(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】密閉電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/152 20210101AFI20231227BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/578 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/559 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/19 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/545 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/59 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20231227BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20231227BHJP
【FI】
H01M50/152
H01M50/107
H01M50/184 D
H01M50/578
H01M50/559
H01M50/531
H01M50/19
H01M50/159
H01M50/545
H01M50/586
H01M50/59
H01M50/167
H01M50/342 101
(21)【出願番号】P 2020566468
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001197
(87)【国際公開番号】W WO2020149350
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019006677
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 政幹
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 仰
(72)【発明者】
【氏名】野上 嵩広
(72)【発明者】
【氏名】高野 曉
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-149433(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164000(WO,A1)
【文献】特表2018-525793(JP,A)
【文献】特開2019-29306(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137372(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-5455(KR,A)
【文献】特開平11-111264(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/129708(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/10-50/198
H01M50/30-50/392
H01M50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の外装缶、及び前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体を含む電池ケースと、
前記外装缶と前記封口体の間に配置されたガスケットと、
電極リードを含み、前記電池ケース内に収容された電極体と、
を備える密閉電池であって、
前記封口体は金属板を含み、
前記金属板は、
環状に形成された薄肉部と、
前記電池ケースの内側に凸の形状を有し、前記電池ケースの内圧が所定の反転圧Rに達したときに当該ケースの外側に凸となるように反転する、前記薄肉部に囲まれた弁部と、
前記薄肉部の外側に位置し、前記電極リードが接続される環状部と、
を有し、
前記ガスケットには、前記弁部の内面に当接して前記弁部を前記電池ケースの外側に付勢する弾性変形部が設けられている、密閉電池。
【請求項2】
前記弾性変形部は、前記弁部の内面に当接した状態で折りたたまれた突起であり、
前記突起は、前記弁部が反転するときに前記電池ケースの外側に向かって突出するように形成されている、請求項1に記載の密閉電池。
【請求項3】
前記ガスケットは、開口部を有し、
前記突起は、前記開口部の周縁部に複数形成されている、請求項2に記載の密閉電池。
【請求項4】
前記弾性変形部は、前記弁部の内面に当接して前記電池ケースの内側に押し込まれた凸部であり、
前記凸部は、前記弁部が反転するときに前記電池ケースの外側に向かって膨出するように形成されている、請求項1に記載の密閉電池。
【請求項5】
