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特許7411253花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法
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  • 特許-花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法 図1
  • 特許-花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01N33/53 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021184413
(22)【出願日】2021-11-11
(65)【公開番号】P2023071553
(43)【公開日】2023-05-23
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】507161983
【氏名又は名称】ITEA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 愛美
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特許第7126665(JP,B2)
【文献】特開2004-089673(JP,A)
【文献】特許第3310356(JP,B2)
【文献】次亜塩素酸水溶液のスギ花粉不活化に関する共同研究 報告書(要約),2023年02月02日,https://prtimes.jp/a/?f=d115117-20230207-f0fa39d414148f77a6d69177d07cda60.pdf
【文献】中村澄夫,スギ花粉アレルゲンの局在とその起源,顕微鏡,2007年03月30日,Vol.42 No.1,Page.50-54
【文献】高島征助,「スギ花粉症」抗原性物質の不活性化に関する研究,環境制御,1993年12月15日,Vol.15,Page.45-56,https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/20529
【文献】高島征助,「スギ花粉症」抗原性物質の加熱による不活性化効果の検討,医器学,1994年,Vol.64 Suppl.,Page.66-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記第1~第5の工程を備える花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法であって、
(1)第1の工程:花粉を不活化剤と接触させる工程
(2)第2の工程:前記第1の工程を経た前記花粉が脱皮したか否かを確認する工程
(3)第3の工程:前記第2の工程において前記花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する工程
(4)第4の工程:前記第2の工程において前記花粉が脱皮しないと確認された場合に脱皮する条件にして該花粉が脱皮したか否かを確認する工程
(5)第5の工程:前記第4の工程を経た前記花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する工程
前記花粉はスギ科又はヒノキ科の植物の花粉であり、
前記第3の工程における花粉アレルゲンの不活化率、前記第4の工程における花粉の脱皮率、又は前記第5の工程における花粉アレルゲンの不活化率に基づいて、前記不活化剤の前記花粉に対する不活化能の程度を判定する、該評価方法。
【請求項2】
下記第1~第5の工程を備える花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法であって、
(1)第1の工程:花粉を不活化剤と接触させる工程
(2)第2の工程:前記第1の工程を経た前記花粉が脱皮したか否かを確認する工程
(3)第3の工程:前記第2の工程において前記花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する工程
(4)第4の工程:前記第2の工程において前記花粉が脱皮しないと確認された場合に脱皮する条件にして該花粉が脱皮したか否かを確認する工程
(5)第5の工程:前記第4の工程を経た前記花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する工程
前記花粉はスギ科又はヒノキ科の植物の花粉であり、
前記第3の工程で花粉アレルゲンが検出できない場合、前記第4の工程で花粉が脱皮しない場合、又は前記第5の工程で花粉アレルゲンが検出できない場合は、前記不活化剤に前記花粉に対する不活化能があると判定し、
前記第3の工程で花粉アレルゲンが検出できる場合、又は前記第5の工程で花粉アレルゲンが検出できる場合は、前記不活化剤に前記花粉に対する不活化能がないと判定する、評価方法。
【請求項3】
前記第4の工程における花粉が脱皮する条件として中性~弱アルカリの緩衝液に接触させることを含む、請求項1又は2記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高気密・高断熱化や冷暖房設備の普及など、住環境の変化にともなってダニやハウスダストが発生し易くなり、それらに起因する喘息発作、アトピー性皮膚炎、鼻炎等のアレルギー症状に悩む人が増えている。また、大気中に飛散されるスギ花粉等に起因するアレルギー症状に悩む人も増えている。
