(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】超大容量高性能電池セルの使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231227BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231227BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231227BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/48
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021514377
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 US2019050458
(87)【国際公開番号】W WO2020055899
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-06
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521102904
【氏名又は名称】ヒーリー、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、ペイジ、エル.
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-522620(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163279(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0377596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/48
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを深放電させる方法であって、
前記電池セルは、2つの電極と、前記2つの電極の間に配置された電解質とを含み、前記2つの電極のうち少なくとも1つは、酸化性酸化スズナノ材料を含み、
前記方法は、
前記電池セルに対して複数の充電サイクルおよび放電サイクルを実行することであって、
各放電サイクルの放電レベルが前記電池セルの全容量の20%未満であり、
各充電サイクルおよび放電サイクルのクーロン効率は、99.7%以上である、
複数の充電サイクルおよび放電サイクルを実行することを含み、
前記複数の充電サイクルおよび放電サイクルの間、前記電解質が前記2つの電極の間に配置されたままである、方法。
【請求項2】
各放電サイクルが、前記電池セルに取り付けられた負荷の最低使用可能電圧まで下がる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各放電サイクルの各放電レベルが、検出可能なゼロボルトまで低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ある放電サイクルにおいて、放電電圧が所定の公称電圧を下回るまで、電圧を必要とするパワーデバイスに前記電池セルを電気的に接続させ、その後、より低い電圧を必要とする別のパワーデバイスに前記電池セルを電気的に接続させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
各充電サイクルが、前記電池セルの最大電圧開回路電圧よりも低い電圧で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
各充電サイクルが、前記電池セルの最大開回路電圧よりも高い電圧で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
各充電サイクルが、前記電池セルの現在の電圧よりも高いが前記電池セルの最大開回路電圧よりも低い電圧レベルで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
各充電サイクルが、前記電池セルの現在の電圧よりも高いが前記電池セルの公称電圧よりも低い電圧レベルで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各充電サイクルでは、前記電池セルの満充電には達しない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのセルを有する電池を使用する方法であって、
前記少なくとも1つのセルは、アノードと、カソードと、前記アノードおよび前記カソードの間に配置された電解質とを含み、前記アノードおよび前記カソードのうち少なくとも1つは、
活物質の担持量が80重量%未満であり、前記活物
質は、酸
性化酸化スズナノ材料を含み、
前記方法は、各放電サイクルの放電レベルが前記電池の全容量の20%未満である前記電池で複数の充電サイクルおよび放電サイクルを実行することを含み、各充電サイクルおよび放電サイクルのクーロン効率は、99.7%以上である、方法。
【請求項11】
少なくとも1つの放電サイクルの少なくとも一部分が、0.7ボルト未満の放電電圧で生じる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの放電サイクルが、前記電池に取り付けられた負荷の最低使用可能電圧まで低下する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの放電サイクルの放電レベルが、検出可能なゼロボルトまで低下する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記放電サイクルの少なくとも1つにおいて、放電電圧が所定の公称電圧を下回るまで、電圧を必要とするパワーデバイスに前記セルを電気的に接続させ、その後、より低い電圧を必要とする別のパワーデバイスに前記セルを電気的に接続させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの充電サイクルが、前記電池の最大電圧開回路電圧よりも低い電圧で実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの充電サイクルが、前記電池の最大開回路電圧よりも高い電圧で実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの充電サイクルが、前記電池の現在の電圧よりも高いが前記電池の最大開回路電圧よりも低い電圧レベルで実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
各充電サイクルが、前記電池の現在の電圧よりも高いが前記セルの公称電圧よりも低い電圧レベルで実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
各充電サイクルでは、前記電池の満充電には達しない、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
アノードおよびカソードのうちの少なくとも一方を備えた少なくとも1つのセルを有する電池を使用する方法であって、
前記アノードまたは前記カソードは、活物質の担持量が80重量%未満であり、前記活物質は、酸性化酸化スズ、酸性化酸化鉄、酸性化酸化マンガン、および酸性化酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1つの酸性化金属酸化物ナノ材料を含み、前記方法は、前記電池に対して複数の充電サイクルおよび放電サイクルを実行することを含み、各放電サイクルの放電レベルが
、80
重量%を超える担持量で前
記活物質を有する
別の電池の機能的最小電圧未満であ
り、前記電池に対する前記複数の充電サイクルおよび放電サイクルの間、電解質が前記2つの電極の間に配置されたままである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月10日に出願された米国仮特許出願第62/729,254号の利益を主張し、このような仮出願を、この時点で完全に記載されているかのように参照により本開示に組み込む。
【0002】
本開示は、限定されないが、電池などの化学エネルギー貯蔵およびパワーデバイスに有用な材料および構築方法の分野にある。
【背景技術】
【0003】
金属酸化物は、酸素が金属に結合している化合物であり、一般式はMmOxである。これらは天然に見られるが、人工的に合成することができる。合成金属酸化物において、合成方法は、その酸/塩基の特性を含めて表面の性質に広範な影響を与える可能性がある。表面の特性における変化は、酸化物の特性を変化させ、その触媒活性や電子移動度のようなことに影響を与える。しかしながら、表面が反応性を制御するメカニズムは、必ずしも十分に特徴付けられておらず、または理解されていない。例えば、光触媒では、表面のヒドロキシル基は伝導帯から化学吸着した酸素分子への電子移動を促進すると考えられている。
【0004】
表面特性の重要性にもかかわらず、科学論文と特許の両方における金属酸化物の文献は、エネルギー貯蔵とパワー応用を改善するための新しいナノスケールの結晶形の金属酸化物の創成を主にテーマとしている。金属酸化物の表面特性は無視され、化学触媒作用の文献以外では、既知の金属酸化物の表面を制御または変化させて性能目標を達成することに向けられた革新はほとんどない。
【0005】
化学触媒作用の文献は、主に「超酸」(純粋な硫酸(18.4M H2SO4)よりも高い酸性度)の創成をテーマにしており、炭化水素分解などの大規模な反応によく使用されている。超酸性度は、従来のpHスケールでは測定できず、代わりにハメット数によって定量化される。ハメット数(H0)は、pHスケールをゼロ未満の負の数に拡張するものとして考えることができる。純粋な硫酸のH0は-12である。
【0006】
しかしながら、超酸性度が強すぎる多くの反応系や多くの用途がある。例えば、超酸性度は、システムの構成要素を劣化させたり、望ましくない副反応に触媒作用を及ぼしたりすることがある。しかしながら、酸性度は、これらの同じ用途において、反応性や速度特性を向上させたり、電子移動度を改善したりするために、依然として有用である。
【0007】
電池の文献によると、酸性基は電池に有害であり、金属の集電装置やハウジングを攻撃し、他の電極構成要素の劣化を引き起こす可能性があることが教示されている。さらに、先行技術は、活性な触媒電極の表面が電解質分解を引き起こし、その結果、セル内でガスが発生し、最終的にはセルの故障をもたらす可能性があることを教示している。
【0008】
少なくともその表面上で酸性であるが超酸性ではなく、アノードおよび/またはカソード内に展開されている合成金属酸化物を有する電池実装に対するニーズが存在する。さらに、既存の電池構築技術を更新して、本開示に従って利用可能な新しい材料を最大限に活用すると共に、以前から知られている材料でこのような構築技術を使用して実現できる可能性のある利益および改善を生かすべきである。
【発明の概要】
【0009】
超大容量電池セルの実施形態は、少なくとも4000mAhr/gのリチオ化容量を有し、20重量%~40重量%の範囲のナノ粒子サイズの金属酸化物、および20重量%~40重量%の範囲のナノ粒子サイズの導電性カーボンを含有する層を含む電極を備える。特定の実施形態では、金属酸化物および導電性カーボンは、それぞれ33重量%である。さらなる実施形態では、金属酸化物および導電性カーボンは、それぞれ20~25重量%である。さらに特定の実施形態では、金属酸化物および導電性カーボンは、それぞれ21重量%である。電極をアノードまたはカソードとして配置してもよい。
【0010】
電池セルは、ナノ粒子サイズの導電性カーボンを含有し、ナノ粒子サイズの金属酸化物を含有する層に隣接して配置された少なくとも1つの他の層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、この他の層は、ナノ粒子サイズの金属酸化物を含む層の上および下の両方に存在する。ナノ粒子サイズの金属酸化物は、少なくともその表面上で、5重量%の水中で測定したときにpH<5、およびハメット関数>-12を有する酸性化金属酸化物(以下、酸性化金属酸化物、または「AMO」)であってもよい。他の実施形態では、金属酸化物を、酸性化されていない、実質的に酸性化されていない、または酸性基(以下、非酸性化金属酸化物、または「非AMO」)で官能基化されていないセルまたは電池の構築に使用してもよい。総称して、AMOおよび非AMOは単に金属酸化物と呼ばれることがある。
【0011】
本開示は、AMO、非AMO、および両方を使用する用途に対応する材料について記載する。用途には、電池電極材料、触媒として、光起電性または光活性構成要素としての用途、およびセンサが含まれるが、これらに限定されない。AMOおよび非AMO、ならびにいずれかを含むデバイスを調製する技術がさらに開示される。開示されたAMOは、任意に、これらの有用性を高めるために、酸性種と組み合わせて使用してもよい。
【0012】
本出願では、AMOおよび非AMOを含む電極を含む大容量電気化学セルについてさらに記載する。金属酸化物および金属酸化物を含む電気化学セルを調製するための技術がさらに開示されている。任意に、開示された金属酸化物は、導電性材料と組み合わせて使用して電極を形成してもよい。形成された電極は、対応する対向電極として金属リチウム電極および従来のリチウムイオン電極に対して有用である。開示された金属酸化物は、それらの有用性を高めるために、任意に、酸性種と組み合わせて使用してもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、本開示は、低い活物質(即ち、金属酸化物)担持量の層状電極構造を提供する。場合によっては、80重量%未満の活物質が電極に利用される。これは、活物質の担持量を最大化しようとする従来の電気化学セル技術とは対照的であり、活物質の担持量は、約80重量%以上、例えば、90重量%または95重量%または99重量%であってもよい。高い活物質担持量は、従来の電気化学セル技術において容量を増加させるのに有用であり得るが、本出願の発明者らは、活物質担持量を低減することにより、本開示による様々な実施形態を用いてより大きいセル容量が実際に可能になることを見出した。このような容量の増加は、活物質の担持量レベルがより低い場合には追加の物理的容積が利用可能である可能性があるため、シャトルイオン(即ち、リチウムイオン)をより多く吸収可能になることによって、少なくとも部分的には達成することができる。このような容量の増加は、より多くの活性部位がシャトルイオンを吸収することが可能になり、追加の材料質量による活性部位のブロックが少なくなることによって、代替的または追加的に、少なくとも部分的には達成することができる。
