(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】耐熱白金
(51)【国際特許分類】
G01K 7/02 20210101AFI20231228BHJP
【FI】
G01K7/02 A
(21)【出願番号】P 2020059678
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林 辰彦
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-200014(JP,A)
【文献】特開2004-91803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/02
G01K 7/18
H01C 7/02
B22F 3/10-3/11
C22B 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素
0.04~
0.10at%、窒素
0.007at%以上、0.014at%未満、残部が白金および不可避不純物であることを特徴とする耐熱白金。
【請求項2】
白金粉末を容器に充填し、
900℃~1200℃、水素を含む雰囲気中で熱処理し、
次いで1200℃~1500℃、酸素を含む雰囲気中で焼結し、
その焼結体を800℃~1100℃に加熱して熱間鍛造した後、
伸線する、
工程を含むことを特徴とする耐熱白金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱特性に優れた白金材料、特に、高温で使用される熱電対、抵抗体等の構成材料として有用な耐熱白金とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温で使用される熱電対、抵抗体等の構成材料として、白金が広い産業分野で用いられている。例えば、白金系熱電対には、プラス極がPt-13%Rh合金、マイナス極が白金からなるR熱電対、プラス極がPt-10%Rh合金、マイナス極が白金からなるS熱電対がある。また耐酸化性等の観点から抵抗体にも白金が多く使用されている。
【0003】
熱電対や抵抗体は、高温下で使用されるため、再結晶温度以上での使用により、結晶粒が成長し、線断面に対し1個の結晶粒の箇所が発生すると、粒界破断や、すべり面からの破壊が起こりやすくなる。
また熱電対では、Pt-Rh合金と白金との高温下での機械的強度の違いから、白金が先に断線する場合が多く、マイナス極である白金の断線により寿命が短くなる問題があった。
【0004】
熱電対の寿命向上を目的とした白金材料の強度向上のため、酸化物分散強化白金の技術が開発されている。特許文献1には、熱電対の寿命向上を目的とした白金線の強度向上のため、白金中にジルコニア酸化物を分散させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、白金の高温下での強度を向上させるために他の金属元素またはその酸化物を添加すると起電力のずれが発生しやすくなるので、なるべくそれらの添加物は少ないほうが好ましい。
【0007】
そこで高温強度が白金より高く、かつ起電力のずれが少なくなる新規な耐熱白金が求められている。本発明の目的は、高温強度が白金より高く、かつ起電力のずれが少ない新規な耐熱白金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、白金粉末をあらかじめ水素を含む雰囲気中で熱処理し、粉末に吸着および/または吸蔵している窒素と酸素を除去し、その後酸素を含む雰囲気中で焼結を行うことで水素を除去し、白金粉末表面に酸素が所定量導入された焼結体が得られ、鍛造、伸線加工を行うことにより、耐熱白金が得られ、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、酸素0.020~0.20at%、窒素0.014at%未満、残部が白金および不可避不純物であることを特徴とする耐熱白金である。
【0010】
本発明品は、熱電対、抵抗体の用途に使用することができる。
【0011】
また、本発明は、白金粉末を容器に充填し、
900℃~1200℃、水素を含む雰囲気中で熱処理し、
次いで1200℃~1500℃、酸素を含む雰囲気中で焼結し、
その焼結体を800℃~1100℃に加熱して熱間鍛造した後、
伸線する、
工程を含むことを特徴とする耐熱白金の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温強度が白金より高く、かつ起電力のずれが少ない耐熱白金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の1400℃×1時間後の縦断面組織
【
図2】比較例1の1400℃×1時間後の縦断面組織
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
本発明の耐熱白金は、酸素0.020~0.20at%、窒素0.014at%未満、残部が白金および不可避不純物であることを特徴とする。酸素、窒素の含有量は、白金に対する原子比(at%)で表す。
【0016】
本発明において酸素が添加される白金としては、高純度のものが使用されるが、Fe、Au、Cu、Pd、Rh、Ir、Ru、Os等の不可避元素を不純物として含有していてもよく、その際の白金の純度は99.995重量%以上であることが好ましい。
【0017】
耐熱白金の酸素含有量は0.020~0.20at%(16~160ppm)である。耐熱白金の酸素含有量は0.030~0.15at%(25~110ppm)が好ましい。耐熱白金の酸素含有量は0.040~0.10at%(30~80ppm)がより好ましい。
【0018】
上記耐熱白金は、通常の溶解で作製した白金では再結晶化する温度である1400℃で1hr熱処理しても、等軸晶にならず、加工方向に対し、アスペクト比[=(加工方向の粒界の長さ)/(加工方向に直交する粒界の長さ)]が4以上となる組織を維持する。
【0019】
また、本発明の耐熱白金の製造方法は、白金粉末を容器に充填し、900℃~1200℃、水素を含む雰囲気中で熱処理し、次いで1200℃~1500℃、酸素を含む雰囲気中で焼結し、その焼結体を800℃~1100℃に加熱して熱間鍛造した後、伸線する、工程を含むことを特徴とする。
【0020】
