(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ワクチンアジュバントを含む製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20231227BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231227BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231227BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K9/19
A61K47/06
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/14
A61K39/00 G
(21)【出願番号】P 2020563374
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050947
(87)【国際公開番号】W WO2020138217
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018242614
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】大仁田 麻衣子
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061532(WO,A1)
【文献】特開2001-151699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0215497(US,A1)
【文献】国際公開第2012/124631(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181420(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/39
A61K 9/19
A61K 47/06
A61K 47/22
A61K 47/26
A61K 47/10
A61K 47/14
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミド(以下、「化合物A」という)または製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii)アスコルビン酸エステル
類、アスコルビン酸の無機
塩、およびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤A;および
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A、
を含有するエマルションの凍結乾燥製剤。
【請求項2】
更に、v)親水性界面活性剤、およびvi)親油性界面活性剤を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
エマルションが、水中油型エマルションである、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
親水性界面活性剤が
、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート
80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
60、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(124)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、
またはポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコー
ルである、請求項2または3に記載の製剤。
【請求項5】
親水性界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、またはポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールである、請求項2または3に記載の製剤。
【請求項6】
親水性界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、またはポリソルベート80である、請求項2または3に記載の製剤。
【請求項7】
親油性界面活性剤が
、ソルビタン脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、中鎖脂肪酸トリグリセリ
ド、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、トリイソオクタン酸グリセリ
ン、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステ
ル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、
またはモノステアリン酸プロピレングリコー
ルである、請求項2~6のいずれかに記載の製剤。
【請求項8】
親油性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、またはトリオレイン酸ソルビタンである、請求項2~6のいずれかに記載の製剤。
【請求項9】
親油性界面活性剤が、トリオレイン酸ソルビタンである、請求項2~6のいずれかに記載の製剤。
【請求項10】
更に
、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール
、トコフェロール酢酸エステル
、およびブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される抗酸化剤Bを含む、請求項1~9のいずれかに記載の製剤。
【請求項11】
抗酸化剤Bが、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、およびδ-トコフェロールからなる群から選択されるトコフェロール類である、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
抗酸化剤Bが、α-トコフェロールである、請求項10に記載の製剤。
【請求項13】
抗酸化剤Aが、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、およびアスコルビン酸からなる群から選択される、請求項1~12のいずれかに記載の製剤。
【請求項14】
