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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】電動式作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
E02F9/20 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021004777
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109462
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 健佑
(72)【発明者】
【氏名】高井良 武士
(72)【発明者】
【氏名】三好 和之輔
(72)【発明者】
【氏名】水町 駿之介
(72)【発明者】
【氏名】鬼束 講介
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-1744(JP,A)
【文献】特開平9-158248(JP,A)
【文献】特開2012-159177(JP,A)
【文献】特開2007-255506(JP,A)
【文献】特開2002-38537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
前記電動モータに電力を供給するインバータと、
圧油の供給によって駆動される油圧アクチュエータと、
前記電動モータによって駆動され、前記油圧アクチュエータに前記圧油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される前記圧油の流れ方向および流量を制御する方向切替弁と、
前記電動モータによって駆動され、前記方向切替弁に対する入力指令となるパイロット油を吐出するパイロットポンプと、
オペレータの操作に応じて、前記パイロットポンプから前記方向切替弁への前記パイロット油の供給を制御するリモコン弁と、
前記パイロットポンプから前記リモコン弁への前記パイロット油の供給を制御する電磁弁と、
前記パイロットポンプから前記電磁弁に至る前記パイロット油の油路から分岐した油路に位置し、前記パイロットポンプによって発生するパイロット圧を蓄積するアキュムレータと、
前記インバータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記電磁弁の非通電状態による遮断後に、前記インバータを制御して前記電動モータの回転を停止させる、電動式作業機械。
【請求項2】
前記電磁弁は、前記アキュムレータと前記リモコン弁との間の油路に位置する、請求項1に記載の電動式作業機械。
【請求項3】
前記制御部は、前記電動モータの回転を停止させる場合に、前記電動モータの回転数が、複数の制御周期を経て、かつ、前記制御周期ごとに減少してゼロになるように前記インバータを制御する、請求項1または2に記載の電動式作業機械。
【請求項4】
オペレータによって上下に回動されるカットオフレバーと、
前記カットオフレバーを上方に回動させる動作に連動して、前記電磁弁を非通電状態にして遮断するカットオフスイッチと、を有する、請求項1から3のいずれかに記載の電動式作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンによって駆動される油圧ショベルが提案されている。例えば特許文献1では、パイロットポンプと電磁弁とを連通する油路から分岐してアキュムレータを配置した構成の油圧ショベルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭64-53255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン搭載の油圧ショベルでは、カットオフレバーを上げてエンジン停止指令を出した後でも、フライホイールの回転により、エンジンはわずかの間回転する。これに対して、エンジンを電動モータに置き換えた電動式の油圧ショベルでは、エンジンに比べて電動モータの加減速が速いため、カットオフレバーを上げて電動モータの停止指令を出すと、ほぼ同じタイミングで電動モータが停止する。このため、カットオフレバーを上げるタイミングによっては、パイロット1次圧を電磁弁で遮断するタイミングよりも早いタイミングで電動モータが停止することになる。この場合、パイロットポンプと電磁弁とを連通する油路から分岐して位置するアキュムレータの減圧が大きくなる(アキュムレータに蓄積されたパイロット圧が抜けてしまう)。