(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】セラミックス-銅複合体、セラミックス-銅複合体の製造方法、セラミックス回路基板およびパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20231227BHJP
H01L 23/15 20060101ALI20231227BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20231227BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231227BHJP
H05K 3/38 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L23/14 C
H01L23/14 M
H05K1/03 630H
H05K3/38 B
(21)【出願番号】P 2020557676
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2019045833
(87)【国際公開番号】W WO2020105734
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-03-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018218964
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 周平
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】金 公彦
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-90144(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017679(WO,A1)
【文献】特開2011-124585(JP,A)
【文献】耐熱無酸素銅条GOFCの開発,古河電工時報,古河電工株式会社,2018年2月,第137号,p.61-62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00-37/04
H01L 23/12-23/15
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス層と、銅層と、前記セラミックス層と前記銅層の間に存在するろう材層とを備えた、平板状のセラミックス-銅複合体であって、
当該セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したときの切断面における、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域Pとしたとき、
前記領域Pにおける、前記セラミックス層と前記ろう材層との界面から前記銅層側に50μm以内の領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1が、30μm以上80μm以下であり、
前記銅層は圧延銅板により構成され、
前記ろう材層が、Ag、CuおよびTiと、Snおよび/またはInとを含
み、
前記領域P全体における銅結晶の平均結晶粒径をD2としたとき、D2/D1の値が0.5以上1.5以下である、セラミックス-銅複合体。
【請求項2】
請求項
1に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、粒径350μmを超える結晶が含まれない、セラミックス-銅複合体。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記切断面において、前記領域Pとは異なる、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域P'としたとき、
前記領域P'における、前記セラミックス層と前記ろう材層との界面から前記銅層側に50μm以内の領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1'が、30μm以上100μm以下である、セラミックス-銅複合体。
【請求項4】
請求項
3に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、粒径350μmを超える結晶が含まれない、セラミックス-銅複合体。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載のセラミックス-銅複合体の製造方法であって、
真空下または不活性ガス雰囲気下で、770℃以上830℃以下の温度での10分以上60分以下の加熱により、セラミックス板と銅板とを、ろう材で接合する接合工程を含み、
前記ろう材は、Agが85.0質量部以上95.0質量部以下、Cuが5.0質量部以上13.0質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.4質量部以上3.5質量部以下からなる、セラミックス-銅複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載のセラミックス-銅複合体の、少なくとも前記銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板。
【請求項7】
請求項
6のセラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス-銅複合体、セラミックス-銅複合体の製造方法、セラミックス回路基板およびパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールの製造に際しては、アルミナ、ベリリア、窒化珪素、窒化アルミニウム等のセラミックス材料に金属板を接合した、セラミックス-金属複合体が用いられることがある。
近年、パワーモジュールの高出力化や高集積化に伴い、パワーモジュールからの発熱量は増加の一途をたどっている。この発熱を効率よく放散させるため、高絶縁性と高熱伝導性を有する窒化アルミニウム焼結体や窒化珪素焼結体のセラミックス材料が使用される傾向にある。
【0003】
一例として、特許文献1には、セラミックス基板と、このセラミックス基板上にろう材を介して接合された金属板とを有する金属-セラミックス接合体が記載されている。この接合体において、金属板の底面からはみ出すろう材の長さは、30μmより長く且つ250μm以下である。
【0004】
別の例として、特許文献2には、セラミックス基板の少なくとも一方の面に複数の回路パターンに沿ったろう材層を形成し、そのろう材層を介して金属板を接合し、その金属板の不要部分をエッチング処理することにより金属板からなる回路パターンを形成すると共に、金属板の外縁からはみ出したろう材層によるはみ出し部を形成したセラミックス回路基板が記載されている。このセラミック回路基板において、はみ出し部の最大面粗さRmaxは、5から50μmである。
【0005】
さらに別の例として、特許文献3には、銅又は銅合金からなる銅部材と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されたCu/セラミックス接合体が記載されている。この接合体において、銅部材とセラミックス部材との接合界面には、Ti窒化物又はTi酸化物からなるTi化合物層が形成されており、そして、このTi化合物層内にはAg粒子が分散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-112980号公報
【文献】特開2005-268821号公報
【文献】特開2015-092552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミックス材料と金属板とは、熱膨張率が大きく異なる。よって、繰り返しの熱サイクル負荷により、セラミックス材料-金属板の接合界面に、熱膨張率差に起因する熱応力が発生する。そして、セラミックス材料の側にクラックが発生し、接合不良又は熱抵抗不良を招き、パワーモジュールの信頼性が低下してしまう可能性がある。
【0008】
特に最近、電気自動車への搭載を意図して、パワーモジュールのさらなる高出力化や高集積化が急激に進行しており、熱サイクルによる熱応力が一層増大する傾向にある。そのため、熱サイクル負荷/熱応力への対応が一層重要となってきている。
【0009】
自動車メーカは、機能安全性を保障するため、従来は「-40℃での冷却15分、室温での保持15分及び125℃における加熱を15分、室温での保持15分とする昇温/降温サイクルを1サイクル」とする熱サイクル試験により、パワーモジュールの耐久性を評価していた。
しかし、最近は、「-55℃での冷却15分、室温での保持15分及び175℃における加熱を15分、室温での保持15分とする昇温/降温サイクルを1サイクル」とする、より厳しい熱サイクル試験により、パワーモジュールの耐久性を評価するように変わってきている。
【0010】
特に、冷却温度が低温化する(-40℃→-55℃)ことで、セラミックス材料に発生する応力が増大し、クラックが発生しやすくなる。
このような、より厳しくなった熱サイクルテストの条件においては、従来のセラミックス-金属複合体(例えば上述の特許文献に記載のもの)では、十分な応力緩和/クラック低減等の効果が得られない可能性がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一つは、厳しい条件の熱サイクル試験を経てもクラックが発生しにくいセラミックス-金属複合体(セラミックス層と金属層とを備える基板)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
本発明は以下のとおりである。
【0013】
1.
