(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】熱電変換素子及び熱電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/857 20230101AFI20231228BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20231228BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20231228BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H10N10/857
H10N10/01
H10N10/851
C01B33/06
(21)【出願番号】P 2019160450
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-08-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成30年9月5日 刊行物 第79回応用物理学会秋季学術講演会 予稿集 第12-222頁 応用物理学会 [刊行物等] 開催日 平成30年9月20日 集会名、開催場所 第79回応用物理学会秋季学術講演会 名古屋国際会議場 愛知県名古屋市 熱田区熱田西町1番1号 [刊行物等] ウェブサイトの掲載日 平成30年9月9日 ウェブサイトのアドレス(URL) https://confit.atlas.jp/guide/event/ssdm2018/proceedings/list [刊行物等] 開催日 平成30年9月9日~平成30年9月13日(発表日:平成30年9月12日) 集会名、開催場所 2018 インターナショナル カンファレンス オン ソリッド ステート デバイス マテリアルズ 口頭発表(開催場所:東京大学 本郷キャンパス 東京都文京区本郷七丁目3番1号) [刊行物等] ウェブサイトの掲載日 平成31年3月14日 ウェブサイトのアドレス(URL) https://iopscience.iop.org/article/10.7567/1347-4065/ab0279 [刊行物等] 展示日 令和元年8月29日 展示会名、開催場所 イノベーション・ジャパン2019~大学見本市~ 東京ビックサイト青海展示棟Bホール(東京都江東区青海1-2-33) [刊行物等] 開催日 令和元年8月29日 集会名、開催場所 イノベーション・ジャパン2019~大学見本市~ 東京ビックサイト青海展示棟Bホール(東京都江東区青海1-2-33)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】立岡 浩一
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027661(WO,A1)
【文献】特開2011-222873(JP,A)
【文献】特開2013-070020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/857
H10N 10/01
H10N 10/851
C01B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン(Si)及び第1金属元素を含む第1半導体材料により形成され、第1導電型である第1半導体部材と、
シリコン(Si)及び第2金属元素を含む第2半導体材料により形成され、第2導電型である第2半導体部材と、
前記第1半導体部材を前記第2半導体部材に電気的に接続する連結電極と、
前記第1半導体部材に接続された第1出力電極と、
前記第2半導体部材に接続された第2出力電極と、を備え、
前記第1半導体部材は、前記シリコン(Si)及び前記第1金属元素を含むナノシートが積層されたナノシート構造体を有し、
前記ナノシートは、前記シリコン(Si)及び前記第1金属元素が交互に積層された超格子構造を含み、
前記第1半導体部材において、積層された複数の前記ナノシートは、電気的に接触する部分と、互いに離間して空隙を形成する部分と、を含む、熱電変換素子。
【請求項2】
