミッドソーム形成またはI型IFNシグナル伝達を誘導しなかったことを示すブロットである(
図43A~
図43Dと関連する)。
図49Aには、IRAK4をMyD88と共に共免疫沈殿した後、表示のタンパク質についてウエスタン分析することにより、LPS(1μg/ml)でまたは異なる用量のoxPAPC(10、50、120μM)で処理した後、表示の時点で評価したiMΦでのミッドソーム形成を示す棒グラフが示されている。
図49Bには、DCから収集し、LPS(1μg/ml)または異なる用量のoxPAPC(10、50、120μM)で処理した後、表示のタンパク質についてウエスタン分析することによりモニターした全細胞溶解物(WCL)を示すブロットが示されている。
【
図50】
図50A~
図50Dは、oxPAPCが、CD14のアゴニストだったが、TLR4のアゴニストではなかったことを示すグラフである(
図44A~
図44Fも参照)。
図50Aには、表示の濃度のoxPAPCで処理したDCの表面CD14結果を示す棒グラフが示されている。CD14の表面レベルを、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは、2つの独立した実験の平均および標準偏差を表す。
図50B~
図50Dには、シクロヘキシミド(100μg/ml)の存在下または非存在下にて、表示の時間にわたってLPS(1μg/ml)またはoxPAPC(120μM)で処理したDCの表面CD14、表面TLR4、およびTLR4二量体化の結果を示す棒グラフが示されている。CD14(
図50B)、TLR4(
図50C)、およびTLR4二量体化(
図50D)の表面レベルを、フローサイトメトリーで測定した。折れ線グラフは、2つの独立した実験の平均および標準偏差を表す。
【
図51】
図51A~
図51Iは、oxPAPCが、細胞タイプ特異的な様式でIL-1β放出を誘導したことを示す画像である(
図45A~
図45Gも参照)。
図51Aには、DCおよびiMΦが、ATPに応答してIL-1βを放出したことを示す棒グラフが示されている。新しく誘導したDCおよびMΦを、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(ATPlow:0.5mM;ATPhi 5mM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後ATPで処理した。LPS投与の18時間後、上清を収集し、分泌されたIL-1βのレベルを、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図51B~
図51Cには、異なる用量のLPS(100および1000ng/ml)で予備刺激し、または予備刺激せず、細胞を3時間後にoxPAPC(120μM)またはATP(0.5mM)で活性化したDCの分泌IL-1βレベルおよび細胞結合IL-1βレベルを示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後、上清を収集し、分泌IL-1βのレベル(
図51B)および細胞結合IL-1βのレベル(
図51C)を、ELISAで測定した。3回のうち代表的な1つ実験での生物学的複製の平均および標準偏差が示されている。
図51Dには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(0.5mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、ATPまたはoxPAPCで処理したDCまたはMΦのTNFα結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後、上清を収集し、TNFαのレベルを、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図51Eには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(0.5mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)で処理したか、またはLPSおよびATP、もしくはLPSおよびoxPAPCを同時投与したDCの分泌IL-1βおよび細胞結合IL-1βの結果を示す棒グラフが示されている。分泌IL-1βおよび細胞結合IL-1βを、18時間後にELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図51Fには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(5mM)処理したか、表示のリン脂質のみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、ATPまたは表示のリン脂質で処理したDCのIL-1βおよびTNFα分泌結果を示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後に、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図51Gには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(DCは1mM、およびMΦは5mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間、前処理した後、ATPまたはoxPAPCで活性化したDCおよびMΦ(IFNγで前処理されているかまたは前処理されていない)のIL-1βおよびTNFα分泌結果を示す棒グラフが示されている。分泌IL-1βおよび分泌TNFαを、18時間後にELISAで測定した。2回のうち1つの代表的な実験の2つの複製の平均および標準偏差が示されている。
図51Hには、DCおよびMΦが、異なるレベルのASCタンパク質を発現したことを示すブロットが示されている。DCおよびMΦは、LPSで4時間処理したか、または処理しなかった。全溶解物を使用して、ウエスタン分析によりASCのタンパク質含有量を評価した。
図51Iには、LPSで4時間処理したかまたは処理しなかったDCおよびMΦの遺伝子発現結果を示す棒グラフが示されている。ASC、Nlrp3、カスパーゼ-1(Casp-1)、およびカスパーゼ-11(Casp-11)の発現を、qPCRで測定した。TBPに対する遺伝子発現レベルが示されている。折れ線グラフは、3回のうち1つの代表的な実験での3回測定の平均を表す。
【
図52】
図52A~
図52Iは、oxPAPCが、カスパーゼ-11と結合し、DCのインフラマソーム活性化を制御したことを示す画像である(
図46A~
図46Gも参照)。
図52Aには、LPS(1μg/ml)で予備刺激した後、ATP(1mM)またはoxPAPC(120μM)で活性化したDCのASCおよびカスパーゼ-1含有スペック形成を示す折れ線グラフが示されている。表示の時間で、ASCおよびカスパーゼ-1含有スペック形成を評価した。データは、3つの独立した実験で得られた約50個の細胞を含む3つの視野の平均および標準偏差を表す。
図52Bには、LPS(1μg/ml)で予備刺激した後、ATP(1mM)またはoxPAPC(120μM)で活性化したDCのASCおよびカスパーゼ-1含有スペック形成を示す棒グラフが示されている。18時間後、ASCおよびカスパーゼ-1含有スペック形成を評価した。データは、3つの独立した実験の平均および標準偏差を表す。
図52Cには、Pam3CSK(P3C)のみで(1μg/ml)処理したか、ATPのみで(0.5mM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはPam3CSKで3時間予備刺激した後、ATPまたはoxPAPCで処理した、表示されている遺伝子型のDCのIL-1βおよびTNFα分泌結果を示す棒グラフが示されている。Pam3CSK投与の18時間後、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図52Dには、CpGのみで(1μM)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはCpGで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理したDCのIL-1β分泌およびTNFα分泌を示す棒グラフが示されている。CpG投与の18時間後に、IL-1β分泌およびTNFα分泌を、ELISAで測定した。2つの独立した実験の平均および標準偏差が示されている。
図52Eには、Pam3CSK(P3C)のみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはPam3CSKで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理した、C3H/HeSNJ(WT C3H)マウスおよびC3H/HeJ(TLR4突然変異体C3H)マウスに由来するDCの分泌IL-1βレベルおよび細胞結合IL-1βレベルを示す棒グラフが示されている。LPS投与の18時間後、分泌(左パネル)および細胞結合(右パネル)IL-1βを、ELISAで測定した。2回のうち代表的な1つ実験での生物学的複製の平均および標準偏差が示されている。
図52Fには、目をHSV-1に感染させたWT C57BL/6(WT)マウスまたはカスパーゼ-11 KOマウスの、目における感染ウイルスの量を示す折れ線グラフが示されている。表示の時間で、目における感染ウイルスの量を、プラークアッセイにより測定した。
図52Gには、ビオチン化リガンドおよびストレプトアビジンビーズと共にインキュベートした、表示のカスパーゼ-11対立形質を発現する293T細胞に由来する溶解物中のカスパーゼ-11レベルを示すブロットが示されている。ビオチン化リガンドにより保持されたカスパーゼ-11およびインプットを、ウエスタン分析で検出した。3つの独立した実験のうち代表的なブロットが示されている。使用したカスパーゼ-11の対立形質は、以下の通りだった:カスパーゼ-11(WT)、CARDドメイン(1~92a.a.)、およびデルタCARD(ΔCARD)ドメイン(93~373a.a.)。
図52H~
図52Iには、表示の脂質と混合した組換えカスパーゼ-11単量体または多量体の酵素活性を示すグラフが示されている。酵素活性は、分光蛍光法により経時的にモニターした。
【
図53】
図53A~
図53Dは、インフラマソーム成分発現が、WT DCおよびCD14KO DCで類似していたことを示す画像である(
図47A~
図47Eと関連する)。
図53Aには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、ATPのみで(1mM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPCまたはATPで処理したWT DC、CD14KO DC、およびカスパーゼ-11 KO DCのIL-18レベルを示す棒グラフが示されている。上清中のIL-18を、18時間後にELISAにより測定した。
図53Bには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPCで処理した脾臓DCのMHCクラスIIレベルおよびCD40レベルを示すフローサイトメトリーデータが示されている。18時間後に、MHCクラスIIレベルおよびCD40レベルを、フローサイトメトリーで測定した。
図53Cには、LPSまたはPam3CSK(1μg/ml)で処理したWT DCおよびCD14 KO DCの遺伝子発現結果を示す棒グラフが示されている。TBPに対する遺伝子発現を、表示の時間でqPCRにより分析した。全ての実験で、未処理細胞を負の対照として使用した。
図53Dには、クロロキン(10μM)で30分間前処理し、または前処理せず、その後、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、oxPAPCのみで(120μM)処理したか、またはLPSで予備刺激した後、oxPAPCで処理したDCの分泌IL-1βおよび細胞結合IL-1βを示す棒グラフが示されている。分泌IL-1βおよび細胞結合IL-1βを、18時間後にELISAで測定した。
【
図54】
図54A~
図54Cは、oxPAPCが、DCのピロトーシスを誘導せず、T細胞活性化増強を促進したことを示す画像である(
図48A~
図48Gも参照)。
図54Aには、LPSのみで(1μg/ml)処理したか、またはLPSで3時間予備刺激した後、oxPAPC(120μM)またはATP(5mM)で処理したWT DCのピロトーシス細胞レベルを示す折れ線グラフが示されている。ピロトーシス誘導は、刺激付加の18時間後まで評価した。ピロトーシス細胞は、アネキシンVおよび7-AADの二重陽性細胞として、フローサイトメトリーにより特定した。データは、2つの独立した実験を表している。
図54Bには、WTマウス、カスパーゼ-1/-11 dKOマウス、またはカスパーゼ-11 KOマウスの、IFA(LPS)中のOVA+LPS、IFA(LPS+oxPAPC)中のOVA+LPS+oxPAPC、またはIFA(oxPAPC)中のOVA+oxPAPCで免疫した40日後の流入領域リンパ節から単離したCD4+ T細胞のIL-2分泌を示す棒グラフが示されている。CD4+ T細胞は、抗原提示細胞としてのDCの存在下にてOVAで再刺激したか、または再刺激しなかった。IL-2分泌を、5日後にELISAで測定した。棒グラフは、1群当たり5匹の動物を用いた2回の実験の平均および標準誤差を意味する。
図54Cには、oxPAPCが、in vivoでエフェクターT細胞応答を強化したことを示す棒グラフが示されている。CD4+ T細胞を、WTマウス、カスパーゼ-1/-11 dKOマウス、またはカスパーゼ-11 KOマウスの、IFA(LPS)中のOVA+LPS、IFA(LPS+oxPAPC)中のOVA+LPS+oxPAPC、またはIFA(oxPAPC)中のOVA+oxPAPCで免疫した7日後の流入領域リンパ節から単離した。CD4+ T細胞は、抗原提示細胞としてのDCの存在下にて、OVAで再刺激したか、または再刺激しなかった。IFNγ分泌(上部パネル)およびIL-17分泌(下部パネル)を、5日後にELISAで測定した。棒グラフは、1群当たり3匹の動物を用いた4回の実験の平均および標準誤差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、PAPC脂質、特に酸化PAPC脂質(oxPAPC)が、樹状細胞(DC)における炎症応答の特異的活性化因子として機能するという予期しない観察に、少なくとも部分的に関する。特に、1-パルミトイル-2-アラキドニル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(PAPC)およびその酸化変異体(oxPAPC)が、樹状細胞(DC)における炎症応答の最初の特異的活性化因子であることを特定した。oxPAPCは、TLRリガンドの存在下で、DCの生存を促進し、T細胞活性化サイトカインであるインターロイキン1ベータ(IL-1β)の放出を引き起こした。
【0032】
理論により束縛されることは望まないが、機構的には、oxPAPCは、DC表面のLPS受容体CD14と結合し、それによりoxPAPCのエンドソーム内への送達、およびそれに続く細胞質タンパク質カスパーゼ-11への接近が促進されたと考えられる。oxPAPCがカスパーゼ-11と結合することにより、インフラマソーム媒介性IL-1β放出が引き起こされた。注目すべきことに、こうしたoxPAPC誘発性応答は、マクロファージでは生じなかった。これは、この脂質の作用が、一般的な(マクロファージ媒介性)炎症応答ではなく、DCの免疫調節活性を促進するような独特な仕組みであったことを示している。結果的に、oxPAPCは、微生物産物と相乗効果を示し、PAMPのみにより誘発され得るよりもロバストな抗原特異的T細胞活性化を誘導した。したがって、oxPAPCは、PAMPと共に機能して、DCの生存を促進し、最大限の適応免疫応答を誘発する新しいクラスの免疫調節因子(「vita-DAMP」と称する)のメンバーであることが特定された。
【0033】
DCは、防御(適応)免疫の最も強力な活性化因子であり、DC媒介性免疫を選択的に促進するワクチンアジュバントの設計が、現在、集中的に研究されている。現行のFDA認可ワクチンアジュバントは全て、DCを特異的に活性化することができない。それらは全て、マクロファージおよびDC等を含む様々な免疫細胞での一般的な炎症応答を促進する。
【0034】
PAPCがDCを特異的に活性化することができるという本発見により、この分子が、次世代ワクチンアジュバントのリード候補であることが特定された。なお、PAPCは、過去に他の研究グループにより研究されているが、この分野の研究はほとんど、抗炎症性分子として作用するPAPCの能力に着目したものである。PAPCは、免疫を阻害するのではなく、免疫を促進させるように作用するという本発見により、本明細書に記載および例示されているPAPCの使用は、こうした分子の治療価値に関するこれまでの示唆と区別される。
【0035】
本発明を特定するための重要な知見は、PAPCを微生物産物と同時投与すると、DC媒介免疫応答のみを促進することができたという発見だった。この同時投与により、これまで観察されていなかったDCの状態を生み出された。この新規の細胞挙動は、非常に重要な治療可能性であることが予見される。
【0036】
定義
用語「oxPAPC」または「酸化PAPC」は、本明細書で使用される場合、1-パルミトイル-2-アラキドニル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(PAPC)の酸化により生成される脂質を指す。酸化により、断片化または全長のいずれかの酸素化sn-2残基を含む酸化リン脂質の混合物がもたらされる。十分に特徴付けられている酸化的断片化種は、オメガ-アルデヒド基またはオメガ-カルボキシル基を担持する五炭sn-2残基を含む。また、アラキドン酸残基の酸化は、エステル化イソプロスタンを含むリン脂質を生成する。oxPAPCは、oxPAPCに存在する他の酸化産物の中でも、HOdiA-PC種、KOdiA-PC種、HOOA-PC種、およびKOOA-PC種を含む。
【0037】
用語「非標準インフラマソーム活性化脂質」は、本明細書で使用される場合、細胞のカスパーゼ11依存性インフラマソームの炎症応答を誘発することが可能な脂質を指す。例示的な「非標準インフラマソーム活性化脂質」としては、PAPC、oxPAPC、およびoxPAPCの種(例えば、HOdiA-PC、KOdiA-PC、HOOA-PC、KOOA-PC)、ならびにRhodo LPS(ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)に由来するLPS-RSまたはLPS)が挙げられる。
