(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースを含む医療用多層製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 15/28 20060101AFI20231227BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20231227BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20231227BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231227BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231227BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20231227BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20231227BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61L15/42 100
A61L15/44 100
A61K9/70 401
A61K47/38
A61P17/02
A61K8/73
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021197396
(22)【出願日】2021-12-03
(62)【分割の表示】P 2018534610の分割
【原出願日】2016-12-30
【審査請求日】2021-12-07
(32)【優先日】2015-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM-Kymmene Corporation
【住所又は居所原語表記】Alvar Aallon katu 1 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】コソネン,ミカ
(72)【発明者】
【氏名】ルウッコ,カリ
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/101711(WO,A1)
【文献】特表2013-527333(JP,A)
【文献】特表2007-526273(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00
A61K 9/00
A61K 27/00
A61K 8/00
A61P 17/00
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0~10%(w/w)の範囲内の水分含有量を有する医療用多層製品であって、
セルロース系繊維原料から分離さ
れる小繊維または小繊維束を含むナノフィブリルセルロースを含む第1層と、
ガーゼの層とを含み、
ガーゼは、合成繊維と、天然繊維および半合成繊維から選択される繊維とを含むことを特徴とする医療用多層製品。
【請求項2】
小繊維または小繊維束は、1μm超える長さと200nm未満の直径とを有することを特徴とする請求項1に記載の医療用多層製品。
【請求項3】
1~10%(w/w)および5~7%(w/w)から選択される範囲内の水分含有量を有することを特徴とする請求項1
または2に記載の医療用多層製品。
【請求項4】
セルロース系繊維原料から分離さ
れる小繊維または小繊維束を含むナノフィブリルセルロースを含む第
2の
層を含むことを特徴とする請求項1
~3のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項5】
小繊維または小繊維束は、1μm超える長さと200nm未満の直径とを有することを特徴とする請求項4に記載の医療用多層製品。
【請求項6】
ガーゼの層は、ナノフィブリルセルロースを含む第1層とナノフィブリルセルロースを含む第2層との間にあることを特徴とする請求項
4または5に記載の医療用多層製品。
【請求項7】
ナノフィブリルセルロースは、1~100nmおよび1~50nmから選択される範囲内にある小繊維の数平均径を有することを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項8】
第1層、および/または第2層におけるナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、1000~100000Pa・sの範囲
内のゼロせん断粘度と22
℃で水性媒体中における0.5%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定された、1~50Paの範囲
内の降伏応力とをもたらすことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項9】
ゼロせん断粘度が、5000~50000の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の医療用多層製品。
【請求項10】
降伏応力が、3~15Paの範囲内であることを特徴とする請求項8または9に記載の医療用多層製品。
【請求項11】
ナノフィブリルセルロースを含む層は、化学的に非修飾のセルロースおよび/または酵素的に非修飾のセルロースを含む非修飾ナノフィブリルセルロースを含むことを特徴とする請求項1~
10のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項12】
ナノフィブリルセルロースを含む層は、修飾ナノフィブリルセルロースを含むことを特徴とする請求項1~
11のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項13】
修飾ナノフィブリルセルロースは、化学修飾ナノフィブリルセルロースまたは酵素修飾ナノフィブリルセルロースを含むことを特徴とする請求項
12に記載の医療用多層製品。
【請求項14】
化学修飾ナノフィブリルセルロースは、酸化セルロースを含むアニオン性に修飾されたナノフィブリルセルロースを含むことを特徴とする請求項
13に記載の医療用多層製品。
【請求項15】
ガーゼは、不織布ガーゼであることを特徴とする請求項1~
14のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項16】
ガーゼは、綿ガーゼを含む天然ガーゼを含むことを特徴とする請求項1~
15のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項17】
合成繊維は、ポリエステルを含み、半合成繊維は、ビスコース繊維およびレーヨン繊維から選択される繊維を含み、天然繊維は、綿繊維、セルロース繊維、リネン繊維およびシルク繊維から選択される繊維を含むことを特徴とする請求項1~
16のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項18】
ナノフィブリルセルロースの層は、5~60μm、5~10μm、または20~50μm、および30~40μmから選択される範囲内の厚さを有することを特徴とする請求項1~
17のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項19】
100~500μm、100~200μm、および120~180μmから選択される範囲内の厚さを有することを特徴とする請求項1~
18のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項20】
18~100mNm
2
/gの範囲内、または20~70mNm
2
/gの範囲内の比引裂強さを有することを特徴とする請求項1~
19のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項21】
50~100g/m
2
の範囲内、または60~80g/m
2
の範囲内の坪量を有することを特徴とする請求項1~
20のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項22】
300~800kg/m
3
、350~700kg/m
3
、および450~650kg/m
3
から選択される範囲内の密度を有することを特徴とする請求項1~
21のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項23】
治療薬を含むことを特徴とする請求項1~
22のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項24】
美容用薬剤を含むことを特徴とする請求項1~
23のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項25】
皮膚の創傷、または他の損傷を、治療、および/または覆うために使用されることを特徴とする請求項1~
24のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【請求項26】
皮膚移植片を含む移植片で、皮膚の創傷を治療、および/または覆うために使用されることを特徴とする請求項
25に記載の医療用多層製品。
【請求項27】
治療薬を投与するために使用されることを特徴とする請求項1~
23、
25、または
26のいずれか1項に記載の医療用多層製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ナノフィブリルセルロース膜、およびナノフィブリルセルロースを含む多層製品に関する。本願は、ナノフィブリルセルロースから膜を作製するための方法、および多層製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノフィブリルセルロースは、単離されたセルロース小繊維、またはセルロース原材料に由来する小繊維束を表す。ナノフィブリルセルロースは、天然に広く存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性ゲル(ヒドロゲル)を形成する性質がある。
【0003】
ナノフィブリルセルロース製造技術は、パルプ繊維の水性分散液の、粗砕(または均質化)に基づく。分散液中のナノフィブリルセルロースの濃度は、典型的には非常に低く、通常約0.3~5%である。粗砕処理または均質化処理の後、得られたナノフィブリルセルロース材料は、希釈された粘弾性ヒドロゲルである。
【0004】
この生成物が膜の形態の自己支持構造体として存在するまで水を除去することによって、ナノフィブリルセルロースから建築用製品を作製することにも注目が集まっている。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、
ナノフィブリルセルロースを含む層と、
ガーゼの層とを含む医療用多層製品を提供する。
【0006】
一実施形態は、
ナノフィブリルセルロースを含む第1層と、
ガーゼの層と、
ナノフィブリルセルロースを含む第2層とを含む医療用多層製品を提供する。
【0007】
一実施形態は、前記医療用多層製品を含む、包帯または貼付剤などの医療用製品を提供する。
【0008】
一実施形態は、皮膚の創傷または他の損傷を、覆うため、および/または治療するために使用するための医療用多層製品を提供する。
【0009】
一実施形態は、前記医療用多層製品を含む、包帯または貼付剤などの美容用製品を提供する。
【0010】
一実施形態は、医療用多層製品を作製するための方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含む層を提供することと、
ガーゼの層を提供することと、
医療用多層製品を得るために、ナノフィブリルセルロースを含む層とガーゼの層とを積層することとを含む方法を提供する。
【0011】
医療用多層製品を作製するための方法であって、
フィルタを提供することと、
ナノフィブリルセルロースを含む分散液を提供することと、
ガーゼを提供することと、
前記分散液を前記フィルタ上に適用することと、
前記分散液を前記ガーゼに適用することと、
前記医療用多層製品を得るために、構造体を前記フィルタを通って脱水することとを含む方法。
【0012】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられる。様々な実施形態は、従属請求項に開示される。従属請求項、および明細書に記載された実施形態は、明示的に示されない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0013】
実施形態の医療用構造体は、特に湿潤条件において、向上した機械的強度、および高い引裂強さ(引裂抵抗)などの他の特性を提供する。手当用品布製品、すなわちガーゼなどの支持構造体および補強構造体を膜に追加することによって、たとえば、2層構造体、または3層構造体などの多層構造体を形成することができる。布製品は、連続的な支持網状体をもたらし、当該網状体の強度は、湿潤条件によって顕著には影響されない。3層構造体をもたらすことによって、布製品は、構造体内部に固定したまま留めることができ、膜から布製品が分離するリスクが低下する。
【0014】
膜または構造体の引張強さは、ナノフィブリルセルロースを含む膜に非ナノフィブリル化セルロースを添加することによってさらに向上させることができる。膜内の比較的少量の非ナノフィブリル化セルロースでさえ、引張強さを効果的に向上させる。
【0015】
また、製造工程において、向上した引張強さは、濾布などの支持体からの乾燥膜の除去を促進する。なぜなら、膜は、破れにくいからである。
【0016】
医療用多層製品のある有利な特性は、柔軟性、伸縮性、および再形成性を含む。これらの特性は、たとえば、前記構造体が、創傷治癒のための包帯として使用されるとき、または送達用治療薬もしくは美容用薬剤などの他の医療用途において、有用である。
【0017】
柔軟性は、医療用途などの多くの用途において望まれる性質である。たとえば、ナノフィブリルセルロースを含む柔軟な、貼付剤および包帯は、たとえば、火傷などの、創傷および他の損傷もしくは外傷を覆うために皮膚上に適用するために有用である。
【0018】
また、構造体の、柔軟性または伸縮性(伸び)は、ガーゼの選択によって少し影響を受け得る。また、膜内の比較的少量の非ナノフィブリル化セルロースは、柔軟性を向上させてもよい。
【0019】
また、本実施形態の医療用多層製品は、高い吸収力と、吸収速度とをもたらし、これらの特性は、創傷治癒などの医療用途において望まれている。広い面積を覆うために使用可能である大きな膜を作製することができる。
【0020】
本明細書に記載された多層製品は、医療用途において有用であり、ナノフィブリルセルロースを含む材料は、生きている組織に接触する。ナノフィブリルセルロースが、たとえば皮膚上に適用されたとき、独特の特性をもたらすことが見出された。本明細書に記載されたようなナノフィブリルセルロースを含む製品は、生きている組織に対して高度な生体親和性を有し、いくつかの有利な効果を奏する。特定の理論になんら拘束されないが、ナノフィブリルセルロースを含む層は、非常に広い表面積をもたらし、皮膚、または他の組織に対して適用されたとき、皮膚から水分を吸収し、組織とナノフィブリルセルロースを含む層との間に特別な状態を形成すると考えられる。多層製品は、上述の効果を促進させるために加湿されてもよい。さらに、薄いゲル層は、ナノフィブリルセルロースを含む層の表面上に形成され、水分子は、このゲル層と皮膚との間に存在する。ナノフィブリルセルロースの遊離ヒドロキシル基は、材料と水分子との間の水素結合の形成を促進する。このことは、皮膚との接触を向上させ、流体および/または薬剤を、皮膚から多層製品へ、または多層製品から皮膚へ移動させることを可能にする。
【0021】
多層製品が、創傷または他の損傷もしくは外傷を覆うために使用されたとき、たとえば、絆創膏、包帯、医療用貼付剤、または貼付剤の一部、貼付剤もしくは包帯として、いくつもの効果がもたらされる。製品の有用性は、良好である。なぜなら、製品は、たとえば裂けるなどの損傷なしに容易に適用および除去することができるからである。創傷を覆うために使用されるとき、製品は、人工皮膚として機能し、創傷を保護し、創傷が治癒すると緩む。本製品は、通常、治癒した領域を損傷させることなく取り除くことが非常に困難である従来の材料とは逆に損傷した皮膚に付着しない。製品と皮膚との間の状態は、損傷部位の治癒を促進する。実施形態の医療用多層製品は、皮膚移植片などの移植片の処置において特に有用である。多層製品は、移植片領域を覆うために使用することができ、保護層として機能する。移植片が治るにつれて、膜は、痂皮様構造体を形成し、治癒を促進する。
