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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】三重特異性結合タンパク質と使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20231228BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231228BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231228BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231228BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231228BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231228BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 39/44 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C07K16/46
C12N15/62 Z
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C07K19/00
A61P31/12
A61P31/04
A61P37/06
A61P9/10 101
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P37/00
A61P31/00
A61P37/08
A61P33/00
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K48/00
A61K47/68
A61P29/00
A61K39/44
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021106877
(22)【出願日】2021-06-28
(62)【分割の表示】P 2020066802の分割
【原出願日】2016-05-20
(65)【公開番号】P2021168661
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】62/165,153
(32)【優先日】2015-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/165,833
(32)【優先日】2015-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/305,088
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517403846
【氏名又は名称】ハープーン セラピューティクス,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボイエルレ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】イブニン,ルーク
(72)【発明者】
【氏名】ゲノ,ジャンマリー
(72)【発明者】
【氏名】ラマクリシュナン,ヴァニタ
(72)【発明者】
【氏名】ウェシェ,ホルガ―
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501135(JP,A)
【文献】特表2007-535915(JP,A)
【文献】特表2015-509951(JP,A)
【文献】Gynecologic Oncology,2004年,Vol.92,pp.135-146
【文献】Protein Engineering, Design & Selection,2010年,Vol.23, No.11,pp.827-834
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2007年,Vol.282, No.17,pp.12650-12660
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三重特異性抗原結合タンパク質であって、
ここで、前記三重特異性抗原結合タンパク質は、
(a)ヒトCD3に特異的に結合する単鎖可変フラグメント(scFv)を含む第1のドメイン(A)、
(b)ヒト血清アルブミンと結合する単一ドメイン抗体(sdAb)を含む第2のドメインであって、ここで、第2のドメインは配列番号47のアミノ酸配列を含む、第2のドメイン(B)、および、
(c)EGFR、PSMA、HER2またはMSLNである標的腫瘍抗原に特異的に結合するscFvまたはsdAbを含む第3のドメイン(C)を含み、
ここで、ドメインは、HN-(C)-(B)-(A)-COOHの順序で、あるいはリンカーL1とL2によってHN-(C)-L1-(B)-L2-(A)-COOHの順序で、結合され、
前記L1と前記L2は、それぞれ独立して、0~50のアミノ酸残基からなるリンカーである、
三重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記第1のドメインはヒト化されるか、あるいはヒトである、請求項1に記載の三重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記第1のドメインはCD3ε(イプシロン)に特異的である、請求項1に記載の三重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項4】
前記第1のドメインはカニクイザルのCD3に交差反応性を有する、請求項1に記載の三重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項5】
請求項1の三重特異性抗原結合タンパク質のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
(i)請求項1の三重特異性抗原結合タンパク質、および(ii)薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項8】
(i)請求項6のベクター、および(ii)薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<相互参照>
本出願は、2016年3月8日に出願された米国仮特許出願62/305,088号;2015年5月22日に出願された米国仮特許出願62/165,833号;および、2015年5月21日に出願された米国仮特許出願62/165,153号の利益を主張し、文献はすべて参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出され、参照によって本明細書に組み込まれる配列表を含んでいる。2016年5月17日に作成された上記のASCIIコピーは、47517_701_601_SL.txtと命名され、128,516バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
個々の細胞あるいは特定細胞型の選択的な破壊は、様々な臨床設定においてしばしば望まれることである。例えば、腫瘍細胞を特異的に破壊しつつ、健康な細胞と組織を無傷のまま損傷を与えずに残すことが癌治療の主要な目的である。そのような1つの方法は、ナチュラルキラー(NK)細胞あるいは細胞毒性Tリンパ球(CTL)などの免疫エフェクター細胞に、腫瘍細胞を攻撃および破壊させるために、腫瘍に対する免疫反応を引き起こすことによるものである。
【発明の概要】
【0004】
三重特異性抗原結合タンパク質、その医薬組成物、同様に、そのような三重特異性抗原結合タンパク質を作るための核酸、組換え発現ベクター、および宿主細胞、ならびに、疾患、障害、あるいは疾病の処置のための使用の方法が本明細書で提供される。1つの態様において、三重特異性抗原結合タンパク質が本明細書に記載され、前記タンパク質は(a)ヒトCD3に特異的に結合する第1のドメイン(A);(b)半減期拡張ドメインである第2のドメイン(B);および、(c)標的抗原に特異的に結合する第3のドメイン(C)を含み、ここで、ドメインは、リンカーL1とL2によって、HN-(A)-(B)-(C)-COOH、HN-(A)-(C)-(B)-COOH、HN-(B)-(A)-(C)-COOH、HN-(B)-(C)-(A)-COOH、HN-(C)-(B)-(A)-COOH、あるいは、HN-(C)-(A)-(B)-COOHの順序で結合される。
