(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】治療用ナノ粒子およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20231228BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20231228BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20231228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231228BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K9/127
A61K39/39
A61K47/26
A61K47/28
A61K47/44
A61K48/00
A61P11/00
A61P35/00
A61P37/00
A61P37/04
A61P37/06
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021538926
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2019074796
(87)【国際公開番号】W WO2020058239
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-01
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】デ スメット,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】バーベケ,レイン
(72)【発明者】
【氏名】デューイット,ヘリーン
(72)【発明者】
【氏名】レンタッカー,イネ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/144775(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/078053(WO,A1)
【文献】Journal of Controlled Release,2017年,Vol.266,pp.287-300
【文献】Frontiers in Immunology,2017年,Vol.8,Article 879
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオシド修飾mRNA、カチオン性脂質およびコレステロールを含む脂質成分、ならびにα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)化合物を含む、ナノ粒子。
【請求項2】
カチオン性脂質がイオン化可能カチオン性脂質である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
カチオン性脂質が以下からなる群から選択される、請求項1または2に記載のナノ粒子:1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパンまたは「DOTAP」、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドまたは「DOTMA」、5-カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミドまたは「DOGS」、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムまたは「DOSPA」、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパンまたは「DODAP」、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DSDMA」、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DODMA」、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DLinDMA」、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエートまたは「DLin-MC3-DMA」もしくは「MC3」、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソランまたは「DLin-KC2-DMA」もしくは「KC2」、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DLenDMA」、N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリドまたは「DODAC」、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミドまたは「DDAB」、N-(1,2-ジミリスチルオキシプロプ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミドまたは「DMRIE」、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエノキシ)プロパンまたは「CLinDMA」、2-[5’-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(cis,cis-9’,1-2’-オクタデカジエノキシ)プロパンまたは「CpLinDMA」、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミンまたは「DMOBA」、1,2-N,N’-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DOcarbDAP」、2,3-ジリノレオイルオキシ-Ν,Ν-ジメチルプロピルアミンまたは「DLinDAP」、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DLincarbDAP」、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DLinCDAP」、および2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソランまたは「DLin-K-XTC2-DMA」。
【請求項4】
ヌクレオシド修飾mRNAが、目的の抗原またはポリペプチ
ドをコードする、請求項1~3のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
ヌクレオシド修飾mRNAが、プソイドウリジン(Ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)および/または5-メチルシチジン(5meC)などの天然に存在する修飾ヌクレオチドの、mRNA転写物への取り込みを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ粒子、ならびに薬学的に許容し得る賦形剤および/または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のナノ粒子または組成物と、チェックポイント阻害剤との組み合わせ
物。
【請求項8】
医薬として使用するための、請求項1~7のいずれか一項に記載のナノ粒子、組成物または組み合わせ
物。
【請求項9】
対象におけるがんもしくは腫瘍細胞または感染性病原体に対する細胞傷害性T細胞およびiNKT細胞またはNK細胞を、プライミングおよび/または増大するための方法において使用するための、請求項1~7のいずれか一項に記載のナノ粒子、組成物または組み合わせ
物。
【請求項10】
治療用がんワクチン接種で使用するための、または感染性もしくは自己免疫関連疾患における予防または治療用ワクチンとしての、請求項1~7のいずれか一項に記載のナノ粒子、組成物または組み合わせ
物。
【請求項11】
ナノ粒子、組成物または組み合わせ
物が、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内投与によって、または吸入によって投与される、請求項8~10のいずれか一項に記載の使用のためのナノ粒子、組成物または組み合わせ
物。
【請求項12】
第1の容器、第2の容器、および添付文書を含むキットであって、第1の容器が、請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む医薬組成物の少なくとも1用量を含み、第2の容器が、チェックポイント阻害剤を含む医薬組成物の少なくとも1用量を含み、および添付文書が、がんを有する個体を医薬組成物(単数または複数)を使用して処置するための説明書を含む、前記キット。
【請求項13】
以下を含む組成物を投与することを含む、細胞における抗原の発現を抗原特異的T細胞免疫応答と共に誘導するのに使用するための組成物:
(a)少なくともその一部が抗原をコードする、少なくとも1つのヌクレオシド修飾mRNA;
(b)CD1d分子に提示され、iNKT細胞を刺激する、糖脂質抗原;
(c)前記ヌクレオシド修飾mRNAおよび前記糖脂質抗原を含む、脂質ナノ粒子;および
(d)任意に、PD-1、PD-L1、PD-L2またはCTLA-4阻害
剤;
ここで前記組成物の投与後、mRNAによってコードされる抗原は標的細胞で発現されて、および/または細胞から分泌または排出されることができ、およびここで、糖脂質抗原は、標的細胞によってCD1d経路に提示されて、iNKT細胞のライゲーションにより免疫カスケードを誘発する。
【請求項14】
IFN-γおよびIL-12p70の産生、ならびに細胞傷害性T細胞および/またはiNKT細胞および/またはNK細胞のプライミングおよび/または増大を特徴とする、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
標的細胞が、抗原提示細
胞である、請求項13に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、核酸、特にmRNAの最適化された細胞内送達のための方法および組成物に関する。組成物、特にナノ粒子は、mRNAに加えて糖脂質抗原を含んでよい。チェックポイント阻害剤との組み合わせも提供される。本発明の方法および組成物は、抗原提示細胞を標的とし、免疫療法およびワクチン接種の目的に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
メッセンジャーRNAの使用は、その不安定性が認識されているために長い間制限されていたが、今日ではmRNAをin vivoで正常に送達することが可能である[1]。これは、この分野における最近の2つのブレークスルーにより強く支持されている:(i)mRNAの選択的細胞標的化および細胞質ゾル送達を改善するよう設計された、mRNA分子のナノ粒子内へのパッケージング[2、3]、および(ii)修飾ヌクレオチドの取り込みを含むmRNA構築物の技術的進歩による、翻訳能力が向上したより安定なmRNAの生成[4~7]。特にワクチン接種の分野では、mRNAがコードする抗原が、多用途で有望なプラットフォームとして浮上している[8]。
【0003】
がん免疫療法の分野において、Kranzらは、mRNA脂質ナノ粒子を樹状細胞(DC)に標的化することにより、細胞傷害性T細胞(CTL)応答がコードされた腫瘍抗原に対して誘導されたという、ヒト初の証拠を提供した[2]。彼らおよびその他らは、樹状細胞によるmRNA発現の成功に加えて、mRNAワクチンの作用機序がI型インターフェロン(IFN)の誘導に依存することを実証した[3、9、10]。より具体的には、mRNA分子は細胞侵入時に、エンドソームToll様受容体(TLR)-7および細胞質ゾル受容体MDA-5およびRIG-1を含む生得免疫活性化経路を誘発し、これはI型IFNシグナル伝達および抗ウイルス免疫の誘導をもたらす。従来技術においては、mRNAワクチンは、mRNAのこの固有の自己アジュバント効果に依存している。しかしこれらのワクチンには重要な制限があり、それは、誘発された免疫応答がmRNAの翻訳を早期に停止し、それによって抗原のバイオアベイラビリティが低下するため、I型IFNシグナル伝達が両刃の剣として機能することが示されているためである[11、12]。さらにI型IFNは、T細胞プライミングとの相対的なタイミングに応じて、T細胞応答にプラスまたはマイナスのいずれかの影響を及ぼすことができ、I型IFNの前曝露により、T細胞の枯渇とアポトーシスを生じることが示唆された[13、14]。さらに、高レベルのIFNαは、インフルエンザ様症状から自己免疫後遺症、さらには生命を脅かす事象に至るまでの副作用を引き起こす可能性がある[15、16]。
【0004】
HPLCによる二本鎖RNA断片の除去を含む、mRNA構築物のいくつかの修飾または追加の精製ステップは、mRNA分子の免疫刺激的側面を下方調節し、I型IFNレベルの低下を引き起こす可能性がある。例えば、修飾ヌクレオチド(例えばプソイドウリジン(Ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)、5-メチルシチジン(5meC))を組み込むと、mRNAの安定性と翻訳が向上し、mRNAの発現レベルがより高くより持続可能になる。この増強されたmRNA発現はワクチンの開発に有利であり、なぜならば、結果として生じる抗原提示の増加が、濾胞性T細胞の形成を含む長寿命抗体およびヘルパーT細胞応答の誘導に有益であることが示されているからである[17]。しかし、ヌクレオシド修飾mRNAはその自己アジュバント作用を大幅に失い、その結果I型IFNレベルが低下し、CTL免疫を誘発する能力が制限される。
【0005】
以前の研究では、ヌクレオシド修飾mRNAとモノホスホリル脂質A(MPLA)の両方をカプセル化できる脂質ナノ粒子が示され、I型IFNを強力に誘導することなくT細胞数を取得する能力が回復された[18]。しかし、ヌクレオシド修飾mRNAとMPLAのこの組み合わせ戦略は腫瘍増殖に有意な影響を与えず、複数の抗腫瘍メカニズム(NK細胞の活性化、制御性T細胞の減少など)におけるI型IFNの関与を強調する。
【0006】
アジュバントの使用は、ナノ粒子を使用するペプチドおよびタンパク質ベースのがんワクチンでも示されている(例えば、WO2012/088414、WO2016/154544、WO2014/128225、US2011229556)。タンパク質ワクチンまたはタンパク質ナノ粒子ワクチンからの所見は、抗原の細胞内位置、抗原のプロセシングおよび提示がmRNAワクチンでは完全に異なるため、ある程度しか役に立たない。mRNAを他のアジュバント(例:ポリ(I:C)およびリポ多糖)と組み合わせた以前の試みは適合性の問題を提起したが、それは、DC成熟が細胞取り込みメカニズム(例:マクロピノサイトーシス)を通常より早く無効にし、かつmRNA翻訳に不利な環境を作り出し得るからである[2、19]。ヌクレオシド修飾mRNAワクチンと組み合わせて免疫原性を調節し、強力で耐久性のあるCTL応答を達成するために、適切で安全な免疫刺激剤の特定が依然として重要である。
【0007】
ワクチンにより誘発されるI型IFN分泌に関連する問題に加えて、mRNAワクチンは、永続的な抗腫瘍免疫を呼び起こすにはしばしば不十分である。本質的に腫瘍浸潤CTLは、M2マクロファージ、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)、制御性T細胞などのさまざまな抑制細胞によって媒介される免疫抵抗性に対処する必要がある[20]。さらに、免疫攻撃およびインターフェロン産生の間、免疫チェックポイント経路は、適応免疫、例えば腫瘍細胞、抗原提示細胞(APC)およびエフェクター細胞上のその受容体PD-1によるプログラム細胞死1(PD-1)リガンドの発現などの適応免疫に対して、抵抗するメカニズムとして活性化される[21~23]。したがって理想的には、mRNAワクチンは、CTLの活性化のみに焦点を当てるのではなく、これらの異なる抑制メカニズムに取り組むために、宿主の免疫系をより広く利用する必要がある。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、様々な種類の障害を処置、予防または改善するように構成された核酸と会合した(例えば、複合体形成、コンジュゲート、カプセル化、吸収、吸着、または混合した)ナノ粒子、前記ナノ粒子を使用する方法、およびそれを合成する方法に関する。さらに本発明は、核酸の最適化された細胞質ゾル送達のための方法、組成物、キット、組み合わせ、およびその使用を提供する。組成物、キットまたは組み合わせは、ナノ粒子、核酸、特にmRNA、および少なくとも1つのアジュバント、特にiNKTアゴニストを含む。組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤または希釈剤を任意に含む。
【0009】
