(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】エクスビボの流体への一酸化炭素(CO)の投与をモニターするための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20231227BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61M1/36 185
A61L31/04 110
(21)【出願番号】P 2020542940
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019053047
(87)【国際公開番号】W WO2019154931
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-09
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510232393
【氏名又は名称】ユリウス・マクシミリアンス-ウニヴェルジテート・ヴュルツブルク
【氏名又は名称原語表記】Julius Maximilians-Universitaet Wuerzburg
(73)【特許権者】
【識別番号】518264468
【氏名又は名称】アルベルト-ルートヴィヒ-ウニベルシタット フライブルク
【氏名又は名称原語表記】ALBERT-LUDWIGS-UNIVERSITAET FREIBURG
【住所又は居所原語表記】79085 Freiburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルボルン,ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】ゲーベル,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】シック,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン,コルネリウス
(72)【発明者】
【氏名】ヴンダー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マイネル,ローレンツ
(72)【発明者】
【氏名】シュタイガー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】メルゲト,ベンヤミン
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-533021(JP,A)
【文献】国際公開第2016/110517(WO,A1)
【文献】特表2005-531376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38
A61L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外生命維持装置、体外式膜型人工肺、人工心肺装置または透析における体外CO放出システムの作動を制御する方法であって、
COを発生させるコンパートメントからなるCO発生手段とエクスビボの流体を収容するコンパートメントと前記二つのコンパートメントを隔てるガス透過膜からなるCO投与手段とを有する膜モジュールと、一酸化炭素と一酸化炭素マーカーを分析する手段とを有する相互補完的モニタリング技術と、安全機構であるバイパスとを備え、
(i)
前記膜モジュールのCO発生手段においてCO放出分子(CORM)と放出トリガー分子を反応させて、COを発生させる
ように前記CO発生手段が作動する工程、
(ii)工程(i)で発生させたCOを、
前記膜モジュールのCO投与手段であるガス透過膜を通して
エクスビボの流体を収容するコンパートメントに収容したエクスビボの流体と接触させることによって、該エクスビボの流体にCOを投与する
ように前記CO投与手段が作動する工程、
(iii)工程(ii)において前記エクスビボの流体にCOを投与した後、
前記相互補完的モニタリング技術
の一酸化炭素と一酸化炭素マーカーを分析する手段が作動することによって、一酸化炭素および/または一酸化炭素マーカーを分析する
ように前記一酸化炭素と一酸化炭素マーカーを分析する手段が作動する工程、ならびに
(iv)必要に応じて、工程(iii)で実施した一酸化炭素または一酸化炭素マーカーの分析に基づいて、
工程(i)のCO発生手段におけるCOの発生量を増加させるか、又は過剰のCOを当該体外CO放出システムの安全機構であるバイパスに迂回させることによってCOの投与を調節する
ように前記CO発生手段が作動するか又は前記安全機構が作動する工程を含み、
前記相互補完的モニタリング技術が、対象の血液試料中におけるCOHbの測定、対象の呼気中におけるCO濃度の測定、対象の血液循環に接続されるように構成された心肺補助システムに組み込まれた酸素供給器の排気中のCO濃度の測定のうちの少なくとも2つを含む方法。
【請求項2】
前記エクスビボの流体が、
対象の血液または灌流液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一酸化炭素マーカーが、カルボキシヘモグロビン(COHb)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(iii)の前記相互補完的モニタリング技術が、
機械学習に基づくCO濃度予測により補助される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において使用するための体外循環回路システムであって、
外側のコンパートメントと内側のコンパートメントを備える膜モジュールを含む体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)を備え、
前記外側のコンパートメントが、対象からの血液を収容する一次回路に接続されており、前記内側のコンパートメントが、CO放出分子(CORM)と放出トリガー分子との反応によりCOが発生される二次回路に接続されていること、
前記膜モジュールのこれら2つのコンパートメントが、二次回路で発生したCOを内側のコンパートメントから外側のコンパートメントへと透過してエクスビボの流体にCOを投与することができるガス透過膜を介して互いに分離されていること、および
一次回路が対象の血液循環に接続されるように構成されていること
を特徴とする、体外循環回路システム。
【請求項6】
前記膜モジュールの内側のコンパートメントと外側のコンパートメントが、管状膜で分離されている、請求項5に記載の体外循環回路システム。
【請求項7】
前記一次回路が、酸素供給器とポンプをさらに備える、請求項5または6に記載の体外循環回路システム。
【請求項8】
前記ガス透過膜が、シリコーン膜またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガス透過膜が、シリコーン膜またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜である、請求項5~7のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【請求項10】
前記CORMが金属カルボニル化合物である、請求項1~4および8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記CORMが金属カルボニル化合物である、請求項5~7および9のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【請求項12】
前記CORMが、Mo(CO)
3(CNCH
2COOH)
3(「Beck1」)、Mo(CO)
3(CNCH
2CONaO)
3(「Beck1-Na」)、CORM-ALF794、CORM-1、CORM-2、CORM-3およびCORM-401からなる群から選択される金属カルボニル化合物である、請求項1~4、8および10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記CORMが、Mo(CO)
3(CNCH
2COOH)
3(「Beck1」)、Mo(CO)
3(CNCH
2CONaO)
3(「Beck1-Na」)、CORM-ALF794、CORM-1、CORM-2、CORM-3およびCORM-401からなる群から選択される金属カルボニル化合物である、請求項5~7、9および11のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【請求項14】
