(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】透析用炭水化物組成物
(51)【国際特許分類】
A61M 1/28 20060101AFI20231228BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20231228BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20231228BHJP
A61P 7/08 20060101ALI20231228BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231228BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20231228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231228BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231228BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231228BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61M1/28 100
A61P1/00
A61P1/10
A61P3/02
A61P7/08
A61P13/12
A61P39/02
A61K31/047
A61K31/198
A61K31/7004
A61K31/7016
A61K31/702
A61K31/716
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/36
A61M1/16 160
(21)【出願番号】P 2022117201
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2021064226の分割
【原出願日】2018-03-22
【審査請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518019662
【氏名又は名称】オプテリオン ヘルス アーゲー
【氏名又は名称原語表記】OPTERION HEALTH AG
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】グレンツマン グイド
(72)【発明者】
【氏名】スタインハウアー ヒャルマー ベルヌルフ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-508300(JP,A)
【文献】特開昭62-048701(JP,A)
【文献】特開昭60-193470(JP,A)
【文献】特表2013-518562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/28
A61P 1/00
A61P 1/10
A61P 3/02
A61P 7/08
A61P 13/12
A61P 39/02
A61K 31/047
A61K 31/198
A61K 31/7004
A61K 31/7016
A61K 31/702
A61K 31/716
A61P 43/00
A61K 9/08
A61K 47/10
A61K 47/18
A61K 47/26
A61K 47/36
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、以下のa)~d)を含
む組成物と、を含む液体水性組成物であって、
前記液体水性組成物の浸透圧が290~450mosm/kgであり、
前記液体水性組成物が、グルコースを0.2%w/v未満の濃度で含むことを特徴とする
液体水性組成物。
a)含有量がa)~d)の総重量の5~75重量%の、マルトース、グリセロール、オリゴペプチド、又はそれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物、
b)含有量がa)の含有量の1/2未満、且つ、総含有量がa)~d)の総重量の5重量%未満のグルコース、
c)あわせたときの含有量がa)の含有量の1/2未満の、DP3及びDP4のグルカン分子、
d)a)、b)及びc)とあわせて100重量%となる含有量の、DP>4のグルカン分子であって、
-DP>10のグルカン分子が、a)~d)の総重量の15~85重量%の量で存在する。
-DP>24のグルカン分子が、a)~d)の総重量の2~60重量%の量で存在する。
-DP>55のグルカン分子が、a)~d)の総重量の15重量%未満の量で存在する。
a)~d)をあわせたときの重量平均分子量が、Mw0.8~15kD、及び
a)~d)をあわせたときの数平均分子量が、Mn0.2~3kDである。
【請求項2】
前記組成物において、DP>111のグルカン分子が、1.5重量%未満の量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の
液体水性組成物。
【請求項3】
前記組成物において、DP>246のグルカン分子が、0.6重量%未満の量で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の
液体水性組成物。
【請求項4】
前記組成物において、DP>10のグルカン分子が、20~80重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項5】
前記組成物において、DP>10のグルカン分子が、35~80重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項6】
前記組成物において、前記グルコースを、a)の含有量の1/3未満の含有量で含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項7】
前記組成物において、DP3及びDP4のグルカン分子をあわせた含有量が、a)の含有量の1/3未満であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項8】
前記組成物において、DP3及びDP4のグルカン分子をあわせた含有量が、少なくとも0.1重量%であることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項9】
前記組成物において、化合物a)又はa)の化合物の混合物を、8~65重量%の含有量で含むことを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項10】
前記組成物において、DP>4のグルカン分子を、a)~d)の総重量の16重量%超えの含有量で含むことを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項11】
前記組成物において、前記グルカン分子は誘導体化されることを特徴とする、請求項1~
10のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項12】
前記組成物において、成分a)はマルトースであることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか一項に記載の
液体水性組成物。
【請求項13】
薬剤として用いる、又は治療において用いることを特徴とする、請求項1~
12のいずれか一項に記載の液体水性組成物。
【請求項14】
-腹膜治療液もしくは溶液
-透析液もしくは溶液、特に腹膜透析液もしくは溶液
-消化管洗浄液等の消化器液
-栄養液
-栄養輸液
-薬物投与液
-解毒液
-特に生理的体液用の、より具体的には血液、血漿、血清、又は間質液の代用物又は添加物である、生理的代用物又は添加剤調製物
-手術後の癒着抑制液
-浣腸用液
-下剤
-浸透圧剤、特に浸透推進剤
-乳児食
-細胞毒性が低減した医薬品
としての使用、又は腎疾患の治療での使用のための、請求項1~
12のいずれか一項
に記載の液体水性組成物。
【請求項15】
請求項
1~12のいずれか一項に記載の液体水性組成
物を製造する方法であって、
-固形分が10重量%~60重量%であるデンプンの水溶液を調製する工程;
-アミログルコシダーゼ及び/又はアミラーゼから選択される酵素の特定の組み合わせを用いて、前記水溶液を連続的に処理することによる糊化工程;
-前記水溶液の精製工程;
-分子量が40000Dを超える分子量糖類画分を排除又は減少させて、他の画分を回収するような方法で、前記水溶液を分画する工程;
-マルトース、グリセロール、オリゴペプチド、又はそれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物、及び、任意にグルコースを添加する工程;
からなる、請求項1~
12のいずれか一項で定義され
る液体水性組成物を得る製造方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の液体水性組成物を含有する、少なくとも1つのコンパートメントを備える容器又はキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物の一種としての浸透圧活性組成物(osmotically active composition)等、そのような組成物を含む水溶液、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
とりわけ腹膜透析の分野において、糖類ポリマー調製物(「調製物」は「調整物」と呼ばれる場合もある。)を含めた、非常に様々な浸透圧活性組成物、及び、臨床又は動物モデルにおけるそれらの透析パラメータについて記載する多くの研究が成し遂げられてきたが、それらの組成物のパラメータを規定するために様々な測定方法が適用されてきた。非常によく記載される医療用途のための医療用糖類ポリマー調製物がイコデキストリンである。
【0003】
半永久的な透析治療は、透析材料(チューブ、透析材料及び溶液)と患者の組織との相互作用により、依然として重大な副作用を引き起こす。
【0004】
血液透析(HD)は、最も一般的に用いられる透析治療である。各副作用には、炎症及び心血管系合併症が含まれ、死亡率を高めている。
【0005】
腹膜透析(PD)は、体外血液透析に代わるものの代表である。これは大掛かりな器具類に依存しないという利点があり、自宅で行うことができる。さらに、PDは、患者の血液を体から引き出す必要がない。代わりに、この方法では、患者の腹膜毛細血管組織(peritoneal capillary tissue)を膜として使用し、血液と透析液の間で液体や溶解物質(電解質、尿素、グルコース、その他の小分子)を交換する。PD-液(以下:PDF)は、常設のチューブを介して腹部に導入され、腹膜透析貯留(dwell)の終了時に排出される。このような貯留は、さまざまな期間、さまざまな時間間隔で繰り返し実行することができる。おそらく、PDの最も重要な利点は、血液透析(HD)と比較して、残留する腎臓の活動性を大幅に維持することである。これは、一定量の体液を自然な方法で排出できる患者にとって有利なだけでなく、腹膜透析治療自体にとっても非常に有利であり、腹膜透析液からゆっくり代謝可能な低分子量成分をかなりの量排泄することができる。
【0006】
一般的なPDFは、浸透圧剤(osmotic agent)としてグルコースを1~5%の濃度で使用して、液体と毒性物質を血液から透析液へと移動させる。グルコースは血液の低分子量成分である(通常の濃度は約0.1%)。従来のPDFの高グルコース濃度は、透析液から患者の血流へのグルコースの逆拡散につながり、高血糖を引き起こす恐れのあるグルコースのオーバーチャージ状態を生み出す。多くの透析患者は糖尿病であるため、高血糖はとりわけ問題である。