その結果、電動モータの停止後に、アキュムレータに蓄積されたパイロット圧を利用して、すぐに油圧アクチュエータを動かすことができなくなる。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、電動モータの駆動停止後に、アキュムレータでのパイロット圧の蓄積を維持することができる電動式作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る電動式作業機械は、電動モータと、前記電動モータに電力を供給するインバータと、圧油の供給によって駆動される油圧アクチュエータと、前記電動モータによって駆動され、前記油圧アクチュエータに前記圧油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される前記圧油の流れ方向および流量を制御する方向切替弁と、前記電動モータによって駆動され、前記方向切替弁に対する入力指令となるパイロット油を吐出するパイロットポンプと、オペレータの操作に応じて、前記パイロットポンプから前記方向切替弁への前記パイロット油の供給を制御するリモコン弁と、前記パイロットポンプから前記リモコン弁への前記パイロット油の供給を制御する電磁弁と、前記パイロットポンプから前記電磁弁に至る前記パイロット油の油路から分岐した油路に位置し、前記パイロットポンプによって発生するパイロット圧を蓄積するアキュムレータと、前記インバータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電磁弁の非通電状態による遮断後に、前記インバータを制御して前記電動モータの回転を停止させる。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、電動モータの駆動停止後に、アキュムレータでのパイロット圧の蓄積を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の一形態に係る電動式作業機械の一例である油圧ショベルの概略の構成を示す側面図である。
図2】上記油圧ショベルの制御系および油圧系の構成を模式的に示すブロック図である。
図3】上記油圧ショベルのカットオフレバーの回動位置と、油圧アクチュエータの動作状態との関係を示す説明図である。
図4】上記カットオフレバーの回動位置およびキーの回転位置と、電動モータの始動の可否との関係を示す説明図である。
図5】上記電動モータの回転から停止までの過程を詳細に示す説明図である。
図6】上記電動モータの回転を停止させるときの制御信号と、上記制御信号に基づいて駆動される上記電動モータの実回転数の推移とを示すグラフである。
図7】上記電動モータの回転を停止させるときの他の制御信号と、上記他の制御信号に基づいて駆動される上記電動モータの実回転数の推移とを示すグラフである。
図8】上記電動モータの回転を停止させた後のオペレータによるキー操作に基づいて、上記油圧アクチュエータを動作させるときの過程を示す説明図である。
図9】アイドルストップ制御によって上記電動モータの回転を停止させる過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0010】
〔1.電動式作業機械〕
図1は、本実施形態の電動式作業機械の一例である油圧ショベル1の概略の構成を示す側面図である。油圧ショベル1は、下部走行体2と、作業機3と、上部旋回体4と、を備える。
【0011】
ここで、図1において、方向を以下のように定義する。まず、下部走行体2が直進する方向を前後方向とし、そのうちの一方側を「前」とし、他方側を「後」とする。図1では、例として、ブレード23に対して走行モータ22側を「前」として示す。また、前後方向に垂直な横方向を左右方向とする。このとき、操縦席41aに座ったオペレータ(操縦者、運転手)から見て左側を「左」とし、右側を「右」とする。さらに、前後方向および左右方向に垂直な重力方向を上下方向とし、重力方向の上流側を「上」とし、下流側を「下」とする。
【0012】
下部走行体2は、左右一対のクローラ21と、左右一対の走行モータ22と、を備える。各走行モータ22は、油圧モータである。左右の走行モータ22が、左右のクローラ21をそれぞれ駆動することにより、油圧ショベル1を前後進させることができる。下部走行体2には、整地作業を行うためのブレード23と、ブレードシリンダ23aとが設けられる。ブレードシリンダ23aは、ブレード23を上下方向に回動させる油圧シリンダである。
【0013】
作業機3は、ブーム31、アーム32、およびバケット33を備える。ブーム31、アーム32、およびバケット33を独立して駆動することにより、土砂等の掘削作業を行うことができる。
【0014】
