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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】大型車両を動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
F02D29/02 311A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022542741
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2020050850
(87)【国際公開番号】W WO2021144010
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】オスボゴード,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-142262(JP,A)
【文献】特開2015-030314(JP,A)
【文献】特開2015-056978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175009(US,A1)
【文献】国際公開第2014/184344(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0248370(US,A1)
【文献】特開2018-058584(JP,A)
【文献】特開2017-222357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)を停止状態又は低速状態から動作させる方法であって、
前記大型車両(100)を動作させる動作命令を取得するステップ(S1)と、
前記動作命令を実行するのに適した車輪スリップに応じた目標車輪スリップ値(λtarget)を決定するステップ(S2)と、
車両速度(v )が設定された閾値速度(v lim )未満であれば、車輪速度(ω)を制御して前記大型車両(100)の車輪スリップを前記目標車輪スリップ値(λtarget)に維持するステップ(S3)と、
前記車両速度(v )が前記設定された閾値速度(v lim )以上であれば、固定の車輪スリップ制限を持つトルク要求に基づいて車両速度(v )を制御するステップ(S34)と、
を含み、
前記動作命令(S11)は、前記大型車両(100)によって要求された加速度(areq)を含み、
前記目標車輪スリップ値(λtarget)は、前記要求された加速度に到達するのに必要な縦力(Fx’)に応じて決定される、方法。
【請求項2】
ωを車輪速度、λtargetを目標車輪スリップ値、vrefを基準速度、vを前記車輪の基準系における車両速度、Rを車輪半径とすると、以下の相関関係に基づいて、車輪速度(ω)を制御して前記大型車両(100)のそれぞれの車輪の車輪スリップを前記目標車輪スリップ値(λtarget)に維持するステップ(S31)を含む、
請求項1に記載の方法。
【数1】
【請求項3】
縦力(Fx’)と縦方向の車輪スリップ率との予め決定された相関関係(400)に基づいて、前記要求された加速度に到達するのに必要な前記縦力(Fx’)から前記目標車輪スリップ値(λtarget)を決定するステップ(S212)を含む、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
mを前記大型車両(100)の質量、areqを前記大型車両(100)によって要求された加速度とすると、Fx’=m×areqという相関関係に基づいて、前記要求された加速度に到達するのに必要な前記縦力(Fx’)を決定するステップ(S211)を含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
縦力(Fx’)と縦方向の車輪スリップ率との予め決定された相関関係(400)は、推定された道路状態に応じて予め設定された(S213)、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記動作命令(S12)は、前記大型車両(100)によって要求された終速度(vreq)を含み、
前記目標車輪スリップ値(λtarget)は、予め設定された車輪スリップ値(S22)である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
refが前記大型車両(100)によって要求された終速度(vreq)に設定された場合、以下の相関関係に基づいて、車輪速度(ω)を制御して前記大型車両(100)の車輪スリップを前記目標車輪スリップ値(λtarget)に維持するステップ(S311)を含む、
請求項6に記載の方法。
【数2】
【請求項8】
車輪速度(ω)を制御して車両加速度を予め設定された最大加速度値未満に維持するステップ(S32)を含む、
請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
車輪速度(ω)を制御して車輪速度を予め設定された最大車輪速度値未満に維持するステップ(S33)を含む、
請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記動作命令(S13)は、停止状態から停止状態まで前記大型車両(100)が移動する距離(dreq)を含み、
前記方法は、以下のように、前記距離(dreq)に達するまでの時間に亘って車輪速度を積分するステップ(S4)を含む、
請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【数3】
【請求項11】
前記動作命令は、限られた期間だけ印加され得るピークトルクの要求に対応する、
請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
オープン差動装置を介して駆動車輪に連結された電気機械に車輪速度要求を送信するステップ(S5)を含み、