【0007】
この問題に対処する1つの方法としては、グルコースに代わる代替の浸透圧剤として糖類ポリマーを使用することである。多糖類が記載された先行技術を上に提示する。
【0008】
グルコースポリマーの全般的な利点は、腹膜及び血液中で、グルコースに分解されず、マルトース及びマルトトリオースにのみ分解されることである。これらの分子は両方とも、体内での代謝が大幅に少なく、大部分は残留腎機能及び/又は逆透析によって次の貯留の透析液に排泄される。
【0009】
特にポリグルコース系のPDFのもう1つの利点は、これらの溶液がこれら自身の浸透圧を維持することである。一部の浸透物質が体内の吸収によって失われると同時に、腹腔内アミラーゼがポリマーをより小さな糖類に切断し、それによって残っている腹腔内マルトデキストリンの浸透圧を増加させる。その結果、多糖類系PDFは低浸透圧で投与でき、限外ろ過による液体の吸収(resorption)を何時間も継続する。
【0010】
1986年、ミストリーら(Mistry et al.)及びウィンチェスターら(Winchester et al.)は、それぞれ独立に、非特許文献1においてグルコースポリマーを含むPDFについて述べている。ミストリーは、DP1~10のグルコースポリマーを含むポリマー調製物を、ウィンチェスターは、DP<6の分子が5重量%未満のポリマー調製物について述べている。
【0011】
特許文献1は、DP>12の分子を15%より多く含むグルコースポリマーを開示し、この調製物はMw7~36kD、好ましくは15~25kDを示す。
【0012】
特許文献2は、平均DP4~10のグルコースポリマー調製物を開示する。
【0013】
特許文献3は、DP11未満の分子を少なくとも85重量%、DP26未満の分子を少なくとも99重量%含有する腹膜透析用のグルコースポリマー調製物を開示する。
【0014】
特許文献4は、ヒトの患者の静脈内投与のための、実質的に透明で、非発熱性の、安定且つ無菌の溶液を開示しており、この溶液は、平均重合度が少なくとも4で、その分子の少なくとも99%が26未満のグルコース単位、その分子の少なくとも85%が11未満のグルコース単位、及びその分子の少なくとも20%が4未満のグルコース単位を有する、グルコース重合体混合物を少なくとも20%w/vを含む。
【0015】
特許文献5は、ポリマーの少なくとも50重量%が5000~30000の範囲の分子量であり、ポリマーの少なくとも80重量%が5000~50000の範囲の分子量であり、重量平均分子量は5000~100000の範囲であり、数平均分子量は8000未満であり、グルコースポリマー中に存在する単糖、二糖、及び三糖化合物の含有量は5重量%未満であり、グルコースポリマー中の、分子量が100000を超えるグルコースポリマーの含有量が5%未満である、グルコースポリマー混合物を開示する。
【0016】
特許文献6は、任意に水素添加してもよいデンプン加水分解物を開示しており、そのグルシドスペクトラムは以下を示す:単糖類(DP=1)の含有量が14%未満、二糖類(DP=2)の含有量が35%未満、DP4~DP10のオリゴ糖の含有量が42%~70%の範囲;DPが10を超える多糖類の含有量が32%未満;上記のパーセンテージはすべて、乾燥物質に基づいて計算された重量パーセンテージである。
【0017】
これまでは、透析液から患者の血液への炭水化物(以下、CHOとも略す)の逆拡散を減らすために、PD中の浸透圧剤として高平均分子量の糖類ポリマーが使用されている。このような高分子量ポリマー浸透圧剤の欠点は、高分子量分子は同じパーセンテージの低分子量分子より低い浸透圧を生み出すことである。(特定のw/v濃度に対して)浸透圧活性ポリマーのサイズが大きくなると、溶液の浸透圧は低下する。従って、同等の浸透圧を得るためには、CHO濃度を上げる必要がある。例えば、生理的食塩水中7.5%のイコデキストリンは、生理的浸透圧をかろうじて上回り、液体限外濾過の速度は遅い。腹膜からリンパ系を介しての透析液の吸収は比較的一定であるため、結果的に透析貯留中の炭水化物摂取量が多くなる。この事実にもかかわらず、最近の新しい開発では、特許文献7のように、PDF中のさらに高い分子量の多糖類を探している。
【0018】
人間の血液の平均浸透圧は275~295mOsm/kgで、塩類、他の低分子量溶質及びタンパク質などの血液中の主要な溶質によるものである。腹膜液は、血液に含まれる主要な塩類とpH緩衝液を含むが、通常タンパク質を含まない。どんな腹膜治療でも、腹膜液が体内に急速に吸収されるのを避けるために、人間の血液浸透圧に近い浸透圧が必要である。腹膜透析では、患者の血液循環コンパートメントから透析液コンパートメントへの流体移動を生み出すために、最終的には血液の浸透圧を超える必要がある。腹膜治療液(PTF)及び腹膜透析液(PDF)に必要な浸透圧は、「浸透圧剤」の添加によって達成される。浸透圧剤の例は、グルコース及びマルトデキストリン又は他の単糖及び/又は多糖(polymeric saccharide)分子、アミノ酸、シクロデキストリン、PEG、そのような化合物の誘導体、及びそのような化合物の混合物及び/又はその誘導体である。溶液の浸透圧はmOsm/kgで測定することができる。現在市販されているPDFは、280~500mOsm/kgの浸透圧で使用される。
【0019】
エクストラニール(Extraneal)(登録商標)は、今日販売されている唯一の多糖類含有PDFである。これには、イコデキストリン、Mw13~16kD、Mn5~6.5kDのマルトデキストリン(約2.8のPoly-Dとなる)が含まれる。エクストラニール(登録商標)のCHO濃度は、ヒト血液と等浸透圧に達し、限外濾過を開始するのに必要な7.5%である。腹膜腔に注入すると、浸透圧は、8~12時間の間に290~325mOsm/kgの値へと変化する(非特許文献2)が、透析液の体積はゆっくりと増加し、透析貯留中、体内へのイコデキストリンの平均吸収率は30~40%と報告された(非特許文献3、非特許文献4)。イコデキストリンの進行性の消化は、低濃度アミラーゼによって血流中と同様に腹膜中でも起こっている(非特許文献4)。
【0020】
イコデキストリンの主な欠点は、限外ろ過が非常に遅いことである。従って、通常8~12時間の貯留が用いられる。そのため、ほとんどの場合、エクストラニール(登録商標)は単独療法としては適用できず、8~12時間の1日1回の透析利用としてのみ適用され、自動透析でのイコデキストリンの使用も疑問視されている(非特許文献5)。そのため、今日では、ほとんどの場合、体液を効率的に削減するための短時間の透析貯留は、グルコース系PDFを用いて行われる。
【0021】
これまでのところ、エクストラニール(登録商標)は、貯留時間が長く、多糖類の吸収が懸念されるため、通常1日に1回、実験的又は例外的にのみ1日に2回用いられる。
【0022】
Mw6.4kD、Mn2.8kDの実験的なグルコースポリマー調製物が、レイポルドら(非特許文献6)によって記載された。著者らは、1つの低平均分子量調製物(重量平均分子量Mw6.4kD、数平均分子量Mn2.8kD)と1つの高分子調製物(Mw18.8kD、Mn9.4kD)にイコデキストリンを分画した。両方の調製物を、常設カテーテルを備えたウサギモデルで、7.5%の濃度にてテストした。著者らは、このモデルにおいて、240分の貯留は、PD患者内での長時間貯留に相当すると示唆する。この刊行物で、著者は、開始時透析液体積100ml、240分貯留後の、低分子量画分のNUFが約60~85ml、高分子量画分のNUFが約40~45mlであると報告し、低分子量グルコースポリマーがより効果的にUFを生み出し、より高いUF効率を生み出し、これらの要因は、ポリマーが腹膜腔からより容易に吸収されるという犠牲の上に現れる、と結論付ける。7.5%未満の濃度での結果は報告されていない。240分より短い貯留に対するNUF体積は報告されなかった。
低Mw画分と高Mw画分の間に違いはあったが、低分子量溶液とイコデキストリンを比較するデータは報告されなかった。
【0023】
最後に、イコデキストリンPDF溶液の浸透効果を高めるために、イコデキストリンとグルコースを組み合わせた二峰性PDFが作られているが、このような溶液はもはやグルコースフリーではない(非特許文献5、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】EP 0115911 A1
【文献】WO 8300087 A1
【文献】EP 0076355 A2
【文献】US 4,182,756 B1
【文献】US 6,248,726 B1
【文献】GB 2 042 547
【文献】US2012/02385A1
【非特許文献】
【0025】
【文献】「腹膜透析のフロンティア」、ジョン F. マーハー M.D.、ジェームズ F. ウィンチェスター M.D.編、1986年、シュプリンガー フェアラーク、ハイデルベルク(“Frontiers in Peritoneal Dialysis”, eds: John F. Maher M.D., James F. Winchester M.D., 1986, Springer Verlag, Heidelberg)
【文献】ド ヴァールら(De Wart et al)2001. Peritoneal Dialysis International, Vol. 21, pp. 269-274
【文献】デービス「イコデキストリンの速度論」(Davies. Kinetics of icodextrin.)Perit Dial Int 1994; 14(Suppl 2):S45 -50
【文献】モベルリーら(Moberly et al.)2002. Kidney International, Vol. 62, Supplement 81(2002), pp. S23-S33
【文献】フライダら(Freida et al.)2008, Kidney International Vol.73, p S102-S111
【文献】レイポルドら(Leypoldt et al.)2013, Perotoneal Dialysis International, Vol.33, pp 124-131
【文献】デュスダンパニスら(Dousdampanis et al.)2013, Internat. J. of Nephrology, Vol. 2013, Article ID424915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、以下の機能や特性のうち1つ以上を満たす組成物を提供することである。
-より低い炭水化物濃度で、イコデキストリンより高い浸透圧を示す。
-そのようなより低い炭水化物濃度で、イコデキストリンと比較して、正味限外濾過(net ultrafiltration)を増やす。
-短い透析貯留(特にヒトで2~4時間)の間の適度な正味限外濾過を可能にする。
-イコデキストリンに比べて、そのような低減した炭水化物濃度での炭水化物吸収に対する正味限外濾過体積の比率がより高くする。
-グルコースを、最終溶液の0.2%w/v未満の最終濃度で含む。
-全貯留中に、正の浸透圧を維持するのに十分な濃度の高分子量成分を含む。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、以下を含むか又は以下からなる組成物を提供する。
