(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】皮膚中の成分の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
(21)【出願番号】P 2019225454
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克
(72)【発明者】
【氏名】山羽 宏行
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 維章
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061618(WO,A1)
【文献】特開2006-167428(JP,A)
【文献】特開2006-223837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0160244(US,A1)
【文献】特開2018-048984(JP,A)
【文献】特開2007-003413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚中の成分を分析する方法であって、
1)保液性及び離液性を有する三次元構造物に溶媒を含ませて皮膚に貼付する工程、2)
圧搾、吸引、遠心の群から選ばれる1つ又は2つ以上の方法によって三次元構造物中の溶媒を回収することで抽出液を得る工程、3)抽出液中の成分を測定する工程を含むことを特徴とする皮膚中の成分の分析方法。
【請求項2】
保液性及び離液性を有する三次元構造物が布及び/又は紙であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
保液性及び離液性を有する三次元構造物の材質が木綿、レーヨン
(ニトロセルロース製のものは除く)、パルプの群から選ばれる1つ又は2つ以上の材質であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
保液性及び離液性を有する三次元構造物に、該構造物の体積に対して1/50~1/2容量の溶媒を加えることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚中の成分の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚外用剤を開発する上で、皮膚中の成分を測定する技術は、外用剤の吸収や外用剤の効果による保湿成分等の量の変化を確認するために必要である。皮膚中の成分の分析には高速液体クロマトグラフィー装置やガスクロマトグラフィー装置等の分析機器が用いられるが、これらの分析機器で皮膚中の成分を測定するには、皮膚から成分を抽出し、測定試料を調製することが必要となる。
【0003】
従来、皮膚中の成分を測定のために抽出する場合、テープストリップ法により剥離した角層から成分を抽出する方法、カップ法により直接皮膚から成分の溶媒抽出を行う方法が用いられてきた(特許文献1~3、非特許文献1)。テープストリップ法は試料の採取こそ容易に実施できるものの、剥離した角層からの成分の抽出操作は煩雑であるという問題があった。一方カップ法はガラス製の円筒容器を皮膚に押し当て、そこに溶媒を流し込み、皮膚中の成分を直接抽出する方法である。カップ法では得られた皮膚からの抽出液をそのまま測定試料として機器分析にかけることができるが、特別な器具を必要とする、抽出中カップの液が漏れないようしっかり皮膚に押し当て続けることに困難を伴う、カップの形状から皮膚に押し当てたときに皮膚との間に隙間が空かないようにするためには試料採取部位はある程度平らで柔軟な部位に限られる、抽出中はカップの液がこぼれないよう適用部位を水平に保たなければならないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-150835
【文献】特開2010-71917
【文献】特開平11-349470
【非特許文献】
【0005】
【文献】Junichi K. et al.,J. Soc. Cosmet. Chem. Japan,(1983) Vol.16,No.2 pp.119-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特別な器具を必要とせずに実施可能で、試料採取部位の制約が少なく、煩雑な試料調製操作を必要とせずに皮膚中の成分を分析する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、この課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、保液性及び離液性を有する三次元構造物に溶媒を含ませて皮膚に貼付した後、三次元構造物中の溶媒を回収することで皮膚成分の抽出液を調製し、成分を測定できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)皮膚中の成分を分析する方法であって、1)保液性及び離液性を有する三次元構造物に溶媒を含ませて皮膚に貼付する工程、2)三次元構造物中の溶媒を回収することで抽出液を得る工程、3)抽出液中の成分を測定する工程を含むことを特徴とする皮膚中の成分の分析方法である。
【0009】
(2)本発明の分析方法は、保液性及び離液性を有する三次元構造物が布及び/又は紙であることを特徴とする(1)記載の方法である。
