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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】徐放性哺乳動物忌避組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/78 20060101AFI20231228BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20231228BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20231228BHJP
   A01M 25/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A01N43/78 E
A01N25/04
A01P17/00
A01M25/00 A
A01N43/78 B
A01N43/78 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022524533
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019152
(87)【国際公開番号】W WO2021235515
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2020089149
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「害獣忌避剤のコントロールドリリース技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 達生
(72)【発明者】
【氏名】門 潤子
(72)【発明者】
【氏名】千波 誠
(72)【発明者】
【氏名】大熊 敬介
(72)【発明者】
【氏名】小早川 令子
(72)【発明者】
【氏名】小早川 高
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第5350496(JP,B2)
【文献】特開2001-064102(JP,A)
【文献】特開昭61-267501(JP,A)
【文献】特開2002-306584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,A01M
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐放性哺乳動物忌避組成物、及び前記徐放性哺乳動物忌避組成物を内部に包含する容器を含む、哺乳動物忌避装置であって、
前記徐放性哺乳動物忌避組成物は、哺乳動物忌避剤、及び油性ゲル又は油脂を含み、
前記哺乳動物忌避剤は、以下の式(I)~(VI):
【化1】

(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す。)
で示される化合物から選択される1又は2以上の化合物又はその塩からな
前記容器は、外界に接する開放部を含まないものであり、
前記容器の全体又は一部が、ポリオレフィン系ポリマーからなり、
前記徐放性哺乳動物忌避組成物と空気との接触が遮断されている、前記哺乳動物忌避装置
【請求項2】
前記式(I)で示される化合物が、2-メチルチアゾール、2-エチルチアゾール、2-ブロモチアゾール、4-メチルチアゾール、及び2,4-ジメチルチアゾールから選択されるいずれかの化合物である、請求項1に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項3】
前記式(II)又は(III)で示される化合物が、2-メチル-2-チアゾリン、2-メチルチオ-2-チアゾリン、4-メチル-2-チアゾリン、2,4-ジメチル-2-チアゾリン、及び2,2-ジメチルチアゾリジンから選択されるいずれかの化合物である、請求項1に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項4】
前記式(IV)で示される化合物が、チオモルホリンである、請求項1に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項5】
前記式(V)で示される化合物が、2,5-ジメチル-2-チアゾリン及び5-メチル-2-チアゾリンから選択されるいずれかの化合物である、請求項1に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項6】
前記油性ゲルが、油及びゲル化剤で構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項7】
前記油が、鉱物油、植物油、及び/又は動物油である、請求項6に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項8】
前記ゲル化剤が、低分子ゲル化剤、無機系ゲル化剤、及び/又は高分子系ゲル化剤である、請求項6又は7に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項9】
前記油脂が、植物油、豚脂、牛脂、魚油、鯨油、蝋、及び/又は鉱物油である、請求項1~5のいずれか一項に記載の哺乳動物忌避装置
【請求項10】
前記ポリオレフィン系ポリマーが、ポリエチレンである、請求項1~9のいずれか一項に記載の哺乳動物忌避装置。
【請求項11】
哺乳動物の忌避方法であって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の哺乳動物忌避装置を、哺乳動物を忌避させる空間に配置する工程
を含む前記忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性哺乳動物忌避組成物、哺乳動物の忌避方法、及び徐放性哺乳動物忌避組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野生動物は、様々な産業において多大な損害をもたらす。野生動物の中でもネズミは、野菜、大豆、及び稲などへの食害、穀物倉庫での食害、若木や樹皮の食害、伝染病の媒介などによって、農業、林業、及び畜産業などに深刻な被害を与え続けている。例えば、農林水産省の疫学調査によれば、豚コレラ発生の要因としてネズミが農場間又は野生動物からのウイルスの媒介に関与していることが挙げられており、豚コレラの伝染への予防策が喫緊の課題となっている。また、ネズミはレストランなどの商業施設において食中毒を媒介し、電線を齧って停電や機械類の故障を発生させる点でも大きな問題であり、一次産業に限らず深刻な被害をもたらしている。
【0003】
一方、ネズミを含む野生動物に対する有効な忌避技術は、現在までに十分に開発されていない。現在市場に存在するネズミ忌避剤は、ワサビの匂いや、ハーブの匂いなどを効果物質としている。これらのネズミ忌避剤は、いずれも忌避効果が弱く、匂いを繰り返し嗅いだ後に馴化してしまう問題点がある。
【0004】
近年、従来の忌避剤の問題点を克服するために、チアゾリン類化合物に基づく、強力かつ馴化しない新たな忌避剤の開発が進められてきた(特許文献1、非特許文献1)。動物の嗅覚には、進化の過程で種にとって危険であると認識された対象(例えば、小動物や草食動物にとっての捕食者)に由来する匂いを受容する特別な嗅覚システムが備わっている。チアゾリン類化合物は、この特別な嗅覚システムに受容される匂い分子であり、ネズミ、モグラ、ウサギ、及びシカなどの小動物や草食動物に対して極めて強力な忌避効果を示す上に、繰り返し嗅がせても馴化が全く起こらないという優れた性質を有している。したがって、チアゾリン類化合物を忌避剤の活性成分として活用すれば、従来の忌避剤における重大な欠点となっていた馴化問題を克服し、強力かつ馴化しない新たな忌避剤を提供することが可能になると考えられる(特許文献1)。
【0005】
野生動物に対する忌避剤は屋内又は野外において長期的に使用することが必要とされる。しかし、チアゾリン類化合物は揮発性が高く、空気に触れる条件では変性し易い性質を有することが、長期使用する上で弱点となっている。また、高い揮発性と変性し易い性質は、製剤化のための熱加工や徐放技術を適用する上でも障害となっている。それ故、チアゾリン類化合物の活性を損なうことなく、その忌避効果を長期間に亘って持続させる新たな技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5350496号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kobayakawa, K., et al., Nature, 2007, 450(7169):503-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、チアゾリン類化合物の活性を損なわず、長期間に亘ってチアゾリン類化合物を放散することが可能な徐放性哺乳動物忌避組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、チアゾリン類化合物と油とを混合し、チアゾリン類化合物の徐放組成物の作製を試みた。ところが、チアゾリン類化合物と油とを混合した組成物は、図4で示すように、時間経過と共に固形物が析出し、チアゾリン類化合物が変性するという問題があった。そこで、油にゲル化剤を加えてオイルゲルとし、チアゾリン類化合物をオイルゲルで包埋することによって、チアゾリン類化合物を不安定化させることなく、安定的に、かつ長期間に亘って放散できることを見出した。本発明は、上記知見に基づくものであって以下を提供する。