a)含有量がa)~d)の総重量の5~75重量%、好ましくは8~65重量%、より好ましくは10~55重量%の、マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらのうち1以上の混合物からなる群から選択される化合物、好ましくはマルトースである。
b)含有量がa)の含有量の1/2未満、好ましくは1/3未満、且つ、総含有量がa)~d)の総重量の5重量%未満のグルコースである。
c)あわせたときの含有量がa)の含有量の1/2未満、好ましくは1/3未満のDP3及びDP4のグルカン分子である。
d)a)、b)及びc)とあわせて100重量%となる含有量の、DP>4のグルカン分子である。このとき、
-DP>10のグルカン分子が、a)~d)の総重量の15~85重量%、好ましくは20~80重量%、さらに好ましくは35~80重量%の量で存在する。
-DP>24のグルカン分子が、a)~d)の総重量の2~60重量%、好ましくは4~58重量%、より好ましくは5~56重量%の量で存在する。
-DP>55のグルカン分子が、a)~d)の総重量の15重量%未満、好ましくは12重量%未満の量で存在する。
【0028】
a)~d)をあわせたときの重量平均分子量は、Mw0.8~15kD、好ましくはMw1.0~10kD、より好ましくはMw1.2~6.2kD、又は、1~6.2kD、より好ましくは1.4~6kD、より好ましくは1.6~5.8kDであってよい。
【0029】
a)~d)をあわせたときの数平均分子量は、Mn0.2~3kD、好ましくはMn0.3~3kD、より好ましくはMn0.5~3kD、又は、0.7~3kD、好ましくは0.8~2.7kD、より好ましくは0.9~2.6kDであってよい。
【0030】
これらMw値とMn値は、例えばMw1~6.2kDとMn0.7~3kDといった任意の組み合わせで、組み合わせることができる。
【0031】
a)において、マルトースを単独で使用してもよい。マルトースを、前述のアミノ酸、オリゴペプチド、及び/又はグリセロールなど、インスリン分泌に影響を与えない他の低分子量(Mw)分子によって部分的又は完全に置き換えてもよい。そのような化合物は、現在適用されている低分子量浸透圧剤の例である。
【0032】
属性(attribute)の「好ましくは」、「より好ましくは」、「さらにより好ましくは」などで示される特徴は、任意の組み合わせで、つまり、これらの属性のいずれでも示されない特徴と組み合わせることができる。例えば、属性「好ましくは」で示される特徴は、そのような属性のいずれも含まない特徴、又は属性「より好ましく」を含む特徴等と組み合わせることができる。
【0033】
数字および単位に関連する記号「~」は、別段の指示がない限り、範囲を示す。
【0034】
本発明はまた、そのような組成物及び水を含む液体水性組成物(liquid aqueous composition)を提供する。
【0035】
さらなる態様において、本発明は、医薬としての使用又は治療における使用のための前記組成物又は前記液体水性組成物を提供し、具体的な使用については詳細な説明で述べる。
【0036】
本発明はまた、以下の工程からなる、上記液体水性組成物を製造する方法を提供する。
-固形分が10重量%から60重量%までのデンプンの水溶液を調製する工程。
-アミログルコシダーゼ及び/又はアミラーゼから選択される酵素の特定の組み合わせで連続的に前記水溶液を処理することによる糊化工程。
-前記水溶液を精製する工程。
-40000Dを超える、好ましくは18kDを超える分子量を有する分子量糖類画分(saccharide fraction)を排除又は減少させて、他の画分を回収する(recover)ような方法で、前記水溶液を分画する工程。
-マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらのうち1つ以上の混合物からなる群から選択される化合物、及び任意でグルコースを添加する工程。
【0037】
これにより、特に、分画によって、及びマルトース、グリセロール、アミノ酸又はオリゴペプチド、任意でグルコースを添加することによって、本発明の組成物が得られ、又は溶液中に得られる。
【0038】
本発明はまた、上記の液体水性組成物又は本発明の組成物を含む少なくとも1つのコンパートメントを備える容器又はキットを提供する。
【0039】
全体的な又は特定の実施形態において、本発明により以下の利点のうちの1以上に到達することができる。
-上記組成物は浸透圧活性(osmotical activity)を示す。この意味で、上記組成物は浸透圧活性組成物とも呼ばれる。
-上記液体組成物は、生理的レベルよりも多くのグルコースを含まない(最大0.2%)。
-高分子量(40kD超え、さらに好ましくは18kD超え)の糖類の画分が大幅に減少している。
-平均分子量がイコデキストリンより低い組成物。この組成物は、イコデキストリンと比較して、18kD及び40kDを超える高分子量糖類をそれぞれ大幅に削減している。
-初代ヒト中皮細胞培養に対するイコデキストリンの細胞毒性効果が減少する。このような細胞毒性効果は、イコデキストリンの高分子量糖類画分に少なくとも部分的に関連があると考えられている。本発明は、細胞毒性の可能性のある高分子量画分を排除または低減する(好ましくは、40kD超えが組成物全体の0.6重量%未満、好ましくは0.3重量%未満、さらにより好ましくは18kD超えが組成物全体の1.5%未満)。
-本発明の組成物は、生理的濃度の塩類の存在下でPTF又はPDFに唯一の浸透圧剤として適用される場合、2~7.2%の総CHO(w/v)濃度で、好ましくは2.2~7%、好ましくは2.4~6.8%、好ましくは2.6~6.6%の総CHO(w/v)濃度で、等浸透圧を生み出すか、又は、高浸透圧(ヒト血液の生理的浸透圧よりも高い)を生み出すことができる。
-本発明に従って、医療用途において、浸透圧剤として作用する組成物、好ましいPTF、好ましいPDFが提供される。該組成物は、単独で、又は低分子量浸透圧剤と一緒に、十分に高い浸透圧を生み出して、患者の腹膜腔への腹膜透析液の注入後、腹膜全体に水及び老廃物を拡散させることができる。1つの浸透圧剤、又は浸透圧剤の組み合わせに加えて、そのような医療用液体は、ヒトの体液に匹敵する量のさまざまな生理的に重要な電解質を含む。
【0040】
市販のPDF(エクストラニール(登録商標)、バクスター)に現在用いられているマルトデキストリン(イコデキストリン)と比較して、浸透圧剤の有効性の観点から、本発明の組成物及びその誘導体は、驚くべきことに以下の効果の1つ以上によりイコデキストリンと区別することができる。
-短期間貯留時の経毛細管限外ろ過(TCUF)の大幅な増加。TCUFについては詳細な説明で定義する。
-短期間貯留時の正味限外ろ過(NUF)の大幅な増加。NUFについては詳細な説明で定義する。
-単位時間あたりのTCUF(ml/h)の大幅な増加。
-単位時間あたりのNUF(ml/h)の大幅な増加。
-単位炭水化物(CHO)吸収あたりのTCUF(ml/g)の大幅な増加。
-単位CHO濃度あたりのNUF(ml/g)の大幅な増加。
-PDF中の全体的なCHO濃度がより低い。
-本発明の枠組みで得られた結果は、貯留時間の短縮、CHO濃度の低下、及び、結果として生じる貯留あたりのCHO吸収の減少により、1日に2度、3度又は4度、溶液を適用できることを示唆する。このような限外ろ過の増加により、一定の場合において、単独療法として糖類ポリマー系PDが可能になるであろう。糖尿病PD患者の場合、日中の糖類ポリマー系PDの部分が増加すると大きな利益が得られ、高血糖症の現在の問題をさらに軽減する。
-本発明によれば、本発明の組成物は、以下の特徴により、上記の限外濾過効率を高める。
a)短い透析貯留中の効率的な浸透剤であること。
b)切断可能な結合の蓄積が高く、長い貯留中浸透圧の維持を可能にすること。
定義:
【0041】
溶液の溶解固形成分(例えば、腹膜透析液中のグルコースポリマー混合物)の濃度の記載のために、本特許出願では、与えられた化合物の重量を溶液の体積で割った値に相当する体積パーセンテージ(%w/v)を用いた。例えば10%w/vは、最終溶液100ml中に関連の化合物が10gあることに相当する。これは、このような溶液の薬理学的記載において一般的に適用されている標準的な記載方法である。
【0042】
本出願において、用語「グルカン」とは、D-グルコースモノマーからなるオリゴマー及び/又はポリマー分子(=グルカン分子)の任意の組成物又は多分散混合物を意味し、D-グルコースモノマーがグリコシド結合により連結される。用語「グルカン」の代わりに、用語「グルコースポリマー」を使用してもよい。グルカン分子の重合度(DP)は、本発明での定義により、少なくとも3である。本発明では、ダイマー(DP 2)を「マルトース」と呼び、モノマーを「グルコース」と呼び、これらの用語は公知の意味を有する。
【0043】
本発明のグルカンは、好ましくは「α-グルカン」である。「α-グルカン」という用語は、D-グルコースモノマーがα-グリコシド結合により連結されているグルカンを意味する。
【0044】
用語「デキストリン」は、α-1,4及び/又はα-1,6グリコシド結合、好ましくは両方を含むグルカンを意味する。デキストリンには、マルトデキストリンとシクロデキストリンが含まれてよい。デキストリンは、デンプン加水分解又は他の方法により得ることができるが、これに限らない。特別なデキストリンは、イコデキストリン、又は、分子量180ダルトンから200キロダルトン(kD)のデンプン加水分解生成物である。
【0045】
「マルトデキストリン」という用語は、シクロデキストリンを含まないデキストリンを意味する。特別な場合、マルトデキストリンは、イコデキストリン、又は分子量180ダルトンから200キロダルトンの他の直鎖状又は分岐状の非環状デキストリンである。マルトデキストリンは、デンプンの限られた加水分解から生成され得る。デンプンは、α(1,4)グリコシド結合によって結合された直鎖のグルコースポリマーであるアミロースと、糖類ポリマーに分岐導入するα(1,6)グリコシド結合を約10%含むアミロペクチンの2種類のグルコースポリマーから構成される。デンプンの初期組成、加水分解の条件、又は特定の酵素の添加の結果として、得られるマルトデキストリンは異なる分岐程度(例えば、0~40%)を有することができる。
【0046】
「デキストラン」という用語は、α-1,3分岐をもつα-1,6-グルカンを意味する。
【0047】
グルカン又はグルカン分子の「誘導体」又は「誘導体化された」という用語は、酵素的、化学的及び/又は物理的修飾に由来する修飾された分子又は分子集団を意味する。例えば、ポリマー結合を加水分解してもよいし、又は、追加の結合を生成してもよいし、又は、グルカン内の官能基、特にヒドロキシル基を誘導体化又は置換してもよい。
【0048】
デンプン誘導体とは、デンプンの、1つ又は複数の工程での、酵素的、化学的及び/又は物理的修飾から生じる加工デンプン(modified starch)を意味する。
【0049】
「オリゴペプチド」という用語は、2~10個のアミノ酸で構成されるペプチドを意味する。従って、「オリゴペプチド」という用語は、二アミノ酸(bi-amino acids)、すなわちアミノ酸二つから構成されるペプチドを包含する。オリゴペプチドは、好ましくは二アミノ酸であり、従ってオリゴペプチドという用語は、特定の実施形態では二アミノ酸という用語で置き換えることができる。
【0050】
