(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】熱成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 51/46 20060101AFI20231228BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20231228BHJP
B29C 51/18 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B29C51/46
B29C51/12
B29C51/18
(21)【出願番号】P 2023147857
(22)【出願日】2023-09-12
【審査請求日】2023-09-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
(72)【発明者】
【氏名】河野 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】東嶋 法男
(72)【発明者】
【氏名】武田 翼
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-116094(JP,A)
【文献】特開2022-159385(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203881(JP,U)
【文献】国際公開第2020/158664(WO,A1)
【文献】特開2003-127216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00 - 51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧性能を有して下側に開口する上側容器と、耐圧性能を有して上側に開口する下側容器と、前記上側容器と前記下側容器に真空回路が接続され、前記上側容器と前記下側容器が閉じた状態で形成される作業空間内に樹脂製の被成形体が保持された状態で加熱する加熱手段と、を有し、圧空成形又は真空成形を行う熱成形装置において、
前記上側容器と前記下側容器が閉じた状態で保持される前記被成形体によって、前記作業空間が区切られることで前記上側容器側に上室が形成され、前記下側容器側に下室が形成され、
前記上室と接続して該上室内の圧力調整を行う上側真空回路は、
第1主配管路、及び該第1主配管路より流路が絞られた第1副配管路よりなり、
前記下室と接続して該下室内の圧力調整を行う下側真空回路は、
第2主配管路、及び該第2主配管路より流路が絞られた第2副配管路よりなり、
前記加熱手段によって前記被成形体の加熱を行う際に、前記第1主配管路から前記第1副配管路に、前記第2主配管路から前記第2副配管路に、それぞれ流路を切り替えることで流量調整を行うこと、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記上側真空回路に、
前記第1主配管路の連通・遮断を行う第1主配管用バルブと、
前記第1副配管路の連通・遮断を行う第1副配管用バルブと、
前記第1副配管路の流路を絞る目的で用いられる第1流量調整バルブと、を備え、
前記下側真空回路に、
前記第2主配管路の連通・遮断を行う第2主配管用バルブと、
前記第2副配管路の連通・遮断を行う第2副配管用バルブと、
前記第2副配管路の流路を絞る目的で用いられる第2流量調整バルブと、を備え、
前記第1主配管路及び前記第2主配管路を使って前記上室及び前記下室の真空度を下げた後に前記第1主配管用バルブ及び前記第2主配管用バルブを閉じ、その後、前記上側真空回路の流量と前記下側真空回路の流量を、前記第1副配管用バルブ及び前記第2副配管用バルブの開閉によって調整しながら前記加熱手段による前記被成形体の加熱を行うこと、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項3】
請求項2に記載の熱成形装置において、
前記上室又は前記第1主配管路に、真空度を計測するための第1真空度計を備え、
前記下室又は前記第2主配管路に、真空度を計測するための第2真空度計を備え、
前記第1副配管用バルブ又は前記第2副配管用バルブの開閉制御に、前記第1真空度計又は前記第2真空度計で得られる前記上室又は前記下室の真空度を用いること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項4】
請求項2に記載の熱成形装置において、
前記第1主配管路には、前記上室の真空度を高めるための第1真空ポンプが接続され、
前記第2主配管路には、前記下室の真空度を高めるための第2真空ポンプまたは前記第1真空ポンプが接続され、