【0010】
(3)本発明の分析方法は、保液性及び離液性を有する三次元構造物の材質が木綿、レーヨン、ナイロン、パルプの群から選ばれる1つ又は2つ以上の材質であることを特徴とする(1)記載の方法である。
【0011】
(4)本発明の分析方法は、保液性及び離液性を有する三次元構造物に、該構造物の体積に対して1/50~1/2容量の溶媒を加えることを特徴とする(1)~(3)いずれか1項に記載の方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では保液性及び離液性を有する三次元構造物で溶媒を保持して皮膚からの成分抽出を行うため、カップ法で用いるガラスカップのような特別な器具を必要とせず、また抽出操作中の液漏れ・液垂れの心配もない。さらに溶媒を含んだ保液性及び離液性を有する三次元構造物は溶媒の表面張力により皮膚に貼り付けることができるため、カップ法のようにガラスカップを皮膚に押し当て続ける必要もなく、被験者への負担が少ない。溶媒を含んだ保液性及び離液性を有する三次元構造物は、鉛直面の皮膚にも貼り付けができ、また貼り付け面に合わせて変形も可能であることから試料採取部位の制約が少ない。そして皮膚からの成分抽出操作後、保液性及び離液性を有する三次元構造物から液を回収するだけで抽出液を得ることができるため、簡便である。加えて保液性及び離液性を有する三次元構造物を用いた抽出は従来のガラスカップを用いた抽出よりも皮膚成分の抽出効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】皮膚から界面活性剤水溶液3mLを含ませたコットンパフにて15分間成分の抽出を行い、得た抽出液について高速液体クロマトグラフィー装置を用いてピロリドンカルボン酸の分析を行った時のクロマトグラム画像を表す。
【
図2】皮膚から界面活性剤水溶液3mLを含ませたコットンパフにて15分間成分を抽出した液と界面活性剤水溶液3mLを用いてカップ法にて15分間成分を抽出した液のピロリドンカルボン酸濃度の比較を表す。
【
図3】皮膚から水3mLを含ませたコットンパフにて15分間成分の抽出を行い、得た抽出液について高速液体クロマトグラフィー装置を用いてピロリドンカルボン酸の分析を行った時のクロマトグラム画像を表す。
【
図4】皮膚から界面活性剤水溶液3mLを含ませたコットンパフにて15分間成分を抽出した液と水3mLを含ませたコットンパフにて15分間成分を抽出した液のピロリドンカルボン酸濃度の比較を表す。
【
図5】皮膚から水3mLを含ませたコットンパフにて5分間、10分間、15分間成分を抽出した液のピロリドンカルボン酸濃度の比較を表す。
【
図6】皮膚から水3mL、4.5mL、6mLを含ませたコットンパフにて5分間成分を抽出した液のピロリドンカルボン酸濃度の比較を表す。
【
図7】皮膚から水1mL、2mL、3mLを含ませたコットンパフにて5分間成分を抽出した液のピロリドンカルボン酸濃度の比較を表す。
【
図8】未塗布部位の皮膚から水3mLを含ませたコットンパフにて5分間成分の抽出を行い、得た抽出液について高速液体クロマトグラフィー装置を用いてリン酸アスコルビルマグネシウム(APM)及びアスコルビン酸(VC)の分析を行った時のクロマトグラム画像を表す。
【
図9】APMを含む水溶液を塗布した皮膚から水3mLを含ませたコットンパフにて5分間成分の抽出を行い、得た抽出液について高速液体クロマトグラフィー装置を用いてAPM及びVCの分析を行った時のクロマトグラム画像を表す。
【
図10】未塗布部位の皮膚から2-プロパノール3mLを含ませたコットンパフにて5分間成分の抽出を行い、得た抽出液について高速液体クロマトグラフィー装置を用いてdl-α-トコフェリルリン酸(VEP)及びdl-α-トコフェロール(VE)の分析を行った時のクロマトグラム画像を表す。
【
図11】VEPを含む水溶液を塗布した皮膚から2-プロパノール3mLを含ませたコットンパフにて5分間成分の抽出を行い、得た抽出液について高速液体クロマトグラフィー装置を用いてVEPとVEの分析を行った時のクロマトグラム画像を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の分析方法は、1)保液性及び離液性を有する三次元構造物に溶媒を含ませて皮膚に貼付する工程、2)三次元構造物中の溶媒を回収することで抽出液を得る工程、3)抽出液中の成分を測定する工程を含む。
【0015】
本発明における保液性とは、物体に溶媒を加えたときに体積に対して1/100~1/1容量の溶媒を保持する性質である。
【0016】
本発明における離液性とは、体積に対して1/100~1/1容量の溶媒を保持させた物体が、圧搾、吸引、遠心などの処理によって保持させた溶媒の1/100~1/1容量の溶媒を排出する性質である。
【0017】
本発明における三次元構造物とは、皮膚に貼付する際に、皮膚に水平な面が幅0.1~100cm×奥行0.1~100cm、皮膚に対して垂直方向に厚み0.005~30cmの体積を持つ物体で、幅1~15cm×奥行1~15cm×厚み0.05~3cmの体積が好ましく、さらには幅4~7cm×奥行4~7cm×厚み0.3~1.5cmの体積が好ましい。
【0018】