前記方法は、前記電気機械によって車輪速度(ω)を制御して前記大型車両(100)の車輪スリップを前記目標車輪スリップ値(λtarget)に維持するステップを含む、
請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
設定された期間に亘って、前記目標車輪スリップ値(λtarget)を初期値から予め決定された終了値まで増加させるステップを含む、
請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
プログラムが制御ユニット(110)のコンピュータ又は処理回路(910)で実行されるとき、請求項1~13のいずれか1つのステップを実行するためのプログラムコード手段を含んだコンピュータプログラム(1020)。
【請求項15】
プログラム製品が制御ユニット(110)のコンピュータ又は処理回路(910)で実行されるとき、請求項1~13のいずれか1つのステップを実行するためのプログラムコード手段を含んだコンピュータプログラム(1020)を保持するコンピュータ可読媒体(1010)。
【請求項16】
大型車両(100)を停止状態又は低速状態から動作させる動作命令を取得し、前記動作命令を実行するのに適した車輪スリップに応じた目標車輪スリップ値(λtatget)を決定し、車両速度(v )が設定された閾値速度(v lim )未満であれば、車輪速度(ω)を制御して前記大型車両(100)の車輪スリップを前記目標車輪スリップ値(λtarget)に維持し、前記車両速度(v )が前記設定された閾値速度(v lim )以上であれば、固定の車輪スリップ制限を持つトルク要求に基づいて車両速度(v )を制御するように構成された処理回路(910)を含み、
前記動作命令は、前記大型車両(100)によって要求された加速度(areq)を含み、
前記目標車輪スリップ値(λtarget)は、前記要求された加速度に到達するのに必要な縦力(Fx’)に応じて決定される、
大型車両の制御ユニット(110)。
【請求項17】
請求項16に記載の制御ユニット(110)を備えた車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両を停止状態又は低速状態から動作させる方法に関する。本発明は、トラックや建設機械などの大型車両に適用することができる。セミトレーラ車両及びトラックに関して主に本発明を説明するが、本発明はこの特定タイプの車両に限定されず、ドーリや乗用車などの他のタイプの車両にも使用することができる。
【背景技術】
【0002】
大型車両を停止状態又は低速状態から発進させることは、困難である場合がある。通常、滑らかで制御された方法で、車両を所望の速度まで加速することが望まれるが、変化する摩擦道路状態、平坦でない路面、及び/又は急勾配は、車両制御を複雑にする傾向がある。しばらくの間駐車されていたトレーラは、例えば、適切に解除されないブレーキや、車両発進に抵抗する第5輪連結部などによって、動作させるのが特に困難になる可能性がある。経験豊富なドライバは、適切なトルク制御を適用して、現在の走行状態に応じて滑らかに車両を発進させることができる。しかしながら、経験の浅いドライバをアシストして、困難な車両発進シナリオを切り抜ける方法が必要である。ドライバが存在しない自律車両において使用するために自動化できる方法も必要である。
【0003】
車両が1つ以上の電気機械によって駆動されるとき、大型車両を停止状態から発進させることは、特に困難となる場合がある。なぜならば、電気機械は、(少なくとも限られた期間だけ)高いピークトルクを迅速に供給することができ、これによって、深刻な車輪スリップや横制御の喪失をもたらす可能性がある。一方、利用可能な高いピークトルクは、複雑なギヤ装置の必要性を低減する。
【0004】
米国特許出願公開第2015/0175009号明細書は、発進中の車両を制御する方法を提供する。この開示方法は、場合によっては、最適ではないかもしれないトルク制御に基づいている。
米国特許出願公開第2019/0248370号明細書は、上述した問題を完全には解決しない、発進中の車両を制御する方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、大型車両を動作させる改良された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の目的は、大型車両を停止状態又は低速状態から動作させる、改良された方法を提供することである。この目的は、大型車両を動作させる方法によって少なくとも部分的に得られる。この方法は、大型車両を動作させる動作命令を取得するステップと、動作命令を実行するのに適した車輪のスリップに応じた目標車輪スリップ値を決定するステップと、車輪速度を制御して大型車両の車輪のスリップを目標車輪スリップ値に維持するステップと、を含んでいる。
【0007】
このようにして、トルクベースの制御とは対照的に、制御が車輪のスリップ、又は車両の速度に対する車輪の速度差に直接基づくため、制御された車両の発進が効果的な方法で得られる。より高い帯域幅の制御ループ(より高速のループ)がこのように実現できるので、制御が、推進ユニット又は複数の推進ユニットへと移され、かつ中央の車両制御から離れることは有利である。制御帯域幅が中央に比べて局所的に増加するので、予期しない抵抗や過渡状態をより適切に処理することができる。
【0008】
いくつかの態様によれば、この方法は、以下の相関関係に基づいて、車輪の速度を制御して車両のそれぞれの車輪の車輪のスリップを目標車輪スリップ値に維持するステップを含んでいる。ここで、ωは車輪速度を表し、λtargetは目標車輪スリップ値を表し、vrefは基準速度、vは車輪の基準系における車両速度、Rは車輪半径を表している。
【数1】
【0009】
従って、車両発進のためのトルクベースの制御システムとは異なる方法で、発進事象中に所望の車輪のスリップを得るために車輪速度ωが直接制御、即ち、車輪速度と車両速度との速度差が直接制御されて、滑らかで制御された車両の発進が行われる。望ましくない速度差をもたらす過渡状態は、局所的な制御に起因する高い制御帯域幅のために迅速に考慮することができる。
