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特許7410928変換素子の製造方法、変換素子、および当該変換素子を有する発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】変換素子の製造方法、変換素子、および当該変換素子を有する発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20231227BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20231227BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20231227BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20231227BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231227BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20231227BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20231227BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/00 D
C09K11/02 Z
C09K11/80
H01L33/50
G02B5/20
C04B35/44
C04B35/622
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021500672
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019070819
(87)【国際公開番号】W WO2020030529
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】16/101,270
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】エイエムエス-オスラム インターナショナル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ams-OSRAM International GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クンダリヤ ダルシャン
(72)【発明者】
【氏名】セール ジェフリー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】アヴァロン ジェイムス
(72)【発明者】
【氏名】ローソン キャスリーン エイ.
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-172196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0144978(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0142181(US,A1)
【文献】Hui-Li LI et al.,Fabrication of Transparent Cerium-Doped Lutetium Aluminum Garnet Ceramics by Co-Precipitation Routes ,Journal of the American Ceramic Society,米国,2006年05月08日,Vol.89,No.7,p.2356-2358,DOI: 10.1111/j.1551-2916.2006.01036.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C09K 11/00
C09K 11/02
C09K 11/80
H01L 33/50
G02B 5/20
C04B 35/44
C04B 35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)ルテチウム、アルミニウムおよび希土類元素を含む1または複数の前駆体物質を用意する工程、
B)前記前駆体物質を、バインダーおよび溶媒と混合して、スラリーを得る工程、
C)工程B)のスラリーからグリーン体を形成する工程、
F)前記グリーン体を、1720℃を超える温度で焼結して、変換素子(3)を得る工程、
を有し、
工程F)の前に、前記グリーン体の表面の構造化処理をさらに有する、
変換素子(3)の製造方法。
【請求項2】
前記焼結は、1720℃以上1780℃以下の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程A)は、ルテチウムを含む第1の前駆体物質、アルミニウムを含む第2の前駆体物質、および希土類元素を含む第3の前駆体物質を用意する工程である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の前駆体物質はLuであり、前記第2の前駆体物質はAlであり、前記第3の前駆体物質はCeOである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程B)の混合は、ボールミルにより行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程C)の前記グリーン体はグリーンテープを含み、前記グリーンテープは、工程C)において工程B)のスラリーからテープキャスティング法により形成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記構造化処理は、所定の深さを有する複数の溝の形成を含み、前記深さは10μm以上40μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程A)の後、アルミニウムを含む物質は添加されない、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第1の相および第2の相を含み、