【0022】
多層製品は、患者または使用者に対して、治療用薬剤または美容用薬剤などの薬剤を調節して効果的に送達するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本実施形態は、添付図面を参照して以下に説明される。
【
図1】3つの層を含む製品の一例を示す。ガーゼの層は、ナノフィブリルセルロースを含む第1層とナノフィブリルセルロースを含む第2層との間にある。ナノフィブリルセルロースの層は、画像の上側で重複している。
【
図2】単一包装に収納された最終的な医療用多層製品の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、割合の値は、特に示されなければ、重量に基づく(w/w)。任意の数値範囲が与えられた場合、当該範囲は、上限値および下限値を含む。
【0025】
実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、非ナノフィブリル化パルプ、または治療用薬剤もしくは美容用薬剤、または他の薬剤などの任意の他の成分とを含む少なくとも1つの層を提供する。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースおよび非ナノフィブリル化パルプを含む層を提供する。層中の非ナノフィブリル化パルプの量は、全セルロースの、0.1~60%(w/w)、たとえば0.1~50%(w/w)の範囲内にあってもよい。ナノフィブリルセルロースと、任意に非ナノフィブリル化パルプの一部とを含むセルロース層は、本明細書において、たとえば、「層」、「膜の層」、「膜」、「ナノフィブリルセルロースを含む層」、または「ナノフィブリルセルロースを含む膜」と称されてもよい。そのような層の例は、本明細書に記載されたような、ナノフィブリルセルロースを含む第1層と、ナノフィブリルセルロースを含む第2層と、または任意のさらなる層を含む。
【0026】
一般的に、前記層、または膜は、ナノフィブリルセルロースを含む分散液をもたらし、当該分散液を支持体上で乾燥させることによって作製されてもよい。支持体は、フィルタを含んでもよいか、またはフィルタは、支持体に加えて提供されてもよく、脱水は、ナノフィブリルセルロースを保持するが水を通すフィルタを通って実施されてもよい。その結果、ナノフィブリルセルロースを含む層が得られ、乾燥すると0~10%、たとえば1~10%の範囲内の水分含有量を有する。一般的に、水分含有量は、周囲の環境によって影響を受け、多くの場合、5~7%の範囲内にある。
【0027】
ナノフィブリルセルロースを含む、層または膜は、本明細書に記載された多層製品において使用されてもよい。一実施形態において、多層製品は、少なくとも、ナノフィブリルセルロースを含む層と、ガーゼの層とを含む。
【0028】
本明細書で使用されたような「医療用多層製品」は、少なくとも2つの層を有する構造体を表し、たとえば医療用途に使用されてもよい。しかし、前記多層構造体は、同様に、他の好適な用途に使用されてもよい。一実施形態において、医療用多層製品は、2つの層を含む。一実施形態において、医療用多層製品は、3つの層を含む。少なくとも2つの層は、お互いに積層または積み重ねられ、多層製品、または多層構造体、より詳細には、積層された、または積み重ねられた多層製品、または構造体を形成する。医療用多層製品は、さらなる層を含んでもよく、さらなる層は、ガーゼ層、ナノフィブリルセルロースを含む層、またはプラスチック層もしくは繊維層などの、補強層もしくは被覆/裏板層などの他の層であってもよい。
【0029】
「医療用」との用語は、医療目的に使用されるか、または医療目的に適した製品または使用を表す。医療用製品は、たとえば、温度、圧力、水分、化学物質、放射線、またはそれらの組み合わせを用いることによって、滅菌されてもよいか、または滅菌可能である。製品は、たとえば、加圧滅菌されてもよく、または高温を用いる他の方法が使用されてもよい。この場合、製品は、100℃、たとえば、少なくとも121℃もしくは134℃を超える高温に耐えるべきである。医療用製品は、たとえば、美容目的に適していてもよい。
【0030】
ナノフィブリルセルロースを含む層を作製するための出発材料
1つの出発材料は、サブミクロン範囲の直径を有するセルロース小繊維を含むか、または当該セルロース小繊維からなるナノフィブリルセルロースを含む。ナノフィブリルセルロースは、低濃度においてさえ、自己凝集したヒドロゲル網状体を形成する。これらのナノフィブリルセルロースのゲルは、天然に、高度にせん断減粘性であり、チキソトロピックである。
【0031】
ある任意のさらなる出発材料は、非ナノフィブリル化パルプを含む。そのようなパルプは、一般的に従来のパルプまたはレギュラーパルプまたはセルロースであり、マクロフィブリルパルプまたはマクロフィブリルセルロースと称されてもよい。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、非叩解パルプ、または中程度に叩解されたパルプであり、たとえば、パルプフリーネスによって特徴付けられてもよい。
【0032】
前記2つの主な出発材料は、ナノフィブリルセルロース画分、および非ナノフィブリル化パルプ画分などの画分と称されてもよい。ナノフィブリルセルロース画分は通常、膜のセルロース性材料の主要画分であるか、またはたとえば、全セルロースの80~99.9%(w/w)の乾燥重量を含む、膜を作製するための分散液である。しかし、一実施形態において、膜は、任意の非ナノフィブリル化パルプを含まない。すなわち、非ナノフィブリル化パルプの量は、0%である。非ナノフィブリル化パルプは通常、膜のセルロース性材料の少量画分、または一部である。一実施形態において、ナノフィブリルセルロース膜は、全セルロースの0.1~60%(w/w)の範囲内の、たとえば、0.1~50%(w/w),0.1~40%(w/w),0.1~30%(w/w),0.1~20%(w/w),0.1~10%(w/w),0.5~10%(w/w),1~10%(w/w),0.5~5%(w/w),1~5%(w/w),0.5~3%(w/w),または1~3%(w/w)の範囲内の量の非ナノフィブル化パルプを含む。本明細書において使用されるような「全セルロース」は、膜を作製するために使用される分散液における、または最終的な膜における、もしくは最終的な層における全セルロースの乾燥重量を表す。
【0033】
ナノフィブリルセルロースを含む最終的な膜もしくは層、または膜を作製するために使用される分散液は、通常少量の追加成分を含んでもよい。一例において、膜もしくは層、または分散液の乾燥物質は、全乾燥物質の1%(w/w)未満、たとえば、0.5%未満、または0.2%未満、または0.1%未満の追加成分を含む。
【0034】
一実施形態において、膜または層は、非修飾ナノフィブリルセルロース膜であり、任意に、全セルロースの0.1~10%(w/w)の範囲内の、または上述された別の範囲内の量の非ナノフィブリル化ケミカルパルプを含む。
【0035】
ナノフィブリルセルロース
ナノフィブリルセルロースは通常、植物起源のセルロース原材料から作製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原材料は、特定の細菌発酵処理に由来してもよい。一実施形態において、植物材料は、木材である。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、もしくはツガなどの針葉樹、またはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキ、オーク、ブナ、もしくはアカシアなどの広葉樹、または針葉樹および広葉樹の混合物から形成されてもよい。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例において、広葉樹は、カバノキである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。
【0036】
ナノフィブリルセルロースは、好ましくは、植物材料から作製される。一例において、小繊維は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、小繊維は、二次細胞壁から得られてもよい。そのような豊富なセルロース小繊維の供給源の1つは、木質繊維である。ナノフィブリルセルロースは、ケミカルパルプであってもよい木材由来の繊維性原材料を均一化することによって作製される。セルロース繊維は、最大50nmである数ナノメートルしかない直径を有する小繊維を作製するために分解され、小繊維の水分散液をもたらす。小繊維は、サイズを小さくされてもよく、小繊維の最大径は、2~20nmしかない範囲内にある。二次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。そのような小繊維は、一次細胞壁に由来する小繊維とは異なる特性を有し得る。たとえば、二次細胞壁に由来する小繊維の脱水は、一層困難である。
【0037】
本明細書において使用されるように、「ナノフィブリルセルロース」との用語は、セルロース小繊維、またはセルロース系繊維原料から分離された小繊維束を表す。これらの小繊維は、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、それらの長さは1μmを超えてもよいが、直径は通常200nmよりも小さい。最も小さい小繊維は、いわゆる基本小繊維の寸法であり、直径は、典型的には2~12nmの範囲内にある。小繊維の寸法およびサイズ分布は、叩解方法および生成効率に依存する。ナノフィブリルセルロースは、セルロース系材料として特徴付けられてもよい。粒子(小繊維または小繊維束)の中央長さは、50μm以下であり、たとえば、1~50μmの範囲内にある。粒径は、1μmよりも小さく、好ましくは2~500nmの範囲内にある。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、小繊維の平均径は、5~100nmの範囲内、たとえば10~50nmの範囲内にある。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成するための強い能力とによって特徴付けられる。水分散液中において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、透明な、または濁ったゲル様材料に見える。繊維原料によれば、ナノフィブリルセルロースは、ヘミセルロースまたはリグニンなどの他の少量の木質成分を含んでもよい。その量は、植物供給源に依存する。ナノフィブリルセルロースについて多くの場合に使用される類似名称は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、およびナノセルロースを含む。
【0038】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主な特性(i)サイズ分布、長さ、および直径、(ii)化学的組成、および(iii)レオロジー特性に基づいて分類されてもよい。グレードを十分に記載するために、特性は、同時に使用されてもよい。様々なグレードの例は、天然(または非修飾の)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、およびカチオン化NFCを含む。これらの主要グレードのうちにサブグレードも存在する。たとえば、非常に高度のフィブリル化に対して穏やかなフィブリル化、高い置換度に対して低い置換度、低粘度に対して高粘度など。フィブリル化技術と、化学的な前修飾とは、小繊維の寸法分布に影響を受ける。典型的には、非イオン性グレードは、広範な小繊維径を有し(たとえば、10~100nm、または10~50nmの範囲内にある)、化学的に修飾されたグレードは、非常に薄い(たとえば、2~20nmの範囲内にある)。分布は、修飾されたグレードについて狭い。特定の修飾、特にTEMPO酸化は、より短い小繊維をもたらす。
【0039】
原料供給源に依存して、たとえば、広葉樹(HW)パルプに対する針葉樹(SW)パルプなど、異なる多糖組成物が、最終的なナノフィブリルセルロース製品に存在する。一般的に、非イオン性グレードは、漂白されたカバノキパルプから作製され、高いキセノン含有量(25重量%)をもたらす。修飾されたグレードは、HWパルプまたはSWパルプから作製される。それらの修飾されたグレードにおいて、ヘミセルロースは、セルロースドメインと共に修飾される。おそらく、修飾は、均一ではない。すなわち、いくらかの部分は、他よりもさらに修飾される。したがって、詳細な化学的分析は不可能であり、修飾された製品は必ず、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0040】
水性環境において、セルロースナノファイバーの分散液は、粘弾性ヒドロゲル網状体を形成する。ゲルは、分散し、水和した絡まった小繊維によって、たとえば0.05~0.2%(w/w)の比較的低濃度で形成される。NFCヒドロゲルの粘弾性は、たとえば、動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けられてもよい。
【0041】
レオロジーに関して、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、せん断減粘性材料であり、このことは、それらの粘度が、材料が変形することによる、速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータにおいて粘度を測定するとき、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加とともに粘度の減少として観察される。ヒドロゲルは、可塑的挙動を示し、このことは、材料が容易に流れ始める前に特定のせん断応力(力)が、必要であることを意味する。この臨界的なせん断応力は、多くの場合、降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定される定常流動曲線から測定可能である。粘度が、加えられたせん断応力の関数としてプロットされるとき、粘度の顕著な減少が、臨界せん断応力を超えた後に観察される。ゼロせん断粘度と、降伏応力とは、材料の懸濁力を記載するために最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に分離するので、グレードを分類することを可能にする。
【0042】
小繊維、または小繊維束の寸法は、原材料と分解方法とに依存する。セルロース原材料の機械的分解は、リファイナー、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕器、ピンミル、ロータ-ロータディスパゲータ、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、または流動化ホモジナイザなどのフルイダイザによって実施されてもよい。分解処理は、繊維間における結合の形成を妨げるために水が十分に存在する条件で実施される。
【0043】
一例において、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ-ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、または同様の可動式機械部材を有する分散機を用いることによって実施される。分散機において、分散液中の繊維材料は、ブレードが、回転速度で、および半径(回転軸までの距離)によって決定される周辺速度とで回転するとき、反対方向から繊維材料を打ちつけるロータのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移動するので、反対方向から速い周辺速度で次々に到来するブレード、すなわちリブの広い表面に衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向から複数回の連続的な衝撃を受ける。また、ブレード、すなわちリブの広い表面の端部であって、その端部が次のロータブレードの反対端部とともに、繊維の分解と小繊維の脱離とに寄与するせん断応力が生じるブレード間隙を形成する。衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、および装置を通る分散液の流速によって決定される。
【0044】
