(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】油圧作動機械の油圧制御装置、油圧作動機械の油圧制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F15B 7/10 20060101AFI20231227BHJP
F15B 21/044 20190101ALI20231227BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F15B7/10 Z
F15B21/044
F16H61/02
(21)【出願番号】P 2022575108
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043380
(87)【国際公開番号】W WO2022153687
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021003952
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 裕二
(72)【発明者】
【氏名】岩堂 圭介
(72)【発明者】
【氏名】床井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正典
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-185378(JP,A)
【文献】特開2014-40811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 7/10
F15B 21/044
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧作動機械に油を供給するメインオイルポンプと、前記メインオイルポンプから前記油圧作動機械への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するサブオイルポンプと、前記サブオイルポンプを駆動させる駆動部と、を備える油圧作動機械の油圧制御装置であって、
前記サブオイルポンプが駆動された時点から経過した経過時間が所定時間となった場合に、前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して前記駆動部に出力し、
前記駆動部は、出力された前記空気排出指令に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出し、
前記経過時間が前記所定時間となる前に、前記駆動部は、前記駆動要求に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて一時的に前記油圧作動機械に油を供給する、
油圧作動機械の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧作動機械の油圧制御装置であって、
前記油圧作動機械は、油圧作動される変速機である、
油圧作動機械の油圧制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧作動機械の油圧制御装置であって、
前記メインオイルポンプは、エンジンにより駆動され、
前記サブオイルポンプは、前記駆動部を構成する電動モータにより駆動される、
油圧作動機械の油圧制御装置。
【請求項4】
油圧作動機械に油を供給するメインオイルポンプと、前記メインオイルポンプから前記油圧作動機械への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するサブオイルポンプと、前記サブオイルポンプを駆動させる駆動部と、を備える油圧作動機械の油圧制御方法であって、
前記サブオイルポンプが駆動された時点から経過した経過時間をカウントする経過時間カウントステップと、
カウントした経過時間が所定時間となった場合に、前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して前記駆動部に出力する指令生成出力ステップと、
前記駆動部が出力された前記空気排出指令に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出する空気排出ステップと、
前記経過時間が前記所定時間となる前に、前記駆動要求に基づいて、前記駆動部に前記サブオイルポンプを駆動させて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するステップと、を含む、
油圧作動機械の油圧制御方法。
【請求項5】
油圧作動機械に油を供給するメインオイルポンプと、前記メインオイルポンプから前記油圧作動機械への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するサブオイルポンプと、前記サブオイルポンプを駆動させる駆動部と、を備える油圧作動機械を制御するコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記サブオイルポンプが駆動された時点から経過した経過時間をカウントする経過時間カウント手順と、
カウントした経過時間が所定時間となった場合に、前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して前記駆動部に出力する指令生成出力手順と、
前記駆動部が出力された前記空気排出指令に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出する空気排出手順と、