セラミックス層と、銅層と、前記セラミックス層と前記銅層の間に存在するろう材層とを備えた、平板状のセラミックス-銅複合体であって、
当該セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したときの切断面における、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域Pとしたとき、
前記領域Pにおける、前記セラミックス層と前記ろう材層との界面から前記銅層側に50μm以内の領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1が、30μm以上100μm以下である、セラミックス-銅複合体。
【0014】
2.
1.に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P全体における銅結晶の平均結晶粒径をD2としたとき、
D2/D1の値が0.5以上2.0以下である、セラミックス-銅複合体。
【0015】
3.
1.または2.に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、粒径350μmを超える結晶が含まれない、セラミックス-銅複合体。
【0016】
4.
1.から3.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記切断面において、前記領域Pとは異なる、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域P'としたとき、
前記領域P'における、前記セラミックス層と前記ろう材層との界面から前記銅層側に50μm以内の領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1'が、30μm以上100μm以下である、セラミックス-銅複合体。
【0017】
5.
4.に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、粒径350μmを超える結晶が含まれない、セラミックス-銅複合体。
【0018】
6.
1.から5.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記銅層は圧延銅板により構成される、セラミックス-銅複合体。
【0019】
7.
1.から6.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記ろう材層が、Ag、CuおよびTiと、Snおよび/またはInとを含む、セラミックス-銅複合体。
【0020】
8.
1.から7.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体の製造方法であって、
真空下または不活性ガス雰囲気下で、770℃以上830℃以下の温度での10分以上60分以下の加熱により、セラミックス板と銅板とを、ろう材で接合する接合工程を含み、
前記ろう材は、Agが85.0質量部以上95.0質量部以下、Cuが5.0質量部以上13.0質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.4質量部以上3.5質量部以下からなる、セラミックス-銅複合体の製造方法。
【0021】
9.
1.から7.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体の、少なくとも前記銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板。
【0022】
10.
9.のセラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュール。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、厳しい条件の熱サイクル試験を経てもクラックが発生しにくいセラミックス-金属複合体(セラミックス層と金属層とを備える基板)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0025】
【
図1】本実施形態のセラミックス-銅複合体を模式的に示した図である。
図1(A)はセラミックス-銅複合体全体を模式的に示した図、
図1(B)はその断面を模式的に示した図である。
【
図2】本実施形態のセラミックス-銅複合体における「領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶」について説明するための補足図である。
【
図3】銅結晶の粒子の粒径の求め方を説明するための補足図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。特に、図に示されている各部の縦横の寸法は、縦方向または横方向に誇張されている場合がある。
【0027】
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
【0028】
以下では、セラミックス-銅複合体を、単に「複合体」とも表記する。
【0029】
<セラミックス-銅複合体(複合体)>
図1(A)は、本実施形態のセラミックス-銅複合体(複合体)を模式的に示した図である。
複合体は、平板状である。
複合体は、少なくとも、セラミックス層1と、銅層2と、それら二層の間に存在するろう材層3とを備える。別の言い方としては、セラミックス層1と銅層2とは、ろう材層3により接合されている。
【0030】
図1(B)は、
図1(A)に示されたセラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面αで切断したときの切断面を模式的に示した図である(説明用に補助線などを加筆している)。
切断面αは、例えば、平板状の複合体の重心を通るように設定することができる。
【0031】
図1(B)に示された切断面において、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域Pとする。領域Pは、切断面の任意の場所で設定することができるが、例えば、切断前の複合体の重心を含む場所で設定することができる。