分子量測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、特にGPC-RI、又は、イオン交換クロマトグラフィー、又は両者の組み合わせによって行うことができる。グルカンに関する限りは、GPC又はGPC-RIが好ましい。アミノ酸又はペプチドに関する限りは、イオン交換クロマトグラフィーが好ましい。グルカン、及び、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらのうち1つ以上の混合物を含む組成物中の(平均)分子量に対する結果を得るために、グルカンの分子量及び他の成分の分子量を単独で決定し、その結果を組み合わせて、例えば組成物の成分a)~d)に対する平均分子量を得ることができる。従って、そのような組成物の場合、Mw及びMnを決定するための方法は、GPC又はGPC-RIとイオン交換クロマトグラフィーとの組み合わせであることが好ましい。成分a)がマルトースの場合、分子量は1つの試料で、好ましくはGPC又はGPC-RIを用いて測定することができる。
【0051】
分子量(M、単位g/Mol)は、任意の分子又はポリマーに対して計算することができる。例えば、グルカン分子の分子量は、下記式で与えられる。
M(i単位のグルカン分子)=180g/Mol+(i-1)*162g/Mol
ここで、180g/Molはグルコースの分子量、162g/Molは加水分解による重合後に追加されたグルコース単位1個についての分子量である。
【0052】
糖類調製物の分子量を適切に特徴付けることができるただ1つの数字はない。従って、さまざまな記述子が用いられる。最も一般的に用いられるのは、「重量平均分子量」(Mw)と「数平均分子量」(Mn)であり、MwとMnは下記式(1)及び式(2)によって求めることができる。
ここでniは分子量Miの分子の数である。Mwは特に糖類調製物の高分子量含有量の変化の影響を受けやすいが、Mnは試料中の低分子量分子の変化に大きく影響される。
【0053】
【0054】
グリセロールの分子量は92ダルトン、又は92g/Molである。
【0055】
アミノ酸の分子量は75~205g/Molである。
【0056】
オリゴペプチドの分子量は、それらを構成するアミノ酸それぞれの分子量を合計したものから各ペプチド結合に対しペプチド結合形成時の1水分子の損失に相当する18g/Molを引く。
【0057】
アミノ酸及び/又はペプチドの混合物の平均MW(Mw及びMn)は、糖類の混合物に対するMWと同じく式(1)(2)で計算することができる。
混合物内の個々のアミノ酸又はオリゴペプチドの量は既知であるか、又は合計されたものである。
【0058】
糖類と非糖類の混合物の平均MW(Mw及びMn)は、例えば、糖類又はアミノ酸のMWと同じく式(1)(2)で計算することができる。
混合物の異なる成分全ての量とそれらの分子量は、既知であるか、又は合計されたものである。多くの場合、アミノ酸混合物の組成はサプライヤーによって分析されて知らされているか、そうでなければ以下に述べるようにそれらを決定することができる。
【0059】
アミノ酸の混合物又はペプチドの組成を分析するための信頼できる技術は、ポストカラム誘導体化(例えばニンヒドリンでの)を備えた、イオン交換クロマトグラフィーを伴う(アンダース(Anders) JC.アミノ酸分析の進歩。バイオファーム インターナショナル 2002;4:32~39)。
【0060】
試料の「多分散指数」(Poly-D)は、Mw/Mnの比として計算することができる。
【0061】
ポリマー分子の重合度は、下記式で定義される。
DP=M(ポリマー分子)/M(モノマー)。ここで、グルカンの場合、M(モノマー)は162g/molである。
【0062】
従って、グルカン分子の分子量(M)はすべてDPとして表現でき、逆も同様である。
【0063】
DPw及びDPnという用語は、重量平均重合度と数平均重合度を意味し、次のように定義される。
DPw=Mw/M(モノマー)
DPn=Mn/M(モノマー)
【0064】
分子量と重合度、及びそれらの平均値は、好ましくは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、好ましくは屈折率(RI)検出を備えるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC-RI)により測定される。特にペプチド/アミノ酸の場合、イオン交換クロマトグラフィーも可能である。具体的な方法については、実施例でさらに説明する。
【0065】
所定の分子量範囲の分子画分の量は、さまざまな方法で示すことができる。そうするための非常に一般的で有用な方法は、そのような画分の量を組成物全体の重量パーセンテージとして表すことである(そのような組成物が最終溶液で用いられる最終濃度がなんであろうと)。本発明では、成分a)、b)、c)又はd)の重量パーセンテージを、a)+b)+c)+d)の総重量のパーセントで表す。a)+b)+c)+d)の総重量を、「総CHO」とも呼ぶ。a)+b)+c)+d)の総重量に関連するパーセンテージは、乾燥物質に基づいて計算される。
【0066】
グルコースポリマー調製物中のグルカン分子の重量パーセンテージ、又はグルカン分子の、DP又は他の方法によって定義される画分の重量パーセンテージは、GPC、特にGPC-RIによって決定できる。グルカン分子又は画分の重量パーセンテージは、特に、GPCクロマトグラムの前記グルカン分子/画分の面積を決定し、それが関係するであろう種、例えばすべてのグルカン分子の面積との関係を決めることによって決定できる。本発明の組成物内のすべてのグルカンの面積を知ることにより、a)~d)(ここでa)~d)は上記で定義されたとおり)内の、グルカン分子の、又はグルカン分子の画分の重量パーセンテージを、例えば下記式から算出できる。
対象となる画分又は分子の重量%
=[(対象となる分子又は画分の面積)/(総CHOの面積)] * 100
ここで、上記面積はGPCクロマトグラム中の面積を意味する。
【0067】
分子又は画分のパーセンテージを決める詳細な手順は、この分野の当業者には公知であり、その方法を詳細に限定する必要はない。公知のように、GPCでは、溶出溶媒中のポリマーの重量濃度を、検出器でモニターすることができる。分子量は、分子量標準を用いて決定できる。実施例では、上記の手順と組み合わせることのできる測定について説明する:グルコースポリマー調製物の総量又は濃度は、背景差分を行った後のGPCクロマトグラムの曲線下の面積に相当し、続いて、分子量標準、特にイコデキストリン、マルトース及びグルコース標準を用いて較正する。
分子量画分又は分子の定量化は、デキストラン分子量標準等の分子量標準や、イコデキストリンを比較標準として用いて評価することができる。
【0068】
液体組成物においては、代わりに、成分の重量パーセントを、液体組成物全体の全質量に基づいて定義してもよい。
【0069】
本発明では、「生理的塩類濃度(Physiological Concentrations of Salts)」という用語は、以下の濃度を記載するために使用される。
・約100から約150mEq/Lまでの濃度のナトリウム
・約0から約10mEq/Lまでの濃度のカリウム
・約0から約10mEq/Lまでの濃度のカルシウム
・約0から約10mEq/Lまでの濃度のマグネシウム
【0070】
本出願で使用される「腹膜治療液」(PTF)という用語は、血液中に見られる濃度に匹敵する濃度で生理的量の様々な電解質を含む水溶液を指す。一般的な腹膜透析液には、以下が含まれてよい。
・約100から約150mEq/Lまでの濃度のナトリウム
・約0から約10mEq/Lまでの濃度のカリウム
・約0から約10mEq/Lまでの濃度のカルシウム
・約0から約10mEq/Lまでの濃度のマグネシウム
・グルコース及び/又はマルトデキストリン又は他の単糖及び/又は高糖分子、アミノ酸及びペプチド、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセロール、デキストラン、及び、浸透圧を生み出すのに十分に高濃度の他の生体適合性化合物、そのような化合物の誘導体、及びそのような化合物の混合物、及び/又はそれらの誘導体等の「浸透圧剤」であって、該浸透圧剤は最終的に組み合わされた濃度が0.5から20%の間である。
【0071】
腹膜自体の治療又は全身治療を実行するために、PTFを腹膜に投与することができる。腹膜治療の例は、腹膜癌又は腹膜感染症に対する化学療法である。腹水による全身治療の非常に一般的な例が腹膜透析であり、ほとんどの場合、腎機能不全のためであり、低分子廃棄物が血液循環から排除される。
【0072】
「腹膜透析液」(PDF)は、血液を浄化し、その構成要素のバランスをとるために、患者から血液老廃物と水を除去するのに十分な、例えば1~16時間の期間、透析を必要とする患者の腹膜腔に導入され維持される液体混合物である。前記期間の終わりに、「透析物質(dialysate)」が患者の腹膜腔から除去される。
【0073】
腹膜透析の貯留時間は、例えば自動腹膜透析(ADP)の場合2時間未満;例えば、連続携行式腹膜透析(CAPD)では4時間から6時間にわたって;例えば終日又は一晩中の貯留といった長時間の透析貯留では、8から12時間というように様々である。本出願では、6時間までの貯留を短いPD貯留と呼び、8時間以上の貯留を長い貯留と呼ぶ。
【0074】
「限外ろ過」(UF)という用語は、単位時間あたりの液体及び溶解物質(例えば、液体、電解質、尿素、クレアチニン、グルコース、及び他の小分子)の交換を表す。透析中の限外濾過は、血液コンパートメントから透析液を含む腹膜コンパートメントへと起こる。一方、小分子もしくは液体の、透析液から血液へのリンパ吸収又は逆限外ろ過のいずれかによって、透析液から溶質及び液体が患者体内(patient’s system)に逆移動する場合がある。
【0075】
本発明の文脈において、経毛細血管限外ろ過(transcapilary ultrafiltration)という用語は、腹膜透析貯留中に体から透析液に移動するすべての体液に対応する。
【0076】
正味限外濾過(NUF)という用語は、最初に投与されたPD液の量(IPFV)から、透析貯留の終わりに回収された透析液量(RDV)を引いて求められる。
NUF = IPFV - RDV
NUFは、透析液のリンパ吸収(LA)(腹腔から体内へ)に対する経毛細血管限外ろ過(TCUF)(血液から透析液へ)の結果である。
NUF = TCUF - LA
【0077】
正味限外ろ過は、透析の目的の1つに対応する正値(positive)(患者から透析液への流体除去)の可能性もあるし、又は、透析貯留の時間にわたって浸透圧が十分に維持されなかった場合など、負値(negative)(腹膜から患者への全体的な液体の取り込み)の可能性もある。
【0078】
リンパ吸収(LA)は、デキストラン70などの腹腔内に投与されたボリュームマーカーの量的損失を乗算した、最初に投与されたPD液Vol(PDF)
iに基づき、以下の式(3)により評価できる。
【数2】
【0079】
その後、経毛細血管限外ろ過(TCUF)を、下記式によりリンパ吸収と正味限外ろ過を足して計算することができる。
TCUF = NUF + LA
【0080】
「総CHO」という用語は、PTFに存在する炭水化物の総量に適用される。
【0081】
「CHO吸収」という用語は、腹膜透析(PD)貯留中に、腹膜内のPDFから患者が吸収する総「炭水化物量」(CHO)を表すために適用される。炭水化物の吸収は、透析貯留中に体内に吸収される代謝可能な浸透剤という意味として評価される。これは、最初に投与されたPD液の総炭水化物量から回収された透析液の総炭水化物量を差し引くことによって求められる。
【0082】
炭水化物誘導体であるグリセロールも炭水化物と見なし、適用される場合、用語「総CHO」及び「CHO吸収」内に入れる。
【0083】
