(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】電力変換器を動作させるための方法、永久励磁型電気機械のための電力変換器、車両およびコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
H02P 21/13 20060101AFI20231227BHJP
H02P 29/66 20160101ALI20231227BHJP
H02P 25/024 20160101ALI20231227BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20231227BHJP
H02P 21/14 20160101ALI20231227BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231227BHJP
【FI】
H02P21/13
H02P29/66
H02P25/024
H02P27/06
H02P21/14
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2020563930
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2019061931
(87)【国際公開番号】W WO2019219501
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】102018112107.5
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518334554
【氏名又は名称】ヴァレオ ジーメンス エーアオトモーティヴェ ゲルマニー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Valeo Siemens eAutomotive Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114502
【氏名又は名称】山本 俊則
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ザイルマイアー
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/219501(WO,A1)
【文献】特開平01-152989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/13
H02P 29/66
H02P 25/024
H02P 27/06
H02P 21/14
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久励磁型電気機械(2)のための電力変換器(3)を動作させるための方法であって、前記電気機械(2)の少なくとも1つの永久磁石(6)の温度を記述する温度情報(16)が、前記電気機械(2)の動作パラメータ
を独立変数とし前記温度情報(16)を従属変数とする関数
で表されるオブザーバによって決定され、前記電力変換器(3)が前記温度情報(16)
に基づいて、前記永久磁石(6)の温度が高い場合には、電力減少が行われ、前記電力低減が十分でない場合には、前記電気機械(2)の速度を低下させるように制御される、方法において、
プロセス(18,19)をタイムスライスの間に処理するコンピューティング装置(9)が、第1のタイムスライスにおいて、前記動作パラメータを決定するためのパラメータ値(22)を検出
し蓄積する第1のプロセス(18)を実行し、
第2のタイムスライスにおいて、
蓄積された前記パラメータ値(22)に基づいて前記動作パラメータを決定し前記オブザーバを用いて前記温度情報(16)を決定する第2のプロセス(19)を実行
し、
前記第2のプロセスは、前記第1のタイムスライスにおいて実行する前記第1のプロセス(18)よりも低い頻度で検索し実行することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記電力変換器(3)の制御のためのクロックされたスイッチング信号が、前記第1のプロセス(18)によって生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラメータ値(22)が、前記電気機械(2)の1つ以上の電気的または機械的周期を含む検出サイクルの継続時間にわたって検出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラメータ値(22)の平均値が、前記動作パラメータを決定するための前記検出サイクルの継続時間にわたって計算される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記パラメータ値(22)は、前記電気機械(2)の準定常動作の存在を記述する検証基準が満たされた場合に