前記第1半導体部材は、複数の前記ナノシート構造体が、結合材料によって互いに電気 的に結合された結合部を含む、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記第1金属元素は、マグネシウム(Mg)、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)から選択されるいずれか一つであり、前記第2金属元素は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)から選択されるいずれか一つである、請求項1または2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記第1金属元素は、マグネシウム(Mg)であり、前記第2金属元素は、マンガン(Mn)である、請求項1または2に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
シリコン(Si)及び第1金属元素を含む第1半導体材料により形成され、第1導電型である第1半導体部材を形成する第1工程と、
シリコン(Si)及び第2金属元素を含む第2半導体材料により形成され、第2導電型である第2半導体部材を形成する第2工程と、
前記第1半導体部材を前記第2半導体部材に電気的に接続する連結電極を形成する第3工程と、
前記第1半導体部材に接続された第1出力電極と前記第2半導体部材に接続された第2出力電極とを形成する第4工程と、を有し、
前記第1工程は、
前記第1金属元素とは異なる金属元素を含む第1原料と、前記第1金属元素を含む第2原料と、の第1混合物を準備する工程と、
前記第1混合物を加熱することにより、前記第1原料の前記第1金属元素とは異なる金属元素を前記第2原料の前記第1金属元素に置換する工程と、を含み、
前記第2工程は、
前記第2金属元素とは異なる金属元素を含む第3原料と、前記第2金属元素を含む第4原料と、の第2混合物を準備する工程と、
前記第2混合物を加熱することにより、前記第3原料の前記第2金属元素とは異なる金属元素を前記第4原料の前記第2金属元素に置換する工程と、を含み、
前記第1半導体部材は、前記シリコン(Si)及び前記第1金属元素を含むナノシートが積層されたナノシート構造体を有し、前記ナノシートは、前記シリコン(Si)及び前記第1金属元素が交互に積層された超格子構造を含む、熱電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程では、
前記置換する工程によって得た結果物に、前記第1金属元素及び前記シリコン(Si)よりも低い融点を有する結合材料を添加した中間生成物を得る工程と、
前記中間生成物を前記結合材料の融点以上かつ前記第1金属元素及びシリコン(Si)の融点以下に加熱する工程と、を含む、請求項5に記載の熱電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程は、前記第1混合物を準備する工程の後であり前記第1金属元素に置換する工程の前に実施される、前記第1混合物を容器に収容する工程をさらに有し、
前記第1金属元素に置換する工程では、前記第1混合物を収容した前記容器の内部温度を500℃以上650℃以下とすることによって、前記第1混合物を加熱する、請求項5に記載の熱電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子及び熱電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は、温度差に起因する起電力によって電力を発生させる。熱から電力への変換は、下記式に示す無次元性能指数(ZT)によって評価される。
ZT=S2σT/κ…(1)
【0003】
無次元性能指数(ZT)が大きいほど、熱から電力へ変換する能力が高いことを示す。式(1)において、Sはゼーベック係数であり、σは電気伝導度であり、Tは絶対温度であり、κは熱伝導率である。そうすると、無次元性能指数(ZT)を高めるためには、熱電変換素子を構成する材料の電気伝導度(σ)を大きくすればよい。また、無次元性能指数(ZT)を高めるためには、熱伝導率(κ)を小さくすればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1は、熱伝導率を小さくすることにより無次元性能指数を高める技術を開示する。特許文献1の技術では、熱伝導率を小さくするための材料として、ドーパントを含むマグネシウムシリサイド(Mg2Si)を採用する。
【0006】
