(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】エトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2020032480
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】落合 昂雄
(72)【発明者】
【氏名】小池 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-074339(JP,A)
【文献】特開2017-181124(JP,A)
【文献】特開2018-155023(JP,A)
【文献】特開2020-153784(JP,A)
【文献】米国特許第06197107(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
G01B 11/00-11/30
C04B 28/02
G01N 21/84-21/958
G01N 17/00-19/10
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記(A)~(G)工程を経て得た最大主ひずみの度数分布の歪度の絶対値、および、最大主ひずみの度数分布の標準偏差に基づき、コンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体における
DEFの可能性を判定する、エトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法。
(A)コンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体を成形した後、高温履歴を与える養生を行って供試体を作製する、供試体の作製工程。
(B)促進養生の前に、前記供試体のデジタル画像の取得対象面に模様を施して、デジタル画像を取得する、促進養生の前のデジタル画像の取得工程。
(C)前記デジタル画像を取得した供試体を水中に浸漬するか、または、供試体の表面に水を噴霧若しくは散水して吸水させ、DEFによる劣化を促進させる、促進養生工程。
(D)前記促進養生中および促進養生後に、前記供試体の取得対象面のデジタル画像を取得する、促進養生中および促進養生後のデジタル画像の取得工程。
(E)前記促進養生の前後のデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの分布を得る、最大主ひずみの分布の取得工程。
(F)前記最大主ひずみの分布を用いて、あらかじめ設定したひずみの階級ごとに、最大主ひずみの度数分布を作成して、各促進養生期間における、最大主ひずみの度数分布の歪度の絶対値を算出する、歪度の絶対値の算出工程。
(G)前記最大主ひずみの度数分布を用いて、任意の領域における最大主ひずみの度数分布の標準偏差を算出する、標準偏差の算出工程。
【請求項2】
前記(D)工程において、促進養生中のデジタル画像の取得回数が2回以上である、請求項1に記載のエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法。
【請求項3】
最大主ひずみ分布の度数分布における歪度の絶対値が、経時的に連続して増加する場合であって、かつ、任意の箇所における最大主ひずみの標準偏差も、経時的に連続して増加する場合に、判定の対象であるコンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体はDEFを発生する可能性が高いと判定する、請求項1または2に記載のエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像を用いて作成した、コンクリートやモルタルの最大主ひずみの分布に基づき、エトリンガイトの遅延生成の可能性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントが水和して生成するエトリンガイト(〔Ca6Al2(OH)12・24H2O〕(SO4)3・2H2O)は、数月から数年を経過したコンクリート中で体積膨張して、コンクリートにひび割れを生じさせる場合がある。このコンクリートの劣化現象は、DEF(エトリンガイトの遅延生成、Delayed Ettringite Formation)と呼ばれ、セメントペースト全体が膨張マトリックスであるため、反応性骨材が膨張マトリックスであるアルカリシリカ反応に比べ、膨張ひずみは数倍になる。
このDEFの条件として、
(i)コンクリートが高温養生を受けること。