前記金属板は、前記反転圧Rが、前記弁部の反転前の形状において前記薄肉部を破断させる第1ベント圧V1より小さく(R<V1)、前記弁部の反転後の形状において前記薄肉部を破断させる第2ベント圧V2以上(V2≦R)となるように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の密閉電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密閉電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底筒状の外装缶、及び外装缶の開口部を塞ぐ封口体を含む電池ケースを備えた密閉電池が広く知られている。例えば、特許文献1には、電池ケースの内側に凸の下凸形状を有する金属板で構成された封口体を備える円筒形の密閉電池が開示されている。特許文献1には、電池の異常発生時に封口体が反転して封口体と集電部の溶接部が破断することで、電流が遮断され安全性が確保される、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるように、封口体には電流遮断機構(CID)が設けられているが、電池の異常発生時において電流遮断機構により電池の電流経路を確実に遮断することは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である密閉電池は、有底筒状の外装缶、及び前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体を含む電池ケースと、前記外装缶と前記封口体の間に配置されたガスケットと、電極リードを含み、前記電池ケース内に収容された電極体とを備える。前記封口体は金属板を含み、前記金属板は、環状に形成された薄肉部と、前記電池ケースの内側に凸の形状を有し、前記電池ケースの内圧が所定の反転圧Rに達したときに当該ケースの外側に凸となるように反転する、前記薄肉部に囲まれた弁部と、前記薄肉部の外側に位置し、前記電極リードが接続される環状部とを有する。前記ガスケットには、前記弁部の内面に当接して前記弁部を前記電池ケースの外側に付勢する弾性変形部が設けられている。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様である密閉電池によれば、電池に異常が発生して電池ケースの内圧が上昇したときに、電池の電流経路をより確実に遮断することができる。また、電流経路が遮断された状態を維持することが容易であり、電流経路の再導通を高度に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態である密閉電池の断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態であるガスケットの平面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態である封口体及びガスケットの断面図であってあり、
図4(a)は弁部の反転前の様子を示す図であり、
図4(b)は弁部の反転及びベント後の様子を示す図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態であるガスケットの平面図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態である封口体及びガスケットの断面図であってあり、
図7(a)は弁部の反転前の様子を示す図であり、
図7(b)は弁部の反転及びベント後の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、本開示に係る密閉電池の実施形態の一例として、巻回型の電極体14が円筒形状の電池ケース15に収容された円筒形電池を例示するが、電池は角形の電池ケースを備えた角形電池であってもよい。また、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型であってもよい。本明細書では、説明の便宜上、電池ケース15の封口体17側を「上」、外装缶16の底部側を「下」として説明する。
【0009】
以下、
図1~
図4を参照しながら、本開示に係る密閉電池の第1の実施形態について詳説する。
図1は、第1の実施形態である密閉電池10の断面図である。
図1に例示するように、密閉電池10は、有底筒状の外装缶16、及び外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17を含む電池ケース15と、外装缶16と封口体17の間に配置されたガスケット40と、電極リードを含み、電池ケース15内に収容された電極体14とを備える。また、電池ケース15内には電解質が収容されている。電極体14は、正極11と、負極12と、正極11及び負極12の間に介在するセパレータ13とを含み、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回構造を有する。
【0010】
電解質は、水系電解質、非水電解質のいずれであってもよい。好適な密閉電池10の一例は、非水電解質を用いた、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池である。非水電解質は、例えば非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、LiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0011】