厳密に言えば、アミノ酸及びペプチドは窒素原子も含むため、炭水化物ではない。しかし、総CHO及びCHO吸収の対象が主にPTF内の代謝可能な成分を推定することであるため、及び簡単化のために、我々は用語「総CHO」及び「CHO吸収」内にアミノ酸とオリゴペプチドを入れることとする。
【0084】
用語「CHO吸収あたりのNUFの割合」は、透析貯留中のCHO吸収の総重量(mg)に対するNUF体積(ml)の割合を表すために用いられる。
【0085】
「生理的血液に近いpH」とは6.5~8、好ましくは6.8~7.7、より好ましくは7~7.5のpHに相当する。
【0086】
以下、分子量の範囲を記載する。範囲のそれぞれは、1以上の鎖長のグルカン分子を含み、DPで表される。この範囲は、こうした範囲が示される先行技術との比較を容易にすることを意図している。さらに、これらの範囲は、「発明を実施するための形態」に記載するように、本発明の特定の実施形態を定義するために使用される。これらの範囲の境界は端数処理した値(rounded values)であることに留意されたい。これは、多くの刊行物や特許においてそのようなものとして用いられてきたので、グルコースポリマーに関する先行する刊行物や特許についての我々の分析に、DP情報を以下のように取り込むことができる。
【0087】
DP 分子量(D) 分子量範囲(D)
1 180 <200
2 342 200~400
3 504 400~600
4 667 600~750
5 829 750~900
6 991 900~1000
7 1153 1000~1250
8 1315 1250~1400
9 1477 1400~1500
10 1639 1500~1750
11 1802 1750~1900
12 1964 1900~2000
13 2126 2000~2250
14 2288 2250~2400
15 2450 2400~2500
16 2612 2500~2750
17 2774 2750~2800
18 2937 2800~3000
19 3099 3000~3250
20 3261 3250~3300
21 3423 3300~3500
22~24 3500~4000
25~27 4000~4500
28~30 4500~5000
31~33 5000~5500
34~36 5500~6000
37~39 6000~6500
40~43 6500~7000
44~46 7000~7500
47~49 7500~8000
50~55 8000~9000
56~61 9000~10000
62~67 10K~11K
68~73 11K-12K
74~76 12K~12.5K
77~80 12.5K~13K
81~86 13K~14K
87~92 14K~15K
93~98 15~16K
99~104 16K~17K
105~110 17K~18K
111~117 18K~19K
118~123 19K~20K
124~129 20~21K
【発明を実施するための形態】
【0088】
この「発明を実施するための形態」に記載される実施形態は、本発明において、任意の組み合わせで、もしくは部分的に組み合わせて、組み合わせることができる。
【0089】
本発明の組成物は、分子量分布に2つのピークが存在することを意味するバイモーダル組成物であってよく、1つのピークはより小さな分子量領域に、1つはより高い分子量領域にある。この態様では、上記組成物は、グルカン(好ましくはアルファ-グルカン)ポリマー調製物、優先的にマルトデキストリン又はマルトデキストリン誘導体を含むことができ、さらなる成分として、マルトース、グルコース、グリセロール、アミノ酸、及び/又はオリゴペプチドを含むことができ、これらを上記ポリマー調製物に添加することができる。例えば、腹膜透析では、バイモーダル浸透圧剤が、マルトース、グルコース、グリセロール、アミノ酸、及び/又はオリゴペプチドが添加されたマルトデキストリン調製物(例えば、イコデキストリン)であってよい。
【0090】
本明細書において、用語「アミノ酸」又は「ペプチド」が単数で用いられる場合でも、複数、特にこれらの混合物が包含される。
【0091】
用語「ポリマー」は、「オリゴマー」も包含することとする。
【0092】
好ましいグルカンとしては、デキストリン、デキストラン、及び/又はそれらの誘導体である。好ましいデキストリンはマルトデキストリンである。
【0093】
上記組成物は固体組成物であってよい。組成物は乾燥組成物であってよい。組成物は、後述の本発明の方法により得られる液体水性組成物を乾燥することにより得ることもできる。
【0094】
本発明の組成物は、さらなる成分、例えば、塩類、a)~d)で定義されたもの以外の化合物、微量元素、酵素、他の浸透剤、及び/又は医薬品有効成分のうちの1つ以上を含んでもよい。好ましくは、成分a)~d)は、組成物全体の少なくとも90重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも98重量%である。
【0095】
さらなる関連する態様においては、本願請求項の組成物を他の浸透圧剤と混合することができる。
【0096】
DP>10、DP>24、DP>55のグルカン分子、又は、より高いDPをもつ以下に述べるさらなるグルカン分子は、DP>4のグルカン分子である成分d)の一部又は画分である。
【0097】
成分b)(グルコース)又はc)(DP3及びDP4のグルカン分子)の範囲が「未満」という表現で示される場合、そのような範囲の下限は0重量%超え、好ましくはa)~d)の総重量の少なくとも0.01重量%、より好ましくはa)~d)の総重量の少なくとも0.1重量%である。よって、成分b)及びc)は常に存在する。
【0098】
他の成分の範囲が「未満」という表現で示される場合、そのような範囲の下限は、a)~d)の総重量の好ましくは0重量%超え、より好ましくは少なくとも0.01重量%であり、さらにより好ましくは、a)~d)の総重量の少なくとも0.1重量%である。
【0099】
上記組成物のMwは、Mw0.8~15kD、好ましくはMw1~10kD、より好ましくは1.2~6.2kD又は1.0~6.2kD、より好ましくは1.4~6kD、より好ましくは1.6~5.8kDの範囲である。他の可能な範囲は、1.3~6kD、1.5~5.8kD、1.5~5kDである。
【0100】
Mwのこれらの範囲は、Mnの任意の範囲と組み合わせることができる。上記組成物のMnは、好ましくは0.2~3kD、好ましくは0.3~3kD、より好ましくは0.5~3kD又は0.7~3kD、より好ましくは0.8~2.7kD、より好ましくは0.9~2.6kDの範囲である。他の範囲は1~2.7kD、1.2~2.5kDである。
【0101】
上記組成物の一実施形態では、DP>111のグルカン分子が、a)~d)の総重量の1.5重量%未満の量で存在する。
【0102】
上記組成物の一実施形態では、DP>246のグルカン分子が、a)~d)の総重量の0.6重量%未満の量で存在する。
【0103】
一実施形態では、上記組成物は、グルコースを、組成物の成分a)(マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はこれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物)の含有量の1/3未満の含有量で、具体的には、マルトースが成分a)として使用される場合、マルトースの含有量の1/3未満の含有量で含む。
【0104】
一実施形態では、上記組成物は、DP3及びDP4のグルカン分子をあわせて、組成物の成分a)(マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はこれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物)の含有量の1/3未満の含有量で、具体的には、マルトースが成分a)として使用される場合、マルトースの含有量の1/3未満の量で含む。
【0105】
一実施形態では、上記組成物は、組成物の成分a)(マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はこれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物)、特にマルトースを、a)~d)の総重量の8~65重量%の含有量で含む。
【0106】
一実施形態では、上記組成物は、DP>4のグルカン分子を、a)~d)の総重量の16重量%を超える、好ましくは21重量%を超える含有量で含む。
【0107】
一実施形態では、DP3及びDP4のグルカン分子の含有量は、あわせると、a)~d)の総重量の15重量%未満、より好ましくは、a)~d)の総重量の10重量%未満、さらにより好ましくは、a)~d)の総重量の5重量%未満である。
【0108】
一実施形態では、分子量0.8~1.5kD又はDP5~DP9のグルカン分子の含有量は、総CHOの4~39重量%、好ましくは6~23重量%である。
【0109】
一実施形態では、分子量1.5~4.5kD又はDP10~DP27のグルカン分子の含有量は、総CHOの16~60重量%、好ましくは20~60重量%である。
【0110】
一実施形態では、分子量4.5~9kD又はDP28~DP55のグルカン分子の含有量は、総CHOの48重量%未満、好ましくは45重量%未満である。
【0111】
一実施形態では、9kDより小さい分子量の、又はDP<55のグルカン分子の含有量は、総CHOの85重量%超、より好ましくは総CHOの90重量%超である。
【0112】
一実施形態では、分子量0.8~4.5kD、又はDP5~DP27のグルカン分子の含有量は、総CHOの18重量%超え、好ましくは25重量%超え、さらにより好ましくは30重量%を超えである。
【0113】
一実施形態では、DP3及び4のグルカン分子の含有量は、総CHOの30重量%未満、好ましくは2~26重量%、より好ましくは2~15重量%、さらにより好ましくは2~10重量%である。
【0114】
一実施形態では、DP5及び6のグルカン分子の含有量は、総CHOの35重量%未満、好ましくは1~15重量%である。
【0115】
一実施形態では、DP7~10のグルカン分子の含有量は、総CHOの35重量%未満、好ましくは1~18重量%である。
【0116】
一実施形態では、DP<10のグルカン分子の含有量は、総CHOの15~85重量%、好ましくは20~80重量%である。
【0117】
一実施形態では、DP>25のグルカン分子の含有量は、総CHOの1.9~59.5重量%、好ましくは3.9~57.5重量%、好ましくは4.9~55.8重量%である。
【0118】
一実施形態では、DP>30のグルカン分子の含有量は、総CHOの59重量%未満、好ましくは55重量%未満、より好ましくは50重量%未満である。
【0119】
一実施形態では、DP>111のグルカン分子の含有量は、総CHOの1.5重量%未満である。
【0120】
一実施形態では、DP>246のグルカン分子の含有量は、総CHOの0.6重量%未満である。
【0121】
前述したように、この明細書の特徴は、任意の方法及び任意の数で組み合わせることができる。1つの可能な組み合わせのみを反映する非常に具体的な実施形態において、本発明は、以下を含む組成物を提供する。
a)含有量がa)~d)の総重量の5~75重量%、好ましくは8~65重量%、さらにより好ましくは10~55重量%の、マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はこれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物、好ましくはマルトースである。