熱電変換素子のいっそうの性能向上のためには、電気伝導度をさらに大きくすると共に熱伝導率をさらに小さくすることを要する。しかし、一般に、電気伝導度と熱伝導率とは互いに関連する特性である。そのため、電気伝導度及び熱伝導率をそれぞれ独立に制御することは難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、熱から電力への変換特性をさらに向上可能な熱電変換素子及び当該熱電変換素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態である熱電変換素子は、シリコン(Si)及び第1金属元素を含む第1半導体材料により形成され、第1導電型である第1半導体部材と、シリコン(Si)及び第2金属元素を含む第2半導体材料により形成され、第2導電型である第2半導体部材と、第1半導体部材を第2半導体部材に電気的に接続する連結電極と、第1半導体部材に接続された第1出力電極と、第2半導体部材に接続された第2出力電極と、を備え、第1半導体部材は、シリコン(Si)及び第1金属元素を含むナノシートが積層されたナノシート構造体を有し、ナノシートは、シリコン(Si)及び第1金属元素が交互に積層された超格子構造を含む。
【0009】
この熱電変換素子において、第1半導体部材は、第1金属元素とシリコンとにより構成される超格子構造を有する。層状構造である超格子構造によれば、第1金属元素とシリコンとの界面において、フォノンの乱れが生じる。フォノンの乱れは、熱移動を阻害する。つまり、熱伝導率が小さくなる。さらに、熱電変換素子は、当該超格子構造を含むナノシートが積層された構造を有する。この積層構造は、電気伝導を確保したうえで、熱伝導率をさらに小さくする。これら超格子構造及びナノシートの積層構造は、電気伝導度に影響を与えることなく、熱伝導率を下げることを可能とする。熱伝導率が小さくなると、熱電変換素子の特性を示す無次元性能指数(ZT)が大きくなる。つまり、この熱電変換素子は、電気伝導度を確保しながら熱伝導率を小さくすることができるので、熱から電力への変換特性をさらに向上させることができる。
【0010】
上記の熱電変換素子の第1半導体部材において、積層された複数のナノシートは、電気的に接触する部分と、互いに離間して空隙を形成する部分と、を含んでもよい。空隙を形成する部分は、ナノシートよりも熱伝導率が小さい。したがって、第1半導体部材の熱伝導率を好適に小さくすることができる。
【0011】
上記の熱電変換素子において、第1半導体部材は、複数のナノシート構造体が、結合材料によって互いに電気的に結合された結合部を含んでもよい。この構成によれば、結合部によってナノシート構造体同士の電気伝導を確実に確保することができる。
【0012】
上記の熱電変換素子において、第1金属元素は、マグネシウム(Mg)、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)から選択されるいずれか一つであり、第2金属元素は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)から選択されるいずれか一つであってもよい。これらの元素によれば、第1半導体部材及び第2半導体部材を好適に構成することができる。
【0013】
本発明の別の形態である熱電変換素子の製造方法は、シリコン(Si)及び第1金属元素を含む第1半導体材料により形成され、第1導電型である第1半導体部材を形成する第1工程と、シリコン(Si)及び第2金属元素を含む第2半導体材料により形成され、第2導電型である第2半導体部材を形成する第2工程と、第1半導体部材を第2半導体部材に電気的に接続する連結電極を形成する第3工程と、第1半導体部材に接続された第1出力電極と第2半導体部材に接続された第2出力電極とを形成する第4工程と、を有し、第1工程は、第1金属元素とは異なる金属元素を含む第1原料と、第1金属元素を含む第2原料と、の第1混合物を準備する工程と、第1混合物を加熱することにより、第1原料の第1金属元素とは異なる金属元素を第2原料の第1金属元素に置換する工程と、を含み、2工程は、第2金属元素とは異なる金属元素を含む第3原料と、第2金属元素を含む第4原料と、の第2混合物を準備する工程と、第2混合物を加熱することにより、第3原料の第2金属元素とは異なる金属元素を第4原料の第2金属元素に置換する工程と、を含む。
【0014】
この製造方法では、第1工程の第1金属元素に置換する工程によって、超格子構造を有する第1半導体部材が形成される。超格子構造のフォノン乱れに起因して、熱伝導率が小さくされた第1半導体部材を得ることができる。したがって、熱から電力への変換特性をさらに向上させた熱電変換素子を得ることができる。
【0015】
