(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】予測方法、予測装置および予測プログラム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20231228BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20231228BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20231228BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231228BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20231228BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
G01N33/569 F
G01N33/68
C12Q1/6869 Z
(21)【出願番号】P 2021526176
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2020023317
(87)【国際公開番号】W WO2020251051
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019109060
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515163313
【氏名又は名称】株式会社メタジェン
(73)【特許権者】
【識別番号】000191755
【氏名又は名称】森下仁丹株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真也
(72)【発明者】
【氏名】西本 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 真嗣
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500905(JP,A)
【文献】化学と生物,2018年,Vol.56, No.10,p.692-696
【文献】生物工学,2018年,Vol.96, No.9,p.524-528
【文献】Microbiology and Immunology,1992年,Vol.36, No.7,p.683-694
【文献】腸内細菌学雑誌,1998年,Vol.11,p.117-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/06
G01N 33/569
C12Q 1/6869
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌の
、前記便検体中
に含まれる全ての細菌における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測ステップを含むこと、
を特徴とする予測方法。
【請求項2】
前記予測ステップでは、少なくとも前記相対存在比に基づいて、前記予測対象について、前記ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による前記腸内環境の改善効果または前記便状態の改善効果についての予測を行うこと、
を特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記予測ステップでは、前記相対存在比および前記含量に基づいて、前記予測対象について、前記ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による前記腸内環境の改善効果または前記便状態の改善効果についての予測を行うこと、
を特徴とする請求項1または2に記載の予測方法。
【請求項4】
前記予測ステップでは、前記改善効果があるか否かを予測すること、
を特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の予測方法。
【請求項5】
前記便状態の改善が、便通の改善であること、
を特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の予測方法。
【請求項6】
前記便通の改善が、便頻度の増加であること、
を特徴とする請求項5に記載の予測方法。
【請求項7】
前記予測ステップは、制御部を備える情報処理装置の前記制御部において実行されること、
を特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の予測方法。
【請求項8】
制御部を備える予測装置であって、
前記制御部は、
予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌
、前記便検体中
に含まれる全ての細菌における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測手段
を備えること、
を特徴とする予測装置。
【請求項9】
制御部を備える情報処理装置において実行させるための予測プログラムであって、
前記制御部に実行させるための、
予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌
、前記便検体中
に含まれる全ての細菌における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測ステップ
を含むこと、
を特徴とする予測プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の予測プログラムが格納されていること、
を特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測方法、予測装置および予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
オミクス解析をベースとした、腸内細菌叢の研究が近年盛んに行われている。特に消化管常在細菌は食事と密接に結びつき、その組成が再現性を持って変動することが明らかになっている(非特許文献1)。このような常在細菌を介した消化管に対する食事の影響は、負にも正にも現れる。
【0003】
負の影響の例としては、人工甘味料の過剰摂取により引き起こされる腸内細菌の変動を原因とした耐糖能代謝異常の発生(非特許文献2)や、乳化剤の過剰摂取による炎症作用(非特許文献3)等が挙げられる。
【0004】
正の影響の例としては、一部の微生物の服用を通して腸内細菌叢を改善させることが可能であり、古くからプロバイオティクスとして利用されている(非特許文献4)。例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)は、有効な整腸作用と人体への無害性から、頻繁に利用される代表的なプロバイオティクスである(非特許文献5)。また、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)は、疾病の治療および予防の双方へ用いられ、近年では分子メカニズムの解明も進んでいる(非特許文献6~8)。
【0005】
ここで、従来のビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の有効試験としては、特に整腸効果による便秘状態の改善が評価されてきた(非特許文献9)。培養法に基づいた便秘患者の便の細菌解析でも、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)は増減することが確認されており、特に注目される微生物である(非特許文献10および11)。しかしながら、便秘に対するビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の作用機序の網羅的な解析は、これまで進められてこなかった。
【0006】
また、投与物の効用が一部の被検者で強く現れる現象が報告されており、様々な薬でメカニズムの解明が進んでいる。消化管系に作用する物質に対しては、この原因を腸内細菌叢へ求める動きがあり、とりわけセカンドミール効果(初めに食べた食事が、次の食事に対して影響を及ぼすという考え方)の機構は盛んに研究されている(非特許文献12)。そして、大麦食に対する血糖値の変化と腸内細菌叢中のPrevotella属の関係性がメタゲノム解析を通した臨床試験において示唆されており、マウスを使った耐糖能改善効果が実験的に検証されている(非特許文献13)。更に、血液のメタボローム解析も併せて実施され、腸内細菌叢により食事に対するインスリン反応が変化することが報告された(非特許文献14)。
【0007】
このようなメカニズムの解析は、ヒトの腸内細菌に対しても進められ、大麦食と小麦食に対する血糖値上昇に個人差が存在し、その傾向が腸内細菌のオミクス情報から一定の精度で予測できることが示唆された(非特許文献15および16)。腸内細菌を標的にした個人差の解析は抗がん剤に対しても行われ、PD-1/PD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤の効果にBifidobacterium longum、Collinsella aerofaciens、Enterococcus faeciumまたはAkkermansia muciniphilaが関連し、CTLA-4に対する阻害効果にBacteroidesが関連することが示唆された(非特許文献17~19)。
【0008】
以上を例とした、外部からの介入に対する腸内環境ダイナミクスのパターンをオミクスデータを用いて明らかにすることでは、作用メカニズムの解明をより高精度かつ高速に進展させ得る。実際にHIV治療薬の例では、膣内の細菌叢に存在する一部の嫌気性細菌へ着目して、薬剤の効果が低下することを実験的に明らかにした(非特許文献20)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】David LA et al.,Diet rapidly and reproducibly alters the human gut microbiome,Nature,2014,505,7484,p559-563
【文献】Suez J et al.,Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota,Nature,2014,514,7521,p181-186
【文献】Chassaing B et al.,Dietary emulsifiers impact the mouse gut microbiota promoting colitis and metabolic syndrome,Nature,2015,519,7541,p92-96
【文献】Moayyedi P et al.,The efficacy of probiotics in the treatment of irritable bowel syndrome:a systematic review,Gut,2010,59,3,p325-332
【文献】Simren M et al.,Intestinal microbiota in functional bowel disorders:a Rome foundation report,Gut,2013,62,1,p159-176
【文献】Urita Y et al.,Continuous consumption of fermented milk containing Bifidobacterium bifidum YIT 10347 improves gastrointestinal and psychological symptoms in patients with functional gastrointestinal disorders,Bioscience of Microbiota,Food and Health,2015,34,2,p37-44
【文献】Guglielmetti S et al.,Randomised clinical trial:Bifidobacterium bifidum MIMBb75 significantly alleviates irritable bowel syndrome and improves quality of life--a double-blind,placebo-controlled study,Alimentary Pharmacology & Therapeutics,2011,33,10,p1123-1132
