(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】物理量計算装置、操作量計算装置、物理量計算方法、プログラムおよび運転最適化システム
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20231227BHJP
G05B 13/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G05B13/04
G05B13/00 L
(21)【出願番号】P 2022500238
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044743
(87)【国際公開番号】W WO2021161625
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/030986
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020021857
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 麗子
(72)【発明者】
【氏名】若杉 一幸
(72)【発明者】
【氏名】手島 哲平
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-205651(JP,A)
【文献】特開2009-295291(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0291608(US,A1)
【文献】特開2019-185468(JP,A)
【文献】特開2003-150233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/04
G05B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体物を消費する複数の消費機器と前記各消費機器に前記流体物を流す複数の流路とを対象として、前記各流路に流れる前記流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式と、前記流路における前記流体物の前記各流量に基づき前記流路における前記流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式とを備えるフローモデルと、
前記フローモデルを用いて、前記流体物の供給量と、前記流体物の消費量とを入力パラメータとし、前記各物理量を計算する物理量計算部と、
を備え、
前記物理量計算式は、各流路の特性を示す計算式であって、当該流路における前記流体物の物理量と流量との関係を示す計算式である、
物理量計算装置。
【請求項2】
前記収支計算式が、実績値との違いを補正する演算項を含む
請求項1に記載の物理量計算装置。
【請求項3】
前記実績値との違いは、前記流体物の状態量の計測データの不足に起因して前記収支が合わないこと、前記流路のモデル化の誤差に起因して前記収支が合わないこと、経年劣化や損失により前記収支が合わないことの少なくとも1つに対応する
請求項2に記載の物理量計算装置。
【請求項4】
前記流体物の供給量は、前記流体物の発生量と、前記流体物の追加供給量との合計量である請求項1から3のいずれかに記載の物理量計算装置。
【請求項5】
前記追加供給量が、前記流体物の生成機器で生成された生成量と前記流体物の循環量とを含む
請求項4に記載の物理量計算装置。
【請求項6】
前記発生量および前記消費量がそれぞれ、少なくとも実績値を説明変数とする機械学習を用いて予測された予測値である
請求項4または5に記載の物理量計算装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれかに記載の物理量計算装置と、
前記追加供給量を操作量として、前記操作量に応じて変化する所定の評価値と前記物理量に係る制約条件の達成度とに基づく評価関数が、最大または最小となるように、前記操作量を求める最適化部と、
を備える操作量計算装置。
【請求項8】
流体物を消費する複数の消費機器と前記各消費機器に前記流体物を流す複数の流路とを対象として、前記各流路に流れる前記流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式と、前記流路における前記流体物の前記各流量に基づき前記流路における前記流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式とを備えるフローモデルを用いて、
前記流体物の供給量と、前記流体物の消費量とを入力パラメータとし、前記各物理量を計算するステップを、
を含み、
前記物理量計算式は、各流路の特性を示す計算式であって、当該流路における前記流体物の物理量と流量との関係を示す計算式である、
物理量計算方法。
【請求項9】
流体物を消費する複数の消費機器と前記各消費機器に前記流体物を流す複数の流路とを対象として、前記各流路に流れる前記流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式と、前記流路における前記流体物の前記各流量に基づき前記流路における前記流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式とを備えるフローモデルを用いて、