【0003】
アレルギー疾患やその他のアレルギー症状への対策の1つとして、原因となるアレルゲンを不活化させる薬剤の開発が試みられている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、タンニン酸で環境を処理することを特徴とする環境からアレルゲンを除去する方法の発明が開示されている。そして、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)を含有する家の塵や、牧草オオアワガエリ(Phleum pratense)や雑草ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)などからの抽出物を、1%タンニン酸水溶液で処理すると、皮膚反応試験でのアレルゲン性を低減することができると記載されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、セルロース質からなる繊維を含む繊維又は繊維製品に、人体への安全性の高いタンニン酸を、架橋剤を介して結合させることにより、洗濯を繰り返してもタンニン酸によるアレルゲン不活化活性能の低下を防ぐことができると記載されている。
【0006】
一方、上記のタンニン酸以外にも、各種物質の有効性が示唆されている。例えば、下記特許文献3には、分子中に少なくとも1個のカチオン性基としてのグアニジノ基を有し、かつ界面活性能を有する化合物又はその塩の利用について記載されている。また、下記特許文献4には、水および親水性溶媒から選ばれる少なくとも一種からなる溶媒によるザクロの葉の抽出物の利用について記載されている。また、下記特許文献5には、銀、亜鉛等の抗アレルゲン性金属成分の利用について記載されている。また、下記特許文献6には、スチレンスルホン酸単位を有する高分子化合物の利用について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-44821号公報
【文献】特開2007-107149号公報
【文献】特開平9-157152号公報
【文献】特開2002-370996号公報
【文献】特開2006-241431号公報
【文献】特開2009-155453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、アレルゲン不活化剤の開発において、その不活化能が期待される薬剤を評価するには、アレルゲンと反応させてみて、反応後の溶液中のアレルゲン量を、アレルゲン特異的抗体を用いたサンドウィッチELISAなどで測定することが行われている。
【0009】
しかしながら、スギ花粉などでは花粉の外殻をなす花粉壁(sporoderm)が備わり、花粉が割れて脱皮したときにはじめて免疫原性を有するアレルゲンが表われる。この場合、花粉に接触させた不活化剤の効果をアレルゲンの測定のみによって評価することができないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、花粉に対する不活化剤について、花粉壁が備わる花粉である場合にもその免疫原性に関し、精度や再現性のともなった評価を可能にする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記第1~第5の工程を備える花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法を提供するものである。
第1の工程:花粉を不活化剤と接触させる工程
第2の工程:前記第1の工程を経た前記花粉が脱皮したか否かを確認する工程
第3の工程:前記第2の工程において前記花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する工程
第4の工程:前記第2の工程において前記花粉が脱皮しないと確認された場合に脱皮する条件にして該花粉が脱皮したか否かを確認する工程
第5の工程:前記第4の工程を経た前記花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する工程
【0013】
本発明によれば、花粉に対して脱皮の有無を確認しつつ花粉アレルゲンを測定するので、花粉壁が備わる花粉である場合にもその免疫原性に関し、精度や再現性のともなった評価を行うことができる。
【0014】
上記花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法においては、前記第3の工程で花粉アレルゲンが検出できない場合、前記第4の工程で花粉が脱皮しない場合、又は前記第5の工程で花粉アレルゲンが検出できない場合は、前記不活化剤に前記花粉に対する不活化能があると判定し、前記第3の工程で花粉アレルゲンが検出できる場合、又は前記第5の工程で花粉アレルゲンが検出できる場合は、前記不活化剤に前記花粉に対する不活化能がないと判定するようにしてもよい。これによれば、客観的な判定スキームを備えることで、更に精度や再現性のともなった評価を行うことができる。
【0015】
