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特許7410945特発性自閉症スペクトラム障害患者のサブセットであるASD表現型1の診断のための代謝プロファイリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】特発性自閉症スペクトラム障害患者のサブセットであるASD表現型1の診断のための代謝プロファイリング
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20231227BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20231227BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20231227BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231227BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/078
C12N5/071
G01N33/50 Z
A61P25/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021525319
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2019080450
(87)【国際公開番号】W WO2020094748
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】18204769.6
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/756,563
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518394097
【氏名又は名称】スタリクラ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】STALICLA SA
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ダラム,リン
(72)【発明者】
【氏名】イヴリン,ジャン-マルク
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0244273(US,A1)
【文献】特表2014-532703(JP,A)
【文献】Decreased tryptophan metabolism in patients with autism spectrum disorders,Molecular Autism,2013年,Vol.4, No.16,p.1-10
【文献】Butyrate enhances mitochondrial function during oxidative stress in cell lines from boys with autism,Translational Psychiatry,2018年02月02日,Vol.8, No.42,p.1-17
【文献】Clinical and Molecular Characteristics of Mitochondrial Dysfunction in Autism Spectrum Disorder,Molecular Diagnosis & Therapy,2018年07月23日,Vol.22,p.571-593
【文献】Deficits in Bioenergetics and Impaired Immune Response in Granulocytes From Children With Autism,PEDIATRICS,2014年,Vol.133, No.5, e1405,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のASD表現型1を判定するための情報提供方法であって、
a)患者固有の細胞株を提供するステップと、
b)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力を評価するステップと、
c)前記患者固有の細胞株の前記エネルギー産生能力が、定型発達の対照群(TD)から得られた同様の細胞株で評価されたものと特異的に異なる場合に、ASD表現型1と判定するステップと
を含み、
前記炭素エネルギー源は、D-グルコース又はマルトースであり、前記代謝因子は、スルホラファン、ジブチリルcAMP又はイブジラストであり、前記患者固有の細胞株は、リンパ芽球様細胞株であり、
前記ASD表現型1は、患者が、以下の必須特性:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。生後24ヶ月の間における平均頭囲(HC)より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)のうち少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・感染事象、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される、自閉症中核症状の悪化。
のうち少なくとも1つと、
以下の特徴:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長、
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向、
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ、
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域、特に患者の背中に現れる、
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫、
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル、
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害、
・膝蓋骨の過形成、
・下痢の頻発、特に5歳より前、
・耳鳴りの頻発、
・脳梁の薄化又は欠損、
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性、
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性、すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者、
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象、
・虹彩欠損、片側又は両側のいずれか、
・睡眠多汗症、特に乳児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加、ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)、
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)、
・先天性の副脾又は重複した脾臓、
・乳糜槽の先天性欠損、
・歯牙萌出の遅延、
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴、
のうち少なくとも2つと
を示した場合に分類されるASDのサブタイプである、方法。
【請求項2】
患者のASD表現型1を判定するための情報提供方法であって
a)患者固有の細胞株を提供するステップと、
b)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第1エネルギー産生Aを得るエネルギー産生能力を評価するステップと、
c)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、ステップb)と同じ炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の非存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第2エネルギー産生能力Bを得るエネルギー産生能力を評価するステップと、
d)Aが本質的にBに等しい場合、ASD表現型1と判定するステップと
を含み、
前記炭素エネルギー源は、D-グルコース又はマルトースであり、前記代謝因子は、スルホラファン、ジブチリルcAMP又はイブジラストであり、前記患者固有の細胞株は、リンパ芽球様細胞株であり、
前記ASD表現型1は、患者が、以下の必須特性:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。生後24ヶ月の間における平均頭囲(HC)より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)のうち少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・感染事象、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される、自閉症中核症状の悪化。
のうち少なくとも1つと、
以下の特徴:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長、
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向、
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ、
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域、特に患者の背中に現れる、
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫、
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル、
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害、
・膝蓋骨の過形成、
・下痢の頻発、特に5歳より前、
・耳鳴りの頻発、
・脳梁の薄化又は欠損、
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性、
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性、すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者、
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象、
・虹彩欠損、片側又は両側のいずれか、
・睡眠多汗症、特に乳児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加、ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)、
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)、
・先天性の副脾又は重複した脾臓、
・乳糜槽の先天性欠損、
・歯牙萌出の遅延、
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴、
のうち少なくとも2つと
を示した場合に分類されるASDのサブタイプである、方法。
【請求項3】
前記患者が特発性ASDと以前に診断されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者固有の細胞株の前記エネルギー産生能力が、以下の基準のうちの1つ以上を示すという点で特異的に異なる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
・D-グルコースの存在下でのより低いエネルギー産生能力、及び/又は、
・マルトースの存在下でのより高いエネルギー産生能力、及び/又は、
・ジブチリルcAMP、又は、イブジラストの存在下でのより高いエネルギー産生能力。
【請求項5】
前記基準のうち2つ又は3つが満たされる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記患者固有の細胞株が、前記患者の末梢血サンプル又は皮膚サンプルから得られる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者固有の細胞株の前記エネルギー産生能力が、環状アデノシン一リン酸(cAMP)レベルの増加があるときにより高いエネルギー産生能力を示すという点で特異的に異なる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者固有の細胞株の前記エネルギー産生能力は、Nrf2阻害剤の存在下でのより高いエネルギー産生能力を示すという点で特異的に異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ASD表現型1の治療のための化合物の有効性を評価するための方法であって、
a)前記化合物を、ASD表現型1患者のサンプルに由来する細胞株へ投与するステップと、
b)1つ以上のエネルギー源及び/又は1つ以上の代謝因子の存在下での前記細胞株のエネルギー産生能力を評価するステップと、
c)前記細胞株の前記エネルギー産生能力が、前記化合物の投与前に同じ細胞株で評価されたものと特異的に異なるかどうかを評価するステップと