前記放出トリガー分子が、硫黄含有化合物、窒素含有化合物および酸化化合物からなる群から選択される、請求項1~4、8、10および12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記放出トリガー分子が、硫黄含有化合物、窒素含有化合物および酸化化合物からなる群から選択される、請求項5~7、9、11および13のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【請求項16】
前記放出トリガー分子が、塩化鉄(III)(FeCl
3)、過マンガン酸カリウム(KMnO
4)、硫酸セリウム(IV)(Ce(SO
4)
2)、重クロム酸カリウム(K
2Cr
2O
7)、塩化金(III)(AuCl
3)および硝酸銀(AgNO
3)からなる群から選択される酸化化合物である、請求項1~4、8、10、12および14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記放出トリガー分子が、塩化鉄(III)(FeCl
3)、過マンガン酸カリウム(KMnO
4)、硫酸セリウム(IV)(Ce(SO
4)
2)、重クロム酸カリウム(K
2Cr
2O
7)、塩化金(III)(AuCl
3)および硝酸銀(AgNO
3)からなる群から選択される酸化化合物である、請求項5~7、9、11、13および15のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【請求項18】
前記放出トリガー分子の水溶液に前記CORMが添加されるか、前記CORMの水溶液に前記放出トリガー分子が添加される、請求項1~4、8、10、12、14および16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記放出トリガー分子の水溶液に前記CORMが添加されるか、前記CORMの水溶液に前記放出トリガー分子が添加される、請求項5~7、9、11、13、15および17のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【請求項20】
前記体外循環回路システムが、心肺補助システムまたは透析システムの一部である、請求項5~7、9、11、13、15、17および19のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクスビボの流体への一酸化炭素(CO)の投与をモニターする方法、および該方法において使用するためのシステムに関する。エクスビボの流体としては、動物対象もしくはヒト対象の血液または灌流液が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
COには有害な作用(すなわち中毒)があるが、その一方で、低濃度で使用した場合には、たとえば虚血再灌流障害や炎症などにおいて治療特性を有することが実証されている(Motterlini R., Otterbein L.E. (2010), “The therapeutic potential of carbon monoxide”, Nat. Rev. Drug Discov., doi: 10.1038/nrd322)。
【0003】
体外治療は、急性疾患患者または慢性疾患患者の治療、および周術期処置に使用される。心臓・胸部外科手術では、心停止手術中に心循環機能および肺機能の代わりとして、酸素供給器、ポンプ、チューブ類およびカニューレからなる人工心肺装置(CPB)が使用される。急性期または慢性期の心不全、呼吸器不全、腎不全または肝不全を伴う疾患は、体外治療により処置することが多い。さらに、体外循環回路を使用して臓器を灌流させて、移植用に臓器を保存することもできる。しかしながら、これらの疾患や処置はいずれも、重篤な炎症反応や虚血再灌流障害に伴うものであったり、これらの障害を引き起こしたりすることが多い。特に、心肺補助法(たとえば、心筋梗塞、心停止、急性呼吸促迫症候群などが発症した後に行われる心肺補助法)では、体外式膜型人工肺(ECMO)または体外生命維持装置(ECLS)が使用される。これを実施するため、大血管(静脈および/または動脈)にカニューレを挿入し、酸素供給器、ポンプおよびチューブ類を使用して体外循環回路を構築する。このようにすることで、救命救急治療において、短期間にわたって、時には長期間にわたって、臓器を補助し、代替することが可能になる。
【0004】
米国特許公開第2007/0202083(A1)号明細書は、臓器の移植方法であって、臓器のレシピエントに移植される臓器の生着の向上に十分な量の一酸化炭素を含む医薬組成物を、該レシピエントに投与することを含む方法に関する。この一酸化炭素組成物は、液体中の一酸化炭素が所望の濃度に達するまで、該液体中に一酸化炭素ガスを直接吹き込むことによって製造される。別の方法では、たとえば体外式膜型酸素化装置を使用して、一酸化炭素を含む雰囲気中を通過するガス拡散性チューブ類に適切な液体が流される。一酸化炭素は液体中に拡散し、一酸化炭素を含む液体組成物が得られる。この液体は、通常、患者に経口投与または注射投与することが可能な水溶液である。しかし、米国特許公開第2007/0202083(A1)号明細書に記載されているこの方法は、液体中のCO濃度の調節が難しいという欠点がある。
【0005】
別のCO投与方法として、「一酸化炭素放出分子(CORM)」として、吸入投与、経口投与または全身投与する方法がある。しかし、この方法にもいくつかリスクがあり、COを吸入するためには、危険な無臭気体を含むリザーバー(たとえばガスカートリッジ)を使用場所に提供する必要がある。この方法では、過剰致死量を患者に投与してしまうリスクがあるだけでなく(わずかな用量ミスでも相当な危険性が発生する)、関係する医療従事者にも危害が及ぶ可能性がある。したがって、非制御下でCOを投与すると、常に中毒の危険性が伴い、これは致命的となる場合がある。しかし、CO放出分子(CORM)を使用して、特定量のCOのみを制御下で放出させれば、このような問題を防ぐことができることは注目に値する。CORMは、通常、金属カルボニル錯体(たとえば、モリブデンやルテニウムなど)であり、生理学的トリガー(たとえば亜硫酸類や水など)に反応してCOを放出する。したがって、医薬品化学の原理を利用して、このようなCORMからのCO放出を、合理的な量で時間依存的に制御できるように調節することができる。
【0006】
CORMには、前述のような好ましい特性があるにもかかわらず、欠点が数多く存在する。CORMは、通常、有害でありうる不特定の分解産物(様々な酸化状態、リガンド状態、類似物など)に分解されることから、臨床への移行が非常に困難である。この問題は、近年になって、膜型治療用ガス放出システム(TGRS)の導入による解決策が提示され、有毒でありうる分解産物への患者の暴露を防止しながら、臨床的に有意な一酸化炭素の放出が可能になっている(欧州特許公開第15150532.8号明細書および独国特許公開第10 2014 008 685.2号明細書;Steiger C. et al. (2015) “Controlled therapeutic gas delivery systems for quality-improved transplants”, Eur. J. Biopharm, doi: 10.106/j.ejpb.2015.10.009)。TGRSの内部では、疎水性膜(シリコーン)によって患者または治療対象の組織を反応室から隔離しており、この反応室内では、様々なトリガー(たとえば水や光など)によってCORMからのCOの放出が誘導される。COの放出が開始されたら、ガスのみが膜を透過して反応室を出て行き、患者/組織に対して治療効果が誘導される。有害でありうるCORMの分解産物は、放出システム内に安全に保持される。
【0007】
このような状況下にもかかわらず、臨床においてCOの使用を可能とするため、高度に制御可能な安全な方法で、遷移金属の毒性とCOの投与という課題に対処可能な、エクスビボの流体にCOを投与可能な方法およびシステムが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は以下によって解決される。
(1)エクスビボの流体に一酸化炭素(CO)を投与し、該一酸化炭素の投与をモニターする方法であって、
(i)CO放出分子(CORM)と放出トリガー分子を反応させて、COを発生させる工程、
(ii)工程(i)で発生させたCOを、ガス透過膜を通してエクスビボの流体と接触させることによって、該エクスビボの流体にCOを投与する工程、
(iii)工程(ii)において前記エクスビボの流体にCOを投与した後、相互補完的モニタリング技術によって、一酸化炭素および/または一酸化炭素マーカーを分析する工程、ならびに
(iv)必要に応じて、工程(iii)で実施した一酸化炭素または一酸化炭素マーカーの分析に基づいて、COの投与を調節する工程
を含む方法。