上記花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法においては、前記第3の工程における花粉アレルゲンの不活化率、前記第4の工程における花粉の脱皮率、又は前記第5の工程における花粉アレルゲンの不活化率に基づいて、前記不活化剤前記花粉に対する不活化能の程度を判定するようにしてもよい。これによれば、より客観的な判定スキームを備えることで、更により精度や再現性のともなった評価を行うことができる。
【0016】
本発明により提供される、上記花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法においては、前記第4の工程における花粉が脱皮する条件として中性~弱アルカリの緩衝液に接触させることを含むことが好ましい。これによれば、評価対象の不活化剤によって不活化されずに残る、生きた花粉をより確実に脱皮させることができる。
【0017】
本発明は、スギ科又はヒノキ科の植物の花粉に適用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、花粉に対する不活化剤について、花粉壁が備わる花粉である場合にもその免疫原性に関し、精度や再現性のともなった評価を可能にする方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】スギ花粉の脱皮とアレルゲンの放出について説明する概略説明図である。
図2】本発明により提供される花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法の一実施形態を説明する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、任意の不活化剤について、その不活化剤が花粉に対してどの程度の不活化能を有するのかについて評価するための方法を提供するものである。ここで「不活化剤」とは、評価者が評価したい任意の物質等であってよい。また、「不活化能」とは、一般に花粉はヒト又は動物にアレルギーを引き起こすことが知られており、これを不活化する能力という意味である。本発明においては、評価者が選択する任意の花粉アレルゲン(花粉に由来する免疫原性物質)についての評価であってよい。
【0021】
本発明が適用される花粉としては、上述したとおり任意であるが、典型的に、例えば、ヒノキ科やスギ科の植物の花粉に好適に適用される。これらの植物の花粉の場合、通常、花粉壁(sporoderm)が備わり、花粉が割れて脱皮したときにはじめて免疫原性を有するアレルゲンが表われる現象が典型的に起こる。なお、花粉アレルゲンとしては、例えば、スギ花粉から分離されたアレルゲンとして、Cry j1やCry j2、Cry j 3、Cry j 4等が知られている。それ以外にも、花粉アレルゲンとしては、ヒノキ花粉のアレルゲンCha o 1、Cha o 2、Cha o 3等、マウンテンシダー花粉のアレルゲンJun a 1、Jun a 2、Jun a 3等が挙げられる。
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明について更に詳細に説明する。
【0023】
図1には、スギ花粉の脱皮とアレルゲンの放出について説明されている。
【0024】
図1に示されるように、スギ花粉が適当な条件に曝されると、花粉壁(sporoderm)が薄くなっているパピラ(突起)部分が破れて原形質が外に飛び出す脱皮現象を起こすことが知られている(例えば、中村澄夫「スギ花粉アレルゲンの局在とその起源」(2017)顕微鏡、vol.42(1):p50-54.参照)。
【0025】
ここで、花粉の脱皮を促す条件としては、それ自体では花粉に対する不活化の作用を有しない条件であることが好ましいが、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。このような緩衝液に浸すと生きた花粉が脱皮減少を起こす。あるいは重曹水(炭酸水素ナトリウム)、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム+塩化ナトリウムなどの緩衝液を用いてもよい。これらの緩衝液の塩濃度としては、上記PBSに準じた濃度であることが好ましい。緩衝液のpHとしては中性~弱アルカリの緩衝液であればよく、具体的には、pH6~8であることが好ましく、pH6~7.5であることがより好ましい。
【0026】
花粉の脱皮を促す条件は、適宜、予めフレッシュな花粉を用いて確認しておくことができる。一般に、花粉はフレッシュな状態で凍結保存することができ、用事に戻してPBSに浸すと、その90個数%以上が脱皮する。本明細書においてフレッシュな花粉とは、例えば、PBS(pH7.4)に浸して室温で1時間反応させたとき、脱皮を起こす花粉の個数が全体の80個数%以上であることをいう。その割合は、85個数%以上であってよく、90個数%以上であってよく、95個数%以上であってよい。
【0027】
図2には、本発明により提供される花粉に対する不活化剤の不活化能評価方法の一実施形態が説明されている。
【0028】
図2の実施形態に示されるとおり、本発明では、第1に、花粉を不活化剤と接触させる(第1の工程)。
【0029】