ロータ-ロータ分散機において、繊維材料は、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされ、それによって繊維材料が同時にフィブリル化されるように、逆回転ロータを通って、ロータの回転軸に関して半径方向外側に向かって導入される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0045】
分解に適した装置の別の例は、マルチペリフェラルピンミルなどのピンミルである。US620946B1に記載されたようなそのような装置の一例は、ハウジングと、その内に衝突表面を備えた第1ロータ、第1ロータと同心で、衝突表面を備え第1ロータと反対方向に回転するように配設された第2ロータ、または第1ロータと同心で衝突表面を備えるステータとを含む。装置は、ハウジング中に供給オリフィスと、ロータ、またはロータおよびステータの中央への開口部と、ハウジング壁の排出口と、最も外側のロータまたはステータの周囲への開口部とを備える。
【0046】
一実施形態において、分解は、ホモジナイザを用いて実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果によって均質化にさらされる。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、繊維材料を小繊維に分解する分散液の強制貫流によってもたらされる。繊維材料分散液は、所定の圧力で狭い貫流間隙を通って所定の圧力で通過し、分散液の線形速度の増加は、せん断力と衝撃力とを分散液にもたらし、繊維材料から小繊維の除去をもたらす。繊維断片は、フィブリル化工程において小繊維に分解される。
【0047】
本明細書において使用される「フィブリル化」との用語は、一般的に粒子に加えられる仕事によって繊維材料を機械的に分解することを表し、セルロース小繊維は、繊維、または繊維断片から分離されることを表す。仕事は、粉砕、砕砕、もしくはせん断、もしくはこれらの組み合わせ、または粒径を減少させる別の同様の働きなどの様々な効果に基づいてもよい。叩解する仕事によって得られたエネルギーは通常、たとえば、kWh/kg,MWh/ton,またはこれらに比例する単位で、処理された原材料の量あたりのエネルギーを単位として表わされる。表現「分解」、または「分解処理」との表現は、「フィブリル化」の代わりに使用されてもよい。
【0048】
フィブリル化にさらされる繊維材料分散液は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」と称される。繊維材料分散液は、一般的に、水と混合された、全繊維、それらから分離された部分(断片)、小繊維束、または小繊維を表し、典型的には水性繊維材料分散液は、そのような構成要素の混合物であり、成分の間の比率は、処理の程度、または処理の段階、たとえば、実行数、または繊維材料の同じバッチの処理を「通過」する数に依存する。
【0049】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、前記ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、たとえば、ブルックフィールド粘度、またはゼロせん断粘度であってもよい。
【0050】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースの見掛粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)、または別の対応する装置を用いて測定される。好ましくはベーンスピンドル(73番)が使用される。見掛粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づく。好ましくは、装置において、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が使用される。ナノフィブリルセルロースの試料は、0.8重量%の濃度まで水に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調整され、必要に応じて加熱され、混合された。低い回転速度10rpmが使用された。
【0051】
本方法において出発材料として提供されるナノフィブリルセルロースは、当該ナノフィブリルセルロースが水溶液にもたらす粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、たとえば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化の程度を表す。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。前記ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度の範囲の例は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、2000~20000mPa・s,3000~20000mPa・s,10000~20000mPa・s,15000~20000mPa・s,2000~25000mPa・s,3000~25000mPa・s,10000~25000mPas,15000~25000mPas,2000~30000mPas,3000~30000mPas,10000~30000mPas,および15000~30000mPasを含む。
【0052】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースである。非修飾ナノフィブリルセルロースの排液は、たとえばアニオン性グレードよりも顕著に速いことが見出された。非修飾ナノフィブリルセルロースは、一般的に、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された2000~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0053】
分解された繊維性セルロース原料は、修飾された繊維性原料であってもよい。修飾された繊維性原料は、セルロースナノフィブリルが繊維から容易に分離可能であるように、繊維が処理によって影響を受けた原料を意味する。修飾は通常、懸濁液として存在する繊維性セルロース原料、つまりパルプに実施される。
【0054】
繊維に対する修飾処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的修飾において、セルロース分子の化学構造は、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノースユニットに官能基が付加されるように、化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロースの化学的修飾は、反応物、および反応条件の程度に応じて、特定の変換度で実施され、一般的に、セルロースが小繊維として固体形状で留まり、水に溶解しないので完了しない。物理的修飾において、アニオン性物質、カチオン性物質、もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着される。修飾処理は、酵素的であってもよい。
【0055】
繊維中のセルロースは、特に、修飾後にイオン性に荷電されてもよい。なぜなら、セルロースのイオン性荷電は、繊維の内部結合を弱め、その後のナノフィブリルセルロースへの分解を促進するからである。イオン性荷電は、セルロースの、化学的修飾または物理的修飾によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比べて、修飾後、より高いアニオン荷電、またはカチオン荷電を有してもよい。アニオン性荷電を作製するための、最も一般的に使用される化学的修飾方法は、ヒドロキシル基がアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、およびカルボキシメチル化である。同様に、カチオン性荷電は、4級アンモニウム基などの、カチオン性基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に生じてもよい。
【0056】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、化学修飾ナノフィブリルセルロース、たとえばアニオン性修飾ナノフィブリルセルロース、またはカチオン性修飾ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン性修飾ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースは、硫酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。
【0057】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、たとえば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル、一般的に「TEMPO]と称される複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ-D-グルコピラノースユニットの第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。また、いくつかのアルデヒド基は、第一級ヒドロキシル基から形成される。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水に分解されたとき、繊維は、たとえば、3~5nmの幅の個々のセルロース小繊維の安定な透明分散液をもたらす。出発培地として酸化パルプを用いて、0.8%(w/w)の濃度で測定されたブルックフィールド粘度が、少なくとも10000mPa・s、たとえば10000~30000mPa・sの範囲内にあるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0058】
触媒「TEMPO」が本開示において言及されるときは、「TEMPO」が、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的な酸化を触媒することを可能にする、TEMPOの任意の誘導体、または任意の複素環ニトロキシルラジカルに、等しく、同様に適用することに関する、全ての測定および操作を示すことが明らかである。
【0059】
一実施形態において、そのような化学修飾ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一実施形態において、そのような化学修飾ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一実施形態において、そのような化学修飾ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。使用されたアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・s、または18000~20000mPa・s、または25000mPa・sまでの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0060】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、低濃度において、たとえば、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも20000mPa・s、さらに少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度などの高粘度をもたらす。一実施例において、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度は、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、20000~30000mPa・s、たとえば25000~30000mPa・sの範囲内にある。
【0061】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、化学的に修飾されていないナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、そのような化学的に修飾されていないナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。
【0062】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(もしくは幅)によって、またはブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度などの粘度と平均径とによって特徴付けられてもよい。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの、2~15nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。
【0063】
小繊維の直径は、顕微鏡などの様々な技術を用いて測定されてもよい。小繊維の厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭い小繊維径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0064】
一実施例において、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメータ粘度は、30mmの直径を有する円柱状試料カップ中にナローギャップベーンジオメトリ(28mm径、長さ42mm)を備える応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments社、イギリス)を用いて22℃において測定された。試料をレオメータに入れた後、試料は、測定が開始する前に5分間そのままの状態に留められる。安定状態の粘度は、徐々に増加する、せん断応力(加えられたトルクに比例する)を用いて測定され、せん断速度(角運動速度に比例する)が測定される。特定のせん断応力において報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後、または最大2分後に記録された。測定は、1000s-1のせん断速度を超えたとき、停止された。この方法は、ゼロせん断粘度を測定するために使用されてもよい。
【0065】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、1000~100000Pa・sの範囲内、たとえば5000~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度(小さなせん断応力における一定粘度の「プラトー」)と、水性媒体中における0.5%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定された、3~15Paの範囲内などの1~50Paの範囲内の降伏応力(せん断減粘が始まるせん断応力)とをもたらす。
【0066】
濁度は、一般的には裸眼で見ることができない個々の粒子(全て懸濁または溶解した固体)によって生じる、流体の、不透明度または曇りである。濁度を測定するためのいくつかの実際的な方法があり、最も直接的な方法は、光の減衰(つまり、強度の減少)の測定である。なぜなら、光は、水の試料カラムを通るからである。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット、またはJTU)は、本質的に、水のカラムを通して見えるロウソクの炎を完全に見えなくするために必要な水のカラムの長さの反転測定である。
【0067】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつか存在する。本件においては、比濁法に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計に由来する濁度の単位は、ネフェロメ濁度単位(NTU)と称される。測定装置(比濁粘度計)は、標準調整試料で調整され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定された。
