(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】振動プローブおよび計測装置
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01H17/00 D
(21)【出願番号】P 2021019127
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000137889
【氏名又は名称】株式会社ミヤワキ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成雄
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-227700(JP,A)
【文献】実開昭61-019731(JP,U)
【文献】実開平01-067537(JP,U)
【文献】特開昭59-120923(JP,A)
【文献】特開2016-011904(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111256575(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01H 1/00 - 1/16
G01H 11/08
G01M 99/00
G01K 1/00 - 19/00
F16T 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を有するとともに、計測対象物の表面に先端が直に当接される探触棒と、
前記探触棒の前記先端から入力される前記計測対象物の振動に基づく電気信号を生成する振動センサと、
柱状の外観形状を有し、前記探触棒と前記振動センサとの間に介挿されるとともに、前記探触棒の前記先端から入力された前記振動を前記振動センサに伝達可能なように前記探触棒および前記振動センサと接合される台座部と、
を備える振動プローブであって、
該振動プローブに対しては、前記計測対象物の表面温度を計測する温度プローブ
が付随して設けられており、
前記温度プローブは、前記表面温度の計測時において、前記計測対象物の表面に先端が当接されるとともに、前記探触棒に並ぶ状態で延びるように配される筒状のハウジングと、前記ハウジング内を配策され、前記ハウジングの前記先端の近傍で互いに接合された2本の熱電対素線と、を備え、
前記ハウジングは、当該ハウジングにおける前記先端とは反対側の他端部
が前記台座部に接合されて
いるとともに、
前記計測対象物の表面と前記台座部との間において、前記探触棒に対して並列となるように、前記台座部に接合された付属部材として設けられており、
前記探触棒、前記台座部、および前記付属部材は、それぞれが一体の部材で構成されており、
前記探触棒および前記ハウジングのそれぞれは、前記台座部に対して外嵌された状態で外周側からビス止めされることで接合されている、
振動プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の振動プローブにおいて、
前記ハウジングは、前記探触棒と非接触の状態で、前記探触棒の筒内中空部に配されている、
振動プローブ。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の振動プローブにおいて、
前記振動センサが生成する前記電気信号は、1kHz~20kHzの周波数帯域において、互いに共振周波数が異なる3つのピークを有する波形の信号であり、
前記3つのピークは、9kHz~11kHzの範囲内に共振周波数を有する第1ピークと、前記第1ピークの前記共振周波数よりも低い周波数帯域内に共振周波数を有する第2ピークと、前記第1ピークの前記共振周波数よりも高い周波数帯域内に共振周波数を有する第3ピークとで構成されている、
振動プローブ。
【請求項4】
計測対象物の振動の強度を計測する計測装置であって、
請求項1から
請求項3の何れかに記載の振動プローブを備える、
計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動プローブおよび計測装置に関し、特に、蒸気や復水が流れるスチーム配管やスチームトラップ等を計測対象とする計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気が流通する配管設備から復水(ドレン)のみを排出する用途に用いられるスチームトラップが知られている。また、当該スチームトラップやその入り口部分のスチーム配管の振動の強度および表面温度を計測し、それらの相互関係から蒸気漏れの有無を診断することが行われている。このような診断には、スチームトラップ等の振動の強度を計測するための振動プローブと、スチームトラップ等の表面温度を計測するための温度センサとを備える計測装置が用いられる。