【0010】
(1)徐放性哺乳動物忌避組成物であって、哺乳動物忌避剤、及び油性ゲル又は油脂を含み、前記哺乳動物忌避剤は、以下の式(I)~(VI):
【化1】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す。)
で示される化合物から選択される1又は2以上の化合物又はその塩からなる、前記徐放性哺乳動物忌避組成物。
(2)前記式(I)で示される化合物が、2-メチルチアゾール、2-エチルチアゾール、2-ブロモチアゾール、4-メチルチアゾール、及び2,4-ジメチルチアゾールから選択されるいずれかの化合物である、(1)に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(3)前記式(II)又は(III)で示される化合物が、2-メチル-2-チアゾリン、2-メチルチオ-2-チアゾリン、4-メチル-2-チアゾリン、2,4-ジメチル-2-チアゾリン、及び2,2-ジメチルチアゾリジンから選択されるいずれかの化合物である、(1)に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(4)前記式(IV)で示される化合物が、チオモルホリンである、(1)に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(5)前記式(V)で示される化合物が、2,5-ジメチル-2-チアゾリン及び5-メチル-2-チアゾリンから選択されるいずれかの化合物である、(1)に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(6)前記油性ゲルが、油及びゲル化剤で構成される、(1)~(5)のいずれかに記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(7)前記油が、鉱物油、植物油、及び/又は動物油である、(6)に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(8)前記ゲル化剤が、低分子ゲル化剤、無機系ゲル化剤、及び/又は高分子系ゲル化剤である、(6)又は(7)に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(9)前記油脂が、植物油、豚脂、牛脂、魚油、鯨油、蝋、及び/又は鉱物油である、(1)~(5)のいずれかに記載の徐放性哺乳動物忌避組成物。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載の徐放性哺乳動物忌避組成物、及び前記徐放性哺乳動物忌避組成物を内部に包含する容器を含む、哺乳動物忌避装置。
(11)前記容器が、外界に接する1又は2以上の開放部を有する、(10)に記載の哺乳動物忌避装置。
(12)前記容器の全体又は一部が、高分子化合物からなる、(10)又は(11)に記載の哺乳動物忌避装置。
(13)前記高分子化合物が、ポリオレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリビニル系ポリマー、ビニリデン系ポリマー、エポキシ樹脂、及びポリスチレン系ポリマーからなる群から選択される1又は2以上のポリマーである、(12)に記載の哺乳動物忌避装置。
(14)哺乳動物の忌避方法であって、(1)~(9)のいずれかに記載の徐放性哺乳動物忌避組成物、又は(10)~(13)のいずれかに記載の哺乳動物忌避装置を、哺乳動物を忌避させる空間に配置する工程を含む、前記忌避方法。
【0011】
(15)徐放性哺乳動物忌避組成物の製造方法であって、以下の式(I)~(VI):
【化2】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す。)
で示される化合物から選択される1又は2以上の化合物又はその塩からなる哺乳動物忌避剤、油、及びゲル化剤を混合する工程を含む、前記製造方法。
【0012】
(16)徐放性哺乳動物忌避組成物の製造方法であって、油脂を液化させる工程、及び以下の式(I)~(VI):
【化3】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す。)
で示される化合物から選択される1又は2以上の化合物又はその塩からなる哺乳動物忌避剤と、前記液化させた油脂とを混合する工程を含む、前記製造方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2020-089149号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物によれば、チアゾリン類化合物の活性を損なわず、長期間に亘ってチアゾリン類化合物を放散することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】空のポリエチレン製容器(A)、及び忌避剤を包埋させたオイルゲルを包含するポリエチレン製容器(B)を示す図である。
図2】2-メチル-2-チアゾリン(2MT)の原液をシャーレ上に設置した条件と、ポリエチレン製容器内のオイルゲルに2-メチル-2-チアゾリン(2MT)を包埋させた条件における、2MT残量の経時的変化を示す図である。
図3】容器のヘッドスペース内に空気を残した場合(1)、オイルゲル上部の空間をオイルゲルで充填した場合(2)、及び容器側面をビニールテープで被覆した場合(3)の容器の外観(A)と、(1)~(3)の条件下における2-メチル-2-チアゾリン(2MT)残量の経時的変化(B)を示す図である。
図4】2-メチル-2-チアゾリン(2MT)をサラダ油と混合し、屋内にて室温で1週間静置後に生じた析出物(矢印)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.徐放性哺乳動物忌避組成物
1-1.概要
本発明の第1の態様は、徐放性哺乳動物忌避組成物である。本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物は、哺乳動物忌避剤(以下、しばしば「忌避剤」とも表記する)及び油性ゲル又は油脂を含み、忌避剤を不活性化せずに長期徐放することができる。
【0016】
1-2.定義
本明細書で頻用する用語について、以下で定義をする。
本明細書において「徐放」とは、物質が空間中に徐々に放出されることをいう。本明細書では、特に匂い物質が空気中に徐々に放散されることをいう。具体的には、通常の条件下において匂い物質が放散される速度よりも遅い速度で、匂い物質が空気中に自然放散されることをいう。例えば、希釈されていない原液の匂い物質又は通常用いられる溶媒で希釈された匂い物質よりも遅い速度で、空気中に放散されることをいう。忌避性の匂い物質が徐放される場合、周囲の空間では長期間に亘って匂い分子が存在することから動物はその空間を忌避し得る。
【0017】
本明細書において「長期」又は「長期間」とは、通常の条件下で匂い物質が放散され続ける期間よりも長い期間を意味する。具体的には、希釈されていない原液の匂い物質又は通常用いられる溶媒中に希釈された匂い物質が同一条件下で放散され続ける期間よりも長いことを意味する。具体的な期間は匂い物質の種類によって異なるが、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、半日以上、1日以上、2日以上、3日以上、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、2年以上、3年以上、5年以上、又は10年以上の期間が該当する。
【0018】
本明細書において「哺乳動物」の種類は、限定しない。例えば、農作物、森林、家畜又は人家に被害をもたらす有害哺乳動物が挙げられる。より具体的な例として、ネズミ、モグラ、ウサギ、イタチ、シカ、イノシシ、サル、ネコ、クマなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはネズミ又はシカである。
【0019】
本明細書において「ネズミ」は、ネズミ目に属する動物であれば限定しない。ネズミ目には、ヤマアラシ亜目、ネズミ亜目、及びリス亜目が含まれる。例えば、クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミ、アカネズミ、ハタネズミ、タケネズミ、リス、ヤマアラシ、デグー及びヌートリアなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において「シカ」は、シカ科に属する動物である。例えば、エゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、及びヤクジカなどのニホンジカやキョンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書において「モグラ」は、モグラ科に属する動物である。例えば、コウベモグラ、アズマモグラ、サドモグラ、及びエチゴモグラなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書において「ウサギ」は、ウサギ目に属する動物である。例えば、アナウサギ及びノウサギなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書において「チアゾリン類化合物」は、チアゾリン環若しくはチアゾリジン環を有する化合物、又はチオモルホリン環を有する化合物を意味する。限定しないが、例えば、揮発性を有し、動物の嗅覚によって知覚され得る化合物、さらにその結果、動物に対して忌避行動を誘発し得る化合物が好ましい。チアゾリン類化合物は、小動物や草食動物にとっての捕食者の尿に含まれる物質などを模した効果を有し、それ故、例えばネズミ、モグラ、ウサギ、及びシカなどの小動物や草食動物に対して強力な忌避効果を示す。