一態様において、ナノ粒子は、核酸に会合するかまたは核酸を含む、脂質ベースのナノ粒子および/またはカチオン性ナノ粒子、特にカチオン性リポソームである。さらなる態様において、ナノ粒子の脂質成分は、脂質、より具体的にはカチオン性脂質(例えば、DOTAPなど)またはイオン化可能脂質、およびヘルパー脂質(単数または複数)、例えば、リン脂質、コレステロールまたはその(機能的)誘導体または類似体、および/またはPEGを含む。ナノ粒子はさらに、アジュバント、特に免疫刺激アジュバント、より具体的にはiNKTアゴニストと会合している。より具体的には、本発明のナノ粒子は、mRNA、脂質成分、およびα-GalCerまたはそれらの類似体を含む。mRNAとしては、プソイドウリジン(Ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)および/または5-メチルシチジン(5meC)などの修飾ヌクレオシドの、mRNA転写産物への部分的または完全な取り込みが含まれる。
【0010】
一態様において、α-GalCer化合物は、ナノ粒子の脂質成分に組み込まれる。ナノ粒子中のα-GalCer化合物の濃度は、総脂質量(<1μg/kg体重)の約0.0015mol%から約1mol%である。ナノ粒子中のコレステロールの濃度は、総脂質量の40mol%から80mol%である。ナノ粒子中のDOTAPの濃度は、総脂質量の20mol%から60mol%である。
本明細書で提供されるmRNAは、目的の抗原またはポリペプチド、特に腫瘍特異的抗原をコードする。任意に、前記mRNAは、ヌクレオシドを終結させる鎖、ポリA配列、ポリアデニル化シグナル、および/または5’キャップ構造を含む。
一態様において、ナノ粒子中の脂質成分とmRNAとの重量/重量比は、約5:1から約50:1である。
【0011】
さらなる態様において、本発明のナノ粒子、組成物、キットまたは組み合わせは、医薬として、特にin vitro、ex vivoまたはin vivo適用によって樹状細胞のサイトゾルに薬剤を送達する方法において、より特にがん、感染症または自己免疫疾患の処置に使用するために使用される。
より具体的には、本発明は、抗原提示細胞、好ましくは脾臓および肺の抗原提示細胞に抗原を送達および/または発現するための方法を提供し、前記方法は、本明細書で提供されるナノ粒子または組成物を投与することを含む。特定の態様において、抗原提示細胞は、樹状細胞またはマクロファージである。
さらなる態様において、本発明は、対象において、免疫応答、好ましくはがんに対する免疫応答を誘導するための方法において使用するためのナノ粒子または組成物を提供し、方法は、本明細書に記載のナノ粒子または組成物を対象に投与することを含む。ナノ粒子または組成物は、対象の細胞傷害性T細胞および/またはiNKT細胞を刺激、プライミングおよび/または増大することができる。
【0012】
本発明はさらに、細胞における抗原の発現を誘導する方法、および抗原特異的T細胞免疫応答を誘導する方法を提供し、方法は、以下を含む組成物を投与することを含む:
(a)少なくともその一部が抗原をコードする、少なくとも1つのヌクレオシド修飾mRNA;および
(b)CD1d分子に提示され、iNKT細胞を刺激する、糖脂質抗原:および
(c)ヌクレオシド修飾mRNAを含む、脂質ナノ粒子;および
(d)任意に、PD-1またはPD-L1阻害剤、または本明細書で提供されるかまたは当業者に知られている他のチェックポイント阻害剤、
ここで、前記組成物の投与後、mRNAによってコードされる抗原は標的細胞で発現され、および/または細胞から分泌または排出され、糖脂質抗原は同じ標的細胞によってCD1d経路に提示される。
iNKT細胞による糖脂質認識は、IFN-γおよびIL-12p70の産生を特徴とする免疫カスケードを誘発し、これにより、対象において細胞傷害性T細胞および/またはiNKT細胞および/またはNK細胞のプライミングおよび/または増大がもたらされる。
【0013】
一態様において、本発明のナノ粒子または組成物は、対象に2、3、またはそれ以上の(その後の)用量で、例えば、週に2回、少なくとも週に1回、または2週間ごとに投与される。投与は、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、気管内、鼻腔内、または吸入によるものであり得る。
【0014】
特定の側面において、目的のポリペプチドは、哺乳動物細胞において発現または産生される。さらに別の側面において、本発明は、対象(例えば、哺乳動物)に、(i)脂質成分、(ii)mRNA、および(iii)iNKT細胞アゴニストを含むナノ粒子組成物を投与することを含む、mRNAを細胞(例えば、哺乳動物細胞)に送達する方法を提供し、ここで、投与は細胞をナノ粒子組成物と接触させることを含み、それによってmRNAおよび糖脂質抗原が細胞に送達される。
特に興味深いのは、本明細書で提供されるナノ粒子または組成物と、PD-1もしくはPD-L1阻害剤または他のチェックポイント阻害剤(例えば、抗CTLA4、抗PD-L2...)、例えば、抗体、小分子、ポリペプチドまたは核酸、特に抗PD-1または抗PD-L1抗体との、組み合わせおよび組み合わせた使用(本発明の方法における;第1のおよびさらなる医学的使用)である。この組み合わせは、がん、感染症、または自己免疫疾患の処置に特に有用である。
【0015】
本発明はさらに、第1の容器、第2の容器、および添付文書を含むキットを包含し、ここで第1の容器は、本明細書で提供されるナノ粒子を含む医薬組成物の少なくとも1用量を含み、第2の容器は、本明細書に記載のチェックポイント阻害剤を含む医薬組成物の少なくとも1用量を含み、および添付文書は、例えばがん、感染症、または自己免疫疾患を有する個体を、医薬組成物(単数または複数)を使用して処置するための説明書を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図を具体的に参照して、ここに示されている詳細は、例としておよび本発明の種々の態様の例示的な議論の目的のためであることに留意されたい。図と共に挙げた説明は、当業者に対し本発明のいくつかの形態が実際にどのように具体化され得るかを明らかにする。
【0017】
【
図1】
図1は、(i)低用量のα-GalCer(マウスあたり約0.020μgのα-GalCer)を含有するOVAコード化ヌクレオシド修飾ナノ粒子、または(ii)MPLAをアジュバント添加したmRNAナノ粒子(マウスあたり約2μgのMPLA)の全身投与後の、E.G7-OVA担がんマウスにおける治療効果を示す図である。マウスにE.G7-OVAリンパ腫細胞(3×10
5細胞)を皮下接種した。E.G7-OVA担がんマウスに、mRNAナノ粒子を8日目(腫瘍が明確に見えるとき)に静脈内投与し、腫瘍接種後12日目に2回目のワクチン接種した(n=6)。
【0018】
【
図2】
図2は、DOTAPコレステロールのトランスフェクション効率を、mRNA送達用の他の脂質製剤と比較して示す図である。(A)細胞を、DOTAP-コレステロール-、DOTAP-DOPE、DC-コレステロール-DOPE、またはリポフェクタミン(登録商標)RNAiMAXナノ粒子(未修飾mRNAを使用)にパッケージ化されたmRNAとインキュベートした24時間後の、強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)をトランスフェクトしたBM-DCのパーセンテージ。トランスフェクションは、無血清培地(OptiMem(登録商標))および血清含有培地(5%Hyclone(商標)、FetalClone ISerum)中で行った。DCは、CD11c表面染色に基づいてゲートした。
【0019】
【
図3】
図3は、mRNAナノ粒子の物理化学的特性を示す図である。(A)N/P比を増加させつつHEPESバッファーに分散させたmRNAナノ粒子(1μgのmRNA用量)の、サイズ(Z平均)、多分散性指数(PdI)およびゼータ電位。(B)2.5:1のN/P比でHEPESバッファーに分散させたか、またはヒト血清中37℃で2時間、6時間、および24時間インキュベートしたmRNAナノ粒子(Cy5標識mRNA)の、サイズ分析(fSPTによる)。
【0020】
【
図4】
図4は、mRNAガルソームがα-GalCerの樹状細胞への送達を促進することを示す図である。(A)mRNAガルソームに配合されたFITC標識α-GalCerの、裸のα-GalCerと比較して増強された細胞送達;BM-DCとのインキュベーションの24時間後に評価したもの。(B)mRNAガルソームにおけるα-GalCerとのインキュベーションの24時間後の、BM-DCによるCD1d複合体中のα-GalCerの増強された表面提示。(パネルは、3つの独立した実験の代表的なデータ(n=3)を示す)。(C)異なる糖脂質抗原をパッケージ化したナノ粒子でトランスフェクトされた、脾細胞とBM-DCの共培養物(24時間)の上清は、裸のα-GalCerとの共培養物または修飾mRNAのみより高いレベルのIFN-γを示した。(D)用量反応実験:低下用量のα-GalCerを含むmRNAガルソームの静脈注射の12時間後の、C57Bl/6マウスの血清におけるIFN-γ産生。
【0021】
【
図5】
図5は、mRNAガルソームの全身投与が、肺および脾臓において効率的なmRNAトランスフェクションをもたらすことを示す図である。(A)次の異なるカーゴ(cargo)を含むナノ粒子の静脈注射の6時間後のC57Bl/6マウスにおける、fLuc mRNAの全身発現レベル;未修飾mRNAナノ粒子、ヌクレオシド修飾mRNAナノ粒子、またはα-GalCerを配合したヌクレオシド修飾mRNAナノ粒子(n=6~7、2つの独立した実験からプール)。(B)単離された臓器(肺、脾臓、肝臓)の代表的な生物発光画像。
【0022】
【
図6】
図6は、C57Bl/6マウスに、fLucをコードするmRNAを含むDOTAP-コレステロールナノ粒子を、次の異なる投与経路:静脈内、腹腔内、鼻腔内または気管内投与で投与した場合の図である。図に示すように、投与経路に応じて、異なるmRNA用量および/またはmRNA修飾を使用した。図は、mRNAナノ粒子の投与から6時間後のマウスの代表的な生物発光画像を示す。
【
図7】
図7は、低用量のα-GalCer(20ng)を含むmRNAガルソームが、in vivoで樹状細胞の成熟を誘導することを示す図である。(A)脾臓DC(CD11c
high集団)は、活性化マーカーCD40、CD86、およびCD80の発現の増加(MFIの倍数変化で示す)を、mRNAガルソーム投与の24時間後に示した(n=4)。(B)CD40、CD86、およびCD80発現の代表的なヒストグラム。
【0023】
【
図8】
図8は、低用量のα-GalCer(20ng)を含むmRNAガルソームが、免疫刺激性サイトカインの放出を刺激することを示す図である。血清試料を注射後6時間で収集し、炎症性サイトカインの放出についてスクリーニングした:未修飾のmRNAナノ粒子はIFN-α産生を引き起こすが、mRNAガルソームは、IFN-γ、IL-4、IL-12p70、IL-27、IL-17a、IL-6およびTNF-αを含む異なるサイトカイン応答を誘導する。データは、少なくとも2つの独立した実験からプールされる。
【
図9】
図9は、mRNAガルソームが、未修飾のmRNAとパッケージ化されたナノ粒子よりも優れた抗原特異的CD8
+T細胞応答を媒介することを示す図である。(A)α-GalCerは、抗原特異的CD8
+T細胞応答の誘導を強力に媒介する。マウスをOVA mRNAナノ粒子で免疫化した。6日後、脾臓におけるOVA特異的CD8
+T細胞のパーセンテージを、H-2kb OVAテトラマー染色を使用して測定した。(B)OVA特異的CD8
+T細胞の代表的なフローサイトメトリー散布図。
【0024】
【
図10】
図10は、mRNAガルソームの全身投与により、iNKT細胞およびNK細胞の増大が生じることを示す図である。(A)mRNAガルソーム注射の3日後、脾臓および肝臓は、未処置のマウスと比較して増大したiNKT細胞数を示した。(B)脾臓および肝臓におけるiNKT細胞の代表的なフロープロット(TCRβ
+、mCD1d PBS-57
+細胞)。(C)NK細胞(CD3
-、NK1.1
+細胞)の下流活性化。この図のデータ(n=6)は、2つの独立した実験からプールされている。
【
図11】
図11は、E.G7-OVAリンパ腫における、OVA mRNAガルソームまたは未修飾mRNAナノ粒子による治療用ワクチン接種を示す図である。マウスに、E.G7-OVAリンパ腫細胞(3×10
5細胞)を皮下接種した。E.G7-OVA担がんマウスには、腫瘍が明確に見える8日目にワクチン接種した。グラフは、未処置の対照群、およびOVA mRNAガルソームまたは未修飾OVA mRNAナノ粒子で処置したマウス(n=7~8)の、時間の関数としてのカプランマイヤー生存曲線とそれぞれの腫瘍増殖曲線(AおよびB)を示す。
【0025】
【
図12】
図12は、B16-OVA黒色腫モデルにおける、OVA mRNAガルソームまたは未修飾mRNAナノ粒子による治療用ワクチン接種を示す図である。マウスに、B16-OVAリンパ腫細胞(3×10
5細胞)を皮下接種した。B16-OVA保有マウスは、8日目、12日目、16日目に3回ワクチン接種した。グラフは、未処置対照群、およびOVA mRNAガルソームまたは未修飾OVA mRNAナノ粒子で処置したマウス(n=7~8)の、時間の関数としてのカプランマイヤー生存曲線とそれぞれの腫瘍増殖曲線(AおよびB)を示す。
【
図13】
図13は、mRNAガルソームによる治療用ワクチン接種が、エフェクター細胞の腫瘍浸潤をもたらすことを示す図である。2回のワクチン接種を受けたB16-OVA保有マウスを14日目に犠牲にし、浸潤CD8
+T細胞(A)およびOVA特異的CD8
+T細胞(B)、iNKT細胞(C)およびNK細胞(D)について評価した。
【0026】
【
図14】
図14は、mRNAガルソームによる治療用ワクチン接種が、B16 OVA黒色腫の抑制性骨髄細胞にプラスの影響を及ぼすが、しかしPD-1/PD-L1経路を活性化することを示す図である。腫瘍部位における(A)MDSC(CD11b
+、GR1
+、MHC-II
-)および(B)M1分極TAM(CD11b
+、F4/80
+、MHC-II
+)の存在(n=8、2つの独立した実験からプール)。(C)mRNAガルソームは、腫瘍細胞(CD45
-)およびAPC(CD45
+、CD11c
+)でPD-L1発現を誘導した(n=5)。(D)腫瘍浸潤CD8
+T細胞のPD-1の発現についての評価を、14日目(ブーストの2日後)(n=6~8、2回の実験からプール)または21~33日後の時点で腫瘍体積が1000mm
3に達した時に実施した(n=5)。CD8
+T細胞は、腫瘍部位においてPD-1のより高い表面発現レベルを示した。脾臓において活性化されたiNKT細胞は、mRNAガルソームによる最初のチャレンジの3日後に測定された、PD-1発現の増加を示した(n=8、2つの実験からプール)。
【0027】
【
図15】
図15は、抗PD-L1抗体によるチェックポイント阻害が、mRNAガルソームによる刺激後のiNKTアネルギーの誘導を防ぐことを示す図である。iNKTアネルギーの評価のために、ナイーブマウスに対し、2回の連続したmRNAガルソームへの曝露を、初回投与と2回目投与の間に5日間おいて与えた。(A)アイソタイプ抗体または抗PD-L1抗体のいずれかと組み合わせたmRNAガルソームの1回目および2回目の投与の6時間後に収集した血清中の、IFN-γの産生を示すグラフ。バーは平均±SD(n=4)を示す。(B)各ワクチン接種の3日後に測定した、脾細胞中のiNKT細胞(TCRβ
+、mCD1d PBS-57
+細胞)のパーセンテージ。(C)脾臓DC(CD11c
+細胞)でのPD-L1発現およびiNKT細胞でのPD-1発現、それぞれ最初の処置の6時間後および2回目の処置の3日後に測定(n=4)。
【0028】
【
図16】
図16は、抗PD-L1抗体と組み合わせたmRNAガルソームが、B16-OVA黒色腫保有マウスの治療結果を改善することを示す図である。マウスにB16-OVA黒色腫細胞(5×10
5細胞)を皮下接種し、腫瘍が明確に見える8日目にワクチン接種した。このため、B16-OVA保有マウスに、100μgのラットIgG2b抗体(アイソタイプ対照)または抗PD-L1抗体を単剤療法で、またはmRNAガルソームとの併用療法で腹腔内投与した。グラフ(A)は、それぞれの処置の平均腫瘍増殖曲線および(B)カプランマイヤー生存曲線を示し、抗PD-L1抗体とmRNAガルソーム(n=6~8)の間の相乗効果を実証する。矢印は処置日を示す。
【0029】
【
図17】
図17は、抗PD-L1抗体と、mRNAガルソームまたは関連する腫瘍抗原TRP-2をコードする未修飾のmRNAナノ粒子との併用療法を示す図である。マウスにB16F0黒色腫細胞(5×10
5細胞)を皮下接種し、腫瘍が明確に見える8日目にワクチン接種した。B16F0保有マウスに、100μgのラットIgG2b抗体(アイソタイプ対照)、または抗PD-L1抗体を単剤療法で、またはガルソームもしくはTRP-2をコードするmRNAを含む未修飾mRNAナノ粒子との併用療法で腹腔内投与した。グラフは、それぞれの処置の平均腫瘍増殖曲線を示す(n=6)。矢印は処置日を示す。
【0030】
【
図18】
図18は、αGC類似体によるmRNAガルソームワクチン接種後の、iNKT細胞および抗原特異的CTLの増殖を示す図である。(A)C57BL/6マウスの脾臓を、αGCまたは異なるαGC類似体(すなわち、NU-αGC、PyrC-αGCまたはOCH)を含むmRNAガルソームでワクチン接種した3日後に、iNKT細胞の存在について分析した。(B)SIINFEKL-H2Kbテトラマー染色を使用して、OVA特異的CD8