この工程における態様は、不活化剤を使用する際の花粉に対して実際にどのように処理するかなどの観点から、評価者が適宜設定すればよく、例えば、不活化剤の濃度、使用する溶媒、処理温度、処理時間などの条件を任意に選択すればよい。処理様式としては、例えば、不活化剤を溶解又は分散させた溶液に花粉を一定時間浸漬したり、その溶液を花粉に噴霧して一定時間静置したり、不活化剤を所定空間に気化又は微粒子化により分散させて、その空間内に花粉を一定時間静置したりするなどである。不活化剤の形態としても特に制限はなく、評価者が選択した物質を含む溶液、その噴霧物、気化物、微粒子化物、イオン化物等の組成物であってよく、あるいは、例えば、空気中の水に高電圧を加えることで生成されるOHラジカルを含むナノサイズの帯電微粒子水、プラズマ放電により発生させた酸素・水分子の安定イオン化物、食塩水を電気分解することで生成させた次亜塩素酸水溶液の微粒子化物など、空間除菌や除ウイルス、除染、脱臭等に効果のある物質について、花粉に対する不活化能を評価する場合に適用されてもよい。
【0030】
花粉を不活化剤と接触させるには、限定されないが、典型的な処理様式を挙げれば、例えば、不活化剤の溶液中で花粉を懸濁させるなどの方法によればよい。この場合、不活化剤による懸濁液中の花粉の濃度の目安としては、5×10~1×10個/mLである。不活化剤による懸濁液中の花粉の濃度は、5×10~5×10個/mLであってよく、1×10~1×10個/mLであってよい。この場合、反応温度や反応時間としては、適宜任意に選択してよく、例えば、室温で1時間などであってよい。反応温度としては、15~35℃であってもよく、20~30℃であってもよい。反応時間としては、任意の時間であってもよいが、例えば0.5~2時間であってもよい。
【0031】
図2の実施形態に示されるとおり、本発明では、第2に、第1の工程を経た花粉が脱皮したか否かを確認する(第2の工程)。
【0032】
花粉が脱皮したか否かを確認するには、限定されないが、例えば、花粉を含む懸濁液の一部を採取して顕微鏡で観察するなどの方法によればよい。花粉が脱皮したことを肯定する花粉の脱皮率の目安としては、典型的に例えば、観察した花粉の総数中における脱皮した花粉の割合にして90個数%以上である。花粉が脱皮したことを肯定する花粉の脱皮率としては、例えば95個数%以上であってよく、あるいは80個数%以上であってもよい。一方、花粉が脱皮したことを否定する花粉の脱皮率の目安としては、典型的に例えば、観察した花粉の総数中における脱皮した花粉の割合にして10個数%以下である。花粉が脱皮したことを肯定する花粉の脱皮率としては、例えば5個数%以下であってよく、あるいは20個数%以下であってもよい。脱皮率について予め所定の閾値を定めておくことなどにより、再現性よく、客観的もしくは正確に評価を行うことが可能である。
【0033】
図2の実施形態に示されるとおり、本発明では、第3に、第2の工程において花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する(第3の工程)。
【0034】
花粉アレルゲンを測定するには、限定されないが、例えば、そのアレルゲンを特異的に認識する抗体を用いた測定法などによればよい。例えば、当業者に周知のELISA法によれば、標準アレルゲン物質による所定濃度範囲にわたる検量線に観測値をあてはめることにより、サンプル中のアレルゲン物質の濃度を見積もることが可能である。
【0035】
以下には、特異抗体を用いて花粉アレルゲンを測定する方法について説明する。ただし、本発明において、花粉アレルゲンの測定方法は以下に説明する具体的な方法に限られない。
【0036】
特異抗体としては、花粉アレルゲンを特異的に認識する抗体であればよく、特に制限はない。ここで「特異的に認識する」とは、特定のアレルゲンに対して選択的な結合性を備えていることであり、その意義は通常当業者であれば当然に理解される。例えば、抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、等の形態であり得る。その調製方法としては、当該分野で周知のいずれの技術をも用いることができる。例えば、アレルゲンを免疫動物に投与し、当該動物からの血液採取により、抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体等を調製することができる。また、ハイブリドーマ調製法により特定の抗体を産生する細胞を単離して、モノクローナル抗体を調製することができる。また、後述する実施例でも使用したように、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンに対する特異抗体が市販されているので、そのような市販品を用いることもできる。
【0037】
抗体による検出は、当業者に周知のサンドウィッチELISA法などを利用することができる。例えば、花粉アレルゲンに対して特異的に結合する第1の抗体を担持したプレート又は膜をサンプルで浸漬し、一定時間静置又は震盪後、PBS等の洗浄液で洗浄して膜上の特異抗体に結合していない成分を分離し、次いで、花粉アレルゲンに対して特異的に結合する第2の抗体を含有する溶液で同様に処理して、当該二次抗体の標識によって得られる像(特異抗体の検出量)を色検出したり、光学検出したりすることなどが挙げられる。標識としては、HRP(Horse Radish Peroxidase;西洋ワサビペルオキシダーゼ)、β-ガラクトシダーゼ、蛍光、ラジオアイソトープ等が挙げられる。
【0038】
