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特許7410859金属張積層板、プリント配線板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】金属張積層板、プリント配線板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20231227BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20231227BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H05K1/03 630H
H05K1/03 610S
H05K1/03 610H
H05K1/09 A
B32B15/08 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020534702
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2019029986
(87)【国際公開番号】W WO2020027189
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018144417
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉原 秀輔
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082200(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141255(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/119467(WO,A1)
【文献】特開2003-231828(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061736(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
H05K 1/03
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、
前記樹脂組成物は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下の樹脂(A)と、
体積平均粒子径が10nm~350nmであるコアシェルポリマー粒子(B)と、
を含有し、
前記コアシェルポリマー粒子(B)のシェル層は、エポキシ基を有するものであり、
前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下であり、
前記コアシェルポリマー粒子(B)のコア層が、ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体50重量%以上100重量%以下、および、他の共重合可能なビニル単量体0%以上50重量%以下を重合させてなるゴム弾性体からなる金属張積層板。
【請求項2】
前記他の共重合可能なビニル単量体が、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、および、マレイミド誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記コアシェルポリマー粒子(B)100重量%のうち、30重量%以上がスチレン単位から構成される、請求項1または2に記載の金属張積層板。
【請求項4】
前記樹脂(A)は、架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルを有するものである、請求項1~3の何れか1項に記載の金属張積層板。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテルが炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテルである、請求項4に記載の金属張積層板。
【請求項6】
樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、
前記絶縁層は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下であり、
前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)は2.0μm以下であり、
前記金属張積層板は、JIS C6481に準拠して測定された90°金属箔ピール強度が0.43N/mm以上であり、かつ、ISO15024に準拠して測定された層間破壊靭性(Gc)が0.38kJ/m以上であり、
前記樹脂組成物は、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)を含有する、金属張積層板。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の金属張積層板を用いて製造される、プリント配線板。
【請求項8】
メチルエチルケトンを含む溶剤に、体積平均粒子径が10nm~350nmであるコアシェルポリマー粒子(B)を分散させたマスターバッチを調製する工程と、
前記マスターバッチと樹脂(A)とを、メチルエチルケトンを含む溶剤に溶解混合または分散させて樹脂ワニスを調製する工程と、
前記樹脂ワニスをガラスクロスに含浸させてプリプレグを調製する工程と、
前記プリプレグに金属箔を積層する工程と、
を含み、
前記コアシェルポリマー粒子(B)のシェル層は、エポキシ基を有するものであり、
前記金属箔における前記プリプレグと接する境界面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下であり、
前記コアシェルポリマー粒子(B)のコア層が、ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体50重量%以上100重量%以下、および、他の共重合可能なビニル単量体0%以上50重量%以下を重合させてなるゴム弾性体からなる、金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属張積層板、これを用いたプリント配線板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられるプリント配線板の基板材料としては、エポキシ樹脂を用いるものが一般的である(例えば、特許文献1)。近年、電気機器は信号の大容量化が進展しているため、半導体基板などには、高速通信に必要とされる低誘電率や低誘電正接といった誘電特性が求められているが、エポキシ樹脂を用いた基板では誘電特性が不十分であった。
【0003】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接等の誘電特性が優れ、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても誘電特性が優れていることが知られている。そのため、近年、高周波数帯を利用する電子機器に備えられるプリント配線板の基材を構成するための基板材料としてPPEを用いる検討が進められている。
【0004】
例えば、特許文献2には、主鎖の末端に存在するヒドロキシル基がエチレン性不飽和化合物で変性されたポリフェニレンエーテル(A)と、トリアリルイソシアヌレートおよびトリアリルシアヌレートから選択される少なくとも1種(B)と、ベンゼン環を含まない有機過酸化物(C)とを含有した樹脂組成物であり、成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量((A)+(B)+(C))を100質量%としたときに、成分(C)が0.1~7質量%の割合で含まれる樹脂組成物から製造される金属張積層板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-035843号公報
【文献】WO2016/132929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のPPEを用いたプリント配線板は、誘電特性は優れるが、基板と金属箔との密着性の点で、改善の余地があった。
【0007】
本発明の一実施形態は、基板と金属箔との密着性に優れ、かつ、誘電特性および耐熱性も良好である金属張積層板、これを用いたプリント配線板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討した結果、誘電正接(Df)が特定の範囲内の樹脂と特定の体積平均粒子径のコアシェルポリマー粒子とを含む樹脂組成物を基板材料として含む絶縁層を基板として備えることにより、金属箔の表面粗度が大きくない場合でも、基板と金属箔との密着性が優れる金属張積層板となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明の一実施形態に係る金属張積層板は、樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、前記樹脂組成物は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下の樹脂(A)と、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)と、を含有し、前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である。
【0010】
また、本発明の別の一実施形態に係る金属張積層板は、樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、前記絶縁層は、誘電正接(Df)が0.0100以下であり、前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)は2.0μm以下であり、前記金属張積層板は、JIS C6481に準拠して測定された90°金属箔ピール強度が0.43N/mm以上であり、かつ、ISO15024に準拠して測定された層間破壊靭性(Gc)が0.26kJ/m以上である。
【0011】
また、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造方法は、メチルエチルケトンを含む溶剤に、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)を分散させたマスターバッチを調製する工程と、前記マスターバッチと樹脂(A)とを、メチルエチルケトンを含む溶剤に溶解混合または分散させて樹脂ワニスを調製する工程と、前記樹脂ワニスをガラスクロスに含浸させてプリプレグを調製する工程と、前記プリプレグに金属箔を積層する工程と、を含み、前記金属箔における前記プリプレグと接する境界面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、基板と金属箔との密着性に優れ、かつ、誘電特性および耐熱性も良好である金属張積層板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0014】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
金属張積層板に求められる誘電特性を達成するために、ポリフェニレンエーテルなどの誘電正接が低い樹脂を金属張積層板の基板材料として用いる方法が検討されていた(特許文献2)。本発明者らは、特許文献2に記載の技術には、以下のような技術的課題があることを独自に見出した。すなわち、誘電正接が低い樹脂を用いて製造された基板は、エポキシ樹脂などの誘電正接が高い樹脂を用いて製造された基板と比較して、金属箔との密着性に劣るものであった。そのため、特許文献2に記載の技術には、基板と金属箔との密着性の点で、改善の余地があった。また、特許文献2には樹脂組成物中にブタジエン―スチレン共重合体を含むことが開示されているが、このような液状樹脂を使用する場合、ポリフェニレンエーテルと混合して硬化させた際の相分離構造が、両樹脂の配合比率や硬化条件等で複雑に変化する。そのため、作成される金属張積層板は、基材と金属箔との密着性に劣る、および誘電特性が局所的に変化するなど物性が安定しないという課題があった。
【0015】
ここで、基板と金属箔との密着性は、金属箔の基板と接する表面の表面粗さ(Rz)を大きくすることによって、高めることができる。しかしながら、金属箔の表面粗さ(Rz)を大きくすると、得られる金属張積層板において、伝送損失が大きくなることが知られており、金属箔の表面のRzは可能な限り小さく、具体的には表面の十点平均粗さ(Rz)を2μm以下にすることが望まれている。従来技術では、金属箔の表面粗さが2μm以下である金属箔を用いた場合、基材と金属箔との密着性を十分に確保することは困難であった。従って、基板と金属箔との密着性を高めるために、基板、特に基板に含まれる樹脂組成物を改良する必要があった。
【0016】