電極体14は、長尺状の正極11と、長尺状の負極12と、長尺状の2枚のセパレータ13と、正極11に接合された正極リード20と、負極12に接合された負極リード21とを有する。負極12は、リチウムの析出を抑制するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び短手方向(上下方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0012】
正極11は、正極芯体と、正極芯体の両面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、アセチレンブラック等の導電材、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着材を含む。正極11は、正極芯体上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0013】
正極活物質には、例えばリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有するリチウム金属複合酸化物である。具体例としては、Ni、Co、Mnを含有する複合酸化物、Ni、Co、Alを含有する複合酸化物が挙げられる。
【0014】
負極12は、負極芯体と、負極芯体の両面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅、銅合金など負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)等の結着材を含む。負極12は、負極芯体上に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0015】
負極活物質には、例えば鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛などの黒鉛が用いられる。負極活物質には、Si、Sn等のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物等が用いられてもよく、これらが黒鉛と併用されてもよい。当該化合物の具体例としては、SiOx(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物が挙げられる。
【0016】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。
図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は、封口体17の電池ケース15の内側を向いた内面に溶接等で接続され、封口体17が正極外部端子となる。負極リード21は、外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極外部端子となる。
【0017】
外装缶16は、有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット40が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。外装缶16は、例えば側面部の外側からのスピニング加工により側面部に形成された、封口体17を支持する溝入部22を有する。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0018】
外装缶16の上端部は、電池ケース15の内側に折り曲げられ封口体17の周縁部に加締められている。外装缶16の開口部は平面視円形状であり、同様に、封口体17も平面視円形状である。封口体17は、複数の部材で構成されてもよいが、好ましくは1枚の金属板で構成される。
【0019】
封口体17を構成する金属板は、環状に形成された薄肉部34を有する。また、金属板は、薄肉部34に囲まれた弁部30と、薄肉部34の外側に位置し、正極リード20が接続される環状部31とを有する。即ち、弁部30と環状部31は、薄肉部34によって区分けされている。薄肉部34は、弁部30及び環状部31よりも厚みが薄い部分であって、電池に異常が発生して電池ケース15の内圧が上昇したときに他の部分より優先的に破断する易破断部である。封口体17は、外装缶16の上端部及び溝入部22によって環状部31が挟持されることで、ガスケット40を介して外装缶16に固定される。
【0020】
弁部30は、電池ケース15の内側に凸の形状(下凸形状)を有し、電池ケース15の内圧が所定の反転圧Rに達したときに当該ケースの外側に凸(上凸形状)となるように反転する。そして、弁部30の反転と同時に薄肉部34が破断するように構成されている(
図4参照)。詳しくは後述するが、封口体17は、弁部30の反転を利用して薄肉部34が破断する設計であり、またガスケット40に設けられた弾性変形部が弁部30を電池ケース15の外側(上方)に付勢するため、環状部31から弁部30を完全に切り離すための一助となる。これにより、電流経路が確実に遮断される。
【0021】
封口体17は、上述のように、薄肉部34によって区分けされた弁部30及び環状部31を含む1枚の金属板によって構成されることが好ましい。本実施形態では、弁部30及び環状部31を有する金属板が封口体17の天板を構成している。この場合、弁部30には外部装置に接続される外部リード(図示せず)が溶接等で接続され、環状部31には電極体14の正極11に接続される正極リード20が溶接等で接続される。なお、環状部31に接続される電極リードは正極リード20に限定されず、負極リード21が環状部31に接続されてもよい。この場合、封口体17が負極外部端子となる。