【0068】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点以下の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計は、濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算された0.5gの試料が、測定容器内に入れられ、500gまで水道水で満たされ、約30秒間にわたって振とうすることによって強く混合された。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計に入れられた。各容器について3回の測定が実施された。平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果は、NTU単位として与えられる。
【0069】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、粘度および濁度の両方を規定することである。低い濁度は、小さな直径などの小繊維の小さな寸法を表す。なぜなら、小さな小繊維は、光を十分に散乱させないからである。一般的には、フィブリル化の程度が増加すれば、粘度が上昇し、同時に濁度が減少する。これは、しかしながら、特定の時点までしか生じない。フィブリル化がさらに継続すると、小繊維は、最終的に壊れ始め、その後には強固な網状体を形成することができない。したがって、この時点の後、濁度と粘度とは低下し始める。
【0070】
一実施例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、90NTU未満、たとえば、5~60NTU、たとえば8~40NTUのような3~90NTUである。一実施例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、200NTUを超えてもよく、たとえば10~220NTU、たとえば20~200NTU、たとえば50~200NTUであってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、たとえば少なくとも15000mPa・s、少なくとも10000mPa・sなどの少なくとも2000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供するナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0071】
膜作製方法のための出発材料は通常、上述の繊維性原材料のいくつかの分解から直接に得られ、分解条件によって比較的低濃度で水中に均質に分散して存在するナノフィブリルセルロースである。出発材料は、0.3~5%、通常0.3~0.5%の範囲内の濃度において水性ゲルであってもよい。この種類のゲルは、したがって、膜の本体を形成し、膜の構造的強さと強度特性とをもたらすセルロース小繊維の網状体が残るように、取り除くことができる大量の水を含む。この網状体は、同様に、水性ゲルに元来分散された他の固体を含んでもよいが、セルロース小繊維は、膜の主な構成要素である。
【0072】
非ナノフィブリル化パルプ
主にナノフィブリルセルロースを含む分散液中の、比較的少量の非ナノフィブリルセルロースは、たとえば、膜の製造において、分散液の排液時間を早める。たとえば、全セルロースの非ナノフィブリルセルロースの1パーセントの占有率は、約50%だけ排水を早めることができたが、最小で約15~20%であった。ナノフィブリルセルロースの乾燥は、一般的に時間がかかり、困難であるので、乾燥工程は、ナノフィブリルセルロースに由来する膜の特性に実質的に影響を受けることなく促進することができる。
【0073】
このことは、膜として使用可能である絶乾率レベルまで比較的低い濃度のナノフィブリルセルロースを乾燥させることができる。したがって、工業生産の観点から実行可能な時間内にナノフィブリルセルロース膜を作製することができる。
【0074】
非ナノフィブリル化パルプは、ナノフィブリル化形態に分解されないパルプ、または非ナノフィブリル化セルロースを主に含むパルプを表す。一般的に、非ナノフィブリル化パルプは、木質パルプである。
【0075】
一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、非叩解パルプ、または穏やかに叩解されたパルプであり、たとえばパルプ懸濁液の排水性を測定するパルプフリーネスによって特徴付けられてもよい。一般的に、フリーネスは、叩解によって減少する。
【0076】
パルプ特性を規定する1つの例は、ショッパー・リーグラ(SR)ろ水度(ISO5267-1)によって水中のパルプ懸濁液の排液性能を規定することを含む。ショッパー・リーグラ法は、パルプの希釈懸濁液が脱水される速度の測定値を提供するために設計されている。排液性能は、繊維の、表面状態および膨張に関連することが示され、パルプがさらされる機械的処理の量の有用な指標を構成する。ショッパー・リーグラろ水度は、1000mlの排液がSRろ水度ゼロに対応し、排液ゼロがSRろ水度100に対応する基準である。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、11~52の範囲内のSRろ水度を有する。
【0077】
カナダ標準ろ水度(CSF)によって、排液性能を測定するための他の方法は、ISO5267-2に特定されている。CSFは、砕木特性の測定値として開発された。一般的に、CSFは、叩解によって減少し、微粒子および水質に感受性を有する。通常、繊維のフリーネスと、長さとに相関がある。フリーネスが低くなれば、繊維長も小さくなる。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、200~800mlの範囲内にあるCSFを有する。
【0078】
非ナノフィブリル化パルプは、メカニカルパルプ、またはケミカルパルプであってもよい。一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、ケミカルパルプである。メカニカルパルプが使用されてもよいが、ケミカルパルプは、より純粋な材料であり、広範な用途において使用されてもよい。ケミカルパルプは、メカニカルパルプに存在するピッチおよび樹脂酸を欠き、さらに無菌であるか、容易に滅菌可能である。さらに、ケミカルパルプは、さらに柔軟であり、医療用貼付剤、または包帯と、生存組織に適用される他の材料を提供する。
【0079】
一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、針葉樹パルプである。針葉樹の例は、トウヒ、マツ、またはシーダーを含む。針葉樹パルプは、2mmを超えるような広葉樹パルプよりも長い繊維を含み、向上した引裂強さなどの、膜における有利な補強特性を提供する。
【0080】
一実施形態において、非ナノフィブリル化パルプは、ケミカル針葉樹パルプである。ケミカル針葉樹パルプにおいて、繊維の長さは維持され、それによって機械的に耐久力があるが、柔軟な材料を得ることができた。
【0081】
一実施形態において、膜は、非ナノフィブリル化ケミカルパルプを含む非修飾ナノフィブリルセルロース膜である。一実施形態において、膜は、全セルロースの0.1~10%(w/w)の範囲内の、非ナノフィブリル化ケミカルパルプを含む非修飾ナノフィブリルセルロース膜である。
【0082】
一実施形態において、膜は、非修飾ナノフィブリルセルロースと、非ナノフィブリル化ケミカル針葉樹パルプの一部とを含む。一実施形態において、膜は、広葉樹から得られた非修飾ナノフィブリルセルロースと、非ナノフィブリル化ケミカル針葉樹パルプの一部とを含む。
【0083】
ナノフィブリルセルロースを含む層の作製
ナノフィブリルセルロースを含む層を作製するための方法は、まず、ナノフィブリルセルロースと、任意に非ナノフィブリル化パルプまたは他の薬剤などの任意の補助的薬剤とを提供し、続いて所望量の補助的薬剤を含む分散液を形成することとを含む。一実施形態において、分散液は、水性分散液である。分散液は、支持体上の懸濁液から湿式ウェブを形成するために、当該支持体上に加えられる。分散液は、層を形成するために支持体上で乾燥させられる。層は、膜と称されてもよい。
【0084】
前記支持体は、ナノフィブリルセルロースの小繊維を通さないが、液体を通す、多孔性支持体、たとえば、濾布などのフィルタであってもよい。支持体上に別のフィルタが存在してもよい。一実施形態において、分散液に由来する液体は、支持体を通って排液される。このことは、たとえば、真空濾過などによって、支持体を減圧することによって実施されてもよい。一実施形態において、減圧と完全に同時に、もしくは一部同時に、または後続の工程として、熱が、分散液の層、または形成している膜に加えられる。熱は、支持体にわたる圧力の相違によって支持体から液体を排液している間に、膜シートの反対側に加えられてもよい。一実施例において、圧力は、加熱表面によって、分散液の層、または形成している膜に加えられる。膜シートは、排液の間に形成される。一実施例において、分散液は、水性分散液である。一実施例において、液体は、水を含む。
【0085】
強い水保持力は、ナノフィブリルセルロースに典型的である。なぜなら、水は、膨大な水素結合によって小繊維に結合するからである。その結果、膜の所望の絶乾率に達するには、長い乾燥時間が必要である。真空濾過などの従来法は、数時間必要とし得る。ナノフィブリルセルロース分散液の低い濃度は、膜の表面に坪量の小さな変化を有する薄い膜の形成を促進する。一方、このことは、乾燥の間に除去しなければならない水の量を増加させる。
【0086】
水を低速で機械的に除去することの問題は、たとえば濾過の間に、ナノフィブリルセルロース自体の周囲に、非常に緻密な不透過性のナノスケールの膜を形成するナノフィブリルセルロースヒドロゲルの能力にあると考えられる。形成されたシェルは、ゲル構造体からの水の分散を妨げ、非常に遅い濃縮速度をもたらす。同じことは、薄膜形成が水の蒸発を妨げる蒸発にも当てはまる。
【0087】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲル、天然(化学的に修飾されていない)セルロース、または化学的に修飾されたセルロースの特性が原因で、産業生産に適した短時間での均一な構造の膜の形成は、非常に困難である。本実施形態において、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルからの水の除去は、改良された。
【0088】
少量の非ナノフィブリル化パルプの添加は、そうでなければ非常に困難で時間のかかるナノフィブリルセルロースの分散液から液体の排液を促進する。しかし、排液をさらに促進するために、減圧(真空)、および熱が組み合わせて使用されてもよい。さらに圧力は、減圧、および/または熱と組み合わせて使用されてもよい。
【0089】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースから膜を作製するための方法であって、
任意に、全セルロースの0.1~60%(w/w)の範囲内の量の非ナノフィブリル化パルプを含む、ナノフィブリルセルロースの分散液を提供することと、
ナノフィブリルセルロースの小繊維を通さないが、液体を通す濾布支持体に前記分散液を供給することと、
濾布上に膜シートを形成するために、濾布を減圧する効果によって、ナノフィブリルセルロース分散液から液体を排液することと、
濾布にわたる減圧効果などの濾布一面の圧力差によって、濾布から液体の排液を継続している間に、膜シートに対して膜シートの反対側に熱を加えることとを含む方法を提供する。この方法は、ナノフィブリルセルロースを含む第1層、および/またはナノフィブリルセルロースを含む第2層を作製するために使用されてもよい。
【0090】
1%の非ナノフィブリル化パルプでさえ、50%、一般的に10~50%の範囲内の排液速度上昇に十分であり、実質的なさらなる影響が、より多いパルプ添加で見出された。したがって、非ナノフィブリル化パルプの量を、たとえば、0.1~3%、または0.5~3%、または1~3%、または0.5~2%、または0.2~1.5%の範囲内などに少なく保つことが可能である。しかしながら、膜の高い引裂強さなどの最終製品の所望の特性を得るために、非ナノフィブリル化セルロースのより高い割合が使用されてもよい。非ナノフィブリル化パルプの量は、全セルロース重量、または分散液もしくは膜の繊維材料含有量から計算された割合を表す。
【0091】
一実施形態において、膜は、濾布上に膜シートを形成するために、ナノフィブリルセルロースの小繊維を通さないが、液体を通す濾布を通る減圧効果によって、まず液体を排液することによって、非ナノフィブリル化パルプの一部を含む液体媒体中のナノフィブリルセルロース分散液から作製され、その後、濾布一面の圧力差によって濾布を通って液体を排液し続けている間に、熱が膜シートの反対側に加えられる。膜シートが完成したとき、所望の乾燥物質は、自立性膜として濾布から取り除かれてもよく、さらに処理されてもよく、または保存されてもよい。膜の製造方法の文脈において、本明細書で使用されたような「ナノフィブリルセルロース分散液」は、本明細書に記載されたような非ナノフィブリル化パルプの一部と、他の可能な成分とを任意に含むナノフィブリルセルロース分散液を表す。
【0092】
一実施形態において、本方法は、ナノフィブリルセルロースを含む自立膜として、濾布などの支持体から膜シートを取り除くことを含む。
【0093】
排液の間に形成される膜シートの反対側への加熱は、加熱表面との接触(伝導)によって、すなわち加熱表面からの熱の伝導によって達成されてもよく、または膜シートの表面の照射によって、すなわち、放射熱によって達成されてもよい。同時に、液体は、濾布の反対側に存在する圧力差によって排液される。このことは、減圧によって、または加熱表面で膜シートを機械的に押圧することによって達成されてもよい。
【0094】
一実施形態において、膜シートに対する当該膜シートの反対側への加熱は、膜シート表面と加熱表面との接触によって達成される。
【0095】
一実施形態において、膜シートに対する当該膜シートの反対側への加熱は、ガーゼ、濾布、または膜が積層される構造層などの、加熱表面と膜シートとの間に挟まれた層と、加熱表面との接触によって達成される。
【0096】
一実施形態において、圧力は、加熱表面によっても膜シートに加えられ、当該圧力は、少なくとも部分的に濾布に圧力差を生じる。
【0097】
一実施形態において、液体は、圧力が加熱表面によって膜シートに加えられている間に、減圧効果によって濾布を通って膜シートから排液され、前記減圧と加熱表面によって加えられた圧力とは、濾布にわたる圧力差を共にもたらす。
【0098】
一実施形態において、液体は、圧力が加熱表面によって膜シートに加えられている間に、濾布を通って膜シートから少なくとも1つの吸収シートに排液され、加熱表面によって加えられた当該圧力は、濾布に圧力差をもたらす。
【0099】
一実施形態において、液体は、減圧効果によって膜シートから膜シートの両方の表面を通って反対方向に排液される。
【0100】
熱は、液体状態で液体の除去を促進し、その温度を液体の沸点以下の範囲にまで上昇させるために、形成されている膜シートに加えられる。一実施形態において、膜シートの温度は、膜シートに加えられた熱によって、100℃以下に保持される。
【0101】
圧力差が、濾布に対して加熱表面で膜シートを押圧することによって得られる場合、膜シートから出てくる液体の最終的な排液は、濾布を通って出てくる液体を受けることができる、濾布の外側に対して吸収シートを設置することによって向上させることができる。水を受けることができる、吸収パルプシート、吸収紙、または乾燥フェルトを使用することができる。そのようなシートは、濾布の外側に対する層内に設置されてもよい。そのような吸収シート、または複数のシートは、形成された膜シートからの吸収によって液体を除去する。
【0102】
一実施形態において、熱および圧力は、膜シートの反対側に加えられる。
【0103】