【0003】
ここで、計測装置としては、作業者が携帯する可搬タイプのものと、スチームトラップ等に振動プローブや温度センサが固定された設置タイプのものとがある。特許文献1には、可搬タイプの計測装置が開示され、特許文献2には、設置タイプの計測装置が開示されている。例えば、特許文献2に開示の計測装置における振動プローブは、一端が計測対象物に当接される検出針と、検出針の他端が接合される伝達板と、伝達板における検出針とは反対側の主面に接合される振動センサとを有する。また、温度プローブは、円環形状の板材で形成され、振動プローブにおける検出針の上記一端の周りを囲むように配される接触板と、接触板に各一端が接続され、各他端が回路基板に接続された2本の熱電対線とを有する。
【0004】
特許文献1,2に開示の計測装置では、振動プローブにおける検出針の上記一端と、温度プローブにおける接触板とが計測対象物の表面に当接されることで、計測対象物における当接部分での振動の強度と表面温度とを計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-215267号公報
【文献】特許第6439085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スチームトラップ等における蒸気漏れの有無を診断するために用いられる上記のような計測装置では、検出針から入力された振動を音として捉え、振動センサで電気信号に変換される。そして、振動センサで変換された電気信号は、当該信号を演算処理する回路基板に送られる。回路基板では、振動センサから送られた電気信号を振幅値として読み取り、A/D変換後に積分して、蒸気信号として振動の強度が算出される。
【0007】
しかしながら、従来技術に係る計測装置では、振動センサで生成される電気信号(蒸気信号)が1つまたは2つのピークしか有さない波形であり、当該波形を積分して得られる積分値が小さく計測精度が低いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、高い計測精度をもって計測対象物の振動の強度を計測することができる振動プローブおよび計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る振動プローブは、探触棒と、振動センサと、台座部と、を備える。前記探触棒は、筒形状を有するとともに、計測対象物の表面に先端が直に当接される。前記振動センサは、前記探触棒の前記先端から入力される前記計測対象物の振動に基づく電気信号を生成する。前記台座部は、柱状の外観形状を有し、前記探触棒と前記振動センサとの間に介挿されるとともに、前記探触棒の前記先端から入力された前記振動を前記振動センサに伝達可能なように前記探触棒および前記振動センサと接合される。
本態様に係る振動プローブに対しては、前記計測対象物の表面温度を計測する温度プローブが付随して設けられている。前記温度プローブは、前記表面温度の計測時において、前記計測対象物の表面に先端が当接されるとともに、前記探触棒に並ぶ状態で延びるように配される筒状のハウジングと、前記ハウジング内を配策され、前記ハウジングの前記先端の近傍で互いに接合された2本の熱電対素線と、を備える。前記ハウジングは、当該ハウジングにおける前記先端とは反対側の他端部が前記台座部に接合されているとともに、前記計測対象物の表面と前記台座部との間において、前記探触棒に対して並列となるように、前記台座部に接合された付属部材として設けられている。そして、本態様に係る振動プローブでは、前記探触棒、前記台座部、および前記付属部材は、それぞれが一体の部材で構成されている。
また、本態様に係る振動プローブにおいて、前記探触棒および前記ハウジングのそれぞれは、前記台座部に対して外嵌された状態で外周側からビス止めされることで接合されている。
【0010】