、前記動作パラメータを決定するために使用さ
れ、前記検証基準が満たされない場合には
、前記第1のプロセス(18)の新たな検出サイクルが実行され
て、新たな前記パラメータ値(22)が検出され蓄積され、
前記検証基準は、前記電力変換器(3)の目標電流の変化が所定の範囲内にあること、および/または前記電気機械(2)の速度の変化が所定の範囲内にあることの条件を含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のプロセス(19)によって、または前記第1のタイムスライス
において実行される前記第1のプロセス(18)よりも低い頻度で検索され
所定のタイムスライスにおいて実行されるプロセス
(13)によって、前記平均値の計算および/または前記検証基準の評価が実行される、請求項4ないし
5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記電気機械(2)の速度が所定の閾値以上であることを示す開始情報(20)が存在するときに提供されるだけであるトリガ情報(21)によって、前記パラメータ値(22)の検出が開始され、および/または、
前記第1のプロセス(18)が完了情報(23)を提供されるときにのみ提供されるトリガ情報(24)によって、前記動作パラメータの決定が開始され、および/または、
前記動作パラメータが計算される前記プロセス(
13)が
、検証情報(26)を提供するときにのみ
、生成され提供されるトリガ情報(27)によって、前記温度情報(16)の決定が開始される、請求項1ないし
6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記第2のプロセス(19)によって、または、前記第1のタイムスライス
において実行される前記第1のプロセス(18)よりも少ない頻度で検索され
所定のタイムスライスにおいて実行されるプロセス
(15)によって、前記トリガ情報(21,24,27)の生成が制御される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記トリガ情報(21,24,27)を生成する前記プロセス(
15)は、前記開始情報(20)および/または前記完了情報(23)および/または前記検証情報(26)を入力動作として受け取る
と状態が遷移する状態機械を実現する、請求項
7または
8に記載の方法。
【請求項10】
前記温度情報(16)を決定するときに、基準温度に加えるべき温度差が、動作パラメータの関数、特に前記電力変換器(3)の実際の出力電流の関数として磁束差から決定される、請求項1ないし
9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
請求項1ないし
10のいずれか一つに記載の方法を実行するように設計されたコンピューティング装置(9)を備える、永久励磁型電気機械(2)のための電力変換器(3)。
【請求項12】
車両(1)を駆動するための永久励磁型電気機械(2)と、
前記電気機械(2)に電力を供給するように設計された請求項
11に記載の電力変換器(3)と、
を備える車両(1)。
【請求項13】
コンピューティング装置(9)のメモリ(11)にロードするためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが前記コンピューティング装置(9)で実行されたときに請求項1ないし
10のいずれか一つに記載の方法が実行されるソフトウエアコードを含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械の少なくとも1つの永久磁石の温度を記述する温度情報が、電気機械の動作パラメータの関数としてオブザーバによって決定され、電力変換器が温度情報の関数として制御される、永久励磁型電気機械のための電力変換器を動作させるための方法に関する。
【0002】
また、本発明は、永久励磁型電気機械のための電力変換器、車両およびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0003】
電気機械の制御において永久磁石の温度を考慮することは、永久磁石の磁束がその温度に大きく依存するため、一方では高いトルク精度を可能にし、他方では、永久磁石のキュリー温度を超えた場合に永久磁石の不可逆的な減磁からの保護を可能にする。熱ネットワークに基づくかなり不正確な技術とは対照的に、温度決定のための好ましい方法は、電気機械の逆起電力に基づいてオブザーバによって温度を推定するものである。
【0004】