(ii)コンクリートに十分な量の水分が供給されること。
(iii)コンクリート中に過剰な硫酸塩が存在すること。
の3つが必要とされている(非特許文献1)。したがって、DEFを抑制するためには、これらの条件を回避することが重要である。しかし、コンクリート二次製品は高温で養生する場合があり、また、部材の寸法が大きいコンクリートは水和反応に伴う自己発熱が加わり、コンクリートの内部が高温になる。そして、これらのコンクリートを屋外に設置すると、降雨等により水が供給され、またセメントは硫酸アルカリや石膏等の硫酸塩を含むことから、これらのコンクリートのDEFを抑制することは難しい。
【0003】
そこで、エトリンガイトの遅延生成の有無を早期に判定する方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載のDEFの判定方法は、高温養生を受ける前のセメント組成物から採取した水和試料中のエトリンガイトの粉末X線回折の相対強度と、高温養生を受けた後のセメント組成物から採取した水和試料中のエトリンガイトの粉末X線回折の相対強度との差が5%以下の場合に、DEFが発生しないと判定する方法である。
その他、DFEの可能性を判定する方法には、(i)高温履歴を与えたコンクリートまたはモルタルの長さ変化を測定する方法や、(ii)走査型電子顕微鏡を用いてエトリンガイトの生成を見つける方法がある。しかし、(i)の方法は、コンクリート供試体の作製に、数十kgものセメントが必要なため、新規の結合材や他社のセメントを用いて判定する場合、多量のセメントの入手は困難である。また、(ii)の方法、および特許文献1に記載の方法は、試料の採取時における観察や判定であって、高温養生後の膨張挙動の経時変化は観察できず、また、いずれの装置も高額である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】羽原俊祐ほか、「コンクリートのDEFによる硫酸塩膨張の生起条件の検討」、コンクリート工学年次論文集、743~748頁、Vol.28,No.1,2006
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明はDFEの可能性を簡易に精度よく判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、前記目的にかなう判定方法を検討したところ、コンクリートやモルタルの表面の最大主ひずみの分布に基づけば、DFEの可能性を簡易に精度よく判定できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記の構成を有するエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法である。
【0008】
[1]少なくとも、下記(A)~(G)工程を経て得た最大主ひずみの度数分布の歪度の絶対値、および、最大主ひずみの度数分布の標準偏差に基づき、コンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体におけるDEFの可能性を判定する、エトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法。
(A)コンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体を成形した後、高温履歴を与える養生を行って供試体を作製する、供試体の作製工程。
(B)促進養生の前に、前記供試体のデジタル画像の取得対象面に模様を施して、デジタル画像を取得する、促進養生の前のデジタル画像の取得工程。
(C)前記デジタル画像を取得した供試体を水中に浸漬するか、または、供試体の表面に水を噴霧若しくは散水して吸水させ、DEFによる劣化を促進させる、促進養生工程。
(D)前記促進養生中および促進養生後に、前記供試体の取得対象面のデジタル画像を取得する、促進養生中および促進養生後のデジタル画像の取得工程。
(E)前記促進養生の前後のデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの分布を得る、最大主ひずみの分布の取得工程。
(F)前記最大主ひずみの分布を用いて、あらかじめ設定したひずみの階級ごとに、最大主ひずみの度数分布を作成して、各促進養生期間における、最大主ひずみの度数分布の歪度の絶対値を算出する、歪度の絶対値の算出工程。
(G)前記最大主ひずみの度数分布を用いて、任意の領域における最大主ひずみの度数分布の標準偏差を算出する、標準偏差の算出工程。