【0038】
「免疫原」および「抗原」は、同義的に使用されており、細胞性免疫応答または体液性免疫応答を誘発することになるあらゆる化合物を意味する。非生物免疫原としては、例えば、死滅免疫原、サブユニットワクチン、組換えタンパク質、またはペプチド等が挙げられる。本発明のアジュバントは、任意の好適な免疫原と共に使用することができる。目的の例示的な免疫原としては、ウイルス、ミコプラズマ、寄生動物、原生動物、またはプリオン等を構成または由来するものが挙げられる。したがって、目的の免疫原は、限定ではないが、以下のものに由来していてもよい:ヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスまたは帯状疱疹等のヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス1型または2型等のレトロウイルス、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、マイコプラズマ・ニューモニエ、サルモネラ属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、クロストリディウム属、エシェリヒア属、クレブシェラ属、ビブリオ属、ミコバクテリウム属の細菌、アメーバ、マラリア原虫、および/またはトリパノソーマ・クルージ。本発明のアジュバント脂質は、腫瘍抗原または他のがん抗原と同時投与し、それにより免疫賦活がん治療/がんワクチンを提供することができることが更に企図される。
【0039】
「同時投与される」は、本明細書で使用される場合、2つの化合物が、複合的な免疫効果を達成するために十分に近接した時間で投与されることを意味する。したがって、同時投与は、連続投与または同時投与(例えば、共通の担体または同じ担体での同時投与)により実施してもよい。
【0040】
例えば、分子の症状、レベル、または生物学的活性の「調節」等は、例えば、検出可能な程度に増加または減少した症状または活性等を指す。そのような増加または減少は、本発明のアジュバント脂質(非標準インフラマソーム活性化脂質)で治療していない対象と比較して、治療した対象で観察することができる。この場合、未治療の対象(例えば、アジュバント脂質の非存在下で免疫原を投与した対象)は、治療した対象と同じまたは同様の疾患または感染症を有するかまたは発症しやすい。そのような増加または減少は、少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、100%、150%、200%、250%、300%、400%、500%、もしくは1000%以上、またはこれらの値の任意の2つの間の任意の範囲内であってもよい。調節は、例えば、対象の自己評価により、臨床医の評価により、または例えば、本発明のアジュバント脂質(非標準インフラマソーム活性化脂質)の存在下で投与した免疫原により達成される対象の免疫活性化の程度および/または性質を評価することを含む、適切なアッセイまたは測定を実施することにより、主観的に決定してもよく、または客観的に決定してもよい。調節は、一時的であってもよく、もしくは長期的であってもよく、もしくは恒久的であってもよく、あるいは本発明のアジュバント脂質を対象に投与している間もしくは投与した後の、または本明細書もしくは引用文献に記載のアッセイもしくは他の方法で使用している間もしくは使用した後の適切な時間、例えば、以下に記載の時間内、つまり、本発明のアジュバント脂質を投与もしくは使用した後の約12時間~24時間もしくは48時間から、対象がそのような免疫賦活組成物/治療を受けた後の約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、21、28日間、もしくは1、3、6、もしくは9か月間以上と様々であってもよい。
【0041】
本明細書で使用される場合、「対象」は、ヒト(例えば、ヒト対象)および非ヒト動物等の、適応免疫系を有する動物を含む。用語「非ヒト動物」は、あらゆる脊椎動物、例えば哺乳動物、例えばげっ歯動物、例えばマウス、および非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、例えばヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生動物、爬虫類等を含む。
【0042】
「好適な用量レベル」は、薬学的有効性と有害効果との(例えば、本発明のアジュバント脂質の存在下で投与した免疫原により付与された十分な免疫賦活活性と、十分に低いマクロファージ刺激レベルとの)治療上合理的なバランスを提供する用量レベルを指す。例えば、この用量レベルは、例えば、特定の用量レベルの免疫原性組成物(本発明のアジュバント脂質を含む)の投与後に産生される抗免疫原抗体の、対象におけるピーク血清レベルまたは平均血清レベルに関連していてもよい。
【0043】
本明細書で提供される範囲は、その範囲内の値の全てを簡略的に示すものであることが理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群の任意の数、数の組み合わせ、または部分範囲を含むと理解される。
【0044】
特別な記載がない限りまたは状況から明白でない限り、用語「または」は、本明細書で使用される場合、包括的であると理解される。
【0045】
特別な記載がない限りまたは状況から明白でない限り、用語「a」、「an」、および「the」は、本明細書で使用される場合、単数または複数であると理解される。
【0046】
本明細書で提供されるあらゆる組成物または方法は、本明細書で提供される他の組成物および方法のいずれかの1つまたは複数と組み合わせることができる。
【0047】
樹状細胞(DC)およびパターン認識受容体(PRR)の調節
自然免疫系は、古典的には、DCが、適応免疫を促進する炎症応答を開始するかまたは開始しないかのいずれかであるという、全か無かの様式で作用するとみなされてきた。したがって、DCにより発現されるTLRは、そうした細胞の免疫原能力決定に非常に重要であると考えられている。哺乳類免疫系は、微生物の検出、感染を封じ込める防御応答の活性化に関与する。このタスクの中心となるのは、樹状細胞であり、樹状細胞は、微生物を感知した後、T細胞活性化を促進する。樹状細胞は、あらゆる伝染の脅威を評価し、それに釣り合った応答を指図することができることが示唆されているが(Blander,J.M.(2014).Nat Rev Immunol 14,601-618;Vance,R.E.et al.,(2009)Cell host&microbe 6,10-21)、こうした免疫調節活性が生じ得る機序は不明である。
【0048】
PRRは、幅広いクラスの微生物に共通する分子を、直接的にまたは間接的にのいずれかで検出するように作用する。そうした分子は、古典的には、病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれており、中でも細菌性リポポリサッカリド(LPS)、細菌性フラジェリン、またはウイルス性二本鎖RNA等の因子が挙げられる。
【0049】
免疫制御因子としてのPRRの重要な属性は、特定の微生物産物を認識することができることである。そのため、PRR媒介性シグナル伝達事象は、感染の決定的な兆候を提供するはずである。「GO」シグナルは、炎症およびT細胞媒介性免疫を促進するDCで発現されるPRRにより活性化されることが想定される。興味深いことには、最近、幾つかのグループは、DCが、単にこうした全か無かの様式で作用していないのではないかと提唱している(Blander,J.M.,and Sander,L.E.(2012).Nat Rev Immunol 12,215-225;Vance,R.E.et al.,(2009)Cell host&microbe 6,10-21)。むしろ、DCは、あらゆる考え得る感染を引き起こす脅威(または毒性)を評価し、それに釣り合った応答を開始する能力を有している可能性がある。毒性を評価することができる最も一般的に考察されている手段は、毒性病原体が、非病原体よりも多様なPRRを活性化することができることに基づく。しかしながら、全ての微生物が、共通した一組のPRR活性化因子を有するとは限らず、全てのPRR活性化因子が、同等の効力を示すとは限らない。したがって、感染中に活性化されたPRRの数は、毒性の理想的評価ではない可能性がある。更に、感染中に活性化されたPRRの数の増加は、一般的に、より大きな炎症応答に結び付くことになり、それは、間接的により大きなT細胞応答を促進する場合がある。DC活性化(例えば、毒性病原体を刺激として使用することによる)の状態を高めることが以前に示唆されている条件は、MΦ活性化の状態も高めることが予想される(Vance,R.E.et al.,(2009)Cell host&microbe 6,10-21)。したがって、感染の脅威を特異的に評価するための機序が免疫系(つまりDC)に真に備わっているか否かは、依然として不明である。
【0050】
感染の脅威を評価し得る1つの考え得る手段は、十分に認識されている一致検出のプロセスであろう。このプロセスでは、独立インプットが、任意の単一インプットにより誘発されるものとは異なる応答をもたらす。PRRの状況では、1つのそのようなインプットは、毒性の脅威に関わらず、感染を示すものである微生物産物であるに違いない。毒性脅威を評価するためには、第2のインプットが存在しなければならない。理論により束縛されることは望まないが、ここでは、この推定上の第2のインプットは、組織傷害部位で産生される分子であると考える。それは、細胞損傷が、高度に病原性である微生物に関連する特徴であることが多いためである。DCに対して第2の刺激を提供する可能性のある候補分子は、アラーミンとしても知られている損傷関連分子パターン(DAMP)と呼ばれる分子の多様なファミリーである(Kono,H.,and Rock,K.L.(2008)Nat Rev Immunol 8,279-289;Pradeu,T.,and Cooper,E.L.(2012)Front Immunol 3,287)。DAMPは、感染性および非感染性の組織傷害の部位で見出されており、炎症応答を調節すると提唱されているが、それらの作用機序は依然として不明である。1つのそのようなクラスのDAMPは、総称的にoxPAPCとして知られている、1-パルミトイル-2-アラキドニル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(PAPC)に由来する酸化リン脂質により代表される。こうした脂質は、感染性組織傷害および非感染性組織傷害の両方の部位で産生され(Berliner,J.A.,and Watson,A.D.(2005).N Engl J Med 353,9-11;Imai,Y.et al.(2008)Cell 133,235-249;Shirey,K.A.et al.(2013)Nature 497,498-502)、死にかけている細胞の膜に非常に高いレベルで見出される(Chang,M.K.et al.,(2004)J Exp Med 200,1359-1370)。また、oxPAPCは、アテローム硬化性組織で炎症を促進する酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)凝集体の活性成分であり(Leitinger,N.(2003)Curr Opin Lipidol 14,421-430)、アテローム硬化性組織での局所濃度は、10~100μMと高い場合がある(Oskolkova,O.V.et al.(2010)J Immunol 185,7706-7712)。oxPAPCと死にかけている細胞との間に関連性があるため、こうした脂質が、組織健康の全体的な指標としての役割を果たし得る可能性が高くなった。したがって、微生物産物が存在する場合、oxPAPCは、感染の脅威が増加したことを示すことができる。
【0051】
理論により束縛されることは望まないが、機構的には、受容体CD14は、oxPAPCおよびPAPC等の脂質を捕捉し、それらを細胞内の位置へと送達し、そこで非標準インフラマソーム(カスパーゼ11依存性インフラマソーム)を活性化すると考えられる。その後、インフラマソーム媒介性活性は、独立して生じるTLRシグナル伝達事象と相乗作用して、TLRリガンドのみにより誘導されたものよりもロバストなT細胞応答を促進する。したがって、酸化脂質は、高度に感染性の微生物と遭遇したことを樹状細胞に警告し、そうした細胞が、感染の脅威に見合った適応応答を促進することを可能にすると考えられる。
【0052】
トール様受容体
トール様受容体(TLR)は、昆虫とヒトとの間で進化的に保存されているI型膜貫通受容体である。これまで10個のTLR(TLR1~10)が確立されている(Sabroe,I.et al.,(2003)Journal of Immunology 171(4):1630-5)。TLRファミリーのメンバーは、同じような細胞外および細胞内ドメインを有し、細胞外ドメインは、ロイシン豊富な反復配列を有することが示されており、細胞内ドメインは、インターロイキン1型受容体(IL-1R)の細胞内領域と類似している。TLR細胞は、免疫細胞および他の細胞(血管上皮細胞、脂肪細胞、心筋細胞、および腸上皮細胞を含む)で発現が異なる。TLRの細胞内ドメインは、その細胞質領域にIL-1Rドメインを同様に有するアダプタータンパク質Myd88と相互作用し、サイトカインのNF-KB活性化をもたらすことができる。このMyd88経路は、サイトカイン放出がTLR活性化により達成される1つの経路である。TLRは、抗原提示細胞(例えば樹状細胞、マクロファージ等)等の細胞タイプで主に発現される。1つのそのようなTLRは、自然免疫系の活性化に関与し、グラム陰性菌の成分であるリポポリサッカリド(LPS)を認識するTLR4である。TLR4は、リンパ球抗原96、Myd88(ミエロイド分化一次応答遺伝子88)、およびTOLLIP(トール相互作用タンパク質)と相互作用することが示されている。
【0053】
TLRを介した刺激による樹状細胞の活性化は、樹状細胞の成熟、およびIL-12等の炎症性サイトカインの産生に結び付く。これまでに実施された研究では、TLRは、様々なタイプのアゴニストを認識するが、幾つかのアゴニストは、幾つかのTLRに共通であることが判明している。TLRアゴニストは、主に細菌またはウイルスに由来し、フラジェリンまたは細菌性リポポリサッカリド(LPS)等の分子が挙げられる。
【0054】
DC活性化の2つの状態
本明細書にて、DC活性化の2つの状態を特定した。第1の活性化状態は、TLRリガンド等の微生物産物との遭遇により媒介された。こうしたリガンドは、TLRを活性化してサイトカインを放出し、共刺激分子を上方制御し、MHC媒介性抗原提示を促進した。
これらは全て、T細胞活性化にとって重要だった。しかしながら、こうしたTLRリガンドは、病原体および非病原体に共通していたため、宿主に対する脅威の評価には使用することができない。DCの第2の状態は、「過剰活性」であると考えられ、微生物産物および組織損傷部位で豊富に存在していた酸化リン脂質との同時遭遇により媒介された。TLRリガンドおよび酸化脂質(例えば、oxPAPC)の一致検出は、古典的活性化状態により誘発される全ての活性を促進し、T細胞の強力な活性化因子であるIL-1βのインフラマソーム媒介放出を誘導した。TLRリガンドもoxPAPCも単独では、IL-1β放出を誘導する能力を持たなかった、この観察は、自然免疫系が一致検出の原理を使用してDCの過剰活性状態を誘導するという正式な実験的証拠を提供した。
【0055】
過剰活性DC状態の興味深い側面は、それが誘発される機序である。古典的活性化は、微生物産物により誘発されたが、過剰活性状態は、微生物産物および自己由来産物により誘発された。免疫活性化にこうした自己参照の側面があることは、T細胞成熟および維持が、微生物ペプチドおよび自己ペプチドを担持するMHC分子との相互作用に依存することが以前に示されているため(Janeway,C.A.,Jr.(2002)Annu Rev Immunol 20,1-28)、全く前例のないことではなかった。機構的には、oxPAPCを分析したところ、この分子は、LPS受容体CD14およびカスパーゼ-11と結合し、それらを活性化したという点で、LPSの選択的内因性模倣体であることが判明した。興味深いことには、oxPAPCは、TLR4二量体化、エンドサイトーシス、ミッドソーム形成、または遺伝子発現のいずれも誘導しなかった。実際、微生物遭遇前に投与したところ、oxPAPCは、TLR4アンタゴニストとして作用した(Bochkov,V.N.et al.,(2002)Nature 419,77-81;Erridge,C.et al.,(2008)The Journal of biological chemistry 283,24748-24759;Oskolkova,O.V.et al.(2010)J Immunol 185,7706-7712)。したがって、こうしたデータを合わせると、CD14が、PAMP(LPS)またはDAMP(oxPAPC)のいずれかを、それぞれの受容体に送達することにより、TLR4およびカスパーゼ-11の活性を協調させるように機能するという、興味深い細胞プロセスが明らかになった。
【0056】
この提唱CD14-カスパーゼ-11経路が、DC過剰活性に至る中心的局面であることは、幾つかの観察により支持された。第1に、oxPAPCは、in vitroでCD14およびカスパーゼ-11と複合体を形成した。第2に、CD14およびカスパーゼ-11の遺伝子欠損は、いずれのタンパク質の喪失も、DCの機能不全を引き起こし、oxPAPC処置に応答してIL-1βを放出させたという点で、互いに表現型コピーだった。対照的に、CD14およびカスパーゼ-11はいずれも、ATP媒介性IL-1β放出に必要ではなかった。第3に、種々のTLR依存性サイトカインの発現が正常レベルだったことにより評価されるように、これらタンパク質はいずれも、インフラマソーム活性化の予備刺激段階では必要ではなかった。第4に、oxPAPCがCD14に結合することにより、エンドサイトーシス、およびこの脂質の細胞内カスパーゼ-11への送達が促進された。この記載は、oxPAPCをサイトゾルに形質移入すると、CD14 KOにおけるIL-1β放出の欠損を救済することができることにより支持された。この観察は、CD14の輸送機能がカスパーゼ-11活性化にとって重要だったという決定的な証拠を提供した。