本発明における保液性及び離液性を有する三次元構造物とは、木綿、麻、羊毛、絹、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、キュプラ、レーヨン、ガラスウール、パルプなどの繊維によって作られた布や紙、天然海綿や発泡ポリウレタンなどの多孔性のスポンジなどで、その構造中に液を保持する間隙を持ち、圧搾、吸引、遠心などにより保持された液を取り出すことのできるものであって、特に限定されないが、化粧用のコットンパフ、脱脂綿、タオル、ろ紙、キッチンペーパーなど液を含んだ際に皮膚に貼りつくもので、皮膚の形に合わせて変形が可能なものが好ましい。また保液性及び離液性を有する三次元構造物は抽出溶媒を含ませ回収した液を高速液体クロマトグラフィー装置やガスクロマトグラフィー装置等の機器分析に供するとき、目的成分にピークが被る物質が含まれないものを選択することが好ましい。
【0019】
本発明における溶媒は、特に限定されないが、水、界面活性剤の水溶液、有機溶媒などが挙げられる。本発明で用いられる界面活性剤は、その構造内に炭素数5~25の脂肪酸、アルキル基、アルカノール基を有する高級脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、(モノ)アルキルリン酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、Nメチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル・塩酸塩などが挙げられる。本発明で用いられる有機溶媒は、1,2-ジクロロエチレン、二硫化炭素、アセトン、アセチルアセトン、アセトニトリル、エタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-プロパノール、2-プロパノール、3-メチル-1-ブタノール、ベンジルアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルアルコール、t-ブチルメチルエーテル、2-エトキシエタノール、酢酸2-エトキシエチル、2-ブトキシエタノール、2-メトキシエタノール、o-ジクロロベンゼン、キシレン、クレゾール、クロロベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸3-メチルブチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ヘプタン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,1,1-トリクロロエタン、トルエン、ヘキサン、1-ブタノール、2-ブタノール、(±)-2-メチル-1-ブタノール、メタノール、2-ブタノン、2-メチルシクロヘキサノール、3-エトキシ-1-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチルペンタン、2-メチルシクロヘキサノン、(±)-3-メチルシクロヘキサノン、2-ヘキサノン、ガソリン、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ケロシン、ベンゼン、エチルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、1,4―ジオキサン、1,2―ジクロロエタン、1,2―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、ジクロロアセトニトリル、スチレン、1,1,2,2―テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、4-メチル-2-ペンタノン、ピリジン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。水、界面活性剤の水溶液、有機溶媒などの溶媒は2種類以上の溶媒を混合して使用してもよい。本発明における皮膚中の水溶性物質の抽出には、水又は界面活性剤の水溶液等の水系の溶媒、脂溶性物質の抽出には2-プロパノール等の有害性が低く揮発性の低い有機溶媒が特に好ましい。
【0020】
本発明における溶媒の量は、保液性及び離液性を有する三次元構造物の保持できる液量までの間で自由に選択可能であるが、液量が少なすぎても抽出後に液を取り出すことが困難となり、液量を増やしても抽出液の濃度が低下する又は溶媒の液だれが生じる可能性があるため、該構造物の体積に対して、1/100~1/1容量が好ましく、さらには1/50~1/2容量が好ましい。
【0021】
本発明における皮膚成分の抽出時間は、特に限定されないが、溶媒が乾き、抽出液が絞れなくなる前に抽出を終えなければならないこと、抽出時間を延長することによる抽出される成分量に大きな差はないことから1~60分が好ましく、さらには5~15分が好ましい。
【0022】
本発明における保液性及び離液性を有する三次元構造物から抽出液を取り出す方法は、特に限定されないが、圧搾、吸引、遠心などの方法が挙げられる。メンブレンフィルターをセットしたシリンジに抽出操作後の保液性及び離液性を有する三次元構造物を入れて、機器分析用の試料バイアルに抽出液を絞り出すことで、迅速な分析試料の調製が可能である。
【0023】