【0009】
本発明の方法の好ましい実施形態は、以下に関する。
(2)前記エクスビボの流体が、対象の血液または灌流液であり、好ましくは対象の血液である、項(1)に記載の方法。
(3)前記一酸化炭素マーカーが、カルボキシヘモグロビン(COHb)である、項(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記相互補完的モニタリング技術が、対象の血液試料中におけるCOHbの測定、対象の呼気中におけるCO濃度の測定、対象の血液循環に接続された心肺補助システムに組み込まれた酸素供給器の排気中のCO濃度の測定のうちの少なくとも2つを含む、項(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)工程(iii)の前記相互補完的モニタリング技術が、機械学習に基づくCO濃度予測により補助され、好ましくはランダムフォレスト回帰を使用して補助される、項(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
【0010】
本発明の目的は、以下によってさらに解決される。
(6)本発明の方法において使用するための体外循環回路システムであって、
外側のコンパートメントと内側のコンパートメントを備える膜モジュールを含む体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)を備え、
前記外側のコンパートメントが、対象からの一次回路血液に接続されており、前記内側のコンパートメントが、CO放出分子(CORM)と放出トリガー分子との反応によりCOが発生される二次回路に接続されていること、
前記膜モジュールのこれら2つのコンパートメントが、二次回路で発生したCOを内側のコンパートメントから外側のコンパートメントへと透過してエクスビボの流体にCOを投与することができるガス透過膜を介して互いに分離されていること、および
一次回路が対象の血液循環に接続されていること
を特徴とする、体外循環回路システム。
【0011】
本発明のシステムの好ましい実施形態は、以下に関する。
(7)前記膜モジュールの内側のコンパートメントと外側のコンパートメントが、管状膜で分離されている、項(6)に記載の体外循環回路システム。
(8)前記一次回路が、酸素供給器とポンプをさらに備える、項(6)または(7)に記載の体外循環回路システム。
【0012】
本発明の方法およびシステムの好ましい実施形態は、以下に関する。
(9)前記ガス透過膜が、シリコーン膜またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜である、項(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法および項(6)~(8)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
(10)前記CORMが金属カルボニル化合物である、項(1)~(5)および(9)のいずれか1項に記載の方法ならびに項(6)~(9)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
(11)前記CORMが、Mo(CO)3(CNCH2COOH)3(「Beck1」)、Mo(CO)3(CNCH2COONa)3(「Beck1-Na」)、CORM-ALF794、CORM-1、CORM-2、CORM-3およびCORM-401からなる群から選択される金属カルボニル化合物である、項(1)~(5)、(9)および(10)のいずれか1項に記載の方法ならびに項(6)~(10)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
(12)前記放出トリガー分子が、硫黄含有化合物、窒素含有化合物および酸化化合物からなる群から選択される、項(1)~(5)および(9)~(11)のいずれか1項に記載の方法ならびに項(6)~(11)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
(13)前記放出トリガー分子が、塩化鉄(III)(FeCl3)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、硫酸セリウム(IV)(Ce(SO4)2)、重クロム酸カリウム(K2Cr2O7)、塩化金(III)(AuCl3)および硝酸銀(AgNO3)からなる群から選択される酸化化合物である、項(1)~(5)および(9)~(12)のいずれか1項に記載の方法ならびに項(6)~(12)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
(14)前記放出トリガー分子の水溶液に前記CORMが添加されるか、前記CORMの水溶液に前記放出トリガー分子が添加される、項(1)~(5)および(9)~(13)のいずれか1項に記載の方法ならびに項(6)~(13)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
(15)前記体外循環回路システムが、心肺補助システムまたは透析システムの一部である、項(5)~(14)のいずれか1項に記載の体外循環回路システム。
【0013】
以下の詳細な説明において本発明を詳細に説明し、実施例1および実施例2においてさらに具体的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において「エクスビボの流体」は、対象の体外において一酸化炭素が投与される流体を意味する。
【0015】
エクスビボの流体は、たとえば、対象からの血液であってもよく、本発明の方法を使用して対象の生体の外で(すなわち体外で)一酸化炭素を投与した後、本発明のシステムにより循環させ、該対象の血液循環に戻される。本明細書において「対象」は、動物を意味し、より具体的にはサル、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマなどの哺乳動物、またはヒト患者を意味する。
【0016】
さらに、エクスビボの流体は、たとえば手術中などに対象に投与される灌流液であってもよい。このような目的に適した灌流液は、当業者に公知である。本発明での使用に適した灌流液は、たとえば等張生理食塩水である。
【0017】
本発明の方法およびシステムにおいて、対象からの血液はエクスビボの流体として好ましい。
【0018】
本発明において「一酸化炭素放出分子(CORM)」は、CO放出トリガー化合物と反応して一酸化炭素(CO)を放出する化合物を意味する。本発明の方法およびシステムに有用な一酸化炭素放出化合物は、後で詳しく説明する。
【0019】
本発明において「放出トリガー分子」(「トリガー分子」または「トリガー化合物」とも呼ぶ)は、一酸化炭素放出分子と反応して、この一酸化炭素放出分子から一酸化炭素を放出させる化合物を意味する。本発明の方法およびシステムにおいて有用なトリガー分子については、後で詳しく説明する。
【0020】
本明細書において「CO含有溶液」は、一酸化炭素ガスを含有する溶液、通常、一酸化炭素ガスを含有する水溶液である。このような一酸化炭素ガスは、一酸化炭素放出分子(CORM)を放出トリガー分子と反応させることによって発生させる。したがって、CO含有溶液は、少なくとも、CORMと放出トリガー化合物の間のCO放出反応が完了する前は、CORMと放出トリガー化合物を含む。
【0021】
本明細書において「体外」は、生体の外を意味する。当然のことながら、この用語は、本発明の体外循環回路システムが、カニューレを介して対象の血流に接続されていることを除外するものではない。
【0022】
本発明において「体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)」は、本発明の方法およびシステムにおいて、ガスを透過するが液体や固体は透過性しない膜を通して、CO含有溶液からエクスビボの流体、好ましくは対象の血液中へとCOを投与することができるシステムを指す。
【0023】
前記目的を達成するため、体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)は、このシステムの主要な機能部品として、膜モジュールを備え、この膜モジュールは、シリコーン膜モジュールであることが好ましい。管状膜(好ましくはシリコーン製の管状膜)によって、外側のコンパートメントと内側のコンパートメントとが分離される。外側のコンパートメントは、通常、エクスビボの流体、すなわち対象の血液または灌流液、好ましくは対象の血液を収容する。内側のコンパートメントは、通常、CORMを放出トリガー化合物と反応させてCOを発生させる場となる溶液を収容する。膜モジュールの外側のコンパートメントと内側のコンパートメントを分離するため、複数本の管状膜(10000本以下、好ましくは5000本以下、より好ましくは2000本以下の管状膜)を使用することが好ましい。したがって、膜モジュールにおいて使用する管状膜は、中空繊維であることが好ましい。