【0024】
本明細書において「ゲル」とは、コロイド粒子が分散媒中で自己組織化し、流動性を失って固体状又は半固体状となったものをいう。限定しないが、ゾルが温度変化やゲル化剤の添加によって固化又は半固化した状態が該当する。ゲルは、分散媒の性質に基づいて油性ゲルと水性ゲル(ヒドロゲル)に分けられるが、本明細書では特に断りのない限りゲルは油性ゲルを示すものとする。
【0025】
本明細書において「油性ゲル」(本明細書ではしばしば「オイルゲル」とも表記する)とは、液状の油が流動性を失い、ゲル状態に変化(ゲル化)したものを意味する。例えば、有機溶媒を分散媒とするオルガノゲルやアルコールを分散媒とするアルコゲルなどが例示される。
【0026】
本明細書において「ゾル」とは、コロイド粒子が分散媒中に分散して、流動性を有する液体状態となったものをいう。
【0027】
本明細書において「ゲル化剤」とは、ゾル状態の物質をゲル化し得る物質をいう。
【0028】
本明細書において「油脂」とは、脂肪酸とグリセリンとのエステルを含む物質を意味する。本明細書では、油脂は、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、又はモノアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものとする。
【0029】
1-3.構成
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物は、必須の構成成分として哺乳動物忌避剤、及び油性ゲル又は油脂を含み、選択成分としてその他の成分を包含する。
【0030】
1-3-1.構成成分
以下、各構成成分について具体的に説明をする。
【0031】
(1)哺乳動物忌避剤
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤は、以下の一般式(1)で示される複素環式化合物又はその塩、鎖状スルフィド化合物及びアルキルイソチオシアネートから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。
【0032】
【化4】
(式中、環Aは、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む3-7員の複素環を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、アシル基、エステル化されていてもよいカルボキシル基、置換されていてもよいチオール基、置換されていてもよいアミノ基又はオキソ基を示す。)
【0033】
一般式(1)の環Aは、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される少なくとも1個(好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個)のヘテロ原子を含む3-7員の複素環を示す。環Aは、窒素原子及び/又は硫黄原子を含む3-7員の複素環が好ましい。環Aは、窒素原子及び硫黄原子を含む3-7員の複素環がさらに好ましい。環Aの員数は、3~6が好ましく、5又は6がさらに好ましい。
【0034】
前記複素環の例としては、限定されないが、例えば、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、ピロリジン、ヘキサヒドロピリダジン、イミダゾール、イミダゾリジン、ピペリジン、エチレンスルフィド、トリメチレンスルフィド、チオフェン、チオラン、テトラヒドロ-2H-チオピラン、チアゾリン(例、2-チアゾリン、3-チアゾリン、4-チアゾリン)、チアゾール、チアゾリジン、イソチアゾール、イソチアゾリン、チオモルホリン、チアジアゾリン、チアジアゾール、チアジアゾリジン、1,3-チアザン、5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジン、フラン、2H-ピラン、4H-ピラン、オキサゾール、イソオキサゾール、モルホリン、オキサゾリンなどが挙げられる。好ましくは、チアゾリン(例、2-チアゾリン)、チアゾール、チアゾリジン、イソチアゾール、イソチアゾリン、チオモルホリン、チアジアゾリン、チアジアゾール、チアジアゾリジン、1,3-チアザン、5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジンであり、さらに好ましくは、チアゾリン(例、2-チアゾリン)、チアゾール、チアゾリジン、1,3-チアザン、5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジン、チオモルホリンである。
【0035】
ここで用いられる「ハロゲン原子」は、好ましくは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択される。
【0036】
ここで用いられる「アルキル基」なる用語(基又は基の一部として用いられる場合)は指定された数の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基が挙げられる。C1-6アルキル基は1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキル基を意味する。C1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基又は1-エチル-2-メチルプロピル基が含まれるが、これらに限定されない。好ましいアルキル基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
前記アルキル基は置換されていてもよく、置換基としては、例えば、ハロゲノ基などが挙げられる。ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基などが挙げられる。C1-6ハロアルキル基は、1~5個のハロゲノ基で置換されたC1-6アルキル基を意味し、ハロゲノ基が2個以上である場合の各ハロゲノ基の種類は、同一又は異なっていてもよい。C1-6ハロアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロジフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、2-クロロエチル基、2-ブロモエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、1-フルオロプロピル基、1,1-ジフルオロプロピル基、2,2-ジフルオロプロピル基、3-フルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、4-フルオロブチル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、5-フルオロペンチル基、5,5,5-トリフルオロペンチル基、6-フルオロヘキシル基、6,6,6-トリフルオロヘキシル基などを挙げることができる。
【0038】
ここで用いられる「アルコキシ基」なる用語(基又は基の一部として用いられる場合)は、指定された数の炭素原子を有する、-O(アルキル)基を示す。アルコキシ基としては、例えば、C1-6アルコキシ基が挙げられる。C1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、1-メチルプロポキシ基、2-メチルプロポキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、1-メチルブトキシ基、2-メチルブトキシ基、3-メチルブトキシ基、1,1-ジメチルプロポキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、1,2-ジメチルプロポキシ基、1-エチルプロポキシ基、ヘキシルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、4-メチルペンチルオキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、1-エチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、1-エチル-2-メチルプロポキシ基などが含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