上記の熱電変換素子の製造方法の第1工程では、置換する工程によって得た結果物に、第1金属元素及びシリコン(Si)よりも低い融点を有する結合材料を添加した中間生成物を得る工程と、中間生成物を結合材料の融点以上かつ第1金属元素及びシリコン(Si)の融点以下に加熱する工程と、を含んでもよい。この工程によれば、結合材料によって電気伝導を確実に確保された熱電変換素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱から電力への変換特性をさらに向上可能な熱電変換素子及び当該熱電変換素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態の熱電変換素子の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第1半導体部材の一部を拡大して示す図である。
【
図3】
図3は、ナノシート構造体を拡大して示す平面図である。
【
図4】
図4は、ナノシート構造体の一部を拡大して超格子構造を示す図である。
【
図5】
図5は、ナノシート束の結合状態を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態の熱電変換素子の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
<熱電変換素子>
図1に示すように、熱電変換素子1は、高温源101と低温源102との間に配置される。そして熱電変換素子1は、高温源101と低温源102との温度差に対応する電圧を発生させる。
【0020】
熱電変換素子1は、第1半導体部材2と、第2半導体部材3と、連結電極4と、第1出力電極5と、第2出力電極6と、を有する。連結電極4は、第1半導体部材2の連結端2aを第2半導体部材3の連結端3aに電気的に接続する。連結電極4は、機能的に第1半導体部材2の連結端2aを第2半導体部材3の連結端3aに電気的に接続していればよく、その物理的な構成について特に制限はない。第1出力電極5は、第1半導体部材2の出力端2bに電気的に接続されている。さらに、第1出力電極5には、発生した電力を取り出すための第1端子7が接続されている。第2出力電極6は、第2半導体部材3の出力端3bに電気的に接続されている。さらに、第2出力電極6には、発生した電力を取り出すための第2端子8が接続されている。第1出力電極5及び第2出力電極6についても物理的な構成に特に制限はない。
【0021】
第1半導体部材2は、n型(第1導電型)の半導体材料により構成される。第1半導体部材2を構成する材料は、ケイ化物(シリサイド)である。例えば、第1半導体部材2を構成するケイ化物として、マグネシウムシリサイド(第1半導体材料)が挙げられる。この場合、第1金属元素は、マグネシウムである。以下、マグネシウムシリサイドは、単に「Mg2Si」と記す。
【0022】
第2半導体部材3は、p型(第2導電型)の半導体材料により構成される。第2半導体部材3を構成する材料も、ケイ化物(シリサイド)である。例えば、第2半導体部材3を構成するケイ化物として、マンガンシリサイド(第2半導体材料)が挙げられる。この場合、第2金属元素は、マンガンである。以下、マンガンシリサイドは、単に「MnSi1.7」と記す。
【0023】
ところで、熱電変換素子1の特性は、下記式に示す無次元性能指数(ZT)によって評価される。無次元性能指数(ZT)が大きいほど、熱から電力へ変換する能力が高いことを示す。式(1)において、Sはゼーベック係数であり、σは電気伝導度であり、Tは絶対温度であり、κは熱伝導率である。
ZT=S2σT/κ…(1)
【0024】
本実施形態の熱電変換素子1は、高い電気伝導度と低い熱伝導率と独立して制御することを可能とする新たなアプローチを採用した。つまり、本実施形態の熱電変換素子1は、第1半導体部材2及び第2半導体部材3の微細構造に特徴を有しており、当該微細構造の特徴によって高い電気伝導度と低い熱伝導率とを両立させるものである。以下、
図2から
図5を参照しながら、第1半導体部材2を例に、微細構造について詳細に説明する。
【0025】
図2は、
図1に示す第1半導体部材2の一部の領域A1を拡大して示す図である。第1半導体部材2は、複数のナノシート束11が焼結された構造を有する。ナノシート束11は、複数のナノシートが束ねられて粒状を呈する粒子である。ナノシート束11は、Mg
2Siにより構成される。また、互いに隣接するナノシート束11は、結合部12によっても互いに結合されている。結合部12は、Mg