ブーム31は、ブームシリンダ31aによって回動される。ブームシリンダ31aは、基端部が上部旋回体4の前部に支持され、伸縮自在に可動する。アーム32は、アームシリンダ32aによって回動される。アームシリンダ32aは、基端部がブーム31の先端部に支持され、伸縮自在に可動する。バケット33は、バケットシリンダ33aによって回動される。バケットシリンダ33aは、基端部がアーム32の先端部に支持され、伸縮自在に可動する。ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、およびバケットシリンダ33aは、油圧シリンダにより構成される。
【0015】
上部旋回体4は、下部走行体2に対して旋回ベアリング(不図示)を介して旋回可能に構成される。上部旋回体4には、操縦部41、旋回台42、旋回モータ43、機関室44等が配置される。上部旋回体4は、油圧モータである旋回モータ43の駆動により、旋回ベアリングを介して旋回する。
【0016】
上部旋回体4には、複数の油圧ポンプ71(図2参照)が配置される。各油圧ポンプ71は、機関室44の内部の電動モータ61(図2参照)によって駆動される。各油圧ポンプ71は、油圧モータ(例えば左右の走行モータ22、旋回モータ43)、および油圧シリンダ(例えばブレードシリンダ23a、ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、バケットシリンダ33a)に作動油(圧油)を供給する。任意の油圧ポンプ71から作動油が供給されて駆動される油圧モータおよび油圧シリンダを、まとめて油圧アクチュエータ73(図2参照)と呼ぶ。
【0017】
操縦部41には、操縦席41aが配置される。操縦席41aの周囲には、各種のレバー41bが配置される。オペレータが操縦席41aに着座してレバー41bを操作することにより、油圧アクチュエータ73が駆動される。これにより、下部走行体2の走行、ブレード23による整地作業、作業機3による掘削作業、上部旋回体4の旋回、等を行うことができる。
【0018】
特に、レバー41bには、油圧アクチュエータ73を駆動するための操作レバー41b1のほか、カットオフレバー41b2が含まれる。カットオフレバー41b2は、操縦席41aの左横に上下に回動可能に設けられる。カットオフレバー41b2の回動位置は、カットオフスイッチ41c(図2参照)によって検出される。カットオフスイッチ41cは、カットオフレバー41b2の基端部に配置される。
【0019】
オペレータがカットオフレバー41b2を押し下げると、カットオフスイッチ41cがオンとなり、それに連動して後述する電磁弁75(図2参照)が通電状態となる。その結果、オペレータは所定の操作レバー41b1を操作して所定の油圧アクチュエータ73を駆動させることが可能となる。一方、オペレータがカットオフレバー41b2を引き上げると、カットオフスイッチ41cがオフとなり、それに連動して電磁弁75が通電状態となって遮断される。この場合、オペレータが操作レバー41b1を操作しても油圧アクチュエータ73の駆動が不可能な状態となる。オペレータは、操縦部41から降りようとするとき、カットオフレバー41b2を引き上げて油圧アクチュエータ73を駆動不能にしてから、操縦席41aから退座する。
【0020】
このように、本実施形態の油圧ショベル1は、オペレータによって上下に回動されるカットオフレバー41b2と、カットオフレバー41b2を上方に回動させる動作に連動して、電磁弁75を非通電状態にして遮断するカットオフスイッチ41cと、を有する。
【0021】
上部旋回体4には、バッテリー53(例えばリチウムイオンバッテリ―)が取り付けられる。バッテリー53から供給される電力により、電動モータ61を駆動することができる。また、上部旋回体4には、不図示の給電口が設けられる。上記の給電口と、外部電源である商用電源51とは、給電ケーブル52を介して接続される。これにより、バッテリー53を充電することも可能である。
【0022】
なお、下部走行体2、作業機3および上部旋回体4をまとめて機体BAとしたとき、機体BAは、電力と油圧機器とを併用して駆動されてもよい。つまり、機体BAは、油圧アクチュエータ73などの油圧機器の他に、電動走行モータ、電動シリンダ、電動旋回モータ等を含んでいてもよい。
【0023】
〔2.制御系および油圧系の構成〕
図2は、油圧ショベル1の制御系および油圧系の構成を模式的に示すブロック図である。油圧ショベル1は、電動モータ61を備える。
【0024】
電動モータ61は、商用電源51(図1参照)およびバッテリー53の少なくとも一方から、後述するインバータ63を介して供給される電力により駆動される。電動モータ61は、永久磁石モータまたは誘導モータで構成される。なお、ミニショベルなど小型の作業機械に電動モータ61を装着する場合、小型でレイアウト性に優れる観点から、誘導モータよりも永久磁石モータで電動モータ61を構成することが望ましい。