前記流体物の供給量と、前記流体物の消費量とを入力パラメータとし、前記各物理量を計算するステップを、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記物理量計算式は、各流路の特性を示す計算式であって、当該流路における前記流体物の物理量と流量との関係を示す計算式である、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物理量計算装置、操作量計算装置、物理量計算方法、プログラムおよび運転最適化システムに関する。本願は、2020年2月12日に日本に出願された特願2020-021857号と、2020年8月17日に国際出願されたPCT/JP2020/030986とに基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、機器構成要素の物理ベースモデル、統計モデル、ヒューリスティクモデル等に基づいて、プラントの損失を導出し、コスト関数に基づき機器の制御に働きかけ、プラント効率を高めるシステムが開示されている。ここで、コスト関数はプラントの機器を動作させるコストを計算する。特許文献1に記載されているシステムにおいて導出される損失は、圧力損失、熱損失、振動損失等、物理的損失を含むため、同システムでは損失導出のために多数の物理モデル等の構築が必要となる。また、経年変化を考慮する際には物理モデル等の再構築が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているシステムでは、最適なプロセス制御を行うために複雑なモデルを構築および再構築する必要があり、構成が複雑化してしまうという課題がある。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で所定の物理量を計算することができる物理量計算装置、操作量計算装置、物理量計算方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る物理量計算装置は、流体物を消費する複数の消費機器と前記各消費機器に前記流体物を流す複数の流路とを対象として、前記各流路に流れる前記流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式と、前記流路における前記流体物の前記各流量に基づき前記流路における前記流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式とを備えるフローモデルと、前記フローモデルを用いて、前記流体物の供給量と、前記流体物の消費量とを入力パラメータとし、前記各物理量を計算する物理量計算部と、を備える。
【0007】
本開示に係る物理量計算方法は、流体物を消費する複数の消費機器と前記各消費機器に前記流体物を流す複数の流路とを対象として、前記各流路に流れる前記流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式と、前記流路における前記流体物の前記各流量に基づき前記流路における前記流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式とを備えるフローモデルを用いて、前記流体物の供給量と、前記流体物の消費量とを入力パラメータとし、前記各物理量を計算するステップを、を含む。
【0008】
本開示に係るプログラムは、流体物を消費する複数の消費機器と前記各消費機器に前記流体物を流す複数の流路とを対象として、前記各流路に流れる前記流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式と、前記流路における前記流体物の前記各流量に基づき前記流路における前記流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式とを備えるフローモデルを用いて、前記流体物の供給量と、前記流体物の消費量とを入力パラメータとし、前記各物理量を計算するステップを、をコンピュータに実行させる。
【0009】
本開示に係る運転最適化システムは、設備(例えばプラント)に対する操作量を入力し、当該操作量および外乱要素に応じた前記設備の状態を模擬して、当該設備の状態を示す物理量を計算する物理量計算部と、前記物理量を変数とし、前記設備の状態が適切か否かの指標を示す評価関数が最大または最小となるように前記操作量を求める最適化部と、前記外乱要素を、少なくとも実績値を説明変数とする機械学習を用いて予測された予測値として前記物理量計算部に出力する予測部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の物理量計算装置、操作量計算装置、物理量計算方法、プログラムおよび運転最適化システムによれば、簡単な構成で所定の物理量を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る操作量計算装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示すフローモデル6の構成例を示す模式図である。
【
図3】
図2に示すフローモデル6を表す数式の構成例を示す模式図である。
【
図4】
図2に示すフローモデル6を表す数式の構成例を示す模式図である。
【
図5】
図1に示すフローモデル6の他の構成例を示す模式図である。
【
図6】
図5に示すフローモデル6aを表す数式の構成例を示す模式図である。
【
図7】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を示す模式図である。
【
図8】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を示すフローチャートである。
【
図9】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を説明するための模式図である。
【
図10】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を説明するための模式図である。
【
図10A】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を説明するための模式図である。
【