前記経過時間が前記所定時間となる前に、前記駆動要求に基づいて、前記駆動部に前記サブオイルポンプを駆動させて一時的に前記油圧作動機械に油を供給する手順と、を前記コンピュータに実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧作動機械の油圧制御装置、油圧作動機械の油圧制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、イグニッションスイッチがONからOFFへ変更されると、サブオイルポンプとしての電動オイルポンプを駆動させて電動オイルポンプに蓄積した空気を油と共に排出する変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の変速機を用いると、イグニッションスイッチがONからOFFへ変更される時点に電動オイルポンプを駆動させて電動オイルポンプに蓄積した空気をオイルと共に排出するものの、電動オイルポンプを使用しない車両の走行中に電動オイルポンプに蓄積した空気を排出することができない。よって、電動オイルポンプを使用する際に電動オイルポンプの応答性を確保することができないおそれがある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、使用時のサブオイルポンプの応答性が確保される油圧作動機械の油圧制御装置、油圧作動機械の油圧制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、油圧作動機械に油を供給するメインオイルポンプと、前記メインオイルポンプから前記油圧作動機械への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するサブオイルポンプと、前記サブオイルポンプを駆動させる駆動部と、を備える油圧作動機械の油圧制御装置であって、前記サブオイルポンプが駆動された時点から経過した経過時間が所定時間となった場合に、前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して前記駆動部に出力し、前記駆動部は、出力された前記空気排出指令に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出する油圧作動機械の油圧制御装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、油圧作動機械に油を供給するメインオイルポンプと、前記メインオイルポンプから前記油圧作動機械への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するサブオイルポンプと、前記サブオイルポンプを駆動させる駆動部と、を備える油圧作動機械の油圧制御方法であって、前記サブオイルポンプが駆動された時点から経過した経過時間をカウントする経過時間カウントステップと、カウントした経過時間が所定時間となった場合に、前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して前記駆動部に出力する指令生成出力ステップと、前記駆動部が出力された前記空気排出指令に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出する空気排出ステップと、を含む油圧作動機械の油圧制御方法が提供される。
【0008】
本発明のその他の態様によれば、油圧作動機械に油を供給するメインオイルポンプと、前記メインオイルポンプから前記油圧作動機械への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に前記油圧作動機械に油を供給するサブオイルポンプと、前記サブオイルポンプを駆動させる駆動部と、を備える油圧作動機械を制御するコンピュータが実行可能なプログラムであって、前記サブオイルポンプが駆動された時点から経過した経過時間をカウントする経過時間カウント手順と、カウントした経過時間が所定時間となった場合に、前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して前記駆動部に出力する指令生成出力手順と、前記駆動部が出力された前記空気排出指令に基づいて、前記サブオイルポンプを駆動させて前記サブオイルポンプに蓄積した空気を排出する空気排出手順と、を前記コンピュータに実行させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、使用時のサブオイルポンプの応答性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図3は、変速機コントローラ及び変速機コントローラに接続される主要構成を示す構成ブロック図である。
【
図4】
図4は、電動オイルポンプの空気排出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態(以下、本実施形態という)について説明する。
【0012】
(変速機の構成)
まず、
図1を参照しながら本実施形態に係る変速機TMについて説明する。
【0013】
【0014】
図1に示すように、車両はエンジンENGとトルクコンバータTCと前後進切替機構SWMとバリエータVAとを備える。車両では油圧作動機械としての変速機TMがトルクコンバータTCと前後進切替機構SWMとバリエータVAとを有するベルト無段変速機とされる。
【0015】
エンジンENGは車両の駆動源を構成する。エンジンENGの動力はトルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、バリエータVAを介して駆動輪DWへと伝達される。換言すれば、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、バリエータVAは、エンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。