図2の実施形態に示されるとおり、本発明では、第4に、第2の工程において花粉が脱皮しないと確認された場合に脱皮する条件にして該花粉が脱皮したか否かを確認する(第4の工程)。
【0039】
花粉が脱皮しないことの判定は、上述したとおり顕微鏡観察などにより行うことができ、脱皮率について予め所定の閾値を定めておくことなどにより、再現性よく、客観的もしくは正確に評価を行うことが可能である。その閾値としては、第2の工程において脱皮したか否かを判定するときに用い得るとして脱皮率の閾値と、同じ閾値を用いてもよい。
【0040】
花粉が脱皮する条件にするには、具体的には、限定されないが、例えば、花粉を含む不活剤を含む懸濁液を遠心して上清を除くことにより不活剤を除いて、必要に応じて任意に蒸留水で水洗した後、PBS等の緩衝液に懸濁させること以外、不活化剤と接触させる第1の工程と同様にして行うことができる。具体的には、緩衝液による懸濁液中の花粉の濃度の目安としては、5×10~1×10個/mLである。緩衝液による懸濁液中の花粉の濃度は、5×10~5×10個/mLであってよく、1×10~1×10個/mLであってよい。この場合、反応温度や反応時間としては、適宜任意に選択してよく、例えば、室温で1時間などであってよい。反応温度としては、15~35℃であってもよく、20~30℃であってもよい。反応時間としては、任意の時間であってもよいが、例えば0.5~2時間であってもよい。
【0041】
図2の実施形態に示されるとおり、本発明では、第5に、第4の工程を経た花粉が脱皮したと確認された場合に花粉アレルゲンを測定する(第5の工程)。
【0042】
花粉が脱皮したことの判定や花粉アレルゲンの測定は、上述した第3の工程と同様にして行うことが可能である。
【0043】
花粉が脱皮しないことの判定は、限定されないが、例えば、上述したとおり顕微鏡観察などにより行うことができ、脱皮率について予め所定の閾値を定めておくことなどにより、再現性よく、客観的もしくは正確に評価を行うことが可能である。その閾値としては、第2の工程又は第4の工程において脱皮したか否かを判定するときに用い得るとして脱皮率の閾値と、同じ閾値を用いてもよい。
【0044】
花粉アレルゲンを測定するには、限定されないが、例えば、上述した第3の工程と同様にして、そのアレルゲンを特異的に認識する抗体を用いたELISAなどの方法により行うことができる。ELISAによれば、標準アレルゲン物質による所定濃度範囲にわたる検量線に観測値をあてはめることにより、サンプル中のアレルゲン物質の濃度を見積もることができる。
【0045】
本発明により提供される花粉に対する不活化剤の不活可能評価方法においては評価の態様や基準を、評価者が任意に設定することができる。ただし、不活化剤による花粉の脱皮現象の影響を考慮に入れた評価である必要がある。
【0046】
例えば、上記に説明した第3の工程で花粉アレルゲンが検出できない場合や、第4の工程で花粉が脱皮しない場合や、第5の工程で花粉アレルゲンが検出できない場合は、不活化剤に花粉に対する不活化能があると判定し、上記に説明した第3の工程で花粉アレルゲンが検出できる場合や、第5の工程で花粉アレルゲンが検出できる場合は、不活化剤に前記花粉に対する不活化能がないと判定する、などである。
【0047】
この場合、上記に説明した第3の工程又は第5の工程で花粉アレルゲンが検出できたか否かの判定としては、限定されないが、例えば、第1の工程で不活化剤の代わりにコントロールとしてPBSを花粉に接触させたときに上清中に放出される花粉アレルゲンの量を基準に、下記式で求めた不活化率を基準にすることができる。
不活化率(%)=100-(測定値/PBS処理のときの測定値)×100
【0048】
そして、その不活化率にして95%以上の場合を不活化能があると判定し、95%未満の場合を不活化能がないと判定するなどである。不活化能を肯定するための不活化率の閾値としては90%以上であってよく、80%以上であってよい。また、不活化能を否定するための不活化率の閾値としては50%以下であってよく、25%以下であってよい。
【0049】
また、上記に説明した第4の工程で花粉が脱皮したか否かの判定としては、限定されないが、例えば、下記式で求めた脱皮率を基準にすることができる。
脱皮率(%)=(観察した花粉のうち花粉壁が割れているものの個数/観察した花粉の総数)×100
【0050】
そして、限定されないが、その脱皮率にして、典型的に例えば、90%以上の場合を不活化能がないと判定し、10%以下の場合を不活化能があると判定するなどである。不活化能を否定するための脱皮率の閾値としては、例えば95%以上であってよく、あるいは80%以上であってよい。また、不活化能を肯定するための脱皮率の閾値としては、例えば5%以下であってよく、あるいは20%以下であってもよい。なお、不活化剤の肯否を判定するための閾値と、上記第4の工程において脱皮したか否かを判定するための閾値とは、同じ閾値としてもよい。
【0051】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本明細書に開示の範囲による各種の組合せ、変形による実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
<試験例1>
〔1.使用した不活化剤〕
本試験に使用した不活化剤を表1にまとめて示す。
【0054】