また、領域Pにおいて、セラミックス層1とろう材層3との間の界面を基準として、その界面から銅層2の側に50μm以内の領域を、領域P1とする。
【0032】
このとき、領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1は、30μm以上100μm以下、好ましくは30μm以上90μm以下、より好ましくは30μm以上80μm以下である。
【0033】
このような複合体により、厳しい条件の熱サイクル試験後でもクラック発生が抑えられる理由については、以下のように説明することができる。念のため述べておくと、以下説明は推測を含み、また、以下説明により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0034】
本実施形態の複合体において「領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1が、30μm以上100μm以下」であるということは、セラミックス層1の近傍に位置する銅結晶の平均結晶粒径が、比較的小さいことを意味する。
【0035】
前述のように、セラミックス材料と金属板との接合界面では、熱膨張率の差に起因する応力が発生する。しかし、本実施形態の複合体のように、銅層2におけるセラミックス層1近傍の銅結晶の平均結晶粒径が比較的小さいと、その応力を「粒界すべり」によって緩和・低減することができる。
このため、厳しい条件の熱サイクル試験を経てもクラックが発生しにくくなっていると考えられる。
【0036】
本実施形態の複合体において平均結晶粒径D1を30μm以上100μm以下とするためには、複合体の製造において適切な素材/材料を選択し、また、製造条件を適切に調整することが重要である。特に本実施形態においては、銅層2を構成するための材料の選択が重要である。具体的には追って説明する。
本発明者らの知見によると、適切な銅材料を選択しないと、平均結晶粒径D1を30μm以上100μm以下とすることは難しい。
【0037】
ここで、念のため、「領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶」について補足しておく。
図2は、領域Pの一部を拡大し、かつ、領域Pに含まれる銅の結晶粒界を示した模式的な図である。
図2の一番下に引かれている実線l
1が、セラミックス層1とろう材層3との間の界面である。そして、その実線l
1から上側に50μm以内の領域(実線l
1とl
2とで挟まれた領域)が、領域P1である。
【0038】
図2において、例えば「*」印が付された銅結晶については、その一部は領域P1に含まれ、その一部は領域P1に含まれない。
本実施形態においては、領域P1内に全てが位置する(領域P1外にはみ出していない)銅結晶に加え、「*」印が付された銅結晶すなわち「領域P1に一部(全部ではない)が存在する銅結晶」も、粒径の測定対象に含める。そして、その測定結果に基づき、平均結晶粒径D1を算出する。
【0039】
念のため述べておくと、
図2には、「*」印が付された銅結晶以外にも、「領域P1に一部が存在する銅結晶」が多く示されている。すなわち、直線l
2が通っている銅結晶の全ては、基本的には平均結晶粒径D1を算出する際の粒径測定の対象となる。
【0040】
本実施形態の複合体について説明を続ける。
【0041】
[領域P1中の銅結晶の粒径に関する追加情報]
前述のように、領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の「平均結晶粒径D1」が30μm以上100μm以下であることでクラック等を低減することができる。
このように「平均結晶粒径」が適度に小さいだけでなく、領域P1に粗大な銅結晶が含まれないことにより、クラック低減効果を一層高めうる。
【0042】
具体的には、領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、好ましくは粒径350μmを超える結晶が含まれず、より好ましくは粒径300μmを超える結晶が含まれない。
このように粗大な銅粒子が含まれないことにより、粒界すべりしにくく応力緩和されにくい部分が減少する。よって、一層、厳しい条件の熱サイクル試験を経てもクラックが発生しにくくなると考えられる。
【0043】
念のため言及しておくと、応力低減の観点からは、基本的には、領域P内または領域P1内にある銅結晶の粒径は、小さいほどよい傾向にある。
領域P内または領域P1内にある銅結晶の粒径の下限値は、例えば5μm程度である。別の言い方としては、後述のEBSD法による測定限界と同程度かそれ以下の小さな粒径の銅結晶が、領域P内または領域P1内に含まれていることが好ましい。
【0044】
[領域P中の銅結晶の粒径など]
領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1が適切な数値であることに加え、領域P全体における銅結晶の平均結晶粒径D2についても適切な数値であることが好ましい。
【0045】
例えば、領域P全体における銅結晶の平均結晶粒径(すなわち、領域P中に含まれる全ての銅結晶を対象としたときの平均結晶粒径)をD2としたとき、D2/D1の値は、好ましくは0.5以上2.0以下、より好ましくは1.0以上1.5以下である。
D2/D1の値が上記数値範囲であることは、領域Pに含まれる銅結晶の平均結晶粒径と、領域P1中に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径が同程度であることを意味する。換言すると、銅層2全体として「平均結晶粒径に偏りが無い」ということができる。これにより、銅層2全体として応力を均一に吸収しやすくなり、クラックの一層の低減が図られると考えられる。ちなみに、詳細は不明であるが、D2/D1の値が1.0以上1.5以下(つまり、D2とD1がほぼ等しいか、D2のほうが若干大きい)であると、ヒートサイクル特性が一層良化する傾向にある。
【0046】
参考までに、D2そのものの値は、例えばD1と同程度であることができるが、好ましくは15μm以上200μm以下、より好ましくは30μm以上150μm以下である。
【0047】