永久励磁型電気機械の磁石温度を決定するためのそのような方法は、文献 DE 10 2015 005 555 A1(特許文献1)から知られており、この文献では、電気機械の測定された固定子電流、電気機械のコンバータに形成された固定子電圧、および電気機械の測定された速度が磁石温度監視ユニットに供給される。磁石温度監視ユニットは、決定された永久磁石磁束と基準磁石温度との磁束差から温度差を決定し、この温度差から磁石温度を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第102015005555号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような方法の従来の実施形態では、オブザーバが現在の瞬間に検出されたパラメータ値に基づいて非常に頻繁に推定を実行しなければならないため、非常に高い計算力を必要とする。
【0007】
したがって、本発明の目的は、オブザーバによる温度情報の決定の効率のよいインプリメンテーションを示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、最初に述べたタイプの方法では、タイムスライスの間に処理を行うコンピューティング装置が、動作パラメータを決定するためのパラメータ値を検出するため第1のプロセスを第1のタイムスライスの間に実行し、温度情報を決定する第2のプロセスを、第1のタイムスライスよりも低い頻度で検索される第2のタイムスライスの間に実行することによって、達成される。
【0009】
本発明は、第1のタイムスライスにおけるオブザーバによる温度の計算が、コンピューティング装置のコンピューティングリソースを非常に強く使用するという知見に基づいている。したがって、本発明は、オブザーバによって温度情報を決定する計算的に複雑なプロセスが、頻度の低い第2のタイムスライスの間に行われ、リソースを節約するパラメータ値の検出のみが頻度の高い第1のタイムスライスの間に行われるので、コンピューティング装置のリソース消費を低減することを、提案する。本発明に従った方法によれば、推定問題が、第1のタイムスライスの間に処理される速い部分と、第2の時間スライスの間に処理される遅い部分とに分割されるので、有利なことに、温度情報の決定を特に効率的に実現できる。
【0010】
一般的には、電気機械の逆起電力(back-EMF)に基づいて永久磁石の温度を推定するために、オブザーバが使用される。特に、この温度は、電気機械の1個又は複数個の永久磁石の温度分布の平均値に関係する。動作パラメータが、電気機械の速度および/または電力変換器の実際の出力電流および/または電力変換器を制御するために指定された目標電流および/または電力変換器の出力電圧を記述することは有用である。好ましくは、実際の出力電流および/または目標電流および/または出力電圧は、dq-座標で記述される。この目的のため、パラメータ値は、本発明に係る方法の範囲内で、dq座標系に変換することができる。好ましくは、第1のタイムスライスの検索周波数は、電力変換器のクロック周波数に対応する。本発明の用語において、「プロセス」という用語は、タイムスライス中に実行される、計算タスクまたは個々のプロセスの全体を記述する。
【0011】
好ましくは、本発明に従った方法の第1のプロセスは、電力変換器の制御のためのクロックされたスイッチング信号も生成する。そのため、第1のタイムスライスは、コントロールタイムスライスともみなすことができる。したがって、パラメータ値の検出は、極めて省資源的に処理することができるので、パラメータ値の検出は、任意の場合に提供され、特にクロックされたスイッチング信号のデューティサイクルを決定する第1のタイムスライスに統合することができる。
【0012】
好ましくは、パラメータ値は、電気機械の1つ以上の電気的または機械的期間を含む1検出サイクルの継続期間にわたって検出される。
【0013】
動作パラメータを決定するために、パラメータ値の平均値が1検出サイクルの継続期間にわたって計算されることは、特に有利である。この目的のために、第1のプロセスにおいて、蓄積されたサンプル値を検出し、パラメータ値として蓄積することができる。平均値の計算、特に蓄積されたサンプリング値からの計算は、第2のプロセスによって、すなわち、第1のタイムスライスよりも検索頻度の低いタイムスライスの間に実行されるプロセスによって、適切に実行される。
【0014】
動作パラメータを決定するために、または動作パラメータとして平均値を使用することは、例えば固定子の溝または磁気飽和に起因して生じる高調波および分数高調波が除去されるという利点を有する。通常、これらの高調波は、オブザーバの位置依存モデルパラメータによって考慮されなければならず、そのため、計算量の多い三角関数は、現在のロータ位置角の倍数の関数、例えば、dq座標に関して第6高調波として実行されなければならない。従来の方法では、非常に遅いオブザーバ動特性を使用しているが、これによって、動特性が十分に遅くない場合、推定温度の望まない振動を引き起こす可能性がある。一方、平均化は、動作パラメータ決定のレベルで既に高調波を除去することを可能にし、したがって、本発明に従った方法をさらに改善する。
【0015】