を含み、
記エネルギー源は、D-グルコース又はマルトースであり、前記代謝因子は、スルホラファン、ジブチリルcAMP又はイブジラストであり、前記細胞株は、リンパ芽球様細胞株であり、
前記ASD表現型1は、患者が、以下の必須特性:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。生後24ヶ月の間における平均頭囲(HC)より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)のうち少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・感染事象、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される、自閉症中核症状の悪化。
のうち少なくとも1つと、
以下の特徴:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長、
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向、
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ、
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域、特に患者の背中に現れる、
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫、
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル、
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害、
・膝蓋骨の過形成、
・下痢の頻発、特に5歳より前、
・耳鳴りの頻発、
・脳梁の薄化又は欠損、
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性、
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性、すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者、
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象、
・虹彩欠損、片側又は両側のいずれか、
・睡眠多汗症、特に乳児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加、ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)、
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)、
・先天性の副脾又は重複した脾臓、
・乳糜槽の先天性欠損、
・歯牙萌出の遅延、
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴、
のうち少なくとも2つと
を示した場合に分類されるASDのサブタイプである、方法。
【請求項10】
前記化合物の投与前の前記細胞株の前記エネルギー産生能力と比較して、前記細胞株の前記エネルギー産生能力が以下を示すという点で特異的に異なる場合に、前記化合物がASD表現型1の治療に有効である、請求項9に記載の方法:
・D-グルコースからなる群より選択される少なくとも1つの前記エネルギー源の存在下でのより高いエネルギー産生能力。
【請求項11】
ASD表現型1の治療のための化合物の有効性を評価するための、ASD表現型1患者のサンプルに由来する細胞株の使用であって、
a)前記化合物を、前記細胞株へ投与するステップと、
b)1つ以上のエネルギー源及び/又は1つ以上の代謝因子の存在下での前記細胞株のエネルギー産生能力を評価するステップと、
c)前記細胞株の前記エネルギー産生能力が、前記化合物の投与前に前記細胞株で評価されたものと特異的に異なるかどうかを評価するステップと
を含み、
記エネルギー源は、D-グルコース又はマルトースであり、前記代謝因子は、スルホラファン、ジブチリルcAMP又はイブジラストであり、前記細胞株は、リンパ芽球様細胞株であり、
前記ASD表現型1は、患者が、以下の必須特性:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。生後24ヶ月の間における平均頭囲(HC)より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)のうち少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・感染事象、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される、自閉症中核症状の悪化。
のうち少なくとも1つと、
以下の特徴:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長、
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向、
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ、
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域、特に患者の背中に現れる、
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫、
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル、
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害、
・膝蓋骨の過形成、
・下痢の頻発、特に5歳より前、
・耳鳴りの頻発、
・脳梁の薄化又は欠損、
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性、
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性、すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者、
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象、
・虹彩欠損、片側又は両側のいずれか、
・睡眠多汗症、特に乳児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加、ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)、
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)、
・先天性の副脾又は重複した脾臓、
・乳糜槽の先天性欠損、
・歯牙萌出の遅延、
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴、
のうち少なくとも2つと
を示した場合に分類されるASDのサブタイプである、使用。
【請求項12】
前記化合物の投与前の前記細胞株の前記エネルギー産生能力と比較して、前記細胞株の前記エネルギー産生能力が以下を示すという点で特異的に異なる場合に、前記化合物がASD表現型1の治療に有効である、請求項11に記載の使用。
・D-グルコースの存在下でのより高いエネルギー産生能力。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な炭素エネルギー源及び代謝因子の存在下での患者固有の細胞株のエネルギー産生能力を評価することによって、又は、Nrf2阻害剤投与後のエネルギー産生能力の変化又は変化がないことを評価するによって、自閉症スペクトラム障害(ASD)のサブタイプ、いわゆるASD表現型1を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ASDは、最も広く認められた障害をもたらす神経発達障害の1つである。ASDの有病率は現在、世界人口の1%、米国の学齢期の子供59人に1人(男児37人に1人、女児151人に1人)と推定されている(Baio et al. Prevalence of Autism Spectrum Disorder Among Children Aged 8 Years - Autism and Developmental Disabilities Monitoring Network(8歳の子供における自閉症スペクトラム障害の有病率)年-自閉症及び発達障害モニタリングネットワーク), 11 Sites, United States, 2014. MMWR. Surveillance Summaries 67, no. 6: 1-23)。
【0003】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は現在、以下により特徴付けられた単一の診断エンティティと見なされている:1)社会的相互作用とコミュニケーションの欠陥、社会的感情的相互作用の欠陥、社会的相互作用に使用される非言語的コミュニケーション行動の欠陥、対人関係の発達、維持、理解における欠陥;2)限定された又は反復する様式の行動についての、以下を含む少なくとも4つのサブドメイン環境。常同的又は反復的な運動動作、同一性へのこだわり又は日常動作への融通の効かない執着、非常に限定的な固定された興味、感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、又は感覚的側面への異常な関心(Baird G, et al. Neurodevelopmental disorders. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-Fifth Edition (DSM-5)(神経発達障害。米国精神医学会、精神疾患の診断と統計マニュアル第5版). Washington, D.C.: American Psychiatric Publishing, 2013: p. 31-86)。
【0004】
中核症状の初期症状は、9~12ヶ月の早期に観察でき(Rogers SL et al. "Autism treatment in the first year of life: a pilot study of infant start, a parent-implemented intervention for symptomatic infants.(生後1年の自閉症治療:乳児の開始の予備研究、症候性の乳児に対して親が実施した介入)" J Autism Dev Disord. 2014;44(12):2981-95)、安定した診断は早くも14ヶ月で確立することができる(Pierce K et al. Evaluation of the Diagnostic Stability of the Early Autism Spectrum Disorder Phenotype in the General Population Starting at 12 Months.(12ヶ月にて開始する、一般集団における早期自閉症スペクトラム障害表現型の診断安定性の評価) JAMA Pediatr. 2019;173(6):578-587)。しかしながら、このような中核症状は、社会的要求が限られた能力を超えるまでは完全には現れないかもしれず、また、後の人生において学んだ戦略によって隠されるかもしれない(Baird G. Classification of Diseases and the Neurodevelopmental Disorders: The Challenge for DSM-5 and ICD-11." Developmental Medicine & Child Neurology. 2013; 55(3):200-201ベアードG.疾患と神経発達障害の分類:DSM-5とICD-11の挑戦。」 Developmental Medicine&ChildNeurology。2013; 55(3):200-201)。ASDが診断されるには、その症状が臨床的に重大な障害を引き起こし、それによって患者が他の人、特に小児患者に言及する際において、同年代の人々と相互作用する能力に悪影響がある必要がある。
【0005】
環境的要因又は発達的要因、並びに、てんかん等の併存症もまた、症状の悪化の原因となり得る。ASDの症状及びその重症度は、中核症状及び同時発生症状によって大きく異なる。したがって、ASDの各人は、症状と機能レベルとについて独自の組み合わせを有している。これは、スペクトルの高機能側である者にとっては、比較的マイルドな負荷となる可能性がある。他の者にとっては、反復的な行動や、話し言葉や表現力の欠如が日常生活に支障をきたす場合のように、症状がより深刻になる可能性がある。さらに、個々の症状と同時発生する状態は管理可能であり得る一方で、それらが重なることによって衰弱してしまい、その者と家族の両方にとって人生を左右する影響を及ぼす可能性がある((Hirvikoski T et al. "High Self-Perceived Stress and Poor Coping in Intellectually Able Adults with Autism Spectrum Disorder.(自閉症スペクトラム障害を伴う知的能力のある成人における高い自己認識ストレスと不十分な対処)" Autism. 2016;19(6):752-57)。例えば、完全にコミュニケーションが全く取れない、又は、十分にコミュニケーションを取れないと、過敏になる/興奮を生じてしまう可能性があり、複合した影響によって社会化が損なわれ、さらに下流の影響(例えば、自殺念慮又は自傷行為)を伴う可能性がある。