抗酸化剤Aが、パルミチン酸アスコルビン酸、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、またはアスコルビン酸である、請求項1~12のいずれかに記載の製剤。
【請求項15】
抗酸化剤Aが、アスコルビン酸ナトリウムまたは、アスコルビン酸カリウムである、請求項1~12のいずれかに記載の製剤。
【請求項16】
賦形剤Aが
、スクロース
、トレハロー
ス、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、またはラクチトー
ルである、請求項1~
15のいずれかに記載の製剤。
【請求項17】
賦形剤Aが、スクロース、トレハロース、ソルビトール、またはキシリトールである、請求項1~
15のいずれかに記載の製剤。
【請求項18】
賦形剤Aが、スクロース、またはトレハロースである、請求項1~
15のいずれかに記載の製剤。
【請求項19】
スクワランの配合量が、化合物Aの重量の50倍~500倍である、請求項1~
18のいずれかに記載の製剤。
【請求項20】
スクワランの配合量が、化合物Aの重量の100倍~400倍である、請求項1~
18のいずれかに記載の製剤。
【請求項21】
スクワランの配合量が、化合物Aの重量の200倍~300倍である、請求項1~
18のいずれかに記載の製剤。
【請求項22】
親水性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の0.5倍~250倍である、請求項2~
21のいずれかに記載の製剤。
【請求項23】
親水性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の5倍~100倍である、請求項2~
21のいずれかに記載の製剤。
【請求項24】
親水性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の10倍~50倍である、請求項2~
21のいずれかに記載の製剤。
【請求項25】
親油性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の0.5倍~250倍である、請求項2~
24のいずれかに記載の製剤。
【請求項26】
親油性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の5倍~100倍である、請求項2~
24のいずれかに記載の製剤。
【請求項27】
親油性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の10倍~50倍である、請求項2~
24のいずれかに記載の製剤。
【請求項28】
抗酸化剤Aの配合量が、アスコルビン酸ナトリウムの重量に換算した場合に、化合物Aの重量の0.5倍~500倍である、請求項1~
27のいずれかに記載の製剤。
【請求項29】
抗酸化剤Aの配合量が、アスコルビン酸ナトリウムの重量に換算した場合に、化合物Aの重量の2.5倍~250倍である、請求項1~
27のいずれかに記載の製剤。
【請求項30】
抗酸化剤Aの配合量が、アスコルビン酸ナトリウムの重量に換算した場合に、化合物Aの重量の5倍~100倍である、請求項1~
27のいずれかに記載の製剤。
【請求項31】
賦形剤Aの配合量が、化合物Aの重量の50倍~1000倍である、請求項1~
30のいずれかに記載の製剤。
【請求項32】
賦形剤Aの配合量が、化合物Aの重量の100倍~750倍である、請求項1~
30のいずれかに記載の製剤。
【請求項33】
賦形剤Aの配合量が、化合物Aの重量の200倍~625倍である、請求項1~
30のいずれかに記載の製剤。
【請求項34】
抗酸化剤Bの配合量が、化合物Aの重量の5倍~250倍である、請求項10~
33のいずれかに記載の製剤。
【請求項35】
抗酸化剤Bの配合量が、化合物Aの重量の12.5倍~125倍である、請求項10~
33のいずれかに記載の製剤。
【請求項36】
抗酸化剤Bの配合量が、化合物Aの重量の25倍~50倍である、請求項10~
33のいずれかに記載の製剤。
【請求項37】
化合物Aの重量が、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0001倍~0.65倍である、請求項1~
36のいずれかに記載の製剤。
【請求項38】
化合物Aの重量が、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0002倍~0.35倍である、請求項1~
36のいずれかに記載の製剤。
【請求項39】
化合物Aの重量が、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0005倍~0.065倍である、請求項1~
36のいずれかに記載の製剤。
【請求項40】
25℃で6カ月保存後に復水したエマルションの粒子径D
90
値が1000 nm以下である、請求項1~39のいずれかに記載の製剤。
【請求項41】
エマルション調製直後の粒子径D
90値、および凍結乾燥製剤として25℃で6カ月保存後に復水したエマルションの粒子径D
90値が、いずれも1000 nm以下である、請求項1~
40のいずれかに記載の製剤。
【請求項42】
凍結乾燥製剤を5℃で6か月保存した時の、不純物UK-1.02の面積百分率値における増加量が、5.0%以下である、請求項1~
41のいずれかに記載の製剤。
【請求項43】
凍結乾燥製剤を5℃で6か月保存した時の、不純物UK-1.02の面積百分率値における増加量が、1.0%以下である、請求項1~
41のいずれかに記載の製剤。
【請求項44】
5℃で6カ月保存後に復水したエマルションの粒子径D
90
値が1000 nm以下である、請求項1~43のいずれかに記載の製剤。
【請求項45】
製造工程中のエマルションの粒子径D
90
値が1000 nm以下である、請求項1~44のいずれかに記載の製剤。
【請求項46】
請求項1~
45のいずれかに記載の製剤を含むワクチンアジュバント。
【請求項47】
請求項1~
45のいずれかに記載の製剤および抗原を含むワクチン。
【請求項48】
抗原が病原体由来の物質である、請求項
47に記載のワクチン。
【請求項49】
請求項1~
45のいずれかに記載の製剤、および抗原を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチンアジュバントとして有用な化合物のエマルション組成物、および当該組成物の凍結乾燥製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病原体そのものを用いるワクチンに比べ、病原体の一部の成分を抗原としたサブユニットワクチンは、化学合成や遺伝子組換え技術等により製造できることから、ワクチンの安全性および製造方法の面で優れている。しかし、一方で、サブユニットワクチンは、病原体そのものを用いる生ワクチンや不活化ワクチンに比べて免疫賦活の効能が低い傾向がある。このことから、エピトープの免疫原性を強化し、ワクチンの免疫賦活活性を向上させるために、ワクチン抗原にアジュバントを併用する予防もしくは治療方法が検討されている。
