(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】セルロースを含む木質材料からアルコールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/00 20190101AFI20231228BHJP
C12H 6/02 20190101ALN20231228BHJP
【FI】
C12G3/00
C12H6/02
(21)【出願番号】P 2019030199
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518215105
【氏名又は名称】森 良平
(73)【特許権者】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-166172(JP,A)
【文献】特開2005-052826(JP,A)
【文献】国際公開第2004/039936(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/161230(WO,A1)
【文献】特開2015-198632(JP,A)
【文献】特開昭58-020166(JP,A)
【文献】特開2011-172548(JP,A)
【文献】特開平11-290023(JP,A)
【文献】特開2017-012110(JP,A)
【文献】特開平01-191690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0045237(US,A1)
【文献】国際公開第2010/013324(WO,A1)
【文献】特開2008-142024(JP,A)
【文献】折橋 健,加圧熱水処理による北海道産木質バイオマスの分解挙動,林産試験場報[online],545号,日本,林生試験場,2017年04月,p.8-18,https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/gijutsujoho/kanko/545joho/545-2.pdf,[検索日:2023.2.20]
【文献】松永 正弘,超・亜臨界水処理ベンチプラント * 製造と木材糖化液のエタノール発酵,平成18年度 研究成果選集 2006[online],日本,森林総合研究所,2007年07月,p.12-13,https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2006/documents/p12-13.pdf,[検索日:2023.2.20]
【文献】非硫酸方式によるバイオエタノール製造ベンチプラントを本格稼動[online],日本,産業技術総合研究所,2009年02月19日,https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090219/pr20090219.html,[検索日:2023.2.20]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 9/00-11/08
B02C 19/00-25/00
C12C 1/00-13/10
C12G 1/00- 3/08
C12P 1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料をソルボサーマル処理
に付した後に粉砕処理に付す工程と、粉砕した材料に糖化酵素を作用させる工程と、分解した材料に酵母を作用させてアルコール醗酵することを含む、飲用エタノールを製造する方法。
【請求項2】
ソルボサーマル処理を臨界条件下または亜臨界条件下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
木質材料の粉砕処理を衝撃粉砕、摩砕粉砕、圧迫粉砕、剪断粉砕および摩擦粉砕からなる群から選択される方法によって行う、請求項1又は2に記載の飲用エタノールの製造方法。
【請求項4】
木質材料の粉砕を40~60℃下で行う、請求項3に記載の飲用エタノールの製造方法。
【請求項5】
ソルボサーマル処理の溶媒として水を用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲用エタノールの製造方法。
【請求項6】
木質材料が、竹、パルプ、一般木材、花卉又はそれらの一部、廃木材、廃紙、食品ごみよりなる群から選択される1種又はそれを超えるものである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の飲用エタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含む木質材料からエタノールを製造する方法に関する。より詳細には、セルロースを含む木質材料をソルボサーマル処理および粉砕処理に付することを含むエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上で最も多く存在する炭水化物であるセルロースが、様々な分野で利用されている。