【0057】
カスパーゼ-11は、グラム陰性サイトゾル細菌に応答してIL-1β放出およびピロトーシスを促進することができる点で、近年、多くの関心を引きつけている(Hagar,J.A.et al.,(2013)Science 341,1250-1253;Kayagaki,N.et al.(2013)Science 341,1246-1249)。このようにカスパーゼ-11がグラム陰性菌に対する免疫応答を選択的に促進することは、真のLPS受容体として作用するその新たに認識された能力により説明された(Shi,J.et al.,(2014a)Nature 514,187-192)。oxPAPCは、カスパーゼ-11と結合し、カスパーゼ-11の役割を、LPS受容体としてのその作用を越えて拡張させた。実際、カスパーゼ-11は、例えば、細胞が、グラム陽性菌(つまり、Pam3CSK)またはウイルス(CpG DNA)に結合することが多いリガンドで刺激した場合等、TLR4リガンドが存在しなかった場合、oxPAPC媒介性IL-1β放出に必要だった。
【0058】
こうしたデータに基づくと、カスパーゼ-11は、DCの毒性脅威の指標として基本機能を有していた。脅威は、2つの方法で評価された。第1に、損傷の自己由来指標であるカスパーゼ-11は、oxPAPCに結合する能力のため、組織損傷および細胞死を引き起こすあらゆる病原体との遭遇中に活性化され得る。したがって、この活性は、有毒微生物による感染中に過剰活性化される基本機序をDCに提供するだろう。第2に、LPSをサイトゾルに直接送達するIII型およびIV型分泌系をコードする細菌の場合(Hagar,J.A.,and Miao,E.A.(2014)Curr Opin Microbiol 17,61-66)、カスパーゼ-11は、組織損傷が生じる前でさえ、DCを過剰活性化させた可能性が高かった。こうした後者の条件下では、毒性関連分泌系によるサイトゾルへのLPSの送達は、CD14の輸送機能に関与しなかったはずである。実際、本明細書では、インフラマソームを活性化するためのCD14の遺伝子要件を、サイトゾルへのLPSまたはoxPAPCの直接的形質移入により迂回させることができたことを特定した。対照的に、カスパーゼ-11への細胞外媒体由来のoxPAPCの自然送達は、CD14に依存していた。カスパーゼ-11活性化の媒介におけるCD14のこの重要な役割は、このタンパク質が、LPS受容体としてのその役割から予想されるよりも、適応免疫の誘導により幅の広い機能を有することを示唆した。むしろ、CD14およびカスパーゼ-11は、広範囲の病原体に対する免疫の一般的な制御因子である。このモデルは、目におけるHSV-1増殖が、カスパーゼ-11の作用により押さえ込まれたという知見により、in vivoで支持された。
【0059】
また、機構的な研究により、oxPAPCは、幾つかの基本的な点で、カスパーゼ-11に対する作用がLPSとは異なっていたことが明らかなった。第1に、両脂質は、カスパーゼ-11と結合し、その多量体化を誘導したが、LPSは、CARDと結合し、一方でoxPAPCは、触媒ドメインと結合した。このように結合機序が異なることにより、機能的な帰結として、CARDへの結合は、カスパーゼ-11酵素活性を促進したが、触媒ドメインとの結合は、酵素活性を抑制した。カスパーゼ-11の酵素活性は、ピロトーシスに必要であったため、oxPAPCが細胞を死滅させるはずではないという理由だった。実際、集団に基づく分析および単一細胞に基づく分析により、oxPAPCは、細胞を死滅させなかったことが特定され、oxPAPCと接触させた生存DC内にインフラマソームが存在したことが特定された。対照的に、ATPと接触させたDCでは、インフラマソームは死細胞内にのみ存在した。実際、oxPAPCは、LPSにも接触させたDCの生存能を促進した。PRRと結合する内因性分子の例は幾つかあったが、最新の情報によると、相互作用のモードは、微生物相互作用を媒介するものに類似していた(または未知である)ことが示唆された。したがって、カスパーゼ-11は、PAMP(LPS)および内因性分子(oxPAPC)と相互作用する別々のドメインを含んでいたという点で、特異なPRRであった。相互作用の機序がこのように異なるため、異なる細胞応答がもたらされた。それは、DCと同様に、PRRも異なる活性化の状態を有していたことを示していた。
【0060】
インフラマソーム活性化およびDC生存を促進するoxPAPCの2重活性は、そうした活性が、適応免疫応答の強化に役割を果たしたことを示していた。実際、本明細書では、LPS/oxPAPCが、抗原特異的エフェクターおよび記憶T細胞をin vivoで誘発する点で、LPSのみよりも優れたアジュバントであることを特定した。他の場合では、細胞死と無関係に生じるインフラマソーム活性化も観察されている(Broz,P.et al.,(2010)Cell Host Microbe 8,471-483;Ceballos-Olvera,I.et al.,(2011)PLoS Pathog 7,e1002452;Schmidt,R.L.,and Lenz,L.L.(2012)PLoS One 7,e45186)。進行中の研究では、死およびIL-1β放出が連動する機序を調査中である。インフラマソーム促進性刺激であり、かつ生存促進性刺激であるという特異な能力に基づき、本明細書では、oxPAPCは、DC生存および適応免疫の開始を促進するように機能するvita-DAMPとみなすことができると結論付けた。vita-DAMPは、ピロトーシス細胞死の促進ではなく、細胞生存を促進するため、ATP等の伝統的な定義のDAMPとは操作的に区別することができる。また、本明細書では、他の既知TLR4アンタゴニストは、oxPAPCとして同様の活性を有する選択的LPS模倣体であり得ることが企図されている。なお、oxPAPCは、非感染状況下でも放出された。こうした条件下では、CD14エンドサイトーシスを促進するoxPAPCの能力が、傷害部位に存在する他のDAMPにより誤って活性化され得るTLR4依存性炎症応答の制限を支援した可能性が高かった(Mancek-Keber,M.,et al.(2015)Science signaling 8,ra60)。炎症阻害または炎症促進のいずれかである、こうしたoxPAPCの状況依存性活性は、DCが所与の組織での損傷源の評価を支援するのに重要であることを特定した。
【0061】
要約すると、本明細書では、内因性自己分子が、カスパーゼ-11と非典型的な様式で結合する能力によりDCの過剰活性状態を作り出すことができる手段が特定された。この過剰活性状態の存在により、自然免疫系は、PAMPおよびvita-DAMPSの一致検出により感染の脅威が評価された機序により作用したことが明らかにされた。
【0062】
アジュバントおよびワクチン
本発明のアジュバントを含む免疫原性組成物は、標的抗原に対する治療的または予防的免疫応答を対象に誘導するのに有効な量の選択免疫原が対象で産出されるように、任意の既知ワクチン形態、例えば、弱毒化ウイルス、タンパク質、核酸等のワクチンを使用して対象に投与することができる。対象は、ヒト対象であってもよく、または非ヒト対象であってもよい。動物対象としては、限定ではないが、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ(馬)、反芻動物(例えば、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ラクダ、アルパカ、ラマ、シカ)、ブタ、鳥類(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ ウズラ)、げっ歯動物、およびキロドプテラ(chirodoptera)が挙げられる。対象は、限定ではないが、防御免疫応答の誘発、または他の目的のために収集および使用するための抗体(またはB細胞)の産生を含む、任意の目的で処置することができる。
【0063】
ある実施形態では、本発明は、アジュバント含有微生物ワクチンを特徴とする。微生物ワクチンは、免疫系による生物全体の認識を可能にする細胞壁成分で構成されていることが多く、またはジフテリア等の毒性により疾患を引き起こす細菌では、トキシンまたは派生トキソイドが使用される場合がある。主に治療用途用に、幾つかの疾患生物の抗毒素が開発中である。細菌は、液体培地でまたは固形培養基培養として培養し、回収し、精製し、死菌ワクチンまたは弱毒ワクチンとしてそのまま使用してもよい。
【0064】
任意選択で、目的の免疫原は、疾患標的細胞(例えば、腫瘍細胞、感染細胞)では発現されるが、他の組織では発現がより低いか、または全くは発現されない。標的細胞の例としては、以下のものを含む腫瘍性疾患に由来する細胞が挙げられる:これらに限定されないが、肉腫、リンパ腫、白血病、癌腫、メラノーマ、胸部のがん、前立腺のがん、卵巣がん、頚部のがん、結腸がん、肺のがん、膠芽腫、および星状細胞腫。あるいは、標的細胞は、例えば、ウイルス、ミコプラズマ、寄生動物、原生動物、およびプリオン等に感染していてもよい。したがって、目的の免疫原は、限定ではないが、以下のものに由来していてもよい:ヒトパピローマウイルス(下記を参照)、単純ヘルペスまたは帯状疱疹等のヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス1型または2型等のレトロウイルス、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、マイコプラズマ・ニューモニエ、サルモネラ属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、クロストリディウム属、エシェリヒア属、クレブシェラ属、ビブリオ属、ミコバクテリウム属の細菌、アメーバ、マラリア原虫、およびトリパノソーマ・クルージ。
【0065】
腫瘍抗原および感染因子の抗原に加えて、これらに限定されないが、p53、BRCA1、BRCA2、網膜芽細胞腫、およびTSG101を含む腫瘍抑制遺伝子産物、または限定ではないが、RAS、W T、MYC、ERK、およびTRK等のがん遺伝子産物の突然変異体も、本発明により使用される標的抗原を提供することができる。標的抗原は、自己抗原、例えば、がんまたは腫瘍性疾患に関連しているものであってもよい。本発明の一実施形態では、免疫原は、疾患細胞のヒートショックタンパク質(hsp)-ペプチド複合体に由来するペプチド、またはhsp-ペプチド複合体自体である。
【0066】
ある実施形態では、免疫原は、天然供給源から精製してもよく、組換え発現により得てもよく、または直接合成してもよい。ある実施形態では、免疫原は、細胞全体、微生物、またはウイルス粒子により提供されてもよく、それらは、生菌であってもよく、弱毒化されていてもよく、死菌であってもよい。他の実施形態では、免疫原は、分子に1つまたは複数の免疫原領域を含むタンパク質断片を含んでいてもよい。
【0067】
免疫原としては、対象の免疫応答を増強するために1つまたは複数の基を結合またはカップリングすること等により、修飾または誘導体化されているものが挙げられる。免疫原性担体タンパク質の例は、KLHおよびBSAである。また、免疫原担体としては、広域クラスII活性化因子であるポリペプチドが挙げられる(例えば、Panina-Bordignon et al,Cold Spring Harb Symp Quant Biol 1989を参照)。結合させるための連結は、当業者に周知の方法により製作される。
【0068】
本発明の免疫原性組成物は、免疫原およびアジュバント脂質を含み、治療および/または予防目的のために投与することができる。治療応用では、本発明の免疫原性組成物は、疾患の治療または進行および/もしくは症状の停止に有効な免疫応答を誘発するのに十分な量で投与される。本発明のアジュバントの用量は、免疫原の性質および対象の状態に応じて様々であろう。しかしながら、免疫原性応答を誘発する際に免疫原の効力を増強するのに十分な用量であるべきである。治療的または予防的治療の場合、投与するアジュバントの量は、体重1kg当たり0.05、0.1、0.5、または1mgから、体重1kg当たり約10、50、または100mgまで、またはそれを超える範囲であってもよい。本発明のアジュバントは、概して無毒性であり、概して、生命に危険を及ぼすような副作用を引き起こさずに比較的大量に投与することができる。
【0069】
用語「治療的免疫応答」は、本明細書で使用される場合、標準的技法により測定される、標的抗原に対する体液性免疫および/または細胞性免疫の増加を指す。好ましくは、標的抗原に対する免疫の誘導レベルは、免疫原の投与前の少なくとも4倍、好ましくは少なくとも16倍のレベルである。また、免疫応答は、定性的に測定することもできる。その場合、好適なin vitroまたはin vivoアッセイによる、対象の腫瘍または感染症の進行停止または軽減は、治療的免疫応答の誘導を示すとみなされる。
【0070】
本発明の方法では、治療上有効量で組み合わされている本発明の免疫原およびアジュバントを含む組成物が、その必要性のある哺乳動物に投与される。用語「投与する」は、本明細書で使用される場合、求める結果を達成することができる任意の方法により、本発明の免疫原およびアジュバントを哺乳動物に送達することを意味する。本発明の免疫原およびアジュバントは、例えば、静脈内にまたは筋肉内に投与することができる。用語「哺乳動物」は、本明細書で使用される場合、これらに限定されないが、ヒト、実験動物、家庭ペット、および家畜を含むことが意図されている。「治療上有効量」は、哺乳動物に投与した際に所望の治療効果をもたらすのに有効な免疫原およびアジュバントの量を意味する。
【0071】
本発明の免疫原およびアジュバントを含む組成物は、皮膚に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、非経口的に、肺内に、膣内に、直腸内に、経鼻的に、または局所的に投与することができる。組成物は、注射、経口、噴霧、または粒子衝突により送達してもよい。
【0072】
投与する組成物は、薬学的に許容される担体等の種々の追加物質を更に含んでいてもよい。好適な担体としては、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、油/水エマルジョンまたはトリグリセリドエマルジョン等のエマルジョン、種々のタイプの湿潤剤、錠剤、コーティング錠、およびカプセル剤等の、標準的な薬学的に容認される担体のいずれかが挙げられる。典型的には、そのような担体は、デンプン、ミルク、糖、あるタイプのクレイ、ゼラチン、ステアリン酸、タルク、植物性油脂、ゴム、グリコール、または他の公知賦形剤等の賦形剤を含む。また、そのような担体は、香味料、着色料、または他の成分を含んでいてもよい。また、本発明の組成物は、好適な希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、および/または担体を含んでいてもよい。そのような組成物は、液体の形態であってもよく、または凍結乾燥製剤もしくはそうでなければ乾燥製剤であってもよく、緩衝剤(例えば、Tris-HCl、酢酸塩、リン酸塩)の含有量、pH、およびイオン強度が様々な希釈剤、表面への吸収を防止するアルブミンまたはゼラチン等の添加剤、界面活性剤(例えば、Tween20、Tween80、プルロニックF68、胆汁酸塩類)、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量物質または張度調節剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、ポリエチレングリコール等のポリマーのタンパク質との共有結合による結合、金属イオンとの複合体形成、またはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル等のポリマー化合物の微粒子調製物内へのまたは微粒子調製物上への、またはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層もしくは多層小胞、赤血球ゴースト、もしくはスフェロプラスト上への物質の組み込みを含んでいてもよい。そのような組成物は、物理的状態、溶解度、安定性、in vivo放出速度、およびin vivoクリアランス速度に影響を及ぼすことになる。
【0073】
医薬組成物
ある実施形態では、本発明は、本明細書で特定されている免疫原およびアジュバント脂質を含む医薬組成物を提供する。免疫賦活組成物は、好適に製剤化され、そのような送達のために認識されている任意の手段により対象または細胞の環境へと導入することができる。
【0074】
そのような組成物は、典型的には、作用剤および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、文言「薬学的に許容される担体」は、医薬品投与と互換性のある、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。また、補完的活性化合物を組成物に組み込むことができる。
【0075】
医薬組成物は、その目的投与経路と適合するように製剤化される。投与経路の例はとしては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与が挙げられる。非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含んでいてもよい:注射用水、生理食塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒等の無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン等の抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩等の緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロース等の張度を調整するための作用剤。また、pHは、塩酸または水酸化ナトリウム等の酸または塩基で調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、または多用量バイアルに封入することができる。
【0076】