【0005】
さらにある態様では、三重特異性抗原結合タンパク質が本明細書で提供され、ここで、前記タンパク質は、(a)ヒトCD3に特異的に結合する第1のドメイン(A);(b)半減期拡張ドメインである第2のドメイン(B);および、(c)標的抗原に特異的に結合する第3のドメイン(C)を含み、ここで、ドメインは、リンカーL1とL2によって、HN-(A)-(C)-(B)-COOH、HN-(B)-(A)-(C)-COOH、HN-(C)-(B)-(A)-COOHの順序で結合される。
【0006】
さらに、ある態様では、三重特異性抗原結合タンパク質が本明細書で提供され、ここで、前記タンパク質は、(a)ヒトCD3に特異的に結合する第1のドメイン(A);(b)半減期拡張ドメインである第2のドメイン(B);および、(c)標的抗原に特異的に結合する第3のドメイン(C)を含み、ここで、ドメインは、リンカーL1とL2によって、HN-(A)-(B)-(C)-COOH、HN-(A)-(C)-(B)-COOH、HN-(B)-(A)-(C)-COOH、HN-(B)-(C)-(A)-COOH、HN-(C)-(B)-(A)-COOH、またはHN-(C)-(A)-(B)-COOHの順序で結合し、および、第1のドメインは、100nMを超えるKでヒトCD3に結合する。
【0007】
さらに、ある態様では、三重特異性抗原結合タンパク質が本明細書で提供され、ここで、前記タンパク質は、(a)ヒトCD3に特異的に結合する第1のドメイン(A);(b)半減期拡張ドメインである第2のドメイン(B);および、(c)標的抗原に特異的に結合する第3のドメイン(C)を含み、ここで、ドメインは、リンカーL1とL2によって、HN-(A)-(B)-(C)-COOH、HN-(A)-(C)-(B)-COOH、HN-(B)-(A)-(C)-COOH、HN-(B)-(C)-(A)-COOH、HN-(C)-(B)-(A)-COOH、またはHN-(C)-(A)-(B)-COOHの順序で結合し、および、タンパク質は55KDa未満の分子量を有する。
【0008】
さらに、ある態様では、三重特異性抗原結合タンパク質が本明細書で提供され、ここで、前記タンパク質は、(a)ヒトCD3に特異的に結合する第1のドメイン(A);(b)半減期拡張ドメインである第2のドメイン(B);および、(c)標的抗原に特異的に結合する第3のドメイン(c)を含み、ここで、ドメインは、リンカーL1とL2によって、HN-(A)-(B)-(C)-COOH、HN-(A)-(C)-(B)-COOH、HN-(B)-(A)-(C)-COOH、HN-(B)-(C)-(A)-COOH、HN-(C)-(B)-(A)-COOH、またはHN-(C)-(A)-(B)-COOHの順序で結合し、および、Bは、血清アルブミンに結合する単一ドメイン抗体を含む。
【0009】
三重特異性抗原結合タンパク質の様々な実施形態も本明細書で提供され、単独で、または組み合わせて、本明細書に記載される任意の態様について企図される。いくつかの実施形態において、第1のドメインは、各々がヒトCD3に特異的に結合することができる、可変軽鎖と可変重鎖を含む。いくつかの実施形態において、可変軽鎖はλ(ラムダ)軽鎖である。いくつかの実施形態において、可変軽鎖はκ(カッパ)軽鎖である。いくつかの実施形態において、第1のドメインはヒトCD3に特異的な単鎖可変フラグメント(scFv)を含む。いくつかの実施形態において、第1のドメインはCD3ε(イプシロン)に特異的である。いくつかの実施形態において、第1のドメインはCD3δ(デルタ)に特異的である。いくつかの実施形態において、第1のドメインはCD3γ(ガンマ)に特異的である。いくつかの実施形態において、第1のドメインは、ムロモナブ-CD3(OKT3)、オテリキシズマブ(TRX4)、テプリズマブ(MGA031)、ビジリズマブ(Nuvion)、SP34、X35、VIT3、BMA030(BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111-409、CLB-T3.4.2、TR-66、WT32、SPv-T3b、11D8、XIII-141、XIII-46、XIII-87、12F6、T3/RW2-8C8、T3/RW2-4B6、OKT3D、M-T301、SMC2、F101.01、UCHT-1、およびWT-31からなる群から選択された相補性決定領域(CDR)を含む。いくつかの実施形態において、第1のドメインはヒト化されるか、あるいはヒトである。いくつかの実施形態において、第1のドメインは、CD3発現細胞上でCD3に対して1000nM以下のK結合を有する。いくつかの実施形態において、第1のドメインは、CD3発現細胞上でCD3に対して100nM以下のK結合を有する。いくつかの実施形態において、第1のドメインは、CD3発現細胞上でCD3に対して10nM以下のK結合を有する。いくつかの実施形態において、第1のドメインはカニクイザルのCD3との交差反応性を有する。いくつかの実施形態において、第1のドメインは、本明細書で提供されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、第2のドメインはヒト血清アルブミンと結合する。いくつかの実施形態において、第2のドメインはscFv、可変重鎖ドメイン(VH)、可変軽鎖ドメイン(VL)、単一ドメイン抗体、ペプチド、リガンド、あるいは小分子を含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインはscFvを含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインはVHドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインはVLドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインは単一ドメイン抗体を含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインはペプチドを含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインはリガンドを含む。いくつかの実施形態において、第2のドメインは小分子実体を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、第3のドメインは、標的抗原に特異的に結合するscFv、VHドメイン、VLドメイン、非Igドメイン、リガンド、ノッチン、あるいは小分子実体を含む。いくつかの実施形態において、第3のドメインは細胞表面分子に特異的である。いくつかの実施形態において、第3のドメインは腫瘍抗原に特異的である。
【0012】
いくつかの実施形態において、リンカーL1とL2はペプチドリンカーである。いくつかの実施形態において、リンカーL1とL2は独立して約20以下のアミノ酸残基からなる。いくつかの実施形態において、リンカーL1とL2は各々、(GS)(SEQ ID NO:49)、(GGS)(SEQ ID NO:50)、(GGGS)(SEQ ID NO:51)、(GGSG)(SEQ ID NO: 52)、(GGSGG)(SEQ ID NO:53)、あるいは、(GGGGS)(SEQ ID NO:54)から独立して選択され、ここで、nは1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10である。いくつかの実施形態において、リンカーL1とL2は、各々独立して(GGGGS)(SEQ ID NO:55)または(GGGGS)(SEQ ID NO:56)である。いくつかの実施形態において、リンカーL1とL2は化学的リンカーである。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1のドメインはタンパク質のN末端にある。いくつかの実施形態において、第2のドメインはタンパク質のN末端にある。いくつかの実施形態において、第3のドメインはタンパク質のN末端にある。いくつかの実施形態において、第1のドメインはタンパク質のC末端にある。いくつかの実施形態において、第2のドメインはタンパク質のC末端にある。いくつかの実施形態において、第3のドメインはタンパク質のC末端にある。