前記アルコキシ基は置換されていてもよく、置換基としては、例えば、ハロゲノ基などが挙げられる。ハロゲノ基としては、上記アルキル基の置換基と同じ基が挙げられる。C1-6ハロアルコキシ基は、1~5個のハロゲノ基で置換されたC1-6アルコキシ基を意味し、ハロゲノ基が2個以上である場合の各ハロゲノ基の種類は、同一又は異なっていてもよい。C1-6ハロアルコキシ基としては、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、1-フルオロエトキシ基、2-フルオロエトキシ基、2-クロロエトキシ基、2-ブロモエトキシ基、1,1-ジフルオロエトキシ基、1,2-ジフルオロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエトキシ基、1-フルオロプロポキシ基、1,1-ジフルオロプロポキシ基、2,2-ジフルオロプロポキシ基、3-フルオロプロポキシ基、3,3,3-トリフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、4-フルオロブトキシ基、4,4,4-トリフルオロブトキシ基、5-フルオロペンチルオキシ基、5,5,5-トリフルオロペンチルオキシ基、6-フルオロヘキシルオキシ基、6,6,6-トリフルオロヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0040】
ここで用いられる「アシル基」としては、例えば、ホルミル基、C1-6アルキル-カルボニル基が挙げられる。C1-6アルキル-カルボニル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基などが含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
ここで用いられる「カルボキシル基」なる用語(基又は基の一部として用いられる場合)は、-COOH基を示す。前記カルボキシル基はエステル化されていてもよい。エステル化されていてもよいカルボキシル基の具体例としては、カルボキシル基、C1-6アルコキシカルボニル基が挙げられる。C1-6アルコキシカルボニル基のC1-6アルコキシ部分は、置換されていてもよいアルコキシ基におけるC1-6アルコキシ基と同意義である。
【0042】
ここで用いられる「チオール基」なる用語(基又は基の一部として用いられる場合)は、-SH基を示す。前記チオール基は置換されていてもよく、置換基としては、例えば、C1-6アルキル基などが挙げられ、C1-6アルキル基は、置換されていてもよいアルキル基におけるC1-6アルキル基と同意義である。置換されていてもよいチオール基の具体例としては、チオール基、C1-6アルキルチオ基が挙げられる。C1-6アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基などが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
ここで用いられる「アミノ基」なる用語(基又は基の一部として用いられる場合)は、-NH基を示す。前記アミノ基は1又は2個の置換基で置換されていてもよく、置換基としては、例えば、C1-6アルキル基、-COR(式中、Rは水素又はC1-6アルキル基を示す。)などが挙げられ、C1-6アルキル基は、置換されていてもよいアルキル基におけるC1-6アルキル基と同意義である。置換されていてもよいアミノ基の具体例としては、アミノ基、C1-6アルキルアミノ基、ジ(C1-6アルキル)アミノ基、-NRCOR(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基を示す。)が挙げられる。C1-6アルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、1-メチルエチルアミノ基などが含まれ、ジ(C1-6アルキル)アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、N-エチル-N-メチルアミノ基、ビス(1-メチルエチル)アミノ基などが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
ここで用いられる「オキソ」なる用語(基又は基の一部として用いられる場合)は、=O基を示す。
【0045】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる好適な複素環式化合物としては、例えば、チアゾール、2-メチルチアゾール、2-エチルチアゾール、2-ブロモチアゾール、4-メチルチアゾール、2-ホルミルチアゾール、2-アミノチアゾール、5-メチルチアゾール、2,4-ジメチルチアゾール、4,5-ジメチルチアゾール、2-チアゾリン、2-メチル-2-チアゾリン、2-エチル-2-チアゾリン、2-ブロモ-2-チアゾリン、2,4-ジメチル-2-チアゾリン、4-メチル-2-チアゾリン、2-メチルチオ-2-チアゾリン、2-メチル-4-エチル-2-チアゾリン、2-アミノ-2-チアゾリン、5-メチル-2-チアゾリン、4,5-ジメチル-2-チアゾリン、2,5-ジメチル-2-チアゾリン、2-メルカプト-2-チアゾリン、2-プロピル-2-チアゾリン、2-(1-メチルエチル)-2-チアゾリン、2-(1-メチルプロピル)-2-チアゾリン、チアゾリジン、2-メチルチアゾリジン、4-メチルチアゾリジン、5-メチルチアゾリジン、2,4-ジメチルチアゾリジン、2,2-ジメチルチアゾリジン、2,5-ジメチルチアゾリジン、4,5-ジメチルチアゾリジン、2,4,5-トリメチルチアゾリジン、1,3-チアザン、5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-イソプロピル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、2,4,4-トリメチル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-オキサゾリン、オキサゾール、チオフェン、チオラン(テトラヒドロチオフェン)、イミダゾール、チオモルホリン、モルホリン、イソブチレンスルフィドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の別の好ましい態様としては、以下の式(I)~(VIII)で示される化合物から選択される化合物又はその塩が挙げられる。
【0047】
【化5】
【0048】
ここで、式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、ホルミル基、C1-6アルキル-カルボニル基、カルボキシル基、C1-6アルコキシカルボニル基、チオール基、C1-6アルキルチオ基、アミノ基、C1-6アルキルアミノ基、ジ(C1-6アルキル)アミノ基、-NRCOR又はオキソ基を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基を示す。但し、式(I)においてR及びRはオキソ基ではなく、式(II)、式(VII)及び式(V)においてRはオキソ基ではなく、式(III)においてRとRが一緒になってオキソ基を形成してもよい。
【0049】
上記式(I)~(VIII)で示される化合物のさらに好ましい例としては、式中、R、R及びRがそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0050】
複素環式化合物の別の好ましい態様としては、前記式(I)~(VIII)で表される複素環式化合物のうち、2位及び/又は4位、又は、2位及び/又は5位が置換されたチアゾール、チアゾリン、チアゾリジン、並びにチオフェン、チオモルホリンなどが挙げられる。このような複素環式化合物は試薬として一般的に知られた物質が含まれ、市販のものを利用でき、また公知の方法により得ることができる。
【0051】
上記式(I)、(II)、(III)、(VII)、又は(VIII)で示される化合物の好ましい例としては、式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6ハロアルキル基、C1-6アルコキシ基、C1-6ハロアルコキシ基、ホルミル基、C1-6アルキル-カルボニル基、カルボキシル基、C1-6アルコキシカルボニル基、チオール基、C1-6アルキルチオ基、アミノ基、C1-6アルキルアミノ基、ジ(C1-6アルキル)アミノ基、-NRCOR又はオキソ基を示し、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基を示す化合物又はその塩が挙げられる。但し、式(I)においてR及びRはオキソ基ではなく、式(II)及び式(VII)においてRはオキソ基ではなく、式(III)においてRとRが一緒になってオキソ基を形成してもよい。
【0052】
式(I)、(II)、(III)、(VII)、又は(VIII)で示される化合物のさらに好ましい例としては、式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0053】
式(I)~(III)で示される化合物の特に好ましい例としては、式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0054】
