IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】けい酸質肥料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05D 3/04 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
C05D3/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020039657
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021014394
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019128787
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214184(JP,A)
【文献】特開2018-090456(JP,A)
【文献】特開2013-014492(JP,A)
【文献】特開2017-137203(JP,A)
【文献】特開2013-032269(JP,A)
【文献】特開2018-135237(JP,A)
【文献】特開2013-053061(JP,A)
【文献】特開2014-118311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00- 21/00
C05C 1/00- 13/00
C05D 1/00- 11/00
C05F 1/00- 17/993
C05G 1/00- 5/40
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
C02F 11/00- 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)およびモンティセライト(CaO・MgO・SiO)の合計の含有率が30質量%以上であるけい酸質肥料であって、
水-弱酸性陽イオン交換樹脂法により測定した水溶性けい酸の水溶率が13%以上、およびく溶性加里(C-K O)が0.5質量%以上である、けい酸質肥料。
【請求項2】
Oを1.0質量%以上、およびSiOを20質量%以上含むカリウム源に、マグネシウム源および/またはカルシウム源を、Mg/Caモル比が0.25~1.0およびCa/Siモル比が1.25~1.95になるように混合した混合原料を、焼成炉を用いて1275~1400℃で焼成した後、毎分30℃以下の速度で冷却してけい酸質肥料を製造する、請求項1に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【請求項3】
前記カリウム源がKOを3質量%以上含む、請求項2に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【請求項4】
前記カリウム源が草木竹の燃焼灰である、請求項2または3に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【請求項5】
前記焼成炉がロータリーキルンである、請求項2~4のいずれか1項に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【請求項6】
前記マグネシウム源および/またはカルシウム源が、流動床の砂媒体である、請求項2~5のいずれか1項に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【請求項7】
前記流動床の砂媒体が、かんらん岩および/または高炉スラグである、請求項6に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加里を含み、けい酸の水溶性と苦土のく溶性が高く、特に、けい酸の水溶性が高いけい酸質肥料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
けい酸質肥料は、ケイカル(ケイ酸カルシウム)とケイ酸カリ(ケイ酸カリウム)肥料があり、従来、稲作等に用いられてきた。これらの肥料のうち、ケイカルは製鋼過程で副生する鉄鋼スラグで、おもにSiO、CaO、およびAlを含み、土壌へのけい酸の補給や、アルカリ性化合物による酸性土壌の矯正等の効果がある。
しかし、ケイカルからのけい酸の溶出量(可溶性けい酸)は、0.5モルの塩酸水溶液中では30質量%を越えるが、土壌のpHである5~7程度では5質量%程度と少ない。そのため、水田1000m当たり約200kgものケイカルを施肥する場合があり、手間やコストの点から農家にとって負担が大きい。また、ケイカルは肥料の三要素である窒素、燐、および加里のいずれも含まないため、通常、肥料の三要素を含む他の肥料と多量のケイカルを混合する必要がある。例えば、中性域でも比較的けい酸の溶出量が多い熔成りん肥と混合する場合でも、ケイカルの混合量は、熔成りん肥40kgに対し200kgと多量になる。
【0003】