注射用途に好適な医薬組成物は、無菌注射用溶液または分散系の即時調製用の無菌水溶液(水溶性の場合)または分散系および無菌粉末を含む。静脈内投与の場合、好適な担体としては、生理食塩水、静菌性水、Cremophor EL(商標)(BASF社、パーシッパニー市、ニュージャージー州)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合で、組成物は無菌でなければならならず、容易な注射器通過性が存在する程度にまで流動性であるべきである。組成物は、製造および保管の条件下で安定的であるべきであり、細菌および真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエテイレングリコール(polyetheylene glycol)等)、およびそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用により、分散系の場合は必要とされる粒径の維持により、および界面活性剤の使用により、維持することができる。微生物作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサール等により達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖;マニトール(manitol)、ソルビトール、塩化ナトリウム等の多価アルコールを組成物に含むことが好ましいだろう。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる作用剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含ませることによりもたらすことができる。
【0077】
無菌注射剤溶液は、必要量の活性化合物を、上記に記載の成分の1つまたは組み合わせと共に、選択した溶媒に組み込み、その後、必要に応じてろ過滅菌することにより調製することができる。一般的に、分散系は、基本分散媒、および上記に記載のものからの必要な他の成分を含む無菌媒体に、活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌注射可能溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、それにより、それ以前に無菌ろ過したその溶液から、活性成分および任意の追加所望成分の粉末がもたらされる。
【0078】
経口組成物は、一般的に、不活性希釈剤または食用担体を含む。経口治療投与の目的では、活性化合物を、賦形剤と共に組み込んでもよく、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤、例えばゼラチンカプセル剤の形態で使用することができる。また、経口組成物は、口内洗浄液として使用される流動性担体を使用して調製することができる。薬学的適合性結合剤および/またはアジュバント物質を、組成物の一部として含有させてもよい。錠剤、丸剤、カプセル剤、およびトローチ剤等は、以下の成分または同様の性質を持つ化合物のいずれかを含有していてもよい:微結晶性セルロース、トラガカントゴム、またはゼラチン等の結合剤;デンプンまたはラクトース等の賦形剤、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterote等の潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素等の流動促進剤;スクロースまたはサッカリン等の甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香味料等の香味料。
【0079】
また、本発明の組成物は、ナノ粒子製剤として製剤化することができる。
【0080】
本発明の化合物は、即時放出投与、遅延放出投与、調節放出投与、持続放出投与、パルス放出投与、または制御放出投与で投与することができる。
【0081】
本発明の医薬組成物は、重量/容積で0.01から99%までの活性物質を含有していてもよい。
【0082】
吸入投与の場合、化合物は、好適な噴射剤、例えば二酸化炭素等のガスを含有する加圧容器もしくはディスペンサーまたはネブライザーからエアゾル噴霧の形態で送達される。そのような方法としては、米国特許第6,468,798号明細書に記載されているものが挙げられる。
【0083】
また、全身投与は、経粘膜手段または経皮手段によってもよい。経粘膜投与または経皮投与の場合、浸透しようとする障壁に適切な浸透剤が、製剤に使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般的に知られており、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーまたは坐剤の使用により達成することができる。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野で一般的に知られているものとして軟膏剤、膏薬、ゲル剤、またはクリーム剤に製剤化される。
【0084】
また、化合物は、直腸送達の場合、坐剤(例えば、カカオ脂および他のグリセリド等の従来の坐剤基剤を用いる)または停留浣腸の形態に調製することができる。
【0085】
1つの実施形態では、活性化合物は、移植片およびマイクロカプセル送達系を含む制御放出製剤等の、体内からの急速な排除から化合物を保護することになる担体を用いて調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等の、生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤は、標準的技法を使用して調製することができる。また、こうした物質は、Alza Corporation社およびNova Pharmaceuticals,Inc.社から商業的に入手することができる。また、リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞に標的化されているリポソームを含む)を、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号明細書に記載されているような、当業者に知られている方法により調製することができる。
【0086】
そのような化合物の毒性および治療効力は、例えばLD50(集団の50%致死用量)およびED50(集団の50%治療有効量)を決定するための標準的な薬学的手順により、細胞培養または実験動物で決定することができる。毒性と治療効果との用量比は、治療指数であり、比率LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を使用することもできるが、非感染細胞への損傷可能性を最小限にし、それにより副作用を低減するために、そのような化合物を罹患組織の部位へと標的化する送達系を設計するように留意すべきである。
【0087】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータを、ヒトで使用する範囲の用量を製剤化するために使用することができる。そのような化合物の用量は、好ましくは、毒性がほとんどないかまたは全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、使用する剤形および使用する投与経路に応じて、この範囲内で様々であってもよい。本発明の方法で使用される化合物の場合、治療上有効用量は、最初に細胞培養アッセイで推定することができる。細胞培養で決定されたIC50(つまり、症状の最大半量阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するための用量を、動物モデルに処方してもよい。そのような情報を使用して、ヒトに有用な用量をより正確に決定することができる。血漿レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0088】
本明細書で定義される場合、疾患または障害を標的とする本発明のアジュバント含有化合物の治療上有効量(つまり有効用量)は、選択した免疫原および標的疾患または障害に依存する。例えば、疾患または障害を標的とする本発明の免疫原-アジュバント組成物の免疫原の単一用量の量は、およそ1pg~1000mgの範囲で投与することができる。幾つかの実施形態では、10、30、100、もしくは1000pg、または10、30、100、もしくは1000ng、または10、30、100、もしくは1000μg、または10、30、100、もしくは1000mgを投与してもよい。幾つかの実施形態では、1~5gの組成物を投与することができる。
【0089】
本発明の化合物の治療上有効量は、当技術分野で知られている方法により決定することができる。使用する免疫原に依存することに加えて、本発明の医薬組成物の治療上有効量は、患者の年齢および全体的な生理学的状態、および投与経路に依存するだろう。ある実施形態では、治療用量は、概して、約10~2000mg/日、および好ましくは約30~1500mg/日であろう。例えば、50~500mg/日、50~300mg/日、および100~200mg/日を含む、他の範囲を使用してもよい。
【0090】
投与は、単一用量であってもよく、免疫原応答を生じさせるように間隔をあけた複数用量、1日1回、1日2回、またはそれ以上の頻度であってもよく、疾患または障害の維持期中は、例えば、毎日または1日2回ではなく、2日おきまたは3日おきに1回に低減させてもよい。用量および投与頻度は、当業者に知られている急性期の少なくとも1つまたは複数、好ましくは複数の臨床徴候が低減または存在しない寛解期の維持が確認されることになる臨床徴候に依存するだろう。当業者であれば、それらに限定されないが、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の全体的健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含む、ある要因が、対象を効果的に治療するのに必要な用量およびタイミングに影響を及ぼす場合があることを認識するだろう。更に、疾患、障害、または感染因子を標的とする治療上有効量の免疫原性のアジュバント含有組成物を用いた対象の治療は、単回治療を含んでいてもよく、または任意選択で、一連の治療を含んでいてもよい。
【0091】
医薬組成物は、投与の説明書と共に、キット、容器、パック、またはディスペンサーに含まれていてよい。
【0092】
本発明の実施には、別様の指定がない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA、遺伝学、免疫学、細胞生物学、細胞培養、およびトランスジェニック生物学の従来技法が使用され、それらは、従来技術の範囲内にある。例えば、以下の文献を参照されたい:Maniatis et al.,1982,Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.);Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning,2nd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.);Sambrook and Russell,2001,Molecular Cloning,3rd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.);Ausubel et al.,1992),Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley&Sons,including periodic updates);Glover,1985,DNA Cloning(IRL Press,Oxford);Anand,1992;Guthrie and Fink,1991;Harlow and Lane,1988,Antibodies,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.);Jakoby and Pastan,1979;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I-IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);Riott,Essential Immunology,6th Edition,Blackwell Scientific Publications,Oxford,1988;Hogan et al.,Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986);Westerfield,M.,The zebrafish book.A guide for the laboratory use of zebrafish(Danio rerio),(4th Ed.,Univ.of Oregon Press,Eugene,2000)。
【0093】
別様に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似のまたは等価な方法および物質を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および物質を下記に記載する。本明細書で開示されている本発明の原理には、当業者であれば、変異をなすことができることが理解および予想されるべきであり、そのような改変は、本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
【0094】
参照による組み込み
本明細書内で引用されている出願および特許の各々、ならびにそうした出願および特許の各々で引用されている各書類または文献(各付与特許の手続き中のもの;「出願引用書類」を含む)、ならびにそうした出願および特許のいずれかに対応しおよび/またはいずれかから優先権を主張するPCTおよび外国出願または特許の各々、ならびに出願引用書類の各々に引用または言及されている文献の各々は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。より一般的には、書類または文献が、本明細書内で、特許請求の範囲の前の文献リストまたは本明細書自体のいずれかに記載されており、これら書類もしくは文献の各々(「本明細書の引用文献」)ならびに本明細書の引用文献の各々で引用されている各書類または文献の各々(製造業者の仕様書、説明書等を全て含む)は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先するものとする。加えて、物質、方法、および例は、説明のために過ぎず、限定は意図されていない。
【実施例】
【0095】
実施例1:物質および方法
マウス系統および細胞培養
C57BL/6J(Jax 000664)、C57BL/6NJ(Jax 005304)、CD14 KO(Jax 003726)、カスパーゼ-1/-11 dKOマウス(Jax 016621)、TLR4突然変異体(C3H/HeJ、Jax 000659)およびTLR4突然変異体の野生型対照(C3H/HeSNJ、Jax 000661)を、Jackson Labs社から購入した。NLRP3 KOおよびASC KOマウスは、ハーバード公衆衛生大学院のT.Horng博士の好意により提供された。カスパーゼ-11 KOマウスは、ハーバード医学部大学院のJunying Yuan博士の好意により提供された。カスパーゼ-1シングルKOマウスは、Thirumala-Devi Kanneganti氏(セントジュード病院)の好意により提供された。DCを、IMDM(Gibco)、10%B16-GM-CSF由来上清、2μMの2-メルカプトエタノール、および10%FBS中で骨髄から分化させ、培養の6日後に使用した。DCの純度を、フローサイトメトリーにより評価したところ、通常は90%超だった。MΦを、DMEM(Gibco)、30%L929上清、および10%FBS中で骨髄から分化させた。不死化MΦを、10%L929上清および10%FBSで補完されたDMEM中で培養した。脾臓DCを、以前に記載のように精製した(Zanoni et al.,2012)。刺激の前に、培養細胞を洗浄し、10%FBSで補完されたDMEM中に、100μl最終容積中1×106細胞/mlの濃度で再播種した。全カスパーゼ阻害剤を使用した実験のために、インフラマソーム活性化刺激付加の前に、細胞を、zVADfmk(20μM)で30分間処理した。刺激投与時にシクロヘキシミド(50ng/ml)を添加した。DOTAPによる形質移入を、製造業者の説明書に従って実施した。手短に言えば、375ngのDOTAPを、FBSを含まない最終容積10μlのDMEM中5μgのLPSまたは10μgのoxPAPCに添加した。30分後、DOTAP/LPS複合体またはDOTAP/oxPAPC複合体を、培養に添加した。FuGENEを以前に記載されているように使用して(Kayagaki,N.et al.(2013)Science 341,1246-1249)、表示濃度のLPSおよびoxPAPCを形質移入した。
【0096】
遺伝子発現解析およびELISA
Qiashedder(Qiagen社)およびGeneJET RNA精製キット(Life Technologies社)を使用して、RNAを、細胞培養から単離した。精製したRNAの遺伝子発現を、TaqMan RNA-to-CT 1ステップキット(Applied Biosystems社)を使用して、CFX384リアルタイムサイクラー(Bio-rad社)で分析した。Life Technologies社から購入した、以下のものに特異的なプローブを用いた:viperin(Mm00491265_m1)、IFNb1(Mm00439552_s1)、IL6(Mm00446190_m1)、カスパーゼ-1(Mm00438023_m1)、カスパーゼ-11(Mm00432307_m1)、Nlrp3(Mm00840904_m1)、Asc(Mm00445747_g1)、TBP(Mm00446971_m1)、またはGAPDH(Mm99999915_g1)。Mouse Ready-SET-Go ELISAキット(eBioscience社)を使用して、IL-1β、IL-2、IL-17、IL-18、TNFα、およびIFNγのELISAを実施した。分泌サイトカインを測定するために、上清を収集し、遠心分離により清澄化し、-20℃で保管した。細胞結合サイトカインを以下のように測定した:96-ウエルプレートを遠心分離し、上清を廃棄した。250μlのPBSを、各ウエルに添加した。細胞を、-80℃で2回凍結解凍し、その後更なる分析のために-20℃で保管した。
【0097】
抗体および試薬