[粒径が比較的小さい銅粒子が'連続的'に存在すること]
銅層2においては、領域P1のような、セラミックス層1近傍にある銅結晶の平均結晶粒径が比較的小さい領域が、局所的ではなく'連続的'に存在することが好ましい。別の言い方として、セラミックス層1と銅層2との接合面近傍の任意の箇所において、銅結晶の平均結晶粒径が比較的小さいことが好ましい。
これにより、基板全体として十二分に応力が低減され、クラック低減効果を一層顕著に得ることができる。
また、銅層2におけるセラミックス層1近傍の銅結晶の平均結晶粒径が比較的小さいということは、銅層2におけるセラミックス層1近傍には、銅の粒界が比較的多く存在していることを意味する。そして、その比較的多くの粒界にろう材が拡散することで、セラミックス層1-銅層2間の接合力がより強くなると考えられる。
【0048】
具体的には、
図1(B)に示される切断面において、領域Pとは異なる(領域Pと重ならない)領域として、長辺方向の長さ1700μmの領域を設定し、その領域を領域P'としたとき、領域P'における、セラミックス層1とろう材層3との界面から銅層2側に50μm以内の領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1'は、好ましくは30μm以上100μm以下、より好ましくは30μm以上90μm以下、より好ましくは30μm以上80μm以下である。
加えて、領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、好ましくは粒径350μmを超える結晶が含まれず、より好ましくは粒径300μmを超える結晶が含まれない。
【0049】
[セラミックス層1の材質]
セラミックス層1の材質は、セラミックス材料である限り特に限定されない。
例えば、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等であることができる。
銅層2との接合強度の点からは、窒化アルミニウム、窒化珪素等の非酸化物系セラミックスが好適である。更に、優れた機械強度、破壊靱性の観点より、窒化珪素が好ましい。
【0050】
[銅層2を構成するための材料]
本実施形態の複合体を製造するにあたり、特に、銅層2を構成するための材料の選択は重要である。銅層2を形成するための材料を適切に選択することによって、所望のD1、D2、D1'を有する複合体を製造することができる。材料の選択が不適切であると、所望のD1等を有する複合体を製造することは難しい。
【0051】
具体的には、銅層2を構成するための材料として、三菱伸銅株式会社が製造している、無酸素銅板OFCG材(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)を用いることで、所望のD1等を有する複合体を製造することができる。
【0052】
本発明者らの知見によれば、通常の無酸素銅板(OFC材)を用いた場合、セラミックス板と銅板とをろう材で接合する際の加熱(800℃程度)により、銅板中の銅結晶が「成長」し、銅結晶が粗大化してしまう(つまり、D1が100μm超となってしまう)。
一方、詳細なメカニズムは不明だが、上記無酸素銅板OFCG材は、ろう材接合時の加熱による銅結晶の成長を抑制する何らかの工夫がなされており、よって銅結晶の成長が抑制される。その結果、D1が30μm以上100μm以下等である複合体を得ることができる。
【0053】
ちなみに、ろう材接合時の加熱による銅結晶の成長を抑制する「工夫」については種々考えられる。一つには、銅層2の材料として圧延銅板(大きな圧力で圧延されたOFC材)を用いることが考えられる。
本発明者らの推測として、圧延銅板中の銅結晶は、圧延の結果として、変形したり結晶方位が変わったりしており、これらのことが結晶成長の抑制につながっていると推測される。
参考までに、上記の三菱伸銅株式会社の無酸素銅板OFCG材は、製造元曰く、圧延工程を含む工程により製造されている。
【0054】
[ろう材層3を形成するためのろう材]
耐熱サイクル特性をより良好とする観点などから、ろう材層3は、好ましくは、Ag、CuおよびTi、Snおよび/またはInからなるろう材により構成される。適切な組成のろう材を用いることは、D1、D2、D1'等の数値のコントロールの観点からも重要である。
【0055】
ろう材の配合におけるAg/Cu比は、AgとCuの共晶組成である72質量%:28質量%よりAg粉末の配合比を高めることで、Cuリッチ相の粗大化を防止し、Agリッチ相が連続したろう材層組織を形成することができる。
また、Ag粉末の配合量が多くCu粉末の配合量が少ないと、接合時にAg粉末が溶解しきれずに接合ボイドとして残る場合がある。よって、Ag粉末と、Cu粉末、Sn粉末またはIn粉末の配合比は、Ag粉末:85.0質量部以上95.0質量部以下、Cu粉末:5.0質量部以上13.0質量部以下、Sn粉末またはIn粉末:0.4質量部以上3.5質量部以下からなるものが好ましく挙げられる。
【0056】
上記のAg粉末としては、比表面積が0.1m2/g以上0.5m2/g以下のAg粉末を使用するとよい。適度な比表面積のAg粉末を用いることで、粉末の凝集、接合不良、接合ボイドの形成などを十分に抑えることができる。なお、比表面積の測定にはガス吸着法を適用することができる。
Ag粉末の製法は、アトマイズ法や湿式還元法などにより作製されたものが一般的である。
【0057】
上記のCu粉末としては、Agリッチ相を連続化させるために、比表面積0.1m2/g以上1.0m2/g以下、かつ、レーザー回折法により測定した体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が0.8μm以上8.0μm以下のCu粉末を使用するとよい。比表面積や粒径が適度なCu粉末を使用することで、接合不良の抑制や、Agリッチ相がCuリッチ相により不連続化することの抑制などを図ることができる。
【0058】
上記のろう材粉末中に含有するSnまたはInは、セラミックス板に対するろう材の接触角を小さくし、ろう材の濡れ性を改善するための成分である。これらの配合量は好ましくは0.4質量部以上3.5質量部以下である。