特に有利な点は、電気機械の準定常動作の存在を記述する検証基準が満たされた場合にのみ、動作パラメータを決定するためにパラメータ値が使用されるだけであり、検証基準が満たされていない場合には新たな検出サイクルが実行されることである。これにより、特に、平均値の考察の妥当性についての、準定常動作の条件が満たされることが確実になる。電気機械のロータの熱時定数は通常、数分のオーダーであり、したがって、電力変換器の電気的動特性と比較すると非常に遅いため、準定常運転を想定することができる。そのため、準定常状態では比較的ゆっくりと推定を行うことで十分である。
【0016】
また、検証基準は、電力変換器の目標電流の変化が所定の範囲内であること、および/または電気機械の速度の変化が所定の範囲内であることの条件を含んでいてもよい。これは、目標電流または速度の関連する変化の間に得られたパラメータ値に基づく平均値を使用しないことを、確実にする。このような状況は、例えば、電気機械によって駆動される車両が、運転者の予期せぬ加速である。検証基準またはその条件を評価するために、第1のプロセスは、パラメータ値の最小値および/または最大値を追加的に決定して格納することができ、これは、前述のパラメータ値の蓄積と同様に、コンピューティングリソースに著しい追加的な負荷には相当しない。検証基準は、好ましくは、第2のプロセスによって、または第1のタイムスライスよりも低い頻度で検索されるタイムスライスの間に実行されるプロセスによって評価される。
【0017】
本発明に従った方法の範囲内において、好都合に提供されることは、電気機械の速度が所定の閾値以上であることを示す開始情報があるときにのみ提供されるトリガ情報によってパラメータ値の検出が開始されること、および/または第1のプロセスが完了情報を提供するときにのみ提供されるトリガ情報によって動作パラメータの決定が開始されること、および/または動作パラメータが計算されるプロセスが検証情報を提供するときにのみ提供されるトリガ情報によって温度情報の決定が開始されることである。
【0018】
この高レベルプロセス制御の特に効率のよい実行は、トリガ情報を生成するプロセスが、入力動作として開始情報および/または完了情報および/または検証情報を受け取る状態機械を実現する場合に、達成される。有利なことに、第2のプロセスよって、または第1のタイムスライスよりも低い頻度で検索されるタイムスライスの間に実行されるプロセスによって、トリガ情報の生成が制御される。
【0019】
電気機械の動作中のインダクタンスの変化を考慮するために、温度情報を決定する際に、基準温度に加える温度差を、動作パラメータ、特にコンバータの実際の出力電流の関数として、磁束差から決定することも可能である。温度変化によって引き起こされる磁束の変化は、それに伴いインダクタンスの変化を引き起こし、電気機械の動作点を変化させるため、動作パラメータを考慮することで、従来の方法に比べて、より高精度な温度推定を達成できる。これは、自動車用の飽和度の高い電気機械に特に当てはまる。温度差は、永久磁石の推定温度のテイラー級数展開の一次要素を記述することができる。好ましくは、温度差は、動作パラメータの値に温度差の値を割り当てるルックアップテーブル、または動作パラメータを変数として含む数学的計算規則、好ましくは多項式によって決定される。
【0020】
さらに、本発明は、本発明による方法を実行するように設計されたコンピューティング装置を備える、永久励磁型電気機械のための電力変換器に関する。
【0021】
本発明はさらに、車両を駆動するための永久励磁型電気機械と、電気機械に供給するように設計された、本発明による電力変換器とを備える車両に関する。
【0022】
最後に、本発明は、コンピューティング装置のメモリにロードするためのコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムがコンピューティング装置上で実行されたときに、本発明に従う方法が実行されるソフトウエアコードを含む、コンピュータプログラムに関する。特に、コンピュータプログラム製品は、本発明による電力変換器のコンピューティング装置にロードされてもよい。
【0023】
本発明に従う方法のすべての説明を、本発明に従う電力変換器、本発明に従う車両、および本発明に従うコンピュータプログラムに類推的に転換でき、したがって、前述の利点は、これらにおいても同様に達成できる。
【0024】
本発明のさらなる利点および詳細は、以下に記載された図面から明らかになるであろう。に示されている。これらは模式的な表現及び表示である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明に係る電力変換器の一実施例を有する、本発明に係る車両の一実施例の略図である。
【
図2】
図2は本発明に係る方法の一実施例のフローチャートである。
【
図3】
図3は前記方法において実行されるプロセスのプロセス図である。
【
図4】
