(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】焼結歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/14 20060101AFI20231227BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20231227BHJP
B23F 5/22 20060101ALI20231227BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
B23P15/14
B22F3/10 B
B23F5/22
C22C38/00 301Z
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2021518372
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018196
(87)【国際公開番号】W WO2020226111
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019088650
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
(72)【発明者】
【氏名】野田 宗巨
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-130402(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175772(WO,A1)
【文献】特開2015-208806(JP,A)
【文献】特表2014-514172(JP,A)
【文献】特開昭62-084916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 15/14;
B22F 1/00-8/00;
B23F 1/00-23/12;
C22C 1/04-1/05,33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の圧粉体を用意する工程と、
前記圧粉体をホブにより歯切り加工する工程と、
歯切り加工した前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記ホブは、1周あたりの刃数と条数との比が8超であ
り、
前記歯切り加工する工程において、前記圧粉体における前記ホブの刃が抜ける側の一方の端面での前記ホブの送り速度を、前記圧粉体の他方の端面での前記ホブの送り速度よりも遅くする、
焼結歯車の製造方法。
【請求項2】
円筒状の圧粉体を用意する工程と、
前記圧粉体をホブにより歯切り加工する工程と、
歯切り加工した前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記ホブは、1周あたりの刃数と条数との比が8超であ
り、
前記歯切り加工する工程において、前記圧粉体における前記ホブの刃が抜ける側の一方の端面から他方の端面側に向かって最大で5mm以内の領域では、前記ホブの送り速度を1.0mm/rev.以下とし、それ以外の領域では、前記ホブの送り速度を2.0mm/rev.以上とする、
焼結歯車の製造方法。
【請求項3】
前記歯切り加工する工程において、前記圧粉体をその軸方向が鉛直方向に沿うように配置し、前記圧粉体の下端面側から上端面側に向かって前記ホブを送る請求項1
または請求項2に記載の焼結歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結歯車の製造方法に関する。
本出願は、2019年5月8日付の日本国出願の特願2019-088650号に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧粉体を歯車形状に機械加工した後、焼結することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の焼結歯車の製造方法は、
円筒状の圧粉体を用意する工程と、
前記圧粉体をホブにより歯切り加工する工程と、
