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特許7410949樹脂基材のハードコート形成用組成物およびそれを用いた積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】樹脂基材のハードコート形成用組成物およびそれを用いた積層体
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20231227BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231227BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20231227BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20231227BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231227BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20231227BHJP
   C09D 183/14 20060101ALI20231227BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231227BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231227BHJP
【FI】
G02B1/14
C08K3/22
C08K5/541
C08L83/06
B32B27/00 101
C09D183/06
C09D183/14
C09D7/61
C09D7/63
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021528260
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2020023588
(87)【国際公開番号】W WO2020255958
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2019112942
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】蕨野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 芳昭
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏哉
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215585(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110522(WO,A1)
【文献】特開2008-20756(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111135(WO,A1)
【文献】特開平10-147739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0031918(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
B32B 1/00-43/00
C08G64/42
C08G77/48
C09D 7/61- 7/63
C09D183/06
C09D183/14
C09D201/10
C08K 3/22
C08K 5/541
C08L83/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、以下:
A成分:金属酸化物微粒子;
B成分:一般式(1):
【化1】
(式中、aは1~3の整数を示し、1または複数個のR1は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~3の炭化水素基を示し、1または複数個のR2は、それぞれ、同一または異なって、グリシドキシ基で置換された炭化水素基を示す。)で表わされる有機ケイ素化合物であって、R2で示されるグリシドキシ基で置換された炭化水素基が、炭素数(6~18)の炭化水素基および炭素数(1~5)の炭化水素基の混合物である有機ケイ素化合物、それらの加水分解物および部分加水分解オリゴマー;および一般式(2):
【化2】
(式中、bは1~3の整数を示し、3個のR3は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~3の炭化水素基を示し、3個のRは、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~3の炭化水素基を示す。)で表されるビストリアルコキシシリル化合物;
C成分:アルコキシシリル基を有する密着促進成分;
D成分:硬化触媒;ならびに
E成分:溶剤
を含む、ハードコート形成用組成物であって、
前記グリシドキシ基で置換された炭素数6~18の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物およびグリシドキシ基で置換された炭素数1~5の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物の混合物において、グリシドキシ基で置換された炭素数6~18の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物とグリシドキシ基で置換された炭素数1~5の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物との質量比が、固形分組成として、33:67~50:50である、ハードコート形成用組成物。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基を有する密着促進成分が、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネートからなる群から選択された化合物の両末端に、反応性官能基であるアルコキシシリル基が結合していることを特徴とする、請求項1に記載のハードコート形成用組成物。