【0010】
いくつかの態様によれば、動作命令は、車両によって要求された加速度を含み、目標車輪スリップ値は、要求された加速度に到達するのに必要な縦力に応じて決定される。
【0011】
このようにして、有利には、加速要求を制御された方法で実行することができる。
【0012】
いくつかの態様によれば、この方法は、要求された加速度に到達するのに必要な縦力、及び縦力と縦方向の車輪スリップ率との予め決定された相関関係に基づいて、目標車輪スリップ値を決定するステップを含んでいる。
【0013】
このようにして、有利には、開示された方法は、異なる車両タイプや、又は個々の車両にさえ適合させることができる。タイヤの摩耗や走行状態などの特定の特性は、縦力と縦方向の車輪スリップ率との予め決定された相関関係を調整することによって考慮することができる。
【0014】
いくつかの態様によれば、この方法は、Fx’=m×areqという相関関係に基づいて、要求された加速度に到達するのに必要な縦力を決定するステップを含んでいる。ここで、mは車両の質量、areqは車両によって要求された加速度である。
【0015】
このようにして、有利には、車両の総貨物重量(GCW)は、車両発進操作を最適化するときに考慮することができる。
【0016】
いくつかの態様によれば、この方法は、vrefが車両によって要求された終速度に設定される場合、以下の相関関係に基づいて、車輪速度を制御して車両の車輪スリップを目標車輪スリップ値に維持するステップを含んでいる。
【数2】
【0017】
このようにして、有利には、車輪速度が直接制御されて、滑らかな車両発進を得ることができる。基準速度は、以下で説明するように、車両発進をさらに最適化するために適合させることができる。
【0018】
いくつかの態様によれば、この方法は、車両速度が設定された閾値速度を超えていれば、トルク要求に基づいて、固定の車輪スリップ限度で車両速度を制御するステップを含んでいる。
【0019】
このようにして、有利には、車両発進、即ち、車両が停止状態又は低速状態から首尾よく動作した後に、車両制御を既知の制御方法に移行することができる。これによって、車両発進中に採用される直接的な車輪スリップ制御の代わりに、スリップ制限を課すことができる、より高速な車両動作を簡単にすることができる。
【0020】
いくつかの態様によれば、動作命令は、車両が停止状態から停止状態までに移動する距離を含み、この方法は、以下のように、この距離に到達する時間に亘って車輪速度を積分するステップを含んでいる。
【数3】
【0021】
このタイプの制御は、例えば、車両を積載湾(a loading bay)に入渠することを容易にすることができる。車輪スリップベースの発進制御によって、停止状態から停止状態までの車両の動作を滑らかにすることができる。
【0022】
いくつかの態様によれば、動作命令は、限られた期間だけ印加され得るピークトルクの要求に対応している。
【0023】
電気機械のピークトルクは、通常、車両発進中など、限られた期間だけ引き出すことができる。この特別なトルクは、登坂の発進など、困難な状態での大型車両の発進を容易にすることができる。この利用可能な高いトルクによって、ホイールエンドモジュールが発進事象中に要求されたトルクに影響を与える過渡状態や予期せぬ事象に対応することができる。有利には、高いピークトルクは、複雑なギヤシステムの必要性を低減する。従って、ギヤの数を減らしたり、単一の固定ギヤシステムでさえ十分であったりする可能性がある。
【0024】
いくつかの態様によれば、この方法は、オープン差動装置(an open differential arrangement)を介して1つ以上の駆動車輪に連結された電気機械に車輪速度要求を送信するステップを含んでいる。この方法は、電気機械によって車輪速度を制御して、車両の車輪スリップを目標車輪スリップ値に維持するステップを含んでいる。
【0025】
本明細書に開示された方法及び技術は、差動駆動装置にも適用可能であり、これは有利となる。
【0026】
いくつかの態様によれば、この方法は、設定された期間に亘って、目標車輪スリップ値を初期値から予め決定された終了値まで増加させるステップを含んでいる。
【0027】
このようにして、さらに滑らかな車両発進が得られる。
【0028】
本明細書には、制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、推進システム、及び上述した利点に関連付けられた車両も開示されている。
【0029】
一般的に、特許請求の範囲で使用するすべての用語は、本明細書で明示的に別段の定義がない限り、本技術分野における通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、構成要素、手段、ステップなど」へのすべての言及は、特に明記されていない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップなどの少なくとも1つのインスタンスに言及するものとして公然と解釈されるべきである。本明細書に開示された任意の方法のステップは、明示的に記載されない限り、開示された正確な順序で実行される必要はない。本発明のさらなる特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲、及び以下の説明を検討すれば明確になるであろう。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下で説明する実施形態以外の実施形態を生み出せることを理解するであろう。
【0030】
添付の図面を参照して、以下、例として挙げられる本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】いくつかの例示的な大型車両を概略的に示している。
図1B】いくつかの例示的な大型車両を概略的に示している。
図2A】例示的な電気推進システムを示している。