図4は前記方法において使用されるオブザーバのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、一実施例の車両1、例えばハイブリッジ車両または電気自動車の略図である。車両1は、車両1を駆動するための永久励磁型電気機械2と、電気機械に電力を供給するように設計された一実施例の電力変換器3と、高圧バッテリ4とを備える。電気機械は、ステータ5と、1つ以上の永久磁石6を有するロータ7とを備える。
【0027】
電力変換器3が有するパワーユニット8は、高圧バッテリ4から供給される直流電圧を、電気機械2に供給される多相交流電圧に変換するように設計されている。パワーユニット8は、例えばマイクロコントローラによって実現されるコンピューティング装置9によって制御される。コンピューティング装置9は、リアルタイムオペレーティングシステムで動作する中央演算装置10と、メモリ11とを有する。コンピューティング装置9は、メモリ11にロードされたコンピュータプログラムのプロセスを、異なる検索周波数の多数のタイムスライスにおいて処理する。例えば、コンピューティング装置9は、以下の実施例の一つに従って電力変換器3を動作させるための方法を実行するように設計されている。
【0028】
図2は、電力変換器3を動作させるための一実施例の方法のブロック図である。この方法の範囲内では、多数の演算命令すなわち個別的なプロセス12,13,14は、より上位の個別的なプロセス15によって制御され、
図3に示されたプロセス図に表されている。
【0029】
この方法は、永久磁石6の温度分布の平均値を記述する温度情報16を決定するために、および、温度情報16の関数として電力変換器3を制御するために、使用される。この制御は、さらなる個別的なプロセス17で実行される。個別的なプロセス12,17のみが、その検索周波数が電力変換器3のクロック周波数に対応する第1のタイムスライスの間に、第1のプロセス18によって、実行される。10kHzのクロック周波数では、第1のプロセス18は、例えば、100μ秒ごとに検索される。しかしながら、個別的なプロセス13,14,15は、第2のプロセス19によって、第1のタイムスライスよりも低い周波数で検索される第2のタイムスライスの間に、例えば10m秒ごとに、実行される。
【0030】
ステップS1において、より上位の個別的なプロセス15は、入力動作として、電気機械2の速度が指定された閾値以上であることを示す開始情報20を受け取ると、次いで、トリガ情報21を出力する。この閾値に達し、または超えたときにのみ、温度情報を、意味のあるものとして決定することが可能である。この結果、個別的なプロセス15は、状態機械を実現する。
【0031】
続くステップS2において、トリガ情報21の存在により、パラメータ値22の検出のための個別的なプロセス12が開始され、第1のタイムスライスの間に実行される。この検出は、電気機械2の1つ以上の電気的または機械的な周期を有する検出サイクルの継続期間にわたって行われる。個別的なプロセス12は、この検出サイクルの間に、電気機械2の速度、電力変換器3の実際の出力電流、電力変換器3を制御するために指定されたターゲット電流、および電力変換器3の出力電圧を記述する動作パラメータを決定するためのパラメータ値22としてサンプルリング値を蓄積する。さらに、個別的なプロセス12は、特定の動作パラメータを決定するためのパラメータ値22の最小値および最大値を決定する。蓄積されたサンプリング値ないしパラメータ値22とともに最小値および最大値も、メモリ11に格納される。
【0032】
続くステップS3において、個別的なプロセス12は、状態機械の入力動作を形成する完了情報23を、個別的なプロセス15に出力する。完了情報23が存在する場合、個別的なプロセス15は、さらなるトリガ情報24を出力する。
【0033】
トリガ情報24が存在している場合、動作パラメータを決定するための、第2のタイムスライスの間に実行される個別的なプロセス13が、ステップS4において開始される。動作パラメータを決定するために、まず、累積されたパラメータ値22をメモリ11から検索してサンプリング数で除算することによって、検出サイクルの継続時間にわたって、パラメータ値22の平均値が計算される。
【0034】
続くステップS5において、個別的なプロセス13は、電気機械2の準定常動作を記述する検証基準を評価する。検証基準は、電力変換器3の目標電流の変化が所定範囲内にあることの条件と、電気機械の速度の変化が所定範囲内にあることの条件とを含む。この目的のために、個別的なプロセス13は、メモリ11から検索された最小値および最大値を、予め設定された閾値と比較する。
【0035】
ステップS6において、個別的なプロセス13は、検証基準を満たすかを確認する。そうでない場合には、状態機械への入力動作として、否定的な検証情報25が出力される。そして、状態機械は、個別的なプロセス12を通過する新たな検出サイクルを駆動させる新たなトリガ情報21を、必要ならば遅らせて、生成する。この方法は、ステップS2への対応するジャンプバックを有する。
