(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】コドン最適化TIF1γポリヌクレオチドを含む組換えベクターおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231228BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20231228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
A61K38/17
A61K48/00
A61P43/00 105
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2022540858
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 KR2021000554
(87)【国際公開番号】W WO2021145704
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0005239
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523435635
【氏名又は名称】キム、セルアンドジーン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KIM,CELL&GENE CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョ-ス
(72)【発明者】
【氏名】イ、ウン ジュ
【審査官】飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0218242(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0011855(US,A1)
【文献】Nature communications,2019年,Vol.10/Article number 4273,P.1-17
【文献】Journal of biological chemistry,Vol.288/No.45,2013年11月08日,P.32357-32369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
C07K 14/47
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIF1γ(transcriptional intermediary factor 1 gamma)遺伝子のN末端部位を
コードする部分のコドン
を最適化したポリヌクレオチドであって、
前記ポリヌクレオチドは、配列番号2の塩基配列を含むことを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号2および3の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを有効成分として含む、線維化疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記線維化疾患は、肝線維症、腎線維症、肺線維症、膵臓線維症、全身性強皮症、黄斑変性、心臓線維症、膵臓と肺の嚢胞性線維症、注射線維症、心内膜心筋線維症、全身性特発性線維症、特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、結節性上皮下線維症、乳房線維症、リンパ節線維症、瘢痕、皮膚硬化症、皮膚線維症、膀胱線維症、筋線維症、動脈線維症、慢性閉塞性肺疾患、甲状腺線維症、関節線維症、肋膜線維症、外科手術の結果としての線維症、増殖性線維症、パイプ軸線維症および後線維素性線維症よりなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、組換えベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の組換えベクターを有効成分として含む、線維化疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項8】
前記線維化疾患は、肝線維症、腎線維症、肺線維症、膵臓線維症、全身性強皮症、黄斑変性、心臓線維症、膵臓と肺の嚢胞性線維症、注射線維症、心内膜心筋線維症、全身性特発性線維症、特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、結節性上皮下線維症、乳房線維症、リンパ節線維症、瘢痕、皮膚硬化症、皮膚線維症、膀胱線維症、筋線維症、動脈線維症、慢性閉塞性肺疾患、甲状腺線維症、関節線維症、肋膜線維症、外科手術の結果としての線維症、増殖性線維症、パイプ軸線維症および後線維素性線維症よりなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項7に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コドン最適化TIF1γポリヌクレオチドを含む組換えベクターおよびその用途などに関する。
【背景技術】
【0002】
線維化疾患(fibrotic disease)、すなわち、線維症(fibrosis)は、再生(reparative)または反応過程でコラーゲンマトリックスの異常蓄積に起因して、過度な線維性結合組織が形成される疾患を総称し、その形態は、正常繊維組織の形成とは非常に対照的である。線維症が発生する代表的な組織としては、心臓、腎臓、肝臓、脂肪、肺、骨、骨髄、皮膚などがある。心臓線維症は、多数の心臓疾患に共通して現れる現象であり、置換性(瘢痕)線維症、間質(反応性)線維症などがあり、その他にも線維症が発生する位置による腎線維症、肝線維症、硬皮症などがある。硬皮症は、皮膚または他の臓器でコラーゲンの過多沈着を特徴とする慢性疾患であり、深刻な場合、血管および内臓器官にも影響を及ぼすことが知られている。骨格筋線維症は、損傷筋肉から主に誘導される現象であり、主に損傷から回復しようとする身体の試みに起因する線維組織の過多成長を特徴とする。特に、最近では、加湿器の殺菌剤に含まれるポリヘキサメチレングアニジン(Polyhexamethylene guanidine;PHMG)および塩化エトキシエチルグアニジン(Oligo(2-)ethoxy ethoxyethyl guanidine chloride;PGH)によって肺線維症が発生して、そのため、死亡する事件が発生し、社会的問題になったことがある。