歯切り加工した前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記ホブは、1周あたりの刃数と条数との比が8超である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態に係る焼結歯車の製造方法における加工工程を示す説明図である。
【
図2】
図2は、ホブの一例を示す概略側面図である。
【
図3】
図3は、ホブの一例を示す概略端面図である。
【
図4A】
図4Aは、加工工程におけるホブの送り開始位置を示す説明図である。
【
図4B】
図4Bは、加工工程における加工途中の状態を示す説明図である。
【
図4C】
図4Cは、加工工程におけるホブの送り終了位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
圧粉体は、焼結体に比べて硬度が低い。そのため、圧粉体は、焼結体に比べて切削加工し易い。しかし、圧粉体は、粉末を圧縮成形して固めただけであるので、脆くて欠け易い。そのため、圧粉体は、切削加工時に欠けが発生し易い。
【0007】
歯車の歯切り加工にホブが使用されている。ホブは、円筒状の本体の外周面上にねじ筋に沿って複数の刃が設けられている。ホブによる歯切り加工は、通常、ワークをその軸方向が鉛直方向になるように配置すると共に、ホブをその軸方向がワークの軸方向と直交するように配置する。そして、ホブとワークを同期回転させながら、ホブをワークの軸方向に送る。各刃がワークの外周面に順次切り込まれることによって、歯車が創成される。
【0008】
ホブにより圧粉体を歯切り加工した場合、圧粉体に欠けが発生することがある。特に、ホブの刃が圧粉体の端面から抜ける際に圧粉体に欠けが発生する。
【0009】
本開示は、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に発生する欠けを抑制することができる焼結歯車の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の焼結歯車の製造方法は、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に発生する欠けを抑制することができる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に発生する欠けを抑制する方法について鋭意検討した結果、次のような知見を得た。
【0012】
本発明者らは、欠けの発生を抑制するため、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に作用する応力を低減することを考えた。そこで、本発明者らは、ホブ1刃あたりの切削負荷を小さくするため、ホブにおける1周あたりの刃数とホブの条数に着目した。ホブにおける1周あたりの刃数が多いほど、ホブ1回転あたりの切削回数が多くなる。つまり、ホブ1回転あたりの刃の切込み回数が増える。そのため、1周あたりの刃数が多いほど、1刃あたりの切込み深さが小さくなる。換言すれば、切りくずの厚さが小さくなる。切込み深さは、圧粉体の径方向への切込み量である。よって、1刃あたりの切込み深さが小さければ、切削負荷も小さくなる。その結果、圧粉体が受ける主分力及び送り分力が小さくなるので、圧粉体に生じる応力を低減できる。一方、ホブの条数が多いほど、加工能率が向上する。ホブの条数がn条の場合、ホブ1回転につき圧粉体がnピッチ分回転することになる。つまり、ホブ1回転につきnピッチ分の歯が創成される。しかしながら、ホブの条数が増えれば、その分1刃あたりの切込み深さが増える。そのため、ホブの条数が多いほど、1刃あたりの切削負荷が増大することになる。
【0013】
したがって、ホブにおける条数に対する1周あたりの刃数の比である刃数/条数が大きいほど、1刃あたりの切削負荷が小さくなり、圧粉体に生じる応力を低減できる。よって、圧粉体に発生する欠けを抑制することができる。本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ホブにおける1周あたりの刃数と条数との比を8超とすることにより、圧粉体に発生する欠けを効果的に抑制できることを見出した。
【0014】
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0015】