【0022】
封口体17は、例えば1枚の金属板を用いて、当該金属板に環状の薄肉部34を形成し、電池ケース15の内側に凸となるようにプレス加工することで製造される。好適な金属板の一例は、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金板である。金属板の厚みは特に限定されないが、一例としては、薄肉部34以外の部分で0.3mm~2mmである。薄肉部34の厚みは、例えば弁部30の厚みの10%~50%である。弁部30と環状部31の厚みは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
薄肉部34は、例えば環状の溝で構成される。薄肉部34の厚みは、溝の深さを変更することで調整できる。溝は、封口体17の外面に形成されてもよいが、好ましくは封口体17の内面に形成される。溝(薄肉部34)は、角のない円形状に形成されることが好ましく、略真円状に形成されることが特に好ましい。ここで、「略真円状」とは、真円形状及び実質的に真円と認められる形状を意味する。なお、薄肉部34の形状は溝状に限定されず、易破断部として作用できる程度に薄肉部34の厚みが設定されていればよい。例えば、弁部30から薄肉部34にかけて金属板の厚みが連続的に減少するように薄肉部34の厚みを設定することができる。
【0024】
弁部30及び環状部31は、上述の通り、薄肉部34(溝)によって区切られるため、弁部30及び環状部31の平面視形状は薄肉部34の平面視形状によって決定される。薄肉部34に囲まれた部分である弁部30は、平面視略真円形状を有することが好ましい。この場合、薄肉部34を全長にわたって完全に破断させることが容易になる。弁部30の外側に存在する環状部31は、略一定の内径及び外径を有する平面視円環状に形成されることが好ましい。弁部30と環状部31の面積比は特に限定されず、弁部30の面積は環状部31の面積より大きくてもよく、小さくてもよい。
【0025】
弁部30は、電池ケース15の内圧が反転圧Rより低い通常の使用状態において、電池ケース15の内側に凸の下凸形状を有する。即ち、弁部30は、電池ケース15の外側から見ると、電池ケース15の内側に凹んでいる。弁部30は、電極体14と接触しない範囲で、電極体14側に膨出していることが好ましい。また、弁部30は、電池ケース15の内圧が反転圧Rに達したときに、電池ケース15の外側に凸の上凸形状となるように反転する。即ち、弁部30は、下凸形状から上凸形状に変形可能な構造を有する。
【0026】
弁部30の形状は、電池ケース15の内圧によって下凸形状から上凸形状に反転可能な形状であればよく、弁部30の全体がドーム状に湾曲した形状であってもよい。好適な弁部30の一例は、電極体14側に最も膨出した平坦な底部32と、底部32の周囲に形成された環状の傾斜部33とを含む。傾斜部33は底部32から環状部31に向けて一定の勾配を有するように形成され、底部32と傾斜部33の境界部に屈曲部が存在する。底部32は、環状部31と略平行に形成され、外装缶16の底部と略平行に配置される。底部32は、平面視略真円形状を有する。傾斜部33は、底部32を囲むように平面視円環状に形成される。
【0027】
図4に示すように、封口体17(金属板)は、下凸形状から上凸形状に反転する部分である反転部Z1と、反転しない非反転部Z2との境界位置に、薄肉部34が形成された構造を有する。この場合、電極体14側に膨出する下凸形状が形成された部分の全体が反転部Z1である。また、金属板は、弁部30の範囲を超えて、即ち薄肉部34の外側に位置する環状部31にわたって、反転部Z1(下凸形状部)が形成された構造を有していてもよい。この場合、下凸形状の上端から離れた傾斜部に薄肉部34が形成され、弁部30と共に環状部31の一部も上凸形状に反転する。
【0028】
金属板(反転部Z1)は、反転圧Rが、弁部30の反転前の形状において薄肉部34を破断させる第1ベント圧V1より小さく、弁部30の反転後の形状において薄肉部34を破断させる第2ベント圧V2以上となるように構成されることが好ましい。R<V1となるように設計することで、弁部30の反転前における薄肉部34の破断が抑制される。反転圧Rと第1ベント圧V1の差を大きくするほど、弁部30の反転前における薄肉部34の破断を防止し易くなる。また、V2≦Rとなるように設計することで、薄肉部34が弁部30の反転と同時に破断し易くなる。
【0029】
V2≦R<V1の条件は、例えば弁部30及び薄肉部34の厚み、薄肉部34の形成位置、弁部30の形状、反転部Z1の膨出の程度、封口体17の構成材料などを制御することで実現できる。具体的には、弁部30(反転部Z1)の厚みを減少させると、弁部30が反転し易くなり反転圧Rが下がる傾向にある。また、薄肉部34の厚みを減少させると、ベント圧V1,V2はいずれも下がる傾向にある。電池ケース15の内圧が上昇したときに、反転前の下凸形状の弁部30から薄肉部34には専ら剪断応力が作用し、反転後の上凸形状の弁部30から薄肉部34には剪断応力に加えて引張応力が作用する。このため、薄肉部34の厚みをどのように変化させても、V2<V1の条件が成立する。
【0030】
以下、