前記上側真空回路で排気する空気の流量と前記下側真空回路で排気する空気の流量を、前記第1副配管用バルブ及び前記第2副配管用バルブの開閉によって調整すること、
を特徴とする熱成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形装置内部の圧力をコントロールする技術に関し、詳しくは上下チャンバー式加熱成形機の真空立ち上がりの真空度を調整する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品トレーやパッケージなど幅広い分野で利用されるようになった熱成形装置は、より精度の高い成形を求められるケースが増えてきている。また、車のインパネなどに成形品が用いられる場合には、表面に加飾フィルムなどを用いて成形品に絵付けをすることで質感を出すケースもあり、機器表示を所定の位置に表示したいケースもある。したがって、成形における位置精度が求められるような事も増えてきている。
【0003】
特許文献1には、真空成形機に関する技術が公開されている。上方に開口した下ボックスと下方に開口した上ボックスとによって成形空間が密閉成形され、前記成形空間内において、被着体の表面に加飾フィルムを密着させて成形する真空成形機であって、上ボックスと下ボックスとで保持した加飾フィルムで仕切られた上側の成形空間を加圧環境とし、下側の成形空間を減圧環境とする圧力調整工程で、被着体に加飾フィルムを密着させる。成形空間に圧力差を発生させる際に加熱を停止することで、加飾フィルムの浮きの要因となる加飾フィルムのたるみ発生を抑える技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、製品を熱成形するにあたって、真空度を高めて被着体に対する密着性を高める場合には、目標の真空度に到達するまでに時間を要する。このために、生産性を高めるために真空回路の真空排気速度を高める必要があるが、そうすると、被成形体となる樹脂製シートまたはフィルムの挙動が不安定になってしまうことを、出願人は確認している。特許文献1に記載の技術には、そうした点についての言及がなく解決することは困難である。一般的に、フィルム又はシートの厚みや材質の物性、加熱温度制御によってはフィルム又はシートの加熱時にドローダウンを生じやすくなる。特に真空度を高めて被着体などへの密着性を高める場合には、フィルムのドローダウンの影響が大きく出やすい。
【0006】
出願人の調査の結果、シート又はフィルムを加熱することによって軟化させると、フィルム中央部が垂れ下がるドローダウンの他にも、成形に影響する変形を確認している。圧空成形又は真空成形をするにあたって、上側容器と下側容器を用意して閉じた状態で形成される作業空間の中で、金型などを用いたフィルムの成形を行う場合、フィルムで仕切られる上室と下室の真空度を高める際に圧力差が生じると、圧力が低くなっている側に膨らむ(垂れる)。排気速度を上げると、バルブの開閉に伴って真空度のオーバーシュートが発生(目標範囲を超えてしまう)するため、その影響で差圧が上室と下室で入れ替わる現象が起き、フィルムが上下動を繰り返すことがわかった。この影響で、製品の皺などの不良に繋がるおそれがある。
【0007】
配管径を絞って排気速度を十分に遅くすればこうした問題は解消するが、そうすると今度は生産性を落としてしまうことになる。そこで、本発明はシート又はフィルムの挙動を抑えつつ、生産性を向上可能な熱成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による熱成形装置は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)耐圧性能を有して下側に開口する上側容器と、耐圧性能を有して上側に開口する下側容器と、前記上側容器と前記下側容器に真空回路が接続され、前記上側容器と前記下側容器が閉じた状態で形成される作業空間内に樹脂製の被成形体が保持された状態で加熱する加熱手段と、を有し、圧空成形又は真空成形を行う熱成形装置において、
前記上側容器と前記下側容器が閉じた状態で保持される前記被成形体によって、前記作業空間が区切られることで前記上側容器側に上室が形成され、前記下側容器側に下室が形成され、
前記上室と接続して該上室内の圧力調整を行う上側真空回路は、
第1主配管路、及び該第1主配管路より流路が絞られた第1副配管路よりなり、
前記下室と接続して該下室内の圧力調整を行う下側真空回路は、
第2主配管路、及び該第2主配管路より流路が絞られた第2副配管路よりなり、
前記加熱手段によって前記被成形体の加熱を行う際に、前記第1主配管路から前記第1副配管路に、前記第2主配管路から前記第2副配管路に、それぞれ流路を切り替えることで流量調整を行うこと、