【0006】
ASD診断への現在の行動ベースのアプローチでは、分子的及び遺伝的変化の観点から患者を効率的に分類することはできず、種々異なる病因を持つ神経発達障害の大規模なグループの行動についての包括的な用語として機能するという認識が科学界の間で高まっている。
【0007】
ASDは、中核領域の症状によって定義され得るが、遺伝、表現型、臨床像及び関連する併存症には、かなりの異質性が存在する(Persico AM et al.; Searching for ways out of the autism maze: genetic, epigenetic and environmental clues(自閉症の迷路から脱出する道の探索:遺伝的、後成的及び環境的手がかり); Trends Neurosci. 2006 Jul;29(7):349-358)。しかしながら、問題をさらに複雑にするように、遺伝的及び後成的要因が出生前及び生涯にわたる動的環境要因と絡み合って、個々の患者の病因を引き出している。それにもかかわらず、原因となる遺伝的要因は、スクリーニングされた患者の15~20%でしか特定できないため、ASD患者の大多数は、依然として特発性と見なされている。特発性ASDを引き起こす特定の遺伝子は特定されていないが、1,000を超える遺伝子が自閉症に関連している(SFARIデータベース、https://gene.sfari.org/)。
【0008】
近年では、増え続けるASD感受性遺伝子が、実際には限られた数の分子経路に向かって収束する可能性があるという理論を支持する証拠が蓄積されてきている。シナプス及び回路形成を媒介する分子経路は、適応性及び先天性免疫応答(Estes ML et al. Immune mediators in the brain and peripheral tissues in autism spectrum disorder.(自閉症スペクトラム障害における脳及び末梢組織の免疫メディエーター) Nature Reviews Neuroscience. 2015;16(8):469-486)、細胞増殖、生存及びタンパク質合成(Subramanian M et al. Characterizing autism spectrum disorders by key biochemical pathways.(主要な生化学的経路による自閉症スペクトラム障害の特徴づけ) Front. Neurosci. 2015; Tang G et al. Loss of mTOR-dependent macroautophagy causes autistic-like synaptic pruning deficits.(mTOR依存性の喪失マクロオートファジーは、自閉症のようなシナプスの剪定障害を生じさせる) Neuron. 2014;83(5):1131-1143)の調節を含む他の生理学的プロセスにも関与しているため、この増大する仮定によって、重要な橋渡し研究の機会が得られる。
【0009】
自閉症のリスクの複雑さを考慮して、症状の範囲と重症度で観察される高い変動性を説明するために、遺伝的感受性と相互作用する可能性のある他の要因が調査されている。この変動性は、遺伝的背景の複雑さに加えて、環境的要因が関与していることを証明している。証拠の増加はまた、免疫調節不全、ミクログリアの活性化及び神経炎症が、自閉症の表現型の病因及び重症度に関係している可能性があることを示唆している(Ricci et al. Altered Cytokine and BDNF Levels in Autism Spectrum Disorder.(自閉症スペクトラム障害におけるサイトカイン及びBDNFレベルの変化) Neurotoxicity Research. 2013;24(4):491-501; Jyonouchi et al. Cytokine profiles by peripheral blood monocytes are associated with changes in behavioral symptoms following immune insults in a subset of ASD subjects: an inflammatory subtype?.(末梢血単球によるサイトカインプロファイルは、ASD被験者のサブセットにおける免疫傷害後の行動症状の変化と関連している:炎症性サブタイプ?) J Neuroinflammation. 2014;11(187); Mead et al. Evidence Supporting an Altered Immune Response in ASD.(ASDにおける免疫応答の変化を裏付ける証拠) Immunology Letters. 2015;163(1): 49-55; Patel et al. Social Impairments in Autism Spectrum Disorder Are Related to Maternal Immune History Profile.(自閉症スペクトラム障害の社会的障害は、母体の免疫歴プロファイルに関連している) Molecular Psychiatry. 2018;23(8):1794-97)。メタ分析は、投薬を受けていない参加者のサイトカインの血漿及び血清濃度をASD及び健常対照群と比較する研究にて実施された。健常対照群と比較して、ASDの参加者ではサイトカインの濃度が大幅に変化し、ASDの異常なサイトカインプロファイルの証拠が強化された(Masi et al. Cytokine Aberrations in Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis.(自閉症スペクトラム障害におけるサイトカイン異常:系統的レビューとメタ分析) Molecular Psychiatry. 2015;20(4):440-46)。さらに、免疫メディエーターのレベルの変化は、行動の障害の増加と関連している(Ashwood et al. Elevated Plasma Cytokines in Autism Spectrum Disorders Provide Evidence of Immune Dysfunction and Are Associated with Impaired Behavioral Outcome.(自閉症スペクトラム障害における血漿サイトカインの上昇は、免疫機能障害の証拠を提供し、行動転帰の障害と関連する) Brain, Behavior. 2011;25(1):40-45; Ashwood et al. Associations of Impaired Behaviors with Elevated Plasma Chemokines in Autism Spectrum Disorders.(自閉症スペクトラム障害における障害行動と血漿ケモカインの上昇との関連) Journal of Neuroimmunology. 2011;232(1-2): 196-99; Grigorenko et al. "Macrophage Migration Inhibitory Factor and Autism Spectrum Disorders.(マクロファージ遊走阻止因子と自閉症スペクトラム障害)" PEDIATRICS. 2008;122(2):e438-45; Ning et al. Increased Serum Levels of Macrophage Migration Inhibitory Factor in Autism Spectrum Disorders.(自閉症スペクトラム障害におけるマクロファージ遊走阻止因子の血清レベルの増加) NeuroToxicology. 2019;71:1-5)。現在、胎児の発育中の母体の免疫応答が、自閉症の素因の1つであることが認識されている(Ploeger et al. The Association Between Autism and Errors in Early Embryogenesis: What Is the Causal Mechanism?(自閉症と初期胚発生のエラーとの関連:何が原因メカニズムか?)" Biological Psychiatry. 2010;67(7):602-7; Knuesel et al. Maternal Immune Activation and Abnormal Brain Development across CNS Disorders. Nature Reviews Neurology. 2014;10(11):643-60)。ほとんどの患者では、ASDは、遺伝的要因と環境的要因の間の個々に変動する複雑な相互作用の結果である可能性がある(Etiological Heterogeneity in Autism Spectrum Disorders: More than 100 Genetic and Genomic Disorders and Still Counting.(自閉症スペクトラム障害における病因的不均一性:100を超え、さらに増え続ける遺伝的及びゲノム的障害) Brain Research. 2011;1380:42-77; Rossignol et al. Environmental Toxicants and Autism Spectrum Disorders: A Systematic Review.(環境毒物と自閉症スペクトラム障害:系統的レビュー) Translational Psychiatry. 2014;4(2):e360-e360)。
【0010】
現在、ASDの中核症状に対処するための承認された治療法はない。抗精神病薬は、関連する行動上の問題のいくつか、特にASDに関連する過敏性に対して有効性を示している(Jobski, K. et al. Use of psychotropic drugs in patients with autism spectrum disorders: a systematic review.(自閉症スペクトラム障害患者における向精神薬の使用:系統的レビュー) Acta Psychiatr Scand, 2017. 135(1): p. 8-28)。例えば、非定型抗精神病薬及び中枢刺激薬は、それぞれ過敏性/破壊的行動及び注意欠陥/多動性障害(ADHD)の症状に比較的効果的である(Fung, L.K. et al. Pharmacologic Treatment of Severe Irritability and Problem Behaviors in Autism: A Systematic Review and Meta-analysis.(自閉症における重度の過敏性と問題行動の薬理学的治療:体系的レビュー及びメタ分析) Pediatrics, 2016. 137 Suppl 2: p. S124-35)。抗精神病薬の中で、リスペリドン及びアリピプラゾールは、ASDの若者の過敏症の治療のため、米国食品医薬品局によって承認されている。ASDにおける抗精神病薬に関連する有効性の証拠にもかかわらず、治療反応は非常に多様であり、鎮静、錐体外路症状のリスク、代謝異常等の副作用に関連していることがよくある。ASDにおける新しい薬理学的治療法の開発が強く求められている(Berry-Kravis, E.M. et al. Drug development for neurodevelopmental disorders: lessons learned from fragile X syndrome.(神経発達障害の薬剤開発:脆弱X症候群から学んだ教訓) Nat Rev Drug Discov, 2018. 17(4): p. 280-299; Lacivita, E. et al. Targets for Drug Therapy for Autism Spectrum Disorder: Challenges and Future Directions.(自閉症スペクトラム障害の薬物療法のターゲット:課題と将来の方向性。 ) J Med Chem, 2017. 60(22): p. 9114-9141)。しかしながら、ASDの病因の異質性を考えると、「万能」な治療アプローチの特定は失敗が続きそうである。したがって、より良いアプローチは、「万能」から分子的及び遺伝的異質性の理解にシフトすることである。したがって、臨床試験において特定の治療から利益を得る可能性のある人(又は、人のサブセット)を特定することが重要な課題となる。
【0011】
ASDの根本的な原因はとらえどころのないままであるため、ASD患者をより小さく、より均質なサブグループに層別化するこれまでの試みは、特定の遺伝子シグネチャを利用することによって(Bernier et al; Disruptive CHD8 mutations define a subtype of autism early in development(破壊的CHD8変異が、発達の早期に自閉症のサブタイプを定義する); Cell 2014 Jul 17; 158 (2): 263-276)、又は、行動及び臨床上の中間表現型を利用することによって(Eapen V. and Clarke R.A.; Autism Spectrum Disorders: From genotypes to phenotypes(自閉症スペクトラム障害:遺伝子型から表現型へ); Front Hum Neurosci. 2014;8:914)行われた。しかしながら、これらの戦略は、ASDの遺伝子及び表現型の不均一性を取り巻く困難性に直面しており、疾患の根本にある特定の神経生物学的経路を識別する助けとならない可能性がある。
【0012】