[2]前記(D)工程において、促進養生中のデジタル画像の取得回数が2回以上である、前記[1]に記載のエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法。
[3]最大主ひずみ分布の度数分布における歪度の絶対値が、経時的に連続して増加する場合であって、かつ、任意の箇所における最大主ひずみの標準偏差も、経時的に連続して増加する場合に、判定の対象であるコンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体はDEFを発生する可能性が高いと判定する、前記[1]または[2]に記載のエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法は、DFEの可能性を簡易に精度よく判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で用いた型枠を示す図である。なお、図中の数値の単位はmmである。
【
図2】実施例で用いた蒸気養生パターンの図である。
【
図3】実施例で用いたデジタル画像取得用スキャナーの写真である。
【
図4】促進養生期間が(a)15日、(b)24日、および(c)37日の最大主ひずみの分布を示す写真である。なお、参考として、(d)はDEFによる劣化が生じない供試体の最大主ひずみの分布を示す写真である。
【
図5】促進養生期間が(a)15日、(b)24日、および(c)37日の、各ひずみの階級における最大主ひずみの度数分布を示すグラフである。
【
図6】促進養生期間(促進期間)における、各階級の最大主ひずみの度数分布の歪度(偏り)を示すグラフである。なお、図中の破線はDEFによる劣化が生じない供試体における歪度の値を示す。
【
図7】促進養生期間(促進期間)における、最大主ひずみの度数分布における標準偏差を示すグラフである。なお、図中の破線はDEFによる劣化が生じない供試体における標準偏差の値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエトリンガイトの遅延生成の可能性の判定方法は、前記のとおり、少なくとも、(A)供試体の作製工程、(B)促進養生の前のデジタル画像の取得工程、(C)促進養生工程、(D)促進養生中および終了後のデジタル画像の取得工程(E)最大主ひずみの分布の取得工程(F)歪度の絶対値の算出工程、および(G)標準偏差の算出工程を経て得た最大主ひずみの度数分布の歪度の絶対値、および、最大主ひずみの度数分布の標準偏差に基づき、コンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体におけるDFEの可能性を判定する方法である。
以下、本発明について前記各工程に分けて詳細に説明する。
【0012】
(A)供試体の作製工程
該工程は、コンクリート、モルタル、またはセメントペースト硬化体を成形した後、高温履歴を与える養生を行って供試体を作製する工程である。該供試体は、例えば、
図1に示すように、平板状でよく、その寸法は、特に制限されないが、デジタル画像の取得の容易さ等を考慮すると、1辺は40mm以上、厚さは10mm以上が好ましい。また、前記高温履歴は、蒸気養生やオートクレーブ養生による高温履歴が挙げられる。
本発明において判定の対象物は、特に制限されず、普通コンクリート、水密コンクリート、暑中コンクリート、寒中コンクリート、マスコンクリート、流動化コンクリート、高流動コンクリート、高強度コンクリート、低発熱コンクリート、膨張コンクリート、プレストレストコンクリート、低収縮コンクリート、繊維補強コンクリート、軽量コンクリート、ポリマーコンクリート、モルタル、およびセメントペースト硬化体が挙げられる。
【0013】
(B)促進養生の前および(D)促進養生中および促進養生後のデジタル画像の取得工程
(B)工程は、促進養生の前に、前記供試体のデジタル画像の取得対象面に模様を施して、デジタル画像を取得する工程であり、(D)工程は、促進養生の最中および促進養生の終了後に、前記供試体の取得対象面のデジタル画像を取得する工程である。促進養生中のデジタル画像は、判定の精度を高めるため、好ましくは、定期または不定期に2回以上取得する。
デジタル画像の取得対象面に施す模様とは、解析時の標点の役割を果たすものであり、取得対象面を塗装するか、または、供試体の表面を研磨して骨材を露出させて、該骨材の面を標点の代わりとしてもよい。