ナノフィブリルセルロースのいくつかのグレードは、それらの水保持性能が原因で、特に乾燥させるのが困難であり、乾燥には通常の「天然」グレードよりも顕著に長い時間がかかる。アニオン荷電基を含むナノフィブリルセルロースは、特に乾燥させることが困難であるナノフィブリルセルロース分散液の一例である。N-オキシル媒介触媒酸化によって(たとえば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンN-オキサイドによって)得られるセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電が解離したカルボン酸部分に起因するアニオン性荷電ナノフィブリルセルロースの具体例である。これらのアニオン性荷電ナノフィブリルセルロースグレードは、膜の作製のための潜在的な出発材料である。なぜなら、高品質のナノフィブリルセルロース分散液は、化学的に修飾されたパルプから作製することが容易だからである。アニオン性荷電ナノフィブリルセルロースグレードは、酸を添加して分散液のpHを低下させることによって前処理されてもよい。この前処理は、水保持能を低下させる。たとえば、ナノフィブリルセルロース分散液のpHを3以下に低下させることによって、上述の方法を用いる乾燥時間を減少させることができる。一実施形態において、セルロースがアニオン性荷電基を含むナノフィブリルセルロース分散液は、そのpHを低下させることによって前処理され、その後、前処理されたナノフィブリルセルロース分散液は、低下したpHで濾布上に供給される。
【0104】
セルロース小繊維の寸法が小さい場合、当該セルロース小繊維は、濾布の可能性のある最少の孔サイズでさえ、除去されるべき液体と共に濾布を通って流れてもよい。本方法の一実施形態によれば、セルロース小繊維は、第1ナノフィブリルセルロース分散液を濾布上に加え、第1ナノフィブリルセルロース分散液の小繊維を通さない濾布を通って液体を排液することによって小繊維網状体を形成することによって、濾過液から分離される。この小繊維網状体は、第2ナノフィブリルセルロース分散液のための補助フィルタの一種として機能し、小繊維の寸法は、第1ナノフィブリルセルロース分散液よりも小さい。第2ナノフィブリルセルロース分散液の利用後、排液は、1つの工程で適用されたようなナノフィブリルセルロース分散液と同様に実施される。
【0105】
一実施形態において、第1ナノフィブリルセルロース分散液は、最初に濾布に供給され、液体は、第1ナノフィブリルセルロース分散液から排液され、小繊維網状体を形成し、その後、小繊維の寸法が第1ナノフィブリルセルロース分散液の小繊維の寸法よりも小さい第2ナノフィブリルセルロース分散液が、前記小繊維網状体に供給され、液体は、前記小繊維網状体と、濾布とを通って第2ナノフィブリルセルロース分散液から排液される。
【0106】
第2ナノフィブリルセルロース分散液の小繊維の寸法は、濾布の、メッシュサイズまたは孔サイズと比べて、分散液から排液された(濾過された)液体とともに濾布を通過するであろう。第2ナノフィブリルセルロース分散液の割合は、第1ナノフィブリルセルロース分散液の割合よりも大きく、乾燥膜の重量の最も大きな部分を構成する。小繊維の寸法は、小繊維の直径、もしくは小繊維の長さを表してもよく、または小繊維の直径および長さの両方を表してもよい。
【0107】
一実施形態において、第2小繊維分散液の小繊維は、第2小繊維分散液が、濾布に直接に供給される場合、濾布を通ることができるような寸法である。
【0108】
濾布は、その透過特性(カットオフ値)によって、実質的に小繊維を含まない濾液と、ナノフィブリルセルロース分散液に含まれるセルロース小繊維および可能な他の固体からなる濾過された膜シートとを分離するように使用することができる。そのような濾布の孔径または開口径は、マイクロメートル範囲内にある。濾布は、濾過されたナノフィブリルセルロース膜シートに非接着である材料から作製される。プラスチックは、濾布の材料として使用されてもよい。緻密に織られたポリアミド-6,6濾布は、使用可能な濾布の一例である。そのようなポリアミド濾布は、様々な孔径で利用可能であり、ナノフィブリルセルロースの粒径に応じて選択されてもよい。濾布は、濾過層または濾布層と称されてもよい。
【0109】
ナノフィブリルセルロースに熱をもたらすための加熱表面は、濾過されたナノフィブリルセルロース膜シートに接着しない。撥水耐熱コーティング、たとえばPTFEで被覆された金属プレート、またはたとえば約1mmの厚さを有する、PTFE単独のシートを使用してもよい。
【0110】
一実施形態において、膜シートに対して膜シートの反対側への加熱が膜シートへの放射熱によって達成される間に、液体は、減圧効果によって濾布を通って膜シートから排液され、減圧は、濾布に圧力差をもたらす。
【0111】
本方法は、ナノフィブリルセルロース分散液を濾布に加え、連続した工程を所定の順番に従って実施することによって、別個の膜を1つずつ連続してシート型において作製するために、または連続した工程によって形成される膜シートを保持する可動濾布にナノフィブリルセルロース分散液を適用することによって、連続工程において連続膜を作製するために使用されてもよい。
【0112】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロース懸濁液は、連続層として可動濾布に供給され、連続膜は、様々な処理工程を通じて濾布を移動させることによって連続層を搬送することによって作製され、その後、膜は、濾布から分離される。
【0113】
一実施形態において、膜シートは、ナノフィブリルセルロース分散液が供給され、膜シートが自立膜に乾燥されるプレス機に配設されるシート型から濾布と共に取り除かれる。
【0114】
一実施形態において、膜シートは、自立ナノフィブリルセルロース膜を形成するために、ナノフィブリルセルロース分散液から、または膜シートから液体が除去された任意の濾過層から取り除かれる。
【0115】
一実施形態において、膜シートは、ナノフィブリルセルロース分散液が供給されたシート型内の自立膜に乾燥させられる。
【0116】
濾布に加えられるナノフィブリルセルロース分散液、通常水性分散液の出発濃度は、0.1~10%の範囲内にあってもよい。しかし、出発濃度は通常、5%以下、たとえば、0.3~5.0%の範囲内、たとえば約0.4%である。これは通常、ナノフィブリルセルロースが繊維性原材料を分解することによって作製される製造工程の出口におけるナノフィブリルセルロースの初期濃度である。しかしながら、ナノフィブリルセルロース分散液は、膜構造の変化を回避するために、初期濃度(製造工程からの製品の濃度)からナノフィブリルセルロース分散液が濾布に均一に分散されることを確実にするために適切な出発濃度まで液体で希釈することができる。ナノフィブリルセルロースグレードの固有の粘度に応じて、出発濃度は、低くてもよく、または高くてもよく、0.1~10%の範囲内にあってもよい。低い粘度グレードについて、高濃度にも関わらず濾布に均一に広がるより高い濃度が使用されてもよい。ナノフィブリルセルロースは、水に懸濁された繊維性出発材料が分解される製造工程から水性ナノフィブリルセルロースとして出てくる。ナノフィブリルセルロース分散液の外への液体の排液は、水または水性溶液の場合、「脱水」と称されてもよい。
【0117】
水が排液されるべき液体であるとき、熱は、好ましくは、少なくとも70℃であるが100℃以下、たとえば70~95℃の範囲内に、ナノフィブリルセルロースの温度を上昇させる強度で、濾布上のナノフィブリルセルロースに加えられる。予想とは反対に、100℃を超える温度上昇は、乾燥結果を向上させない。なぜなら、膜シートが大量の水を含む限り、水は、乾燥の初期段階に圧力差によって除去されるからである。水は、沸騰させられるべきではない。なぜなら、沸騰は、膜に有害な影響を与えるからである。膜シートが十分に乾燥され、さらなる水が圧力差によってシートから抽出することができないとき、最終的に形成されたシートの小繊維網状体に結合したままである残余の水は、蒸発によって除去することができる。この場合、100℃を超える温度も使用可能である。
【0118】
濾布は、ナノフィブリルセルロースの膜シートに付着しない種類である。PET、ポリアミド、およびフッ素重合体などの合成ポリマー材料は、好ましい材料である。
【0119】
製造処理を向上させるか、または膜の特性を向上もしくは調整するための補助試薬は、ナノフィブリルセルロース分散液に含まれてもよい。そのような補助試薬は、分散液の液相に可溶であってもよく、エマルジョンを形成してもよく、固体であってもよい。補助試薬は、ナノフィブリルセルロース分散液の作製の間に既に原材料に添加されていてもよく、ナノフィブリルセルロース分散液が濾布に接触させられる前に当該ナノフィブリルセルロース分散液に添加されてもよい。補助試薬は、たとえば浸み込ませることによって最終膜製品に添加されてもよい。補助試薬の例は、治療薬、および美容用薬剤、ならびに界面活性剤、可塑剤、乳化剤などの活性化剤の、ナノフィブリルセルロース層もしくは膜の特性に影響を与える他の試薬を含む。
【0120】
セルロース小繊維が網状体内に配設された固体の遊離自立膜を形成するために、液体は除去されなければならない。一実施形態において、液体は、2つの工程を含む方法によって非ナノフィブリル化パルプの一部を含むナノフィブリルセルロースから除去される。第1工程において、液体は、大量の液体を含んだままである湿った膜シートの形成をもたらす小繊維を通さない濾布を通って、非ナノフィブリル化パルプの一部を含むナノフィブリルセルロース分散液から減圧によって排液される。第2工程において、熱は、圧力差が濾布一面に維持されている間に膜シートの反対側に加えられ、膜シートから排液が継続される。
【0121】
セルロースが天然セルロースであるナノフィブリルセルロース分散液の脱水と比べて、セルロースがアニオン荷電セルロースであるナノフィブリルセルロース分散液の脱水は、さらに時間がかかる。なぜなら、水は、非常に強くセルロースに結合するからである。アニオン荷電基を含むナノフィブリルセルロースは、たとえば、修飾の結果としてカルボキシル基を含む化学修飾セルロースであってもよい。N-オキシル媒介触媒酸化によって(たとえば、略語「TEMPO]として知られている2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンN-オキサイドによって)得られたセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電が解離したカルボン酸部分に起因するアニオン荷電ナノフィブリルセルロースの例である。アニオン性基を含むナノフィブリルセルロースから膜を作製する実施形態において、アニオン荷電ナノフィブリルセルロースの、より高い水保持性能と、より高い粘度とが主な原因で、総乾燥時間は、セルロースが修飾されていないナノフィブリルセルロースの総乾燥時間よりも長いと予想される。たとえば、第1工程における非修飾ナノフィブリルセルロースの脱水は、標的が1平方メートルの膜あたり20グラムであるとき、60秒未満かかる(真空状態が始まってから目に見える水が膜シート状に観察されなくなるまでの時間)が、同様の条件において同じ標的坪量を有する膜についてアニオン荷電ナノフィブリルセルロースの脱水は、60~120分間かかるであろう。
【0122】
これらのアニオン荷電ナノフィブリルセルロースグレードの脱水特性は、酸によってナノフィブリルセルロース分散液を前処理することによって顕著に向上させることができる。ナノフィブリルセルロースが、塩基(解離形態の酸部分)として作用するアニオン荷電基を含むとき、酸化セルロースおよびカルボキシメチル化セルロースの場合と同様に、酸によるpHの低下は、これらの基を非解離形態に変換し、小繊維の間の静電的反発は、有効ではなくなり、水-小繊維-相互作用は、分散液の脱水が促進されるように変換される(分散液の水保持性能は減少する)。アニオン荷電ナノフィブリルセルロース分散液のpHは、脱水特性を向上させるために、4以下、好ましくは3以下である。
【0123】
「TEMPO」酸化パルプから得られたアニオン荷電ナノフィブリルセルロース分散液は、膜の目標坪量が1平方メートルあたり20グラムであったとき、本来(未調整)のpHにおいて約100分間の真空下における脱水時間を必要とする。脱水前にHClを用いて分散液のpHが2に低下されたとき、同じ条件下の脱水時間は、約30秒間であった。つまり、時間は、当初の0.5%まで減少した。pHが低下すると、分散液は明らかに凝集し始める(小繊維フロックが形成される)。このことは、脱水がより早くなる理由の1つであると考えられる。なぜなら、水は、凝集体の間をより容易に流れるからである。
【0124】
pHが低下した分散液を脱水することによって、第1工程において形成された膜シートは、第2工程において最終的な乾燥体まで乾燥させることができる。乾燥の最終段階の間に膜が引き裂かれる傾向は、おそらく低いpHにおける分散液の初期の凝集構造体が原因で、乾燥を妨げることによって除去することができる。膜シートは、続いて取り外され、圧力を和らげるために任意の支持構造体(濾布など)から分離される。その後、乾燥は、継続されてもよい。乾燥の最終段階は、残余の水分を取り除くために、100℃を超える温度、たとえば105℃において2つの吸収シート(たとえば、吸収紙)の間で実施されてもよい。
【0125】
アニオン荷電ナノフィブリルセルロースの小繊維寸法が濾布の濾過能(カットオフサイズ)に関して非常に小さい場合、酸化パルプから作製されたナノフィブリルセルロースの場合、予め処理されたナノフィブリルセルロース分散液が添加される前に、補助フィルタ層は、最初にナノフィブリルセルロース分散液の形成が可能であり、上述の説明と同じ原理で、より大きな小繊維寸法を有するナノフィブリルセルロース分散液から最初に形成可能である。補助フィルタ層は、たとえば、小繊維寸法がより大きい化学的に修飾されていない(天然)ナノフィブリルセルロース分散液のために作製されてもよい。
【0126】
ナノフィブリルセルロース分散液が濾布に加えられたとき、それらは、注入によって加えられてもよく、または最小の厚さ変化量を有する分散液の単一層を初期に作製するためのいくつかの他の利用方法によって加えられてもよい。分散液は、たとえば、濾布上に噴霧されてもよい。必要であれば、分散液は、粘度を減少させ、分散液の均一な分散を向上させるために水で希釈されてもよい。
【0127】
膜が、当該膜の形成中に濾過された水が通る濾布から分離されたとき、ナノフィブリルセルロースを含む自立膜が形成される。しかしながら、濾過は、膜製品の構造的部分として残るガーゼを通って実施することもできる。この場合、脱水の間にガーゼと膜シートとが接着していることが望ましい。ガーゼは、形成された膜シートの上部であってもよい。
【0128】
自立膜に形成された膜は、後の段階で別の材料のシートに積層されてもよい。これらのナノフィブリルセルロース膜は、厚いナノフィブリルセルロース膜を形成するために共に積層されてもよい。
【0129】
一実施形態において、膜は、600~1050kg/m3の範囲内の密度を有する。一実施形態において、膜は、900~1050kg/m3の範囲内の密度を有する。一実施形態において、膜は、990~1050kg/m3の範囲内の密度を有する。パルプ繊維の添加は、密度を低下させる。
【0130】
均一な坪量分布(膜の面積の小さな坪量変化)を有する薄い膜は、本方法によって作製されてもよい。膜の厚さは通常、100μm以下、たとえば70μm以下、たとえば5~100μmの範囲内にある。自立膜が作製される場合、厚さは、10~50μmの範囲内にあってもよく、十分な強度を自立膜に与えるために、さらに好ましくは20~50μmであってもよいが、膜製品内に膜層が形成されるとき、膜層の厚さは、薄くすることができ、5~40μmの範囲内にあってもよい。
【0131】
一実施形態において、膜の坪量は、40~80g/m2の範囲内にある。一実施形態において、膜の坪量は、50~60g/m2の範囲内にある。
【0132】
一般的に、膜の比引裂強さは、0.5~4.0mNm2/gの範囲内にある。膜が非常に少ないパルプ繊維を有するか、パルプ繊維を有さないとき、約0.5mNm2/gの値が達成される。約10%のパルプ繊維を用いると、比引裂強さは通常、3~4mNm2/gの範囲内にある。一実施形態において、膜の比引裂強さは、1.0~4.0mNm2/gの範囲内にある。一実施形態において、膜の比引裂強さは、1.0~3.0mNm2/gの範囲内にある。しかしながら、そのような比引裂強さは、そのような膜を単独で医療用途に使用することを可能にするためには低すぎる。たとえば、少なくとも膜が皮膚から取り除かれるとき、膜は、皮膚上の利用の間に裂けるかもしれない。
【0133】
膜のナノフィブリルセルロースは、架橋されてもよい。膜の比引張強さは、85%の相対湿度において35Nm/gよりも高く、たとえば85%の相対湿度において50Nm/gよりも高い。
【0134】
ナノフィブリルセルロースを含む膜は、セルロース性材料を独占的または実質的に構成してもよい。溶解形態、または固体形態で分散液中に元来存在するいくつかの補助試薬は、膜に含まれてもよい。ただし、補助試薬は、膜の強度特性に干渉しない。他の固体試薬の場合、当該試薬は、好ましくは、セルロースまたはそれらの誘導体とは異なる物質であり、ナノフィブリルセルロースは、膜内の主なセルロース系固体物質である。使用され得る可溶性物質は、水溶性ポリマーを含む。また、ラテックス形態のポリマーは、構造的構成要素の1つとして使用されてもよい。