前記第1の相はルテチウム、アルミニウム、酸素および希土類元素を含み、前記第2の相はAl単結晶を含む、変換素子であって、
表面構造と、前記表面構造から少なくとも部分的に突出した前記Al 単結晶と、を有する、
変換素子(3)。
【請求項10】
前記第1の相は、LuAl12:Ceを含む、請求項9に記載の変換素子(3)。
【請求項11】
前記Al単結晶は、六方晶系の単結晶である、請求項9または10に記載の変換素子(3)。
【請求項12】
前記Al単結晶の平均結晶サイズは、1μm以上10μm以下である、請求項9~11のいずれか1項に記載の変換素子(3)。
【請求項13】
前記表面構造の深さは10μm以上40μm以下である、請求項9~12のいずれか1項に記載の変換素子(3)。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載の変換素子(3)を有する発光装置(1)であって、前記発光装置(1)は前記発光装置の動作中に第1の光を放射する第1光源をさらに有し、
前記変換素子(3)は、前記第1光源のビーム路に配置され、前記変換素子(3)は、第1の放射の少なくとも一部分を第2の放射に変換する、
発光装置(1)。
【請求項15】
前記装置は、発光ダイオード(LED)および誘導放出による光増幅放射(LASERs)装置からなる群から選択される、請求項14に記載の発光装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換素子の製造方法に関する。さらには、本発明は、変換素子、および当該変換素子を有する発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)または誘導放出による光増幅放射(LASERs)装置などの各種発光装置には、変換素子が備えられていることが多い。これらの発光装置の光学的性能は、装置内での放熱によって変わる。放熱を効率的に行うために、高い熱伝導性を有する変換素子の開発が求められている。さらには、コスト効率がよく、技術的な負荷も合理的なものですむような、これら変換素子の製造方法の開発も求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、変換素子の製造方法を開示することを目的とする。本発明はさらに、変換素子および当該高性能の変換素子を有する発光装置を開示することを目的とする。
【0004】
上記目的は、本特許の独立項に記載の構成要件によって達成される。本特許の従属項には、さらなる構成および発展形に関する。
【0005】
本発明は、
A)ルテチウム、アルミニウムおよび希土類元素を含む1または複数の前駆体物質を用意する工程、
B)前記前駆体物質を、バインダーおよび溶媒と混合して、スラリーを得る工程、
C)工程B)のスラリーからグリーン体を形成する工程、
F)前記グリーン体を、1720℃を超える温度で焼結して、変換素子を得る工程、
を有する、変換素子の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本発明の実施形態および関連する実施例における変換素子の表面形状を示す、走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2A図2Dは、本発明の実施形態における変換素子の、異なる倍率による走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、変換素子の第2の相の組成を解析するためのエネルギー分散型X線分析(EDX)により得られた、原子マッピング画像である。
図4図4A図4Dは、変換素子の第2の相の組成を解析するためのエネルギー分散型X線分析(EDX)により得られた、原子マッピング画像である。
図5図5は、本発明の実施形態における変換素子の組成を示す、EDXデータをまとめた表である。
図6図6は、ワットあたりルーメン(lm/W)と、色座標値とを座標軸として、焼結温度および表面構造による変換素子の光学的性能、つまり量子変換効率(CQE)をプロットしたグラフである。
図7図7は、本発明の実施形態における変換素子を有する発光装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
用語「変換素子」は、第1の波長を有する電磁放射(第1の放射)を、第1の波長よりも長波長である第2の波長を有する電磁放射(第2の放射)に変換することができる素子だと解される。たとえば、第1の放射は紫外(UV)光または青色光とすることができ、第2の放射は緑色光または赤色光などの、より長波長の可視光とすることができる。たとえば、変換素子は、セラミックプレートレットなどのセラミック製の変換素子である。
【0008】
本発明の方法により、第1の相および第2の相を含み、上記第1の相はルテチウム、アルミニウム、酸素および希土類元素を含み、上記第2の相はAl単結晶を含む、変換素子が形成される。たとえば、Alの六方晶系の単結晶が形成される。形成された変換素子は、マイクロプレートレットとして形成されてもよい。
【0009】
たとえば、上記第1の相はLuAG(LuAG = LuAl12)を含み、このLuAGはセリウムなどの希土類元素でドープされていることが好ましい。このとき、上記変換素子は、LuAl12:Ceを含む第1の相を含む。変換素子が単一の相(たとえば、LuAl12:Ceの単一相)を含むようになる周知の製造方法とは異なり、本発明では、Al結晶を含む第2の相が製造中に導入される。
【0010】
すなわち、本発明者らは、1720℃を超える温度での焼結により、Al 単結晶が形成されることを見出した。この結晶は、工程F)における高温での焼結中に有機的に成長し、変換素子の内部に埋め込まれていく。
【0011】
これに対し、通常の製造方法(特に、LuAl12:Ceを含む変換素子を形成するための方法)では、より低い温度で焼結を行うため、Al 単結晶を含む第2の相は形成されない。
【0012】
本発明者らは、Alの単結晶が、その高い熱伝導率により、変換素子の放熱を促進することを見出した。これにより、当該変換素子を発光装置に用いたときの光学的性能を向上させることができる。当該変換素子はさらに、高入射量かつ高エネルギーの光子束(たとえば、UVまたは青色の光束)に対応できる。この特性、高出力LED用途やLASER用途への適用に有用である。
