(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及びその中間体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/23 20060101AFI20231227BHJP
C07C 17/26 20060101ALI20231227BHJP
C07C 19/14 20060101ALI20231227BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20231227BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C07C17/23
C07C17/26
C07C19/14
C07C21/18
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022577538
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 CN2021100290
(87)【国際公開番号】W WO2021254372
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】202010552671.4
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520217629
【氏名又は名称】浙江省化工研究院有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】513016127
【氏名又は名称】中化藍天集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】SINOCHEM LANTIAN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.96, Jiangnan Avenue, Binjiang District, Hangzhou 310051, Zhejiang, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】劉 武燦
(72)【発明者】
【氏名】呉 海鋒
(72)【発明者】
【氏名】謝 浩傑
(72)【発明者】
【氏名】趙 ▲チョォン▼
(72)【発明者】
【氏名】張 建君
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111233619(CN,A)
【文献】国際公開第2019/240248(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106336342(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105399599(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104844411(CN,A)
【文献】英国特許出願公開第774103(GB,A)
【文献】V.Dedek et al.,Addition of 1,2-dibromo-1-chlorotrifluoroethane to chloro tri fluoroethylene induced by UV-radiation. Synthesis of perfluoro-1,3-butadiene and perfluoro-1,3,5-hexatriene,Journal of Fluorine Chemistry,1986年05月31日,Vol.31, No.4,363-379
【文献】Tarrant, Paul et al.,Free radical additions involving fluorine compounds. V. Reactions of 1,2-dibromo-2-chloro- and 1,2-dichloro-2-iodo-1,1,2-trifluoroethane with Fluoroolefins,Journal of the American Chemical Society,1955年07月05日,Vol.77,No.13,3640-3642
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/23
C07C 17/26
C07C 19/14
C07C 21/18
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法であって、
A1.極性非プロトン性溶媒において、開始剤の作用下で、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンとトリフルオロハロエチレンとを反応させ、反応液を精製して1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンを得るステップであって、前記トリフルオロハロエチレンの構造式は、CF
2=CFXであり、ここでXはCl、Br又はIであり、
前記開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であるステップと、
A2.1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンと亜鉛粉末とを脱ハロゲン化反応させてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを得るステップと、を含む、
ことを特徴とするヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンと開始剤とのモル配合比は、1:0.01~1:0.1である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項3】
前記A1ステップは不活性ガス雰囲気中で反応し、不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴンから選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項4】
前記極性非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項3に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項5】
前記A2ステップは触媒の存在下で反応し、前記触媒は、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛又はヨウ素単体から選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項6】
前記1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンと触媒とのモル配合比は、1:0.01~1:0.1である、
ことを特徴とする請求項5に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項7】