【0003】
最近、TLR7アゴニスト活性を有するアジュバントとして、(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミド(以下、「化合物A」という。)が報告されている(特許文献1)。
【化1】
化合物Aは、優れたワクチンアジュバント活性を有しているが、実際哺乳動物にワクチンアジュバントとして投与するためにはエマルション等の製剤処方にすることが求められている。一般的に、エマルション製剤において、製剤の保存安定性を向上するためにアスコルビン酸系の抗酸化剤を用いることが知られているが、アスコルビン酸類の抗酸化剤が粒度分布を安定化させることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保存安定性と免疫賦活活性に優れた、ワクチンアジュバントとして有用な製剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
化合物Aは、分子中にスクワレン様構造に由来する6個の不飽和結合を有している。化合物Aの製剤検討をする中で、化合物Aは、油状組成物としてスクワレンを用いる一般的なエマルション製剤の凍結乾燥製剤とした場合に、化合物Aの分子内の不飽和結合が酸化され、それにより化合物Aの含量が低下してしまうことが判明した。そこで実用可能な保存安定性の高いワクチンアジュバントの製剤処方を見出すべく発明者らは鋭意検討を行った結果、化合物Aのエマルション組成物を調製する際に油状組成物としてスクワランを用いることにより、化合物Aの酸化に対する安定性が高まることを見出した。更にアスコルビン酸類の抗酸化剤を添加することにより、保存安定性、特に化合物A自体の酸化に対する安定性だけでなく、粒度分布の安定性にも優れた製剤処方となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[項1]
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミド(以下、「化合物A」という)または製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii)アスコルビン酸エステル類(例えば、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸等)、アスコルビン酸の無機塩(例えば、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等)、およびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤A;および
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A、
を含有するエマルションの凍結乾燥製剤。
【0008】
[項2]
更に、v)親水性界面活性剤、およびvi)親油性界面活性剤を含む、項1に記載の製剤。
【0009】
[項3]
エマルションが、水中油型エマルションである、項1または2に記載の製剤。
【0010】
[項4]
親水性界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等);ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等);またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類(例えば、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(124)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール等)である、項2または3に記載の製剤。
【0011】
[項5]
親水性界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、またはポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールである、項2または3に記載の製剤。
【0012】
[項6]
親水性界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、またはポリソルベート80である、項2または3に記載の製剤。
【0013】
[項7]
親油性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、中鎖脂肪酸トリグリセリド等);グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、トリイソオクタン酸グリセリン等);ショ糖脂肪酸エステル類(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル等);またはプロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノステアリン酸プロピレングリコール等)である、項2~6のいずれかに記載の製剤。
【0014】
[項8]
親油性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、またはトリオレイン酸ソルビタンである、項2~6のいずれかに記載の製剤。
【0015】
[項9]
親油性界面活性剤が、トリオレイン酸ソルビタンである、項2~6のいずれかに記載の製剤。
【0016】
[項10]
更に、トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等);トコフェロール酢酸エステル;およびブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される抗酸化剤Bを含む、項1~9のいずれかに記載の製剤。
【0017】
[項11]
抗酸化剤Bが、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、およびδ-トコフェロールからなる群から選択されるトコフェロール類である、項10に記載の製剤。
【0018】
[項12]
抗酸化剤Bが、α-トコフェロールである、項10に記載の製剤。
【0019】
[項13]