出発原料として、純度99.995%以上の白金粉末を準備する。アルミナ容器に所定量の白金粉末を無加圧で充填する。
【0021】
次に、充填された白金粉末を900~1200℃、水素を含む雰囲気中で熱処理する。水素を含む雰囲気には、水素がほぼ100%の雰囲気のほか、水素に他の気体を混ぜた雰囲気も包含される。水素に他の気体を混ぜた雰囲気としては、例えば、水素を含むアルゴンを用いることができる。熱処理時間は、例えば1~5時間とすることができる。
【0022】
次に、酸素を含む雰囲気中で1200~1500℃で焼結する。酸素を含む雰囲気としては、例えば大気を用いることができる。また、酸素および窒素を含む雰囲気であって、雰囲気中の酸素が体積比で15~40%である雰囲気を用いて行うことができる。また、酸素およびアルゴンを含む雰囲気であって、雰囲気中の酸素が体積比で15~40%である雰囲気を用いて行うことができる。焼結時間は、例えば1~10時間とすることができる。
【0023】
次に、その焼結体を800℃~1100℃で加熱し熱間鍛造により白金塊を形成する。例えば、焼結体を1000℃に加熱し、熱間鍛造することができる。
【0024】
次に伸線を行う。例えば、冷間伸線および800℃~1100℃の熱処理を繰り返して行う、または、800℃~1100℃ の熱処理および冷間伸線を繰り返し行い、耐熱白金を製造する。伸線は、溝ロール加工による伸線、ダイス伸線を含む。上記耐熱白金の材料形状を線にすることにより、熱電対のマイナス極や抵抗体が実現できる。
【0025】
上記製造法で耐熱白金のクリープ強度が高くなるメカニズムは以下の様に推定している。
【0026】
900℃~1200℃水素を含む雰囲気中で白金粉末を熱処理することにより、白金粉末に吸着および/または吸蔵している窒素と酸素が除去される。その後、1200℃~1500℃、酸素を含む雰囲気中で白金粉末を焼結させることで、焼結と同時に、白金粉末に吸着および/または吸蔵している水素の除去と白金粉末表面への酸素の吸着がなされる。上記二つの熱処理工程を経ることで、原子レベルの酸素だけが塑性加工後の粒界部の一部になる白金粉末表面に吸着させた状態が得られる。すなわち、原子レベルの酸化白金(酸素原子が吸着している白金原子)が高分散状態となっていると考えられる。
それにより高温条件下の使用において白金の粒成長が抑制され、粒界破断や、すべり面からの破壊が起こり難くなり、クリープ強度が大きくなったと考える。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の実施例にて説明するが、実施の形態で限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
高純度の白金粉末(白金純度99.995%以上)を350g準備し、白金粉末をアルミナ容器に無加圧充填し、水素(純度99.95vol%)雰囲気中で1000℃×4時間熱処理、その後大気中1450℃×1時間で焼結した。その焼結体を1000℃に加熱し、熱間鍛造により棒状に白金塊を形成、該白金塊を1000℃×30分で熱処理後、溝ロールにて加工し、再度1000℃×30分熱処理後、ダイス伸線にてφ0.5mmまで伸線して白金線を作製した。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同じ方法で別ロットで行い、ダイス伸線にてφ0.5mmまで伸線して白金線を作製した。
【0030】
(比較例1)
高純度の白金(白金純度99.995%以上)を2000g準備し、高周波にて溶解、銅鋳型に鋳造し白金塊を得た。白金塊を1000℃に加熱し、熱間鍛造により棒状に白金塊を形成、該白金塊を1000℃×30分で熱処理後、溝ロールにて加工およびダイス伸線にてφ0.5mmまで伸線して白金線を作製した。
【0031】
(比較例2)
高純度の白金粉末(白金純度99.995%以上)を350g準備し、白金粉末をアルミナ容器に無加圧充填し、大気中1000℃×1時間で焼結した。その焼結体を1000℃に加熱し、熱間鍛造により棒状に白金塊を形成、該白金塊を1000℃×30分で熱処理後、溝ロールにて加工し、再度1000℃×30分熱処理後、ダイス伸線にてφ0.5mmまで伸線して白金線を作製した。
【0032】
(比較例3)
焼結を1400℃×1時間とした以外は比較例2と同様に行いダイス伸線にてφ0.5mまで伸線して白金線を作製した。
【0033】
(ガス分析)
実施例1、2および比較例1~3の白金線のガス分析を行った。分析は、LECO社の酸素・窒素・水素分析装置を用いた。実施例1、2および比較例1~3の酸素・窒素の分析結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
分析した結果、実施例1、2は、酸素0.020~0.20at%、窒素0.014at%未満を満たしている。なお、実施例1、2の水素含有量は0.06at%(3ppm)以下であった。水素の含有量は、白金に対する原子比(at%)で表した。
【0036】
(組織観察)
実施例1および比較例1の白金線を1400℃×1時間熱処理し、縦断面組織を観察した。縦断面組織写真を
図1、2に示す。
【0037】
実施例1は伸線方向に長い組織を維持しており、アスペクト比〔=伸線方向の組織の長さ/伸線方向に直交する組織の長さ〕で4以上だった。一方、比較例1は再結晶化し、線に対し1個の結晶粒まで成長している。
【0038】
(クリープ試験)
実施例1、2、比較例2、3の白金線に対してクリープ試験を行った。試験は、大気中1300℃で実施した。また、参考例として、白金板(純度99.99重量%、断面寸法はt0.5mm×w3mm)の例を示す。
【0039】
クリープ試験結果を
図3に示す。参考例の白金板のクリープ試験結果と比較して、実施例1、2は約4倍の応力が必要となり、クリープ強度が向上している。また、実施例1、2、比較例2、3より、「焼結工程」の前に「水素雰囲気中で熱処理する工程」を入れるとクリープ強度が大きく向上することが分かる。
【0040】
(起電力測定)
プラス極にPt-13%Rh合金を使用し、作製した線材をマイナス極として熱電対を作製した。作製した白金線は、実施例1は14A×10分、比較例1は12A×90秒通電加熱によるアニールを行い、Al点、Au点、Pd点で定点校正を行った。定点校正の結果を
図4に示す。
【0041】
実施例1、比較例1ともにクラス1内に入った。実施例1は10分という比較的短時間でクラス1に入った。