【0013】
Al単結晶の導入は、工程F)における高温焼結において、1720℃を超える温度を採用することのみによって達成される。つまり、Al結晶による第2の相を得るために、多結晶または単結晶のAl粉末を添加する必要はなく、温度の調製のみによってAl単結晶の埋め込みがなされる。
【0014】
変換素子中のAl結晶量を増やすために、多結晶または単結晶のAl粉末を上記工程の途中に添加してもよい。しかし、追加のAlの添加は変換素子中にAl単結晶を含む第2の相を形成するために必須ではない。
【0015】
Al結晶量を有する変換素子は、1720℃以下の温度での製造中に、多結晶または単結晶のAlを意図的に導入する方法によっても得られる。このとき、導入したAlによるマトリクス相が形成されて、LuAl12:Ce相およびAlのマトリクス相を有する変換素子が得られる。しかし、上記工程で得られるこのAlのマトリクス相は、高度に多結晶化されている。多結晶Alは、粒状の境界を有するため、熱伝導性を低下させ、放熱を妨げる。さらには、この工程では、添加されるAl粉末の粒子径によって、形成されるすべての種類のアルミナ微小粒子の最大径が決定されてしまう。上記工程において得られる製品の品質を向上させるためには、大規模な設備と、開始物質として用いられるAl粉末の精密な処理が必要となる。
【0016】
上記工程とは異なり、本発明では、単結晶のAlが、1720℃を超える温度での焼結中に有機的に成長するため、Alを添加する必要はない。さらには、本発明の焼結工程は、大規模な設備も、上記工程で必要とされていたAlの精密な前処理も、必要ではない。そのため、本発明の工程は低コストで実施可能であるし、追加の技術的工程も必要としない。
【0017】
さらには、得られる変換素子は、有機的に成長して埋め込まれていった単結晶のAlを含む。この単結晶のAlは、多結晶のAlよりも高い熱伝導性を有する。
【0018】
本発明の複数の実施形態を、これ以降に説明する。
【0019】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、工程F)が、1720℃より高い焼結温度、好ましくは1730℃より高い焼結温度、たとえば1740℃以上の焼結温度で、行われる。上記説明したように、1720℃以下の温度で焼結を行うと、検出可能な量のAl単結晶が形成されない。Al単結晶の形成は、1720℃より高い温度で確認される。温度が高いほど、この単結晶のサイズが大きくなり、得られる変換素子の熱伝導性も良好になる。
【0020】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、工程F)が、1800℃より低い焼結温度、好ましくは1790℃より低い焼結温度、より好ましくは1780℃より低い焼結温度、たとえば1770℃より低い焼結温度、さらには1760℃より低い焼結温度で、行われる。この焼結温度が非常に高いとき、単結晶が非常に大きくなる。ところにより、複数の単結晶が共成長することもある。これにより、変換素子の内部に無秩序な集塊が形成され、形成されたAl結晶が疎に分散してしまう。このとき、多結晶のAlが形成されて、放熱効率が低下することがある。
【0021】
変換素子の製造に関する本発明の少なくとも1つの実施形態において、工程F)が、1720℃より高く1780℃より低い温度、たとえば1730℃より高く1770℃より低い温度、たとえば1740℃より高く1760℃より低い温度、たとえば1750℃で行われる。
【0022】
上記温度範囲は、焼結炉の設定の影響を受け得ることを、当業者は理解するだろう。上記温度は、同様の結果が得られる範囲内で、焼結炉の設定によって少し変化してもよい。
【0023】
上記範囲で焼結を行うことにより、熱伝導性を向上させるために十分なサイズであり、同時に良好に分散しかつ変換素子中に十分に埋め込まれた、Al単結晶が形成される。そのため、無秩序な集塊の望まぬ形成は緩和または回避される。
【0024】
少なくとも1つの実施形態において、工程F)は、減圧雰囲気で行われる。たとえば、焼結は、Hの存在下で行われる。焼結は、湿潤H雰囲気、変性ガス雰囲気(たとえば、NおよびHを含む雰囲気)、またはArおよびHを含む雰囲気下で行われてもよい。工程F)において、希土類元素を含む前駆体物質が還元される。たとえば、Ce4+が還元されてCe3+になり、これにより活性化される。
【0025】
少なくとも1つの実施形態において、工程F)は、フラックスまたは焼結助剤の存在下で行われる。たとえば、上記フラックスはアルミン酸バリウムである。焼結助剤が焼結温度に影響を及ぼすことを、当業者は理解するだろう。同様の結果が得られる範囲内で、焼結助剤に応じて焼結温度を変化させてもよい。
【0026】
少なくとも1つの実施形態において、工程A)は、ルテチウムを含む第1の前駆体物質を用意する工程、アルミニウムを含む第2の前駆体物質を用意する工程、およびセリウムなどの希土類元素を含む第3の前駆体物質を用意する工程、を含む。これらの第1、第2および第3の前駆体物質は、好ましくは酸化物または硝酸塩から選択される。
【0027】
あるいは、工程A)は、ルテチウム、アルミニウムおよびセリウムなどの希土類元素を含む、ひとつのみの前駆体物質を用意する工程であってもよい。たとえば、このひとつのみの前駆体物質は、LuAl12:Ceであってもよい。
【0028】
少なくとも1つの実施形態において、工程A)は、ルテチウムを含む第1の前駆体物質、アルミニウムを含む第2の前駆体物質および希土類元素を含む第3の前駆体物質を用意する工程であって、第1の前駆体物質がLuであり、第2の前駆体物質がAlであり、第3の前駆体物質がCeOであってもよい。
【0029】
これらの物質は、好適であり、かつ入手が容易な、LuAl12:Ceを含む第1の相およびAlを含む第2の相を有する変換素子を形成するための開始物質である。
【0030】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、工程A)におけるこれら1つまたは複数の前駆体物質は、粉末状である。