【0014】
記載された金属酸化物には、ナノ粒子形態などのナノ材料の形態のものが含まれ、これらは単分散または実質的に単分散であり、例えば、粒径が100nm未満である。開示されたAMOは、特定の濃度(例えば、5重量%)などで、水に懸濁したか、または乾燥後に水に再懸濁したとき、7未満(例えば、0~7の間)などの低いpHを示し、さらに少なくともAMOの表面上で-12よりも大きい(即ち、超酸性ではない)ハメット関数(H0)を示す。
【0015】
AMOの表面は、任意に、酸性種または他の電子吸引種などによって官能化されてもよい。合成および表面官能化は、金属酸化物が適切な前駆体から合成されているときに金属酸化物の表面が官能化される「シングルポット(single-pot)」水熱法で達成することができる。いくつかの実施形態では、このシングルポット法は、金属酸化物自体を合成するために必要なものを超える酸性化のための追加の1つまたは複数の工程を必要とせず、所望の表面酸性度を有する(しかし超酸性ではない)AMO材料をもたらす。
【0016】
任意に、強力な電子求引基(「EWG」)-SO4、PO4、またはハロゲン(Br、Clなど)など-を単独または互いに組み合わせて使用して、表面官能化を行ってもよい。表面官能化はまた、SO4、PO4、またはハロゲンよりも弱いEWGを使用して行ってもよい。例えば、合成された金属酸化物は、酢酸塩(CH3COO)基、シュウ酸塩(C2O4)基、およびクエン酸塩(C6H5O7)基で表面官能化してもよい。
【0017】
酸性種は、金属集電体およびハウジングを攻撃し、他の電極構成要素の劣化を引き起こす可能性があり、しかも触媒作用のある電極表面が活性化すると、電解質の分解やセル内でのガス生成を引き起こし、最終的にはセルの故障につながる可能性があるため、電池において酸性種は望ましくないという従来の知識にもかかわらず、本発明者らは、AMO材料を電池の電極に使用する電池において、酸性種および酸性成分が有利に働くことを発見した。
【0018】
例えば、金属酸化物と酸性種との組合せまたは使用により、得られる材料、システム、またはデバイスの性能が向上し、デバイスの容量、サイクル性、および寿命が改善される。一例として、酸性電解質または本明細書に記載の酸性種を含む電解質を使用する電池は、非酸性電解質または酸性種を欠く電解質を使用する同様の電池よりも最大100mAh/g以上など、かなりの容量増加を示す。いくつかの実施形態では、50~300mAh/gの間の容量改善が達成され得る。加えて、酸性電解質または酸性種を含む電解質を備えた電池を使用すると、最大1000mAh/g以上の絶対容量を達成することができる。さらに、電池のサイクル寿命は、例えば、電池のサイクル寿命が最大100回以上の充放電サイクルまで延長される場合など、酸性電解質または酸性種を含む電解質を使用することによって改善することができる。
【0019】
例示的な電池セルは、第1の電極、例えば、金属酸化物(任意にAMOナノ材料)、導電性材料、およびバインダを含む第1の電極と、第2の電極、例えば、金属リチウムを含む第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とを備える。任意に、金属酸化物は、第1の電極の80重量%未満を含んでもよい。例示的な電解質には、溶媒中に溶解した金属塩、固体電解質、およびゲル電解質が含まれる。任意に、セパレータは、第1の電極と第2の電極との間に配置される。
【0020】
追加的に、または代替的に、それ自体が酸性であるかまたは有機酸などの酸性種を含むカソードまたはアノードなどの電極を含む電池も有益であり得、これもまた、電池技術における従来の教示に反する。例えば、酸性電極または電極内に酸性種を組み込んだ電池は、性能を向上させ、容量、サイクル性、および寿命の改善をもたらす可能性がある。最大100mAh/g以上の容量増加が達成可能である。電池のサイクル寿命はまた、例えば、電池のサイクル寿命が最大100サイクル以上延長される場合など、酸性電極または酸性種を含む電極を使用することによっても改善される可能性がある。一例として、酸性電極または酸性種を含む電極は、電極の成分が5重量%で水に懸濁させた(または乾燥後に水に再懸濁された)ときなど、7未満のpHを示す場合がある(が、超酸性ではない)。
【0021】
本開示に対応する電極は、導電性材料を含む第1の層のセットおよび金属酸化物を含む第2の層のセットを含む層状構造を含み得る。任意に、第1の層のセットおよび第2の層のセットは、交互の構成で提供されてもよい。任意に、第1の層のセットおよび第2の層のセットは、独立して1~20の層を含んでもよい。任意に、第1の層のセットおよび第2の層のセットは、独立して、1μm~50μmの間、2μm~25μmの間、3μm~20μmの間、4μm~15μmの間、または5μm~10μmの間の厚さを有する。任意に、金属酸化物は、5~90重量%の間の第2の層のセット、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、または90重量%などを含む。任意に、導電性材料およびバインダは、それぞれ独立して、5~90重量%の間の第1の層のセット、例えば、25、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、または90重量パーセントなどを含む。
【0022】
第1の電極は、第1の電極の最大95重量%、第1の電極の最大80重量%、第1の電極の最大70重量%、第1の電極の1~50重量%の間、第1の電極の1~33重量%の間、第1の電極の15~25重量%の間、第1の電極の55~70重量%の間、第1の電極の20~35重量%の間、第1の電極の5~15重量%の間の金属酸化物を任意に含む。第1の電極の金属酸化物重量パーセントの具体例には、1%、5%、11%、12%、13%、14%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、60%、61%、62%、63%、64%、65%などが含まれる。電極の担持量(金属酸化物のパーセント)は、1~95%、10~80%、20~70%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、または80~100%の範囲であってもよいが、これらに限定されない。様々な実施形態において、担持量値は、±1%、2%、5%、または10%変動し得る。任意に、導電性材料およびバインダは、それぞれ独立して、第1の電極の残りの大部分を含んでもよい。例えば、導電性材料およびバインダは、それぞれ独立して、第1の電極の10~74重量%の間を含む。任意に、導電性材料およびバインダは、それぞれ一緒になって、第1の電極の20~90重量%の間を含む。任意に、AMOナノ材料を、グラファイト、コバルト酸リチウムなどの従来のリチウムイオン電極に1~10重量%のドーパントとして添加する。
【0023】
本明細書に記載する電極には、様々な材料が有用である。例示的な金属酸化物には、リチウム含有酸化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ビスマス、またはこれらのいずれかの組合せが含まれるが、これらに限定されない。任意に、酸化物はAMOの形態である。本明細書に記載されるように、金属酸化物は、任意に、Cl、Br、BO3、SO4、PO4、NO3、CH3COO、C2O4、C2H2O4、C6H8O7、またはC6H5O7から選択される1つまたは複数の電子吸引基を含み、および/またはこれらの1つまたは複数の電子吸引基によって表面官能化される。例示的な導電性材料には、1つまたは複数のグラファイト、導電性カーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、または、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、PEDOT:PSS複合材料、ポリアニリン(PANI)、またはポリピロール(PPY)などの導電性ポリマがある。
【0024】
いくつかの実施形態では、AMOナノ材料を含む電極は、他の電極と組み合わせて使用され、セルを形成する。例えば、このようなセルの第2の電極は、グラファイト、金属リチウム、ナトリウム金属、コバルト酸リチウム、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、AMOナノ材料、またはこれらのいずれかの組合せを含んでもよい。特定の一実施形態では、第1の電極はSnO2(AMOまたは非AMO形態)を含み、第2の電極は金属リチウムを含む。
【0025】
本明細書に記載する電極には、様々な材料が有用である。例示的な金属酸化物には、リチウム含有酸化物、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ビスマス、またはこれらのいずれかの組合せが含まれるが、これらに限定されない。任意に、酸化物はAMOの形態である。本明細書に記載されるように、金属酸化物は、任意に、Cl、Br、BO3、SO4、PO4、NO3、CH3COO、C2O4、C2H2O4、C6H8O7、またはC6H5O7から選択される1つまたは複数の電子吸引基を含み、および/またはこれらの1つまたは複数の電子吸引基によって表面官能化される。導電性材料の例として、1つまたは複数のグラファイト、導電性カーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、または、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、PEDOT:PSS複合材料、ポリアニリン(PANI)、またはポリピロール(PPY)などの導電性ポリマがある。
【0026】
様々な実施形態において、大容量電池セルは、金属酸化物ナノ材料、導電性材料、およびバインダを含む第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とを含み、金属酸化物ナノ材料が第1の電極の5~15、20~35、または55~70重量%を含み、金属酸化物ナノ材料が0~15重量%の酸化鉄と85~100重量%の酸化スズを含む。いくつかの実施形態では、金属酸化物は、1つまたは複数の電子吸引基を含み、および/または1つまたは複数の電子吸引基によって表面官能化され、ここで、導電性材料は、グラファイト、導電性カーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、および、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、PEDOT:PSS複合材料、ポリアニリン(PANI)、またはポリピロール(PPY)などの導電性ポリマを含み、第2の電極は金属リチウムを含む(comprise)かまたは含む(include)。
【0027】
このような大容量電池セルは、故障することなく100~1000回の充放電サイクルのサイクル寿命を、および2V~4Vの間の組立て時における開回路電圧を示す場合がある。任意に、第1の電極は、導電性材料を含む第1の層のセットと金属酸化物ナノ材料を含む第2の層のセットを含む層状構造を備え、例えば、第1の層のセットおよび第2の層のセットは交互の構成で提供され、第1の層のセットは1~20の間の層を含み、第2の層のセットは1~20の層を含み、第1の層のセットおよび第2の層のセットは独立して1μm~50μmの厚さを有し、金属酸化物ナノ材料は5~70重量パーセントの間の第2の層のセットを含んでもよい。
【0028】
さらなる例として、スラリを使用して電極を形成した電池もまた有益であり得て、電池技術における従来の教示に反し得る。本明細書に記載されているように、金属酸化物は、任意に、1つまたは複数のバインダ化合物、溶媒、添加剤(例えば、導電性添加剤または酸性添加剤)、および/または他の湿式処理材料と一緒に、金属酸化物のスラリを最初に形成することによって、電池電極に形成してもよい。電極を形成するために、スラリを導電性材料または集電体上に堆積させてもよい。このようなスラリおよび/または溶媒は、任意に、酸性であってもよいし、または酸性種を含んでもよく、そしてまた、結果として得られる電池の容量、サイクル性、および寿命の改善が可能になる場合がある。任意に、溶媒の全部または一部を蒸発させて、金属酸化物材料、バインダ、添加剤などを残してもよい。結果として得られる材料(AMOを使用する場合)は、任意に、例えば5重量%の水に懸濁させた場合(または乾燥後に水に再懸濁させた場合)、7未満(ただし超酸性ではない)のpHを有するなど、それ自体の酸性度を示してもよい。
【0029】
金属酸化物を製造するために様々な技術を使用することができる。任意に、金属酸化物を製造することは、金属塩、エタノール、および水を含む溶液を形成することと、溶液に酸を加えて溶液を酸性化することと、溶液に水性塩基を加えて溶液を塩基性化させることと、溶液から沈殿物を収集することと、沈殿物を洗浄することと、沈殿物を乾燥させることとを含む。
【0030】
任意に、電極を製造することは、第2の導電性材料を含む導電層などの、電極層の上にさらなる導電層を堆積することをさらに含む。任意に、導電層を堆積させることは、第2の導電性材料、第2のバインダ、および第2の溶媒を使用して導電性スラリを形成することと、電極層上に導電性スラリ層を堆積させることと、導電層を形成するために第2の溶媒の少なくとも一部を蒸発させることとを含む。任意に、電極を製造することは、導電性材料を含む1~20個の追加の導電層および金属酸化物を含む1~20個の追加の電極層を形成することを含む。例えば、電極は、第2の導電材料を含む第1の層のセットおよび金属酸化物を含む第2の層のセットを含む層状構造を含んでもよく、例えば、第1の層のセットおよび第2の層のセットが交互の構成で提供される場合である。例示的な層は、1μm~50μmの間の厚さを独立して有する層を含む。例示的な層は、10~90重量%の間の金属酸化物を含む層を含む。例示的な層は、5~85重量%の間の導電性材料および/またはバインダを独立して含む層を含む。