図10B】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を説明するための模式図である。
【
図10C】
図1に示す操作量計算装置1の動作例を説明するための模式図である。
【
図11】本開示の第2実施形態に係るフローモデルを表す数式の構成例を示す模式図である。
【
図12】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【
図13】他の実施形態におけるプラント運転最適化システムの一構成例を示す図である。
【
図14】他の実施形態におけるプラント運転最適化システムの一構成例を示す図である。
【
図15】他の実施形態におけるプラント運転最適化システムの一構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態に係る物理量計算装置、操作量計算装置、物理量計算方法およびプログラムについて図面を参照して説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0013】
(操作量計算装置の構成例)
図1は、本開示の第1実施形態に係る操作量計算装置の構成例を示すブロック図である。
図1に示す操作量計算装置1は、例えば、サーバ、パーソナルコンピュータ、タブレット端末等のコンピュータ、そのコンピュータの周辺装置等を用いて構成され、コンピュータ等のハードウェアとコンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、物理量計算部2、最適化部3、予測部4および記憶部5を備える。また、記憶部5は、フローモデル6と実績値7と運転計画値8を記憶する。なお、操作量計算装置1は、物理量計算部2を備える物理量計算装置としての態様も有する。この場合、操作量計算装置1は、物理量計算部2を備える物理量計算装置と、最適化部3等を備える構成となる。
【0014】
図1に示す操作量計算装置1は、化学プラント等のプラント100等において発生した発生物を、プラント100内の複数の機器で消費する場合に、消費量が発生量(発生物の量)を上回るとき、最適な追加供給量(発生量に追加して供給する量)を、フローモデル6を用いて操作量として計算する(シミュレーションする)装置である。ここで、発生量は、例えば、プラント100外やプラント100を備える工場外、プラント100の他の工程等の最適化の対象範囲外で発生した発生物の量に対応する。また、発生量は、例えば、プラント100等において副次的に生産された副生物の量を含んでいてもよい。また、追加供給量(操作量)は、最適化部3が最適化処理において操作する量(変化させる量)であり、最適化の対象範囲内で追加供給される量に対応する。なお、本実施形態において最適な追加供給量とは複数の候補の中で適切さの度合いが相対的に高い追加供給量を意味する。本実施形態において操作量計算装置1が計算対象とする発生物は、気体、液体等の流体物であり、例えば、水素(H2)、窒素(N2)等の単体、二酸化炭素(CO2)、水あるいは蒸気(H2O)、メタン(CH4)、アンモニア (NH3)等の化合物、あるいは、それらの混合物である。
【0015】
なお、
図1では、プラント100内に操作量計算装置1を設ける例を示しているが、操作量計算装置1は、プラント100外に設けられていてもよい。
【0016】
(フローモデル)
まず、
図2~
図6を参照して、フローモデル6について説明する。
図2は、
図1に示すフローモデル6の構成例を示す模式図である。
図3および
図4は、
図2に示すフローモデル6を表す数式の構成例を示す模式図である。
図5は、
図1に示すフローモデル6の他の構成例を示す模式図である。
図6は、
図5に示すフローモデル6aを表す数式の構成例を示す模式図である。
【0017】
図2に示すように、フローモデル6は、プラント100のプロセスにおける流体物の主要なフローを模擬するモデルである。この場合、プラント100は、流体物を消費する複数の消費機器と各消費機器に流体物を流す複数の流路と、
図1に示す操作量計算装置1を備える。また、フローモデル6は、予測発生量10と、追加供給量20と、消費機器31~34と、燃料35と、フレア36と、流路51~53と、流路61~71を要素として備えている。この場合、フローモデル6は、流体物を消費する複数の消費機器と各消費機器に流体物を流す複数の流路とを対象とするモデルとして構築されている。また、プロセスにおいて運転上の品質や安全を担保するための管理条件が、制約条件として設定されている。この場合、流路63(消費機器31の入口)に制約条件1が、流路67(消費機器32の出口)に制約条件2が、流路70(燃料35の入口)に制約条件3が、それぞれ設定されている。制約条件1~3は、例えば、流体物の濃度、分圧、流量等の所定の物理量が、所定の下限値以上、所定の上限値以下、所定の上下限値の範囲内にあることなどである。なお、制約条件は、1つの流路に複数設定されていてもよいし、1つの条件で複数の物理量を対象としていてもよい。なお、流路51~53は、3以上の流路に接続されていいて収支を確認する必要がある要素である。
【0018】
図2において、予測発生量(発生量)10は、例えば改質器や反応器等で将来発生することが予測される発生物(発生された流体物)の流量である。追加供給量20は、予測消費量が予測発生量を上回る場合に追加供給される流体物の流量である。追加供給量20は、例えば、流体物を貯蔵するタンクから流入させた流体物の流量、流体物を流すパイプラインから流入させた流体物の流量、プラント100内の流体物の製造機器で製造した流体物の流量、プラント100内で循環させた(リサイクルした)流体物の流量、それらを組み合わせた流量等である。また、予測発生量10と追加供給量20の合計量がフローモデル6における流体物の供給量となる。消費機器31~34は、例えば脱硫器等、流体物を消費する機器である。燃料35は、例えばガスタービン等の機器で燃料として消費される流体物である。フレア36は、流体物を燃焼するフレアスタックに導かれる流体物である。なお、予測発生量10をΔ10で、追加供給量20をΔ20で、消費機器31~34が消費すると予測される流体物の流量をそれぞれ予測消費量Δ1~Δ4で表す。また、流路61の流体物の流量をF01、流路62の流量をF02、流路63~65の流量をF11~F13、流路66と流路67の流量をF21と流量F22、流路68の流量をF31、流路69の流量をF41、流路70と流路71の流量を流量F51とF52でそれぞれ表す。