【0016】
トルクコンバータTCは、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータTCでは、ロックアップクラッチLUを締結することで、動力伝達効率が高められる。
【0017】
前後進切替機構SWMは、エンジンENGとバリエータVAとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。前後進切替機構SWMは、入力される回転の回転方向を切り替えることで車両の前後進を切り替える。前後進切替機構SWMは、前進レンジ選択の際に係合される前進クラッチFWD/Cと、リバースレンジ選択の際に係合される後進ブレーキREV/Bとを備える。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを解放すると、変速機TMがニュートラル状態、つまり動力遮断状態になる。
【0018】
バリエータVAは、プライマリプーリPRIと、セカンダリプーリSECと、プライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECに巻き掛けられたベルトBLTとを有するベルト無段変速機構を構成する。プライマリプーリPRIにはプライマリプーリPRIの油圧であるプライマリプーリ圧Ppriが、セカンダリプーリSECにはセカンダリプーリSECの油圧であるセカンダリプーリ圧Psecが、後述する油圧制御回路1からそれぞれ供給される。
【0019】
変速機TMは、メインオイルポンプとしてのメカニカルオイルポンプMPと、サブオイルポンプとしての電動オイルポンプEPと、駆動部としての電動モータMと、をさらに有して構成される。
【0020】
メカニカルオイルポンプMPは油圧制御回路1に油を圧送(供給)する。メカニカルオイルポンプMPと油圧制御回路1とを連通する流路には、逆止弁25が設けられる。メカニカルオイルポンプMPは、エンジンENGの動力により駆動される。
【0021】
電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPとともに、或いは単独で油圧制御回路1に油を圧送(供給)する。電動オイルポンプEPと油圧制御回路1とを連通する流路には、逆止弁26が設けられる。電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPに対して補助的に設けられる。すなわち、電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPから変速機TMへの油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に変速機TMに油を供給する。電動モータMは電動オイルポンプEPを駆動する。電動オイルポンプEPは電動モータMを有して構成されると把握されてもよい。
【0022】
変速機TMは、油圧制御回路1と変速機コントローラ2とをさらに有して構成される。油圧制御回路1は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成され、メカニカルオイルポンプMPや電動オイルポンプEPから供給される油を調圧して変速機TMの各部位に供給する。
【0023】
油圧制御装置としての変速機コントローラ2は変速機TMを制御するためのコントローラであり、イグニッションスイッチ27及び各種センサ28(具体的には、アクセル開度センサ、回転速度センサ、車速センサ及び油圧センサを含む。)等から出力される信号に基づき油圧制御回路1や電動オイルポンプEPを駆動する電動モータMを制御する。本実施形態では、変速機コントローラ2は、コンピュータとしてのCPUにより構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、複数のマイクロコンピュータにより構成されてもよい。なお、変速機コントローラ2の詳細については後述する。
【0024】
油圧制御回路1は、変速機コントローラ2からの指令に基づき、ロックアップクラッチLU、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、プライマリプーリPRI、セカンダリプーリSEC等の油圧制御を行う。
【0025】
(油圧制御回路の構成)
次に、
図2を参照しながら油圧制御回路1について説明する。
【0026】
【0027】
図2に示すように、油圧制御回路1はプレッシャレギュレータバルブ11と、プライマリレギュレータバルブ12と、セカンダリレギュレータバルブ13と、クラッチレギュレータバルブ14と、トルコンレギュレータバルブ15と、ロックアップレギュレータバルブ16と、第1パイロットバルブ17と、ライン圧ソレノイドバルブ18と、プライマリソレノイドバルブ19と、セカンダリソレノイドバルブ20と、クラッチ圧ソレノイドバルブ21と、第2パイロットバルブ22と、ロックアップソレノイドバルブ23と、第3パイロットバルブ24とを有する。
【0028】
プレッシャレギュレータバルブ11は、メカニカルオイルポンプMP及び電動オイルポンプEPのうち少なくともいずれかのオイルポンプの吐出油をライン圧PLに調圧する。ライン圧PLを指し示す破線は油路ではなく油圧を指し示すことを意味する。プレッシャレギュレータバルブ11は、オイルポンプ吐出油の一部をドレンしながら調圧を行う。ライン圧PLに調圧された油はプライマリレギュレータバルブ12とセカンダリレギュレータバルブ13と第1パイロットバルブ17とに供給される。
【0029】