【文献】Fukuda S et al.,Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate,Nature,2011,469,7331,p543-547
【文献】Xiao JZ et al.,Effect of yogurt containing Bifidobacterium longum BB 536 on the defecation frequency and fecal characteristics of healthy adults:A double-blind cross over study,Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria,2007,18,1,p31-36
【文献】Khalif IL et al.,Alterations in the colonic flora and intestinal permeability and evidence of immune activation in chronic constipation,Digestive and Liver Disease:Official Journal of the Italian Society of Gastroenterology and the Italian Association for the Study of the Liver,2005,37,11,p838-849
【文献】Zoppi G et al.,The intestinal ecosystem in chronic functional constipation,Acta Paediatrica,1998,87,8,p836-841
【文献】Nilsson AC et al.,Effect of cereal test breakfast differing in glycemic index and content of indigestible carbohydrates on daylong glucose tolerance in healthy subjects,The American Journal of Clinical Nutrition,2008,87,3,p645-654
【文献】Kovatcheva-Datchary P et al.,Dietary Fiber-Induced Improvement in Glucose Metabolism Is Associated with Increased Abundance of Prevotella,Cell Metabolism,2015,22,6,p971-982
【文献】Pedersen HK et al.,Human gut microbes impact host serum metabolome and insulin sensitivity,Nature,2016,535,7612,p376-381
【文献】Zeevi D et al.,Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses,Cell,2015,163,5,p1079-1094
【文献】Korem T et al.,Bread Affects Clinical Parameters and Induces Gut Microbiome-Associated Personal Glycemic Responses,Cell Metabolism,2017,25,6,p1243-1253.e5
【文献】Matson V et al.,The commensal microbiome is associated with anti-PD-1 efficacy in metastatic melanoma patients,Science,2018,359,6371,p104-108
【文献】Routy B et al.,Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors,Science,2017,359,6371,p91-97
【文献】Vetizou M et al.,Anticancer immunotherapy by CTLA-4 blockade relies on the gut microbiota,Science,2015,350,6264,p1079-1084
【文献】Klatt NR et al.,Vaginal bacteria modify HIV tenofovir microbicide efficacy in African women,Science,2017,356,6341,p938-945
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、薬および機能性食品により生じる影響を、腸内環境の状態より予測することが可能であれば、その都度に応じた精密な処方が可能となる。すなわち、腸内環境に基づくコンパニオン診断の実現を通して、医療コストを削減し個別化ヘルスケアを達成することが出来る。例えば、前述したように、整腸作用があることが知られているBifidobacterium(例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム)摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果を予測することができれば、前記精密な処方や前記個別化ヘルスケア等を行うことができるものの、このような予測をすることは、従来できなかった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果を予測することができる予測方法、予測装置および予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る予測方法は、予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌の前記便検体中における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測ステップを含むこと、を特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る予測方法は、前記予測ステップでは、前記相対存在比および前記含量に基づいて、前記予測対象について、前記ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による前記腸内環境の改善効果または前記便状態の改善効果についての予測を行うこと、を特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る予測方法は、前記予測ステップでは、前記改善効果があるか否かを予測すること、を特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る予測方法は、前記便状態の改善が、便通の改善であること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る予測方法は、前記便通の改善が、便頻度の増加であること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る予測方法は、前記予測ステップは、制御部を備える情報処理装置の前記制御部において実行されること、を特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る予測装置は、制御部を備える予測装置であって、前記制御部は、予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌の前記便検体中における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測手段を備えること、を特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る予測プログラムは、制御部を備える情報処理装置において実行させるための予測プログラムであって、前記制御部に実行させるための、予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌の前記便検体中における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測ステップを含むこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果を予測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本実施形態の基本原理を示す原理構成図である。
【
図2】
図2は、予測装置100の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1のコホートデザインを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1において、解析対象へ選抜された20人の内訳の詳細を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1の試験デザインを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1における被験者20人(MO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24)の1日あたりの排便回数を示す棒グラフである。
【
図7】
図7は、実施例1において、情報量基準(WAIC)によるモデル比較をした結果を示す表である。
【
図8】
図8は、実施例1において、最良のWAICが得られた5番のモデルを用いて、摂取効果の事後分布から事後平均値とベイズ信用区間を計算した結果を示す表である。
【
図9】
図9は、実施例1において、試験食摂取による効果を、事後平均値を用いたワイブル分布の確率密度関数と、実際の排便時間のヒストグラムから確認した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1において、便検体採取のタイムポイントごとにおける各被験者の腸内細菌の相対存在比top50属のヒートマップを示す図である。
【
図11】
図11は、実施例1において、被験者ごとかつ前記タイムポイントごとの腸内細菌の相対存在比を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例1において、被験者ごとかつ前記タイムポイントごとの腸内細菌の相対存在比を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例1において、腸内細菌叢組成に対して計算されたbeta多様性を用いた多次元尺度構成法によるプロット(被験者ごとに同一の色を使用)を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例1において、腸内細菌叢組成に対して計算されたbeta多様性を用いた多次元尺度構成法によるプロット(タイムポイントごとに同一の色を使用)を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例1において、試験食摂取群、対照食摂取群および平常群の群間における腸内細菌叢の変化を、Wilcoxon-Mann-Whitney Testを用いて比較した結果を示す表である。
【
図16】
図16は、実施例1において、前記タイムポイントごとにおける被験者全体でのビフィドバクテリウム・ロンガムの相対存在比を示す箱ひげ図、および、被験者ごとのビフィドバクテリウム・ロンガムの相対存在比を示す折れ線グラフである。
【
図17】
図17は、実施例1において、便検体採取のタイムポイントごとにおける各被験者の代謝物質の便含量top50属のヒートマップを示す図である。
【
図18】
図18は、実施例1において、代謝物質組成に対して計算されたbeta多様性を用いた多次元尺度構成法によるプロット(被験者ごとに同一の色を使用)を示す図である。
【
図19】