【0003】
多くの線維症は、発病要因と経路が非常に多様なだけでなく、反復作用によって現れる病気であり、機序自体が明確に明らかにされていないので、治療のための効果的な薬物の開発が不足しているのが実情である(韓国特許公開10-2019-0003422号)。
【0004】
現在線維症の治療に一部役立つものと知られている抗炎剤としては、プレドニゾン(prednisone)、グルココルチコイド(glucocorticoid)などがあるが、その治療効果や安定性については検証されておらず、高い増殖能力を有している幹細胞から分化させた細胞を組織移植の代わりに使用しようとする試みもあるが、これも、生体内での細胞生存率が低いか、免疫拒否反応を起こす危険性が存在するので、まだ直接的な治療に適用することが難しい実情がある。その他、線維症の治療のためには、線維化因子活性阻害、そして細胞外基質分解などの方法が知られているが、まだ直接的な治療に用いられている方法は珍しいだけでなく、線維化過程が慢性的に進行されるので、完ぺきな治療が難しいのが実情である。
【0005】
したがって、多様な線維化疾患に対して顕著な治療効果を示す、実質的に商業化が可能な治療剤の開発が切実に望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述のような従来技術上の問題点を解決するためになされたものであって、コドン最適化TIF1γをコードするポリヌクレオチド、これを含む組換えベクター、前記組換えベクターの用途などを提供することをその目的とする。
【0007】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に限定されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が明確に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、TIF1γ(transcriptional intermediary factor 1 gamma)遺伝子のN末端部位をコドン最適化したポリヌクレオチドを提供する。前記N末端は、TIF1γ遺伝子の359bp~1670bpに該当する遺伝子部位を意味し得、前記コドン最適化は、ヒト細胞で最適化された配列を意味する。好ましくは、前記ポリヌクレオチドは、配列番号2の塩基配列を含んでもよく、より好ましくは、配列番号2および3の塩基配列を含んでもよく、より好ましくは、配列番号1の塩基配列を含んでもよい。また、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1、2、3または4の変異体が本発明の範囲に含まれる。具体的に、前記ポリヌクレオチドは、配列番号1、2、3または4の塩基配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域においてポリヌクレオチド配列の一部は、さらに配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。
【0009】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。前記組換えベクターは、TIF1γ組換えタンパク質生産用途に用いられる。
【0010】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドまたは組換えベクターを含む線維化疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドまたは組換えベクターを有効成分として含む組成物を個体に投与する段階を含む、線維化疾患の予防または治療方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドまたは組換えベクターを有効成分として含む組成物の線維化疾患の予防または治療用途を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドまたは組換えベクターの線維化疾患の予防または治療に用いられる薬剤を生産するための用途を提供する。
【0014】
本発明の一具体例において、前記線維化疾患は、好ましくは、肝線維症、腎線維症、肺線維症、膵臓線維症、全身性強皮症、黄斑変性、心臓線維症、膵臓と肺の嚢胞性線維症、注射線維症、心内膜心筋線維症、全身性特発性線維症、特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、結節性上皮下線維症、乳房線維症、リンパ節線維症、瘢痕、皮膚硬化症、皮膚線維症、膀胱線維症、筋線維症、動脈線維症、慢性閉塞性肺疾患、甲状腺線維症、関節線維症、肋膜線維症、外科手術の結果としての線維症、増殖性線維症、パイプ軸線維症、後線維素性線維症などであり、より好ましくは、肝線維症やTIF1γタンパク質の発現によって治療可能な線維化疾患であれば、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるTIF1γ遺伝子のN末端部位をコドン最適化したポリヌクレオチドは、N末端部位をヒト細胞に適合するように変形させることによって、TIF1γ組換えタンパク質の生産量を顕著に増加させることができるので、これを用いることによって、TIF1γ組換えタンパク質を生産するのに使用できるだけでなく、前記ポリヌクレオチドを挿入した組換えベクターを用いて線維化疾患の治療効果もまた増加することを確認したので、本発明のポリヌクレオチドは、TIF1γ組換えタンパク質を用いることができる多様な分野に幅広く使用できるだけでなく、TIF1γタンパク質の発現量を増加させて、線維化疾患を予防および治療でき、多様