【表1】
【0055】
〔2.操作手順〕
以下の操作手順により、スギ花粉に対し、各種不活化剤による不活化能評価を行った。なお、スギ花粉としては、2018年鳥取県産で、採取後に篩で夾雑物を取り除き、真空乾燥後に-30℃に保存しておいたものを用いた。
(1)花粉1mg(およそ8.3×10個)あたり1000μLの不活化剤で懸濁する(1:1000希釈)。
(2)室温で1時間反応させる。
(3)顕微鏡で花粉の脱皮状況を観察する。
(4)8000rpmで遠心して上清を回収する。
(5)蒸留水1mLを加えて花粉を洗浄してから8000rpmで5分間遠心して上清を捨てる。
(6)990μLのPBSを加えて室温で1時間反応させる。
(7)顕微鏡で花粉の脱皮状況を観察する。
(8)8000rpmで5分間遠心して上清を回収する。
(9)上記(4)又は(8)で回収した上清中に存在するスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の量をELISAで測定する。
【0056】
〔3.脱皮率〕
不活剤又は置換したPBSで処理した後の花粉を顕微鏡で観察し、下記式により脱皮率を算出した。
脱皮率(%)=(観察した花粉のうち花粉壁が割れているものの個数/観察した花粉の総数)×100
【0057】
〔4.不活化率〕
不活剤で処理した後に、又はその後置換したPBSで処理した後に回収した上清中に含まれるCry j1濃度(ng/mL)をELISAにより測定し、下記式により不活化率を算出した。
不活化率(%)=100-(不活化剤で処理したときの上清中のCry j1濃度/コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に含まれるCry j1濃度)×100
【0058】
表2に結果をまとめて示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すとおり、評価した不活化剤ごとに以下のことが明らかとなった。
【0061】
(1)6M グアニジン
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は33%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は75%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果も、検出限界(15ng/mL)未満であった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、96%超であった。
【0062】
(2)8M 尿素
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は95%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、89ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ82%であった。
【0063】
(3)200ppm 次亜塩素酸ナトリウム
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は96%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、96%超であった。
【0064】
(4)蒸留水(室温)
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は86%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、458ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ7%であった。
【0065】
(5)0.1% SDS
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は96%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、409ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ17%であった。
【0066】
(6)100% エタノール
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は89%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、429ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ13%であった。
【0067】
(7)100% メタノール
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は89%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、161ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ67%であった。
【0068】
(8)100% アセトン