本発明における抽出液中の成分を測定する方法は、特に限定されないが、成分の抽出液又は抽出液を濃縮、希釈、乾固、再溶解したものについて、必要に応じて成分の分解、誘導体化、複合体化、呈色、増幅を行ったものを試料として、必要に応じて高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、ペーパークロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどによる分離を行い、重量測定、紫外・可視分光光度測定、赤外分光光度測定、近赤外分光光度測定、蛍光光度測定、屈折率測定、水素炎イオン化検出、質量分析、誘導結合プラズマ発光分光分析、炎光光度測定、原子吸光光度測定、蛍光X線分析、滴定、デンシトメトリーなどの手法にて測定する方法が挙げられ、成分の抽出液を高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーを用いて分離し、紫外・可視分光光度測定、蛍光光度測定、水素炎イオン化検出、質量分析によって測定する方法が好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1 コットンパフを用いた皮膚中のピロリドンカルボン酸の抽出(本願発明)
被験者の前腕内側部を洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位にコットンパフ(綿製、6.5cm×5cm×0.7cm、日本メナード化粧品)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで0.15%台所用合成洗剤(界面活性剤としてα-オレフィンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドを13%含む、ライオン)水溶液3mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。15分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例1の検液とした。
【0026】
比較例1 カップ法による皮膚中のピロリドンカルボン酸の抽出(従来法)
カップ法による抽出操作の条件は先行文献を参考にした。(特許文献3)
被験者の前腕内側部を洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位から0.15%台所用合成洗剤(界面活性剤としてα-オレフィンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドを13%含む、ライオン)水溶液3mLを用い、カップ法にて15分間抽出した液を比較例1の検液とした。
【0027】
(抽出されたピロリドンカルボン酸の分析)
前腕内側部からの抽出液を検液とし、高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。検液中のピロリドンカルボン酸は、Unison UK-C18(3μm、150mm×4.6mm、インタクト)カラムを用いて、0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH2.6)とアセトニトリル/水(4:1)混液のグラジエント条件で溶離し、波長200nmにてピークの検出を行った。
【0028】
結果を
図1~2に示す。
図1は0.15%台所用合成洗剤水溶液3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に15分間貼付したものから絞った液の分析結果を示す。この結果から、皮膚から抽出されたピロリドンカルボン酸が検出されていることがわかる。
図2は0.15%台所用合成洗剤水溶液3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に15分間貼付したものから絞った液、0.15%台所用合成洗剤水溶液3mLを用いてカップ法にて15分間抽出した液中のピロリドンカルボン酸を定量した結果を示す。コットンパフを用いて抽出を行ったときの方がカップ法で抽出を行った時よりも抽出液のピロリドンカルボン酸濃度が高かった。この結果から、コットンパフを用いた抽出法(本願発明)はカップ法(従来法)よりも抽出効率が高いことがわかる。
【0029】
実施例2 コットンパフを用いた皮膚中のピロリドンカルボン酸抽出における抽出溶媒の検討
(水又は界面活性剤水溶液での皮膚中のピロリドンカルボン酸の抽出と分析)
被験者の前腕内側部を洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位にコットンパフ(綿製、6.5cm×5cm×0.7cm、日本メナード化粧品)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで0.15%台所用合成洗剤(界面活性剤としてα-オレフィンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドを13%含む、ライオン)水溶液又は水3mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。15分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例2の検液とした。これらの抽出液について実施例1と同条件にて高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。
【0030】
結果を
図3~4に示す。
図3は水3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に15分間貼付したものから絞った液の分析結果を示す。