【0025】
電動モータ61の回転軸(出力軸)には、パイロットポンプ70と、複数の油圧ポンプ71と、が接続される。パイロットポンプ70は、コントロールバルブ72に対する入力指令となるパイロット油を吐出する。コントロールバルブ72は、油圧ポンプ71から油圧アクチュエータ73に供給される圧油の流れ方向および流量を制御する方向切替弁であり、各油圧アクチュエータ73に対応して設けられる。
【0026】
複数の油圧ポンプ71は、可変容量型ポンプおよび固定容量型ポンプを含む。図2では、例として油圧ポンプ71を1つのみ図示している。油圧ポンプ71により、作動油タンク(不図示)内の作動油が圧油として、コントロールバルブ72を介して油圧アクチュエータ73に供給される。これにより、油圧アクチュエータ73が駆動される。
【0027】
すなわち、本実施形態の油圧ショベル1は、電動モータ61と、圧油の供給によって駆動される油圧アクチュエータ73と、電動モータ61によって駆動され、油圧アクチュエータ73に圧油を供給する油圧ポンプ71と、油圧ポンプ71から油圧アクチュエータ73に供給される圧油の流れ方向および流量を制御するコントロールバルブ72と、電動モータ61によって駆動され、コントロールバルブ72に対する入力指令となるパイロット油を吐出するパイロットポンプ70と、を備える。
【0028】
油圧ショベル1は、リモコン弁74と、電磁弁75と、アキュムレータ76と、をさらに備える。リモコン弁74は、パイロットポンプ70からコントロールバルブ72に供給されるパイロット油の向きと圧力を切り換えるために設けられる。リモコン弁74は、操作レバー41b1を構成するとともに、操作レバー41b1の操作方向および操作量に応じて、パイロットポンプ70から供給されるパイロット油の圧力(パイロット圧)を減圧してパイロット2次圧を生成する。このように、本実施形態の油圧ショベル1は、オペレータの操作に応じて、パイロットポンプ70からコントロールバルブ72へのパイロット油の供給を制御するリモコン弁74を備える。
【0029】
電磁弁75は、パイロットポンプ70とリモコン弁74との間の油路に位置し、パイロットポンプ70からリモコン弁74へのパイロット油(パイロット圧)の供給を制御する。アキュムレータ76は、パイロットポンプ70から電磁弁75に至るパイロット油の油路から分岐した油路に位置する。つまり、電磁弁75は、アキュムレータ76とリモコン弁74との間の油路に位置する。そして、アキュムレータ76は、パイロットポンプ70によって発生するパイロット圧を蓄積する。
【0030】
上記した電動モータ61の実際の回転数(実回転数)は、回転数センサ61aによって検出される。回転数センサ61aは、レゾルバ、エンコーダ、ホール素子等を用いて構成される。回転数センサ61aによって検出された電動モータ61の回転数の情報は、インバータ63に入力され、インバータ63での後述するフィードバック制御に供される。
【0031】
油圧ショベル1は、給電器62と、インバータ63と、ECU(Electronic Control Unit)80と、をさらに備える。給電器62は、商用電源51から給電ケーブル52を介して供給される交流電圧を直流電圧に変換する。
【0032】
インバータ63は、給電器62から出力される直流電圧、または高圧を出力可能なバッテリー53から供給される直流電圧を、交流電圧に変換して電動モータ61に供給する。これにより、電動モータ61が回転する。インバータ63から電動モータ61への交流電圧(電流)の供給は、ECU80から出力される回転指令に基づいて行われる。
【0033】
インバータ63は、上記回転指令において設定される電動モータ61の回転数(設定回転数)と、回転数センサ61aによって検出された電動モータ61の実回転数との偏差を求め、その偏差が小さくなるように(実回転数が設定回転数に近づくように)、インバータ63から電動モータ61への出力(例えば電流)を制御するフィードバック制御を行う。なお、上記の設定回転数は、ゼロ以上で、かつ、電動モータ61の起動時に最終的に到達させる目標回転数Rs以下の値に設定される。
【0034】
上述のフィードバック制御は、例えばPI制御(比例-積分制御)であるが、これに限定されるわけではなく、P制御(比例制御)またはPID制御(比例-積分-微分制御)であってもよい。
【0035】