を特徴とする。
【0010】
上記(1)に記載の態様により、上室と下室の圧力調整を、上側真空回路では第1主配管路と第1副配管路を切り替えることで、下側真空回路では第2主配管路と第2副配管路を切り替えることで、実現している。具体的には第1主配管路より第1副配管路の方が流量を絞られており、第2主配管路より第2副配管路の方が流量を絞られている。このため、任意に排気速度の選択が可能となる。
【0011】
熱成形装置を用いて成形品を製造する一連のタクトタイムを考えると、加熱時間又は真空度を高める時間に時間を要する割合が高く、しかし、排気速度を高めるために第1主配管路及び第2主配管路の配管径を広げたり流速を高めたりすると、課題に言及した通り目標の真空度に到達してからの制御が困難になる。そこで、流量を絞った第1副配管路および第2副配管路を用意して切り替えることで、真空度の制御をし易くする。その結果、排気速度と真空度の制御のし易さを両立させ、上室と下室の差圧を少なくなるようにコントロールすることで、被成形体であるフィルムやシートのドローダウンなど差圧による影響を防ぐことが可能となる。
【0012】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、
前記上側真空回路に、
前記第1主配管路の連通・遮断を行う第1主配管用バルブと、
前記第1副配管路の連通・遮断を行う第1副配管用バルブと、
前記第1副配管路の流路を絞る目的で用いられる第1流量調整バルブと、を備え、
前記下側真空回路に、
前記第2主配管路の連通・遮断を行う第2主配管用バルブと、
前記第2副配管路の連通・遮断を行う第2副配管用バルブと、
前記第2副配管路の流路を絞る目的で用いられる第2流量調整バルブと、を備え、
前記第1主配管路及び前記第2主配管路を使って前記上室及び前記下室の真空度を下げた後に前記第1主配管用バルブ及び前記第2主配管用バルブを閉じ、その後、前記上側真空回路の流量と前記下側真空回路の流量を、前記第1副配管用バルブ及び前記第2副配管用バルブの開閉によって調整しながら前記加熱手段による前記被成形体の加熱を行うこと、
が好ましい。
【0013】
上記(2)に記載の態様により、上室と下室の圧力調整を第1流量調整バルブ又は第2流量調整バルブのいずれかで上室又は下室より流入又は流出する空気の流量を調整することで、樹脂製の被成形体の挙動をコントロールすることが可能となる。上室と下室の圧力差、または流速や流量によって影響を受けやすい。このため、例えば上室に繋がる第1主回路から排出する空気を第1流量調整バルブで絞り、下室側を真空成形のために制御する場合に、下室に繋がる第2主回路から排出する空気を第2流量調整バルブで絞り、差圧を少なくなるようにコントロールすることで、被成形体であるフィルムやシートのドローダウンなど差圧による影響を防ぐことが可能となる。こうすることで、成形後の製品に皺が入ったり変形したりといった不良の発生率を抑えることが可能となる。
【0014】
(3)(2)に記載の熱成形装置において、
前記上室又は前記第1主配管路に、真空度を計測するための第1真空度計を備え、
前記下室又は前記第2主配管路に、真空度を計測するための第2真空度計を備え、
前記第1副配管用バルブ又は前記第2副配管用バルブの開閉制御に、前記第1真空度計又は前記第2真空度計で得られる前記上室又は前記下室の真空度を用いること、
が好ましい。
【0015】
上記(3)に記載の態様により、第1真空度計と第2真空度計を備えてそのデータをトリガーとして用いることで、正確な真空度調整の制御を可能とする。その結果、上室と下室の圧力差の発生を抑えて被成形体の膨れを抑えた状態から成形を開始することが可能となる。
【0016】
(4)(2)または(3)に記載の熱成形装置において、
前記第1主配管路には、前記上室の真空度を高めるための第1真空ポンプが接続され、
前記第2主配管路には、前記下室の真空度を高めるための第2真空ポンプまたは前記第1真空ポンプが接続され、
前記上側真空回路で排気する空気の流量と前記下側真空回路で排気する空気の流量を、前記第1副配管用バルブ及び前記第2副配管用バルブの開閉によって調整すること、
が好ましい。
【0017】
上記(4)に記載の態様により、上室と下室の真空度を高めていく過程で被成形体であるフィルムやシートの挙動を抑えることができる。この結果、成形品に皺や変形などの不良の発生を抑えることが可能となる。課題にも示した通り、上室と下室の真空度を高める仮定で圧力差が生じると、上下どちらかに被成形体が膨らむことになり、圧力バランスが入れ替わると上下に被成形体が上下動するような状況も確認している。これは、生産性を高めるために真空回路の真空排気速度を高めると顕著に表れる現象であり、この被成形体の膨らみ(ドローダウンなど)が発生すると、意図せずに金型表面に被成形体が付着してしまい、その結果、成形品の不良に繋がる。こうした課題を解決するために、上室と下室の差圧が出にくく制御しながら成形を行う。