プライマリレギュレータバルブ12とセカンダリレギュレータバルブ13とはプーリ圧制御弁であり、ライン圧PLに調圧された油をプーリ圧に調圧することによりプーリ圧を制御する。プーリ圧は、プライマリレギュレータバルブ12の場合はプライマリプーリ圧Ppriとされ、セカンダリレギュレータバルブ13の場合はセカンダリプーリ圧Psecとされる。
【0030】
クラッチレギュレータバルブ14にはプレッシャレギュレータバルブ11からドレンされた油が供給される。クラッチレギュレータバルブ14はプレッシャレギュレータバルブ11からドレンされた油をクラッチ圧に調圧する。クラッチ圧に調圧された油は前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bのいずれかに選択的に供給される。クラッチレギュレータバルブ14は油の一部をドレンしながら調圧を行う。
【0031】
トルコンレギュレータバルブ15にはクラッチレギュレータバルブ14からドレンされた油が供給される。トルコンレギュレータバルブ15はプレッシャレギュレータバルブ11からドレンされた油をトルクコンバータTCのコンバータ圧に調圧する。トルコンレギュレータバルブ15は油の一部をドレンしながら調圧を行い、ドレンされた油は変速機TMの潤滑系に供給される。コンバータ圧に調圧された油はトルクコンバータTCとロックアップレギュレータバルブ16とに供給される。
【0032】
ロックアップレギュレータバルブ16はコンバータ圧に調圧された油をロックアップ圧に調圧する。ロックアップクラッチLUはコンバータ圧とロックアップ圧との差圧であるロックアップ差圧によりロックアップ制御される。ロックアップ圧に調圧された油はロックアップクラッチLUに供給される。
【0033】
プレッシャレギュレータバルブ11はライン圧ソレノイドバルブ18が生成する信号圧に基づき調圧を行う。プライマリレギュレータバルブ12及びプライマリソレノイドバルブ19、セカンダリレギュレータバルブ13及びセカンダリソレノイドバルブ20、クラッチレギュレータバルブ14及びクラッチ圧ソレノイドバルブ21、ロックアップレギュレータバルブ16及びロックアップソレノイドバルブ23についても同様である。
【0034】
ライン圧ソレノイドバルブ18、プライマリソレノイドバルブ19、セカンダリソレノイドバルブ20、クラッチ圧ソレノイドバルブ21それぞれには、第1のパイロット圧P1が元圧として導入される。第1のパイロット圧P1は第1パイロットバルブ17によりライン圧PLを元圧として生成される。第1のパイロット圧P1は第2パイロットバルブ22にも導入される。
【0035】
第2パイロットバルブ22は、第1のパイロット圧P1を元圧として第2のパイロット圧P2を生成する。第2のパイロット圧P2はライン圧PLの設定範囲下限以上に設定される。第2のパイロット圧P2はロックアップクラッチLUの制御性を考慮して予め設定される。第2のパイロット圧P2はロックアップソレノイドバルブ23と第3パイロットバルブ24とに導入される。
【0036】
ロックアップソレノイドバルブ23は、第2のパイロット圧P2を元圧としてロックアップ信号圧を生成する。ロックアップ信号圧はトルクコンバータTCのロックアップクラッチLUのロックアップ圧を制御するためにロックアップソレノイドバルブ23が生成する信号圧である。
【0037】
第3パイロットバルブ24は、第2のパイロット圧P2を元圧として第3のパイロット圧P3を生成する。第3のパイロット圧P3はライン圧PLの設定範囲下限より低く設定される。第3のパイロット圧P3はプライマリレギュレータバルブ12及びセカンダリレギュレータバルブ13のダンピング性を考慮して予め設定される。第3のパイロット圧P3はプライマリレギュレータバルブ12とセカンダリレギュレータバルブ13とにダンピング圧として導入される。
【0038】
ダンピング圧として導入される第3のパイロット圧P3は、プライマリ信号圧と対向するようにプライマリレギュレータバルブ12に導入される。プライマリ信号圧はプライマリプーリ圧Ppriを制御するためにプライマリソレノイドバルブ19が生成する信号圧である。
【0039】
同様に、ダンピング圧として導入される第3のパイロット圧P3は、セカンダリ信号圧と対向するようにセカンダリレギュレータバルブ13に導入される。セカンダリ信号圧はセカンダリプーリ圧Psecを制御するためにセカンダリソレノイドバルブ20が生成する信号圧である。
【0040】
(変速機コントローラの構成)
次に、
図3を参照しながら変速機コントローラ2について説明する。
【0041】
図3は変速機コントローラ2及び変速機コントローラ2に接続される主要構成を示す構成ブロック図である。
【0042】
図3に示すように、変速機コントローラ2は、互いに電気的に接続される入力インタフェース29、出力インタフェース30、記憶装置31、油圧制御回路制御装置32(以下、単に回路制御装置32という)及び電動モータ制御装置33(以下、単にモータ制御装置33という)を備える。
【0043】
入力インタフェース29には、車両の始動及び停止を切り替えるイグニッションスイッチ27からの出力信号と、車両走行中の各種パラメータを検出する各種センサ28からの出力信号が入力される。
【0044】
回路制御装置32の処理により生成された回路制御指令及びモータ制御装置33の処理により生成されたモータ制御指令は、出力インタフェース30を介してそれぞれ油圧制御回路1及び電動モータMに出力される。
【0045】
記憶装置31は、イグニッションスイッチ27からの出力信号に含まれる車両始動停止情報及び各種センサ28からの出力信号に含まれる各種パラメータを一時的に記憶するためのメモリである。また、記憶装置31は、回路制御装置32及びモータ制御装置33において実行される処理プログラム及びアルゴリズムプログラムを記憶している。本実施形態では、記憶装置31は、変速機コントローラ2に内蔵されているが、これに限定されるものではなく、例えば、変速機コントローラ2とは別体に設けられてもよい。