ここで、促進養生の前の供試体のデジタル画像取得時に、画像の取得面に水分が付着していると、色のコントラストが小さくなり、また色むらが生じて、促進養生の後に取得した画像との相関性が著しく低下する場合がある。この相関性の低下を避けるため、好ましくは、デジタル画像の取得前に、供試体の撮影面に圧縮空気等を噴射して撮影面の水分を除去するか、または、撮影面から水分がなくなるまで静置して表面乾燥状態にするなどの前処理を行う。
【0014】
(C)促進養生工程
該工程は、供試体を水中に浸漬するか、または、供試体の表面に水を噴霧若しくは散水して吸水させ、DEFによる劣化を促進させる工程である。
促進養生の温度は、特に制限されないが、早く結果を得ることを考慮すると、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上であり、促進養生の期間は、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上である。
【0015】
(E)最大主ひずみの分布の取得工程
該工程は、前記促進養生の前後のデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの分布を得る工程である。
前記デジタル画像相関法は、ひずみによる変形の前後に取得したデジタル画像の輝度値の分布に基づいて、供試体上の各位置の移動量を算出し、ひずみに変換する方法である。
具体的には、以下の計算過程を経てひずみを算出する。
(i)変形前のデジタル画像において、任意の位置を中心とするサブセット内の輝度値の分布を求める。
(ii)変形後のデジタル画像の輝度値の分布と最も相関性が高い輝度値の分布を有する、変形前のデジタル画像のサブセットを探索し、その中心点を着目点が変位した後の位置として捉えて、着目点から該中心点へ変位した量を算出し、さらに該変位した量をひずみに変換する。なお、変形前後のサブセットの相関性は、下記(1)式の相関係数Rを用いて表す。
【数1】
【0016】
ただし、実際は、矩形に設定した変形前のサブセットに対し、変形後のデジタル画像そのものが変形しているため、サブセットが矩形にならない場合がある。この場合、これを補正するため、サブセット内部において変位勾配が一定と仮定して、変形前後の座標(x,y)および(x
*,y
*)には下記(2)式を用いる。
【数2】
以上の計算は、市販の画像解析用ソフトウエア(例えば、digital:Correlated solutions社製)を用いて行なうことができる。
【0017】
(F)歪度の絶対値の算出工程
該工程は、前記最大主ひずみの分布を用いて、あらかじめ設定したひずみの階級ごとに、最大主ひずみの度数分布を作成して、各促進養生期間における、該度数分布の歪度の絶対値を算出する工程である。
ひずみの階級は、例えば、ひずみを-10000μ未満から10000μ超まで、任意の間隔で刻んで得た各区間(階級)であり、該区間に含まれる最大主ひずみの度数を求め、該度数の分布を作成する。なお、ひずみの階級が正の値は膨張ひずみ、負の値は収縮ひずみを表し、最大主ひずみの階級の絶対値が大きい程、最大主ひずみは大きい。
また、歪度は、評価対象とする分布が正規分布からどれだけ歪んでいるかを表す統計量であって、左右対称性を示す指標であり、下記(3)式を用いて算出する。
【数3】
【0018】
(G)標準偏差の算出工程
該工程は、前記最大主ひずみの度数分布を用いて、任意の領域における最大主ひずみの度数分布の標準偏差を算出する工程である。
そして、最大主ひずみ分布の度数分布における前記歪度の絶対値が連続して増加する場合であって、かつ、任意の箇所における最大主ひずみの標準偏差も連続して増加する場合に、該セメント系材料はDEFの可能性が高いと判定する、
DEFに起因する膨張が進行すると、
図4に示すように、膨張ひずみの領域が多く分布し、最大主ひずみが集中する領域とそれ以外の領域の差異が顕著になる。したがって、データのバラツキ(標準偏差)の増加により、DEFによる膨張の進行を検知できる。なお、データの標準偏差を評価する領域は、エラーが生じやすい最大主ひずみが15000μを超える領域を除く領域であり、これによって、DEFと同じ膨張現象であって、膨張による標準偏差がより大きいアルカリシリカ反応に起因する膨張とDEFに起因する膨張を区別できる。
図6および
図7に示すように、歪度と標準偏差がともに増大している場合は、DEFに起因して供試体が膨張して、ひずみが集中する領域が生じ、これによりDEFの発生を知ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1、使用材料
使用した材料を表1に示す。
【0020】
2.供試体の作製と養生
図1に示す型枠内に、表2に示す配合のコンクリートを打設して、