+T細胞をワクチン接種したマウスの脾臓で同定した(7日目)。(C)iNKT細胞でのPD-1発現。αGCと比較した統計分析は、一元配置分散分析とそれに続くテューキーの事後検定により実施した。(**、p<0.01;***、p<0.001;****、p<0.0001、n=3)。
【0031】
【
図19】
図19は、古典的αGCまたはαGC類似体のいずれかを含むmRNAガルソームを用いた、B16-OVA黒色腫モデルにおける治療用ワクチン接種を示す図である。マウスに、B16-OVA細胞(3×10
5細胞)を皮下接種した。B16-OVA保有マウスに8日目にワクチン接種し、15日目にブーストワクチン接種した。(A)グラフは、腫瘍増殖曲線(生存時点の中央値まで)、ならびに、(B)未処置の対照群(陰性対照)およびαGCまたはαGC類似体(すなわち、NU-α-GC、PyrC-α-GCまたはOCH)を含むOVA mRNAガルソームで処置したマウス(n=5~6)それぞれの生存日数の中央値を示す。
【0032】
【
図20】
図20は、「イオン化可能な」脂質処方(すなわち、Dlin-MC3-DMA/DSPC/コレステロール/PEG-DMG)で構成されたmRNAガルソームからの、発現および免疫原性を示す。C57BL/6マウスに、fLuc mRNAおよびtOVAI80 mRNAと共製剤化されたMC3 mRNAガルソームを投与し、翻訳活性および免疫効果を前述のDOTAP/コレステロールmRNAガルソームと比較した。(A)MC3 mRNAガルソーム投与6時間後のマウスにおける、fLuc mRNA発現の代表的な生物発光画像。(B)DOTAP対MC3 mRNAガルソームのワクチン接種の6日後に測定された、iNKT細胞およびOVA特異的CTLの脾臓におけるパーセンテージ。(C)血清試料を注射後6時間で収集し、炎症性サイトカインの放出についてスクリーニングした。
【0033】
発明の詳細な説明
次に本発明についてさらに説明する。以下の節では本発明の異なる側面がより詳細に定義されている。そのように定義された各側面は、明確に逆の指示がない限り、他の1つ以上の側面と組み合わせることができる。明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。例として、「化合物」は1つの化合物または複数の化合物を意味する。本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」という単語および「含むこと(comprising)」および「含む(comprises)」などの他の形態の単語は、例えば、他の添加剤、成分、整数、またはステップを含むがこれらに限定されないことを意味し、これらを除外することを意図しない。本明細書で使用される場合、「約」、「およそ」、「実質的に」、および「著しく」は、当業者によって理解され、それらが使用される文脈によってある程度変化する。それが使用される文脈を考えると当業者に明らかでない用語の使用がある場合、「約」および「およそ」は、特定の値または用語のプラスマイナス10%を意味する。上記の用語および本明細書で使用される他の用語は、当技術分野の人々によく理解されている。本明細書で引用されるすべての参考文献および具体的に言及される教示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
本発明は、抗原提示細胞を標的とし、mRNA発現を誘導し、適切な免疫応答を誘発するmRNA送達システムに関する。驚くべきことに、送達システムの脂質組成に少量のみのiNKT細胞アゴニストを組み込むことにより、効果的な抗原特異的T細胞免疫応答が、バランスの取れたサイトカイン応答およびiNKT/NK細胞活性化と共に生成されることが見出された。従来技術とは対照的に、このプラットフォームは、mRNA構築物を最適に設計して、抗原認識のための改善された発現レベルを得ることを可能にする。
【0035】
ヌクレオシド修飾mRNAを糖脂質α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)またはその機能的類似体と組み合わせると、(がん)免疫療法にユニークな特性が得られることが、本明細書において実証された。より具体的には、α-GalCerはよく知られた糖脂質抗原であり、MHC-I様分子CD1dの抗原提示細胞によって提示されると、不変のナチュラルキラーT細胞(iNKT)の強力な活性化をもたらす。この異例なT細胞のサブセットは生得免疫および適応免疫に寄与するが、直接的および間接的な抗腫瘍効果も発揮し得る。危険経路を直接トリガーする古典的な免疫アジュバントとは異なり、α-GalCerは、α-GalCerを提示するDCとiNKT細胞の間の双方向の相互作用を通じて、間接的なアジュバント効果を発揮する。そのため、iNKT細胞は、CD40とCD40リガンド間の相互作用を通じて、mRNAをトランスフェクトしたAPCを活性化し、サイトカイン(IL-12p70、IFN-γなど)の産生と共刺激受容体(CD80、CD86、CD70など)の発現を誘発する。
【0036】
本発明において、ヌクレオシド修飾mRNAと、例えばα-GalCer化合物(非常に低濃度で組み込まれる)などのiNKTリガンドとの組み合わせが、T細胞免疫を促進するだけでなく、NKT細胞およびNK細胞を活性化してより広く相乗的な抗腫瘍免疫を形成する、という利点も提供することが示された。
本発明において、ヌクレオシド修飾mRNAとiNKTリガンドとの組み合わせは、疾患を介した免疫抑制メカニズムを劇的に変化させる。本質的に、本発明は、免疫抑制表現型を有するMDSCおよびマクロファージの数および機能性を低減した。
【0037】
本発明は、ワクチンプラットフォームと最先端の免疫療法(例えば、チェックポイント阻害剤)との組み合わせによってさらに強化することができる防御免疫応答を、誘導することができる。
一態様において、本発明は、ヌクレオシド修飾mRNA、脂質組成物、およびiNKT細胞アゴニスト、特に、例えばα-GalCer、またはその機能的類似体もしくは誘導体などの糖脂質抗原を含む、ナノ粒子に関する。
【0038】
一態様において、mRNAは、ナノ粒子、特にカチオン性ナノ粒子に組み込まれる。本明細書で使用される用語「ナノ粒子」は広く解釈することができ、薬物、特に核酸、より具体的にはmRNAなどの別の物質の輸送モジュールとして使用される担体を指す。ナノ粒子は現在、例えば薬物送達における使用について研究されており、サイズが直径5~1000nm、特に約5~約500nm、より具体的には約50~約400nmの範囲である。特に、ナノ粒子のサイズは、哺乳動物細胞、特に例えば樹状細胞などの抗原提示細胞によって取り込まれることができるようなものである。用語「カチオン性ナノ粒子」は、コアまたは表面に埋め込まれたカチオン性薬剤を含むナノ粒子を指す。ナノ粒子が治療薬として核酸の複合体形成に使用される場合、正に帯電したナノ粒子は負に帯電したDNA/RNA分子と静電的に相互作用すると考えられ、治療薬の複合体形成を促進するだけでなく、後者を酵素分解から保護することもできる。
【0039】
一態様において、カチオン剤は、ポリカチオン剤、例えばキトサン、ペプチド(ポリ(L-リジン)など)、ペプチド誘導体(ポリ(L-リジン)-パルミチン酸など)、ポリエチレンイミン、ポリ(アミドエチレンイミン)、およびポリ(アミドアミン)などであり得るが、これらに限定されない。特定のポリカチオン剤は、ポリマー、好ましくは多糖類、より好ましくはデキストランであり、反応性(メタ)アクリレート部分で官能化され、続いてカチオン性(メタ)アクリレートモノマーと、例えば2-アミノエチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-N-モルホリノエチルメタクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート、または[2-(メタクリロイルオキシ)-エチル]トリメチルアンモニウムクロリドなどと、共重合される。
【0040】
さらなる態様において、本発明のナノ粒子は脂質成分を含む担体であり、リポプレックス製剤または脂質ベースのナノ粒子とも呼ばれ、固体脂質ナノ粒子、リポソームおよびミセルが含まれる。核酸、特にmRNAの標的細胞への送達を容易にするための脂質ベースのナノ粒子の使用は、本発明によって特に企図される。前記ナノ粒子の二重層膜は、両親媒性分子によって、例えば空間的に分離された親水性および疎水性ドメインを含む合成または天然起源の脂質などによって、典型的には形成される。(脂質)ベースのナノ粒子の二重膜は、両親媒性ポリマーおよび界面活性剤(例えば、ポリマーソーム、ニオソームなど)によって形成することもできる。適切な脂質の例としては、例えば、ホスファチジル化合物(例えば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴ脂質、セレブロシド、およびガングリオシド)が挙げられる。
【0041】
本発明の文脈において、脂質ベースのナノ粒子は、典型的には、例えばmRNAなどの核酸を標的細胞へ輸送するのに役立つ。組み込まれた核酸は、完全にまたは部分的に粒子の内部空間に、粒子の二重層膜内に、または粒子膜の外面に会合して位置し得る。核酸とナノ粒子との会合は、本明細書では「カプセル化」とも呼ばれ、ここで核酸は完全に粒子に組み込まれている。粒子は、核酸を酵素または化学物質を含み得る環境から保護し、カプセル化された核酸が標的細胞に到達することを可能にする。
ナノ粒子は核酸の標的細胞への導入を促進することができるが、本明細書で提供されるポリカチオンのコポリマーとしての添加はトランスフェクション効率を促進し、場合によっては著しく増強することができる。
【0042】
さらなる態様において、脂質成分はカチオン性脂質であるか、またはそれを含み、すなわち脂質ベースのナノ粒子は、1つ以上のカチオン性脂質を任意に非カチオン性脂質およびPEG修飾脂質と組み合わせて使用する様々な比率の多成分脂質混合物を含むことによって、調製され得る。カチオン性脂質は一般に、負に帯電したDNA/RNA分子の静電複合体形成を可能にするために含まれ、アミノ基のpKaに従って次のように大まかに分けることができる:(i)「永久帯電脂質」、例えばDOTMA、DOTAPおよびDC-コレステロール、または(ii)「pH依存性イオン化可能脂質」、例えばD-Lin-MC3-DMAおよび脂質様分子C12-200。用語「カチオン性脂質」および「アミノ脂質」は、本明細書において交換可能に使用され、1、2、3、またはそれ以上の脂肪酸または脂肪性アルキル鎖およびpH滴定可能なアミノ頭部基(例えば、アルキルアミノもしくはジアルキルアミノ頭部基)を有する脂質およびその塩を含む。いくつかのカチオン性脂質が文献に記載されており、それらの多くは市販されている。本発明の組成物および方法で使用するのに特に適切なカチオン性脂質としては、以下が挙げられる:1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパンまたは「DOTAP」、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドまたは「DOTMA」、5-カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミドまたは「DOGS」、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムまたは「DOSPA」、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパンまたは「DODAP」。イオン化可能脂質はpKa<7であり、中性から軽度のカチオン電荷を生理学的pH条件下で有する。頭部基に第一級、第二級、または第三級アミンを含む前記のイオン化可能カチオン性脂質が、脂質がpKa未満のpH値(例えばpH4)で正に帯電している場合に核酸をカプセル化する目的で、および生理学的pH値でほぼ中性のLNPのために、開発された。これは恒久的に帯電した脂質に対して一定の利点を提供し、その最も重要なものは、イオン化可能脂質が毒性の低下と血液循環の延長に関連するということである。
【0043】
企図されるカチオン性または「イオン化可能」カチオン性脂質には、以下も含まれる:1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DSDMA」、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DODMA」、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DLinDMA」、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエートまたは「DLin-MC3-DMA」もしくは「MC3」、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソランまたは「DLin-KC2-DMA」もしくは「KC2」、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパンまたは「DLenDMA」、N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリドまたは「DODAC」、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミドまたは「DDAB」、N-(1,2-ジミリスチルオキシプロプ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミドまたは「DMRIE」、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエノキシ)プロパンまたは「CLinDMA」、2-[5’-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(cis,cis-9’,1-2’-オクタデカジエノキシ)プロパンまたは「CpLinDMA」、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミンまたは「DMOBA」、1,2-N,N’-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DOcarbDAP」、2,3-ジリノレオイルオキシ-Ν,Ν-ジメチルプロピルアミンまたは「DLinDAP」、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DLincarbDAP」、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパンまたは「DLinCDAP」、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソランまたは「DLin-K-XTC2-DMA」。
【0044】
ナノ粒子中のカチオン性脂質の濃度は、総脂質量の15mol%~65mol%、特に20mol%~60mol%、より具体的には35mol%~45mol%である。
本発明の特定の態様において、カチオン性脂質1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパンまたは「DOTAP」は、担体に使用される。DOTAPは、単独で製剤化することも、またはリポソーム輸送ビヒクルまたは脂質ナノ粒子中で任意に中性脂質または他のカチオン性もしくは非カチオン性脂質と組み合わせることもでき、かかる脂質ベースのナノ粒子を使用して、核酸の標的細胞への送達を増強することができる。特定の態様において、本発明のナノ粒子の脂質成分は、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)を含まない。
【0045】
さらなる態様において、本明細書で提供されるナノ粒子はコレステロールを含む。より具体的には、ナノ粒子の脂質成分は、脂質、特にカチオン性脂質、より具体的にはDOTAPと、コレステロールとの組み合わせを含む。前記粒子は本実施例において、血清中で特に安定であることが示されている。ナノ粒子の脂質成分は、40mol%~80mol%のコレステロールを含む。特に、ナノ粒子中のコレステロールの濃度は、総脂質量の55mol%~65mol%の間である。
コレステロールベースのカチオン性脂質の使用もまた、本発明によって企図される。かかるコレステロールベースのカチオン性脂質は、単独で、または他のカチオン性もしくは非カチオン性脂質と組み合わせてのいずれかで、ナノ粒子の脂質成分の一部として使用することができる。適切なコレステロールベースのカチオン性脂質としては、例えば、DC-コレステロール3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール、1,4-ビス(3-N-オレイルアミノ-プロピル)ピペラジンまたはICEが挙げられる。コレステロールの代替として、他の構造脂質または類似体を使用することができ、例えばフェコステロール、シトステロール、エルゴステロール、カンペルステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、トマチジン、ウルソール酸およびα-トコフェロールからなる群から選択される脂質などである。