(1)本開示の実施形態に係る焼結歯車の製造方法は、
円筒状の圧粉体を用意する工程と、
前記圧粉体をホブにより歯切り加工する工程と、
歯切り加工した前記圧粉体を焼結する工程と、を備え、
前記ホブは、1周あたりの刃数と条数との比が8超である。
【0016】
本開示の焼結歯車の製造方法は、ホブにおける1周あたりの刃数と条数との比が8超であることで、ホブ1刃あたりの切削負荷を十分に低減できる。そのため、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に生じる応力を十分に低減できる。したがって、本開示の焼結歯車の製造方法は、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に発生する欠けを抑制することができる。
【0017】
(2)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記歯切り加工する工程において、前記圧粉体における前記ホブの刃が抜ける側の一方の端面での前記ホブの送り速度を、前記圧粉体の他方の端面での前記ホブの送り速度よりも遅くすることが挙げられる。
【0018】
上記形態は、圧粉体におけるホブの刃が抜ける側の一方の端面でのホブの送り速度を、他方の端面でのホブの送り速度よりも遅くすることから、次の効果を奏することができる。
【0019】
一つ目の効果は、圧粉体の一方の端面近傍に発生する欠けを抑制できることである。ホブによる歯切り加工時において、ホブの刃が圧粉体の端面から抜ける際に圧粉体に欠けが発生することがある。特に、圧粉体におけるホブの刃が抜ける側の一方の端面近傍に欠けが発生し易い。ホブの送り速度を遅くすれば、1刃あたりの送り量が小さくなる。そのため、1刃あたりの切取り長さが小さくなる。換言すれば、切りくずの長さが小さくなる。切取り長さは、圧粉体の軸方向への切込み量である。よって、1刃あたりの切取り長さが小さければ、切削負荷も小さくなる。その結果、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に生じる応力をより低減でき、圧粉体の一方の端面近傍に発生する欠けを抑制できる。
【0020】
二つ目の効果は、ホブの送り速度を一定で遅くする場合に比べて、加工時間の増加を抑制できることである。圧粉体の他方の端面でのホブの送り速度を、圧粉体の一方の端面に比べて相対的に速くするからである。
【0021】
(3)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記歯切り加工する工程において、前記圧粉体における前記ホブの刃が抜ける側の一方の端面から他方の端面側に向かって最大で5mm以内の領域では、前記ホブの送り速度を1.0mm/rev.以下とし、それ以外の領域では、前記ホブの送り速度を2.0mm/rev.以上とすることが挙げられる。
【0022】
ホブの送り速度を遅くすれば、1刃あたりの送り量が小さくなる。そのため、1刃あたりの切取り長さが小さくなる。換言すれば、切りくずの長さが小さくなる。切取り長さは、圧粉体の軸方向への切込み量である。よって、1刃あたりの切取り長さが小さければ、切削負荷も小さくなる。その結果、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に生じる応力をより低減できる。したがって、上記形態は、ホブの送り速度を1.0mm/rev.以下とすることで、ホブによる歯切り加工時に圧粉体に発生する欠けをより効果的に抑制することができる。
【0023】
ホブによる歯切り加工時において、ホブの刃が圧粉体の端面から抜ける際に圧粉体に欠けが発生することがある。特に、圧粉体におけるホブの刃が抜ける側の一方の端面近傍に欠けが発生し易い。上記形態は、圧粉体におけるホブの刃が抜ける側の一方の端面から他方の端面側に向かって最大で5mm以内の領域では、ホブの送り速度を1.0mm/rev.以下とする。以下、上記領域を「抜け際領域」という場合がある。最大で5mm以内とは、圧粉体における上記一方の端面から5mm以内の領域の少なくとも一部で、ホブの送り速度を1.0mm/rev.以下とすればよいことを意味する。もちろん、5mm以内の全域にわたって送り速度を遅くしてもよい。