【0135】
医療用多層製品の作製
上述のように作製された膜は、医療用多層構造体を作製するとき、ナノフィブリルセルロースを含む膜または層として使用されてもよい。一実施例において、水分含有層、または水分を含まない層、または乾燥した層などの既存の層が共に積層される。一実施例において、重なった層は、脱水工程において形成される。
【0136】
一般的に、医療用多層製品は、少なくとも2つの層を含む。
一実施形態は、
ナノフィブリルセルロースを含む(第1)層と、
ガーゼの層とを含む医療用多層製品を提供する。
【0137】
また、医療用多層製品は、3つの層を含んでもよい。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含む第2層をさらに含むそのような医療用多層製品を提供する。一実施形態において、ガーゼの層は、ナノフィブリルセルロースを含む第1層と、ナノフィブリルセルロースを含む第2層との間にある。層は、ガーゼの層、およびナノフィブリルセルロースを含む2つの層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1層、ガーゼの層、ナノフィブリルセルロースを含む第2層、およびナノフィブリルセルロースを含む第3層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1層、ナノフィブリルセルロースを含む第2層、ガーゼの層、およびナノフィブリルセルロースを含む第3層などの任意の他の順番であってもよい。ナノフィブリルセルロースを含む2つの隣接層は、同じであってもよく、異なっていてもよい。たとえば、2つの隣接層は、異なる厚さ、濃度、組成、水分含有量、もしくは他の特徴を有してもよく、または2つの隣接層は、異なる試薬を含んでもよく、もしくは1つの層は試薬を含まないが、他方の層が含んでもよく、またはこれらの特徴の組み合わせであってもよい。一実施例において、1つの層は、非修飾ナノフィブリルセルロースを含み、他の層は、修飾ナノフィブリルセルロース、たとえばアニオン性修飾ナノフィブリルセルロースを含む。医療用多層製品は、シートとして一般的に提供され、所望の寸法、および/または形状であるか、または所望の寸法、および/または形状に切断してもよい。最終製品は、乾燥製品として提供され、通常、所望の水分含有量を有し、当該製品は、使用前に加湿されてもよい。一実施形態において、本明細書に記載された多層製品は、上述された層の間に、任意の他の層、接着剤などを含まないので、上述された層はお互いに隣接するか、またはお互いに直接に接触する。すなわち、多層製品は、上述の層からなる。
【0138】
一実施形態は、医療用多層製品を作製するための方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含む層を提供することと、
ガーゼの層を提供することと、
医療用多層製品を得るために、ナノフィブリルセルロースを含む層とガーゼの層とを積層することとを含む方法を提供する。
ナノフィブリルセルロースを含む層は、たとえば、ナノフィブリルセルロースを含む膜層と称されてもよく、ナノフィブリルセルロースを含む膜と称されてもよい。この層は、ナノフィブリルセルロースを含む別のさらなる別の層が製品に加えられる場合、ナノフィブリルセルロースを含む第1層と称されてもよい。
【0139】
本方法は、ナノフィブリルセルロースを含む膜の作製を含んでもよい。
一実施形態は、医療用多層製品を作製するための方法であって、
ナノフィブリルセルロースを提供することと、
任意に非ナノフィブリル化パルプを提供することと、
たとえば全セルロースの0.1~60%(w/w)の範囲内の量で非ナノフィブリル化パルプを任意に含むナノフィブリルセルロースの分散液を形成することと、
ナノフィブリルセルロースを含む層を形成するために支持体上で分散液を乾燥させることと、
ガーゼの層を提供することと、
医療用多層製品を得るためにナノフィブリルセルロースを含む層とガーゼの層とを積層することとを含む。ガーゼの層は、分散液を乾燥させる前に提供されてもよく、乾燥後に提供されてもよい。
【0140】
一実施形態において、本方法は、ナノフィブリルセルロースを含む第2層を提供することと、医療用多層製品を得るために、ナノフィブリルセルロースを含む第1層とガーゼの層とナノフィブリルセルロースを含む第2層とを積層することとをさらに含む。一実施形態において、ガーゼの層は、ナノフィブリルセルロースを含む第1層と、ナノフィブリルセルロースを含む第2層との間にある。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースを含む第1層および第2層は、お互いに隣接する。本方法は、第1層が形成された同様の方法で、ナノフィブリルセルロースを含む第2層を形成するか、または追加することを含んでもよい。第1層および第2層は、同一でもよく、または異なってもよい。
【0141】
積層は、多層で物質を製造することを表す。積層体は、熱、圧力、溶接、接着、またはたとえば水素結合などの物理化学的接着によって永続的に集合した物体である。ナノフィブリルセルロースを含む層と、ガーゼの層とは、特に、天然繊維を含むガーゼが使用される際に、水素結合によってお互いに付着されてもよい。複合製品が得られる。一実施形態において、積層体は、接着剤を含まないか、または接着剤は、積層体において使用されなかった。
【0142】
一実施形態において、積層は、階層化、または層状化を含む。ナノフィブリルセルロースを含む層は、ナノフィブリルセルロース、および非ナノフィブリル化パルプ、1以上の治療用または美容用薬剤、賦形剤、発色剤、または他の成分などの任意のさらなる成分を含む分散液を提供し、分散液を好適な脱水方法を用いて、所望の水分量または乾燥物質含有量まで脱水することによって作製されてもよい。脱水は、ナノフィブリルセルロースを含む層をガーゼに付着させるためにガーゼを通って実施されてもよい。本明細書に記載された任意の脱水方法が使用されてもよい。分散液は、ヒドロゲルなどのゲルとして提供されてもよい。
【0143】
ナノフィブリルセルロースを含む層、または医療用多層製品は、0~20%(w/w)、たとえば1~20%(w/w)、5~20%(w/w)、0~15%(w/w)、たとえば1~15%(w/w)、5~15%(w/w)、または0~10%(w/w)、たとえば1~10%(w/w)、または5~7%(w/w)のの水分含有量を有してもよい。より高い水分含有量は、ナノフィブリルセルロースを含む層を割れ易くするであろう。そのような水分含有量は、任意の好適な脱水方法によって得られてもよく、そのような水分含有量を有する層は、任意の好適な方法、または装置によって、たとえば本明細書に記載されたものによって作製されてもよい。一実施例において、ナノフィブリルセルロースを含む層が、押出機を用いることによるなどの、押出によって、作製され、および/または適用されるなど提供される。層は、ガーゼの層に押し出されてもよく、またはナノフィブリルセルロースの押出層上に押し出され、前記層上に積層、すなわち付着されてもよい。押出機は、薄層押出機、またはシート押出機であってもよい。たとえば、T型鋳型、またはコートハンガー鋳型などの好適な鋳型が使用される。共押出は、たとえば、ナノフィブリルセルロースを含む層の上面、またはガーゼの上面におけるナノフィブリルセルロースを含む1以上の層、たとえば2層または3層に適用するために使用されてもよい。
【0144】
一実施形態は、医療用多層製品を作製するための方法であって、
濾布などのフィルタを提供することと、
ゲルなどのナノフィブリルセルロースを含む分散液を提供することと、
ガーゼを提供することと、
分散液をフィルタに適用することと、
ガーゼを分散液に適用することと、
医療用多層製品を得るために、フィルタを通して構造体を脱水することとを含む方法を提供する。
【0145】
一実施形態は、医療用多層製品を作製するための方法であって、
濾布などのフィルタを提供することと、
ガーゼを提供することと、
ゲルなどの、ナノフィブリルセルロースを含む分散液を提供することと、
ガーゼをフィルタに適用することと、
分散液をガーゼに適用することと、
医療用多層製品を得るために、フィルタを通って構造体を脱水することとを含む方法を提供する。
【0146】
ナノフィブリルセルロースを含む分散液のさらなる層が形成されてもよい。さらなる層は、第1層と同じ組成を有してもよく、異なっていてもよい。たとえば、1つの層が、治療用薬剤、もしくは美容用薬剤を含んでもよく、別の層は、含まなくてもよく、または異なる治療用薬剤、もしくは美容用薬剤を含んでもよい。
【0147】
一実施形態は、医療用多層製品を作製するための方法であって、
濾布などのフィルタを提供することと、
ガーゼを提供することと、
ゲルなどの、ナノフィブリルセルロースを含む第1分散液を提供することと、
ナノフィブリルセルロースを含む第1分散液と同じであってもよく、異なってもよい、ゲルなどの、ナノフィブリルセルロースを含む第2分散液を提供することと、
第1分散液をフィルタ上に適用することと、
ガーゼを第1分散液に適用することと、
第2分散液をガーゼに適用することと、
医療用多層製品を得るために、フィルタを通って構造体を脱水することとを含む方法を提供する。得られた中間製品は、
図1に示され、ナノフィブリルセルロースの第1層および第2層が、ガーゼ領域の外部の製品の片側にどのように重なるのか分かる。重複部分は、最終製品を得るためにさらに切断されてもよい。ガーゼは、通気性のある不織粘性ポリエステルガーゼであった。
【0148】
ナノフィブリルセルロースを含む2つの層の間にガーゼがあるとき、2つの層中のナノフィブリルセルロースは、ガーゼを通してお互いに接触してもよく、それによって互いに強く接着する。ガーゼは、ナノフィブリルセルロースを含む層で完全に覆われているので、ガーゼは、使用の間に、皮膚に接着しないか、または皮膚の創傷に接着しない。製品は、皮膚に対していずれか一方の面で皮膚に適用されてもよい。しかしながら、製品の片面は、ナノフィブリルセルロースの厚い層を含んでもよく、このことは、皮膚に対して適用されることを意味する。この面は、たとえば、文章、図、色などで当該面または他の面に印を付すことによって製品に示されてもよい。
【0149】
脱水は、フィルタを通って真空を適用することによって実施されてもよく、または1もしくは2つの(対向する)面から圧力を層に加えることによって、または熱を加えることによって、またはそれらの組み合わせによって、実施されてもよい。本明細書に記載されたナノフィブリルセルロースを含む膜の脱水方法は、層状化工程に適用されてもよい。濾布は、本明細書に記載されたものであってもよい。
【0150】
本明細書において使用されるガーゼは、織物、布、または繊維を含む同様の材料などの任意の好適なガーゼを表す。ガーゼは、織物、もしくは不織布であってもよく、滅菌、もしくは非滅菌であってもよく、素材のまま、もしくは含浸されてもよく、もしくは有窓であってもよく(有孔、またはスリットを有してもよく)、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0151】
一実施形態において、ガーゼは、織物である。ある定義では、織物ガーゼは、薄く、目の粗い半透明の織物である。技術用語において、織物ガーゼは、横糸が対で配設され、各縦糸の前後で交差して横糸を堅く適所に保持する織物構造体である。ガーゼは、天然繊維、半合成繊維、もしくはビスコース、レーヨン、ポリエステルなどの合成繊維、またはたとえばビスコース-ポリエステル混合物などのそれらの組み合わせを含んでもよい。医療用包帯として使用されるとき、ガーゼは、綿で作製されてもよい。ガーゼは、貼付剤のパッドとして機能してもよい。一実施形態において、ガーゼは、たとえば、不織布などのビスコース-ポリエステルガーゼである。そのような不織ガーゼは、非常に多孔質で、透過性であり、中程度に弾性であり、一方向への不可逆的伸長をもたらす。一実施形態において、ガーゼは不織布である。織物ガーゼに比べて、この種類のガーゼは、糸くずが少なく、取り除かれるときに、創傷に繊維をほとんど残さないという利点を有する。不織ガーゼ包帯の例は、ポリエステル、ビスコース、またはこれらの繊維の混合から作製され、織物パッドよりも強く、嵩高で、柔らかい。
【0152】
本実施形態において使用されるガーゼは、たとえば、医療用製品が滲出液を吸収し、血液、血漿、および創傷から滲出し、それらを一か所に含む他の液体を吸収することを可能にするために、吸収材を含んでもよい。ガーゼは、出血を止め、創傷を閉じるのに役立つ。また、ガーゼは、治療用薬剤、または他の薬剤を吸収してもよい。
【0153】
一実施形態において、ガーゼは、綿、セルロース、リネン、シルクなどの、天然繊維または天然繊維系材料を含む。天然繊維は、ガーゼがナノフィブリルセルロースを含む層に水素結合を介して付着することを促進する遊離の水酸基を提供する。また、半合成繊維は、ビスコースなどの遊離のヒドロキシル基を提供してもよい。
【0154】
ガーゼは、流体を通過させるために高度に浸透性であるべきである。ガーゼは、フィルタではなく、ほとんどの高分子の流過を制限しない。ガーゼは、ナノフィブリルセルロースを含む分散液を脱水するためのフィルタとして使用されてもよい。ガーゼは、多孔質であってもよく、および/または有窓で、孔またはスリットなどを有してもよい。紙または厚紙は、ガーゼではない。より具体的には、紙は、適切ではない。なぜなら、紙は、多層製品に適している、そのような坪量または厚さで十分に高い引張強さをもたらさないからである。厚紙、または他の同様のセルロース性製品も同様である。一実施形態において、ガーゼは、非セルロース性である。
【0155】
一実施例において、ガーゼは、弾力がある。多くの天然の、半合成または合成繊維は、弾力がある。しかしながら、一実施例において、ガーゼは、たとえば、綿を含むとき、非弾性特性をもたらす剛体である。ガーゼは、たとえば多層製品の引張強さを向上させるために、補強特性をもたらしてもよい。
【0156】
引裂強さ(引裂耐性)は、どのように材料が引裂作用に耐えることができるかの基準である。より具体的には、引裂強さは、材料が、緊張下において任意の切れ目の増大にどのように耐えるかを測定する。引裂耐性は、ASTM D 412法によって測定されてもよい(同法は、引張強さ、引張弾性率、および引張伸びに使用されてもよい)。比引裂強さを示すことができ、比引張強さ=引裂強さ/坪量であり、通常mNm2/gで測定される。
【0157】
ガーゼは、1700~1900mNなどの1500~2000mNの範囲内の引裂強さを有してもよい。ガーゼは、50~60mN2/gの範囲内の比引裂強さを有してもよい。比引裂強さは、ISO1974で測定されてもよい。ガーゼの引張強さは、たとえば、1~1.2kN/mなどの0.8~1.5kN/mの範囲内であってもよい。引張強さは、ISO1924-3によって測定されてもよい。ガーゼは、たとえば、20~40g/m2、または20~30g/m2の範囲内の、20~50g/m2の範囲内の坪量を有してもよい。坪量は、ISO536によって測定されてもよい。ガーゼは、たとえば、290~330g/cm3の範囲内などの270~350g/cm3の範囲内の密度を有してもよい。容積は、cm3/gとして示され、ISO534によって測定されてもよい。
【0158】
乾燥ガーゼなどのガーゼの層は、100~1000μm、たとえば100~200μm、150~200μm、200~300μm、300~400μm、400~500μm、500~600μm、600~700μm、700~800μm、800~900μm、または900~1000μmの範囲内の厚さを有してもよい。しかしながら、たとえば、2000または3000μmまでの厚いガーゼも使用されてもよい。一実施形態において、ガーゼの厚さは、100~200μm、たとえば100~120μm、120~140μm、または140~160μm、または160~190μmの範囲内である。しかしながら、ガーゼがナノフィブリルセルロースを含む層と結合したとき、最終乾燥多層製品の総厚は、乾燥ガーゼのみの厚さよりも薄くすることができる。
【0159】