【0018】
具体的には、第1真空ポンプと第2真空ポンプで所定の真空度まで下げた後、第1主配管路に備える第1主配管用バルブと第2主配管路に備える第2主配管用バルブとを閉じ、第1流量調整バルブと第2流量調整バルブで第1副配管路と第2副配管路の流量を調整した状態で、第1副配管用バルブと第2副配管用バルブを開閉することで真空度の制御を行いながら目標の真空度に到達させる。このような制御を行うことで、上室と下室の圧力差の発生を抑えて被成形体の膨れを抑えた状態から成形を開始することが可能となる。
【0019】
この結果、第1主配管路と第2主配管路を使って真空排気速度を高めつつ、真空度が高められた状態で細かい真空度調整をすることが可能となり、つまり、成形のサイクルタイムを向上させつつ、高精度な成形品を得られることになる。なお、この際に第1真空ポンプのみを用意し、第1流量調整バルブ、第2流量調整バルブ、第1副配管用バルブ、及び第2副配管用バルブを制御することでも、同様の効果を得ることが可能である。第1真空ポンプの他に第2真空ポンプを設ける場合には、それぞれの真空ポンプの制御を加えることで細かい制御を実現するが、上室及び下室の容量が少なくかつ複雑な制御を要しない場合には、選択的に第1真空ポンプのみを用いる構成とすることで、コストの最適化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態の、熱成形装置の概略構成について説明する説明図である。
【
図2】第1実施形態の、成形前のタイムチャートである。
【
図3】第1実施形態の、樹脂製シートの加熱開始する段階の熱成形装置の概略構成について説明する説明図である。
【
図4】第1実施形態の、真空回路を切り替えた状態の熱成形装置の概略構成について説明する説明図である。
【
図5】比較のために用意した従来技術の、熱成形装置の概略構成について説明する説明図である。
【
図6】第2実施形態の、熱成形装置の概略構成について説明する説明図である。
【
図7】第3実施形態の、熱成形装置の概略構成について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る第1の実施形態の熱成形装置100の構成の概略について説明をする。
図1は、第1実施形態の、熱成形装置100の概略構成について説明する説明図である。熱成形装置100は、上部チャンバー(上側容器)101と下部チャンバー(下側容器)102とで樹脂製シートSを保持し、輻射式加熱装置などを用いた昇降可能な加熱手段110で樹脂製シートSを加熱しながら金型150を用いて成形を行う。
【0022】
被成形体に相当する樹脂製シートSは、厚さが500μm程度の熱可塑性樹脂よりなるABS製シート材を採用している。なお、JISの規格によればシートとは厚さが250μm以上の板状のものであり、フィルムとは厚さが250μm未満の膜状のものと定義されているが、本発明をフィルムに適用することを妨げない。また、樹脂製シートSの材質はABSに限定されるものではなく、ポリプロピレンなどの樹脂を必要に応じて適宜選択することを妨げない。
【0023】
上部チャンバー101には、上側真空回路120が接続されている。上側真空回路120は、上部チャンバー101に接続される第1主配管路121と、並列に設けられる第1副配管路122を備える。第1主配管路121には、第1主配管用バルブ123が設けられ、第1主配管用バルブ123を開閉することで第1主配管路121を連通・遮断する。第1副配管路122には、第1副配管用バルブ124及び第1流量調整バルブ125が設けられて、第1副配管用バルブ124を開閉することで第1副配管路122を連通・遮断し、第1流量調整バルブ125の開度を調整することで第1副配管路122の流量を調整することが可能である。
【0024】
第1副配管路122は、第1主配管路121の上部チャンバー101と第1主配管用バルブ123との間で分岐され、第1主配管用バルブ123と第1真空ポンプ126の間で合流される設計となっている。したがって、上側真空回路120に接続される第1真空ポンプ126を作動させて空気を排気するにあたって、第1副配管路122を用いることで流量調整を行った状態での空気の排気を行うことができる。ここで、第1主配管用バルブ123と第1副配管用バルブ124はいわゆる真空バルブと呼ばれる、真空回路に用いて回路を連通・遮断する機能を有するものを用いている。また、第1流量調整バルブ125は、真空回路に用いて流量調節できる調節バルブを用いている。
【0025】