式(I)~(III)において、Rが水素、ハロゲン原子(例、臭素原子)、C1-6アルキル基(例、メチル、エチル)又はC1-6アルキルチオ基(例、メチルチオ)を示し、Rが水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示し、Rが水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示す化合物又はその塩がより好ましい。
【0055】
式(I)~(III)において、R、R及びRがそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基(例、メチル、エチル)を示す化合物又はその塩がさらに好ましい。
【0056】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の他の好ましい態様としては、上記式(I)又は(II)において、式中、R及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ホルミル基、C1-6アルキル-カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、C1-6ハロアルキル基、C1-6アルキルアミノ基、ジ(C1-6アルキル)アミノ基、C1-6アルキルチオ基又は-NRCORを示し、式(II)の化合物においては、Rはオキソ基を示してもよく、R及びRのいずれかが水素である場合は他方は水素ではなく、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0057】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の別の好ましい態様としては、上記式(I)~(VI)において、式中、Rは水素、ハロゲン原子(例、臭素原子)、C1-6アルキル基(例、メチル、エチル)又はC1-6アルキルチオ基(例、メチルチオ)を示し、Rは水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示し、Rは水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0058】
上記式(I)~(VI)において、R、R及びRがそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基(例、メチル、エチル)である化合物又はその塩がさらに好ましい。
【0059】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の別の好ましい態様としては、上記式(I)又は(II)において、式中、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基(例、メチル、エチル)を示し、R及びRのいずれかが水素である場合は他方は水素ではない化合物又はその塩が挙げられる。
【0060】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の別の好ましい態様としては、上記式(III)において式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0061】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の別の好ましい態様としては、前記式(V)において式中、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0062】
式(V)において、R及びRのいずれかが水素である場合は他方は水素ではない化合物又はその塩がさらに好ましい。
【0063】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の有効成分として用いられる複素環式化合物の別の好ましい態様としては、式(VI)において式中、R及びRはそれぞれ独立して水素又はC1-6アルキル基(例、メチル)を示す化合物又はその塩が挙げられる。
【0064】
式(I)の化合物の好ましい例としては、2-メチルチアゾール、2-エチルチアゾール、2-ブロモチアゾール、4-メチルチアゾール又は2,4-ジメチルチアゾールなどが挙げられる。
【0065】
式(II)の化合物の好ましい例としては、2-メチル-2-チアゾリン、2-メチルチオ-2-チアゾリン、4-メチル-2-チアゾリン又は2,4-ジメチル-2-チアゾリンなどが挙げられる。
【0066】
式(III)の化合物の好ましい例としては、チアゾリジン、2-メチルチアゾリジン、2,2-ジメチルチアゾリジン、4-メチルチアゾリジン又は2,4-ジメチルチアゾリジンなどが挙げられる。
【0067】
式(IV)の化合物の好ましい例としては、チオモルホリンなどが挙げられる。
【0068】
式(V)の化合物の好ましい例としては、2,5-ジメチル-2-チアゾリン又は5-メチル-2-チアゾリンなどが挙げられる。
【0069】
式(VI)の化合物の好ましい例としては、5-メチルチアゾリジンなどが挙げられる。
【0070】
式(VII)の化合物の好ましい例としては、5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジン、2-メチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジン又は2,4-ジメチル-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-チアジンなどが挙げられる。
【0071】
式(VIII)の好ましい化合物としては、1,3-チアザン、2-メチル-テトラヒドロ-1,3-チアジン又は2,4-ジメチル-テトラヒドロ-1,3-チアジンなどが挙げられる。
【0072】
哺乳動物忌避剤に含まれる忌避活性を有する化合物は、上記複素環式化合物に限定されず、環を形成せず鎖状構造を有する化合物(以下、鎖状化合物ともいう。)であってもよい。鎖状化合物は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む。鎖状化合物としては、例えば、鎖状スルフィド化合物又はアルキルイソチオシアネートが好ましく挙げられる。前記鎖状スルフィド化合物としては、例えば、アリルメチルスルフィドなどが好ましく挙げられるが、これに限定されない。前記アルキルイソチオシアネートとしては、例えば、エチルイソチオシアネートなどのC1-6アルキルイソチオシアネートが好ましく挙げられるが、これに限定されない。
【0073】
哺乳動物忌避剤を構成する化合物の塩としては、製薬学的又は農業上、あるいは産業上許容されるものであればあらゆるものが含まれるが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;ジメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩のようなアンモニウム塩;塩酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、硝酸塩のような無機酸塩;酢酸塩、メタンスルホン酸塩のような有機酸塩などが挙げられる。
【0074】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤は、上記に加えて忌避活性を有する更なる化合物を付加的に含んでもよい。そのような付加的に含まれてもよい化合物には、限定しないが、例えばネズミ忌避剤として従来から使用されている薄荷や樟脳が挙げられる。
【0075】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる哺乳動物忌避剤の濃度は、1×10-6重量%以上、1×10-5重量%以上、1×10-4重量%以上、1×10-3重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、若しくは50重量%以上、及び/又は50重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、0.1重量%以下、0.01重量%以下、1×10-3重量%以下、1×10-4重量%以下、1×10-5重量%以下、若しくは1×10-6重量%以下であってもよい。
【0076】
(2)油性ゲル又は油脂
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物は油性ゲル又は油脂を含む。本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物では、上記(1)の哺乳動物忌避剤が油性ゲル又は油脂に包埋されている。
【0077】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる油性ゲル又は油脂は、忌避剤を不活性化若しくは変性しないか又は不活性化若しくは変性しにくく、かつ忌避剤の長期的な徐放を可能にするものが該当する。以下、油性ゲルと油脂を用いる場合に分けて説明する。
【0078】
(2-1)油性ゲル
油性ゲルは、任意の有機溶媒又は油をゲル化させたものを使用することができる。
【0079】
油性ゲルは、例えば有機溶媒及びゲル化剤で構成されていてもよく、又は油及びゲル化剤で構成されていてもよい。油は、鉱物油、植物油、動物油、又はその任意の組み合わせであってもよい。