配合量を適切に調整することで、セラミックス板に対する濡れ性を適切として、接合不良の可能性を低減することができる。また、ろう材層3中のAgリッチ相がCuリッチ相により不連続化し、ろう材が割れる起点になり、熱サイクル特性低下の可能性を低減することができる。
【0059】
上記のSn粉末またはIn粉末としては、比表面積が0.1m2/g以上1.0m2/g以下、かつ、D50が0.8μm以上10.0μm以下の粉末を使用するとよい。
比表面積や粒径が適度な粉末を使用することで、接合不良の可能性や接合ボイド発生の可能性を低減することができる。
【0060】
ろう材は、窒化アルミニウム基板や窒化珪素基板との反応性を高める等の観点から、活性金属を含むことが好ましい。具体的には、窒化アルミニウム基板や、窒化珪素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くできるため、チタンを含むことが好ましい。
チタン等の活性金属の添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下が好ましい。活性金属の添加量を適切に調整することで、セラミックス板に対する濡れ性を一層高めることができ、接合不良の発生を一層抑えることができる。また、未反応の活性金属の残存が抑えられ、Agリッチ相の不連続化なども抑えることができる。
【0061】
ろう材は、少なくとも上述の金属粉末と、必要に応じて有機溶剤やバインダーとを混合することで得ることができる。混合には、らいかい機、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、3本ロール等を用いることができる。これにより、例えばペースト状のろう材を得ることができる。
ここで使用可能な有機溶剤は特に限定されない。例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テレピネオール、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル、テキサノール等が挙げられる。
ここで使用可能なバインダーは特に限定されない。例えば、ポリイソブチルメタクリレート、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
【0062】
[各層の厚み(平均厚み)]
セラミックス層1の厚みは、典型的には0.1mm以上3.0mm以下である。基板全体の放熱特性や熱抵抗率低減などを鑑みると、好ましくは0.2mm以上1.2mm以下、より好ましくは0.25mm以上1.0mm以下である。
銅層2の厚みは、典型的には0.1mm以上1.5mm以下である。放熱性などの観点から、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。
ろう材層3の厚みは、セラミックス層1と銅層2を接合可能である限り特に限定されない。典型的には3μm以上40μm以下、好ましくは4μm以上25μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0063】
[追加の層など]
本実施形態の複合体は、上述の3層以外の追加の層を備えていてもよい。
例えば、本実施形態の複合体は、セラミックス層1を中心層として、その両面に、ろう材層3を介して銅層2を備える5層構成であってもよい。
【0064】
上記のような5層構成の場合、セラミックス層1の少なくとも片面側において、D1、D2/D1、D1'などが上述の数値範囲にあることが好ましい。
ただし、一層のクラック低減や、複合体全体としての応力発生、歪みや反りなどの低減の点からは、セラミックス層1の両面において、D1、D2/D1、D1'などが上述の数値範囲にあることがより好ましい。
【0065】
すなわち、上記5層構成の複合体において、セラミックス層1とろう材層3との界面は「2つ」存在するところ、
(i)2つの界面のうち一方の界面(第一の界面)から、その第一の界面に近い側の銅層2の側に領域P1を設定し、
(ii)また、2つの界面のうち他方の界面(第二の界面)から、その第二の界面に近い側の銅層2の側に、別の領域P1を設定し、
そして、これら2つの領域P1の両方において、D1、D2/D1、D1'などが上述の数値範囲にあることがより好ましい。
【0066】
[複合体の形状、大きさ等]
前述のように、本実施形態の複合体は、平板状である。
典型的には、本実施形態の複合体は、10mm×10mmから200mm×200mm程度の大きさの略矩形状である。
念のため述べておくと、本実施形態の複合体は、典型的には、前述の「長さ1700μmの領域P」や「長さ1700μmの領域P'」を定義することができる程度の大きさを有する。
【0067】
[複合体の切断、銅結晶の測定/計測/解析などについて]
本実施形態の複合体の「断面」の銅結晶の粒径の測定方法などについて説明しておく。
【0068】
まず、例えば以下のようにして、銅結晶の粒径を測定するための「断面」を得る。
(1)複合体(または後述のセラミックス回路基板)を、主面に垂直で、かつ、複合体の重心を通る断面で、コンターマシンで切断し、複合体断面を露出させる。
(2)切断した複合体を樹脂包埋し、樹脂包埋体を作成する。
(3)作成した樹脂包埋体中の複合体断面を、ダイヤモンド砥粒を用いてバフ研磨する。
【0069】
そして、上記の研磨された複合体断面について、電子後方散乱回折法により、銅結晶の粒子/粒界/結晶方位などに関するデータを取得し、そのデータを解析することで、D1、D2、D1'などを求めることができる。
(電子後方散乱回折法は、Electron Back Scattering Diffractionの頭文字を取って、EBSD法とも呼ばれる。)
【0070】
本明細書において、銅結晶の粒子1つ1つの粒径(D1やD2などの「平均」粒子径を算出する元となる各粒子の粒径)は、以下のようにして求められるものとする。これについては
図3も参照されたい。
(1)上記の断面に見られる粒子1つ(粒子Aとする)の幾何学的重心を通る直線Lを一本引く。この直線が粒子Aの粒界と交わる2点の間の距離d
1を計測する。
(2)直線Lを、粒子Aの幾何学的重心を中心として2°回転させる。この回転させた直線が粒子Aの粒界と交わる2点の間の距離d