下部チャンバー102には、下側真空回路130が接続されている。下側真空回路130は、下部チャンバー102に接続される第2主配管路131と、並列に設けられる第2副配管路132を備える。第2主配管路131には、第2主配管用バルブ133が設けられ、第2主配管用バルブ133を開閉することで第2主配管路131を連通・遮断する。第2副配管路132には、第2副配管用バルブ134及び第2流量調整バルブ135が設けられて、第2副配管用バルブ134を開閉することで第2副配管路132を連通・遮断し、第2流量調整バルブ135の開度を調整することで第2副配管路132の流量を調整することが可能である。
【0026】
第2副配管路132は、第2主配管路131の下部チャンバー102と第2主配管用バルブ133との間で分岐され、第2主配管用バルブ133と第2真空ポンプ136の間で合流される設計となっている。したがって、下側真空回路130に接続される第2真空ポンプ136を作動させて真空度を高めるにあたって、第2副配管路132を用いることで流量調整を行った状態での排気を行うことができる。ここで、第2主配管用バルブ133と第2副配管用バルブ134はいわゆる真空バルブと呼ばれる、真空回路に用いて回路を連通・遮断する機能を有するものを用いている。また、第2流量調整バルブ135は、真空回路に用いて流量調節できる調節バルブを用いている。
【0027】
第1流量調整バルブ125は、第1主配管路121と比較して第1副配管路122の流量が例えば1/10~1/20程度になるように調整されている。第2流量調整バルブ135も同様に、第2主配管路131と比較して第2副配管路132の流量が例えば1/10~1/20程度になるように調整されている。第1流量調整バルブ125及び第2流量調整バルブ135の開度調整は、樹脂製シートSの物性などによって適宜選択されることが好ましい。
【0028】
上部チャンバー101と下部チャンバー102は、接続配管140で接続され接続配管用バルブ141が開閉することで、連通・遮断が行われる。上部チャンバー101と下部チャンバー102が閉じた状態で内側の空間は作業空間50となり、樹脂製シートSによって上室51と下室52に区切られる。したがって、上室51と下室52は接続配管140で連通されている状態では、上室51と下室52の差圧が出にくく、一方、接続配管用バルブ141で流路が遮断されることで、上側真空回路120と下側真空回路130で別の圧力制御が可能となる。
【0029】
このように、上側真空回路120と下側真空回路130によって圧空・真空成形を行うことができるように、上部チャンバー101に上側真空回路120が接続され、下部チャンバー102に下側真空回路130が接続される。そして、上部チャンバー101には第1真空度計105が備えられ、下部チャンバー102には第2真空度計106が備えられる。第1真空度計105及び第2真空度計106によって真空度を計測することで、その値を上室51と下室52の圧力制御のトリガーとして用いる。
【0030】
本発明による熱成形装置100の構成の概略は上記の通りであり、次に熱成形装置100を用いた成形の手順について簡単に説明を行う。
【0031】
図2に、成形前のタイムチャートを示す。縦軸に機器別の動作を示し、横軸に時間経過を示す。左側の文言「チャンバー」は、作業空間50を構成する上部チャンバー101と下部チャンバー102を示し、「開」状態で上部チャンバー101と下部チャンバー102は離間し、「閉」で上部チャンバー101と下部チャンバー102は樹脂製シートSを挟んで保持した状態であることを意味する。
【0032】
「上真空バルブ」は、第1主配管用バルブ123のことを指し、「ON」で開状態になり第1主配管路121が連通する状態を示す。「OFF」で閉状態になり第1主配管路121が遮断された状態を示す。「上真空保持バルブ」は、第1副配管用バルブ124のことを指し、「ON」で開状態になり第1副配管路122の流れを遮断する。また、「OFF」で閉状態になり第1副配管路122の流れを遮断する。
【0033】
「下真空バルブ」は、第2主配管用バルブ133のことを指し、「ON」で開状態になり第2主配管路131が連通する状態を示す。「OFF」で閉状態になり第2主配管路131が遮断された状態を示す。「下真空保持バルブ」は、第2副配管用バルブ134のことを指し、「ON」で開状態になり第2副配管路132の流れを遮断する。また、「OFF」で閉状態になり第2副配管路132の流れを遮断する。
【0034】
「ヒータ」は、加熱手段110の過熱状態を示し、「ON」でヒータに通電して樹脂製シートSの加熱を行い、「OFF」でヒータへの通電を停止する。「上真空度」は、上部チャンバー101内の真空度を示す。「下真空度」は、下部チャンバー102内の真空度を示す。