【0080】
鉱物油は、石油、天然ガス、石炭など地下資源由来の炭化水素、又はこれらを精製若しくは変性して得られた炭化水素も含むものとする。ここでいう炭化水素には芳香族化合物、ナフテン環化合物、及びパラフィン系化合物などが含まれる。
【0081】
植物油は、植物を原料とする油である。例えば、大豆油、米油、菜種油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、アーモンド油、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ油、椿油、ヒマワリ油、パーム油、アマ油、シソ油、シア油、ヤシ油、ホホバ油、グレープシード油、トウモロコシ油、サラダ油、及びアボガド油などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
動物油は、動物由来の油である。例えば、魚類から得られる魚油(イワシ油、サバ油、ニシン油、サンマ油、マグロ油、タラ肝油など)の他、ラード脂、ニワトリ脂、バター脂、牛脂、牛骨脂、鹿脂、イルカ脂、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、マッコウクジラ油、鯨油などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
有機溶媒は、例えばアルコールであってもよい。
【0084】
アルコールは、例えばエタノール、メタノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、2-メチルプロピルアルコール、ベンジルアルコール、コレステロール、フェノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
ゲル化剤は、上記の油をゲル化し得るものが該当する。ゲル化剤には、例えば、低分子ゲル化剤、無機系ゲル化剤、高分子系ゲル化剤、又はその任意の組み合わせが挙げられる。低分子ゲル化剤には、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。無機系ゲル化剤には、クレイやシリカ粒子などが挙げられる。高分子系ゲル化剤には、ポリエチレングリコールや架橋アクリル系ポリマーなどが挙げられる。
【0086】
油とゲル化剤の混合比率は、ゲル化し得る比率であれば限定しない。例えば、油の重量に対して、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、若しくは1%以下、及び/又は1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上、若しくは50%以上のゲル化剤を混合してもよい。
【0087】
油性ゲルは、好ましくは常温でゲル状、固体状、又は半固体状である。
【0088】
(2-2)油脂
油脂は、鉱物油、植物油、動物油、加工油脂、又はその任意の組み合わせであってもよい。鉱物油、植物油、動物油は上記の通りである。油脂は、例えば、植物油、豚脂、牛脂、魚油、鯨油、蝋、及び/又は鉱物油であってもよい。油脂は、好ましくは、常温では固体状、半固体状、又はゲル状であり、常温よりも高温で液化するものを使用することができる。具体的には、100℃以下、80℃以下、60℃以下、若しくは50℃以下、及び/又は50℃以上、60℃以上、若しくは80℃以上で液化する油脂を使用してもよい。一例を挙げれば、融点が100℃以下、80℃以下、60℃以下、又は50℃以下である蝋を使用することができる。
【0089】
忌避剤と油性ゲル又は油脂との混合比率は、忌避剤を不活性化することなく、かつ油性ゲル又は油脂が固化、半固化、又はゲル化し得る比率である。例えば、忌避剤に対して等倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上、100倍以上、若しくは1000倍以上、及び/又は1000倍以下、100倍以下、10倍以下、5倍以下、4倍以下、3倍以下、2倍以下、若しくは等倍以下の油性ゲル又は油脂を混合してもよい。
【0090】
(3)その他の成分
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物は、哺乳動物忌避剤、及び油性ゲル又は油脂以外の成分を含んでもよい。
【0091】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物には、その他の成分として防虫剤、殺虫剤、殺菌剤、防カビ剤、香料、着色料、及び/又は、製薬、農薬若しくは食品などの分野において製剤化に通常用いられる添加剤、溶媒若しくは担体などが含まれてもよい。添加剤は限定しないが、例えば、界面活性剤、有機溶剤又は高分子材料などを使用することができる。
【0092】
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。例えば、陰イオン界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、モノアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩などが挙げられる。これらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン塩などが挙げられる。非イオン界面活性剤としては、例えば、ノニルフェニルエーテルや高級アルコールの酸化エチレン付加物に代表される、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、カルボベタイン、ヒドロキシスルホベタインなどのベタイン型、イミダゾリン型の両性界面活性剤などが挙げられる。これら界面活性剤は、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0093】
また、有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール又はプロピレングリコール、それらの重合物であるポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ジエチレングリコール、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、プロピルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、グリセリン及びその誘導体などの溶剤が挙げられる。有機溶剤は、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0094】
1-3-2.剤形
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物の剤形は、哺乳動物忌避剤を不活性化若しくは変性させないか、又は不活性化若しくは変性させにくいものであって、かつ本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物の徐放性を損なわないか、又は実質的に損なわないものであれば限定はしない。例えば、塊状、板状、線状、それらの組み合わせなどが挙げられる。
【0095】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物は、後述する容器に包含させて使用してもよく、又は容器に包含させずに対象とする空間に配置又は塗布して使用してもよい。
【0096】
1-3-3.使用方法
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物の使用方法は、第3態様の記載に準じる。
【0097】
1-4.効果
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物によれば、チアゾリン類化合物の活性を損なわず、長期に亘ってチアゾリン類化合物を放散することができる。
【0098】
2.哺乳動物忌避装置
2-1.概要
本発明の第2の態様は、哺乳動物忌避装置である。本発明の哺乳動物忌避装置は、第1態様の徐放性哺乳動物忌避組成物を容器の内部に包含する。本発明の哺乳動物忌避装置によれば、忌避剤を徐放し、長期間に亘って動物を忌避させることができる。
【0099】
2-2.構成
本発明の哺乳動物忌避装置は、徐放性哺乳動物忌避組成物、及びそれを内部に包含する容器を含む。徐放性哺乳動物忌避組成物の構成は第1態様の記載に準じる。それ故、以下ではそれ以外の構成について説明する。
【0100】
2-2-1.容器
本明細書における「容器」とは、内部に収容空間を有する器をいう。本態様の哺乳動物忌避装置において、容器は第1態様に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物を内包することを特徴とする。容器の形状は、特に限定しない。多面体形状、円柱形状、角錐形状、円錐形状、球体形状、楕円球体形状、紡錘形状、不定形状、又はそれらの組み合わせなどが例示される。
【0101】
徐放性哺乳動物忌避組成物を内部に包含する容器は、開放部を有してもよい。例えば、容器は外界に接する1又は2以上の開放部を有してもよい。容器が開放部を有する場合、忌避剤は主として開放部から外界に放散され得る。忌避剤の放散速度を考慮して開放部の形状やサイズを適宜選択することができる。