ECU80は、インバータ63を制御する制御部として機能する電子制御ユニットまたはCPUで構成される。すなわち、本実施形態の油圧ショベル1は、電動モータ61に電力を供給するインバータ63と、インバータ63を制御するECU80と、を備える。また、ECU80には、電磁弁75の通電信号が入力される。これにより、ECU80は、電磁弁75の通電状態/非通電状態を認識することができる。
【0036】
また、本実施形態の油圧ショベル1は、キーシリンダ91を備える。キーシリンダ91には、電動モータ61の駆動に関して、駆動オン、駆動開始、駆動オフをオペレータが指示するためのキーが挿入される。キーシリンダ91は、駆動オン、駆動開始、駆動オフのそれぞれに対応するキーの回転位置(キーオン位置、キースタート位置、キーオフ位置)を検出するセンサを内蔵している。すなわち、キーシリンダ91は、電動モータ91の駆動に関するオペレータの指示を検出する指示検出部を構成している。キーの回転位置に対応する検出信号は、キーシリンダ91からECU80に出力される。なお、指示検出部は、プッシュ式のボタンの押圧回数または押圧時間に基づいて、駆動オン、駆動開始、駆動オフの各指示を検出する構成であってもよい。
【0037】
また、本実施形態の油圧ショベル1は、バッテリー92と、電源自己保持回路93と、をさらに備える。バッテリー92は、低圧(例えば12V)の電圧を出力する鉛バッテリーで構成される。バッテリー92からキーシリンダ91に電力が供給されることにより、キーシリンダ91においてキーの回転位置の検出が可能となる。
【0038】
電源自己保持回路93は、バッテリー92の電源(電力)を一定時間保持する回路である。キーシリンダ91において、キーが駆動オンの位置(キーオン位置)から駆動オフの位置(キーオフ位置)に回転されても、電源自己保持回路93により電源がしばらく保持され、ECU80および電装品(アクセサリー)に電源が供給される。そして、電動モータ61の回転が完全に停止した後、電源自己保持回路93によるECU80および電装品への電源の供給が遮断される。
【0039】
〔3.油圧ショベルの動作について〕
次に、上記構成の油圧ショベル1の動作について説明する。
【0040】
(3-1.基本動作)
まず、油圧ショベル1の基本動作として、カットオフレバー41b2の回動による油圧アクチュエータ73の駆動について説明する。図3は、カットオフレバー41b2の回動位置と、油圧アクチュエータ73の動作状態との関係を示している。カットオフレバー41b2が操縦部41の出口を遮断するように下方に回動しているとき、上述のようにカットオフスイッチ41cはオンの状態となる。この場合、電磁弁75は通電状態となり、電磁弁75から下流側(リモコン弁74側)にパイロット圧を出力することが可能となる。リモコン弁74はコンロトールバルブ72の入力ポートとつながっているため、操作レバー41b1の動きに応じてリモコン弁74からパイロット圧が出力されることにより、コントロールバルブ72のスプールが動き、操作レバー41b1の動きに対応する油圧アクチュエータ73に圧油が供給される。その結果、油圧アクチュエータ73が駆動される。
【0041】
一方、カットオフレバー41b2が上方に回動しているとき、上述のようにカットオフスイッチ41cはオフの状態となる。この場合、電磁弁75は非通電状態となり、遮断される。その結果、リモコン弁74からパイロット圧を出力することができなくなり、油圧アクチュエータ73は駆動不可となる。
【0042】
(3-2.電動モータの始動可否)
次に、オペレータがキーを回転させて電動モータを始動させるときの始動可否について説明する。図4は、カットオフレバー41b2の回動位置およびキーの回転位置と、電動モータの始動の可否との関係を示している。オペレータが操縦席41aに着座し、カットオフレバー41b2を直ちに下方に回動させると(カットオフスイッチ41cはオンの状態)、ECU80は安全が確保されていないと判断する。この場合、オペレータがキーシリンダ91にキーを差し込んでキーを回転させたとしても、ECU80はインバータ63に回転指令を出力せず、電動モータ71は始動しない(始動牽制機能)。一方、カットオフレバー41b2が上方に回動した状態(カットオフスイッチ41cはオフの状態)では、ECU80は安全が確保されていると判断する。この場合、オペレータがキーシリンダ91にキーを差し込み、キーオフ位置から、キーオン位置を介してキースタート位置までキーを回転させると、ECU80はキースタート位置の検知信号の入力に基づいて、インバータ63に回転指令を出力する。
【0043】
上記回転指令は、電動モータ61の回転数を、任意の時間で目標回転数Rsに到達させるための指令(制御信号)である。上記の目標回転数Rsは、例えば操縦席41aの横に設けられたダイヤルをオペレータが操作することによって予め設定される。ECU80は、上記ダイヤルの回転位置に基づいて、設定された目標回転数Rsを認識することができる。