【0031】
この態様の方法を使用して形成された電極は、最大80重量%の金属酸化物含有量を有してもよい。この態様の方法を使用して形成された電極は、電極の10~70重量%の間の導電性材料および/またはバインダ含有量を有してもよい。
【0032】
上記のように、電極または電解質などの電池のいずれかの構成要素に添加剤として酸性種を任意に含んでもよい。任意に、本開示による金属酸化物を含む電池は、酸性種が溶媒中に溶解されている電極間に配置された電解質を含んでもよい。このような電解質はまた、本明細書では酸性化電解質と称する場合がある。電解質は、任意に、溶媒中に溶解された1つまたは複数のリチウム塩、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、およびこれらの組合せを含んでもよい。電解質は、複数の電極を隔てる空間(即ち、電極間)に配置されてもよいだけでなく、電極の細孔を貫通またはその中へ侵入し、および/または任意の材料または電極間に配置されるセパレータなどの構造の細孔を貫通またはその中へ侵入できることが理解されるであろう。
【0033】
本明細書に記載のAMO、電極、および電解質に対して有用な例示的な酸性種には、カルボン酸などの有機酸が含まれるが、これらに限定されない。例示的な酸性種には、水中で-10~7の間、-5~6の間、1~6の間、1.2~5.6の間、または約4の酸解離定数pKaを示すものが含まれる。特定の例示的な有機酸には、例えば、シュウ酸、炭酸、クエン酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ギ酸、グルタル酸、コハク酸、メチルコハク酸、メチレンコハク酸、シトラコン酸、酢酸、安息香酸が含まれる。例示的な有機酸には、
【化1】
の化学式を有するものなどのジカルボン酸が含まれ、ここで、Rは、置換または非置換C1~C20炭化水素、例えば、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、非置換芳香族またはヘテロ芳香族、置換または非置換アミンなどである。例示的な有機酸には、
【化2】
の化学式を有するものも含まれ、ここで、Lは、置換または非置換C1~C20二価炭化水素、例えば、置換または非置換アルキレン基、置換または非置換アリーレン基、置換または非置換ヘテロアリーレン基、置換または非置換アミンなどである。有機酸には、
【化3】
の化学式を有するような有機酸無水物が含まれてもよく、ここで、R
1およびR
2は、置換または非置換C1-C20炭化水素、例えば、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換の芳香族またはヘテロ芳香族基、置換または非置換のアミンなどである。任意に、R
1およびR
2は、環を形成することができる。例示的な有機酸無水物には、上記の有機酸の任意の無水物が含まれる。特定の有機酸無水物には、グルタル酸無水物、無水コハク酸、メチルコハク酸無水物、無水マレイン酸、およびイタコン酸無水物が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
電解質およびAMO電極のいずれかまたは両方における酸性種の有用な濃度には、0重量%~10重量%、0.01重量%~10重量%、0.1重量%~10重量%、1重量%~5重量%、または3重量%~5重量%が含まれる。
【0035】
有用な溶媒には、リチウムイオン電池システムで使用されるものが含まれ、例えば、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよび混合物などがある。他の有用な溶媒については、当業者であれば理解されるであろう。任意に、酸性種および金属塩が溶媒中に溶解して電解質を形成する場合、電解質自体が酸性条件(即ち、pH7未満)を示す。
【0036】
本明細書に記載の電池および電極に対して有用な例示的なバインダには、スチレンブタジエンコポリマー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミドイミド(PAI)、およびこれらの任意の組合せが含まれる。任意に、導電性ポリマがバインダとして有用な場合がある。
【0037】
本明細書に記載のAMOおよび電極に対して有用な他の例示的な添加剤には、導電性添加剤が含まれるが、これらに限定されない。例示的な導電性添加剤には、グラファイト、導電性カーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、および導電性ポリマ、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、PEDOT:PSS複合材料、ポリアニリン(PANI)、およびポリピロール(PPY)などが含まれる。導電性添加剤は、例えば、電極中に、0より大きく35重量%、40重量%またはそれ以上の重量%などの任意の適切な濃度で存在してもよい。任意に、導電性添加剤は、電極中に、1重量%~95重量%、1重量%~35重量%、1重量%~25重量%、5重量%~40重量%、10重量%~40重量%、15重量%~40重量%、20重量%~40重量%、25重量%~40重量%、30重量%~40重量%、35重量%~40重量%、40重量%~45重量%、40重量%~50重量%、40重量%~55重量%、40重量%~60重量%、40重量%~65重量%、40重量%~70重量%、40重量%~75重量%、40重量%~80重量%、40重量%~85重量%、40重量%~90重量%、または40重量%~95重量%の範囲で存在する。
【0038】
電池の製造方法も本明細書に記載されている。電池を製造する例示的な方法は、金属酸化物ナノ材料を製造することと、ナノ材料の、またはそれを含む第1の電極を形成することと、1つまたは複数の金属塩を溶媒中に溶解して電解質を形成することと、電解質を第1の電極と第2の電極との間に配置することとを含む。電池を製造する別の例示的な方法は、金属酸化物ナノ材料を製造することと、ナノ材料と1つまたは複数の金属塩の、またはそれらを含む第1の電極を形成することと、電解質を第1の電極と第2の電極との間に配置することとを含む。
【0039】
電池内で使用するための電解質も本明細書に開示されている。例えば、開示された電解質は、第1の電極および第2の電極を備える電池において有用である。例示的な電解質は、溶媒と、溶媒中に溶解した1つまたは複数の金属塩とを含む。任意に、1つまたは複数の金属塩とは異なる酸性種などの酸性種を溶媒中に溶解する。
【0040】
上記のように、開示された電解質、例えば、有機酸および/または有機酸無水物を含む酸性種などにおいては、様々な酸性種が有用である。例示的な有機酸には、シュウ酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、メチルマロン酸、グルタル酸、コハク酸、メチルコハク酸、メチレンコハク酸、シトラコン酸、またはこれらのいずれかの組合せが含まれるが、これらに限定されない。例示的な有機酸無水物には、グルタル酸無水物、無水コハク酸、メチルコハク酸無水物、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、またはこれらのいずれかの組合せが含まれるが、これらに限定されない。他の酸性種の例は上記の通りである。有用な酸性種には、-10~7の間、-5~6の間、1~6の間、1.2~5.6の間、または約4のpKaを示すものが含まれるが、これらに限定されない。酸性種は、任意に、電解質中に任意の適切な濃度で、例えば、0.01重量%~10重量%、0.1重量%~10重量%、1重量%~5重量%、または3重量%~5重量%などで存在してもよい。
【0041】
LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム金属塩が、開示された酸性化電解質の有用な成分であり得ることが理解されるであろう。例示的な溶媒には、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。例示的な溶媒は、リチウムイオン電池などの金属イオン電池に有用である場合がある。
【0042】
本明細書に開示されるケミストリおよび電池構造に加えて、本開示の態様によって構築されたセルおよび電池を展開する新しい方法が提供される。本開示によれば、はるかに低い電圧で充放電を達成することができる。さらにまた、電池およびセルは、セルの公称電圧よりも大幅に低い電圧で、本質的にゼロまで安全に放電することができる。充放電の曲線と率は、安全に調和させて一致させることができる。本開示の電池またはセルが利用する負荷または電子機器が、有用性に対する唯一の現実的な制限となる。同様に、現在の放電電圧よりも大きい電圧が、事実上、どの電源からも利用可能である限り、充電が行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】例示的なリチウムイオン電池セルの簡略断面図である。
【
図2】電解質がセパレータによって実質的に含まれているリチウムイオン電池セルの別の簡略化された断面図である。
【
図3】複数のセルを含むリチウムイオン電池の概略図である。
【
図4】Liに対してサイクルされたとき、市販の非AMOスズと比較した、本明細書に開示された方法によって調製したAMOスズのサイクリックボルタモグラムの違いを示す。
【
図5】AMO酸化スズの全反射率が、市販の非AMO酸化スズの全反射率とは異なることを示している。
【
図6】は、本明細書に開示される合成方法から内因的に生じる表面官能基化を示すX線光電子分光法(XPS)データである。表示されている数値は、%単位の原子濃度である。右端の列は、水溶液中に5重量%で分散したときに測定された合成ナノ粒子の対応するpHをリストアップしている。
【
図7】官能化のために異なる基を使用することを除いて、同一の条件下で合成されたAMOナノ粒子間の形態の違いを示す電子顕微鏡写真画像を提供する。
【
図8】2つの異なる総反応時間を有することを除いて、同一の条件下で合成されたAMOナノ粒子の形態および性能の違いを示す。
【
図9】リチウムに対してサイクルしたときの球状AMOと細長い(針状または棒状)AMOとの間の挙動の違いを示す代表的なハーフセルデータである。
【
図10】強い(リン含有)電子吸引基および弱い(酢酸塩)電子吸引基の両方を使用して合成されたAMOナノ粒子の表面のX線光電子分光分析を提供し、アセテート基に関連する結合よりもリンの原子濃度が高いことを示す。
【
図11A】異なるAMOの可視光活性劣化データを示すデータを提供する。
【
図11B】異なるAMOの紫外線活性劣化データを示すデータを提供する。
【
図12】2つのAMOを比較するグラフであり、一方は一次(単回使用)電池用途で使用するためのより高い容量を有し、他方は二次(再充電可能)電池用途で使用するためのより高いサイクル性を有する。
【
図13】充放電容量データおよびクーロン効率データを提供し、AMOが、電池構成要素の劣化またはガス発生なしに、電池性能の向上をもたらすことができることを示す。
【
図14】標準、酸性化、および塩基性化電解質系におけるAMOの容量とサイクルデータを示す。
【
図15】AMO、および溶媒洗浄によって酸性化が除去された同じAMOの容量およびサイクルデータを示す。
【
図16】本開示に従って構築され、釘刺し試験を受けたセルの温度および電圧のプロットである。
【
図17A】本開示に従って構築され、過充電試験を受けたセルの温度および電圧のプロットである。
【
図18】本開示の態様による例示的なカソードの側面図である。
【
図19】本開示による構築技術と比較した、標準的な構築技術を使用した様々の金属酸化物のリチオ化容量を比較する棒グラフである。
【
図20】様々の電池ケミストリについてのいくつかの代表的な放電曲線を提供する。
【
図21】AMOスズに基づいた本開示に従って構築された電池セルの代表的な放電曲線である。
【
図22】非AMO材料に基づいた本開示に従って構築された電池セルの代表的な放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
定義
本開示の目的のために、以下の用語は以下の意味を有する。
【0045】
酸性酸化物-科学文献で一般的に使用される用語であり、非金属元素と酸素の二元化合物を指す。一例は二酸化炭素、CO2である。一部のメタロイド(例えば、Si、Te、Poなど)の酸化物も、純粋な分子状態で弱酸性の特性を有する。
【0046】
酸性化金属酸化物(「AMO」)-本明細書において用いられる用語であり、天然の鉱物学的状態よりも酸性度が高く、ハメット関数がH0>-12(超酸性ではない)となるように合成または変性された、酸素と金属元素との二元的な化合物を示す。平均粒径は、天然の鉱物学的状態での粒径よりも小さい。天然に存在する鉱物学的形態は、本発明のAMO材料の範囲に含まれない。しかしながら、合成金属酸化物は、最も豊富に天然に存在する鉱物学的形態(化学量論的には同等)よりも酸性が強いが超酸性ではなく、本開示の範囲内にあり、本開示において議論されている他の特定の条件を満たしている場合に、AMO材料であると言うことができる。
【0047】
酸性-科学文献で一般的に使用される用語で、水溶液中でpHが7未満の化合物を指す。
【0048】
電子吸引基(「EWG」)-電子密度をそれ自体に引き寄せる原子または分子基である。EWGの強度は、化学反応での既知の挙動に基づいている。例えば、ハロゲンは強いEWGであることが知られている。酢酸塩などの有機酸基は、電子吸引性が弱いことが知られている。
【0049】