大腸菌LPS(血清型O55:B5-TLRgrade(商標))をEnzo社から購入した。OxPAPCおよびPam3CSK4を、Invivogen社から購入した。酸化PAPE-N-ビオチン(ビオチン-oxPAPC)およびPEIPC中に富化されたoxPAPCを、以前に記載されているように生成した(Springstead、J.R.et al.,(2012)J Lipid Res 53,1304-1315)。KOdiA-PCおよびDMPCは、それぞれCayman Chemical社製およびAvanti Polar Lipids社製だった。以下の抗体を使用した:HA(Roche社;3F10)、MyD88(R&D社;AF3109)、アクチン(Sigma社;5441)、ASC(Millipore社、クローン2EI-7)、カスパーゼ-11(Biolegend社、クローンCas11.17D9)、カスパーゼ-3(Santa Cruz社、H-277)、viperin(Biolegend社)、phospho-Stat-1(Cell Signaling社、クローン58D6)。IRAK4抗体は、Shizuo Akira氏(大阪大学)から贈与された。フローサイトメトリーに基づくアッセイでは、フルオロフォア結合抗体を、以下のように使用した:PE抗TLR4(Biolegend社;クローンSa15-21)、PE/Cy7抗TLR4/MD2(Biolegend社;クローンMTS510)、FITC抗CD14(eBioscience社;クローンSa2-8)、APC抗CD14(ebioscience社;クローンSa-28)。PE抗MHCクラスII、およびAPC抗CD40抗体は、eBioscience社製だった。アネキシンVおよび7-AAD生存能染色液を、BioLegend社から購入した。不完全フロイントアジュバント(F5506)およびシクロヘキシミド(C1988)を、Sigma社から購入した。DOTAPをRoche社製から購入した。FuGENE 2000を、Promega社製だった。エンドトキシン非含有OVAを、Hyglos/Biovendor社から購入した。組換えIFNβは、R&D Systems社製だった。Pierce LDH細胞毒性アッセイキットを、Life Technologies社から購入した。
【0098】
タンパク質精製およびin vitroタンパク質-脂質相互作用
カスパーゼ-11に対するoxPAPCの直接結合を測定する研究では、タンパク質およびSPR分析を、記載のように実施した(Shi,J.,et al.,(2014b)Nature)。手短に言えば、全長組換え触媒性突然変異体カスパーゼ-11(C254A)およびカスパーゼ-11ΔN59(C254A)を、Sf-900(商標)II SFMで72時間28℃にて培養したP3バキュロウイルス感染SF-21昆虫細胞から精製した。細胞を、1%Triton X-100、50mM Tris-HCl(pH7.6)、300mM NaCl、50mMイミダゾール、および5mM 2-メルカプトエタノールを含有する溶解緩衝液で溶解した。Ni-NTAビーズ(Qiagen社)を使用して、Hisタグ付タンパク質を溶解物から精製した。タンパク質を、50mM Tris-HCl(pH7.6)、250mMイミダゾール、および300mM NaClを含有する溶出緩衝液でビーズから放出させた。イミダゾールを透析で除去した。タンパク質を、HiTrap QカラムおよびSuperdex G200カラム(GE Healthcare Life Sciences社製)で、更に精製した。
【0099】
表面プラズモン共鳴(SPR)分析では、BIAcore T100 SPR機器(GE Healthcare社)を使用して、リガンド結合動力学を測定した。アッセイは、150mM NaCl、3mM EDTA、50mM HEPES(pH7.5)、および0.005%Tween-20を含有する緩衝液中で25℃にて実施した。まず、CM5センサーチップを、0.1M N-エチル-N’-(3-ジエチルアミノプロピル)-カルボジイミドおよび0.1M N-ヒドロキシサクシニミド溶液の1:1混合物で、7分間10μL/分の流速にて活性化した。全長触媒性突然変異体カスパーゼ-11(C254A)およびカスパーゼ-11ΔN59(C254A)を、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)で20μg/mLの濃度に希釈し、それぞれ約3100応答ユニットおよび3300応答ユニットに固定した。10mM酢酸ナトリウムで希釈されたウサギIgGタンパク質(10μg/ml)を、3400応答ユニットに固定し、負の対照として取り扱った。1Mエタノールアミン(pH8.5)を、CM5チップに流して、全ての残留タンパク質結合部位を7分間にわたってブロックした(流速10μL/分)。リガンドを、30μL/分の流速で1分間フローセルおよび隣接対照フローセル(目的フローセルと同様に活性化およびブロックしたが、タンパク質は固定しなかった)に流した。解離プロセスは、30μL/分の流速で2分間実施した。結合リガンドは、20mM NaOHで20秒間洗浄して除去した。KD値は、BIAcore T100評価ソフトウェアを用いて、1:1ラングミュア結合モデルにカーブフィッティングした(対照フローセル値を差し引いた)結果から算出した。
【0100】
カスパーゼ-11多量体化および酵素活性アッセイでは、全長マウスカスパーゼ11を、EcoRIおよびXhoIの制限部位を使用して、TEV切断可能なN末端基6×Hisタグを導入したpFastBac(商標)HT Aベクター(Invitrogen社)にクローニングした。Bac-to-Bacバキュロウイルス昆虫細胞系を使用してタンパク質を発現させた。感染48時間後、His-カスパーゼ11タンパク質を発現したSf9細胞を、20分間2,000rpmで遠心分離することにより回収した。細胞ペレットを、pH7.5の20mM HEPES、150mM NaCl、5mM tris(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、20mMイミダゾール、およびプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する溶解緩衝液に再懸濁し、超音波処理によりホモジナイズした。細胞溶解物を、4℃にて2時間42,000rpmで超遠心分離することにより清澄化した。目的タンパク質を含有する上清を、溶解緩衝液で1時間4℃にて事前に平衡化しておいたNi-NTAレジン(Qiagen社)と供にインキュベートした。インキュベーション後、レジン-上清混合物をカラムに注ぎ、レジンを、溶解緩衝液で洗浄した。500mMイミダゾールで補完された溶解緩衝液でタンパク質を溶出し、サイズ排除クロマトグラフィーで更に精製した。
【0101】
oxPAPCがカスパーゼ-11を多量体化する能力を測定するために、His-カスパーゼ11の単量体画分または多量体画分を、oxPAPCと共に氷上で2時間インキュベートし、その後Superdex 200(10/300)で分析した。
【0102】
細胞溶解物中でのビオチン化oxPAPCとHAタグ化カスパーゼ-11との結合を特徴付けるために、293T細胞を、HAエピトープがC末端融合されている表示のカスパーゼ-11対立形質(WT、K19E、および3K(K62E K63E K64E))を発現するpcDNAベクターで一過性に形質移入した。形質移入の48時間後、細胞を、冷却PBSで収集し、完全プロテアーゼ阻害剤(Roche社製)で補完した、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、10%グリセロール、および1%NP-40を含有する1mlの溶解緩衝液で溶解した。細胞を、30分間の氷上で溶解し、全細胞抽出物を、コールドルームの卓上型遠心機で15分間14000×gで遠心した後、新しいチューブに収集した。表示のカスパーゼ11対立形質を含有する全細胞溶解物の各々は、100μLを取り出し、インプットとして保存した。残りの900μlの溶解物を、各チューブ300μLで3本のチューブに等分した。1μgのビオチン化LPSおよび10μgのビオチン化oxPAPCを、それぞれ第1および第2のチューブに加えた。第3のチューブは、偽対照として残しておいた(表示のカスパーゼ-11対立形質とストレプトアビジンビーズとの非特異的結合の程度をモニターするため)。ビオチン化リガンドおよび溶解物を、6時間または一晩のいずれかにわたって、4℃にて旋回装置で混合およびインキュベートした。その後、リガンド-カスパーゼ-11複合体を捕捉するため、ストレプトアビジンビーズ(20μLベッド体積)を、全てのチューブ(ビオチン化リガンドで一切処理しなかった偽対照を含む)に添加した。この捕捉ステップを、更に2~3時間4℃で続けた。その後、ビーズを溶解緩衝液で3回洗浄し、最後に、50μLのSDSローディング緩衝液を添加した。タンパク質複合体を、65℃で15分間加熱することにより更に溶出した。25μLの溶出タンパク質複合体を、SDS-PAGEにより分離し、ビオチン化リガンドにより保持されたタンパク質を、ウエスタン分析で検出した。
【0103】
タンパク質-脂質相互作用による内因性カスパーゼの捕獲
iMΦのS100画分を以下のように調製した。完全DMEM培地で培養したコンフルエントiBMDMを、EDTA(0.4mM)入りの氷冷PBSで回収した。その後、細胞を、完全プロテアーゼ阻害剤錠剤(Roche社製)で補完した均質化緩衝液(HB)(20mM HEPES/KOH、pH7.9、250mMスクロース、0.5mM EGTA)で1回洗浄した。細胞を、Wheaton(商標)Dounce Dura-Grind(商標)組織粉砕器で20回の加圧にかけることにより、機械的に溶解した。細胞溶解の程度は、トリパンブルー染色でモニターし、80%を超える細胞が溶解されたことを確認した。その後、粗溶解物を、4℃にて10分間800×gで遠心して、未破壊細胞および核成分を除去した。核除去後の上清を、4℃にて10分間13,000×gで収集および遠心して、大型細胞器官および膜を除去した。最後に、清澄化溶解物を、Beckman社製ポリカーボネート超遠心分離チューブ(343778)に移し、4℃にて1時間100,000×gで遠心して、残留膜成分を除去した。得られたS100上清(可溶性細胞質タンパク質を含有する)を、2mg/mLのタンパク質濃度で-80℃にて保管したか、またはビオチン化脂質により捕捉する内因性カスパーゼの供給源として使用した。1mgのS100上清を、15μgのビオチン-oxPAPCと共に、旋回装置で12~16時間4℃にてインキュベートした。ストレプトアビジンアガロースレジン(Pierre,P.et al.,(1997)Nature 388,787-792)を使用し、旋回装置で1~2時間4℃にて、ビオチン化oxPAPC(1反応当たり20μLベッド体積レジンを用いて)と結合した内因性タンパク質複合体を捕捉した。その後、レジンにより捕捉されたタンパク質複合体を、界面活性剤含有洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.5、150mM NaCl、10%グリセロール、1%NP-40)で4回洗浄し、65℃にて20分間、60μLのSDSローディング緩衝液と共にインキュベートすることにより更に溶出した。溶出液の3分の1を、SDS-PAGEで分離し、指定の抗体を使用して、ビオチン-oxPAPCにより保持された内因性カスパーゼを、ウエスタンブロッティングにより検出した。
【0104】
カスパーゼ-11活性アッセイ
脂質(LPS、oxPAPC、およびDMPC)を含むかまたは含まない5μM His-カスパーゼ-11を、Corning(登録商標)96ウエル半面黒色平底マイクロプレート中の50mM HEPES(pH7.5);10%(v/v)グリセロール;10mM DTT;1.0mM EDTA;0.2%(w/v)BSAを含有する反応緩衝液でのカスパーゼ活性アッセイに使用した。反応は、基質YEVD-AMCを10μMの終濃度で添加することにより開始させた。データは、455nmの自動カットオフフィルターと共に、385nmでの励起および460nmでの発光を使用して、SpectraMax M5eマルチモードマイクロプレートリーダ(Molecular Devices社)で収集した。
【0105】
フローサイトメトリー
iMΦ、一次骨髄由来MΦ、および表示遺伝子型のDCまたは脾臓DC(0.5×106)を、37℃にて表示の時間にわたって大腸菌LPS、oxPAPC、または化学阻害剤で処理した。その後、細胞を、1mLの冷却PBSで洗浄し、氷上で20~30分間適切な抗体で染色した。抗体の非特異的結合を低減するために、2%マウス血清またはラット血清をブロッキング試薬として使用した。その後、染色した細胞を、1mL冷却PBSで洗浄し、200μL PBSに再懸濁した。表面受容体の染色を、BD FACSCanto IIで分析した。未刺激細胞または刺激細胞に由来するCD14、TLR4の平均蛍光強度(MFI)を記録した。表示の時点での表面受容体染色パーセント(刺激細胞で測定されたMFI値の、未刺激細胞で測定されたMFI値に対する比)を、受容体エンドサイトーシスの効率を反映するようにプロットした。TLR4/MD-2二量体化の程度を測定するために、TLR4/MD2二量体のパーセントを、TLR4/MD-2単量体のパーセントを100%として算出した。TLR4/MD-2単量体のパーセントは、刺激細胞のMFI値(MTS510抗体染色で得られた)の、未刺激細胞のMFI値に対する比により決定した。細胞を、抗MHCクラスIIまたは抗CD40抗体で染色した。
【0106】
ウエスタンブロッティングおよびミッドソーム形成
ウエスタンブロッティングのために、iMΦ(5×106)を、表示の期間にわたってリガンドで刺激し、その後、1%NP-40、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaClを含有する700μLの溶解緩衝液で溶解した。プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を、細胞溶解の直前に添加した。標準的分子生物学技法を使用して免疫ブロットを実施した。
【0107】
ミッドソーム形成のために、iMΦ(3×106)を、表示の期間にわたってリガンドで刺激し、その後、1%NP-40、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaClを含有する700μLの溶解緩衝液で溶解した。プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を、細胞溶解の直前に添加した。溶解物を、コールドルーム(4℃)の卓上型遠心機で15分間、最高速度で遠心した。清澄化した上清を収集し、80μLの上清を全抽出物として保存した。1μgの抗MyD88抗体および15μL(ベッド体積)のプロテインGセファロースを残りの上清に添加し、4℃にて一晩、旋回装置でインキュベートを続けた。その後、ビーズを溶解緩衝液で3回洗浄し、60μLのSDSローディング緩衝液を添加した。タンパク質複合体を、65℃で15分間加熱することにより更に溶出した。溶出したタンパク質複合体の一部(20μL)を、SDS-PAGEで分離し、表示の抗体を使用して、ウエスタンブロッティングで視覚化した。
【0108】
免疫蛍光法
インフラマソーム誘導刺激負荷の前に、BMDC細胞を、LPS(1μg/mL)で3時間処理した。生存または透過性実験のために、製造業者の説明書に従ってMitotTacker CMX-ROS(Life Technologies社)またはZombie Red(BioLegend社)染料を使用し、その後4%パラホルムアルデヒドで固定した。0.1%Triton X-100 0.2%BSA-PBSを使用した透過処理ステップの後、細胞を、2%BSA-PBSでブロックし、ウサギ抗ASC pAb(AL177、Adipogen社)およびマウス抗カスパーゼ-1 mAb(Casper-1、Adipogen社)と共にインキュベートし、その後ブロッキング緩衝液で希釈したAlexa Fluor488結合ニワトリ抗ウサギIgG(Life Technologies社)およびAlexa Fluor568結合ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies社)と共にインキュベートした。核は、DAPI(Life Technologies社)またはDRAQ5(BioLegend社)で対比染色した。Zeiss社製Axiovert 200M共焦点顕微鏡またはオリンパス社製BX41蛍光顕微鏡を使用して、画像を得た。
【0109】
PI透過処理アッセイ
BMDCまたはBMMを、底部が透明な黒色96ウエル組織培養プレートに播種し、3時間の予備刺激で処理した。PBSで穏やかに洗浄した後、100μlの予加温染色溶液(5μM PI、5%FBS、20mM HEPES、フェノールレッドを含まないMgCl2およびCaCl2 HBSS)を、各ウエルに添加し、37℃ 5%CO2で5分間インキュベートした。測定直前に、PIを含まず、2×インフラマソーム誘導性刺激を含有する100μLの染色溶液を、適切なウエルに添加した。0.1%Triton X-100を、最大透過性の正の対照として使用した。蛍光強度の増加を、FLUOstarオメガマイクロプレートリーダ(BMG labtech社)を使用し、544nmでの励起および620-10nmの発光フィルターを用いて、37℃で3時間にわたって連続して記録した。
【0110】
in vivo免疫処置およびin vitro再刺激
WT C57BL/6NJおよびカスパーゼ-1/-11 dKO C57BL/6NJマウスを、不完全フロイントアジュバントに乳化した150μg/マウスの無エンドトキシンOVAおよび7μg/マウスのLPSで、または不完全フロイントアジュバントに乳化した150μg/マウスの無エンドトキシンOVAおよび65μg/マウスのoxPAPCおよび7μg/マウスのLPSのいずれかで、背面上部(各肩からの注射)に免疫した。CD4+ T細胞を、抗CD4ビーズ(Miltenyi Biotech社)を用いて磁気細胞選別により、免疫処置の7または40日後に流入領域リンパ節から単離した。細胞を、100,000個DCのおよび1mg/mlから開始したOVAの系列希釈の存在下で、1ウエル当たり100,000個細胞の濃度で96ウエルプレートに接種した。IFNγ、IL-17、およびIL-2の分泌を、5日後にELISAで測定した。
【0111】
HSV感染のウイルス複製アッセイ
マウスは、組織内およびNIHの動物実験ガイドラインに従って飼育し、手順は全てハーバード医学部大学院の組織内動物実験委員会の承認を受けた。表示のマウス系統を、イソフルランチャンバーで麻酔し、その後ケタミン(3.7mg/マウス)およびキシラジン塩酸塩(0.5mg/マウス)を腹腔内注射した。角膜に傷をつけ、以前に記載のように感染を実施した(Cliffe,A.R.et al.,(2009)Journal of virology 83,8182-8190)。目におけるウイルス増幅を測定するために、最初の5dpiは無菌ポリエステルアプリケータ(Puritan社)を使用して涙液膜のスワブを収集し、目に由来する涙液中のウイルスを、以前に記載のようにベロ細胞で滴定した(Coen,D.M.et al.,(1989)Proc Natl Acad Sci U S A 86,4736-4740)。