な線維化疾患の治療に安定的かつ効果的な治療剤として使用できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例によるTIF1γ遺伝子のコドン最適化によるタンパク質発現量を比較した結果を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例によるTIF1γ遺伝子の部位別コドン最適化によるタンパク質発現量を比較した結果を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例によるTIF1γ遺伝子のコドン最適化組換え遺伝子の線維化疾患の治療効果を確認した結果を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例によるTIF1γ遺伝子のコドン最適化組換え遺伝子の線維化疾患の治療効果をH&E染色を通じて確認した結果を示す図である。
【
図5】本発明の一実施例によるTIF1γ遺伝子のコドン最適化組換え遺伝子の線維化疾患の治療効果をMT染色を通じて確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明を実施するための最良の形態]
本発明のTIF1γ遺伝子のN末端部位をコドン最適化したポリヌクレオチドを用いてTIF1γ組換えタンパク質を生産する場合、同量の遺伝子を用いて組換えタンパク質の生産量を増加させることができるだけでなく、これによって、線維化疾患の治療効果もまた増加することを確認したので、本発明の最適化されたTIF1γポリヌクレオチドを用いて線維化治療など多様な分野に適用可能であることが期待される。
【0018】
本明細書において、「線維化(fibrosis)」とは、組織内にコラーゲンマトリックスの異常蓄積または過度な線維性結合組織の形成が生じたすべての症状を総称し、このような線維化に起因して線維化疾患(線維症)が発生することがあり、発生位置は限定されない。一般的に、線維化は、「Nature Reviews Nephrology (2016)12:325-338」に記載されたように、TGF-β1が細胞壁表面の受容体に結合することによって、Smadシグナル伝達機序を活性化させて、α-SMA(α-smooth muscle actin)、TIMP(tissue inhibitor of matrix metalloproteinases)の発現量が増加することによって、myofibroblastが活性化し、マトリックスが蓄積されることによって誘導される。
【0019】
本明細書において、「TIF1γ(transcriptional intermediary factor 1 gamma)」とは、細胞の分化(cell differentiation)および発達(development)に関与する転写因子と知られている遺伝子である。本発明のTIF1γは、Smad4を抑制したり、Smad2/3と複合体を形成することによって、線維化を誘導するα-SMAなどの線維化を誘導する遺伝子の発現を抑制することによって線維化を治療することができる。したがって、本発明のコドン最適化TIF1γポリヌクレオチドは、また、線維化を誘導するα-SMAなどの線維化を誘導する遺伝子の発現を効果的に抑制できるので、肺線維化、肝線維化、腎線維化など多様な線維化疾患の治療に適用することができる。
【0020】
本明細書において、「ベクター(vector)」は、細胞内に伝達されるDNA断片、核酸分子などを意味し、前記ベクターは、DNAを複製させ、宿主細胞で独立して再製造されることができる。用語「伝達体」と互換して使用できる。「発現ベクター」は、目的とするコーディング配列と、特定の宿主生物で作動可能に連結されたコーディング配列を発現するのに必須の適正核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。本発明の組換えベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されない。好適な組換えベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーのような発現調節エレメントなどを含んでもよく、目的によって多様に製造されることができる。前記プロモーターは、好ましくは、ヒト細胞でタンパク質を発現するのに使用されるプロモーターであってもよく、より好ましくは、線維化が誘導された地域で発現が誘導される特定プロモーター、例えば、TGF-betaプロモーターなどであってもよいが、これらに限定されない。本明細書において、「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的機能を行うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されている状態を意味する。例えば、プロモーターとタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が作動可能に連結されて、コード配列の発現に影響を及ぼすことができる。発現ベクターとの作動的連結は、当該技術分野においてよく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位特異的DNA切断および連結は、当該技術分野において一般的に知られた酵素などを使用できる。
【0021】
本明細書において、「予防(prevention)」とは、線維化の発生を遮断する広義の概念をいい、好ましくは、発生以前にあらかじめ防止する1次予防と、発生を早期に発見し、適時に治療する2次予防を全部含むが、線維化発生以前に対処する過程および/または活動であれば、これに限定されない。
【0022】
本明細書において、「治療(treating)」とは、線維化の発生に対処する広義の概念をいい、線維化の治療、治癒、緩和、減少などをさせるための過程および/または活動であれば、限定がない。
【0023】
本明細書において、「個体(subject)」とは、本発明の組成物が投与される対象をいい、その対象は限定されない。
【0024】