【0044】
インバータ63は、上記回転指令に基づき、電動モータ61に電力を供給する。これにより、電動モータ61が回転を開始し(始動し)、電動モータ61の回転数が緩やかに増加する。電動モータ61が回転すると、パイロットポンプ70および油圧ポンプ71が回転する。
【0045】
ここで、カットオフレバー41b2が上方に回動した状態では、上述したようにカットオフスイッチ41cがオフとなり、電磁弁75が非通電状態であるため、油圧アクチュエータ73を駆動させることができない。そこで、オペレータは、カットオフレバー41b2を下方に回動させて、カットオフスイッチ41cをオンにする。これにより、電磁弁75が通電状態となるため、パイロットポンプ70から電磁弁75およびリモコン弁74を介してコンロトールバルブ72にパイロット油(パイロット圧)を供給して油圧アクチュエータ73を駆動することが可能となる。
【0046】
なお、カットオフレバー41b2が上方に回動した状態から下方に回動されるまでは、電磁弁75が非通電状態であるため、パイロットポンプ70の回転によって発生したパイロット圧は、アキュムレータ76に蓄積される。
【0047】
(3-3.電動モータの回転から停止までの油圧ショベルの動作)
電動モータ61の始動後、キーシリンダ91に差し込まれたキーは、キースタート位置からキーオン位置に戻される。そして、油圧ショベル1による作業の終了後、オペレータはキーオン位置からキーオフ位置にキーを回転させることにより、電動モータ61の回転を停止させる制御をECU80に実行させる。本実施形態では、ECU80は、電磁弁75の非通電状態による遮断後に、インバータ63を制御して電動モータ61の回転を停止させる。以下、電動モータ61の回転から停止までの過程について、より詳細に説明する。
【0048】
図5は、電動モータ61の回転から停止までの過程を詳細に示している。電動モータ61、パイロットポンプ70および油圧ポンプ71を回転させて油圧ショベル1による作業を行った後、オペレータがキーオン位置からキーオフ位置にキーを回転させると、電磁弁75を含む電気回路の構成により、電磁弁75が非通電状態となる。ECU80は、電磁弁75からの通電信号に基づいて非通電状態を認識するとともに、インバータ63に電動モータ61の回転数(回転速度)を緩やかに低下させる制御信号を出力する。なお、上記制御信号の詳細については後述する。インバータ73は、上記制御信号に基づいて電動モータ61に供給する電力を徐々に低下させて、電動モータ61の回転速度を緩やかに低下させる。
【0049】
電磁弁75が非通電状態となり、電磁弁75のスプールが閉じることにより、リモコン弁74とアキュムレータ76との間の油路が遮断される。これにより、電動モータ61の回転数の減少によってアキュムレータ76に蓄積されるパイロット圧が低下しても、そのパイロット圧が電磁弁75を介してリモコン弁74側へ逃げることが低減される。その後、電動モータ61の回転が停止し、パイロットポンプ70および油圧ポンプ71の回転も停止する。
【0050】
(回転速度減少時の制御信号について)
次に、上記した制御信号の詳細について説明する。図6は、電動モータ61の回転(油圧ショベル1の駆動)を停止させるときに、ECU80が生成する制御信号(破線のグラフ)と、その制御信号に基づいて、インバータ63が電動モータ61の回転を停止させるときの電動モータ61の実回転数の推移(実線のグラフ参照)とを示している。本実施形態では、ECU80は、電動モータ61の回転を停止させる場合に、電動モータ61の回転数が、(目標回転数Rs(min-1)から)複数の制御周期P(msec)を経て、かつ、制御周期Pごとに減少してゼロになるようにインバータ63を制御する。なお、上記の制御周期Pとは、ECU80が電動モータ61の回転数を制御する単位となる期間を指す。
【0051】
図6の例では、ECU80は、1つの制御周期Pの間に、電動モータ61の回転数がRs/5だけ減少し、これを5周期繰り返すことにより、電動モータ61の回転数を目標回転数Rsから最終的にゼロまで減少させる制御信号を生成している。このような制御信号に基づいて、インバータ63が電動モータ61を駆動したとき、電動モータ61の回転数は時間経過に伴ってほぼ線形的に減少してゼロに到達する。なお、電磁弁75が非通電状態となって遮断されてから、電動モータ61の回転が停止するため、電動モータ61の回転数がゼロに到達する時刻tfは、電磁弁75のスプールが完全に閉じる時刻(例えば時刻tv)よりも遅い。
【0052】