そのため、上記形態は、特に欠けが発生し易い圧粉体の一方の端面近傍における欠けを効果的に抑制することができる。また、上記形態は、抜け際領域以外の領域では、ホブの送り速度を2.0mm/rev.以上とする。つまり、抜け際領域での送り速度を相対的に遅くする。歯切り加工における加工開始位置から加工終了位置までのホブの移動距離に比べれば、抜け際領域は非常に短い。そのため、1個の圧粉体を歯切り加工するのに要する時間が大幅に増加することがない。したがって、上記形態は、圧粉体に発生する欠けを抑制できながら、加工時間の増加を抑制することができる。よって、上記形態は、圧粉体を効率よく加工することができ、生産性に優れる。上記抜け際領域の下限は、圧粉体におけるホブの刃が抜ける側の一方の端面から例えば0.1mm以上、更に0.5mm以上、1mm以上であることが好ましい。圧粉体におけるホブの刃が抜ける側の端面から少なくとも0.1mm、更に0.5mmの領域において、ホブの送り速度を1.0mm/rev.以下とすることで、圧粉体に発生する欠けを十分に抑制することができる。
【0024】
(4)本開示の焼結歯車の製造方法の一形態として、
前記歯切り加工する工程において、前記圧粉体をその軸方向が鉛直方向に沿うように配置し、前記圧粉体の下端面側から上端面側に向かって前記ホブを送ることが挙げられる。
【0025】
上記形態は、ホブの送り方向が圧粉体の軸方向に沿う方向で上向きである。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る焼結歯車の製造方法の具体例を説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。なお、本願発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
<焼結歯車の製造方法>
実施形態に係る焼結歯車の製造方法は、以下の工程を備える。
第一の工程:円筒状の圧粉体を用意する工程。
第二の工程:圧粉体をホブにより歯切り加工する工程。
第三の工程:歯切り加工した圧粉体を焼結する工程。
【0028】
実施形態に係る焼結歯車の製造方法の特徴の1つは、1周あたりの刃数と条数との比が8超であるホブを使用する点にある。
図1は、圧粉体1をホブ2により歯切り加工している状態を示す。
図1中の白抜き矢印は、歯切り加工時の圧粉体1及びホブ2の回転方向やホブ2の送り方向を示す。以下、各工程について詳しく説明する。
【0029】
《第一の工程:用意工程》
この工程では、円筒状の圧粉体1を用意する。
【0030】
(圧粉体)
圧粉体1は、金属粉末を含む原料粉末を圧縮成形したものである。金属粉末は、圧粉体1、ひいては焼結歯車を構成する主たる材料である。金属粉末は、鉄(純鉄)又は鉄基合金からなる鉄系粉末が挙げられる。純鉄は、純度99質量%以上、更に99.5質量%以上が挙げられる。鉄基合金は、添加元素を含有し、残部が鉄(Fe)及び不可避不純物からなるものが挙げられる。鉄基合金におけるFeの含有量は、50質量%超、好ましくは80質量%以上、更に90質量%以上が挙げられる。添加元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、及び炭素(C)からなる群より選択される1種以上の元素が挙げられる。上記添加元素は、鉄系焼結歯車の機械的特性の向上に寄与する。上記添加元素のうち、Cu、Ni、Sn、Cr、Mo、及びMnの含有量は合計で、例えば0.5質量%以上5.0質量%以下、更に1.0質量%以上3.0質量%以下が挙げられる。Cの含有量は、例えば0.2質量%以上2.0質量%以下、更に0.4質量%以上1.0質量以下が挙げられる。原料粉末における金属粉末の含有量は、90質量%以上、更に95質量%以上が挙げられる。金属粉末は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、カルボニル法、還元法などにより作製したものが挙げられる。
【0031】
金属粉末の平均粒径は、例えば20μm以上200μm以下、更に50μm以上150μm以下が挙げられる。金属粉末の平均粒径が上記範囲内であることで、取り扱い易く、原料粉末を圧縮成形し易い。そのため、高密度で緻密な圧粉体1を作製し易い。結果として、高密度の焼結歯車が得られる。金属粉末の平均粒径は、金属粉末を構成する粒子の平均粒径のことである。平均粒径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
