(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】プロセスクロマトグラフィーにおける故障モード検出のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20231227BHJP
B01J 20/285 20060101ALI20231227BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20231227BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20231227BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231227BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20231227BHJP
C07K 1/18 20060101ALN20231227BHJP
C07K 1/20 20060101ALN20231227BHJP
C07K 1/22 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
G01N30/86 T
B01J20/285 N
B01J20/281 R
B01J20/285 S
B01J20/285 M
G01N30/86 E
G01N30/86 B
G01N30/74 E
G01N30/88 E
G01N30/04 C
G01N30/86 V
C07K1/18
C07K1/20
C07K1/22
(21)【出願番号】P 2020543543
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 US2019017942
(87)【国際公開番号】W WO2019161012
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-14
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン エル.マオ
(72)【発明者】
【氏名】スコット カーバー
(72)【発明者】
【氏名】バーンハード シリング
(72)【発明者】
【氏名】エリック シーリー
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/019814(WO,A1)
【文献】特開平07-120451(JP,A)
【文献】特開昭62-121359(JP,A)
【文献】特表2012-500390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
C07K 1/18 - 1/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィープロセスの機能不良を検出する方法であって、
(a)クロマトグラフィーカラムから参照クロマトグラムを生成すること、
(b)前記クロマトグラフィーカラムからプロセスクロマトグラムを生成すること、ここで前記プロセスクロマトグラムが、測定された吸光強度、最大吸光強度、および全体的体積ウィンドウを含む、
(c)前記プロセスクロマトグラムにおける非定型プロファイルを検出すること、ここで、前記非定型プロファイルは、前記クロマトグラフィープロセスの潜在的なまたは実際の機能不良を指し示し、
(i)前記参照クロマトグラム上の同等の位置と比較した場合の前記プロセスクロマトグラム上の追加のピーク、または
(ii)全体的体積ウィンドウの間の最大吸光強度を超える測定された吸光強度、ここで前記最大吸光強度は、少なくとも1つの参照クロマトグラムから推定される、を含む、
(d)前記非定型プロファイルが検出された場合に警告シグナルを生成すること、および
(e)前記クロマトグラフィーカラムの潜在的なまたは実際の機能不良が解消されるまで、前記クロマトグラフィープロセスを中止すること、
を含む、方法。
【請求項2】
(f)前記クロマトグラフィーカラムを再充填することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロマトグラフィープロセスが、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、または疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて使用するために好適なものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記クロマトグラフィープロセスの前記潜在的なまたは実際の機能不良がカラム劣化により引き起こされる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記追加のピークが、前記クロマトグラフィープロセス中の洗浄ステップの間に起こる、または前記追加のピークが前記クロマトグラフィープロセスの洗浄ステップの間に起こり、かつ前記洗浄ステップが、前記クロマトグラフィープロセス中の溶出ステップに先行する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加のピークの大きさが、前記クロマトグラフィープロセスの前記潜在的なまたは実際の機能不良の深刻度を指し示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記追加のピークの大きさの増加が、前記クロマトグラフィープロセスの前記潜在的なまたは実際の機能不良の深刻度の増加であることを指し示す、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記測定された吸光強度が、紫外(UV)光に対応する波長において決定される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定された吸光強度が、端点を含めて260ナノメートル(nm)~280nmの波長において決定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記最大吸光強度が、少なくとも0.05のA