本発明者らは前記課題を解決するために、鋭意検討した結果、驚くべきことに、誘電正接(Df)が特定の範囲内の樹脂と特定の体積平均粒子径のコアシェルポリマー粒子とを含む樹脂組成物を用いることにより、基板と金属箔との密着性に優れる基板(本発明の一実施形態における絶縁層)を得ることができることを初めて見出した。さらに検討したところ、樹脂組成物に含有させるコアシェルポリマー粒子の粒径が所定の範囲内であることが好ましいことが分かった。これは、金属箔の表面にあるわずかな凹凸に、樹脂組成物中の樹脂と共にコアシェルポリマー粒子が十分に充填される必要があるためと考えられる。以上のようにして、本発明者らは、本発明を完成させるに至った。
【0017】
一方、上述した特許文献2で使用されたシリコーン系重合体はその平均粒子径が約5μmと大きく、該シリコーン系重合体による、低粗度の銅箔との密着性の改善効果は小さいと考えられる。
【0018】
〔2.金属張積層板〕
本発明の一実施形態に係る金属張積層板は、樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、前記樹脂組成物は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下の樹脂(A)と、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)と、を含有し、前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である。
【0019】
本発明の一実施形態に係る金属張積層板は、前記構成を有するため、誘電特性および耐熱性に優れるとともに、基板と金属箔との密着性に優れるものである。なお、「基板」は、本発明の一実施形態における絶縁層を指す。また、金属張積層板は、基板(絶縁層)の誘電正接が低いほど、および/または、金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)が小さいほど、誘電特性に優れるものである。
【0020】
本明細書中では、「本発明の一実施形態に係る金属張積層板」を、単に「本金属張積層板」と称する場合もある。すなわち、用語「本金属張積層板」は、本発明における金属張積層板の一実施形態を意図する。
【0021】
(2-1.絶縁層)
(2-1-1.樹脂組成物)
絶縁層は、樹脂組成物および繊維質基材を含む。絶縁層が含んでいる樹脂組成物に含まれ得る成分について、以下に説明する。
【0022】
(樹脂(A))
樹脂(A)は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下である限り、特に限定されない。樹脂(A)としては、例えば、ベンゾキサジン、シアネート樹脂、ポリイミド(PI)、ビスマレイミド(BMI)、ジビニルベンゼンなどの多官能スチレン化合物、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、液状結晶ポリマー(LCP)、ハイドロカーボン樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル(変性ポリフェニレンオキシドとも称する。)(PPO)、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリ(エーテルスルフォン)(PES)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。
【0023】
樹脂(A)は、特に低誘電正接であり、熱硬化性であることから、シアネート樹脂、BMI、多官能スチレン化合物、ハイドロカーボン樹脂、ポリフェニレンエーテルおよび変性ポリフェニレンエーテルが好ましく、ポリフェニレンエーテルおよび変性ポリフェニレンエーテルがより好ましく、変性ポリフェニレンエーテルがさらに好ましい。ポリフェニレンエーテルの誘電正接は、約0.002であることが知られている。
【0024】
樹脂(A)としては、上述した各樹脂および共重合体などからなる群から選択される1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。樹脂(A)としては、例えば、(a)ポリフェニレンエーテルおよびハイドロカーボン樹脂の混合物、並びに(b)シアネート樹脂およびビスマレイミドの混合物、なども好適に挙げられる。
【0025】
ハイドロカーボン樹脂は、重量減少温度が高いため好ましい。ハイドロカーボン樹脂は、高温時に分解しにくいため好ましい。ハイドロカーボン樹脂は、熱安定性に優れる樹脂ともいえる。
【0026】
シアネート樹脂およびビスマレイミドの混合物に多量のシリカを配合した場合であっても、得られる樹脂組成物は低粘度であり、取り扱いが容易である。シリカは誘電正接が低いため、シリカを多量に含む樹脂組成物を含む絶縁層は、誘電正接が低いという利点を有する。すなわち、樹脂(A)としてシアネート樹脂およびビスマレイミドの混合物を用いる場合、樹脂組成物がさらに多量のシリカを含むことにより、誘電正接が低い絶縁層が得られる。
【0027】
本金属張積層板では、樹脂(A)は、架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルを有するものであることが好ましい。樹脂(A)は、架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルであることがより好ましい。前記構成によると、得られる金属張積層板がより優れた誘電特性を有する。
【0028】
架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルとしては、例えば、(a)2官能フェノールおよび3官能フェノールの少なくともいずれか一方と2,6-ジメチルフェノールとからなるポリアリーレンエーテル共重合体、および(b)ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの、等が挙げられる。架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルは、より具体的には、例えば、式1に示す構造を有するポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0029】
【化1】
式1中、sおよびtは、それぞれ独立して、0以上の整数である。例えば、sとtとの合計値が、1~30であることが好ましい。また、sが、0~20であることが好ましく、tが、0~20であることが好ましい。すなわち、sは、0~20を示し、tは、0~20を示し、sとtとの合計は、1~30を示すことが好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態では、樹脂(A)が炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル(以下、単に「変性ポリフェニレンエーテル」とも称する。)であることが好ましい。前記構成によると、得られる金属張積層板がより誘電特性に優れたもとなる。
【0031】
本発明の一実施形態では、樹脂(A)は、架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルを有するものであり、当該ポリフェニレンエーテルが炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテルであることがより好ましい。前記構成によると、得られる金属張積層板がさらに誘電特性に優れたもとなる。
【0032】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定はされないが、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、および下記式2で示される置換基が挙げられる。
【0033】
【化2】
式2中、nは0~10の整数を示す。式2中、Zは、(a)nが1~10の何れかである場合にはアリーレン基を示し、(b)n=0の場合には、アリーレン基またはカルボニル基を示す。式2中、R~Rは独立して水素原子またはアルキル基を示す。
【0034】
ここで、前記式2においてn=0の場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合しているものを示す。
【0035】
Zのアリーレン基およびカルボニル基としては、例えば、(a)フェニレン基等の単環芳香族基、および(b)ナフタレン環等の多環芳香族基が挙げられる。なお、芳香族環に結合する水素原子がアルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、またはアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された、単環芳香族基および多環芳香族基の誘導体も含む。
【0036】
前記式2に示す官能基の好ましい具体例としては、ビニルベンジル基を含む官能基が挙げられ、具体的には例えば、下記式3または式4から選択される少なくとも1つの置換基等が挙げられる。
【化3】
【0037】
【化4】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基の他の具体例としては、例えば下記式5で示される(メタ)アクリレート基が挙げられる。
【0038】
【化5】
式5中、Rは水素原子またはアルキル基を示す。
【0039】
樹脂(A)が変性ポリフェニレンエーテルである場合について説明する。変性ポリフェニレンエーテルの合成方法は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテルを合成することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式6で示されるような化合物を用いた方法等が挙げられる。
【0040】
【化6】
式6中、n、ZおよびR~Rは前記式2と同様である。すなわち、nは0~10の整数を示す。Zは、(a)nが1~10の何れかである場合にはアリーレン基を示し、(b)n=0の場合には、アリーレン基またはカルボニル基を示す。R~Rは独立して水素原子またはアルキル基を示す。また、式6中、Xは、ハロゲン原子を示し、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、およびフッ素原子などが挙げられる。Xは、これらの中でも、塩素原子が好ましい。
【0041】
前記式6で表される化合物は、特に限定されないが、例えば、p-クロロメチルスチレンおよびm-クロロメチルスチレンが好ましい。
【0042】
前記式6で表される化合物は、前記に例示したものを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記式6の化合物を用いた、変性ポリフェニレンエーテルの合成方法について具体的に説明する。(a)ポリフェニレンエーテルの末端のフェノール性水酸基の水素原子を、ナトリウムおよび/またはカリウムなどのアルカリ金属原子で置換したポリフェニレンエーテルと、(b)前記式6で表される化合物と、を溶媒に溶解させ、これらを攪拌する。これにより、アルカリ金属原子で置換されたポリフェニレンエーテルと、前記式6で表される化合物とが反応し(以下、この反応を反応Aとも称する。)、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテルが得られる。
【0044】
前記反応Aは、アルカリ金属水酸化物の存在下で行われることが好ましい。これにより、反応Aが好適に進行すると考えられる。
【0045】
前記アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、例えば、水酸化ナトリウムは水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0046】
前記反応Aの反応時間および反応温度などの反応条件は、前記式6で表される化合物などに依存して異なる場合があり、反応Aが好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応Aの反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。反応Aの反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0047】
反応Aに用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、前記式6で表される化合物とを溶解させることができ、反応Aを阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0048】
反応Aは、アルカリ金属水酸化物に加えて、相間移動触媒がさらに存在した状態で行われることが好ましい。すなわち、前記反応Aは、アルカリ金属水酸化物および相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。これにより、反応Aがより好適に進行すると考えられる。
【0049】