【0112】
統計分析
仮説は、単一対比較の両側t検定で試験した。Excel(マイクロソフト社)で計算したp値は、アスタリスクでコード化されている:<0.05(*)、<0.01(**)、<0.001(***)。
【0113】
実施例2.oxPAPCが、TLR4アンタゴニストであり、かつCD14アゴニストであることの特定
oxPAPC等の酸化リン脂質には、複雑な歴史があり、炎症の活性化因子または阻害因子のいずれとしても作用することが報告されている。幾つかの研究では、oxPAPCが、LPSにより誘導されるTLR4依存性炎症性サイトカインの発現を、濃度依存的な様式で阻害することができることが示されているが(Bochkov,V.N.et al.,(2002)Nature 419,77-81;Erridge,C.et al.,(2008)The Journal of biological chemistry 283,24748-24759;Oskolkova,O.V.et al.(2010)J Immunol 185,7706-7712)、他の研究では、oxPAPCが、TLR4依存性炎症応答の活性化因子であることが報告されている(Imai,Y.et al.(2008)Cell 133,235-249;Shirey,K.A.et al.(2013)Nature 497,498-502)。
【0114】
oxPAPCおよびPAPCの活性を決定するために、これら脂質が、LPS受容体TLR4およびCD14と結合する能力を、マウスの不死化マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM;あるいはiMΦ)で調査した。LPSで刺激した細胞およびoxPAPCで刺激した細胞の対照比較を実施して、これら分子が、既知TLR4依存性遺伝子の発現を誘導する能力を評価した(
図1および
図2)。サイトカインIL-1βおよびインターフェロンベータ(IFNβ)のロバストな発現を誘導したLPS(
図2)およびIFN刺激遺伝子viperinと比較して、oxPAPCは、これら遺伝子を上方制御することができなかった(
図43B)。アッセイしたもの以外のTLR4依存性遺伝子が、oxPAPCにより活性化されていた可能性があった。
【0115】
これらの研究では、幾つかの濃度のoxPAPCを評価したが、それらは全て、in vivoで炎症組織または損傷組織に存在すると報告されたものと類似していた(Oskolkova,O.V.et al.(2010)J Immunol 185,7706-7712)。TLR4二量体化を、TLR4単量体のみを検出する抗体を使用して、フローサイトメトリーで評価した。二量体化は、LPSにより誘導されるが、oxPAPC処理では誘導されなかったことが特定された(
図43A)。こうした分析を補完するために、受容体近位タンパク質MyD88とIRAK4との間の誘導可能な相互作用も調査した。
【0116】
これらタンパク質は、ミッドソームと呼ばれる超分子組織化中心(SMOC、supramolecular organizing center)を形成する(Kagan,J.C.et al.,(2014)Nat Rev Immunol 14,821-826; Lin,S.C.et al.,(2010)Nature 465,885-890;Motshwene,P.G.et al.,(2009)J Biol Chem 284,25404-25411)。ミッドソームは、TLR活性化にのみ応答して構築された(Bonham et al.,2014)。したがって、ミッドソームの検出を、TLR活性化の一般的な読み出し情報として使用することができる。LPSは、処理の30分以内にMyD88-IRAK4含有ミッドソームの形成を誘導したが、oxPAPCは、これらタンパク質間のいかなる検出可能な結合も誘発することができなかった(
図43Cおよび
図49A)。更に、oxPAPCで処理した細胞は、検出可能な量のリン酸化STAT1またはIFN刺激遺伝子viperin(
図1、
図43D、および
図49B)を含有していなかった。これらは両方とも、LPSでの処理時に豊富に存在していた。こうしたデータは、oxPAPCがLPSの模倣体ではないことを示し、BMDM中で直接的にTLR4を直接活性化する能力をほとんどまたは全く有していなかったことを示した。
【0117】
無細胞過剰発現系では、oxPAPCは、CD14またはLPS結合タンパク質MD-2のいずれかへの接近を、LPSと競合することにより、TLR4シグナル伝達事象の阻害因子として作用した(Bochkov,V.N.et al.,(2002)Nature 419,77-81;Erridge,C.et al.,(2008)The Journal of Biological Chemistry 283,24748-24759)。LPS結合タンパク質MD-2は、TLR4の架橋および活性化に関与していた。しかしながら、oxPAPCがTLR4制御因子と結合する能力は、主に無細胞系または上皮細胞で調査されている。oxPAPCによる阻害の程度は、LPS投与およびoxPAPC投与の比率を変更することにより影響を受けた(
図1~
図5)。それは、これら2つの因子が、CD14と同じ結合部位を競合している可能性が高いことを示していた。そのような単一結合部位をめぐる競合と一致して、LPSに結合することができなかった突然変異体CD14対立形質は、oxPAPCまたはLPSの存在下であっても、エンドサイトーシスされなかった。
【0118】
oxPAPCが、iMΦ中でCD14に結合したか否か、またはBMDM中でMD-2と結合したか否かを決定するために、幾つかのアッセイを使用して、候補受容体の誘導可能な二量体化またはエンドサイトーシスをフローサイトメトリーでモニターした。以前に報告されているように、LPS処理は、CD14およびTLR4のエンドサイトーシスを引き起こし、これらタンパク質の表面染色が喪失した(Zanoni,I.et al.,(2011)Cell 147,868-880)。興味深いことには、oxPAPCは、TLR4のエンドサイトーシスを誘導することができなかったが(
図4)、CD14の迅速なエンドサイトーシスを促進することができた(
図3、
図44A、および
図50A)。したがって、oxPAPCにより誘導されたCD14のこの迅速な内部移行により、細胞表面でのCD14欠乏が作り出された。理論により束縛されることは望まないが、細胞表面におけるこうしたCD14欠乏により、この脂質がTLR4シグナル伝達をブロックする能力を説明することができる可能性があると考えられる。実際、その後LPSで処理したoxPAPC処理細胞は、TLR4エンドサイトーシスおよびTLR4誘導性遺伝子発現の欠損を示した。
【0119】
CD14表面富化は、CD14エンドサイトーシスおよび再合成の拮抗作用に起因し(Tan,Y.et al.,(2015).Immunity 43,909-922)、後者を防止する条件下で最も明白に観察された。結果的に、oxPAPCまたはLPS誘導性CD14エンドサイトーシスの程度は、タンパク質合成がシクロヘキシミドで阻止された条件下で増強された(
図50B)。シクロヘキシミド処理は、TLR4内部移行または二量体化のいずれにも影響を及ぼさなかった(
図50Cおよび
図50D)。一次骨髄由来MΦおよび骨髄由来DCは、oxPAPCが、CD14エンドサイトーシスを促進したが、TLR4二量体化またはエンドサイトーシスを促進しなかったという点で、iMΦと同様な挙動を示した(
図44B)。したがって、oxPAPCにより誘導されたCD14のエンドサイトーシス(しかしTLR4はエンドサイトーシスされなかった)は、細胞表面でのCD14の欠乏を作り出した。これにより、この脂質がTLR4シグナル伝達を阻止する能力が説明される可能性が高い。実際、その後LPSで処理したoxPAPC処理細胞は、TLR4二量体化、エンドサイトーシス、TNFα分泌、およびSTAT1リン酸化の欠損を示した(
図44Aおよび
図44F)。後者の2つは、TLR4シグナル伝達の古典的な読み出し情報である。
【0120】
CD14が、同様の機序を使用してPAMP(LPS)およびDAMP(oxPAPC)と相互作用した可能性を検討するため、これら脂質との相互作用に必要なCD14内のアミノ酸を調査した。CD14のLPS結合ドメインは、一次アミノ酸配列の4つの別々の領域で構成される大型疎水性ポケットであると以前に同定された(Kim,J.I.et al.,(2005)J Biol Chem 280,11347-11351)。1つの領域(1R)または2つの領域(2R)のいずれかに突然変異を含んでいたCD14対立形質は、ビオチン化LPSと複合体を形成する能力を保持したが、CD14の4つの領域全て(4R)に突然変異があると、LPS結合活性が消失した(Tan,Y.et al.,(2015).Immunity 43,909-922)。これら突然変異体CD14対立形質の各々は、細胞表面に輸送された全長折り畳みタンパク質をコードしていた(Tan,Y.et al.,(2015).Immunity 43,909-922)。注目すべきことに、4R突然変異体は、ビオチン化oxPAPCとの相互作用も欠損していた(
図44E)。更に、CD14ノックアウト(KO)iMΦに安定的に導入した場合、4R突然変異体CD14は、LPS処理またはoxPAPC処理に応答して内部移行されなかった(
図44F)。したがって、これらのデータは、CD14内の同じアミノ酸が、DAMP(oxPAPC)およびPAMP(LPS)との相互作用を促進したことを示し、oxPAPCを選択的なLPS模倣体と考えることができるという結論を分子的に支持するものである(つまり、CD14依存性活性の場合)。全体として、これらのデータは、oxPAPCが、TLR4の活性化因子ではないが、CD14の活性化因子だったことを示した。CD14を乖離させるこの能力およびTLR4エンドサイトーシスは、oxPAPCが、TLR4アンタゴニストとしてどのように機能するか説明する可能性が高い。
【0121】
実施例3.oxPAPCは、樹状細胞(DC)におけるNLRP3インフラマソームの活性化を促進した
上記の例は、oxPAPCが炎症活性化因子ではなかったことを示したが、幾つかの研究では、これら脂質の炎症促進性機能が示されている(Imai,Y.et al.(2008)Cell 133,235-249;Shirey,K.A.et al.(2013)Nature 497,498-502)。幾つかのDAMPは、未感作細胞から炎症促進性反応を誘発させることができなかったが、以前に微生物産物と接触させた細胞からのサイトカイン放出を誘導することができたと考えられた。例えば、細胞外ATPは、TLRリガンドで予備刺激した細胞からのインフラマソーム依存性IL-1β放出を活性化したと記載されている(Petrilli,V.et al.,(2007)Current opinion in immunology 19,615-622)。
【0122】
図6および
図7に示されているように、oxPAPC成分脂質KOdiA-PC(1-(パルミトイル)-2-(5-ケト-6-オクテン-ジオイル)ホスファチジルコリン)を含むPAPCは、DCでのインフラマソームを活性化した。
【0123】
図8に示されているように、CD14は、PAPCに応答してインフラマソーム活性化を制御した。PAPCに応答したインフラマソーム活性化は、CD14特異的だったが、PAPCは、CD36内部移行を誘導することもできた(
図9)。CD14は、I型IFNとは独立して、PAPC媒介性インフラマソーム活性化を制御した(
図10)。
【0124】
カスパーゼ-1発現およびカスパーゼ-11発現の制御は、wt DCおよびCd14-/DCと同様だった(
図11)。PAPCは、細胞タイプ特異的な様式でインフラマソーム活性化を誘導した(
図12)。
【0125】
他のPAMPが、PAPC誘導性インフラマソーム活性化を刺激したことも特定された(
図13および
図14)。
【0126】
注目すべきことに、全ての修飾PCが、インフラマソーム活性化を誘導した訳ではなかった(
図15)。
【0127】
oxPAPCが、状況依存的な様式で炎症促進性機能を有していたか否かを決定するために、LPSで前処理した(または前処理しなかった)一次BMDMまたはBMDCからのIL-1β放出を調査した。以前の観察(Petrilli,V.et al.,(2007)Current opinion in immunology 19,615-622)と一致して、LPS前処理は、ATPが、DCからのIL-1β放出を用量依存的な様式で誘発させることを可能にした(
図51A)。注目すべきことに、oxPAPCは同様の活性を示したが、細胞タイプ依存的な様式ではなかった。興味深いことには、oxPAPCは、IL-1β分泌を誘導することもできたが、LPS予備刺激DCでのみだった(
図45A)。oxPAPCは、未感作細胞からのIL-1β放出を誘導しなかったが、DCのLPS前処理は、oxPAPCが、IL-1β放出を用量依存的な様式で促進することを可能にした(
図45Aおよび
図51B)。
【0128】
理論により束縛されることは望まないが、IL-1β放出は、典型的には、IL-1ファミリーメンバーのプロセシングおよび非典型的分泌を引き起こす細胞質タンパク質複合体であるインフラマソームにより媒介される(Petrilli,V.et al.,(2007)Current opinion in immunology 19,615-622)。
【0129】
上記で特定したoxPAPC媒介性IL-1β放出が、インフラマソーム依存性事象だったか否かを決定するために、この脂質の活性を、カスパーゼ-1/カスパーゼ-11ダブルノックアウト(KO)マウスまたはASC欠損マウス(Pycardとしても知られている)のいずれかに由来するBMDCで調査した。ASCはインフラマソーム構築に関与する共通のアダプタータンパク質だった(Martinon,F.et al.,(2002)Molecular cell 10,417-426)。oxPAPC(またはATP)媒介性IL-1β放出は、カスパーゼ-1/-11(
図18)またはASC(
図17、および
図45B~
図45C)を欠損するBMDCから完全に喪失した。この観察は、oxPAPC誘導性細胞応答におけるインフラマソームの必要性を証明する決定的な遺伝子的証拠を提供した。なお、NLRP3は、インフラマソームの最も一般的な上流活性化因子の1つであったため(Ye,Z.,and Ting,J.P.(2008)Current opinion in immunology 20,3-9)、oxPAPC媒介性IL-1β放出を、NLRP3欠損BMDCでも調査した。oxPAPCが、NLRP3欠損BMDC(
図16)からの、およびNLRP3 KO DC(
図45D)からのIL-1β放出を誘導することができなかったため、oxPAPC媒介性IL-1β放出は、NLRP3依存性プロセスであることが特定された。また、ATP媒介性IL-1βは、予想通りNLRP3依存性だった。重要なのは、インフラマソーム制御因子が、TNFα分泌に必要ではなかったことであり(
図45B~
図45D)、これは、TLR4誘導性遺伝子発現は、インフラマソーム活性化とは独立して生じたことを示していた。
【0130】
市販(および天然)のoxPAPCは、様々な酸化種の混合物を含む。oxPAPCの別の供給源が、同様の活性を示すか否かを決定するために、oxPAPCの最も活性の高い成分であるPEIPC(1-パルミトイル-2-(5,6エポキシイソプロスタノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)を豊富に含むことが特定されている特製oxPAPC(Springstead et al.,2012)を使用した。2つの異なるoxPAPCの対照分析は、同様の結果を示した(
図45A)。これにより、oxPAPCが、供給源に関わりなく、LPS予備刺激DCでのIL-1β放出を誘導したことが確認された。IL-1β放出に関して観察された効果とは対照的に、細胞結合IL-1βレベルは、LPSのみ、LPS/oxPAPC、またはLPS/ATPで刺激した細胞と比較して同様であった(
図45A、
図51B、および
図51C)。この後者の観察は、細胞をこのDAMPで前処理した場合、oxPAPCは、TLR4シグナル伝達の阻害因子としてのみ作用することができたという知見と一致していた。
【0131】
インフラマソーム媒介性事象(例えば、IL-1β放出)に対するoxPAPCの効果の特異性を決定するために、古典的なTLR依存性サイトカインであるTNFαの放出に対する、この脂質の効果を調査した。oxPAPCは、DCからのTNFα放出を促進も阻害もしなかった(
図51D)。加えて、DCを、LPS/ATPまたはLPS/oxPAPC(つまり、予備刺激無し)で同時処理したところ、IL-1βは、oxPAPC処理DCによってのみ放出された(
図51E)。これにより、これらの2つのDAMPは、IL-1β分泌を制御する能力が異なることが示された。異なるホスホコリン変異体である1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)を使用した場合、この変異体は、IL-1β放出を誘発することができなかった(
図51F)。対照的に、oxPAPCの精製成分である1-(パルミトイル)-2-(5-ケト-6-オクテン-ジオイル)ホスファチジルコリン、つまりKOdiA-PCは、IL-1β分泌を誘発することができた(
図51F)。全ての場合で、TNFα分泌は、ホスホコリン処理により影響を受けなかった(
図51F)。こうしたデータにより、oxPAPCは、LPS予備刺激DCでのTLR4シグナル伝達に影響を及ぼさずに、IL-1β放出を促進することができるという特異的能力があることが確立された。
【0132】
oxPAPC誘導性インフラマソーム活性化は、カスパーゼ-11依存性だったが、ATP誘導性インフラマソーム活性化はそうではなかった(
図19)。実際、LPSおよびPam3の両方により予備刺激した後のPAPC誘導性インフラマソーム活性化は、カスパーゼ-11を必要とした(
図20)。したがって、ビオチン化形態のPAPCは、カスパーゼ-11活性化に関する研究用のツールとして企図された。
【0133】
ビオチン化PAPCは、CD14内部移行を強力に誘導することを特定したが(
図21)、TLR4内部移行(
図22)も、IL-1β分泌(