そこで、ケイカルの欠点であるけい酸の低い水溶性を改善したけい酸質肥料が、いくつか提案されている。
例えば、特許文献1に記載のけい酸質肥料は、特定の粒度を有するけい酸質組成物の粉末に、水への所定の溶解速度を有する有機質結合材(蔗糖や廃糖蜜)を添加して、造粒したけい酸質肥料である。そして、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて測定した1ヶ月以内の、該肥料のけい酸分の溶出量は16質量%以上である。
また、特許文献2に記載のけい酸質肥料は、前記有機質結合材が、糊化処理されたデンプンからなる肥料である。
そして、前記いずれのけい酸質肥料も、MgOを1~20質量%、SiO2を30~50質量%含有するほか、CaOおよびP25等を含有する非晶質物質である。
さらに、特許文献3に記載のけい酸質肥料は、主成分がSiO2、MgO、CaO、およびP25からなり、SiO2を12質量%以上30質量%未満含有し、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法で測定した10日以内のけい酸分の溶出量が10質量%以上である。しかし、該けい酸質肥料の製造方法では、バッチ方式による熔融スラグ化であるためエネルギー消費が多く、また生産効率が低いという課題がある。
また、特許文献4に記載のイネ科植物用肥料は、長石を含む砂を流動媒体に用いた流動層ボイラにより、バイオマス燃料が燃焼して排出される燃焼灰を含む肥料である。この発明によれば、燃料をその出所がはっきりしているバイオマス燃料とすることにより、湛水培養による珪酸溶出試験からイネ科植物用に好適な肥料が得られることが記されている。しかし、この方法で得られる、燃焼灰を含む肥料の全けい酸が56.17%(表1)であるのに対して、塩酸抽出法により可溶性珪酸が7.31%(表2)であるから、けい酸可溶率は13%程度と低いものにとどまる。
【0004】
ところで、前記ケイカルの原料である鉄鋼スラグは、製鋼スラグと高炉スラグに分類される。また、製鋼スラグはさらに電気炉スラグと転炉系スラグに分類され、高炉スラグはさらに高炉水砕スラグと高炉徐冷スラグに分類される。こられのスラグのうち、高炉水砕スラグの発生量が最も多く年間2000万トンにのぼり、鉄鋼スラグの全発生量の約半分を占める。高炉水砕スラグは、表1に示すように、けい酸、カルシウム、およびマグネシウムを多く含むが、カリウムとリンはほとんど含まない。そのため、高炉水砕スラグを原料にして製造したけい酸苦土肥料は、農用地に施肥する場合、肥料の三大成分である窒素、リン酸、加里を主成分とする肥料を別に施肥しなければならず、余分な作業を要する。
【0005】
【表1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-068871号公報
【文献】特開2002-068870号公報
【文献】特開2002-047081号公報
【文献】特開2019-85319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、原料の一部に、バイオマス発電所内の焼却過程で副生する焼却灰(以下「バイオマス燃焼灰」という。)等の廃棄物を用いて製造したけい酸質肥料であって、加里を含み、けい酸の水溶性と苦土のく溶性が高いけい酸質肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、近年、急速に進展しているバイオマス燃焼灰の有効利用技術に着目してきた。そして、原料の一部にバイオマス燃焼灰等のカリウムを含有する廃棄物を用いて製造したけい酸質肥料は、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記の構成を有するけい酸質肥料とけい酸質肥料の製造方法である。
【0009】
[1]メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)およびモンティセライト(CaO・MgO・SiO)の合計の含有率が30質量%以上であるけい酸質肥料であって、
水-弱酸性陽イオン交換樹脂法により測定した水溶性けい酸の水溶率が13%以上、およびく溶性加里(C-K O)が0.5質量%以上である、けい酸質肥料。
[2]KOを1.0質量%以上、およびSiOを20質量%以上含むカリウム源に、マグネシウム源および/またはカルシウム源を、Mg/Caモル比が0.25~1.0およびCa/Siモル比が1.25~1.95になるように混合した混合原料を、焼成炉を用いて1275~1400℃で焼成した後、毎分30℃以下の速度で冷却してけい酸質肥料を製造する前記[1]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
[3]前記カリウム源がKOを3質量%以上含む、前記[2]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
[4]前記カリウム源が草木竹の燃焼灰である、前記[2]または[3]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