【0102】
容器は、開放部を有しない、又は実質的に開放部を有しないものであってもよい。容器が開放部を有しない、又は実質的に開放部を有しない場合、忌避剤は容器の側面を介して外界に放散され得る。この場合、忌避剤の放散速度を考慮して容器の材質や厚みを適宜選択することができる。また、容器が実質的に開放部を有しない場合であっても、容器と容器の蓋部の間の微小な間隙から忌避剤を放散させることも可能である。
【0103】
容器は、設置場所などの使用条件に応じて、例えば置き型又は吊り下げ型などの容器とすることができる。
【0104】
容器の容積は、例えば、0.1mL以上、0.5mL以上、1mL以上、5mL以上、10mL以上、15mL以上、20mL以上、30mL以上、50mL以上、100mL以上、200mL以上、300mL以上、400mL以上、500mL以上、1L以上、2L以上、3L以上、4L以上、5L以上、若しくは10L以上、及び/又は10L以下、5L以下、4L以下、3L以下、2L以下、1L以下、500mL以下、400mL以下、300mL以下、200mL以下、100mL以下、50mL以下、30mL以下、20mL以下、15mL以下、10mL以下、5mL以下、1mL以下、0.5mL以下、若しくは0.1mL以下であってもよい。
【0105】
容器の材質は、全体又は一部が高分子化合物から構成されていてもよい。高分子化合物は、例えば、ポリオレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリビニル系ポリマー、ビニリデン系ポリマー、エポキシ樹脂、及びポリスチレン系ポリマーからなる群から選択される1又は2以上のポリマーであってもよいが、これらに限定されない。
【0106】
ポリオレフィン系ポリマーは、アルケンをモノマーとして合成される高分子化合物である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-スチレン共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
アクリル系ポリマーは、アクリル酸系モノマー、又はメタクリル酸系モノマーの重合体である。アクリル酸系モノマーには、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミドなどが挙げられる。メタクリル酸系モノマーには、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0108】
ウレタン系ポリマーには、例えば、ポリオール及びポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンや、ポリオール、ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンが含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
ポリ塩化ビニル系ポリマーは、例えばポリ塩化ビニルである。
【0110】
ポリエステル系ポリマーには、ポリカルボン酸、ポリオール、及びこれらのエステル化合物などの重縮合反応により合成されるポリエステルなどが包含される。ポリカルボン酸には、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。ポリオールには、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。ポリエステル系ポリマーには、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0111】
ポリビニル系ポリマーは、例えばポリビニルアルコールである。
【0112】
ビニリデン系ポリマーは、例えばポリ塩化ビニリデンである。
【0113】
エポキシ樹脂は、限定しない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0114】
ポリスチレン系ポリマーは、例えばポリスチレンである。
【0115】
2-2-2.それ以外の構成
本発明の哺乳動物忌避装置は、装置内部に徐放性哺乳動物忌避組成物以外の成分を包含してもよい。
【0116】
例えば、装置内部の徐放性哺乳動物忌避組成物で満たされていない空間、例えば容器ヘッドスペース内に、徐放性哺乳動物忌避組成物以外の付加的な成分を包含してもよい。付加的な成分は、忌避剤を含む、又は忌避剤を含まない油性ゲル又は油脂であってもよい。忌避剤を含まない油性ゲル又は油脂は、第1態様に記載の油性ゲル又は油脂に準じるものとする。
【0117】
2-3.効果
本発明の哺乳動物忌避装置によれば、忌避剤を長期徐放し、長期間に亘って動物を忌避させることができる。
【0118】
容器ヘッドスペース内を徐放性哺乳動物忌避組成物以外の成分で満たし、忌避剤と空気との接触を遮断すれば、忌避剤の安定性をさらに高めることができる。
【0119】
3.哺乳動物の忌避方法
3-1.概要
本発明の第3の態様は、哺乳動物の忌避方法である。本態様の忌避方法によれば、第1態様に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物を閉鎖空間内又は開放空間中に設置し、その空間内の所定の範囲内に徐放性哺乳動物忌避組成物に含まれる忌避剤を徐放することで、長期間に亘って動物を忌避させ、その空間内への動物の侵入を防止することができる。
【0120】
3-2.方法
本発明の哺乳動物の忌避方法は、必須工程として配置工程を含む。
「配置工程」とは、第1態様に記載の徐放性哺乳動物忌避組成物、又は第2態様に記載の哺乳動物忌避装置を、哺乳動物を忌避させる空間に配置する工程である。
【0121】
本明細書において、「動物を忌避させる空間」とは、忌避させる動物の生息空間又は侵入するおそれのある空間を意味し、例えば、田畑、果樹園、森林、家畜の飼育場、道路、高速道路、線路、空港、ゴルフ場、塵埃集積場、公園、庭、庭園、花壇、駐車場、建築物、家屋、工場、倉庫、店舗、商業施設、レストラン、厨房、洗面所、ベランダ、物置、床下、屋根裏、電柱、電線、通信ケーブル、金網、フェンスなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
忌避組成物又は忌避装置は、屋内又は屋外のいずれに設置してもよい。
忌避組成物又は忌避装置は、限定しないが、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、半日以上、1日以上、2日以上、3日以上、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、2年以上、3年以上、5年以上、若しくは10年以上、及び/又は10年以下、5年以下、3年以下、2年以下、1年以下、6か月以下、5か月以下、4か月以下、3か月以下、2か月以下、1か月以下、2週間以下、1週間以下、3日以下、2日以下、1日以下、半日以下、6時間以下、3時間以下、2時間以下、若しくは1時間以下の期間、使用することができる。
【0123】
忌避組成物又は忌避装置によって忌避の対象となる動物は、特に限定しない。例えば、農作物、森林、家畜又は人家に被害をもたらす有害動物が対象となる。有害動物としては、例えば、ネズミ、モグラ、ウサギ、イタチ、シカ、イノシシ、サル、ネコ、クマなどの哺乳動物、ハト、カラスなどの鳥類、ヘビなどの爬虫類、アリ、ムカデ、バッタ、ゴキブリなどの昆虫類が挙げられる。
【0124】
本発明の徐放性哺乳動物忌避組成物は、忌避剤が有効な濃度で放散されるように使用することができる。本明細書において「有効な濃度」とは、忌避剤が対象とする動物を忌避させることが可能となる、匂い分子の空気中の濃度である。この有効な濃度は、使用する忌避剤の種類及び忌避させる対象となる動物の組み合わせによって異なるが、例えば、0.01ppm以上、0.1ppm以上、0.2ppm以上、0.3ppm以上、0.4ppm以上、0.5ppm以上、1ppm以上、5ppm以上、若しくは10ppm以上、及び/又は10ppm以下、5ppm以下、1ppm以下、0.5ppm以下、0.4ppm以下、0.3ppm以下、0.2ppm以下、0.1ppm以下、若しくは0.01ppm以下であり得る。例えば、5ppm以上10ppm以下である。匂い分子の空気中の濃度は、使用条件下で直接測定することもできるが、測定が困難な屋外などの場合には密閉空間中で測定された値を参照値として使用することもできる。
【0125】
上記の他、忌避剤の含有量、忌避組成物又は忌避装置の容量、設置位置、及び設置密度などは、対象とする動物の種類、剤形、屋外や屋内などの使用条件、及び/又は気温や湿度などの気象条件によって適宜決定することが出来る。
【0126】
忌避組成物又は忌避装置の設置密度は、例えば、500m辺り1つ以上、100m辺り1つ以上、50m辺り1つ以上、40m辺り1つ以上、30m辺り1つ以上、20m辺り1つ以上、若しくは10m辺り1つ以上、及び/又は10m辺り1つ以下、20m辺り1つ以下、30m辺り1つ以下、40m辺り1つ以下、50m辺り1つ以下、100m辺り1つ以下、若しくは500m辺り1つ以下である。
【0127】
設置位置は、限定しない。屋外であれば、風向きを考慮して、動物を忌避させる空間の風上に設置してもよい。
【0128】