図3に、樹脂製シートの加熱開始する段階の熱成形装置の概略構成について説明する。
図4に、真空回路を切り替えた状態の熱成形装置の概略構成について説明する。
【0035】
まず、熱成形装置100に樹脂製シートSを投入した後に、上部チャンバー101と下部チャンバー102を近接させて、樹脂製シートSを上部チャンバー101と下部チャンバー102とで挟んだ形とする。
図2のt1からt2の間で行われる。なお、図示していないが、必要に応じて下部チャンバー102に固定された保持枠に樹脂製シートSを保持させることを妨げない。
【0036】
次に、前期排気期間p1となるt2からt5のうち、t2からt3の間で、第1主配管用バルブ123、第1副配管用バルブ124、第2主配管用バルブ133、第2副配管用バルブ134、接続配管用バルブ141を何れも開状態にする。そして第1真空ポンプ126および第2真空ポンプ136によって、上部チャンバー101と下部チャンバー102のそれぞれの真空度を高める。この状態が
図1に示す状態である。そして、t4までに上部チャンバー101及び下部チャンバー102の真空度を700Pa程度まで下げて、加熱手段110による加熱を開始する。この状態が
図3に示す状態である。
【0037】
そして、t5に至ったタイミングで第1主配管用バルブ123及び第2主配管用バルブ133を閉じ、第1主配管路121及び第2主配管路131を遮断する。また、接続配管用バルブ141も遮断をする。この結果、第1流量調整バルブ125で流量の決定がされる第1副配管路122と、第2流量調整バルブ135で流量が決定される第2副配管路132で真空度を高めていくことになるので、真空排気速度は低下する。
【0038】
次に、後期排気期間p2となるt5からt16のうち、t6からt7の間で、第1副配管用バルブ124を閉じることで、上側真空回路120での真空排気を止める。また、t8からt9の間で、第1副配管用バルブ124を開けることで、上側真空回路120での真空排気を行う。また、t11からt12の間で、第1副配管用バルブ124を閉じ、t14からt15の間で、第1副配管用バルブ124を開けるよう制御する。この第1副配管用バルブ124の開閉制御は、上室51の真空度を第1真空度計105にて計測して得た数値に基づいて行われる。上部真空度下限値b12に達すれば第1副配管用バルブ124を閉じ、上部真空度上限値b11に達すれば第1副配管用バルブ124を開く制御を行っている。このように、上部真空度上限値b11と上部真空度下限値b12の間で上部チャンバー101の真空度をコントロールできるように制御する。
【0039】
また、t9からt10の間で、第2副配管用バルブ134を閉じることで、下側真空回路130での真空排気を止める。次に、t11からt12の間で、第2副配管用バルブ134を開けることで、下側真空回路130での真空排気を行う。この第2副配管用バルブ134の開閉制御は、下室52の真空度を第2真空度計106によって計測した得た数値に基づき行われる。下部真空度下限値b22に達すれば第2副配管用バルブ134を閉じ、下部真空度上限値b21に達すれば第2副配管用バルブ134を開く制御を行っている。このように、下部真空度上限値b21と下部真空度下限値b22の間で下部チャンバー102の真空度をコントロールできるように制御する。この後期排気期間p2の状態が
図4に示す状態である。
【0040】
そしてt16のタイミングで、樹脂製シートSの加熱が完了する。また、上部チャンバー101の真空度は上部真空度上限値b11と上部真空度下限値b12の間で制御されており、下部チャンバー102の真空度は下部真空度上限値b21と下部真空度下限値b22の間で制御されているので、上部チャンバー101と下部チャンバー102の圧力差は規定値となっている。その状態で、金型150を用いて樹脂製シートSの成形を開始する。
【0041】
第1実施形態の熱成形装置100は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0042】
まず、加熱時において樹脂製シートSがドローダウンすることで成形品不良に繋がることを防ぐことのできる熱成形装置100の提供が可能になる点が効果としてあげられる。これは、耐圧性能を有して下側に開口する上側容器(上部チャンバー101)と、耐圧性能を有して上側に開口する下側容器(下部チャンバー102)を備え、上部チャンバー101と下部チャンバー102に真空回路(上側真空回路120、下側真空回路130)が接続され、上部チャンバー101と下部チャンバー102が閉じた状態で形成される作業空間内に樹脂製の被成形体(樹脂製シートS)を保持して加熱手段110によって加熱し、圧空成形又は真空成形を行う熱成形装置100において、上部チャンバー101と下部チャンバー102が閉じた状態で保持される樹脂製シートSによって、作業空間50が区切られることで上部チャンバー101に上室51が形成され、下部チャンバー102に下室52が形成される。