[5]前記焼成炉がロータリーキルンである、前記[2]~[4]のいずれかに記載のけい酸質肥料の製造方法。
[6]前記マグネシウム源および/またはカルシウム源が、流動床の砂媒体である、前記[2]~[5]のいずれかに記載のけい酸質肥料の製造方法。
[7]前記流動床の砂媒体が、かんらん岩および/または高炉スラグである、前記[6]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のけい酸質肥料およびその製造方法は、以下の効果がある。
(i) 本発明のけい酸質肥料は、けい酸の水溶性と苦土のく溶性が高く、肥料の主要成分である加里を含み、けい酸肥効に加えてりん酸肥効を有する。
(ii) 本発明のけい酸質肥料は、将来、多量に余ると予想されるバイオマス焼却灰を、原料として有効利用できる。
(iii) 本発明のけい酸質肥料は焼成して製造するため、溶融して製造する溶融肥料に比べ、製造に要するエネルギーの消費が少なく、省エネルギーである。
(vi) 本発明のけい酸質肥料の製造方法において、焼成炉としてロータリーキルンを用いれば、連続生産が可能なため生産効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、けい酸質肥料とその製造方法に分けて詳細に説明する。
1.けい酸質肥料
本発明のけい酸質肥料は、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)およびモンティセライト(CaO・MgO・SiO)の合計の含有率が30質量%以上であるけい酸質肥料であって、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法により測定した水溶性けい酸の水溶率が13%以上、およびく溶性加里が0.5%以上である。なお、前記メルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率は、粉末X線回折により測定した結果を、リートベルト法で半定量して求めることができる。
【0012】
本発明のけい酸質肥料特有の技術的特徴は、焼成によりメルビナイトおよびモンティセライトが生成する点と、原料の一部にカリウム源としてカリウムを含む廃棄物を用いる点にある。カリウム源として、例えば、バイオマス燃焼灰は、もともとカリウムおよびリンを含んでいる草木竹、果樹、野菜、穀物、人糞、および畜糞の焼却により生じる残渣であるため、これらの燃焼灰を原料の一部に用いると、カリウムおよびリンがメルビナイトおよびモンティセライトの鉱物中に固定されて、けい酸の水溶率、並びに、苦土、加里、およびリン酸のく溶率が向上する。これにより、けい酸質肥料中のメルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率が30質量%以上の範囲であれば、後掲の表6に示すように、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸(W-SiO)は13.4%以上になる(実施例10、11)。なお、けい酸質肥料中のメルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0013】
また、けい酸質肥料の水溶性けい酸は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。さらに、けい酸質肥料のく溶性加里(C-KO)は、好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、Ca/Siモル比は、好ましくは1.25~1.95であり、Mg/Caモル比は、好ましくは0.25~1.0である。
さらに、本発明のけい酸質肥料の一部の原料に用いるカリウム源中のKOの含有率は、好ましくは1.0質量%以上である。該含有率が1.0質量%以上であれば、けい酸質肥料のく溶性加里量は0.5%以上となる。なお、カリウム源中のKOの含有率は、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5~10質量%である。そして、カリウム源は、バイオマス燃焼灰またはその焼却前の廃棄物、建設発生土、および火山噴出物等が挙げられる。バイオマス燃焼灰は、草木竹の燃焼灰、食品残渣の燃焼灰、下水汚泥焼却灰、および畜糞燃焼灰が挙げられる。これらの中でも、草木竹の燃焼灰は、KOの含有率がより高いので、けい酸質肥料のく溶性加里を容易に高めることができるため好ましい。
【0014】
草木竹の燃焼灰の中でも、バイオマス発電所および焼却施設から、安定した性状の焼却灰が多量に発生するパーム椰子殻灰(PKS灰)や下水汚泥焼却灰等が、反応性に優れているため、本発明で用いる原料として好適である。パーム椰子殻は、パーム油生産の副産物であり、天然バイオマス・エネルギー産業で主に使用されている。パーム椰子殻は、灰分の少ない黄褐色の繊維状物質で、その粒径は5~40mm程度であり、発熱量は4000Kcal/kg程度あるため、再生可能資源を用いたエネルギー生産において、パーム椰子殻は、近年、バイオマス発電の燃料としての利用が増えている。パーム椰子殻灰(PKS灰)の化学組成は、後掲の表2にその一例を示すように、SiOが56.7質量%、CaOが11.8質量%、MgOが1.8質量%、KOが4.7質量%、およびPが2.1質量%である。さらに、バイオマス燃焼灰は、加里およびリンなどの肥料成分を含むため、肥料の原料として有効利用できる。