ハメット関数-高濃度の酸性溶液および超酸の酸性度を定量化する追加の手段であり、酸性度は式H0=pKBH++log([B]/[BH+])によって定義される。このスケールでは、純粋な18.4モルのH2SO4は、H0値-12を有する。純粋な硫酸について値H0=-12をpH=-12と解釈してはならず、そうではなく、存在する酸性種が、弱塩基をプロトン化する能力によって測定される場合に、架空の(理想的な)濃度1012mol/LでH3O+と同等のプロトン化能力を有していることを意味する。ハメット酸性度関数は、その式において水を回避する。本明細書では、AMO材料と超酸とを区別する定量的手段を提供するために使用される。ハメット関数を、比色試薬試験および加熱発生ガス分析結果と相関させることができる。
【0050】
層状構造-本明細書で用いる場合、「層状構造」という用語は、少なくとも1つのインタフェースを挟んだ別々の材料堆積物(同じ材料であってもなくてもよい)からなる電池セルを意味する。インタフェースは、構築中に存在してもよいが、本明細書で指定されているように、最終製品では効果的に減少または排除される。
【0051】
低担持量-活物質または活物質を含む混合層であって、活物質は10重量%~80重量%の範囲の量が存在する。
【0052】
金属酸化物-科学文献で一般的に使用される用語で、金属元素と酸素の二元化合物を指す。周期律表でのその位置によって、金属酸化物は、その純粋な分子状態において弱塩基性から(酸性と塩基性の両方の特性を示す)両性にまで及ぶ。弱塩基性金属酸化物は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ルビジウム、ストロンチウム、インジウム、セシウム、バリウム、およびテルルの酸化物である。両性酸化物は、ベリリウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、アスタチン、スズ、アンチモン、鉛、およびビスマスの酸化物である。
【0053】
単分散-互いに実質的に分離しており、より大きな粒子の粒として凝集していない均一なサイズの粒子を特徴とする。
【0054】
pH-水溶液の酸性またはアルカリ性を特定するために科学文献で一般的に用いられる実用的な数値スケールである。これは、ヒドロニウムイオン[H3O+]の濃度の対数の負数である。本明細書で使用される場合、水溶液中に懸濁したナノ粒子の相対的な酸性度を記載する。
【0055】
表面官能化-材料の表面に小さな原子または分子の基が結合することである。
【0056】
超酸-100%のH2SO4よりも酸性で、ハメット関数H0<-12を有する物質である。
【0057】
本明細書では、大容量の電気化学セルおよびそのようなセル用の電極などのセル構成要素について説明する。開示された電気化学セルおよび電極は、AMOまたは非AMOナノ材料であってもよい金属酸化物を含み、そして大容量を示す。実施形態では、金属酸化物は、例えば30%未満の重量パーセントなど、電極内において比較的低い担持量(重量パーセント)で提供され、電極の残りの大部分は導電性材料およびバインダを含む。このような低担持量でも、AMOナノ材料の場合は、10,000mAh/gを超える容量が観察されている。電極は、層状または非層状の構成で提供されてもよい。層状構成の例には、AMOナノ材料を含む個別の層、および低担持量含有層またはAMO非含有層が含まれる。他の実施形態では、非AMO金属酸化物は、同じ異なる材料の他の非AMO金属酸化物と層状にされてもよい。さらなる実施形態では、層は、同じ層状構造内にAMOおよび非AMO金属酸化物の両方を含んでもよい。しかしながら、電極の層化は任意であり、層状電極と非層状電極の両方において大容量が観察される。
【0058】
ここで
図1を参照すると、リチウムイオン電池セル100が簡略化された断面図で示されている。セル100は、ケーシングまたは容器102を備えてもよい。いくつかの実施形態では、ケーシング102は、ポリマまたは合金である。ケーシング102は、セル100の内容物を、隣接するセルから、汚染から、および損傷またはセル100が設置されているデバイスの他の構成要素による損傷から、化学的および電気的に隔離する。完全な電池は、直列および/または並列構成で配置された複数のセルを含んでもよい。電池は、当技術分野で知られているように、複数のセルを一緒に結合するさらなるケーシングまたは固定機構をしてもよい。
【0059】
セル100は、カソード104およびアノード106を提供する。セル100の内容物は、カソード104とアノード106との間に、セル100の外部にある伝導経路が提供されると化学反応が起きる。化学反応の結果として、電子はアノード106で提供され、電池の外部に設けられた回路(負荷と呼ばれることもある)を介してカソード104に流れる。基本レベルでは、セル100の放電中に、回路を通って流れる電子を供給して、アノード106を含む材料が酸化される。アノード106によって放出される電子の受容体として、カソード104を含む材料は還元される。
【0060】
セル100内では、放電中に、金属カチオンは電解質108を通ってアノード106からカソード104に移動する。リチウム系電池の場合、金属カチオンはリチウムカチオン(Li+)であり得る。電解質108は、有機溶媒中のリチウム塩(例えば、エチレンカーボネート中のLiClO4)などの液体電解質であり得る。当技術分野で知られている他のリチウム系電解質/溶媒の組合せを使用してもよい。場合によっては、電解質108は、ポリエチレンオキシド中のリチウム塩などの固体電解質であり得る。任意に、電解質はポリマ電解質を含んでもよい。電解質の例には、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2017/0069931号に記載されている電解質が含まれる。
【0061】
電極104、106間の接触を防ぐために、セパレータ110を使用してもよい。セパレータ110は、セル100の内部短絡を防止するために、リチウムイオンおよび電解質108を透過するが、その他の点では導電性ではない多孔質層材料であってもよい。当技術分野で知られているように、セパレータ110は、ガラス繊維を含むか、または場合により半結晶構造を有するポリマを含んでもよい。集電体などの追加の構成要素もセル100に含まれてよいが、
図1には示されていない。
【0062】
アノード104、カソード106、電解質108、およびセパレータ110が一緒になって、完成したセル100を形成する。セパレータ110は多孔質であるため、電解質108は、セパレータ110に流れ込むか、またはセパレータ110に含まれ得る。通常の動作条件下では、セパレータ110が多孔質であることにより、イオン(Li+)が電解質108を介して電極104、106間を流れることが可能になる。当技術分野で知られているように、セパレータは、過剰な熱または暴走発熱反応にさらされた場合に、内部細孔構造を溶融させて閉鎖し、セルをシャットダウンするように構築することができる。
【0063】
ほとんどのリチウム系セルは、いわゆる二次電池である。二次電池は、セルの化学的または構造的完全性が許容限界を下回るまで、何度も放電および再充電することができる。本開示によるセルおよび電池は、一次電池(例えば、単回使用)および二次電池の両方であると見なされる。
【0064】
セル100が二次セル(または二次電池の一部)である場合、セル100は、単独で、または複数のセルが同時に(そして場合によっては同じ並列または直列回路内で)再充電される完全なシステムの構成要素として、再充電され得ることを理解するべきである。
【0065】
充電を行うために、セル100に逆電圧を印加する。リチウム電池を効果的に再充電するための様々のスキームを採用できることを理解すべきである。定電流、可変電流、定電圧、可変電圧、部分デューティサイクルなどを使用することができる。本開示は、特許請求の範囲に記載されていない限り、特定の充電方法に限定されることを意図するものではない。セル100の充電中、要素115は、カソード104とアノード106との間に印加し、カソード105からアノード106に電子を提供し、化学反応が起こることを可能にする電圧源を表す。リチウムイオンは、電解質108およびセパレータ110を通って、カソード104からアノード106に往復移動する。
【0066】
例として、カソード104またはアノード106は、本開示による金属酸化物を独立して含んでもよい。金属酸化物は、おそらく実質的に単分散であり、AMOまたは非AMOのいずれかの形態のナノ材料であり得る。AMO材料をカソードとして使用する場合、アノードは、リチウム金属またはグラファイトなどのリチウムインターカレーション材料に対応してもよい。非AMOカソードはまた、リチウム金属またはリチウムインターカレーション材料に対応し得るアノードと対にしてもよい。場合により、電解質108は、リチウム塩と共に有機溶媒に溶解させて、酸性種を含んでもよい。電解質108における酸性種の使用に加えて、またはその代替として、電極(即ち、カソード104またはアノード106)は、任意選択で、AMOおよび酸性種を含んでもよい。シュウ酸は例示的な酸性種である。
【0067】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、カソード104またはアノード106および/または電解質108中における酸性種の存在は、リチウムイオンに対するAMO材料の表面親和性を改善し、その結果、酸性種を含まない、または塩基性化電極または電解質(即ち、塩基性種を含む)を有する同様のセルと比較して、放電中にリチウムイオンを取り込む能力が改善され、かつ容量が全体的に改善されると考えられる。代替的または追加的に、酸性種の存在により、カソード104におけるリチウム取り込みのための追加の活性部位ができる可能性がある。
【0068】
図1は正確な縮尺ではないことを理解すべきである。
図2に示されるように、ほとんどの用途において、セパレータ110は、電極104、106間のスペースのほとんどまたは全てを占有し、電極104、106と接触している。このような場合、電解質108は、セパレータ110内に含まれる(ただし、アノードまたはカソードの細孔または表面に侵入することもある)。
図2もまた、必ずしも正確な縮尺ではない。セルの実際の幾何学的形状は、比較的薄くて平らなポーチから、キャニスタ型の構造、ボタン電池などにまで及ぶことができる。巻線型またはボビン型またはピン型のアセンブリなどのセル構築技術を使用してもよい。
【0069】
セル100を商業的に実行可能なパッケージに形成するために、当技術分野で知られている集電体および他の構成要素(図示せず)にもまた頼ることができる。全体の形状または幾何学的形状は変化することがあるが、セルまたは電池は、通常、ある位置または断面で、接触するのではなく分離した電極104、106を含み、これらの間に電解質108および場合によってはセパレータ110を有する。セルはまた、アノードおよびカソードの複数の層が存在するように構築してもよい。セルは、2つのカソードが単一のアノードの反対側にあるように、またはその逆になるように構築してもよい。
【0070】
特定の目的のために意図された機能的または動作可能な電池は、特定の用途のニーズに従って配置された複数のセルを備えてもよい。このような電池の例を
図3に概略的に示す。ここで、電池300は、電圧を増加させるために直列に配置された4つのリチウム電池100を含む。示されているスタックと並列に4つのセル100の追加のスタックを提供することにより、この電圧で容量を増やすことができる。直列に配置されたセル100の数を変えることにより、異なる電圧を達成することができる。
【0071】
正極306は、電池300のケーシング302の外側でアクセス可能であってもよい。負極304も設けられる。電極304、306の物理的形状因子は、用途によって変化する可能性がある。様々のバインダ、接着剤、テープ、および/または他の固定機構(図示せず)を電池ケーシング302内で使用して、他の構成要素を安定させることができる。リチウム技術に基づいた電池は、一般に、任意の方向でも動作可能、再充電可能、および貯蔵可能である(二次電池の場合)。上述のように、セル100は、様々の異なる幾何学的形状をとってもよい。したがって、
図3は、電池300の特定の物理的形状因子を表すことを意図するものではない。
【0072】
電池300はまた、電池300のケーシング302内に正極308とリチウム電池100との間に配置する様々な補助回路308を備えてもよい。他の実施形態では、補助回路を、正極306とリチウム電池100との間に配置すること代わりに、またはそれに加えて、負極304とリチウム電池100との間に配置する。補助回路308は、短絡保護、過充電保護、過熱シャットダウン、および電池300、セル100、および/または電池300に取り付けられた任意の負荷を保護するための当技術分野で知られている他の回路を含んでもよい。
【0073】
カソード104、アノード106、および電解質用に選択された材料の組成は、セル100およびそれがその一部を形成する任意の電池の性能にとって重要であり得る。本開示との関係において、AMOの様々な例およびそれらの製造方法が、この点に関して提供される。これらのAMOは、ハーフセル、セル、および電池におけるアノードまたはカソードの形成に使用するのに適している。本開示のAMOは、他の点では、既存のアノード組成物、カソード組成物、電解質配合物、およびセパレータ組成物を含む既知のリチウムセル技術に適合している。他の実施形態では、AMOの場合に利用されるのと同じまたは異なる製造、構築、または形成方法を使用することができるが、非AMO材料を使用してもよい。
【0074】
本開示によるセルまたは電池用に選択されたアノード106の材料は、カソード104の材料よりも電気陰性度が低く、カソード材料を適切に補完できることが理解されるであろう。1つの特定の実施形態では、開示されたAMOは、金属リチウムアノードを有するセル内のカソードとして有用である。
【0075】
本開示の様々の実施形態において、カソード104は、酸性であるが超酸性ではない表面を有するAMO材料を含む。これは、リチウムコバルトまたはリチウムマンガン材料などのカソードとして以前から知られ利用されている材料とは対照的であろう。本開示のAMO材料およびそれらの製造方法を以下に説明する。他の実施形態では、アノード106は、酸性であるが超酸性ではない表面を有する本開示のAMO材料を含む。
【0076】