【0046】
本発明のナノ粒子は、サイズ、表面電荷、および任意の標的化部分、例えば抗体、ペプチド、葉酸塩、炭水化物(マンノース、ガラクトース、GalNAcなど)、ハロペリドール、アニサミド、強心配糖体などの付着に関して、カスタマイズすることができる。さらに、ナノ粒子の表面は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)またはナノ粒子のコロイド安定性を維持し非特異的な相互作用および免疫系による認識を低減することができる関連するポリマーもしくは部分で、修飾可能である。
一般に、本発明のナノ粒子は、遺伝物質と共に(治療)薬剤として使用するのに適している。薬剤は、ナノ粒子によってカプセル化され得るか、またはその1つ以上の表面に付着してコンジュゲートを形成することができる。薬剤をナノ粒子内にカプセル化するための適切な方法は当業者に知られており、静電錯化、共有結合、疎水性相互作用、受動的負荷、遠隔負荷、塩析、ナノ沈殿、エマルジョン拡散、溶媒蒸発、噴霧乾燥および乳化重合を含む。典型的にはかかる方法は、ナノ粒子を作製するために使用する材料および選択した薬剤に応じて適応され得、その適応は、当業者の権限の範囲内である。
【0047】
特定の態様において、遺伝物質は核酸であり、(プラスミド)DNA、RNA、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNAアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAアンチセンスオリゴヌクレオチド、トリプレックス形成オリゴヌクレオチド、転写因子デコイオリゴヌクレオチド、低分子非コードRNA(例:siRNA、dsiRNAまたはmiRNA)および長鎖非コードRNAを含む。特に好ましいのは、ナノ粒子とmRNAの複合体、およびより特異的なmRNAナノ粒子である。mRNAは、天然または非天然に存在するmRNAであってよい。mRNAは、1つ以上の修飾核酸塩基、ヌクレオシド、またはヌクレオチドを含み得る。mRNAの核酸塩基は、プリンまたはピリミジンまたはそれらの誘導体などの有機塩基である。核酸塩基は、標準塩基(例えば、アデニン、グアニン、ウラシル、およびシトシン)、または非標準もしくは修飾塩基であって、アルキル、アリール、ハロー、オキソ、ヒドロキシル、アルキルオキシ、および/またはチオ置換を含むがこれらに限定されない1つ以上の置換または修飾;1つ以上の縮合環または開放環;酸化;および/または還元を含むものであってよい。
【0048】
mRNAは、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、および/またはコーディングもしくは翻訳配列を含み得る。任意に、mRNAは、ステムループ、ヌクレオシドを終結させる鎖、ポリA配列、ポリアデニル化シグナル、および/または5’キャップ構造のうちの1つ以上を含む。
mRNAは、数十、数百、または数千の塩基対を含む任意の数の塩基対を含み得る。任意の数(例えば、すべて、一部、またはなし)の核酸塩基、ヌクレオシド、またはヌクレオチドは標準種の類似体であり、置換され、修飾され、またはそうでなければ天然に存在しなくてもよい。特定の態様において、mRNAは修飾されている。本発明のmRNAへの置換および修飾は、当業者に容易に知られる方法によって実施することができる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「修飾された」とは、非天然を意味する。すなわちmRNAは、天然に存在しない1つ以上の核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、またはリンカーを含み得る。前記態様において、mRNAは、核酸に増加または増強された安定性を与える少なくとも1つの修飾を含み得て、これは例えば、in vivoでのヌクレアーゼ消化に対する改善された耐性を含む。本明細書で使用される場合、用語「修飾」および「修飾された」は、本明細書で提供される核酸に関連し、好ましくは安定性を増強し、mRNAを野生型またはmRNAの天然に存在するバージョンよりも安定にする(例えば、ヌクレアーゼ消化に耐性にする)、少なくとも1つの変更を含む。本明細書で使用される場合、用語「安定である」および「安定性」とは、本発明の核酸に関連し、特にmRNAに関して、例えば通常かかるmRNAを分解することができるヌクレアーゼ(すなわち、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼ)による分解に対する、増加または増強した耐性を指す。安定性の増加には、例えば、内因性酵素(例えば、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼ)または標的細胞もしくは組織内の条件による加水分解または他の破壊に対する、感受性の低下が含まれ、それによって標的細胞、組織、対象および/または細胞質におけるかかるmRNAの滞留が、増加または増強される。本発明のmRNAに関連するそのような用語としての「修飾」および「修飾された」の用語によって企図されるのは、mRNA核酸の翻訳を改善または増強する変化であって、これは例えば、タンパク質翻訳の開始において機能する配列の包含を含む(例:コザックコンセンサス配列)。
【0050】
さらなる態様において、本発明のmRNAは、これをより安定にするために化学的または生物学的修飾を受けている。mRNAへの例示的な修飾には、塩基の除去(例えば、欠失またはあるヌクレオチドの別のヌクレオチドへの置換による)または塩基の修飾、例えば塩基の化学修飾が含まれる。本明細書で使用される「化学修飾」という句は、天然に存在するmRNAに見られるものとは異なる化学を導入する修飾、例えば、修飾ヌクレオチドの導入などの共有結合修飾(例えばヌクレオチド類似体、または天然ではかかるmRNA分子に見出されないペンダント基の包含)を含む。
【0051】
また、適切な修飾には、コドンが同じアミノ酸をコードするが、野生型バージョンのmRNAに見られるコドンよりも安定であるような、コドンの1つ以上のヌクレオチドの変更が含まれる。例えば、RNAの安定性と、より多くのシチジン(C)および/またはウリジン(U)残基との逆の関係が実証されており、CおよびU残基を欠くRNAは、ほとんどのRNaseに対して安定であることが見出されている[30]。いくつかの態様において、mRNA配列中のCおよび/またはU残基の数は減少されている。別の態様において、Cおよび/またはU残基の数は、特定のアミノ酸をコードする1つのコドンを、同一または関連するアミノ酸をコードする別のコドンで置換することによって減少されている。修飾という用語はまた、例えば、非ヌクレオチド結合または修飾ヌクレオチドの、本発明のmRNA配列への組み込み(例えば、機能的に分泌されたタンパク質または酵素をコードするmRNA分子の3’および5’末端の一方または両方への修飾)を含む。かかる修飾には、mRNA配列への塩基の付加(例えば、ポリAテールまたはより長いポリAテールの包含)、3’UTRまたは5’UTRの変化、mRNAと薬剤(例えば、タンパク質または相補的核酸分子)との複合体形成、およびmRNA分子の構造を変化させる(例えば、二次構造を形成する)要素の包含が含まれる。
【0052】
特定の態様において、本発明のナノ粒子は、修飾mRNA、より具体的にはヌクレオシド修飾mRNAを含み、ここで天然に存在する修飾ヌクレオチドが、部分的(少なくとも10%)および最大で完全置換(例:10~100%、20~100%、30~100%、40~100%、50~100%など)により、mRNA転写物に組み込まれる。好ましいヌクレオチドは、プソイドウリジン(Ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)および/または5-メチルシチジン(5meC)である。ヌクレオシド修飾mRNAを使用することにより、TLR3、TLR7、およびTLR8による細胞内mRNA認識を低下させることができ、mRNAを「免疫抑制性」にし、I型IFNの放出を回避する。さらにヌクレオチド修飾は、RNAを酵素分解に対してより耐性にすることができる。しかしこれはRNAの自己アジュバント効果の喪失を伴い、DCの活性化とT細胞のプライミングに影響を及ぼす。本発明において、本発明者らは、少量のiNKTアゴニスト、より具体的にはα-GalCerまたは類似体の組み込みが、I型IFNの強力な誘導なしに、高い抗原発現および強力な免疫活性化の両方を確実にすることを実証した。
【0053】
一態様において、本発明は、ヌクレオシド修飾mRNAおよび本明細書で提供されるiNKTアゴニストなどのアジュバントの両方を、その中に複合体化することができる、カチオン性および/または脂質ベースのナノ粒子に関する。本明細書で使用される場合、「複合体化された」という用語は、ナノ粒子との、またはナノ粒子内での、アジュバントのコンジュゲーション、カプセル化、付着またはカップリングを含む。「混合」という用語は、ナノ粒子に溶解、分散、または懸濁されているアジュバントを指す。iNKTアゴニストは、当業者に周知の方法によって、または本明細書で提供される方法によって、ナノ粒子に会合するか、共有結合するか、または組み込まれ/カプセル化される。一例として、iNKTアゴニストは、本明細書で提供される脂質ベースのナノ粒子の水性コアおよび/または脂質膜内に組み込むことができ、iNKTアゴニストは、脂質または高分子ミセル製剤の一部であり得るか、またはiNKTアゴニストを、ポリマーコンジュゲート、ポリマーマトリックスナノ粒子、固体ポリマーナノ粒子などのポリマーナノ粒子に適用することができる。
【0054】
ナノ粒子組成物中のmRNAの量は、mRNAのサイズ、配列、およびその他の特性に依存し得る。ナノ粒子組成物中のmRNAの量はまた、ナノ粒子組成物のサイズ、組成、所望の標的、および他の特性に依存し得る。mRNAと他の要素(例えば脂質)の相対量も変化し得る。一態様において、ナノ粒子組成物中の脂質成分とmRNAの重量/重量比は、約1:1から約100:1であり得る。例えば脂質成分とmRNAの重量/重量比は、約5:1から約50:1であり得る。ナノ粒子組成物中のmRNAの量は、例えば蛍光分光法(例:蛍光相関分光法)を使用して測定することができる。いくつかの態様において、1つ以上のmRNA、脂質、およびそれらの量は、特定のN:P比を提供するように選択され得る。組成物のN:P比は、1つ以上の脂質中の窒素原子の、mRNA中の多数のリン酸基に対するモル比を指す。1つ以上のmRNA、脂質、およびそれらの量は、N:P比として約1:2から約6:1、例えば、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、および6:1、特に約1:1から3:1等を提供するように、選択され得る。
【0055】
さらなる態様において、mRNAは目的の任意のポリペプチドまたは抗原をコードし、これには、任意の天然または非天然に存在するかまたは他の方法で修飾された、ポリペプチドまたはペプチドエピトープが含まれる。mRNAによってコードされるポリペプチドは任意のサイズであり得、任意の二次構造または活性を有し得る。いくつかの態様において、mRNAによってコードされるポリペプチドは、細胞において発現される場合、(間接的な)治療効果を有し得る。さらなる態様において本発明の方法は、ナノ粒子に、核酸、特にRNA、より具体的にはmRNAをコードする抗原を負荷またはトランスフェクトすることを含む。本明細書で使用される場合、「抗原」は本発明に限定されない。一態様において、抗原は、腫瘍抗原、腫瘍関連抗原、がん精巣抗原、ムタノーム由来抗原、(発がん性)ウイルス抗原、細菌抗原、酵母抗原、寄生虫抗原および真菌抗原からなる群から選択される。本発明のナノ粒子製剤は、高いトランスフェクション効率が、潜在的な(全身の)悪影響を最小限に抑えつつ適切な投与量のmRNAが標的細胞に送達される可能性を改善することを実証する。
【0056】
mRNAを含むナノ粒子の調製は、当業者に知られている任意の方法によって、例えばエタノール希釈、脂質膜水和、またはマイクロ流体デバイスの使用などにより行うことができる。本発明のmRNAを負荷した脂質ベースのナノ粒子を調製する例示的な方法は、以下のステップを含む:(1)適切な量の脂質をクロロホルムに溶解する、(2)適切な量のiNKTアゴニストを加える、(3)クロロホルムを蒸発させ、得られた脂質をバッファーで再水和する、(4)得られた脂質粒子のサイズを、超音波処理または押し出しにより低減する、(5)mRNAと混合する。
【0057】
本明細書で使用される場合、「iNKT細胞アゴニスト」は当技術分野でのその一般的な意味を有し、脂質に由来する任意の誘導体または類似体を指し、これは通常、抗原提示細胞(APC)によってCD1dの状況で提示され、iNKT細胞を活性化することができる、すなわち、特定の方法でiNKT細胞によるサイトカイン産生を促進する。特定の一態様において、本発明によるiNKT細胞アゴニストは糖脂質抗原であり、例えばα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer;(2S,3S,4R)-1-O-(α-D-ガラクトシル)-N-ヘキサコサノイル-2-アミノ-1,3,4-オクタデカントリオール)であって共通名KRN7000を有する、アゲラスフィン誘導体である。本明細書で使用される場合、「α-ガラクトシルセラミド化合物」または「α-GalCer化合物」という用語は、当技術分野でのその一般的な意味を有し、a-結合によって可変長のアシル鎖とスフィンゴシン鎖を持つセラミド脂質に結合されたガラクトース炭水化物を含有するスフィンゴ糖脂質に由来する、機能的誘導体または類似体を含む。機能的な類似体または誘導体は、iNKT細胞を活性化する能力を保持している。さまざまな出版物が、α-GalCer化合物とその合成について説明している。α-ガラクトシルセラミドの機能的誘導体または類似体は、例えばWO2014001204(参照により組み込まれ、開示された化合物NU-αGC、PyrC-αGCおよびOCHを具体的に参照する)、WO201379687、およびWO2013162016に提供されている。iNKT細胞アゴニストの例としては、以下が挙げられる:HS44、BbGL-II、スレイトールセラミド、ABX196、PBS-25、PBS-57、α-C-GalCer、OCH、ナフチル尿素-α-GalCerまたはNU-α-GalCer、アルファ-GalCer-6”-(4-ピリジル)カルバメートまたはPyrC-α-GalCer、(3S,4S,5R)-1-(6”-O-(4-ピリジニルカルバモイル)-α-C-D-ガラクト-ピラノシル)-3-ヘキサコシルアミノ-ノナデカン-4,5-ジオール、(3S,4S,5R)-1-(6”-O-(4-ピリジニルカルバモイル)-α-C-D-ガラクト-ピラノシル)-3-ヘキサコシルアミノ-1-ノナデセン-4,5-ジオール、(3S,4S,5R)-1-(6”-ナフツレイド-6”-デオキシ-α-C-D-ガラクト-ピラノシル)-3-ヘキサコシルアミノ-ノナデカン-4,5-ジオール、(3S,4S,5R)-1-(6”-ナフツレイド-6”-デオキシ-α-C-D-ガラクト-ピラノシル)-3-ヘキサコシルアミノ-1-ノナデカン-4,5-ジオール、α-1C-GalCer、または7DW8-5。α-GalCer化合物は、当業者に知られている方法によって化学的に合成することができる。本発明の特定の態様において、α-GalCer化合物は、本明細書で提供されるナノ粒子の脂質成分に組み込まれる。
【0058】
驚くべきことに、本発明の使用および方法におけるiNKT細胞アゴニスト、特にナノ粒子は、溶液中の同じアゴニストよりも約3から5倍強力である。従来技術のmRNAワクチン、特に未修飾のmRNAで構成される脂質ナノ粒子と比較して、本発明では、4~5倍多い数の抗原特異的T細胞を得ることができる。ナノ粒子中のiNKT細胞アゴニスト、特にα-GalCer化合物、より具体的にはα-GalCerの濃度は、総脂質量の0.0015mol%~1mol%、特に0.0015mol%~0.5mol%、さらに特に0.0015mol%~0.25mol%、さらにより特に0.0015mol%~0.15mol%である。
「iNKT細胞を活性化する」または「iNKT免疫応答を誘導する」という句は同様の意味を持ち、サイトカイン産生の観察された誘導、例えば、α-GalCer化合物による、iNKT細胞におけるIFN-γなどの誘導を指す。iNKT細胞によるサイトカイン(例えばIFN-γ)産生の分析は、本明細書で提供される方法によって、またはαGalCerもしくはPBS-57などの誘導体を負荷したCD1dテトラマーを使用するフローサイトメトリーによって、行うことができる。
【0059】
組成物/製剤
本発明はさらに、本明細書で提供されるナノ粒子すなわちmRNAおよびiNKT細胞アゴニストなどの遺伝物質を含むもの、ならびに1つ以上の薬学的に許容し得る賦形剤、担体および/または希釈剤を含む、医薬組成物、製剤または送達システムを提供する。