医療用多層製品は、100~1000μmの範囲内の厚さを有してもよい。たとえば、約1500μm、2000μm、2500μm、または3000μmの厚さを有するさらに厚い製品が作製されてもよい。一実施形態において、医療用多層製品は、たとえば、100~500μm、たとえば100~400μm、100~300μm、100~200μm、または120~180μm、たとえば120~150μm、120~140μm、または130~140μmの範囲内の厚さを有する。一般的には、最終製品のガーゼ層の厚さは、100~1000μm、たとえば100~200μm、150~200μm、200~300μm、300~400μm、400~500μm、500~600μm、600~700μm、700~800μm、800~900μm、または900~1000μmの範囲内であってもよい。一実施例において、製品中のガーゼ層の厚さは、たとえば約150μmなど、140~160μmなどの100~160μmの範囲内にある。一実施例において、製品中のガーゼ層の厚さは、たとえば約105μmなどの100~120μmの範囲内にある。厚さは、ISO534によってバルク厚さとして測定されてもよい。
【0160】
多層製品において、ナノフィブリルセルロースを含む膜は、吸収力、剛性などの製品の所望の特性に依存して様々な厚さを有してもよい。1以上のそのような膜が存在する場合、膜は、異なる厚さを有してもよい。たとえば、使用中に皮膚と接触する膜は、ガーゼの他の側面の膜よりも大きな厚さを有してもよい。一実施形態において、膜は、5~60μmの範囲内の厚さを有する。皮膚に接触する膜の厚さは、20~60μm、または20~50μm、たとえば30~40μmの範囲内にあってもよい。通常、膜が60μmを超える厚さを有する場合、剛性が増加し、膜は、本明細書に記載された全ての使用に適切ではないであろう。しかしながら、いくつかの場合では、たとえば、100μm以下、または150もしくは200μm以下、たとえば40~80μm、50~100μm、20~200μm、50~150μm、50~200μm、または100~200μmの範囲内の厚い膜を使用することができる。製品の他方の面における膜の厚さは、5~10μmの範囲内にあってもよい。この膜は、より薄くてもよい。なぜなら、その主な機能は、ガーゼが暴露されないように製品を密閉することであるからである。薄い膜は、しかしながら、製品の弾力性に顕著な影響を有さない。皮膚に対する厚い膜は、吸収力、浸透性、皮膚との相互作用などのさらなる機能特性を有する。たとえばナノフィブリル化層などの層の厚さは、たとえば染色によって、および/または顕微鏡によって最終製品から決定されてもよい。
【0161】
一実施形態において、多層製品は、20~60μmの範囲内の厚さを有するナノフィブリルセルロースを含む第1層と、140~160μmの範囲内の厚さを有するガーゼの層と、5~10μmの範囲内の厚さを有するナノフィブリルセルロースを含む第2層とを有する。
【0162】
一実施形態において、多層製品は、20~60μmの範囲内の厚さを有するナノフィブリルセルロースを含む第1層と、100~120μmの範囲内の厚さを有するガーゼの層と、5~10μmの範囲内の厚さを有するナノフィブリルセルロースを含む第2層とを有する。
【0163】
補強ガーゼを用いると、医療用構造体の比引裂強さは、顕著に高い。一実施形態において、医療用多層製品は、18~100mNm2/gの範囲内の比引裂強さを有する。一実施形態において、医療用多層製品は、20~70mNm2/gの範囲内の比引裂強さを有する。比引張強さは、ある方向と垂直方向とで異なってもよく、ガーゼの特性によって影響を受けてもよい。たとえば、ガーゼは、垂直方向と、横方向とに異なる特性を有してもよく、垂直方向は、縦方向と称されてもよい。
【0164】
一実施形態において、医療用多層製品は、50~100g/m2の範囲内の坪量を有する。一実施形態において、医療用多層製品は、60~80g/m2、たとえば64~75g/m2の範囲内の坪量を有する。
【0165】
一実施形態において、医療用多層製品は、300~800kg/m3、たとえば350~700kg/m3、たとえば450~650kg/m3の範囲内の密度を有する。密度は、ISO534によってバルク密度として測定されてもよい。
【0166】
医療用多層製品は、いくつかの用途において使用されてもよい。ある特定の分野は、医療用途であり、材料は、皮膚などの生きている組織に適用される。構造体は、貼付剤、包帯、絆創膏、フィルタなどの医療製品において使用されてもよい。医療用製品は、薬剤を含む治療用貼付剤などの治療用製品であってもよい。一般的に、ナノフィブリルセルロースを含む層は、使用中に皮膚に接触するであろう。ナノフィブリルセルロースの層は、皮膚と直接接触するとき、有利な効果をもたらす。たとえば、皮膚の創傷または他の損傷の治癒を促進するか、または多層製品から皮膚への物質の送達を促進する。
【0167】
本明細書において使用される用語「創傷」は、開放性創傷、または閉鎖性創傷を含む、皮膚などの組織の任意の、損傷、外傷、疾病、障害などを表し、創傷の治癒が望まれ、創傷の治癒は本明細書に記載された製品によって促進することができる。創傷は、清潔であってもよく、汚染、感染、またはコロニー化していてもよく、特に、後者の場合、抗菌薬などの治療薬が投与されてもよい。開放性創傷の例は、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、および穿通創を含む。閉鎖性創傷は、血腫、挫滅傷、縫合傷、移植片、および任意の皮膚の状態、疾病、または障害を含む。皮膚の状態、疾病、または障害の例は、ざ瘡、感染症、小水泡性疾患、口唇ヘルペス、皮膚カンジダ症、蜂巣炎、皮膚炎および湿疹、疱疹、蕁麻疹(hives)、狼瘡、丘疹鱗屑性疾患、蕁麻疹(urticaria)、および紅斑症、乾癬、酒さ(rosacea)、放射線関連障害、色素沈着、ムチン沈着症、角化症、潰瘍、委縮症、および類壊死、血管炎、白斑症、疣贅、好中球疾患および好酸球疾患、表皮もしくは真皮のメラノーマおよび腫瘍、または表皮および真皮の他の疾病もしくは障害などの、先天性の腫瘍および癌を含む。
【0168】
治療薬を含む医療用多層製品であって、ガーゼおよび/またはナノフィブリルセルロースを含む1以上の層が薬物または薬剤などの1以上の治療薬を含む医療用多層製品が提供されてもよい。また、医薬品との用語は、治療薬との用語の代わりに互換的に使用されてもよい。そのような薬剤は通常、有効量で存在する、活性剤または有効剤である。そのような薬剤は、たとえば、所定の期間にわたって所望の薬剤量がもたらされ、皮膚または他の組織などの、標的に所望の影響を与えるように構成された量などの所定量で提供されてもよい。層内の治療薬の含有量は、たとえば0.1~5%の範囲内にあってもよい。特に、治療薬がナノフィブリルセルロースを含む層内に含まれる場合、薬剤の、持続性、または長期の放出がもたらされる。そのような場合、ナノフィブリルセルロースを含む層は、薬剤の浸透を可能にするためにある程度の水分を含んでもよい。ナノフィブリルセルロースおよび治療薬を含む層の水分含有量は、5~7%の範囲内などの0~10%の範囲内であってもよい。治療薬は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくは乳濁液、または他の好適な形態で存在してもよい。
【0169】
本明細書に記載された医療用多層製品を用いることによって投与され得る治療薬の例は、抗菌薬、リドカインなどの鎮痛剤;ニコチン;フェンタニルまたはブプレノルフィンなどのオピオイド;エストロゲン、避妊薬、もしくはテストステロンなどのホルモン;ニトログリセリン;スコポラミン;クロニジン;セレギリンなどの抗うつ剤;メチルフェニデートなどのADHD薬;B12もしくはシアノコバラミンなどのビタミン;5-ヒドロキシトリプトファン;リバスチグミンなどのアルツハイマー薬;ざ瘡薬;乾癬治療薬;ヒドロコルチゾンなどのグルココルチコイド;または皮膚の疾患もしくは障害を治療するための任意の他の薬剤を含む。治療薬は、たとえば、6、12、24、または48時間までの数時間にわたって、貼付剤からの治療薬の、長期、持続性、または延長した放出をもたらすために、たとえば、健康な皮膚、もしくは損傷した皮膚に使用される医療用貼付剤中に使用されてもよい。
【0170】
一実施形態は、抗菌薬を含む医療用多層製品を提供する。そのような製品は、創傷の治療に特に適しており、創傷治療特性は、創傷内の有害な微生物に起因する感染を防ぐ抗菌特性と組み合わされる。好適な抗菌薬の例は、特に、バシトラシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ポリミキシン、ムピロシン、テトラサイクリン、メクロサイクリン、スルファセタミド(ナトリウム)、過酸化ベンゾイルなどの局所的抗菌薬、およびアゼライン酸、ならびにそれらの組み合わせを含む。たとえば、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、およびアモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬;セファクロル、セファドロキシル、およびセファレキシンなどのセファロスポリン系抗菌薬;テトラサイクリン、ドキシサイクリン、およびリメサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬;ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬;エリスロマイシン、アジスロマイシン、およびクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬;クリンダマイシン;スルホンアミドおよびトリメトプリム;メトロニダゾールおよびチニダゾール;シプロフロキサン、レボフロキサン、およびノルフロキサンなどのキノロン系抗菌薬などの全身抗菌薬などの別の種類の抗菌薬も提供される。
【0171】
抗菌薬は、ざ瘡を治療するために使用されてもよく、たとえば、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどである。過酸化ベンゾイル、サリチル酸、たとえばトレチノイン、アダパレン、もしくはタザロテンなどの局所的レチノイド薬、アゼライン酸、またはスピロラクトンなどのアンドロゲン阻害剤などの他の薬剤が使用されてもよい。乾癬は、コルチコステロイド、保湿用クリーム、カルシポトリオール、コールタール、ビタミンD、レチノイド、タザロテン、アントラリン、サリチル酸、メトトレキサート、またはシクロスポリンなどのステロイド薬によって治療されてもよい。虫刺され、またはツタウルシ暴露は、ヒドロコルチゾン、エミューオイル、アーモンドオイル、アンモニア、ビサボロール、パパイン、ジフェニルヒドラミン、ツリフネソウ抽出物、またはカラミンなどの薬剤で治療されてもよい。これらの治療薬、または他の治療薬のいくつかは、美容用薬剤として分類されてもよい。
【0172】
一実施形態は、本明細書に記載された医療用多層製品を含む、包帯、貼付剤、またはフィルタなどの医療用製品を提供する。
【0173】
一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を治療、および/または覆うために使用される医療用多層製品を提供する。一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を、治療するための、および/または覆うための、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤内のそのような医療用製品を提供する。
【0174】
一実施形態は、皮膚移植片などの移植片で覆われた皮膚の創傷を、治療および/または覆うために使用される医療用製品を提供する。一実施形態は、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤中で使用される、皮膚移植片などの移植片で覆われた皮膚の創傷を治療および/または覆うための医療用製品を提供する。
【0175】
包帯は、治癒を促進するため、および/またはさらなる障害を防ぐために創傷に適用された、無菌パッド、または湿布である。包帯は、創傷に直接接触するように設計され、ほとんどの場合、包帯をその場に保持するために使用される絆創膏とは区別される。いくつかの組織体は、それらを同一の物として分類しており(たとえば、イギリス薬局方)、上述の用語は、ある人々によっては互換的に使用される。包帯は、応急処置、および看護において頻繁に使用される。
【0176】
一実施形態は、治療薬を投与するために使用される医療用多層製品を提供する。そのような場合、医療用多層製品は、それ自体で、またはたとえば貼付剤中に提供されてもよい。1以上の治療薬は、製品中に、たとえば含浸されるなど含まれてもよく、患者への投与は、経皮、または経皮的であってもよい。
【0177】
一実施形態は、医療用多層製品を含む、包帯、マスク、または貼付剤などの美容用製品を提供する。そのような製品は、美容用多層製品と称されてもよい。製品は、様々な形状で提供されてもよく、たとえば、マスクは、顔、たとえば眼の下、または顎、鼻、もしくは額に合うように設計されてもよい。一実施形態は、美容用製品としての使用のための医療用多層製品を提供する。多層製品は、使用者の皮膚に対してなど、使用者に対して1以上の美容用薬剤を放出するために使用されてもよい。そのような美容用製品は、1以上の美容用薬剤を含んでもよい。美容用薬剤は、たとえば、ナノフィブリルセルロースを含む層中になど製品中に、たとえば含浸するなど含まれてもよく、そこから美容用薬剤は、放出され、送達される。層内の美容用薬剤の含有量は、たとえば0.1~5%の範囲内にあってもよい。美容用薬剤は、治療薬についての上述の説明と同様に、製品中に存在または提供されてもよく、その反対でもよい。美容用途は、本明細書に記載されたように医薬用途、特に治療薬の投与に類似していてもよい。美容用薬剤は、本明細書に言及されたように、皮膚疾患、または皮膚障害を美容的に処理するために使用されてもよい。そのような美容用多層製品は、たとえば、面皰、ざ瘡状皮膚、褐色斑点、皺、脂性肌、乾燥肌、皮膚老化、くも状静脈、紅斑、くまなどを治療するために使用されてもよい。美容用貼付剤の例は、毛穴クレンザー、黒色面皰除去剤、ストレッチストライプ(stretching stripes)、短期貼付剤様マスク、短期治療貼付剤、および一晩治療貼付剤などの皮膚クレンザーを含む。
【0178】
美容用薬剤の例は、ビタミンA、たとえば、レチンアルデヒド(レチナール)、レチノイン酸、パルミチン酸レチニル、およびレチノイン酸レチニル、アスコルビン酸、グリコール酸および乳酸などのアルファ-ヒドロキシ酸などのレチノイドなどの、ビタミンの形態とその前駆体;グリコール;バイオテクノロジー製品;角質溶解薬;アミノ酸;抗菌薬;保湿用クリーム;顔料;抗酸化剤;植物抽出物;クレンジング剤またはメーキャップ除去剤;カフェイン、カルニチン、イチョウ、およびトチノキなどの抗セルライト剤;コンディショナー;アロマセラピー薬および香水などの芳香剤;尿素、ヒアルロン酸、乳酸、およびグリセリンなどの湿潤剤;ラノリン、トリグリセリド、および脂肪酸エステルなどの軟化剤;アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン、トコフェロール(ビタミンE)、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビリルビン、リポ酸、尿酸、酵素擬態薬、イデベノン、ポリフェノール、セレニウム、フェニルブチルニトロン(PBN)などのスピントラップ剤、タンパク質メチオニン基、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、セレニウムペロキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼなどのFR捕捉剤、一重項酸素捕捉剤、超酸化物捕捉剤、または過酸化水素捕捉剤、またはそれらの組み合わせを含む。美容用薬剤は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくはエマルジョン、または別の好適な形態で存在してもよい。
【0179】
一実施形態は、皮膚を美容的に処置する方法、本明細書に記載された医療用多層製品または医療用製品を皮膚に適用することを含む方法を提供する。
【0180】
治療薬または美容用薬剤などの、有効剤または活性剤を含む製品は、ナノフィブリルセルロースの1以上の層を含んでもよい。薬剤は、1つの層のみに含まれてもよく、2以上の層に含まれてもよい。2以上の層は、各層に異なる薬剤を含んでもよい。2以上の異なる薬剤は、全て治療薬であってもよく、全て美容用薬剤であってもよく、治療薬および美容用薬剤の両者を含んでもよく、たとえば、第1層中の第1治療薬と、第2層中の第2治療薬とを含んでもよく、または第1層中の治療薬と、第2層中の美容用薬剤とを含んでもよい。さらに、そのような薬剤を含まない第1層が提供されてもよく、当該第1層は皮膚に対して適用されるべきであり、第1層に隣接した、またはガーゼの他方側の第2層は、薬剤を含んでもよい。これに代えて、第1層は、薬剤を含んでもよく、第1層に隣接した、またはガーゼの他方側の第2層は、薬剤を含まなくてもよい。そのような配置によって、たとえば送達速度、または薬剤の順番を制御することができる。