260値またはA
280値を有し、ここで、前記A
260値は260nmの波長における前記測定された吸光強度を含み、および前記A
280値は280nmの波長における前記測定された吸光強度を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記参照クロマトグラムが、全体的体積ウィンドウの間の最大吸光強度を超えない測定された吸光強度を含み、かつ、前記最大吸光強度が、0.05以下のA
260値またはA
280値を有し、ここで、前記A
260値は260nmの波長における前記測定された吸光強度を含み、および前記A
280値は280nmの波長における前記測定された吸光強度を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記全体的体積ウィンドウが、端点を含めて1000L~2500Lの流出体積において起こり、ここで前記流出体積は、前記クロマトグラフィーカラムを通過する液体の体積を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記クロマトグラフィーカラムが陰イオン交換樹脂を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
参照クロマトグラムを生成する前記ステップ(a)およびプロセスクロマトグラムを生成する前記ステップ(b)が、
(1)複数の予備決定された分析物を含む出発組成物と、マトリックスを含む分離組成物とを、前記出発組成物の少なくとも1つの分析物が前記マトリックスに可逆的に結合するために充分な条件下で接触させ、ここで、前記クロマトグラフィーカラムが前記分離組成物を含み、分析物結合カラムおよび第1の廃棄物組成物を生成すること;
(2)(1)の前記分析物結合カラムおよび洗浄組成物を接触させ、前記出発組成物の前記少なくとも1つの分析物が前記マトリックスに結合したままとなり、精製された分析物結合カラムおよび第2の廃棄物組成物を生成すること;
(3)(2)の前記精製された分析物結合カラムおよび溶出組成物を接触させ、前記少なくとも1つの分析物が前記マトリックスから前記溶出組成物中に放出されて、溶出した分析物の組成物を生成すること;
(4)前記溶出した分析物の組成物を回収すること;
(5)ステップ(1)~(4)のそれぞれと同時に、前記第1の廃棄物組成物、前記第2の廃棄物組成物、および前記溶出した分析物の組成物のそれぞれを紫外(UV)光と接触させること、
(6)前記第1の廃棄物組成物、前記第2の廃棄物組成物、および前記溶出した分析物の組成物のそれぞれの前記UV光の吸光度を測定して、前記第1の廃棄物組成物、前記第2の廃棄物組成物、および前記溶出した分析物の組成物のそれぞれについて吸光度値を生成すること;ならびに
(7)前記クロマトグラフィーカラムを通過する液体の体積の関数として前記第1の廃棄物組成物、前記第2の廃棄物組成物、および前記溶出した分析物の組成物のそれぞれの前記吸光度値をプロットすることによりクロマトグラムを生成すること
を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記接触ステップ(5)および測定ステップ(6)が連続的である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記マトリックスが樹脂を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの分析物が生物学的組成物である、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記生物学的組成物が、ヒト対象の治療方法において使用するための治療用組成物である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生物学的組成物が、VEGF-Trapタンパク質を含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記警告シグナルがプロセッサーに電子的に伝達され、かつ、前記プロセッサーが前記クロマトグラフィーカラムに作動可能に連結されている、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロセッサーが前記警告シグナルを受信し、かつ前記クロマトグラフィーカラムの前記潜在的なまたは実際の機能不良が解消されるまで前記クロマトグラフィープロセスを中止しまたはさらなるクロマトグラフィープロセスの開始を防止する、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年2月15日に出願された米国特許出願第62/631,167号の利益を主張し、その内容は参照することにより全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、クロマトグラフィープロセスにおけるエラーのリアルタイム検出を含む、生物学的製品の精製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質クロマトグラフィー操作における故障モードの成功裡の時宜を得た同定は困難であり得るが、その理由は、故障モードがプログラムと関連付けられる各ユニット操作に特異的だからというだけでなく、自動的な検出方法が容易に利用可能でないからである。これは大規模製造において特に当てはまる。したがって、工程内の、拡張可能な故障モード検出のシステムおよび方法の長年にわたり望まれてきたが満たされていない必要性が存在する。本開示は、この必要性に対処してそれを解決するためのそのような新規のシステムおよび方法を提供する。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、自動化または半自動化された様式でプロセスクロマトグラムをモニターするためのシステムおよび方法を提供する。本開示の方法の一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウ(integral volume window)内の測定された吸光強度が、少なくとも1つの参照クロマトグラムから推定される最大吸光強度と比較され、この測定された吸光強度が、クロマトグラフィーマトリックスにおける不安定性を同定するために使用され、かつ、差し迫った故障を予測および/または同定することにより、方法は、任意の規模でのプロセス性能を向上させる。したがって、本開示は、クロマトグラフィープロセスにおける故障モード検出のために有用な方法およびデバイスを提供する。