前記A2ステップは有機溶媒中で反応し、前記有機溶媒は、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、イソプロパノール、tert-ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン又はヘキサメチルホスファミドから選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項8】
前記A1ステップの反応温度は60℃~200℃であり、1~12時間保温反応させ、前記A2ステップの反応温度は40℃~150℃であり、1~24時間保温反応させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項9】
前記A1ステップの反応温度は80℃~160℃であり、6~12時間保温反応させ、前記A2ステップの反応温度は60℃~90℃であり、3~6時間保温反応させる、
ことを特徴とする請求項8に記載のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項10】
1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの製造方法であって、
極性非プロトン性溶媒において、開始剤の作用下で、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンとトリフルオロハロエチレンとを不活性ガス雰囲気中で反応させ、反応液を精留精製して1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンを得るステップであって、前記トリフルオロハロエチレンの構造式は、CF
2=CFXであり、ここでXはCl、Br又はIであり、
前記開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であるステップを含む、
1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有電子ガスに関し、特にテロメリゼーション法によるヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及びその中間体の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、英語名称がHexafluoro-1,3-butadieneで、略称がHFBDで、沸点が5.5℃、凝固点が-130℃で、15℃における液体密度が1.44kg/Lである。ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、大気における存在時間(ALT)がわずか1.9日、GWP100値が290である優れた環境性能及び作業性能を有する次世代グリーンドライエッチングガスである。ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは比較的低いフッ素炭素比を有するため、優れたエッチング性能を示し、Cu含有及び低K誘電率の整流回路基板生産用のエッチングに用いられ、主に素子寸法(critical Dimention)の精密エッチング(100nmまでの精度)に用いられ、他のエッチングガスよりも良い選択性及び深さ/幅比を有する。ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、ハイエンドチップを生産するための必須材料の1つとして、次世代ストレージ技術である3D NANDフラッシュメモリのキーエッチングガスである。ハイエンドチップへの需要の高まりに伴って、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの市場はますます拡大していく。
【0003】
従来技術においてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの合成について主に以下の報告がある。
【0004】
1)塩素ガスとヨウ素を原料として採用するプロセス
特許文献1は、塩素ガスとヨウ素を原料としてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを合成する方法を開示しており、当該方法は、1.塩素ガスとヨウ素とを反応させて塩化ヨウ素を合成するステップと、2.トリクロロ塩化ビニルと塩化ヨウ素とを反応させて1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF
2Cl-CFICl)を得るステップと、3.1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロ-2-ヨードエタンを触媒の存在下で分子間カップリング反応させ、1,2,3,4-テトラクロロ-ヘキサフルオロブタン(CF
2Cl-CFCl-CFCl-CF
2Cl)を得るステップと、4.1,2,3,4-テトラクロロ-ヘキサフルオロブタンを分子内脱ハロゲン化してヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを得るステップと、を含む。反応式は、以下の通りである。
【化1】
しかし、当該方法はステップが比較的長く、かつ高価な塩化ヨウ素を用いるため、プロセスの原料コストが比較的高くなる。
【0005】
2)二量化プロセス
特許文献2は、クロロトリフルオロエチレンを原料としてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを合成する方法を開示しており、前記方法は、クロロトリフルオロエチレンを高温で二量化反応させて34%の1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロブタン及び27%の3,4-ジクロロヘキサフルオロ-1-ブテンを獲得し、かつこれら二種類の生成物を高効率精留カラムで分離し、3,4-ジクロロヘキサフルオロ-1-ブテンを直接亜鉛粉末で脱塩素化して目的生成物のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを得るステップを含む。反応式は、以下の通りである。
【化2】
しかし、当該方法は重合反応に高温高圧条件が必要であり、反応選択性がわずか27%である。
【0006】
3)亜鉛試薬のカップリングプロセス
特許文献3は、トリフルオロブロモエチレンを原料として、亜鉛粉末と反応させてトリフルオロビニル亜鉛試薬を合成し、そして三価鉄塩又は二価銅塩の作用下で、自己カップリング反応させてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを得る方法を開示している。反応式は、以下の通りである。
【化3】
しかし、当該方法は、出発原料であるトリフルオロブロモエチレンの由来に問題がある。
【0007】
4)元素フッ素のフッ素化プロセス