【0019】
なお、
図2に示す例では、予測発生量10は流路61を通して流路51に供給され、追加供給量20は流路62を通して流路51に供給される。流路51は、流路63~65を介して、消費機器31~33の各入口に接続されている。消費機器31および32の各出口は、流路66および67を介して、流路52に接続されている。消費機器34の入口は、流路68を介して、流路52に接続されている。消費機器34の出口は、流路69を介して、流路53に接続されている。流路53からは流路70を介して燃料35に、あるいは流路71を介してフレア36に、流体物が供給される。
【0020】
次に、
図3および
図4を参照して、
図2に示すフローモデル6を表す数式の例について説明する。本実施形態においてフローモデル6は、例えば、
図3に示す複数の収支計算式6-1と、
図4に示す複数(または1)の物理量計算式6-2によって表すことができる。
【0021】
各収支計算式6-1は、各流路に流れる流体物の流量に係る収支を計算する数式である。
図3の1番目の収支計算式は、流路61の流量F01が流量Δ10(予測発生量10)であることを表す。2番目の収支計算式は、流路62の流量F02が流量Δ20(追加供給量20)であることを表す。3番目の収支計算式は、流路51に入る流量が(流量F01+流量F02)で、流路51から出る流量が(流量F11+流量F12+流量F13)であることを表す。4番目の収支計算式は、流量F13が予測消費量Δ3であることを表す。5番目の収支計算式は、流量F21が(流量F11-予測消費量Δ1)であることを表す。6番目の収支計算式は、流量F22が(流量F12-予測消費量Δ2)であることを表す。7番目の収支計算式は、流路52に入る流量が(流量F21+流量F22)で、流路52から出る流量が流量F31であることを表す。8番目の収支計算式は、流量F41が(流量F31-予測消費量Δ4)であることを表す。9番目の収支計算式は、流路53に入る流量が流量F41で、流路53から出る流量が(流量F51+流量F52)であることを表す。
【0022】
一方、各物理量計算式6-2は、流路における流体物の各流量に基づき各流路における流体物の所定の物理量を計算する数式である。流体物の所定の物理量は、上述したように、例えば、分圧、濃度、流量等である。
図3に示す例では、流路63に設定されている制約条件1に係る物理量計算式は、管理対象(制御対象)の物理量をP1とした場合に、物理量P1が流路63の流量F11を変数とする関数R1で計算されることを表す。同様に、流路67に設定されている制約条件2に係る物理量計算式は、管理対象の物理量をP2とした場合に、物理量P2が流路67の流量F22を変数とする関数R2で計算されることを表す。また、流路70に設定されている制約条件3に係る物理量計算式は、管理対象の物理量をP3とした場合に、物理量P3が流路70の流量F51を変数とする関数R3で計算されることを表す。
【0023】
例えば、物理量P1が流量であれば、関数R1は、P1=F11となる。例えば、物理量P1が分圧や濃度であれば、関数R1は、流量F11と物理量P1との物理関係に基づく数式となる。分圧、濃度等の流体物の特性に係る物理量は、化学プラント等のプラントにおいては流量と比例の物理関係を有している場合が多い。したがって、例えば、物理量と流量の実績値に基づいて統計的に物理関係を求めることで、求めた物理関係に基づき関数R1を決定することができる。なお、
図3に示す例では、各物理量計算式6-2を、各制約条件1、2および3が設定されている各流路63、67および70の流量F11、F22およびF51を変数とする関数R1(F11)、R2(F22)およびR3(F51)としている。ただし、各制約条件における各物理量計算式6-2内の変数は、制約条件が設定されている流路の流量に限らず、流量を変数とすることができる。例えば、制約条件が対象とする物理量が、ある消費機器の消費量と物理関係を有する場合、当該消費機器の入口の流量と出口の流量を変数に含めることができる。例えば、制約条件が対象とする物理量が、追加供給量と予測発生量の量や割合、追加供給量のうち生成量と循環量の量や割合等と物理関係を有する場合には追加供給量、予測発生量、生成量、循環量等に対応する流量を変数に含めることができる。
【0024】
なお、本実施形態の説明では、収支計算式6-1という文言は1つの収支計算式6-1という意味と複数の収支計算式6-1という意味を含み、物理量計算式6-2という文言は1つの物理量計算式6-2という意味と複数の物理量計算式6-2という意味を含む。
【0025】
フローモデル6では、予測発生量10(Δ10)と予測消費量Δ1~Δ4を決定すれば、収支計算式6-1を用いて、追加供給量20(Δ20)を求めることができる。ただし、この場合、予測発生量10(Δ10)と予測消費量Δ1~Δ4に基づいて求めた追加供給量20(Δ20)は、予測される必要最小限の追加供給量であり、制約条件を必ずしも満足しない。そこで、本実施形態では、フローモデル6を用いて、後述するようにして、最適化処理を行い、制約条件1~3を満たす最適な追加供給量20(Δ20)を計算する。
【0026】
次に、
図5と
図6を参照してフローモデル6の他の例について説明する。
図5に示す他の例のフローモデル6aは、