【0014】
いくつかの実施形態において、タンパク質は約80KDa未満である。いくつかの実施形態において、タンパク質は約50~約75KDaである。いくつかの実施形態において、タンパク質は約50KDa未満である。いくつかの実施形態において、タンパク質は約40KDa未満である。いくつかの実施形態において、タンパク質は約20~約40KDaである。いくつかの実施形態において、タンパク質は少なくとも約50時間の消失半減期を有する。いくつかの実施形態において、タンパク質は少なくとも約100時間の消失半減期を有する。いくつかの実施形態において、タンパク質は、同じ標的抗原へのIgGと比較して、組織への浸透性を増加させた。
【0015】
さらに、別の態様において、上記の実施形態のいずれか1つに係る三重特異性抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドも本明細書で提供される。別の態様では、記載されたポリヌクレオチドを含むベクターが本明細書で提供される。別の態様において、記載されたベクターで形質転換された宿主細胞が本明細書で提供される。
【0016】
さらに別の態様において、上記の実施形態のいずれかの三重特異性抗原結合タンパク質、上記の実施形態のいずれかの三重特異性抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、記載されたポリヌクレオチドを含むベクター、あるいは上記の実施形態のいずれかのベクターで形質転換された宿主細胞、および薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物が本明細書で提供される。
【0017】
さらに、本明細書に記載される態様と実施形態のいずれかに係る三重特異性抗原結合タンパク質の産生のプロセスも本明細書で提供され、上記プロセスは、タンパク質の発現を可能にする条件下で本明細書に記載される任意の三重特異性抗原結合タンパク質をコードする核酸配列を含むベクターで形質転換されたかトランスフェクトされた宿主を培養する工程と、培養物から生成されたタンパク質を回収および精製する工程とを含む。
【0018】
さらに、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫学的疾患、自己免疫性疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性反応、移植片対宿主疾患、あるいは宿主対移植片疾患の処置改善のための方法も本明細書に記載され、該方法は、そのような処置または改善を必要とする被験体に上記の実施形態のいずれかの三重特異性抗原結合タンパク質を投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、被験体はヒトである。いくつかの実施形態において、方法はさらに、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質と組み合わせて薬剤を投与する工程を含む。
【0019】
<参照による組み込み>
本明細書で言及される全ての出版物、特許、および特許出願は、あたかも個々の出版物、特許、または特許出願が引用によって組み込まれるよう具体的かつ個別に示されるかのような同程度まで引用により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の新規な特徴は、特に添付の請求項で説明されている。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が用いられる実施形態を説明する以下の詳細な説明と、以下の添付図面とを引用することによって得られるであろう。
図1】典型的な三重特異性抗原結合タンパク質の略図であり、タンパク質は抗CD3ε単鎖可変フラグメント(scFv)と抗HSA可変重鎖領域を含む不変のコアエレメントと、VH、scFv、非Ig結合剤、あるいはリガンドであり得る可変標的結合ドメインとを有する。
図2】最適な組織への浸透のために構築された追加の典型的な三重特異性抗原結合タンパク質の略図である。図2の左は、そのすべてのドメインのための単一ドメイン抗体フラグメントを含む典型的な三重特異性抗原結合タンパク質である。図2の真ん中は、標的抗原に結合するノッチンを含む典型的な三重特異性抗原結合タンパク質である。図2の右は、標的抗原に結合する天然のリガンドを含む典型的な三重特異性抗原結合タンパク質である。
図3】三重特異性抗原結合タンパク質に小分子実体結合剤を結合させる概略図である。三重特異性抗原結合タンパク質はその標的抗原結合ドメインとしてソルターゼ認識配列を含む。ソルターゼとグリシンが結合した小分子結合剤でタンパク質をインキュベートする際、ソルターゼは認識部位上に小分子結合剤を連結するか、抱合する。図はSEQ ID NO:60として「LPETGG」を、SEQ ID NO:57として「LPETG」を開示する。
図4】これらの三重特異性の抗原結合分子の3つのドメインを配置することができる、6つの様々な方法の概略図である。
図5】BiTE分子(Lutterbuese et al. 2007. PNAS 107: 12605-12610からのEGFR標的化BiTEとPSMA標的化BiTEパソツキシズマブ(pasotuxizumab))の能力を、腫瘍細胞を死滅させるように初代ヒトT細胞を誘発する三重特異性分子を含むEGFRおよびPSMA標的化VHドメインの能力と比較する。
図6】EGFR標的化VHドメインを含む三重特異性分子の6つの起こり得る構成がすべて、ヒト腫瘍細胞株NCI-1563を死滅させるようにT細胞を誘発することができることを示す。実験は、陽性対照としてEGFR標的化BiTEを用いて、ヒト血清アルブミンがない状態(左側)とある状態(右側)で行われた。
図7】ヒト腫瘍細胞株22Rv1を死滅させるようにT細胞を誘発するためにPSMA標的化VHドメインを含む三重特異性分子の5つの起こり得る構成の能力を評価する。実験は、陽性対照としてPSMA標的化BiTEを用いて、ヒト血清アルブミンがない状態(左側)とある状態(右側)で行われた。さらに、PSMA標的化scFvを備えたPSMA標的化三重特異性分子の活性が示されている。
図8】三重特異性分子が、抗CD3ε単鎖可変フラグメント(scFv)と抗HSA可変重鎖領域を含む不変のコアエレメントと、scFvでありうる可変標的結合ドメインとからなり得ることを示す。
図9】腫瘍標的化のための抗体に由来するドメインとは対照的に、fynomerを使用する三重特異性分子が腫瘍細胞を死滅させるようにT細胞を誘発することができるということを実証する。
図10】EGFR標的化三重特異性分子がヒトCaPan2腫瘍細胞を死滅させるようにT細胞に再指示すると(パネルA)、T細胞は活性化され、三重特異性の投与量に依存した方法でサイトカインTNF-α(パネルB)とIFNγ(パネルC)を産生することを示す。
図11】PSMA標的化三重特異性分子がヒト22Rv1腫瘍細胞(パネルA)を死滅させるようにT細胞に再指示すると、T細胞は活性化され、三重特異性の投与量に依存した方法でサイトカインTNF-α(パネルB)とIFNγ(パネルC)を産生することを示す。
図12】MSLN標的化三重特異性分子が従来の抗体よりも速くマトリゲルを介して移動することができることを示す。
図13】ビオチンCD3εとビオチン-HSA上でのファージ滴定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
三重特異性抗原結合タンパク質、その医薬組成物、同様にそのような三重特異性抗原結合タンパク質を作るための核酸、組換え発現ベクター、および宿主細胞が本明細書で提供される。さらに、疾患、疾病、および障害の予防および/または処置において、開示された三重特異性抗原結合タンパク質を使用する方法も提供される。三重特異性抗原結合タンパク質は、CD3同様に標的抗原に、およびドメイン結合ヒト血清アルブミン(HSA)などの半減期拡張ドメインに特異的に結合することができる。図1は、三重特異性抗原結合タンパク質の1つの非限定的な例を描く。
【0022】