現在、化石燃料による炭酸ガス排出量の削減を目標として、植物バイオマスからエタノールを生産することが本格的に進められている。今後は、トウモロコシやサトウキビのような摂食可能な植物バイオマスに加えて、木質材料や古紙などの非摂食の植物バイオマスからのエタノール生産技術の開発が望まれている。しかし、このような非摂食用バイオマスからのエタノール製造は、原料バイオマスの分解・醗酵にかかるコストが高くなることや、分解過程に化学薬品が必要で、それにより生じる環境負荷が問題とされている。また、トウモロコシやサトウキビのような摂食可能な植物バイオマスは大量にバイオエタノールの原料として使用された場合、人間の食物として競合する可能性が非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5300846号
【文献】特開2008-142024号公報
【文献】特開2017-12110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの課題を解決すべく、現在まで様々な試みがなされている。
特許文献1には、リグノセルロースおよびセルロースを含む材料に高剪断力を与えてエチルアルコールに転化可能な物質に転化し、さらにその物質からエチルアルコールを製造する方法が記載されている。
しかしながら、引用文献1に記載の方法では、高剪断力を与えたにも関わらず、屈強な植物のリグノセルロースおよびセルロース成分が十分に解砕されているとは言えず、後のエタノールに転化する効率が高いとは言えない問題点がある。
特許文献2には、筍の皮から分離したセルロース含有物を糖化処理し、さらにアルコール醗酵させてエチルアルコールを得るアルコール製造方法が記載されている。
しかしながら、引用文献2に記載の方法は、筍の皮をアルカリ水溶液中で非繊維質を溶出させる工程を含むことから、得られるアルコールにアルカリが残存する可能性があり、酒類などには適用できない。
また、特許文献3には、米又は大麦を圧縮混練して糖化液を得る工程と、その糖化液に酵母を加えてアルコール醗酵させるアルコール製造方法が記載されている。具体的には、植物の澱粉質のα-1,4又はα-1,6結合を圧縮混練により切断して糖化液を得るアルコールの製造方法が記載されている。
しかしながら、引用文献3に記載の方法では、従来の方法と同じく食用原料を用いる必要があり、トウモロコシやサトウキビのような摂食可能な植物バイオマスを原料とする場合と同様に生物資源が有効に利用されていない。
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、非食用木質材料をソルボサーマル処理および粉砕処理に付すことによりアルコール、例えば飲用エタノールを効率よく生成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の飲用エタノールの製造方法は、木質材料をソルボサーマル処理および粉砕処理に付す工程と、処理した材料に糖化酵素を作用させる工程と、分解した材料に酵母を作用させてアルコール醗酵する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
粉砕処理した木質材料又は粉砕処理するべき木質材料をソルボサーマル処理することにより、より糖化酵素が作用し易い状態になり、それによって木質材料から飲用エタノールの生成率を高めることができる。
【0008】
また、本発明の飲用エタノールの製造方法の好ましい実施態様において、ソルボサーマル処理を超臨界条件下または亜臨界条件下で行うことを特徴とする。
本発明の方法におけるソルボサーマル処理は溶媒として水を用いる。
【0009】
また、本発明の飲用エタノールの製造方法の好ましい実施態様において、木質材料の粉砕処理を衝撃粉砕、摩砕粉砕、圧迫粉砕、剪断粉砕および摩擦粉砕からなる群から選択される方法によって行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の飲用エタノールの製造方法の好ましい実施態様において、粉砕処理を40~60℃で行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の製造方法におけるソルボサーマル処理及び粉砕処理はどちらが先行してもよい。
【0012】
さらに、本発明は、別の態様において、上記した態様及び実施態様の製造方法によって製造した飲用エタノールおよびそれを含む酒類にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非摂食用のバイオマスから、化学薬品を含まない安全な飲用エタノールを高い効率で得ることができる。したがって、生物資源を有効に利用しつつ、環境負荷が軽減された飲用エタノールの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の態様において、本発明は、木質材料をソルボサーマル処理および粉砕処理に付す工程と、粉砕した材料に糖化酵素を作用させる工程と、分解した材料に酵母を作用させてアルコール醗酵することを含む、飲用エタノールを製造する方法を提供する。
本発明の製造方法に付する木質材料は、食用に適さずかつセルロースを含むものであれば、いずれの植物及びそれら植物のいずれの部位であってもよく、例えば、竹、パルプ、通常の木材、花卉又はそれらの一部、廃木材、廃紙、食品ごみなどのセルロース性材料が挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法の原料となる上記の木質材料は、ソルボサーマル処理及び粉砕処理に付する。