本明細書において、「薬学的組成物(pharmaceutical composition)」とは、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学的組成物は、ヒトを対象とすることを特徴とする。前記薬学的組成物は、これらに限定されるものではないが、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用できる。本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩解剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用でき、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して使用でき、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用できる。本発明の薬学的組成物の剤形は、上述したような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造されることができる。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリクシール(elixir)、サスペンション、シロップ、ウェハーなどの形態で製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多回投薬形態で製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放性製剤などで剤形することができる。
【0025】
一方、製剤化に適合した担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などを使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0026】
本発明による薬学的組成物の投与経路は、これらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれるが、経口または非経口投与が好ましい。本願において使用された用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の薬学的組成物は、また、直腸投与のための坐剤の形態で投与されることができる。
【0027】
本発明の薬学的組成物は、使用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症を含む様々な要因によって変動し得るものであり、前記薬学的組成物の投与量は、患者の状態、体重、病気の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者が適宜選択することができ、1日に0.0001~500mg/kgまたは0.001~500mg/kgで投与することができる。投与は、一日に1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。前記投与量は、いかなる面においても、本発明の範囲を限定するものではない。本発明による薬学的組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤で剤形化することができる。
【0028】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1:TIF1γコドン最適化]
TIF1γ組換えタンパク質の発現を最大化するために、TIF1γのコドン最適化(codon optimization)を実施した。コドン最適化による組換えタンパク質生産量の差異を確認するために、TIF1γのヌクレオチド配列(Sequence ID:NM_015906)の全体を特にヒト細胞で発現頻度の高い遺伝子コドンで最適化させた3種類の配列を準備した。そして、それぞれのTIF1γ遺伝子をpVAX1(ThermoFisher)に挿入して、293T細胞株で発現させた。対照群としては、TIF1γの元の配列を用いた。また、CMV-emGFPベクターを共に形質注入(transfection)して、形質注入効率を比較した。そして、発現したTIF1γ組換えタンパク質は、ウェスタンブロッティングで確認した。ウェスタンブロッティングのために、回収された細胞をprotein lysis buffer(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、0.5% deoxycholate、1% NP40およびProtease inhibitor cocktail(Roche))が含まれた0.1% sodium dodecyl sulfateに溶解させ、タンパク質抽出物25~30μgを5分間95℃で加熱させた後、SDS-pageを実施した。そして、SDS-pageが完了した後、サイズによって分離したタンパク質をBioRad transfer unit(BioRad)を用いてpolyvinylidene fluoride membranes(Millipore)に移動させた。
そして、5% skim milkを用いてブロッキングさせた後、TIF1γ抗体(ThermoFisher Scientific)を用いて反応させ、anti-GAPDH antibody(Abcam)は、内部対照群として用いた。抗体を用いて反応させたメンブレンは、洗浄して、結合されていない抗体を除去した後、HRP複合2次抗体(horseradish peroxidase-conjugated secondary antibodies)を用いて反応させ、Enhanced chemiluminescence(ThermoFisher)を用いてバンドを確認した。その結果は、
図1に示した。
【0030】
図1に示されたように、元の配列(+)と比較して、コドン最適化3種類の配列のうち配列番号1のTIF1γ組換えタンパク質(opti)は、元の配列と比較して10倍以上タンパク質生産量が増加することを確認した。
【0031】