【0024】
ECCORSは、本発明の体外循環回路システムに組み込まれており、膜モジュールの外側のコンパートメントは、対象の血液循環に接続された一次回路に接続されており、膜モジュールの内側のコンパートメントは、CO放出トリガー分子の溶液またはCORMの溶液が循環する二次回路に接続されている。二次回路内でCOを発生させるため、放出トリガー分子の溶液にCORMを添加するか、CORMの溶液に放出トリガー分子を添加する。したがって、二次回路は、体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)の一部であり、かつ本発明の体外循環回路システムの一部である。
【0025】
本明細書で述べる「体外循環回路システム」は、本発明の方法を使用することによって、対象の体外において該対象の血液中にCOを投与することができ、該対象の生体へと血液を再循環させることができ、エクスビボの流体へのCO投与をモニターすることができる。
【0026】
体外循環回路システムの一次回路において、血液はチューブ内を循環する。循環は、本発明の体外循環回路システムの一次回路の一部であるポンプを用いて行われる。
【0027】
本発明のシステムにおいて、対象の血液は、本発明の方法およびシステムを使用して体外でCOを投与した後、該対象の体内に再循環させることができる。COが添加された対象の血液の再循環は、本発明の体外循環回路システムの一次回路を対象の血管(静脈および/または動脈)に接続したカニューレを使用して行うことができる。また、本発明の方法に含まれるモニタリング工程(分析工程)によって、COの投与を制御し、過剰投与を防ぐことができる。
【0028】
本発明の体外循環回路システムの一次回路は、体外において対象からの血液の酸素濃度を上昇させ、かつCO2を血液中から取り除くための酸素供給器をさらに備えることが好ましい。酸素供給器は、外部生命維持が必要な場合(たとえば心臓手術中)に、対象の肺機能の代替または補助として必要とされる。
【0029】
本発明のシステムの二次回路において、COは、通常、水溶液中で発生される。水溶液中におけるCOの発生は、CO放出トリガー化合物の水溶液にCORMを添加することによって、あるいはCORMの水溶液にCO放出トリガー化合物を添加することによって達成することができる。一方の化合物の水溶液に添加される他方の化合物も水溶液の状態であってもよいことは言うまでもない。
【0030】
ポンプ(好ましくはチューブポンプ)を使用して、生成したCO含有溶液を二次回路内に循環させる。二次回路は、本発明のシステム内の超過圧力を防ぐため、少なくとも1つの気密バッグを備えることが好ましく、少なくとも2つの気密バッグを備えることが好ましい。たとえば、放出トリガー化合物の水溶液にCORMを少量ずつ添加することによって、COの放出を制御することができる。これを達成するため、放出トリガー化合物の水溶液を収容する二次回路は、通常、CORMの注入口を備える。このCORMの注入口を備えていることから、CORMを少量ずつ添加することが可能になり、本発明のシステムへの一酸化炭素の放出を制御することが可能になる。
【0031】
本発明の体外循環回路システムでは、前述の2つの回路が分離していることから、対象の血流から独立して制御下でCOを発生させることができる。体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)に設けられた膜モジュール内において、ガスを透過するがそれ以外の成分は透過しない膜を介して、本発明の体外循環回路システムを2つの回路に分離することによって、体外でCOを添加した対象の血液を該対象の血流に再循環させる際に、臓器を虚血再灌流障害から保護することができる。
【0032】
本発明の方法およびシステムにおいてCOを発生させるには、CORMと放出トリガー化合物の間で反応を起こすことが必要である。
【0033】
本発明の方法およびシステムにおいて使用されるCO放出分子(CORM)は、金属カルボニル化合物であることが好ましい。金属カルボニル化合物は、たとえば、Rh、Ti、Os、Cr、Mn、Fe、Co、Mo、Ru、W、ReおよびIrからなる群から選択される元素の錯体を含む。金属カルボニル化合物は、Rh、Mo、Mn、FeおよびRuからなる群から選択される元素の錯体を含むことがより好ましく、Rh、Fe、MnおよびMoからなる群から選択される元素の錯体を含むことがさらにより好ましい。金属カルボニル化合物は、金属中心に配位したCO基を含むことから、錯体と見なしてもよい。しかし、これらの金属は、配位結合以外のイオン結合や共有結合などによって別の基に結合していてもよい。したがって、金属カルボニル化合物の一部を形成するCO以外の基は、孤立電子対を介して金属中心に配位するという意味において、厳密に「リガンド」である必要はないが、参照の便宜上、本明細書では「リガンド」と呼ぶ。
【0034】
したがって、金属に配位したリガンドは、すべてカルボニルリガンドであってもよい。あるいは、カルボニル化合物は、COではないリガンドを少なくとも1つ含んでいてもよい。COではないリガンドは、通常、中性リガンドまたはアニオン性リガンドであり、たとえばハライドであるか、ルイス塩基由来のN、P、OまたはSを有するか、配位原子として共役した炭素基である。配位原子としては、N、OおよびSが好ましい。カルボニルリガンドの例としては、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;グリシン、システイン、プロリンなどの天然アミノ酸、合成アミノ酸およびこれらの塩;NEt3およびH2NCH2CH2NH2などのアミン;ビス-2,2’-ピリジル、インドリン、ピリミジン、シチジンなどの芳香族塩基およびその類似体;ビリベルジンやビリルビンなどのピロール;YC-1(2-(5’-ヒドロキシメチル-2’-フリル)-1-ベンジルインダゾール)などの薬物分子;EtSHやPhSHなどのチオールおよびチオレート;塩化物、臭化物およびヨウ化物;ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩などのカルボン酸塩;Et2Oやテトラヒドロフランなどのエーテル;EtOHなどのアルコール;ならびにMeCNなどのニトリルが挙げられるが、これらに限定されない。その他の使用可能なリガンドとして、ジエンなどの共役炭素基、たとえばシクロペンタジエン(C5H5)または置換シクロペンタジエンが挙げられる。置換シクロペンタジエンの置換基は、たとえば、アルカノール、エーテルまたはエステルであってもよく、たとえば-(CH2)nOH(式中、nは1~4である)であってもよく、特に-CH2OH、-(CH2)nOR(式中、nは1~4であり、Rは炭化水素、好ましくは炭素数1~4のアルキルである)および-(CH2)nOOCR(式中、nは1~4であり、Rは炭化水素、好ましくは炭素数1~4のアルキルである)であってもよい。このようなシクロペンタジエンカルボニル錯体または置換シクロペンタジエンカルボニル錯体中の金属としてFeが好ましい。
【0035】
本発明の方法およびシステムにおいて、一酸化炭素放出分子として、Mo(CO)3(CNCH2COOH)3(「Beck1」)、Mo(CO)3(CNCH2CONaO)3(「Beck1-Na」)、Mo(CO)3(CNC(CH3)2COOH)3、CORM-ALF794、CORM-1、CORM-2、CORM-3、またはCORM-401を使用することが好ましい。本発明における使用に特に好ましいものは、Mo(CO)3(CNCH2COOH)3(「Beck1」)である。「Beck1」化合物は、D. Achatz et al., “Carbonyl-Komplexe von Chrom, Molybdaen und Wolfram in Isocyanacetat. Reaktionen am koordinierten Isocyanacetat. Stabilisierung von Isocyanessigsaeure und Isocyanacetylchlorid am Metall. Isocyanopeptide [1]”, Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie, 631 (2005), 2339-2346に開示されている。その他の化合物はWO2016/110517(A1)に開示されている。
【0036】