上記態様に係る振動プローブでは、計測対象物の振動強度の計測時において、計測対象物の表面と振動センサとの間における振動の伝達経路に、探触棒と付属部材と台座部との3つの部材が介在した状態となる。このため、上記態様に係る振動プローブから出力される電気信号においては、3つのピークを少なくとも備える波形を得ることができる。よって、上記態様に係る振動プローブから出力される電気信号をA/D変換し、当該変換後のデータを積分した場合には、2つ以下のピークしか有さない波形に比べて大きな積分値を確保することができる。これより、上記態様に係る振動プローブを用いる場合には、高い計測精度を実現することができる。
【0012】
また、上記態様に係る振動プローブでは、温度プローブのハウジングを上記付属部材として採用する。よって、振動の強度の計測精度を高めるために、余計な部材を設ける必要がなく、振動プローブの大型化を抑制することができ、また、製造コストの上昇も抑制することができる。
【0013】
上記態様に係る振動プローブにおいて、前記ハウジングは、前記探触棒と非接触の状態で、前記探触棒の筒内中空部に配されていてもよい。
【0014】
上記態様に係る振動プローブでは、探触棒の筒内中空部に温度プローブのハウジングが収容されている。よって、上記態様に係る振動プローブを用いれば、計測対象物における表面温度の計測箇所と略同一の箇所で振動の強度を計測することができ、スチームトラップ等における蒸気漏れの有無の診断を高い精度で行うのに優位である。
【0018】
上記態様に係る振動プローブにおいて、前記振動センサが生成する前記電気信号は、1kHz~20kHzの周波数帯域において、互いに共振周波数が異なる3つのピークを有する波形の信号であってもよい。そして、前記3つのピークは、9kHz~11kHzの範囲内に共振周波数を有する第1ピークと、前記第1ピークの前記共振周波数よりも低い周波数帯域内に共振周波数を有する第2ピークと、前記第1ピークの前記共振周波数よりも高い周波数帯域内に共振周波数を有する第3ピークとで構成されていてもよい。
【0019】
上記態様に係る振動プローブにおいて、振動センサで生成される電気信号は、1kHz~20kHzの範囲内に互いに共振周波数が異なる3つのピークを有する波形の信号である。なお、1kHz~20kHzの周波数帯域は、スチームトラップやスチーム配管等からの蒸気漏れの有無を診断するのに観察が必要となる範囲である。
【0020】
蒸気や復水(ドレン)の何れか一方が流れるスチームトラップ等の計測対象物においてその振動を計測する場合に、10kHz付近の振動周波数を調べることで、計測対象物内を流れる流体が蒸気であるか否かを比較的高い精度で判別できることが知られている。そして、上記態様に係る振動プローブの振動センサで生成される電気信号の波形には、9kHz~11kHz(10kHz付近)に共振周波数を有する第1ピークが含まれる。このため、上記態様に係る振動プローブでは、計測対象物内を流れる流体が蒸気であるか否かを高い精度で判別するのに有用である。
【0021】
また、上記態様に係る振動プローブの振動センサで生成される電気信号の波形には、1kHz~20kHzの周波数帯域に、第1ピークの他に第2ピークおよび第3ピークを有する。このように波形に3つのピークが現れるのは、計測対象物の表面と振動センサとの間の振動伝達経路に、探触棒および台座部の他に付属部材が介在していることに起因している。即ち、計測対象物の表面と振動センサとの間の振動伝達経路に3つの部材が介在しているので、波形に3つのピークが現れる。よって、上述のように、1Khz~20kHzの周波数帯域における電気信号を積分した場合に、1つのピークや2つのピークしか有さない信号に比べて、大きな積分値を得ることができる。これによっても、計測対象物内を流れる流体が蒸気であるか否かを高い精度で判別するのに有用である。
【0022】
本発明の一態様に係る計測装置は、計測対象物の振動の強度を計測する計測装置である。本態様に係る計測装置は、上記の何れかの態様に係る振動プローブを備える。
【0023】
上記態様に係る計測装置では、上記の何れかの態様に係る振動プローブを備えるので、上述のような効果をそのまま得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
上記の各態様では、高い計測精度をもって計測対象物の振動の強度を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る計測装置の構成を示す正面図である。
【
図3】
図2のIII-III線断面を示す断面図である。
【
図4】振動の強度を算出するための制御系統を示すブロック図である。
【
図5】回路基板に入力される蒸気信号の波形を示すグラフである。