分子ベースのアッセイによって、ASD患者を分類する方法が提供される可能性がある。しかしながら、ASDの本質的な複雑さや、その不均一性、遺伝的要因及び環境的要因の複雑な絡み合いのため、そのようなアッセイを確立するために使用可能なASDの特定のバイオマーカーは、未だ特定されていない。さらに、そのようなバイオマーカーは、それらの特異性のため、ASD患者の大規模なグループを包含することができない。しかしながら、このようなアッセイは、短期的には、遺伝子型サブグループ、表現型サブグループ又は治療反応の事前に特定されたサブグループの特徴付けを支援し得る。
【0013】
本発明者らは、以前に、特発性自閉症スペクトラム障害のサブセット、いわゆるASD表現型1を特定する方法を報告した。この患者のサブセットは、臨床徴候と症状の同時発生に従って同定可能である。これらの臨床徴候と症状に加えて、ASD表現型1は、PCT/EP2018/080372に記載されているように、Nrf2活性化因子であるスルホラファンをASD患者に投与し、Nrf2活性化因子の投与後において患者がネガティブな行動反応を示した場合にASD表現型1を特定することによって同定することができる。スルホラファンは、表現型1患者の行動症状の悪化を誘発すると予測されている。そのような試験はin vivoの性質のため、ASD表現型1を診断することを可能にするin vitroの実験室試験は、非常に有利になると考えられる。
【0014】
ペプチドは、その阻害剤であるKeap1によるユビキチン媒介分解のために翻訳された後に細胞質へと標的化され、それによって核への移行が妨げられるため、核Nrf2の基礎レベルは、通常は低い。しかしながら、酸化ストレス又はKeap1の小分子阻害剤に応答して、Nrf2は蓄積して核へと移行し、そこで抗酸化応答要素(ARE)と称されるゲノムの調節配列に結合し、一連の抗酸化及び無毒化遺伝子を活性化する。そのような遺伝子としては、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、NQO1(NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ1)、HO-1(ヘムオキシゲナーゼ1)、GCS(グルタミルシステインシンターゼ)及びスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)及びカタラーゼ等のフリーラジカルスカベンジャーをコードする遺伝子等が挙げられる(Dreger, H. et al. Nrf2-dependent upregulation of antioxidative enzymes: a novel pathway for proteasome inhibitor-mediated cardioprotection.(抗酸化酵素のNrf2依存性アップレギュレーション:プロテアソーム阻害剤を介した心臓保護の新しい経路) Cardiovasc Res, 2009. 83(2): p. 354-61; Higgins, L.G. et al. Transcription factor Nrf2 mediates an adaptive response to sulforaphane that protects fibroblasts in vitro against the cytotoxic effects of electrophiles, peroxides and redox-cycling agents.(転写因子Nrf2は、求電子剤、過酸化物、及び酸化還元サイクリング剤の細胞毒性効果からin vitroで線維芽細胞を保護するスルホラファンへの適応応答を仲介する) Toxicol Appl Pharmacol, 2009. 237(3): p. 267-80; Shin, S.M. et al. Role of the Nrf2-ARE pathway in liver diseases.(肝疾患におけるNrf2-ARE経路) Oxid Med Cell Longev, 2013. 2013: p. 763257)。したがって、Nrf2抗酸化活性の主な影響は、ROS及びミトコンドリアの好気性代謝にある。好気性代謝は、真核細胞で最も効率的なエネルギー経路であり、ミトコンドリア内膜に作用する呼吸鎖に基づいており、エネルギーをATP分子の合成に収束させる。この経路はエネルギーを生成するが、ROS等の不要な化合物が過剰に生成されるようにもなる。ROSの蓄積を防ぐために、Nrf2は酸化反応の抑制を促進し、炭素ベースのエネルギー源の存在下でミトコンドリアの好気性代謝によるエネルギー産生を減少させる。細胞の抗酸化活性は、Nrf2シグナル伝達経路の構成的活性化のために、表現型1細胞において増加する。
【0015】
身体試料(すなわち、血漿、血清、尿)のメタボロミクス分析は、ASDを含むいくつかの複雑な障害の病原性メカニズムをさらに特徴づけるため、近年において利用されてきている(Rangel-Huerta O.D. et al. Metabolic profiling in children with autism spectrum disorder with and without mental regression: preliminary results from a cross-sectional case-control study.(自閉症スペクトラム障害のある子供とない子供における代謝プロファイリング精神的退行:横断的症例対照研究からの予備的結果) Metabolomics. 2019. 15(7):99; Li K. et al. A robust, single-injection method for targeted, broad-spectrum plasma metabolomics.(対象を絞った広域スペクトル血漿メタボロミクスのための堅牢な単一注射法) Metabolomics. 2017. 13(10):122)。この点に関して、いくつかのグループは、4-エチルフェニルサルフェート、インドレピルビン酸、グリコレート又はプロピオン酸イミダゾール等の特定の代謝物の決定(Hsaio et al.、US20140065132A1)、Gcグロブリンタンパク質の発現の変化(Horning et al.、WO20133130953A2)、分子量が約10ダルトン~約1500ダルトンである複数の代謝物(Gebrin Cezar et al.、EP2564194A1)、12-HETE及び15-HETE、並びに、スフィンゴシン及びコリンのうち1つを含む(Srivastava et al.、US20170067884A1)、炭水化物代謝酵素タンパク質の発現の変化(Lipkin et al.、US20120207726A1)に基づいて、自閉症の診断を改善する方法及び/又は早期診断を提供する方法を提案した。近年、Donley et al.は、分枝鎖アミノ酸との比率でのアミノ酸グルタミン、グリシン及びオルニチンの調節不全の裏付けとなる証拠を報告した(Smith et al. Amino Acid Dyregulation Metabotypes: Potential Biomarkers for Diagnosis and Individualized Treatment for Subtypes of Autism Spetrum Disorder.(アミノ酸調節不全メタボタイプ:自閉症精子障害のサブタイプの診断及び個別治療のための潜在的なバイオマーカー) Biological Psychiatry, 2019, 85 (4):345-354)。これらの方法は、自閉症スペクトラム障害の診断を改善するための有効な代替手段を提供する可能性があるが、個別化された治療を提供可能なサブグループへと患者をサブグループ化することはできない。さらに、血漿及び尿の測定値は、食事、投薬、概日リズム、サンプル処理等、様々な要因の影響を受ける。これらのパラメータは全て、ASDの病因の異質性との関連で、ASDにおいて一貫したバイオマーカーを検出するのに潜在的な困難をもたらす。
【0016】
以前の研究では、リンパ芽球様細胞株(LCL)が使用されており、代謝障害が示されている。RoseとFrye(Rose S. et al. Clinical and Molecular Characteristics of Mitochondrial Dysfunction in Autism Spectrum Disorder.(自閉症スペクトラム障害におけるミトコンドリア機能障害の臨床的及び分子的特徴) Mol Diagn Ther. 2018. 22(5):571-593)は、以前にASD患者のミトコンドリア機能が、変化していない又は非定型であると報告した。非定型のミトコンドリア機能は、ATPに関連した呼吸が高く、解糖系への依存度が高いことを特徴としている。しかしながら、ASDにおけるミトコンドリア機能障害の病因とそれを定義する方法は、不明確なままである。
【0017】
Boccuto et al.は、ASDにおいて対照群LCLと比較して異常なトリプトファン代謝を観測した。これらの結果は、幼い頃の自閉症患者を診断する方法を提供したが(US9164106B2、 Boccuto et al. Mol Autism 4:16, 2013)、自閉症患者のサブセットを特定する機会も、生物学的に定義されたサブグループに合わせた特定の治療も提供していない。
【0018】
したがって、ASDサブグループの根本的な分子機能障害に対処する標的化された薬学的介入の恩恵を受けることが可能な、ASDの特定のサブタイプの患者を診断するための効率的かつ簡易な方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、解決される課題は、特発性ASD集団において、ASD患者の特定のサブグループ(いわゆるASD表現型1)を効率的に特定する手段を提供することである。解決される別の課題は、前述のASD表現型1に特徴的である特異的な細胞経路の変化を検証する手段を提供し、潜在的な治療候補をASD患者細胞にて直接テストすることによって、このサブグループの患者に個別の薬物療法を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の問題は、以下のステップを含むASD表現型1を診断するための方法を提供することよって解決される。該方法は、以下のステップを含む:
a)患者固有の細胞株を提供するステップ、
b)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
c)前記患者固有の細胞株の前記エネルギー産生能力が、定型発達の対照群(TD)から得られた同様の細胞株で評価されたものと特異的に異なる場合に、ASD表現型1と診断するステップ。
【0021】
別の態様では、本発明は、患者のASD表現型1を診断するための方法に関する。該方法は、以下のステップを含む:
a)患者固有の細胞株を提供するステップ、
b)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下、Nrf2活性化因子の非存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第1エネルギー産生Aを得るエネルギー産生能力を評価するステップ、
c)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、ステップb)と同じ炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第2エネルギー産生能力Bを得るエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
d)Aが本質的にBに等しい場合、ASD表現型1と診断するステップ。
【0022】
別の態様では、本発明は、ASD表現型1の治療のための化合物の有効性を評価するための方法に関する。該方法は、以下のステップを含む:
a)前記化合物を、ASD表現型1患者のサンプルに由来する細胞株へ投与するステップと、
b)1つ以上のエネルギー源及び/又は1つ以上の代謝因子の存在下での前記細胞株のエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
c)前記細胞株の前記エネルギー産生能力が、定型発達の対照群(TD)から得られた同様の細胞株で評価されたものと特異的に異なるかどうかを評価するステップ。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、ASD表現型1の治療のための化合物の有効性を評価するための、ASD表現型1患者のサンプルに由来する細胞株の使用に関する。該使用は、以下のステップを含む:
a)前記化合物を、前記細胞株へ投与するステップ、
b)1つ以上のエネルギー源及び/又は1つ以上の代謝因子の存在下での前記細胞株のエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
c)前記細胞株の前記エネルギー産生能力が、定型発達の対照群(TD)から得られた同様の細胞株で評価されたものと特異的に異なるかどうかを評価するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】18の表現型1(Ph1)、20の非表現型1(非Ph1)及び20の対照群リンパ芽球様細胞株(LCL)からの、スルホラファンによる処理の前後における様々な炭素エネルギー源の存在下でのエネルギー産生能力について、比色分析によって評価された主成分分析(PCA)。次元1及び2(dim.1及びdim.2)の変動性における各化合物の寄与を示す相関プロット。なお、ドットが大きく暗いほど、分散に対する化合物の寄与が大きくなる。
図1B】スルホラファンの非存在下でのPCA分析のバイプロット表現。