【0031】
少なくとも1つの実施形態において、工程A)におけるこれら1つまたは複数の前駆体物質は、LuAl12:Ceと同じ化学量論比で用意される。
【0032】
セリウムの量は0~4原子%、特には0.01~4原子%、好ましくは0.1~2原子%とすることができる。たとえば、セリウムの量は0.3~0.7原子%、たとえば0.5原子%である。あるいは、セリウムの量は1.5~1.9原子%、たとえば1.75原子%である。セリウムの量は、必要に応じて、変換素子の厚みに適合させて変化させてもよい。
【0033】
少なくとも1つの実施形態において、工程A)におけるこれら1つまたは複数の前駆体物質は、LuAl12:Ceと同じ化学量論比で用意され、さらに焼結助剤が添加される。
【0034】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、工程B)における混合は、ボールミルにより行われる。ボールミルの使用により、上記1つまたは複数の前駆体物質は、バインダーおよび溶媒と混合され均質化される。ボールミルの回転速度は、適宜調整することができる。
【0035】
少なくとも1つの実施形態において、ボールミルを行う時間の長さは、2時間~4日間の範囲である。上記時間が長いほど、得られるスラリーは微粒子化され、非常に小さい粒子径の物質のみを含むようになる。
【0036】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、工程B)における溶媒は、水などの水系溶媒、またはヘキサン、アセトンまたはメタノールなどの非水系溶媒である。水などの水系溶媒が、環境への負荷が少なく、LuAGへの悪影響がなく、かつ様々な種類のバインダーと組み合わせて用いることができるため、好ましい。
【0037】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、工程B)におけるバインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系またはポリビニルアルコール(PVA)系の、またはこれらを含むバインダーである。これらのバインダーは、グリーン体の形成を促進できるため好適である。
【0038】
変換素子の製造に関する本発明の少なくとも1つの実施形態において、工程C)のグリーン体はグリーンテープであり、上記グリーンテープは、工程C)において、工程B)のスラリーから、テープキャスティング法により形成される。
【0039】
少なくとも1つの実施形態において、上記グリーン体はグリーンテープから形成され、このグリーンテープは、工程C)において、工程B)のスラリーから、テープキャスティング法により形成される。あるいは、上記グリーン体は、グリーン体またはグリーン体の一部を含んでいてもよく、このグリーンテープは、工程C)において、工程B)のスラリーから、テープキャスティング法により形成される。たとえば、上記グリーン体は、グリーンテープを複数用いて形成された積層体、またはグリーンテープの一部を複数用いて形成された積層体であってもよい。このとき、上記グリーン体は、工程C)において工程B)のスラリーからテープキャスティング法により形成された、少なくとも1つのグリーンテープまたは少なくとも1つのグリーンテープの一部を含むグリーンテープ積層体であり、これらを総称してグリーンテープ積層体という。
【0040】
テープキャスティング法は、スラリーから薄膜状のセラミックテープを製造する成形方法である。上記スラリーうぃ、平らな表面上で、薄膜状に成型することで、上記グリーンテープが形成される。
【0041】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、上記スラリーは、ポリマーフィルム上に成型される。
【0042】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、このポリマーフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含むか、あるいはPETからなる。PET系のポリマーフィルムなどを含む、ポリマーフィルムは、高度な柔軟性を有する。そのため、得られるグリーンテープから容易に除去することができる。つまり、積層体からの剥離が容易である。
【0043】
少なくとの1つの実施形態において、得られるグリーンテープは、焼結により、LuAl12:Ceが生成するように構成されたグリーンテープである。
【0044】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、形成されたグリーンテープの厚さは20μm~60μmの間であり、たとえば30μm~50μmの間であり、たとえば40μmである。
【0045】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、工程C)の後に工程C1)が行われる。工程C1)は、上記グリーン体を乾燥させる工程を含む。たとえば、乾燥される上記グリーン体は、グリーンテープである。
【0046】
少なくとも1つの実施形態において、工程C)の後、たとえば工程C1)の後に、工程C2)が行われる。工程C2)は、剥離工程であり、本工程でポリマーフィルムからグリーンテープが分離される。
【0047】
少なくとも1つの実施形態において、工程C)の後、たとえば工程C2)の後に、工程C3)が行われる。工程C3)は、上記グリーン体を部分ごとに分割する工程を含む。グリーン体の部分ごとへの分割は、切断または打ち抜きによって行うことができる。たとえば、上記グリーン体はグリーンテープであり、切断または打ち抜きによって所定のサイズの部分ごとに分割される。
【0048】
少なくとも1つの実施形態において、この部分ごとのグリーンテープは、2~4平方インチ(12.9~25.8平方センチメートル)の表面積を有する。少なくとも1つの実施形態において、これらの部分は、20μm~60μmの間、たとえば30μm~50μmの間、たとえば40μmの厚さを有する。
【0049】
少なくとも1つの実施形態において、工程C3)の後に、工程C4)が行われる。工程C4)は、グリーンテープの部分(たとえば工程C3)で得られたもの)を複数互いの上に積層する工程を含む。これにより、グリーンテープ積層体を得ることができる。