2を計測する。
(3)上記(2)の操作を、直線Lが180°回転するまで繰り返し、直線が粒子Aの粒界と交わる2点の間の距離d
3、d
4・・・を計測する。
(4)得られたd
1、d
2、d
3、d
4・・・の平均を、粒子Aの粒径とする。
【0071】
[複合体の製造方法、回路の形成]
本実施形態の複合体は、例えば、以下工程により製造することができる。
(1)ろう材ペーストをセラミックス板の片面または両面に塗布し、その塗布面に銅板を接触させる。
(2)真空中もしくは不活性雰囲気中で加熱処理をすることで、セラミックス板と銅板を接合する。
【0072】
上記(1)でろう材ペーストをセラミックス板に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ロールコーター法、スクリーン印刷法、転写法などが挙げられる。均一に塗布しやすいという点から、スクリーン印刷法が好ましい。
スクリーン印刷法でろう材ペーストを均一に塗布するためには、ろう材ペーストの粘度を5Pa・s以上20Pa・s以下に制御することが好ましい。また、ろう材ペースト中の有機溶剤量を5質量%以上17質量%以下、バインダー量を2質量%以上8質量%以下に調整することで、印刷性を高めることができる。
【0073】
上記(2)のセラミックス板と銅板との接合については、真空中または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中、770℃以上830℃以下の温度で、10分以上60分の時間での処理が好ましい。
温度を770℃以上とする、かつ/または、処理時間を10分以上とすることで、銅板からの銅の溶け込み量が十分多くなり、セラミックス板と銅板との接合性を十分強固にすることができる。
一方、温度を830℃以下とする、かつ/または、処理時間を60分以下とすることで、ろう材層中のAgリッチ相の連続性が担保されやすくなる、銅板中への過度なろう材の拡散が抑えられる、銅の再結晶化による銅結晶の粗大化が抑えられる、セラミックスと銅の熱膨張率差に由来する応力を低減できる、等のメリットを得ることができる。
【0074】
上記(1)および(2)のような工程により、本実施形態の複合体(セラミックス層1と、銅層2と、それら二層の間に存在するろう材層3とを備える)を得ることができる。
【0075】
<セラミック回路基板>
得られた複合体を更に処理/加工してもよい。
例えば、複合体の、少なくとも銅層2の一部を除去して回路を形成してもよい。より具体的には、銅層2やろう材層3の一部を、エッチングにより除去することで回路パターンを形成してもよい。これにより、セラミックス回路基板を得ることができる。
複合体に回路パターンを形成してセラミックス回路基板を得る手順について、以下に説明する。
【0076】
・エッチングマスクの形成
まず、銅層2の表面に、エッチングマスクを形成する。
エッチングマスクを形成する方法として、写真現像法(フォトレジスト法)やスクリーン印刷法、互応化学社製PER400Kインクを用いたインクジェット印刷法など、公知技術を適宜採用することができる。
【0077】
・銅層2のエッチング処理
回路パターンを形成するため、銅層2のエッチング処理を行う。
エッチング液に関して特に制限はない。一般に使用されている塩化第二鉄溶液、塩化第二銅溶液、硫酸、過酸化水素水等を使用することができる。好ましいものとしては、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液が挙げられる。エッチング時間を調整することで、銅回路の側面を傾斜させてもよい。
【0078】
・ろう材層3のエッチング処理
エッチングによって銅層2の一部を除去した複合体には、塗布したろう材、その合金層、窒化物層等が残っている。よって、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いて、それらを除去するのが一般的である。エッチング時間や温度、スプレー圧などの条件を調整することで、ろう材はみ出し部の長さ及び厚みを調整することができる。
【0079】
・エッチングマスクの剥離
エッチング処理後のエッチングマスクの剥離方法は、特に限定されない。アルカリ水溶液に浸漬させる方法などが一般的である。
【0080】
・メッキ/防錆処理
耐久性の向上や経時変化の抑制などの観点から、メッキ処理または防錆処理を行ってもよい。
メッキとしては、Niメッキ、Ni合金メッキ、Auメッキなどを挙げることができる。メッキ処理の具体的方法は、(i)脱脂、化学研磨、Pd活性化の薬液による前処理工程を経て、Ni-P無電解めっき液として次亜リン酸塩を含有する薬液を使用する通常の無電解めっきの方法、(ii)電極を銅回路パターンに接触させて電気めっきを行う方法などにより行うことができる。
防錆処理は、例えばベンゾトリアゾール系化合物により行うことができる。
【0081】
<パワーモジュール>
例えば上記のようにして銅回路が形成されたセラミックス回路基板の、その銅回路上に適当な半導体素子を配置する。このようにして、セラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュールを得ることができる。
パワーモジュールの具体的構成や詳細については、例えば、前述の特許文献1から3の記載や、特開平10-223809号公報の記載、特開平10-214915号公報の記載などを参照されたい。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
セラミックス層と、銅層と、前記セラミックス層と前記銅層の間に存在するろう材層とを備えた、平板状のセラミックス-銅複合体であって、
当該セラミックス-銅複合体を、その主面に垂直な面で切断したときの切断面における、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域Pとしたとき、
前記領域Pにおける、前記セラミックス層と前記ろう材層との界面から前記銅層側に50μm以内の領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1が、30μm以上100μm以下である、セラミックス-銅複合体。
2.