抗酸化剤Aが、パルミチン酸アスコルビン酸、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、またはアスコルビン酸である、項1~12のいずれかに記載の製剤。
【0020】
[項14]
抗酸化剤Aが、アスコルビン酸ナトリウムまたは、アスコルビン酸カリウムである、項1~12のいずれかに記載の製剤。
【0021】
[項15]
賦形剤Aが、非還元性の糖類(例えば、スクロース、またはトレハロース);または糖アルコール類(例えば、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、またはラクチトール)である、項1~14のいずれかに記載の製剤。
【0022】
[項16]
賦形剤Aが、スクロース、トレハロース、ソルビトール、またはキシリトールである、項1~14のいずれかに記載の製剤。
【0023】
[項17]
賦形剤Aが、スクロース、またはトレハロースである、項1~14のいずれかに記載の製剤。
【0024】
[項18]
スクワランの配合量が、化合物Aの重量の50倍~500倍である、項1~17のいずれかに記載の製剤。
【0025】
[項19]
スクワランの配合量が、化合物Aの重量の100倍~400倍である、項1~17のいずれかに記載の製剤。
【0026】
[項20]
スクワランの配合量が、化合物Aの重量の200倍~300倍である、項1~17のいずれかに記載の製剤。
【0027】
[項21]
親水性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の0.5倍~250倍である、項2~20のいずれかに記載の製剤。
【0028】
[項22]
親水性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の5倍~100倍である、項2~20のいずれかに記載の製剤。
【0029】
[項23]
親水性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の10倍~50倍である、項2~20のいずれかに記載の製剤。
【0030】
[項24]
親油性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の0.5倍~250倍である、項2~21のいずれかに記載の製剤。
【0031】
[項25]
親油性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の5倍~100倍である、項2~22のいずれかに記載の製剤。
【0032】
[項26]
親油性界面活性剤の配合量が、化合物Aの重量の10倍~50倍である、項2~23のいずれかに記載の製剤。
【0033】
[項27]
抗酸化剤Aの配合量が、アスコルビン酸ナトリウムの重量に換算した場合に、化合物Aの重量の0.5倍~500倍である、項1~26のいずれかに記載の製剤。
【0034】
[項28]
抗酸化剤Aの配合量が、アスコルビン酸ナトリウムの重量に換算した場合に、化合物Aの重量の2.5倍~250倍である、項1~26のいずれかに記載の製剤。
【0035】
[項29]
抗酸化剤Aの配合量が、アスコルビン酸ナトリウムの重量に換算した場合に、化合物Aの重量の5倍~100倍である、項1~26のいずれかに記載の製剤。
【0036】
[項30]
賦形剤Aの配合量が、化合物Aの重量の50倍~1000倍である、項1~29のいずれかに記載の製剤。
【0037】
[項31]
賦形剤Aの配合量が、化合物Aの重量の100倍~750倍である、項1~29のいずれかに記載の製剤。
【0038】
[項32]
賦形剤Aの配合量が、化合物Aの重量の200倍~625倍である、項1~29のいずれかに記載の製剤。
【0039】
[項33]
抗酸化剤Bの配合量が、化合物Aの重量の5倍~250倍である、項10~32のいずれかに記載の製剤。
【0040】
[項34]
抗酸化剤Bの配合量が、化合物Aの重量の12.5倍~125倍である、項10~32のいずれかに記載の製剤。
【0041】
[項35]
抗酸化剤Bの配合量が、化合物Aの重量の25倍~50倍である、項10~32のいずれかに記載の製剤。
【0042】
[項36]
化合物Aの重量が、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0001倍~0.65倍である、項1~35のいずれかに記載の製剤。
【0043】
[項37]
化合物Aの重量が、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0002倍~0.35倍である、項1~35のいずれかに記載の製剤。
【0044】
[項38]
化合物Aの重量が、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0005倍~0.065倍である、項1~35のいずれかに記載の製剤。
【0045】
[項39]
エマルション調製直後の粒子径D90値、および凍結乾燥製剤として25℃で6カ月保存後に復水したエマルションの粒子径D90値が、いずれも1000 nm以下である、項1~38のいずれかに記載の製剤。
【0046】
[項40]
凍結乾燥製剤を5℃で6か月保存した時の、不純物UK-1.02の面積百分率値における増加量が、5.0%以下である、項1~39のいずれかに記載の製剤。
【0047】
[項41]
凍結乾燥製剤を5℃で6か月保存した時の、不純物UK-1.02の面積百分率値における増加量が、1.0%以下である、項1~39のいずれかに記載の製剤。
【0048】
[項42]
項1~41のいずれかに記載の製剤を含むワクチンアジュバント。
【0049】
[項43]
項1~41のいずれかに記載の製剤および抗原を含むワクチン。
【0050】
[項44]
抗原が病原体由来の物質である、項43に記載のワクチン。
【0051】
[項45]
項1~41のいずれかに記載の製剤、および抗原を含むキット。
【0052】
[項46]
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミドまたは製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii’)トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等);および
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A、
を含有するエマルションの凍結乾燥製剤。
【0053】
[項47]
更に、v)ポリソルベート20、ポリソルベート40、またはポリソルベート80から選択される親水性界面活性剤;および
vi)ソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、またはトリオレイン酸ソルビタンから選択される親油性界面活性剤