【0005】
本開示は、クロマトグラフィープロセスにおいて機能不良を予測または検出する方法であって、(a)クロマトグラフィーカラムから参照クロマトグラムを生成すること、(b)クロマトグラフィーカラムからプロセスクロマトグラムを生成すること、および(c)プロセスクロマトグラムにおける非定型プロファイルを検出することを含み、非定型プロファイルが、クロマトグラフィープロセスの潜在的なまたは実際の機能不良を指し示す、方法を提供する。
【0006】
本開示の方法の一部の実施形態では、方法は、(d)警告シグナルを生成することをさらに含む。
【0007】
本開示の方法の一部の実施形態では、方法は、さらに(e)クロマトグラフィーカラムを再充填する。
【0008】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムは、イオン交換クロマトグラフィーにおいて使用するために好適なものである。
【0009】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムは、アフィニティークロマトグラフィーにおいて使用するために好適なものである。
【0010】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムは、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて使用するために好適なものである。
【0011】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィープロセスの潜在的なまたは実際の機能不良はカラム劣化により引き起こされる。一部の実施形態では、カラム劣化はカラムベッドの破損を含む。
【0012】
本開示の方法の一部の実施形態では、非定型プロファイルは、参照クロマトグラム上の同等の位置と比較した場合のプロセスクロマトグラム上の追加のピークを含む。一部の実施形態では、追加のピークは、クロマトグラフィープロセス中の洗浄ステップの間に起こる。一部の実施形態では、洗浄ステップは、クロマトグラフィープロセス中の溶出ステップに先行する。一部の実施形態では、追加のピークは洗浄ステップの間に起こり(occurring)、かつクロマトグラフィープロセス中の溶出ステップに先行する。
【0013】
非定型プロファイルが、参照クロマトグラム上の同等の位置と比較した場合のプロセスクロマトグラム上の追加のピークを含む実施形態といった、本開示の方法の一部の実施形態では、追加のピークの大きさは、クロマトグラフィープロセスの潜在的なまたは実際の機能不良の深刻度を指し示す。一部の実施形態では、追加のピークの大きさの増加は、クロマトグラフィープロセスの潜在的なまたは実際の機能不良の深刻度の増加を指し示す。一部の実施形態では、クロマトグラフィープロセスの機能不良は、クロマトグラフィーカラムの分離能力の損失を誘導する。
【0014】
非定型プロファイルが、参照クロマトグラム上の同等の位置と比較した場合のプロセスクロマトグラム上の追加のピークを含む実施形態といった、本開示の方法の一部の実施形態では、非定型プロファイルは、参照クロマトグラム上の同等の位置におけるピークまたはくぼみと比較した場合に減少した鋭さまたは減少した大きさを有するプロセスクロマトグラム上の少なくとも1つのピークまたは少なくとも1つのくぼみを含む。一部の実施形態では、減少した鋭さまたは減少した大きさを有するプロセスクロマトグラム上の少なくとも1つのピークまたは少なくとも1つのくぼみは、洗浄ステップの間に起こる。一部の実施形態では、減少した鋭さまたは減少した大きさを有するプロセスクロマトグラム上の少なくとも1つのピークまたは少なくとも1つのくぼみは、溶出ステップの後に起こる。
【0015】
非定型プロファイルが、参照クロマトグラム上の同等の位置と比較した場合のプロセスクロマトグラム上の追加のピークを含む実施形態といった、本開示の方法の一部の実施形態では、非定型プロファイルは、参照クロマトグラム上の同等の第1の位置におけるピークまたはくぼみと比較した場合にプロセスクロマトグラム上の減少した鋭さまたは減少した大きさを有する第1のピークまたは第1のくぼみおよび参照クロマトグラム上の同等の第2の位置におけるピークまたはくぼみと比較した場合にプロセスクロマトグラム上の減少した鋭さまたは減少した大きさを有する第2のピークまたは第2のくぼみを含む。一部の実施形態では、第1のピークまたは第1のくぼみは、溶出ステップの後に起こる。一部の実施形態では、第1のピークまたは第1のくぼみは、回収ステップの開始時に起こるくぼみに対応する。一部の実施形態では、第2のピークまたは第2のくぼみは、回収ステップの後に起こる。一部の実施形態では、第2のピークまたは第2のくぼみはストリップピークを含む。
【0016】