例えば、(医薬)組成物は、1つ以上の薬学的に許容し得る賦形剤または付属成分を含んでよく、これは例えば、1つ以上の溶媒、分散媒体、希釈剤、分散助剤、懸濁助剤、造粒助剤、崩壊剤、充填剤、流動促進剤、液体ビヒクル、結合剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、油、および防腐剤などであるがこれらに限定されない。賦形剤、例えばワックス、バター、着色剤、コーティング剤、香料、および芳香剤なども含まれ得る。薬学的に許容し得る賦形剤は当技術分野で周知である(例えば、Remington's The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, A. R. Gennaro; Lippincott, Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2006を参照)。
【0060】
薬学的に許容し得る賦形剤としては、固体(例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックスおよびイオン交換樹脂)、ゲルまたは液体であり得る。経口および非経口投与用の液体賦形剤の適切な例には、水(上記のような添加剤、例えばセルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を、部分的に含有する)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール、例えばグリコールを含む)およびそれらの誘導体、ならびに油(例えば、分別されたココナッツオイルおよび落花生油)が挙げられる。非経口投与の場合、賦形剤はまた、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルであり得る。無菌液体賦形剤は、非経口投与用の無菌液体形態の組成物において有用である。無菌溶液または懸濁液である液体医薬組成物は、例えば、皮下、結節内、髄腔内、硬膜外、腹腔内、静脈内および筋肉内注射によって利用することができる。一態様において、組成物は凍結乾燥される。
【0061】
医学的効果、すなわち特に免疫応答を支持するために、医薬組成物は、本発明の一態様において、同時または連続投与が考えられる場合さらなる活性化合物も含み得る。本発明による医薬組成物の治療効果が生じるのは、例えば、補体系の活性化を通じて、より良い作用を所望の副作用として有する特定の抗腫瘍薬によるか、または用量の減少によって、これらの医薬の副作用の数が低減することによる。したがって、本明細書に開示される使用および方法はまた、本明細書に記載のナノ粒子または組成物の、病状の処置のための1つ以上の追加の(治療)薬剤との使用を含み得る。一例において、前記治療剤は、化学療法剤、生物療法剤、免疫原性剤、免疫刺激性サイトカイン、および免疫刺激性サイトカインをコードする遺伝子をトランスフェクトされた細胞から、選択される。有効成分の組み合わせは、以下のものであり得る:(1)本ナノ粒子自体に組み込まれる、例えばさらなるmRNAとして;(2)共製剤化され、併用製剤で同時に投与または送達される;(3)別々の製剤として(例えば、交互に、その後に、または並行して)送達される;または(3)当技術分野で知られている他の任意の併用療法レジメンによる。交互療法(alternation therapy)で送達される場合、本明細書に記載の方法は、例えば、別個の溶液、乳濁液、懸濁液、錠剤、丸薬またはカプセルで、または別個の注射器での異なる注射によって、有効成分を連続して投与または送達することを含み得る。一般に交互療法の間、各有効成分の有効投与量は順番に、すなわち連続して投与されるが、同時療法では、2つ以上の有効成分の有効投与量が一緒に投与される。間欠的併用療法の様々なシーケンスも使用することができる。場合によっては、本明細書に開示の化合物は、第2の治療薬と共に投与および/または製剤化される。
【0062】
特定の態様において、第2の治療薬または薬剤は、化学療法剤または免疫療法剤のうちの1つ以上であり得る。本明細書に開示される併用療法で使用するための特定の免疫療法剤は、いわゆる「チェックポイント阻害剤」を含む。過去数年の間に、腫瘍溶解性ウイルスに基づく治療概念に加えて、免疫腫瘍学の分野はがんとの闘いにおいて貴重なアプローチになっている。治療的抗腫瘍免疫を活性化するための最新の有望なアプローチの1つは、免疫チェックポイントの遮断である。免疫チェックポイントとは、免疫系に物理的に組み込まれた多数の阻害経路を指し、これらは、側副組織の損傷を最小限に抑えるために、自己寛容を維持し、かつ末梢組織の生理学的免疫応答の持続時間と振幅を調整するのに重要である。腫瘍が、特に腫瘍抗原に特異的なT細胞に対する免疫抵抗性の主要なメカニズムとして、特定の免疫チェックポイント経路を採用していることは今や明らかである。免疫チェックポイントの多くはリガンドと受容体の相互作用によって開始されるため、抗体によって容易にブロックされたり、組換え型のリガンドまたは受容体によって調節されたりする可能性がある。重要な免疫チェックポイント受容体は、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA4;CD152としても知られている)であり、T細胞活性化の振幅を下方調節する。承認された抗CTLA4抗体は「イピリムマブ」という名前で知られており、Bristol Myers Squibb(BMS)から「Yervoy(登録商標)」のブランド名で販売されている。
【0063】
もう1つの重要な免疫チェックポイント受容体はプログラム細胞死タンパク質1(PD1)であり、組織内のT細胞エフェクター機能を制限する。ヒト化モノクローナル抗体ペンブロリズマブ(Merck SharpDohme;MSDから販売されているMK-3575またはKeytruda(登録商標)としても知られている)は、標的PD-1に対するものである。別の抗PD1抗体は、ニボルマブ;Bristol Myers Squibb;BMSが販売するオプジーボ(登録商標)である。したがって特定の態様において、チェックポイント阻害剤は、CTLA-4阻害剤またはアンタゴニストであり、CTLA-4に特異的に結合する。さらなる態様において、チェックポイント阻害剤は、PD-1およびCTLA-4二重特異性分子である。かかる二重特異性分子は、消耗した耐性腫瘍浸潤リンパ球および他の細胞型の表面に存在するPD-1およびCTLA-4分子に特異的に結合することができる。
【0064】
特定の態様において、チェックポイント阻害剤は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)阻害剤、またはプログラム死リガンド(PD-L1)または(PD-L2)阻害剤である。用語「阻害剤」または「アンタゴニスト」は、かかる細胞表面分子がそれらのそれぞれのリガンドに応答する能力を損なう、任意の化合物または生体分子を指し、例えば、がん細胞で発現したPD-L1の、免疫細胞(T細胞、B細胞、またはNKT細胞)で発現したPD-1への結合をブロックする、および/またはがん細胞で発現したPD-L2の、免疫細胞発現PD-1への結合をブロックする、化合物または分子である。PD-1およびそのリガンドの別名または同義語には、以下が挙げられる:PD-1については、PDCD1、PD1、CD279、およびSLEB2;PD-L1については、PDCD1L1、PDL1、B7H1、B7-4、CD274、およびB7-H;PD-L2については、PDCD1L2、PDL2、B7-DC、Btdc、およびCD273。一態様において、PD-1阻害剤は、ヒトPD-L1のヒトPD-1への結合をブロックし、好ましくは、ヒトPD-L1およびPD-L2両方のヒトPD-1への結合をブロックする。ヒトPD-1アミノ酸配列は、NCBI遺伝子座番号:NP005009に見出すことができる。ヒトPD-L1およびPD-L2アミノ酸配列は、それぞれNCBI遺伝子座番号:NP054862およびNP079515に見出すことができる。
一態様において、前記阻害剤は、抗体およびその抗原結合断片を含む。代替として、PD-1またはPD-L1(2)の結合部分またはアンタゴニストを使用することができ、これには、それぞれPD-1またはPD-L1(2)に特異的に結合する分子を含むさまざまな種類の分子が含まれる。かかるリガンドには、小分子、ポリペプチド(例えば、融合タンパク質)または核酸(アプタマー、siRNA、shRNA等)などが含まれる。
【0065】
用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト操作抗体、ヒト抗体、ならびに抗原結合抗体断片および抗原結合機能を有する分子を指す。より具体的には、「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖をジスルフィド結合によって連結された無傷の免疫グロブリンを含む。「抗体」という用語はまた、PD-1またはPD-L1(2)結合抗体断片を含み、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、scFv断片、ドメイン抗体(dAb)、重鎖抗体(hcAb)、ミニボディ、ラクダ重鎖抗体の可変ドメイン(VHHまたはNanobody(登録商標))、新しい抗原受容体の可変ドメイン(VNAR)、および操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)である。また、抗体のような特性を持つペプチドや足場を使用することもでき、例えば、一本鎖逆平行コイル状タンパク質(アルファボディ)などである。活性断片は、多くの当技術分野で知られている技術によって抗体から誘導することができる。例えば精製されたモノクローナル抗体は、ペプシンなどの酵素で切断され、HPLCゲル濾過にかけられる。次にFab断片を含む適切な画分を収集し、膜濾過などによって濃縮することができる。抗PD-L1および抗PD-1抗体ならびにそれらを作製する方法は、当技術分野で知られている。
【0066】
抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は、PD-1またはPD-L1(2)に特異的に結合することができる。かかる抗体は市販されているか、または当業者に一般に知られている方法によって生成することができる。例示的な抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ(Rocheが販売するTecentriq(登録商標))またはアベルマブ(Merckが販売するBavencio(登録商標))である。抗PD-L1抗体は、その受容体PD-L1への結合および活性化をブロックし、それにより新生物に対するT細胞性免疫応答を増強し、慢性感染症におけるT細胞の不活性化を逆転させる可能性がある。PD-L1は、造血組織および実質組織で広く発現している。
【0067】
医薬組成物は、活性化合物として有効量のナノ粒子および/またはその分散液を、薬学的に許容し得る助剤と共に含むことが重要である。用語「有効量」または「有効用量」は本明細書では互換的に使用され、疾患または病理学的変化に対して予防的または治療的に関連する作用を有する医薬活性化合物の量を示す。「予防作用」は、個々の類似物(individual representatives)の侵入後の病気の発生や病原体の感染さえも防ぎ、その後の蔓延を大幅に減らしたり、完全に非活性化したりする。「治療的に関連する作用」は、1つ以上の疾患症状から解放されるか、または疾患もしくは病理学的変化に関連するかまたは因果関係がある1つ以上の生理学的または生化学的パラメータの、正常な状態への部分的または完全な逆転をもたらす。本発明によるナノ粒子の投与のためのそれぞれの用量または用量範囲は、免疫応答の誘導の所望の予防的または治療的効果を達成するのに十分に大きい。さらにこの組成物は、一次または初期療法に加えて治癒的状況でその有効性を最大化するために与えられる「アジュバント療法」として、または疾患の制御および病気の再発の遅延を最大化するための、初期療法に続く「維持」または「統合」療法として使用することができる。
【0068】
一般的には、投与量は、患者の年齢、体質、性別によって異なり、病気の重症度も考慮される。さらに、投与の特定の用量、頻度、および期間は多数の要因に依存し、例えば、ナノ粒子の標的化および結合能力、処置される個体の栄養習慣、投与の種類、排出速度および他の医薬との組み合わせなどである。個々の用量は、原発性疾患に関しても、任意の合併症の発生に関しても調整することができる。正確な用量は、当業者によって、既知の手段および方法を使用して確立することができる。本発明のこの教示は、それが適切であると思われる限り、ナノ粒子および/またはその分散液を含む医薬組成物に対して限定することなく有効であり、適用可能である。
【0069】
用途
本発明は、本明細書で提供されるナノ粒子、組成物、または組み合わせの、初めてのおよびさらなる医学的使用を提供する。
本発明のナノ粒子、組成物および方法は、多くの障害を処置するための核酸、特にmRNAの送達を提供する。特に、本ナノ粒子および/またはナノ粒子分散液は、がん、感染症、腫瘍、自己免疫疾患、アレルギー、および慢性または急性の炎症過程の群から選択される疾患の、予防的または治療的処置に適している。
【0070】
本明細書で使用される用語「感染症」は、病原性ウイルス、病原性細菌、真菌、原生動物、または多細胞寄生虫を含む病原性微生物因子の存在に起因する、あらゆる種類の臨床的に明らかな疾患を指す。
本発明はまた、免疫予防または免疫療法で使用するための、本発明によるナノ粒子および組成物に関する。本発明はさらに、免疫予防または免疫療法のためのワクチンの調製のための、本発明による有効量のナノ粒子の使用に関する。
一側面において、本発明は、本明細書で提供される腫瘍抗原をコードするmRNAの送達によって、および本明細書に記載のナノ粒子を使用することによってがんに対する適応免疫応答を誘発する、(治療用)ワクチンの開発に関する。
【0071】
開示された組成物および方法は、がんの処置、例えば、完全ながん寛解を含むがん増殖の阻害、がん転移の阻害、およびがん抵抗性の促進に特に有用である。本発明の文脈において「がん」という用語は、悪性腫瘍によって引き起こされるあらゆる種類の疾患を指す。「がん増殖」という用語は、一般に、がん内でのより発達した形態への変化を示唆する、いくつかの指標のいずれかを指す。したがって、がん増殖の阻害を測定するための指標には、がん細胞の生存の減少、腫瘍の体積または形態の減少(例えば、コンピューター断層撮影(CT)、超音波検査、または他の画像化法を使用して決定される)、腫瘍増殖の遅延、腫瘍血管系の破壊、遅延過敏性皮膚検査のパフォーマンスの改善、細胞溶解性Tリンパ球の活性の増加、および腫瘍特異的抗原レベルの低下が含まれるが、これらに限定されない。「がん耐性」という用語は、がん増殖、特にすでに有しているがんの増殖に抵抗する、対象の改善された能力を指す。言い換えれば、「がん耐性」という用語は、対象におけるがん増殖の傾向の低下を指す。
【0072】
一側面において、がんは、固形腫瘍、例えば癌腫および肉腫を含む。癌腫には上皮細胞に由来する悪性新生物が含まれ、これは例えば、周囲の組織に侵入するなど浸潤し、転移を引き起こす。腺癌は、腺組織、または認識可能な腺構造を形成する組織に由来する癌腫である。がんの別の広いカテゴリーには、肉腫および線維肉腫が含まれ、これらは、その細胞が胚性結合組織などの線維性または均質な物質に埋め込まれている腫瘍である。
【0073】
本発明はさらに、がんを有する対象における腫瘍増殖、がん細胞浸潤または転移を、本発明のナノ粒子または組成物を、がんを有する対象に投与することにより、減少または阻害する方法を提供し、ここでナノ粒子は、対象における腫瘍増殖、がん細胞浸潤または転移を減少させるのに十分な量で投与される。特定の態様において、がん細胞は、乳がん細胞、結腸がん細胞、腎臓がん細胞、肺がん細胞、皮膚がん細胞、卵巣がん細胞、膵臓がん細胞、前立腺がん細胞、直腸がん細胞、胃がん細胞、甲状腺がん細胞、および子宮がん細胞からなる群から選択される。
さらなる態様において、本発明の方法は、対象のリンパ節における転移性がんの処置を含み、ここでナノ粒子または組成物は、転移性がんを有する対象のリンパ節に投与される。
【0074】
さらなる側面において、ナノ粒子または組成物は、抗原提示細胞、好ましくは脾臓および肺における抗原提示細胞に抗原を送達および/または発現するための方法、および/または、対象における免疫応答、好ましくはがんに対する免疫応答を誘導するための方法において使用することができ、前記方法は、本発明によるナノ粒子または組成物を対象に投与することを含む。
本明細書で使用される場合、「抗原提示細胞」は、抗原をT細胞に提示するように誘導され得る任意の細胞を意味すると解釈され、抗原提示細胞に分化および活性化され得る前駆細胞も含まれる。抗原提示細胞には、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、PBMC、マクロファージ、Bリンパ球、または他の活性化または修飾細胞タイプ、例えばMHC分子をその細胞表面に発現する上皮細胞、線維芽細胞、内皮細胞などが含まれ、好ましくは樹状細胞、特にリンパ節の樹状細胞が含まれる。抗原提示細胞の前駆体には、CD34+細胞、単球、線維芽細胞、および内皮細胞が含まれる。
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、本発明の組成物および方法が投与されるヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類などを含むがこれらに限定されない、任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。典型的には、「対象」および「患者」という用語は、本明細書ではヒト対象に関して交換可能に使用される。