2Siとスズ(Sn)との化合物(Mg
2Si
1-xSn
x)である。この結合部12は、ナノシート束11同士を物理的に結合するものであり、さらに、ナノシート束11間の電気伝導性を確保する。結合部12は、元のナノシート束11の隙間の領域及びナノシート束11の表面近傍の領域を含んで構成される(
図5参照)。つまり、結合部12は、Mg
2Siであるナノシート束11の境界において、Mg
2SiとSnとが混ざり合って形成された化合物である。
【0026】
図3は、
図2に示すナノシート束11を拡大して示す図である。ナノシート束11は、複数のナノシート13を含む。ナノシート13は、その厚み方向に複数積層している。ナノシート13は、Mg
2Siにより構成される。ここで、ナノシート束1
1を構成する複数のナノシート13の位置は、規則的ではなく、不規則である。例えば、ナノシート13の大きさや形状にはばらつきがある。また、ナノシート13の向きにもばらつきがある。そうすると、ナノシート束1
1は、ナノシート13が存在する部分15と、ナノシート13が存在しない部分16と、を含む。
【0027】
ナノシート13が存在する部分15は、導電性を有するものと考えてよい。さらに、ナノシート13同士が互いに接触する部分15aも、導電性を有するものと考えてよい。したがって、ナノシート束11を巨視的にみると、ナノシート束は、導電性を有するものといえる。
【0028】
一方、ナノシートが存在しない部分16は、微小な空隙である。つまり、熱電変換素子1が大気中に存在する場合、ナノシートが存在しない部分16には、空気が存在する。空気は導電性を有しないので、ナノシートが存在しない部分16は、導電性に寄与しない。空気の熱伝導率は、半導体材料(Mg2Si)よりも低い。つまり、ナノシートが存在しない部分16は、ナノシート13が存在する部分15よりも熱伝導率が低い。したがって、ナノシート束11は、ナノシートが存在する熱伝導率が比較的高い部分15と、ナノシートが存在しない熱伝導率が比較的低い部分16と、の集合である。この微細構造によれば、例えば、同じ半導体材料(Mg2Si)を採用したバルク状の微細構造を有する半導体部材と比べると、熱伝導率が低くなる。つまり、複数のナノシート13が積層された微細構造を採用する熱電変換素子1は、バルク状の微細構造を採用する熱電変換素子1と比べて、熱伝導率が小さいので、無次元性能指数(ZT)を高めることができる。
【0029】
つまり、超格子構造を有するMg2Siのナノシート束11は、電気伝導度が高い。一方、ナノシート束11は、ナノシート13の間に空間(空気層)がある。したがって、ナノシート束11の熱伝導度は、低い。つまり、複数のナノシート13が積層されたナノシート束11の微細構造によれば、全体として電気伝導度を確保することと、熱伝導性を小さくすることと、を両立させることが可能になる。その結果、熱電変換素子1は、好適な特性を奏することができる。
【0030】
図4は、
図3に示すナノシート13が有する結晶構造を概略的に示す図である。
図4は、超格子構造のシリコン原子層21と、超格子構造のマグネシウム原子層22と、が交互に積層した最も単純な構造を模式的に示している。シリコン原子層21は、複数のシリコン原子21aの層が複数積層された構成を有する。マグネシウム原子層22は、複数のマグネシウム原子22aの層が複数積層された構成を有する。シリコン原子層21とマグネシウム原子層22とが交互に積層したとは、マグネシウム原子22aがシリコンナノシートに入り込んだものともいえる。ナノシート13は、いわゆる超格子構造を有する。超格子構造は、例えば、互いに異なる第1の原子及び第2の原子を含み、第1の原子が構成する第1の結晶格子と、第2の原子が構成する第2の結晶格子とが、交互に積層されて、第3の結晶格子を構成しているものをいう。ナノシート13は、シリコン原子21aが構成する結晶格子とマグネシウム原子22aが構成する結晶格子とが交互に繰り返し積層された微細構造を有する。
【0031】
ところで、結晶における熱移動は、フォノンによって説明できるといわれている。フォノンは、結晶の分子運動を示す。フォノンの乱れが大きいほど、熱移動が阻害される傾向にある。つまり、フォノンが乱れると熱伝導率が小さくなる。そして、
図4に示すような層状構造においては、シリコン原子層21とマグネシウム原子層22との界面SAにおいて、フォノンの乱れが生じやすい。つまり、ナノシート13は、その超格子構造に起因する低い熱伝導率を有している。