【請求項3】
前記アルコキシシリル基を有する密着促進成分が、一般式(3):
【化3】
(式中、cは0~2の整数を示し、R5はポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネートからなる群から選択される密着促進性のポリマー主鎖を示し、2個のR6は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~20のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していてもよく、1または複数個のR7およびR8は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基を示し、2つのYは、それぞれ、同一または異なって、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、スルフィド結合、チオウレタン結合、チオウレア結合、チオエステル結合からなる群から選択される化学結合を示す。)で表される、両末端にアルコキシシリル基を有する化合物である、請求項1または2に記載のハードコート形成用組成物。
【請求項4】
樹脂基材と、前記樹脂基材上に直接形成されたハードコート層との積層体であって、前記ハードコート層が、請求項1~3いずれかに記載のハードコート形成用組成物の硬化体である、積層体。
【請求項5】
前記樹脂基材が、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー、ポリアラミドおよびセルローストリアセテートからなる群から選択される光学用樹脂またはそれらのブレンド樹脂のフィルムであることを特徴とする、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記樹脂基材が、ポリイミドのフレキシブルフィルムであることを特徴とする、請求項5に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面保護のためのハードコート形成用組成物に関する。より詳しくは、ポリカーボネートからなるプラスチックのレンズやフィルムなどのハードプラスチック基材やエレクトロニクス材料に用いるポリイミドからなるフレキシブルな樹脂フィルムなどの表面を保護するための、ハードコート形成用組成物およびそれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネートなどのプラスチック製の化成品の表面を傷や汚れなどから保護するためにハードコート剤による処理が広く行われてきている。しかしながら、プラスチック基材にコーティング組成物を塗布し、ハードコート層を形成させようとしても、密着性が足りず、実用に耐えうるものではなかった。そのため、密着性を付与するためにプライマー液をプラスチック基材に塗布し、その後にハードコート剤を塗布するという2段階の工程を必要としていた。特にポリカーボネートからなるプラスチック基材においては、ハードコート層との密着性が悪くプライマー処理が不可欠であった。
ポリカーボネート基材に対して、プライマー処理なしでも密着するハードコート層を得るものとして密着促進成分を含有させることにより、熱可塑性シートと密着するコーティング組成物が開示されているが(特許文献1~3)、硬度、外観等の性能を維持したまま十分な密着性を得られるに至っていない。
【0003】
また、液晶、有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されている。そこでこれらのデバイスに用いられているガラス基材に代えて、薄型化、軽量化、フレキシブル化が可能な樹脂フィルム基材が検討されている。
ポリイミドや全芳香族ポリアミド(アラミド)はその優れた耐熱性、機械特性からガラス代替基材として広く検討されている。
【0004】
本発明者らは、ポリカーボネート樹脂基材およびポリイミド樹脂基材などの熱可塑性または熱硬化性の様々な樹脂基材に対して、プライマー処理なしでも優れた密着性、耐擦傷性を有し、さらに、フレキシブル化可能な樹脂基材に適用した場合でも、耐屈曲性(耐クラック性)および表面硬度を有するハードコート形成用組成物をすでに開発した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-251413号公報
【文献】特開平6-256718号公報
【文献】特開2001-247769号公報
【文献】特開2017-104947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスは1画面のものが主流であるが、スマートフォンは小さいため、画面上で作業するのは困難であり、タブレットは大きいため、携帯するには不便である。そこで、2ないし3画面を有する折りたたみ式のスマートフォンが開発されている。このような折りたたみ式スマートフォンは携帯に便利であり、広げるとタブレットとして使用することができる。しかしながら、画面が分断されているため、作業については制限がある。
ごく最近、1画面の折りたたみ式スマートフォンが開発され、広げれば、1画面のタブレットとして使用することができる。
【0007】
かくして、モバイルデバイスの画面に用いるフレキシブル材料につき、高い耐屈曲性および高い表面硬度を併せ持つハードコート形成用組成物の開発が必要となった。