図19は、実施例1において、代謝物質組成に対して計算されたbeta多様性を用いた多次元尺度構成法によるプロット(タイムポイントごとに同一の色を使用)を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例1における、腸内細菌および代謝物質についてのノンレスポンダーに対するレスポンダーのFold Changeの散布図である。
【
図21】
図21は、実施例1において、ルミノコッカス2属、Erysipelotrichaceae_UCG-003およびユーバクテリウム・レクタルについての各群ごとの相対存在比を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施例1において、3-ヒドロキシ酪酸、アスパラギンおよびN,N-ジメチルグリシンについての各群ごとの便含量を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例2における機械学習法によるレスポンダー予測の流れを示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、実施例2において、機械学習法によりレスポンダー予測をした際の結果を示すROC curveである。
【
図25】
図25は、実施例2において、機械学習法によりレスポンダー予測をした際の結果を示す表である。
【
図26】
図26は、実施例2において、レスポンダー予測に寄与している特徴量を抽出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、予測方法、予測装置および予測プログラムの実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0023】
実施形態の概要
ここでは、本実施形態の概要について
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態の基本原理を示す原理構成図である。
【0024】
まず、予測対象(例えば、動物や人等の個体)から採取された便検体中の細菌の前記便検体中における相対存在比および前記便検体中の代謝物質の所定量の前記便検体中における含量(=便含量)のうちの少なくとも一つを取得する(
図1のステップSA1:取得ステップ)。
【0025】
ステップSA1において、前記予測対象は、人である場合、例えば、腸内環境が悪いまたは良くない人が好ましい。前記腸内環境が悪いまたは良くない人とは、例えば、便秘気味の人である。前記便秘気味の人とは、例えば、排便回数が週あたり3~5回程度の人である。ただし、前記予測対象は、本段落の例示には限定されず、例えば、腸内環境が悪くない人または良い人であってもよい。
【0026】
ステップSA1において、前記細菌は、例えば、セリモナス(Sellimonas)属に属する細菌、Tyzzerella 3属に属する細菌、ルミノコッカス2(Ruminococcus 2)属に属する細菌、ペプトニフィラス(Peptoniphilus)属に属する細菌、uncultured_Actinomycetaceae属に属する細菌、ファエカリタレア(Faecalitalea)属に属する細菌、コプロバチルス(Coprobacillus)属に属する細菌、uncultured_Lachnospiraceae属に属する細菌、ユーバクテリウム・レクタル([Eubacterium] rectale group)、Family_XIII_UCG-001属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011(Family_XIII_AD3011_group)属に属する細菌、エリスピロトリクス(Erysipelotrichaceae_UCG-003)属に属する細菌、ラクノスピラUCG-001(Lachnospiraceae_UCG-001)属に属する細菌、ラクノスピラUCG-003(Lachnospiraceae_UCG-003属に属する細菌、パラサテレラ(Parasutterella)属に属する細菌、アリスティペス(Alistipes)属に属する細菌、パラバクテロイデス(Parabacteroides)属に属する細菌、ルミノコッカス1(Ruminococcus 1)属に属する細菌、アナエロスティペス(Anaerostipes)属に属する細菌およびクリステンセネラ R-7 グループ(Christensenellaceae-T7_group)のうちの少なくとも一つの細菌である。
【0027】
ステップSA1において、前記相対存在比は、例えば、前記便検体から抽出したDNA(Deoxyribo Nucleic acid)の16SrRNA遺伝子領域をPCR(Polymerase Chain Reaction)増幅し、次世代シーケンサーによって配列解読を実施することにより算出することができる。例えば、前記配列解読の結果、全DNA量が4であり、クリステンセネラ属のDNA量が3であり、アナエロスティペス属のDNA量が1である場合、クリステンセネラ属の相対存在比は0.75となり、アナエロスティペス属の相対存在比は0.25となる。
【0028】
ステップSA1において、前記含量は、例えば、前記便検体から、CE-TOFMS(キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計)を用いてメタボローム解析を実施することにより算出することができる。例えば、前記メタボローム解析の結果、前記便検体300g中に3000nmolのN,N-ジメチルグリシンが含まれる場合、N,N-ジメチルグリシンの便含量は、10nmol/gとなる。
【0029】
前記代謝物質は、例えば、N,N-ジメチルグリシン(N,N-Dimetylglycine)、酪酸(Butyric_acid)、アスパラギン(Asn)および3-ヒドロキシ酪酸(3-Hydroxybutyric_acid)のうちの少なくとも一つの代謝物質である。
【0030】
次に、ステップSA1で取得した前記相対存在比および前記含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行うことにより(
図1のステップSA2:予測ステップ)、予測結果を得ることができる。
【0031】
ステップSA2において、前記改善とは、例えば、前記予測対象がビフィドバクテリウム・ロンガムを摂取することにより、前記予測対象の腸内環境または便状態が良い方に変化することである。つまり、前記改善とは、腸内環境または便状態が悪いまたは良くない人の腸内環境または便状態が良くなることであってもよいし、あるいは、腸内環境または便状態が悪くない人または良い人の腸内環境または便状態が更に良くなることであってもよい。
【0032】
ステップSA2における予測ステップでは、前記改善効果を数値化して予測してもよいし、あるいは、前記改善効果があるか否かを予測してもよい。後者の予測としては、前記改善効果の程度に応じた多段階的な予測であってもよいし、前記改善効果があるかないかの二者択一の予測であってもよい。
【0033】
ステップSA2において、前記腸内環境とは、例えば、腸内に存在する細菌の相対存在比および化合物の含有量のことである。特定の細菌や特定の代謝物質が人体に有害な影響を及ぼすことが知られている。このため、ステップSA2において、前記腸内環境の改善効果についての予測とは、ビフィドバクテリウム・ロンガムを摂取することによる前記予測対象の腸内における特定の細菌および特定の代謝物質の挙動の予測であってもよい。
【0034】
ステップSA2において、前記便状態の改善は、例えば、便通の改善や便そのものの状態の改善等である。前記便通の改善は、便頻度の増加であってもよいし、便の回数の増加であってもよい。便頻度の増加の予測の具体例として、前記多段階的な予測により便頻度の増加を予測する場合は、前記予測対象がビフィドバクテリウム・ロンガムを摂取することにより、便頻度が顕著に増加するのか、便頻度が増加するが顕著ではないのか、あるいは、便頻度が増加しないのか、を予測するという方法が挙げられる。また、便頻度の増加の予測の別の具体例として、前記二者択一の予測により便頻度の増加を予測する場合は、前記予測対象がビフィドバクテリウム・ロンガムを摂取することにより、便頻度が顕著であろうがなかろうが増加するのか、あるいは、便頻度が増加しないのか、を予測するという方法が挙げられる。
【0035】
ここで、腸内細菌叢の研究を行う分野においては、便秘患者について、便状態の改善(例えば、便頻度の増加)が起こっているならば、腸内環境が改善していることが知られている(Cummings JH et al,PASSCLAIM--gut health and immunity,European Journal of Nutrition,2004,43,p118-173)。このため、例えば、ある便秘患者について便頻度の増加が観察された場合、当該便秘患者の腸内環境が改善したと予測してもよい。
【0036】
ステップSA2において、前記予測は、前記相対存在比および前記含量に基づいて行うことが好ましい。これにより、例えば、より精度の高い予測を行うことができる。
【0037】
ステップSA2の前記予測ステップは、制御部を備える情報処理装置の前記制御部において実行されてもよい。
【0038】
以下、便頻度の増加を予測する場合を例にとって、予測の際に用いる閾値(カットオフ値)について説明する。
【0039】
前記カットオフ値は、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムの摂取により、便頻度が増加する群と増加しない群とを判別するための前記相対存在比または前記便含量であってもよい。前記カットオフ値は、例えば、感度と偽陽性率(1-特異度)の関係を、ROC分析することにより求めることができる。前記感度とは、例えば、真の状態が前記増加する群である前記予測対象を正しく前記増加する群であると予測している割合である。前記特異度とは、真の状態が前記増加しない群である前記予測対象を正しく前記増加しない群であると予測している割合である。前記ROC分析においては、まず、前記カットオフ値を連続的に変化させたときの、前記感度と前記偽陽性率の値を求める。そして、縦軸(Y軸)を前記感度とし、横軸(X軸)を前記偽陽性率とするグラフ上に、前記求めた感度および偽陽性率の値をプロットし、当該プロットした点の中から、(1-感度)2+偽陽性率2が最小になるような前記感度および前記特異度の組合せを決定する。このように決定した前記感度および前記特異度の組合せに対応するカットオフ値を、最終的なカットオフ値として設定することができる。なお、前記感度および前記特異度の組合せの決定の仕方は、前述した(1-感度)2+偽陽性率2が最小になるような組合せに決定するという方法に限定されず、例えば、前記感度と前記特異度の積が最大になるような組合せに決定するという方法であってもよいし、(前記感度+前記特異度)÷2が最大になるような組合せに決定するという方法であってもよい。
【0040】
前記カットオフ値は、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムの摂取により、便頻度が顕著に増加する群と顕著ではないが増加する群と増加しない群とを判別するための前記相対存在比または前記便含量であってもよい。すなわち、前記カットオフ値が2つ存在していてもよい。この場合、当該2つのカットオフ値の設定の仕方としては、例えば、前段落で述べた方法により求めたカットオフ値をより厳しくしたものを、前記顕著に増加する群と前記顕著ではないが増加する群とを判別するためのカットオフ値とし、一方で、前段落で述べた方法により求めたカットオフ値をより緩くしたものを、前記顕著ではないが増加する群と前記増加しない群とを判別するカットオフ値とするという方法であってもよい。
【0041】
腸内細菌の相対存在比のみを用いて前記二者択一の予測をする場合、例えば以下のようにして便頻度の増加を予測することができる。便頻度が増加する群と便頻度が増加しない群とを分ける相対存在比に関するカットオフ値がX%であるとする。この場合、前記予測対象がX%を満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が増加する群に属すると予測し、逆に、前記予測対象がX%を満たさない場合には前記予測対象は前記便頻度が増加しない群に属すると予測することができる。
【0042】