図2B】例示的な電気推進システムを示している。
図3】例示的な車輪ブレーキ及び電気推進システムを示している。
図4】タイヤ力対スリップ率を示すグラフである。
図5】制御モード対車両速度を示すグラフである。
図6】トルク能力対エンジン回転速度を示すグラフである。
図7】例示的な車両発進シナリオを示している。
図8】方法を示すフローチャートである。
図9】制御ユニットを概略的に示している。
図10】例示的なコンピュータプログラム製品を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ここで、本発明の特定の態様を示す添付の図面を参照して、以下、本発明についてより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態及び態様に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は一例を提示するものであって、この開示が一貫して終了し、本技術分野の当業者に本発明の範囲を詳細に伝える。同様な符号は、説明の全体を通して同様な要素を指す。
【0033】
本発明は、本明細書に記載、及び図面に示されている実施形態に限定されないと理解すべきである。むしろ、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で、多くの変更及び修正をなし得ることを理解するであろう。
【0034】
図1A及び図1Bは、本明細書に開示される大型車両を動作させる方法を有利に適用することができる、貨物輸送のためのいくつかの例示的な車両100を示している。図1Aは、車輪120,140及び160に支持されたトラックを示しており、車輪のいくつかは駆動車輪である。
【0035】
図1Bは、トラクタユニット101がトレーラユニット102を牽引する、セミトレーラ車両を示している。トレーラユニット102の前部は、第5輪連結部103によって支持される一方、トレーラユニット102の後部は、1組のトレーラ車輪180に支持されている。
【0036】
それぞれの車輪、又は車輪の少なくとも大部分は、それぞれの車輪のサービスブレーキ130,150,170に関連付けられている(トレーラユニットの車輪ブレーキは、図1A~1Bには示されていない。)。この車輪のサービスブレーキは、例えば、空気圧作動式のディスクブレーキ又はドラムブレーキとすることができる。車輪のブレーキは、ブレーキコントローラによって制御される。本明細書では、ブレーキコントローラ、ブレーキモジュレータ、及びホイールエンドモジュールという用語は、ほとんど同じ意味で使用される。それらはすべて、車両100などの車両の少なくとも1つの車輪に印加される制動力を制御する装置として解釈すべきである。車輪のブレーキコントローラのそれぞれは、制御ユニット110に通信可能に接続され、制御ユニットがブレーキコントローラと通信し、これによって、車両の制動を制御できるようにする。この制御ユニットは、車両全体に分散されたいくつかのサブユニットを潜在的に備えることができ、又は制御ユニットは単一の物理ユニットであってもよい。制御ユニット110は、例えば、車輪間に制動力を割り当てて車両の安定性を維持するようにしてもよい。
【0037】
車両100の車輪の一部は、電気機械によって駆動される。図2Aは、2つのアクスルが電気機械EM-EMによって駆動される車輪を備えた、例示的な駆動装置を示している。電気機械は、制御ユニット110によって制御され、これは、図3に関連して以下でより詳細に説明する。電気機械EM-EMのそれぞれは、加速力及び減速力(制動力)の両方を生成することができる。例えば、電気機械は、車両減速中に電力を生成する回生ブレーキとして構成されていてもよい。図2Bは、1つ以上の電気機械EMがオープン差動装置などの作動装置を介して駆動車輪に連結される、他の例示的な電気推進システムを示している。電気機械又は複数の電気機械は、制御ユニット110によって制御される。制御ユニット110は、車輪のスリップを監視してスリップを設定された限度内に維持しつつ、電気機械又は複数の電気機械による推進及び制動の両方を制御する。この制御は、通常、それぞれの車輪に個別に適用される。
【0038】
図3は、車輪140,160のうちの1つなどの車輪301の制御システム300を示している。この制御システム300は、例えば、図2Aに示された構成に関連している。車輪は、有効半径R、及び回転速度ω(SAE Vehicle Dynamics Standard Committee January 24, 2008による定義に従う)を有している。制御システム300は、ここではディスクブレーキによって例示される、サービスブレーキアクチュエータ340によって車輪の制動を制御するように配置されたサービスブレーキのホイールエンドモジュール(WEM B)310を備えている。このシステム300はまた、車輪301を駆動するとともに制動力を印加して車輪の回転速度ωを低下させるように配置された、電気機械EM360を備えている。電気機械のホイールエンドモジュール(WEM EM)は、電気機械360を制御するように配置されている。2つのWEMは、単一の物理ユニット302内に含まれるか、又は個別の物理ユニットとして構成されていてもよいことを理解されたい。
【0039】
ここでは車両動作管理(VMM)システムとして示される、車両の制御ユニット110は、2つのホイールエンドモジュール310,350の動作を制御するように配置されている。この制御は、通常、送信されたトルク要求TBi320及びTEMi370、並びに課せられた車輪スリップ制限λBi及びλEMiに基づいている。
【0040】
本開示は、主に、大型車両100を動作させること、即ち、車両を停止状態又は低速状態から発進させることに関連しているが、いくつかの態様は、車両を停止状態から予め決められた距離に再配置することにも関連している。大型車両のトルク制御ループは、通常、10ms程度のオーダーの時定数に関連付けられている。一部のシナリオでは、この時定数によって車両全体の制御帯域幅が減少して、大型車両の発進性に悪影響を及ぼす可能性がある。車両発進中の制御を改良するために、本明細書では、既知の方法のようなトルクではなく、車輪スリップに基づく制御、又はこれと等価の車両速度に関連した、設定された車輪速度目標に基づく制御が提案されている。