本開示の方法の一部の実施形態では、プロセスクロマトグラムは、測定された吸光強度、最大吸光強度、および全体的体積ウィンドウを含む。一部の実施形態では、非定型プロファイルは、全体的体積ウィンドウの間の最大吸光強度を超える測定された吸光強度を含む。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、紫外(UV)光に対応する波長において決定される。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、端点を含めて260ナノメートル(nm)~280nmの波長において決定される。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、260nmの波長において決定されて、A260値を提供する。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、280nmの波長において決定されて、A280値を提供する。一部の実施形態では、非定型プロファイルは、全体的体積ウィンドウの間の最大吸光強度を超える測定された吸光強度を含み、かつ、最大吸光強度は、少なくとも0.05のA260値またはA280値を有する。本開示の方法の一部の実施形態では、定型プロファイルは、全体的体積ウィンドウの間の最大吸光強度を超えない測定された吸光強度を含み、かつ、最大吸光強度は、0.05以下のA260値またはA280値を有する。
【0017】
本開示の方法の一部の実施形態では、非定型プロファイルおよび/または定型プロファイルの吸光強度の値は、先行するカラムプロセスの溶出ステップの間に測定される。一部の実施形態では、非定型プロファイルおよび/または定型プロファイルの吸光強度の値は、紫外(UV)光に対応する波長において決定される。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、端点を含めて260ナノメートル(nm)~280nmの波長において決定される。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、260nmの波長において決定されて、A260値を提供する。一部の実施形態では、測定された吸光強度は、280nmの波長において決定されて、A280値を提供する。一部の実施形態では、カラム劣化を指し示す非定型プロファイルを指し示す値の後にシグナルが送信される。
【0018】
本開示の方法の一部の実施形態では、非定型プロファイルおよび/または定型プロファイルの吸光強度の値は、先行するカラムプロセスの溶出ステップの間に測定される。一部の実施形態では、非定型プロファイルおよび/または定型プロファイルの吸光強度の値は、溶出ステップの間の溶出液のpHレベルを評価することにより決定される。一部の実施形態では、pH値が定型プロファイルから予測されるより高いことからpHは非定型プロファイルを指し示した。一部の実施形態では、pH値が定型プロファイルから予測されるより低いことからpHは非定型プロファイルを指し示した。一部の実施形態では、カラム劣化を指し示す非定型プロファイルを指し示す値の後にシグナルが送信される。
【0019】
本開示の方法の一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウは、端点を含めて1L~5,000Lにおいて起こる。本開示の方法の一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウは、端点を含めて1000L~3,000Lにおいて起こる。本開示の方法の一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウは、端点を含めて1000L~2500Lにおいて起こる。一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウは、端点を含めて1250L~2250Lにおいて起こる。一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウは、端点を含めて1600L~1800Lにおいて起こる。本開示の方法の一部の実施形態では、全体的体積ウィンドウは、1L、10L、100L、250L、500L、1000L、1500L、2000L、2500L、3000L、4000L、5000Lまたはその間の任意のリットル数の体積にわたり起こる。
【0020】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムはQ Sepharose陰イオン交換樹脂を含む。
【0021】
本開示の方法の一部の実施形態では、(a)参照クロマトグラムを生成するステップは、(1)複数の予備決定された分析物を含む出発組成物およびマトリックスを含む分離組成物を、出発組成物の少なくとも1つの分析物がマトリックスに可逆的に結合するために充分な条件下で接触させ、クロマトグラフィーカラムが分離組成物を含み、分析物結合カラムおよび第1の廃棄物組成物を生成すること;(2)(1)の分析物結合カラムおよび洗浄組成物を接触させ、出発組成物の少なくとも1つの分析物のみがマトリックスに結合したままとなり、精製された分析物結合カラムおよび第2の廃棄物組成物を生成すること;(3)(2)の精製された分析物結合カラムおよび溶出組成物を接触させ、出発組成物の少なくとも1つの分析物がマトリックスから溶出組成物中に放出されて、溶出した分析物の組成物を生成すること;(4)溶出した分析物の組成物を回収すること;(5)ステップ(1)~(4)のそれぞれと同時に、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれを紫外(UV)光と接触させること、(6)第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれのUV光の吸光度を測定して、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれについて吸光度値を生成すること;ならびに(7)クロマトグラフィーカラムを通過する液体の体積の関数として第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれの吸光度値をプロットすることによりクロマトグラムを生成することを含む。
【0022】