なお、上記制御信号に基づいて電動モータ61の回転を停止させる場合の電動モータ61の実回転数の変化は、時間を変数とする関数で表される。上記関数が例えば一次関数で表される場合、回転数の減少量(直線部の傾きに相当)を所定の区間(回転数が目標回転数Rsからゼロに至るまでの時間)で積分することにより、上記一次関数を求めることができる。
【0053】
図6の例では、5つの制御周期Pのどれについても、電動モータ61の回転数の減少量ΔRをRs/5としているが、減少量ΔRは、各制御周期Pで異なる値であってもよい。例えば、5つの制御周期Pにおける回転数の減少量ΔRは、それぞれ、2Rs/20、3Rs/20、4Rs/20、5Rs/20、6Rs/20であってもよい。
【0054】
また、図6の例では、ECU80は、複数の制御周期Pにわたって、回転数を連続的に減少させる(回転数を単調に減少させる)制御信号を生成しているが、回転数を段階的に減少させる制御信号を生成してもよい。例えば、ECU80は、最初の制御周期Pでは回転数を4Rs/5で一定に維持し、次の制御周期Pでは回転数を3Rs/5で一定に維持し、次の制御周期Pでは回転数を2Rs/5で一定に維持し、次の制御周期Pでは回転数をRs/5で一定に維持し、次の制御周期Pで回転数をゼロに到達させる制御信号を生成してもよい。
【0055】
また、ECU80は、電動モータ61の回転速度を急激に低下させる制御信号を生成してもよい。図7は、電動モータ61の回転停止時にECU80が生成する他の制御信号と、その制御信号に基づいて、インバータ63が電動モータ61の回転を停止させるときの電動モータ61の実回転数の推移(実線のグラフ参照)とを示している。電動モータ61の回転速度を1つの制御周期Pの間で急激に低下させる場合でも、電動モータ61の回転数をゼロにするタイミングを調整することにより、電磁弁75のスプールが完全に閉じる時刻tvよりも遅い時刻tfに電動モータ61の回転を停止させることができる。したがって、上記制御信号を用いる場合でも、電磁弁75の遮断後に、アキュムレータ76に蓄積されるパイロット圧が電磁弁75を介してリモコン弁74側へ逃げることが低減される。
【0056】
ただし、図7に示す制御信号に基づく電動モータ61の回転数制御では、電動モータ61の回転数の短時間での急激な減少により、アンダーシュートが顕著に発生することになる。なお、アンダーシュートとは、電動モータ61の回転数がゼロを下回る(逆回転する)現象を指す。アンダーシュートが発生すると、油圧ポンプ71が逆回転することになり、油圧ポンプ71が故障する虞があることが懸念される。したがって、アンダーシュートによる油圧ポンプ71の故障を低減する観点では、図7よりも図6の制御信号に基づく回転数制御を行うことが望ましい。
【0057】
(3-4.電動モータの停止後の油圧アクチュエータの駆動について)
図8は、電動モータ61の回転を停止させた後のオペレータによるキー操作に基づいて、油圧アクチュエータ73を動作させるときの過程を示している。オペレータが操縦部41に乗り込み、キーオフ位置からキーオン位置にキーを回転させ(キースタート位置まではキーを回さない)、カットオフレバー41b2を下方に回動させると、カットオフスイッチ41cがオンとなり、電磁弁75が通電状態となる。これにより、電磁弁75を介して、リモコン弁74とアキュムレータ76との間で油路がつながるため、リモコン弁74は、アキュムレータ76に蓄積されたパイロット圧を出力することができる。したがって、操作レバー41b1を動かすことによってリモコン弁74からコントロールバルブ72にパイロット圧を出力し、コントロールバルブ72のスプールを動かすことにより、一定時間の間(アキュムレータ76に蓄積されたパイロット圧がゼロになるまでの間)、所定方向(例えば重力方向)に油圧アクチュエータ73を駆動させることが可能となる。
【0058】
〔4.効果〕
以上のように、本実施形態では、電磁弁75の非通電状態による遮断後に、電動モータ61の回転が停止する(図5参照)。これにより、電動モータ61およびパイロットポンプ70の回転数の減少によってアキュムレータ76に蓄積されるパイロット圧が低下する場合でも、そのパイロット圧が電磁弁75を介してリモコン弁74側へ逃げることが低減される。つまり、アキュムレータ76に蓄積されるパイロット圧の圧力低下を遅延させることができる。その結果、電動モータ61の駆動が停止した後でも、アキュムレータ76におけるパイロット圧の蓄積を維持することができる。
【0059】