前記相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0050】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂(A)として前記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテルを含むことが好ましく、これにより、優れた低誘電特性および耐熱性を有する金属張積層板を提供できる。
【0051】
樹脂(A)は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する架橋剤をさらに含むことが好ましい。換言すれば、樹脂(A)は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する架橋剤によって架橋されていることが好ましい。前記構成によると、樹脂(A)の架橋構造がしっかりしたものとなり、得られる金属張積層板が優れた耐熱性を有するものとなる。
【0052】
架橋剤は、(a)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を2個以上有しており、かつ(b)樹脂(A)に含まれる樹脂および/または共重合体の架橋剤として機能する化合物であることが好ましい。そのような化合物の具体例としては、例えば、下記式7で表される化合物であることが好ましい。
【0053】
【化7】
式7中、R~Rは、前記式2と同様であり、独立して水素原子またはアルキル基を示す。式7中、mは1~3の整数を示し、pは0または1を示し、Uは、アリーレン基、トリシクロデカン骨格、またはイソシアヌレート基のいずれかを示す。Yは、
【化8】
または、
【0054】
【化9】
[式中、Lは1以上の整数を示す。]
を示す。
【0055】
架橋剤として、より具体的には、例えば、(a)トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、(b)分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、(c)分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、並びに、(d)分子中にビニルベンジル基を有するスチレンおよびジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物、などが挙げられる。前述した化合物を用いる場合、樹脂および/または共重合体との硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、金属張積層板の耐熱性をより高めることができる。
【0056】
架橋剤は、前記に例示した化合物のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。また、炭素-炭素不飽和二重結合を1分子中に2個以上有する化合物と、炭素-炭素不飽和二重結合を1分子中に1個有する化合物とを併用してもよい。炭素-炭素不飽和二重結合を1分子中に1個有する化合物としては、具体的には、1分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)などが挙げられる。
【0057】
樹脂(A)が架橋剤を含む場合、樹脂(A)中の樹脂および/または共重合体(架橋剤以外の成分)の含有量が、樹脂(A)中の(a)樹脂および/または共重合体と(b)架橋剤との合計100重量部に対して、50~99重量部であることが好ましく、65~95重量部であることがより好ましく、70~90重量部であることがさらに好ましい。また、樹脂(A)中の架橋剤の含有量が、樹脂(A)中の(a)樹脂および/または共重合体と(b)架橋剤との合計100重量部に対して、1~50重量部であることが好ましく、5~35重量部であることがより好ましく、10~30重量部であることがさらに好ましい。すなわち、樹脂(A)における、(a)樹脂および/または共重合体と(b)架橋剤との含有比(樹脂および/または共重合体:架橋剤)が、重量比で99:1~50:50であることが好ましく、95:5~65:35であることがより好ましく、90:10~70:30であることがさらに好ましい。(a)樹脂および/または共重合体と(b)架橋剤との各含有量が、前記重量比を満たすような含有量であれば、得られる金属張積層板が耐熱性に優れ、絶縁層と金属箔との密着性に優れたものとなる。このことは、樹脂および/または共重合体と架橋剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
【0058】
なお、上述したポリフェニレンエーテルとしては、例えば、特開2017-128718等を好適に使用し得る。
【0059】
(コアシェルポリマー粒子(B))
コアシェルポリマー粒子(B)は、内部に存在する架橋重合体からなるコア層と、コア層の周囲又は一部を覆っている少なくとも1つのシェル層とを有する構造を有する粒子である。(a)樹脂組成物の粘度を低くし、取扱し易くする点、(b)樹脂組成物中でコアシェルポリマー粒子(B)を安定に分散させる点、および(c)コアシェルポリマー粒子(B)による高靭化効果を高める点から、コア層とシェル層との重量比率は、コア層/シェル層(各層の重合体を形成する単量体の重量比率)の値で、50/50~99/1の範囲であることが好ましく、60/40~95/5であることがより好ましく、70/30~90/10であることがさらに好ましい。高靭化効果とは、得られる金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)を向上させる効果である。樹脂組成物がコアシェルポリマー粒子(B)を含むことにより、本金属張積層板は、絶縁層と金属箔との優れた密着性を有することに加えて、優れた層間破壊靭性(Gc)を有するものとなる。
【0060】
コア層は、架橋された重合体から構成され、溶剤に対して実質的に溶解しないものであることが好ましい。よって、コア層のゲル分は好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0061】
コアシェルポリマー粒子(B)のコア層が、ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体50重量%以上100重量%以下、および、他の共重合可能なビニル単量体0%以上50重量%以下を重合させてなるゴム弾性体からなることが好ましい。また、前記他の共重合可能なビニル単量体が、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、および、マレイミド誘導体からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。前記構成によると、得られる金属張積層板が、絶縁層と金属箔との密着性に優れたものとなる。
【0062】
コアシェルポリマー粒子(B)のコア層が、ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体60重量%以上100重量%以下、および、他の共重合可能なビニル単量体0%以上40重量%以下を重合させてなるゴム弾性体からなることがより好ましく、ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体70重量%以上100重量%以下、および、他の共重合可能なビニル単量体0%以上30重量%以下を重合させてなるゴム弾性体からなることがさらに好ましい。
【0063】
「ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる単量体」を、以下「単量体a」と称する。前記他の共重合可能なビニル単量体は、単量体aと共重合可能なビニル単量体を意図する。本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0064】
前記ジエン系単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、クロロプレン等を挙げることができるが、ブタジエンが特に好ましい。前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等が挙げられるが、アクリル酸ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましい。これら単量体は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
前記1種以上の単量体aの使用量は、コア層全体の重量(100重量%)に対して好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。1種以上の単量体aの使用量が50重量%以上である場合、コアシェルポリマー粒子(B)による高靭化効果が十分に発揮される。
【0066】
前記コア層は、1種の単量体aが重合してなる単独重合体であってもよく、または2種以上の単量体a共重合体であってもよい。また、前記コア層は、(a)1種以上の単量体aと(b)単量体aと共重合可能なビニル単量体との共重合体であってもよい。前記共重合可能なビニル単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、および、マレイミド誘導体からなる群より選ばれる1種以上の単量体が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。シアン化ビニル化合物としては、例えば(メタ)アクリロニトリル、置換アクリロニトリル等が挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、(メタ)アクリルアミド酸(N-置換物を含む)等が挙げられる。マレイミド誘導体としては、マレイン酸イミド(N-置換物を含む)等が挙げられる。これら単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの共重合可能なビニル単量体の使用量は、コア層全体の重量(100重量%)に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。特に、コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接を低下させ、優れた電気特性を有する金属張積層板を得ることができる点で、コア層はスチレン-ブタジエンゴムであることが好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態において、前記コア層は単層構造であることが多いが、多層構造であってもよい。また、コア層が多層構造の場合は、各層のポリマー組成が各々相違していてもよい。
【0068】
コア層を構成する成分として架橋度を調節するために、または、コア層を被覆して樹脂(A)や溶剤によるコア層の膨潤を抑制するために、架橋性単量体を使用してもよい。架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(イソ)シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、イタコン酸ジアリル、フタル酸ジアリル等が挙げられる。架橋性単量体の使用量は、コアシェルポリマー粒子(B)100重量%中、好ましくは0.2~7重量%、より好ましくは0.5~5重量%、更に好ましくは1~3重量%である。架橋性単量体の使用量が7重量%以内である場合、コアシェルポリマー粒子(B)は十分な高靭化効果を有するものとなる。特に架橋性単量体でコア層を被覆し、中間層を形成することは、樹脂(A)や溶剤の膨潤を抑制することに効果があり、樹脂ワニスの粘度や樹脂組成物の溶融粘度の上昇を抑制するために効果がある。またコアシェルポリマー粒子(B)同士の融着の抑制にも効果があるため、樹脂組成物を製造する際に、コアシェルポリマー粒子(B)の撹拌槽槽璧等への固着を抑制するために好適である。中間層を形成するために用いる化合物としては、特に限定はないが、イソシアヌル酸トリアリル(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物が好ましい。
【0069】
また、前記コア層を構成する重合体の分子量および/または架橋度を調節するために、コア層の重合において連鎖移動剤を使用してもよい。使用可能な連鎖移動剤としては、例えば、炭素数5~20のアルキルメルカプタンを例示できる。連鎖移動剤の使用量はコア層100重量%中、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。連鎖移動剤の使用量が5重量%以内である場合、コア層に含まれる未架橋成分の量が増加することなく、得られる樹脂組成物は適切な粘度を有し、取り扱いが容易となる。
【0070】