本開示の方法の一部の実施形態では、(b)プロセスクロマトグラムを生成するステップは、(1)複数の試験分析物を含む出発組成物およびマトリックスを含む分離組成物を、出発組成物の少なくとも1つの分析物がマトリックスに可逆的に結合するために充分な条件下で接触させ、クロマトグラフィーカラムが分離組成物を含み、分析物結合カラムおよび第1の廃棄物組成物を生成すること;(2)(1)の分析物結合カラムおよび洗浄組成物を接触させ、出発組成物の少なくとも1つの分析物のみがマトリックスに結合したままとなり、精製された分析物結合カラムおよび第2の廃棄物組成物を生成すること;(3)(2)の精製された分析物結合カラムおよび溶出組成物を接触させ、出発組成物の少なくとも1つの分析物がマトリックスから溶出組成物中に放出されて、溶出した分析物の組成物を生成すること;(4)溶出した分析物の組成物を回収すること;(5)ステップ(1)~(4)のそれぞれと同時に、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれを紫外(UV)光と接触させること、(6)第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれのUV光の吸光度を測定して、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれについて吸光度値を生成すること;ならびに(7)クロマトグラフィーカラムを通過する液体の体積の関数として第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれの吸光度値をプロットすることによりクロマトグラムを生成することを含む。
【0023】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラムを生成するステップ(a)または(b)は接触ステップ(5)および測定ステップ(6)を含み、かつ、さらには、接触ステップ(5)および測定ステップ(6)は連続的である。一部の実施形態では、接触ステップ(5)および測定ステップ(6)は、同時的、逐次的または交互、かつ、連続的である。
【0024】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムはマトリックスを含み、かつ、マトリックスは樹脂を含む。
【0025】
本開示の方法の一部の実施形態では、特に、クロマトグラムを生成するステップ(a)または(b)に関して、試験分析物は生物学的組成物である。一部の実施形態では、生物学的組成物は、ヒト対象の治療方法において使用するための治療用組成物である。一部の実施形態では、生物学的組成物は治療用タンパク質を含む。
【0026】
本開示の方法の一部の実施形態では、警告シグナルはプロセッサーに電子的に伝達され、かつ、プロセッサーはクロマトグラフィーカラムに作動可能に連結されている。一部の実施形態では、プロセッサーは警告シグナルを受信し、かつクロマトグラフィーカラムの潜在的なまたは実際の機能不良が解消されるまでクロマトグラフィープロセスを中止しまたはさらなるクロマトグラフィープロセスの開始を防止する。
【0027】
本発明の追加の態様および実施形態は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、歴史的基準である参照クロマトグラムを表す。
【
図3】
図3は、不規則な洗浄2のピークを示すクロマトグラムを表す。
【
図4】
図4は、不規則な洗浄2のピーク、不規則な溶出ピーク、およびストリップピークにおける鋭さの損失を示すクロマトグラムを表す。
【
図5】
図5は、故障クロマトグラムを表す。洗浄2のピークが存在する。
【
図6】
図6は、定型および非定型VEGF-Trap Qクロマトグラムの比較を表す。非定型UV跡の大部分は、洗浄2への635リットルにおいて吸光度≧0.05auを有する。
【
図7】
図7は、追加の非定型のVEGF-Trap Qクロマトグラム、すなわち、洗浄2のピークの例を表す。
【
図8】
図8は、追加の定型のVEGF-Trap Qクロマトグラムを表す。UV跡は、洗浄2への635リットルにおいて0.05の吸光度を超えない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
タンパク質クロマトグラフィー操作における故障モードの成功裡の時宜を得た同定は、特に大規模製造において、困難であり得るが、その理由は、故障モードがプログラムと関連付けられる各ユニット操作に特異的だからというだけでなく、本開示の組成物および方法の非存在下で、自動的な検出方法が容易に利用可能でないからである。
【0030】
本開示は、故障モード検出のための新規のウォッチシステムおよび方法を提供する。この新たなウォッチシステムおよびクロマトグラフィーカラムモニタリングの方法は、カラムがその意図される機能を行っていない場合にオペレーターに警告することが意図される。本開示のウォッチシステムおよび方法は、全体的時点においてシステムシグナルを自動的にモニターして、カラムが最適に機能しているかどうかを決定する。システムが許容基準を満たさない場合、メッセージがオペレーターに示されて、事象を品質管理システムに加えることをオペレーターに指示し、さらなる調査および潜在的に修復が可能となる。モニターされるシグナル、有意なシグナル強度、および全体的時間ウィンドウは全て、モニターすべき各特有のクロマトグラフィーユニット操作のために経験的に決定される。
【0031】
クロマトグラフィー
本開示のシステムおよび方法は、分取または分析クロマトグラフィーのために使用されてもよい。一部の実施形態では、本開示の方法は、疾患の治療用の組成物において使用され得るタンパク質を精製するために使用される。特に、治療用タンパク質の大規模または大容量精製のための分取クロマトグラフィーを伴う方法について、精製プロセスの効率は本質的である。本開示のシステムおよび方法は、任意の規模において使用されてもよい。しかしながら、それらは、多数の調製物が処理されている場合、ならびに、機能障害のあるシステム(例えば、価値のある分析物を捕捉すべき場合に該分析物が分離組成物を通過するクロマトグラフィーカラム)が、価値のある製品および価値のある製造時間の損失を結果としてもたらす場合に特に有用である。本開示のシステムおよび方法は、リアルタイムでクロマトグラフィープロセスにおける機能不良を予測および検出し、機能障害のあるプロセスを同定した結果として、機能障害のあるプロセスを使用して追加の作業を行う前に機能の回復および効率的かつ信頼できる精製に戻すことを可能とする。