金属酸化物の表面は、理想的には、金属中心および酸素中心の配列であり、酸化物の結晶構造に従って整列している。実際には、その配列は不完全であり、空孔、歪み、および表面付着の影響を受けやすい。とにかく、露出した金属中心は全てカチオン性であり(正に帯電)、電子を受け入れることができるため、定義によりルイス酸サイトとして機能する。酸素中心はアニオン性(負に帯電)であり、ルイス塩基サイトとして機能して電子を供与する。このことが、よく知られた金属酸化物表面の両向性につながる。
【0077】
通常の大気条件下では、存在する水蒸気が、分子状(水和)または解離状(ヒドロキシル化)のいずれかで金属酸化物表面に吸着する。OH-種とH+種の両方が酸化物表面に吸着することができる。負に帯電したヒドロキシル種は、金属のカチオン(ルイス酸、電子受容)中心に結合し、H+は酸素のアニオン(ルイス塩基、電子供与)中心に結合する。両方の吸着により、金属酸化物表面に同じ官能基-ヒドロキシル-が存在する。
【0078】
これらの表面のヒドロキシル基は、プロトンを放出するかまたは受容することができるので、ブレンステッド酸またはブレンステッド塩基のいずれかとして機能することができる。個々のヒドロキシル基がプロトン供与体またはプロトン受容体となる傾向は、それが結合している金属カチオンまたは酸素アニオンの配位によって影響を受ける。酸素空孔などの金属酸化物表面の欠陥、または他の化学種による表面基への配位は、全てのカチオンとアニオンが等しく配位されていないことを意味する。酸塩基サイトは、数および強度が異なる。酸化物の表面にわたって広く「合計」すると、これにより表面に全体的な酸性または塩基性の特性を与えることができる。
【0079】
ルイス酸点およびルイス塩基点(それぞれ露出した金属カチオンおよび酸素アニオンから)およびブレンステッド酸点およびブレンステッド塩基点(表面のヒドロキシル基から)の量と強度は-金属酸化物に幅広い実用性と機能性を与え、化学反応とデバイス応用の両方において金属酸化物が使用されている。これらの点は、金属酸化物の化学反応性に大きく寄与する。それらは、他の化学基、さらには追加の金属酸化物が結合することができるアンカー点として機能することができる。また、これらは、表面電荷、親水性、生体適合性に影響を与えることができる。
【0080】
金属酸化物の表面を変化させる1つの方法は、表面官能化として知られるプロセスにおいて小さな化学基または電子求引基(「EWG」)を結合することである。EWGは、水酸化物結合の分極を誘発し、水素の解離を促進する。例えば、より強力なEWGは、より分極した結合をもたらし、したがってより酸性のプロトンをもたらすはずである。ルイス点の酸性度は、当該点への電子の供与を促進する分極を誘発することによって高めることができる。そのように作られた化合物を水中に置くと、酸性プロトンが解離するため、水性pH測定値が低下する。
【0081】
液体の酸/塩基系ではなく固体の酸/塩基系を使用する場合、多少不正確ではあるが、滴定、pH試験紙、およびpHプローブを使用する従来のpH測定方法を使用して、水溶液中に分散した金属酸化物の酸性度を評価することができる。これらの測定値については、金属酸化物表面の酸性化した性質を確立するために、比色指示薬、赤外分光法、および温度プログラムされた脱着データを含むがこれらに限定されない技術を使用して補完することができる。表面基は、X線光電子分光法を含むがこれに限定されない標準的な分析技術によって調べることができる。
【0082】
表面官能化は、合成後に達成することができるが、これには金属酸化物を酸性溶液に曝すこと、または所望の官能基を含む蒸気に曝すことを含むが、これらに限定されない。それはまた、金属酸化物が所望の官能基を含む固体と混合および/または粉砕される固体法を介して達成することができる。しかしながら、これらの方法は全て、金属酸化物自体を合成するために必要な工程を超える、1つまたは複数の追加の表面官能化工程を必要とする。
【0083】
AMO材料の合成および表面官能化は、金属酸化物を適切な前駆体から合成しているときに金属酸化物の表面を官能化させる「シングルポット」水熱合成法またはその同等の方法で達成され得る。EWGを含む前駆体塩は可溶化され、得られた溶液は、第2のEWGを含む酸を使用して酸性化される。次に、この酸性化された溶液は塩基性化され、塩基性化された溶液は加熱されてから洗浄される。乾燥工程により、固体のAMO材料が生成される。
【0084】
例として、酸化スズのAMO形態の好ましい実施形態が、以下のシングルポット法を使用して合成され、同時に表面官能化された。
1.最初に、7グラム(7g)の塩化スズ(II)二水和物(SnCl2 2H2O)を、35mLの無水エタノールと77mLの蒸留水との溶液に溶解させる。
2.得られた溶液を30分間撹拌する。
3.7mLの1.2M HClを滴下によって添加して溶液を酸性化し、得られた溶液を15分間撹拌する。
4.1Mの水性塩基を溶液のpHが約8.5になるまで滴下によって添加して溶液を塩基性化する。
5.次に、得られた不透明な白色の懸濁液を、撹拌しながら少なくとも2時間、湯浴(約60~90℃)の中に置く。
6.次に、懸濁液を蒸留水で洗浄し、無水エタノールで洗浄する。
7.洗浄した懸濁液を100℃で1時間、空気中で乾燥させた後、200℃で4時間、空気中でアニーリングする。
【0085】
この方法により、塩素で表面官能化されたスズのAMOが得られ、このpHは、5重量%で室温の水溶液中に再懸濁して測定すると、約2である。定義上、そのハメット関数は、H0>-12である。ここではフラスコなどの開放系について説明しているが、オートクレーブなどの閉鎖系を使用してもよい。
【0086】
上記で開示されたシングルポット法を利用して、多くのAMOが合成された。以下の表1に、使用された前駆体と酸について記載する。場合によっては、ドーパントも利用する。
【表1】
ここで、Acは化学式C
2H
3O
2を有する酢酸塩基である。
【0087】
いくつかの実施形態において、電子求引基は、6以下の炭素鎖長および/または200以下の有機質量(AMU)を有する。いくつかの実施形態では、電子求引基は、8以下または10以下の炭素鎖長および/または500以下の有機質量を有する。
【0088】
本方法のパラメータは変更することできることが理解されるであろう。これらのパラメータには、試薬の種類と濃度、酸および塩基の種類と濃度、反応時間、温度および圧力、撹拌速度および時間、洗浄工程の回数と種類、乾燥および焼成の時間と温度、ならびに乾燥中および焼成中のガスへの曝露が含まれるが、これらに限定されない。変形形態は単独でも、あるいは任意の組合せでも、場合によっては実験計画法を用いて実施してもよい。さらに、他の金属酸化物合成法-例えば、噴霧熱分解法、気相成長法、電着法、固相法、および水熱プロセスまたはソルボサーマルプロセス法-は、ここに開示された方法と同じまたは同様の結果を達成するために有用である可能性がある。
【0089】
AMOナノ材料の調製には、様々なアニーリング条件が有用である。アニーリング温度の例は、300℃未満、例えば100℃~300℃であってもよい。アニーリング時間の例は、約1時間から約8時間、またはそれ以上の範囲であってもよい。アニーリングは、様々な大気条件下で行ってもよい。例えば、アニーリングは大気圧の空気中で行ってもよい。アニーリングは、高圧下(大気圧より高い)または減圧下(大気圧より低いまたは真空中)で行ってもよい。代替的に、アニーリングは、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、またはアルゴン)下、または酸化性ガス(例えば、酸素または水)の存在下など、制御された雰囲気中で行ってもよい。
【0090】
AMOナノ材料の調製には、様々な乾燥条件が有用である。乾燥温度の例は、50℃~150℃であってもよい。例示的な乾燥時間は、約0.5時間~約8時間以上の範囲であってもよい。乾燥は、様々な大気条件下で行ってもよい。例えば、乾燥は大気圧の空気中で行ってもよい。乾燥は、(大気圧より高い)高圧下で、または(大気圧より低いまたは真空中の)減圧下で行ってもよい。代替的に、乾燥は、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、またはアルゴン)下、または酸化性ガス(例えば、酸素または水)の存在下などの制御された雰囲気中で行ってもよい。
【0091】
本開示のAMOナノ材料の性能特性は、酸性化されていない金属酸化物ナノ粒子の性能特性とは異なる。一例として、
図4は、リチウムに対してサイクルされた場合の市販の非AMOスズのサイクリックボルタモグラムと比較した、シングルポット法によって調製されたAMOスズのサイクリックボルタモグラムの違いを示す。例えば、表面官能化AMO材料は、非AMO材料よりも優れた可逆性を示す。AMO材料のCVに明確なピークが存在することは、充電/放電中に複数の電子移動ステップが発生していることを示している可能性がある。例えば、より高い電圧でのピークはAMO材料の直接的な酸化/還元を示す可能性が、より低い電圧でのピークはAMO材料の材料構造の変化(即ち、合金化)に起因する可能性がある。
【0092】
別の例として、
図5は、AMO酸化スズの全反射率が、市販の非AMO酸化スズの全反射率とは異なることを示す。データは、AMOがより低いバンドギャップを有し、したがって、本開示によるアノードとしての使用に加えて、光起電システムの構成要素としてより望ましい特性を有することを示している。
【0093】
AMO材料は、一般式
MmOx/G
を有していると考えることができ、ここで、
MmOxは金属酸化物であり、mは1以上5以下、xは1以上21以下であり、
Gは水酸化物ではない少なくとも1つのEWGであり、
/は単に金属酸化物とEWGを区別しており、2つの間の一定の数学的関係や比率を示していない。
Gは、単一の種類のEWGを、または複数の種類のEWGを表してもよい。
【0094】
例示的なAMOは、酸性化酸化スズ(SnxOy)、酸性化二酸化チタン(TiaOb)、酸性化酸化鉄(FecOd)、および酸性化酸化ジルコニウム(ZreOf)である。例示的な電子吸引基(「EWG」)は、Cl、Br、BO3、SO4、PO4およびCH3COOである。本開示によれば、特定の金属またはEWGに関係なく、AMO材料は酸性であるが超酸性ではなく、水溶液中に5重量%で懸濁するとpH<7となり、少なくともその表面上でH0>-12のハメット関数を有する。
【0095】
AMO材料の構造は結晶質または非晶質(またはこれらの組合せ)であってもよく、単独で、または互いに組み合わせて複合材料として利用してもよく、非酸性化金属酸化物と、または当該技術分野で知られている他の添加剤、バインダまたは導電性補助剤と共に利用してもよい。言い換えれば、本開示のAMOを利用するように準備されたアノードは、他の材料を含んでも含まなくてもよい。一実施形態では、AMOを導電性材料上に積層して、カソード104を形成してもよい。いくつかの実施形態では、AMO材料は、10重量%~80重量%の範囲および90重量%~95重量%以上の範囲で、グラファイトまたは導電性カーボン(またはそれらの均等物)などの導電性補助材料に添加してもよい。好ましい実施形態では、AMOは、10重量%、33重量%、50重量%、および80重量%で添加される。
【0096】
利用可能な表面積全体の量を最大化するために、AMOはナノ微粒子の形態(即ち、サイズが1ミクロン未満)であり、実質的に単分散であるべきである。より好ましくは、ナノ粒子のサイズは100nm未満であり、さらにより好ましくは、20nm未満または10nm未満である。それにもかかわらず、非AMO金属酸化物を利用する他の実施形態では、材料はナノ粒子形態であり得、実質的に単分散であり得る。この場合も、ナノ粒子のサイズは、100nm未満、好ましくは20nm未満または10nm未満であり得る。
【0097】
単一の酸化物または二元酸化物に加えて別の金属または金属酸化物が存在する混合金属AMOは、ハーフセル、セル、および電池で利用されるアノードを形成するために実用化された。これらの混合金属AMOは、一般式
MmNnOx/GおよびMmNnRrOx/G
を有していると考えることができ、ここで、
Mは金属であり、mは1以上5以下であり、
Nは金属であり、nはゼロより大きく5以下であり、
Rは金属であり、rはゼロより大きく5以下であり、
Oは全ての金属に関連する合計した酸素であり、xは1以上21以下であり、
/は単に金属酸化物と電子求引性表面基を区別しており、2つの間に一定の数学的関係や比率を示しておらず、
Gは水酸化物ではない少なくとも1つのEWGである。
Gは、単一の種類のEWGを、または複数の種類のEWGを表してもよい。
【0098】
ゼオライトが最も顕著な例であるいくつかの先行技術の混合金属酸化物系は、強い酸性度を示すが、単純酸化物それぞれは強い酸性度を示さない。本開示の混合金属AMOの好ましい実施形態は、任意の実施形態が、単純なMmOx/G形態で酸性(しかし超酸性ではない)である少なくとも1つのAMOを含まなければならないという点で、先行技術の混合金属酸化物系とは異なる。好ましい混合金属および金属酸化物系は、SnxFecOy+dおよびSnxTiaOy+bであり、ここで、y+dおよびy+bは、整数値または非整数値であってもよい。
【0099】
別の実施形態では、混合金属AMO材料は、1つの変更を伴うシングルポット法によって製造されるが、合成は、1つではなく2つの金属前駆体塩を任意の割合で用いて開始される。例えば、シングルポット法の工程1は、次のように変更してもよく、最初に、3.8gの塩化スズ(II)二水和物(SnCl2 2H2O)および0.2gの塩化リチウム(LiCl)を、20mLの無水エタノールと44mLの蒸留水の溶液に溶解させる。
【0100】
表1に示されるような金属前駆体塩もまた、任意の割合で使用することができる。金属前駆体塩は、所望の生成物に応じて、同一のまたは異なるアニオン基を有する可能性があり、合成中の異なる時点で導入することができ、または固体として導入することも、溶媒中に導入することもできる。いくつかの実施形態では、第1の金属前駆体塩を、得られるAMOの一次構造(即ち、より大きな割合)に使用してもよく、第2(および場合により第3)の金属前駆体塩を、得られるAMOのドーパントまたは微量成分として添加してもよい。
【0101】
シングルポット法を用いた実験により、7つの注目すべき知見がもたらされた。第一に、全てのケースにおいて、表面の官能化と酸性度の両方が、合成後に生じるのではなく、内因的に生み出される(