【0032】
要するに、第1半導体部材2は、2つの特徴的な微細構造によって、熱伝導率を小さくする。第1の微細構造は、ナノシート13が積層されて微小な空隙を含む構造である。第2の微細構造は、シリコン原子層21とマグネシウム原子層22との界面SAにおいてフォノンの乱れが生じる構造である。熱電変換素子1は、300℃付近の温度において最も効率よく熱を電力に変換できる。
【0033】
<熱電変換素子の製造方法>
次に、
図1に示す熱電変換素子1の製造方法について説明する。
図6は、熱電変換素子1の製造方法の主要な工程を示すフロー図である。
【0034】
<第1工程>
まず、第1工程S10を行う。第1工程S10では、第1半導体部材2を作製する。第1工程S10は、主要な工程として、粉体材料を作製する工程S11と、粉体材料を焼結する工程S12と、を含む。
【0035】
粉体材料を作製する工程S11を行う。ここでいう粉体材料とは、
図2に示すナノシート束11の集合体である。つまり、工程S11では、超格子構造を有する複数のナノシート束1
1を作製する。はじめに、第1混合物を準備する(工程S11a)。所定の容器に、MgCl
2(第2原料)、CaSi
2(第1原料)およびMgを入れ、混合することによって第1混合物を得る。これらの材料は、粉体である。また、これらの材料の割合は、MgCl
2:CaSi
2:Mg=10:1:2である。なお、ここでいう割合とは、モル比である。なお、上記の割合は例示であって、Mg
2Siが得られる範囲において適宜設定してよい。例えば、MgCl
2:CaSi
2:Mg=2:1:2であってもよい。また、MgCl
2:CaSi
2=1:1でもよい。また、第1混合物には、必要によりNH
4Clなどの化合物を添加してもよい。
【0036】
次に、混合物を容器に収容する(工程S11b)。容器を準備し、当該容器に混合物を入れた後に、容器を密閉する。この作業は、飽和蒸気圧の不活性ガス環境下において行う。不活性ガスとして、アルゴン(Ar)、または窒素(N2)が挙げられる。
【0037】
次に、容器を加熱する(工程S11c)。この加熱によって、容器の内部において反応が生じる。工程S11cでは、容器の内部温度(つまり混合物の温度)が500℃以上650℃以下とする。さらに、この温度範囲を10時間以上保持する。この期間には、下記式に示す反応が生じる。
CaSi2+4MgCl2→2Mg2Si+CaCl2+Cl2…(2)
つまり、MgCl2のClが分離する。残ったMgとCaSi2のSiが結合した結果、Mg2Siが生成される。さらに、MgCl2から分離したClは、CaSi2のCaと結合した結果、CaCl2とCl2とが生成される。要するに、第1原料であるCaSi2における金属元素であるCaが、第2原料であるMgCl2の金属元素であるMgに置換される。なお、保持時間は、例示であって10時間以上の時間に限定されない。例えば、保持時間は30分程度とすることもできる。
【0038】
さらに詳細には、Mg2Siが生成される過程において、結晶構造が変化する。つまり、マグネシウム原子22aとシリコン原子21aの分布が変化する。これらの原子層が数層積層し厚さが1nm程度の層を形成する。積層される原子層は、原料であるCaSi2の周期性を反映している。さらに、これらの層が繰り返し生成され、超格子構造のMg2Siのナノシート13が形成される。
【0039】
そして、容器を徐冷する(工程S11d)。この工程S11dでは、容器の温度が室温となるまで自然冷却する。なお、単位時間あたりの温度降下の数値は、特に制限はない。
【0040】
以上の工程S11によって、粉体材料が作製される。
【0041】
次に、粉体材料を焼結する工程S12を行う。まず、粉体材料と粉末の結合材料とが混合された中間生成物を準備する(工程S12a)。結合材料は、Mg2Siの融点よりも低い融点を有する金属材料が選択される。例えば、結合材料として、スズ(Sn)が挙げられる。次に、粉体の混合物である中間生成物を圧縮成形する(工程S12b)。成形は、常温常圧の環境下で実施する。この成形によって、第1半導体部材2としての外形形状が決まる。さらに、この成形によって、超格子構造のMg2Siのナノシート13が積層したものであるナノシート束11が構成される。このナノシート束11は、各ナノシート13が密着した状態ではなく、一部に空間(空気層)がある状態で積層している。
【0042】