【0181】
本明細書において使用される「貼付剤」は、皮膚に適用され得る、医療用または美容用製品を表す。貼付剤の例は、経皮貼付剤および経皮吸収貼付剤を含む。経皮貼付剤または皮膚貼付剤は、薬剤を皮膚に送達するために皮膚に置かれる医薬用接着貼付剤である。経皮吸収貼付剤は、皮膚を通って特定量の薬剤を血流に送達するために、皮膚に適用される医療用接着貼付剤である。一例では、これは、体の傷ついた領域の治癒を促進する。貼付剤は、保存の間に貼付剤を保護し、使用前に除去される剥離ライナー、および/または貼付剤を皮膚に付着させる接着剤、および/または外部環境から貼付剤を保護するための裏板を含んでもよい。剥離ライナーの例は、グラシン紙、高密度クラフトスーパーカレンダー紙、クレーコート紙、シリコンコート紙、ポリオレフィンコート紙などの紙系ライナー;ポリスチレン、ポリエステル、ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、およびポリビニルクロライドなどのプラスチック系ライナー;ならびにいくつかのフィルムの組み合わせに基づく複合材料ライナーを含む。接着層は、たとえば圧力感受性接着剤(PSA)を含んでもよい。
【0182】
一実施形態は、医療用多層製品、または別の包装に包まれる本明細書に記載の医療用製品を提供する。別の包装は、一連の包装として提供されてもよい。通常、そのような包装された製品は、滅菌されて提供される。
図2は、滅菌包装に包まれた医療用多層製品の一例を示す。
【0183】
一実施形態は、本明細書に記載された、たとえば包装された多層製品など、医療用多層製品、医療用製品、または美容用製品を含むキットを提供し、当該キットは、1以上の包装された多層製品を含んでもよい。キットは、使用前に製品を前処理するために、生理食塩水溶液などを含む容器などの、他の材料または付属品を含んでもよい。
【0184】
一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷、または外傷を治療するための方法であって、本明細書に記載された、医療用多層製品、または医療用製品を創傷、損傷、または外傷に適用することを含む方法を提供する。ある具体的な実施形態は、皮膚移植片、たとえばメッシュグラフトまたは全層皮膚移植片などの移植片で覆われた皮膚の創傷を治療するための方法であって、本明細書に記載された、医療用多層製品または医療用製品を上述の移植片に適用することを含む方法を提供する。
【0185】
移植は、外科的処置を表し、組織自身の血液供給を体にもたらすことなく、体のある部位から別の部位に組織を移動させるか、または別の人間から組織を移動させる。これに代えて、組織が置かれた後、新しい血液供給が増える。自家移植片および同種移植片は、通常外来物とはみなされないので、拒絶反応は誘発されない。同種移植片および異種移植片は、臓器受容者によって外来物と認識され、拒絶される。
【0186】
皮膚移植片は、多くの場合、創傷、火傷、感染、または外科的処置による皮膚の損失を治療するために使用される。損傷した皮膚の場合、その皮膚は取り除かれ、新たな皮膚がその場所に移植される。皮膚移植は、処置期間および必要な入院期間を短くし、機能および外見を向上することができる。皮膚移植片の2つの種類は、分層皮膚移植片(表皮+真皮の一部)と、全層皮膚移植片(表皮+真皮の全層)とである。
【0187】
メッシュグラフトは、排液および膨張のために開口部を設けられた、皮膚の、全層、または分層のシートである。メッシュグラフトは、体の多くの場所において有用である。なぜなら、メッシュグラフトは、平らでない表面に適合するからである。メッシュグラフトは、過度に動く場所に置くことができる。なぜなら、メッシュグラフトは、根底にある創傷床を縫合することができるからである。また、造窓術は、移植片の真下に集まり得る流体の排出口を提供し、排出口は、緊張と感染の危険との低下、ならびに移植片の血管新生の向上を促進する。
【0188】
臨床試験において、多層製品は、移植領域に付着し、保護層として機能することが見出された。移植片が治癒すると、製品は、移植片とともに痂皮様構造を形成する。ナノフィブリルセルロースを含む多層製品の特性は、治癒を促進し、形成された乾燥した痂皮を有する膜は、通常の創傷治癒過程における通常の痂皮の挙動と同様の方法で失われる。
【0189】
皮膚に医療用多層製品を適用する前に、当該製品は、一般的に水溶液を用いて前処理、すなわち加湿されるか、または湿らせられる。加湿、または浸潤は、たとえば、水、または通常の生理食塩水溶液を用いることによって実施されてもよく、当該生理食塩水溶液は、通常0.90% w/wのNaCl溶液であり、約308mOsm/lを有する。異なる濃度を有する生理食塩水溶液などの他の種類の水溶液が使用されてもよい。材料の加湿、または浸潤は、皮膚との接触、および材料のシートの成形性を向上させる。
【0190】
実施例
実施例1
膜は、木質セルロースから作製された非修飾ナノフィブリルセルロースから創傷治癒用途のために作製された。ナノフィブリルセルロースは、完成紙料を形成するために0.3%の濃度まで希釈され、極細濾布を有する修飾ビュッヒ漏斗で排液された。膜は、高温で押圧乾燥することによって形成された。得られた膜の基本重量は、約55g/m2であった。
【0191】
試験において、異なる量の叩解された化学パルプが完成紙料に加えられた。化学パルプ繊維が完成紙料に導入されたとき、排液時間の顕著な相違が認められた(表1)。わずか1%の占有率の化学パルプは、50%を超えて排液速度を速めることができた。さらなる排液は、試験された範囲内においてより高い化学パルプ添加レベルにおいて観察されなかった。排液時間は、4~5個の膜の平均として測定された。
【表1】
【0192】
化学パルプ繊維の効果は、膜厚に見出すことができる(表2)。また、引裂強さの顕著な増加が観察された。
【表2】
【0193】
実施例2
様々な膜は、それらの特性を試験された。非修飾ナノフィブリルセルロースは、木質セルロースから作製された。表3は、試験の結果を示し、100%のナノフィブリルセルロース、95%のナノフィブリルセルロースおよび5%の針葉樹パルプ、45%のナノフィブリルセルロースおよび55%の針葉樹パルプを含む膜(トライアルポイント26~33)が試験された。また、表1は、ガーゼを挟んだ様々な100%ナノフィブリル化膜(M1~M10、およびN1~N10)の特性を示す。ガーゼ部分は、常に同じであるが、ナノフィブリルセルロースの量が異なる。ガーゼは、商品名Mesoftで販売されている不織ビスコース-ポリエステルガーゼであった。
【表3】
【0194】
実施例3
非修飾ナノフィブリルセルロースを含む第1層、中間の不織ビスコース-ポリエステルガーゼ、および非修飾ナノフィブリルセルロースを含む上面の第2層を有する3層の構造体が作製された。非修飾ナノフィブリルセルロースは、木質セルロースから作製された。ガーゼは、商品名Mesoftで販売されている不織ビスコース-ポリエステルガーゼであった。
【0195】
試料は、空調管理され、約6%の水分含有量を有した。比引裂強さ、破断伸び、比引張強さ、引裂強さ、および引張強さは、様々な試料について測定された。比引裂強さは、ISO1974によって測定された。破断伸びは、ISO1924-3によって引張破断伸びとして測定されてもよい。比引張強さおよび引張強さは、ISO1924-3を用いて測定された。ガーゼは、シートの縦方向に繊維の主方向を有し、方向は目視で検出することができ、本明細書において「縦方向」(md)と称される。横方向のガーゼ単独の強い伸びが原因で、横方向にガーゼの引裂特性を測定するとき問題があった。
【0196】
試料V1~V4は、74.1g/m2の坪量を有した。試料W2、W3、X1、およびX3は、64.4g/m2の坪量を有した。ガーゼは、32.5g/m2の坪量と、約150μmの本来の厚さを有した。坪量は、ISO536によって測定された。ガーゼは、測定前に、ガーゼシートの折り畳みを除くために、湿潤させ、乾燥させることによって前処理され、約105μmの減少した平均厚さを導くであろう。ガーゼの密度は、307g
/cm3であった。
【0197】
3層構造の特性は、ガーゼ単独と比較された(表4)。md=縦方向、cd=横(横断)方向。
【表4】
【0198】
実施例4
実施例3に記載された製品に対応する多層製品は、皮膚の火傷を有する10人の患者について、皮膚移植片ドナー部位治療における創傷治癒の臨床試験において試験された。多層製品は、生理食塩水溶液で加湿された。皮膚移植片ドナー部位は、止血後に多層製品で覆われた。多層製品は、徐々に脱水され、ドナー部位に付着した。多層製品は、市販のラクトカプロマー膜と比較され、ある場合、多層製品は、市販の製品よりも良好であることが見出された。たとえば、創傷から材料を剥離することによって測定された治癒速度は、多層製品で非常に良好であり、健常の上皮化皮膚は、剥離された膜の下に現れた。多層製品は、創傷底面に付着し、移植部位が再生するまで留まった。患者は、多層製品に対して、アレルギー反応、または炎症反応を示さなかった。
【0199】
本発明は、次の実施形態が可能である。
(1)0~10%(w/w)の範囲内の水分含有量を有するナノフィブリルセルロースを含む層と、
ガーゼの層とを含む医療用多層製品。
【0200】
(2)ナノフィブリルセルロースを含む層は、1~10%(w/w)の範囲内、たとえば5~7%(w/w)の範囲内の水分含有量を有する医療用多層製品。
【0201】
(3)ナノフィブリルセルロースを含む第2層を含み、
たとえば、ガーゼの層は、ナノフィブリルセルロースを含む第1層とナノフィブリルセルロースを含む第2層との間にある医療用多層製品。
【0202】
(4)ガーゼは、綿ガーゼなどの天然ガーゼを含む医療用多層製品。
【0203】
(5)ガーゼは、ビスコース、ポリエステル、またはそれらの混合物などの、合成ガーゼまたは半合成ガーゼを含む医療用多層製品。
【0204】
(6)第1層、および/または第2層におけるナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす医療用多層製品。
【0205】
(7)ナノフィブリルセルロースを含む層は、非修飾ナノフィブリルセルロースを含む医療用多層製品。
【0206】
(8)ナノフィブリルセルロースを含む層は、修飾セルロース、たとえば化学修飾ナノフィブリルセルロース、たとえば、アニオン性に修飾されたナノフィブリルセルロース、または酵素的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含む医療用多層製品。
【0207】
(9)ナノフィブリルセルロースの層は、5~60μm、たとえば5~10μm、または20~50μm、たとえば30~40μmの範囲内の厚さを有する医療用多層製品。
【0208】
(10)100~500μm、たとえば100~200μm、たとえば120~180μmの範囲内の厚さを有する医療用多層製品。
【0209】
(11)ナノフィブリルセルロースを含む層は、前記層中の全セルロースの1~10%(w/w)、たとえば1~5%(w/w)などの、前記層中の全セルロースの0.1~60%(w/w)の範囲内の量の非ナノフィブリル化パルプを含む医療用多層製品。
【0210】
(12)18~100mNm2/g、たとえば20~70mNm2/gの範囲内の比引裂強さを有する医療用多層製品。
【0211】
(13)50~100g/m2、たとえば60~80g/m2の範囲内の坪量を有する医療用多層製品。
【0212】
(14)300~800kg/m3、たとえば350~700kg/m3、たとえば450~650kg/m3の範囲内の密度を有する医療用多層製品。
【0213】
(15)治療薬を含む医療用多層製品。
【0214】
(16)美容用薬剤を含む医療用多層製品。
【0215】
(17)(1)~(16)のいずれか1項に記載の医療用多層製品を含む、包帯、または貼付剤などの医療用製品。
【0216】
(18)皮膚の創傷、または他の損傷を、治療、および/または覆うために使用される医療用多層製品。
【0217】
(19)皮膚移植片などの移植片で、皮膚の創傷を治療、および/または覆うために使用される医療用多層製品。
【0218】
(20)治療薬を投与するために使用される医療用多層製品。
【0219】
(21)フィルタを提供することと、
ナノフィブリルセルロースを含む分散液を提供することと、
ガーゼを提供することと、
分散液をフィルタに適用することと、
ガーゼを分散液に適用することと、
0~10%(w/w)の範囲内の水分含有量を有するナノフィブリルセルロースを含む層を含む医療用多層製品を得るために、フィルタを通って構造体を脱水することとを含む医療用多層製品の製造方法。
【0220】
(22)ナノフィブリルセルロースを含む第2分散液を提供することと、
ナノフィブリルセルロースを含む第2分散液をガーゼに適用することとをさらに含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【0221】
(23)0~10%(w/w)の範囲内の水分含有量を有するナノフィブリルセルロースを含む層を提供することと、
ガーゼの層を提供することと、
医療用多層製品を得るために、ナノフィブリルセルロースを含む層とガーゼの層とを積層することとを含む医療用多層製品の製造方法。
【0222】
(24)ナノフィブリルセルロースを含む層は、1~10%の範囲内、たとえば5~7%の範囲内の水分含有量を有する方法。
【0223】
(25)ガーゼは、綿ガーゼなどの天然ガーゼを含む方法。
【0224】
(26)ガーゼは、ビスコース、ポリエステル、またはそれらの混合物などの、合成ガーゼ、または半合成ガーゼを含む方法。
【0225】
(27)ナノフィブリルセルロースを含む第1層における、もしくはナノフィブリルセルロースを含む第1分散液における、および/またはナノフィブリルセルロースを含む第2層における、もしくはナノフィブリルセルロースを含む第2分散液におけるナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度、および10rpmにおいて測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・s、少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす方法。
【0226】
(28)ナノフィブリルセルロースを含む第1層および/もしくは第2層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1分散液および/もしくは第2分散液は、非修飾ナノフィブリルセルロースを含む方法。
【0227】
(29)ナノフィブリルセルロースを含む第1層および/もしくは第2層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1分散液および/もしくは第2分散液は、修飾セルロース、たとえば化学修飾ナノフィブリルセルロース、たとえば、アニオン性に修飾されたナノフィブリルセルロース、もしくは酵素的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含む方法。
【0228】
(30)ナノフィブリルセルロースを含む第1層および/もしくは第2層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1分散液および/もしくは第2分散液は、前記層中の全セルロースの0.1~60%(w/w)、たとえば前記層中の全セルロースの1~10%(w/w)、たとえば1~5%(w/w)の範囲内の量の非ナノフィブリル化パルプを含む方法。
【0229】
(31)治療薬を提供することと、
ナノフィブリルセルロースを含む第1層および/もしくは第2層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1分散液および/もしくは第2分散液に治療薬を含ませることとを含む方法。
【0230】
(32)美容用薬剤を提供することと、
ナノフィブリルセルロースを含む第1層および/もしくは第2層、またはナノフィブリルセルロースを含む第1分散液および/もしくは第2分散液に美容用薬剤を含ませる方法。
【0231】
(33)(21)~(32)のいずれか1項に記載の方法によって得られる医療用多層製品。