【0050】
工程C4)において、グリーンテープの部分を2~12個、好ましくはグリーンテープの部分を4~8個、たとえばグリーンテープの部分を6個、互いの上に配置する。
【0051】
このとき、グリーンテープ積層体を形成するために、加圧を行ってもよい。
【0052】
本発明においては、このように、用語「グリーン体」は、テープキャスティング法により形成されたグリーンテープであると理解され得る。また、用語「グリーン体」は、互いの上に配置された、複数個の、グリーンテープまたはグリーンテープの部分を有するか、またはこれらからなる、グリーンテープ積層体であると理解され得る。
【0053】
少なくとも1つの実施形態において、このようにして得られたグリーン体(好ましくはグリーンテープ積層体である。)は、50~500μmの間、好ましくは230~260μmの間、たとえば約240μm(=6x40μm)の厚さ(積層後)、を有する。
【0054】
少なくとも1つの実施形態において、工程C4)の後に、工程C5)が行われる。工程C5)は、たとえば切断または打ち抜きにより、グリーン体をプレートレットの形状にする工程を含む。少なくとも1つの実施形態において、このプレートレットは、約2平方ミリメートルの表面積を有する。
【0055】
少なくとも1つの実施形態において、本発明に関する方法は、工程D)を含む。工程D)は、上記グリーン体の表面を構造化処理する工程であり、工程Fの前に行われる。たとえば、上記グリーン体はグリーンテープ積層体であり、このグリーンテープ積層体の表面が構造化処理される。あるいは、上記グリーン体はグリーンテープであり、このグリーンテープの表面が構造化処理される。
【0056】
焼結の前に表面を構造化処理することにより、Al結晶を、変換素子の表面に均等に分散させることができる。つまり、表面の構造化処理は、変換素子の表面におけるAl結晶の分散性を顕著に向上させる。これは少なくとも部分的には、表面の構造化処理により表面積が増大したからであると考えられる。
【0057】
この、変換素子の構造化処理された表面に形成されたAl単結晶は、少なくとも部分的にこの表面構造から突出している。本発明者らは、Al単結晶が、他の部分とは屈折率が異なる、非吸収性の透明散乱体として作用すると考えている。これにより、表面の構造化処理によって、効率的なフォトンリサイクルおよび光の取り出しが可能な、光散乱特性が向上した変換素子が得られる。表面の構造化処理とAl単結晶との組み合わせにより、変換素子の本体による青色光子の吸収が高まり、この変換素子を有する発光装置から出力される光量(ルーメン量)が多くなる。
【0058】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、グリーン体の表面の構造化処理は、LASERエッチングなどのLASER構造化処理により行われる。これにより、明瞭な輪郭を有する表面構造を、少ない技術的負荷により得ることができる。
【0059】
少なくとも1つの実施形態において、表面の構造化処理は、所定の深さを有する表面構造の形成を含む。このときの深さは、5~50μm、たとえば10~40μm、たとえば10~30μmまたは10~20μmとすることができる。たとえば、この表面構造は、深さが10~40μm、または10~30μm、または10~20μmの複数の窪みを有する。これら複数の窪みは、複数の溝のような、直線的な窪みであってもよい。
【0060】
少なくとも1つの実施形態において、表面の構造化処理は、表面パターンの形成、たとえば周期的な表面パターンの形成、を含む。
【0061】
本発明に関する方法の少なくとも1つの実施形態において、表面の構造化処理は、いずれも所定の深さを有する複数の溝の形成を含む。「溝」とは、直線的な形状を有する窪みと理解されるべきである。
【0062】
明瞭な輪郭を有する表面構造により、変換素子の表面におけるAl単結晶の分散を促進する観点からは、複数の溝が特に好適である。たとえば、表面の構造化処理は、多数の溝の形成を含む。たとえば、多数の、並行かつ等間隔の溝が形成され得る。
【0063】
1つの実施形態において、表面の構造化処理は、多数の並行した溝により形成される、格子状の表面パターンの形成を含む。たとえば、この格子状の表面パターンは、第1のグループの並行な複数の溝が、たとえば90°の角度で第2のグループの並行な複数の溝と交わるような、多数の溝によって形成される。
【0064】
変換素子の表面におけるAl単結晶の分散を非常に良好にする観点からは、格子状の表面パターンが好ましい。
【0065】
本発明の方法のさらなる発展形において、これら複数の溝の平均深さは、5~50μmの間であり、好ましくは10~40μmの間である。
【0066】
この深さが小さいと、Al単結晶の分散が均等になりにくい。このとき、散乱の向上効果も、小さくなる。この深さが大きいと、得られる変換素子の安定性が低下する。つまり、得られる変換素子がより損傷しやすい。
【0067】
本発明者らは、10~40μmの深さと、工程F)における焼結温度を1720℃より高く1780℃より低い温度とすることと、の組み合わせが好ましいことを見出した。さらには、上記温度範囲では、10~30μmの深さが、Al単結晶の分散を良好にして高効率の変換素子を得るためには好ましい。さらには、10~20μmの深さが、分散性、効率および安定性を良好にする観点からより好ましい。深さが大きいと、変換素子の安定性が低下する。
【0068】
さらなる実施形態において、表面の構造化処理は、5~20μm、たとえば5~15μm、たとえば10μmの深さの窪みおよび/または複数の溝の形成と、工程F)における1770℃~1790℃、たとえば1775℃~1785℃、たとえば1780℃の焼結温度と、が組み合わされる。この組み合わせにより、予測できない程度に高い光学的性能(図6参照)が得られる。つまり、非常に高い量子変換効率が達成される。
【0069】
少なくとも1つの実施形態において、この表面構造は複数の溝を有し、この複数の溝は、平均ピッチサイズが25μm~50μm、たとえば25μm~40μm、たとえば30μm、である。ここでの用語「ピッチ」は、複数の溝のうち2つの溝の距離であり、複数の溝のうち隣り合う2つの溝の、変換素子の表面に対して最も低い点の間の距離である。