図6を参照)。先行技術の表面官能基化法とは異なり、シングルポット法は、金属酸化物自体を合成するために必要なものを超える表面官能基化のための追加の1つまたは複数の工程を必要とせず、またヒドロキシル含有有機化合物または過酸化水素を利用しない。
【0102】
第二に、この方法は広範囲の金属酸化物およびEWGにわたって広く一般化することができる。本開示の方法を使用して、鉄、スズ、アンチモン、ビスマス、チタン、ジルコニウム、マンガン、およびインジウムの金属酸化物を合成し、同時に塩化物、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、および臭化物を用いて表面官能化させた。スズと鉄、スズとマンガン、スズとマンガンと鉄、スズとチタン、インジウムとスズ、アンチモンとスズ、アルミニウムとスズ、リチウムと鉄、リチウムとスズの混合金属AMOも合成された。さらに、表面の官能化は、ハロゲンやSO4よりも弱いEWGを用いて実現できるが、それでも酸性であるが超酸性ではない表面を生成させることができる。例えば、この方法は、酢酸塩(CH3COO)、シュウ酸塩(C2O4)、およびクエン酸塩(C6H5O7)を用いて表面官能化されたAMOの合成にも使用された。様々な例を以下に説明する。
【0103】
第三に、EWGとナノ粒子の他の特性、例えば、サイズ、形態(例えば、板状、球状、針状または棒状など)、酸化状態、結晶化度(非晶質、結晶性、またはこれらの混合物)の間には相乗的な関係がある。例えば、表面官能化のために異なるEWGを使用することを除いて、同一の条件下で合成されたAMOナノ粒子間において、形態の違いが発生する可能性がある(
図7を参照)。表面官能化は、ナノ粒子の寸法を「固定」して、それらの成長を停止させるように作用し得る。この固定作用は、正確な合成条件に応じて、ナノ粒子の1つの寸法でのみ発生する場合があり、または2つ以上の寸法で発生する場合がある。
【0104】
第4に、AMOの特性は、合成条件と手順に非常に敏感である。例えば、2つの異なる総反応時間を有することを除いて、同じ条件下で合成された場合、AMOナノ粒子の形態および性能の違いが発生する可能性がある(
図8および9を参照)。実験計画法を使用して、最善または最適な合成条件と手順を決定し、所望の特性または一連の特性を生み出すことができる。
【0105】
第五に、前駆体塩に存在するアニオンと酸に存在するアニオンの両方が、AMOの表面官能化に寄与する。好ましい一実施形態では、スズのAMOの合成には、塩化スズ前駆体および塩酸が使用される。これらの粒子の性能は、塩化スズ前駆体および硫酸を使用した実施形態、または硫酸スズ前駆体および塩酸を使用した実施形態とは異なる。したがって、いくつかの実施形態では、前駆体アニオンと酸性アニオンとを一致させることが好ましい。
【0106】
第六に、弱いEWGの前駆体と強いEWGの酸、またはその逆の場合、強い吸引性をもつアニオンが表面官能化を支配する。これにより、より広範な合成の可能性が開かれ、前駆体塩と酸の両方で容易に利用できないイオンを用いた官能基化が可能になる。また、強いEWGと弱いEWGの両方を用いた混合官能化も可能である。一例では、酢酸スズ前駆体とリン酸を使用してスズのAMOを合成する。表面のX線光電子分光分析は、酢酸塩基に関連する結合よりもリンの原子濃度が高いことを示す(
図10を参照)。
【0107】
第7に、そして最後に、開示された方法はAMOの合成の一般的な手順であるが、合成手順および条件を、様々な用途に望ましいと思われるサイズ、形態、酸化状態、および結晶状態をもたらすように調整してもよい。一例として、触媒用途では、可視光でより活性のあるAMO材料(
図11A参照)、または紫外線でより活性のあるAMO材料(
図11B参照)が望まれる可能性を有する。
【0108】
別の例では、AMO材料を電池電極として使用してもよい。一次(単回使用)電池の用途においては、最大容量をもたらす特性を有するAMOを必要とする可能性があるのに対して、二次(充電式)電池の用途においては、同じAMOであるが最高のサイクル性をもたらす特性を有するAMOを必要とする可能性がある。
図12は、塩素含有AMOおよび硫黄含有AMOを含む、AMO材料で構築された2つの異なる電池のサイクル性を比較している。AMO材料は、電池構成要素の劣化またはガスの発生なしに、電池性能を向上させることができる(
図13を参照)。これは、先行技術が教示することとは正反対である。
【0109】
図13には、AMOナノ材料電極対リチウム金属のハーフセルとして構築された電池の充放電サイクル性を示し、これは、有効容量および非常に優れたクーロン効率を維持しながら、最大900回の充放電サイクルというサイクル性を示している。リチウム金属は、サイクル数が少ない場合でもデンドライトを成長させることが知られており、膨張して電池セルの危険で壊滅的な故障を引き起こす可能性があるため、このような長いサイクル性は、特にリチウム金属参照電極に対して例外的である。
【0110】
本開示によれば、完全なセルにおいて、開示されたAMOを含むアノード106は、既知の電解質108およびコバルト酸リチウム(LiCoO2)などの既知の材料を含むカソード104と共に利用することができる。同様に、セパレータ110を含む材料は、当該技術分野で現在知られているものから引き出すことができる。別の実施形態では、アノード106は既知の電解質108を有する開示された非AMO金属酸化物を含み、カソード104は既知の材料を含み、および/または既知の方法に従って構築されてもよい。
【0111】
完全なセルにおいて、開示されたAMOを含むカソード104は、本開示のAMOよりも低い電気陰性度を示す既知の電解質108および銅箔上の炭素などの既知の材料を含むアノード106と共に利用することができる。同様に、セパレータ110および電解質108を含む材料は、上記で議論したように、当該技術分野で現在知られているものから引き出すことができる。別の実施形態では、カソード104は、既知の電解質108を有する開示された非AMO金属酸化物を含み、アノード106は、既知の材料を含み、および/または既知の方法に従って構築されてもよい。
【0112】
様々な層化および他の強化技術を展開して、セル100に電力供給するためのリチウムイオンを保持する能力を最大化することができる。本開示による電池は、二次(例えば、充電式)電池として展開できるが、一次電池としても機能することができることも理解されるべきである。本開示のアノードおよびカソードは、可逆的電池ケミストリに適しているが、本明細書に記載されるように構築されたセルまたは電池は、一次セルまたは電池として十分に展開することができる。
【0113】
電池業界では、「フォーメーション」という言葉は、電池が使用可能になる前に製造施設で実行される電池の初期充電または放電を示すために使用される。フォーメーションプロセスは一般に非常に遅く、製造されたままの活物質を、セルサイクルのためにより利用しやすい形態に変換することに向けられた複数のサイクルを必要とする場合がある。これらの変換は、活物質の構造、形態、結晶化度、および/または化学量論の変更であってもよい。
【0114】
本開示に従って構築されたセルおよび電池は、いくつかの実施形態では、初期形成を必要とせず、したがって、一次セルまたは電池としてすぐに使用することができる。他の場合には、限定的フォーメーションまたは迅速フォーメーションを使用してもよい。さらに、安全性の問題が電池サイクル中により頻繁に発生することが当該技術分野で知られているので、本開示のセルおよび電池を再充電することを目的としない一次電池として展開することにより、リチウム電池ケミストリに固有である可能性がある安全性の問題のいくつかが軽減される。しかしながら、初期の一次放電に続いて、本明細書に開示されるセルおよび電池は、任意に、最大で数十、数百、または数千サイクルなどの多くの充放電サイクルを受ける可能性がある二次電池システムとしての使用に適している。
【0115】
本開示による他の実施形態では、カソード104は、非AMO形態の酸化スズ(SnO2)のナノ粒子を含む。酸化スズナノ粒子は、実質的に単分散であり得る。本開示の実施形態によれば、二酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(FeO、Fe2O3、Fe3O4)、または別の金属酸化物を酸化スズの代わりに使用してもよい。既知の電解質108、アノード106、およびセパレータ110、または本開示に他の方法で記載されているものは、このような実施形態で利用することができる。
【0116】
本開示のAMOおよび非AMO金属酸化物を使用して、他の電池構造が可能であることは理解されるであろう。例えば、電池は、本開示の金属酸化物(おそらく単分散ナノ粒子形態)を含む第1の電極、第2の電極、および第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質を備えてもよい。一例として、リチウムイオン電池では、第1の電極は、カソードまたはアノードとして動作してもよい。例えば、カソードとして動作する場合、第2の電極は、リチウム金属、グラファイト、または別の陽極材料に対応し得る。別の例として、アノードとして動作する場合、第2の電極は、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、または別のカソード材料に対応し得る。第2の電極に有用な材料には、グラファイト、リチウム金属、ナトリウム金属、リチウムコバルト酸化物、チタン酸リチウム、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、またはこれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
本明細書に開示されるAMO材料を、ドーパントとして、電極内のAMO材料の、0.01重量%~10重量%の間の量、または例えば、約1重量%、5重量%または10重量%の量などで、従来のリチウムイオン電池のアノードおよび/またはカソードに、添加してもよいことが理解されるであろう。開示されたAMO材料は、リチウム原子を貯蔵する信じ難いほどの容量を提供し、これらの材料を従来のリチウムイオン電池電極に追加することによって、これらの複合材料の能力を提供する。特定の一例として、電極は、LiCoO2およびAMOを含む。別の例として、電極は、グラファイトなどの炭素質材料およびAMOを含む。
【0118】
本開示の金属酸化物は、任意に、バインダ、酸性電解質、または酸性電解質添加剤などの酸性成分と共に使用してもよい。本開示の金属酸化物は、アノード、カソード、ハーフセル、完全セル、一体型電池、またはその他の構成要素に関連していてもよい。本発明者らは、驚くべきことに、AMO材料を含む電池に、有機酸または有機酸無水物などの酸性成分および/または酸性種を含めると、酸性種を含まない電池と比較して容量が増加することを発見した。これらの酸性種は、金属集電体およびハウジングを劣化させ、他の電極構成要素の劣化を引き起こす可能性があるので、この場合も、先行技術は酸性種の使用に反対することを教示している。
【0119】
図14に示すように、
図14は、標準電解質を有する、塩基性電解質を有する、および酸性化電解質を有するということを除いて、同じ材料および構造で形成されたAMO系電池のサイクル性の比較データを提供する。電池には以下の構造が含まれていた、即ち、全てのカソードには同じAMO材料が含まれていた、全てのアノードはリチウム金属であった、標準電解質は1MのLiPF
6を含むジメチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとの1:1:1の混合物であった、酸性化電解質は3重量%の無水コハク酸を含む標準電解質であった、塩基性電解質は3重量%のジメチルアセトアミドを含む標準電解質であった。全ての電池は同じ放電率でサイクルした。図示のように、酸性電解質システムを備えた電池は、最高のサイクル能力を示し、最大のサイクル回数にわたって最高の容量を維持する。
【0120】
図15は、酸性電解質を含み、一方の電池のAMO材料を溶媒で洗浄することによって脱酸させることを除いて、同じ電池構造を有する2つの異なる電池に関する追加のサイクル性比較データを提供する。電池には次のような構造が含まれていた、即ち、カソードにはAMO材料が含まれていた、電解質は1MのLiPF
6および3重量%の無水コハク酸を含むジメチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとエチレンカーボネートとの1:1:1の混合物であった、アノードはリチウム金属であった。電池は同じ放電率でサイクルした。酸性化AMO材料を備えた電池は、サイクル回数に対して容量保持率が高いことを示し、これは、AMOの酸性化された表面が酸性化電解質と相互作用し、性能が向上することを示している。
【0121】
現時点では、リチウム電池は特定の状況において安全上のリスクであると認識されている。例えば、航空会社の規制では、現在、貨物倉に持ち込まれるリチウム電池の部分放電が義務付けている。リチウム電池を使用するデバイスにおいて、暴走発熱反応から生じる火災が報告されている。さらにまた、一般的に配備されている消火システムおよび消火装置では、リチウム火災を消火するのは困難であり得る。これらの理由から、金属リチウムではなくリチウム含有化合物が多くの商用電池セルで使用されている。
【0122】
しかしながら、リチウム金属ではなくリチウム含有化合物をアノードで使用すると、放電時に反応してカソードへの吸収に利用できるリチウムの量が制限される可能性があり、その結果、このようなセルの容量も制限される可能性がある。しかしながら、現在開示されたAMO材料は、放電中に多くのリチウムを取り込むだけでなく、安全特性も向上していることを示す。例えば、カソードおよびリチウム金属電極にAMO材料を含む電池セルを、釘刺し試験、短絡試験、過電圧試験などの安全性試験にかけたところ、セルは良好に機能し、火災または爆発の許容できないリスクをもたらすようには見えない。これは、AMOがセルまたは電池内のリチウム金属を不動態化するためである可能性がある。固体または純粋なリチウムをアノードとして使用しても、本開示のAMOをカソードとして使用するデバイスは、火災または爆発の許容できないリスクをもたらすようには見えない。新規の安全性の結果はまた、本開示に従って構築されたセルの低い動作電圧に起因する可能性があり、この動作電圧は、いくつかの実施形態では、従来のリチウムイオン動作電圧>3.0Vと比較して<1.5Vである。