腸内細菌の相対存在比のみを用いて前記多段階的な予測をする場合、例えば以下のようにして便頻度の増加を予測することができる。便頻度が顕著に増加する群と便頻度が顕著ではないが増加する群とを分ける相対存在比に関するカットオフ値がX1%であり、便頻度が顕著ではないが増加する群と便頻度が増加しない群とを分ける相対存在比に関するカットオフ値がX2%であるとする。この場合、前記予測対象がX1%を満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が顕著に増加する群に属すると予測し、前記予測対象がX1%を満たさないがX2%を満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が顕著ではないが増加する群に属すると予測し、前記予測対象がX2%を満たさない場合には前記予測対象は前記便頻度が増加しない群に属すると予測することができる。
【0043】
前記代謝物質の便含量のみを用いて前記二者択一の予測をする場合、例えば以下のようにして便頻度の増加を予測することができる。便頻度が増加する群と便頻度が増加しない群とを分ける便含量に関するカットオフ値がYnmol/gであるとする。この場合、前記予測対象がYnmol/gを満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が増加する群に属すると予測し、逆に、前記予測対象がYnmol/gを満たさない場合には前記予測対象は前記便頻度が増加しない群に属すると予測することができる。
【0044】
前記代謝物質の便含量のみを用いて前記多段階的な予測をする場合、例えば以下のようにして便頻度の増加を予測することができる。便頻度が顕著に増加する群と便頻度が顕著ではないが増加する群とを分ける便含量に関するカットオフ値がY1nmol/gであり、便頻度が顕著ではないが増加する群と便頻度が増加しない群とを分ける便含量に関するカットオフ値がY2nmol/gであるとする。この場合、前記予測対象がY1nmol/gを満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が顕著に増加する群に属すると予測し、前記予測対象がY1nmol/gを満たさないがY2nmol/gを満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が顕著ではないが増加する群に属すると予測し、前記予測対象がY2nmol/gを満たさない場合には前記予測対象は前記便頻度が増加しない群に属すると予測することができる。
【0045】
腸内細菌の相対存在比と前記代謝物質の便含量の両方を用いて前記二者択一の予測をする場合、例えば以下のようにして便頻度の増加を予測することができる。前記予測対象がX%を満たし且つYnmol/gも満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が増加する群に属すると予測し、前記予測対象がX%を満たさず且つYnmol/gも満たさない場合には前記予測対象は前記便頻度が増加しない群に属すると予測することができる。
【0046】
腸内細菌の相対存在比と前記代謝物質の便含量の両方を用いて前記多段階的な予測をする場合、例えば以下のようにして便頻度の増加を予測することができる。前記予測対象がX1%を満たし且つY1nmol/gも満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が顕著に増加する群に属すると予測し、前記予測対象がX1%を満たさないがX2%を満たし且つY1nmol/gを満たさないがY2nmol/gを満たす場合には前記予測対象は前記便頻度が顕著ではないが増加する群に属すると予測し、前記予測対象がX2%を満たさず且つY2nmol/gも満たさない場合には前記予測対象は前記便頻度が増加しない群に属すると予測することができる。
【0047】
[実施形態の構成]
次に、本実施形態に係る予測装置100の構成の一例について、
図2を参照して説明する。
図2は、予測装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【0048】
予測装置100は、市販のデスクトップ型パーソナルコンピュータである。なお、予測装置100は、デスクトップ型パーソナルコンピュータのような据置型情報処理装置に限らず、市販されているノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistants)、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータなどの携帯型情報処理装置であってもよい。
【0049】
予測装置100は、制御部102と通信インターフェース部104と記憶部106と入出力インターフェース部108と、を備えている。予測装置100が備えている各部は、任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0050】
通信インターフェース部104は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、予測装置100をネットワーク300に通信可能に接続する。通信インターフェース部104は、他の装置と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。ここで、ネットワーク300は、予測装置100とサーバ装置200とを相互に通信可能に接続する機能を有し、例えばインターネットやLAN(Local Area Network)等である。
【0051】
入出力インターフェース部108には、入力装置112および出力装置114が接続されている。出力装置114には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる。入力装置112には、キーボード、マウス、及びマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニタを用いることができる。なお、以下では、出力装置114をモニタ114とし、入力装置112をキーボード112またはマウス112として記載する場合がある。
【0052】
記憶部106には、各種のデータベース、テーブルおよびファイルなどが格納される。記憶部106には、OS(Operating System)と協働してCPU(Central Processing Unit)に命令を与えて各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録される。記憶部106として、例えば、RAM(Random Access Memory)・ROM(Read Only Memory)等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および光ディスク等を用いることができる。
【0053】
記憶部106は、例えば、相対存在比データ106aと、含量データ106bと、を備えている。なお、相対存在比データ106aと含量データ106bは、サーバ装置200に格納されてもよい。
【0054】
相対存在比データ106aは、ステップSA1で取得された前記相対存在比を格納する。含量データ106bは、ステップSA1で取得された前記含量を格納する。
【0055】
制御部102は、予測装置100を統括的に制御するCPU等である。制御部102は、OS等の制御プログラム・各種の処理手順等を規定したプログラム・所要データなどを格納するための内部メモリを有し、格納されているこれらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。
【0056】
制御部102は、機能概念的に、例えば、予測対象から採取された便検体中のユーバクテリウム・レクタル、クリステンセネラ属に属する細菌、セリモナス属に属する細菌、パラバクテロイデス属に属する細菌、エリスピロトリクス属に属する細菌、クロストリジウムXIII AD3011 属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-001属に属する細菌、ラクノスピラ UCG-003属に属する細菌、ファエカリタレア属に属する細菌、アリスティペス属に属する細菌、アナエロスティペス属に属する細菌、ルミノコッカス1属に属する細菌およびルミノコッカス2属に属する細菌のうちの少なくとも一つの細菌の前記便検体中における相対存在比ならびに前記便検体中のN,N-ジメチルグリシン、酪酸、アスパラギンおよび3-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも一つの代謝物質の所定量の前記便検体中における含量のうちの少なくとも一つに基づいて、前記予測対象について、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果または便状態の改善効果についての予測を行う予測手段としての予測部102aを備えている。
【0057】
他の実施形態
本発明は、上述した実施形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施形態にて実施されてよいものである。
【0058】
例えば、実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0059】
また、本明細書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0060】
また、予測装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0061】
例えば、予測装置100が備える処理機能、特に制御部にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPUおよび当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、本実施形態で説明した処理を情報処理装置に実行させるためのプログラム化された命令を含む一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されており、必要に応じて予測装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDD(Hard Disk Drive)などの記憶部などには、OSと協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0062】
また、このコンピュータプログラムは、予測装置100に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0063】
また、本実施形態で説明した処理を実行するためのプログラムを、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、および、Blu-ray(登録商標) Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0064】
また、「プログラム」とは、任意の言語または記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードまたはバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OSに代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成および読み取り手順ならびに読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0065】
記憶部に格納される各種のデータベース等は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、および、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0066】
また、予測装置100は、既知のパーソナルコンピュータまたはワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、任意の周辺装置が接続された当該情報処理装置として構成してもよい。また、予測装置100は、当該装置に本実施形態で説明した処理を実現させるソフトウェア(プログラムまたはデータ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0067】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じてまたは機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例1および2に限定されない。なお、以下の実施例1および2においては、統計解析は、次段落で説明する方法で行った。