【0070】
少なくとも1つの実施形態において、表面の構造化処理は、表面構造の形成を含み、この表面構造は高さ(つまり、深さ)と、ピッチサイズに特徴がある。たとえば、用語「深さ」は、窪みまたは溝の深さと理解されるべきである。用語「ピッチサイズ」は、窪みまたは複数の溝のうち2つの間の距離を意味する。
【0071】
少なくとも1つの実施形態において、表面の構造化処理は、表面構造の形成を含み、この表面構造はピッチサイズに対する深さの比率が、2~0.1の範囲、好ましくは0.7~0.3の範囲、たとえば0.5である。たとえば深さが15μmであるとき、ピッチサイズは30μmである。
【0072】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、本発明に関する方法は、上記グリーン体をか焼する工程E)を含む。たとえば、上記グリーンテープまたはグリーンテープ積層体のか焼が行われる。工程E)は、工程C)の後、工程F)の前に行われる。
【0073】
本工程のさらなる発展形において、工程E)におけるか焼は、700℃~1200℃、たとえば1000℃~1200℃の間の温度で行われる。か焼は、少なくとも10分かつ最長で12時間、たとえば少なくとも15分かつ最長で2時間、行ってもよい。たとえば、か焼は、1150℃で30分行ってもよい。
【0074】
さらなる実施形態において、工程E)は、酸素を含む雰囲気、好ましくは大気雰囲気で行われる。
【0075】
工程E)の間に、バインダーおよび溶媒の残渣がグリーン体から除去される。
【0076】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、本発明に関する方法は、焼結体をアニールする工程G)を含む。たとえば、打ち抜かれたプレートレットの焼結体の、アニールが行われる。工程G)は、工程F)の後に行われる。
【0077】
工程G)により、工程F)の焼結によって発生した欠陥を減少させる。工程G)は特に、変換素子中のCe3+の量を増やすことができる。これにより、変換素子の特性がさらに向上する。つまり、輝度の向上および/または輝度分布のさらなる均一化が達成され得る。
【0078】
本発明の方法のさらなる発展形において、工程G)のアニーリングは、700℃~1200℃、たとえば1000℃~1200℃の温度で、行われる。アニーリングは、少なくとも10分かつ最長で12時間、たとえば少なくとも15分かつ最長で2時間、行ってもよい。たとえば、か焼は、1050℃で60分行ってもよい。
【0079】
さらなる実施形態において、工程G)は、制御されたガス雰囲気、たとえば窒素またはアルゴンと酸素とを含むフォーミングガス雰囲気で、行われる。
【0080】
変換素子の製造に関する少なくとも1つの実施形態において、工程A)の間または工程A)の後、アルミニウムを含む物質は添加されない(上記1つまたは複数の前駆体物質を除く)。特に、単結晶または多結晶のAlは追加で添加されない。特に、LuAGの形成に必要な化学量論比を超える量のAlは添加されない。
【0081】
上記説明したように、本発明の方法における単結晶Alの形成は、LuAGの形成に必要な化学量論比を超える量の、追加のAlの添加を必要としない。
【0082】
他の実施形態において、LuAGの形成に必要な化学量論比を超える量の、多結晶または単結晶のAlが、工程A)および/または工程B)の間に、添加される。これにより、多結晶Alおよび単結晶Alの両方を含み、単結晶Alの少なくとも一部が1720℃を超える温度での焼結により形成された、変換素子が得られる。Alをさらに追加することで、熱伝導性および放熱性がさらに向上し、用途にあわせて調整することもできる。さらには、この追加のAlは、変換素子中に埋め込まれ、六方晶系のマイクロプレートレットを形成してもよい。
【0083】
少なくとも1つの実施形態において、サファイアの微結晶粉末が、工程A)および/または工程B)の間に、添加される。このサファイアは、変換素子の中に埋め込まれ、六方晶系のマイクロプレートレットを形成してもよい。
【0084】
本発明はさらに、第1の相および第2の相を含み、第1の相はルテチウム、アルミニウム、酸素および希土類元素を含み、第2の相はAl単結晶を含む、変換素子に関する。
【0085】
本発明の変換素子は、本明細書に記載された変換素子の製造方法により、製造することができる。そのため、変換素子の製造方法について記載された特徴は、変換素子についても適用され、変換素子について記載された特徴は、変換素子の製造方法についても適用される。
【0086】
少なくとも1つの実施形態において、第2の相は、変換素子の内部に埋め込まれている。特には、変換素子の全体に分散している。たとえば、変換素子の主な相である第1の相の中に埋め込まれている。
【0087】
本発明者らは、Al単結晶を含む、あるいはAl単結晶からなる第2の相を有する変換素子は、熱伝導率が高くなることを見出した。これにより、変換素子、およびこの変換素子を有する発光装置の放熱が促進され、光学的性能が向上する。
【0088】
少なくとも1つの実施形態において、上記変換素子は、セラミックの変換素子である。
【0089】
少なくとも1つの実施形態において、上記変換素子は、プレートレットである。
【0090】
少なくとも1つの実施形態において、上記変換素子は、セラミックの発光変換素子である。
【0091】
少なくとも1つの実施形態において、第1の相は、発光物質としてLuAl12:Ceを含む。第1の相が、LuAl12:Ceを含むが、Alなどの他の物質よりも少ない量で含んでいてもよい。
【0092】
変換素子の少なくとも1つの実施形態において、上記Al単結晶は、有機的に成長して埋め込まれていった単結晶である。
【0093】
少なくとも1つの実施形態において、Al単結晶は、変換素子の全体に均一に分散している。たとえば、Al単結晶は、第1の相の内部に均一に分散している。
【0094】
少なくとも1つの実施形態において、Al単結晶の少なくとも一部は、変換素子の表面から突出している。これらの結晶は、光の散乱および光の取り出しに使用することができる。
【0095】