【0041】
多くの動作支援装置(MSD)に関連付けられた時定数は、1ms程度のオーダーであり、これは、MSD内又はMSDの近傍に局所的に実装された制御ループが、車両動作管理システムなどの上位層の車両の制御ユニットを含む制御ループよりも大幅に高速になり得ることを意味する。また、オプションとして、本明細書に開示された方法は、限られた期間だけ電気機械によって高いピークトルクを生成するように構成されていてもよい。これによって、例えば、車両発進中の過渡状態や予期せぬ抵抗を克服するために迅速に適合することができるようになる。
【0042】
本開示によれば、電気機械WEM350は、車両を動作させる動作命令に応じて決定された目標車輪スリップ値λtargetに車輪スリップを維持することが要求される。そして、電気機械は、発進動作中に目標車輪スリップ値を得るのに必要な車輪速度を単純に適用する。例えば、目標車輪スリップ値が0.1に設定されていれば、車輪の回転速度は、車両速度より0.1の相対差で、WEMによって連続的に設定される。これによって、車輪は、常に、設定された量だけスリップするようになる。換言すると、車両速度に対する目標車輪速度差が設定されて、次にこれに対して制御される。これは、電気機械が高いトルクを迅速に供給することができるため、即ち、通常、電気機械から要求された任意の車輪スリップを生成することができるため、少なくとも部分的に可能である(しかし、これはタイヤの摩耗をもたらすため、大きすぎるスリップを要求することは得策ではない。)。電気機械のピークトルク能力は通常非常に高いが、図6に関連して以下でより詳細に説明するように、限られた期間だけ得られる。従って、車両発進中に電気機械又は複数の電気機械から高いピークトルクを引き出すことは有利である。
【0043】
発進中に車両を制御する既知の方法は、その代わりにトルク制御に基づいており、電気機械にトルク要求が送信されて、電気機械はその後、何らかのスリップ制限の制約の下でその能力を最大限発揮させようとする。大型車両を発進させる既知の方法と比較して、提案された方法は、制御を電気機械に近づける。
【0044】
縦方向の車輪スリップλは、SAE J670によれば、以下のように定義することができる。ここで、Rは対応する自由に回転するタイヤの有効半径、ωは車輪の角速度、vは(車輪の座標系における)車輪の縦速度である。
【数4】
この差は、通常、max(|Rω|,|v|)に等しい基準速度vrefによって正規化される。vref=max(|Rω|,|v|)であれば、λは-1と1との間を境界とし、相対的な意味で路面に対して車輪がどれ位スリップしているかを定める。
【0045】
しかしながら、基準速度vrefはまた、本技術によれば、異なる方法で選択されてもよい。例えば、vref=1であれば、縦方向の車輪スリップは、車輪(Rω)と車両(v)との速度差と等しい。vrefは、発進後に得られる車両の目標速度として選択することもできる。
【0046】
車両の制御ユニット110は、vに関する情報を(車輪の基準フレーム内に)保持する一方、車輪速度センサなどを使用してωを決定することができる。特に、以下において、車輪スリップ制限が説明される場合、これは制限される車輪スリップの大きさ又は絶対値である。即ち、大きくなった車輪スリップ制限は、より大きな正の許容車輪スリップ、又はより小さな負の許容車輪スリップを指すことができる。本開示は、主に、車両発進中の加速度を考慮、即ち、車両発進中にはv≦Rωとなるので、車両が動作し始めている間、本明細書では車輪スリップが通常正になる。
【0047】
一部の最新の電気機械やサービスブレーキシステムは、きめ細かいスリップ制御が可能である。例えば、一部の最新のブレーキコントローラは、例えば、車輪スリップλを公称値の±0.02以内に保つことができる。きめ細かいスリップ制御は、車輪(Rω)と車両(v)との速度差をきめ細かく制御することと等しい。
【0048】
図4は、車輪スリップの関数として達成可能なタイヤ力を示すグラフである。縦方向に得られるタイヤ力Fxは、小さな車輪スリップでは略直線的に増加する部分410を示し、これに続いて、より大きな車輪スリップではより非直線的な挙動を示している。得られる横方向のタイヤ力Fyは、比較的小さな車輪スリップでも急激に低下する。通常、得られる縦力が予想し易く、かつ必要に応じて横方向のタイヤ力を発生させることができる直線領域410に車両の動作を維持することが望ましい。この領域での動作を確実にするために、例えば、0.1のオーダーの車輪スリップ制限λlimを、サービスブレーキ及び/又は電気機械のWEMに課すことができる。
【0049】
図4に示されるような相関関係400を、道路状態に応じて表にしてもよい。例えば、この相関関係は、道路摩擦係数に応じて予め決定することができ、任意の所与の時点で推定された道路摩擦状態に基づいて正しい相関関係を選択することができる。この相関関係はまた、車両動作中に連続的に推定することができる。この相関関係は、所与の車両タイプ、又は個々の車両に対してすら決定することができる。特定の車両特性は、相関関係400を適合させることによって考慮することができる。
【0050】