【0075】
投与
投与経路の1つは静脈内投与である。さらに、ナノ粒子またはナノ粒子を含む組成物は、任意の標準的な投与経路、例えば経口、直腸、膣、経粘膜、気管内または吸入を含む肺、または腸内投与;筋肉内、皮下、髄内注射、および髄腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射を含む非経口送達を使用して、患者に送達され得る。
特定の態様において、投与は、静脈内(ボーラスまたは注入)もしくは腹腔内注射によるか、または吸入もしくは気管内もしくは鼻腔内投与による。
【0076】
代替的に、本発明の組成物は全身的よりむしろ局所的に、例えば、標的組織または腫瘍に直接、例えば徐放性製剤で医薬組成物を注射することにより、投与することができる。局所送達は、標的となる組織に応じて、さまざまな方法で影響を受ける可能性がある。例えば、本発明の組成物を含むエアロゾルは、吸入することができる(鼻、気管、または気管支送達のため);本発明の組成物は、例えば損傷、疾患の発現、または痛みの部位に注射することができる;組成物は、経口、気管、または食道適用のためにトローチで提供することができる;胃または腸に投与するために液体、錠剤またはカプセルの形態で供給することができ、直腸または膣に適用するために坐剤の形態で供給することができる;または、クリーム、点滴薬、もしくは注射を使用して目に送達することもできる。本発明の組成物を、治療用分子またはリガンドと複合体形成して含む製剤は、例えば、組成物を移植部位から周囲の細胞に拡散可能なポリマーまたは他の構造もしくは物質と会合させて、外科的に投与することさえできる。代替的に、ポリマーや支持体を使用せず外科的に適用することもできる。
【0077】
投与は単回投与の形態をとることができ、または本明細書に開示の組成物は、分割用量または連続放出製剤または投与方法(例えば、ポンプ)のいずれかで、ある期間にわたって投与することができる。投与される組成物の量および選択される投与経路は、病状の効果的な処置を可能にするように選択されるべきである。一態様において、本発明のナノ粒子または組成物は、対象に1日1回、1日2回、毎日または隔日で投与される。好ましい態様において、本発明の組成物は対象に、週に2回、週に1回、10日ごと、2週間ごと、3週間ごと、またはより具体的には4週間ごと、月に1回、6週間ごと、8週間ごと、隔月、3か月ごと、4か月ごと、6か月ごと、8か月ごと、9か月ごとに、または毎年、投与される。
【0078】
本発明の組み合わせまたは組成物は、疾患の処置、改善、リスクの低減、または予防のための単剤療法に使用することができる。代替的に、組み合わせまたは組成物は、疾患の処置、改善、リスクの低減、または予防のために使用され得る既知の治療法の補助として、またはそれらと組み合わせて、使用され得る。
本明細書に記載のすべての特徴(付随する特許請求の範囲、要約および図面を含む)、および/またはそのように開示される任意の方法またはプロセスのすべてのステップは、上記側面のいずれかと任意の組み合わせで組み合わせることができ、ただし、かかる特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である場合を除く。本発明を、以下の図、表、および実施例によってさらに説明するが、これらは、特許請求の範囲で定義される保護の範囲を制限することを意図するものではない。
【0079】
例
材料および方法
細胞培養およびマウス
雌のC57BL/6マウス(6週齢)をEnvigo(Gannat、France)から購入し、SPF施設に収容した。すべての動物実験はベルギーの法律の規制に従って実施し、地元の倫理委員会によって承認された。初代マウス骨髄由来DC(BM-DC)培養物は、Verbeke et al. (2017)に記載のように生成した。
マウス黒色腫細胞株B16-OVA(K. Rock、University of Massachusetts Medical Centerの好意による提供)およびT細胞リンパ腫E.G7-OVA(American Type Culture Collection, Rockville, MD, USAから入手)は、10%FBS、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mmのL-グルタミンおよび0.4mg mlの選択剤G418(Thermo-Scientific, Aalst, Belgium)を添加したRPMI 1640培地(Sigma-Aldrich, Diegem, Belgium)中、加湿5%CO2雰囲気37℃で培養した。
【0080】
mRNA構築物
未修飾およびホタルルシフェラーゼ(fLuc)をコードするヌクレオシド修飾(5meC、Y)mRNA、およびeGFPをコードするmRNAは、TriLink(San Diego, CA)から購入した。免疫化研究では、不変鎖(Ii80)の最初の80アミノ酸に融合した切断型の卵白アルブミン(tOVA)を、pGEM-Ii80tOVAプラスミドからのin vitroのmRNA転写によって生成した[24]。プラスミドは、QIAquickPCR精製キット(Qiagen, Venlo, The Netherlands)を使用して精製し、SpeI制限酵素(Promega, Leiden, The Netherlands)を使用して線形化した。線形化されたプラスミドは、Anti-Reverse Cap Analog(ARCA)およびポリ(A)テーリング試薬(Ambion, Life Technologies, Ghent, Belgium)を含むT7 MegaScriptキットを使用したin vitro転写反応のテンプレートとして使用した。修飾mRNAの転写のために、シチジンおよびウリジンヌクレオチドを、5-メチルシチジンおよびプソイドウリジン(TriLink)に100%置き換えた。得られたmRNAをDNaseI消化により精製し、LiClで沈殿させ、70%エタノールで洗浄した。mRNA濃度は、260nmでの吸光度を測定することにより決定した。mRNAは、1μg/μlの濃度で-80℃で少量ずつ保存した。マウスチロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2)をコードするmRNAは、Karine Breckpot教授およびKris Thielemans教授の好意により提供された。TRP-2は、B16黒色腫細胞によって発現される腫瘍関連抗原として知られている[34]。
【0081】
mRNA脂質ナノ粒子の調製
DOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン)およびコレステロールは、Avanti Polar Lipids(Alabaster, USA)から購入した。アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)、ナフチル尿素-α-GalCer(NU-α-GalCer)、アルファ-GalCer-6”-(4-ピリジル)カルバメート(Pyr-α-GalCer)、((2S,3S,4R)-1-O-(α-D-ガラクトピラノシル)-N-テトラコサノイル-2-アミノ-1,3,4-ノナントリオール)(OCH)およびFITC標識α-GalCerは、S. Van Calenbergh(Ghent University, Ghent, Belgium)から提供された。DOTAP-コレステロール(2:3モル比)のカチオン性リポソームは、クロロホルムに溶解した適切な量の脂質を丸底フラスコに移すことによって調製した。α-GalCerを配合したリポソームの場合、全脂質量の0.5、0.15、0.015または0.0015mol%を、α-GalCerまたは提供された類似体に置き換えた。クロロホルムを窒素下で蒸発させた後、脂質膜をHEPESバッファー(20mM、pH7.4、Sigma-Aldrich)で再水和して、12.5μmol/mlの最終脂質濃度を得た。得られたカチオン性リポソームを、分散液が透明になるまでバスソニケーター(Branson Ultrasonics, Dansbury, USA)で超音波処理した。次にこれをmRNAと混合して、カチオン性脂質対mRNA(N/P)比3でmRNAナノ粒子を取得した。in vivoで使用するmRNAナノ粒子は、5%グルコースを含む等張HEPESバッファー(Sigma-Aldrich)中で調製した。
【0082】
「イオン化可能な」アミノ脂質DLin-MC3-DMAで構成されるmRNA脂質ナノ粒子は、前述のようにR. van der Meelの研究室で調製された[31]。簡単に説明すると、適切な脂質(Dlin-MC3-DMA、DSPC、コレステロール、PEG-DMG、およびα-GalCer)をエタノールに溶解して、最終濃度を10mMの総脂質にした。mRNAカーゴを25mM酢酸ナトリウムpH4のバッファーに溶解した。次に2つの溶液を、T-ジャンクションミキサー[32]を使用して、カチオン性(アミノ)脂質対mRNA(N/P)比3で混合した(水溶液(mRNA)と有機溶液(脂質)の流量比3:1)。得られた混合物を、PBS(pH7.4)に対して一晩透析し、最後に0.22μmフィルターに通した。mRNA LNPの総mRNA量を、Quant-iT(商標)RiboGreen(商標)RNAアッセイキット(Thermo-Scientific)を使用して測定し、マウス研究のmRNA LNP用量を算出した。1つのLNP製剤では、fLuc mRNAとtOVAI80 mRNAの両方(50:50)が組み合わされた。
【0083】
mRNAリポプレックスの物理化学的特性
異なるN/P比でHEPESバッファー中に調製されたmRNAナノ粒子を、Malvern Zetasizer nano-ZS(Malvern Instruments Ltd, Worcestershire, UK)を使用して、サイズおよびゼータ電位の品質管理に供した。mRNAのリポソームへの複合体形成および血清含有培地におけるこの相互作用の安定性を調べるために、mRNAナノ粒子を希釈し、50%FCI血清または50%ヒト血清中でインキュベートした。37℃で2時間のインキュベーション後、Ambionローディングバッファー(Ambion)を添加し、混合物をTBEバッファー中の1%アガロースゲルに負荷し、それにGelRed(Biotium, Hayward, CA))を添加してmRNAを可視化した。ゲルを100Vで30分間泳動し、UV光下で画像化した。mRNAのみ(パッケージ化されていない、すなわち「裸の」と呼ばれる)、血清のみ、または血清と裸のmRNAとを含む試料を、対照として実行した。RNAのサイズ決定を提供するために、0.25から10kbの範囲のバンドを有する分子量マーカーも含まれていた(Promega, Leiden, The Netherlands)。
【0084】
血清中のmRNAナノ粒子のコロイド安定性を予測するために、Cy5標識mRNAを含有するナノ粒子を、90%ヒト血清中37℃で24時間までインキュベートした。続いてそれらのサイズ分布を、蛍光単一粒子追跡(fSPT)顕微鏡法によって評価した。fSPTを使用すると、体液中の蛍光標識ナノ粒子の拡散をモニタリングできる[25]。個々に動く粒子の高速共焦点動画を記録することにより、単一粒子の運動軌跡を視覚化し、それらのサイズ分布を計算することができる。mRNAナノ粒子のfSPT測定は次のように実行した。まず、20μlのCy5標識mRNAナノ粒子をヒト血清(1:25)で希釈し、37℃で2時間、6時間、または24時間インキュベートした後、5μlを45μlのヒト血清に添加した。次に、試料を黒色コーティングされた96ウェルプレートに移し、Plan Apo 60xの1.0NA油浸対物レンズ(Nikon)および高速・高感度のEMCCDカメラ(Ixon Ultra 897;Andor Technology, CT, USA)を備えた掃引フィールド共焦点顕微鏡(LiveScan Swept Field Confocal Microscope System;Nikon, Brussels, Belgium)に配置した。顕微鏡はウェルプレートの底から20μm上に焦点を合わせ、Cy5標識mRNAナノ粒子をソリッドステート125mW 640nm(Agilent Technologies, CA, USA)レーザーで励起した。試料ごとに、試料内のさまざまなランダムな場所で、それぞれ約100フレームの20本のムービーを記録した。
【0085】
mRNAトランスフェクション、α-GalCer送達およびα-GalCer提示のBM-DCによるin vitro評価
in vitro実験を、細胞培養6日目にBM-DCで行った。トランスフェクションの前日、細胞を24ウェルプレートにウェルあたり5×105細胞で播種し、5%FCI血清を含む細胞培養培地で増殖させた。mRNAリポプレックスのトランスフェクション効率は、eGFPレポーターmRNAを使用して評価した。OptiMem(登録商標)でトランスフェクションを行うために、細胞培養培地を除去し、OptiMem(登録商標)に分散されたeGFP mRNAリポプレックスを細胞に添加し(5×105細胞あたり1μgのmRNA)、2時間のインキュベーション後、細胞を、5%FCI血清を含む培養培地で再度培養した。α-GalCerを送達するために、0.5mol%のα-GalCerを含むmRNAナノ粒子を完全細胞培養培地中の細胞に直接添加した(5×105細胞あたり1μgのmRNA)。α-GalCerの細胞取り込みは、共有結合したFITC色素(S. Van Calenberghからの提供)で標識されたα-GalCerを使用して評価した。細胞表面CD1d複合体におけるα-GalCerの提示を評価するために、BM-DC細胞を、α-GalCer-CD1d複合体に特異的なモノクローナル抗体(クローンL363、eBioscience)で表面染色した。フロー分析を、mRNAナノ粒子(fLuc mRNA)を添加して24時間後に行った。細胞を収集し、PBSで洗浄し、固定可能な生存性色素eFluor(登録商標)450(eBioscience)で製造元の指示に従って染色し、Fcブロック(CD16/32)とインキュベートして非特異的FcR結合をブロックし(BD Biosciences, Erembodegem, Belgium)、CD11c-APC(clone N418)およびα-GalCer:CD1d複合体-PEで4℃で30分間表面染色した。マウスIgG2aカッパPE抗体は、α-GalCer:CD1dの提示のためのアイソタイプ対照として使用した。追加の洗浄ステップの後、CytoFLEX(Beckman Coulter, Krefeld、Germany)を使用したフローサイトメトリーによって細胞を分析し、FlowJoソフトウェア(FlowJo, OR, USA)を使用して分析を実行した。細胞の共焦点顕微鏡画像は、Plan Apo 60xの1.0NA油浸対物レンズ(Nikon)を備えた電動Nikon TE2000-E倒立顕微鏡(Nikon Benelux, Brussels, Belgium)に取り付けられたNikon C1si共焦点レーザー走査モジュールを使用して記録した。
【0086】
mRNAナノ粒子および抗PD-L1抗体の投与
マウスは、酸素中に3%イソフルランを含む換気された麻酔チャンバー内で麻酔した。注射の前に、滅菌0.9%NaCl溶液を含むポリエチレンチューブ(Intramedic PE10, BD)のカテーテルを尾静脈に挿入した。正しく配置した後、滅菌5%グルコースHEPESバッファーに希釈した指定のカーゴを含むナノ粒子をゆっくりと注入した(マウスあたり、10μgのmRNAを含有する200μl)。ナノ粒子にカプセル化したα-GalCerの最適化用量は、サイトカイン産生とiNKT活性化に基づいて決定され、マウスあたり20ng(0,015mol%)であった。抗PD-L1抗体(10F.9G2, Bio X cell, West Lebanon, USA)またはラットIgG2bアイソタイプ対照抗体(LTF-2, Bio X cell)を100μgの用量で腹腔内投与し、これはmRNAナノ粒子の投与直後に注射した。
【0087】
生物発光イメージング
fLuc mRNAを含有するナノ粒子投与(静脈内、腹腔内、鼻腔内または脊髄内)の6時間後、マウスに麻酔し、腹部と胸部を脱毛クリームで脱毛した。続いてVivoGlo(商標)ルシフェリン(Promega)をマウス1匹あたり100μl(33mg/ml)の容量で腹腔内投与した。5~10分後、生物発光画像をIVIS lumina IIシステム(PerkinElmer, Waltham, MA)で取得した。
【0088】
治療用ワクチン接種実験
mRNAナノ粒子(異なるカーゴを含むか、または抗PD-L1抗体と組み合わせたもの)の治療可能性を、担がんマウスに治療ワクチン接種を行うことによって評価した。このため、C57BL/6に、×105のE.G7-OVA、B16-OVAまたはB16F0腫瘍細胞(PBSに懸濁)の脇腹への皮下注射を行った。腫瘍接種の8日後、病変が触知可能になったとき、マウスを腫瘍体積に基づいて異なる治療群にランダム化し、mRNAナノ粒子を静脈内経路でワクチン接種した。いくつかの実験では、動物に2回目と3回目の治療ワクチン接種を行った。腫瘍の増殖は、デジタルノギスを使用して1日おきまたは2日ごとに測定した。腫瘍体積が1000mm3(B16-OVA、B16F0)または1500mm3(E.G7-OVA)を超えたとき、マウスを頸椎脱臼により安楽死させた。