【0069】
全ての統計解析は、Pythonを用いて実行した。alpha多様性には、Shanonn Diversity Indexを使用し、beta多様性には、Spearman Correlation Coefficientを用いた。多次元尺度構成法(MDS)計算には、beta多様性を用いた。2群間比較検定にはWilcoxon-Mann-Whitney Testを用い、グループ間のトレンド検定にはJonckheere-Terpstra検定を用いた。多重検定補正にはFalse Discovery Rate(FDR)、およびBonferoni法を用い、FDRにはBH法を使用した。腸内細菌叢解析においては、Genus、Species、OTUレベルの系統組成データを使用した。この内、OTUレベル系統組成データは、alpha多様性の計算にのみ使用した。その他の統計解析には、Genusレベル系統組成データを使用した。Speciesレベル系統組成データは、レスポンダー予測にのみ使用した。代謝物質解析においては、Relative areaおよびContentのデータを使用した。Relative areaのデータは、alpha多様性の計算のみに使用した。Contentのデータは、その他の統計解析に使用した。
【0070】
[実施例1]相対存在比と便含量の確認
実施例1では、以下の(7)で説明するように、ビフィドバクテリウム・ロンガム摂取による腸内環境の改善効果が大きい被験者においては、ルミノコッカス2属およびセリモナス属等の相対存在比が大きいことを確認し、逆に、ユーバクテリウム・レクタル等の相対存在比およびN,N-ジメチルグリシン等の便含量が小さいことを確認した。以下、実施例1で行った処理について詳細に説明する。
【0071】
(1)被験者および食事情報
(1-1)被験者情報
実施例1のコホートデザインを、
図3に沿って説明する。まず、実施例1のコホートは50人の日本人から構成された。コホートに参加した50人の参加者から、試験直前の排便状況、年齢および男女比を考慮した選抜基準および選抜除外基準を満たす24人(MO01~MO24)が本試験へ選抜された(当該24人は、
図3において、Assessed for eligibility(n=50)からExcluded(n=26)を差し引いた値であるRandomized(N=24)に対応する)。特に試験食が便秘に対して与える影響を調べるために、便秘の傾向がある参加者が優先的に選抜された。本試験の完了後、解析除外基準へ違反しなかった被験者20人(MO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24)が解析対象へ選抜された(当該20人は、
図3において、Analyzed(n=11)とAnalyzed(n=9)とを足した値に対応する)。なお、解析対象へ選抜された当該20人の内訳の詳細については、
図4に示す。また、前記選抜基準、前記選抜除外基準および前記解析除外基準の詳細については、それぞれ、以下の(2-1)、(2-2)および(2-3)に示す。
【0072】
(1-2)試験食情報
試験食としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) BB536株が1食あたりおよそ5.0×109個封入されたカプセルを用いた。1食あたりの重量は0.53gであった。前記カプセルは直径が約2.4mmの球状であり、耐酸性pH依存崩壊能を付与した皮膜(外皮膜)と、胃酸などの通過に対するバリアー機能を向上する保護層(内皮膜)の二つの皮膜により構成されている。前記カプセルに封入されたB.longum BB536株の、pH 1.2へ調整された人工的な胃液中における2時間生存率は約90%程度となることが報告されている(Kohno M,et al.,Application of enteric seamless capsules containing Bifidobacterium longum to functional foods.Nihon Yakurigaku Zasshi Folia Pharmacol Jpn 2016;148:310-4.)。胃を通過したカプセルは、小腸においてpHが中性となることで最外層である耐酸性pH依存崩壊膜が崩壊する。続けて胆汁酸の界面活性作用とリパーゼによる消化作用、腸管運動による物理刺激などにより、中間層である硬化油脂層が溶解あるいは崩壊し、内部の菌粉末が放出される。放出された菌粉末は腸内の水分により復水することで、増殖し活発に作用することが報告されている(Asada M et al.,Seamless Capsule Entrapped Living Microorganisms,Seibutu-kougaku kaishi,2009,87,3,p123-128)。
【0073】
(1-3)対照食情報
対照食としては、澱粉粉末のみが封入された同一のカプセルを用いた。なお、前記試験食と前記対照食のエネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物量およびナトリウム量は、等価となるように調整された。
【0074】
(2)補足情報:被験者の特徴および除外基準
実施例1の実施は、倫理委員会の承認を得た後に、株式会社CPCCへ依頼した。試験の内容を十分に説明した上で、被験者からは書面にて自由意志による試験への参加の同意を得た。前記選抜基準、前記選抜除外基準および前記解析除外基準の詳細は、以下のとおりである。
【0075】
(2-1)選抜基準
以下の選抜基準1~2のいずれも満たす者が、被験者として選抜された。
1.前記同意取得時に40歳以上60歳未満の成人である者
2.排便回数が週辺り3~5回、あるいは、週7回以上である者
【0076】
(2-2)選抜除外基準
また、(2-1)で選抜された者のうち、以下の選抜除外基準1~10のいずれかに該当する者は、被験者から除外された。
1.試験開始半年以内に開腹手術をした者
2.試験開始半年以内に抗生物質を一週間以上服用した者
3.試験食品へアレルギーを有する者
4.試験期間中に大幅に生活スタイルが変わる予定のある者
5.慢性的に下痢をし易い体質の者
6.顕著な肝機能障害、胃機能障害および心血管系疾患等の既往歴を有する者
7.慢性あるいは急性の感染症の疑いのある者
8.妊娠中、授乳中、または妊娠している可能性のある者
9.過去一ヶ月以内のその他の治験へ参加した者
10.その他の試験責任医師が不適当と判断した者
【0077】
このように選抜された被験者24人(MO01~MO24)は、試験開始直前の2週間にわたって排便動態の観察を受け、排便回数が週辺り3~5回、あるいは週7回以上であることを確認された。
【0078】
(2-3)解析除外基準
本試験を終了した被験者24人(MO01~MO24)のうち、以下の解析除外基準1~6のいずれかに該当する者は、解析対象から除外された。
1.前記選抜除外基準に抵触すると判断された者
2.試験食品の接種率が80%未満の者
3.食事記録の内容変動が大きい者、または、記録から変動がないことが確認できない者
4.生活日誌の内容変動が大きい者、または、記録から変動がないことが確認できない者
5.本試験に影響を及ぼす可能性があるとして禁止した医薬品、特定保健用食品、機能性表示食品、サプリメントまたはダイエット食品等を継続または繰り返し摂取した者
6.その他の理由により、試験責任医師が解析対象者として不適当と判断した者
そして、除外後の被験者20人(MO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24)が解析対象へ選抜された。
【0079】
(3)試験デザインおよびサンプル回収
(3-1)試験デザイン
本試験は、ランダム化二重盲検クロスオーバー試験に基づいて、
図5に示すスケジュールで実施された。具体的には、まず、前記選抜基準および前記選抜除外基準を通過した24人の被験者が、無作為に2群(12人ずつ)に分けられた。そして、一方の群の被験者は、初めに前記試験食(
図5では、Test food)を経口摂取し、ウォッシュアウト期間(
図5では、Washout)を挟んで、続いて前記対照食(
図5では、Placebo food)を経口摂取した。もう一方の群の被験者は、その逆の順番で摂取した。被験者の摂取期間は、
図5に示すように、前記試験食と前記対照食ともに2週間であり、洗浄期間は4週間であった。
【0080】
各被験者は1日1食の前記試験食または前記対照食を、水とともに自由なタイミングで摂取した。摂取されるまでに、前記試験食または前記対照食は各被験者により常温で保存された。被検者の試験期間中の活動は、個人毎に1日1回のアンケートへ記載された。アンケートには、生活状態、食事および排便状態が記載された。なお、被検者には、以下の1~6を通達した。
1.乳酸菌やビフィズス菌を多く含む飲料または食品の摂取を禁止すること
2.食物繊維やオリゴ糖を多く含む飲料または食品の摂取を禁止すること
3.サプリメントの摂取を禁止すること
4.機能性ヨーグルトの摂取を禁止すること
5.納豆の摂取を避けること、摂取した場合には前記アンケートに記載すること
6.健康食品の摂取を避けること、摂取した場合には前記アンケートに記載すること
【0081】
(3-2)サンプル回収
各被検者からは、前記試験食または前記対照食の摂取前1日から6日の間、摂取開始後7日から13日の間および摂取終了後1日から7日の間に、便検体が採集された。つまり、
図5においてPlacebofood→Testfoodの順番の群(上の群)の場合、
図5にP→Tで示すように、左から順に、P1、P2、P3、T1、T2およびT3の6点で便検体を採取した。一方で、
図5においてTestfood→Placebofoodの順番の群(下の群)の場合、
図5にT→Pで示すように、左から順に、T1、T2、T3、P1、P2およびP3の6点で便検体を採取した。前記採取した便検体は、被験者個人により、採便シート「ナガセール」(オザックス社製)を便器内に敷き、採便チューブ「Faeces container 54 x 28 mm」(ザルスタット社製)を用いて自宅で採集された。採取後は速やかに家庭用冷凍庫に保管され、採取された便は冷凍輸送により回収された。
【0082】
(4)排便レスポンダーの決定
被験者ごとに記録された経時的なアンケート情報に基づいて、前記試験食により排便活動の向上が確認された被験者(レスポンダー)を推定した。前記試験食の効果は、主に排便時間隔が短縮したことを基準に判断したが、その他(排便回数および排便確率等)についても統計モデルを用いて評価した。排便時間隔の短縮に基づく判断の仕方の詳細は、以下の(4-1)で説明し、排便回数および排便確率に基づく判断の仕方の詳細は、以下の(4-2)で説明し、排便レスポンダーの決定は、以下の(4-3)で説明する。
【0083】
(4-1)排便時間隔の短縮に基づく判断の仕方の詳細
排便時間の短縮を確認するために、統計モデルを構築した。このモデルでは、排便活動が時間の経過と共に発生しやすくなることに着目し、個人毎の排便時間隔をワイブル分布でモデル化した。ワイブル分布は、生存時間に対する薬の影響を調べるために広く使われている分布で、形状パラメータと尺度パラメータを持つ。服食の効果は、比例ハザードモデルを基に推定した(Mudholkar GS et al.,A Generalization of the Weibull Distribution with Application to the Analysis of Survival Data,Journal of the American Statistical Association,1996,91,436,p1575-1583)。このモデルでは、時間tにおける共変量の影響が基準状態におけるハザード関数へ積として発生することを仮定する。以下に数式1を示す。
【0084】
【0085】