図2に示すフローモデル6に対して、追加供給量Δ20が、生成量20a(Δ20a)と循環量80(Δ80)から構成される点が異なる。この場合、生成量20aは、流体物の製造機器で生成された流体物の流量であり、流路62を介して流路51へ供給される。循環量80は、流路53から流路72(流量F53)を介して供給された流量であり、循環量80は流路73(流量F03)を介して流路51へ供給される。
図6は、
図5に示すフローモデル6aを表す収支計算式6a-1を表す。なお、
図4に示す物理量計算式6-2は、
図2に示すフローモデル6と
図5に示すフローモデル6aで共通である。フローモデル6aによれば、追加供給量Δ20を、生成量20a(Δ20a)と循環量80(Δ80)とに分けて収支計算や物理量の計算を行うことができる。
【0027】
(物理量計算部)
図1に示す物理量計算部2は、記憶部5が記憶するフローモデル6を用いて制約条件が対象とする1または複数の物理量を計算する。すなわち、物理量計算部2は、流体物を消費する複数の消費機器と各消費機器に流体物を流す複数の流路とを備えるプラント10内の各流路に流れる流体物の流量に係る複数の収支を計算する複数の収支計算式と、1または複数の流路における流体物の各流量に基づき1または複数の流路における流体物の1または複数の所定の物理量を計算する1または複数の物理量計算式とを用いて、流体物の供給量(流体物の発生量と流体物の追加供給量の合計量)と、流体物の消費量とを入力パラメータとし、各物理量を計算する。
【0028】
(最適化部)
最適化部3は、追加供給量を操作量として、操作量に応じて変化する所定の評価値と1または複数の物理量に係る1または複数の制約条件の達成度とに基づく評価関数が、最大または最小となるように、操作量を求める。所定の評価値は、例えば、操作量(追加供給量)を得るために必要なコスト(費用)を表す値、プラント100における排出ガスの削減効果を表す値等とすることができる。制約条件の達成度は、制約条件を満足するか否かを表す2値としたり、満足した場合にしきい値に対してどれだけ余裕があったのかを表す値としたり、満足できなかった場合にしきい値に対してどれだけ近づいていたのかを表す値としたりすることができる。評価関数の一例を以下に示す。
【0029】
評価関数=コスト+制約条件式1+制約条件式2+制約条件式3+…
【0030】
上式において、制約条件式1、2、3、…は、制約条件を逸脱すると、値が大きくなるよう設計される。追加供給量=コストとし、制約条件式に物理量計算部2が計算した物理量を代入する。最適化部3は、計算された評価関数の値が最小となるよう、繰り返し最適化計算を行う。最適化計算には勾配降下法などを用いる。なお、物理量計算部2は、最適化部3が操作量として求めた追加供給量を入力パラメータとして用いて、各物理量を計算することができる。
【0031】
(予測部)
予測部4は、物理量計算部2の入力パラメータである流体物の発生量と消費量の予測値を計算する。予測部4は、例えば、発生量の予測値と消費量の予測値を、運転計画情報や過去の実績値等を説明変数とする機械学習を用いて計算する。なお、説明変数には、実績値だけでなく、操業計画等の計画値や気象の予報値等、将来の情報を用いることができる。機械学習のアルゴリズムに限定はないが、例えばランダムフォレスト等を用いることができる。なお、物理量計算部2は、予測部4が予測した流体物の発生量と流体物の消費量を入力パラメータとして用いて、各物理量の予測値を計算することができる。予測部4は、例えば、直近のプロセス値の実績データの学習によりプラントの傾向を学習し、運転計画に則った数時間~数日先のプロセス値を予測することができる。
【0032】
(記憶部)
記憶部5が記憶するフローモデル6は、例えば、
図3や
図6に示すような収支計算式6-1や6a-1と
図4に示すような物理量計算式6-2とを表す情報と、プラント100における実際の機器や配管等とフローモデル6内の機器や流路との対応関係とを示す情報とを含む。フローモデル6は、収支計算式と物理量計算式とを表す情報を、例えば、数式を解くためのプログラムとして含んでいてもよい。
【0033】
また、記憶部5が記憶する実績値7(プロセス実績値ともいう)は、例えば、フローモデル6で定義された発生量、追加供給量(生成量、循環量)、各消費量、各流量、各物理量の過去において単位時間毎に計測された計測値の時系列のデータ、フローモデル6に定義されていない他の時系列のプロセスデータ(プロセスで管理されているデータ)等を含む。また、記憶部5が記憶する運転計画値8は、プラント100の運転計画に基づく発生量、消費量等の計画値を表す情報である。
【0034】
(操作量計算装置の動作例)
図7~
図10および
図10A~
図10Cを参照して、
図1に示す操作量計算装置1の動作例について説明する。
図7は、
図1に示す操作量計算装置1の動作例を示す模式図である。
図8は、
図1に示す操作量計算装置1の動作例を示すフローチャートである。
図9および
図10および
図10A~
図10Cは、
図1に示す操作量計算装置1の動作例を説明するための模式図である。ここでは
図2~
図4を参照して説明したフローモデル6を対象とする動作例について説明する。
【0035】
図7は、操作量計算装置1による追加供給量の最適化処理の概要を示す。
図7に示すように、操作量計算装置1において、予測部4は、実績値7等(実績値7、運転計画値8、予測部4が予測した予測値等)に基づいて予測発生量Δ10、予測消費量Δ1、Δ2、Δ3、Δ4等を予測して出力する。また、物理量計算部2は、最適化部3が操作量として計算した追加供給量Δ20と、予測部4が計算した発生量Δ10、予測消費量Δ1、Δ2、Δ3、Δ4等の外乱要素を入力パラメータとして、物理量P1、P2およびP3を計算結果として出力する。最適化部3は、物理量計算部2が計算した計算結果を受け取り、例えば上述した評価関数を計算し、評価関数が最小となるように操作量(追加供給量)を見直して、物理量計算部2へ入力する。
【0036】
次に、
図8を参照して、操作量計算装置1による追加供給量の最適化処理の例について説明する。