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は95%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、218ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ56%であった。
【0069】
(9)100% ジエチルエーテル
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は93%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、416ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ15%であった。
【0070】
(10)5ppm 次亜塩素酸ナトリウム
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は1%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は93%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、437ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ11%であった。
【0071】
(11)20ppm ビージア水
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は96%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、339ng/mLであった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、およそ31%であった。
【0072】
(12)蒸留水(70℃)
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は4%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は3%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、96%超であった。
【0073】
(13)10% SDS
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は1%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、96%超であった。
【0074】
(14)200ppm ビージア水
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は1%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は9%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、96%超であった。
【0075】
(15)30% 過酸化水素
花粉を不活化剤で処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してスギ花粉アレルゲン(Cry j1)の濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。PBSに置換して処理したときの脱皮率は0%であり、その処理後の上清を回収してCry j1濃度をELISAで測定した結果は、検出限界(15ng/mL)未満であった。よって、不活化率は、コントロールとしてPBSを用いて花粉を脱皮させたときの上清中に検出されるCry j1濃度(492ng/mL)に対する百分率にして、96%超であった。
【0076】
<試験例2>
従来法として、花粉抽出エキス(ITEA株式会社製)を用いて、以下の操作手順により、5ppm 次亜塩素酸ナトリウムと20ppm ビージア水によるスギ花粉アレルゲン(Cry j1)に対する不活化能を調べた。
【0077】
〔操作手順〕
(1)花粉抽出エキス(2000ng/mL)100μLに対して、不活化剤900μLを混合する。
(2)室温で1時間反応させる。
(3)スギ花粉アレルゲン(Cry j1)の量をELISAで測定する。
【0078】
コントロールとしてPBSと反応させたスギ花粉アレルゲン(Cry j1)を測定し、下記式により不活化率を算出した。
不活化率(%)=100-(不活化剤と反応させたときのCry j1濃度/PBSと反応させたときのCry j1濃度)×100
【0079】
【表3】
【0080】
その結果、表3に示されるように、花粉抽出エキスに対する不活化率の評価を行ったところ、両不活化剤において少なくとも87%以上の不活化率であると評価された。
【0081】
これに対して、試験例1で示されたとおり、花粉壁を備えたスギ花粉に対しては5ppm 次亜塩素酸ナトリウムでは1割程度しか不活化できず、20ppm ビージア水でも3割程度しか不活化できなかった。
【0082】
以上の結果は、実際に不活化剤を使用して花粉を処理する環境下では、その処理後にも花粉壁の内側に免疫原性を有するスギアレルゲンが多く残存する場合があることを示しており、この点、本発明の評価方法によれば、不活化剤の実際の使用形態に則した環境下において、花粉に対する不活化能を確実に評価することができることが分かる。
図1
図2