図2に示す蒸気養生パターンで蒸気養生した後、材齢3日まで20℃で湿空養生して脱型し、縦400mm、横400mm、厚さ50mmの、骨材が露出していない平板状の供試体を作製した。なお、供試体の膨張を促進するため、セメント由来のSO
3100質量部に対し、硫酸カリウムを2質量部配合した。
次に、該供試体を(a)20℃の水中で7日間養生した後、(b)38℃、相対湿度が30%の恒温恒湿槽に入れて7日間養生し、さらに、前記(a)および(b)の養生をさらに1回繰り返した。なお、脱型までの湿空養生期間は水中養生期間に含める。
そして最後に、材齢28日で、エトリンガイトの遅延生成を促進するため、供試体を20℃の水中で15日間、24日間、および37日間促進養生した。
【0021】
【0022】
3.デジタル画像の取得
前記促進養生した後、
図1に示す点線の四角枠内の供試体の表面に、ランダムパターン(斑模様)を施した後、
図3に示すデジタル画像取得用スキャナー(ラインセンサタイプの全視野ひずみ計測装置、解像度:1200dpi)を用いて、供試体の四角枠内の表面を走査してデジタル画像を取得した。
ここで、「ランダムパターン」とは、測定対象面の輝度値に変化をもたせるために、白と黒のスプレーを用いて描かれた斑模様である。
【0023】
4.最大主ひずみの算出
前記取得したデジタル画像を、画像解析用ソフトウェアdigital(Correlated solutions社製)を用いて解析し、供試体の表面の最大主ひずみ(収縮ひずみと圧縮ひずみ)の分布をデジタル画像相関法により算出した。具体的には、下記(i)および(ii)の計算過程を経て最大主ひずみの分布を得た。
(i)供試体のデジタル画像において、任意の位置を中心とするサブセット内の輝度値の分布を求めた。
(ii)供試体のデジタル画像の輝度値の分布と最も相関性が高い輝度値の分布を有する、デジタル画像のサブセットを探索し、その中心点を着目点が移動(変位)した後の位置として捉えて、着目点から該中心点へ移動した距離(変位量)を算出し、さらに該移動した距離を最大主ひずみに変換した。
なお、供試体のデジタル画像におけるサブセットの相関性は、前記(1)式の相関係数Rを用いた。また、座標(x,y)および(x
*,y
*)は前記(2)式を用いた。
得られた最大主ひずみの分布を
図4に示す。
【0024】
5.最大主ひずみの度数分布の作成
前記「4.最大主ひずみの算出」において算出した最大主ひずみの値を用いて、ひずみの分布を示すため、表3と
図5の横軸に示す各ひずみの階級(ひずみを-10000μ未満から10000μ超まで、所定の間隔で刻んで得た各区間)内に含まれる最大主ひずみの度数を求めた。なお、ひずみの階級が正の値は膨張ひずみ、負の値は収縮ひずみを表し、最大主ひずみの階級の絶対値が大きい程、最大主ひずみは大きい。
促進養生期間が15日、24日、および37日の、各ひずみの階級における最大主ひずみの度数分布を表3と
図5に示した。
【0025】
【0026】
6.最大主ひずみの度数分布に基づく歪度の算出
表3および表3をグラフ化した
図5に示す最大主ひずみの度数分布に基づき、各促進養生期間における歪度の絶対値を算出し、最大主ひずみの度数分布の歪度(偏り)を
図6に示す。なお、DEFが発生しない供試体で得られた歪度は
図6に劣化なしとして破線で示した。
図6は、
図4の各促進養生期間の最大主ひずみの分布の偏り、すなわち、
図5の分布の偏りを表す。この絶対値が大きくなる程、膨張側に偏った分布になる。
図6に示すように歪度が、経時的に上昇していることから、最大主ひずみの分布は、供試体の膨張を示している。
【0027】
6.最大主ひずみの標準偏差の算出
最大主ひずみの度数分布の標準偏差を算出して、該度数分布におけるデータのバラツキを求めた。その結果を
図7に示す。なお、DEFが発生しない供試体で得られた標準偏差は、劣化なしとして
図7に破線で示した。
DEFに起因する膨張が進行すると、
図4に示すように、膨張ひずみの領域が多く分布し、最大主ひずみが集中する領域とそれ以外の領域の差異が顕著になる。したがって、データのバラツキ(標準偏差)の増加により、DEFによる膨張の進行を検知できる。なお、データの標準偏差を評価する領域は、エラーが生じやすい最大主ひずみが15000μを超える領域を除く領域であり、これによって、DEFと同じ膨張現象であって、膨張による標準偏差がより大きいアルカリシリカ反応に起因する膨張とDEFに起因する膨張を区別できる。
図7に示すように、標準偏差が経時的に増大していることから、DEFに起因して供試体が膨張して、ひずみが集中する領域が生じ、DEFの発生を知ることができた。