b)含有量がa)の含有量の1/2未満、好ましくは1/3未満、且つ、総含有量がa)~d)の総重量の5重量%未満のグルコースである。
c)あわせたときの含有量がa)の含有量の1/2未満、好ましくは1/3未満のDP3及びDP4のグルカン分子である。
d)a)、b)及びc)とあわせて100重量%となる含有量の、DP>4のグルカン分子である。
このとき、
-DP3及び4のグルカン分子は、a)~d)の総重量の30重量%未満、好ましくは2~26重量%の量で存在する。
-DP5及び6のグルカン分子は、a)~d)の総重量の35重量%未満、好ましくは1~15重量%の量で存在する。
-DP7~10のグルカン分子は、a)~d)の総重量の35重量%未満、好ましくは1~18重量%の量で存在する。
-DP<10のグルカン分子は、a)~d)の総重量の15~85重量%、好ましくは20~80重量%の量で存在する。
-DP>10のグルカン分子は、a)~d)の総重量の15~85重量%、好ましくは20~80重量%、さらに好ましくは35~80重量%の量で存在する。
-DP>24のグルカン分子は、a)~d)の総重量の2~60重量%、好ましくは4~58重量%、好ましくは5~56重量%の量で存在する。
-DP>25のグルカン分子は、a)~d)の総重量の1.9~59.5重量%、好ましくは3.9~57.5重量%、好ましくは4.9~55.8重量%の量で存在する。
-DP>30のグルカン分子は、a)~d)の総重量の59重量%未満、好ましくは55重量%未満、より好ましくは50重量%未満の量で存在する。
-DP>55のグルカン分子は、a)~d)の総重量の15重量%未満、好ましくは12重量%未満、より好ましくは10重量%未満、さらにより好ましくは8重量%未満の量で存在する。
-DP>111のグルカン分子は、a)~d)の総重量の1.5重量%未満の量で存在する。
-DP>246のグルカン分子は、a)~d)の総重量の0.6重量%未満の量で存在する。
【0122】
a)~d)をあわせたときの重量平均分子量は、Mw0.8~15kD、好ましくはMw1.0~10kD、より好ましくはMw1.2~6.2kD又は1.0~6.2kD、より好ましくは1.4~6kD、より好ましくは1.6~5.8kDである。
【0123】
a)~d)をあわせたときの数平均分子量は、Mn0.2~3kD、好ましくはMn0.3~3kD、より好ましくはMn0.5~3kD又は0.7~3kD、より好ましくは0.8~2.7kD、さらにより好ましくは0.9~2.6kDである。Mw及びMnの範囲は、任意の方法で組み合わせることができる。
【0124】
以下、分岐(branching)に関する実施形態について説明する。
【0125】
分岐の%値が示されている場合、これらの値はmol%を意味する。本明細書では、分岐度は、ランダムに分布した分子量をもつ本発明のグルカンの試料で測定されたすべてのグルコースモノマーの総数に対する、分岐を含む(すなわち、グルカン分子内の3つの結合によって組み込まれる)グルコースモノマーのパーセンテージ数と定義する。
【0126】
分岐度は、標準的なメチル化分析方法、あるいはメチル化後の還元分解方法によって測定される。これらの方法は、特許出願WO 2007 128559 A2に記載されているように実施することができるが、本発明では、WO 2007 128559 A2で測定されたフルクタンの代わりにグルカンを用いる。
【0127】
本発明の一実施形態では、グルカン出発材料又は最終調製物の分岐は、出発材料の選択を含むパラメータ、分枝酵素の使用、及び/又は、最終製品の目的とする分岐に好都合に選択される物理化学的条件でのインキュベーションによって変わり得る。
好ましい物理化学的条件には、酸性又は塩基性pH、20~150℃の温度、10バールまでの圧力、可変時間(1分から100時間)、酵素処理前、酵素処理中、酵素処理後でのインキュベーションが含まれる。
【0128】
分枝酵素(branching enzyme)としては、例えばアミラーゼ、アミログルコシダーゼ、及びトランスグルコシダーゼが挙げられる。
【0129】
デンプン又はデキストリン中のポリグルコース鎖は、主に、アルファ1,4結合によって形成される。デンプンの分岐又はデキストリンの分岐は、アルファ1,6結合のパーセンテージで決められる。
【0130】
デキストランは、主に、アルファ1,6結合によって形成されるポリグルコース鎖を含有する。デキストランの分岐は、アルファ1,3結合のパーセンテージとして定義される。
【0131】
本発明の枠組みにおいて、分岐という用語は、グルカン調製物内の任意の多様な種類の結合に拡大されるものとする。
【0132】
本発明は、特に、糖類ポリマーがデキストリン又はデキストリン誘導体であり、好ましくは、1,6グリコシド結合によるデキストリン分岐が、11%超え、好ましくは12%超え、さらにより好ましくは13%超え、なおより好ましくは15%超え、又は17.5%超え、又は20%超えである、本発明の組成物の一部であり得る可溶性糖類ポリマーの上記調製物に関する。
【0133】
本発明は、特に、糖類ポリマーがデキストリンであり、1,6グリコシド結合による分岐が7%未満、好ましくは6%未満、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは4%未満、又は3%未満、又は2%未満、又は1%未満、又は0.1%未満である、本発明の組成物の一部であり得る可溶性糖類ポリマーの上記調製物に関する。
【0134】
糖類ポリマー組成物の低又は高分岐の選択肢は、次の目的を意図していてよい:高度に分岐したグルカンは、アミラーゼの活性下でよりゆっくりと分解し、よって腹膜透析時によりゆっくりと分解する。患者の残存腎機能に応じて、ポリマーの安定性を調整することができる。
【0135】
例えば濃縮した(例えば3~6%)溶液中の分岐の少ない又は分岐のない糖類ポリマーは、残存腎機能の高い患者に適用することができる。分解酵素による分解の増加は、分子量の小さい分解生成物の可能な取り込みを高め、限外ろ過を低く保ち、透析液から患者体内への液体の逆拡散を可能にさえするであろう。マルトース、イソマルトースなどの分子量の小さい化合物は、細胞内マルターゼによってグルコースに変換される前に腎臓によって排出されるであろう。その結果、低分子量生成物が透析液に入るのを保証するのに十分な限外ろ過が起こるが、全体的に低い限外ろ過が残存腎機能を維持する。
【0136】
低アルファ1-6分岐は、さらに、小麦アレルギーの疑いのある患者にとって有利である。
【0137】
例えば高度に分岐したマルトデキストリンを有する高濃度溶液(例えば5~7.5%)は、残存腎機能が低いかもしくはもうない患者に適用でき、透析貯留中、より長い時間高浸透圧を維持し、患者によるCHOの取り込みを減らして、UF率とNUFを高め、酵素分解を減らす。
【0138】
上記組成物の一実施形態では、グルカン又はグルカン分子は誘導体化される。「誘導体化」の定義は、先に述べた。
【0139】
誘導体化は、酵素的、化学的及び/又は物理的修飾により行うことができる。
【0140】
グルカンは、エーテル化、エステル化、アルキル化、架橋、酸化、還元、アルカリによる処理及び/又は加水分解、特に酸又は酵素加水分解によって修飾されてもよい。特に、グルカン中の1以上のOH基をこの方法で修飾してもよい。
【0141】
特定の実施形態において、「誘導体化された」とは、グルカン中の1つ又はいくつかのOH基が修飾されることを意味する。この修飾は、特にグルカンの1つ又はいくつかのOH基の置換または官能化である。修飾は、1つ以上の末端OH基、還元末端のOH基及び/又は他のOH基での修飾であってよい。
【0142】
上記誘導体は、糖アルコール、特にグルシトール、糖酸、特にグルコン酸、又はアルキルグリコシドであってよい。
【0143】
特定の実施形態では、1つ以上のOH基を-O-R基に変えることができ、ここでRは、以下からなる群から選択される。
i)特に、メチル、エチル、プロピル(n-又はiso)、ブチル(n-、iso又はtert)、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル(n-又はiso)、ヒドロキシブチル(n-、iso又はtert)、CH(CH2OH)2、CH(CH2(OH))2、CH(CH2OH)(CHOHCH2OH)から選択される、置換または無置換の、分岐又は直鎖の、飽和又は不飽和のヒドロカルビル基、特にアルキル又はヒドロキシルアルキル。この修飾は、特に、末端又は還元OH基、場合によっては他のOH基にも適用できる。
ii)OH、-O-サッカライド、-ヒドロカルビルオキシ、置換の-ヒドロカルビルオキシ、及び-スルホキシ、CO-NH-(CH2)n-COOH、-CO-NH-(CH2)nCOO-、-CN、-Cl、-Br、-I、-NO2、-(CH2)CN、-(CH2)n-Cl、-(CH2)n-Br、-(CH2)n-I、-(CH2)n-NO2、-O-PO3
2-、-O-PO3H-、-O-PO3H2、-NH2、-NH-アルキル、-N(-アルキル1、-アルキル2)、-N+H3、-N+H2-アルキル、-N+H(-アルキル1、-アルキル2)、-N+(-アルキル1、-アルキル2、-アルキル3)、-B(OH)2、-CHO、-CO-アルキル)、-CF3、-CN、-CH2CN、ここで、アルキルは直鎖状又は分岐の炭素数1~5(C1~C5)のアルキル、部分的に不飽和なアルキルであってよい。
【0144】
別の実施形態において、本発明は、グルカン出発物質又は中間体又は最終調製物の水溶液を提供し、NaOClの溶液を提供し、デンプン溶液にNaOCl溶液を加えてデンプンを酸化する。このような酸化はグルカンのグルコン酸への変換につながる可能性がある。
【0145】
本発明の別の実施形態は、グルカン出発原料又は中間体又は最終調製物の酸及びアルコール中での溶解を提供する。そのような溶解は、1~40時間起こり得る。そのような溶解は、圧力下で、100℃まで、最終的には150℃までのより高い温度まで加熱され得る。そのような条件下でのそのような混合物は、デンプンを加水分解し、アルキル化することができる。
【0146】
別の実施形態では、メチレン-、エチレン-、プロピレン-、ブチレン-オキシド等のアルキレンオキシドを用いて、グルカン出発材料又は中間体又は最終調製物にエーテル合成を施すことができる。
【0147】
「中間調製物」は、特に、a)がマルトースでない場合、a)を加える前の、組成物の成分b)~d)の調製物を意味することを意図する。
【0148】
本発明のグルカンは、末端ホルムアルデヒド、アルドン酸、及び/又はフルフラールを含まないか、又は実質的に含まないことができる。
【0149】
さらなる態様では、本発明は、本発明の組成物及び水を含む液体水性組成物を提供する。この液体組成物は、溶液、分散液、エマルジョン、又は、溶液、分散液及び/又はエマルジョンの混合物、又は、溶液及び分散液の混合物、好ましくは、上記組成物と、存在する場合は他の成分が液相で溶解していることを意味する溶液であってよい。液相及び液組成は、主に(液相の90体積%超、好ましくは95体積%超)水、又は水のみであってよい。
【0150】
上記液体水性組成物は、透析液であってよく、又は、特に腹膜透析用の透析液として使用することができる。
【0151】
上記液体水性組成物は、6.8から7.7のpHを有することができる。
【0152】
上記液体水性組成物は、特に透析用の溶液である場合、緩衝剤(特に乳酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩)、及び、アミノ酸、インスリン、例えばソルビトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール又はキシリトール等のポリオール、又は水素化デンプン加水分解物などの他の添加剤も含むことができる。