次に、成形された中間生成物を焼結する(工程S12c)。具体的には、成形体を300℃以上400℃以下に加熱する。この加熱温度は、結合材として採用した材料の融点以上である。例えば、Snの融点は230℃である。一方、この加熱温度は、Si、Mg及びMg2Siの融点以下である。中間生成物を加熱すると、融解したSnは、毛細管現象により粉末材料の全体に浸透する。さらに加熱を継続すると、Sn原子はMg2Si層に拡散する。その結果、固体であるMg2Si1-xSnxが生成される。また、Snが添加されている中間生成物を焼結することで、Snが各ナノシート(粉体)間の接着剤としての機能を奏する。そのうえ、Snは、粉体同士を電気的に導通させる機能も奏する。
【0043】
以上の工程S12によって、第1半導体部材2が作製される。
【0044】
<第2工程>
次に、第2工程S20を行う。第2工程S20では、第2半導体部材3を作製する。第2工程S20では、主に準備する材料が第1工程S10と異なる。具体的な各工程(粉体材料の作製、粉体材料の焼結)は、おおむね共通する。
【0045】
第2工程S20は、主要な工程として、粉体材料を作製する工程S21と、粉体材料を焼結する工程S22と、を含む。
【0046】
粉体材料を作製する工程S21を行う。はじめに、材料の混合物を準備する(工程S21a)。粉体のMnCl2(第4原料)と、粉体のNH4Clと、が混合された混合物(MnCl2/NH4Cl)を準備する。さらに、当該混合物(MnCl2/NH4Cl)に粉末のCaSi2(第3原料)を混合することによって第2混合物を得る。これらの材料の割合は、CaSi2:MnCl2:NH4Cl:=10:1:20である。なお、上記の割合は例示であって、MnSi1.7が得られる範囲において適宜設定してよい。例えば、CaSi2:MnCl2:NH4Cl=10:10:20であってもよい。
【0047】
次に、容器に収容する工程S21bと、容器を加熱する工程S21cと、容器を徐冷する工程S21dと、を順次行う。これらの工程S21b、S21c、S21dの条件及び手順は、第1工程S10における工程S11b、S11c、S11dと同様の条件及び手順に従ってよい。
【0048】
以上の工程S21によって、粉体材料が作製される。
【0049】
次に、粉体材料を焼結する工程S22を行う。この工程S22も、第1工程S10と同様に、中間生成物を準備する工程S22aと、中間生成物を圧縮成形する工程S22bと、成形された中間生成物を焼結する工程S22cと、を順次行う。これらの工程S22a、S22b、S22cの条件及び手順は、第1工程S10における工程S12a、S12b、S12cと同様の条件及び手順に従ってよい。
【0050】
以上の工程S22によって、第2半導体部材3が作製される。
【0051】
<第3工程>
次に、第3工程S30を行う。第3工程S30では、連結電極4を形成する。連結電極4となる導電体片の一端に、第1半導体部材2の連結端2aを接合する。さらに、連結電極4となる導電体片の他端に、第2半導体部材3の連結端3aを接合する。この第3工程S30によって、第1半導体部材2を第2半導体部材3に電気的に接続する連結電極4が形成される。
【0052】
<第4工程>
次に、第4工程S40を行う。第4工程S40では、第1出力電極5及び第2出力電極6を形成する。まず、第1出力電極5となる導電体片に、第1半導体部材2の出力端2bを接合する。さらに、第2出力電極6となる導電体片に、第2半導体部材3の出力端3bを接合する。この第4工程S40によって、第1半導体部材2に接続された第1出力電極5と第2半導体部材3に接続された第2出力電極6とが形成される。
【0053】
以上の第1工程S10、第2工程S20、第3工程S30及び第4工程S40を順次実施することにより、
図1に示す熱電変換素子1が得られる。
【0054】
<作用効果>
【0055】
この熱電変換素子1において、第1半導体部材2は、第1金属元素であるマグネシウムとシリコンとにより構成される超格子構造を有する。層状構造である超格子構造によれば、マグネシウムとシリコンとの界面SAにおいて、フォノンの乱れが生じる。フォノンの乱れは、熱移動を阻害する。つまり、熱伝導率が小さくなる。さらに、熱電変換素子1は、当該超格子構造を含むナノシート13が積層された構造を有する。この積層構造は、電気伝導を確保したうえで、熱伝導率をさらに小さくする。これら2つの要因によって熱伝導率が小さくなると、熱電変換素子1の特性を示す無次元性能指数(ZT)が大きくなる。つまり、熱電変換素子1は、電気伝導度を高めることと、熱伝導率を小さくすることと、を両立させ得るので、熱から電力への変換特性をさらに向上させることができる。