図2~
図4をさらに参照しながら、ガスケット40について詳説する。
図2はガスケット40の平面図、
図3は
図2中のAA線断面図である。
図4は封口体17及びガスケット40の断面図であってあり、
図4(a)は弁部30の反転前の様子を示す図であり、
図4(b)は封口体17の弁部30が反転及びベント後の様子を示す図である。
【0031】
図2~
図4に例示するように、ガスケット40は、封口体17の内面(下面)に当接する円板状の底部41と、底部41の外周縁に沿って環状に形成された側壁部42とを含む有底円筒状の樹脂製部材である。側壁部42は、外装缶16と封口体17の間に介在し、両部材を絶縁すると共に、両部材の隙間を塞いで電池ケース15内を密閉する。底部41には、開口部43が形成されている。開口部43は、通気孔として機能し、底部41の径方向中央部において封口体17の弁部30と上下方向に重なる部分に形成される。また、開口部43は、正極リード20を通すための孔でもある。
【0032】
ガスケット40には、弁部30の内面に当接して弁部30を電池ケース15の外側に付勢する弾性変形部として、突起44が設けられている。突起44は、弁部30の内面に当接した状態で折りたたまれ、弁部30が反転するときに電池ケース15の外側に向かって突出するように形成されている。突起44は、下凸形状を有する弁部30によって押圧された状態で配置されている。このため、電池ケース15の外側(上方)に向かって突起44から弁部30に押圧力が作用する。このように、突起44が弁部30を付勢した状態で配置されている。
【0033】
突起44は、弁部30が反転して上方に凸となるように変形することで弁部30からの押圧力が作用しなくなると、弾性変形して元の形状に戻る。突起44は、ガスケット40が電池に組み込まれる前において、底部41の面方向に対して略垂直に立設している。突起44は、上方に大きく突出し、底部41の厚み方向に沿って伸びている。突起44は、その付勢力により弁部30の反転をサポートする。また、突起44が上方に大きく突出することで、切り離された弁部30と環状部31の隙間が維持され、電流経路の再導通が発生する可能性を低減できる。
【0034】
突起44は、複数形成されることが好ましい。突起44は、電池の通常の使用状態において、弁部30の内面に当接して弁部30を上方に押圧可能な部分に複数形成される。本実施形態では、複数の突起44が開口部43の周縁部に形成されている。各突起44は、開口部43の周縁部から開口部43の中心方向に延出し、途中で側壁部42と同じ方向に折れ曲がっている。開口部43の周縁部から延出した突起44は、断面略L字状に形成されている。
【0035】
複数の突起44は、例えば底部41の円周方向に沿って略等間隔で形成される。
図2に示す例では、4個の突起44が開口部43の周縁部に沿って等間隔に配置され、また4個の突起44は底部41の径方向に並んでいる。各突起44は、互いに同じ形状、寸法を有し、互いに接触しない範囲で開口部43の中心近傍まで延出して、平面視略十字状に形成されている。突起44の数は特に限定されないが、好ましくは2個~21個であり、より好ましくは3個~8個である。
【0036】
突起44は、上述のように、底部41に対して略垂直に立ち上がった状態である元の形状から、底部41の面方向に沿うように折り曲げ可能である。そして、突起44は、底部41の面方向に沿うように折りたたまれた状態から元の形状に戻る復元力を有する。突起44は、電池の組み立て時に弁部30の内面に押されて折りたたまれる。突起44は、先端が根元側を向くように折りたたまれることが好ましい。ガスケット40は、例えば突起44の弾性変形を可能とする可撓性を有し、かつ気密性、絶縁性、耐薬品性、耐熱性等に優れた樹脂材料で構成される。
【0037】
突起44の形状は特に限定されないが、好適な形状の一例は略矩形形状である。突起44の高さH(底部41の上面から突起44の先端までの長さ)は、弁部30が環状部31から切り離されたときに弁部30と環状部31の隙間が維持できる長さとすることが好ましく、例えば1mm~5mmである。突起44の先端部には、底部41の径方向外側から内側に向かって次第に高さHが低くなるように傾斜したテーパ面が形成されていてもよい。また、突起44の屈曲部にも、同様のテーパ面が形成されていてもよい。突起44の屈曲部にテーパ面を形成することで、突起44の折りたたみが容易になる。
【0038】
図4(b)に例示するように、電池ケース15の内圧が上昇して所定の閾値(反転圧R)を超えると、弁部30が上方に凸となるように反転する。このとき、弁部30の内面に当接する状態で折りたたまれていた複数の突起44が上方に向かって伸びる元の形状に戻り、弁部30の反転により生じる空間に向かって突出する。封口体17は、薄肉部34が破断する際に弁部30の反転を利用して弁部30が環状部31から完全に切り離されるように設計されている。さらに、突起44が上方に向かって伸びることで、弁部30が環状部31からより確実に切り離される。
【0039】
密閉電池10によれば、封口体17の構造が単純でありながら、外部リードが接続される弁部30を、電極リードが接続される環状部31から完全に切り離すことが容易であり、電池の電流経路をより確実に遮断できる。また、上方に突出した複数の突起44が、切り離された弁部30と環状部31の接触を防止するため、電流経路の再導通が高度に抑制される。