図8に示す処理は、T時間後の追加供給量の最適値を計算する処理である。
図8に示す処理が開始されると、まず、予測部4が、運転計画値とプロセス実績値を取得する(ステップS11)。次に、予測部4が、取得した運転計画値とプロセス実績値を説明変数とし、機械学習手法によりT時間後の発生量と消費量を予測する(ステップS12)。
【0037】
次に、物理量計算部2が、予測部4が予測した発生量および消費量と追加供給量の初期値とを入力し、物理量を計算する(ステップS13)。ここで、追加供給量の初期値は、例えば、最初の値は実績値として、次以降の値はステップS15で決定された値とすることができる。次に、最適化部3が、物理量の計算結果と追加供給量から評価関数を計算する(ステップS14)。次に、最適化部3が、評価関数の値が最小となる方向に追加供給量を調整(最適化)する(ステップS15)。次に、最適化部3が、収束条件を満足したか否かを判断する(ステップS16)。収束条件は、例えば、繰り返し回数が所定の上限回数以上となったこと、評価関数の値の変化の傾きが所定のしきい値未満となったこと等である。収束条件が満足していない場合(ステップS16で「NO」の場合)、ステップS13へ戻り、物理量計算部2が物理量を再度、計算する(ステップS13)。他方、収束条件が満足していた場合(ステップS16で「YES」の場合)、最適化部3が、最適な追加供給量を出力する(ステップS17)。ステップS17において最適化部3は、例えば、所定の表示部に最適な追加供給量を示す情報を表示したり、プラント100内の図示していない制御装置に最適な追加供給量を示す情報を通知したりする。
【0038】
図9は、操作量計算装置1を用いて、追加供給量の実績値を初期値として最適化処理を行った結果の一例を示す。横軸は最適化計算回数(繰り返し回数)であり、縦軸は追加供給量である。
図9に示した例では、15%ほど追加供給量が減少する改善効果が得られた。また、
図10は、実績値の時系列に対して最適化処理を行った結果の例を示す。横軸は時刻であり、縦軸は追加供給量である。また、
図10A~
図10Cは、最適化処理において確認された物理量(流量、圧力および濃度)の最適化前後の値の例を示す。横軸は時刻であり、縦軸は流量、圧力および濃度である。
図10A~
図10Cに示す各物理量は、制約条件として定められている破線で示す各しきい値以上の値を有している。
【0039】
(作用・効果)
以上のように、第1実施形態によれば、プロセスの流体物の流量をベースとしたフローを模擬したフローモデル6でプロセス収支計算を行い、コストと機器の管理条件からなる評価関数で適切な追加供給量を求めることができる。また、第1実施形態によれば、機器や化学反応等の物理モデルを構築せずに、所定の物理量を計算することができる。すなわち、プロセスの収支式と流量および管理条件に関わる要素のパラメータのみをシミュレーションの対象範囲とするため、機器や化学反応等の物理モデルを構築する必要がなく、シミュレーションのモデル構築が容易である。また、コストと機器運営の管理条件(制約条件)を考慮した評価関数を用いることにより、プラントの品質と安全に関わる管理条件を満たし、かつ、コストが最小となるような最適な追加供給量が得られる。
【0040】
また、物理量の計算においてプロセス値に予測値を用いることで、例えば数時間~数日先の適切な運転計画をたてることができる。
【0041】
以上のように、第1実施形態によれば、簡単な構成で所定の物理量を計算することができ、また、簡単な構成で最適な操作量を計算することができる。
【0042】
<第2実施形態>
次に、本開示の第2実施形態に係る操作量計算装置、操作量計算方法およびプログラムについて
図11を参照して説明する。第1実施形態と第2実施形態とでは、フローモデル6の構成が一部異なる。
図1に示す操作量計算装置1の構成と
図2に示す各機器と流路の構成は、第1実施形態と第2実施形態で共通である。
図11は、本開示の第2実施形態に係るフローモデル6を表す数式の構成例を示す模式図である。
【0043】
図11は、
図1に示すフローモデル6が含む収支計算式を、収支計算式6-1bとして示す。
図11に示す収支計算式6-1bは、
図3に示す第1実施形態の収支計算式6-1と比較して、6番目~8番目の収支計算式が異なる。なお、
図4に示す物理量計算式6-2は、第1実施形態と第2実施形態で共通である。
【0044】
図2に示すフローモデル6は、主管等による主要な流れを模擬するモデルであり、副管、枝管等の一部の流れが省略されている場合がある(場合を許容する)ので、フローモデル6を用いた計算結果と実績値の差が大きくなることがある。また、実プラントの機器の経年劣化や触媒の活性変化等による変化によってフローモデル6を用いた計算結果と実績値の差が大きくなることが考えられる。そこで、第2実施形態では、1または複数の収支計算式6-1bに、実績値との違いを補正する演算項を含ませている。
【0045】
図11に示す例では、6番目の収支計算式6-1bの右辺に演算子「+」を用いて補正定数C1を補正用の演算項として追加している。また、7番目の収支計算式6-1bは、左辺の流量F21およびF22に補正係数C2を乗じることで、第1演算項(第1項)をF21*C2、第2演算項(第2項)をF22*C2とし、第1演算項と第2演算項を補正用の演算項としている。また、8番目の収支計算式6-1bの左辺に演算子「+」を用いて補正定数C4を補正用の演算項として追加するとともに、左辺の流量F31に補正係数C3を乗じることで、第1演算項をF31*C3とし、補正用の演算項としている。
【0046】