【0123】
本開示によるAMO(SnO2)を含むカソードを備えたいくつかのセルを構築した。カソードは、AMO(SnO2)、ケッチェンブラック(KB)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびポリアリールアミド(PAA)の体積比63/10/26.1/0.9の組成物から調製された。この組成物の両面層は、片面あたり4mg/cm2で調製された。これらの層のうちの6つがカソードを構成した。調製されたカソードの面積は、9×4cm2であった。セパレータはTargray Technology International,Inc.から入手し、25μmの厚さのポリプロピレン層で構成されていた。セパレータの面積は9.4×4.4cm2であった。電解質は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、およびジメチルカーボネートの体積比1/1/1の溶媒中の1MのLiPF6から調製された。アノードは、面積9.2×4.2cm2、厚さ50μmのリチウム金属層であった。
【0124】
構築されたセルのうち2つを、安全性試験の前に放電し、これらのセルの実際の容量は1.7Ah、比容量は1575mAh/g SnO2であることがわかった。
【0125】
図16は、上記のように構築され、釘刺し試験を受けたセルの温度および電圧のプロットである。試験は室温で実施され、事象(例えば、火災)は観察されなかった。温度と電圧が安定していることもわかる。
【0126】
図17Aは、上記のように構築され、過充電試験を受けたセルの温度および電圧のプロットである。1Aの電流が流された。セルからの若干のガス発生を除けば、試験期間にわたって有害事象は観察されなかった。
図17Bは、試験の開始に焦点を合わせた
図17Aの過充電試験のプロットである。
【0127】
侵入テストの目的で構築された例は、本明細書の開示全体に関して限定することを意図していないことを理解すべきである。様々なサイズ、容量、および材料のセルおよび電池は、本開示に従って構築され得る。本開示のAMOを利用すると、このような安全性が最終的にリチウム不動態化、より低い電圧、または他の要因によるものであるかどうかにかかわらず、このような電池は、本明細書で実証される安全性の向上の利益を享受するであろう。
【0128】
カソードとしてAMO材料を、電極としてリチウムを組み込んで構築された電気化学セルの実施形態では、壊滅的かつ破壊的な故障をもたらすことなく、最大900回以上の充放電サイクルをうまく行うことが試験されている。別の言い方をすれば、カソードとしてAMO材料を、電極としてリチウムを組み込んで構築された電気化学セルの実施形態では、最大900回以上の充放電サイクルをうまく行い、依然として電荷を保持し、有用な容量を維持することが試験されている。
【0129】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、リチウム電池におけるAMO系のカソード材料を使用することにより提供される安全性の向上は、AMO材料が金属リチウムを不動態化し、樹枝状結晶の形成を防止する能力から生じる可能性がある。本発明者らは、サイクル時に、金属リチウムアノードが成長するようにも、樹枝状結晶を形成したりするようにも見えなかったが、金属リチウムアノードが、より柔らかく、より低い結晶性の構造を呈することを観察した。いくつかの実施形態では、金属リチウムアノードは、本明細書に記載の電気化学セルの構成要素としてサイクルなどによって不動態化され、次いで、電気化学セルから除去され、異なるカソードを備えた新しい電気化学セルの電極として使用されてもよい。さらに、本開示に従って構築されたセルは、1~2ボルトの間などの低い動作電圧を利用し、これは、通常、約3~4.2ボルトで動作するリチウム電池またはリチウムイオン電池セルの典型的な電圧とは対照的である。このような動作電圧の差が、開示されたセルの安全性を部分的に説明している可能性がある。
【0130】
本開示によるアノードとしてリチウムを使用するセルまたは電池の構築に関して、いくつかの実施形態では、アノード全体(100%)は金属リチウムである。アノードのごく僅かな割合が、測定できるような形でセルまたは電池の性能に影響を及ぼさない微量元素および不純物を含む可能性があるという点で、金属リチウムは実質的に純粋であればよい。様々な実施形態において、アノードは、少なくとも50%、55%、60%、65%、75%、80%、85%、90%、または95%の金属リチウムを含む。
【0131】
本開示の目的のために、「金属リチウム」という用語は、その中性原子状態(即ち、非イオン状態)のリチウムを指す。金属リチウムという用語は、リチウムイオンおよびリチウム化合物を含む他の形態のリチウムと区別することを目的としている。金属リチウムという用語は、リチウムと他の元素、化合物、または物質との混合物など、リチウム原子を含む混合物中に存在する中性原子リチウムを指す場合がある。金属リチウムという用語は、リチウムおよび1つまたは複数の他の金属を含む金属混合物などのリチウム合金中に存在する中性原子リチウムを指す場合がある。金属リチウムという用語は、リチウムおよび1つまたは複数の他の材料を含む複合構造に存在する中性原子リチウムを指す場合がある。金属リチウムを含む(comprising)かまたは含む(including)電極は、リチウム以外に他の材料を含んでもよいが、金属リチウムがこのような電極の活物質に対応し得ることが理解されるであろう。場合によっては、電気化学セルのアノードは金属リチウムを含む。
【0132】
本開示の目的のために、金属リチウムは、(少なくとも電池またはセルの構築時に)化合物を形成するために他のどの元素とも反応しないリチウムを意味すると解釈され得る。いくつかの実施形態では、アノードの一部分は金属リチウムであり得るが、アノードの一部分は、他の元素と反応してリチウム化合物を形成する様々な割合のリチウムを含むリチウム化合物であり得る。金属リチウムは、アノードのリチウム化合物部分に対して、アノード上またはアノード内で幾何学的に分離されるように配置することができる。
【0133】
ここで
図18を参照すると、本開示の態様によるカソード1800の斜視図を示す。
図18は正確な縮尺ではない。カソード1800は、AMO形態の33.3%のSnO
2を含む。AMOは上記の方法で調製した。NMP溶媒を使用してケッチェンブラックEC-300J(SA:約800m2/g)のスラリを調製し、厚さ10μmの銅箔1802上にコーティングして、炭素層1804を形成した。スラリ組成は、80重量%のケッチェンブラックおよび20重量%のPVDFであった。コーティングされたテープを真空オーブン内で100℃で乾燥させた。
【0134】
SnO2(AMO)、ケッチェンブラックおよびPVDFをそれぞれ33.3重量%混合し、NMP溶媒を添加してスラリを調製し、ケッチェンブラックコーティング銅箔(1802、1804)の一部上にコーティングして、カーボン/SnO2層1806を形成した。得られたテープを真空オーブンで100℃で(一晩)乾燥させ、室温でカレンダ処理した。テープの厚さは、SnO2コーティング領域およびケッチェンブラック(のみ)コーティング領域でマイクロメータを使用して測定された。ケッチェンブラック層1804の厚さは約8μmであり、電極層1806の厚さは約2μmである。箔層1802は約10μmであり、この結果、カソード1800の総厚は約18μmである。
【0135】
カレンダテープは、ケッチェンブラック(のみ)領域およびSnO2コーティング領域で円形ディスクに打ち抜かれた。ケッチェンブラックディスクの重量をSnO2ディスクから差し引いて、電極材料の総質量を求めた。試験された1つのセルタイプの場合では、電極材料の総質量は0.0005g(ケッチェンブラックディスク重量を差し引いた後)であり、活物質含有量は0.000167g(総質量の33.3%)である。
【0136】
カソード1800のいくつかの重要な要素は、(1)カーボンアンダーコートを使用した層化、(2)アンダーコートおよびトップコートの両方でのケッチェンブラック高表面積カーボンの使用、(3)33%活物質トップコート、および(4)薄い(約2μm)トップコート層である。これらのパラメータは全て、さらに開発され得る。
【0137】
いくつかの実施形態では、ケッチェンブラック以外の炭素が使用される。PVDF以外のバインダを使用してもよい。カソードは、1つまたは複数の層で構築されてもよい。活物質の割合は、33%より多い場合も少ない場合がある。1つまたは複数の層の厚さは、2μmより厚い場合または薄い場合がある。様々な集電体を使用して、セル構造を最適化してもよい。
【0138】
上記の例は、従来、最適な性能および容量を促進すると考えられていたよりも電極内の活物質担持量が低い一例を提供することをすべきである。前述の通り、活性担持量の従来の選好は、90%、95%であり、または可能な場合はそれを超える。本実施形態によれば、活性担持量は80%w/w未満であり得る。いくつかの実施形態では、活性担持量の割合の計算は、電極の様々の導電層を含む総活性担持量であってもよい。例えば、33%のより高い(ただし、先行技術の教示によれば依然として低い)活物質担持量を有する層は、活物質をほとんどまたは全く含まない導電層と組み合わせた場合、電極全体の総活性担持量の23%を提供し得る。様々な実施形態では、電極の総活物質担持量は、最大63%未満である。別の実施形態では、活物質担持量は、合計で23%~33%の間である。さらに別の実施形態では、活物質担持量は、合計で11%~14%の間である。
【0139】
本開示による材料(例えば、AMO SnO2)によって示される比エネルギー密度は、化石燃料のものと同等である。これは、先行技術の科学文献によって不可能であるとされている。本開示の方法に従って電極および電池として構築された場合、非AMO金属酸化物(例えば、酸化スズ、二酸化チタン、および/または酸化鉄)でも同じ効果が観察される。これは、これらの材料の活物質としての動作メカニズムが、現在知られているものや教えられているものとは異なることを示唆している。
【0140】
本明細書に記載されるように、非AMO金属酸化物は、先行技術によって教示されるよりも実質的に低い活物質負荷を有する電極として構築され得る。例えば、能動的負荷は、50重量%未満、例えば、30~40重量%、20~25重量%、または特に21重量%または33重量%であり得る。電極の形成は、所望の厚さに達するまで活物質の複数の層を繰り返し適用することによって行うことができる。導電性カーボンを活物質と層状にすることもできる。導電性カーボンは、活物質と同じまたは異なる担持量密度で適用することができる。例えば、活物質および導電性カーボンの両方が、20~25重量%、例えば、21重量%で存在し得る。いくつかの実施形態では、複数の薄い層に活物質を適用すると、単一のより厚い層よりも性能が向上することが判明している。
【0141】
ここで
図19を参照すると、標準的な構築技術を使用した様々な金属酸化物のリチオ化容量を、本開示による構築技術と比較した棒グラフが示されている。AMO酸化スズ、AMO酸化鉄、および非AMO酸化スズには、第一に高活物質担持量およびその他の標準的な構築技術が使用された。AMO酸化スズの粒径は5nmのオーダーであった。非AMO酸化スズの粒径は20nmのオーダーであった。
【0142】
AMO酸化スズを標準的な構築技術を用いると、約2000mAh/gのリチオ化容量が得られた。ナノ粒子導電性カーボン(約21重量%)を用いた層状配置で、より低い活物質担持量(例えば、約21重量%)を有する電極として構築された場合、リチオ化容量は10,000mAh/gを超えるまで増加した。同じ試験を受けたAMO酸化鉄を使用した場合、2000mAh/g弱から約8000mAh/gに増加した。驚くべきことに、非AMO酸化スズも2000mAh/g未満から6000mAh/g以上に増加した。大容量構築法による平均増加率は約314%であった。
【0143】
電池性能は、端子間に電位を生成する基本的なケミストリによって大きく左右されるが、それだけではない。ほとんどの電池または電池セルは、「S」字形の放電曲線を描く。安定した負荷または放電率では、最初のやや急勾配の電圧降下が観察され、その後、電池が放電するにつれて電圧降下が緩やかになる。電池の有効充電の終わり近くで、さらに急勾配で急激な第2の電圧低下が観察される。この現象は、アルカリ電池(Zn/MnO
2)、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池について
図20にプロットされた放電曲線の例で観察できる。もちろん、これは、S字形の放電曲線を持つ電池ケミストリのリストや、比較的高いカットオフ電圧を持つ電池ケミストリのリストを網羅しているわけではない。本開示のケミストリに従って観察されたカットオフ電圧を超えるカットオフ電圧を有する既知のケミストリには、鉛酸(1.75V)、亜鉛炭素(0.75~9.0V)、亜鉛空気(0.9V)、酸化水銀亜鉛(0.9V)、アルカリ(0.9V)、充電式アルカリ(0.9V)、酸化銀(1.2V)、ニッケル亜鉛(0.9V)、ニッケル鉄(0.75V)、ニッケルカドミウム(0.9~1.05V)、ニッケル水素(1.0V)、ニッケル金属水素化物(0.9~1.05V)、低自己放電ニッケル金属水素化物(0.9~1.05)、二酸化リチウムマンガン(2.0V)、一フッ化リチウム炭素(2.0V)、二硫化リチウム鉄(0.9V)、コバルト酸リチウム(2.5V)、リン酸鉄リチウム(2.0V)、リチウムマンガン酸化物(2.5V)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(3.0V)、およびリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(2.5V)が含まれるが、これらに限定されない。
【0144】
最新のデバイスのほとんどは、放電曲線の最後の急勾配の部分を使用しないし使用できず、電圧が公称電圧を大幅に下回ると、電池は「切れた」と見なされる。その後、電池を再充電または廃棄することができる。最新のデバイスは、電池の最終放電部分を利用するように設計されていないだけでなく、利用しようととすることは安全でない可能性がある。例えば、リチウムイオン電池は、電圧がゼロに近づいても放電を続けると不安定になることが知られている。