1つの態様において、三重特異性抗原結合タンパク質は、CD3に特異的に結合するドメイン(A)、ヒト血清アルブミン(HSA)に特異的に結合するドメイン(B)、および標的抗原に特異的に結合するドメイン(C)を含む。三重特異性抗原結合タンパク質中の3つのドメインは任意の順序で配置される。したがって、三重特異性抗原結合タンパク質のドメイン順序は以下のとおり企図される:
N-(A)-(B)-(C)-COOH、
N-(A)-(C)-(B)-COOH、
N-(B)-(A)-(C)-COOH、
N-(B)-(C)-(A)-COOH、
N-(C)-(B)-(A)-COOH、または
N-(C)-(A)-(B)-COOH。
【0023】
いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、HN-(A)-(B)-(C)-COOHのドメイン順序を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、HN-(A)-(C)-(B)-COOHのドメイン順序を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、HN-(B)-(A)-(C)-COOHのドメイン順序を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、HN-(B)-(C)-(A)-COOHのドメイン順序を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、HN-(C)-(B)-(A)-COOHのドメイン順序を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、HN-(C)-(A)-(B)-COOHのドメイン順序を有する。
【0024】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は随意に、表6あるいは表7に記載される配列(SEQ ID NOS:1-48)を有するポリペプチド、およびその部分配列を含む。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、表6あるいは表7に記載される配列(SEQ ID NOS:1-48)に対して少なくとも70%-95%あるいはそれ以上の相同性を有するポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、表6あるいは表7に記載される配列(SEQ ID NO:1-48)に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、あるいはそれ以上の相同性を有するポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、表6あるいは表7に記載される配列(SEQ ID NOS:1-48)の少なくとも一部を含む配列を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、表6あるいは表7に記載される配列(SEQ ID NOS:1-48)の1つ以上を含むポリペプチドを含む。
【0025】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、細胞毒性T細胞を補充することにより標的抗原を発現する細胞の特異的な標的化を可能にすることを目的としている。これは、単独の抗原に向けられた完全長の抗体を使用し、細胞毒性T細胞を直接補充することができないADCC(抗体依存性細胞毒性)と比較して、有効性を改善する。対照的に、これらの細胞で特異的に発現されたCD3分子を結合することにより、三重特異性抗原結合タンパク質は、非常に特異的なやり方で細胞毒性T細胞を、標的抗原を発現する細胞と架橋することができ、それによって、T細胞の細胞毒性の可能性を標的細胞へ向けることができる。本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、TCRの一部を形成する、表面発現されたCD3タンパク質に結合することによって細胞毒性T細胞と結合する。特定の細胞の表面上で発現されたCD3および標的抗原への複数の三重特異性抗原結合タンパク質の同時の結合は、T細胞活性化を引き起こされ、細胞を発現する特定の標的抗原のその後の溶解を媒介する。したがって、三重特異性抗原結合タンパク質は強力で、特異的で、かつ効率的な標的細胞の死滅を表示するように企図される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、病原性の細胞(例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染あるいは細菌感染細胞、自己反応性T細胞など)を除去するために、細胞毒性T細胞による標的細胞の死滅を刺激する。そのような実施形態のいくつかでは、細胞は選択的に除去され、それによって、毒性の副作用の可能性が減少する。他の実施形態では、同じポリペプチドを使用して、自己免疫性疾患におけるBあるいはTリンパ球などの治療効果のための内因性の細胞、あるいは幹細胞移植のための造血幹細胞(HSC)の排除を増強することができる。
【0026】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質はさらに、従来のモノクローナル抗体とより小さな二重特異性分子を上回る利点を与える。一般に、組換えタンパク質医薬品の有効性は、タンパク質自体の内因性の薬物動態学に極度に依存する。こうした利点の一つは、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質が、HSAに特異的なドメインなどの半減期拡張ドメインを持っていることにより、薬物動態学的消失半減期を延長させたことである。この点で、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、いくつかの実施形態では、約2、3、約5、約7、約10、あるいは約14日の延長された血清消失半減期を有する。このことは、消失半減期が比較的非常に短いBiTEまたはDARTの分子などの他の結合タンパク質にとは対照的である。例えば、BiTEのCD19×CD3二重特異性scFv-scFv融合分子は、消失半減期が短いため持続点滴(静脈内)による薬物送達を必要とする。三重特異性抗原結合タンパク質のより長い内因性の半減時間はこの問題を解決し、それによって、低用量の医薬製剤、定期的な投与の減少、および/または新規な医薬組成物などの治療可能性を増加させる。
【0027】
さらに本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質はさらに、組織への浸透と組織への分布を強化するための最適なサイズを有する。サイズが大きければ、標的組織中でのタンパク質の浸透あるいは分布が制限されるか妨げられる。本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、組織への浸透と分布を増強する小さなサイズを有することによりこれを回避する。これに応じて、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、いくつかの実施形態では、約50K-約80K、約50K-約75K、約50K-約70K、あるいは約50K-約65Kのサイズを有する。したがって、三重特異性抗原結合タンパク質のサイズは、約150KであるIgG抗体よりも、および、約55Kであるが延長された半減期ではなく、ゆえに腎臓ですぐに除去されるBiTEとDART二重特異性抗体分子よりも、有利である。
【0028】