また、本明細書において、WO2008/130261(A1)および米国特許公開第2007/0219120(A1)号明細書を明示的に援用する。これらの文献には、本発明の方法およびシステムに使用可能なCO放出分子が記載されているが、これらのCO放出分子は本発明において好ましいものではない。これらの文献には、式I
【化1】
(式中、R
1、R
2およびR
3は、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、置換アルキルヘテロシクリル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール(炭素原子の数はそれぞれ1~12または1~6である)、ヒドロキシル、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、置換ヘテロアリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、F、Cl、Br、NO
2およびシアノからそれぞれ独立して選択されるか、R
1、R
2およびR
3のうちの2つ以上が一緒になって、置換炭素環構造、無置換炭素環構造、置換複素環構造、無置換複素環構造、またはこれらの誘導体を形成し、前記置換基において炭素原子の数は1~12または1~6である)で示されるアルデヒドが開示されており、このアルデヒドは、本発明の方法およびシステムにおいてガス放出分子として使用することができる。
【0037】
本発明において、式Iの化合物の誘導体もガス放出分子として使用することができ、式Iの化合物の誘導体としては、アセタール、ヘミアセタール、アミノカルビノール、アミナール、イミン、エナミノン、イミダート、アミジン、イミニウム塩、亜硫酸水素ナトリウム付加物、ヘミメルカプタール、ジチオアセタール、1,3-ジオキセパン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキセタン、α-ヒドロキシ-1,3-ジオキセパン、α-ヒドロキシ-1,3-ジオキサン、α-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン、α-ケト-1,3-ジオキセパン、α-ケト-1,3-ジオキサン、α-ケト-1,3-ジオキソラン、α-ケト-1,3-ジオキセタン、大環状エステル/イミン、大環状エステル/ヘミアセタール、オキサゾリジン、テトラヒドロ-1,3-オキサジン、オキサゾリジノン、テトラヒドロ-オキサジノン、1,3,4-オキサジアジン、チアゾリジン、テトラヒドロ-1,3-チアジン、チアゾリジノン、テトラヒドロ-1,3-チアジノン、イミダゾリジン、ヘキサヒドロ-1,3-ピリミジン、イミダゾリジノン、テトラヒドロ-1,3-ピリミジノン、オキシム、ヒドラジン、カルバゾン、チオカルバゾン、セミカルバゾン、セミチオカルバゾン、アシルオキシアルキルエステル誘導体、O-アシルオキシアルキル誘導体、N-アシルオキシアルキル誘導体、N-マンニッヒ塩基誘導体またはN-ヒドロキシメチル誘導体が挙げられる。
【0038】
また、本発明におけるガス放出分子は、たとえば、トリメチルアセトアルデヒド、2,2-ジメチル-4-ペンテナール、4-エチル-4-ホルミル-ヘキサンニトリル、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロパナール、2-ホルミル-2-メチル-プロピルメタノエート、2-エチル-2-メチルプロピオンアルデヒド、2,2-ジメチル-3-(p-メチルフェニル)プロパナールまたは2-メチル-2-フェニルプロピオンアルデヒドであってもよい。
【0039】
本発明の方法およびシステムにおいて、シュウ酸塩、シュウ酸エステルまたはシュウ酸アミドも一酸化炭素放出分子として使用することができるが、これらは好ましいものではない。
【0040】
さらに、本発明において、好ましくはないものの、カルボキシボラン、カルボキシボランエステルまたはカルボキシボランアミドも一酸化炭素放出分子として使用することができる。このようなガス放出分子は、WO2005/013691(A1)に具体的に記載されている。したがって、本発明の一実施形態では、BHx(COQ)yZz(式中、xは1、2または3であり、yは1、2または3であり、zは0、1または2であり、x+y+z=4であり、QはそれぞれO-(カルボン酸のアニオンを表す)であるか、OH、OR、NH2、NHR、NR2、SRまたはハロゲンであり(Rはそれぞれ(好ましくは炭素数1~4の)アルキルである)、Zはそれぞれハロゲン、NH2、NHR’、NR’2、SR’またはOR’である(R’はそれぞれ(好ましくは炭素数1~4の)アルキルである))で示される化合物が、ガス放出分子として用いられる。より好ましくは、式中、zは1であり、yは1であり、かつ/またはxは3である。一実施形態では、式中、少なくとも1つのQはO-またはORであり、化合物の組成中に少なくとも1つの金属カチオンを含み、この金属カチオンはアルカリ金属カチオンまたは土類金属カチオンであることが好ましい。
【0041】
ガス放出分子としてボロンカルボキシレートを使用する場合、Na2(H3BCO2)が最も好ましく、これはCORM-A1としても知られている。
【0042】
CO放出分子は、放出トリガー化合物と接触すると、COを放出する。したがって、「接触」は、ガス放出分子とトリガー化合物の間で反応が起こり、一酸化炭素放出分子から一酸化炭素を放出させることができることを意味する。
【0043】
放出トリガー化合物は、たとえば、硫黄含有化合物、窒素含有化合物、酸化化合物、酸、塩基または水であってもよい。
【0044】
一酸化炭素放出分子が、本発明において一酸化炭素放出分子として好ましい金属カルボニル化合物である場合、トリガー化合物は、カルボニルを置換するリガンド、たとえば硫黄含有化合物または窒素含有化合物であることが好ましい。硫黄含有化合物は、たとえば、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選択することができ、亜硫酸、亜ジチオン酸もしくはメタ重亜硫酸のナトリウム塩、またはシステインやグルタチオンなどの少なくとも1つのチオール部分を有する化合物であることが好ましい。
【0045】
本発明の方法およびシステムにおいてトリガー化合物として有用な酸化化合物、特に、前述の好ましい金属カルボニル化合物からのCOの放出を誘発するための酸化化合物としては、過酸化物、過ホウ酸塩、過炭酸塩、および硝酸塩が挙げられ、その中でも、過酸化カルシウム、過酸化ジベンゾイル、過酸化水素尿素、過ホウ酸ナトリウムおよび過炭酸ナトリウムが好ましい。さらに、一酸化炭素放出分子から、特に前述の好ましい金属カルボニル化合物からCOの放出を誘発するために使用可能なものとして、塩化鉄(III)(FeCl3)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、硫酸セリウム(IV)(Ce(SO4)2)、重クロム酸カリウム(K2Cr2O7)、塩化金(III)(AuCl3)、硝酸銀(AgNO3)などの酸化金属塩が挙げられる。酸化金属塩としては、塩化鉄(III)、過マンガン酸カリウム、および硫酸セリウム(IV)が好ましい。
【0046】
酸としては、たとえば、クエン酸を使用することができる。一実施形態において、トリガー化合物は非酵素系化合物である。また、トリガー化合物は、水または溶媒であってもよい。水と接触して一酸化炭素を放出するガス放出分子としては、ALF186が好ましい。
【0047】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、一酸化炭素放出分子としての金属カルボニル化合物およびトリガー化合物としての硫黄含有化合物または別の電子求引性化合物に関して、たとえば、このトリガー化合物が金属カルボニル化合物に接触すると、リガンドの置換が起こり、ガスの放出が誘発されると考えられる。また、金属カルボニル化合物が酸化性のトリガー化合物に接触すると、金属カルボニル化合物中の金属が酸化されて、金属カルボニル化合物が分解し、COを放出すると考えられる。
【0048】
本発明の方法およびこの方法において使用されるシステムにおいて、トリガー化合物は通常、水溶液の状態で提供される。たとえば、酸化金属塩をトリガー化合物として使用する場合、水相中の金属塩の濃度は、通常、0.01~20mol/lの範囲、好ましくは0.02~15mol/lの範囲、特に好ましくは0.05~10mol/lの範囲である。水溶液中の酸化塩の濃度が高いほど、一酸化炭素放出分子に対する酸化効果は強くなり、COの放出速度が上昇する。このように、トリガー化合物の水溶液にCORMを添加して、一酸化炭素を発生させる。トリガー化合物の水溶液に添加されるCORMも水溶液の形態であることが好ましく、CORMの濃度は、その水溶解度にもよるが、通常、0.01~2mol/Lの範囲、好ましくは0.05~1.5mol/Lの範囲、より好ましくは0.01~1mol/Lの範囲である。