1.に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P全体における銅結晶の平均結晶粒径をD2としたとき、
D2/D1の値が0.5以上2.0以下である、セラミックス-銅複合体。
3.
1.または2.に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、粒径350μmを超える結晶が含まれない、セラミックス-銅複合体。
4.
1.から3.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記切断面において、前記領域Pとは異なる、長辺方向の長さ1700μmの領域を領域P'としたとき、
前記領域P'における、前記セラミックス層と前記ろう材層との界面から前記銅層側に50μm以内の領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1'が、30μm以上100μm以下である、セラミックス-銅複合体。
5.
4.に記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶中には、粒径350μmを超える結晶が含まれない、セラミックス-銅複合体。
6.
1.から5.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記銅層は圧延銅板により構成される、セラミックス-銅複合体。
7.
1.から6.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体であって、
前記ろう材層が、Ag、CuおよびTiと、Snおよび/またはInとを含む、セラミックス-銅複合体。
8.
1.から7.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体の製造方法であって、
真空下または不活性ガス雰囲気下で、770℃以上830℃以下の温度での10分以上60分以下の加熱により、セラミックス板と銅板とを、ろう材で接合する接合工程を含み、
前記ろう材は、Agが85.0質量部以上95.0質量部以下、Cuが5.0質量部以上13.0質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.4質量部以上3.5質量部以下からなる、セラミックス-銅複合体の製造方法。
9.
1.から7.のいずれか1つに記載のセラミックス-銅複合体の、少なくとも前記銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板。
10.
9.のセラミックス回路基板が搭載されたパワーモジュール。
【実施例】
【0083】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0084】
<セラミックス-銅複合体の作製>
[実施例1]
ろう材(活性金属を含む)として、Ag粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Ag-HWQ 2.5μm)89.5質量部、Cu粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Cu-HWQ 3μm)9.5質量部、Sn粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Sn-HPN 3μm)1.0質量部の合計100質量部に対して、水素化チタン粉末(トーホーテック株式会社製:TCH-100)を3.5質量部含むろう材を準備した。
上記ろう材と、バインダー樹脂PIBMA(ポリイソブチルメタクリレート、三菱ケミカル株式会社「ダイヤナール」)と、溶剤ターピネオールとを混合し、ろう材ペーストを得た。
【0085】
このろう材ペーストを、窒化珪素基板の両面に、各面での乾燥厚みが約10μmとなるように、スクリーン印刷法で塗布した。窒化珪素基板としては、デンカ株式会社製の、厚み0.32mm、縦45mm×横45mmの大きさのものを用いた。
その後、窒化珪素基板の両面に銅板(具体的には後掲の表1に示す)を重ね、1.0×10-3Pa以下の真空中にて780℃、30分の条件で加熱し、窒化珪素基板と銅板をろう材で接合した。これにより、窒化珪素基板と銅板とがろう材で接合されたセラミックス-銅複合体を得た。
【0086】
接合した銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二鉄溶液でエッチングして回路パターンを形成した。さらにフッ化アンモニウム/過酸化水素溶液でろう材層、窒化物層を除去した。めっき工程は、脱脂、化学研磨による前処理工程を経て、ベンゾトリアゾール系化合物により防錆処理を行った。
以上により、上記のセラミックス-銅複合体の銅層の一部が除去されて回路が形成された、セラミックス回路基板を得た。
【0087】
[実施例2から10、比較例1から10]
銅板として表1に記載のものを用い、ろう材の金属成分を後掲の表1に記載のようにし、また、接合条件を後掲の表1に記載のようにした以外は、実施例1と同様にして、窒化珪素基板と銅板をろう材で接合した。そして、エッチング処理等を行い、セラミックス回路基板を得た。
【0088】
【0089】
表1中、銅板1および銅板2は以下である。いずれの銅板中の銅結晶の粒径も、20μm程度であった。
・銅板1:三菱伸銅株式会社製、無酸素銅板OFCG材(OFCG:Oxygen-Free Copper Grain controlの略)、厚さ0.8mmの圧延銅板
・銅板2:三菱伸銅株式会社製、無酸素銅板OFC材(OFC:Oxygen-Free Copperの略)、厚さ0.8mm
【0090】
表1中、ろう材金属成分としてInを含むものについては、原料としてIn粉末(アトマイズ法特級試薬)を用いた。
【0091】