コア層は芳香族ビニル架橋体を含んでいてもよい。芳香族ビニル架橋体としては、芳香族ビニル化合物と上述した架橋性単量体との共重合体を挙げることができる。芳香族ビニル架橋体に用いられ得る芳香族ビニル化合物としては例えば、スチレン、2-ビニルナフタレン等の無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレンなどの置換ビニル芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどの環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレンなどの環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレンなどの環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレンなどの環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒトロキシスチレンなどの環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類が挙げられる。コア層が芳香族ビニル架橋体を含む場合、得られる金属張積層板は、剛性が低下することなく高靭化されるため好ましい。
【0071】
コア層は、ポリシロキサンゴム系弾性体を含んでいてもよい。ポリシロキサンゴム系弾性体としては、例えばジメチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルまたはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサンゴムを使用できる。また、前記ポリシロキサンゴム系弾性体は、必要に応じて、重合時に多官能性のアルコキシシラン化合物を一部併用するか、ビニル反応性基を持ったシラン化合物をラジカル反応させること等により、架橋構造を導入したものがより好ましい。
【0072】
コアシェルポリマー粒子(B)のシェル層は、コア層である架橋重合体に対し、グラフト共重合可能な単量体(シェル形成用単量体)をグラフト重合して形成した層である。
【0073】
用語「シェル層」は、少なくとも一部がコアシェルポリマー粒子の最も外側に存在している層であることを意図する。換言すれば、シェル層の全てがコアシェルポリマー粒子の最も外側に存在していなくてもよい。シェル層の一部が、コア層の中に入り込んでいてもよい。
【0074】
シェル層を構成する重合体の種類に特に限定はない。樹脂(A)との親和性が高い点で、シェル層を構成する重合体は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、および、マレイミド誘導体より選ばれる1種以上を重合して得られる(共)重合体が好ましい。
【0075】
特にシェル層に樹脂(A)との化学反応性を持たせるために、シェル層を構成する重合体は、(a)上述した(メタ)アクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、またはマレイミド誘導体より選ばれる1種以上と、(b)エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、および炭素-炭素二重結合からなる群より選ばれる官能基を有する1種類以上のビニル単量体と、を共重合して得られる共重合体であることがより好ましい。これらの官能基は、樹脂(A)、硬化剤、硬化触媒等との反応性を有していてもよい。その結果、硬化条件下でコアシェルポリマー粒子(B)同士が再凝集し分散状態が悪化することを効果的に抑制することができる。
【0076】
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。メタクリル酸メチルは、メチルメタクリレートともいう。芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等のアルキル置換スチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のハロゲン置換スチレン類などが挙げられる。シアン化ビニル系単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、置換(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、(メタ)アクリルアミド(N-置換物を含む)などが挙げられる。マレイミド誘導体としては、マレイン酸イミド(N-置換物を含む)などが挙げられる。反応性官能基を有する単量体としては、例えば、反応性側鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類として、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等;反応性官能基を有するビニルエーテルとして、グリシジルビニルエーテル、アリルビニルエーテル等が挙げられる。メタクリル酸グリシジルは、グリシジルメタクリレートともいう。
【0077】
コアシェルポリマー粒子(B)のシェル層は、絶縁層と金属箔との密着性が向上する点でエポキシ基を有することが好ましい。
【0078】
本発明者らは、シェル層がエポキシ基を有する場合、樹脂(A)としてエポキシ硬化系ではない樹脂を用いた場合であっても、金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)をより高めることができることを初めて見出した。この理由は明確ではないが、例えば以下のような理由が推測される。コアシェルポリマー粒子が、繊維質基材および/または他の無機充填剤とより相互作用する。これにより、コアシェルポリマー粒子は、これら素材と樹脂(A)との界面接着性の向上に大きく寄与し、その結果、金属張積層板の層間破壊靭性の向上に大きく寄与している。この層間破壊靭性の向上は、絶縁層と金属箔との密着性の向上の一因として考えられる。
【0079】
また、樹脂組成物がエポキシ基を含む場合、エポキシ基の含有量に比例して、絶縁層と金属箔との密着性は増すが、絶縁層の誘電特性は低下する。そのため、(a)絶縁層と金属箔との密着性の点からは、樹脂組成物がエポキシ基を含むことが好ましく、(b)誘電特性の点からは、樹脂組成物がエポキシ基を実質的に含まないことが好ましい。樹脂組成物に含まれるエポキシ基の量は、絶縁層と金属箔との密着性と絶縁層の誘電特性とのバランスの点から設定されることが好ましい。例えば、樹脂組成物は、少量のエポキシ基を含むことが好ましく、具体的にはコアシェルポリマー粒子(B)のシェル層がエポキシ基を有することにより、少量のエポキシ基を有することが好ましい。
【0080】
本発明の一実施形態では、コアシェルポリマー粒子(B)のシェル層を、好ましくは、芳香族ビニル系単量体(特にスチレン)0~80質量%(より好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは10~60質量%)、シアン化ビニル系単量体(特にアクリロニトリル)0~50質量%(より好ましくは1~30質量%、さらに好ましくは5~25質量%、特に好ましくは10~25質量%)、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(特にメタクリル酸メチル)0~50質量%(より好ましくは5~45質量%)、反応性官能基を有する単量体(特にメタクリル酸グリシジル)0~50質量%(より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは10~25質量%、特に好ましくは15~20質量%)を組み合わせたシェル層形成用モノマー(合計100質量%)のポリマーから構成する。
【0081】
コアシェルポリマー粒子(B)100重量%のうち、30重量%以上がスチレン単位から構成されることが好ましく、40重量%以上がスチレン単位から構成されることがより好ましく、50重量%以上がスチレン単位から構成されることがさらに好ましい。前記構成によると、コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接を低下させることができ、優れた電気特性を有する金属張積層板を得ることができる。
【0082】
本発明の一実施形態において、前記シェル層は単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。シェル層が多層構造の場合は、各層のポリマー組成が各々相違していてもよい。
【0083】
樹脂組成物中のコアシェルポリマー粒子(B)の体積平均粒子径は、10nm~400nmであり、30nm~350nmであることが好ましく、50nm~300nmであることがより好ましく、80nm~250nmであることがさらに好ましく、100nm~200nmであることが特に好ましい。前記構成によると、コアシェルポリマー粒子(B)による高靱化効果を十分に発揮でき、絶縁層と金属箔との密着性に優れる金属張積層板を提供できる。樹脂組成物中のコアシェルポリマー粒子(B)の体積平均粒子径は、例えばマイクロトラック(日機装社製、Microtrac UPA)を用いて測定することができる。金属張積層板中のコアシェルポリマー粒子(B)の体積平均粒子径は、例えば、金属積張積層板を切断し、切断面を撮像し、得られた撮像データ(撮像画像)を用いて測定することができる。
【0084】
コアシェルポリマー粒子(B)は、一次粒子の状態で樹脂組成物中に分散していることが好ましい。コアシェルポリマー粒子(B)が一次粒子の状態で分散していることは、例えば体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値が3以下であることによって確認できる。体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値は好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。前記体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値が3を超える場合、コアシェルポリマー粒子(B)が二次凝集体を形成していることを示している。なお、個数平均粒子径(Mn)も、体積平均粒子径と同様に、上述した方法により測定できる。体積平均粒子径(Mv)を個数平均粒子径(Mn)で除することによって、体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値を求めることができる。
【0085】
樹脂組成物中の分散径を容易に確保できる点で、コアシェルポリマー粒子(B)の一次粒子径は10nm~400nmであることが好ましく、30nm~350nmであることがより好ましく、50nm~300nmであることがより好ましく、80nm~250nmであることがさらに好ましく、100nm~200nmであることが特に好ましい。平均の一次粒子径は、前記の体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値が3以下であれば、体積平均粒子径の値をそのまま転用できる。
【0086】
コアシェルポリマー粒子(B)の製造方法は特に制限されず、周知の方法、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などにより製造することができる。この中でも特に、多段乳化重合による製造方法が好適である。乳化重合で使用する乳化(分散)剤としては、具体的には、ジオクチルスルホコハク酸およびドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルもしくはアリールスルホン酸、アルキルもしくはアリールエーテルスルホン酸、ドデシル硫酸などのアルキルもしくはアリール硫酸、アルキルもしくはアリールエーテル硫酸、アルキルもしくはアリール置換燐酸、アルキルもしくはアリールエーテル置換燐酸、ドデシルザルコシン酸などのN-アルキルもしくはアリールザルコシン酸、オレイン酸およびステアリン酸などのアルキルもしくはアリールカルボン酸、アルキルもしくはアリールエーテルカルボン酸、などの各種の酸類のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;アルキルもしくはアリール置換ポリエチレングリコールなどの非イオン性乳化剤または分散剤;ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などの分散剤が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよく、または2種類以上を適宜組み合わせて使用できる。
【0087】
乳化剤は、重合安定性の観点から、好ましくはアニオン性乳化剤であり、より好ましくはアルカリ金属塩のアニオン性乳化剤、さらに好ましくはナトリウム塩および/またはカリウム塩のアニオン性乳化剤である。
【0088】
これら乳化(分散)剤は、本発明の好ましい一実施形態の趣旨から言えば、コアシェルポリマー粒子を含む水性溶媒分散液の作製過程において分散安定性に支障を来さない範囲でできる限り少量を使用してもよい。あるいは、樹脂組成物を作製する過程において、樹脂組成物が使用される用途の物性に影響を及ぼさない程度の残存量まで抽出除去されてもよい。この為、乳化(分散)剤は、水溶性を有していることがより好ましい。
【0089】
樹脂組成物におけるコアシェルポリマー粒子(B)の含有量は、樹脂(A)100重量部に対して、1重量部~30重量部であることが好ましく、2重量部~20重量部であることがより好ましく、3重量部~15重量部であることがさらに好ましく、5重量部~12重量部であることが特に好ましい。前記構成によると、得られる金属張積層板が、(a)絶縁層と金属箔との優れた密着性と(b)低誘電正接となることによる優れた誘電特性とを両立できる、という利点を有する。