したがって、電動モータ61の回転を停止させたまま(パイロットポンプ70を停止させたまま)、電磁弁75を通電状態にして開放したときに、アキュムレータ76に蓄積されたパイロット圧を、リモコン弁74を介してパイロットバルブ72に供給できる時間を、例えば電磁弁75の遮断前に電動モータ61が停止する場合に比べて長くすることができる。その結果、電動モータ61の駆動を停止させた状態であっても、油圧ポンプ71から油圧アクチュエータ73に圧油を供給して、油圧アクチュエータ73を駆動できる時間を長く確保することができる。よって、電動モータ61の駆動停止後に油圧アクチュエータ73が危険な位置(例えば上方位置)で停止している場合であっても、電動モータ61を駆動させることなく、油圧アクチュエータ73を一定時間作動させて安全な位置(下方位置)に余裕を持って移動させることができ、周囲の安全を確実に確保することができる。
【0060】
特に、電磁弁75は、アキュムレータ76とリモコン弁74との間の油路に位置する。これにより、電磁弁75の遮断によってアキュムレータ76からリモコン弁74へのパイロット圧の逃げを低減し、かつ、電磁弁75の開放によってアキュムレータ76からリモコン弁74を介してコントロールバルブ72にパイロット圧を供給する構成を確実に実現することができる。
【0061】
また、ECU80は、電動モータ61の回転を停止させる場合に、電動モータ61の回転数が、複数の制御周期Pを経て、かつ、制御周期Pごとに減少してゼロになるようにインバータ63を制御するため、電動モータ61の回転数を複数の制御周期Pにわたって徐々に(緩やかに)減少させることができる。電磁弁75には応答時間があるため、電動モータ61をゆっくり停止させることにより、電磁弁75の応答時間の終期(遮断タイミング)よりも電動モータ61の停止タイミングを遅くすることができる。これにより、電動モータ61の駆動停止前にアキュムレータ76に蓄積された圧力が電磁弁75を介して抜ける事態を低減して、アキュムレータ76に蓄積される圧力が維持することができる。
【0062】
〔5.アイドルストップ制御〕
本実施形態のECU80は、アイドルストップ制御を行う機能を有していてもよい。アイドルストップ制御とは、カットオフレバー41b2を上方に回動させたときに、電動モータ61の回転を停止させる制御である。
【0063】
図9は、アイドルストップ制御によって電動モータ61の回転を停止させる過程を示している。電動モータ61、パイロットポンプ70および油圧ポンプ71を回転させて油圧ショベル1による作業を行った後、オペレータがカットオフレバー41b2を上方に回動させると、ECU80は、電動モータ61の回転を停止させる制御に入る(アイドルストップ制御)。このとき、ECU80は、図6で示した制御信号を生成してインバータ63に出力する。これにより、電動モータ61の回転数は目標回転数Rsから徐々に低下し、最終的にゼロになる。
【0064】
一方、オペレータがカットオフレバー41b2を上方に回動させると、カットオフスイッチ41cがオフとなり、これに連動して電磁弁75が非通電状態となって電磁弁75のスプールが閉じる。これにより、リモコン弁74とアキュムレータ76との間の油路が遮断される。
【0065】
このように、カットオフレバー41b2を上方に回動させる動作に連動して、カットオフスイッチ41cが電磁弁75を非通電状態にして遮断することにより、先に電磁弁75を遮断して、その後、電動モータ61の回転を停止させる制御を確実に実行することができる。
【0066】
以上では、カットオフスイッチ41cの動作と連動して電磁弁75の通電状態および非通電状態を切り替える構成について説明したが、ECU80が、電磁弁75を直接制御して通電状態および非通電状態を切り替えるようにしてもよい。この場合でも、ECU80が、電磁弁75を非通電状態にして遮断した後に、インバータ63を制御して電動モータ61の回転を停止させることにより、アキュムレータ76でのパイロット圧の蓄積を維持することができる。
【0067】
以上では、電動式の作業機械として、建設機械である油圧ショベル1を例に挙げて説明したが、作業機械は油圧ショベル1に限定されず、ホイルローダなどの他の建設機械であってもよく、コンバイン、トラクタ等の農業機械であってもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えば建設機械、農業機械などの作業機械に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 油圧ショベル(電動式作業機械)
41b2 カットオフレバー
41c カットオフスイッチ
61 電動モータ
63 インバータ
70 パイロットポンプ
71 油圧ポンプ
72 コントロールバルブ(方向切替弁)
73 油圧アクチュエータ
74 リモコン弁
75 電磁弁
76 アキュムレータ
80 ECU(制御部)
91 キーシリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9