【0046】
さらに、記憶装置31は、あらかじめ設定された所定時間を記憶している。所定時間は、後述する電動オイルポンプEPの空気排出処理に用いられ、その詳細について後述する。
【0047】
回路制御装置32は、各種センサ28等から出力される出力信号に基づいて回路制御指令を生成し、生成した回路制御指令を出力インタフェース30を介して油圧制御回路1に出力する。
【0048】
モータ制御装置33は、イグニッションスイッチ27及び各種センサ28等から出力される出力信号に基づいてモータ制御指令を生成し、生成したモータ制御指令を出力インタフェース30を介して電動モータMに出力する。
【0049】
また、モータ制御装置33は、空気排出指令生成部としての空気排出指令生成モジュール331、タイマー332、油供給指令生成部としての油供給指令生成モジュール333及び判定部としての判定モジュール334を有する。なお、空気排出指令生成モジュール331、タイマー332、油供給指令生成モジュール333及び判定モジュール334の詳細については、電動オイルポンプEPの空気排出処理において後述する。
【0050】
(電動オイルポンプの空気排出処理)
次に、
図4を参照しながら電動オイルポンプEPの空気排出処理(変速機TMの制御処理)について説明する。
【0051】
図4は電動オイルポンプEPの空気排出処理を示すフローチャートである。
【0052】
車両のイグニッションスイッチ27がユーザによりOFFからONに変更されると、電動オイルポンプEPの空気排出処理が開始される。
【0053】
図4に示すように、まず、ステップS1において、イグニッションスイッチ27から出力される出力信号(具体的には、イグニッションスイッチ27がOFFからONに変更された出力信号、以下、単にON出力信号という)が変速機コントローラ2の入力インタフェース29に入力される。そして、入力インタフェース29は、入力したON出力信号をモータ制御装置33(具体的には、空気排出指令生成モジュール331)に出力し、ステップS2に進む。
【0054】
次に、ステップS2において、電動モータMは、イグニッションスイッチ27がOFFからONに変更されたことを受け、電動オイルポンプEPを駆動させて電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに排出する。
【0055】
具体的には、ステップS2において、モータ制御装置33(具体的には、空気排出指令生成モジュール331)は、入力インタフェース29から出力されたON出力信号に基づいて、空気排出指令を生成する。そして、空気排出指令生成モジュール331は、生成した空気排出指令を出力インタフェース30を介して電動モータMに出力するとともに空気排出指令をタイマー332に出力する。そして、電動モータMは、空気排出指令生成モジュール331から出力された空気排出指令に基づいて、電動オイルポンプEPを駆動させて電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに排出し、ステップS3に進む。
【0056】
これにより、車両の停止中に電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに排出することができるため、使用時の電動オイルポンプEPの応答性を確保することができる。
【0057】
次に、ステップS3において、モータ制御装置33のタイマー332は、空気排出指令生成モジュール331から出力された空気排出指令に基づいて、経過時間のカウントを開始し、ステップS4に進む。ここでは、「経過時間」とは、電動オイルポンプEPが電動モータMにより駆動された時点から経過した経過時間である。
【0058】
次に、ステップS4において、モータ制御装置33の判定モジュール334は、モータ制御装置33の油供給指令生成モジュール333が車両からの駆動要求の有無に基づいて油供給指令を生成したか否かを判定する。
【0059】
そして、判定モジュール334が油供給指令を車両からの駆動要求に応じて生成したと判定した場合(Yesの場合)は、ステップS3に戻る。すなわち、タイマー332は、判定モジュール334から出力された油供給指令に基づいてリセットしたうえ、経過時間のカウントを再び開始し、ステップS4に進む。
【0060】
電動モータMは、油供給指令生成モジュール333から出力インタフェース30を介して出力された油供給指令に基づいて、電動オイルポンプEPを駆動させて電動オイルポンプEPの油を空気とともに油圧制御回路1に供給する。これにより、車両の走行中に電動オイルポンプに蓄積した空気を、空気排出処理を行うことなく、排出することができるため、経過時間のカウントを継続する必要がない。よって、タイマー332は、判定モジュール334から出力された油供給指令に基づいてリセットする。
【0061】
一方、判定モジュール334が油供給指令を生成していないと判定した場合(Noの場合)は、ステップS5に進む。
【0062】
次に、ステップS5において、判定モジュール334は、経過時間が所定時間となったか否かを判定する。判定モジュール334は、経過時間が所定時間となったと判定された場合(Yesの場合)に、経過時間が所定時間となったことを示す時間超過信号を空気排出指令生成モジュール331に出力し、ステップS6に進む。一方、経過時間が所定時間となっていないと判定された場合(Noの場合)に、ステップS4に戻る。
【0063】
次に、ステップS6において、電動モータMは、電動オイルポンプEPを駆動させて電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに排出する。