【0032】
その他、原料粉末は、上記金属粉末に加えて、潤滑剤及びバインダの少なくとも一方を含有してもよい。潤滑剤及びバインダの合計含有量は、原料粉末全体を100質量%として、例えば0.1質量%以下とすることが挙げられる。潤滑剤としては、例えば高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。バインダとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルなどの樹脂、パラフィンなどのワックス類が挙げられる。潤滑剤及びバインダは、必要に応じて添加すればよく、添加しなくてもよい。
【0033】
圧粉体1は、原料粉末を金型に充填し、一軸加圧成形することで作製することができる。円筒状の圧粉体1を成形する金型は、代表的には、ダイと、ダイに嵌め込まれる下パンチ及び上パンチと、ダイ内に挿入されるコアロッドとを備える構成が挙げられる。成形圧力は、例えば980MPa以上、更に1470MPa以上、特に1960MPa以上が挙げられる。成形圧力を高くすることで、圧粉体1の密度を高めることができる。そのため、焼結歯車を高密度化することができる。成形圧力の上限は特に限定されないが、例えば2160MPa以下、更に2060MPa以下が挙げられる。圧粉体1は、公知の方法により作製することができる。
【0034】
圧粉体1の相対密度は、例えば93%以上、更に95%以上、特に96%以上が好ましい。圧粉体1の相対密度は、理想的には100%であるが、製造性などを考慮すると、99%以下でもよい。圧粉体1の相対密度は、[実測密度/理論密度]×100として求めることができる。実測密度は、例えばアルキメデス法により測定することができる。理論密度は、例えば原料粉末の組成から計算によって求めることができる。
【0035】
圧粉体1のサイズは、製造する焼結歯車のサイズに応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。圧粉体1の外径は、例えば20mm以上160mm以下、更に25mm以上150mm以下が挙げられる。圧粉体1の内径は、例えば10mm以上80mm以下、更に15mm以上70mm以下が挙げられる、圧粉体1の幅、即ち内外径差は、例えば10mm以上80mm以下、更に15mm以上70mm以下が挙げられる。圧粉体1の高さ、即ち軸方向の長さは、例えば5mm以上120mm以下、更に10mm以上110mm以下が挙げられる。
【0036】
《第二の工程:加工工程》
この工程では、圧粉体1をホブ2により歯切り加工する。
【0037】
(ホブ)
図2、
図3を参照して、ホブ2の概略構成を説明する。
図2は、ホブ2を軸方向と直交する方向から見た側面図である。
図3は、ホブ2を軸方向から見た端面図である。ホブ2は、
図2に示すように、円筒状の本体20の外周面上にねじ筋22に沿って複数の刃21を有する。ホブ2は、
図3に示すように、1周あたりの刃数が9刃である。
【0038】
(歯切り加工)
圧粉体1をホブ2により歯切り加工するときは、
図1に示すように、圧粉体1の軸方向とホブ2の軸方向とが直交するように配置する。そして、圧粉体1とホブ2を同期回転させながら、ホブ2を圧粉体1の軸方向に送る。各刃21が圧粉体1の外周面11に順次切り込まれることによって、歯車の歯13が創成される。本例では、圧粉体1をその軸方向が鉛直方向、即ち上下方向に沿うように配置し、ホブ2をその軸方向が水平方向に沿うように配置している。圧粉体1は、上から見て、反時計回りに回転する。ホブ2は、刃21が圧粉体1の外周面11に上側から入り込むように回転する。また、本例では、圧粉体1の下端面側から上端面側に向かってホブ2を送る。つまり、ホブ2の送り方向が上向きであり、圧粉体1の下端面側から歯切り加工を行うクライムカットである。ホブ2の送り方向が下向きでもよく、圧粉体1の上端面側から歯切り加工を行うコンベンショナルカットでもよい。
【0039】