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の基材に、優れた密着性、耐擦傷性を有し、さらに、フレキシブル化可能な樹脂基材に適用した場合でも、向上した耐屈曲性(耐クラック性)および表面硬度を有するハードコート形成用組成物を提供することを目的とする。さらに、そのようなハードコート形成用組成物を用いた積層体も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、少なくとも金属酸化物微粒子、有機ケイ素化合物またはその加水分解物、アルコキシシリル基を有する密着促進成分、硬化触媒および溶剤を含有する組成物において、有機ケイ素として、エポキシ基で置換された炭素数6以上の炭化水素基を有する有機ケイ素およびエポキシ基で置換された炭素数5以下の炭化水素基を有する有機ケイ素と、エポキシ基を有さないシラン化合物を用いることで、ポリカーボネート樹脂基材およびポリイミド樹脂基材などの熱可塑性または熱硬化性の様々な樹脂基材に対して優れた密着性と耐擦傷性を有するハードコート形成用組成物を提供することができることを見出した。
【0009】
本発明のハードコート形成用組成物は、反応性官能基としてアルコキシシリル基を有する密着促進成分を含むので、従来は不可欠であったプライマー処理なしでもポリカーボネート基材やポリイミド基材に対して密着するハードコートを形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハードコート形成用組成物を用いれば、密着性を付与するためにプライマー液を樹脂基材に塗布する必要がなく、優れた密着性を有し、かつ、高い耐擦傷性、耐屈曲性および表面硬度を併せ持つハードコート層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のハードコート形成用組成物を用いて樹脂基材の上にハードコートを形成する手順を説明する模式図。
図2】従来のハードコート形成用組成物を用いて樹脂基材の上にハードコートを形成する手順を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のハードコート形成用組成物は、少なくとも、
A成分:金属酸化物微粒子
B成分:有機ケイ素化合物またはその加水分解物
C成分:アルコキシシリル基を有する密着促進成分
D成分:硬化触媒
E成分:溶剤
を含む。
【0013】
<金属酸化物微粒子>
金属酸化物微粒子は、形成されるハードコートの耐擦傷性の向上および屈折率調整のために用いられる。ハードコート層を形成する金属酸化物微粒子としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン、または、これらの複合体等が挙げられ、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズが好ましい。金属酸化物微粒子は、例えば、水、有機溶媒またはそれらの混合物中に分散させたコロイダルゾルとして用いることができる。
【0014】
<有機ケイ素化合物およびその加水分解物>
加水分解可能な官能基をもつ有機ケイ素化合物は、加水分解によって生じるシラノール基同士の脱水縮合によるシロキサン結合の形成、または、有機官能基同士の反応による化学結合形成によってハードコートの架橋密度を上げるために用いられる。加水分解可能な官能基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。これらの加水分解可能な官能基は、水性溶液中で容易に加水分解されシラノール基を生じる。
【0015】
有機ケイ素化合物として、エポキシ基で置換された炭化水素基を有するシランカップリング剤を用いる。より具体的には、一般式(1):
【0016】
【化1】
(式中、aは1~3の整数を示し、1または複数個のR1は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~3の炭化水素基を示し、1または複数個のR2は、それぞれ、同一または異なって、グリシドキシ基で置換された炭素数1~18の炭化水素基を示す。)で表わされる有機ケイ素化合物、それらの加水分解物および部分加水分解オリゴマーを用いることができる。
本発明では、一般式(1)においてR2がグリシドキシ基で置換された炭素数6~18の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物を用いるが、好ましくは、炭素数6~12、より好ましくは、炭素数6~10の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物を用いる。
【0017】
本発明では、高い硬度を実現するために、さらに、R2がグリシドキシ基で置換された炭素数1~5の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物も用いるが、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは炭素数2又は3の炭化水素基を有する有機ケイ素化合物を用いる。
【0018】
このように、本発明においては、耐屈曲性を向上させるために、比較的長鎖である炭素数6以上(6~18)の炭素水素基を有する有機ケイ素化合物(ここでは、「長鎖有機ケイ素化合物」という。)と、硬度を維持するために、比較的短鎖である炭素数5以下(1~5)の炭素水素基を有する有機ケイ素化合物(ここでは、「短鎖有機ケイ素化合物」という。)の混合物を用いる。
本発明において、高い耐屈曲性および高い表面硬度を併せ持つハードコート形成用組成物を得るために、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、固形分組成として、50:50~0:100であり、さらに限定するならば、33:67~50:50である。
【0019】
さらに、有機ケイ素化合物として、エポキシ基を有さないシラン化合物を用いる。より具体的には、一般式(2):
【0020】