ここで、ハザード関数とは、ある時刻tを起点に微小時間Δtだけ経過した後に事象が発生する確率を表す関数である。すなわち、本試験においては、前記試験食の摂取の影響といった排便時間に付随する共変量の効果が、通常状態におけるハザード関数に対する積として発生し、排便活動の発生確率が変化すると仮定した。この仮定は、観測期間を通してハザード関数が服食以外から変化しないことと等価である。今回のコホートのような食品摂取が厳密に制限されている状態では、腸内の状態が安定であるという経験則により裏付けられる。実際にはモデル中のワイブル分布におけるパラメータや服食の効果は未知である。このような数値は、観測されたデータから推定した。今回得られた排便の記録は時間データではなく、一日あたりの排便回数のデータであった。そのため24時間をその排便回数で割ることにより、各排便活動の推定時間隔を計算した。この不正確性をモデルに組み込むことで、より正確な推定が可能となるが、今回は、説明を簡便にするために省略した。特記すべき事項として、1人の被験者は全観測期間85日間を通して排便が常に1日1回発生したため、値が常に24時間/回となってしまった。この値はモデルの推定に不適当であり、明らかに排便レスポンダーでは無かったため解析対象から除外した。更に観測されたデータからは、モデル中のパラメータへ個人差があるのか全体で共通なのか明らかでは無かったため、Widely applicable information criterion(WAIC)を用いてモデルを比較した(Watanabe S.,Asymptotic Equivalence of Bayes Cross Validation and Widely Applicable Information Criterion in Singular Learning Theory,Journal of Machine Learning Research,2010,11,p3571-3594)。WAICはAIC等の先行指標と比較が可能となるように、汎化損失の2n倍を使って計算された(Gelman A et al.,Understanding predictive information criteria for Bayesian models,Statistics and Computing,2013,24,6,p997-1016)。WAICやAICはモデルの未知データに対する予測の誤差(汎化誤差)を近似するものであり、特にWAICはパラメータの事後分布が正規分布で近似できないような特異モデルに対しても利用することが可能である。データに対するパラメータの推定は、PythonとStanを用いたNUTSアルゴリズムによるマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)により達成した(Carpenter B et al.,Stan:A Probabilistic Programming Language,Journal of Statistical Software,2017,76,1,https://doi.org/10.18637/jss.v076.i01)。MCMC法によるワイブル分布の一般化線形モデルには先行研究による報告がある(Dellaportas P et al.,Bayesian Inference for Generalized Linear and Proportional Hazards Models via Gibbs Sampling,Applied Statistics,1993,42,3,p443-459)。Pythonの実装にはminicondaを用いて、バージョンは4.3.1(Pythonのバージョンは3.6.1)であった。StanのインターフェイスであるPyStanのバージョンは2.16.0を利用した。MCMCの繰り返しステップ数は3000回で、chain数は8とし、繰り返しの最初1000回はwarmupとして計算から除外した。MCMCの収束は、先行研究に従い、潜在的尺度縮小因子(potential scale reduction factor;PSRF or Rhat)が全ての推定値で1.1以下であることから確認した(Brooks SP et al.,General Methods for Monitoring Convergence of Iterative Simulations,Journal of Computational and Graphical Statistics:A Joint Publication of American Statistical Association,Institute of Mathematical Statistics,Interface Foundation of North America,1998,7,4,p434-455)。Rhatは複数のMCMC鎖の分散を元にして計算され、推定の収束判定へ使われる。その他のパラメータには初期値を用いた。
【0086】
(4-2)排便回数および排便確率に基づく判断の仕方の詳細
排便動態を、排便回数および排便確率の基準について、以下のモデルで解析した。
【0087】
排便回数については、ルールベースの方法と確率モデルベースの方法を用いた。ルールベースの方法では、平均排便回数に基づいてレスポンダーと非レスポンダーが推定出来ると仮定した。レスポンダーの定義は、次の2つの基準を両方満たすことであった。1つ目の基準は、前記試験食または前記対照食摂取期間中の平均排便回数を、1)試験食摂取期間直前の7日間、2)摂取前事前観察期間最後の1週間、3)前観察期間中および休止期間の平均排便回数とそれぞれ比較し、試験食摂取期間中の平均排便回数が何れの期間と比較しても増加していることであった。2つ目の基準は、1から3の何れの期間における比較でも、対照食の摂取時より試験食の平均排便回数の増加量が大きいことであった。確率モデルベースの方法では、個人毎の一日あたりの排便回数がポアソン分布でモデル化出来ると仮定した。ポアソン分布は回数のデータのモデル化をする時に利用される分布で、比率パラメータをただ一つだけ持つ。服食の効果は、摂取に応じて比率パラメータが変化すると仮定して推定した。以上の2つの手法に対しては、各被検者から得られたアンケートベースの排便回数を利用して、推定を行った。
【0088】
排便確率については、確率モデルベースの方法のみを用いた。この方法では、個人毎の一日毎の排便の発生がベルヌーイ分布でモデル化出来ると仮定した。ベルヌーイ分布はコインの裏表のような二者択一の選択肢の発生確率を表現する際に利用される分布で、確率パラメータをただ一つだけ持つ。服食の効果は、ロジスティック関数を通して摂取に応じて確率パラメータが変化すると仮定して推定した。この手法に対しては、排便回数のデータから、排便があれば1、無ければ0と一日毎の排便の有無のデータへ変換した。
【0089】
(4-3)排便レスポンダーの決定
そして、摂取状況と対応した排便回数の変動傾向を調べた。この結果を
図6に示す。
図6は、被験者20人(MO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24)の1日あたりの排便回数を示す棒グラフである。
図6において、縦軸は、1日あたりの排便回数を示し、横軸は、20人の被験者(MO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24)および全体平均(all)を示す。また、
図6において、紫色の棒グラフは、試験食摂取期間(Test)を示し、緑色の棒グラフは、対照食摂取期間(Placebo)を示し、赤色の棒グラフは、前記試験食摂取期間および前記対照食摂取期間以外の期間である平常期間(None)を示し、青色の棒グラフは、前記平常期間(None)および前記対照食摂取期間(Placebo)を示す。また、
図6においては、試験食非摂取期間(None;平常期間、Placebo;対照食摂取期間、None ∪ Placebo;平常期間または対照食摂取期間)対、試験食摂取期開(Test)でWilcoxon-Mann-Whitney Test(片側検定)を行った。
【0090】
図6に示すように、被験者全体としては、None、および None ∪ Placebo に対してTest において有意に排便回数が増加した(pvalue None:0.0153,None & Placebo:0.0259)。また、
図6に示すように、個人ごとには、MO04、MO10およびMO11において Noneに対して Test において有意に排便回数が増加した。そして、
図6に示すように、MO04およびMO10については、None & Placebo に対しても Test において有意に排便回数が増加していたが、MO11については、None に対してPlacebo においても有意に排便回数が増加していた。
【0091】
つまり、
図6に示す結果を一言でいうならば、全体としては前記試験食の摂取時に有意に排便回数が増加していたが、個人ではその強度に差が存在した。我々はこの原因として、前記試験食の服用効果自体に個人差があり、特に効果が強く現れる被験者(レスポンダー)が存在することを仮説立てた。効果を定量化して仮説を検証するために、我々は前記試験食の主効果である便秘状態の改善に着目して、計測された排便頻度から個人毎の摂取効果を推定した。数理モデルは精密な効果の強度を推定するため、プラシーボ効果と前記試験食そのものの効果を織り交ぜて立式された。これらの値を確認することで、統計的に効果を確認することが可能である。続けて、構築されたモデルに、排便回数を元に計算した排便時間隔をベイズ統計的に当てはめ、パラメータを推定した。
【0092】
まず、個人差が存在することの妥当性を、情報量基準によるモデル比較で評価した。この結果を
図7の表に示す。なお、情報量基準にはWidely Acceptable Information Criteria(WAIC)を用いた(Watanabe S.,Asymptotic Equivalence of Bayes Cross Validation and Widely Applicable Information Criterion in Singular Learning Theory,Journal of Machine Learning Research,2010,11,p3571-3594)。WAICは未知データに対する予測力の良さ(汎化誤差)の程度を示す指数であり、低い値が得られるほど予測力が高いモデルであると考えられる。
【0093】
図7の表にハッチングで示すように、最も小さいWAICを示したのは、個人毎に服食の効果、試験食の効果が異なる事を仮定した5番のモデルであった。これにより、服食により生じる効果や前記試験食により生じる効果が、個人毎に異なるという仮説が支持された。
【0094】
続いて、最良のWAICが得られた5番のモデルを用いて、摂取効果の事後分布から事後平均値とベイズ信用区間を計算した。この結果を
図8の表に示す。
図8には、事後平均値と95%信用区間を記した。また、
図8において、ワイブル分布のパラメータについては両側、摂取効果については片側区間である。
【0095】
図8の表に線状のハッチングで示すように、MO04、MO05、およびMO10の被検者では、前記試験食の効果の予測分布において、95%ベイズ信用区間内に無効果を意味する0が含まれておらず、特に強く作用していることが示唆された。このため、MO04、MO05、およびMO10の3人の被検者を、試験食の効果が特に強く現れた(前記試験食摂取による排便時間の短縮が強く起こった)排便レスポンダー(Strong Responder;SR)と定義した。一方で、
図8の表にドット状のハッチングで示すように、その他の被験者において推定された事後平均値を確認した場合でも、値が0を上回る者がそれ以外に9人(MO01、MO02、MO08、M009、MO11、MO13、MO17、MO22およびMO24)存在したため、当該9人を、試験食の効果が現れた(前記試験食摂取による排便時間の短縮が起こった)排便レスポンダー(Weak Responder;WR)と定義した。そして、これら以外の被験者7人(MO06、MO12、MO15、M016、MO18、MO19およびMO23)を、ノンレスポンダー(Non Responder;NR)と定義した。
【0096】
最後に、前記試験食摂取による効果を、事後平均値を用いたワイブル分布の確率密度関数と、実際の排便時間のヒストグラムから確認した。この結果を
図9に示す。
図9において、左の縦軸が確率密度関数の値を示し、右の縦軸がヒストグラムの回数を示す。また、
図9において、青色の棒グラフは通常時、緑色の棒グラフは対照食の摂取時、橙色の棒グラフは試験食の摂取時に対応する。そして、
図9において、事後分布を確認して、Strong Responder;SRと定義した被験者は橙色の文字、Weak Responder;WRと定義した被験者は黄色の文字、Non-Responder;NRと定義した被験者は黒色の文字で示した。なお、MO03は常に排便時間が24時間となり解析へ不適当だったため、また、MO07、MO014、MO020およびMO021は解析対象の基準から外れたため、解析対象から除外された。