【0064】
具体的には、油供給指令生成モジュール333による油供給指令生成の有無にも関わらず、空気排出指令生成モジュール331は、判定モジュール334から出力された時間超過信号に基づいて、空気排出指令を生成する。そして、空気排出指令生成モジュール331は、生成した空気排出指令を出力インタフェース30を介して電動モータMに出力するとともに、空気排出指令をタイマー332に出力する。
【0065】
そして、電動モータMは、空気排出指令生成モジュール331から出力された空気排出指令に基づいて、電動オイルポンプEPを駆動させて電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに排出し、ステップS3に戻る。
【0066】
これにより、電動オイルポンプEPを使用しない車両の走行中に電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに適宜排出することができるため、使用時の電動オイルポンプEPの応答性を確保することができる。この結果、電動オイルポンプEPを備える変速機TMの性能を向上させることができる。
【0067】
一方、タイマー332は、空気排出指令生成モジュール331から出力された空気排出指令に基づいてリセットしたうえ、経過時間のカウントを再び開始し、ステップS4に進む。
【0068】
所定時間は、車両の走行中に使用時の電動オイルポンプEPの応答性を悪化させる空気量に蓄積した空気蓄積時間よりも小さく設定される。これにより、使用時の電動オイルポンプEPの応答性が悪化する前に電動オイルポンプEPを電動モータMにより駆動させて空気を排出することができるため、使用時の電動オイルポンプEPの応答性を確保することができる。
【0069】
具体的には、所定時間は、車両の走行中に電動オイルポンプEPに蓄積した空気量に基づいて設定される。これにより、電動オイルポンプEPの使用頻度を低減させることができるため、電動オイルポンプEPの耐久性を保証することができる。
【0070】
なお、車両の走行中に電動オイルポンプEPに蓄積した空気量をモニタすることは困難であるため、車両の走行中の当該空気量を推定する必要がある。そこで、発明者は、車両の走行中に電動オイルポンプEPに空気が蓄積する原因(具体的には、第1原因及び第2原因)を発見した。第1原因は、電動オイルポンプEPがONからOFFへ変更される時点に、空気が電動オイルポンプEPに閉じ込められることにある。第2原因は、電動オイルポンプEPがOFFに維持される間に、空気が油と共に逆止弁26(
図1及び
図2参照)から電動オイルポンプEPに流入されることにある。
【0071】
電動オイルポンプEPがONからOFFへ変更される時点に電動オイルポンプEPに閉じ込められた第1空気量は、車速及び油温等を含む関連パラメータに基づいて推定される。一方、電動オイルポンプEPがOFFに維持される間に油と共に逆止弁26から電動オイルポンプEPに流入される第2空気量は、逆止弁26のリーク量に基づいて推定される。そして、第1空気量と第2空気量とを足し合わせた推定空気量は、所定時間の設定に用いられる。
【0072】
一方、空気蓄積時間は、電動オイルポンプEPの空気耐力限界、電動オイルポンプEPの容積、空気含有率、逆止弁26のリーク量、ライン圧PL、油温、車速及びエンジン回転数等から算出される。
【0073】
(作用効果)
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0074】
(1)本実施形態に係る変速機TM(油圧作動機械)の変速機コントローラ2(油圧制御装置)は、変速機TM(油圧作動機械)に油を供給するメカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)と、メカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)から変速機TM(油圧作動機械)への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に変速機TM(油圧作動機械)に油を供給する電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)と、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)を駆動させる電動モータM(駆動部)と、を備える変速機TM(油圧作動機械)の変速機コントローラ2(油圧制御装置)であって、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)が駆動された時点から経過した経過時間が所定時間となった場合に、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)に蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して電動モータM(駆動部)に出力し、電動モータM(駆動部)は、出力された空気排出指令に基づいて、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)を駆動させて電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)に蓄積した空気を排出する。
【0075】