【化2】
(式中、bは1~3の整数を示し、3個のR3は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~3の炭化水素基を示し、3個のRは、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~3の炭化水素基を示す。)で表されるビストリアルコキシシリル化合物を併せて用いることができる。
【0021】
本発明においては、有機ケイ素化合物として、上記した長鎖有機ケイ素化合物および短鎖有機ケイ素化合物の混合物にエポキシ基を有さないシラン化合物を併用することが望ましい。
【0022】
エポキシ基を有さないシラン化合物の例示として、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTEE)のような、アルカンに2つのトリアルコキシシリル基が結合したシリル化合物などが挙げられる。これらを単独で、または、複数を混合して用いることができる。
【0023】
<アルコキシシリル基を有する密着促進成分>
密着促進成分としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネートなどの種々の化合物を適用することができる。
これら密着促進成分へのアルコキシシリル基の導入は、例えば官能基としてヒドロキシ基を有する上記ポリマーに対してイソシアネート基を有するアルコキシシラン化合物をウレタン化反応により化学的に導入することができるが、これに限定するものではない。
反応性官能基としてアルコキシシリル基を導入することで、その加水分解で生じるシラノール基が金属酸化物微粒子表面の水酸基または有機ケイ素化合物の加水分解で生じるシラノール基と脱水縮合反応により共有結合を形成することができる。これにより、密着促進成分を塗膜内に共有結合を介して組み込んで固定化することができ、それによりハードコート膜の耐熱試験や経時変化による密着性低下が抑制され、安定した密着性を得ることができる。また、密着促進成分にアルコキシシリル基を導入することでハードコート樹脂中の密着促進成分の相溶性が向上し、それにより硬化後のハードコート膜の白化を抑制することができる。
【0024】
密着促進成分として、例えば、一般式(3):
【0025】
【化3】
(式中、cは0~2の整数を示し、R5はポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネートからなる群から選択される密着促進性のポリマー主鎖を示し、2個のR6は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~20のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していてもよく、1または複数個のR7およびR8は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基を示し、2つのYは、それぞれ、同一または異なって、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、スルフィド結合、チオウレタン結合、チオウレア結合、チオエステル結合からなる群から選択される化学結合を示す。)で表される、両末端にアルコキシシリル基を有する化合物を用いることができる。
【0026】
ポリウレタン系ポリマー主鎖の場合、R5は、一般式(4):
【0027】
【化4】
(式中、dはポリマー主鎖の分子量が500~50000に対応する整数を示し、複数個のR9およびR10は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~20のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していてもよい。)で表される。
【0028】
または、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等のポリオールと後述する1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物とを反応させることにより得られるポリウレタン等が挙げられる。1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物としては、例えば以下の脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、及び芳香脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。又は、それらの混合物でもよい。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(ジイソシアネートメチル)シクロヘキサン、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
芳香族ポリイソシアネートとしては、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4'-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4',4''-トリフェニルメタントリイソシアネート、キシレン-1,4-ジイソシアネート、キシレン-1,3-ジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(MDI)等が挙げられる。
【0031】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ω,ω'-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω'-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼン、ω,ω'-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