図23)も誘導しなかった。ビオチン付加化LPS、OxPac、およびPacのカスパーゼ11およびMD-2に対するin vitro結合アッセイは、カスパーゼ11依存性の様式で複合体を形成することを特定したと考えられた(
図24)。実際、Bio-LPSプルダウンアッセイでは、PAPCは、用量依存的な競合体として作用した(
図25)。このようなアッセイでは、ビオチン-LPSを、1プルダウンアッセイ当たり5μgで使用したが、PAPCは、それぞれMD-2およびカスパーゼ-11に対するLPS結合と競合させるために、5、50、および500μgで使用した。競合は、1:100(LPS:PAPC)の比率が効果的だった。
【0134】
oxPAPCおよびLPSは、CD14の同一ドメインに結合した可能性が高い(
図26)。しかしながら、LPS処理は、DCの生存に影響を及ぼし(
図27)、予備刺激したDCのPAPC処理は、DCの生存を促進した(
図28)。このPAPCの生存促進効果は、CD14依存性ではなかった(
図29)。インフラマソーム活性化は、典型的には、IL-1βの放出および活性化細胞のその後の死滅に関連していた。oxPAPCがBMDCを死滅させないことは、oxPAPCのアジュバントとしての使用を更に促進する肯定的な結果だった。
【0135】
図30に示されているように、P2CおよびP3Cのみが、DCの生存を支援した。P2CおよびP3Cで予備刺激したDCは、PAPC処理に応答して、それらの生存が増加することはなかった(
図31)。
【0136】
インフラマソームは、予備刺激およびPAPCの同時投与により効率的に活性化されたが、ATPの場合はそうではなかった(
図32)。予備刺激およびPAPCの同時投与は、野生型DCのNF-κB活性化を変更しなかった(
図33)。
【0137】
CD14の非存在下では、oxPAPCは、TLR4シグナル伝達のアンタゴニストとして作用した(
図34)。
【0138】
oxPAPC効果がCD14依存性であることが観察されたことを考慮すると、CD14が、細胞外空間からPAPCを除去する(「クリアする」)ためのシャペロンとして作用したと考えることが可能だった。
【0139】
LPSおよびoxPAPCの同時投与は、TLR4内部移行(
図35)、CD14内部移行(
図36)に影響を及ぼし、TLR4二量体化(
図37)に部分的に影響を及ぼした。
【0140】
上記の結果の幾つかは、以下のように要約される。
(1)特定の修飾PC(DMPCではなくPAPC)が、インフラマソーム活性化を誘導した。
(2)PAPC依存性だが、ATP依存性ではないインフラマソーム活性化は、細胞タイプ特異的だった(MacではなくDC)。
(3)PAPCによるインフラマソーム活性化はCD14を必要としたが、ATPではCD14を必要としなかった。
(4)PAPCによるインフラマソーム活性化はカスパーゼを必要としたが、ATPではカスパーゼ-11を必要としなかった。
(5)ATPはDCのピロトーシスを誘導したが、PAPCは誘導しなかった。
(6)PAPCは、CD14非依存的な様式でDC生存を促進した。
(7)PAPCは、予備刺激と同時投与すると、インフラマソーム活性化を誘導すると特定されたが、ATPはそうではなかった。
【0141】
したがって、PAPCは、適応免疫応答を増加させることができる強力で天然のアジュバントであると特定された。
【0142】
また、LPSおよびRhodo LPSを、インフラマソーム活性化について評価した。
図38に示されているように、Rhodo LPSは、インフラマソーム活性化の強力な誘導因子だった。LPS誘導性インフラマソーム活性化は、Nlrp3依存性であり(
図39)、Asc依存性であり(
図40)、Casp1/11依存性だった(
図41)。一方で、Rhodo LPS誘導性インフラマソーム活性化は、CD14非依存性だった(
図42)。したがって、Rhodo LPSも、非標準インフラマソーム活性化脂質であることが特定されたが、その効果は、CD14非依存性であると考えられた(それにより、Rhodo LPSの見かけ上の機序は、oxPAPCで見られるものと区別される)。
【0143】
実施例4:oxPAPCは、マクロファージからのIL-1β放出を促進しなかった
試験した詳細に明らかにされているインフラマソーム活性化因子は全て、MΦからのIL-1β放出を促進した。oxPAPCが、この能力を有していたか否かを調査するために、上述のものと同様の実験を、一次骨髄由来MΦで実施した。興味深いことには、oxPAPCは、MΦで検討したいずれの条件下でも、IL-1β放出を誘発することはできなかったが(
図45E)、ATPは、これら細胞からの効率的なIL-1β放出を用量依存的な様式で促進した(
図51A)。これらのデータにより、oxPAPCがインフラマソーム活性の細胞タイプ特異的活性化因子であることが特定された。
【0144】
DCが特異的にoxPAPCに応答する様式をより良好に理解するため、インフラマソーム活性化の予備刺激段階に対する応答を評価した。対照調査すると、DCは、LPSに応答して、MΦが産生したものよりも多くのTNFαを産生した(
図51D)。こうした結果は、DCが、MΦよりもより良好に「予備刺激」されたことを示した。しかしながら、IFNγで処理したMΦ、ならびにDCを予備刺激したが、依然として、oxPAPCに応答してIL-1βを放出しなかった(
図51G)。インフラマソーム活性化の段階で、予備刺激ステップが生じた後、oxPAPCに対するDCおよびMΦの異なる応答性が顕在化した可能性が高い。
【0145】
oxPAPCをサイトゾルに輸送し、その後oxPAPCがインフラマソーム媒介性IL-1β放出を活性化する固有因子がDCに存在する可能性が想定された。この可能性を、oxPAPCをMΦサイトゾルへと直接形質移入することにより調査した。この方法は、TLR2リガンドであるPam3CSKで予備刺激したDCからのIL-1β放出を促進したが、予備刺激したMΦは、依然としてそのような応答を誘導することができなかった(
図45F)。細胞質でのLPS形質移入を、正の対照として使用した(
図45F)(Hagar,J.A.et al.,(2013)Science 341,1250-1253; Kayagaki,N.et al.(2013)Science 341,1246-1249)。こうした知見は、oxPAPCが後者の活性化を可能にするMΦ(またはDC)のサイトゾルに、ある因子(複数可)が存在することを示した。
【0146】
MΦおよびDCに存在するインフラマソーム活性をより一般的に理解するために、両タイプの細胞からのIL-1β放出を促進した別のインフラマソーム活性化因子であるATPを調査した(
図51A)。興味深いことには、DCおよびMΦは、LPS+ATP処理に応答して同様の動態で死滅した。しかしながら、その一方で、これら細胞は、非常に異なる量のIL-1βを放出し(
図45G)、非常に異なるレベルのASCを発現し(
図51H~
図51I)、標準および非標準インフラマソームの他の成分(
図51I)はいずれも放出または発現されなかった。MΦでは、細胞死の程度とIL-1β放出の程度との間には完全な相関性が存在していた。この観察は、死にかけている細胞がこのサイトカインを放出することと一致する(
図45G)。対照的に、観察された死が最小限であった場合に、最大量のIL-1βがDCから放出された。この観察は、生細胞がこのサイトカインを放出することと一致していた(
図45G)。合わせて考えると、こうしたデータは、MΦおよびDCでのインフラマソーム活性が根本的に異なることを強調し、oxPAPCがインフラマソームの活性化因子であり、DCに特異的であることを示した。
【0147】
実施例5:oxPAPCは、TLR4とは独立して、非標準インフラマソームによりIL-1β放出を促進した
カスパーゼ-11は、細胞質LPSに結合し、非標準インフラマソームの構築およびIL-1βの放出を促進する既知のプロテアーゼである(Hagar,J.A.et al.,(2013)Science 341,1250-1253;Kayagaki,N.et al.(2013)Science 341,1246-1249;Shi,J.et al.,(2014a)Nature 514,187-192)。oxPAPCは、LPSを模倣し、CD14エンドサイトーシスを活性化することができるため、カスパーゼ-11依存性応答を活性化する能力についても、oxPAPCを評価した。注目すべきことには、oxPAPC媒介性IL-1β放出は、カスパーゼ-11 KO DCでは大部分が消失した(
図46A)。予想通り、ATP媒介性IL-1β放出は、カスパーゼ-11 KO細胞では完全なままだった(
図46A)。全ての場合で、TNFα分泌は、影響を受けなかった(
図46B)。カスパーゼ-11依存性IL-1β放出におけるoxPAPCとATPとのこの相違は、oxPAPCの活性が、細胞からのATPの間接放出により媒介されたという可能性を排除した。
【0148】
こうした機能的な分析を補完するために、個々のDCを顕微鏡検査したところ、oxPAPCおよびATPは両方とも、LPSで前処理したDCで、ASCおよびカスパーゼ-1を含有する「スペック」の形成を誘導したことが明らかなった(
図46C)。なお、こうした実験は、同様のレベルのIL-1β放出を誘導した、ATP(1mM)およびoxPAPC(120μM)の用量を使用して実施した(
図51C)。oxPAPCに応じたスペック形成の動力学は、ATPと比較して遅かったが、同様の量の細胞でスペックが形成された(
図52A~
図52B))。これら構造は、IL-1βが放出され、個々のインフラマソームが認識された条件下でのみ形成された(Stutz,A.et al.,(2013)Methods in molecular biology 1040,91-101)。興味深いことには、カスパーゼ-11は、oxPAPCに応答した、ASC/カスパーゼ-1を含有するスペックの形成に必要だったが、ATPではそうではなかった(
図46Cおよび
図52B)。理論により束縛されることは望まないが、このタンパク質が非インフラマソーム構築に必要だったため、カスパーゼ-11は、oxPAPC誘導性IL-1β放出に必要である可能性が高かった。
【0149】
oxPAPCは、その機能を発揮するためにTLR4を必要としなかったという考えと一致して、oxPAPCがIL-1β放出を活性化する能力は、TLR4シグナル伝達に依存しなかった。実際、TLR2リガンドであるPam3CSK、またはTLR9リガンドであるCpGで予備刺激した細胞は、LPSで予備刺激したものと同様の応答を誘発した(
図52C~
図52D)。LPS予備刺激細胞で観察されたように、Pam3CSK予備刺激DCからのIL-1β放出は、NLRP3、ASC、およびカスパーゼ-11を必要とした(
図52C)。Pam3CSK予備刺激後のATP媒介性IL-1β放出は、カスパーゼ-11 KO細胞では、完全なままだったが、カスパーゼ-1/-11 dKO細胞ではそうではなかった(
図52C)。DCの遺伝子型は全て、同等なレベルのTNFα分泌を可能にした(
図52C)。TLR4に対するoxPAPCのあらゆる考え得る活性を更に排除するために、C3H/HeJ DC(TLR4 TIRドメインの突然変異により、天然でLPSに不応答性だった)(Poltorak,A.et al.(1998)Science 282,2085-2088)を、Pam3CSKで予備刺激し、oxPAPCに応答したIL-1β分泌を測定した。機能的なTLR4の非存在は、IL-1β放出を誘導するoxPAPCの能力を変更しなかった(
図52E)。こうしたデータは、TLR4を介したシグナル伝達にはoxPAPCが必要ではなく、oxPAPCが、細菌感染またはウイルス感染のいずれにも特徴的なTLRリガンドとの接触時に、DCを活性化したことを更に確認した。したがって、グラム陰性菌だけでなく、複数のタイプの病原体に対する免疫応答を制御する受容体として、カスパーゼ-11を分類することができた。
【0150】
感染の設定でこの可能性を更に調査するために、野生型(WT)マウスまたはカスパーゼ-11 KOマウスを、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に感染させた。HSV-1感染症は、眼の感染モデルにおいてNLPR3インフラマソームを活性化するが(Gimenez,F.et al.,(2015).Journal of leukocyte biology 2015 Oct 29.pii: jlb.3HI0715-321R)、このウイルスは、LPSをコードしないため、HSV-1は、調査するのに良好な病原体であると考えられた。カスパーゼ-11がHSV-1感染に関与していたかどうかは、これまで知られていなかった。
【0151】
カスパーゼ-11 KOマウスは、眼感染後2日目では、WTマウスよりもHSV-1により感受性であったことを特定した。実際、この時点では、WTマウスと比較して増加した感染性ウイルスの存在量が、カスパーゼ-11からの目スワブで検出された(
図52F)。このような2日目におけるウイルス増殖の差異は、NLRP3 KOマウスが、この時点でより高いウイルス力価をもたらしたことを示す以前の研究と一致していた(Gimenez,F.et al.,(2015).Journal of leukocyte biology 2015 Oct 29.pii:jlb.3HI0715-321R)。その後の時点では、調査した全てのマウスの目からウイルスが消失した。これは、おそらくは、ウイルスが自然に神経系へと移行したためである。こうした知見は、カスパーゼ-11が、非細菌病原体に対するマウスの保護に寄与したことを示した。理論により束縛されることは望まないが、こうした知見を説明する最も単純なモデルは、感染部位(目)でのoxPAPC産生が、カスパーゼ-11活性化およびその後のウイルス増殖の制限に寄与したことだった。このモデルを直接的に試験するには、oxPAPC活性をin vivoで特異的に除去する試薬の開発が必要であることが想定された。
【0152】
実施例6:カスパーゼ-11は、oxPAPCの受容体であると特定された
oxPAPCは、カスパーゼ-11依存性応答を活性化する能力を有することが示されている。これは、これら分子間に相互作用があることを示している。以前に記載されているように(Shi,J.,et al.,(2014b)Nature)、内因性カスパーゼ-11は、ビオチン化LPSとの相互作用により細胞溶解物から単離することができる(
図46D)。興味深いことには、ビオチン-oxPAPCも、内因性カスパーゼ-11と複合体を形成した(
図46D)。対照的に、いずれの脂質も、内因的なカスパーゼ-3を捕捉しなかった(
図46D)。oxPAPCが、カスパーゼ-11と直接結合したか否かを決定するために、in vitroタンパク質-脂質相互作用研究を実施した。
図46Eに示されているように、oxPAPCは、表面プラズモン共鳴(SPR)において、固定した触媒的に不活性なカスパーゼ-11(C254A)との用量依存的な共鳴シグナルを示した。対照的に、DCからのIL-1β放出を促進しなかったDMPCは(
図46E)、カスパーゼ-11に対して検出可能な結合を示さず、oxPAPCは、SPRではIgGに対する結合を示さなかった(
図46E)。カスパーゼ-11とoxPAPCとの間の解離定数(Kd)は、1.3×10
-6Mと計算された。こうしたSPRデータは、カスパーゼ-11が、LPSに加えて、自己コード脂質(oxPAPC)と複合体を形成し、その両方に応答してIL-1β放出を促進したことを示した。
【0153】
実施例7:LPSおよびoxPAPCは、別々のドメインによりカスパーゼ-11と相互作用し、異なる活性化機序を誘導した
CD14内の同じ残基が、LPSおよびoxPAPCに結合することが必要であったため、LPS結合CARDがoxPAPCとの相互作用に必要だったか否かを調査した。予想通り(Shi et al.,2014b)、ビオチン-LPSが293T細胞で産生されたカスパーゼ-11タンパク質を捕捉する能力により評価したところ、カスパーゼ-11 CARD内の特定のリジン残基の突然変異が、LPSとの相互作用を妨げた(
図52G)。興味深いことには、これらリジン残基は、ビオチン-oxPAPCとの相互作用を妨げなかった(
図52G)。更に、そのCARD全体を欠如し、そのC末端触媒ドメインのみを含んでいた突然変異体カスパーゼ-11は、ビオチン-oxPAPCと複合体を形成する能力を保持した(
図52G)。こうした結果は、SPR分析により検証された。oxPAPCとカスパーゼ-11(ΔN59と表記する)の触媒ドメインとの相互作用のKdは、全長カスパーゼ-11との相互作用について計算されたものとほとんど同一だった(
図46E)。予想通り、LPSは、カスパーゼ-11の触媒ドメインに結合する能力を示さなかった。したがって、こうしたデータにより、CD14とは異なり、カスパーゼ-11内の別々のドメインが、LPSおよびoxPAPCとの接触を形成することが確立された。
【0154】
カスパーゼ-11との複合体形成に加えて、oxPAPCは、ゲルろ過クロマトグラフィーにより示されたように、このタンパク質の多量体化を誘導した。
図46Fに示されているように、カスパーゼ-11単量体の溶出は、15.03mLで生じたが、oxPAPCと接触させたカスパーゼ-11は、より初期の容積で溶出した。これは、タンパク質複合体のサイズの増加を示していた。カスパーゼ-11の二量体は、13.82mLで溶出すると推測され、より高次の多量体は、それ以前に溶出すると推測された。したがって、oxPAPCがカスパーゼ-11の早期溶出を誘導する能力は、oxPAPCがこのタンパク質の二量体化および/または多量体化を誘導することができることを示していた。oxPAPC誘導性カスパーゼ-11多量体化の程度は、LPSに応答した同じ活性で報告されたもの未満であった(Shi,J.,et al.,(2014b)Nature)。
【0155】
LPS誘導性多量体化は、カスパーゼ-11の固有プロテアーゼ活性を促進することが以前に示されている(Shi,J.,et al.,(2014b)Nature)。LPSおよびoxPAPCは、異なるドメインとの相互作用によりカスパーゼ-11を多量化するため、これら脂質の各々に応答したカスパーゼ-11酵素活性を調査した。
図52Hに示されているように、カスパーゼ-11単量体の固有酵素活性は低かったが、LPSまたはoxPAPCと接触すると増加し、LPSは、更によりロバストな活性化因子であることが特定された。
【0156】