本発明の製造方法におけるソルボサーマル処理とは、木質材料と溶媒とを共存させ、高温、高圧条件の亜臨界から超臨界状態に付す処理である。ここで用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、N-メチルピロリドンのようなピロリドン系溶剤、酢酸ブチルのようなアセテート系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル系溶剤、メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤、トルエン、キシレンのような芳香族溶剤、パラフィンなどの炭化水素系溶剤などの溶媒を挙げることができるが、最終生成物が酒類などの飲用エタノールの場合は水である。水に浸漬した木質材料は、1~300気圧下、~400℃の、好ましくは2~250気圧下、5~200℃の、より好ましくは25~100気圧下、100~380℃の、最も好ましくは25~100気圧下、150~250℃であって亜臨界から超臨界状態となる範囲内に60~180分間付して処理する。このソルボサーマル処理により、木質材料は柔らかい膨潤した状態になる。
【0016】
また、本発明の製造方法における粉砕処理とは、木質材料に外部から材料内部の結合力を超える大きさの力を加えることにより木質材料のサイズを小さくする処理である。この粉砕処理には、高速運動するビーズが瞬間的に材料に衝撃を与えて材料を粉砕する衝撃粉砕、相対に移動する作業面によって木質材料を挟み、作業面の移動により木質材料と作業面との間に摩擦が発生し、木質材料の表面から順次に小片が削り取られて木質材料のサイズを小さくする摩砕粉砕;粉砕機械の2つの作業面が相対に接近することにより材料に圧力を加えて材料を押しつぶす圧迫粉砕;;カッターのような楔状物により木質材料のサイズを小さくする剪断粉砕、ある程度まで小さくした木質材料を、相対して移動する砥石間ですり潰すことにより行う摩擦粉砕などが含まれるが、好ましい手法はジルコニアなどのセラミックビーズとビーズミルを用いて高速運動するビーズが瞬間的に材料に衝撃を与えて材料を粉砕する衝撃粉砕である。この場合、ジルコニアなどのビーズの大きさによって衝撃粉砕の効率を変化させることができる。すなわち、ビーズの大きさを小さくすることにより衝撃粉砕の効率が向上し、アルコール生成の効率を高めることができる。
【0017】
木質材料の粉砕は、常温で行うことができるが、40~50℃の高温で行うことにより、粉砕をさらに促進することができる。また、粉砕方法によっては粉砕の摩擦熱により発熱するが、40~60℃の温度で粉砕することが好ましい。
粉砕処理された木質材料は、平均直径0.5~2mmの球状粒子とすることができる。
本発明の製造方法におけるソルボサーマル処理及び粉砕処理はどちらが先行してもよい。
【0018】
つぎに、ソルボサーマル処理及び粉砕処理した木質材料は、セルラーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素、アミラーゼ系酵素、リパーゼ系酵素などの加水分解酵素などの糖化酵素と一緒にインキュベートして、木質材料を構成するセルロースなどを加水分解してグルコースなどを含む糖化液を生成する。この工程では、用いる糖化酵素の至適pHである4.0~7.5、至適温度である20~40℃となるよう調整する。
【0019】
つづいて、酵母や細菌を糖化液に投入して、糖化液中のグルコースなどを醗酵させてエタノールを生成する。この醗酵に用いる酵母としてはパン酵母を使用することができ、醗酵させる間のpHや温度は使用する酵母及び細菌の種類に応じて適宜調整する。
【0020】
さらに、糖化液の醗酵により生成した醗酵液は蒸留してエタノールを精製する。
【実施例】
【0021】
実施例1
竹の木材チップ(1.0x1.0cm)1kgを水50Lと混合してオートクレーブ(200℃、25気圧)中で2時間ソルボサーマル処理した。得られたソルボサーマル処理したチップを、ジルコニア2mmのビーズを用いてビーズミルにより40~60℃にて衝撃粉砕して、平均直径0.5~2mmの球状粒子0.5kgを得た。この球状粒子0.5kgを水20Lに投入し、富士フイルム和光純薬(株) セルラーゼ1gを投入し、35~40℃にて12~24時間糖化した。得られた糖化液にパン酵母(オリエンタル酵母工業(株) ドライイースト)1gを投入し、35~40℃にて12~24時間アルコール醗酵した。得られたアルコールは蒸留して約40%濃度のエタノール50mlを得た。
【0022】
実施例2
竹の木材チップ(1.0x1.0cm)1kgを水50Lと混合してオートクレーブ(200℃、25気圧)中で2時間ソルボサーマル処理した。得られたソルボサーマル処理したチップを、ジルコニア0.5mmのビーズを用いてビーズミルにより40~60℃にて衝撃粉砕して、平均直径0.5~2mmの球状粒子0.5kgを得た。この球状粒子0.5kgを水20Lに投入し、富士フイルム和光純薬(株) セルラーゼ1gを投入し、35~40℃にて12~24時間糖化した。得られた糖化液にパン酵母(オリエンタル酵母工業(株) ドライイースト)1gを投入し、35~40℃にて12~24時間アルコール醗酵した。得られたアルコールは蒸留して約40%濃度のエタノール75mlを得た。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法は、アルコール製造の技術分野、バイオエタノールの技術分野などにおいて利用することができる。