【0090】
コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接は、0.1000以下であることが好ましく、0.0300以下であることがより好ましく、0.0150であることがさらに好ましく、0.0100以下であることが特に好ましい。前記構成によると、得られる金属張積層板は誘電正接が低いものとなり、誘電特性(電気特性)に優れるものとなる。コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接は、空洞共振機装置などを使用して測定することが可能であり、具体的な測定方法は、後述する実施例に記載する。
【0091】
(その他の成分)
樹脂組成物は、架橋剤を含まない樹脂(A)およびコアシェルポリマー粒子(B)からなるものであってもよいし、架橋剤を含む樹脂(A)およびコアシェルポリマー粒子(B)からなるものであってもよい。樹脂組成物は、樹脂(A)およびコアシェルポリマー粒子(B)に加えて、その他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、無機充填剤、難燃剤、および添加剤などが挙げられる。
【0092】
樹脂組成物は、さらに無機充填剤(D)を含有していることが好ましい。
【0093】
本発明の一実施形態において使用できる無機充填剤(D)としては、特に限定されるものではない。無機充填剤(D)は、例えば、球状シリカ、硫酸バリウム、酸化ケイ素粉、破砕シリカ、焼成タルク、チタン酸バリウム、酸化チタン、クレー、アルミナ、マイカ、ベーマイト、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、その他の金属酸化物および金属水和物などが挙げられる。樹脂組成物が無機充填剤(D)を含んでいる場合、得られる金属張積層板において、熱膨張を抑制でき、寸法安定性を高めることができる。
【0094】
無機充填剤(D)としては、得られる金属張積層板の耐熱性および誘電正接を優れたものにすることができるため、シリカを用いることが好ましい。シリカは誘電正接が低い。
【0095】
樹脂組成物が無機充填剤(D)を含有する場合、樹脂組成物における無機充填剤(D)の含有量は、樹脂(A)およびコアシェルポリマー粒子(B)の合計含有量を100重量部として、40~200重量部であることが好ましい。無機充填剤(D)の含有量が前記のように200重量部以内である場合、絶縁層作製時の繊維質基材への樹脂ワニスの含浸性の低下、および絶縁層と金属箔との密着性の低下の恐れがない。
【0096】
樹脂組成物は、樹脂(A)およびコアシェルポリマー粒子(B)の他に、上述した無機充填剤(D)を含んでいてもよく、さらにその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、およびアクリル酸エステル系消泡剤などの消泡剤、難燃剤、熱安定剤、帯電防止剤、相乗剤、紫外線吸収剤、染料および顔料、滑剤、並びに湿潤分散剤などの分散剤、などが挙げられる。
【0097】
(2-1-2.繊維質基材)
繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、およびリンター紙などが挙げられる。繊維質基材としては、機械強度が優れた金属張積層板が得られるため、ガラスクロスが好ましく、偏平処理加工したガラスクロスがより好ましい。ガラスクロスの偏平処理加工としては、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧して、ヤーンを偏平に圧縮することにより行うことができる。なお、繊維質基材の厚みとしては、例えば、0.04~0.3mmのものを一般的に使用できる。
【0098】
(2-1-3.絶縁層の誘電正接)
絶縁層の誘電正接は、10GHzの条件下にて、0.0100以下であることが好ましく、0.0080以下であることがより好ましく、0.0060以下であることがさらに好ましく、0.0040以下であることが特に好ましい。絶縁層の誘電正接の下限は特に限定されないが、例えば、0.0000より大きいものである。絶縁層の誘電正接が前記範囲内である場合、金属張積層板は電気特性に優れるものとなる。絶縁層の誘電正接は、コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接と同様の方法にて測定できる。また、金属張積層板に積層された絶縁層については、金属張積層板から金属箔を取り除いた後、得られた絶縁層を用いて、コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接と同様の方法にて、絶縁層の誘電正接を測定できる。金属張積層板から金属箔を取り除く方法としては特に限定されず、例えば、金属張積層板の金属をエッチング液にて溶解する方法などが挙げられる。
【0099】
(2-2.金属箔)
本金属張積層板が備える金属箔としては、特に限定されず、銅箔、銀箔、金箔などが挙げられる。これらの中でも、コストおよび導電性の観点から、銅箔が好ましい。
【0100】
金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)は、2.0μm以下であり、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下である。前記構成によると、得られる金属張積層板は優れた誘電特性を有する。金属箔の表面の十点平均粗さは、例えば、JISB 0601に準拠した方法、および走査型電子顕微鏡観察を用いた方法などによって、測定できる。また、金属張積層板に積層された金属箔については、金属張積層板から金属箔を剥がした後、剥がした金属箔を用いて上述した方法にて表面の十点平均粗さを測定できる。
【0101】
(2-3.金属張積層板の物性)
(ガラス転移温度(Tg))
金属張積層板の耐熱性は、金属張積層板のガラス転移温度(Tg)にて評価できる。金属張積層板のガラス転移温度(Tg)が高いほど、金属張積層板は耐熱性に優れていることを示す。金属張積層板のガラス転移温度(Tg)は、170℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。金属張積層板のガラス転移温度(Tg)の上限は特に限定されないが、例えば、400℃以下である。金属張積層板のガラス転移温度(Tg)が前記範囲内である場合、金属張積層板は耐熱性に優れるものとなる。「金属張積層板のガラス転移温度(Tg)」は、絶縁層と金属箔とを有する金属張積層板を用いて、熱機械分析装置(TMA)などを使用して測定して得ることが可能であり、具体的な測定方法は、後述する実施例に記載する。なお、金属張積層板を用いて、熱機械分析装置(TMA)などを使用して測定して得られるガラス転移温度(Tg)は、絶縁層に由来するTgである。それ故に、絶縁層を用いて、熱機械分析装置(TMA)などを使用して測定して得られるガラス転移温度(Tg)もまた、当該絶縁層を有する金属張積層板のガラス転移温度(Tg)といえる。
【0102】
(90°金属箔ピール強度)
金属張積層板における、絶縁層と金属箔との密着性は、90°金属箔ピール強度(N/mm)にて評価できる。金属張積層板の90°金属箔ピール強度が大きいほど、金属張積層板は絶縁層と金属箔との密着性に優れていることを示す。金属張積層板の90°金属箔ピール強度は、0.42N/mm超であることが好ましく、0.43N/mm以上であることがより好ましく、0.45N/mm以上であることがより好ましく、0.50N/mm以上であることがさらに好ましく、0.55N/mm以上であることが特に好ましい。金属張積層板の90°金属箔ピール強度の上限は特に限定されないが、例えば、2N/mm以下である。金属張積層板の90°金属箔ピール強度が前記範囲内である場合、金属張積層板は絶縁層と金属箔との密着性に優れたものとなる。本明細書において、金属張積層板の90°金属箔ピール強度は、JIS C6481に準拠した方法によって測定して得られた値とする。具体的な測定方法は、後述する実施例に記載する。
【0103】
(層間破壊靭性(Gc))
金属張積層板における、絶縁層と金属箔との密着性には、層間破壊靭性(Gc)(kJ/m)も影響する。金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)が大きいほど、金属張積層板は絶縁層と金属箔との密着性に優れる傾向にある。金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)は、0.25kJ/m超であることが好ましく、0.26kJ/m以上であることがより好ましく、0.28kJ/m以上であることがより好ましく、0.30kJ/m以上であることがより好ましく、0.32kJ/m以上であることがより好ましく、0.34kJ/m以上であることがより好ましく、0.36kJ/m以上であることがより好ましく、0.38kJ/m以上であることがより好ましく、0.40kJ/m以上であることがより好ましく、0.42kJ/m以上であることがさらに好ましく、0.44kJ/m以上であることが特に好ましい。金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)の上限は特に限定されないが、例えば、1.00kJ/m以下である。金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)が前記範囲内である場合、金属張積層板は絶縁層と金属箔との密着性により優れたものとなる。本明細書において、金属張積層板の層間破壊靭性(Gc)は、ISO15024に準拠した方法によって測定して得られた値とする。具体的な測定方法は、後述する実施例に記載する。
【0104】
本発明の一実施形態に係る金属張積層板は、以下のような構成であってもよい。すなわち、本発明の別の一実施形態に係る金属張積層板は、樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、前記絶縁層は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下であり、前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)は2.0μm以下であり、前記金属張積層板は、JIS C6481に準拠して測定された90°金属箔ピール強度が0.43N/mm以上であり、かつ、ISO15024に準拠して測定された層間破壊靭性(Gc)が0.26kJ/m以上である。本発明の別の一実施形態に係る金属張積層板は、このような構成を有するため、誘電特性および耐熱性に優れるとともに、基板と金属箔との密着性に優れるものである。
【0105】
本発明の別の一実施形態に係る金属張積層板に関する各態様は、既に説明した記載を適宜援用できる。
【0106】
〔3.金属張積層板の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造方法は、メチルエチルケトンを含む溶剤に、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)を分散させたマスターバッチを調製する工程と、前記マスターバッチと樹脂(A)とを、メチルエチルケトンを含む溶剤に溶解混合または分散させて樹脂ワニスを調製する工程と、前記樹脂ワニスをガラスクロスに含浸させてプリプレグを調製する工程と、前記プリプレグに金属箔を積層する工程と、を含み、前記金属箔における前記プリプレグと接する境界面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である。
【0107】
本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造方法は、前記構成を有するため、誘電特性および耐熱性に優れるとともに、絶縁層(基板)と金属箔との密着性に優れる金属張積層板を提供できる。
【0108】
本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造方法は、〔2.金属張積層板〕の項で説明した金属張積層板を製造するために好適に用いられ得る。それ故に、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造方法における、樹脂(A)、コアシェルポリマー粒子(B)、繊維質基材および金属箔、並びに無機充填剤(D)および難燃剤などの説明としては、〔2.金属張積層板〕の項に記載の説明を適宜援用できる。
【0109】
(マスターバッチを調製する工程)
コアシェルポリマー粒子(B)は、上述のように周知の方法によって製造され、最終的には、水性溶剤中に分散した状態、すなわちコアシェルポリマー粒子(B)を含む水性溶剤分散液(水性ラテックスとも称する。)として得られる。そのため、マスターバッチを調製する工程は、コアシェルポリマー粒子(B)を含む分散液の溶剤を水性溶剤からメチルエチルケトンを含む溶剤に置換する工程ともいえる。コアシェルポリマー粒子(B)は、多段乳化重合によって製造され、水性ラテックスとして得られることが好ましい。
【0110】