【
図6】比較例に係る計測装置で得られる蒸気信号の波形を示すグラフである。
【
図7】変形例に係る計測装置のプローブの構成を示す図であって、(a)は側面図、(b)はその一部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0027】
1.計測装置1の構成
本実施形態に係る計測装置1の構成について、
図1を用いて説明する。
【0028】
図1に示すように、計測装置1は、扁平直方体形状を有する筐体部10と、筐体部10の上面10aからY方向外向き(上向き)に突出形成されたプローブ11とを備える。なお、本実施形態に係る計測装置1は、蒸気や復水(ドレン)が流れるスチームトラップやスチーム配管等の計測対象物の状態を検出し、その結果を診断装置(図示を省略。)に無線送信するものである。そして、計測装置1は、計測対象物であるスチームトラップ等の振動の強度および表面温度を計測するための可搬タイプの装置である。
【0029】
筐体部10は、計測時に作業者が把持する部位である。作業者は、計測時において、例えば、側面10bなどを把持する。筐体部10の前面(
図1の紙面手前側の面)には、上面10aに近い部分に表示部12が設けられ、表示部12が設けられた部分よりも下方の部分に各種スイッチ13~17および電源インジケータ18が設けられている。
【0030】
表示部12は、例えば、液晶ディスプレイパネル(LCDパネル)で構成されており、計測結果(振動の強度、表面温度)や、当該計測結果に基づく診断結果などの各種情報が表示される。
【0031】
各種スイッチ13~17は、計測装置1の電源をON/OFFするための電源スイッチ、各種コマンドを選択・実行するためのコマンドスイッチ、データ表示などの送り/戻しを行うためのスクロールスイッチなどである。
【0032】
また、筐体部10の内部には、コントローラを構成する回路基板19が収容されている。コントローラは、MPU/CPU、ASIC、ROM,RAM等を含むマイクロプロセッサと、メモリとを有して構成されている。コントローラは、メモリに予め格納されたファームウェア等を実行することにより、プローブ11で検出された振動の強度および表面温度の各情報を演算処理する。演算処理された信号は、診断装置に送信される。また、コントローラは、診断装置からの診断結果を受信するとともに、当該診断結果を表示部12に表示させる機能も有する。
【0033】
2.プローブ11の構成
プローブ11の構成について、
図2および
図3を用いて説明する。
【0034】
図2および
図3に示すように、プローブ11は、計測対象物であるスチームトラップ等の振動の強度を検出するための振動プローブ111と、スチームトラップ等の表面温度を検出するための温度プローブ117とを有する。振動プローブ111は、スチームトラップ等からの振動の入力を受ける探触棒112と、探触棒112に入力された振動の強度に応じて信号を出力する振動センサ(例えば、圧電型加速度センサ)114と、探触棒112と振動センサ114との間に介挿され、探触棒112および振動センサ114が固定される台座部113とを有する。
【0035】
探触棒112は、筒軸に沿って延びる円筒形の金属製パイプであって、例えば、ステンレス鋼からなるパイプで構成されている。探触棒112における開口112cの周りを囲む端面112bがスチームトラップ等の表面に押し当てられる部位(先端)である。探触棒112は、外径がD1、内径がD2、肉厚がtで形成されている。
【0036】
台座部113は、振動センサ114が固定された側から順に、大径部113a、中径部113b、小径部113cを有する。台座部113は、例えば、ステンレス鋼から形成されており、大径部113a、中径部113b、および小径部113cが一体に形成されている。
【0037】
台座部113における中径部113bの外径は、探触棒112の内径D2と略同等、または内径D2よりも若干大きく設定されている。探触棒112は、台座部113の中径部113bに外嵌され、当該探触棒112の筒端(
図3の右側端部)が台座部113における大径部113aの面(
図3の左側の面)に突き当てられた状態で、外側からビス115により固定されている。なお、台座部113における大径部113aおよび中径部113bは、筐体部10における上面10a(
図1を参照。)よりも筐体部10の内方に収容された状態となっている。
【0038】