【0049】
本発明の方法およびシステムの好ましい実施形態では、FeCl3をトリガー化合物として提供し、Beck1を一酸化炭素放出分子として提供する。FeCl3は、1~10mol/L、好ましくは1.5~7.5mol/L、より好ましくは2~5mol/Lの濃度の水溶液として提供する。また、Beck1も、0.01~1mol/L、好ましくは0.05~0.5mol/Lの濃度の水溶液として提供し、トリガー化合物の水溶液に添加する。別の一実施形態では、FeCl3の代わりに、Ce(SO4)2を(FeCl3と同じ濃度の水溶液の形態で)トリガー化合物として使用することができる。
【0050】
しかしながら、本発明の方法およびシステムでは、前述したとおり、CORMの水溶液にトリガー化合物を添加して一酸化炭素を発生させることもできる。通常、前述したような水溶液の形態のトリガー化合物を、CORMの水溶液に添加する。この場合、CORM水溶液およびCO放出トリガー化合物水溶液の濃度は、前記と同様とすることができる。
【0051】
本発明の方法の工程(ii)では、本発明の方法の工程(i)で発生させたCOを、ガス透過膜を通してエクスビボの流体に接触させることによって、COをエクスビボの流体に投与する。前述のとおり、通常、水溶液中でCORMとCO放出トリガー化合物を反応させることによってCOを発生させる。
【0052】
本発明の方法およびシステムで使用される「ガス透過膜」は、ガスを透過するが、液体や固体は透過しない。このようなガス透過膜は、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン)、シリコーン、ブチルゴム、酢酸セルロース、セラミック、ジメチルシリコーンゴム60、エチルセルロース、フルオロシリコーン、Kel F、ラテックス、メチルセルロース、金属有機構造体膜(たとえばChem. Soc. Rev., 2014, 43, 6116-6140参照)、マイラー、天然ゴム、ニトリルシリコーン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、塩化ビニリデン-塩化ビニルおよびゼオリスからなる群から選択される1種以上の材料を含む。このような膜はWO2016/110517(A1)にも記載されている。シリコーンおよびポリテトラフルオロエチレンが膜材料として好ましく、シリコーンが特に好ましい。
【0053】
本発明において、COは、通常、水溶液中においてトリガー分子と反応した一酸化炭素放出分子から発生するが、ガスを透過するが液体や固体は透過しない膜を本発明において使用することによって、CORMまたはトリガー分子の固体や溶解残渣がエクスビボの流体に接触することなく、血液や灌流液などのエクスビボの流体にCOを投与することができる。したがって、CORMとトリガー分子の反応から生じた毒性を発揮しうる固体残渣は、COが発生した溶液中に留まり、エクスビボの流体を汚染することはない。これによって、最終的に、たとえば、対象の体内の血液循環へと血液を再循環させたり、灌流液中に保存されたエクスビボの臓器を対象の体内へと移植したりすることが可能になる。
【0054】
CORMをトリガー化合物に添加する操作またはトリガー化合物をCORMに添加する操作のいずれにおいても、CORMおよびトリガー化合物の目的に応じた注入動態によって、COの発生を制御することが可能であり、その結果、ガス透過膜を通した血液または灌流液へのCOの投与を制御することが可能になる。治療用のCOHbの血中濃度は、血中総ヘモグロビンに対して10±4%の範囲である。移植前に臓器または組織を保存するための灌流液中における適切なCO濃度は、20~200μMの範囲である。
【0055】
本発明の方法は、工程(ii)においてエクスビボの流体にCOを投与した後、工程(iii)において、相互補完的モニタリング技術により、一酸化炭素および/または一酸化炭素マーカーを分析する必要がある。本発明の方法におけるこの工程により、対象の全身CO濃度を常時測定することが可能になり、したがって、制御下において、エクスビボの流体、特に対象の血液中へのCOの投与が可能になり、COが投与された血液は次いで対象の血液中に(再)循環させることができる。一酸化炭素マーカーは、たとえばCOHb(カルボキシヘモグロビン)である。
【0056】
本発明の方法の工程(iii)においてCOの投与を分析するための相互補完的モニタリング方法には、以下のものが含まれる。
(a)血液ガス分析によるCOHbの測定:本発明の方法および/またはシステムを使用して、対象の体外でCOを投与した血液または灌流液を対象に投与した後、本発明の方法によってCOを投与した体外血液から得た対象の血液試料中(通常、患者または本発明の体外循環回路システムの一次回路から採取された血液試料0.1~0.5mL中)のCOHbをCOマーカーとして測定することができる。通常、血中総ヘモグロビンに対して、COHbの濃度は10±3%以下とする。血液ガス分析によるCOHb測定は、本明細書の実施例で説明している(Roth, D., et al., Ann. Emerg. Med. 2011, 58(1), 74-79も参照されたい)。
(b)対象の呼気中CO濃度:本発明の方法および/またはシステムを使用して、対象の体外でCOを投与した血液または灌流液を対象に投与した後、対象から吐き出された呼気から対象のCO濃度を求めることができる。通常、対象の呼気中のCOの閾値濃度は250ppm以下とする。呼気中のCO濃度の測定は、本明細書の実施例で説明している。
(c)酸素供給器の排気中CO濃度:本発明の方法および/またはシステムを使用して、対象の体外でCOを投与した血液または灌流液を対象に投与した後、本発明のシステムの一部である酸素供給器の排気から対象のCO濃度を定量することができる。通常、酸素供給器の排気中のCOの閾値濃度は100ppm以下とする。対象の呼気中のCO濃度の測定は、本明細書の実施例で説明している。
(d)パルスオキシメトリーによるCOHbの分析:本発明の方法および/またはシステムを使用して、対象の体外でCOを投与した血液または灌流液を対象に投与した後、パルスオキシメトリーによるCOHbの分析により、対象のCO濃度を定量することができる。しかしながら、パルスオキシメトリーによるCOHbの定量は、48%と感度が低いことから[M. Touger et al. (2010) Performance of the RAD-57 pulse CO-oximeter compared with standard laboratory COHb measurement. Ann. Emerg. Med. 56:382-388. Doi: 10.106/j.annemergmed.2010.03.041]、対象の血液にCOを投与後に、信頼性を持ってCO濃度をモニターするにはあまり適切な方法とは言えない。本明細書の実施例では、パルスオキシメトリーによるCOHbの測定と血液ガス分析によるCOHbの測定の間の相関が低いことが実証されている。したがって、パルスオキシメトリーによるCOHbの分析は、本発明において対象の血液中にCOを投与した後にCO濃度をモニターするための方法として単独で使用することは好ましくなく、(a)~(c)の方法の少なくとも1つと組み合わせて使用することが好ましい。
【0057】
本発明のシステムは、前述の(a)~(d)の分析方法を実施するための各分析手段を備えている。
【0058】
本発明の方法において、体外一酸化炭素放出システムによるCOの送達量を、確実にモニターし制御するために、前述の(a)~(d)の分析操作を組み合わせることが望ましい。相互補完的な分析方法とは、エクスビボの流体、特に対象の血液中にCOを投与した後に、((a)および/または(d)による)対象の血液試料中におけるCOHbの測定、((b)による)対象の呼気中におけるCO濃度の測定、および((c)による)酸素供給器の排気中におけるCO濃度の測定のうちの少なくとも2種を使用して、COおよび/または一酸化炭素マーカーを分析することを意味する。このようにして、対象の血液中のCO濃度の測定ができ、過剰投与時の安全対策を開始することができる。
【0059】
エクスビボの流体、特に対象の血液中のCO含量を求めるにあたり、前記方法のうちの3種以上を用いることが好ましい。本発明の方法およびシステムにおいて、(a)~(d)の4種すべての相互補完的モニタリング技術を用いて、全身のCO濃度を常時評価することが特に好ましい。次に、前記分析により得られたデータを、目標値と実測値の比較により処理し、CO放出速度を制御することによって、対象の全身のCO濃度、具体的には本発明のシステムに血液循環が接続されたヒト患者の全身のCO濃度を制御する。予期しない過剰投与が起こった場合、本発明のシステムを緊急バイバスへ迂回させることができる。