ポリエステル系ポリマー主鎖の場合、R5は、一般式(5):
【0033】
【化5】
(式中、eはポリマー主鎖の分子量が500~50000に対応する整数を示し、複数個のR11およびR12は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~20のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していてもよい。)で表される。
【0034】
ポリカーボネート系ポリマー主鎖の場合、R5は、一般式(6):
【0035】
【化6】
(式中、fはポリマー主鎖の分子量が500~50000に対応する整数を示し、複数個のR13は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~20のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していてもよい。)で表される。
【0036】
ポリエステルカーボネート系ポリマー主鎖の場合、R5は、一般式(7):
【0037】
【化7】
[式中、gはポリマー主鎖の分子量が500~50000に対応する整数を示し、複数個のR14は、それぞれ、同一または異なって、一般式(8):
【0038】
【化8】
(式中、hはR14の分子量が150~25000に対応する整数を示し、複数個のR15およびR16は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~20のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していてもよい。)で表される。]で表される。
【0039】
本明細書において、例えば、「1または複数個のR7およびR8は、それぞれ、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基を示し」との表記は、1または複数個のR7および1または複数個のR8の各基が、それぞれ、独立して、炭素数1~4のアルキル基であって、各基は、互いに、同一のアルキル基であっても、異なるアルキル基であってもいいことを意味する。その他の類似の表記についても、同様である。
【0040】
<硬化触媒>
本発明のコーティング組成物中に混和し得る硬化触媒の例は、(i)金属アセチルアセトネート;(ii)ジアミド;(iii)イミダゾール;(iv)アミンおよびアンモニウム塩;(v)有機スルホン酸およびそれらのアミン塩;(vi)カルボン酸およびそれらのアルカリ金属塩;(vii)アルカリ金属水酸化物;(viii)フッ化物塩;(ix)有機スズ化合物;ならびに(x)過塩素酸塩である。
そのような触媒の例には、グループ(i)として、アルミニウム、亜鉛、鉄およびコバルトのアセチルアセトネートなど;グループ(ii)として、ジシアンジアミド;グループ(iii)として、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールおよび1-シアノエチル-2-プロピルイミダゾールなど;グループ(iv)として、ベンジルジメチルアミンおよび1,2-ジアミノシクロヘキサンなど;グループ(v)として、トリフルオロメタンスルホン酸など;グループ(vi)として、酢酸ナトリウムなど;グループ(vii)として、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなど;グループ(viii)として、テトラn-ブチルアンモニウムフルオリド;グループ(ix)として、ジラウリン酸ジブチルすずなど;ならびにグループ(x)として、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウムなどが含まれる。
【0041】
<溶剤>
揮発性溶媒として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などが挙げられる。これらの揮発性溶媒は、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、これらの揮発性溶媒は、組成物に別途添加することができるが、他の成分、例えば、水、有機溶媒またはそれらの混合物中に分散させたコロイダルゾルに由来する溶媒も含まれる。
【0042】
<その他>
本発明のハードコート形成用組成物には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、所望により、ハードコート剤にアンチブロッキング剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0043】
<本発明のハードコート形成用組成物を適用する基材>
本発明のハードコート形成用組成物は、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー、セルローストリアセテート、ポリアクリレート、ポリメチルペンテン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、サルフォン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、メチルメタクリレート-スチレン共重合対(MS)などからなる群から選択される樹脂からなるフィルムやその複合材料からなるフィルムに適用することができる。
光学用としては、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー、セルローストリアセテートなどからなる群から選択される光学用樹脂またはそれら2以上のブレンド樹脂のフィルムが好適である。
【0044】
<樹脂基材上へのハードコートの形成方法>