変換素子の少なくとも1つの実施形態において、Al結晶は、六方晶系の単結晶である。たとえば、Al結晶は、六方晶系のマイクロプレートレットの形状を有する。
【0096】
変換素子の少なくとも1つの実施形態において、Al単結晶の平均結晶サイズは、0.5μm~15μm、たとえば1μm~10μm、好ましくは2μm~8μm、より好ましくは3μm~5μmの間である。
【0097】
六角形の表面形状を有する、六方晶系のマイクロプレートレットである結晶について、結晶サイズは、上記六方晶系のマイクロプレートレットの上記六角形の表面形状と同じ表面積を有する円の直径であると解され得る。
【0098】
本発明者らは、0.5μm~15μm、たとえば1μm~10μm、特には3μm~5μmの間であるAl単結晶を含む変換素子は、顕著な熱伝導性および変換素子中の顕著な結晶の分散性を示すことを見出した。もし結晶サイズが非常に小さいと、放熱の向上効果が低下する。もし結晶サイズが非常に大きいと、結晶の集塊が生じてしまう。このとき、粒状の境界が形成され、これにより熱伝導性が低下することがある。さらには、結晶の分散性が損なわれ、意図せぬ集塊の形成が優位になってしまう。
【0099】
少なくとも1つの実施形態において、変換素子は、少なくとも1つの表面が表面構造を有し、Al 単結晶が上記表面構造から少なくとも部分的に突出している。
【0100】
本発明者らは、Al単結晶を、他の部分とは屈折率が異なる、非吸収性の透明散乱体として使用できることを見出した。これにより、本発明の変換素子を使用した発光装置の性能が向上する。表面の構造化処理により、表面積が増大して、光の散乱および取り出しの効率が向上する。
【0101】
変換素子の少なくとも1つの実施形態において、上記表面構造は、所定のサイズの、複数の溝を有する。
【0102】
たとえば、上記表面構造は、複数の溝、たとえば多数の、並行かつ等間隔の溝を有する。
【0103】
少なくとも1つの実施形態において、上記表面構造は、格子状の表面パターンを含む。たとえば、この格子状の表面パターンは、多数の溝によって形成される。
【0104】
本発明のさらなる発展形において、上記複数の溝の平均深さは、5~50μmの間であり、好ましくは10~40μmの間であり、たとえば10~20μmの間または30~50μmの間である。
【0105】
少なくとも1つの実施形態において、上記複数の溝は、平均ピッチサイズが25μm~50μm、たとえば25μm~40μm、たとえば30μm、である。
【0106】
少なくとも1つの実施形態において、上記表面構造は、ピッチサイズに対する深さの比率が、2~0.1の範囲、好ましくは0.7~0.3の範囲、たとえば0.5である。
【0107】
少なくとも1つの実施形態において、変換素子は、さらなる多結晶Alを含む。これにより、熱伝導性をさらに調整することができる。
【0108】
少なくとも1つの実施形態において、変換素子は、本発明の製造方法により製造される。
【0109】
本発明はさらに、本発明の変換素子を有する発光装置に関する。上記発光装置は、半導体チップなどの、発光装置の動作中に第1の光を発光する第1光源を有し、上記変換素子は、上記第1光源のビーム路に配置され、上記変換素子は、第1の放射の少なくとも一部分を第2の放射に変換する。
【0110】
上記発光装置は、本発明の変換素子を有する。そのため、本発明の変換素子または本発明の変換素子の製造方法について記載された特徴は、発光装置についても適用され、発光装置について記載された特徴は、本発明の変換素子または本発明の変換素子の製造方法についても適用される。
【0111】
本発明者らは、本発明の変換素子を用いることで、熱伝導性および放熱の向上により、それぞれの発光装置の光学的性能が向上することを見出した。
【0112】
本発明の発光装置に関する少なくとも1つの実施形態において、装置は、発光ダイオード(LED)および誘導放出による光増幅放射(LASERs)装置からなる群から選択される。
【0113】
少なくとも1つのさらなる実施形態において、上記LEDは高出力LEDである。
【0114】
LED、高出力LEDおよびLASERsなどの発光装置は、不十分な放熱による悪影響を受けやすい。通常の変換素子は、熱伝導性が低いため、発光装置中で温度が情報し、装置の様々な光学的性能を低下させることがある。これに対し、本発明は、効率的な放熱いより、光学的性能を向上させる。
【実施例
【0115】
上記方法、上記変換素子および上記発光装置は、以下において例示的な実施例および関連する図面によって、より詳細に説明される。
【0116】
同一もしくは類似の構成要素、または同一の動きをする構成要素は、各図面において同一の参照符号で示される。図面はすべて、模式的な図面であり、寸法が正確であるとは限らない。むしろ、比較的小さい構成要素や、特に層の厚みは、明確性のためにあえて大きく記載されている。
【0117】
図1は、焼結後の変換措置の、走査型顕微鏡(SEM)写真である。この変換素子は、プレートレットの形状を有している。図1の第1行の写真は、1720℃で焼結した、参照例の変換素子を示す。図1の第2行の写真は、1750℃で焼結した、本発明の好ましい実施形態における変換素子を示す。図1の第3行の写真は、1750℃で焼結した、本発明の他の実施形態における変換素子を示す。図の最初の3列(A列、B列およびC列)は、表面構造を表面に有する変換素子を示す。この表面構造は、所定の深さの複数の溝を含む。一方で、D列は、表面を構造化処理しなかった変換素子を示す。表面の構造化処理は、LASERエッチングにより行った。これらの変換素子は、以下の方法で製造した。
【0118】