理論により束縛されることは望まないが、カスパーゼ-11酵素活性を活性化するoxPAPCの能力が最小限であったことには、2つの説明が可能だった。第1の可能性は、カスパーゼ-11に対するoxPAPCの親和性、およびoxPAPCがカスパーゼ-11を多量体化する能力は、LPSよりも弱かったため、生じたカスパーゼ-11活性化が最小限であることであった。この点で、oxPAPCは、LPSの低能力型であるに過ぎないことになる。しかしながら、oxPAPCおよびLPSがカスパーゼ-11と結合する機序が異なることは、これら脂質が、根本的に異なる様式でカスパーゼ-11と結合し、oxPAPCと触媒ドメインとの相互作用が、酵素活性を妨害する(活性化するのではなく)ように設計されている可能性が高いことを示していた。既存のカスパーゼ-11多量体の固有酵素活性は高かった(
図52H)。この活性は、LPSと接触すると更に増加したが、注目すべきことに、この活性は、oxPAPCと接触すると減少した(
図52H)。更に、LPSがカスパーゼ-11の酵素活性を増強する能力は、用量依存的な様式でoxPAPCにより阻止された(
図52I)。こうしたデータは、2つの別々な生化学的相互作用が、カスパーゼ-11と炎症促進性脂質との間で生じたという考えを支持した。LPSは、カスパーゼ-11のCARDと結合すると、強力な多量体化および酵素活性を誘導した。対照的に、oxPAPCは、カスパーゼ-11の触媒ドメインと結合し、それにより多量体化は促進されたが、酵素活性は制限された。こうした2つの異なる相互作用機序にも関わらず、LPSおよびoxPAPCは両方とも、DCにおいてインフラマソームを構築し、両方とも、IL-1β放出を促進した。
【0157】
これらの知見は、カスパーゼ-11の触媒活性が、oxPAPCによるIL-1β放出の誘導に必要だったのか否かという疑問を提起した。この疑問に取り組むために、カスパーゼ-11欠損DCを、WTカスパーゼ-11発現ベクター、または触媒性突然変異体(C254A)カスパーゼ-11発現ベクター、または空ベクター(対照として)で再構成した。WTカスパーゼ-11を発現する細胞は、LPSまたはoxPAPCのいずれかに応答してIL-1βを放出する能力を回復したが、突然変異体カスパーゼ-11を発現する細胞は、LPSに応答してIL-1βを放出しなかった(
図46G)。興味深いことには、突然変異体で再構成されたDCは、WTカスパーゼ-11を発現する細胞と同程度に、oxPAPCに応答してIL-1βを産生した(
図46G)。TNFα放出を対照として使用した(データ非表示)。こうしたデータにより、LPSに応答したIL-1β放出に関するカスパーゼ-11活性の必要性が、oxPAPCとは異なることが確立された。
【0158】
また、ピロトーシスを誘導する突然変異体およびWTカスパーゼ-11の能力、非標準インフラマソームにより制御される別の機能を評価した。カスパーゼ-11の酵素活性は、形質移入LPSがピロトーシスを誘導するために必要だった(
図46G)。これにより、細胞が正しく再構成されたことが確認された。驚くべきことに、oxPAPCに応答した細胞死は測定されなかった(
図46G)。したがって、こうしたデータは、カスパーゼ-11媒介性IL-1β放出に2つの機序があり、LPSに対する応答に必要なものは触媒活性のみであることを支持した。
【0159】
実施例8:CD14は、oxPAPCを捕捉し、それをカスパーゼ-11に送達し、IL-1β放出を促進する
上記の研究は、oxPAPCが、以下の2つの活性を有していたことを示した:1)oxPAPCは、CD14エンドサイトーシスを促進した;および2)oxPAPCは、カスパーゼ-11依存性非標準インフラマソーム活性化を促進した。これら活性間の関係性を決定するために、oxPAPC誘導性IL-1β放出のためのCD14の必要性を調査した。細胞を、LPSで3時間予備刺激した。これは、新たに合成されたCD14を有する原形質膜の再増殖を可能にするのに十分であった(Tan,Y.et al.,(2015).Immunity 43,909-922)。細胞を、ATPまたはoxPAPCのいずれかで刺激した。興味深いことには、CD14 KO DCは、LPS/oxPAPCまたはPam3CSK/oxPAPC処理に応答してIL-1βを放出しなかったため、oxPAPC誘導性IL-1β放出にはCD14が必要だった(
図47A)。インフラマソームの作用により放出される別のサイトカインであるIL-18の分泌は、同様のパターンに従っていた(
図53A)。WT、CD14、またはカスパーゼ-11 KOマウスの脾臓から最初に単離した刺激DCを調査したところ、同様の結果が得られた。これら細胞は、LPS/oxPAPCに応答して、CD14およびカスパーゼ-11依存性IL-1β放出を示したが、TNFα分泌、ならびにMHC-IIおよび共刺激分子の上方制御は、CD14またはカスパーゼ-11欠損による影響を受けなかった(
図47Bおよび
図53B)。また、LPS/ATP処理に対する脾臓DCの応答は全て、CD14またはカスパーゼ-11欠損による影響を受けなかった(
図47B)。
【0160】
理論により束縛されることは望まないが、IL-1β放出にはCD14が必要であることは、予備刺激段階(つまり、TLRシグナル伝達)での欠損によるものではなかったことを示唆する根拠は2つあった。第1には、IL-1β転写物の分析およびTNFαの分泌により評価したところ、使用したLPSの用量(1μg/ml)では、TLR4誘導性サイトカインを発現するためのCD14の必要性が迂回された(
図47A~
図47C)。第2には、Pam3CSKで予備刺激したDCは、Pam3CSKがCD14ではなくTLR2を介して細胞を予備刺激する場合でも、oxPAPC誘導性IL-1β放出のためにはCD14も必要であった(
図47Aおよび
図47C)。
【0161】
他の実験設定では、I型IFNは、カスパーゼ-11発現および/またはカスパーゼ-11活性化を促進した(Broz,P.et al.,(2012).Nature 490,288-291;Case,C.L.et al.,(2013).Proc Natl Acad Sci USA 110,1851-1856;Rathinam,V.A.et al.,(2012)Cell 150,606-619)。CD14が、viperin発現に必要であることより観察されたように、LPS処理に応答してIFN発現を促進したため、I型IFNの役割を調査した(
図47C)。Pam3CSK/oxPAPCで処理したDCは、viperin発現の欠如により示されたように(
図47C)、機能性I型IFNの発現を誘導せずにIL-1βを分泌した(
図47A)。こうしたデータは、oxPAPC刺激に応答したIL-1β分泌の制御には、I型IFNが必要ではないことを示した。加えて、CD14 KO細胞でのIL-1β分泌の欠損は、組換えIFNβとの接触では救済することができなかった(
図47D)。したがって、IFN発現は、oxPAPCによる、DCのカスパーゼ-11依存性インフラマソーム活性化には必要でも十分でもなかった。更に、カスパーゼ-1、カスパーゼ-11、NLRP3、およびASCは全て、刺激および未刺激のWT DCおよびCD14 KO DCでの発現レベルが同等であった(
図53C)。これにより、CD14は、インフラマソーム制御因子の発現には必要ではなかったことが示唆された。合わせて考えると、こうしたデータは、oxPAPC媒介性IL-1β放出にCD14が必要であることは、細胞予備刺激が必要であることによるものではなかったことを示していた。したがって、CD14は、インフラマソーム媒介性IL-1β放出の促進に直接的な役割を発揮することができた。
【0162】
CD14がインフラマソーム活性化を促進した手段を決定するために、このLPS受容体のエンドサイトーシス促進活性を評価した。CD14は、oxPAPCエンドサイトーシスを促進し、CD14は、oxPAPCを細胞内へと輸送して、IL-1β放出を促進した。これは、oxPAPCを代替手段により細胞内へと送達することにより、CD14の必要性を迂回させた。形質移入試薬DOTAPは、炎症促進性刺激をエンドソームおよびサイトゾルに直接送達するための有用なツールであることが、以前に証明されている(Honda,K.,et al.,(2005)Nature 434,1035-1040)。したがって、WTおよびCD14 KO DCをPam3CSKで予備刺激し、その後、LPSまたはoxPAPCのいずれかとの複合体でDOTAPに接触させた。過去の結果と一致して、LPSは、細胞外培地に投与した場合、IL-1βを誘導することができなかったが、DOTAP媒介性LPS送達は、WTおよびCD14 KO DCからのIL-1β放出を促進した(
図47E)。興味深いことには、oxPAPC処理は、同様の結果をもたらした。細胞外oxPAPCは、予備刺激したCD14 KO DCからのIL-1β放出を誘発しなかったが、DOTAPと複合体化したoxPAPCは、カスパーゼ依存的な様式で、CD14 KO細胞からのIL-1β放出を誘発した(
図47E)。こうしたデータは、代替的送達機序により、oxPAPC誘導性IL-1β放出のためのCD14の必要性を迂回することができたことを示した。したがって、インフラマソーム活性化におけるCD14の主な機能は、oxPAPCを細胞内に送達することである可能性が高かった。
【0163】
こうしたデータは、CD14が、LPSを細胞表面のTLR4に送達し、oxPAPCを、幾つかのエンドソーム中間体を介してサイトゾルのカスパーゼ-11へと送達するように機能したことを示唆した。エンドリソソームは、非常に分解性の細胞器官であるため、エンドソームへのoxPAPCの送達が、この脂質を消費し、その炎症促進性活性を制限することになることも考えられた。この考えと一致して、エンドリソソーム活性を阻止する酸性化阻害剤クロロキンによるDCの処理は、DCからのIL-1β放出をわずかにより促進した(
図53D)。
【0164】
更に、LPSは、細胞質に直接送達すると、未感作細胞からのIL-1β放出を促進したが、oxPAPCが、TLRリガンドで予備刺激した細胞からのIL-1β放出を引き起こすことを可能にしたのはDOTAPのみだった。予備刺激に対する依存性にこのような差異があることは、LPSが、TLR4により細胞を予備刺激し、カスパーゼ-11を介してIL-1β放出を活性化する能力を有していたという事実による可能性が高かった。対照的に、oxPAPCは、細胞を直接的に予備刺激する能力を有しておらず、したがってTLR刺激に依存していた。こうしたデータは、一致検出の原理が、2つのタイプのDC活性化状態を管理するように作用するという考えを強化した。第1の活性化状態は、DCがPAMPと遭遇した際に達成され、従来のタンパク質分泌による古典的TLR依存性サイトカインの放出がもたらされた。第2の、過剰活性状態は、DCがPAMPの存在下でDAMPに遭遇した場合か(つまり一致検出)、または毒性バクテリアがLPSをサイトゾルに直接送達した場合のいずれかの場合に達成された(Aachoui,Y.,et al.(2013a).Science 339,975-978;Casson,C.N.,et al.(2013).PLoS Pathog 9,e1003400;Hagar,J.A.et al.,(2013)Science 341,1250-1253)。
【0165】
実施例9:oxPAPCは、他のインフラマソーム活性化因子とは異なり、細胞を死滅させなかった
IL-β放出の促進に加えて、インフラマソーム活性化は、典型的には、細胞死の誘導と関連付けられている(Aachoui,Y.,(2013b).Current opinion in microbiology 16,319-326)。理論により束縛されることは望まないが、非標準インフラマソームによる細胞死は、少なくとも2つのタンパク質、ガスデルミン dおよびパネキシン-1を切断するはずである、カスパーゼ-11の酵素活性に依存すると考えられる(Kayagaki,N.et al.,(2015)Nature 526,666-671;Shi,J.et al.,(2015)Nature 526,660-665;Yang,D.et al.,(2015)Immunity 43,923-932)。oxPAPCは、IL-11放出を促進するためにカスパーゼ-11の触媒活性を必要としなかったため、oxPAPCは細胞を死滅させなかったのだろうと想定された。この可能性を直接的に評価するために、LPS予備刺激DCでのoxPAPC投与後またはLPS形質移入後のピロトーシス誘導を測定した。ピロトーシスは、原形質膜保全の急速な喪失が特徴であり、細胞体から細胞質タンパク質(および細胞器官)が放出されるはずである。上清でのLDH放出を使用して、ピロトーシス中の細胞集団の膜透過性を評価した。LPS/ATPで処理した細胞は、処理の4時間後からLDHを放出し始めた(
図48A)。この組み合わせは、インフラマソーム媒介性細胞死の詳細に明らかにされている活性化因子だった(Aachoui,Y.,(2013b).Current opinion in microbiology 16,319-326)。LPSで形質移入した細胞は、LPS予備刺激とは関わりなく、ATPで処理した細胞よりも後の時点で死滅した(
図48A)。興味深いことには、カスパーゼ-11を活性化した条件は全て(例えば、LPS形質移入またはoxPAPC処理)、上清中に同じ様な量のIL-11をもたらしたが(
図48B)、LPS形質移入のみが、LDH放出を引き起こした(
図48A)。こうしたデータにより、oxPAPCが、生細胞からのIL-11放出を促進したことが示された。
【0166】
こうした観察を説明するために、単一細胞アッセイを開発し、ASCを含有する凝集体の存在により明らかにされる、構築インフラマソームを含んでいた細胞の生存能を調査した。生細胞は、原形質膜が破壊された細胞のサイトゾルを標識する染色剤であるZombie染料に耐性であるはずであることが想定された。また、完全な原形質膜を有する細胞は、機能的な細胞器官を保持するはずである。対照的に、ピロトーシス細胞は、細胞器官を失ったはずであり、Zombie染料により強力に染色されるはずである。
図48Cおよび48Dに示されているように、LPS/ATPで処理した細胞は、ASCスペックを含んでいた。こうした細胞は、ミトコンドリアを喪失し、Zombie染料陽性に染色された。著しく対照的に、LPS/oxPAPCで処理した細胞は、ASCスペックを含んでいたが、機能的ミトコンドリアを保持し、Zombie染料による染色が最小限だった(
図48C~
図48D)。こうした観察は合わせて考えると、oxPAPCが、細胞を死滅させる能力を有していなかったことを示し、oxPAPCが、生細胞からのIL-1β放出を誘導したことを強く示した。更に、oxPAPCはピロトーシスを誘導しないだけでなく、この脂質は、DCの、LPSにより活性化される遅効性死経路を妨害した(Zanoni,I.et al.(2009)Nature 460,264-268)。この実験では、処理の72時間後までの集団内の個々の細胞の健康を、生存能染色剤7-AADを使用して、フローサイトメトリーにより評価した。それにより、膜が透過性になった細胞内のゲノムDNAを検出した(Paterson,A.M.et al.,(2011)J Immunol 187,1097-1105)。oxPAPCにより誘発されたものと同等量のIL-1β放出を誘導したATP(1mM)の濃度を使用すると(
図48B)、LPS/ATP処理は、処理直後にDCの生存率を減少させた(
図54A)。注目すべきことには、LPS処理は単独で、長期にわたる時点で細胞の生存率を減少させたが(
図48E~
図48F)、LPS/oxPAPC処理は、実際に細胞集団の生存率を増加させた(
図48F)。こうしたデータにより、oxPAPC処理が、LPS誘導性DCアポトーシスを妨害して、生存率を促進したことが示された。
【0167】
実施例10:oxPAPCは、T細胞媒介性適応免疫を促進した強力なアジュバント補完剤だった
カスパーゼ-11は、急性ウイルス感染の制御に寄与したが(
図52F)、oxPAPCがDC生存およびIL-1β放出を促進する二重の能力は、oxPAPCが、DC媒介性適応免疫応答も促進する可能性があることを示唆した。実際、カスパーゼ-11活性化の産物であるIL-1βは、これら細胞に制御性T細胞抑制に対する耐性を付与することを含む(Schenten,D.et al.(2014).Immunity 40,78-90)、T細胞活性化を促進する幾つかの活性を有すると特徴付けられている(Sims,J.E.,and Smith,D.E.(2010)Nat Rev Immunol 10,89-102)。oxPAPC/LPS混合物を、in vivoで強力なアジュバント活性を示す能力について調査した。
【0168】
この可能性に取り組むため、WT、カスパーゼ-11、およびカスパーゼ-1/-11 dKOマウスに、不完全フロイントアジュバント(IFA)に乳化させたLPS、オバルブミン(OVA)、および/またはoxPAPCを皮下注射した。この接種経路は、まさしく、TLRリガンドがT細胞分化を促進する能力を確立するために使用されたものである(Pasare,C.,and Medzhitov,R.(2004)Immunity 21,733-741;Schnare,M.et al.,(2001)Nat Immunol 2,947-950)。注射の40日後に、CD4+ T細胞を、流入領域リンパ節から単離し、OVAでパルスした(またはしなかった)DCとex vivoで接触させた。その後、T細胞活性化は、ELISAによりIL-2、IL-17、およびIFNγの含有量を測定することにより評価した。DCのみ(OVA無し)で実施した再刺激は、IL-2、IL-17、またはIFNγを誘発せず、サイトカインが、抗原特異的T細胞応答に起因する再刺激中に放出されたことが示された(
図48Gおよび
図54B)。
【0169】
興味深いことには、LPS/oxPAPC混合物で免疫したマウスから単離したT細胞は、LPSで免疫したマウスから単離したT細胞よりも、かなり高いレベルのIFNγ放出およびIL-17放出をもたらした(
図48Gおよび
図54B)。oxPAPCがT細胞活性化を増強する能力は、カスパーゼ-11またはカスパーゼ-1/-11 dKOマウスでは失われた(
図48Gおよび
図54B)。この観察は、本明細書で示した全てのin vitroデータと一致した。免疫処置の7日後に、つまりT細胞活性化のエフェクター相中にT細胞活性化を測定したところ同様の結果が得られた(
図54C)。したがって、oxPAPCは、カスパーゼ-11依存的な様式で、LPS媒介性T細胞活性化を強化する能力を有していた。
【0170】
均等物
当業者であれば、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態には多数の均等物あることを、単なる日常的な実験作業を使用して、認識するかまたは確認することができるだろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲により包含されることが意図されている。