図1C】スルホラファンの存在下でのPCA分析のバイプロット表現。
図2】スルホラファンによる処理の前後における、選択された炭素エネルギー源、すなわちD-グルコース及びマルトースの存在下での、18の表現型1及び20の対照群細胞株の吸光度平均値のグラフ表示を示す。
図3】18の表現型1(Ph1)、20の非表現型1(非Ph1)及び20の対照群細胞株(LCL)の平均吸光度値のグラフ表示を示す。培地に存在する炭素エネルギー源は、D-グルコースであった。吸光度値によって評価されるエネルギー産生能力は、ベースラインで、スルホラファンの非存在下(未処理)及び存在下(処理済)でのcAMPの透過性類似体であるジブチリルcAMPの濃度を増加させつつ測定した。
図4図4と同様の結果を示す。各細胞株について、Nrf2の非存在下及び存在下でのジブチリルcAMPの濃度の増加に応じたエネルギー産生は、ベースラインで測定された値に正規化した。
図5】選択されたエネルギー源であるD-グルコース及びd-マンノースの存在下及び非存在下での、18の表現型1、20の対照群細胞株及びイブジラストで処理された18の表現型1から平均された、吸光度測定によって評価されたエネルギー産生能力のグラフ表示を示す。ベースラインでは、ASD Ph1からのLCLのエネルギー生成は、対照群のエネルギー産生よりも低くなっている。イブジラストによる前処理後、ASD Ph1のエネルギー産生能力は、未処理のASD Ph1と比較して増加し、対照群と同様のレベルに達する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によれば、患者において、ASD表現型1は以下のステップによって診断され得る:
a)患者固有の細胞株を提供するステップ、
b)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
c)前記患者固有の細胞株の前記エネルギー産生能力が、定型発達の対照群(TD)から得られた同様の細胞株で評価されたものと特異的に異なる場合に、ASD表現型1と診断するステップ。
【0026】
一実施形態では、患者は特発性ASDと以前に診断されている。
【0027】
本発明の別の態様では、患者においてASD表現型1と診断するための方法が提供され、該方法は、以下のステップを含む:
a)患者固有の細胞株を提供するステップ、
b)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第1エネルギー産生能力Aを得るエネルギー産生能力を評価するステップ、
c)ステップa)において提供された前記患者固有の細胞株の、ステップb)と同じ炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の非存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第2エネルギー産生能力Bを得るエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
d)Aが本質的にBに等しい場合、ASD表現型1と診断するステップ。
【0028】
本明細書にて使用される場合、用語「自閉症スペクトラム障害(ASD)」は、社会的コミュニケーション及び社会的相互作用における持続的な欠損、並びに、行動、興味又は活動の限定的かつ反復的な様式を特徴とする神経発達障害群を包含するものと理解される。診断「特発性ASD」は、報告された徴候及び症状を引き起こす明確な分子的又は遺伝的変化がないことに基づく。したがって、特発性ASDの診断は除外診断であり、自閉症の主な分子的及び遺伝的に知られる原因が除外される必要がある。以下では、用語「特発性自閉症スペクトラム障害」、「特発性自閉症」、「特発性ASD」及び「ASD」は、同じ意味で使用される。
【0029】
本明細書において、用語「ASD表現型1」及び「表現型1」は、同じ意味で使用される。同様に、用語「ASD非表現型1」、「非表現型1」及び「その他のASD表現型」は、同じ意味で使用される。用語「ASD患者」は「突発性ASDを伴う患者」のことを示し、ASDを有すると診断された人だけでなく、ASDを有する疑いのある人(すなわち、ASDの行動特性を示し、ASDの臨床的兆候を示しているが、診断による正式な検証はまだ受けていない者)も意味する。
【0030】
ASD表現型1は、Nrf2阻害剤による治療に対して高い反応率を示す、臨床的に識別可能なASDのサブタイプをもたらす、遺伝的及び分子的変化の特異的なセットによって定義される、ASD患者について最近述べられた亜集団である。より正確には、ASD表現型1患者はNrf2の構成的活性化を示し、最終的には、PI3K、AKt、mTOR、ERK/JMH-P38、NF-κBを含むNrf2によって調節される細胞内経路の調節不全を示す。これらの経路は、ストレスへの適応、アポトーシス又は細胞分化、細胞増殖、細胞周期の進行、細胞分裂及び分化、炎症及びミトコンドリア/代謝活性に関与している。
【0031】
ASD表現型1患者のプロファイルが、Singh et alらによって報告されたものとは異なることは注目に値する。(Singh et al; Sulforaphane treatment of autism spectrum disorder (ASD)(自閉症スペクトラム障害(ASD)のスルホラファン治療). PNAS 2014; 111:43, 15550-5; Singh et al; Sulforaphane treatment of young men with autism spectrum disorder(自閉症スペクトラム障害の若い男性のスルホラファン治療). CNS & Neurological Disorders Drug Targets, 2016; 15;5:597-601)。Singh et alにて治療された患者では、スルホラファンを用いた治療は、ASDの中核症状の有意な改善を示した(ADOS 2により測定)。Singh et alは、この有効性を、根本的な分子的及び遺伝的変化と関連付けることができなかった。
【0032】
Singh et alにて治療された患者とは対照的に、スルホラファンによるASD表現型1患者の短期経口治療(いわゆる負荷試験)は、それらの患者のベースラインNrf2活性が高いために、ADI-r SI、ADI-r C又はADI-r RI等の様々な基準によって評価されるネガティブな行動反応を誘発する(欧州特許出願第17200185.1号に記載)。
【0033】
当業者は、どのようにして患者がASD(特に、特発性ASD)と診断され得るかについて、よく認識している。例えば、当業者は、「米国精神医学会、精神疾患の診断と統計マニュアル(DSM-5)第5版」に設定された基準に従って、被験者にASDの診断を下してもよい。同様に、ASD患者は、標準化された評価ツールに従って診断されてもよい。そのような評価ツールとしては、以下に限定されないが、DSM IV、ICD-9、ICD-10、DISCO、ADI-R、ADOS、CHATが挙げられる。他の場合において、患者は、自閉性障害又は特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の確立したDSM-IV診断を有し得る。
【0034】
本明細書において、用語「定型発達者(TD)」とは、ASDと診断されておらず、ASDの臨床的兆候及び症状を示さない対象を称する。したがって、TDは、ASD患者と比較した対照群として機能する。本明細書では、用語「TD」と「対照群」とは、同じ意味で使用される。
【0035】
本明細書において、用語「ASD表現型1細胞」又は「ASD Ph-1細胞」は、ASD表現型1患者からのサンプルに由来する細胞又は細胞株を称し、用語「ASD非表現型1細胞」又は「ASD非Ph1細胞」は、ASD非表現型1患者からのサンプルに由来する細胞又は細胞株を称する。
【0036】
当業者にとって、細胞をサンプルから単離する方法、及び、そのようにして得られた有限の細胞株を不死化する方法は既知である。単離された細胞型には、皮膚サンプルに由来するリンパ球又は線維芽細胞等の血球由来細胞が含まれ得る。
【0037】
本明細書において、用語「細胞株」というは、有限細胞株及び不死化細胞株の両方を称する。用語「類似の細胞株」は、異なるサンプルから得られた細胞株、特に、同じ細胞型を依然として含むと共に同様の方法で処理された対照群(定型発達者)のサンプルから得られた細胞株を称する。用語「患者固有の細胞株」は、本明細書では、所定の患者のサンプルから生成された細胞株を称する。
【0038】
本発明の文脈において、用語「サンプル」は、任意のヒトの生物学的サンプルを称する。サンプルは、皮膚サンプル、末梢血サンプル、又は、(例えば、個々の化合物を精製又は分離することによって)処理された全血サンプルであってもよい。
【0039】
当業者にとって、細胞株のエネルギー産生能力を評価する方法は公知である。細胞又は細胞株のエネルギー産生能力は、本明細書では、炭水化物からエネルギーをATPの形態で生成する細胞又は細胞株の固有の潜在力として理解される。ATPを生成するための炭水化物の代謝は、サイトゾルにおいて解糖され、ミトコンドリアにおいて酸化的リン酸化されて生じる。解糖は、ミトコンドリアとは独立してATPを生成するが、ミトコンドリアのATP合成を推進するために呼吸鎖に直接供給されるNADHの形態にて電子もまた提供する。解糖及び酸化的リン酸化は、エネルギーを生成する中心的なメカニズムであり、そのためエネルギー産生能力評価の焦点である。細胞内の解糖及び酸化的リン酸化の調節に関連するメカニズムの活性化の状態は、所与の細胞が有機化合物をATPに代謝することができる効率を決定する。したがって、エネルギー産生能力を測定することによって、細胞株におけるこれらの経路の活性化の状態に関する情報を導出することが可能である。
【0040】
ASD表現型1では、Nrf2及びNrf2関連経路のより高い活性が、ミトコンドリア機能及びエネルギー代謝に影響を与えると予想される。Nrf2及びNrf2調節経路の調節不全は、乳酸への解糖を増加させ、ペントース経路を活性化することによって代謝活性を調節する(Heiss et al. Glucose availability is a decisive factor for Nrf2-mediated gene expression(グルコースの利用可能性はNrf2を介した遺伝子発現の決定的要因である). Redox Biology. 2013; 1(1):359-365)。
【0041】
エネルギー産生能力及び/又はエネルギー消費量を測定する方法には、以下の直接測定及び間接測定が含まれる。
・ベースライン時と細胞ストレス誘導後との両方でのサイトゾル及びミトコンドリアのATPレベル。
・免疫細胞の活性化の分子マーカー(例えば、細胞膜に発現する様々なCDクラスター)。
・サイトゾル及び/又は特定の細胞小器官内のpHレベル。
・ピルビン酸/乳酸比。
・興奮性細胞(すなわち、ニューロン又は神経芽細胞)における特定のイオンの膜電位及び/又は細胞内及び細胞外レベル。
・細胞のベースライン及び活性化状態の組織学的マーカー(すなわち、細胞の形状、ミトコンドリアの数及び位置、特定の細胞構造又は膜受容体の存在等)。
【0042】
特に、炭素エネルギー源を代謝する能力の制限又は増加は、そのようなエネルギー源との細胞のインキュベーション期間後における、代謝エフェクターの存在下又は非存在下でのNADH等の細胞マーカーの測定可能なレベルの減少又は増加によって決定され得る。
【0043】
NADHの蓄積の検出は、例えば、比色アッセイ、蛍光アッセイ又は放射性アッセイに基づき得る。これらのアッセイでは、NADHの増加は特定のプローブの変更を通じて検出される。そのようなプローブは、例えば、テトラゾリウム、より具体的には、テトラゾリウム由来の色素であり得る。細胞がエネルギー源を代謝すると、培地中のテトラゾリウム由来の色素が酸化され、NAD+の還元によって生成されるNADHの量に比例した強度の紫色を生成する。各ウェルの色の強度の測定値は、エネルギー産生能力の指標として役立つ。強度の測定値は、特定の波長による吸光度や、エンドポイント及び/又は速度論的評価を通じた光学密度の読み取りを含む、いくつかの方法で取得され得る。
【0044】
好ましい実施形態では、細胞株のエネルギー産生能力は、市販の表現型哺乳動物マイクロアレイ(PM-Ms、Biolog社製、米国カリフォルニア州ヘイワード)を使用して測定される。表現型哺乳類マイクロアレイは、テトラゾリウムベースのアッセイに依存しており、NADHのレベルによって評価されるエネルギー生成は、強い色を形成する培地に存在するテトラゾリウム色素の還元によって測定される。続いて、生成された色の強度が吸光度によって測定される。
【0045】
本発明は、ASD表現型1を診断するためのex vivo試験を初めて提供する。これまでは、in vivo負荷試験のみが報告されている(PCT/EP2018/080372)。本発明に係る方法は、患者が彼らの症状の悪化を潜在的に誘発することになる物質によって引き起こされないという利点を提供する。
【0046】
本発明による方法のさらなる利点は、特定のバイオマーカーの正確な知識が必要とされず、したがって、新規のアッセイの確立を必要としないことである。代わりに、ASD表現型1の診断は、当業者によって日常的に検出され得る化合物の測定を使用して達成される。
【0047】
さらに、本発明の方法は、複雑な代謝経路の下流末端での事象を測定するため、個々のバイオマーカーの発現に違いがあるかもしれないASD患者の階層化を可能にし、それにもかかわらず、ASD非表現型1(すなわち、他の特発性ASD患者)及び対照群の者と比べたNrf2及び/又はNrf2関連経路の上方制御によって定義される共通の表現型を共有し得る。したがって、本発明の方法は、異なる者の間で大きく異なる可能性がある中間バイオマーカーに依存することなく、ASD表現型1患者を診断することができる。