図11に示す補正定数C1およびC4と補正係数C2およびC3は、フローモデル6を用いた計算値と実プラントの実績値に乖離が生じる場合に、プロセス実績値と計算値の乖離分を集計し、差分や距離算出など統計的手法により決定し、収支計算式に含ませることができる。第2実施形態によれば、収支計算式に統計的手法で定めた補正用の演算項を含ませることで、モデル構築が容易かつ、実プラントの機器の経年劣化や触媒の活性変化等による変化にも随時追従することができる。なお、基本的な考え方として、補正用の演算項は、例えば、次のように設定することができる。すなわち、考慮できていない流路の収支を補正する場合は+の補正、流量をノルマル換算するための情報(温度や圧力)に欠落があったり、濃度の情報が欠落していたりする等を補正する場合は×の補正をする、というようにすることができる。また、考慮できない流路の流量が無視できないほどに大きい場合は、機器での消費量を用いて補正してもよい。また、収支計算式が含む、補正用の演算項が補正する実績値との違いは、例えば、流体物の状態量(例えば温度、圧力等、熱平衡にある物理系を記述する物理量)の計測データの不足に起因して収支が合わないこと、流路のモデル化の誤差(例えば主要流路のみのモデル化による誤差)に起因して収支が合わないこと、経年劣化や損失により収支が合わないことの少なくとも1つに対応する。
【0047】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、
図2に示すフローモデル6は、消費機器に加えて、不純物を除去する機器等の流体物を基本的には消費しない機器を含んでいてもよい。また、その場合には、消費機器以外の機器の稼働量を操作量に含ませてもよい。
【0048】
(コンピュータ構成)
図12は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、インタフェース94を備える。
上述の操作量計算装置1は、コンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。
【0049】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0050】
ストレージ93の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0051】
<付記>
各実施形態に記載の操作量計算装置1は、例えば以下のように把握される。
【0052】
(1)第1の態様に係る物理量計算装置(操作量計算装置1の一態様)は、流体物を消費する複数の消費機器31~34と各消費機器31~34に流体物を流す複数の流路51~53および61~71とを対象として、各流路に流れる流体物の流量のみに係る収支を計算する収支計算式6-1と、流路における流体物の各流量に基づき流路における流体物の所定の物理量を計算する物理量計算式6-2とを備えるフローモデルと、フローモデルを用いて、流体物の供給量と、流体物の消費量とを入力パラメータとし、各物理量を計算する物理量計算部2を備える。第1の態様によれば、簡単な構成で所定の物理量を計算することができる。
【0053】
(2)第2の態様に係る物理量計算装置は、(1)の物理量計算装置であって、収支計算式が、実績値との違いを補正する演算項を含む。第2の態様によれば、計算値と実プラントの実績値に乖離が生じる場合に補正することができる。
【0054】
(3)第3の態様に係る物理量計算装置は、(2)の物理量計算装置であって、実績値との違いは、流体物の状態量の計測データの不足に起因して前記収支が合わないこと、流路のモデル化の誤差に起因して前記収支が合わないこと、経年劣化や損失により前記収支が合わないことの少なくとも1つに対応する。
【0055】
(4)第4の態様に係る物理量計算装置は、(1)~(3)の物理量計算装置であって、流体物の供給量は、流体物の発生量と、流体物の追加供給量との合計量である。
【0056】
(5)第5の態様に係る物理量計算装置は、(4)の物理量計算装置であって、追加供給量が、流体物の生成機器で生成された生成量と流体物の循環量とを含む。第5の態様によれば、追加供給量Δ20を、生成量20a(Δ20a)と循環量80(Δ80)とに分けて収支計算や物理量の計算を行うことができる。
【0057】
(6)第6の態様に係る物理量計算装置は、(4)または(5)の物理量計算装置であって、前記発生量および前記消費量がそれぞれ、少なくとも実績値を説明変数とする機械学習を用いて予測された予測値である。第6の態様によれば、例えば、直近のプロセス値の実績データの学習によりプラントの傾向を学習し、運転計画に則った数時間~数日先のプロセス値を予測することができる。
【0058】
(7)第7の態様に係る操作量計算装置1は、(4)~(6)の物理量計算装置と、追加供給量を操作量として、操作量に応じて変化する所定の評価値と物理量に係る制約条件の達成度とに基づく評価関数が、最大または最小となるように、操作量を求める最適化部3と、を備える。第7の態様によれば、簡単な構成で最適な操作量を計算することができる。
【0059】
<その他の実施形態>
上述の第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した操作量計算装置1は、
図13に示すような、予測部4を含むプラント運転最適化システム(設備運転最適化システム)9として構成される。
即ち、プラント運転最適化システム9は、プラント(設備)100に対する操作量を入力し、当該操作量および外乱要素に応じたプラント100の状態を模擬して、当該プラント100の状態を示す物理量を計算する物理量計算部2と、当該物理量を変数とし、プラント100の状態が適切か否かの指標を示す評価関数が最大または最小となるように操作量を求める最適化部3と、外乱要素を、少なくとも実績値を説明変数とする機械学習を用いて予測された予測値として物理量計算部2に出力する予測部4と、を備える。
【0060】
ここで、「プラント100に対する操作量」とは、第1、第2の実施形態においては、流体物の追加供給量20(Δ20)である。
また、「プラント100の状態を示す物理量」とは、第1、第2の実施形態においては、上述の物理量P1、P2、P3である。