図4は0.15%台所用合成洗剤水溶液3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に15分間貼付したものから絞った液、水3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に15分間貼付したものから絞った液中のピロリドンカルボン酸を定量した結果を示す。コットンパフを用いた皮膚成分の抽出において、水を抽出溶媒とすると、界面活性剤を使用した時よりも濃度は減少するものの、ピロリドンカルボン酸は抽出されていた。この結果から、抽出溶媒を水としても、十分に分析が可能な濃度でピロリドンカルボン酸を皮膚から抽出できることがわかる。界面活性剤は皮膚に荒れを引き起こす恐れがあるため、このように水を用いて十分に分析が可能な濃度で目的成分を抽出できる場合には水を抽出溶媒としてもよい。
【0031】
実施例3 コットンパフを用いた皮膚中のピロリドンカルボン酸抽出における抽出時間の検討
(皮膚中のピロリドンカルボン酸の5~15分間の抽出と分析)
被験者の前腕内側部を洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位にコットンパフ(綿製、6.5cm×5cm×0.7cm、日本メナード化粧品)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで水3mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。5分後、10分後、15分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例3の検液とした。これらの抽出液について実施例1と同条件にて高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。
【0032】
結果を
図5に示す。
図5は水3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液、10分間貼付したものから絞った液、15分間貼付したものから絞った液中のピロリドンカルボン酸を定量した結果を示す。抽出時間を5分間としても15分間の抽出を行った時の7割以上の濃度のピロリドンカルボン酸を抽出できていた。この結果から、抽出時間を5分間としても、十分に分析が可能な濃度でピロリドンカルボン酸を皮膚から抽出できることがわかる。試験を行う際の被験者負担を軽減するためには拘束時間は短い方が好ましいため、このように5分間の抽出においても十分に分析が可能な濃度で目的成分を抽出できる場合には抽出時間を5分間としてもよい。
【0033】
実施例4 コットンパフを用いた皮膚中のピロリドンカルボン酸抽出における抽出溶媒量の検討-1
(皮膚中のピロリドンカルボン酸の3~6mLの水での抽出と分析)
被験者の前腕内側部を洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位にコットンパフ(綿製、6.5cm×5cm×0.7cm、日本メナード化粧品)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで水3mL、4.5mL、6mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。5分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例4の検液とした。これらの抽出液について実施例1と同条件にて高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。
【0034】
結果を
図6に示す。
図6は水3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液、水4.5mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液、水6mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液中のピロリドンカルボン酸を定量した結果を示す。抽出に使用した水の量が4.5mLや6mLの時は、3mLの時よりも抽出液のピロリドンカルボン酸濃度は低かった。抽出液を濃縮せずにそのまま高速液体クロマトグラフィー装置やガスクロマトグラフィー装置等による機器分析に供する上では、より高濃度の抽出液を得られることが好ましく、本実施例で検討した条件の中では抽出溶媒量は3mLが最も好ましかった。
【0035】
実施例5 コットンパフを用いた皮膚中のピロリドンカルボン酸抽出における抽出溶媒量の検討-2
(皮膚中のピロリドンカルボン酸の1~3mLの水での抽出と分析)
被験者の前腕内側部を洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位にコットンパフ(綿製、6.5cm×5cm×0.7cm、日本メナード化粧品)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで水1mL、2mL、3mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。5分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例5の検液とした。これらの抽出液について実施例1と同条件にて高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。