を含有する、項46に記載の製剤。
【0054】
[項48]
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミドまたは製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii)アスコルビン酸エステル類(例えば、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸等)、アスコルビン酸の無機塩(例えば、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等)、およびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤A;および
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A、
を含有するエマルション。
【0055】
[項49]
更に、v)親水性界面活性剤、およびvi)親油性界面活性剤を含む、項48に記載のエマルション。
【0056】
[項50]
更に、トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等);トコフェロール酢酸エステル;およびブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される抗酸化剤Bを含む、項48または49に記載のエマルション。
【0057】
[項51]
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミドまたは製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii’)トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等);および
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A、
を含有するエマルション。
【発明の効果】
【0058】
本発明により、抗原に対する特異的免疫反応をさらに増強することができ、かつ保存安定性の高いワクチンアジュバント製剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の製剤は、化合物A、スクワラン、アスコルビン酸類の抗酸化剤Aおよび賦形剤Aを含有するエマルションの凍結乾燥製剤である。凍結乾燥前のエマルション製剤および凍結乾燥製剤を復水したエマルション製剤も本発明に含まれる。
本発明の製剤において、活性成分として含有する化合物Aは、フリー体であっても、その製薬学的に許容される酸付加塩又は塩基付加塩であってもよい。酸付加塩としては、例えば無機又は有機酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸又はマレイン酸等)との酸付加塩等が挙げられる。塩基付加塩としては、例えばナトリウム塩もしくはカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、本発明における化合物Aまたはその製薬学的に許容される塩は、水和物および溶媒和物の形で存在することもあるので、それらの化合物も本発明における化合物Aまたはその製薬学的に許容される塩に含まれる。それらの詳細および製造法については、特許文献1に記載されており、化合物Aまたはその製薬学的に許容される塩は、例えば、特許文献1に記載の方法に従って製造することができる。
本発明の製剤において、化合物Aの含量は、化合物Aのフリー体の含量として記載している。よって、化合物Aが、その製薬学的に許容される塩として用いられる場合の含量は、化合物Aの重量に塩の重量を加えた重量に換算して算出される。
【0060】
本発明のエマルションとは、水中油型のエマルション又は油中水型のエマルションを意味する。好ましくは水中油型エマルションである。油状組成物と水性溶液の割合(重量比)として好ましくは、1:99~15:85であり、より好ましくは、2:98~10:90であり、更に好ましくは3:97~9:91であり、更により好ましくは4:96~7:93である。本発明のエマルション製剤において、化合物Aは、油状組成物の中に溶解して存在している。
本発明の凍結乾燥製剤とは、本発明のエマルション製剤における水を凍結乾燥条件下にて除去した製剤を意味する。凍結乾燥製剤の重量に対して2倍~20倍の重量の注射用水を用いて復水することによって、エマルション製剤とする事ができる。
【0061】
本明細書における親水性界面活性剤とは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等);ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等);ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類(例えば、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(124)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール等)が挙げられる。好ましくはポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールであり、更に好ましくはポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート80であり、特に好ましくはポリソルベート80である。
本発明の製剤における親水性界面活性剤の含量としては、化合物Aの重量の0.5倍~250倍であり、好ましくは5倍~100倍であり、更に好ましくは、10倍~50倍である。
【0062】
本明細書における親油性界面活性剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、中鎖脂肪酸トリグリセリド等);グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、トリイソオクタン酸グリセリン等);ショ糖脂肪酸エステル類(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル等);プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノステアリン酸プロピレングリコール等)が挙げられる。好ましくはソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、またはトリオレイン酸ソルビタンであり、更に好ましくはトリオレイン酸ソルビタンである。