【0089】
単一細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析
免疫後の異なる時点でマウスを犠牲にし、脾臓、肺、肝臓、または腫瘍を採取し、[18]に記載されているように単一細胞懸濁液へと処理した。単一細胞懸濁液は、固定可能な生存性色素eFluor(登録商標)450(Thermo Scientific)またはZombie Yellow(商標)(Biolegend, San Diego, CA)のいずれかで製造元の指示に従って染色して死細胞を分析から除外し、Fcブロック(CD16/32)でインキュベートして非特異的FcR結合をブロックし(BD Biosciences, Erembodegem, Belgium)、示された抗体で4℃で30分間、表面染色した(すべてThermo-Scientific)。追加の洗浄ステップの後、細胞をフローサイトメトリーで分析した。スペクトルオーバーラップの補正は、個々の蛍光色素結合抗体で染色したUltraComp eBeads(商標)補正ビーズ(Thermo-Scientific)を使用して計算した。
【0090】
脾臓におけるCD11c-(APCまたはFITC)陽性のDCの活性化状態を、共刺激分子CD40-FITC(HM40-3)、CD86-FITC(CL1)、CD80-PE/Cy7(16-10A1)、および阻害分子PD-L1-Super Bright 436(MIH5)の上方制御を測定することにより、分析した。T細胞は、CD3e-PE(145-2C11)、CD4-FITC(GK1.5)、CD8a-(APCまたはAF488)(53-6.7)、およびPD-1-(efl450またはFITC)(RMP1-30)などのモノクローナル抗体で染色した。OVA選択的T細胞を染色するために、国立衛生研究所(NIH)のTetramer Core Facilityから入手したBV450結合H-2Kb/SIINFEKLテトラマー(OVA-テトラマー)を使用した。iNKT細胞は、NIHのTetramer Core Facilityから入手したTCRβ-APC(H57-597)、PD1-efl450、およびmCD1d PBS-57PEテトラマーで染色した。NK細胞は、CD3e-PE(ネガティブゲーティング)およびNK1.1-APC(PK136)染色を使用して検出した。さらに、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)および腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、CD11b-PE/Dazzle(商標)594(Biolegend)、MHC-II-efl450(M5/114.15.2)、F4/80-(FITCまたはAF700)(6F12)、Ly-6G/Ly-6C-FITC(RB6-8C5)およびCD206-APC(C068C2)などの抗体で染色した。DC(CD11c+)および腫瘍細胞(CD45-PerCP-Cy5.5陰性細胞)は、PD-L1の発現について評価した。
【0091】
サイトカイン測定およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)活性
血清をmRNAナノ粒子の静脈内投与の6時間後に採取し、試料を-80℃で保存した。Mouse Platinium IFN alpha ELISAキット、IFN-γおよびIL-4 ELISAキット(Ready-SET-Go!(登録商標))はThermo-Scientificから購入した。IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-12p70、IL-17A、IL-23、IL-27、MCP-1、IFN-β、IFN-γ、TNF-α、およびGM-CSFを含む13の他のサイトカインのパネルは、マルチプレックスアッセイ(LEGENDplex(商標)Mouse Inflammation Panel, Biolegend)を使用して定量化し、ALT酵素活性は、比色分析キット(MaxDiscovery(商標)、Bioo Scientific Corporation, Austin, USA)を使用して測定した。すべてのアッセイは、製造元の指示に従って実行した。
【0092】
統計分析
すべてのデータは平均±標準偏差で表される。提示されたin vitro実験のデータは、3つの異なる日に行われた少なくとも3回の独立した実験の代表である。in vivo実験には、単一のグラフにマージされた少なくとも2つの実験のデータが含まれており、これは図のキャプションに明示的に記載されている。統計分析は、一元配置分散分析とそれに続くテューキーの事後検定(GraphPad Prism6, La Jolla, CA, USA)を使用して行った。アスタリスクは統計的有意性を示す(*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001)。生存はカプランマイヤープロットで視覚化した。生存率の違いは、ログランク(マンテル-コックス)検定により分析した。
【0093】
結果
1.mRNAガルソームは古典的アジュバントと組み合わせたmRNAナノ粒子より優れた治療効果を有する。
我々は以前の研究[18]において、TLRアゴニスト(MPLA)とヌクレオシド修飾mRNAリポプレックスを同時送達することが可能であり、生得免疫活性化の促進に使用できることを示した。しかし、例えばがんなどにおける治療用途について、
図1は、比較的高用量のMPLA(マウスあたり2μg)を含むmRNAナノ粒子で得られた免疫応答が免疫寛容を破れず、確立されたE.G7-OVA腫瘍において腫瘍増殖を阻害できなかったことを示している。際立って対照的に、本明細書では「mRNAガルソーム」と呼ばれる、iNKTアゴニストα-GalCerを含むmRNAナノ粒子の投与が、腫瘍退縮を達成するのに効果的であることが見出された。興味深いことに、α-GalCerを使用したこれらの結果は、MPLAを使用したmRNAナノ粒子(マウスあたり2μgのMPLA)に使用されたものよりも100倍低い用量のアジュバント(マウスあたり0.020μgのα-GalCer)で得られた。
【0094】
2.血清中のmRNAナノ粒子の物理化学的特性と安定性
異なる脂質組成のmRNAナノ粒子を初めに評価した。mRNAナノ粒子は以下から構成されていた:カチオン性脂質DOTAP(1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパンクロリド)またはDC-コレステロール(3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール)、およびヘルパー脂質、すなわちDOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)またはコレステロールのいずれか。リポフェクタミンRNAiMAX mRNAナノ粒子は、(Broos etal., 2016)に記載されているように調製した。
興味深いことに、DOTAP-コレステロールmRNAナノ粒子は、広く報告されているDOTAP-DOPE mRNAナノ粒子、または市販のトランスフェクションリポフェクタミンRNAiMAXよりも、マウス骨髄由来(BM)-DCのトランスフェクションに優れていることが見出された。
図2は、血清への曝露後、DOTAP-DOPE mRNAナノ粒子が(ほぼ)(BM)-DCのトランスフェクションに失敗したが、DOTAP-コレステロールmRNAナノ粒子は成功し、in vivoでの使用により適していることを示す。
【0095】
DOTAP-コレステロールmRNAナノ粒子の血清中(in vitro)の挙動に焦点を当てた。完全なmRNA複合体形成と酵素分解に対するmRNAの保護を保証するために、さまざまなN/P比(すなわち「電荷比」)を持つmRNAナノ粒子を調査した。DOTAP-コレステロール/mRNAナノ粒子のゲル電気泳動実験(結果は示されていない)から、mRNAの完全な複合体形成は2.5:1のN/P比から開始したと結論づけることができる。したがって、N/P2.5:1のmRNAナノ粒子を、さらなる実験のために選択した。この電荷比において、ナノ粒子の平均サイズは160nm、ゼータ電位は+50mVであった(
図3A)。
【0096】
in vivoでのmRNAナノ粒子の安定性を予測し、複合体の非経口注射時のmRNAの早期放出を回避するために、mRNAナノ粒子を、ヒト血清中37℃で2時間インキュベートした。蛍光ゆらぎ分光法(FFS)を実施して、血清中のDOTAP-コレステロール製剤に対するmRNA複合体形成の定量的情報を可能にした。簡単に言えば、この技術は、少量の蛍光分子の蛍光強度の変動をモニタリングする。これらの蛍光変動は、励起容積の内外への蛍光分子の拡散によるものである。この技術により、蛍光強度に基づいて、遊離蛍光mRNA(Cy5標識)をリポソームに関連する蛍光mRNAから区別することができる。この実験は、血清中での2時間のインキュベーション後にDOTAP-コレステロールリポプレックスについて、86±9%のCy5修飾mRNAの複合体形成効率を示した。
続いて、血清中のmRNAリポプレックス凝集の程度を、蛍光単一粒子追跡(fSPT)を使用して測定した。
図3Bは、mRNAナノ粒子が初期サイズを保持し、血清含有培地で凝集しないことを明確に示している。興味深いことに、これは、ナノ粒子の凝集を防ぐために通常使用されるペグ化脂質を含めることが、このリポソーム製剤では冗長であることを示す。
【0097】
3.mRNAガルソーム:ヌクレオシド修飾mRNAとα-GalCerの送達剤としてのDOTAP-コレステロールリポソーム
ナノ粒子カーゴであるmRNAとα-GalCerの両方が、その細胞内送達に関して異なる要件を持っていることに注意することが重要である。mRNAはエンドソームから急速に漏れ出し、適切な抗原産生を可能にするはずである。対照的に、α-GalCerはDCの後期エンドソームおよびリソソームに蓄積する必要があり、そこでCD1d分子に負荷され、iNKT細胞に提示される。そのため、最初に、担体系としてDOTAP-コレステロールリポソームを使用して、mRNAとα-GalCerの両方の送達効率を推定し、mRNA翻訳とα-GalCer提示プロセスの間の適合性を評価した。
【0098】
α-GalCerの送達を評価するために、骨髄由来DC(BM-DC)を、遊離α-GalCerまたはmRNAガルソーム(等用量のα-GalCerを含む)のいずれかを用いてインキュベートした。FITC標識α-GalCerを使用した場合、α-GalCerの細胞内送達がmRNAガルソームを介した送達によって2倍になることは明らかであった(
図4A)。これは、CD1dでのα-GalCerの提示の強化にも変換された;可溶性α-GalCerフォーマットと比較して、CD1d複合体を介したα-GalCerの提示が約3倍増加することが観察された(
図4B)。BM-DCを脾細胞と一緒に培養した場合、mRNAガルソームで処理した細胞との共培養で4~5倍高いIFN-γの産生を実証することができた。興味深いことに、同様の効果が、ナノ粒子内に異なるα-GalCer類似体がパッケージされた場合にも観察された(
図4C)。
【0099】
in vivoで免疫応答を開始するmRNAガルソームの効力を決定するために、10μgのmRNAの固定用量およびα-GalCerの減少用量を含むmRNAガルソームをマウスに静脈内注射して、用量反応研究を行った(
図4D)。注射の12時間後、iNKT細胞の活性化は、血清中のIFN-γの産生によって間接的に測定した。マウスに日常的に全身投与されるα-GalCerの量に相当する用量である1.4μgのα-GalCerを含むmRNAガルソームを注射すると、血清中で最大25.000pg/mlのIFN-γレベルが検出された[26]。これは、mRNAガルソームが免疫を誘導するのに非常に強力であることを示すが、これはすべての動物において脾腫と一致していた。ただしIFN-γのレベルは、α-GalCerの用量調整によって簡単に改善できた。重要なことに、マウスあたり20ngのα-GalCer(またはナノ粒子内の脂質の総量の0.015mol%)までの大幅に低い用量を使用した場合でも、高レベルのIFN-γ(~4000pg/ml)が得られ、しかし急性毒性の兆候はなかった。したがって、さらなる実験のために、20ngのα-GalCerをパッケージ化したmRNAガルソームを使用した。
【0100】
mRNAを他のアジュバントと組み合わせた以前の試みでは、DC成熟は細胞取り込みメカニズム(例えばマクロピノサイトーシス)を早期に無効にしたり、抗RNA防御メカニズム(I型IFNシグナル伝達など)を誘発してmRNAの分解を早める可能性があったりするため、互換性の問題が発生した[19、27]。これらの理由から、α-GalCerの包含のmRNA翻訳に対する影響を調査した。さまざまなカーゴをカプセル化したナノ粒子を、マウスに静脈内注射した:ヌクレオシド修飾mRNAのみ、α-GalCerと組み合わせたヌクレオシド修飾mRNA、またはホタルルシフェラーゼ(fLuc)をコードする非修飾mRNA(免疫原性)など。生物発光は6時間後に評価した。
図5A~Bは、α-GalCerの取り込みが、肺および脾臓でのmRNAの翻訳を妨害しなかったことを示している。予想通り、未修飾のfLuc mRNAナノ粒子は有意に低い発現レベルを示し、これは、細胞内の安定性が低いこと、および、分解してmRNAの翻訳を回避するようにプログラムされたI型IFN媒介性抗ウイルス経路に起因する[27]。本発明のナノ粒子は、腹腔内、鼻腔内、または気管内投与などの他の投与経路を介したmRNAの送達にも使用できることに留意されたい(
図6)。総合すると、これらの結果は、ヌクレオシド修飾mRNAとα-GalCerの同時パッケージングが、mRNA発現レベルに影響を与えることなく、α-GalCerの送達と提示を改善することを示している。
【0101】
4.mRNAガルソームは強力なアジュバント効果を媒介し、樹状細胞をin vivoで活性化する
α-GalCerによる免疫活性化は間接的現象である:CD1dにα-GalCerを提示するDCはiNKT細胞を刺激し、CD40-CD40リガンド相互作用によってDCの表現型の成熟を引き起こす。これがmRNAガルソームにも当てはまるかどうかを評価するために、特に低用量(20ng)のα-GalCerを使用して、粒子注入の24時間後の脾臓DCの成熟状態を調査した(
図7A~B)。未処置のマウスと比較して、脾臓DC上の活性化マーカーCD40、CD80、およびCD86の強力かつ有意な上方制御が観察できた。重要なことに、DC成熟は、mRNAガルソームをiNKT細胞の非存在下でBM-DC培養物に添加した場合には観察されず、これは、この成熟効果がiNKT細胞とのライゲーションによって媒介されたことを示している。
【0102】
免疫応答の幅を調査するために、炎症性サイトカインの広範なスクリーニングをワクチン接種の6時間後に動物の血液で実施した(
図8)。予想通り、未修飾のmRNAナノ粒子がIFN-αの強力な放出を誘導した場合、これはヌクレオシド修飾mRNAナノ粒子(α-GalCerの有無にかかわらず)には当てはまらなかった。対照的に、mRNAガルソームはIFN-γおよびIL-4の顕著な産生を誘導した。さらに、mRNAガルソームを投与された群では、IL-12p70およびIL-27などのT細胞刺激サイトカインの存在、およびIL-6、TNFα、IL-17aのレベルの上昇も検出することができた。重要なことには、この広範囲のサイトカインは目に見える毒性症状を誘発せず、肺、脾臓、および肝臓のH&E染色臓器切片で病理学的変化は確認されず、ALT活性の正常レベルが測定された。
【0103】
5.免疫の多能性誘導物質としてのmRNAガルソーム
強力なDC成熟と組み合わされたmRNA発現レベルの増加、およびIL-12p70などのCTL誘導サイトカインの産生は、mRNAガルソームがI型IFN依存性mRNAワクチンと競合するという可能性を期待させる。T細胞媒介性免疫に加えて、α-GalCerとの組み合わせは、iNKT細胞とNK細胞の両方を活性化して、より広く潜在的に相乗的な抗腫瘍免疫を形成するという利点も提供する。
【0104】
これら複数のエフェクター応答を評価するために、動物を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)をモデル抗原としてコードするmRNAで免疫化した。免疫化の6日後、OVA特異的CTLの細胞数を単離された脾臓で測定した(
図9)。興味深いことに、mRNAガルソームは、「ゴールデンスタンダード」の未修飾OVA mRNAナノ粒子で処置されたマウスと比較して4~5倍高いレベルのOVA特異的CTLを生成することが観察された。
iNKT細胞の増殖および下流のNK細胞応答を評価するために、脾臓と肝臓をワクチン接種の3日後に単離した。サイトカイン応答に対応して(
図8)、iNKT細胞の増殖が脾臓で0.8から2.3%に、肝臓で4.4から14%に増加することが観察された(
図10A~B)。それに応じて、mRNAガルソームはまた、脾臓および肝臓において、そのレベルがそれぞれ2.2から3.8%および4.7から12%に増加するにつれて、NK細胞の増殖を媒介した。(