特許文献4は、トリクロロエチレン(TCE)とフッ素ガスとを原料としてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを合成する方法を開示しており、当該方法は、1.フッ素二量化反応:AISI 316L反応器において、TCEとヘリウムガスで希釈されたフッ素ガスとを反応させてC4H2F2Cl6を獲得し、TCEの転化率が22.9%であり、選択性が50%であるステップと、2.消去反応:ガラス反応器において、C4H2F2Cl6と20%NaOH溶液とを反応させてテトラクロロジフルオロブタジエン(CFCl=CCl-CCl=CFCl)を獲得し、反応収率が93%であるステップと、3.フッ素化反応:テトラクロロジフルオロブタジエンとヘリウムガスで希釈されたフッ素ガスとを反応させてテトラクロロヘキサフルオロブタン(CF2Cl-CFCl-CFCl-CF2Cl,CFC-316)を獲得し、反応転化率が97.8%であり、選択性が64%であるステップと、4.脱ハロゲン化反応:CFC-316をイソプロパノール溶媒中で亜鉛粉末と反応させてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを獲得し、収率が96%であり、製品純度が99.5%であるステップと、を含む。しかし当該方法は、機器に対する要求が比較的高く、プロセスの安全リスクが大きい。
【0008】
そのため、依然としてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの新規合成プロセスを開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】中国特許出願公開第106336342号明細書
【文献】ロシア国特許第0118462号公報
【文献】中国特許出願公開第105732301号明細書
【文献】国際公開第2009/087067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記技術的問題を解決するために、本発明は、テロメリゼーション法によるヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン及びその中間体の製造方法を提案し、当該方法は、プロセスが簡単であり、反応条件が温和であり、「三廃」(排ガス、廃水、固体廃棄物)の量が少なく、安全で環境に優しく、工業化生産に適する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、以下の技術案によって実現される。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法であって、前記製造方法は、
A1.極性非プロトン性溶媒において、開始剤の作用下で、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンとトリフルオロハロエチレンとを反応させ、反応液を精製して1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン(中間体A)を得るステップであって、前記トリフルオロハロエチレンの構造式は、CF
2=CFXであり、ここでXはCl、Br又はIであり、
【化4】
前記開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)、ジクミルペルオキシド(DCP)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸アンモニウム(APS)から選ばれる少なくとも1種であるステップと、
A2.1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンと亜鉛粉末とを脱ハロゲン化反応させてヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを得るステップと、を含む。
【0012】
本発明において、異なる開始方式(例えば光開始又は開始剤開始)は、中間体Aの合成に比較的大きな影響を有する。反応機構から言えば、ステップA1はラジカル反応と見なされることができるが、光開始および開始剤開始の両方はラジカル反応を開始することができる。しかし本出願人は、A1ステップの反応に対して、開始剤の開始効果が光開始よりも遥かに優れ、ひいては開始剤の種類によっても、開始効果が異なることを見出した。つまり、開始剤を用いることにより、中間体Aの選択性を向上させることができる。好ましくは、前記開始剤は、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシドから選ばれる少なくとも1種である。より好ましくは、前記開始剤は、ジベンゾイルペルオキシド又はtert-ブチルヒドロペルオキシドである。
【0013】
さらに、前記1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンと開始剤とのモル配合比は、1:0.01~1:0.1である。好ましくは、前記1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンと開始剤とのモル配合比は、1:0.03~1:0.06である。
【0014】
本発明のA1ステップの中間体製造過程において、非プロトン性極性溶媒は反応の進行により有利である。好ましくは、前記非プロトン性極性溶媒は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種である。より好ましくは、前記極性非プロトン性溶媒は、1,4-ジオキサン、アセトニトリル、ジエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である。
本発明のA1ステップの中間体製造過程において、不活性ガス雰囲気は反応の進行に、より有利である。好ましくは、前記不活性ガスは、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスから選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
本発明のA1ステップの中間体製造過程において、反応液の精製は、常圧精留又は減圧精留のような通常の精製方式を採用すればよい。
【0016】
本発明のA2ステップのヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、反応は無溶媒状態で行うことができる。もちろん、有機溶媒中で反応する方が効果はより高い。好ましくは、前記有機溶媒は、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、イソプロパノール、tert-ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルホスファミドから選ばれる少なくとも1種である。より好ましくは、前記有機溶媒は、酢酸、N,N-ジメチルホルムアミド又はイソプロパノールから選ばれる少なくとも1種である。
【0017】
本発明のA2ステップのヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、触媒の存在下で反応の進行により有利である。好ましくは、前記触媒は、塩化亜鉛(ZnCl2)、臭化亜鉛(ZnBr2)又はヨウ化亜鉛(ZnI2)、ヨウ素単体、1,2-ジブロモエタンから選ばれる少なくとも1種であり、中間体Aと触媒とのモル配合比は、1:0.01~1:0.1である。より好ましくは、中間体Aと触媒とのモル配合比は、1:0.03~1:0.06である。
【0018】
本発明のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法は、好ましい方式として、前記A1ステップの反応温度が60℃~200℃であり、1~12時間保温反応させ、前記A2ステップの反応温度が40℃~150℃であり、1~24時間保温反応させる。