本発明の製剤における親油性界面活性剤の配合量としては、化合物Aの重量の0.5倍~250倍であり、好ましくは5倍~100倍であり、更に好ましくは、10倍~50倍である。
【0063】
本発明の製剤における油状組成物としては、スクワランが用いられる。本製剤処方の検討において、エマルション製剤における油状組成物として一般的なスクワレンを用いた場合と比べて、スクワランを用いた場合に化合物Aの酸化に対する安定性が高まることから、本製剤処方においては油状組成物としてスクワランが好ましい。スクワランの配合量としては、化合物Aの重量の50倍~500倍であり、好ましくは100倍~400倍であり、更に好ましくは、200倍~300倍である。
【0064】
本明細書における抗酸化剤Aとは、アスコルビン酸エステル類(例えば、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸等);アスコルビン酸の無機塩(例えば、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等);アスコルビン酸等が挙げられる。好ましくはパルミチン酸アスコルビン酸、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸であり、更に好ましくはアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムである。
本発明の製剤における抗酸化剤Aの含量としては、アスコルビン酸ナトリウムに換算して、すなわち抗酸化剤Aであるアスコルビン酸誘導体のアスコルビン酸について、アスコルビン酸ナトリウムに重量的に換算した含量が化合物Aの重量の0.5倍~500倍であり、好ましくは2.5倍~250倍であり、更に好ましくは、5倍~100倍である。
【0065】
本明細書における賦形剤Aとは、非還元性の糖類または糖アルコール類(ただし、マンニトールは除く)等が挙げられる。好ましくは非還元性の糖類(例えば、スクロース、トレハロース;または糖アルコール類(例えば、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、またはラクチトール)であり、更に好ましくはスクロース、トレハロース、ソルビトール、キシリトールであり、更により好ましくはスクロース、トレハロースであり、特に好ましくはスクロースである。
本発明の製剤における賦形剤Aの含量としては、化合物Aの重量の50倍~1000倍であり、好ましくは100倍~750倍であり、更に好ましくは、200倍~625倍である。
【0066】
本明細書における抗酸化剤Bとは、トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等);トコフェロール酢酸エステル;ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。好ましくはα-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールであり、更に好ましくはα-トコフェロールである。
本発明の製剤における抗酸化剤Bの含量としては、化合物Aの重量の5倍~250倍であり、好ましくは12.5倍~125倍であり、更に好ましくは20倍~50倍であり、更により好ましくは25倍~50倍である。
【0067】
本発明の凍結乾燥製剤は、エマルションをバイアルに充填し、凍結乾燥機を用いて、通常の製造条件で凍結乾燥を行うことにより製造することができる。製造条件は特に規定はないが、具体的には、例えば、-40℃付近で凍結させた後、庫内を真空に減圧し、同時に、庫内の温度を-20℃に上昇させて10~80時間程度乾燥させた上で、庫内の温度を25℃に上昇させて10~30時間程度乾燥させる条件等が挙げられる。
【0068】
本発明の製剤の一つの態様として、
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミド(以下、「化合物A」という)または製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii)アスコルビン酸エステル類(例えば、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸等)、アスコルビン酸の無機塩(例えば、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等)、およびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤A;
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A;
v)親水性界面活性剤;および
vi)親油性界面活性剤
を含有するエマルションの凍結乾燥製剤が挙げられる。
【0069】
本発明の製剤の別の態様として、
i)(4E,8E,12E,16E,20E)-N-{2-[{4-[(2-アミノ-4-{[(3S)-1-ヒドロキシヘキサン-3-イル]アミノ}-6-メチルピリミジン-5-イル)メチル]ベンジル}(メチル)アミノ]エチル}-4,8,12,17,21,25-ヘキサメチルヘキサコサ-4,8,12,16,20,24-ヘキサエンアミド(以下、「化合物A」という)または製薬学的に許容されるその塩;
ii)スクワラン;
iii)アスコルビン酸エステル類(例えば、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸等)、アスコルビン酸の無機塩(例えば、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等)、およびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤A;
iv)非還元性の糖類および糖アルコール類(ただしマンニトールは除く)からなる群から選択される賦形剤A;
v)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等);ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等);ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類(例えば、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(124)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール等)等の親水性界面活性剤;