【0048】
一実施形態では、エネルギー産生能力を評価するために使用される炭素エネルギー源は、D-グルコース、D-グルコース-6-リン酸、D-グルコース-1-リン酸、D-マンノース、D-フルクトース、D-フルクトース-6-リン酸、D-ガラクトース及びデキストリンを含む糖類から選択される。好ましい実施形態では、炭素エネルギー源は、D-グルコース、D-マンノース、D-フルクトース及びデキストリンからなる群より選択される。最も好ましくは、炭素エネルギー源は、デキストリン、D-マンノース又はD-グルコースである。
【0049】
本発明によれば、ASD表現型1患者に由来する細胞がこれらの炭素エネルギー源を提供する場合、これらの炭素源をエネルギー産生のために代謝する該細胞の能力は、ASD非表現型1又は対照群細胞株と比較して低い。このより低いエネルギー産生能力は、上で説明したように測定され得る。例えば、より低いエネルギー産生能力は、染料のより低い還元度に起因するより低い吸光度値によって反映され得る。これは、産生されたNADHの量の代理マーカーとして機能する。
【0050】
したがって、一実施形態では、ASD表現型1は、D-グルコース、D-グルコース-6-リン酸、D-グルコース-1-リン酸、D-マンノース、D-フルクトース、D-フルクトース-6-リン酸、D-ガラクトース及びデキストリンからなる群より選択される炭素エネルギー源の存在下での、対照群又はASD-非Ph1細胞と比較したより低いエネルギー産生能力によって診断され得る。
【0051】
本発明の別の態様では、炭素エネルギー源は、マルトース、ツラノース、D-トレハロース、スクロース、マルトトリオース、ヌクレオチド及びイノシンを含む二糖及び三糖から選択される。好ましい実施形態では、炭素エネルギー源は、マルトトリオース、マルトース及びイノシンから選択される。ASD Ph1患者では、Nrf2の活性化により代謝スイッチが生じ、それによってペントースリン酸経路の活性化が増加するため、これら全てにより、対照群細胞又はASD非Ph1細胞と比較してASD Ph1細胞にてより高いエネルギー産生が可能になる。これにより、これらの代替エネルギー源をより適切に使用できるようになる。
【0052】
したがって、一実施形態では、ASD表現型1は、マルトース、ツラノース、トレハロース、スクロース及びマルトトリオースの群から選択される炭素エネルギー源の存在下での、対照群又はASD非Ph1細胞と比較したエネルギー産生能力の増加によって診断され得る。
【0053】
本発明によれば、ASD表現型1は、患者固有の細胞株のエネルギー産生能力が、定型発達の対照群(TD)又は表現型1(非表現型1)の基準に適合しないASD患者から得られた同様の細胞株で評価されたものと特異的に異なる場合に診断される。
【0054】
一実施形態では、「特異的に異なる」とは、細胞株のエネルギー産生が以下の基準のうちの1つ以上を示すことを意味する:
-好ましくはD-グルコース、L,D-グルコース-6-リン酸、D-グルコース-1-リン酸、D-マンノース、D-フルクトース、D-フルクトース-6-リン酸、D-ガラクトース及びデキストリンからなる群より選択される少なくとも1つの炭素エネルギー源の存在下でのより低いエネルギー産生能力、及び/又は、
-マルトース、ツラノース、トレハロース、スクロース、マルトトリオース及びイノシンからなる群より選択された炭素エネルギー源の存在下でのより高いエネルギー産生能力、及び/又は、
-KCl、環状アデノシン一リン酸(cAMP)類似体、ホスホジエステラーゼ阻害剤及び/又はNrf2阻害剤の存在下でのより高いエネルギー産生能力。
【0055】
本明細書における「より高い」又は「より低い」エネルギー産生能力とは、定型発達の対照群又はASD非表現型1患者のいずれかと比較して有意に高い又は低いエネルギー産生能力を称する。
【0056】
本発明によれば、ASD表現型1は、上記の基準のうちの1つ、好ましくは上記の基準のうちの2つ、最も好ましくは上記の基準の全てが満たされる場合に診断され得る。
【0057】
さらに別の実施形態では、ASD表現型1は、cAMPレベルの増加があるときのエネルギー産生能力の増加によって診断され得る。下流のエフェクターPKAを介したcAMPは、CREBのリン酸化を介してNF-κBとNrf2の両方を制御する。さらに、cAMPは、AMPK(5’アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)を調節することも可能である。これら全ての事象は、解糖及びミトコンドリア活性を増加させることにより、解糖とペントースリン酸経路とのバランスを回復させ、それによってASD表現型1患者で観察されたNrf2の病理学的活性化を逆転させる。したがって、ASD表現型1は、カフェイン等のホスホジエステラーゼのジブチリルcAMP阻害剤等の環状アデノシン一リン酸(cAMP)類似体又はNrf2阻害剤の存在下での、これらの化合物の投与前のエネルギー産生能力と比較したより高いエネルギー産生能力によって診断されてもよい。
【0058】
好ましい実施形態において、cAMPレベルの増加があるときのエネルギー産生能力の増加は、D-グルコース、D-マンノース、D-フルクトース及びデキストリンからなる群より選択される炭素エネルギー源を細胞に提供するときに観察される。最も好ましくは、炭素エネルギー源は、デキストリン、D-マンノース又はD-グルコースである。
【0059】
ASD表現型1患者では、Nrf2が構成的に活性化される。Nrf2と、PI3K、AKt、mTOR、ERK/JMH-P38、NF-κBを含むNrf2によって調節される細胞内経路とは、ストレス、アポトーシス又は細胞分化、細胞増殖、細胞周期進行、細胞分裂及び分化、炎症、並びにミトコンドリア/代謝活性への適応に関与する。Nrf2、Akt/mTOR及びNF-κB経路の活性化は、ペントースリン酸経路に有利な代謝スイッチに関連している。したがって、Nrf2阻害剤の使用によって直接的に、又は、cAMP/PKA経路を増加させることによって間接的にNrf2レベルの活性を低下させると、エネルギー産生能力を含むNrf2調節経路の活性化の生理学的状態が再構成される。さらに、cAMPを増やすことによって、AMPKの活性化を介してエネルギー産生を解糖系にシフトすることも可能である。
【0060】
したがって、本発明によれば、この患者に由来する細胞は、cAMPのレベルの増加がない際に特異的に異なるエネルギー生成能力を示すが、cAMPレベルの増加があるときに対照群と同様のエネルギー産生能力を示す場合に、ASD表現型1患者を診断することが可能である。
【0061】
例えば、エネルギー産生能力は、cAMP類似体(例えば、ジブチリルcAMP)を含む代謝因子の存在下で測定され得る。環状アデノシン一リン酸(cAMP)類似体には、以下に限定されないが、ジブチリルcAMP、8-[(4-ブロモ-2,3-ジオキソブチル)チオ]-アデノシン3’,5’-環状モノホスフェート、(Sp)-アデノシン-3’,5’-環状-S-(4-ブロモ-2,3-ジオキソブチル)モノホスホロチオエート、ベンゾイルアデノシン-3’,5’-環状モノホスフェートが含まれる。好ましい実施形態では、cAMP類似体は、ジブチリルcAMPである。
【0062】
本発明の一態様では、ジブチリルcAMPの濃度を増加させると、ASD表現型1細胞株のエネルギー産生能力が増加するが、ASD非表現型1及び対照群細胞株は何ら影響を受けない。
【0063】
代謝因子の存在下及び非存在下でのエネルギー産生能力の変化の測定は、ASD表現型1の特発性ASD患者を診断するために、単独でされてもよく、上記の方法と組み合わせて使用されてもよい。また、本明細書に記載される特定の炭素エネルギー源の存在下での、エネルギー産生能力の測定結果の確認としても役立ち得る。
【0064】
一実施形態では、患者固有の細胞株のエネルギー産生能力は、代謝エフェクターのいくつかの濃度点にて測定される。
【0065】
一実施形態では、cAMPのレベルの増加は、イブジラスト、カフェイン、テオブロミン、テオフィリン、エンプロフィリン、ペントキシフィリン、ジフィリン、L-ロイテリ、ジピリダモール、シロスタゾール、エタゾラート、ロフルミラスト、クリサボロールレセンブレノン、ドロタベリン、アプレミラスト、シロミラスト、テトミラスト、ロリプラム、(S)-ロリプラム、(R)-ロリプラム、アムリノン、ミルリノン、エノキシモン、ダキサリプラム(R-メソプラム)、リリミラスト、AWD-12-281、シパムフィリン、オグレミラスト、トフィミラスト、CI-1044、HT-0712、MK-0873、アロフィリン、CI-1018、T-2585、YM-976、V-11294A、ピクラミラスト、アチゾラム、フィラミナスト、SCH 351591、IC-485、D-4418、CDP-840、L-826,141、BPN14770及びTDP101からなる群より選択されるホスホジエステラーゼ阻害可能物質の投与によって達成されてもよい。ホスホジエステラーゼ阻害可能物質は、cAMPのAMPへの細胞内加水分解を防止し、それによって細胞内cAMPレベルを増加させる。
【0066】
別の実施形態では、ASD表現型1は、Nrf2阻害剤の存在下でのエネルギー産生能力の増加によって診断され得る。これは、過活動性Nrf2の阻害が、ASD表現型1患者の生理学的状態を回復させるためである。
【0067】
好ましい実施形態において、Nrf2阻害剤の存在下でのエネルギー産生能力の増加は、D-グルコース、D-マンノース、D-フルクトース及びデキストリンからなる群より選択される炭素エネルギー源を細胞に提供するときに観察される。最も好ましくは、炭素エネルギー源は、デキストリン、D-マンノース又はD-グルコースである。
【0068】
本明細書において、Nrf2阻害剤は、転写因子Nrf2の発現を下方制御する任意の物質として定義される。この転写因子Nrf2は、核因子(赤血球2)関連因子2(NFE2L2)としても知られており、ヒトにおいてはNFE2L2遺伝子によってコードされる。同時に、用語「Nrf2阻害剤」は、Nrf2の分解を促進する物質、あるいはNrf2の活性を抑制する物質をも含む。
【0069】
Nrf2阻害剤は、ケルチ様ECH関連タンパク質1(Nrf2のサイトゾル阻害剤、INRF2、ケルチ様タンパク質19、KIAA0132、KLHL19)、ケルチ様ECH関連タンパク質1ゼブラフィッシュ、Maftタンパク質ゼブラフィッシュ、Keap1タンパク質ラット、トリゴネリン(N-メチルニコチン酸)、タミバロテン、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)、ルテオリン(Lut)、アピゲニン(APi)、クリシン(Chry)、オウゴミン(Wog)、4-メトキシカルコン、3’,4’,5’,5,7-ペンタトキシフラボン(PMF)、エピガロカテキン3-ガラート(EGCG)、イソニアジド(INH);エチオナミド(ETH)、アスコルビン酸(AA)、ARE発現モジュレーター(AEM1)、ブルサトール(Bru)、クリプトアンシノン(CryP)、IM3829(4-(2-シクロヘキシルエトキシ)アニリン)、メトホルミン(Met)、マイコトキシンオクラトキシンA(Ota)、トリプトライド(TPL)CBR-031-1、CBR-026-7、CBR-168-5、チウラムジスルフィド、ジスルフィラム、デキサメタゾン、プロピオン酸クロベタソル、ベキサロテン、マラバリコン-A、マイコトキシンオクラトキシン、トリゴネリン、アスコルビン酸、アセトアミノフェン、ML385、ハロフジノン、4MC、AEM1、ML385クリシン、アピゲニン、オリドニン、コンバラトキシン、ホノキオール、ベルベリン、パルテノリド、ウォゴニン、イブジラスト、オリタ13、ISO-1、アラム-4b、SCD-19、イデラリシブ、セレコキシブ及びDIF1-DIF3からなる群より選択されてもよい。
【0070】
さらに別の実施形態では、ASD表現型1は、様々な供給源又はエネルギーの存在下、又はcAMPレベルの増加があるときのエネルギー生成能力が、スルホラファン等のNrf2活性化因子の存在下で改変されない場合に診断され得る。
【0071】
本明細書において、Nrf2活性化剤は、転写因子Nrf2の発現を上方制御する任意の物質として定義される。この転写因子Nrf2は、核因子(赤血球2)関連因子2(NFE2L2)としても知られており、ヒトにおいてはNFE2L2遺伝子によってコードされる。同時に、用語「Nrf2活性化剤」は、Nrf2の分解を阻害する物質、あるいはNrf2の活性を強化する物質をも含む。
【0072】
当業者にとって、Nrf2活性化剤として使用され得る様々な物質分類は公知である。そのような物質分類としては、以下に限定されないが、活性酸素種(ROS)レベルを増加させる物質;Keap1又はNrf2に直接結合し、それによりNrf2とKeap1との間の相互作用を妨害して、Nrf2の核内蓄積と活性化を誘導する分子;グルタチオンペルオキシダーゼ-1模倣薬;セレノ有機抗酸化剤;AREとNrf2との結合を調節することにより抗酸化遺伝子の発現を増加させる分子;Nrf2核移行を促進し、Nrf2依存の抗酸化反応を活性化してストレスを克服する分子(例えば、シンナムアルデヒド);Nrf2の活性化及び下流第二相酵素の誘導によりROSレベルを低下させる分子(例えば、フラボノイド);Nrf2を安定化すると共に、ミトコンドリアの酸化ストレス誘導によりNrf2の活性化を誘導する分子(例:tert-ブチルヒドロキノン)が挙げられる。
【0073】