本発明のハードコート形成用組成物を用いて樹脂基材上にハードコートを形成する方法を説明する(図1)。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂基材1上に(図1a)、ハードコート形成用組成物をディップコート、ロールコート、スピンコート、フローコート、スプレーコート、グラビアコート等の一般的な方法で塗布して、樹脂層2を形成する(図1b)。得られた樹脂層2を加熱して硬化させて硬化体であるハードコート3を形成して、樹脂基材と、前記樹脂基材上に直接形成されたハードコート層との積層体を作製する(図1c)。
【0045】
一方、従来のハードコート形成用組成物を用いた場合、樹脂基材1の表面にまずプライマー4を塗布して、表面処理を行う(図2b)。プライマー処理した表面上に、ハードコート形成用組成物を塗布して、樹脂層2を形成する(図2c)。得られた樹脂層2を加熱硬化させて、ハードコート3を形成して、プライマーにより表面処理した樹脂基材およびハードコート層の積層体を得る(図2d)。
【0046】
すなわち、本発明のハードコート形成用組成物は、樹脂基材に対する密着性が高いので、本発明の組成物を用いれば、プライマー処理の必要がなく、直接、樹脂基材上に塗布し、硬化させることで、樹脂基材とハードコート層の2層からなる積層体を得ることができる。
例えば、ポリカーボネート製のフィルムに適用すれば、プライマー処理が必要ないので、プライマー処理工程の省略による生産性の向上、および製品収率の向上が期待できる。また、今まで開発されていなかった、エレクトロニクス用のフレキシブル基材に対するハードコート用組成物として使用しても、十分な密着性、耐屈曲性、表面硬度を発揮する。
【0047】
<ハードコート上への反射防止層、防汚層の形成>
本発明において、ハードコート層3の上に、反射防止層5、さらにその上に防汚層6を形成することができる(図示せず)。
【実施例
【0048】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に記載された態様のみに限定されない。
【0049】
製造例1
[ハードコート形成用組成物およびハードコートフィルム]
<密着促進成分の合成>
ポリエステルポリオール(水酸基価56.2mgKOH/g)40.0質量部、乾燥アセトニトリル40.0質量部、ジラウリン酸ジブチルすず0.03質量部の混合溶液に、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン9.92質量部を滴下した。窒素気流下で70℃で終夜反応させて、ポリエステルポリオールの末端にアルコキシシリル基を導入して、不揮発固形分50.5%の生成物を得た。
得られた生成物の赤外吸収スペクトルの測定によりイソシアネート基の吸収の消失を確認したので、この生成物を密着促進成分(密着性ポリマー)とした。
【0050】
<ハードコート形成用組成物の調製>
水分散コロイダルシリカゾル(固形分濃度20%)25.0質量部およびイソプロパノール(IPA)に分散したシリカゾル(固形分濃度30%;日産化学株式会社製IPA-ST)40.8質量部の撹拌混合物に、短鎖有機ケイ素化合物として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)20.5質量部、エポキシ基を有さないシラン化合物として、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTEE)11.8質量部および上記で合成した密着性ポリマー4.0質量部の混合物を滴下し、混合溶液を30℃で2時間撹拌した。冷却後に、アルミニウム系硬化触媒2.23質量部およびシリコーン系界面活性剤0.5質量部を加えて室温下2時間撹拌して、ハードコート形成用組成物1を調製した。ハードコート形成用組成物の固形分組成を表1に示す。
【0051】
<ハードコートフィルムの作成>
ポリエチレンテレフタレート樹脂製プラスチックフィルム基材上またはポリイミド樹脂製プラスチックフィルム基材上に、上記ハードコート形成用組成物をメイヤーバーでコートし、80℃で1分間の予備乾燥後に130℃で2分間熱硬化させ、表面にハードコート層を有するハードコートフィルム1を得た。
【0052】
[ハードコート層の特性評価]
上記製造例で得られたハードコートフィルム1の各特性を測定し、それらの結果を表1に示した。各特性の測定条件は後記する。
【0053】
製造例2~9
[ハードコート形成用組成物およびハードコートフィルム]
<ハードコート形成用組成物の調製>
製造例1と同様に、長鎖有機ケイ素化合物として8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン(GOTMS)および短鎖有機ケイ素化合物として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を使用して、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の質量比が異なるハードコート形成用組成物2~9を調製した。ハードコート形成用組成物の固形分組成を表1に示す。
【0054】
<ハードコートフィルムの作成>
製造例1と同様にして、表面にハードコート層を有するハードコートフィルム2~9を得た。
【0055】
[ハードコート層の特性評価]
上記製造例2~9で得られたハードコートフィルム2~9の各特性を測定し、それらの結果を表1に示した。各特性の測定条件は後記する。
【0056】
製造例10
[ハードコート形成用組成物およびハードコートフィルム]
<ハードコート形成用組成物の調製>
製造例4において、エポキシ基を有さないシラン化合物であるビス(トリエトキシシリル)エタン(BTEE)を用いない以外は、製造例4と同様にして、ハードコート形成用組成物10を調製した。ハードコート形成用組成物の固形分組成を表1に示す。
【0057】
<ハードコートフィルムの作成>
製造例4と同様にして、表面にハードコート層を有するハードコートフィルム10を得た。