vi)ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、中鎖脂肪酸トリグリセリド等);グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、トリイソオクタン酸グリセリン等);ショ糖脂肪酸エステル類(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル等);プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノステアリン酸プロピレングリコール等)等の親油性界面活性剤;および
iii’)トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等)、トコフェロール酢酸エステル、およびブチルヒドロキシアニソールからなる群から選択される抗酸化剤B
を含有するエマルションの凍結乾燥製剤が挙げられる。
【0070】
本発明の製剤の別の態様として、抗酸化剤としてiii)の抗酸化剤Aは含有せず、iii’)トコフェロール類(例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等)を含有する凍結乾燥製剤が挙げられる。トコフェロール類として好ましくは、α-トコフェロールである。
当該製剤におけるトコフェロールの含量としては、化合物Aの重量の5倍~250倍であり、好ましくは12.5倍~125倍であり、更に好ましくは20倍~50倍であり、更により好ましくは25倍~50倍である。
当該処方において、更なる抗酸化剤として、チオ硫酸ナトリウムまたはブチルヒドロキシアニソール等を含んでいてもよい。
【0071】
本発明の製剤における化合物Aの重量としては、化合物Aを含まない凍結乾燥物の重量の0.0001倍~0.65倍であり、好ましくは0.0002倍~0.35倍であり、更に好ましくは、0.0005倍~0.065倍である。
【0072】
本発明の製剤における油滴の粒子径D90値としては、製造工程中のエマルションの粒子径D90値が1000 nm以下、好ましくは、300 nm以下である。また、凍結乾燥製剤として保存した後に復水したエマルションの油滴の粒子径D90値として好ましくは、5℃または25℃で6カ月保存後に復水したエマルションの油滴の粒子径D90値が、1000 nm以下である。
【0073】
本発明の製剤において、油滴の粒子径D90値は、エマルションに含有される油滴粒子の粒度分布を表す代表値の一つであり、散乱強度基準による90%粒子径を意味する。一般に、粒子径D90値は、動的光散乱式粒度分布測定装置、レーザー回折式粒度測定装置、画像処理式粒度分布測定装置等を用いて測定し、算出される。本明細書における粒子径D90値は、動的光散乱式粒度分布測定装置:Zetasizer Nano ZS(マルバーン社)を用いて測定した際の値を意味する。
【0074】
本発明の製剤において、不純物UK-1.02は、高速液体クロマトグラフを用いた類縁物質の評価において検出される代表的な不純物の一つである。Phenyl-Hexylカラム(Waters製Xselect CSH Phenyl-Hexyl XP Column、4.6 mm×75 mm、2.5μm、型番:186006134)を用いて、純水、アセトニトリル、メタノール、トリフルオロ酢酸を用いた逆相系高速液体クロマトグラフィー法により、化合物Aとして0.4~2μg相当量を注入し、220 nmの波長で分光学的に測定した際に、化合物Aの1.02倍の溶出時間に検出される不純物を意味する。測定条件の詳細は以下の通りである。
移動相A:0.1% トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B: 0.06% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/メタノール混液(8:2)
送液条件:
流速: 毎分0.5 mL
カラム温度: 40℃付近の一定温度
【0075】
本発明の製剤の保存安定性としては、本発明の凍結乾燥製剤を5℃で6か月保存した後の不純物UK-1.02の面積百分率値における増加量が、保存開始時の5.0%以下であり、好ましくは1.0%以下である。なお、面積百分率値は実測値で比較している。
【0076】
本発明の製剤は、調製した水中油型エマルションを乳化後に無菌ろ過フィルターを用いて無菌ろ過を行い、凍結乾燥した状態で保存される。無菌ろ過をする際に、目詰まり等を避け効率よくろ過するために、粒子径D90値が1000 nm以下である事が望ましい。
【0077】
本発明の製剤は、復水した後のエマルションの粒子径等が変化しない範囲で、他の添加剤を含有することができる。また、投与時に、復水した後のエマルションの粒子径等が変化しない範囲で、ワクチン抗原を含む製剤と混合して投与する事ができる。本発明の製剤とワクチン抗原との混合方法や混合比は特に限定されないが、例えば、復水したエマルション製剤と、等容量のワクチン抗原を含む製剤を、バイアル中で転倒混和することによって混合することができる。
【0078】
本発明の製剤と混合して投与されるワクチン抗原として、特に限定はないが、例えば、抗原タンパク質又は該抗原タンパク質に由来する抗原ペプチド(部分ペプチド)、さらにこれらと担体との複合体が挙げられる。ワクチン抗原の具体例として、1)癌免疫療法のための腫瘍抗原タンパク質又は腫瘍抗原ペプチド、2)感染症予防ワクチンの有効成分等が挙げられる。上記担体とは、抗原タンパク質もしくは抗原ペプチドを化学的及び/又は物理的に結合させる物質であり、例えば、タンパク質や脂質等が挙げられる。
【0079】
本発明の製剤は、化合物Aを含む凍結乾燥製剤およびワクチン抗原を含むキットとして提供する事ができる。
【0080】
本発明の製剤は、投与時に凍結乾燥製剤の重量の2倍~20倍の注射用水で復水し、更にワクチン抗原を含む製剤と混合して投与する事ができる。本発明の製剤の一回当たりの投与量は、化合物Aの重量として1 ng~250 mg、好ましくは1 ng~50 mgである。同時に投与するワクチン抗原の種類や投与される対象の年齢等によって異なるが、一回投与であってもよく、一回または複数回、追加投与されてもよい。
【0081】
本発明によれば、以下の試験例で示すように、保存安定性を示した。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例、参考例、比較例、試験例等により説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0083】