【0145】
一方、本明細書に記載されるような電池ケミストリおよび構築技術により、完全に満充電(または満充電未満)の状態からゼロボルト(または少なくとも現在のデバイスで使用可能なゼロボルトに近い状態)まで、より直線的な放電曲線が得られる。
図21は、AMOスズに基づいて本開示に従って構築された電池セルの代表的な放電曲線である。
【0146】
図22は、本明細書に開示される構築方法に基づく非AMO活物質セルの同様のプロットである。
【0147】
図21~
図22から、先行タイプの電池の放電曲線と比較した場合、曲線は多かれ少なかれ直線的であることがわかる。セルの容量に近い状態から放電が始まると、初期の「急勾配の」電圧降下が発生する。しかしながら、放電が完全にゼロになったとしても、サイクルの終わりで突然に低下することはない。加えて、満充電に満たない状態の電池を再び充電してもよく、放電曲線は、図示の通り予測どおりに挙動する。電池は、放電曲線のこの領域内へ安全に放電できないので、先行技術による電池の放電曲線における右端の部分が「無駄になる」ことが理解されるであろう。しかしながら、ここでは、本開示のAMOタイプおよび非AMOタイプの電池が深放電されても、セルの故障や危険な動作状態は観察されなかった。さらに、グラフからわかるように(例えば、公称電圧が1ボルトの場合)、公称電圧未満で放電された場合でも、電池の大きな容量は利用可能なままである。
【0148】
以前は、いわゆる深放電電池でさえ、継続的または繰り返し深放電すると、寿命が短くなる(例えば、定格容量の約20%まで)。本開示の電池およびセルは、悪影響を与えることなく深放電が可能であるだけでなく、超深放電することができる。本開示の目的のために、超深放電は、電池またはセルが定格容量の20%未満まで放電することを意味すると解釈される。いくつかの実施形態では、この放電レベルは、容量の20%、15%、10%、5%、1%、またはそれ以下にまで下がる。さらにまた、超深放電(例えば、検出可能な0ボルトまで)は、セルの容量に過度の損傷を与えることはない。いくつかの実施形態では、完全な超深放電は、約0.2%の容量喪失を引き起こす可能性がある。様々な実施形態において、完全な超深放電サイクルによる容量喪失は、0.3%未満、0.25%未満、または0.2%未満となる。言い換えれば、超深放電による容量喪失は、深放電または超深放電ではない場合に見られる通常の容量喪失(供給電力当たり)に相当する。
【0149】
特定の種類の電池(本開示の電池)を使用する新しい方法は、深放電および超深放電を繰り返しても、セルにほとんどまたは全く害を与えずに利用可能であることから、有用であると判断された。特に、新しい充放電プロファイルは、本開示による酸性化金属酸化物を用いて構築された電池に対して有用である。(電池が最終的な急激劣化範囲にあることを知って)電池の放電を任意の時点で停止するのではなく、電池に接続されている負荷が動作可能な限り(そして、セルの故障や危険な動作状態がない限り)電池を使用することができる。
【0150】
一実施形態では、本開示に従って構築された電池は、電圧が0.01Vに低下するまで使用される。次いで、電池は、完全に(例えば、2.8V)または部分的に再充電して、電圧が0.01Vに低下するまで再び使用することができる。
【0151】
別の実施形態では、本開示による電池は、電池が電力を供給するシリコンチップの機能的しきい値に達するまで使用され、次いで、完全にまたは部分的に再充電され、再び使用される。
【0152】
今日の多くのチップとプロセッサは1.0V以下で動作する。低消費用に特別に設計されたデバイスは、低電圧で動作する。したがって、安全機能最小電圧が約2.8~3Vである従来のリチウムイオン電池は、多くのチップを動作させるために必要とされる電圧よりも高い電圧を供給する。リチウムイオン電池のさらなる深放電は不安定であるため、この電位を安全に利用することができない。一方、本開示に従って構築されたセルは、実質的に全ての使用可能な電力を安全に利用することができる。本開示に従って構築されたセルおよび電池は、0.01V以下まで放電することができるので、唯一の実用的な下限値は、電力が供給されている負荷またはデバイスである。さらに低い動作電圧を有するより新しいデバイスが開発されるにつれて、本開示に従って構築され、本明細書に記載の方法に従って使用される電池は、充電間隔を長くすることと、エネルギーをより効率的に使用することの両方を提供することができる。
【0153】
従来の3.6Vリチウムイオン技術を利用する先行技術のデバイスでは、電池が供給できる電圧よりも実質的に低い動作電圧を必要とする論理ボードまたはより新しいチップに正しい動作電圧を供給するために、非効率的な降圧変圧器または分圧器を必要とする場合がある。本開示に従って構築された電池は、2.8V以下の最大開回路電圧(OCV)および約1.0Vの公称電圧を供給することができる。したがって、本開示によるセルから利用可能な大量の電力は、降圧デバイスを必要とせずに、論理またはチップが使用するために利用可能である。これにより、場合によってはデバイスの設計が簡素化され、考えられるほぼ全てのケースで効率が向上する。
【0154】
本開示に従って構築された電池およびセルは、多くのシリコンチップに十分な電圧を容易に供給できるので、放電曲線の最初のハイエンドで降圧デバイスが必要となる場合がある。しかしながら、このようなデバイスは、必要がない場合、放電曲線の後の部分でバイパスされる可能性がある。これには、電池またはセルが放電するときに効率を高めるという追加の効果がある。したがって、放電の「後半」は、実際には「前半」よりも多くの使用可能なエネルギーを供給したり、より長い駆動時間を実現したりする可能性がある。
【0155】
従来のリチウムイオン電池は、充電電圧として3.8V、理想的には4.2Vを必要とする。このような電圧を、太陽電池(個別には約0.5Vしか供給できない)やその他の低電圧源に供給するのは困難な場合がある。しかしながら、本開示による電池は、充電するためにこのような電圧を有する必要はなく、しかもセルまたは電池に印加される、現在の放電電圧よりも高い任意の安定した電圧により、少なくともある程度の再充電が行われることが理解されるであろう。したがって、個々の太陽電池などの低電圧源または弱い電圧源でさえ、電池またはセルに使用可能な充電を行える可能性がある。本開示に従って構築された電池は、低電圧の充放電によって害されないので、場合によっては、電池は、低電圧でのみ材料の限界までサイクルさせることができる。
【0156】
他の実施形態では、電池またはセルは、低電圧の充電サイクルおよび放電サイクル(例えば、セルの公称電圧よりも低い電圧のみ)で動作し、その後、より高い電圧(例えば、最大で2.8Vや3.2Vなどの全開回路電圧まで)で動作する場合がある。本開示による電池は、このような高い相対電圧(例えば、1Vより大きい)を必要とするデバイスに電力を供給するためにより高い電圧で動作させ、次いで、放電電圧が公称値を下回るか、または公称値から所定の間隔を下回ると、より低い電圧のデバイスに電力を供給するために使用することができる。
【0157】
本開示による電池またはセル用の多種多様な充放電オプションが、多種多様な充放電率にわたって発生する可能性があることを理解すべきである。当然のことながら、放電率が大きければ大きいほど電池の消耗も速くなるが、電池またはセルは本質的にゼロまでさらに放電することができる。場合によっては、第1の放電率が放電の第1のセグメントに使用されて、第2の放電率が放電の第2のセグメントに使用されることがある。多くの様々な放電率を、様々な時点で、または電池から電力が供給されるデバイスのニーズに応じて使用することができる。同様に、充電率については、その時点で利用可能な充電リソースに応じて、放電曲線中の任意の時点で(適切な電圧が利用可能である限り)、より速いまたはより遅い充電率を使用することができる。
【0158】
本開示による電池およびセルはまた、電池またはセルがその公称電圧を超えて決して充電されないように、または別の所定のしきい値を超えて決して充電されないように使用することもできる。同様に、接続された負荷に有用な絶対最小低電圧(absolute minimum lower voltage)に基づいて、またはユーザの別のニーズに基づいて、より低い電圧しきい値を放電に使用することができる。これらのしきい値は、リソースおよび/または現在の使用量または電池またはセルに接続されている負荷に基づいて、動的に再度特定するかまたは変更することもできる。
【0159】
本開示の態様による電池またはセルの使用方法の様々な実施形態によれば、セルは、再充電される前に、99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%、0.1%、または別の値まで放電することができる。再充電により、再び放電する前に、電池を電池容量の最大100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%、0.1%などまで回復させることができる。このような時点で、充電状態に戻る前に、放電により、電池を任意の放電状態に回復させることができる。同様に、放電率と充電率は大きく変化する。例えば、放電率は、0.01C以下から1C以上まであり得る。例えば、充電率はまた、0.01C以下から1C以上まであり得る。
【0160】
本出願全体の全ての参考文献、例えば、発行または付与された特許または均等物を含む特許文書、特許出願公開、および非特許文献文書または他の原資料は、参照により個別に組み込まれるかのように、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0161】
本明細書で言及される全ての特許および刊行物は、本発明が関係する当業者の技術レベルを示している。本明細書で引用される参考文献は、場合によっては出願日現在の最新技術を示すために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、必要であれば、先行技術にある特定の実施形態を除外する(例えば、放棄する)ために、この情報を本明細書で使用できることが意図されている。例えば、ある化合物が特許請求される場合、本明細書に開示された参考文献(特に参照された特許文書)に開示された特定の化合物を含む、先行技術において既知の化合物は、特許請求の範囲に含まれることを意図していないことを理解されるべきである。
【0162】
ある置換基群が本明細書に開示される場合、それらの群の全ての個々のメンバ、ならびに置換基を使用して形成することができる全ての副群およびクラスが別々に開示されることが理解される。本明細書において、マーカッシュ群または他の区分けが本明細書で使用される場合、当該群の全ての個々のメンバ、および当該群の可能な全ての組合せおよびサブ組合せが、本開示に個々に含まれる。本明細書で使用される場合、「および/または」は、「および/または」で区切られたリスト内の項目の1つ、全て、またはいずれかの組合せがリストに含まれることを意味する、例えば、「1、2および/または3」は「1」もしくは「2」もしくは「3」、または「1および2」もしくは「1および3」もしくは「2および3」、または「1、2および3」と同等である。
【0163】
特に明記しない限り、記載または例示された成分の全ての配合または組合せを使用して、本発明を実施することができる。当業者は同じ材料に異なる名前を付けることができることが知られているので、材料の特定の名前は例示的であることを意図している。当業者は、過度な実験に頼ることなく、本発明の実施において、具体的に例示されたもの以外の方法、デバイス要素、出発材料、および合成方法を使用できることを理解するであろう。そのような方法、デバイス要素、出発物質、および合成方法の、全ての当技術分野で既知の機能的均等物は、本発明に含まれることが意図されている。本明細書にて範囲が与えられている場合、例えば、温度範囲、時間範囲、または組成範囲、全ての中間の範囲および部分範囲、ならびに与えられた範囲に含まれる全ての個々の値は本開示に含まれることが意図されている。
【0164】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含む(containing)」、または「によって特徴付けられる」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の、記載されていない要素または方法工程を除外するものではない。本明細書で使用される場合、「からなる(consisting of)」は、請求項要素に明記されていない任意の要素、工程、または成分を除外する。本明細書で使用される場合、「本質的に~から成る(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料または工程を除外するものではない。「含む(comprising)」という用語の本明細書におけるあらゆる記載は、特に、組成物の成分の記載またはデバイスの要素の記載において、本質的に記載された成分または要素から成る、およびそれらから成る組成物および方法を包含すると理解される。本明細書に例示的に記載されている本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素または制限がない場合でも、適切に実施することができる。
【0165】
使用されている用語および表現は、説明の用語として使用され、限定ではなく、そしてそのような用語および表現の使用においては,示されかつ記載されたフィーチャまたはその一部の均等物を排除することを意図するものではないが、特許請求された本発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本発明は、好ましい実施形態および任意のフィーチャによって具体的に開示されているが、本明細書に開示された概念の修正および変形は、当業者によって行使されてもよく、しかもそのような修正および変形は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあると考えられることが理解されるべきである。