【0043】
そして、上室51と接続して上側真空回路120を形成する第1主配管路121と、第1主配管路121より流路が絞られ、第1主配管路121から分岐して設けられる第1副配管路122と、下室52と接続して下側真空回路130を形成する第2主配管路131と、第2主配管路131より流路が絞られ、第2主配管路131から分岐して設けられる第2副配管路132と、を備える。
【0044】
そして、第1主配管路121及び第2主配管路131から、第1副配管路122及び第2副配管路132へ流路を切り替えることで、流量調整を行い、加熱手段110による樹脂製シートSの加熱を行い、成形をする。このような特徴を有するから前述した、樹脂製シートSの加熱時にドローダウンのような変形を防ぐことのできるという効果が得られる。
【0045】
これは、次に説明する作用によるものだと考える。
図5に、比較のために用意した、真空回路に副配管を設けていない熱成形機の様子を示す。本発明の実施形態との比較のために用意した熱成形機200には、第1主配管路121及び第1主配管用バルブ123と、第2主配管路131及び第2主配管用バルブ133が備えられている。そして、第1真空ポンプ126及び第2真空ポンプ136がそれぞれに接続されて真空排気が行えるように構成されている。
【0046】
このような構成の場合に、第1真空ポンプ126および第2真空ポンプ136を用いて真空排気を行い、目標の真空度に到達して第1主配管用バルブ123及び第2主配管用バルブ133を閉状態にすると、真空排気が停止する。この影響を受けて樹脂製シートSが
図5に示すように上下するような挙動を示すことがある。
【0047】
これは、上部チャンバー101及び下部チャンバー102の容量の違いや、第1主配管路121及び第2主配管路131の経路の長さなどの違いから、真空排気の速度の差が出てしまうために、上部チャンバー101か下部チャンバー102のどちらかの真空度の上昇が早くなって、結果的に真空度が低くなった方に樹脂製シートSの膨れ(下部チャンバー102に膨れる場合はドローダウンとも呼ばれる)が発生するからである。
【0048】
特に、熱成形装置100を用いた成形品製造過程において、真空排気速度を上げられるように第1主配管路121及び第2主配管路131の有効断面積を大きくするとこの問題は生じやすい。前期排気期間p1では問題になりにくいが、後期排気期間p2は第1主配管用バルブ123又は第2主配管用バルブ133の開閉のタイミングで排気速度が速いことが影響して、片側を開けた段階で下限値を下回ってしまうこととなる。
【0049】
つまり、制御可能な真空度の振れ幅が大きいことになり、第1主配管用バルブ123又は第2主配管用バルブ133の開け閉め時に発生する真空度のオーバーシュートの影響で、樹脂製シートSが上下に動くことに繋がる。そうなると、樹脂製シートSに皺が入ってしまい、製品不良となることがある。これを防ぐために、上室51と下室52を、接続配管用バルブ141を開けてリークさせることで真空度を調整することも考えられるが、そうすると、金型150と樹脂製シートSの間に空気が入るなどのトラブルに繋がりかねないため、あまり望ましくない。
【0050】
こういった影響を防ぐために、本発明の熱成形装置100では、前期排気期間p1には第1主配管路121及び第2主配管路131を使い、後期排気期間p2には第1副配管路122及び第2副配管路132を使うように流路を切り替えている。第1副配管路122及び第2副配管路132の流路は第1流量調整バルブ125及び第2流量調整バルブ135によって流量が絞られているため、第1副配管用バルブ124及び第2副配管用バルブ134を開閉して上部チャンバー101と下部チャンバー102の真空度調整を行う時にも、真空度のオーバーシュートを抑えることができる。
【0051】
また、上側真空回路120と下側真空回路130を別々としたことで、上部真空度上限値b11と上部真空度下限値b12、下部真空度上限値b21と下部真空度下限値b22を別々の範囲に設定することができる。今回は、例えば上部真空度上限値b11を585Pa、上部真空度下限値b12を580Paとし、下部真空度上限値b21を605Pa、下部真空度下限値b22を600Paとした場合に、上側真空回路120を下側真空回路130よりも高い真空度に設定することで、上室51側に樹脂製シートSが引っ張られるような圧力調整となっている。
【0052】
このため、
図3に示すような(
図2のt4~t6あたり)で開始された加熱手段110による加熱の影響で樹脂製シートSのドローダウンが生じていた場合にも、後期排気期間p2で(