振動センサ114は、圧電素子として圧電型セラミックスが使用された圧電型加速度センサにより構成されている。振動センサ114は、台座部113における大径部113aの後端面113dにビス116により固定されている。これにより、探触棒112の端面112bから入力されたスチームトラップ等の振動は、探触棒112および台座部113を介して振動センサ114に入力される。
図2に示すように、振動センサ114には、筐体部10の内方に収容された回路基板19に対して配線123により接続されている。振動センサ114は、入力された振動の強度に応じた電気信号を生成し、配線123を通じて回路基板19に当該電気信号を出力する。
【0039】
温度プローブ117は、振動プローブ111における探触棒112の筒内中空部112a内に配置されている。具体的に、温度プローブ117は、探触棒112の筒内中空部112aの径方向の略中心部に、探触棒112の内周面に対して非接触の状態で配置されている。温度プローブ117は、ハウジング118と、熱電対素線119,120と、接触板122とを有する。ハウジング118は、円筒形状を有し、筒軸が探触棒112と同軸となるように配されている。なお、本実施形態では、ハウジングは、例えば、ステンレス鋼からなるパイプで構成されている。
【0040】
熱電対素線119,120は、ハウジング118の筒内中空部118aで配策されている。接触板122は、図示を省略する弾性部材により、ハウジング118の筒内中空部118a側から外側に向けて付勢されている。接触板122は、外部から力が付加されていない自然状態において、ハウジング118の開口および探触棒112の開口112cから外方に突出しており、外力を受けることで内方に押し込まれるように構成されている。このため、温度プローブ117のハウジング118についても、スチームトラップ等の表面に当接または近接し、スチームトラップ等の振動が入力される。
【0041】
なお、熱電対素線119,120は、例えば、一方がクロメル線であり、他方がアルメル線で構成されている。熱電対素線119,120は、それぞれがガラス繊維やフッ素樹脂等の被覆材によって被覆されている。熱電対素線119と熱電対素線120とは、各一端同士が接触板122の同じ位置で接合されている(接合部121)。これにより、接触板122によって熱電対素線119,120を含む熱電対の測温接点が構成されている。そして、接触板122の外側の主面122aがスチームトラップ等の表面に当接することで、スチームトラップ等の表面温度が検出される。そして、
図2および
図3に示すように、温度プローブ117において、熱電対素線119,120は、台座部113に形成された溝部113eを通り配線124に接続されている。温度プローブ117で検出されたスチームトラップ等の表面温度に関する信号は、当該配線124を通じて回路基板19に出力される。
【0042】
ハウジング118は、接触板122が出没可能とされた開口とは反対側の開口に台座部113の小径部113cが嵌入され、ビス125により固定されている。これにより、台座部113には、振動センサ114と、探触棒112と、ハウジング118とが一体に結合されている。
【0043】
3.振動プローブ111の具体的構成
蒸気および復水(ドレン)の何れか一方が流れるスチームトラップ等の計測対象物においてその振動を計測した場合、計測対象物を流れる流体が蒸気であるか否かによって、特定の周波数成分の振動強度が大きく異なり、特に、10kHz付近の振動周波数を調べることで、計測対象物内を流れる流体が蒸気であるか否かを比較的高い精度で判別できることが知られている(特開2016-011904号公報)。
【0044】
そのため、スチームトラップ等の蒸気漏れの有無の診断を行う場合に使用する計測装置1の振動プローブ111については、10kHz付近の振動強度を高い精度をもって計測できるように振動プローブ111を構成することが重要となる。
【0045】
以上の知見を基に、振動プローブ111を次のような構成を有するようにすることが重要であることを見出した。
【0046】
図3に示す、振動プローブ111の各値について、次の関係式を満たすように設定することができる。
f=C×(D1/L2) ・・(式1)
上記の関係式において、fは共振周波数、Cは構成材料が有する振動加速度であり、D1、L1は
図3に示す各値である。
【0047】
また、本願発明者は、鋭意検討を重ね、
図3に示すように探触棒112が筒内中空部112aを有する円筒体であり、内径がD2である場合には、形状係数βを考慮して、上記関係式1を次のように変形することができるとの知見を得た。なお、形状係数βは、長さL1に占める中空部分の長さL2の割合に応じて設定される値である。