(4)本実施形態に係る変速機TM(油圧作動機械)の油圧制御方法は、変速機TM(油圧作動機械)に油を供給するメカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)と、メカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)から変速機TM(油圧作動機械)への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に変速機TM(油圧作動機械)に油を供給する電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)と、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)を駆動させる電動モータM(駆動部)と、を備える変速機TM(油圧作動機械)の油圧制御方法であって、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)が駆動された時点から経過した経過時間をカウントする経過時間カウントステップと、カウントした経過時間が所定時間となった場合に、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)に蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して電動モータM(駆動部)に出力する指令生成出力ステップと、電動モータM(駆動部)が出力された空気排出指令に基づいて、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)を駆動させて電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)に蓄積した空気を排出する空気排出ステップと、を含む。
【0076】
本実施形態に係るプログラムは、変速機TM(油圧作動機械)に油を供給するメカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)と、メカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)から変速機TM(油圧作動機械)への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に変速機TM(油圧作動機械)に油を供給する電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)と、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)を駆動させる電動モータM(駆動部)と、を備える変速機TM(油圧作動機械)を制御するCPU(コンピュータ)が実行可能なプログラムであって、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)が駆動された時点から経過した経過時間をカウントする経過時間カウント手順と、カウントした経過時間が所定時間となった場合に、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)に蓄積した空気を排出するための空気排出指令を生成して電動モータM(駆動部)に出力する指令生成出力手順と、電動モータM(駆動部)が出力された空気排出指令に基づいて、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)を駆動させて電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)に蓄積した空気を排出する空気排出手順と、をCPU(コンピュータ)に実行させる。
【0077】
これらの構成によれば、電動オイルポンプEPに蓄積した空気を油とともに適宜排出することができるため、使用時の電動オイルポンプEPの応答性を確保することができる。また、電動オイルポンプEPを駆動させる電動モータMを用いて電動オイルポンプEPに蓄積した空気を排出するため、空気を排出するための空気排出機構を別途設けること必要がなく、変速機TM全体の簡素化を図ることができる。
【0078】
(2)油圧作動機械は、油圧作動される変速機TMである。
【0079】
この構成によれば、変速機コントローラ2によって制御される変速機TMの性能を向上させることができる。
【0080】
(3)メカニカルオイルポンプMP(メインオイルポンプ)は、エンジンENGにより駆動され、電動オイルポンプEP(サブオイルポンプ)は、駆動部を構成する電動モータMにより駆動される。
【0081】
この構成によれば、メカニカルオイルポンプMPを駆動する駆動部及び電動オイルポンプEPを駆動する駆動部を、それぞれエンジンENG及び電動モータMによって実現することができる。
【0082】
(変形例)
上述した実施形態では、油圧作動機械は、変速機TMから構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、変速機TM以外のものから構成されてもよい。
【0083】
また、上述した実施形態では、メインオイルポンプ及びサブオイルポンプは、それぞれメカニカルオイルポンプMP及び電動オイルポンプEPから構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、二つの電動オイルポンプEPから構成されてもよい。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0085】
1 油圧制御回路
2 変速機コントローラ(油圧制御装置)
27 イグニッションスイッチ
32 回路制御装置
33 モータ制御装置
M 電動モータ(駆動部)
EP メカニカルオイルポンプ(メインオイルポンプ)
LU ロックアップクラッチ
MP 電動オイルポンプ(サブオイルポンプ)
TC トルクコンバータ
TM 変速機(ベルト無段変速機)
ENG エンジン