また、TIF1γの全体配列でない部分配列のコドン最適化によってタンパク質発現量が差異を示すかを確認するために、配列番号1のコドン最適化配列を基準として359bp~1670bpに該当するN末端(N terminus)部分のうち一部を最適化させた配列(配列番号2)に取り換えたTIF1γの全体配列、2560bp~3382bpに該当するC末端(C terminus)部分のうち一部を最適化させた配列(配列番号3)に置換したTIF1γの全体配列、そして、配列番号2および3を最適化させた配列(配列番号4)に置換したTIF1γの全体配列をそれぞれ準備し、pVAX1に挿入して、293T細胞株で24時間の間発現させた。そして、発現したTIF1γ組換えタンパク質は、ウェスタンブロッティングで確認し、それぞれのバンドをImageJソフトウェアを用いて定量した。その結果は、
図2に示した。
【0032】
図2に示されたように、TIF1γの全体配列をコドン最適化したポリヌクレオチド(1)のタンパク質発現量が最も高く、N末端のみをコドン最適化したポリヌクレオチド(2)とN末端およびC末端をコドン最適化したポリヌクレオチド(4)も、TIF1γ遺伝子の元の配列を用いた対照群(contl)と比較して4倍以上タンパク質発現量が増加したことを確認した。しかしながら、C末端のみをコドン最適化したポリヌクレオチド(3)の場合には、元の配列とほぼ同じ発現量を示すことを確認した。前記結果を通じて、N末端のコドン最適化がTIF1γ組換えタンパク質の発現量に重要な役割をすることを確認することができた。
【0033】
[実施例2:TIF1γ組換えタンパク質の肝線維化疾患の治療効果の確認]
コドン最適化によって生産されたTIF1γ組換えタンパク質の肝線維化疾患の治療効果を確認するために、実施例1と同じ方法で製造したベクターをヒト肝星状細胞株であるLX2に形質注入した。そして、形質注入された細胞に5ng/mLの濃度でTGFβを7日間毎日処理した。そして、細胞を回収して、タンパク質発現量をウェスタンブロッティングで確認した。ウェスタンブロッティングは、実施例1と同じ方法で実施し、1次抗体としては、α-SMA(Abcam)またはCol1A(Abcam)抗体を用いた。その結果は、
図3に示した。
【0034】
図3に示されたように、TGFβを処理した場合、線維化因子と知られているSMAおよびCol1Aの発現量が増加し、TIF1γ遺伝子の元の配列を利用したベクター(+)を形質注入させた場合には、SMAおよびCol1Aの発現量が若干減少し、TIF1γの全体配列をコドン最適化させたポリヌクレオチドを用いたベクター(Opti)を形質注入させた場合には、元の配列を用いたベクターと比較してさらに効果的にSMAおよびCol1Aの発現量が減少することを確認した。前記結果を通じて、コドン最適化によって生産されたTIF1γ組換えタンパク質は、TIF1γ遺伝子元の配列を用いた場合と同様に、線維化抑制効果を示し、同量のベクターを形質注入する場合、コドン最適化TIF1γ組換えタンパク質は、タンパク質発現量が増加して、線維化治療効果も増加することを確認した。
【0035】
[実施例3:TIF1γ組換えタンパク質の肺線維化疾患の治療効果の確認]
コドン最適化によって生産されたTIF1γ組換えタンパク質の肺線維化疾患の治療効果を確認するために、一次にブレオマイシン(bleomycin)を処理して、肺線維化動物モデルを製造した。より詳しくは、5~8週齢のC57BL/6Nマウスにブレオマイシンを2mg/kgの濃度で気管内注射(endotracheal administration)で注入し、9日後、実施例1と同じ方法で製造したベクターを18μg/マウスで尾静脈を通じて注射した。ベクターのプロモーター配列としては、CMVプロモーターまたは配列番号5のhuman TGF beta promoter(hTGF)を用いた。そして、21日後、マウスを安楽死させ、肺組織を採取した。採取した右側の肺組織は、10%ホルマリン溶液を用いて固定させた後、パラフィンを用いて包埋させ、4μmの厚さに切って組織切片を製作した。そして、製作した組織切片のパラフィンを除去した後、ヘマトキシリンおよびエオシン(hematoxylin and eosin)を用いて免疫染色を実施した後、顕微鏡を用いて観察した。その結果は、
図4に示した。そして、採取した左側の肺組織は、masson trichrome(MT)stain kit(Abcam)を用いて染色した。その結果は、
図5に示した。
【0036】
図4に示されたように、ブレオマイシンを処理した肺組織(Bleo9D1)は、ブレオマイシンにより線維化が誘導され、TIF1γの全体配列をコドン最適化させたポリヌクレオチドを用いたベクター(hTGF-optiTIFまたはCMV-optiTIF)を注射した場合には、線維化が減少することを確認した。
【0037】
図5に示されたように、ブレオマイシンを処理した肺組織(Bleo9D1)は、ブレオマイシンにより線維化が誘導され、TIF1γの全体配列をコドン最適化させたポリヌクレオチドを用いたベクター(hTGF-optiTIFまたはCMV-optiTIF)を注射した場合には、線維化が減少することを確認した。
【0038】
前記結果を通じて、本発明のTIF1γの全体配列をコドン最適化したポリヌクレオチドを用いて線維化を治療できることを確認できた。
【0039】
前記結果を通じて、本発明のコドン最適化TIF1γポリヌクレオチドを用いる場合、TIF1γ組換えタンパク質の生産量を増加させることができるだけでなく、コドン最適化TIF1γポリヌクレオチドが含まれているベクターを用いることによって、少量のベクターを注入しても、タンパク質発現量が増加して、線維化疾患の治療効果を顕著に増加させることができることを確認できた。
【0040】
上述した本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によるTIF1γ遺伝子のN末端部位、C末端部位または全体配列をコドン最適化したポリヌクレオチドは、TIF1γ組換えタンパク質の生産量を顕著に増加させることができるだけでなく、前記ポリヌクレオチドを用いて線維化疾患を効果的に治療できるので、多様な線維化疾患の治療に幅広く適用して、安定的かつ効果的な治療剤として使用できることが期待される。
【配列表】