【0056】
換言すると、熱電変換素子1は、ナノシート形状シリサイド半導体の内部に、周期1nm程度の超格子を構築する。これにより、熱伝導率と電気伝導率を独立に制御することが可能になる。したがって、電気伝導を維持しながら、熱伝導率が低減した分だけ、熱電変換効率を向上させることができる。
【0057】
熱電変換素子1の第1半導体部材2及び第2半導体部材3において、ナノシート13同士は、電気的に接触する部分15と、互いに離間して空隙を形成する部分16と、を含む。空隙を形成する部分16は、ナノシート13よりも熱伝導率が小さい。したがって、第1半導体部材2及び第2半導体部材3の巨視的な熱伝導率を好適に小さくすることができる。
【0058】
熱電変換素子1において、第1半導体部材2及び第2半導体部材3は、複数のナノシート束11が、互いに電気的に結合された結合部12を含む。この構成によれば、結合部12によってナノシート構造体同士の電気伝導を確実に確保することができる。
【0059】
ところで、ゼ―ベック効果を用いた熱電発電素子は、異種の金属あるいは異種の半導体の両端を接続し、その両端に温度差を与えると起電力が発生する。しかしながら、このような熱電発電素子は熱電変換効率が数%程度であるので、さらなる熱電変換効率の向上が望まれている。また、異種金属を用いた熱電発電素子は、ヒ素(As)やテルル(Te)といった高価なかつ有害な希少重金属を使っていることが多い。そこで、より安価で安全な熱電発電素子が求められている。
【0060】
そこで、本実施形態の熱電変換素子1は、第1半導体部材2の材料としてMgシリサイド(Mg2Si)を採用する。シリコンは安価であるので、熱電変換素子1の材料コストを低減することができる。
【0061】
熱電変換素子1は、様々な用途に用いることが可能である。例えば、船舶の船外機は海水を利用してエンジンを冷却している。このエンジンの冷却部の前後では温度差が約300℃ある。熱電変換素子1は、当該温度差を利用する発電に用いることもできる。例えば、エンジンの冷却部にシート状の熱電変換素子1を設置して電力を発生させる。発生させた電力は、バッテリに蓄電するとよい。その結果、バッテリ及び発電機の小型化が可能になる。したがって、船舶の燃費を向上させることができる。
【0062】
熱電変換素子1は、上記ように船舶だけではなく、四輪車や二輪車、水上バイク、スノーモビルに適用してもよい。熱電変換素子1のこれら移動体への適用は、ハイブリッド化やEV化にも貢献することができる。さらに、熱電変換素子1は、移動体への適用だけでなく、リチウムイオン二次電池用電極や、排気ガス浄化装置の触媒材料に適用することも可能である。
【0063】
本発明は、上記実施形態の態様に限定されることはない。本発明の具体的な実施態様は、特許請求の範囲に記載された内容を逸脱しない範囲において、適宜設定してよい。
【0064】
n型の第1半導体部材2を構成する金属原子として、実施形態ではマグネシウム(Mg)を例示した。第1半導体部材2を構成する金属原子は、Mgに限定されない。例えば、第1半導体部材2を構成する金属原子は、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)から選択されるいずれか一つであってもよい。換言すると、第1半導体部材2を形成するシリサイド半導体材料として、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)の他に、ルテニウムシリサイド(Ru2Si3)、バリウムシリサイド(BaSi2、)、ストロンチウムシリサイド(SrSi2)と、これらの化合物を採用してよい。
【0065】
p型の第2半導体部材3を構成する金属原子として、実施形態ではマンガン(Mn)を例示した。第2半導体部材3を構成する金属原子は、Mnに限定されない。例えば、第2半導体部材3を構成する金属原子は、鉄(Fe)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)から選択されるいずれか一つであってもよい。なお、ルテニウム(Ru)、バリウム(Ba)及びストロンチウム(Sr)は、第1金属元素として用いることもできるし、第2金属元素として用いることもできる。
【符号の説明】
【0066】
1…熱電変換素子、2…第1半導体部材、3…第2半導体部材、4…連結電極、5…第1出力電極、6…第2出力電極、11…ナノシート束(ナノシート構造体)、12…結合部、13…ナノシート。