【0036】
結果を
図7に示す。
図7は水1mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液、水2mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液、水3mLを含ませたコットンパフを前腕内側部に5分間貼付したものから絞った液中のピロリドンカルボン酸を定量した結果を示す。抽出に使用した水の量が2mLの時は、3mLの時よりも抽出液のピロリドンカルボン酸濃度は低かった。抽出に使用した水の量が1mLの時は、3mLの時の抽出液のピロリドンカルボン酸濃度とほとんど差はなかった。抽出に使用した水の量が1mLの時は、液量が少ないことにより抽出液をコットンパフから絞り出すことが困難であった。これらのことから本実施例で検討した条件の中では抽出溶媒量は3mLが最も好ましかった。
【0037】
実施例6 皮膚に塗布したリン酸アスコルビルマグネシウム(APM)と皮膚中で生成したアスコルビン酸(VC)の抽出
(試料の塗布及び皮膚中の水溶性成分の抽出)
被験者の前腕内側部に1%APMを含む水溶液を塗布し、3時間後に洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、同部位にコットンパフ(綿製、6.5cm×5cm×0.7cm、日本メナード化粧品)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで水3mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。5分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例6の検液とした。コントロールは、未塗布部位にて同じ実験を行った。
【0038】
(抽出されたAPMとVCの分析)
前腕内側部からの抽出液を検液とし、高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。検液中のAPMとVCは、Develosil C30-UG-5(5μm、250mm×4.6mm、野村化学)カラムを用いて、0.01mol/Lリン酸二水素ナトリウム水溶液/リン酸(1000:1)混液で溶離し、波長237nmにてピークの検出を行った。
【0039】
結果を
図8~9に示す。APMは皮膚中でフォスファターゼによる分解を受けてVCを生成し、活性酸素の除去等の有効性を発することが知られている。
図8は未塗布部位からの抽出液の分析結果、
図9は1%APMを含む水溶液塗布部位からの抽出液の分析結果を示す。この結果から、試料の塗布により皮膚からAPMとVCが検出されるようになることがわかる。このように皮膚中で有効成分を生成する物質を含む液を塗布してから皮膚中の成分を抽出し、分析することにより、塗布した物質の皮膚への浸透と皮膚での有効成分の生成を確認することができる。
【0040】
実施例7 皮膚に塗布したdl-α-トコフェリルリン酸ナトリウム(VEP)と皮膚中で生成したdl-α-トコフェロール(VE)の抽出
(試料の塗布及び皮膚中の脂溶性成分の抽出)
被験者の前腕内側部に1%VEPを含む水溶液を塗布し、3時間後に洗顔料にて10~30秒間洗浄し、軽く水気をふき取った後、コットンパフ(レーヨン製、6.5cm×5cm×0.9cm、ユニ・チャーム)を乗せ、コットンパフの中心部からマイクロピペットで2-プロパノール3mLを加え、マイクロピペットのチップ部分で軽く押さえることによりコットンパフを皮膚に密着させた。5分後、メンブレンフィルター(親水性PTFEメンブレン、孔径0.45μm、直径13mm、島津ジーエルシー)をセットした10mLシリンジ(ニプロ)にコットンパフを移し入れ、バイアルに絞り出した液を実施例7の検液とした。コントロールは、未塗布部位にて同じ実験を行った。
【0041】
(抽出されたVEPとVEの分析)
前腕内側部からの抽出液を検液とし、高速液体クロマトグラフィー装置による分析を行った。検液中のVEPとVEは、Develosil ODS-HG-5(5μm、250mm×4.6mm、野村化学)カラムを用いて、0.01mol/L酢酸ナトリウムを含むメタノール/水(100:1)混液で溶離し、波長287nmにてピークの検出を行った。
【0042】
結果を
図10~11に示す。VEPは皮膚中でフォスファターゼによる分解を受けてVEを生成し、活性酸素の除去等の有効性を発することが知られている。
図10は未塗布部位からの抽出液の分析結果、
図11は1%VEPを含む水溶液塗布部位からの抽出液の分析結果を示す。この結果から、試料の塗布により皮膚からVEPとVEが検出されるようになることがわかる。脂溶性のVEは、水では抽出することはできないが、2-プロパノールのような有機溶媒を使用することで皮膚から抽出することができる。このように皮膚中で脂溶性の有効成分を生成する物質を含む液についても、塗布してから皮膚中の成分を有機溶媒で抽出し、分析することにより、塗布した物質の皮膚への浸透と皮膚での有効成分の生成を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、特別な器具を必要とせずに実施可能で、試料採取部位の制約が少なく、煩雑な試料調製操作を必要とせずに皮膚中の成分を分析する方法を提供することができる。