ここで、交通状況管理(TSM)機能などの上位層の制御機能によって制御ユニット110から所与の加速度areqが要求され、かつ車両が停止しているか若しくは低速で移動していると仮定する。制御ユニット110は、要求に応じて車両を加速するのに必要な力Fx’を決定することができる。この力Fx’は、車両の多少複雑なモデルに基づいて決定することができるが、少なくとも一部のシナリオに適用することができる単純な相関関係は、Fx’=m×areq+Floadによって与えられる力と車両質量との直線的な依存性である。ここで、Fx’は要求された力、mは車両質量、areqは要求された加速度、Floadは道路抵抗項である。少なくともm及びFloadの近似値が分かっている。目標車輪スリップ値λtargetは、要求されたタイヤ力を対応するスリップ値に一致させることによって、図4に示されるような相関関係400から求めることができる(この例では、要求された加速度に対して約Fx’≒7kNが必要であり、これは約0.05の目標車輪スリップ値に変換される。)。ここで、この目標車輪スリップ値を電気機械360のWEM350に送信することができ、その後、電気機械を制御して所望の目標車輪スリップ値を維持することができる。WEMが車輪スリップを得るために印加する実際のトルクは、上述した既知の方法のようなトルクベースではなく車輪スリップベースであるため、もはや重要ではない。WEMによって設定される車輪速度は、例えば、上述した以下の車輪スリップ式から決定することができる。ここで、ωは車輪速度を表し、λtargetは目標車輪スリップ値を表し、vrefは設定された基準速度、vは所与の車輪の基準系における車両速度、Rは有効車輪半径を表している。
【数5】
【0051】
いくつかの態様によれば、非常な低速度においてvrefは固定の任意の値に設定されてもよく、SAE J670の定義によって、特定の車両速度閾値を超えるように、例えば、vをmax(|Rω|,|v|)に設定することができる。
【0052】
他のいくつかの態様によれば、車両100の駆動装置は、オープン差動駆動装置などの差動駆動装置である。本明細書に開示される技術は、この場合にも適用可能である。そして、VMMは、スリップコントローラの役割を引き受け、本明細書に開示される等式(equations)を使用して、電気機械が維持しようとする車輪速度要求を決定する。これを行うため、図6に関連して以下で説明するように、利用可能なピークトルクレベルを一時的に利用することができる。
【0053】
もちろん、道路摩擦係数が何らかの誤差をもって推定された場合、設定された車輪速度にいくつかの制限を課して、例えば、大きな加速度及び急加速を避けるようにしてもよい。即ち、車輪速度ωを制限して、車両加速度を予め設定された最大加速度値未満に維持してもよい。また、車輪速度ωを制限して、車輪速度を予め設定された最大車輪速度値未満に維持するようにしてもよい。
【0054】
車両100を搬出口(a loading dock)につけるために、又は高精度の操作のために、停止状態又は低速状態から発進するある方向に、車両を所与の距離だけ移動させることが望ましい場合がある。そして、動作命令はまた、車両が移動する距離dreqを含んでいてもよい。この操作は、時間によって車輪速度を積分して、距離dreqを以下のように移動することで達成することができる。
【数6】
積分された車輪速度が要求された距離に近づくと、車両100は制動をすることができ、要求された距離を移動したら最終的に停止することができる。車両を所与の距離だけ移動させることは、本明細書に記載された様々な発進技術と組み合わせることができる。
【0055】
図5は、車両速度対時間のグラフ500を示している。車両100は、時間t=0で最初に停止状態から発進し、車両が再び停止状態になるまで、しばらくの間維持されるある動作速度まで加速される。開示された方法のいくつかの態様によれば、車両が予め決定された速度制限vlim、例えば、1m/s未満の速度510で走行している限り、車両は車輪スリップ(又は、これと同等である、車両速度に対する車輪速度差)に基づいて制御される。この速度を(図5の時間t1で)超えると、車両制御は既知のトルクベースの制御方法520へと移行し、図4に例示された車輪スリップ制限λlimなど、固定の車輪スリップ制限に基づいて車輪スリップ制御が実行される。車両が走行終了の停止状態に近づくと、車両は(時間t2から)車輪スリップに基づいて再び制御される。
【0056】
いくつかの態様によれば、以下の相関関係を参照すると、vrefがある固定値、例えば、vref=1未満に設定される第2の閾値vlowがあり、これは、制御が本質的に車両速度に対する車輪速度差に基づいていることを意味する。
【数7】
【0057】
この閾値を超えると、SAE J670の定義によって、vrefをvref=max(|Rω|,|v|)として適合させることができる。例えば、時間0において、車両は、上述したスリップ方程式の固定の基準速度に基づく車輪速度目標、例えば、vref=1で走行を開始する。そして、速度閾値vlowを超えると、制御戦略が変更されて、vref=max(|Rω|,|v|)である車輪スリップの古典的な定義を使用する。図5に示すものより高い速度制限vlimを超えると、車両の制御戦略がトルクベースの制御に変更される。スリップ制限は、通常、トルクベースの制御領域における動作中に制御ユニットによって課されることに留意されたい。
【0058】
図6は、推進動作(正のトルク)及び制動動作(負のトルク)に対するエンジン回転速度に応じた電気機械の例示的なトルク能力600を示すグラフである。これらのタイプの能力は、例えば、図3に関連して説明した能力メッセージの一部として車両の制御システムに送信することができる。同様の曲線はもちろん、後進(負のエンジン回転速度)のためにも描くことができる。冷却システム、過負荷抵抗器の設計、及び一般的な構成部品の堅牢性など、電気機械及び周囲の車両システムの様々な設計パラメータに応じて、大部分の電気機械は、例えば、エンジン温度が臨界値に達成する前に、より長期間に亘って維持することができる連続的なトルク能力、及び限られた期間のみ生成することができるトルクレベルであるピークトルク能力と関連付けることができる。
【0059】
図6は、例示的な正の最大トルク能力610と、ピーク能力よりも小さいがより長期間維持することができる正の連続的なトルク能力620と、を示している。適度に低いエンジン回転速度、例えば、数千rpm未満の場合、電気機械はより長期間に亘ってトルク値602を供給することができるが、10~30秒などの限られた期間だけかなり高いトルク601を供給することができる。そのようなピークトルク値は、大型車両が停止状態又は低速状態から動作する車両発進中に特に有用である。トルク値610,620の両方は、ある最大エンジン回転速度605までエンジン回転速度の上昇に伴って低下する傾向がある。電気機械は、約10000rpm程度の最大エンジン回転速度605に関連付けることができる。