【0032】
本開示は、クロマトグラフィーの任意の形態を包含する。技術として、クロマトグラフィーは、混合物から成分を分離する方法である。分離は、移動相および固定相の分配を通じて達成される。本明細書に記載されるように、試験分析物を含み、任意選択的に調製用でもある、出発組成物は移動相に属する。本明細書に記載されるように、マトリックスを含む分離組成物は固定相に属する。本開示の例示的なマトリックスは、化学的特性(電荷)および/または物理的性質(サイズ)に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよい。
【0033】
治療用タンパク質の調製方法といった、本開示の一部の実施形態において使用される場合、クロマトグラフィープロセスとしては、カラムおよび平面クロマトグラフィーを挙げることができるがこれらに限定されない。一部の好ましい実施形態では、クロマトグラフィープロセスとしては、カラムクロマトグラフィーを挙げることができるがこれに限定されない。
【0034】
カラムクロマトグラフィー
本開示は、湿式法および乾式法といった、カラムクロマトグラフィーの任意の形態を包含する。乾式法では、分離組成物は乾燥マトリックスを含み、乾燥マトリックスはその後に液体出発組成物と接触させられ、最適には、マトリックス全体を湿らせ、かつプロセス全体の終了までマトリックスが乾燥しないことを可能とする。湿式法では、分離組成物は、マトリックスおよび溶出液の懸濁液またはスラリーを含み、これがカラム中に導入された後、液体出発組成物と接触させられる。
【0035】
イオン交換クロマトグラフィー
本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、電荷に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよい。例えば、分離組成物は、出発組成物からの荷電したタンパク質分析物に可逆的に結合するマトリックスを含んでもよい。したがって、分離マトリックスは、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィーのために好適なものであってもよく、それぞれ正味の負または正電荷を有するマトリックスを含んでもよい。本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、セファロースまたはQセファロースを含むマトリックスを含む。本開示の一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムはQカラムである。
【0036】
アフィニティークロマトグラフィー
本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、抗原/抗体結合パートナー、酵素/基質結合パートナー、受容体/リガンド結合パートナー、タンパク質/タンパク質結合パートナー、タンパク質/核酸結合パートナー、および核酸/核酸結合パートナーが挙げられるがこれらに限定されない結合パートナー間の特異的相互作用に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよい。例えば、分離組成物は、結合パートナーの他のパートナーを含むことにより結合パートナーの1つのパートナー(例えば、出発組成物からの分析物)に可逆的に結合するマトリックスを含んでもよい。例として、分離組成物は、出発組成物の分析物が特異的に結合して出発材料からの抗体分析物を選択的に精製する抗原を含むマトリックスを含んでもよい。さらなる実例として、分離組成物は、VEGF-Trapが選択的に結合して出発材料からのVEGF-Trap分析物を選択的に精製するVEGFタンパク質のエピトープを含むマトリックスを含んでもよい。
【0037】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、相対的な疎水性に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよい。HICは、より低い変性性の条件下で作動する条件およびマトリックスの使用の結果としてその生物学的活性を維持しながらタンパク質分析物を選択的に精製するために使用されてもよい。一部の実施形態では、疎水性および親水性領域を含有する本開示の分析物は、高塩緩衝液中でHICカラムに接触させられる。緩衝液中の塩は、出発材料中の分析物の溶質の溶媒和を低減する。溶媒和が減少するにつれて、曝露される疎水性領域は媒体により吸着される。出発材料中の分子がより疎水性になればなるほど、結合を促進するためにより少ない塩が必要とされる。疎水性を増加させるために、塩勾配の減少を使用してカラムから試料を溶出させてもよい。本開示の溶出緩衝液はまた、穏やかな有機調節剤または穏やかな洗浄剤を含んでもよい。
【0038】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、相対的なサイズ、または一部の場合には、相対的な分子量に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよい。SECは、タンパク質およびポリマーなどの大きい分子または高分子複合体を選択的に精製するために使用されてもよい。一部の実施形態、例えば、カラムを通じて移動相を輸送するために水性溶液が使用される実施形態では、技術は、ゲル濾過クロマトグラフィーとして公知である。一部の実施形態、例えば、カラムを通る移動相として有機溶媒が使用される実施形態では、技術はゲル浸透クロマトグラフィーとして公知である。一部の実施形態では、クロマトグラフィーカラムは、例えば、デキストランポリマー(Sephadex)、アガロース(Sepharose)、またはポリアクリルアミド(SephacrylまたはBioGel P)から構成される微細な多孔性ビーズを充填される。これらのビーズの孔径は、高分子の寸法を推定するために使用される。ゲル濾過クロマトグラフィーを使用してタンパク質分析物および他の水溶性ポリマーを分別することができ、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用して、分子量分布に基づいて有機可溶性ポリマーを分別することができる。