メチルエチルケトンを含む溶剤(以下単に溶剤とも称する。)は、メチルエチルケトン以外の溶剤を含んでいてもよい。溶剤が含み得る、メチルエチルケトン以外の溶剤としては、(a)水、(b)トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、(c)酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、(d)アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、並びに(e)ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、およびN-メチル-2-ピロリドン、などの溶剤が挙げられる。
【0111】
マスターバッチを調製する工程の一実施形態を具体的に説明する。マスターバッチを調製する工程は、順に、コアシェルポリマー粒子(B)を含む水性溶剤分散液(好ましくは、乳化重合により得られた水性ラテックス)からコアシェルポリマー粒子緩凝集体を得る第1工程、前記コアシェルポリマー粒子緩凝集体から、前記コアシェルポリマー粒子(B)と溶剤を含む粒子分散液を得る第2工程、前記粒子分散液から溶剤および/または水を蒸発させる第3工程を含むものであってもよい。
【0112】
第1工程、第2工程および第3工程をより具体的に説明する。
【0113】
第1工程は、前記コアシェルポリマー粒子(B)を含む水性溶剤分散液を、溶剤と混合した後、さらに水と混合して、浮上性のコアシェルポリマー粒子緩凝集体を含むスラリー液を得る工程である。
【0114】
第2工程は、スラリー液から液相を取り除き、コアシェルポリマー粒子緩凝集体を得た後、コアシェルポリマー粒子緩凝集体を溶剤と混合して、前記コアシェルポリマー粒子(B)と溶剤とを含む粒子分散液を得る工程である。第2工程で得られる粒子分散液は水を含んでいるため、含水粒子分散液ともいえる。
【0115】
第1工程および第2工程で用いられる混合装置としては、公知の装置を使用可能である。例えば、撹拌翼付きの撹拌槽等の一般的装置を使用してもよく、スタティックミキサ(静止混合器)およびラインミキサ(配管の一部に撹拌装置を組み込む方式)などを使用してもよい。
【0116】
第3工程は、粒子分散液から、溶剤および/または水を蒸発させる工程である。
【0117】
第3工程において、粒子分散液から溶剤および/または水を蒸発させる方法としては、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、(a)槽内に前記粒子分散液を仕込み、加熱減圧下で留去する方法、(b)槽内で乾燥ガスと前記混合物を向流接触させる方法、(c)薄膜式蒸発機を用いるような連続式の方法、(d)脱揮機構を備えた押出機または連続式撹拌槽を用いる方法、などが挙げられる。水を留去するときの温度および所要時間などの条件は、得られるマスターバッチの品質を損なわない範囲で適宜選択することができる。
【0118】
前記第1工程~第3工程を順に行うことにより、コアシェルポリマー粒子(B)が高濃度でかつ安定して分散しているマスターバッチを容易に得ることができる。前記第1工程~第3工程はハンドリング性に優れているため、マスターバッチを調製する工程は前記第1工程~第3工程を有することが好ましい。
【0119】
マスターバッチを調製する工程にて得られるマスターバッチにおける水の含有率は、マスターバッチ100重量%中、1.00重量%以下であることが好ましく、0.50重量%以下であることがより好ましく、0.30重量%以下であることがより好ましく、0.20重量%以下であることがより好ましく、0.15重量%以下であることがより好ましく、0.14重量%以下であることがより好ましく、0.13重量%以下であることがより好ましく、0.12重量%以下であることがさらに好ましく、0.11重量%以下であることが特に好ましい。水の含有率が1重量%以内である場合、得られる絶縁層が表面美麗性に優れるものとなり、また絶縁層の発泡の虞がないという利点を有する。
【0120】
マスターバッチを調製する工程にて得られるマスターバッチにおけるコアシェルポリマー粒子(B)の含有率は、マスターバッチの総重量(100重量%)に対し20~40重量%であることが好ましく、22~38重量%であることがより好ましく、24~36重量%であることがさらに好ましい。マスターバッチにおけるコアシェルポリマー粒子(B)の含有率が、(a)20重量%以上である場合、絶縁層の製造時に使用する樹脂ワニスに溶剤を過剰に持ち込むことがないため、加工性が良好となり、(b)40重量%以下である場合、マスターバッチが適切な粘度を有するため、取り扱い性が良好となる。
【0121】
マスターバッチを調製する工程にて得られるマスターバッチにおける溶剤の合計含有率は、コアシェルポリマー粒子(B)の含有率と同様の理由により、マスターバッチの総重量(100重量%)に対し60~80重量%であることが好ましく、62~78重量%であることがより好ましく、64~76重量%であることがさらに好ましい。
【0122】
(樹脂ワニスを調製する工程)
樹脂ワニスを調製する工程は、マスターバッチと樹脂(A)とを、メチルエチルケトンを含む溶剤中で混合するか、またはメチルエチルケトンを含む溶剤中に分散させて、樹脂ワニスを調製する工程ともいえる。
【0123】
樹脂ワニスは、樹脂(A)と、コアシェルポリマー粒子(B)を含むマスターバッチとを、溶剤に溶解混合または分散させたものである。ここで、用語「溶解混合」は、溶解させることにより混合することを意味する。
【0124】
樹脂ワニスは、樹脂(A)と、コアシェルポリマー粒子(B)を含むマスターバッチとを、溶剤中で混合したものであるか、または溶剤中に分散させたものである、ともいえる。
【0125】
樹脂ワニスは、さらに、無機充填剤(D)、難燃剤、および添加剤などを含んでいてもよい。
【0126】
樹脂ワニスは、また、反応開始剤をさらに含むことが好ましい。樹脂ワニスが反応開始剤を含む場合、得られる金属張積層板のTgおよび耐熱性を向上させることが可能となる。また、樹脂(A)が架橋剤を含み、かつ樹脂ワニスが反応開始剤を含む場合、樹脂(A)における樹脂および/または共重合体と架橋剤との反応性を高めることができる。その結果、得られる金属張積層板のTgおよび耐熱性をより向上させることが可能となる。
【0127】
反応開始剤は、(a)樹脂(A)の硬化反応、並びに/または、(b)樹脂(A)中の樹脂および/もしくは共重合体と架橋剤との硬化反応、を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリルなどの酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩などを反応開始剤と併用することができる。そうすることによって、(a)樹脂(A)の硬化反応、並びに/または、(b)樹脂(A)中の樹脂および/もしくは共重合体と架橋剤との硬化反応、を一層促進させることができる。これらの反応開始剤の中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時の硬化反応の促進を抑制することができ、樹脂ワニスの保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時および樹脂ワニスの保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
樹脂ワニスが反応開始剤を含む場合、その含有量は、樹脂(A)+コアシェルポリマー粒子(B)の合計100重量部に対して、0.01~3重量部であることが好ましい。
【0129】
樹脂ワニスを調整する工程について、具体的に説明する。まず、(a)樹脂(A)およびコアシェルポリマー粒子(B)を含むマスターバッチ、並びに(b)任意で、相溶型の難燃剤など、メチルエチルケトンを含む溶剤に溶解できる任意成分、を溶剤に投入して混合する。このとき、必要に応じて、加熱してもよい。かかる操作により、樹脂(A)、およびメチルエチルケトンを含む溶剤に溶解できる任意成分は溶剤に溶解し、コアシェルポリマー粒子(B)は溶剤中に分散する。その後、任意で、メチルエチルケトンを含む溶剤に溶解しない任意成分、例えば、無機充填材(D)および非相溶型の難燃剤などを添加する。その後、これら各成分を所定の分散状態になるまで溶剤中に分散させることにより、樹脂ワニスが得られる。混合および分散には、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミルなどの装置を用いることができる。
【0130】
なお、樹脂(A)が架橋剤を含む場合、樹脂ワニスを用いてプリプレグを製造するときに、架橋剤が揮発する場合がある。そのため、最終的に得られる金属張積層板中に含まれる架橋剤の含有量を前記(樹脂(A))の項で説明した含有量とするためには、プリプレグ製造時の架橋剤の揮発量を考慮して、樹脂(A)中の架橋剤の配合量を設定する必要がある。
【0131】
(プリプレグを調製する工程)
プリプレグを調整する工程について、具体的に説明する。樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させた後、得られた繊維質基材を乾燥することによって、プリプレグを調整することが可能である。
【0132】
樹脂ワニスの繊維質基材への含浸は、浸漬および塗布などによって行われる。この含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、このとき、組成および/または濃度の異なる複数種の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)および樹脂量に調整することも可能である。
【0133】
樹脂ワニスが含浸された繊維質基材を、所望の加熱条件、例えば、80~170℃で1~10分間加熱して溶剤を除去することにより、樹脂が半硬化したプリプレグが得られる。
【0134】
(金属箔を積層する工程)
金属箔を積層する工程について、具体的に説明する。プリプレグを一枚または複数枚重ね、さらに、得られたプリプレグの積層体の上下の両面またはいずれか片面に金属箔を重ね、得られた積層体を加熱加圧成形し、一体化する。これによって、両面に金属箔を有する金属張積層板、または片面に金属箔を有する金属張積層板を得ることができる。加熱加圧条件は、製造する金属張積層板の厚みおよびプリプレグの樹脂ワニスの組成などにより適宜設定することができるが、例えば、温度を170~220℃、圧力を1.5~5.0MPa、時間を60~150分間とすることができる。
【0135】
なお、プリプレグでは含まれる樹脂が半硬化状態であるが、金属箔を積層する工程において、樹脂は完全に硬化される。また、金属箔を積層する工程では、プリプレグ中の樹脂の硬化と共に、金属箔とプリプレグとの接着が生じる。換言すれば、金属張積層板は、プリプレグの硬化物と金属箔とを備える。また、金属張積層板における金属箔以外の部分が絶縁層であり、換言すれば、プリプレグの硬化物が絶縁層ともいえる。
【0136】
〔4.プリント配線板〕
本発明の一実施形態に係るプリント配線板は、〔2.金属張積層板〕の項で説明した金属張積層板を用いて製造される。本発明の一実施形態に係るプリント配線板は、前記構成を有するため、誘電特性および耐熱性に優れるとともに、基板と金属箔との密着性に優れるものである。
【0137】
本発明の一実施形態に係るプリント配線板を製造する方法としては、例えば、〔2.金属張積層板〕の項で説明した金属張積層体の表面の金属箔をエッチング加工等して回路形成をすることによって、積層板の表面に回路として導体パターンを設けたプリント配線板を製造する方法が挙げられる。
【0138】
本発明の一実施形態は、以下の様な構成であってもよい。
【0139】
〔1〕樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、前記樹脂組成物は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下の樹脂(A)と、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)と、を含有し、前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である金属張積層板。
【0140】
〔2〕前記コアシェルポリマー粒子(B)のコア層が、ジエン系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体50重量%以上100重量%以下、および、他の共重合可能なビニル単量体0%以上50重量%以下を重合させてなるゴム弾性体からなり、当該他の共重合可能なビニル単量体が、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、および、マレイミド誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕に記載の金属張積層板。
【0141】
〔3〕前記コアシェルポリマー粒子(B)100重量%のうち、30重量%以上がスチレン単位から構成される、〔1〕または〔2〕に記載の金属張積層板。
【0142】
〔4〕前記コアシェルポリマー粒子(B)のシェル層は、エポキシ基を有するものである、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載の金属張積層板。