【0058】
[ハードコート層の特性評価]
上記製造例10で得られたハードコートフィルム10の各特性を測定し、それらの結果を表1に示した。各特性の測定条件は後記する。
【0059】
【表1】
【0060】
<評価結果>
短鎖有機ケイ素化合物 (GPTMS)100質量%のハードコート形成用組成物を用いて作成したハードコートフィルム1では、耐擦傷性は良好であったが、マンドレル試験(耐屈曲性試験)において、半径1mm(外曲げ試験)で15万回の折り曲げに合格しなかった。
長鎖有機ケイ素化合物 (GOTMS)を配合して、長鎖有機ケイ素化合物 (GOTMS)33質量%のハードコート形成用組成物を用いて作成したハードコートフィルム3では半径1mm(外曲げ試験)で15万回の折り曲げに合格し、ハードコートフィルム4の結果を上回った。さらに長鎖有機ケイ素化合物 (GOTMS)の配合量が増加して35質量%になると半径1mm(外曲げ試験)で40万回以上の折り曲げに合格するようになり、75質量%まで半径1mm(外曲げ試験)で30万~40万回の折り曲げに合格した。この配合領域では、耐擦傷性も良好であった。
さらに、長鎖有機ケイ素化合物 (GOTMS)の配合量が100質量%になると、半径1mm(外曲げ試験)で25万回の折り曲げに不合格となり、耐擦傷性も低下した。
このことから、高い耐屈曲性および高い表面硬度を併せ持つハードコート形成用組成物を得るために、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、33:67以上であり、好ましくは、35:65~75:25であることが分かった。
また、上記の適切な質量比の範囲の組成であっても、エポキシ基を有さないシラン化合物として、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTEE)のような、アルカンに2つのトリアルコキシシリル基が結合したシリル化合物を添加しないと、耐擦傷性は良好であっても、耐屈曲性および表面硬度は非常に低い評価となった。
【0061】
製造例11~21
顧客要求を満足するか否かの観点で、ハードコートフィルム上に、反射防止層および防汚層を形成した積層ハードコートフィルムの屈曲特性、層間の密着性等を評価する。
【0062】
[ハードコート形成用組成物およびハードコートフィルム]
<ハードコート形成用組成物の調製>
製造例1と同様に、長鎖有機ケイ素化合物として8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン(GOTMS)および短鎖有機ケイ素化合物として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を使用して、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の質量比が異なるハードコート形成用組成物11~21を調製した。ハードコート形成用組成物の固形分組成を表2および3に示す。
【0063】
<ハードコートフィルムの作成>
製造例1と同様にして、表面にハードコート層を有するハードコートフィルム11~21を得た。
【0064】
[ハードコート層の特性評価]
プラスチックフィルム基材上に、上記ハードコート形成用組成物をメイヤーバーでコートし、80℃で1分間の予備乾燥後に130℃で2分間熱硬化させ、表面にハードコート層を有するハードコートフィルム11~21を得た。これらのハードコートフィルム11~21につき、製造例1と同様に、各特性を測定し、それらの結果を表2に示した。各特性の測定条件は後記する。
【0065】
【表2】
【0066】
<評価結果>
製造例1~9に対する評価結果が再現され、高い耐屈曲性および高い表面硬度を併せ持つハードコート形成用組成物を得るために、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、33:67以上であり、好ましくは、35:65~75:25であることが再確認された。
【0067】
<反射防止層の形成>
2L容のビーカー中で、撹拌下、中空コロイダルシリカゾル(商品名:スルーリア 4110、日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度 20%)73.2g(7.32質量部)、イソプロピルアルコール(IPA)200g(20質量部)、0.02N 塩酸 20g(2質量部)を混合し、室温で撹拌した。ここへ、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)10.6g(1.06質量部)、メチルトリエトキシシラン(MTES)19.9g(1.99質量部)の混合物を室温下で1時間かけて滴下した。その後、溶液温度を50℃まで昇温し、その温度で2時間撹拌した。冷却後に、さらに、アルミニウムトリスアセチルアセトナート 2.4g(0.24質量部)、IPA 673.9g(67.39質量部)を加えて、反射防止膜形成用組成物1kg(100質量部)を調製した。塗膜形成後の屈折率は1.35であった。
【0068】
プラスチックフィルム基材上に、上記ハードコート形成用組成物をメイヤーバーでコートし、80℃で1分間の予備乾燥して、基板上に半硬化状のハードコート層を形成した。
ハードコートフィルム11~21の半硬化状態のハードコート層の上に、上記反射防止膜形成用組成物をメイヤーバーでコートし、80℃で1分間予備乾燥して、ハードコート層上に半硬化状態の反射防止層を形成した。
【0069】
<防汚層の形成>
ハードコートフィルム11~21の半硬化した反射防止層の上に、フッ素鎖含有トリアルコキシシラン系防汚コーティング剤をメイヤーバーでコートし、80℃で1分間予備乾燥して、ハードコート層上に半硬化状態の防汚層を形成した。
【0070】
<三層からなる積層構造の形成>