【0019】
より好ましい方式として、前記A1ステップの反応温度は80℃~160℃であり、6~12時間保温反応させ、前記A2ステップの反応温度は60℃~90℃であり、3~6時間保温反応させる。
【0020】
本発明は、1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの製造方法をさらに提供し、前記製造方法は、
極性非プロトン性溶媒において、開始剤の作用下で、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンとトリフルオロハロエチレンとを不活性ガス雰囲気中で反応させ、反応液を精留精製して1,4-ジブロモ-2-クロロ-3-ハロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンを得るステップであって、前記トリフルオロハロエチレンの構造式は、CF2=CFXであり、ここでXはCl、Br又はIであり、
前記開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)、ジクミルペルオキシド(DCP)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸アンモニウム(APS)から選ばれる少なくとも1種であるステップを含む。
【発明の効果】
【0021】
従来技術に比べると、本発明が有する有益な効果は、以下の通りであり、
1.本発明は1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンとトリフルオロハロエチレンとのテロメリゼーション反応を採用してヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの中間体を製造し、プロセスが簡単であり、反応条件が温和であり、工業化生産に適する。
2.本発明は、ラジカル開始剤を採用してテロメリゼーション反応を開始し、ラジカルの発生速度、テロメリゼーション反応の程度を制御できるだけでなく、光開始に比べて中間体の選択性を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、具体的な実施例と組み合わせて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの具体的な実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明は、特許請求の範囲に含まれる可能性がある全ての代替案、改良案及び同等案を網羅していることを認識するであろう。
【0023】
(実施例1)
本実施例は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法を提供し、前記製造方法は、中間体製造ステップと、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造ステップとを含み、具体的には以下の通りである。
A1.1,4-ジブロモ-2,3-ジクロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの製造
500mLのハステロイ材の耐圧反応釜にアセトニトリル150g、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタン69.1g(0.25mol)、ジベンゾイルペルオキシド1.8g(7.5mmol)を加え、高純度N2で10分間パージし、そして34.8g(0.30mol)のクロロトリフルオロエチレンをボンベから反応釜に流し込み、機械撹拌下(300~500r/min)で80℃まで昇温し、反応釜の圧力を0.5MPa程度まで上昇させ、12時間保温し、反応を終了した。
反応液をGC-MSで分析し、かつ計算したところ、原料の1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンの転化率は98.75%であり、中間体である1,4-ジブロモ-2,3-ジクロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの選択性は59.09%であることが分かった。結果を表1に示す。
反応液を減圧精留して高純度の中間体Aを得た。
A2.ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造
マグネチックスターラー、温度計、凝縮器及び滴下ロートを備えた500mLの三口フラスコにイソプロパノール150g、単体ヨウ素2.0g、亜鉛粉末130g(2.0mol)を加えた。凝縮器の頂部は、ガス通路を介して製品収集ボトルに接続され、かつ製品収集タンクを低温コールドトラップに配置した(液体窒素冷却)。反応ボトルを70℃まで昇温し、磁気撹拌下で1,4-ジブロモ-2,3-ジクロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン275g(純度96%、0.7mol)を滴下し、かつ製品を収集し、約1hで滴下を完了させた。滴下終了後に80℃まで昇温し、3h保温し、反応を完了した。当該コールドトラップで収集された生成物は、GC-MS及び核磁気特性により、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンであり、製品97.0gを収集し獲得し、純度が96.6%で、収率が86.0%であった。結果を表3に示す。
【0024】
(実施例2)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、開始剤の種類を変更し、実施例1のジベンゾイルペルオキシドの代わりに1.1g(7.5mmol)のジ-tert-ブチルペルオキシドを用いた。反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、触媒の種類を変更し、実施例1の単体ヨウ素の代わりに2.5gのヨウ化亜鉛を用い、製品89.20gを得た。結果を表3に示す。
【0025】
(実施例3)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、開始剤の種類を変更し、実施例1のジベンゾイルペルオキシドの代わりに0.68g(7.5mmol)のtert-ブチルヒドロペルオキシドを用いた。反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、触媒の種類を変更し、実施例1の単体ヨウ素の代わりに1.5gの1,2-ジブロモエタンを用い、製品95.0gを得た。結果を表3に示す。
【0026】
(実施例4)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、反応温度を80℃から60℃に下げ、反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、反応温度を70℃から60℃に下げ、製品76.20gを得た。結果を表3に示す。
【0027】
(実施例5)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、反応温度を80℃から100℃に昇温した。反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、反応温度を70℃から90℃に昇温し、製品101.3gを得た。結果を表3に示す。