<セラミックス-銅複合体の切断、EBSD測定、領域P内の銅結晶の粒径の算出など>
まず、以下手順で、測定用の「断面」を得た。
(1)各実施例および比較例で得られたセラミックス回路基板を、主面に垂直で、かつ、基板の重心(縦45mm×横45mmの窒化珪素基板のほぼ中心)を通る断面で切断した。切断にはコンターマシンを用いた。
(2)切断したセラミックス回路基板を樹脂包埋し、樹脂包埋体を作成した。
(3)作成した樹脂包埋体中の複合体断面を、ダイヤモンド砥粒を用いてバフ研磨した。
【0092】
上記で研磨された基板断面について、電子後方散乱回折法による測定を行った。
具体的には、まず、上記で研磨された基板断面のほぼ中心付近で、断面の長手方向に1700mmの領域Pを設定した。この領域P内の銅層について、加速電圧15kVの条件で電子線後方散乱回折(EBSD)法による分析を行い、データを取得した。EBSD法には、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のSU6600形電界放出形走査顕微鏡、および、株式会社TSLソリューションズ製の解析装置を用いた。
【0093】
測定データを、株式会社TSLソリューションズ製のソフトウェア:OIM Data Analysis 7.3.0により可視化して結晶方位マップを作成した。この結晶方位マップを、画像処理ソフトウェアで解析することで、領域P全体における銅結晶の平均結晶粒径D2を求めた。
【0094】
また、同じく画像処理ソフトウェアでの解析により、領域P内で、セラミックス層とろう材層との間の界面を基準として、その界面からろう材層側に50μm以内である領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1も求めた。
【0095】
上記で、画像処理ソフトウェアとしては、Media Cybernetics社製のImage-Pro Plus Shape Stack バージョン6.3を用いた。結晶1つ1つの粒径は、前述のとおり、可視化された粒子の幾何学的重心を通る直線Lを引くなどして求められた。そして、得られた複数の粒径を平均して、D1またはD2を求めた(これらはソフトウェアが自動的に処理して値を算出した)。
【0096】
さらに、結晶方位マップの情報から、領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶中に、粒径350μmを超える結晶が含まれるかどうかを判定した。
【0097】
<領域P'内の銅結晶の粒径など>
セラミックス回路基板の断面において、領域Pとは異なる(領域Pと重ならない)領域として、断面の長辺方向の長さ1700μmの領域P'を設定した。
この領域P'において、上記と同様の測定、解析などを行い、領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1'を求めた。後掲の表2には、D1'が30μm以上100μm以下に収まっているかどうかを記載した(D1'が30μm以上100μm以下に「収まっている」場合を○、「収まっていない」場合を×とした)。
また、領域P1'に少なくとも一部が存在する銅結晶に、粒径350μmを超える結晶が含まれるかどうかを判定した。
【0098】
<熱サイクル試験、クラック評価>
各実施例および比較例のセラミックス回路基板について、「-55℃にて15分、25℃にて15分、175℃にて15分、25℃にて15分」を1サイクルとする熱サイクルを3000サイクル繰り返す、熱サイクル試験を行った。
試験後、塩化鉄及びフッ化アンモニウム/過酸化水素エッチングで銅板及びろう材層を剥離し、窒化珪素基板を露出させた。そして、その窒化珪素基板全体をスキャナーにより600dpi×600dpiの解像度で取り込み、画像解析ソフトGIMP2(閾値140)にて二値化した。この二値化データに基づき、窒化珪素基板の水平方向に入ったクラックの面積を算出し、その値を除去前の銅の面積で除し、そして100を掛けて、「水平クラック率」(面積%)を求めた。
クラック率が0.0から2.0%のものを○(良好)、そうでなかったものを×(不良)とした。
【0099】
粒径等の解析結果やクラック評価結果などをまとめて表2に示す。
【0100】
【0101】
表2に示されるように、銅層の素材として三菱伸銅株式会社の無酸素銅板OFCG材を用いるなどして製造した実施例1から10のセラミックス-銅複合体(正確には、その複合体をエッチングして得たセラミックス回路基板)においては、領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1が30μm以上100μm以下に収まっていた。
そして、厳しい条件の熱サイクル試験の後であっても、水平クラックの発生が抑えられていた。
【0102】
一方、銅層の素材として三菱伸銅株式会社の無酸素銅板OFC材を用いるなどして製造した比較例1から8のセラミックス-銅複合体(正確には、その複合体をエッチングして得たセラミックス回路基板)においては、領域P1に少なくとも一部が存在する銅結晶の平均結晶粒径D1は100μmを超えていた。
そして、熱サイクル試験において、実施例1から10よりも明らかに多くの水平クラック発生が認められた。
【0103】
上記から、本実施形態のセラミックス-銅複合体/セラミックス回路基板を得るには、銅層を構成する材料の選択が重要であることが理解される。
また、銅層におけるセラミックス層近傍の銅結晶の平均結晶粒径を比較的小さくすることで、(「粒界すべり」により)熱サイクルによる応力が緩和・低減され、水平クラック発生が低減されることが理解される。
【0104】
この出願は、2018年11月22日に出願された日本出願特願2018-218964号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。