【0097】
(5)腸内細菌の相対存在比の組成における傾向
次に、解析対象者であるMO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24について、(3-2)で採取した便検体からDNAを抽出し、当該抽出したDNAの16sRNA遺伝子領域をPCR増幅した。これにより、腸内細菌の存在比の組成における傾向に影響を与えるのは、各被験者の個人差であることがわかった。
【0098】
具体的には、便からのDNA抽出は、論文(Murakami S et al.,The Consumption of Bicarbonate-Rich Mineral Water Improves Glycemic Control,Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine:eCAM,2015,Article ID:824395)の手法を用いて行われた。抽出されたDNAに対し、バクテリア16SrRNA遺伝子のV1-V2領域に対するユニバーサルプライマーである27Fmodおよび338R(Kim SW et al.,Robustness of Gut Microbiota of Healthy Adults in Response to Probiotic Intervention Revealed by High-Throughput Pyrosequencing,DNA Research:An International Journal for Rapid Publication of Reports on Genes and Genomes,2013,20,3,p241-253)を用いて増幅した。アンプリコンDNAの配列解読にはIllumina MiSeqを用い、paired-end モード、600 cycleの条件で実施した。得られた16S rRNA遺伝子配列はDDBJのDRAで利用可能である(DRA accesison number:DRA006874)。得られたDNA配列は、vsearch version 1.9.3(Option:--fastq_maxee 9.0 --fastq_truncqual 7--fastq_maxdiffs 300--fastq_maxmergelen 330――fastq_minmergelen 280)(Rognes T al.,VSEARCH:a versatile open source tool for metagenomics,PeerJ,2016,e2584)を用いて、F、R側リードをマージした。続いて、平均クオリティ <25 のフラグメントを除去した。全フラグメントをBowtie2 version 2.2.9(Option:--no-hd--no-sq--no-unal-I 280-X 400--fr--no-discordant--phred33-D15-R 10-N 0-L 22-i S,1,1.15-q)(Langmead B et al.,Fast gapped-read alignment with Bowtie 2,Nature Methods,2012,9,4,p357-359)を用いて、SILVA SSU NR データベース version128(Quast C et al.,The SILVA ribosomal RNA gene database project:improved data processing and web-based tools,Nucleic Acids Research,2013,41,10,D590-596)にマッピングし、編集距離3%以内でマップされたフラグメントのみを採用した。残ったフラグメント(29138±4257)から、20,000フラグメントをサブサンプリングし解析に使用した。
【0099】
そして、得られたPCR産物について、次世代シーケンサーによって配列解読を実施した。この配列データから、腸内細菌叢の属および種レベルの相対存在比、alpha多様性およびbeta多様性を計算した。この結果を
図10~
図13に示す。
図10は、便検体採取のタイムポイント(P1、P2、P3、T1、T2およびT3)ごとにおける、各被験者の腸内細菌の相対存在比top50属のヒートマップを示す。
図11および
図12は、被験者ごとかつ前記タイムポイントごとの腸内細菌の相対存在比を示す。
図11および
図12において、横棒の長さは腸内細菌の相対存在比(割合)を示し、また、同一の腸内細菌の種類(属)ごとに同一の色を使用している。
図13および
図14は、腸内細菌叢組成に対して計算されたbeta多様性(Spearman Corelation Coefficient)を用いた多次元尺度構成法(Multi Dementional Scaling;MDS)によるプロットを示し、
図13では被験者ごとに同一の色を使用し、
図14では前記タイムポイントごとに同一の色を使用した。
【0100】
図10、
図11、
図12および
図14に示すように、被験者の摂取物または前記タイムポイントにおける、群間の全体的な傾向は観察されなかった。これに対して、
図13に示すように、同一の色の点(同一の被験者を示す)は近くに集まってプロットされ、同一個人の細菌群集が類似することが観察された。以上より、腸内細菌の存在比の組成における傾向に影響を与えるのは、前記試験食の摂取よりも、むしろ、各被験者の個人差であることが示唆された。
【0101】
続いて、試験食摂取群(T2およびT3)、対照食摂取群(P2およびP3)ならびに平常群(T1およびP1)の群間における腸内細菌叢の変化を詳細に比較するために、Wilcoxon-Mann-Whitney Testを用いた。この結果を
図15の表に示す。
【0102】
図15の表に示すように、一部の細菌属が試験食摂取群で他の群と比べて変化していたが(p-value< 0.05 not corrected)、False Discovery Rate(FDR)補正を行うとすべて有意差なしと判定された。alpha多様性についても有意な変動は検出されなかった(pvalue None vs Test:0.246,Placebo vs Test:0.258)。
【0103】
また、前記タイムポイントごとにおける被験者全体でのビフィドバクテリウム・ロンガムの相対存在比を、
図16の箱ひげ図として示す。そして、被験者ごとのビフィドバクテリウム・ロンガムの相対存在比を、
図16の折れ線グラフとして示す。
【0104】
図16に示すように、箱ひげ図と折れ線グラフともに、前記試験食を摂取した時点のタイムポイントT1~T3における値と前記対照食を摂取した時点のタイムポイントP1~3における値との間に、有意差は観察されなかった。すなわち、前記試験食の摂取によるビフィドバクテリウム・ロンガムの相対存在比の有意な変化は観察されなかった。
【0105】
(6)代謝物質の便含量の組成における傾向
次に、解析対象者であるMO01~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24について、(3-2)で採取した便検体から代謝物を抽出し、当該抽出した代謝物について、CE-TOSMSによりメタボローム解析を行った。これにより、代謝物質の便含量の組成における傾向に影響を与えるのは、各被験者の個人差であることがわかった。
【0106】
具体的には、便検体から代謝物を抽出するために、便検体サンプルはまず、凍結乾燥機 VD-800R(タイテック社製)を用いて、少なくとも24時間凍結乾燥された。凍結乾燥された便検体は、多検体細胞破砕装置 シェイクマスターネオ Ver1.0(バイオメディカルサイエンス社製)を用いて、3.0mmのジルコニアビーズにより、1,500rpm、10分間の条件で破砕された。内部標準(メチルスルホンとD-カンファー-10-スルホン酸(CSA)が各20μM)を含む500μlのメタノールが、前記破砕された便検体10mgに添加された。更に、当該便検体は、前記シェイクマスターネオを用いて、0.1mmのジルコニア/シリカビーズにより、1,500rpm、5分間の条件で破砕された。続けて、超純水200μlとクロロホルム500μlが添加され、当該添加物を4,600g、15分間、20℃の条件で遠心分離に供した。更に続けて、タンパク質と脂質分子を取り除くために、150μlの水層が、遠心式ろ過フィルターユニット UltrafreeMC-PLHCC 250/pk for Metabolome Analysis(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社製)に移された。そして、ろ過液は、CE-TOFMS分析を行う直前に、遠心濃縮されて超純水50μlに溶解された。
【0107】
CE-TOFMS分析を行って、各代謝物質のalpha多様性およびbeta多様性を計算した。この結果を
図17~
図19に示す。
図17は、便検体採取のタイムポイント(P1、P2、P3、T1、T2およびT3)ごとにおける、各被験者の代謝物質の便含量top50属のヒートマップを示す。
図18および
図19は、代謝物質組成に対して計算されたbeta多様性を用いた多次元尺度構成法によるプロットを示し、
図18では被験者ごとに同一の色を使用し、
図19では前記便検体採取のタイムポイントごとに同一の色を使用した。
【0108】
図17および
図19に示すように、被験者の摂取物または前記タイムポイントにおける、群間の全体的な傾向は観察されなかった。これに対して、
図18に示すように、同一の色の点(同一の被験者を示す)は近くに集まってプロットされ、同一個人の代謝物質組成が類似することが観察された。以上より、代謝物質の便含量の組成における傾向に影響を与えるのは、前記試験食の摂取よりも、むしろ、各被験者の個人差であることが示唆された。
【0109】
続いて、試験食摂取群(T2およびT3)、対照食摂取群(P2およびP3)ならびに平常群(T1およびP1)の群間における代謝物質の変化を詳細に比較するために、Wilcoxon-Mann-Whitney Testを用いた。その結果、試験食摂取群において他の群と比べて有意に差があった代謝物質は存在しなかった(pvalue < 0.05 not corrected)。alpha多様性についても有意な変動は検出されなかった(pvalue None vs Test:0.973,Placebo vs Test:0.456)。
【0110】
(7)レスポンダーとノンレスポンダー間での相違
排便レスポンダー(SRおよびWR)と排便ノンレスポンダー(NR)とを比較し、相対存在比が有意に変化した腸内細菌および便含量が有意に変化した代謝物質を測定するために、以下の数式2を用いて、腸内細菌または代謝物質ごとに、SRのNRに対するFold Change(FCS)およびWRのNRに対するFold Change(FCW)を計算した。
【0111】
【0112】
前記数式2において、Average abundance f,strong responderは、SRであるMO04、MO05、およびMO10の3人の各タイムポイント(P1、P2、P3、T1、T2およびT3)における腸内細菌の相対存在比または代謝物の便含量を平均した数値であり、Average abundance f,weak responderは、WRであるMO01、MO02、MO08、M009、MO11、MO13、MO17、MO22およびMO24の9人の前記各タイムポイントにおける腸内細菌の相対存在比または代謝物の便含量を平均した数値であり、Average abundance f,non responder rは、NRであるMO06、MO12、MO15、M016、MO18、MO19およびMO23の7人の前記各タイムポイントにおける腸内細菌の相対存在比または代謝物の便含量を平均した数値である。
【0113】
前記試験食の効果が強いほど腸内細菌の相対存在比または代謝物の便含量が大きい特徴量を探索するために、FC
S>FC
W>0となる腸内細菌および代謝物を探索し、また、前記試験食の効果が強いほど腸内細菌の相対存在比または代謝物の便含量が小さい特徴量を探索するために、FC
S<FC
W<0となる腸内細菌および代謝物を探索した。この結果を、
図20に示す。
【0114】
図20は、腸内細菌および代謝物質における、ノンレスポンダーに対するレスポンダーのFold Changeの散布図である。