【0015】
バイオマスを燃料にした発電方式には、バブリング流動床、循環流動層、ストーカ炉の3種類のボイラがあるが、バブリング流動床および循環流動層の2種類の炉では、燃焼時に流動媒体として砂を用いてバイオマス燃料を燃焼する。これらのうち、流動床方式で発生するパーム椰子殻灰は、流動床媒体の珪砂が摩耗してパーム椰子殻灰に混入するため、石英の含有率が高くなりやすい。パーム椰子殻灰のみを焼成しても、水溶性に乏しいクリストバライトやウォラストナイトが生成するのみで、けい酸の溶解性は向上しない。しかし、パーム椰子殻灰にマグネシウム源やカルシウム源を混合して焼成すると、メルビナイトやモンティセライトなどのケイ酸マグネシウムカルシウムが生成するが、モンティセライトよりもメルビナイトのほうが溶解性にすぐれているので、けい酸質肥料中のメルビナイトの含有率を高めるためには、好ましくは、メルビナイトの化学式(3CaO・MgO・2SiO)に合わせて、前記原料を混合するとよい。メルビナイト中のマグネシウムの固溶範囲は広いため、マグネシウムの固溶量が多いほど、すなわち、マグネシウムが多く固溶したメルビナイトを多く含む程、けい酸質肥料中のけい酸の水溶性は高くなる。なお、パーム椰子殻に限らず、パーム油を生産した際の残渣はいずれの部位も使用できる。
したがって、バイオマスの燃焼時の流動媒体に、かんらん岩または高炉スラグを用いれば、かんらん岩中のMgO、または高炉スラグ中のCaOが成分調整材として機能するため、これらを原料として用いると、後段の焼成肥料化の際の成分調整のためのマグネシウム(MgO)源またはカルシウム(CaO)源の添加量を削減できる。
【0016】
ここで、けい酸の水溶率とは、けい酸質肥料中の全けい酸に対する水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸の質量比率(%)である。また、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法は、中性(pH=7)付近でのけい酸分の溶解性を評価する方法であり、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いた水溶性けい酸は、以下の文献Aおよび文献Bに記載されている方法に準拠して測定できる。
【0017】
文献A:加藤直人著「農林水産省・農業環境技術研究所報告」16巻,9-75頁(1998)
文献B:加藤、尾和共著 Soil Sci.Plant Nutr.,43巻,2号,
351-359頁(1997)
【0018】
また、水溶性けい酸の測定でイオン交換樹脂を用いるのは、けい酸質肥料から溶出するアルカリ土類金属等のアルカリ性物質が溶液中に溶けて生ずるpHの上昇を、イオン交換樹脂のイオン交換能を利用して防止するためである。水田の土壌はほぼ中性でありpH緩衝能が高いため、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いると、実際の水田により近い環境下でけい酸の水溶性を評価できる。
なお、原料およびけい酸質肥料中の酸化物は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により定量できる。
【0019】
2.けい酸質肥料の製造方法
本発明のけい酸質肥料の製造方法は、KOを1.0質量%以上、およびSiOを20質量%以上含むカリウム源に、マグネシウム源および/またはカルシウム源を、Mg/Caモル比が0.25~1.0および/またはCa/Siモル比が1.25~1.95になるように混合した混合原料を、1275~1400℃で焼成した後、毎分30℃以下の速度で冷却してけい酸質肥料を製造する方法である。
【0020】
以下、本発明のけい酸質肥料の製造方法について、必須の工程である、原料の混合工程、混合原料の焼成工程、および、焼成物の冷却工程に分けて詳細に説明する。
【0021】
(1)原料の混合工程
該工程は、けい酸質肥料(焼成物)中のメルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率が30質量%以上、およびMg/Caモル比が0.25~1.0、Ca/Siモル比が1.25~1.95、になるように、カリウム源、並びに、マグネシウム源および/またはカルシウム源を混合して混合原料(焼成用原料)を得る工程である。前記原料は、混合し易い粒度にするため、ボールミル、ローラーミル、またはロッドミル等で粉砕してもよい。
【0022】