【0040】
以下、
図5~
図8を参照しながら、本開示に係る密閉電池の第2の実施形態について詳説する。
図5は第2の実施形態であるガスケット50の平面図、
図6は
図5中のBB線断面図である。
図7は、封口体17及びガスケット50の断面図であってあり、
図7(a)は弁部30の反転前の様子を示す図であり、
図7(b)は封口体17の弁部30が反転及びベント後の様子を示す図である。
【0041】
なお、第2の実施形態では、ガスケットの構造のみが第1の実施形態と相違し、その他については第1の実施形態と同様の構造を適用できる。以下では、第1の実施形態との相違点を主に説明し、重複する説明を省略する。
【0042】
図5~
図7に例示するように、ガスケット50は、封口体17の内面に当接する円板状の底部51と、底部51の外周縁に沿って環状に形成された側壁部52とを含む有底円筒状の樹脂製部材である点で、第1の実施形態のガスケット40と共通する。底部51には、通気孔及び電極リードの挿通孔として機能する開口部53が形成されている。側壁部52は、外装缶16と封口体17の間に介在し、両部材を絶縁すると共に、両部材の隙間を塞いで電池ケース15内を密閉する。
【0043】
ガスケット50には、弁部30の内面に当接して弁部30を電池ケース15の外側に付勢する弾性変形部として、凸部54が設けられている。凸部54は、弁部30の内面に当接して電池ケース15の内側に押し込まれ、弁部30が反転するときに電池ケース15の外側に向かって膨出するように形成されている。凸部54は、下凸形状を有する弁部30によって押圧された状態で配置されている。このため、ガスケット40の突起44と同様に、電池ケース15の外側に向かって凸部54から弁部30に押圧力が作用する。このように、凸部54が弁部30を付勢した状態で配置されている。
【0044】
凸部54は、上方に凸のドーム状に形成され、上下方向に弾性変形する。凸部54は、電池の通常の使用状態では弁部30によって上から押え付けられているが、弁部30が反転して当該押圧力が作用しなくなると、弾性変形して元のドーム状に戻る。凸部54は、開口部53の周縁部から延出し、周縁部の一方から他方にわたって底部51の径方向に延びる、平面視帯状のブリッジ部55によって形成されている。ブリッジ部55は、底部51の径方向中央部で交差し、平面視略十字状に形成される。凸部54は、ブリッジ部55が交差する底部51の径方向中央部が最も膨出した上凸形状を有する。
【0045】
開口部53及び凸部54は、底部51の径方向中央部において弁部30と上下方向に重なる部分に形成される。ガスケット50は、凸部54の最大膨出部が、弁部30の底部中央に当接するように配置されることが好ましい。なお、ブリッジ部55の数、形状等は特に限定されない。また、ブリッジ部55はバネ構造を形成してもよく、ブリッジ部55の交差部分にコイル状のバネ構造や開口部を形成してもよい。
【0046】
図8は、第2の実施形態の変形例であるガスケット60を示す平面図である。ガスケット60は、弁部30の内面に当接する円板状の底部61と、底部61の外周縁に沿って環状に形成された側壁部62とを含む有底円筒状の樹脂製部材である点で、ガスケット40,50と共通する。ガスケット60には弾性変形部として凸部64が設けられ、底部61には開口部63が形成されている。
【0047】
凸部64は、ガスケット50の凸部54と同様に、開口部63の周縁部から延出するブリッジ部65によって、上方に凸のドーム状に形成されている。ブリッジ部65は、開口部63の周縁部の複数箇所から底部61の径方向中央部に集まるように渦巻き状に形成される。凸部64は、ブリッジ部65が交差する底部61の径方向中央部が最も膨出した上凸形状を有する。ブリッジ部65はバネ構造を形成してもよく、ブリッジ部65の交差部分にコイル状のバネ構造や開口部を形成してもよい。
【0048】
ガスケット50,60を用いた場合も、凸部54,64によって弁部30の反転がサポートされ、弁部30を環状部31から完全に切り離すことが容易である。また、上方に膨出した凸部54,64によって、切り離された弁部30と環状部31の接触が防止される。したがって、ガスケット50,60を備える密閉電池によれば、異常発生時における電流経路の遮断が容易であり、一旦遮断された電流経路の再導通が高度に抑制される。
【0049】
なお、上述の実施形態は本開示の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、弁部の内面に当接するガスケットの上面には、突起44や凸部54の代わりに、針状の突起が多数立設していてもよい。針状の突起は、弁部30に押圧されて根元から折れ曲がり、弁部30が反転するときに元の形状に戻る弾性変形部である。また、発泡体、多孔質体等の弾性変形部材がガスケットの上面に貼着されていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 密閉電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、30 弁部、31 環状部、32 底部、33 傾斜部、34 薄肉部、40,50,60 ガスケット、41,51,61 底部、42,52,62 側壁部、43,53,63 開口部、44 突起、54,64 凸部、55,65 ブリッジ部、Z1 反転部、Z2 非反転部