【0060】
ECCORSを使用したCO送達の安全性と効果は、全身のCO濃度を予測するためのモニタリングパラメーターとして評価される前記パラメーターの分析精度、正確度および精度に大きく依存する。本発明の方法の工程(iii)によるCOモニタリングの分析力をさらに向上させるため、機械学習によるアプローチを構築した。このアプローチをリアルタイムのCOモニタリングパラメーターの処理に適用することによって、COの予測濃度値を求め、次いでフィードバックループを修正することができる。実施例2において詳述するような、ランダムフォレスト回帰を使用して求めたこのアプローチの変数により、本発明の送達方法における分析力を向上させることができるため、本発明の概念を臨床へ移行させる意義を顕著に向上させることができる。
【0061】
一酸化炭素および/または一酸化炭素マーカーの分析結果に基づき、本発明の方法の工程(iv)において、必要に応じ、エクスビボの流体への一酸化炭素の投与量が調節される。
【0062】
つまり、必要とされるCO濃度にまだ達していなければ、より多くの量のCORMをCO放出トリガー化合物に添加するか、より多くの量のCO放出トリガー化合物をCORMに添加することによって、COの放出を増加させる。特に、意図しない過剰投与が起こった場合、本発明の方法において使用される本発明のシステムは、体外補助を継続しつつも、血液中のCO濃度の上昇を止めるため、体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)を自動的にバイバスに迂回させる安全機構を備える。過剰なCOは、酸素供給器へのスイープガスの流量を増やすことによって、生体から除去することができる。COの治療濃度域は狭いことから、治療効果があるとされる量(すなわちCOHb濃度10±4%)でCOが全身投与される救急医療用途において、このような対策は極めて重要である。したがって、所定の閾値(たとえば、COHb濃度13%、呼気中CO濃度250ppm、酸素供給器の排気中CO濃度100ppm)を超えた場合、CO送達システムはバイパスに迂回されて、直ちにCOの供給が停止され、全身のCO濃度は無毒な濃度のまま制限される。
【0063】
本発明の方法およびシステムの一実施形態において、CO放出トリガー物質の注入を制御することによって、体外一酸化炭素放出システムから全身へのCOの送達を調節する。フィードバックアルゴリズムを含むフィードバックループにより注入が制御され、このフィードバックアルゴリズムには、入力パラメーターとしての(a)血液ガス分析によるCOHbの測定、(b)呼気中のCOの測定および(c)酸素供給器の排気中のCOの測定と、(d)パルスオキシメトリーによるCOHbの分析とを利用したPID制御(比例・積分・微分制御)が含まれるが、これに限定されない。したがって、所望のCOHb濃度を所望の範囲内になるように自動で維持することができる。モニタリングパラメーターのすべてまたはその一部が所定の閾値を超えた場合、体外一酸化炭素放出システムを自動または手動でバイパスに迂回させることができる。
図4は、本発明の体外循環回路システムに接続された体外一酸化炭素放出システムの、アルゴリズムによる制御の一例を示す。
【0064】
結論として、本発明は、対象の体外において、制御下でCOを放出し、エクスビボの流体、特に対象の血液にCOを投与することが可能な方法およびシステムであって、相互補完的モニタリング技術を使用してCOまたはCOマーカーを分析することにより、毒性を発揮するような高濃度のCOになることを防止することができる方法およびシステムを提供する。ガスを透過するが液体や固体は透過しない膜を通してエクスビボの流体にCOを投与することによって、一酸化炭素放出分子とトリガー分子の反応から生じる固体および溶解残渣によるエクスビボの流体の汚染を防ぐことができる。
【0065】
したがって、対象の体外において、制御下で該対象の血液にCOを投与することができ、次いで、COを添加した血液を該対象の血流へと再循環させることができる本発明のシステムは、たとえば体外生命維持装置(ECLS)、体外式膜型人工肺(ECMO)、または人工心肺装置などの心肺補助装置、または透析において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1A】体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)の一部である膜モジュールの概略図を示す。
【
図1B】体外生命維持システムの動静脈回路の一例における体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)の適用の概略図を示す。
【
図2】血液ガス分析(BGA)によって測定したCOHb(%)、パルスオキシメトリー(SpCO)で測定したCOHb(%)、肺から吐き出された一酸化炭素の濃度(ppm)、および酸素供給器から排出された一酸化炭素の濃度(ppm)の時間経過を示す。仮死状態の開始時(t=0)からのECCORSによる処置の平均開始時間は、t=24.2±4.7分である。N=7;平均±SDで示す。
【
図3】(A)は、肺から吐き出されたCOの濃度に対してプロットした血液ガス分析(BGA)で測定したCOHbの濃度の散布図と両者の相関を示し、相関係数は、R
2=0.43である。(B)は、酸素供給器から排出されたCOの濃度に対してプロットした血液ガス分析(BGA)で測定したCOHbの濃度の散布図と両者の相関を示し、相関係数はR
2=0.59である。(C)は、パルスオキシメトリーにより非侵襲的に測定したSpCO濃度に対してプロットした血液ガス分析で測定したCOHbの測定値の散布図と両者の相関を示し、相関係数はR
2=0.37である。
【
図4】本発明の体外循環回路システムに接続された体外一酸化炭素放出システムの、アルゴリズムによる制御の一例を示す。4種の相互補完的モニタリング技術、すなわち、血液中のCOHb分析(オフライン)、パルスオキシメトリーによるCOHb分析、呼気中のCOの定量、および酸素供給器の排気中のCOの定量を使用して、全身のCO濃度を継続的に評価する。これらのパラメーターの目標値と実測値を比較することによって、(i)CO放出速度を制御し、それにより患者の全身CO濃度を制御し(体外一酸化炭素放出システムにおける放出トリガーとCO放出分子の間の動態のPID制御(比例・積分・微分制御)による調節を含むが、これに限定されない)、(ii)予期しない過剰投与が起こった場合には体外一酸化炭素放出システムを緊急バイバスに迂回させる。
【
図5】呼吸器パラメーター、酸塩基パラメーターおよび血行動態パラメーター(パルスオキシメトリーで測定したCOHb(SpCO);吸入酸素濃度(FiO
2);体外生命維持装置(ECLS);肺毛細血管楔入圧(PCWP);全身血管抵抗(SVR))を含む、COHbの予測に影響を及ぼすパラメーター間のピアソンの相関係数(r)(絶対値)のヒートマップを示す。
【
図6】全身のCO濃度のリアルタイム分析を行う際の分析精度を向上させるため、
図3に示した連続モニタリングパラメーターをランダムフォレスト回帰で処理し、ランダム5分割交差検証法で解析した。COHbの実測値に対してCOHbの予測値をプロットしている。A)3種の連続リアルタイムパラメーターを示し、B)酸素供給器の排気中CO量[ppm]のみのプロットを示す。実線は完全予測を示し、破線は90%予測区間を示す。
【実施例】
【0067】
実施例1
本明細書で開示した方法およびシステムを、臨床ルーチンで容易に実施できるように設計した。本発明のシステムを開発後、ブタでの前臨床試験に汎用可能な体外循環回路システムとしてこのシステムを実際に使用することによって、臨床への移行の意義を実証する。体外生命維持装置用の体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)を備えた動静脈体外循環回路システムの適用の概略図を
図1Bに示す。
【0068】
フライブルク当局の承認を得た後、7匹のランドレース種のハイブリッドブタ(体重52±2kg)に麻酔をかけ(プロポフォール、フェンタニルおよびシサトラクリウムの持続点滴)、人工呼吸器に接続し、頸動脈と肺動脈へのカニューレ挿入による侵襲的血圧測定、心電図およびパルスオキシメトリーでモニターした。動静脈ECMO(体外式膜型人工肺)による処置を、以下のようにして無菌操作により行った。超音波ガイド下で大腿静脈にカニューレ(21フレンチのHLSカニューレ、Maquet社、ドイツ、ラシュタット)を挿入することにより静脈にアクセスし、Maquet社製(ドイツ、ラシュタット)の17フレンチのHLSカニューレを使用して大腿動脈への動脈流入を確立した。次に、従来の遠心ポンプヘッド(Revolution 5、Sorin社、イタリア、ローマ)、酸素供給器(EOS ECMO、Sorin社、イタリア、ローマ)、および相互接続用の3/8インチのチューブを使用して、ECMO回路(一次回路)を構成した。改良型コンソール(主要な部品:遠心ポンプシステム(SCP)コンソール、Sorin社、イタリア、ローマ)を使用して、このECMO回路を制御した。