これらの変換素子はすべて、同じ前駆体物質、つまりLuAl12:Ce(Ce量は0.5原子%)が得られる化学量論比で用意されたLu、AlおよびCeOから製造した。前駆体物質の粉末を、PVA系のバインダーおよび適量の水とともに混合し、ボールミルにより、さらに数日間、混合および均質化して、スラリー化した。得られたスラリーをPETフィルム上にテープキャストして、厚みが約40μmのグリーンテープを製造し、乾燥した。次に、PETフィルムからグリーンテープを剥離し、所定のサイズ(2~4平方インチの大きさ、40μmの厚み)の部分ごとに切断した。その後に、これらの部分を互いの上に積層(複層ラミネート化)した。これにより、グリーンテープ積層体を形成した。今回は、6枚の部分を互いの上に積層して、240μmのグリーンテープ積層体を得た。次に、グリーンテープを2平方ミリメートルの大きさに打ち抜き、1150℃で30分のか焼を行ってバインダーを除去した。か焼されたプレートレットを、1720℃、1750℃および1780℃で、湿潤H雰囲気下で2時間焼結した。焼結後、1050℃で、フォーミングガス雰囲気で60分のアニールを行った。か焼、焼結およびアニールの間に、プレートレットの厚みは、約240μmから約150μmに減少した。A列、B列およびC列に示す変換素子では、焼結の前に、LASERエッチングを行った。平均深さが10μm、20μm、30μmおよび40μmの複数の溝を有する変換素子が得られた。比較的低い倍率であるA列の写真でも、それぞれの変換素子に、特徴的な表面構造が見られる(B列の最初の写真は、表面構造を横方向に映した写真である。)。列Cに、より高倍率の写真を示す。焼結を1720℃で行った参照例の写真では、Al単結晶の第2の相が見られないことが明らかである。これに対し、1750℃では、顕著な量のAl単結晶が形成された。さらの大きなAl単結晶が、1780℃では形成された。1780℃まで温度を高めると、単結晶は集塊を形成する傾向がみられた。これは、B列の最後の写真でも確認でき、この写真では集塊が確認できる。これに対し、温度を1750℃とすると、集塊の形成はみられず、得られたAl単結晶は変換素子の内部および表面に良好に分散していた(B列の中央の写真)。構造化処理された表面を有する変換素子(A列、B列、C列)と、構造化処理された表面を有さない変換素子(D列)とを比較すると、焼結の前に構造化処理をすることで、Al単結晶の分散性が顕著に向上したことがわかる。D列からは、構造化処理をしない場合でも、1750℃で結晶の分散が最良になることがわかる。
【0119】
図2A図2Dは、並行かつ等間隔の複数の溝を有する表面構造を有する変換素子の、走査型顕微鏡写真である。複数の溝が互いに交わって、格子状の表面構造が形成されている。この変換素子は、1750℃の温度で焼結されたものである。図2A図2DのすべてのSEM写真は、加速電圧を10kVとした後方散乱電子検出(BSD)モードで撮像されたものである。図2Aは倍率を2500倍として、図2Bは倍率を3900倍として、図2Cは倍率を4000倍として、図2Dは倍率を7800倍として、撮像されている。低倍率のSEM画像から、構造化処理によるAl単結晶の良好な分散が確認できる。Al結晶は暗色の結晶として容易に判別できる。高倍率のSEM画像から、Al単結晶が六角形のマイクロプレートレット形状を有することが明瞭にわかる。
【0120】
図3および図4A図4Dは、変換素子の第2の相の組成を解析するためのエネルギー分散型X線分析(EDX)により得られた、原子マッピング画像である。つまり、図3図4Aと同一である)は、図2Dと同じ領域を示す。図3では、アルミニウム(Al)およびルテチウム(Lu)元素が強調されて示されている。図4B図4Dに、同じ領域の、酸素(O、アルミニウム(Al)およびルテチウム(Lu)の個々の原子マッピングを示す。このEDX解析により、本発明の製造方法により製造した変換素子が、LuAG:Ceによる第1の相、およびAl単結晶の第2の相を有することがわかる。つまり、暗色の第2の相(六角形のマイクロプレートレット形状を有する単結晶)がAlおよびOを含むが、Luを含まないことから、Al単結晶の形成が確認できる。これに対し、第1の相はLuも含んでいる。
【0121】
図5は、本発明の一実施形態における、本発明の製造方法により製造された変換素子について得られたEDXデータをまとめた表である。
【0122】
図6は、ワットあたりルーメン(lm/W)と、色座標値(Cx)とを座標軸として、焼結温度および表面構造による変換素子の光学的性能、つまり量子変換効率(CQE)をプロットしたグラフである。解析は、焼結温度を1720℃、1750℃および1780℃として製造された変換素子について、行われた。また、解析は、構造化処理をしなかった変換素子、ならびに深さが10μm、20μm、30μmおよび40μm、の複数の溝を有する表面構造を有する変換素子について、行われた。図6にプロットされたすべてのデータポイントは、少なくとも5回の測定、多くても20回の測定の結果に基づくものである。この表から明らかなように、1720℃を超える温度で焼結された変換素子には、lm/Wから判断される量子効率の顕著な向上がみられる。量子変換効率が最も高いのは、焼結温度が1780℃であり、溝の深さが10μmであるときである。しかし、効率および色座標値のすべてにおいて最良の結果は、焼結温度が1750℃のときに得られた。表面構造を有する変換素子は、表面構造を有さない変換素子よりも性能が向上していた。溝の深さが10~20μmのときに、変換素子は、良好な光学的性能と高い安定性の両方を示した。
【0123】
図7は、本発明の実施形態における発光装置を示す模式図である。図示された発光装置(1)は、基板(5)、半導体チップ(2)、本発明の変換素子(3)、電気接続部(4)および(6)、ならびにボンディングワイヤ(7)を有する。半導体チップ(2)は、動作時に、UV光および青色光を放射する(第1の放射)。変換素子は、半導体チップのビーム路に配置され、第1の放射の少なくとも一部分を、より長波長の第2の放射に変換する。この変換素子は、少なくとも1つの構造化処理された表面を有してもよい。
【0124】
本出願は、米国特許出願番号16/101,270に基づく優先権を主張する。上記出願により開示された内容は、参照により本出願に組み込まれる。
【0125】
例示的な実施形態の参照により本明細書に記載された内容は、本発明をこれらの実施形態に限定するものではない。むしろ、本発明は、特許請求の範囲または例示的な実施形態に明示的に示されていないとしても、あらゆる新規な特徴および特徴の組み合わせ、特には特許請求の範囲に記載された特徴の組み合わせ、を含むものである。
【符号の説明】
【0126】
1 発光装置
2 半導体チップ
3 変換素子
4、6 電気接続部
5 基板
7 ボンディングワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7