図4のt8~t15あたり)、第1副配管用バルブ124を閉じて上側真空回路120と下側真空回路130を切り分け、上側真空回路120側の真空度を高めに設定していることで、樹脂製シートSのドローダウンを抑えることができる。この結果、成形品の製作精度などを高めることに繋がる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2実施形態の熱成形装置は第1実施形態の熱成形装置の構成とほぼ同じだが、上側真空回路120の構成及び下側真空回路130の構成が異なる。
図6に、第2実施形態の熱成形装置の概略構成について説明する説明図を示す。上側真空回路120は、第1主配管路121と第1副配管路122がそれぞれ上部チャンバー101に接続されている。第1主配管路121には、第1主配管用バルブ123と第1真空ポンプ126が設けられている。第1副配管路122には、第1副配管用バルブ124、第1流量調整バルブ125及び第3真空ポンプ127が設けられている。
【0054】
下側真空回路130は、第2主配管路131と第2副配管路132がそれぞれ下部チャンバー102に接続されている。第2主配管路131には、第2主配管用バルブ133と第2真空ポンプ136が設けられている。第2副配管路132には、第2副配管用バルブ134、第2流量調整バルブ135及び第4真空ポンプ137が設けられている。このような構成の上側真空回路120と下側真空回路130のバルブの制御は、第1実施形態の熱成型装置100と同じで良く、同様の効果が得られる。
【0055】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3実施形態の熱成形装置は第1実施形態の熱成形装置の構成とほぼ同じだが、上側真空回路120の構成及び下側真空回路130の構成が異なる。
図7に、第3実施形態の熱成形装置の概略構成について説明する説明図を示す。上側真空回路120と下側真空回路130で共通の第5真空ポンプ128を用いて排気する構成となっている。このような構成の上側真空回路120と下側真空回路130のバルブ制御は、第1実施形態の熱成型装置100と同じで良く、同様の効果が得られる。
【0056】
したがって、上側真空回路120と下側真空回路130に第5真空ポンプ128を接続することで用いる真空ポンプの数を減らすことができるので、コストダウンに貢献することが可能である。上室51と下室52の容量や必要とされる応答性などによっては、第5真空ポンプ128を1つ設けるだけの構成にした場合であっても、第1実施形態または第2実施形態と同様の効果が得られ、かつコストの最適化を図ることが可能となる。また、装置構成が単純化されることで装置の小型化への貢献が期待できる。
【0057】
以上、本発明に係る熱成形装置100に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、前期排気期間p1のうち、立ち上げ直後に真空排気の影響を受けにくいように短期間だけ第1副配管路122及び第2副配管路132を使い、真空排気速度のコントロールをすることを妨げない。また、上側真空回路120と下側真空回路130の構成についても、第1実施形態乃至第3実施形態に示した何れも一例であるので、同様の効果が得られる別の構成とすることを妨げない。例えば、上側真空回路120は第1実施形態の方式を採用し、下側真空回路130は第2実施形態の方式を採用するなど、組み合わせても良い。
【0058】
また、第1実施形態乃至第3実施形態の何れも、金型を用いた熱成形について説明しているが、基材への被覆成形や基材への転写などに本発明の構成を用いることを妨げない。
【符号の説明】
【0059】
S 樹脂製シート
50 作業空間
51 上室
52 下室
100 熱成形装置
101 上部チャンバー
102 下部チャンバー
110 加熱手段
120 上側真空回路
130 下側真空回路
【要約】
【課題】シート又はフィルムの挙動を抑えつつ、生産性を向上可能な熱成形装置の提供。
【解決手段】圧空成形又は真空成形を行う熱成形装置100において、上部チャンバー101と下部チャンバー102が閉じた状態で保持される樹脂製シートSによって、作業空間50が区切られることで上部チャンバー101に上室51が形成され、下部チャンバー102に下室52が形成され、上室51と接続して上側真空回路120を形成する第1主配管路121と、第1主配管路121より流路が絞られ、第1主配管路121から分岐して設けられる第1副配管路122と、下室52と接続して下側真空回路130を形成する第2主配管路131と、第2主配管路131より流路が絞られ、第2主配管路131から分岐して設けられる第2副配管路132と、を備える。
【選択図】
図1