一実施形態では、Nrf2活性化剤は、イソチオシアナート(例えば、スルホラファン)ポリフェノール分子(例えば、クルクミン);ポリフェノール系フィトアレキシン、特に、スチルベン誘導体(例えば、レスベラトロール);α-メチルシンナムアルデヒド;フラボノイド(例えば、クリシン、アスピゲン、ルテオリン);ピラジン(例えば、オルチプラズ);ブチル化ヒドロキシアニソール、詳細には、第三級ブチルヒドロキノン;フマル酸ジメチル;フマル酸モノメチル;グルタチオン;ベンゾセレナゾール(例えば、エブセレン)からなる群より選択される。
【0074】
好ましい実施形態では、Nrf2活性化剤はスルホラファンであってもよい。スルホラファン(1-イソチオシアナート-4R-(メチルスルフィニル)ブタン)は、ブロッコリーに由来するイソチオシアナートである。その治療的可能性は、自らを酸化ストレス、炎症、DNA損傷性求電子剤、及び放射線から保護する好気性細胞の機構を制御する遺伝子を転写的に上方制御する、スルホラファンの強力な活性に基づいている。スルホラファンは、ブロッコリースプラウト等の植物から抽出可能だが、化学合成によっても生成され得る。スルホラファンは食物の植物性化学物質であり、その前駆体であるグルコシノラートグルコラファニンに由来し、アブラナ科植物を多く含む食物において広く消費されている。したがって、スルホラファンは、食品、栄養補助食品又は医薬品として考慮するに値する。スルホラファンは毒性が低いと考えられており、ヒトへの投与における忍容性は良好である(Singh K et al., PNAS October, 2014; 111(43); 15550-15555)。
【0075】
さらに別の実施形態では、Nrf2活性化剤は、スルホラファン、イソチオシアン酸、バルドキソロンメチル及びフマル酸エステル、5-(2,2-ジフェルロイルエテン-1-イル)サリドマイドフェルラ酸、レスベラトロール、(+)-α-ビニフェリン、パリドール、アンペロプシンB、クアドラングラリンA、クリシン、クリシン-5,7-ジメチルエーテル、6,8-ジ-(3,3-ジメチルアリル)、クリシン、6-(3,3-ジメチルアリル)クリシン、6-ゲラニルクリシン、8-ゲラニルクリシン、8-(3,3-ジメチルアリル)クリシン、アスピゲン(aspigen)、ルテオリン、6-C-α-L-アラビノピラノシル-8-C-β-D-グルコシルルテオリン、6-ヒドロキシルテオリン7-O-ラミナリビオシド、6-ヒドロキシルテオリン、ルセニン-2、ルテオリン-7-O-β-D-グルコシド、ルテオリン-7-O-ネオヘスペリドシド、ルテオリン-7-O-α-L-ラムノシド、イソオリエンチン、カルリノシド、7-O-[β-D-アラビノピラノシル-(1->6)-β-D-グルコシル]ルテオリン、ルテオリン-O-グルクロノシド、オリエンチン、4',5,7-トリヒドロキシ-3’-メトキシフラボン、5,3’-ジ-O-メチルルテオリン、6-C-2’-O-α-L-ラムノピラノシル-(1”->2’)]-α-L-アラビノピラノシルルテオリン、ヒポレチン、ルテオリン-6-C-[β-D-グルコシル-(1->2)-α-L-アラビノシド]、カシアオクシデンタリンB、6-メトキシルテオリン7-α-L-ラムノシド、ルテオリン-7-O-(6-O-マロニル-β-D-グルコシド)、ジオスメチン、ルテオリン-4’-O-β-D-グルコピラノシド、6-C-[2-O-α-L-ラムノピラノシル-(1”->2’)]-β-D-キシロピラノシルルテオリン、メイシン、オルチプラズ、フマル酸ジメチル、フマル酸、フマル酸モノメチル、グルタチオン、S-スルファニルグルタチオン、S-(2,4-ジニトロフェニル)グルタチオン、S-(2-ヒドロキシエチル)グルタチオン、フィトケラチン、エオキシンC4、S-アシルグルタチオン、グルタチオン誘導体、エブセレン、α-メチルシンナムアルデヒド、及び、2-tert-ブチルヒドロキノンから任意に選択されてもよい。
【0076】
Nrf2はASD表現型1患者にて構成的に活性化されるため、Nrf2活性化剤の投与によってNrf2経路をさらに上方制御しても、これらの患者に由来する細胞のエネルギー産生能力は変化しない。それとは対照的に、Nrf2経路の上方制御は、ASD非表現型1患者及び対照群では以前は不活性だった経路を活性化するため、これらの対象者に由来する細胞にNrf2活性化剤を投与した後において、エネルギー産生能力を変化させる。
【0077】
したがって、本発明の一態様では、ASD表現型1は、炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第1エネルギー産生Aを得るエネルギー産生能力を評価し、同じ炭素エネルギー源及び/又は代謝因子の存在下かつNrf2活性化因子の非存在下にて得られるエネルギー産生能力であって、それによって、第2エネルギー産生能力Bを得るエネルギー産生能力を評価し、2つの値AとBを比較してAが実質的にBに等しい場合はASD表現型1と診断することによって、診断することができる。
【0078】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1の治療のための化合物の有効性を評価するための方法を対象とし、該方法は、以下のステップを含む:
a)前記化合物を、ASD表現型1患者のサンプルに由来する細胞株へ投与するステップと、
b)1つ以上のエネルギー源及び/又は1つ以上の代謝因子の存在下での前記細胞株のエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
c)前記細胞株の前記エネルギー産生能力が、前記化合物の投与前の同じ細胞株で評価されたものと特異的に異なるかどうかを評価するステップ。
【0079】
さらに別の実施形態では、本発明は、ASD表現型1の治療のための化合物の有効性を評価するための、ASD表現型1患者のサンプルに由来する細胞株の使用を対象とし、該使用は、以下のステップを含む:
a)前記化合物を、前記細胞又は細胞株へ投与するステップ、
b)1つ以上のエネルギー源及び/又は1つ以上の代謝因子の存在下での、ステップa)において提供される前記細胞株のエネルギー産生能力を評価するステップ、及び、
c)前記細胞株の前記エネルギー産生能力が、前記化合物の投与前の同じ細胞株で評価されたものと特異的に異なるかどうかを評価するステップ。
【0080】
本発明によれば、前記化合物の投与前の前記細胞株のエネルギー産生能力と比較して、前記化合物の投与後の前記細胞株の前記エネルギー産生能力が以下を示すという点で特異的に異なる場合に、前記化合物がASD表現型1の治療に有効である。
・D-フルクトース、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトース、D-グルコース-6-リン酸、D-グルコース-1-リン酸、D-マンノース、D-フルクトース-6-リン酸及びデキストリンからなる群より選択される、最も好ましくは、D-グルコース、D-マンノース、D-フルクトース及びデキストリンからなる群より選択される、少なくとも1つの前記炭素エネルギー源の存在下でのより高いエネルギー産生能力。
【0081】
また、本発明によれば、上記の基準が満たされない場合、又は、変化がわずかである場合には、前記化合物は、ASD表現型1の治療に有効ではない。
【0082】
前記化合物はまた、該化合物の投与後の前記細胞株のエネルギー産生能力が、mM範囲までの様々な濃度で、対照群及びASD非Ph1細胞株と比較して、以下の基準の1つ以上を示すという点で依然として特異的に異なる場合には、有効でないとみなされる:
-好ましくはD-フルクトース、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトース、D-グルコース-6-リン酸、D-グルコース-1-リン酸、D-マンノース、D-フルクトース-6-リン酸、デキストリンからなる群より選択される、最も好ましくはD-グルコース、D-マンノース、D-フルクトースからなる群より選択される、少なくとも1つの炭素エネルギー源の存在下でのより低いエネルギー産生能力、及び/又は、
-環状アデノシン一リン酸(cAMP)類似体、ホスホジエステラーゼ阻害剤、及び/又は、Nrf2阻害剤の存在下でのより高いエネルギー産生能力。
【0083】
一実施形態では、サンプルを提供する患者は、前述の方法に従って、又は、実施例に記載されているようにASD表現型1と診断されていてもよい。
【0084】
別の実施形態では、ASD表現型1患者の同定は、PCT/EP2018/080372に記載されるように、Nrf2活性化剤を使用することによって達成され得る。簡潔に言えば、ASD表現型1患者は、Nrf2活性化剤の投与後にネガティブな行動反応を示した場合に同定される。
【0085】
当業者であれば、ASD表現型1患者は、臨床徴候及び症状を評価することによっても特定され得ることを認識している。特に、患者が以下を示した場合に、その患者はASD表現型1と診断され得る。
・以下の2つの必須特性のうち少なくとも1つ:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。生後24ヶ月の間における平均頭囲(HC)より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)のうち少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される、自閉症中核症状の周期的な悪化
並びに、
・以下の20の特徴の少なくとも2つ、最も好ましくは少なくとも3つ:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長、
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向、
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ、
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域、特に患者の背中に現れる、
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫、
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル、
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害、
・膝蓋骨の過形成、
・下痢の頻発、特に5歳より前、
・耳鳴りの頻発、
・脳梁の薄化又は欠損、
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性、
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性、すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者、
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象、
・虹彩欠損、片側又は両側のいずれか、
・睡眠多汗症、特に乳児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加、ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)、
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)、
・先天性の副脾又は重複した脾臓、
・乳糜槽の先天性欠損、
・歯牙萌出の遅延。
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴。
【0086】
本発明によって、特発性ASD患者をASD表現型1について試験する際には、本発明の方法を、ASD表現型1患者を同定する上記の方法と組み合わせることもまた想定される。特に、本発明の方法は、PCT/EP2018/080372に記載される負荷試験、又は、上記の臨床的徴候及び症状の評価と組み合わせられ得る。
【実施例
【0087】
実施例1
材料及び方法
ASD表現型1患者に由来するリンパ芽球様細胞株の代謝特性を明らかにする前に、患者をASD表現型1又はASD非表現型1、あるいは対照群として分類した。
【0088】
特発性ASDの患者は、以下を示した場合に、ASD表現型1として分類した:
・少なくとも1つの必須特性:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。生後24ヶ月の間における平均頭囲(HC)より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)のうち少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・感染事象、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される、自閉症中核症状の悪化
並びに、
・以下の20の特徴の少なくとも2つ、最も好ましくは少なくとも3つ:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長、
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向、
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ、
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域、特に患者の背中に現れる、
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫、
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル、
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害、