f=C×((D1-D2)/L1)×β ・・(式2)
本実施形態では、探触棒112を一例としてステンレス鋼で形成する場合に、細径化と強度とのバランスを確保しつつ共振周波数が10kHz付近となるように、上記の関係式2に基づいて、振動プローブ111の各値L1,L2,D1,D2を設定することができる。
【0048】
なお、振動プローブ111における探触棒112をステンレス鋼以外の金属材料で形成する場合にも、用いるCの値が異なることとなるが、上記の関係式2に基づいて各値L1,L2,D1,D2を設定することができる。
【0049】
4.計測装置1における振動の強度を算出するための制御系統
計測装置1における振動の強度を算出するための制御系統について、
図4を用いて説明する。なお、
図4では、表面温度の算出のための制御系統については図示を省略している。
【0050】
図4に示すように、計測装置1の回路基板19には、A/D変換部191と、信号増幅部192と、積分値算出部193と、振動強度算出部194とを有する。A/D変換部191は、振動センサ114から配線123を介して入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する部位である。信号増幅部192は、A/D変換されたデジタル信号の振幅を増幅する部位である。積分値算出部193は、所定の周波数域における信号の積分値を算出する部位である。振動強度算出部194は、積分値算出部193で算出された積分値を用いてスチームトラップ500の振動の強度を算出する部位である。
【0051】
本実施形態に係る計測装置1では、スチームトラップ500の振動の強度および表面温度を計測する場合に、スチームトラップ500の表面500aに対して探触棒112の端面(先端)112bとハウジング118の先端とが当接する。このため、矢印で示すように、探触棒112およびハウジング118の両方を振動が伝達される。換言すると、計測装置1では、スチームトラップ500の表面500aと振動センサ114との間の振動の伝達経路において、探触棒112と、台座部113と、温度プローブ117のハウジング118との2つの部材が介在することとなる。なお、本実施形態に係るハウジング118は、「付属部材」に該当する。そして、振動の伝達経路において、ハウジング118は、探触棒112に対して並列に配され、台座部113に対して直列に配されている。
【0052】
5.蒸気信号の波形
回路基板19に入力される蒸気信号(電気信号)の波形について、
図5および
図6を用いて説明する。
図5は、本実施形態に係る計測装置1における蒸気信号の波形であり、
図6は、比較例に係る計測装置における蒸気信号の波形である。なお、比較例に係る計測装置は、上記特許文献2に開示されているような、中実で長尺状の検出針と、振動センサとの間に板状の接触板が介挿された構造のものである。
【0053】
図5に示すように、本実施形態に係る計測装置1では、スチームトラップ500における蒸気漏れの有無を診断するのにあたり考慮が必要な1kHz~20kHzの周波数帯域において、3つのピークを有する蒸気信号の波形が得られた。具体的には、共振周波数Rf1(10kHz付近の周波数)で振幅が最も高いE1、共振周波数Rf2(8kHz付近の周波数)で振幅が次に高いE2、共振周波数Rf3(14kHz付近の周波数)で3番目に高いE3となっている。なお、共振周波数がRf1のピークが「第1ピーク」、共振周波数がRf2のピークが「第2ピーク」、共振周波数がRf3のピークが「第3ピーク」に該当する。
【0054】
このように、本実施形態に係る計測装置1では、スチームトラップ500の表面500aと振動センサ114との間の振動の伝達経路において、探触棒112および台座部113に加えて、付属部品としてのハウジング118を配することで、3つのピークを有する波形を得ることができる。
【0055】
一方、
図6に示すように、比較例に係る計測装置では、1kHz~20kHzの周波数帯域において、2つのピークを有する蒸気信号の波形が得られた。具体的には、共振周波数Rf91(Rf1よりも低い周波数)で振幅が最も高いE91、共振周波数Rf92(Rf1よりも高い周波数)で振幅が低いE92となっている。そして、