さらなる実施形態では、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、増強された組織への浸透と分布に最適なサイズを有する。これらの実施形態では、三重特異性抗原結合タンパク質はできるだけ小さくなるように構築され、その一方で、その標的に対する特異性を保持する。これに応じて、これらの実施形態では、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、約20K-約40K、約25K-約35K、-約40K、-約45K、-約50K、-約55K、-約60K、-約65Kのサイズを有する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、約50K、49K、48K、47K、46K、45K、44K、43K、42K、41K、40K、約39K、約38K、約37K、約36K、約35K、約34K、約33K、約32K、約31K、約30K、約29K、約28K、約27K、約26K、約25K、約24K、約23K、約22K、約21K、または約20Kのサイズを有する。小さなサイズに対する典型的な手法は、ドメインの各々について単一ドメイン抗体(sdAb)フラグメントを使用することによる。例えば、特定の三重特異性抗原結合タンパク質は、標的抗原のために抗CD3 sdAb、抗HSA sdAb、およびsdAbを有する。これは、40K未満で典型的な三重特異性抗原結合タンパク質のサイズを減少させる。したがって、いくつかの実施形態では、三重特異性抗原結合タンパク質のドメインはすべて単一ドメイン抗体(sdAb)フラグメントである。他の実施形態では、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、HSAおよび/または標的抗原のための小分子実体(SME)結合剤を含む。SME結合剤は、平均して約500~2000Daのサイズの小分子であり、ソルターゼ連結反応あるいは共役などの既知の方法によって三重特異性抗原結合タンパク質に結合される。これらの例では、三重特異性抗原結合タンパク質のドメインの1つは、ソルターゼ認識配列、例えば、LPETG(SEQ ID NO: 57)である。ソルターゼ認識配列を備えた三重特異性抗原結合タンパク質にSME結合剤を結合させるために、タンパク質はソルターゼとSME結合剤でインキュベートされ、それによってソルターゼがSME結合剤を認識配列に結合させる。既知のSME結合剤は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合するMIP-1072とMIP-1095を含む。さらに他の実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の標的抗原に結合するドメインは、標的抗原に結合するためのノッチンペプチドを含む。ノッチンはシステインノット足場を備えたジスルフィド安定したペプチドであり、約3.5Kの平均サイズを有する。ノッチンは、フィブロネクチンとVEGF受容体などの特定の腫瘍分子への結合について企図されてきた。さらなる実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の標的抗原に結合するドメインは、B細胞活性化因子(BAFF/BLyS)などの天然の受容体リガンドを含む。
【0029】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の別の特徴は、それらがドメインの柔軟な結合を備えた単一のポリペプチドの設計であるということである。これにより、三重特異性抗原結合タンパク質の容易な産生と製造が可能になる。なぜなら、この抗原結合タンパク質はベクターに容易に組み入れられる単一のcDNA分子によってコード可能であるからである。さらに、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質が単量体の単一のポリペプチド鎖であるので、鎖の対形成の問題がなく、二量化のための要件もない。本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、Fcγ免疫グロブリンドメインを備えた二重特異性のタンパク質などの他の報告されている分子とは異なり、凝集する傾向が低下している。
【0030】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質では、ドメインは内部リンカーL1とL2によって結合され、ここで、L1は、三重特異性抗原結合タンパク質の第1と第2のドメインに結合し、L2は三重特異性抗原結合タンパク質の第2と第3のドメインに結合する。リンカーL1とL2は最適化された長さおよび/またはアミノ酸組成物を有する。いくつかの実施形態において、リンカーL1とL2は同じ長さとアミノ酸組成物を有する。他の実施形態では、L1とL2は異なる。ある実施形態では、内部リンカーL1および/またはL2は「短い」、つまり、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、あるいは12のアミノ酸残基からなる。したがって、ある例では、内部リンカーは約12以下のアミノ酸残基からなる。0のアミノ酸残基の場合、内部リンカーはペプチド結合である。ある実施形態では、内部リンカーL1および/またはL2は「長い」、つまり、15、20、あるいは25のアミノ酸残基からなる。いくつかの実施形態において、これらの内部リンカーは約3から約15まで、例えば、8、9、あるいは10の連続したアミノ酸残基からなる。内部リンカーL1とL2のアミノ酸組成物に関して、ペプチドは、三重特異性抗原結合タンパク質に対して柔軟性を与える特性とともに選択され、結合ドメインに干渉せず、同様にプロテアーゼからの切断に抵抗しない。例えば、グリシンとセリンの残基は一般にプロテアーゼ抵抗性を与える。三重特異性抗原結合タンパク質中のドメインの結合に適切な内部リンカーの例としては、限定されないが、(GS)(SEQ ID NO:49)、(GGS)(SEQ ID NO:50)、(GGGS)(SEQ ID NO:51)、(GGSG)(SEQ ID NO:52)、(GGSGG)(SEQ ID NO:53)、あるいは、(GGGGS)(SEQ ID NO:54)が挙げられ、ここで、nは1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10である。1つの実施形態では、内部リンカーL1および/またはL2は、(GGGGS)(SEQ ID NO:55)、あるいは(GGGGS)(SEQ ID NO:56)である。
【0031】
CD3結合ドメイン
T細胞の応答の特異性は、TCRによって抗原(主要組織適合複合体、MHCの文脈で表示された)の認識によって媒介される。TCRの一部として、CD3は、細胞表面に存在する、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖、および2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含むタンパク質複合体である。完全なTCRを含むために、CD3は、CD3ζ(ゼータ)と同様に、TCRのα(アルファ)とβ(ベータ)鎖と一緒に会合する。固定された抗CD3抗体によるなどしてT細胞上にCD3をクラスター形成することで、T細胞受容体の結合に似ているがそのクローンに典型的な特異性とは無関係のT細胞活性化を引き起こす。
【0032】
1つの態様において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、CD3に特異的に結合するドメインを含む。1つの態様において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、ヒトCD3に特異的に結合するドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、CD3γに特異的に結合するドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、CD3δに特異的に結合するドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、CD3εに特異的に結合するドメインを含む。
【0033】
さらなる実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、TCRに特異的に結合するドメインを含む。ある例では、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、TCRのα鎖を特異的に結合するドメインを含む。ある例では、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、TCRのβ鎖を特異的に結合するドメインを含む。
【0034】