図10C)。
【0105】
6.E.G7-OVAリンパ腫およびB16-OVA黒色腫モデルにおけるmRNAガルソームの治療効果
mRNAガルソームの治療ワクチン接種研究における可能性を評価するために、マウスにOVA発現E.G7リンパ腫細胞またはB16-OVA黒色腫細胞を皮下接種し、腫瘍が8日目に触知可能になったときに、OVAをコードするmRNAをワクチン接種した。
iNKT細胞の活性化またはI型IFN応答に基づき免疫を誘発するナノ粒子の治療可能性をそれぞれ区別するために、E.G7-OVA保有マウスを、mRNAガルソームまたは未修飾mRNAを含むナノ粒子のいずれかの単回投与で処置した。第一に、両方の治療法は、未処置のマウスと比較して、腫瘍の進行を著しく遅延させた(
図11A~B)。全体として、未修飾のmRNAナノ粒子で処置されたマウスは4/6の動物で完全な腫瘍退縮を示し、mRNAガルソームでの処置は3/7の動物で完全な腫瘍退縮をもたらした。
【0106】
より攻撃的なB16-OVA黒色腫モデルでは、動物にmRNAガルソームまたは未修飾mRNAナノ粒子のいずれかを3回、腫瘍接種後8日目、12日目、16日目に投与した。腫瘍増殖の遅延が観察されたが、mRNAガルソームまたは未修飾mRNAナノ粒子で処置したマウスの生存期間はわずかにのみ延長され、未処置の動物の22.5日と比較して、生存期間の中央値は28日と29日であった(
図12A~B)。さらに、複数回の投与は抗腫瘍反応を効率的に促進または延長できないことに気づいた。これはE.G7-OVAモデルでも発生し、2回目の(ブースト)ワクチン接種では腫瘍増殖のより良い制御がもたらされなかった。
【0107】
7.mRNAガルソームはCTL、iNKT細胞、およびNK細胞の腫瘍浸潤を促進するが、免疫学的監視はPD-L1の発現によって妨げられる
腫瘍増殖の完全な制御が達成されなかったため、どの免疫抑制メカニズムが働いて、mRNAガルソームまたは未修飾mRNAナノ粒子により誘発された抗腫瘍免疫を打ち消すのかを調査することを目的とした。したがって、実験を行って、B16-OVA保有マウスを2回目のナノ粒子投与の2日後(14日目)に犠牲にし、腫瘍免疫微小環境の詳細な分析を行った。腫瘍および脾臓を、治療結果に影響を与える可能性のあるエフェクター応答および/または抑制メカニズムについてスクリーニングした。最も重要な所見を
図13~14に示す。
【0108】
まず、mRNAガルソームで処置した動物は、腫瘍浸潤CTLのレベルが最大5倍高かったのに対し、腫瘍部位におけるCTLの存在は、未処置群と比較して未修飾mRNAナノ粒子のワクチン接種後に2倍になった(
図13A)。同様に、mRNAガルソームのワクチン接種は、未修飾mRNA処置動物と比較して、6~7倍高いOVA特異的CTLの数(SIINFEKL-H2Kbテトラマー染色により決定されるとおり、腫瘍における生細胞の10%)をもたらしたが、未処置の動物の腫瘍では、OVA特異的CTLはほとんど検出されなかった(<0.04%)(
図13B)。さらに、mRNAガルソームで処置したマウスの腫瘍では、他の群と比較して、iNKT細胞数の4倍の増加が検出された(
図13C)。両方の処置で、腫瘍浸潤NK細胞のレベルの上昇が観察され、mRNAガルソームでは±13%NK細胞、未修飾mRNAナノ粒子では±11%NK細胞が、わずか±5%NK細胞の未処置マウスと比較して、観察された(
図13D)。
【0109】
抑制免疫細胞の腫瘍部位を分析することによって、未修飾mRNAの送達により、未処置の対照と比較してMDSC(CD11b
+、GR1
+、MHC-II
-細胞)が2倍増加することが見出された。興味深いことに、MDSCレベルのこの上昇は、mRNAガルソームで処置した動物では観察されなかった(
図14A)。さらに、mRNAガルソーム群のほぼすべてのTAM(CD11b
+、F4/80
+細胞)が、MHC-IIレベルの上昇を特徴とする炎症誘発性のM1様表現型を示すことが認められた(
図14B)。
【0110】
mRNAガルソームのワクチン接種は「炎症性(hot)」T細胞浸潤腫瘍をもたらしたが、PD-1/PD-L1軸を介した免疫抑制がワクチン誘発性免疫応答の対抗に関与するかどうかを調査した[23]。実際、mRNAガルソームで処置したマウスの腫瘍は、未処置動物の腫瘍と比較して、PD-L1発現の約4倍の増加を示した。同様の効果が腫瘍内のAPCで観察され、対照と比較してPD-L1発現の約2倍の上方制御を受けた(
図14C)。さらに、CD8
+T細胞、OVA特異的CTL、CD4
+T細胞などのさまざまな腫瘍浸潤T細胞サブセットは、PD-1発現の上方制御を示し、これは時間の経過と共に増加した(
図14D)。これらの影響は、mRNAナノ粒子の種類に関係なく発生したことに注意されたい;PD-1の上方制御は、mRNAガルソームと未修飾mRNAナノ粒子の両方で同様の量で測定された。重要なことに、活性化されたiNKT細胞でのPD-1発現の有意な上昇も、mRNAガルソームによる最初のチャレンジ後に観察された(
図14D)。これは、mRNAガルソームの複数回の注射で観察された限られたブースト効果と一致しており(
図11~12)、PD-1/PDL-1経路を介した抑制性シグナルが、後続する(過剰)刺激後のα-GalCer刺激に対する応答性の喪失に役割を果たすことを示唆する、以前の報告と適合する。
まとめると、これらの所見は、阻害性PD-1/PD-L1免疫チェックポイント軸がCTLの抑制に関与していること、および2回目の(ブースト)ワクチン接種に対するiNKT細胞の限定された応答性、したがって限定された抗腫瘍免疫を説明できる可能性があることを実証する。
【0111】
8.抗PD-L1チェックポイント遮断抗体はmRNAガルソームの抗腫瘍効果と相乗する
以前のデータは、PD-1/PD-L1シグナル伝達の増加がT細胞応答を麻痺させiNKT細胞アネルギーを誘導することにより、抗腫瘍免疫を制限することを示唆している。これは、mRNAガルソームワクチン接種と抗PD-L1免疫チェックポイント阻害の治療的組み合わせを調査する根拠を提供する。
【0112】
最初にiNKTアネルギーの問題をより詳細に調査するために、ナイーブマウスにmRNAガルソームを5日間隔で2回、ワクチン接種した。各投与のそれぞれ6時間後と3日後に、サイトカイン放出とiNKT活性化を評価した。
図15Aに示すように、2回目の曝露後に測定されたIFN-γレベルは、最初の投与後に測定されたレベルの半分にすぎなかった。さらに、より高いレベルのIL-4およびIL-10が測定されたため、連続投与後にTh2極性化サイトカイン産生へのシフトを観察することができた。最後に、mRNAガルソームによるブーストワクチン接種はiNKT細胞数をさらに増加させないことに気づき、iNKT細胞の低応答状態の誘導を確認した。対照的に、マウスにワクチン接種と抗PD-L1抗体の注射を同時に行った場合、IFN-γの産生は、最初のチャレンジと比較して、2回目のワクチン接種で最大4倍に上昇した。同じ方針に沿って、抗PD-L1抗体との組み合わせにより、iNKT細胞の増大がさらに促進され、2回目の投与で脾臓iNKT細胞数が2倍になった(2.25±0.7対4.73±1.2%、
図15B)。PD-1/PD-L1シグナル伝達の役割をさらに調査するために、脾臓DCのPD-L1発現と活性化iNKT細胞のPD-1発現を測定した。他の報告と同様に、アイソタイプ対照で処置した動物でPD-L1の発現を急速に上方制御するDCの大部分が観察され、これは、抗PD-L1抗体の同時送達によって完全に排除できる(
図15C)[28、29]。さらに、mRNAガルソームのみの単回ワクチン接種を受けたマウスのiNKT細胞と比較して、PD-1レベルが半分に減少したため、mRNAガルソーム/チェックポイントの組み合わせ戦略によるiNKT細胞の反復活性化が実現可能であった(
図15C)。
【0113】
上記の併用療法の効果が治療成績の改善にもつながるかどうかを評価するために、B16-OVA保有マウスに、抗PD-L1抗体またはアイソタイプ対照抗体の腹腔内投与と組み合わせてmRNAガルソームをワクチン接種した。抗PD-L1抗体またはアイソタイプ抗体の単剤療法を、追加の対照として使用した。
図16の結果は、最後のワクチン接種時(22日目)までに、mRNAガルソームとチェックポイント遮断抗体の組み合わせで処置したマウスの平均腫瘍体積が、59±46mm
3に制限されたままであることを示している。対照的に他のすべての群では、腫瘍はすでに10倍まで増殖している。これは、生存期間の中央値の大幅な増加にもつながった。抗PD-L1抗体またはmRNAガルソームの単剤療法を受けたマウスは、それぞれ21日目と22.5日目に生存期間中央値に達し、これは、アイソタイプ対照抗体のみを注射した対照群の動物(生存期間中央値19日)よりも有意に長くはない。併用療法は生存期間中央値を30日まで有意に延長し、両方の処置戦略間の相乗効果を示している。
【0114】
次に、同様の抗腫瘍反応が得られるかどうかを、B16F0黒色腫モデルにおいて自然発現したチロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2)腫瘍抗原を標的として調査した。より具体的には、B16F0保有マウスは、抗PD-L1チェックポイント療法と組み合わせて、mRNAガルソームまたはTRP-2をコードするmRNAを含む未修飾mRNAナノ粒子のいずれかのワクチン接種を受けた(
図17)。チェックポイント療法と組み合わせた両方のmRNAプラットフォームを直接比較して評価したところ、mRNAガルソーム製剤のほうが未修飾mRNAナノ粒子より優れた抗腫瘍効果を観察でき、生存期間の中央値はそれぞれ24日対18日であった。この場合も、B16F0保有マウスはPD-L1チェックポイント阻害の単剤療法に反応せず、アイソタイプ対照抗体または抗PD-L1抗体を投与された動物は両方とも、15日目に生存期間中央値に達した。
【0115】
全体として、mRNAガルソームの治療効果は、PD-L1チェックポイント阻害剤と合理的に組み合わせることで高め得ることが明確に示された。このチェックポイントの遮断は、(1)iNKTアネルギーの誘導を防ぎ複数のワクチン接種ラウンドを可能にする、および(2)腫瘍部位での適応耐性メカニズムを回避し、B16-OVA-またはB16F0黒色腫モデルで抗腫瘍効果を延長する。さらにmRNAガルソームは、腫瘍の微小環境をより炎症誘発性の表現型にシフトできるため、最先端の未修飾mRNAナノ粒子より優れた抗腫瘍応答を得ることができ、PD-L1チェックポイント阻害との組み合わせにより長期生存を示した;これは例えば、TRP-2を標的とするB16F0黒色腫モデルで実証されている。
【0116】
9.α-GalCerの機能的誘導体を配合したmRNAガルソーム
さらに、CD1d複合体内の糖脂質の安定性を増減するために特異的に合成されたα-GalCer類似体を配合したmRNAガルソームの治療効果を検証した。3つの機能的誘導体が選択された:(1)NU-α-GalCer(α-GalCer-6”-(1-ナフチル)尿素)、(2)PyrC-α-GalCer(a-GalCer-6”-(ピリジン-4-イル)カルバメート)、および(3)((2S,3S,4R)-1-O-(α-D-ガラクトピラノシル)-N-テトラコサノイル-2-アミノ-1,3,4-ノナントリオール)(OCH)。NU類似体およびPyrC類似体は、ガラクトース部分がそれぞれナフチル尿素およびピリジンカルバメート基で修飾されており、それぞれ、CD1d(樹状細胞)またはTCR受容体(iNKT細胞)との相互作用が増加している。対照的に、OCHはアシル鎖が短いセラミド修飾類似体であるため、CD1d受容体に対する親和性が弱いことが知られている。
【0117】
mRNAガルソームは、α-GalCerまたは構造類似体の1つのいずれかを含めて調製した(総脂質量の0.015mol%)。まず、これらのmRNAガルソームの、iNKTおよび抗原特異的CTL応答を誘発する活性を、腫瘍のないマウスで比較した。ワクチン接種の3日後、αGCを含むmRNAガルソーム(~3%)と比較して、PyrC-αGC(~12%)およびNU-αGC(~6%)でワクチン接種されたC57BL/6マウスの脾臓において、iNKT細胞の割合の増加を検出でき、一方、OCHではより低い増殖が観察された(~1.8%)(
図18A)。明確なiNKT細胞活性にもかかわらず、すべてのmRNAガルソームはOVA特異的CD8
+T細胞の強力な増殖を誘導することができた(>3%;7日後に測定)(
図18B)。糖脂質アジュバントを含まない同じ粒子は、OVA特異的CD8
+T細胞をほとんどもたらさないことに注意する必要がある。続いて、さまざまなα-GalCer類似体の取り込みがiNKT細胞でのPD-1発現にどの程度影響するかを評価した。以前の研究では、iNKTアネルギーには「活性化閾値」があることが示されている[28、30]。
図18Cに示すように、OCH mRNAガルソームで処置した後、iNKT細胞により、PD-1の発現が有意に低下することが観察された。
【0118】
次に、α-GalCerまたはこれらの類似体をパッケージ化したmRNAガルソームの治療可能性を、本明細書に記載のB16-OVA黒色腫モデルで比較した。B16-OVA保有マウスは、8日目に最初のワクチン接種を受け、15日目にブーストワクチン接種を受けた。
図19は、α-GalCer類似体を含むmRNAガルソームでワクチン接種されたマウスが、古典的α-GalCerを配合した粒子よりも優れた抗腫瘍効果をもたらしたことを示している。PyrC類似体およびOCH類似体の両方が腫瘍増殖に最も顕著な影響を及ぼし、これは、NU-α-GalCerの26日およびα-GalCerの25日、および未処置動物の21日と比較して、それぞれ32日および28日の生存期間中央値の改善によって実証された。PyrC類似体の場合、これは、この類似体のiNKT細胞を刺激する能力の強化によって説明できる可能性がある(
図18)。対照的に、OCHの優れた抗腫瘍効果は、iNKT細胞刺激の低下によって説明される可能性があり、その結果、1回のワクチン接種後にiNKT細胞でのPD-1発現レベルの低下が生じる(
図18C)。最初のiNKT細胞アネルギーを制限することにより、2回目のワクチン接種は、特に継続的なCTL応答を確立するために、OCH類似体に対し他のα-GalCerバリアントに比べて優れた効果をもたらす可能性がある。これらの結果に基づいて、これらのα-GC類似体の使用は、mRNAガルソーム製剤の有効性と(潜在的な安全性)を調節できる、非常に魅力的なパラメータであることが見出された。
【0119】
10.イオン化可能脂質MC3で構成される代替脂質ナノ粒子系を使用した、ヌクレオシド修飾mRNAとα-GalCerの同時送達。
イオン化可能カチオン性脂質、およびリン脂質、コレステロール、ポリ(エチレングリコール)(PEG)脂質などの他の「ヘルパー」脂質で構成される脂質ナノ粒子は、RNA治療のための臨床的に最も進んだ技術であると考えられている。優れた例として、かかるイオン化可能LNP技術を利用した、遺伝性トランスサイレチン媒介性アミロイドーシスの処置のための短鎖干渉(si)RNA治療薬Onpattro(patisiran)は、その種類の最初のものとしてFDAとEMAによる承認を最近受けた。さらに、イオン化可能カチオン性脂質で構成されるこれらのLNPは、mRNAワクチンの送達のための「ゴールドスタンダード」脂質製剤にもなっている。かかる脂質製剤、特にイオン化可能脂質MC3を使用して、mRNAとα-GalCerをiNKTアゴニストとして同時送達できるかどうかを評価した。
【0120】
同一の動物でα-GalCerを添加されたMC3 LNPのトランスフェクション効率と免疫原性の両方を評価するために、fLuc mRNAとtOVAI80 mRNAを単一のナノ粒子に配合した。第一に、MC3 LNPの全身送達は、DOTAPとコレステロールで構成されるmRNAガルソームと比較してはるかに高い全身ルシフェラーゼ発現レベルを達成する可能性がある(
図20A)。以前の報告と同様に、顕著に高い選択的mRNA発現が肝臓で検出された[33]。
重要なことに、脾臓におけるiNKT細胞の割合の増加は、DOTAP mRNAガルソームによる免疫化と類似の細胞数で観察される(
図20B)。さらに、MC3 mRNAガルソームは、脾臓で測定されたOVA特異的CTL(1.65±0.62%)を誘導することもできたが、ただしDOTAP mRNAガルソーム(4.42±0.85%)よりも程度は低い。さらに、免疫後早期に、iNKT細胞刺激に関連するTh1およびTh2サイトカイン応答を、MC3 mRNAガルソームで処置した動物で検出することができた。サイトカイン分極のわずかなパターンシフトのみが、IFN-γ、TNF-α、およびIL-6の同様またはより高いサイトカインレベルで観察されたが、IL-4およびIL-2のレベルはより低かった(
図20C)。これらの違いは、全身投与後の両方の粒子の他の臓器における分布プロファイルに関連し、これらのナノ粒子が標的とする臓器に存在する他のNKT細胞サブセットを刺激している可能性がある。
結論として、これらの結果は、代替のカチオン性脂質を使用するLNPが、ヌクレオシド修飾mRNAとα-GalCerの同時送達の担体として使用可能であり、iNKT細胞の刺激と抗原特異的T細胞応答の増強を誘導することを示している。
【0121】
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