図6に示すように、比較例の波形では、スチームトラップ500における蒸気漏れの有無を診断するのに重要となる共振周波数がRf1(10kHz付近)においてピークが存在しない。このような波形は、上記の関係式1,2が考慮されていないことが原因であると考えられる。そして、1kHz~20kHzの周波数帯域に2つのピークしか有さないのは、比較例に係る計測装置においてはスチームトラップの表面と振動センサとの間の振動の伝達経路において、検出針と接触板との2つの部材しか介在していないことに起因すると考えられる。
【0056】
6.効果
本実施形態に係る振動プローブ111では、計測対象物であるスチームトラップ500の振動強度の計測時において、スチームトラップ500の表面500aと振動センサ114との間における振動の伝達経路に、探触棒112とハウジング118と台座部113との3つの部材が介在した状態となる。このため、振動プローブ114から出力される電気信号(蒸気信号)においては、共振周波数Rf1,Rf2,Rf3で3つのピークを備える波形を得ることができる。よって、振動プローブ111から出力される電気信号をA/D変換し、当該変換後のデータを積分した場合に大きな積分値を確保することができる。これより、本実施形態に係る振動プローブ111を採用する計測装置1では、高い計測精度を実現することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る振動プローブ111では、温度プローブ117のハウジング118を台座部113に接合することで、振動の伝達経路において、ハウジング118が探触棒112と並列、台座部113と直列に配された付属部材とすることができる。よって、振動の強度の計測精度を高めるために、余計な部材を設ける必要がなく、振動プローブ111の大型化を抑制することができ、また、製造コストの上昇も抑制することができる。
【0058】
また、
図5に示したように、本実施形態に係る振動プローブ1において、振動センサ114で生成される電気信号は、1kHz~20kHzの範囲内に互いに共振周波数が異なる(共振周波数がRf1,Rf2,Rf3である)3つのピークを有する波形の信号である。なお、1kHz~20kHzの周波数帯域は、スチームトラップ500からの蒸気漏れの有無を診断するのに観察が必要となる範囲である。
【0059】
蒸気や復水(ドレン)の何れか一方が流れるスチームトラップ500においてその振動を計測する場合に、10kHz付近の振動周波数を調べることで、スチームトラップ500内を流れる流体が蒸気であるか否かを比較的高い精度で判別できることが知られている。そして、振動プローブ111の振動センサ114で生成される電気信号の波形には、10kHz付近(9kHz~11kHz)に共振周波数Rf1を有する第1ピークが含まれる(振幅がE1のピークが含まれる)。このため、振動プローブ111では、スチームトラップ500内を流れる流体が蒸気であるか否かを高い精度で判別するのに有用である。
【0060】
また、振動センサ114で生成される電気信号の波形には、1kHz~20kHzの周波数帯域に、第1ピークの他に第2ピーク(共振周波数がRf2のピーク)および第3ピーク(共振周波数がRf3のピーク)を有する。このように波形に3つのピークが現れるのは、
図3を用いて説明したように、スチームトラップ500の表面500aと振動センサ114との間の振動伝達経路に、探触棒112と台座部113の他に温度プローブ117のハウジング118が介在していることに起因している。よって、積分値算出部193で1Khz~20kHzの周波数帯域における電気信号を積分した場合に、1つのピークや2つのピークしか有さない信号に比べて、大きな積分値を得ることができる。これによっても、スチームトラップ500内を流れる流体が蒸気であるか否かを高い精度で判別するのに有用である。
【0061】
また、本実施形態に係る計測装置1では、振動プローブ11の探触棒112が筒形状を有し、当該探触棒112の筒内中空部112a内に温度プローブ117のハウジング118が収容されている。よって、本実施形態に係る計測装置1では、スチームトラップ500における表面温度の計測箇所と略同一の箇所で振動の強度を計測することができ、スチームトラップ500における蒸気漏れの有無の診断を高い精度で行うのに優位である。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る振動プローブ111および計測装置1では、高い計測精度をもって計測対象物であるスチームトラップ500の振動の強度を計測することができる。
【0063】
[変形例]