半硬化状態のハードコート層、反射防止層および防汚層の3層が形成された状態で、130℃で2分間熱硬化させて、表面にハードコート層、反射防止層および防汚層からなる三層構造を有するハードコートフィルム11~21を得た。
【0071】
[ハードコート層の特性評価]
上記製造例11~21で得られたハードコートフィルム11~21の各特性を測定し、それらの結果を表3に示した。各特性の測定条件は後記する。
【0072】
【表3】
【0073】
<評価結果>
ハードコート層、反射防止層および防汚層の積層構造が形成されたハードコートフィルムに対する顧客要求を満足するか否かの観点で、高い耐屈曲性および高い表面硬度を併せ持つハードコート形成用組成物を得るために、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、100:0~0:100であった。しかしながら、積層構造に対してクロスハッチ試験を行ったところ、短鎖有機ケイ素化合物の含有量が50%以上であれば、剥離は観察されなかったが、50%を下回ると、反射防止層とハードコート層との層間で剥離が観察された。すなわち、形成された層の密着性については、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、50:50~0:100であった。したがって、総合的に顧客要求を満足する長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、50:50~0:100であることが分かった。ここで、「顧客要求」とは、屈曲径を半径3mmに設定し、ハードコート塗工面を内側にする屈曲性試験(内曲げ試験)および屈曲径を半径5mmに設定し、ハードコート塗工面を外側にして屈曲性試験(外曲げ試験)の双方において、20万回繰り返してもクラックが発生しないことである。
また、ハードコート層のみが形成されたハードコートフィルムに対して顧客要求よりも厳しい要求、すなわち、屈曲径を半径1mmに設定し、ハードコート塗工面を外側にして屈曲性試験(外曲げ試験)において15万回繰り返してもクラックが発生しないことを要求する試験では、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、33:67以上であり、好ましくは、35:65~75:25であった。
顧客要求に加えて、上記の厳しい要求も考慮した場合、長鎖有機ケイ素化合物:短鎖有機ケイ素化合物の適切な質量比は、33:67~50:50となる。
【0074】
[ハードコート層の特性評価方法]
<マンドレル屈曲試験>
耐屈曲性の評価のため、ユアサシステム機器株式会社製の面状体無負荷U字伸縮試験機DLDMLH-FSを用いて耐屈曲試験を行った。
具体的には、屈曲径を半径Rmmに設定し60往復/分で屈曲性試験を5万回繰り返した後、クラック発生の有無を評価した。クラックが発生していなければ合格とする。折り曲げを5万回繰り返す毎にクラック発生の有無を評価して、クラックが発生して不合格となるまで、同様に評価を行う。
顧客要求は、屈曲径を半径3mmに設定し、ハードコート塗工面を内側にして屈曲性試験(内曲げ試験)したとき、20万回繰り返してもクラックが発生しないこと、屈曲径を半径5mmに設定し、ハードコート塗工面を外側にして屈曲性試験(外曲げ試験)したとき、20万回繰り返してもクラックが発生しないことである。
さらに、本発明においては、顧客要求よりも厳しい試験として、屈曲径を半径1mmに設定し、ハードコート塗工面を外側にして屈曲性試験(外曲げ試験)を行った。
【0075】
<塗膜の鉛筆硬度>
塗膜の硬度を評価するため、JIS規格(JIS K 5600-5-4)に準拠して鉛筆硬度試験を行った。
具体的には、鉛筆に750gの荷重をかけて、異なる鉛筆濃度の芯で表面を引っ掻き、傷が生じない最も硬い鉛筆濃度を鉛筆硬度とする。鉛筆濃度は、柔らかい側から硬い側に向かって、6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6Hである。
【0076】
<塗膜の耐擦傷性試験(スチールウール擦傷試験)>
塗膜の耐擦傷性を評価するため、以下の条件でスチールウール擦傷試験を行った。
表面性測定機(型番:TYPE14DR、新東科学社製)のスチールウールホルダーに#0000のスチールウールを固定し、2kgの荷重をかけて、表面を10回往復摩擦した。評価基準は以下の通り。
A・・・傷が確認されない
B・・・ごく浅い傷が確認される
C・・・深い傷が確認される
【0077】
<塗膜の密着>
密着性の評価のため、JIS規格(JIS K5600 塗料一般試験方法)の碁盤目試験法に準拠して100マス碁盤目でのクロスハッチ試験を行った。
具体的には、基材上に形成した塗膜に、単一刃切り込み器具(カッターナイフ)を用いて、1mm間隔で基材にまで達する切り込みを11本入れ、90°向きを変えて同様に切り込みを11本入れ、切り傷を碁盤目状に付ける。碁盤目状の切り傷の上に粘着テープを付着させる。このテープを塗膜面に対して直角に保ち、一気に引き剥がす。
これを10回繰り返し、目視にて塗膜の状態を確認した。評価基準を以下に示す。
A・・・剥離が確認されなかった碁盤目の個数が100個中95個以上
B・・・剥離が確認されなかった碁盤目の個数が100個中95個未満
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のハードコート形成用組成物を用いれば、有用な樹脂フィルム基材の表面に密着性よくコート膜を形成できるので、従来のアプリケーションであるポリカーボネートからなるプラスチック基材に対するハードコートのみならず、高い耐屈曲性および表面硬度を併せ持つ。よって、近年注目されているポリイミドのようなフレキシブル樹脂フィルム基材に対するハードコートとしても非常に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 樹脂基材
2 ハードコート形成用組成物層
3 硬化層(ハードコート)
4 プライマー
図1
図2