本例の場合、ホブ2の刃21が圧粉体1の外周面11に上側から入り込むように回転する。そのため、圧粉体1の下端面側において、ホブ2の刃21が圧粉体1の外周面11から下端面に抜けることになる。なお、本例では、圧粉体1の下端面に当て板3を取り付けた状態で歯切り加工を行う場合を例示する。当て板3の構成については、後述する。
【0040】
〈刃数と条数との比〉
ホブ2における1周あたりの刃数と条数との比、即ち刃数/条数が8超である。上述したように、1周あたりの刃数が多いほど、1刃あたりの切込み深さが小さくなる。そのため、1刃あたりの切削負荷が小さくなることから、加工時に作用する圧粉体1に生じる応力を低減できる。一方で、ホブ2の条数が多いほど、1刃あたりの切削負荷が増大することになる。したがって、ホブ2の刃数/条数が大きいほど、1刃あたりの切削負荷が小さくなり、圧粉体1に生じる応力を低減できる。よって、圧粉体1に発生する欠けを抑制することができる。ホブ2の刃数/条数は、更に9以上、特に10以上が好ましい。刃数/条数の上限は特に限定されないが、例えば27以下が挙げられる。
【0041】
ホブ2の刃数及び条数は、刃数/条数が8超となるように適宜設定すればよい。ホブ2における1周あたりの刃数は、例えば9刃以上27刃以下、更に10刃以上25刃以下が挙げられる。刃数を増やす場合、刃21を小さくする、あるいは、ホブ2の外径を大きくする必要がある。刃21を小さくすると、刃21の強度が低下する。ホブ2の外径を大きくすると、ホブ2が大型化し、コストが高くなる。ホブ2の外径は、例えば70mm超140mm以下、更に80mm以上130mm以下が挙げられる。ホブ2の条数は、例えば1条以上4条以下、更に2条以上3条以下が挙げられる。
【0042】
〈送り速度〉
ホブ2の送り速度は、適宜設定することができる。送り速度とは、圧粉体1が1回転するにあたり、ホブ2が移動する距離、即ち送り量をいう。送り速度を速くすれば、加工時間を短縮できる。しかし、送り量が大きくなるため、1刃あたりの切取り長さが大きくなる。よって、1刃あたりの切削負荷が大きくなる。一方、送り速度を遅くすれば、1刃あたりの切取り長さが小さくなり、切削負荷が小さくなる。しかし、送り速度を遅くし過ぎると、加工時間が長くなり、生産性の低下を招く。ホブ2の送り速度は、例えば0.1mm/rev.以上10mm/rev.以下、更に0.2mm/rev.以上9mm/rev.以下が挙げられる。その他、ホブ2の切削速度は、例えば40m/min以上280m/min以下、更に50m/min以上250m/min以下が挙げられる。
【0043】
歯切り加工時において、ホブ2の送り速度は加工中一定でもよいし、加工の途中で変更してもよい。送り速度を変更して加工する場合の加工例を、
図4を参照して説明する。
図4A及び
図4Cはそれぞれ、ホブ2の送り開始位置及び送り終了位置を示す。
図4Bは、加工途中の状態を示し、ホブ2の刃21が圧粉体1における抜け際領域Aに到達した状態を示す。送り速度を変更する場合、圧粉体1におけるホブ2の刃21が抜ける側の端面、即ち下端面の近傍では、送り速度を遅くし、他方の端面、即ち上端面を含むそれ以外では送り速度を速くすることが挙げられる。本例では、圧粉体1における加工終了側の端面よりも加工開始側の端面でのホブ2の送り速度を遅くする。具体的には、圧粉体1の下端面から上端面側に向かって最大で5mm以内の領域、つまり
図4Bに示す抜け際領域Aでは、送り速度を1.0mm/rev.以下とする。更に、それ以外の領域では、送り速度を2.0mm/rev.以上とする。それ以外の領域とは、ホブ2の刃21が抜け際領域Aを通過した後に加工終了位置に到達するまでの区間である。
【0044】
圧粉体1をホブ2により歯切り加工したとき、ホブ2の刃21が圧粉体1の下端面から抜ける際に圧粉体1に欠けが発生することがある。特に、圧粉体1の下端面近傍に欠けが発生し易い。上述した加工例のように、抜け際領域Aでは、送り速度を1.0mm/rev.以下とすることで、圧粉体1の下端面に発生する欠けを効果的に抑制することができる。更に、抜け際領域A以外の領域では、送り速度を2.0mm/rev.以上とすることで、加工時間の増加を抑制することができる。よって、圧粉体1を効率よく加工することでき、生産性に優れる。
【0045】
〈当て板〉