【0028】
(実施例6)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、溶媒の種類を変更し、実施例1のアセトニトリルの代わりに150gのジエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、溶媒の種類を変更し、実施例1のイソプロパノールの代わりに150gのN,N-ジメチルアセトアミドを用い、製品80.50gを得た。結果を表3に示す。
【0029】
(実施例7)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、材料の配合比を変更し、クロロトリフルオロエチレンの使用量を元の34.8g(0.30mol)から58.0g(0.50mol)に変更した。反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、材料の配合比を変更し、亜鉛粉末の使用量を元の130g(2.0mol)から91.0g(1.4mol)に変更した。製品68.4gを得た。結果を表3に示す。
【0030】
(実施例8)
本実施例は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法を提供し、前記製造方法は、中間体製造ステップと、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造ステップとを含み、具体的には以下の通りである。
A1.1,2,4-トリブロモ-3-クロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの製造
500mLのハステロイ材の耐圧反応釜にアセトニトリル150g、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタン69.1g(0.25mol)、ジ-tert-ブチルペルオキシド1.1g(7.5mmol)を加え、高純度N2で10分間パージし、そして48.3g(0.30mol)のトリフルオロブロモエチレンをボンベから反応釜に流し込み、機械撹拌下(300~500r/min)で100℃まで昇温し、反応釜の圧力を0.6MPa程度まで上昇させ、12時間保温し、反応を終了した。
反応液をGC-MSで分析し、かつ計算したところ、原料の1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンの転化率は97.6%であり、中間体の1,2,4-トリブロモ-3-クロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの選択性は73.9%であることが分かった。結果を表2に示す。
反応液を減圧精留して高純度の中間体Aを得た。
A2.ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造
マグネチックスターラー、温度計、凝縮器及び滴下ロートを備えた500mLの三口フラスコに酢酸150g、単体ヨウ素2.0g、亜鉛粉末130g(2.0mol)を加えた。凝縮器の頂部は、ガス通路を介して製品収集ボトルに接続され、かつ製品収集タンクを低温コールドトラップに配置した(液体窒素冷却)。反応ボトルを60℃まで昇温し、磁気撹拌下で1,2,4-トリブロモ-3-クロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタン312.3g(純度98%、0.7mol)を滴下し、かつ製品を収集し、約2hで滴下を完了させた。滴下終了後に80℃まで昇温し、3h保温し、反応を完了した。当該コールドトラップで収集された生成物は、GC-MS及び核磁気特性により、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンであり、製品78.20gを収集し獲得し、純度が97.5%で、収率が69.9%であった。結果を表3に示す。
【0031】
(実施例9)
本実施例の操作は、実施例8と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、溶媒の種類を変更し、実施例7のアセトニトリルの代わりに150gのジエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。反応結果を表2に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、溶媒の種類を変更し、実施例7の酢酸の代わりに150gのN,N-ジメチルアセトアミドを用い、製品82.50gを得た。結果を表3に示す。
【0032】
(実施例10)
本実施例の操作は、実施例8と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、反応温度を100℃から160℃に昇温した。反応結果を表2に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、触媒の種類を変更し、実施例7の単体ヨウ素の代わりに2.5gのヨウ化亜鉛を用い、製品72.2gを得た。結果を表3に示す。
【0033】
(実施例11)
本実施例の操作は、実施例8と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、材料の配合比を変更し、トリフルオロブロモエチレンの使用量を元の48.3g(0.30mol)から40.3g(0.25mol)に変更した。反応結果を表2に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、触媒ヨウ素単体の使用量を増加し、元の2.0gから4.0gに増加し、製品74.5gを得た。結果を表3に示す。
【0034】
(比較例1)
本実施例の操作は、実施例1と同じであり、以下の点のみで異なる。
中間体製造過程において、開始剤のジベンゾイルペルオキシドを加えなかった。反応結果を表1に示す。
ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン製造過程において、触媒の単体ヨウ素を加えず、製品78.50gを得た。結果を表3に示す。
【0035】
(比較例2)
ジャケットコールドトラップを備えたガラス光反応装置に、1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタン276.3g(1.0mol)を加え、400Wの紫外高圧水銀ランプを挿入した。低温サイクル(0℃)をオンにし、高圧水銀ランプをオンにし、クロロトリフルオロエチレンをゆっくり流入し(50mL/min)、合計139.2g(1.2mol)を流入し、約10時間流入し終えた。流入し終えた後に高圧水銀ランプ及び低温サイクルをオフにし、反応液をGC-MSで分析し、かつ計算したところ、原料である1,2-ジブロモ-1-クロロ-1,2,2-トリフルオロエタンの転化率は54.5%であり、中間体である1,4-ジブロモ-2,3-ジクロロ-1,1,2,3,4,4-ヘキサフルオロブタンの選択性は38.2%であることが分かった。結果を表1に示す。
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