【0143】
〔5〕前記樹脂(A)は、架橋可能な官能基を有するポリフェニレンエーテルを有するものである、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載の金属張積層板。
【0144】
〔6〕前記ポリフェニレンエーテルが炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテルである、〔5〕に記載の金属張積層板。
【0145】
〔7〕樹脂組成物および繊維質基材を含む絶縁層と、前記絶縁層と接する金属箔とを備える金属張積層板であって、前記絶縁層は、10GHzにおける誘電正接(Df)が0.0100以下であり、前記金属箔の表面の十点平均粗さ(Rz)は2.0μm以下であり、前記金属張積層板は、JIS C6481に準拠して測定された90°金属箔ピール強度が0.43N/mm以上であり、かつ、ISO15024に準拠して測定された層間破壊靭性(Gc)が0.26kJ/m以上である、金属張積層板。
【0146】
〔8〕〔1〕~〔7〕の何れか1つに記載の金属張積層板を用いて製造される、プリント配線板。
【0147】
〔9〕メチルエチルケトンを含む溶剤に、体積平均粒子径が10nm~400nmであるコアシェルポリマー粒子(B)を分散させたマスターバッチを調製する工程と、前記マスターバッチと樹脂(A)とを、メチルエチルケトンを含む溶剤に溶解混合または分散させて樹脂ワニスを調製する工程と、前記樹脂ワニスをガラスクロスに含浸させてプリプレグを調製する工程と、前記プリプレグに金属箔を積層する工程と、を含み、前記金属箔における前記プリプレグと接する境界面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である、金属張積層板の製造方法。
【実施例
【0148】
以下、実施例を挙げて本発明の一実施形態を具体的に説明するが、本発明の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0149】
実施例および比較例における各物性の測定方法について以下に説明する。
【0150】
[体積平均粒子径]
粒子径測定装置(日機装社製、Microtrac UPA)を用いて、ゴム粒子およびコアシェルポリマー粒子の体積平均粒子径を測定した。
【0151】
[樹脂(A)の誘電正接]
樹脂(A)に、樹脂(A)に適した反応開始剤または反応触媒を添加し、樹脂(A)組成物を得た。樹脂(A)の種類と使用した反応開始剤または反応触媒の種類とは、表1~3に記載の組み合わせの通りである。また、樹脂(A)の量と使用した反応開始剤または反応触媒の量の量比は、表1~3に記載の組み合わせの通りである。樹脂(A)組成物を、200℃で90分間、熱プレスすることにより、縦100mm×横2mm×厚み0.5mmの評価シートを作製した。得られた評価シートについて、空洞共振機装置(関東電子応用開発製)を用いて、周波数10GHzにおける誘電正接を測定し、得られた誘電正接を樹脂(A)の誘電正接とした。
【0152】
[コアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接]
メチルエチルケトン(MEK)中にコアシェルポリマー粒子が分散したMEK分散液を乾燥して、コアシェルポリマー粒子残渣を得た。得られたコアシェルポリマー粒子残渣を、190℃で30分間、熱プレスすることにより、縦100mm×横2mm×厚み1mmの評価シートを作製した。得られた評価シートについて、空洞共振機装置(関東電子応用開発製)を用いて、周波数10GHzにおける誘電正接を測定し、得られた誘電正接をコアシェルポリマー粒子(B)の誘電正接とした。なお、誘電正接の測定に用いられる、MEK中にコアシェルポリマー粒子が分散したMEK分散液は、後述するコアシェルポリマー粒子(B)の各製造例に記載されているMEK分散液に相当する。
【0153】
[絶縁層の誘電正接]
金属張積層板の金属をエッチング液にて溶解し、絶縁層を得た。得られた絶縁層を切削して縦100mm×横1.5mm×厚み1.5mmの試験片を作製した。得られた試験片について、空洞共振機装置(関東電子応用開発製)を用いて、周波数10GHzにおける誘電正接を測定し、得られた誘電正接を絶縁層の誘電正接とした。
【0154】
[ガラス転移温度(Tg)]
熱機械分析装置(TMA)を用いて、金属張積層板のTgを測定した。測定方法は、装置の説明書に従った。
【0155】
[90°金属箔ピール強度]
金属張積層板の90°金属箔ピール強度をJIS C6481に準拠して測定した。具体的には以下の通りである。まず、各実施例および比較例にて得られたプリプレグ上に、幅10mm、長さ100mmの金属箔のパターンが形成されるように、金属箔を積層した。次に、得られた積層体を加熱加圧成形し、一体化して金属張積層板を得た得られた金属張積層板から、引張試験機により50mm/分の速度で金属箔を引き剥がし、その時の引き剥がし強さを測定した。得られた値を、90°金属箔ピール強度とした。
【0156】
[層間破壊靭性(Gc)]
金属張積層板のGcをISO15024に準拠して測定した。金属張積層板を幅20mm、長さ100mmに切り出したダブルカンチレバービーム(DCB)試験片を作成し、当該試験片を用いて測定した。
【0157】
実施例および比較例で使用した主な成分および材料は、下記のとおりである。
【0158】
(樹脂(A))
表1に記載の組成の(A-1)~(A-4)を使用した。ここで、各樹脂および架橋剤は以下のものを使用した。
<樹脂>
・メタクリル変性ポリフェニレンエーテル:SA9000(サビック社製、数平均分子量Mn:1,000~3,000、10GHzにおける誘電正接:0.005)
・ハイドロカーボン樹脂:Ricon100(CrayValley社製)
・シアネート樹脂:2,2-ビス(4-シアネートフェニル)プロパン(Techia社製)
・ビスマレイミド:IR-3000(日本化薬社製)
<架橋剤>
・トリアリルイソシアヌレート:TAIC(日本化成製)
(コアシェルポリマー粒子(B))
下記製造例1~6の方法で製造したコアシェルポリマー粒子(6種類)
(無機充填剤(D))
ビニルシラン表面処理シリカ:アドマファイン(アドマテックス社製、70重量%分散液(分散媒:MEK)、平均粒子径0.5μm)
(その他)
<反応開始剤>
2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン:Luperox101(アルケマ社製)
<反応開始剤>
オクチル酸亜鉛:オクチル酸亜鉛(ナカライテスク社製)
(繊維質基材)
ガラスクロス:ガラスクロス(7628、E-ガラス)(日東紡社製、)
(金属箔)
銅箔:HS2-VSP(三井金属社製、Rz=1μm)
銅箔:MLS-G(三井金属社製、Rz=3.8μm)
【0159】
【表1】
コアシェルポリマー粒子(B)の製造方法は以下の通りである。
【0160】
(製造例1)
100L耐圧重合機中に、水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、および、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)1.55重量部を投入した。投入した原料を撹拌しつつ、窒素置換により耐圧重合機内の酸素を十分に除いた。その後、ブタジエン(Bd)100重量部を系中に投入し、耐圧重合機内の温度を45℃に昇温した。その後、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.03重量部を系中に投入し、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.10重量部を系中に投入し、重合を開始した。重合開始から3、5、7時間目それぞれに、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.025重量部を系中に投入した。また、重合開始から4、6、8時間目それぞれに、EDTA0.0006重量部、および硫酸第一鉄・7水和塩0.003重量部を系中に投入した。重合開始から15時間目に、減圧下にて脱揮して、系中に残存しているモノマーを除去することにより重合を終了し、ポリブタジエンゴムを主成分とするポリブタジエンゴムラテックス(R-1)を得た。得られたポリブタジエンゴムラテックス(R-1)に含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は80nmであった。
【0161】
耐圧重合機中に、ポリブタジエンゴムラテックス(R-1)を21重量部(ポリブタジエンゴム7重量部を含む)、脱イオン水185重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、EDTA0.002重量部、および硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部を投入した。投入した原料を撹拌しつつ、窒素置換により耐圧重合機内の酸素を十分に除いた。その後、Bd93重量部を系中に投入し、耐圧重合機内の温度を45℃に昇温した。その後、PHP0.02重量部を系中に投入し、続いてSFS0.10重量部を系中に投入し、重合を開始した。重合開始から24時間目まで3時間おきに、それぞれ、PHP0.025重量部、EDTA0.0006重量部、および硫酸第一鉄・7水和塩0.003重量部を系中に投入した。重合開始から30時間目に、減圧下にて脱揮して、系中に残存しているモノマー除去することにより重合を終了し、ポリブタジエンゴムを主成分とするポリブタジエンゴムラテックス(R-2)を得た。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は200nmであった。
【0162】
ガラス製反応器に、前記ポリブタジエンゴムラテックス(R-2)241重量部(ポリブタジエンゴム粒子80重量部を含む)、および、水65重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、およびモノマーの添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、およびSFS0.2重量部を系中に加えた後、スチレン(St)2重量部、メチルメタクリレート(MMA)12重量部、アクリロニトリル(AN)1重量部、グリシジルメタクリレート(GMA)5重量部およびt-ブチルハイドロパーオキシド(TBP)0.08重量部の混合物を110分間かけて連続的に系中に添加した。その後、TBP0.04重量部を系中に添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマー粒子を含む水性ラテックス(L-1)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマー粒子の体積平均粒子径は210nmであった。
【0163】
30℃の1L混合槽中にメチルエチルケトン(MEK)126重量部を投入した。投入したMEKを撹拌しながら、コアシェルポリマー粒子を含む水性ラテックス(L-1)を126重量部、系中に投入した。投入した原料を均一に混合後、水200重量部を80重量部/分の供給速度で系中に投入した。水の供給終了後、速やかに撹拌を停止し、浮上性のコアシェルポリマー粒子緩凝集体を含むスラリー液を得た。
【0164】
次に、コアシェルポリマー粒子緩凝集体を槽中に残した状態で、液相350重量部を槽下部の払い出し口より排出することにより、コアシェルポリマー粒子緩凝集体を得た。得られたコアシェルポリマー粒子緩凝集体にMEK150重量部を添加し、これらを混合し、コアシェルポリマー粒子が分散した含水MEK分散液を得た。
【0165】
得られた含水MEK分散液を1L槽(内径100mm、翼型90mmのアンカー翼を設置した攪拌機)に移した。ここで、前記槽はジャケットを有し、かつ、内径100mm、および翼型90mmのアンカー翼を備えた攪拌機が設置されたものであった。その後、ジャケット温度を70℃、および減圧度を200torrに設定して、内容物のコアシェルポリマー粒子濃度が20重量%に達するまでMEKと水を留去した。
【0166】
前記槽中に、内容物のコアシェルポリマー粒子濃度が10重量%となる量のMEKを加えて、内容物を均一混合した。その後、ジャケット温度を70℃、および減圧度を200torrに設定して、内容物のコアシェルポリマー粒子濃度が25重量%に達するまでMEKと水を留去した。その後、槽内に窒素ガスを導入して層内の内圧を大気圧に戻し、コアシェルポリマー粒子のMEK分散液(脱水)(M-1)を得た。MEK分散液(脱水)(M-1)100重量%における水の含有率は、0.10重量%であった。得られたコアシェルポリマー粒子の誘電正接は0.0110であった。
【0167】
(製造例2)