ある実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインは、ヒトCD3との有力なCD3結合親和性を呈するだけではなく、それぞれのカニクイザルCD3タンパク質との優れた交差反応性も示す。例によっては、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインは、カニクイザルからのCD3に交差反応性である。ある例において、CD3に関するヒト:カニクイザルのK比率は5-0.2の間である。
【0035】
いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインは、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体からのドメインを含むCD3に結合するあらゆるドメインであり得る。例によっては、三重特異性抗原結合タンパク質が最終的に使用される同じ種に由来することがCD3結合ドメインにとっては有益である。例えば、ヒトで使用するためには、抗体または抗体フラグメントの抗原結合ドメインからのヒトまたはヒト化残基を含めることが、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインには有益なことがある。
【0036】
したがって、1つの態様では、抗原結合ドメインは、ヒト化抗体またはヒト抗体または抗体フラグメント、あるいはマウスの抗体または抗体フラグメントを含む。1つの実施形態では、ヒト化またはヒト抗CD3結合ドメインは、本明細書に記載されるヒト化またはヒト抗CD3結合ドメインの1つ以上(例えば、3つすべて)の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)、および/または、本明細書に記載されるヒト化またはヒト抗CD3結合ドメインの1つ以上(例えば、3つすべて)の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)、例えば1つ以上、例えば、3つすべてのLC CDRと、1つ以上、例えば、3つすべてのHC CDRを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、ヒト化またはヒト抗CD3結合ドメインは、CD3に特異的なヒト化またはヒト軽鎖可変領域を含み、CD3に特異的な軽鎖可変領域はヒト軽鎖フレームワーク領域中のヒトあるいはヒト以外の軽鎖CDRを含む。ある例では、軽鎖フレームワーク領域はλ(ラムダ)軽鎖フレームワークである。他の例では、軽鎖フレームワーク領域はκ(カッパ)軽鎖フレームワークである。
【0038】
いくつかの実施形態において、ヒト化またはヒト抗CD3結合ドメインはCD3に特異的なヒト化またはヒト重鎖可変領域を含み、CD3に特異的な重鎖可変領域はヒト重鎖フレームワーク領域のヒトまたはヒト以外の重鎖CDRを含む。
【0039】
ある例において、重鎖および/または軽鎖の相補性決定領域は、例えば、ムロモナブ-CD3(OKT3)、オテリキシズマブ(TRX4)、テプリズマブ(MGA031)、ビジリズマブ(Nuvion)、SP34、またはX35-3、VIT3、BMA030(BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111-409、CLB-T3.4.2、TR-66、WT32、SPv-T3b、11D8、XIII-141、XIII-46、XIII-87、12F6、T3/RW2-8C8、T3/RW2-4B6、OKT3D、M-T301、SMC2、F101.01、UCHT-1、およびWT-31などの既知の抗CD3抗体に由来する。
【0040】
1つの実施形態では、抗CD3結合ドメインは、本明細書で提供されるアミノ酸配列の軽鎖と重鎖を含む単鎖可変フラグメント(scFv)である。本明細書で使用されるように、「単鎖可変フラグメント」あるいは「scFv」とは、軽鎖の可変領域を含む抗体フラグメントと、重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体フラグメントを指し、軽鎖と重鎖の可変領域は、短い柔軟なポリペプチドリンカーによって連続的に結合され、単一のポリペプチド鎖として発現可能であり、およびscFvはそれが由来する無傷の抗体の特異性を保持する。実施形態では、抗CD3結合ドメインは以下を含む:本明細書で提供される軽鎖可変領域のアミノ酸配列の少なくとも1つ、2つ、あるいは3つの修飾(例えば置換)を有するが、せいぜい30、20、あるいは10の修飾(例えば置換)を有するアミノ酸配列、あるいは本明細書で提供されるアミノ酸配列に95-99%の同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域;および/または、本明細書で提供される重鎖可変領域のアミノ酸配列の少なくとも1つ、2つ、あるいは3つの修飾(例えば置換)を有するが、せいぜい30、20、あるいは10の修飾(例えば置換)を有するアミノ酸配列、あるいは本明細書で提供されるアミノ酸配列に95-99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域。1つの実施形態では、ヒト化またはヒト抗CD3結合ドメインはscFvであり、本明細書に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域は、scFvリンカーによって本明細書に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域に結合される。scFvの軽鎖可変領域と重鎖可変領域は、例えば、以下の配向のいずれかであり得る:軽鎖可変領域-scFvリンカー-重鎖可変領域、あるいは重鎖可変領域-scFvリンカー-軽鎖可変領域。
【0041】
いくつかの例では、CD3に結合するscFvsは既知の方法によって調製される。例えば、scFv分子は、柔軟なポリペプチドリンカーを使用して、VHとVLの領域を一緒に結合することにより、生成可能である。scFv分子は、最適化された長さおよび/またはアミノ酸組成物を備えるscFvリンカー(例えばSer-Glyリンカー)を含む。これに応じて、いくつかの実施形態では、scFvリンカーの長さは、CD3結合部位を形成するために、VHまたはVLのドメインが他の可変ドメインと分子間で結合することができるような長さである。ある実施形態において、こうしたscFvリンカーは「短い」、つまり、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11あるいは12のアミノ酸残基からなる。したがって、ある例では、scFvリンカーは約12以下のアミノ酸残基からなる。0のアミノ酸残基の場合、scFvリンカーはペプチド結合である。いくつかの実施形態において、これらのscFvリンカーは約3から約15、例えば8、9、あるいは10の連続的なアミノ酸残基からなる。scFvリンカーのアミノ酸組成物に関して、柔軟性を与え、可変ドメインに干渉せず、同様に、機能的なCD3結合部位を形成するために2つの可変ドメインを接合する鎖間フォールディングを許可しないペプチドが選択される。例えば、グリシンとセリンの残基を含むscFvリンカーは一般にプロテアーゼ抵抗性を与える。いくつかの実施形態において、scFv中のリンカーはグリシンとセリンの残基を含む。scFvリンカーのアミノ酸配列は、例えば、CD3結合とscFvの産生収率を改善するファージディスプレー方法によって最適化可能である。scFv中の可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインを結合するのに適切なペプチドscFvリンカーの例としては、限定されないが、(GS)(SEQ ID NO:49)、(GGS)(SEQ ID NO:50)、(GGGS)(SEQ ID NO:51)、(GGSG)(SEQ ID NO:52)、(GGSGG)(SEQ ID NO: 53)、あるいは、(GGGGS)(SEQ ID NO:54)が挙げられ、ここで、nは1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10である。1つの実施形態では、scFvリンカーは、(GGGGS)(SEQ ID NO:55)、あるいは (GGGGS)(SEQ ID NO:56)であり得る。リンカー長さの変動は活性を保持あるいは増強し、活性研究で優れた有効性をもたらすこともある。