また、「プラント100の状態が適切か否かの度合いを示す評価関数」とは、第1、第2の実施形態においては、上述のコスト(追加供給量)および制約条件の達成度を考慮してなる評価関数のことである。
また、「外乱要素」とは、第1、第2の実施形態においては、上述の発生量Δ10、予測消費量Δ1、Δ2、Δ3、Δ4等のことである。外乱要素はプラントの状態量から求めることができない要素であり、プラント100とは異なる設備の状態に基づいて算出される。
【0061】
(プラント運転最適化システムの他の構成例)
図14、
図15は、それぞれ、プラント運転最適化システムの構成の一例を示す図である。
上述のプラント運転最適化システム9は、第1、第2の実施形態に限定されず、例えば、
図14、
図15にそれぞれ示す実施形態のように適用することも可能である。
【0062】
図14に示すプラント運転最適化システム9は、動力コストの最小化を目的として、社外および社内でのエネルギー需要を予測し、各種燃料コストや電力取引での収益を考慮した上で、ボイラおよびタービンの稼働を制御することで、運転の最適化を行う。動力コストの最小化には、燃料蓄積量を最適にすることが、コストインパクトが大きいことから、燃料残量を主な評価指標としている。
【0063】
本実施形態において、物理量計算部2は、ボイラ、タービン、プラントの統計モデルおよび物理モデルである。
図14に示すように、物理量計算部2には、操作量として、タンクからの燃料使用量、および、ボイラ/タービン運転パラメータが入力される。
【0064】
また、工業地帯に建設されている発電プラントでは、外部への電力供給のみならず、隣接する他社のプラントに蒸気を直接供給している場合がある。そこで、
図14に示す予測部4は、外乱要素として、電力デマンドの予測値に加え、蒸気デマンドの予測値を出力する。
また、本実施形態において、予測部4は、さらに、副生燃料流入量/単価、買電単価、燃料単価等の予測値を出力する。
予測部4は、以上の予測値を外乱要素として物理量計算部2に入力する。
【0065】
物理量計算部2は、入力された操作量(燃料使用量、ボイラ/タービン運転パラメータ)および外乱要素(電力デマンド、蒸気デマンド等の予測値)に従ってプラント100の運転を模擬(シミュレーション)し、その計算結果として、燃料残量、買電電力量および外部調達燃料流量を出力する。
【0066】
最適化部3は、物理量計算部2の計算結果(燃料残量、買電電力量および外部調達燃料流量)を、コストインパクトが大きい燃料残量を特に考慮して作成された評価関数に代入し、プラント運転の評価値を算出する。最適化部3は、勾配降下法等による最適化計算を行い、評価値が最小となる最適な操作量を出力する。
【0067】
図15に示すプラント運転最適化システム9は、エネルギー供給事業における収益最大化を目的として、社外および社内でのエネルギー需要を予測し、各種燃料コストや電力取引での収益を考慮した上で、ボイラおよびタービンの稼働を制御することで、最適化を行う。ここで収益は、「売蒸気+売電気-燃料コスト」で表され、この収益の最大化には、特に、電力市場での余剰電力量の売電のインパクトが大きいことから、そのためのボイラ操業量を主な評価指標としている。
【0068】
本実施形態において、物理量計算部2は、ボイラ、タービン、プラントの統計モデルおよび物理モデルである。
図15に示すように、物理量計算部2には、操作量として、ボイラ主蒸気流量が入力される。
【0069】
また、
図15に示すように、予測部4は、外乱要素として、蒸気デマンド、JPEX(Japan Electric Power eXchange)価格、燃料単価、燃料原単位等の予測値を出力する。予測部4は、これらの予測値を外乱要素として物理量計算部2に入力する。
【0070】
物理量計算部2は、入力された操作量(ボイラ主蒸気流量)および外乱要素(蒸気デマンド等の予測値)に従ってプラント100の運転を模擬(シミュレーション)し、その計算結果として、発電機出力、所内補機動力、所内蒸気量、抽気弁開度、排気圧を出力する。
【0071】
最適化部3は、物理量計算部2の計算結果(発電機出力、所内補機動力、所内蒸気量、抽気弁開度、排気圧)を、収益の最大化(つまり、余剰電力の売電のためのボイラ操業量)を評価指標とする評価関数に代入し、プラント運転の評価値を算出する。最適化部3は、勾配降下法等による最適化計算を行い、評価値が最小となる最適な操作量を出力する。
【0072】
以上のように、プラント運転最適化システム9は、プラントへの操作量に外乱要素の予測値を組み合わせ、最適な操作量を提示する『ガイダンス』を行う。そのうえで、工場設備等において、プラント運転最適化システム9が提示したガイダンス値で自動的に運転する『制御』が行われてもよい。
より具体的には、プラント運転最適化システム9は、プラント100における熱発生等のプロセスをシミュレータ(物理量計算部2)としてモデル化し、プラント100で操作可能な実操作量と、プラント100では操作できない外乱要素をシミュレータに入力する。ここで、外部要因値は機械学習による予測値が用いられる。シミュレーション結果は、評価関数によって評価され、評価関数を通じて、例えばプラント100で設定されるKPIに合致するように最適化計算を行い、操作量の最適解をガイダンスに表示する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
上述の物理量計算装置、操作量計算装置、物理量計算方法、プログラムおよび運転最適化システムによれば、簡単な構成で所定の物理量を計算することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 操作量計算装置
2 物理量計算部
3 最適化部
4 予測部
5 記憶部
6 フローモデル
7 実績値
8 運転計画値
31~34 消費機器
51~53、61~72 流路
100 プラント
9 プラント運転最適化システム