本態様の忌避方法によれば、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、半日以上、1日以上、2日以上、3日以上、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、2年以上、3年以上、5年以上、又は10年以上に亘って、哺乳動物を忌避させることができる。
【0129】
4.徐放性哺乳動物忌避組成物の製造方法
4-1.概要
本発明の第4の態様は、徐放性哺乳動物忌避組成物の製造方法である。本発明の製造方法は、忌避剤を油性ゲルに包埋する場合と、油脂に包埋する場合で工程が異なる。本態様の徐放性哺乳動物忌避組成物の製造方法によれば、忌避剤の活性を損なわず、長期間に亘って忌避剤を放散することが可能な徐放性哺乳動物忌避組成物を製造することができる。
【0130】
4-2.方法
4-2-1.油性ゲルを用いる方法
本態様の製造方法において忌避剤を油性ゲルに包埋する場合、本態様の製造方法は、必須工程として混合工程を含む。
【0131】
(1)混合工程
「混合工程」とは、哺乳動物忌避剤、油、及びゲル化剤を混合する工程である。
ここでいう哺乳動物忌避剤は、第1態様に記載の哺乳動物忌避剤のいずれであってもよい。例えば、以下の式(I)~(VI):
【化6】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素、ハロゲン原子、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルチオ基を示す。)
で示される化合物から選択される1又は2以上の化合物又はその塩であってもよい。
【0132】
混合工程では、哺乳動物忌避剤、油、及びゲル化剤を混合する順序は、油性ゲルのゲル化が完了する前に忌避剤が混合される限り、いかなる順序であってもよい。例えば、忌避剤と油を混合した後にゲル化剤を混合してもよく、忌避剤とゲル化剤を混合した後に油を混合してもよく、又は忌避剤、油、及びゲル化剤を同時に混合してもよい。
【0133】
4-2-2.油脂を用いる方法
本態様の製造方法において忌避剤を油脂に包埋する場合、本態様の製造方法は、必須工程として液化工程及び混合工程を含み、選択工程として固化工程を含む。
【0134】
(1)液化工程
「液化工程」とは、油脂を液化させる工程である。
液化工程において油脂を液化する方法は限定しない。例えば、加熱によって油脂を液化することができる。
【0135】
(2)混合工程
「混合工程」とは、哺乳動物忌避剤と前記液化させた油脂とを混合する工程である。哺乳動物忌避剤は、上記の「4-2-1.油性ゲルを用いる方法」に準じる。
混合工程は、液化工程で液化した油脂と忌避剤とを混合する工程である。この工程は、忌避剤が揮発、不活性化、若しくは変性しない、又は揮発、不活性化、若しくは変性しにくい温度範囲で行うことが好ましい。例えば、200℃以下、150℃以下、100℃以下、90℃以下、80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、又は35℃以下の温度条件下で混合することが好ましい。
【0136】
(3)固化工程
「固化工程」は、混合工程後の油脂と忌避剤の混合物を固化、半固化、又はゲル化する工程である。
固化工程は、例えば冷却によって行うことができる。
【実施例
【0137】
<実施例1:オイルゲルに基づく長期徐放効果>
(目的)
忌避剤をオイルゲルに包埋し、長期徐放効果が得られるか否かを検証する。
(方法)
天然物由来のゲル化剤である12ヒドロキシステアリン酸によりサラダ油をゲル化させたオイルゲルに、忌避剤として2-メチル-2-チアゾリン(2MT)を封入した。具体的には、容量約17mLの中央化学株式会社製ポリエチレン製容器(タレビン[角中 角壜](D))(図1A)に、3gの2MT(東京化成工業株式会社、M0285)、5.5gのサラダ油(日清オイリオ)、及び1.5gの12ヒドロキシステアリン酸(12HSA、東京化成工業株式会社、H0308)を入れ、電子レンジで加熱して溶解させた後、放冷してゲル化(オイルゲル化)させた(図1B)。
【0138】
容器の蓋を閉めて遮光した状態で野外に放置し、忌避剤の放出挙動をガスクロマトグラフィによって測定した。具体的には、野外に放置したゲル中の忌避剤を定期的にサンプリングし、このゲル中の忌避剤残存量を、GLサイエンス製InertCap WAX(Cat. No. 1010-67244)を装着した島津製ガスクロマトグラフGC-2014を用いて測定した。
【0139】
また、オイルゲルに封入しない場合の比較対照として、2MTの原液の気化速度を測定した。具体的には、3gの2MTの原液をシャーレ上に設置し、シャーレに蓋をしない状態で放置した後、2MTの残存量を経時的に記録した。
【0140】
(結果)
2MTをシャーレ上に設置した場合には、2MTは1日でほぼすべてが蒸発した(図2)。
一方、2MTをオイルゲルに包埋した場合は、2MTは最初の7日間で9%以上が放出され、90日経過後には25%以上残存していた(図2)。
【0141】
この結果から、オイルゲルに包埋した忌避剤が、100日以上の長期に亘って徐放されることが示された。
【0142】
<実施例2:容器ヘッドスペース内の空気の影響>
(目的)
チアゾリン系忌避剤は、空気に接触した状態では安定ではない。例えば、2MTは常温で液体であるが、数日以上空気に接触させた状態で放置しておくと、2MTの二量化物が固形物として生じ、忌避活性が失われる。そこで、ポリエチレン製容器のヘッドスペース内の空気を追い出すことによって、忌避剤が安定化され、徐放効果が増強され得る否かを検討した。
【0143】
(方法)
実施例1で使用したオイルゲルでは、ポリエチレン製容器におけるオイルゲル上部のヘッドスペース内に空気が残されていた(図3A、(1))。オイルゲルと空気との接触を遮断するために、オイルゲル上に12HSA(5重量%)を含有するサラダ油を重層してゲル化させて、ヘッドスペースから空気を追い出した(図3A、(2))。
この忌避剤サンプルを遮光した状態で野外に放置し、忌避剤の放出挙動をガスクロマトグラフィによって測定した。
【0144】
(結果)
ヘッドスペース中に空気が残されたサンプルでは60日以内に60%以上の忌避剤が放出され、その後120日までに徐々に放出が進んだ(図3B、四角)。一方、ヘッドスペースから空気を追い出したサンプルでは、放出速度がさらに低下し、180日経過後も忌避剤が40%程度残存していた(図3B、三角)。
【0145】
したがって、ヘッドスペースから空気を追い出すことによって、徐放効果がさらに増強され得ることが示された。
【0146】
<実施例3:容器側面を介した忌避剤の放散>
忌避剤がポリエチレン容器の側面を介して放散され得るか否かを検証するために、オイルゲルを包含する容器の側面をビニールテープ(ニトムズ製S19MM)で覆った。その他の点では実施例2と同じ実験条件を使用し、忌避剤の徐放速度を検討した。
【0147】
ポリエチレン容器の側面をビニールテープで覆った場合(図3B、黒丸)、ビニールテープなしの条件(図3B、三角)に比べて徐放速度がさらに低下した。一方、180日後の残存量は2つの条件で概ね同じであった。
【0148】
この結果から、忌避剤の容器外への放散の少なくとも一部は、容器側面を介することが示された。
【0149】
<実施例4:液体オイル中における忌避剤の変性>
(目的)
液状のオイル中における忌避剤の安定性を検討する。
【0150】
(方法と結果)
液状のオイル中における忌避剤の安定性を検討するために、忌避剤(2MT)をサラダ油に混合し、屋内にて室温で1週間静置した。対照として、ゲル化剤を加えてオイルゲルに忌避剤を包埋したサンプルを作製し、同様に1週間静置した。
【0151】
その結果、液状のオイル中では黄色の固形物が析出した(図4、写真右下)。このような析出物は、ゲル化剤を用いて忌避剤をオイルゲル中に包埋した場合には見られなかった。
【0152】
この結果から、液状のオイル中では忌避剤が変性し得るのに対して、オイルゲル中では2MTが化学的に安定化されることが示された。
【0153】
<実施例5:ネズミに対する忌避効果のフィールド試験>
(目的)
忌避組成物を繁華街の店舗及び食品工場に設置し、ネズミに対する忌避効果を検証する。
【0154】
(方法と結果)
兵庫県神戸市中央区南京町の洋品店、及び兵庫県西宮市の食品工場にて、忌避組成物サンプルを設置し、ネズミに対する忌避効果について、フィールド試験を行った。忌避組成物サンプルはポリエチレン製容器に包含させた忌避剤含有オイルゲルであり、実施例1と同様に調製したものを使用した。忌避組成物サンプルは概ね10m辺り1個の割合で設置し、設置3か月後に新しいサンプルに交換した。
【0155】
洋品店では、忌避組成物サンプルを設置する以前は、屋根裏のネズミ足音が頻発していた。しかし、忌避組成物サンプルを設置した期間(2019年7月~2019年12月)、ネズミの足音は全く聞かれなくなった。
【0156】
食品工場においても、忌避組成物サンプル設置前は毎月1回以上ネズミが目撃されていたが、忌避組成物サンプルを設置した期間(2019年7月~2020年1月)、ネズミは一度も目撃されなかった。
【0157】
この結果から、本発明の忌避組成物サンプルがネズミに対して長期的な忌避効果を有することがフィールド試験によって実証された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4