また、原料の混合方法は、例えば、各原料の一部を電気炉等で焼成した後、該焼成灰中の酸化物を定量し、該定量値と所定の配合に基づき、各原料を混合する方法が挙げられる。該酸化物は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により定量できる。焼成前の原料の化学組成は、焼成による揮発成分(CO、HO等)を除き、焼成物の化学組成とほぼ同一であるから、例えば、Mg/Caモル比が0.25~1.0、Ca/Siモル比が1.25~1.95となる焼成物を得るためには、通常、MgOおよびCaO等の含有率が該範囲を満たす焼成用原料を用いれば十分である。ただし、正確を期すためには、該原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中のMgOおよびCaO等の含有率と、該焼成物中のMgOおよびCaO等の含有率との相関を事前に把握しておき、該相関に基づき、原料の混合割合を、目的とする焼成物中のMgOおよびCaO等の含有率になるように修正するとよい。
【0023】
また、前記マグネシウム源は、けい酸質肥料中のMg/Caモル比が0.25~1.0の範囲になるように調製するために用いる。Mg/Caモル比が0.25以上では、マグネシウムを構成元素とするメルビナイトがより多く生成するため、けい酸質肥料中のけい酸の水溶性は高くなる。Mg/Caモル比が0.25未満では、ビーライトの生成量が多くなり、農用地に施肥した場合、肥料から溶出したカルシウムイオンが、肥料の周囲の土壌を過度にアルカリ性にしたり、その他の肥料の溶解成分を阻害するおそれがある。Mg/Caモル比が1.0を越えると、未反応のMgOがペリクレースとして残り、相対的にメルビナイトおよびモンティセライトの生成量が減少して、水溶性けい酸が低下する。
該マグネシウム源は、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、かんらん岩、蛇紋岩、およびドロマイト等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記カルシウム源は、けい酸質肥料中のCa/Siモル比が1.25~1.95の範囲内になるように調製するために用いる。Ca/Siモル比が1.25未満では、オケルマナイトおよびフォルステライトの生成量が増加する一方、メルビナイトおよびモンティセライトの生成量が減少して、けい酸の水溶性が低下する。Ca/Siモル比が1.95を越えると、ケイ酸二カルシウムに属するビーライト、およびブレディジャイトの生成量が多くなり、農用地に施肥した場合、肥料から溶出したカルシウムイオンが、肥料の周囲の土壌を過度にアルカリ性にしたり、その他の肥料成分の溶解を阻害するおそれがある。なお、けい酸質肥料中のCa/Siモル比は、好ましくは1.55~1.95である。
カルシウム源を添加する場合でも、カリウム源中のKOの含有率は、好ましくは1.0質量%以上、およびSiOの含有率は、好ましくは20質量%以上にする必要がある。カリウム源中のKOの含有率は、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5~10質量%である。該カルシウム源は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、セメント、廃コンクリート、生コンスラッジ、高炉スラグ、および、ケイ酸カルシウムを含む廃棄建材から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0024】
さらに、化学組成比を調整するための原料として、ケイ酸源を用いることができる。該ケイ酸源は、石炭灰、珪石、珪砂、鋳物砂、白土、ゼオライト、珪藻土、火山灰、廃コンクリート、生コンスラッジ、および、ケイ酸カルシウムを含む廃棄建材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、ケイ酸源中のSiOの含有率は、化学組成比の調整が容易なため、好ましくは50質量%以上である。なお、前記ケイ酸源のうち、廃コンクリート、生コンスラッジ、および、ケイ酸カルシウムを含む廃棄建材等は、カルシウム源としても機能する。
【0025】
(2)混合原料の焼成工程
該工程は、前記混合原料を、焼成炉を用いて焼成する工程である。前記混合原料は、粉末の状態、該粉末に水を添加してスラリーにした状態、または脱水ケーキの状態で焼成する。また、焼成効率をより高めるため、前記粉末を、パンペレタイザー等の造粒機や、ブリケットマシン、ロールプレス等の成形機で、それぞれ造粒や成形してから焼成するとよい。
前記焼成工程において、焼成温度は好ましくは1275~1400℃である。該温度が1275℃未満では、焼成が不十分でけい酸の水溶性が低くなるおそれがあり、1400℃を超えると焼成物が溶融して操業が困難になるおそれがある。また、前記焼成炉は、連続生産が可能なため、好ましくはロータリーキルンである。また、焼成時間は、好ましくは10~60分、より好ましは20~40分である。該時間が10分未満では焼成が不十分であり、60分を超えると生産効率が低下する。
【0026】
(3)焼成物の冷却工程