図1に示すように、圧粉体1の下端面に当て板3を配置してもよい。この場合、当て板3ごと圧粉体1を歯切り加工することが挙げられる。当て板3を配置した状態で歯切り加工した場合、ホブ2の刃21が圧粉体1の下端面から抜ける際、圧粉体1の下端面に欠けが生じ難くなる。これは、圧粉体1の下端面が当て板3に支持されることによって、刃21が抜ける方向、即ち下方向の力を打ち消す方向に力を付与できるからである。
【0046】
当て板3の材質は、ホブ2の刃21が抜ける方向、即ち下方向の力を打ち消す方向に力を付与できる剛性を有するものであれば、適宜選択できる。当て板3は、例えば鋼、ステンレス鋼などの金属で構成することが挙げられる。
【0047】
当て板3の形状は、円形状とすることが挙げられる。当て板3の外径は、圧粉体1の外径と同じであってもよいし、圧粉体1の外径よりも大きくてもよい。当て板3の外径と圧粉体1の外径との差は、例えば0mm以上0.7mm以下、更に0.05mm以上0.6mm以下、0.1mm以上0.5mm以下が挙げられる。当て板3の外径と圧粉体1の外径との差が0.05mm以上あれば、圧粉体1の下端面を全面にわたって当て板3で支持し易い。当て板3の外径と圧粉体1の外径との差が0.7mm以下あれば、当て板3の大径化を抑制し易い。当て板3の厚みは、例えば2mm以上10mm以下、更に3mm以上8mm以下が挙げられる。
【0048】
《第三の工程:焼結工程》
この工程では、歯切り加工した圧粉体1を焼結する。
【0049】
歯切り加工した圧粉体1を焼結することで、焼結歯車が得られる。焼結は、金属粉末の組成に応じた公知の条件を適用できる。金属粉末が鉄粉や鉄基合金粉の場合、焼結温度は、例えば1100℃以上1400℃以下、更に1200℃以上1300℃以下が挙げられる。焼結時間は、圧粉体1のサイズにもよるが、例えば10分以上150分以下、更に20分以上60分以下が挙げられる。
【0050】
(その他の工程)
その他、実施形態の焼結歯車の製造方法は、以下の工程のうち、少なくとも1つの工程を備えてもよい。
【0051】
《仕上げ工程》
この工程は、歯切り加工した圧粉体1を仕上げ加工する工程である。この工程は、上述した第二の工程である加工工程の後、第三の工程である焼結工程の前に実施する。仕上げ加工は、例えば面取り加工、シェービング加工などが挙げられる。面取り加工、シェービング加工は公知の方法を採用できる。
【0052】
《熱処理工程》
この工程は、焼結して得られた焼結歯車を熱処理する工程である。この工程は、上述した第三の工程である焼結工程の後に実施する。熱処理は、例えば焼入れ処理、焼戻し処理などが挙げられる。焼入れ処理は、浸炭焼入れ処理でもよい。焼入れ処理や浸炭焼入れ処理、焼戻し処理は公知の条件を適用できる。
【0053】
《研磨工程》
この工程は、焼結して得られた焼結歯車を研磨加工する工程である。この工程は、上述した第三の工程である焼結工程の後、焼結歯車を熱処理する場合はその工程の後に実施する。研磨加工には、歯研加工が含まれる。研磨加工は公知の方法を採用できる。
【0054】
{効果}
実施形態に係る焼結歯車の製造方法は、ホブ2による歯切り加工時に圧粉体1に発生する欠けを抑制することができる。加工工程において、1周あたりの刃数と条数との比が8超であるホブ2を使用することで、1刃あたりの切削負荷を低減できるからである。その結果、ホブ2による歯切り加工時に圧粉体1に生じる応力を低減できるため、欠けの発生を抑制できる。特に、圧粉体1における抜け際領域Aではホブ2の送り速度を1.0mm/rev.以下とし、それ以外の領域では送り速度を2.0mm/rev.以上とする。これにより、圧粉体1に発生する欠けをより効果的に抑制できながら、加工時間を短縮できる。
【0055】
実施形態に係る焼結歯車の製造方法によれば、歯切り加工時に圧粉体1に発生する欠けを十分小さくできる。具体的には、圧粉体1におけるホブ2の刃21が抜ける側の端面、即ち下端面に発生する欠けの長さを0.3mm以下、更に0.2mm以下にすることが可能である。圧粉体1の端面に発生する欠けの長さが0.3mm以下であれば、後工程で面取り加工などの仕上げ加工を行うことによって、欠けを除去することが可能である。欠けの長さは、圧粉体の下端面から軸方向に沿う長さである。
【0056】
[試験例1]
円筒状の圧粉体をホブにより歯切り加工する試験を行った。
【0057】
外径45mm×内径20mm×高さ20mmの円筒状の圧粉体を用意した。