【0069】
次に、ECCORSを酸素供給器と直列に接続し、一次ECMO回路に組み込んだ。ECCORSの主要な機能部品として、市販品であるPermSelect社製(イリノイ州アナーバー)のPDMSXA-1.0シリコーン膜モジュールを使用した。PDMSXAモジュール内のシリコーン製の管状膜(内径190μm、外径300μm)では、外側の血液収容コンパートメント(一次ECMO回路)と内側のCORM収容コンパートメント(二次回路)が分離されている。外側のコンパートメントは、一次ECMO回路の3/8インチのチューブに接続した(上記参照)。内側のコンパートメントは、15gのFeCl3を0.04Lの水に溶解した溶液を含む二次回路に接続した。二次回路のチューブは、CORMの注入口と、システム内の超過圧力を防ぐための2つの気密バッグ(リザーバーバッグ1L、Sorin社、イタリア、ローマ)とを備えていた。二次回路は、Cole-Parmer社製(イリノイ州バーノンヒルズ)のMasterflex Console Driveにより1/4インチのチューブ内を常時循環させた。
【0070】
図1Aに、体外一酸化炭素放出システム(ECCORS)の一部である膜モジュールの概略図を示す。COカートリッジに圧力がかかることに関する安全上の問題に対処するため、トリガー物質であるFeCl
3を含む鉄-CORM回路内にCO放出分子(CORM)であるBeck1を注入することによって、COをECCORS内で必要に応じて発生させる。COの発生後、COのみがECCORS内のガス透過性シリコーン中空繊維を透過して(その他の成分は透過しない)、体循環に送達される。モジュール内部のシリコーン中空繊維の表面によって、COHb濃度が一定となる。
【0071】
Beck1(Mo(CO)
3(CNCH
2COOH)
3)1gを水0.02Lに溶解した溶液を二次回路に注入することによって、COの放出を開始させる。さらに、Beck1のさらなる注入は、所望の目標に対するフィードバック測定、すなわち、
図2および
図3に詳細に示したモニタリングパラメーターに基づいて制御した(下記参照)。
【0072】
遊離のCOガスが、チューブ内を循環し、過剰なガスは、回路に接続された2つの不透過性ガスバッグリザーバーに収容されることから、チューブからなる閉ループ系においてCOを拡散させることが可能であった。このような構成であることから、COは、CORMから血液コンパートメントへと透過することができるが、非ガス成分の透過は膜により阻止された。
【0073】
2台のMX6 iBridTM(Industrial Scientific社、米国)測定装置を使用して、酸素供給器の排気中のCOと呼気中のCOを定量した。また、血液ガス分析(cobas b 123、エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社、スイス)と多波長パルスオキシメトリー(Rad-97、Massimo社、米国)によりCOHbを定量した。
【0074】
治療的CO濃度に到達後、呼気中のCO濃度と酸素供給器の排気中のCO濃度を含むオンラインモニタリングパラメーターを使用した厳密なフィードバック制御下において、ECCORSへのBeck1の注入を制御することにより、定常状態を維持した(
図2)。血液試料中のCOHbの分析はオフラインで行った(
図2参照)。この手法は、現在最も標準的な全身CO濃度の評価方法であり、自動オンライン測定(つまり、自動フィードバックループの実施(下記参照))を行うことはできない。
【0075】
パルスオキシメーター(連続式)でもCOHbの生成を測定したが、この手法は、主に、医療現場でファーストレスポンダーがCOHb濃度のおおよその値を知るために使用されていることから、このデータは、血液で分析されたCOHbと低い相関しか認められなかった(R
2=0.37、
図3C)。
【0076】
呼気中のCO濃度および酸素供給器の排気中のCO濃度を評価した。これらも血液試料中で分析したCOHbとの相関は低かった(それぞれR
2=0.43およびR
2=0.59であった;
図3Aおよび
図3B)。したがって、これら3種の連続的なCOモニタリング方法では、治療的濃度の確実な識別(CO-Hb濃度10%と毒性の閾値(たとえばCO-Hb16%)との区別)を行うのには適していない。これは、本発明により解決すべき課題の1つである。
【0077】
CORMの有毒成分、特に遷移金属が、組織または血液中において確認されないことがデータから明らかになった。採取した組織および血液中のモリブデンをICP-MSにより分析して、COの効果および残留CORM成分を分析した。血流から独立して制御下でCOを発生させることが可能となるように2つの回路を分離した。COのみを透過し、その他の成分は透過しない膜を使用して、2つの回路を分離することによって、有毒なCORM成分に臓器を暴露することなく、COを体外循環に投与することが可能となり、その結果、虚血再灌流障害から臓器を保護することができる。
【0078】
実施例2
全身のCOモニタリングプロトコルの分析力を向上させるため、機械学習を使用したアプローチを構築し、これを検証した。このアプローチでは、リアルタイムでCOのモニタリングパラメーターを処理し、次いでフィードバックループを修正するためのCO濃度の予測値を提供する。このプロトコルによって、本発明の送達方法における分析力を向上させることができるため、本発明の概念を臨床へ移行させる意義を顕著に向上させることができる。
【0079】
方法:Pythonのscikit-learnライブラリ(Pedregosa F, Ga, #235, Varoquaux l, Gramfort A, Michel V, et al. Scikit-learn: Machine Learning in Python. J Mach Learn Res. 2011;12:2825-30)で実行させるランダムフォレスト回帰(Breiman L. Random Forests. Machine Learning. 2001;45(1):5-32)を使用して、機械学習モデルを構築した。決定木の数は1000とした。このモデルの予測力を、ランダム5分割交差検証法と1標本抜き取り交差検証法で評価した。
【0080】
結果:インビボ研究において、複数のパラメーター(
図5参照)をプロットして分析した。相関性の評価では、肺のCO濃度、酸素供給器のCO濃度、およびSpCO(パルスオキシメトリーによるカルボキシヘモグロビンの測定値)が、COHb濃度の予測値に最も影響を及ぼす因子であることが確認された。R
2値は、肺のCO濃度に対するCOHb濃度ではR
2=0.43、酸素供給器のCO濃度に対するCOHb濃度ではR
2=0.59、およびSpCOに対するCOHb濃度ではR
2=0.37であった(
図3A、
図3B、
図3C参照)。
【0081】
分析方法の設定の正確度と精度を向上させるため、前述のパラメーターを使用して多元的COHb予測モデルを構築した。ランダム5分割交差検証法と1標本抜き取り交差検証法において、重回帰分析(MLR)の予測力をベースラインとして評価した。3つのパラメーターを使用した重回帰分析(MLR)モデルによるCOHb濃度の予測では、COHb濃度での平均絶対誤差(MAE)=2.36%およびQ
2値(交差検証法による予測結果のR
2)=0.45となり、予測性能はそれほど良くないことが示唆された(表1参照)。また、1標本抜き取り交差検証法では、平均絶対誤差=2.82%およびQ
2値=0.10となり、重回帰分析(MLR)モデルの性能が低いことが示された。COHb濃度の予測性能を向上させるため、ランダムフォレスト(RF)回帰を使用して非線形機械学習モデルを構築した。ランダムフォレスト回帰を使用した場合、ランダム5分割交差検証法では平均絶対誤差=1.35%およびQ
2値=0.79となり、1標本抜き取り交差検証法では平均絶対誤差=1.41%およびQ
2値=0.72となったことから、COHb濃度の予測力が向上したことが示された。ランダム5分割交差検証法では、90%予測区間がCOHb濃度で2.80%であることが示された(
図6A)。酸素供給器のCO濃度を唯一の入力パラメーターとしてランダムフォレスト回帰を繰り返したところ、ランダム5分割交差検証法では平均絶対誤差=2.16%およびQ
2値=0.52となり(
図6B)、1標本抜き取り交差検証法では平均絶対誤差=1.99%およびQ
2値=0.46となる予測モデルであることが示された。