【0039】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、吸着剤材料との分離組成物の相互作用に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよく、該相互作用は、異なる成分について異なる流速を引き起こし、それらがカラムから流出する際の成分の分離に繋がる。移動相中の分析物は、例えば、疎水性、イオン性または双極子-双極子相互作用を通じて分離され得る。HPLCは、ポンプに依拠して、移動相を含有する加圧された液体溶媒を、固体吸着剤材料を充填したカラムに通す。一部の実施形態では、カラムの活性成分、吸着剤は、固体粒子(例えば、シリカまたはポリマー)から作られた粒状材料を含む。例示的な粒子サイズとしては2~50ミクロンの粒子が挙げられ、この小さいサイズは、HPLCクロマトグラフィーに優れた分解能力を与えることができる。一部の実施形態では、加圧される移動相は、水、アセトニトリルおよび/またはメタノールなどの溶媒の混合物である。一部の実施形態では、HPLCポンプは、時間と共に変化する比で複数の溶媒を混合して、移動相中の勾配組成物を生成する。一部の実施形態では、移動相の水性成分は、酸(例えば、ギ酸、リン酸もしくはトリフルオロ酢酸)または塩を含有して試料成分の分離を補助する。一部の実施形態では、HPLCは、分配クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、置換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性(hydropobic)相互作用クロマトグラフィーまたは水性順相クロマトグラフィーを含む。
【0040】
高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)
本開示の一部の実施形態では、分離組成物は、分離組成物についての異なる親和性に基づいて移動相の要素を分離する能力を有する任意の材料を含んでもよい。高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)は、タンパク質分析物の混合物を分離するために使用される液体クロマトグラフィーの形態である。一部の実施形態では、移動相の異なる成分が移動相および固定相(分離組成物)について異なる親和性を有するので分離が可能である。一部の実施形態では、移動相は、水性溶液、または緩衝液である。緩衝液の流速は、容積式ポンプにより制御され得る。一部の実施形態では、緩衝液の流速は一定であり、かつ、緩衝液の組成は変化する。一部の実施形態では、固定相は、ビーズ、例えばアガロースビーズから構成される樹脂である。当業者は、特定の応用の移動相および分析物に依存してビーズサイズおよび固定相の表面リガンドを変更することができる。
【0041】
一部の実施形態では、FPLCはイオン交換クロマトグラフィーを含む。例えば、固定相樹脂は、第1の緩衝液(ランニングバッファー)中では電荷相互作用によりタンパク質分析物に結合するが、第2の緩衝液(溶出緩衝液)中では解離する。1つまたは複数のタンパク質分析物を含有する混合物を第1の緩衝液中に溶解させ、カラムにポンプ注入する。目的のタンパク質は樹脂に結合し、他の成分は第1の緩衝液中で運ばれる。緩衝液の全流速は一定に保たれる。経時的に、勾配を生成する濃度のプログラムされた変化にしたがって溶出緩衝液のパーセンテージを0%から100%まで徐々に増加させる。勾配に沿った何らかの点において、結合したタンパク質分析物のそれぞれは解離し、溶出液中に現れる。溶出液は次に検出器を通過する。例示的な検出器は、溶出液の塩濃度(電導度による)および溶出液のタンパク質濃度(紫外光の吸収による)を測定することができる。
【0042】
加圧
本開示の方法の一部の実施形態では、固定相を通る移動相の流れは重力により制御される。一部の実施形態では、脱塩および親和性応用のような単一ステップ精製のために重力クロマトグラフィーが使用される。典型的な重力カラムは、底部に出口を有するクロマトグラフィーカラムに作動可能に連結された上部の緩衝液リザーバー要素を含む。流れは、緩衝液リザーバーとカラムとの間に止め栓またはチューブピンチャーを使用して制御される。試料投入のばらつきを最小化するためにフローアダプターを使用することができる。一部の実施形態では、重力クロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、置換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーまたは水性順相クロマトグラフィーを含む。
【0043】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーは低圧クロマトグラフィーを含む。一部の実施形態では、低圧クロマトグラフィーシステムは、50プサイ(約3bar)未満の圧力において作動するシステムである。低圧クロマトグラフィーは、高分解能を必要としないタンパク質分離で使用され得る。
【0044】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーは中圧クロマトグラフィーを含む。一部の実施形態では、中圧クロマトグラフィーシステムは、最大3,500プサイ(24Mpa)の圧力において作動するシステムである。中圧クロマトグラフィーシステムは、例えば5~15μmのビーズを使用して、より高い分解能の固定相組成物を収容するために充分な圧力を生成する。一部の実施形態では、中圧クロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、置換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーまたは水性順相クロマトグラフィーを含む。