スクワランとして「スクワラン(和光純薬製)」、「スクワラン(岸本特殊肝油工業所製)」又は「スクワラン(マルハニチロ製)」を用い、スクワレンとして「スクワレン(和光純薬製)」、「スクワレン(岸本特殊肝油工業所製)」又は「スクワレン(マルハニチロ製)」を用い、アスコルビン酸ナトリウムとしては「アスコルビン酸ナトリウム(和光純薬製)」又は「L-アスコルビン酸ナトリウム(協和ファーマケミカル製)」を用い、α-トコフェロールとして「α-トコフェロール(三菱ケミカルフーズ製)」又は「all-rac-α-Tocopherol EMPROVE(登録商標) ESSENTIAL Ph Eur,BP,USP,E 307(メルク製)」を用い、トリオレイン酸ソルビタンとして「Span85(シグマアルドリッチ製)」、「レオドール SP-O30V(花王製)」又は「Span85(CRODA製)」を用い、ポリソルベート80として「PS80(GS)(日油製)」、「Polysorbate 80(HX2)(日油製)」、「Tween 80(メルク製)」又は「Tween 80 HP-LQ-(HM)(CRODA製)」、スクロースとして「スクロース(ナカライテスク製)」又は「Sucrose low in endotoxins suitable for use as excipient EMPROVE(登録商標) exp Ph Eur,BP,JP,NF(メルク製)」を用い、注射用水として「大塚注射用蒸留水(大塚製薬工場製)」、パルミチン酸アスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール及びチオ硫酸ナトリウムとして和光純薬製のものを使用した。
【0084】
〔凍結乾燥組成物の調製〕
〔実施例1~16、比較例1~3〕
化合物Aを表1~4の組成となるように油性成分(実施例1~9及び15においてはスクワラン、トリオレイン酸ソルビタン及びα-トコフェロール、実施例10~13においてはスクワラン及びトリオレイン酸ソルビタン、実施例14においては、スクワラン、トリオレイン酸ソルビタン、α-トコフェロール及びパルミチン酸アスコルビン酸、実施例16においてはスクワラン、トリオレイン酸ソルビタン、α-トコフェロール及びブチルヒドロキシアニソール、比較例1~3においてはスクワレン、トリオレイン酸ソルビタン及びα-トコフェロール)に溶解させた。表1~4の組成となるように注射用水に水性成分(実施例1~3、14及び16においてはスクロース及びポリソルベート80、実施例4~13においてはスクロース、ポリソルベート80及びアスコルビン酸ナトリウム、実施例15においてはスクロース、ポリソルベート80及びチオ硫酸ナトリウム)を溶解後、上記油性組成物を加えて予備混合を行い、超高圧乳化分散機を用いて乳化分散させた。0.2μmの滅菌フィルターを通してろ過した後、ガラス製バイアルに1 mLずつ充填し、凍結乾燥した。窒素ガスで復圧後、ゴム栓で密封し、凍結乾燥組成物である実施例1~16及び比較例1~3を得た。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0085】
〔試験例1〕製造工程中の粒子径の評価
凍結乾燥組成物の製造工程において、乳化後で凍結乾燥前のエマルションに含有される油滴粒子の粒度分布を下記の方法により測定した。
注射用水を用いてエマルションを10倍に希釈し、動的光散乱式粒度分布測定装置(Zetasizer Nano ZS)を用いて、散乱強度基準の90%粒子径(D
90)を測定した。実施例1~16および比較例1~3のD
90(nm)を表5に示す。
【表5】
【0086】
〔試験例2〕安定性評価(1)
調製した凍結乾燥組成物について、開始時及び5℃及び25℃の恒温庫内で6箇月間保存後の粒度分布を下記の方法により測定した。
実施例1~16および比較例1~3で調整した凍結乾燥組成物1バイアルに1 mLの注射用水を加えて復水後、復水後の薬液100μLをマイクロピペットを用いて採取し、900μLの注射用水と混合後、動的光散乱式粒度分布測定装置(Zetasizer Nano ZS)を用いて、散乱強度基準の90%粒子径(D
90)を測定した。保存前後の実施例1~16および比較例1~3のD
90(nm)を表6に示す。
【表6】
試験結果より、アスコルビン酸類の抗酸化剤を含む実施例4~14の処方においては、5℃及び25℃の恒温庫内で6箇月間保存後の粒度分布が、保存開始時の値から変化が少なく、粒度分布の安定性が高い処方であると言える。
【0087】
〔試験例3〕安定性評価(2)
調製した凍結乾燥組成物について、開始時及び5℃の恒温庫内で6箇月間保存後の不純物量(Uk-1.02の面積百分率値)を下記の方法により測定した。
Phenyl-Hexylカラム(Waters製Xselect CSH Phenyl-Hexyl XP Column、4.6 mm×75 mm、2.5μm、型番:186006134)を用いて、純水、アセトニトリル、メタノール、トリフルオロ酢酸を用いた逆相系高速液体クロマトグラフィー法により、化合物Aとして0.4~2μg相当量を注入し、220 nmの波長で分光学的に検出した。測定条件の詳細を以下に示す。
移動相A:0.1% トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B: 0.06% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/メタノール混液(8:2)
送液条件:
流速: 毎分0.5 mL
カラム温度: 40℃付近の一定温度
本法で測定したピーク面積及び溶出時間を用い、化合物Aの1.02倍の溶出時間に検出される不純物ピーク(Uk-1.02)の面積百分率値を以下の式により算出した。
Uk-1.02の面積百分率値(%)=Uk-1.02のピーク面積/類縁物質及び化合物Aの総ピーク面積×100
保存前後の実施例1~16および比較例1~3の不純物ピーク(Uk-1.02)の面積百分率値(%)を表7に示す。
【表7】
試験結果より、アスコルビン酸類の抗酸化剤を含む実施例4~14の処方においては、5℃の恒温庫内で6箇月間保存後の不純物の値(Uk-1.02の面積百分率値)が低く、保存安定性が高い処方であると言える。また、油性成分としてスクワランを含有する実施例1~3の処方と、油性成分としてスクワレンを含有する比較例1~3の処方を比較すると、油性成分としてスクワランを含有する処方の方が不純物の値(Uk-1.02の面積百分率値)が低い事から、スクワランが化合物1の抗酸化安定性に寄与しており、スクワランを含有する処方は保存安定性が高い処方であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0088】
これらの実施例、参考例、比較例、試験例等により、本発明の製剤は保存安定性が高い事から、ワクチンアジュバント製剤として用いられる。