圧粉体は、以下のようにして作製した。原料粉末として、鉄系粉末とカーボン粉末との混合粉末を準備した。鉄系粉末の組成は、Fe-1.9Ni-0.2Mn-0.55Moである。添加元素の含有量は質量%である。鉄系粉末の平均粒径(D50)は155μmである。カーボン粉末の平均粒径(D50)は5.8μmである。鉄系粉末とカーボン粉末との配合割合は、質量比で99.6:0.4である。上記混合粉末を金型に充填し、一軸プレス装置によって円筒状の圧粉体を作製した。成形圧力は1940MPaである。圧粉体の密度は7.71g/cm3である。また、圧粉体の相対密度は98.8%である。
【0058】
圧粉体をホブにより歯切り加工して歯車形状に加工した。
加工する歯車の仕様は、モジュール:1.4、歯数:29、圧力角:17.5°、ねじれ角:15.8°である。
【0059】
NCホブ盤にホブをその軸方向が水平方向に沿うように取り付け、圧粉体をその軸方向が鉛直方向、即ち上下方向に沿うように配置した。圧粉体とホブを同期回転させながら、ホブを圧粉体の軸方向に送ることによって、歯切り加工を行った。ホブの送り方向はクライムカットとした。試験例1では、圧粉体の下端面に当て板を取り付けた状態で歯切り加工した。使用した当て板は、鋼の溶製材である。当て板の形状は、外径45mm×内径20mm×高さ5mmの円盤状である。圧粉体の外径と当て板の外径は同じである。
試験例1では、以下に示す試験A、B及びCの各条件で歯切り加工を実施した。
【0060】
〔試験A〕
使用したホブの諸元は、1周あたりの刃数:24刃、条数:2条、刃数/条数:12、外径120mmである。
加工条件は、送り速度を4.0mm/rev.の一定とする。つまり、ホブの送り開始から送り終了までの送り速度を一定とした。
【0061】
〔試験B〕
使用したホブの諸元は、1周あたりの刃数:24刃、条数:2条、刃数/条数:12、外径120mmである。
加工条件は、圧粉体における抜け際領域での送り速度を0.5mm/rev.とする。具体的には、圧粉体の下端面から上下方向に±1mmの区間における送り速度を0.5mm/rev.とし、残りの区間は4.0mm/rev.とした。つまり、ホブの刃が圧粉体の下端面から下方向に1mmの位置に到達するまでの送り速度を4.0mm/rev.とする。その位置から送り速度を0.5mm/rev.に変更し、圧粉体の下端面から上方向に1mmの位置まで歯切り加工した後、送り速度を4.0mm/rev.に変更する。
【0062】
〔試験C〕
使用したホブの諸元は、1周あたりの刃数:16刃、条数:2条、刃数/条数:8、外径80mmである。
加工条件は、送り速度を4.0mm/rev.の一定とする。つまり、ホブの送り開始から送り終了までの送り速度を一定とした。
【0063】
(欠けの評価)
試験A、B及びCの各条件で、それぞれ1000個の圧粉体を歯切り加工した。各条件で歯切り加工した圧粉体ついて、欠けを評価した。欠けの評価は、次のようにして行った。各条件で加工したそれぞれ1000個の圧粉体について、加工時における下端面を目視検査し、欠けが発生したものを抽出する。各条件で欠けがあるものについて、欠け発生箇所を光学顕微鏡で観察し、欠けの長さを測定する。欠けの長さは、圧粉体の下端面から軸方向に沿う長さの最大値とする。その結果、試験Aでは、欠けの長さの平均値が0.3mmであった。試験Bでは、欠けの長さの平均値が0.1mmであった。一方、試験Cでは、欠けの長さの平均値が0.5mmであった。
【0064】
(加工時間の評価)
試験A、B及びCの各条件で圧粉体を歯切り加工したときの加工時間を調べた。加工時間は、1個の圧粉体を歯切り加工するのに必要な実加工時間、換言すれば加工開始から加工終了までの時間とする。その結果、試験A、Cでは、加工時間が10秒であった。これに対し、試験Bでは、加工時間が11.5秒であった。
【0065】
以上の結果から、刃数/条数が8超であるホブを使用した試験A、Bでは、欠けの長さが0.3mm以下であり、欠けを効果的に抑制できることが分かる。また、試験A、Cと試験Bの加工時間の差は1.5秒であり、試験Bでの加工時間の増加はほとんどない。
【符号の説明】
【0066】
1 圧粉体
11 外周面
13 歯
2 ホブ
20 本体
21 刃
22 ねじ筋
3 当て板
A 抜け際領域