【0036】
しかし、個別的なプロセス13での確認により、検証基準が満たされていることが示された場合には、平均値が動作パラメータとしてメモリ11に格納され、肯定的な検証情報26が上位の個別的なプロセス15への入力動作として出力される。そして、これは、ステップS7において個別的なプロセス14に対するさらなるトリガ情報27を生成する。
【0037】
トリガ情報27が存在する場合には、温度情報16を決定するための、第2のタイムスライスの間に実行される個別的なプロセス14が、ステップS8で開始される。プロセス14は、
図4に詳しく示されているオブザーバを実現する。
【0038】
この目的のために、個別的なプロセス14は、メモリ11から、平均化された速度ω
el,mean、目標または出力電圧の平均化されたq成分u
q,mean および実際の出力電流の平均化されたq成分i
q,mean を含む動作パラメータを検索するサブプロセス28を含む。電気機械2の定常電圧方程式
【数1】
に基づいて、サブプロセス28は、推定磁束のd成分
【数2】
を決定する。ここで、R
q は、q軸において有効な平均巻線抵抗を表し、一般的には、オームの法則に従う直流電圧成分と、表面効果および近接効果による追加的損失を記述する追加の周波数依存成分を含む。直流電圧成分は、導体材料の温度係数と測定された巻線温度から決まる。
【0039】
個別的なプロセス14のさらなるサブプロセス29は、永久磁石6の所定の基準温度TPM,ref に対する実際の出力電流の平均化されたdq成分idq,mean から基準磁束のd成分Ψd,ref を決定するために、ルックアップテーブルを用いる。推定磁束のd成分Ψd,est と基準磁束のd成分Ψd,ref との間の差は、磁束差のd成分Δψd になる。
【0040】
個別的なプロセス14の次のサブプロセス30は、磁束差Δψd と実際の出力電流の平均化されたdq成分idq,mean とから温度差ΔTPM を決定するために、ルックアップテーブルを使用する。この温度差は、基準温度TPM,ref が加算されると、永久磁石6の推定温度TPM,est を温度情報16として与える。
【0041】
推定温度T
PM,est の決定は、以下のテイラー級数展開に基づく。
【数3】
基準磁束のd成分Ψ
d,ref は、このように、基準温度T
PM,ref における磁束の基本波を記述する。ここで説明する実施例に対して、推定のため一次微分のみを考慮すれば基本的に十分である。一次微分は、基本的には、実際の出力電流のdq成分i
dq の関数であり、これは飽和度の高い乗物用途の牽引機械に特に当てはまる。したがって、一次微分は、上述したように、ルックアップテーブルとして格納されることが可能であり、また、実際の出力電流の平均化されたdq成分i
dq,mean に応じて多項式で記述されることが可能である。
【0042】
実際の出力電流の平均化されたdq成分idq,man を考慮することによって、従来の方法において無視されていたインダクタンスの変化も、考慮されることが可能である。特に飽和度の高い機械では、永久磁石6の温度に依存する磁束のd成分の変化が、実際の出力電流のdq成分に強く依存するため、それらを考慮することで推定精度が大幅に向上する。
【0043】
最後のステップS9において、電力変換器3は、温度情報16に基づき、第1のタイムスライスの間に実行される個別的なプロセス17によって制御される。この個別的なプロセスの間、パワーユニット8のスイッチング素子のためのクロックされたスイッチング信号は、温度情報16の関数として決定され、そのとき、永久磁石6の温度が高い場合には、電力減少(負荷軽減)が行われる。この電力低減が十分でない場合には、電気機械2の速度を低下させることによって永久磁石6の保護を開始する。この目的ために、車両1の搭載されたコントロールユニット(図示せず)にメッセージを出力する。そして、コントロールユニットは、ドライブトレイン制限(速度制限)を実行する。
【0044】
方法のさらなる実施例によれば、個別的なプロセス13,14,15のうち1つまたはいくつかのみが第2のプロセス19において実行され、他の個別的なプロセスは、別のプロセスとして実行される。同様に、個別的なプロセス12,17は、別個のプロセスとして実行することができる。ここで本質的に重要な点は、個別的なプロセス12,17に対応するプロセスが実行されるタイムスライスが、個別的なプロセス13,14,15に対応するプロセスが実行されるタイムスライスよりも頻繁に検索されることである。
【符号の説明】
【0045】
2 電気機械
3 電力変換器
6 永久磁石
9 コンピューティング装置
11 メモリ
16 温度情報
18 第1のプロセス
19 第2のプロセス
20 開始情報
21 トリガ情報
22 パラメータ値
23 完了情報
24 トリガ情報
26 検証情報
27 トリガ情報