該工程は、けい酸質肥料中にメルビナイトおよびモンティセライトが生成するための必須の工程であり、冷却速度は毎分30℃以下である。冷却速度が毎分30℃を超えると、メルビナイトおよびモンティセライトの生成量が減少する傾向にある。
【0027】
(4)粉砕および造粒工程
該工程は、前記焼成物の粒度を調整するための工程であり、粉塵の発生を抑制して、肥料の取り扱いを容易にするためや、肥料の効果を十分に高めるために、肥料の粒度を調整する必要がある場合に選択する任意の工程である。該粒度は0.1~10mmが好ましく、0.5~5mmがより好ましい。
粉砕手段として、例えば、ジョークラッシャー、ローラーミル、ボールミル、またはロッドミル等を用いることができる。また、造粒手段として、例えば、パン型ミキサー、パンペレタイザー、ブリケットマシン、ロールプレス、または押出成型機等を用いることができる。
また、該工程において、肥料の用途に応じて、適宜、りん酸の成分を追加したり、窒素、加里等のその他の肥料成分を、新たに添加することができる。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
けい酸質肥料の製造例 1
表2に示す化学組成を有する各種原料を用い、表3に示す実施例1~3、および比較例1~3の配合に従い混合して混合原料を調製した。次に、該混合原料を用いて、一軸加圧成形機により、直径40mm、厚さ10mmの円柱状のペレットを成型した。さらに、該ペレットを、電気炉内に載置した後、昇温速度20℃/分で、表4に示す温度まで昇温し、該温度の下で10分間焼成して焼成物を得た。温度制御器の冷却速度の設定は25℃/分としたが、900℃までは温度制御器の設定に追従するものの、900℃より低い温度では冷却速度はこれより遅くなるので自然放冷とした。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて目開き600μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のけい酸質肥料(実施例1~3、比較例1~3)を製造した。なお、焼成後のけい酸質肥料の化学組成は、焼成前の混合原料の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であった。
なお、原料とけい酸質肥料中の酸化物は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により定量した。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
(1)けい酸の水溶率の算出、加里、苦土、およびリン酸のく溶率の算出、並びに、鉱物の定量
(i)全けい酸、全加里、全苦土、および全リン酸の測定
けい酸質肥料中の全けい酸、全加里、全苦土、および全リン酸は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定する方法に準拠して測定した。
(ii)水溶性けい酸の測定とけい酸の水溶率の算出
水溶性けい酸の測定とけい酸の水溶率の算出は、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて以下の手順で行った。
すなわち、あらかじめ水酸化ナトリウム水溶液と希塩酸を用いて逆再生処理したイオン交換樹脂(アンバーライトIRC-50、オルガノ社製)2gと純水1リットルが入った樹脂製のビーカー内に、前記実施例1~3、および比較例1~3のけい酸質肥料の、それぞれ0.2gを入れて、マグネチックスターラーで静かに10分間撹拌した後、10日間静置した。この10日間が経過した後、再度、マグネチックスターラーで静かに10分間撹拌して、30分間静置し、上澄み液2mlをメスフラスコに分取して、塩酸(1+1)の1mlを添加した後、20mlに希釈した。これをICP発光分析法により、溶液中のSiの濃度を定量してSiOの濃度に換算して水溶性けい酸を測定し、全けい酸に対する水溶性けい酸の質量比率であるけい酸の水溶率を算出した。
(iii)く溶性加里、く溶性苦土、およびく溶性リン酸の測定と、く溶率の算出
く溶性の測定およびく溶率の算出は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されている、2質量%のクエン酸水溶液を用いた方法に従い、く溶性加里、く溶性苦土、およびく溶性リン酸を測定して、それぞれ、全加里、全苦土、および全りん酸に対するく溶性の比率であるく溶率を算出した。
(iv)鉱物の定量
電気炉により焼成した焼成物を構成する鉱物は、粉末X線回折装置D8 ADVANCE(Bruker AXS社製)を用いて同定した。測定条件は、ターゲットCuKα、管電圧35kV、管電流350mA、走査範囲2θ=10~65°、ステップ幅0.023°、計測時間0.13秒/ステップにした。鉱物を同定した結果、焼成物は、オケルマナイト、メルビナイト、モンティセライト、ビーライト、ブレディジャイト、スピネル、およびぺリクレース等で構成されていた。次に、前記同定した鉱物は、リートベルト解析ソフトTOPAS Ver2.1(Bruker AXS社製)を用いて定量した。