100L耐圧重合機中に、水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、リン酸二水素カリウム0.25重量部、EDTA0.002重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部およびSDBS1.5重量部を投入した。投入した原料を攪拌しつつ、窒素置換により耐圧重合機内の酸素を十分に除いた。その後、Bd75重量部およびスチレン25重量部を系中に投入し、耐圧重合機内の温度を45℃に昇温した。その後、PHP0.015重量部を系中に投入し、続いてSFS0.04重量部を系中に投入し、重合を開始した。重合開始から4時間目に、PHP0.01重量部、EDTA0.0015重量部および硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部を系中に投入した。重合開始から10時間目に、減圧下にて脱揮して、系中に残存しているモノマーを除去することにより重合を終了し、スチレン-ブタジエンゴムラテックス(R-3)を得た。得られたスチレン-ブタジエンゴムラテックス(R-3)に含まれるスチレン-ブタジエンゴム粒子の体積平均粒径は100nmであった。
【0168】
ガラス製反応器に、前記スチレン-ブタジエンゴムラテックス(R-3)241重量部(スチレン-ブタジエンゴム粒子80重量部を含む)、および、水65重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、およびモノマーの添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、およびSFS0.2重量部を系中に加えた後、イソシアヌル酸トリアリル(TAIC)2重量部、および、クメンハイドロパーオキシド(CHP)0.07重量部を系中に添加し、これらを60分間攪拌した。その後、St12重量部、AN4重量部、GMA4重量部およびTBP0.08重量部の混合物を110分間かけて連続的に系中に添加した。その後、TBP0.04重量部を系中に添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマー粒子を含む水性ラテックス(L-2)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマー粒子の体積平均粒子径は110nmであった。
【0169】
続いて、水性ラテックス(L-1)に換えて水性ラテックス(L-2)を使用する以外は製造例1と同様にしてMEK分散液(脱水)(M-2)を得た。MEK分散液(脱水)(M-2)100重量%における水の含有率は、0.10重量%であった。得られたコアシェルポリマー粒子の誘電正接は0.0070であった。
【0170】
(製造例3)
ガラス製反応器に、前記スチレン-ブタジエンゴムラテックス(R-3)241重量部(スチレン-ブタジエンゴム粒子80重量部を含む)、および、水65重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、およびモノマーの添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部、およびSFS0.2重量部を系中に加えた後、TAIC2重量部、およびCHP0.07重量部を系中に添加し、これらを60分間攪拌した。その後、St12重量部、AN4重量部、MMA4重量部およびTBP0.08重量部の混合物を110分間かけて連続的に系中に添加した。その後、TBP0.04重量部を系中に添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマー粒子を含む水性ラテックス(L-3)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマー粒子の体積平均粒子径は110nmであった。
【0171】
続いて、水性ラテックス(L-1)に換えて水性ラテックス(L-3)を使用する以外は製造例1と同様にしてMEK分散液(脱水)(M-3)を得た。MEK分散液(脱水)(M-3)100重量%における水の含有率は、0.12重量%であった。得られたコアシェルポリマー粒子の誘電正接は0.0068であった。
【0172】
(製造例4)
ガラス製反応器に、脱イオン水182重量部、EDTA0.006重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.0015重量部、SFS0.2重量部、およびSDBS0.15重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、モノマーの添加装置および乳化剤の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、投入した原料を撹拌しながら、ガラス製反応器中の温度を60℃に昇温した。次に、St75重量部、アリルメタクリレート(ALMA)1.5重量部、およびCHP0.024重量部の混合物を、200分間かけて連続的に系中に滴下した。前記混合物の滴下終了から0.5時間撹拌を続けて重合を完結し、ポリマー微粒子の架橋ポリマー層を含む水性ラテックス(R-4)を得た。引き続き、そこに、MMA20重量部、GMA5重量部、およびTBP0.08重量部の混合物を110分間かけて連続的に系中に添加した。その後、TBP0.04重量部を系中に添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマー粒子を含む水性ラテックス(L-4)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマー粒子の体積平均粒子径は122nmであった。
【0173】
続いて、水性ラテックス(L-1)に換えて水性ラテックス(L-4)を使用する以外は製造例1と同様にしてMEK分散液(脱水)(M-4)を得た。MEK分散液(脱水)(M-4)100重量%における水の含有率は、0.14重量%であった。得られたコアシェルポリマー粒子の誘電正接は0.0060であった。
【0174】
(製造例5)
ガラス製反応器に、脱イオン水220重量部を投入し、そこにブチルアクリレート(BA)8.5重量部、ALMA0.17重量部、SDBS0.16重量部、およびCHP0.003重量部を投入し、さらにそこに、EDTA0.0056重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.0014重量部、およびSFS0.06重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、モノマーの添加装置および乳化剤の添加装置を有していた。その後、ガラス製反応器中の温度を60℃に昇温した。その後、BA91.5重量部、ALMA1.87重量部およびCHP0.03重量部の混合液を350分かけて連続的に系中に添加した。前記混合物の添加後、SDBS0.15重量部を60分前おきに4回、系中に添加し、アクリルゴム粒子を含むラテックス(R-5)を得た。得られたラテックスに含まれるアクリルゴム粒子の体積平均粒子径は300nmであった。
【0175】
続いて、アクリルゴムラテックス(R-5)53.8重量部(アクリルゴム粒子17.6重量部を含む)に、EDTA0.0058重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.0014重量部、およびSFS0.25重量部を加えた後、さらに、BA51.35重量部、ALMA1.05重量部およびCHP0.015重量部を130分間かけて連続的に添加した。その後、SDBS0.15重量部を60分おきに3回、系中に添加した後に、MMA25重量部、GMA5重量部およびTBP0.08重量部の混合物を180分間かけて連続的に添加した。その後、TBP0.04重量部を系中に添加し、さらに30分撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマーを含む水性ラテックス(L-5)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマーの体積平均粒子径は500nmであった。
【0176】
続いて、水性ラテックス(L-1)に換えて水性ラテックス(L-5)を使用する以外は製造例1と同様にしてMEK分散液(脱水)(M-5)を得た。MEK分散液(脱水)(M-5)100重量%における水の含有率は、0.11重量%であった。得られたコアシェルポリマー粒子の誘電正接は0.0180であった。
【0177】
(製造例6)
ガラス製反応器に、脱イオン水220重量部を投入し、そこにBA6.9重量部、ALMA0.14重量部、SDBS0.4重量部、およびCHP0.002重量部を投入し、さらにそこに、EDTA0.0056重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.0014重量部、およびSFS0.2重量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、モノマーの添加装置および乳化剤の添加装置を有していた。その後、ガラス製反応器中の温度を60℃に昇温した。その後、SDBS0.15重量部を系中に添加して30分撹拌した。その後、BA61.7重量部およびALMA1.26重量部を系中に加えた後に、SDBS0.15重量部を60分おきに3回、系中に添加した。続いて、MMA25重量部、GMA5重量部およびTBP0.08重量部の混合物を180分間かけて連続的に系中に添加した。その後、TBP0.04重量部を系中に添加し、さらに30分撹拌を続けて重合を完結させ、コアシェルポリマーを含む水性ラテックス(L-6)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるコアシェルポリマーの体積平均粒子径は97nmであった。
【0178】
続いて、水性ラテックス(L-1)に換えて水性ラテックス(L-6)を使用する以外は製造例1と同様にしてMEK分散液(脱水)(M-6)を得た。MEK分散液(脱水)(M-6)100重量%における水の含有率は、0.12重量%であった。得られたコアシェルポリマー粒子の誘電正接は0.0170であった。
【0179】
【表2】
(実施例1~5、比較例1,2および参考例1)
表3に示す成分を、固形分濃度が50重量%となるように、メチルエチルケトンに室温(25℃)にて溶解混合または分散し、樹脂ワニスを得た。
【0180】
得られた樹脂ワニスにガラスクロスを浸漬することにより、樹脂ワニスをガラスクロスに含浸させた。その後、ガラスクロスを130℃で5分間乾燥させ、プリプレグ(樹脂含有量:50質量%)を得た。
【0181】
次に、得られたリプレグを8枚重ね合わせて積層し、第1の積層板を得た。第1の積層板の両面に35μmの厚みを有する銅箔(HS2-VSP(Rz=1μm)またはMLS-G(Rz=3.8μm))を積層し、第2の積層板を得た。第2の積層板を4MPaの加圧下、200℃にて90分間加熱し、1.6mmの厚みを有する金属張積層板を得た。
【0182】
得られた金属張積層板の90°金属箔ピール強度を測定後、TgおよびGcを測定した。また、得られた金属張積層板を使用して、絶縁層の誘電正接を測定した。測定結果を表3に示す。
【0183】
【表3】
比較例1は参考例1に比べて90°金属箔ピール強度が大きく低下している。これは、参考例1で使用した銅箔と比較して、比較例1で使用した銅箔はRzが小さく、アンカー効果による密着性が確保しづらいことに起因する。比較例1対し、特定の粒子径を有するコアシェルポリマー粒子(B)を添加した実施例1~5では、(a)90°金属箔ピール強度が向上しており、かつ(b)耐熱性の指標であるTgも比較例1と同じか比較例1より大きいことがわかる。実施例5と比較例2で使用したコアシェルポリマー粒子(B)は同組成であり、粒子径のみ異なっている。平均粒子径97nmのコアシェルポリマー粒子(B)を使用した実施例5では、比較例1に対して金属箔ピール強度が大きく向上している。しかし、平均粒子径500nmのコアシェルポリマー粒子(B)を使用した比較例2では、比較例1に対して金属箔ピール強度の向上はわずかであることがわかる。これは、使用した金属箔(Rz=1)の凹凸内に効果的にコアシェルポリマー粒子が入り込めなかったため、凹凸内に存在する樹脂において、コアシェルポリマー粒子の樹脂の伸び向上への寄与が小さかったと推測される。
【0184】
(実施例6、7、および比較例3、4)
表4に示す成分を、固形分濃度が50重量%となるように、メチルエチルケトンに室温(25℃)にて溶解混合または分散し、樹脂ワニスを得た以外は、実施例1と同様にして金属張積層板を得た。
【0185】
得られた金属張積層板の90°金属箔ピール強度を測定後、TgおよびGcを測定した。また、得られた金属張積層板を使用して、絶縁層の誘電正接を測定した。測定結果を表4に示す。
【0186】
比較例3と実施例6との比較、および比較例4と実施例7との比較から、特定の粒子径を有するコアシェルポリマー粒子(B)を添加した実施例6および7では、(a)90°金属箔ピール強度が向上しており、かつ(b)耐熱性の指標であるTgも対応する比較例のTgを維持していることがわかる。
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明の一実施形態によれば、基板と金属箔との密着性に優れ、かつ、誘電特性および耐熱性も良好である金属張積層板を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態は、サーバー、ミリ波レーダーおよびモバイル機器などの電子機器に備えられる電子部品などにおいて、好適に利用できる。