【0060】
これは、短いながらも強い推進状況及び制動状況について、VMM100が、既知の過負荷レベルまで電気機械を一時的に過負荷にし、限られた期間だけこのレベルの負荷を維持するオプションを有することを意味している。これは、同様に、トランスミッションシステムの設計を簡単にしたり、単一の固定ギヤのトランスミッションへと小型化したりすることも可能であり、これは有用である。
【0061】
負のピークトルク値604と比較してより小さい大きさ603を有する、長期間連続的な負のトルク630を供給する能力を電気機械が持つ場合、同様な状況が負のトルクに関しても見られるが、これは車両発進性にはあまり有用ではない。
【0062】
その結果、停止状態又は低速状態からの車両発進中など、限られた期間だけ電気機械を過負荷にすることができる。制御ユニット110は、車両制御中にこの情報を使用することができる。利用可能なこの高いピークトルクは高い制御帯域幅とともに、既知の方法と比較して車両発進性を向上させる。
【0063】
図7は、本明細書に開示された技術が有利に使用され得る、例示的な車両発進シナリオ700を示している。ここでは、車両100は、加速度720として変化する摩擦状態730,740,750を経験するであろう。道路はまた、滑らかでなく、及び/又は傾斜している可能性がある。道路状態や車両状態の変化に伴う車輪トルクの迅速な制御が必要であるので、トルクベースの発進制御が課題に直面する。例えば、VMMは約10msの更新レートで動作している一方、WEMは約1msの更新レート、即ち、10倍高速な更新レートで動作することができる。これは、WEMが過渡的な影響により速く合わせることができ、これによって、予期せぬ走行状態の変化に反応するのが遅くなるVMMベースの制御と比較して、より良い方法で車両発進中の予期せぬ抵抗を克服できることを意味する。一方、提案技術は、それぞれの駆動車輪の異なるWEMによって維持されるべき適切な目標車輪スリップ値を簡単に決定し、車両速度及び設定された目標車輪スリップ値に応じて適切な車輪速度を設定することによって、電気機械を制御して車輪スリップを要求値に維持するWEMにこれらの目標車輪スリップ値を送信する。このようにして、実際の電気機械により近い制御スタックに制御が移行され、車両全体の発進性が向上する。
【0064】
図8は、上記の説明を要約したフローチャートである。大型車両100を動作させる方法が示されている。この方法は、車両100を動作させる動作命令を取得するステップS1を含んでいる。
【0065】
動作命令S11は、車両100によって要求された加速度areqと、車両によって達成され得る目標速度と、を含んでいてもよい。場合によっては、移動距離はまた、動作命令に含まれている。動作命令S13が停止状態から停止状態まで車両100が移動する距離dreqを含む場合、この方法は、オプションとして、以下のように、この距離dreqに到達するまで時間によって車輪速度を積分するステップS4を含んでいる。
【数8】
【0066】
この方法は、動作命令を実行するのに適した車輪スリップに応じた目標車輪スリップ値λtargetを決定するステップS2を含んでいる。
【0067】
目標車輪スリップ値λtargetを、例えば、要求された加速度に到達するのに必要な縦力Fx’に応じて決定するステップS21を含んでいてもよい。
【0068】
この方法はまた、車輪速度ωを制御して車両100の車輪スリップを目標車輪スリップ値λtargetに維持するステップS3を含んでいる。従って、それぞれの駆動車輪に対するWEMは、大型車両を発進させる既知の方法において一般的であるような所与のトルクを供給することが必要でない。その代わりに、制御が車輪スリップに基づいており、これは、車両が速度を上げるにつれて、維持すべき車輪スリップ値(又は、これと等価である、車両速度に対する車輪速度差)がWEMに送信されることを意味する。その後、車輪速度を制御するためにWEMへと移行し、これによって、車輪スリップを目標車輪スリップ値に維持する。例えば、動作命令に応答する目標車輪スリップが0.05であると仮定する。すると、WEMは、上述した相対的な意味で、ωRが車両速度vより0.05だけ大きい車輪速度ωを適用する。車両が速度を上げるにつれて車輪速度ωも上昇し、これによって、滑らかな車両発進を行う。制御がWEMに対して局所的であるため、トルク制御は迅速である。
【0069】
いくつかの態様によれば、この方法は、以下の相関関係に基づいて、車輪速度ωを制御して車両100のそれぞれの車輪の車輪スリップを目標車輪スリップ値に維持するステップS31を含んでいる。ここで、ωは車輪速度を表し、λtargetは目標車輪スリップ値を表し、vrefは基準速度、vは車輪の基準系における車両速度、Rは車輪半径を表している。
【数9】
【0070】
この相関関係は、以下のように、上述した車輪スリップのSAE J670の定義に基づいている。
【数10】
【0071】
発進する車輪回転速度ωは、v=0のとき、λtarget×vref/R、即ち、基準速度の分数によって与えられる。そして、この車輪回転速度は、vをv/Rとして直線的に増加する。車輪スリップに基づく車輪速度制御が多くの異なる式に基づいて実行できることを理解されたい。ここで、この主な原理は、発進中に車輪回転速度ωがWEMによってリアルタイムに変化し、これによって、維持されるべき目標車輪スリップに応じた量だけ、Rωが車両速度vより常に大きくなることである。トルク制御はWEMに対して局所的であり、車両速度に応じて車輪回転速度を維持することのみが必要となる。これによって、非常に高速で正確な制御ループが可能になる。
【0072】
いくつかの態様によれば、この方法は、縦力Fyと縦方向の車輪スリップ率との予め決定された相関関係400に基づいて、要求された加速度に到達するのに必要な縦力Fx’から目標車輪スリップ値λtargetを決定するステップS212を含んでいる。