これらの結果を表4に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
表4に示すように、本発明のけい酸質肥料は、メルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率が63.4質量%以上で、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸が23.8%以上、く溶性加里が0.54%以上、およびく溶性りん酸が0.96%以上と高かった。これに対して、高炉水砕スラグを用いて製造したケイ酸質肥料(比較例1)は、メルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率は77.6%、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸も25.3%と高いものの、く溶性加里は0.18%、およびく溶性りん酸は0.05%であった。これにより、KOを4.73質量%およびSiOを56.7質量%含むバイオマス燃焼灰(表2、PKS灰)を原料の一部に用いると、肥料の効果が向上することが示された。
【0034】
けい酸質肥料の製造例 2
前述のとおり、バイオマス燃焼灰の有効性が示されたので、前記けい酸質肥料の製造例1と同様の方法により、表5に示す配合に従い、PKS灰、および、高Mg含有石灰石または高純度石灰石、および酸化マグネシウムを混合し、表6に示す異なるCa/Siモル比、Mg/Caモル比、および温度で焼成してけい酸質肥料を製造した。
また、製造したけい酸質肥料の水溶性けい酸、メルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸、けい酸の水溶率、く溶性加里、および加里のく溶率等を、前記(i)~(iv)と同様に測定・算出して、その結果を表6に示した。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
表6に示すように、本発明のけい酸質肥料(実施例4~27)は、メルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率が31.7(実施例4)~78.9質量%(実施例20)、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸が13.4(実施例10、11)~23.6%(実施例18)、く溶性加里が0.77(実施例10、11)~1.17%(実施例18)と高い。これに対して、Ca/Siモル比が1.98を超えるけい酸質肥料(比較例4~12)は、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸は20.3%(比較例12)以上、く溶性加里が0.55%(比較例9)以上と高いが、メルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率は17.3質量%(比較例11)以下と低く、ケイ酸二カルシウムに属するビーライトおよびブレディジャイトの生成量が多い。これらケイ酸二カルシウムは、実際に農用地に施肥した場合、肥料から溶出したカルシウムイオンが、肥料の周囲の土壌を過度にアルカリ性にし、肥料の溶解を阻害するおそれがある。
【0038】
けい酸質肥料の製造例 3
出力2万kwの循環流動床式において、表7に示す流動媒体を用い、表7に示す化学組成のPKS灰A~Cを得た。次に、前記けい酸質肥料の製造例1と同様の方法により、表8に示す配合に従い、各PKS灰、高Mg含有石灰石、および酸化マグネシウムを混合して混合原料を調製し、表9に示す温度で焼成してケイ酸質肥料(実施例28~30)を製造した。
また、製造したけい酸質肥料中のメルビナイトおよびモンティセライトの合計の含有率、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸、けい酸の水溶率、く溶性加里、および加里のく溶率を、前記(i)~(iv)と同様に測定・算出して、その結果を表9に示した。
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
表7に示すように、流動床媒体として、かんらん岩または高炉スラグを用いて得られたPKS灰は、SiOの含有率が低いため(表7)、表9に示す肥料分析による肥料特性は同等であるにもかかわらず、表8に示すように流動床媒体として珪砂を用いて得られたPKS灰よりも、Mg源(高Mg含有石灰石)の混合量を削減できた。
【0043】
以上の結果から、本発明のけい酸質肥料は、けい酸の水溶性、並びに、苦土および加里のく溶性が高く、また、バイオマス燃焼灰の新たな用途を提供できる。また、本発明のけい酸質肥料の製造方法は、溶融による溶融肥料の製造に比べ、焼成におけるエネルギー消費が少ないため、省エネルギーに寄与できるとともに、ロータリーキルンを用いた場合、連続生産ができるため生産効率が高い。