・膝蓋骨の過形成、
・下痢の頻発、特に5歳より前、
・耳鳴りの頻発、
・脳梁の薄化又は欠損、
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性、
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性、すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者、
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象、
・虹彩欠損、片側又は両側のいずれか、
・睡眠多汗症、特に乳児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加、ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)、
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)、
・先天性の副脾又は重複した脾臓、
・乳糜槽の先天性欠損、
・歯牙萌出の遅延。
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴。
【0089】
上記の基準に適合しなかった患者は、ASD非表現型1とみなした。対照群患者は、神経行動障害の兆候又は症状が検出されていない者として同定されたため、定型発達者(TD)とみなされる。
【0090】
本特許において報告されるデータは、末梢血のリンパ球から生成されたリンパ芽球様細胞株(LCL)から生成したものである。抗凝固剤のクエン酸デキストロース(ACD)を含むチューブを使用して、血球が代謝的に活性を維持するように、静脈穿刺により血液サンプルを収集した。チューブを室温に保ち、24時間以内に処理した。
【0091】
細胞株は、エプスタイン・バーウイルスを使用して、血液サンプルからリンパ球を不死化することによって得た。リンパ芽球様細胞株は、Atlanta Biologicals社(米国ジョージア州ローレンスビル)製のウシ胎児血清75mLと、Sigma-Aldrich社(米国ミズーリ州セントルイス)製のL-グルタミン5mL及び抗生物質/抗真菌薬5mLとを使用して、Sigma社製RPMI-1640内に採取した。
【0092】
細胞のエネルギー産生は、市販の表現型哺乳類マイクロアレイ(PM-Ms、Biolog社製、米国カリフォルニア州ヘイワード)を使用して測定した。
【0093】
各ウェル内の配合は、単一のエネルギー源として、又は、細胞懸濁液内に添加されるエネルギー源(D-グルコース)の利用に影響を与える代謝エフェクターとして、細胞に使用されるよう設計した。ウェル毎のNADHの産生を、比色分析のレドックス色素化学を使用して監視した(Bochner et al. Assay of the multiple energy-producing pathways of mammalian cells(哺乳類細胞における複数のエネルギー産生経路のアッセイ). PLoS One 2011, 6(3):e18147)。播種の前に、BioRad社製セルカウンターとトリパンブルー色素とを使用して、細胞生存率及び細胞数を評価した。播種に必要な生細胞の濃度は4×105細胞/mLであり、これは50μLの容量にて1ウェルあたり20,000細胞に相当する。生存率が55%以上の細胞株のみを実験に使用し、形質転換細胞を長期間細胞培養したことに起因するアーティファクト及びバイアスを最小限にするため、LCLの継代数が15に達した場合には該LCLを使用しなかった。修正されたBiolog社製IF-M1培地を使用して、5%CO2中37℃で細胞を48時間インキュベートした。
【0094】
プレートPM-M1について、Biolog社製IF-M1 100mLに対して以下を添加することにより、Biolog社製IF-M1培地を修正した:100×ペニシリン/ストレプトマイシン溶液1.1mL、200mMグルタミン0.16mL(最終濃度0.3mM)、及び、ウシ胎児血清(FBS)5.3mL(最終濃度5%)。PM-M6のプレートについては、FBSの代わりに5.5mMのα-D-グルコースを添加した。
【0095】
48時間のインキュベートの間、細胞が有していた唯一のエネルギー源は、ウェル内に添加した化合物であった。この最初のインキュベートの後、Biolog社製Redox Dye Mix MBを添加して(10μL/ウェル)、プレートを同じ条件下でさらに24時間インキュベートした。細胞がエネルギー源を代謝すると、培地中のテトラゾリウム色素が減少し、NADHの産生量に応じて紫色になる。
【0096】
実験の最後の24時間、プレートをOmnilogシステム内でインキュベートし、15分毎に光学密度の読取値を収集して、各ウェルに96データポイントを生成した。該システムはまた、各ウェル内における代謝反応の速度曲線と、勾配、最高点、エンドポイント、曲線下面積(AUC)、ラグ等の外挿パラメータとを算出した。該システムは、個々のサンプル又はコホートの両方として、症例と対照群とを対比した動態曲線を比較することによって、パラメトリック分析を実行した。
【0097】
24時間のインキュベートの最後に、マイクロプレートリーダーを使用してプレートを590及び750nmにおける読取値により分析した。第1の値(A590)は酸化還元色素の最高の吸収ピークを示しており、第2の値(A750)はバックグラウンドノイズの測定値を示していた。ウェル毎に、相対吸光度(A590-750)を計算した。
【0098】
結果
患者背景(demographics):20の表現型1及び20の非表現型1サンプルを選択するために、Greenwood Genetic Center(米国サウスカロライナ州GGC)データベースに完全な臨床データのあるASDの患者313人のコホートを検討した。
【0099】
GGCデータベース内におけるこれらのASD患者313人のうち90人(28.8%)は、訓練を受けた医師による、生後24ヶ月間に行った頭囲についての少なくとも2つの十分に文書化された測定値を有していた。これらの90人の患者のうち47人(52.2%)は、少なくとも1つの主要な基準(すなわち、頭囲(HC))に適合した。
【0100】
HC>75の患者47人の家族に電話で連絡を取り、ASD表現型1の2番目の必須基準の存在について問い合わせた。GGCは、47人の患者のうち5人(10.6%)の家族との接触を確立できなかった。さらなる臨床情報を収集することができた残りの患者42人のうち、21人(50%)がASD表現型の基準を満たしていた。全体として、追跡調査できなかった5例を除いて、患者85人のうち21人(24.7%)がASD表現型1の基準に適合し、2つ目の特徴のうち3~8つを示した。
【0101】
生後24ヶ月で75%未満の頭囲の測定値が確認された患者90人の残り43人のうち20人のサンプルをランダムに選択して、非表現型1コホートを構成した。
【0102】
in vitro実験のために選択された表現型1コホート(Ph1)は、男性16人及び女性4人(比率4:1)、年齢範囲2~17歳(平均7.7)で構成されていた。比較として、非表現型1(Non-Ph1)コホートは、男性19人及び女性1人(比率19:1)、年齢範囲2~20歳(平均5.25)で構成され、TDコホートは男性15人及び女性5人(比率3:1)、サンプル収集時の年齢範囲3~8歳(平均5.1)で構成されていた。
【0103】
代謝所見:ASD表現型1細胞における異なるエネルギー産生プロファイルの明確な証拠を、図1に示した。ASD Ph1、ASD non-Ph1及び対照群患者から収集された血球から産生されたリンパ芽球様細胞株の代謝活性を、様々な条件、すなわち様々なエネルギー源の存在下で評価した。主成分分析(PCA)を使用して、異なる細胞集団が類似又は異なる代謝プロファイルを示すかどうかを決定した。図1に示すように、細胞は、表現型に応じて大半が3つのクラスター(すなわち、ASD表現型1、ASD非表現型1、対照群)にグループ化されている。この結果は、ASD表現型1の代謝プロファイルが、対照群及びASD非表現型1とは異なることを示している。
【0104】
加えて、PCAの結果を使用して、様々な細胞集団間で最大の違いを生み出した正確な条件又はエネルギー源を絞り込んだ。単糖又はデキストリンの存在下では、エネルギーの生成能力は、ASD表現型1細胞ではASD非表現型1細胞及び対照群細胞と比較して低くなる。逆に、エネルギー源として多糖が存在する場合には、ASD表現型細胞のエネルギー産生能力は、他のものと比較して高かった。エネルギー源に応じたより高い又はより低いエネルギー産生能力の典型的な例を、図2に示す。
【0105】
このようなNADHの高産生は、ASD表現型1細胞の代謝補償の結果である:活性化されたNrf2シグナル伝達経路によって誘導される抗酸化活性の上昇が原因となり、これらの細胞は、優先的なエネルギー源(例えば、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノースのような単糖等)の規準的な好気性代謝からは、十分な量のエネルギーを生成することができない。したがって、それらの細胞は、代謝経路を活性化して、複雑な二糖や三糖等の代替エネルギー源を利用できるようにしている。このような経路がASD表現型1患者で活性化されているという事実により、マルトース、ツラノース、D-トレハロース、スクロース、マルトトリオース等の二糖及び三糖からNADHを生成する際に、細胞が対照群よりも効率的になる。
【0106】
次に、対照群細胞及び非Ph1細胞において、ASD Ph1にて構成的に発生するハブの活性化を再現することを目的として、同じ細胞株の代謝プロファイルをNrf2シグナル伝達経路の刺激後に評価した。Nrf2経路の刺激を達成するために、細胞をスルホラファンに曝露した。スルホラファンはKeap1と相互作用してその阻害機能を破壊し、Nrf2の核内蓄積を可能にする。
【0107】
この結果により、スルホラファンに曝露された対照群及びASD非表現型1細胞では、代謝プロファイルがベースラインでPh1細胞に匹敵することが確認された。このことは、ASD非表現型1+S及びASD表現型1を使用した対照群+Sクラスタリングを示す図1において、強調表示されている。これらの結果は、表現型1細胞にて検出された識別プロファイルにおいて疑われる、より高いNrf2活性化と一致している。実際に、Nrf2の誘導された活性化が対照群細胞及び非Ph1細胞にて再現され、ベースラインにてPh1細胞株で検出されたNADHの生成が減少し、AREを介してNrf2によって調節される抗酸化経路による好気性代謝の制限が、高エネルギー産生の素因となる代謝環境におけるPh1と他の細胞株との間のNADHの違いの原因となる主なメカニズムであることが確認された。
【0108】
図1及び図2に示すように、ASD表現型1細胞株におけるNrf2活性化の別の証拠は、これらの細胞のエネルギー産生能力に対するスルホラファンの効果がないことである。
【0109】
実施例2
図3及び4は、cAMPの透過性類似体であるジブチリル環状アデノシン一リン酸(ジブチリル-cAMP)の使用が、D-グルコースの存在下で表現型1細胞のエネルギー産生能力をどれほど増加させたかを示している。一方で、対照群及び非表現型1細胞は何ら影響を受けていない。
【0110】
ASD表現型1は、Nrf2経路の構成的活性化に関連している。cAMPは、PKA、AMPK等のエフェクターの調節を通じてCREB、NfkBと相互作用し、最終的にNrf2及びNrf2関連経路を調節する。表現型1細胞をcAMPに曝露すると、Nrf2によって促進される抗酸化活性が低下するため、酸化的代謝が増加し、それによってNADHの産生が増加する。
【0111】
このことは、全ての細胞株がNrf2の強力な活性化因子であるスルホラファンで処理された際に、さらに実証される(図3及び4)。ベースラインでのより高いNrf2活性を特徴とするASD Ph1では、スルホラファンによるNrf2のさらなる活性化は、ジブチリルcAMPによって誘発されるエネルギー産生能力の増加(スルホラファンの非存在下と同程度)によって示されるように、ジブチリルcAMPへの応答を変更しなかった。逆に、Nrf2の活性化がベースラインで低いと予想されるASD非Ph1及び対照群リンパ芽球様細胞株では、スルホラファンによる前処理はエネルギー産生能力を低下させ(グルコースの存在下で評価)、さらにそのようなNrf2活性化の下で、エネルギー産生能力は、ジブチリルcAMPの添加によって回復した(図3及び4)。
【0112】
これらの結果はさらに、Nrf2及びNrf2によって調節される経路の活性化がASD Ph1細胞株に特異的であり、cAMPの増加がNrf2によって誘発されるエネルギー産生能力の低下を回復できることを示唆している。
【0113】
実施例3
図5は、D-グルコース及びD-マンノースの存在下での、対照群及びASD表現型1からのLCLのエネルギー産生能力を示している。ベースライン条件下では、ASD Ph1からのLCLのエネルギー産生能力は、対照群からのLCLのエネルギー産生能力よりも大幅に低くなっている。細胞内cAMPを増加させ、cAMP下流エフェクターを調節し、最終的にNrf2及びNrf2調節経路を調節することが知られているイブジラスト(10μM)PDE3/4/10阻害剤によるASDPh1のさらなる前処理は、未処理のASD Ph1及び対照群で観察されたレベルと同様のレベルと比較して、ASD Ph1 LCLのエネルギー産生を有意に増加させた。これらの結果は、イブジラストがASD Ph1の代謝経路の変化を補償することができ、したがってASD表現型1患者の治療に有効な化合物の候補であることを示唆している。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5