【0153】
一実施形態において、上記液体水性組成物は、280~450mosm/kg、好ましくは290~420mosm/kgの浸透圧を有する。
【0154】
本発明のさらなる態様において、上記の組成物、又は上記の液体水性組成物は、薬剤もしくは投薬としての使用、又は治療での使用を目的とする。
【0155】
より具体的には、上記の組成物、又は上記の組成物、又は上記の液体水性組成物は、
-特に細胞毒性が低減した腹膜治療液もしくは溶液
-特に細胞毒性が低減した、透析液もしくは溶液、特に腹膜透析液もしくは溶液
-消化管洗浄液等の消化器液
-栄養液
-栄養輸液
-薬物投与液
-解毒液
-特に生理的体液用の、より具体的には血液、血漿、血清、又は間質液の代用品又は添加物である、生理的代用物又は添加調製物
-手術後の癒着抑制液
-浣腸用液
-下剤
-浸透圧剤、特に浸透推進剤(osmotic driver)
-幼児食
-細胞毒性が低減した医薬品
としての使用、又は腎疾患の治療においての使用を目的とする。
【0156】
上記の組成物、又は上記の液体水性組成物は、これまでに知られている製品と比較して、細胞毒性を低減させることができる。従って、細胞毒性を低減した薬剤として、それ自体、又は言及された用途の1つ以上において使用することができる。
【0157】
好ましい医療溶液は、血液、血清、間質液などの生理的体液に置き換わる又は添加される溶液、又は、消化管洗浄液、浣腸(clistiers)、栄養液などの消化器用途のための溶液である。静脈内、腹腔内、又は他の皮下使用のための溶液も含まれる。好ましい医療溶液は、腹膜治療溶液である。好ましい腹膜治療溶液は、腹膜透析溶液である。
【0158】
医学的用途の文脈では、上記溶液を人体に適用することができ、この場合、生理的浸透圧を対象とするため、あるいは低浸透圧もしくは高浸透圧を目的とするため、浸透圧の制御が関与する。
【0159】
好ましい医療用途は、医療溶液をその特定の目的に適合させるための、本発明の組成物、特にバイモーダル組成物の浸透圧剤としての使用である。異なる薬液は異なる浸透圧を持つことができ、例えば、血液置換の場合、薬液の浸透圧は生理的濃度に近くすることができ、腸または腹膜で用いる場合には高浸透圧を適用することが可能である。
【0160】
さらなる態様では、本発明の組成物は、浸透圧剤としてPTF又はPDFに用いられる。さらに関連する態様では、浸透圧剤として本願請求項の組成物を含むPTFは、2つ以上の異なる本発明の組成物の組み合わせの使用を特徴とする。
【0161】
特にPDFにおける浸透推進剤としての使用に関しては、前述の組成物を使用して、例えば腹膜透析で2,4又は6時間の貯留中に、生理的塩類濃度の緩衝溶液内で、7.5%未満、好ましくは7.2%未満の濃度にて、単独の浸透圧剤として用いた場合に、イコデキストリン7.5%より大幅に高いNUF液量を生成することができ、CHO吸収あたりのNUFの割合が同等かそれ以上である。
【0162】
上述のように、本発明の組成物は、以下を含むさまざまな分野で使用される。
-幼児食及び医療患者の栄養補給分野
-血漿代用品の調合分野
-経腸及び非経口治療の調剤薬分野
-PTFの製造分野、及び
-腎疾患の治療のための透析液の製造分野。
【0163】
「医療用途の組成物」という用語は、飲用可能であってよい消化器液、栄養補液や他の飲用用途、薬物投与及び解毒液、生理的代替製剤、又は手術後の癒着抑制液など、あらゆる種類の生理的に適用可能な溶液を含む。本発明における医療用途のための組成物の好ましい用途は、腹膜治療液(PDF)又は腹膜透析液(PTF)である。
【0164】
さらなる態様において、本発明は、透析溶液の製造に用いられる上記の組成物を提供する。
【0165】
さらなる態様では、本発明は、本発明による組成物を含む腹膜透析液を提供する。
【0166】
さらなる態様において、本発明は、上記で定義されるPTFを含む医薬組成物を提供する。
【0167】
さらなる態様において、本発明は、腹膜透析貯留6時間以下、生理的塩類濃度の緩衝溶液内で7.5%未満の濃度にて、単独の浸透圧剤として用いた場合に、エクストラニール(登録商標)(イコデキストリン7.5%)よりも高いUF又はNUF液量を生成し、CHO(重量)吸収あたりのNUF(体積)の割合が同等かそれ以上であるような、記載の組成物の使用を提供する。
【0168】
以下、本発明の製品を得るための方法について説明する。
【0169】
本発明の組成物中のグルカンポリマー、特に成分b)~d)(好ましくは組み合わせて)、又は、成分a)がマルトースである場合前記組成物は、工業用糖類溶液の酸及び/又は酵素加水分解;酵素的再重合(repolymerisation)及び分岐;続いて分画によって調製することができる。あるいは、それらは、そのような反応時に、混合物から反応生成物を連続的に分離し、分画を進めることによって調製されてもよい。異なる中間調製物を別々に取り出して、後で一緒に混合してもよい。マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物等、他の低分子量分子を後で加えて、目的の最終組成物を得ることができる。工業用糖液には、水飴とマルトースシロップが含まれる。工業用糖類は、糖類内容物(content)の置換、部分的な置換又は分岐のために前処理することができ、又は、この目的で、中間多糖類調製物を処理することができる。
【0170】
なお、さらなる態様において、本発明は、以下の工程から成る、上記の液体水性組成物を製造する方法を対象とする。
-固形分が10重量%から80重量%までのデンプン水溶液を調製する工程。
-アミログルコシダーゼ及び/又はアミラーゼから選択される酵素の特定の組み合わせを用いて、前記溶液を連続的に処理することによる糊化工程。
-前記溶液の精製工程。
-分子量が40000Dを超える分子量糖類画分を排除または減少させて、他の画分を回収する(recover)ような方法で、前記溶液を分画する工程。
-マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物、好ましくはマルトースを添加する工程。
【0171】
分画、及び、マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物、マルトース及び/又はグルコースの添加によって、前記溶液中に上記で定義された組成物が得られる。
【0172】
さらなる工程において、グルコースを添加することができる。グルコースは、マルトース、グリセロール、アミノ酸、オリゴペプチド、又はそれらの1以上の混合物からなる群から選択される化合物とは別々に又は一緒に添加されてもよい。例えば、マルトースを添加する場合、グルコースを含むマルトース生成物aを添加することができる。マルトースは、例えばマルトースシロップが加えられる場合、多量のグルコースを含むことが多い。
【0173】
本発明の乾燥組成物は、前述のプロセスの生成物を乾燥させることにより得ることができる。
【0174】
特定のデンプンのアミラーゼ/アミロペクチンの初期割合を活用して、特定の用途に求められる高又は低分岐のマルトデキストリンの生成を簡素化することができる。
【0175】
本発明における好ましい可溶性グルコースポリマーは、デンプンの酵素処理により生成されたデキストリンである。
【0176】
本発明のこのような可溶性グルコースポリマーは、特に、以下の工程のいくつか又はすべての組み合わせからなるプロセスに従って調製される。
1)マルトデキストリン又は糖類ポリマー調製物の狙いとする分岐度に応じて、規定量のアミロペクチンを含むデンプンを選択する工程。
2)固形分が10重量%から80重量%までのデンプン水溶液を選択又は調製する工程。
3)任意で、規定の分岐を狙う場合、分岐酵素で前記水溶液を処理する工程。
4)任意で、誘導体化する工程。
5)アミログルコシダーゼ又はアミラーゼから選択される酵素の組み合わせ(例えば、pH6、80~98℃で、0.1%好熱性アミラーゼ)で、好ましくは5から10分間連続的に前記水溶液を処理することによる糊化工程。
6)任意で、いくつかの溶液に分画し(例えば、4500~9000Dの高分子量に対して1つ、1500~18000Dの分子量に対して1つ、及び200~1500Dの低分子量に対して1つ)、さらに混合する工程(このような工程は、高い柔軟性、最終調製物におけるポリマーの分子量の幅広い分布(large spectrum)、及び同時に、最終医療用途における選択されたポリマーの最高のストリンジェンシー(stringency)を可能にする)。
7)例えば活性炭による処理、又はろ過(ガラス孔フィルター、セラミックフィルター、又はフィルター膜)、又はアフィニティー処理による、前記水溶液の精製工程。
8)高分子量糖類画分、好ましくは分子量が40000ダルトン、さらに好ましくは18kDを超える糖類画分を除去又は大幅に減少させ、他の画分を回収するような方法で、前記水溶液を分画する工程。
9)マルトース濃縮粉末又は溶液の選択又は調製工程。
10)任意で、マルトースの添加により、低分子量画分、好ましくは200~1500Dを前記水溶液のNUFニーズに適合させ、任意でグルコースを、例えば、最終溶液のグルコース総濃度0.2%w/vまで添加する工程。
【0177】
上記の工程は、より一般的な方法であって、先に述べた工程をさらに定義するために用いることもできる。
【0178】
前記水溶液が、本発明のポリマーを水に溶解させることにより得られる場合、それは透明で無色でなければならない。好ましくは、エンドトキシン、ペプチドグリカン及びベータグルカンを含まず、及び、出発物質又はそれを生成するために使用される酵素調整剤由来の汚染物質も含まない。
【0179】
この効果のために、前記水溶液で使用される高分岐ポリマーはいずれも、タンパク質、細菌、細菌毒素、ウイルス、繊維、微量金属などの着色又は不要な汚染物質を除去するために精製されることが好ましい。この精製工程は、当業者に公知の技術に従って実施することができる。
【0180】
本発明によるプロセスの1つの工程は、適切な分子量の画分を収集して、求められるグルコースポリマー調製物を生成することにあってよい。これらの画分はそのまま組み合わせることができ、エタノールを加えてポリマーを沈殿させ、精製し、真空下で乾燥させるか、又は噴霧乾燥、又は当業者に公知の任意の技術によって乾燥させることができる。
【0181】
さらなる態様において、本発明は、例えば浸透圧剤としての上述の液体水性組成物、もしくは上述の乾燥組成物を含む少なくとも1つのコンパートメントを備える容器、例えばPDF容器、又はキットを目的とする。本発明による容器又はキットは、透析液のさらなる部分を含む第2のコンパートメントを有してもよく、これは、第1のコンパートメントからの酸性流体と混ざると、pH7.0から7.5の透析液を再構成する。容器の別のコンパートメントが、緩衝液を含んでもよい。第1のコンパートメント内の液体水性組成物は、1~6又は2~4のような酸性pHを有してよい。緩衝液は、得られるpHをpH6.5~8、好ましくは6.8~7.7、より好ましくは7~7.5の範囲にするのに適したpHを有することができる。
【実施例】
【0182】
これらの実施例では、「エクストラニール」という用語は登録商標を意味する。
【0183】
[実施例1:工業用糖類ポリマーの調製]
【0184】
酸で液化した市販のコーンスターチからスターチミルクを調製する。固形分が20~50%のデンプン懸濁液を、90℃で完全に可溶化するまで攪拌により調製する。次いで、この溶液を60℃まで冷却し、クエン酸でpHを6から6.5に調整する。