【0073】
いくつかのそのような態様によれば、この方法は、Fx’=m×areqという相関関係に基づいて、要求された加速度に到達するのに必要な縦力Fx’を決定するステップS211を含んでいる。ここで、mは車両100の質量、areqは車両100によって要求された加速度である。オプションとして、道路抵抗項Floadをモデルに追加することができる。つまり、Fx’=m×areq+Floadとなる。追加の車両ダイナミクスを組み込んだより高度なモデルは、もちろん、結果を向上させることができる。
【0074】
この方法は、縦力Fyと縦方向の車輪スリップ率との予め決定された相関関係400を、推定された道路状態に応じて予め設定してもよい(ステップS231)。従って、制御ユニット110は、道路摩擦や道路抵抗などの道路状態を推定し、車両の発進制御で使用する縦力Fyと縦方向の車輪スリップ率との適切な相関関係を選択してもよい。
【0075】
上述したように、動作命令S12はまた、車両100によって要求された終速度vreqを含んでいてもよい。そして、目標車輪スリップ値λtargetは、予め設定された車輪スリップ値S22である。車輪速度制御は、例えば、以下の相関関係に基づいていてもよい。ここで、λtargetは例えば0.05に予め設定され、vrefはvreqに設定されている。その代わりに、λtargetは、一定期間に亘って制御された方法で、例えば、0から0.05までスイープすることができる。これは、モータ速度が制御された方法でゆっくりと上昇することを意味する。
【数11】
【0076】
道路摩擦状態が好ましい場合において大きすぎる加速又は急加速を回避するために、この方法はまた、車輪速度ωを制御して車両加速度を予め設定された最大加速度値未満に維持するステップS32を含んでいてもよい。
【0077】
いくつかの他の態様によれば、この方法は、車輪速度ωを制御して車輪速度を予め設定された最大車輪速度値未満に維持するステップS33を含んでいる。このタイプのチェックは、大型車両を動作させるときに合理的であると思われる速度に車輪速度を制限する。
【0078】
車輪スリップベースの制御は、車両が動作するときに適している。しかしながら、車両が速度を上げると、通常のトルクベースの制御に戻すことが望ましい可能性がある。制御アプローチにおけるこの切り替えは、閾値速度vlimに基づくことができる。即ち、いくつかの態様によれば、この方法は、車両速度vが設定された閾値速度vlimを超えていれば、固定の車輪スリップ制限を持つトルク要求に基づいて車両速度vを制御するステップS34を含んでいる。
【0079】
電気推進システムが差動装置(a differential)に基づいている場合、図2Bに例示するように、サービスブレーキを使用して、車両の一側方の車輪スリップを制限し、車両の他側方に動力を伝達することができる。このようにして、発進中に車輪スリップを車両の両側で均等にすることができる。
【0080】
図9は、多くの機能ユニットの観点から、本明細書で説明された実施形態による制御ユニット110の構成要素を概略的に示している。この制御ユニット110は、車両100において、例えば、VMMユニットの形態で備えることができる。処理回路910は、例えば、記憶媒体930の形態をとる、コンピュータプログラム製品に格納されたソフトウェア命令を実行可能な、適切な中央処理装置CPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSPなどの1つ以上の任意の組み合わせを使用して提供される。処理回路910はさらに、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、又はフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして提供することができる。
【0081】
特に、処理回路910は、図10に関連して説明される方法などの1組の動作又はステップを制御ユニット110に実行させるように構成されている。例えば、記憶媒体930は、1組の動作を記憶してもよく、処理回路910は、記憶媒体930から1組の動作を検索して制御ユニット110に1組の動作を実行させるように構成されていてもよい。1組の動作は、1組の実行可能な命令として提供することができる。従って、処理回路910は、これによって、本明細書に開示されるような方法を実行するように配置されている。
【0082】
記憶媒体930はまた、例えば、磁気メモリ、光学メモリ、固体メモリ、又は遠隔地に設けられたメモリの1つ、又は組み合わせとすることができる、永続的な記憶装置を含んでいてもよい。
【0083】
制御ユニット110は、少なくとも1つの外部装置と通信するためのインターフェース920を更に含んでいてもよい。そのように、インターフェース920は、アナログ及びデジタルの構成要素、並びに有線通信又は無線通信のための適切な数のポートを含む、1つ以上の送信機及び受信機を含んでいてもよい。
【0084】
処理回路910は、例えば、インターフェース920及び記憶媒体930にデータ及び制御信号を送信することによって、インターフェース920からデータ及び報告を受信することによって、及び記憶媒体930からデータ及び命令を検索することによって、制御ユニット110の一般的な動作を制御する。制御ノードの他の構成要素、並びに関連する機能は、本明細書で提示される概念を不明瞭にしないように省略するものとする。
【0085】
図10は、プログラム製品がコンピュータで実行されるとき、図8に示す方法を実行するためのプログラムコード手段1020を含む、コンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体1010を示している。コンピュータ可読媒体及びコード手段は、コンピュータプログラム製品1000を共に形成することができる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10