【0042】
いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインは、1000nM以下、500nM以下、200nM以下、100nM以下、80nM以下、50nM以下、20nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、あるいは0.5nM以下のKのCD3発現細胞上のCD3に対する親和性を有する。いくつかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインは、1000nM以下、500nM以下、200nM以下、100nM以下、80nM以下、50nM以下、20nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、あるいは0.5nM以下のKの、CD3ε、γ、あるいはδに対する親和性を有する。さらなる実施形態では、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインはCD3に対する低い親和性(つまり、約100nM以上)を有する。
【0043】
CD3に結合するための親和性は、例えば、三重特異性抗原結合タンパク質自体、又は、アッセイプレート上で被覆される;微生物細胞表面上で表示される;溶液中にあるCD3に結合するそのCD3結合ドメインの能力により、判定され得る。三重特異性抗原結合タンパク質自体の結合活性、又は、CD3に対する本開示のそのCD3結合ドメインは、ビーズ、基質、細胞などへの、リガンド(例えばCD3)、三重特異性抗原結合タンパク質自体、又はそのCD3結合ドメインの固定により、分析され得る。適切な緩衝液中に薬剤が加えられ、結合パートナーは与えられた温度で一定の期間にわたりインキュベートされる。洗浄により結合されない物質を取り除いた後、結合したタンパク質を、例えば、SDS、高pHを持つ緩衝液で放出し、且つ、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)により分析することができる。
【0044】
半減期延長ドメイン
本明細書では、抗原結合ドメインの半減期を延ばすドメインが考慮される。そのようなドメインは、限定されないがHSA結合ドメイン、Fcドメイン、小分子、及び当該技術分野で既知の他の半減期延長ドメインを含むと考慮される。
【0045】
ヒト血清アルブミン(HSA)(分子質量~67kDa)は、血漿中で最も大量のタンパク質であり、約50mg/ml(600μM)で存在し、ヒトにおいて約20日の半減期を有している。HSAは、血漿pHを維持するように役立ち、膠質の血圧に寄与し、多くの代謝物質及び脂肪酸の担体として機能し、そして血漿の主要な薬物輸送タンパク質として役立つ。
【0046】
アルブミンとの非共有結合性会合は、短命のタンパク質の消失半減期を延ばす。例えば、Fabフラグメントに対するアルブミン結合ドメインの組換え型融合は、Fabフラグメントだけの投与と比較すると、マウスとウサギそれぞれへの静脈内投与時に、25倍及び58倍のインビボの除去、並びに26倍及び37倍の半減期延長を結果としてもたらした。別の例において、アルブミンとの会合を促進するためにインスリンが脂肪酸でアシル化されると、ウサギ又はブタに皮下注射した時に、遅延性の効果が観察された。総じて、このような研究は、アルブミン結合と遅延性作用との連係を実証する。
【0047】
1つの態様において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、半減期延長ドメイン(例えばHSAに特異的に結合するドメイン)を含む。幾つかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質のHSA結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体由来のドメインを含むがこれらに限定されない、HSAに結合する任意のドメインであり得る。幾つかの実施形態において、HSA結合ドメインは、単鎖可変フラグメント(scFv)、単一ドメイン抗体、例えば重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)、及びラクダ由来の単一ドメイン抗体の可変ドメイン(VHH)、ペプチド、リガンド、又はHSAには特異的な小分子実体である。特定の実施形態において、HSA結合ドメインは単一ドメイン抗体である。他の実施形態において、HSA結合ドメインはペプチドである。幾つかの実施形態において、HSA結合ドメインは小分子である。三重特異性抗原結合タンパク質のHSA結合ドメインはかなり小さく、幾つかの実施形態においてわずか25kD、わずか20kD、わずか15kD、又はわずか10kDであることが考慮される。特定の例において、HSA結合は、ペプチド又は小分子の実体である場合に、5kD以下である。
【0048】
三重特異性抗原結合タンパク質の半減期延長ドメインは、三重特異性抗原結合タンパク質自体の変更された薬力学と薬物動態を提供する。上記のように、半減期延長ドメインは消失半減期を延ばす。半減期延長ドメインはまた、三重特異性抗原結合タンパク質の組織分布、浸透、及び拡散の変化を含む、薬物動態学的特性を変更する。幾つかの実施形態において、半減期延長ドメインは、半減期延長ドメインの無いタンパク質と比較して、組織(腫瘍を含む)の標的化、組織分布、組織浸透、組織内の拡散の改善、及び効果の増強を提供する。1つの実施形態において、治療方法は、減少量の三重特異性抗原結合蛋白を効果的且つ効率的に利用して、その結果非腫瘍細胞細胞毒性の減少などの副作用の減少をもたらす。
【0049】
更に、半減期延長ドメインの結合親和性は、特定の三重特異性抗原結合蛋白の特異的な消失半減期を標的とするように選択され得る。故に、幾つかの実施形態において、半減期拡張ドメインには高度な結合親和性がある。他の実施形態では、半減期拡張ドメインには中位の結合親和性がある。また他の実施形態において、半減期拡張ドメインには低い又は最低限の(marginal)結合親和性がある。典型的な結合親和性は、10nM以下(高)、10nMと100nMの間(中)、及び100nM超(低)でのKD濃度を含む。上記のように、HSAに対する結合親和性は表面プラズモン共鳴(SPR)など既知の方法により判定される。
【0050】
標的抗原結合ドメイン
記載されたCD3及び半減期拡張ドメインに加えて、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、標的抗原に結合するドメインも含む。標的抗原は、疾患、障害、又は疾病に関与し及び/又は関連する。特に、標的抗原は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫障害、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生性反応、移植片対宿主疾患、又は宿主対移植片疾患に関連する。幾つかの実施形態において、標的抗原は、腫瘍細胞上で発現される腫瘍抗原である。代替的に、幾つかの実施形態において、標的抗原は、ウイルス又は細菌などの病原体に関連する。
【0051】
幾つかの実施形態において、標的抗原は、タンパク質、脂質、又は多糖類などの細胞表面分子である。幾つかの実施形態において、標的抗原は、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞、細菌感染細胞、損傷を受けた赤血球、動脈プラーク細胞、又は繊維症組織細胞である。