【0045】
本開示の方法の一部の実施形態では、クロマトグラフィーは、高圧クロマトグラフィー、例えばHPLCを含む。
【0046】
移動相
本開示は、溶出液、溶媒、無菌溶媒、および薬学的に許容される担体が挙げられるがこれらに限定されない、移動相の任意の形態を包含する。本開示の溶出組成物は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0047】
固定相
本開示は、シリカ、アルミナ(Al2O3)、セルロース、セファロースおよびQセファロースが挙げられるがこれらに限定されない、固定相の任意の形態を包含する。例示的な本開示の分離組成物は、マトリックス、ポリマー、樹脂、タンパク質、またはその組合せを含んでもよい。一部の実施形態では、分離組成物は、セファロースまたはQセファロースを含む。
【0048】
クロマトグラム
本明細書において使用される場合、クロマトグラムはクロマトグラフのビジュアルな出力である。典型的には、溶出液の保持時間および/または流出体積はクロマトグラムのx軸に表され、シグナルはy軸にプロットされる。例示的なシグナルとしては、電気コンダクタンス、吸光度および質量分析が挙げられるがこれらに限定されず、クロマトグラフを出る分析物に対する検出器の応答に対応する。一部の実施形態では、このシグナルは、クロマトグラフにより分離されている特定の分析物の濃度に比例する。
【0049】
一つの例示的な実施形態では、光吸収により測定されるようなタンパク質濃度は、クロマトグラムのy軸にプロットされる。溶液中の多くのタンパク質は光、例えば280nmの波長の紫外光を吸収し、これを使用して試料中のタンパク質濃度を算出することができる。タンパク質に依存して、光の追加の波長が想定される。例えば、ヘム基またはフルオロフォアを含むタンパク質は、光の異なる波長を用いて検出可能である。当業者は、特定の分析物のために好適な検出システムを選択することができる。
【0050】
生物学的試料
本開示の方法の一部の実施形態では、分析物は、タンパク質、ペプチド、核酸またはウイルスを含む。一部の実施形態では、核酸はデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。一部の実施形態では、ウイルスは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはレンチウイルスである。
【実施例】
【0051】
実施例1:VEGF Trapの精製
精製用の例示的な分析物としてVEGF-Trapを使用して、
図1~8は、例示的な参照クロマトグラム(
図1および
図2)の他に、非定型プロファイルを有する例示的なプロセスクロマトグラム(
図3~5)の両方を示す。
【0052】
簡潔に述べれば、
図1~8のクロマトグラムは、複数の分析物(VEGF-Trap分析物の他に、複数の汚染物(例えば、宿主細胞タンパク質、DNAおよびシアル酸付加が乏しい(poorly sialiated)タンパク質))を含む出発組成物およびマトリックスを含む分離組成物(この実施例では、Q Sepharose)を、出発組成物の少なくとも1つのVEGF-Trapタンパク質がマトリックスに可逆的に結合するために充分な条件下で接触させ、クロマトグラフィーカラムが分離組成物を含み、分析物結合カラムおよび第1の廃棄物組成物を生成することにより生成された(where generated)。次に、分析物結合カラムおよび第1の洗浄組成物を接触させ、出発組成物のVEGF-Trapタンパク質はマトリックスに結合したままとなり、精製された分析物結合カラムおよび第2の廃棄物組成物を生成した。分析物結合カラムおよび第2の洗浄組成物を接触させ、定型プロファイルを示す参照クロマトグラムにおいて、出発組成物のVEGF-Trapタンパク質はマトリックスに結合したままとなり、精製された分析物結合カラムおよび第3の廃棄物組成物を生成した。非定型プロファイルを示すプロセスクロマトグラフを生成するために、分析物結合カラムおよび第2の洗浄組成物を接触させ、非定型プロファイルを示すプロセスクロマトグラムにおいて、出発組成物のVEGF-Trapタンパク質のみがマトリックスに結合したままとなり、精製された分析物結合カラムおよび第3の廃棄物組成物を生成するが、第3の廃棄物組成物は汚染物またはVEGF-Trapタンパク質を含む。参照クロマトグラムおよびプロセスクロマトグラムの両方において、精製された分析物結合カラムおよび溶出組成物を接触させ、出発組成物の少なくとも1つの分析物がマトリックスから溶出組成物中に放出されて、溶出した分析物の組成物を生成する。参照クロマトグラムおよびプロセスクロマトグラムの両方において、溶出した分析物の組成物を回収する。上記のそれぞれと同時に、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、第3の廃棄物組成物および溶出した分析物の組成物のそれぞれを紫外(UV)光と接触させる。同時的または逐次的に、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、第3の廃棄物組成物および溶出した分析物の組成物のそれぞれのUV光の吸光度を測定して、第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、第3の廃棄物組成物、および溶出した分析物の組成物のそれぞれについて吸光度値を生成する。第1の廃棄物組成物、第2の廃棄物組成物、第3の廃棄物組成物および溶出した分析物の組成物のそれぞれについての吸光度値を、クロマトグラフィーカラムを通過する液体の体積の関数としてプロットして、クロマトグラムを生成した。クロマトグラフの生成は、クロマトグラフィープロセスとのリアルタイムで行い、追加のピークがクロマトグラム上に現れる際に非定型プロファイルの存在が決定される。非定型プロファイルの出現により、検出器および/またはプロセッサーは、クロマトグラフィーカラムに作動可能に連結されたプロセッサーに警告シグナルを送信し、そしてそれが、カラムの機能不良が解消できるまでその後のクロマトグラフィープロセスを防止する。