糊化のために、デンプンの0.1%熱安定性アルファ-アミラーゼでの処理を反応媒体中で行い、88~92℃、5~10分間加熱することにより反応を止める。
デキストリン化のために、pHを4~5に調整し、アミラーゼの濃度を0.3%に上げ、さらに数時間反応させる。
最終溶液を、膜又はセラミックフィルター等の分画デバイスで、30,000 10,000 5,000ダルトン等のいくつかのステップで分画する。
【0185】
表1は、こうして得られた本発明による生理的塩類条件及びpH6.8~7.5での2つのPDF溶液の物理化学的特性の2つの目標のグルカン中間調製物又は組成物を示す。
【0186】
【0187】
[実施例2:実験的調製]
【0188】
本実施例では、Mw3.4~6.1kD、Mn2~3.7kDの多糖調製物と最終的な浸透圧活性組成物を生成した。
すべての場合において、当該ポリマー画分は、18kDよりも高い分子量をもつポリマーを1.5重量%未満、及び、40kDを超える分子量をもつポリマーを0.6重量%未満含んだ。
【0189】
出発材料は、市販のエクストラニール(登録商標)のイコデキストリンであった。80リットルのバッチを、サプライヤー推奨の0.5m2ペリコン2ウルトラセル(ultracel)(登録商標)膜に、2.5バール未満の入口圧力にて3~4L/m2で投入した。膜カットオフ100kD、30kD、10kD、及び5kDにわたる連続ステップを、異なるセットアップでテストした。概して、ろ過された溶液の組成濃度に応じて、各ろ過工程により約5~10%の保持液が生成された。こうして3つの中間糖類ポリマー調製物を生成し、以下で溶液1,2,3と呼ぶ。すべてのろ過工程は、エクストラニールの本来のバッファーで実行され、バッファーの組成とpHは、ワークフロー全体を通して制御された。
【0190】
溶液1は、ペリコン ウルトラセル(登録商標)100kD、30kD、10kD、10kDを通過する80リットルのエクストラニールから生成され、最終的に5kDフィルター上で濃縮された。
溶液2は、溶液1と同じフィルターの組み合わせを実行して生成されたが、順次、前のろ過サイクルが完了する前に、次のフィルターでのろ過を開始した。これにより時間を節約できたが、ろ過効率は低下した。
溶液3は、溶液2のように生成されたが、中間糖類ポリマー調製物を濃縮するために再度用いる前に、今回は5kD膜を追加のフィルターとして2回用いた。
結果は、非常に異なる方法で比較結果が得られることを示す。
【0191】
すべての溶液について、5~200バールの圧力で1.2ml/分にて、300*4.6mmの寸法のミクロスフェア60 SEC 5μmカラムでのゲル浸透クロマトグラフィーにより炭水化物組成を分析した。精製水でクロマトグラフィーを実行した。イコデキストリン、70kD、10kD、及び5kDデキストラン分子量マーカーを並行して実行して、中間調製物の組成を特定した。炭水化物濃度はRI検出により測定した。要約すると、総炭水化物濃度は、バックグラウンドを差し引きいた後の曲線下面積に相当し、続けてイコデキストリン、マルトース、及びグルコース標準溶液で確立されたキャリブレーションを行った。デキストラン分子量標準と比較標準としてのイコデキストリンを用いて、分子量サイズ画分の定量化を評価した。
【0192】
上記画分の分子量組成の結果を表2~5に示す。表中の「MW」は「分子量」を意味する。「Mw」は「重量平均分子量」を意味する。
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
[実施例3:異なる浸透圧活性組成物のMw及びMnの計算のための実施例]
【0198】
【0199】
各画分iにおける、Molでの濃度を、該画分の化合物分子数(ni)とし、画分の平均分子量を、その画分の全ての分子の分子量(Mi)とする。そうすると、nの合計値は27.5、n*Mの合計値は57.5、n*M2の合計値は200.8となる。
これらの数値を、式(1)及び式(2)に当てはめると、Mw=3.49kD、Mn=2.09kDを算出する。
【0200】
マルトースのMw及びMnの計算(1%溶液):
M(ni) MW(Mi)(kDalton) g/L(ni*Mi) g/L*MW(ni*Mi
2)
29 0.342 10 3.42
1%マルトースの画分は、濃度29M(ni)、分子量0.342kDの単一画分に相当し、nの合計値は29、n*Mの合計値は10、n*M2の合計値は3.42となる。
【0201】
溶液3の5.75%糖類ポリマーと1%マルトースの組成物のMwとMnを計算する。
【0202】
【0203】
【0204】
各画分iについて、Molでの濃度を、該画分の化合物分子数(ni)の値とし、対応するアミノ酸の分子量をMiとする。そうすると、nの合計値は76.7、n*Mの合計値は57.5、n*M2の合計値は200.8となる。これらの数値を、式(1)及び式(2)に当てはめると、Mw=0.137kD、Mn=0.130kDを算出する。
【0205】
溶液3の5.75%糖類ポリマーと1%アミノ酸混合物の組成物のMwとMnを計算する。
【0206】
【0207】
[実施例4:生理的緩衝液中の本願請求項の浸透圧活性組成物の浸透圧]
【0208】
実施例2の中間糖類ポリマー調製物1及び3に対して、ゴノテック社製凍結点浸透圧計オズモメータ(OSMOMAT 030 Gonotec Cryoscopic Osmometer)で氷点法を用いて、0、1、2及び4%マルトースの存在下にて異なる濃度での浸透圧を測定した(結果をmOsmol/kgで示す)。すべての場合において、イコデキストリンと比較して高い浸透圧が見られた。
【0209】
[実験結果]
すべての中間調製物、調製物、及び、該調製物の溶液を、pH5.5で、1×バッファー(5.4g/lのNaCl、4.5g/lの乳酸ナトリウム、0.257g/lのCaCl2、0.051g/lのMgCl2)に連続的に保持した。マルトースを、異なる濃度で中間糖類ポリマー調製物に添加した。従って、浸透圧の変化は、中間糖類ポリマー調製物の濃度の変化によるものだけである(表8~11)。
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
得られた実験結果を正規化及び外挿し、3つの溶液に対して、本出願により請求される濃度範囲にわたる浸透圧を推定した(表12~15)。
【0215】
本発明の溶液に対する正規化及び外挿した浸透圧
【表12】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
当業者は、他の溶液を、溶液1及び3よりもMw、Mnが低い中間糖類ポリマー調製物を用いて調製できることを理解する。このような溶液は、4%マルトースの存在下で、同等の濃度で最大500mOsmol/kgもの高い浸透圧を示すであろう。
【0220】
また、アミノ酸混合物(組成は実施例3を参照)、マルトース、スクロース、グルコース、グリセロール、カルニチン、又はカルニソールを1%添加して、生理的緩衝液中の、溶液3糖類ポリマー5.75%とイコデキストリン7.5%両方の浸透圧を測定した(表16)。
【0221】
【0222】
[実施例5:動物モデルにおける限外ろ過及びCHO吸収の評価]
【0223】
腹膜透析貯留時間は、例えば自動腹膜透析(ADP)の場合の2時間未満から、例えば継続的外来腹膜透析(CAPD)の場合の4~6時間を経て;終日又は夜間貯留等の長時間透析貯留での8~12時間まで様々である。本出願では、6時間までの貯留を短いPD貯留と呼び、8時間以上の貯留を長い貯留と呼ぶ。
【0224】
我々の糖類ポリマー調製物の1つ(溶液3、5.75重量%グルカン)に1%マルトースを補って、総CHO濃度6.75%M、浸透圧329mOsmol/kgの溶液4(実施例3、Mw=3.03kD、Mn=1.19kD)を作り、7.5%イコデキストリンを含む市販のエクストラニール(登録商標)との比較のために、レイポルドら(2013、PDI 33巻、124~131ページ)が記載するウサギモデルに投与した。6匹のウサギをA及びBの2つのグループに分けた。2つの溶液を交差試験の枠組みで両方のグループにテストした。
レイポルドらは、240分の1回の貯留後に限外ろ過を計算し、蛍光ボリュームマーカーで残留量(resting volume)を補正していた。その代わりに、我々は、3、30、60、120及び240分で1日に5回の貯留を実施した。3分の貯留は、1回の貯留で腹膜から回収できない体積を満たし、30分の貯留に対し腹膜内に新鮮なPD液のみが存在することを保証するための、プレフラッシング貯留として機能した。さらなる貯留が1日をとおして連続的に行われた。各貯留の終わりに、透析液が回収され、重さを量って透析液量を求めて、正味限外濾過体積を計算した。各透析液の試料に、総CHO濃度測定を施した。実施例2に記載のCHO定量化法を用いた。合計6匹のウサギに透析を行って、本発明に対応する実験的透析溶液をイコデキストリンと比較した。3匹のウサギはテスト溶液で始め、他の3匹のウサギはイコデキストリン対照溶液で始めた。2日間の透析後、ウサギを2日間回復させてから、それぞれ他方の透析溶液に切り替えた。合計96の透析貯留を実行し、各ウサギに16の貯留を行った。ウサギが開始した溶液に応じた貯留量の違いは観察されなかった。統計的評価のために、テストした両方のグループに独立分散を持つ片側t検定を適用した。各貯留を独立した事象とみなし、多重検定(multiple testing)の修正は行わなかった。表17は、各貯留の正味限外ろ過量(ml)の結果を示す。(* <5%で統計的に有意)。
【0225】
【0226】
平均CHO吸収及びNUF/CHO吸収の割合を表18に算出する。
【表18】
【0227】
要約すると、以下のことが判明した。
-30分の貯留後、本発明に基づく溶液の平均NUFは9.3ml/120mlであるのに対し、エクストラニールでは-2ml/120mlである。
-60分の貯留後の我々の組成物の平均NUFは34ml/120mlであるのに対し、エクストラニールでは12.3ml/120mlである。
-120分の貯留後の我々の組成物の平均NUFは46ml/120mlであるのに対し、エクストラニールでは13ml/120mlである。
-240分の貯留後の我々の組成物の平均NUFは50ml/120mlであるのに対し、エクストラニールでは28ml/120mlである。
【0228】
これらの結果は我々にとって非常に驚くべきものであった。レイポルドらによって報告されたデータに基づいて、我々は、NUF値は20分でエクストラニールに対し約50ml/120mlだと予想した。モデルの実現における最もありそうな小さな違い、つまり、我々は、1回の貯留ではなく、1日を通して4回の実際の貯留で作業し、貯留後の残留量の補正をせずに、ウサギから回収した量を検討しただけであるという事実が、この差を説明する。一方、残留量は、1日に複数回貯留を行ったため、我々の研究では問題にならないはずである。それにもかかわらず、すべての時点で我々の組成物のパフォーマンスがイコデキストリンよりも比較的高いが、人間の短い貯留に対応するこのモデルの60、120及び240の時点でより極端であり、我々の予想をはるかに上回った。このモデルは、我々の組成物が、この動物実験で適用された濃度よりも低濃度であっても、任意の一般的な医療用途、及び具体的には腹膜透析にとって、非常に効率的な浸透推進剤となるであろうことを示す。
【0229】
さらに、テスト溶液のNUF/CHO吸収の割合は、各時点でより高い。さらに重要なことは、この割合の3つの最良の値はすべて、テスト溶液に対するものであり、これは、先に長い貯留に相当すると特徴付けた240分での事象に対するものである。