図20において、縦軸は、NRに対するSRのFold Change(FC
S)のlog2を取った値を示し、横軸は、NRに対するWRのFold Change(FC
W)のlog2を取った値を示す。
図20において、暖色系のプロットが腸内細菌叢に対応し、その大きさが相対存在比を表す。
図20において、赤色のプロットで示される細菌属(例えば、セリモナス(Sellimonas)属、Tyzzerella 3属、ルミノコッカス2(Ruminococcus 2)属、ペプトニフィラス(Peptoniphilus)属、uncultured_Actinomycetaceae属、ファエカリタレア(Faecalitalea)属、コプロバチルス(Coprobacillus)属、uncultured_Lachnospiraceae属、ユーバクテリウム・レクタル([Eubacterium] rectale group)、Family_XIII_UCG-001属、クロストリジウムXIII AD3011(Family_XIII_AD3011_group)属、エリスピロトリクス(Erysipelotrichaceae_UCG-003)属、ラクノスピラ UCG-001(Lachnospiraceae_UCG-001)属、ラクノスピラ UCG-003(Lachnospiraceae_UCG-003)属およびパラサテレラ(Parasutterella)属等)は、NR、WRおよびSR間におけるグループ間比較検定(Jonckheere-Tarpstra)でpvalue<0.05であった細菌属である。
図20において、寒色系のプロットが代謝物質に対応し、その大きさが濃度を表す。
図20において、青色のプロットで示される代謝物質(例えば、3-ヒドロキシ酪酸(3-Hydroxybutyric_acid)、アスパラギン(Asn)およびN,N-ジメチルグリシン(N,N-Dimetylglycine)等)は、NR、WRおよびSR間におけるグループ間比較検定(Jonckheere-Tarpstra)でpvalue<0.05であった代謝物質を表す。
図20において、背景の薄い橙色の部分が、FC
W<FC
S、つまり、NR<WR<SRであることを示し、背景の薄い青色の部分が、FC
W>FC
S、つまり、NR>WR>SRであることを表す。
【0115】
図20に示すように、セリモナス(Sellimonas)属、Tyzzerella 3属、ルミノコッカス2(Ruminococcus 2)属およびペプトニフィラス(Peptoniphilus)属は、背景の薄い橙色の部分に属していたため、相対存在比がNR<WR<SRであること、つまり、レスポンダーにおいて相対存在比が大きいことがわかった。同様に、
図20に示すように、3-ヒドロキシ酪酸(3-Hydroxybutyric_acid)も、背景の薄い橙色の部分に属していたため、相対存在比がNR<WR<SRであること、つまり、レスポンダーにおいて相対存在比が大きいことがわかった。これに対して、
図20に示すように、uncultured_Actinomycetaceae属、ファエカリタレア(Faecalitalea)属、コプロバチルス(Coprobacillus)属、uncultured_Lachnospiraceae属、ユーバクテリウム・レクタル([Eubacterium] rectale group)、Family_XIII_UCG-001属、クロストリジウムXIII AD3011(Family_XIII_AD3011_group)属、エリスピロトリクス(Erysipelotrichaceae_UCG-003)属、ラクノスピラ UCG-001(Lachnospiraceae_UCG-001)属、ラクノスピラ UCG-003(Lachnospiraceae_UCG-003)属およびパラサテレラ(Parasutterella)属は、背景の薄い青色の部分に属していたため、相対存在比がNR>WR>SRであること、つまり、レスポンダーにおいて相対存在比が小さいことがわかった。同様に、
図20に示すように、アスパラギン(Asn)およびN,N-ジメチルグリシン(N,N-Dimetylglycine)は、背景の薄い青色の部分に属していたため、相対存在比がNR>WR>SRであること、つまり、レスポンダーにおいて相対存在比が小さいことがわかった。
【0116】
続けて、ルミノコッカス2属、エリスピロトリクスUCG-003属およびユーバクテリウム・レクタルについて、SR、WRおよびNRごとに、前記各タイムポイントでの相対存在比を平均した値(Relative Abundance)を算出した。この結果を
図21に示す。
図21において、横軸は、Relative abundanceを示し、白色のグラフはNRに対応し、橙色のグラフはWRに対応し、赤色のグラフはSRに対応する。また、3-ヒドロキシ酪酸、アスパラギンおよびN,N-ジメチルグリシンについて、SR、WRおよびNRごとに、前記各タイムポイントでの便含量を平均した値(Content Abundance[nmol/g])を算出した。この結果を
図22に示す。
図22において、横軸は、Content Abundanceを示し、白色のグラフはNRに対応し、橙色のグラフはWRに対応し、赤色のグラフはSRに対応する。なお、
図21および
図22において、*は、Willcoxon-Mann-Whitney testによるp-value < 0.05を表し、**は、Bonferroni corrected qvalue < 0.05を表す。
【0117】
図21に示すように、ルミノコッカス2属については、相対存在比がNR<WR<SRであること、つまり、レスポンダーにおいて相対存在比が大きいことがわかった。同様に、
図22に示すように、3-ヒドロキシ酪酸についても、便含量がNR<WR<SRであること、つまり、レスポンダーにおいて便含量が多いことがわかった。これに対して、これに対して、
図21に示すように、エリスピロトリクスUCG-003属およびユーバクテリウム・レクタルについては、相対存在比がNR>WR>SRであること、つまり、レスポンダーにおいて相対存在比が小さいことがわかった。同様に、
図22に示すように、アスパラギンおよびN,N-ジメチルグリシンについても、便含量がNR>WR>SRであること、つまり、レスポンダーにおいて便含量が少ないことがわかった。
【0118】
[実施例2]機械学習による特徴量の抽出
実施例2では、試験食摂取直前の腸内マルチオミクスデータから、試験食摂取によって排便回数が増加する排便レスポンダーであるかをLasso回帰及びLogistic回帰を組み合わせた機械学習法により予測した。また、当該予測に寄与している特徴量を抽出することにより、ルミノコッカス1属、アナエロスティペス属、ルミノコッカス2属およびクリステンセネラR-7 グループの相対存在比ならびに酪酸の便含量が大きいほど、レスポンダーの予測に寄与していることを確認し、逆に、ユーバクテリウム・レクタルアリスティペス属、uncultured_Lachnospiraceae属およびパラサテレラ属の相対存在比が小さいほどレスポンダーの予測に寄与していることを確認した。以下、実施例2で行った処理について詳細に説明する。
【0119】
(1)機械学習法によるレスポンダーの予測
具体的には、MO03を除く19名の被験者(MO01~MO02、MO04~MO06、MO08~MO13、MO15~MO19およびMO22~MO24)の試験食摂取直前(T1)の細菌種または細菌属の相対存在比、代謝物質の便含量を用い、これらの内、相対存在比および便含量がそれぞれある閾値以上のもののみを特徴量として使用した。閾値についてはグリッドサーチを行い、予測精度が最大となるものを探索した(
図23のステップSB1)。続いて、腸内細菌の相対存在比と代謝物質の便含量とでは取りうる値の範囲が異なる可能性や、取りうる値の範囲が大きい特徴量が予測に大きな影響を与える可能性や、腸内細菌叢と代謝物質の寄与の大きさを直接的に比較できない問題を考慮し、z scoreを用いて各特徴量の標準化を行った(
図23のステップSB2)。
【0120】
続いて、19名の被験者を2通りのレスポンダーおよびノンレスポンダーの2グループ(すなわち、SR vs WR、NR または SR、WR vs NR)に分け(
図23のステップSB3)、それぞれのグループから1人ずつ含むテストデータと残りの18人のトレーニングデータに分割した(
図23のステップSB4およびSB5)。続いて、前記トレーニングデータを用いて統計モデルにより推定された個人ごとの試験食の効果の平均値に対してLasso回帰を行い、試験食の効果に対して寄与の大きい特徴量のみを抽出した(
図23のステップSB6)。Lasso回帰のパラメータはグリッドサーチを行い、予測精度が最大となるものを探索した。続いて、抽出された特徴量を用いてロジスティック回帰アルゴリズムによるトレーニングデータの学習を行い(
図23のステップSB7)、テストデータの予測を行った(
図23のステップSB8)。ロジスティック回帰のパラメータには初期値を使用した。これを、全レスポンダーと全ノンレスポンダーの組み合わせ(60-78通り)に対して実行し、Cross Validationとした。
【0121】
テストデータの予測結果を、
図24および
図25に示す。前記抽出した寄与の大きい特徴量のうち、細菌属(Genus)、細菌種(Species)、代謝物質(Metabolite)、細菌属(Genus)&代謝物質(Metabolite)、および、細菌種(Species)&代謝物質(Metabolite)の5通りのパラメータごとに、「SRとWR」の予測を行った際におけるReceiver operating characteristic (ROC) curveが
図24であり、表が
図25である。なお、
図24および
図25において、AUROC(AUC)、AccuracyおよびF-measureは、予測精度の評価指数である。
【0122】
図示はしないが、SRに関しては、細菌種(Species)と代謝物質(Metabolite)の両者を組み合わせて使用した場合に、最も高い精度(AUC=0.875)で予測可能であった。また、
図24および
図25に示すように、SRとWR(すなわち排便レスポンダー全体)に関しては、細菌属(Genus)と代謝物質(Metabolite)の両者を組み合わせて使用した場合に、最も高い精度(AUC=0.857)で予測可能であった。
【0123】
(2)レスポンダーの予測に寄与している特徴量の抽出
続いて、Cross Validationにおいて、最も予測精度の高かった条件である試験食摂取直前の細菌属の相対存在比が0.01以上、代謝物質の便含量が1000以上のz scoreによる標準化された特徴量を用い、レスポンダースコアに対してLasso回帰(alpha=0.1)を行った。これにより各細菌属、代謝物質の回帰係数を計算し、レスポンダー判定(予測)に寄与している特徴量を抽出した。この結果を、
図26に示す。
【0124】
図26は、試験食摂取直前の細菌属および代謝物質のデータを用い、Cross validationにおいて最高精度であったパラメータにおけるレスポンダースコアに対するLasso回帰の回帰係数を示す。細菌属名に隣接している黄色の円の大きさが、相対存在比の平均値を示す。また、代謝物質名に隣接している水色の大きさが、便含量の平均値を示す。
【0125】
図26に示すように、酪酸については、その便含量が多いほど、また、ルミノコッカス1属、アナエロスティペス属、クリステンセネラ R-7 グループおよびルミノコッカス2属については、その相対存在比が大きいほど、レスポンダーの予測に寄与していた。これに対して、ユーバクテリウム・レクタル、アリスティペス属、uncultured_Lachnospiraceae属およびパラバクテロイデス属については、その相対存在比が小さいほど、レスポンダーの予測に寄与していた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上のように、本発明は、産業上の多くの分野(食品、医薬品および医療等)で広く実施することができ、特に、腸内環境の改善効果についての予測等を行うバイオインフォマティクス分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0127】
100 予測装置
102 制御部
102a 予測部
104 通信インターフェース部
106 記憶部
106a 相対存在比データ
106b 含量データ
108 入出力インターフェース部
112 入力装置
114 出力装置
200 サーバ
300 ネットワーク