変形例に係る振動プローブ211の構成について、
図7を用いて説明する。なお、本変形例に係る振動プローブ211は、設置タイプの計測装置に採用されるものを想定している。
【0064】
図7(a)に示すように、本変形例に係る振動プローブ211は、探触棒212と、断熱部材215と、台座部213と、振動センサ(例えば、圧電型加速度センサ)214と、複数のビス216とを備える。振動の計測時において、探触棒212における断熱部材215が接合された側とは反対側の先端がスチームトラップ500の表面500aに当接される。なお、本変形例では、上記実施形態と同様に、ステンレス鋼から形成された探触棒212を採用している。
【0065】
探触棒212は、断熱部材215との接合側において、他の部分に比べて大径の大径部212dを有し、当該大径部212dの後端面212eで断熱部材215に当接するように配されている。断熱部材215の後端側は、台座部213の前端面213fに当接している。
【0066】
台座部213の後端面213dには、振動センサ214が接合されている。
【0067】
図7(b)に示すように、断熱部材215は、円筒形状を有し、内方に筒内中空部215aを有する。断熱部材215の外周面には、長手方向に沿って2つのネジ孔が開けられている。なお、本実施形態では、アルミナセラミックスから形成された断熱部材215を採用している。
【0068】
断熱部材215に対しては、後端側の開口から、筒内中空部215aに台座部213の嵌入部213gが嵌入されている。そして、台座部213における嵌入部213gの外周面と断熱部材215の内周面とは、互いに直に当接した状態でビス216により固定されている。なお、本変形例でも、ステンレス鋼から形成された台座部215を採用している。
【0069】
断熱部材215の前端側の開口からは、筒内中空部215aに探触棒212の嵌入部212fが嵌入されている。そして、探触棒212における嵌入部212fの外周面と断熱部材215の内周面とは、互いに直に当接した状態でビス216により固定されている。
【0070】
本変形例に係る振動プローブ211では、探触棒212と台座部213との間に断熱部材215が介挿されている。特に設置タイプの計測装置に用いる振動プローブ211においては、探触棒212の先端が計測対象物であるスチームトラップ500の表面500aに常時当接した状態となるため、スチームトラップ500からの熱が探触棒212に伝達され、探触棒212が高温となる。このため、探触棒212と台座部213との間に断熱部材215を介挿することで、探触棒212を伝ってきた熱が振動センサ214へと伝達されるのを抑制することができる。よって、本変形例に係る振動プローブ211では、振動センサ214の熱に起因する故障や破損を抑制することができる。
【0071】
また、本変形例に係る振動プローブ211では、スチームトラップ500の表面500aと振動センサ214との間の振動の伝達経路において、探触棒212および台座部213の双方と直列に断熱部材215を介挿している。このため、本変形例に係る振動プローブ211では、断熱部材215を「付属部材」として採用することにより、熱による振動センサ214の故障や破損を抑制しながら、高い計測精度を実現することができる。
【0072】
ここで、
図7(b)に示すように、断熱部材215の長さはL3である。断熱部材215の長さL3については、長くし過ぎると共振周波数が低い帯域でピークが出ることになり、逆に、短くし過ぎると探触棒212と台座部213との間での断熱性能が低下してしまう。よって、断熱部材215の長さL3については、共振周波数と断熱性能の両観点を考慮して決定することが重要となる。
【0073】
[その他の変形例]
上記実施形態および上記変形例では、計測対象物(スチームトラップ500)の表面500aと振動センサ114,214との間の振動の伝達経路において、「付属部材」としてハウジング118、断熱部材215を配することとしたが、本発明は、2つ以上の「付属部材」を配することにしてもよい。この場合に、探触棒や台座部に対して直列・並列の任意の配置も可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 計測装置
11 プローブ
111,211 振動プローブ
112,212 探触棒
113,213 台座部
114 振動センサ
117 温度プローブ
118 ハウジング(付属部材)
215 断熱部材(付属部材)
500 スチームトラップ(計測対象物)