【0052】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の設計は、標的抗原に対する結合ドメインが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体由来のドメインを含むがこれらに限定されない、任意のタイプの結合ドメインになり得るという点で、標的抗原に対する結合ドメインを可撓性にすることを可能にする。幾つかの実施形態において、標的抗原に対する結合ドメインは、単鎖可変フラグメント(scFv)、単一ドメイン抗体、例えば重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)、及びラクダ由来の単一ドメイン抗体の可変ドメイン(VHH)である。他の実施形態において、標的抗原に対する結合ドメインは、非Ig結合ドメイン、即ち、抗体模倣体、例えばアンチカリン(anticalins)、アフィリン(affilins)、アフィボディ(affibody)分子、アフィマー(affimers)、アフィチン(affitins)、アルファボディ(alphabodies)、アビマー(avimers)、DARPins、フィノマー、クニッツ(kunitz)ドメインペプチド、及びモノボディ(monobodies)である。更なる実施形態において、標的抗原に対する結合ドメインは、標的抗原に結合するか、又はそれに会合するリガンド又はペプチドである。また更なる実施形態において、標的抗原に対する結合ドメインはノッチンである。また更なる実施形態において、標的抗原に対する結合ドメインは小分子実体である。
【0053】
三重特異性タンパク質の修飾
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、(i)アミノ酸が遺伝子コードによりコードされたものでないアミノ酸残基で置換され、(ii)成熟ポリペプチドがポリエチレングリコールなどの別の化合物と融合され、又は(iii)付加的なアミノ酸が、リーダー配列又は分泌配列、或いはタンパク質の精製のための配列などのタンパク質に融合される、誘導体又はアナログを包含する。
【0054】
典型的な修飾は、限定されないが、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋結合、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合の架橋の組成、シスチンの形成、ピログルタミン酸塩の形成、ホルミル化、ガンマカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解性の加工、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、アルギニル化(arginylation)などのアミノ酸のタンパク質への転移RNA媒介性の付加、及びユビキチン化を含む。
【0055】
修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、及びアミノ末端又はカルボキシル末端を含む、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質のあらゆる場所で行われる。三重特異性抗原結合タンパク質の修飾に有用な特定の一般的なペプチド修飾は、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化、共有結合性修飾によるポリペプチド中のアミノ基又はカルボキシル基、或いはその両方の遮断、及びADP-リボシル化を含む。
【0056】
三重特異性抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子も提供される。幾つかの実施形態において、ポリヌクレオチド分子は、DNA構築物として提供される。他の実施形態において、ポリヌクレオチド分子は、メッセンジャーRNA転写物として提供される。
【0057】
ポリヌクレオチド分子は、ペプチドリンカーにより分離され、或いは他の実施形態においてペプチド結合により直接結合される3つの結合ドメインをコードする遺伝子を、適切なプロモーター、及び随意に適切な転写ターミネーターに動作可能に結合された1つの遺伝子構築物に組み合わせること、及び、例えばCHO細胞などの細菌又は他の適切な発現系においてそれを発現させることなどによる、既知の方法によって構築される。標的抗原結合ドメインが小分子である実施形態において、ポリヌクレオチドは、CD3結合ドメインと半減期延長ドメインをコードする遺伝子を含んでいる。半減期延長ドメインが小分子である実施形態において、ポリヌクレオチドは、CD3と標的抗原に結合するドメインをコードする遺伝子を含んでいる。利用されたベクター系と宿主に依存して、構成プロモータ及び誘導プロモータを含む、適切な転写要素及び翻訳要素の任意の数が、使用され得る。プロモータは、それぞれの宿主細胞におけるポリヌクレオチドの発現を誘導するように選択される。
【0058】
幾つかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、更なる実施形態を表わすベクター、好ましくは発現ベクターに挿入される。この組換えベクターは、既知の方法に従って構築され得る。特に対象のベクターは、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、virii(例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスなど)、及びコスミドを含む。
【0059】
様々な発現ベクター/宿主系は、記載された三重特異性抗原結合タンパク質のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み且つ発現させるために利用され得る。E.coliにおける発現のための発現ベクターの例は、pSKK(Le Gall et al., J Immunol Methods. (2004) 285(1):111-27)、又は、哺乳動物細胞の発現についてはpcDNA5(Invitrogen)である。
【0060】
故に、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、幾つかの実施形態において、上述のようなタンパク質をコードするベクターを宿主細胞に導入することにより、及び、タンパク質ドメインが発現され、分離され、及び随意に更に精製される条件下で、前記宿主細胞を培養することにより、生成される。
【0061】
医薬組成物
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質、三重特異性抗原結合タンパク質のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター又はこのベクターにより形質転換される宿主細胞、及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物も提供される。用語「薬学的に許容可能な担体」は、限定されないが、成分の生物活性の有効性に干渉せず、且つ投与される患者に有毒ではない、任意の担体を含む。適切な医薬担体の例は当該技術分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン、例えば油/水のエマルジョン、様々なタイプの湿潤剤、無菌液などを含む。そのような担体は、従来の方法により製剤され得、適切な用量で被験体に投与され得る。好ましくは、組成物は無菌性である。このような組成物はまた、防腐剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントも含み得る。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤の包含により確保され得る。
【0062】
医薬組成物の幾つかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、ナノ粒子に封入される。幾つかの実施形態において、ナノ粒子は、フラーレン、液晶、リポソーム、量子ドット、超常磁性微粒子、デンドリマー、又はナノロッドである。医薬組成物の他の実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質はリポソームに結合される。幾つかの例において、三重特異性抗原結合タンパク質は、リポソームの表面に抱合される。幾つかの例において、三重特異性抗原結合タンパク質は、リポソームのシェル内に封入される。幾つかの例において、リポソームはカチオン性リポソームである。
【0063】
本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質は、薬物として使用のために熟考される。投与は、異なる方法、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、又は皮内の投与により達成される。幾つかの実施形態において、投与経路は、治療の種類、及び医薬組成物に含まれる化合物の種類に依存する。投与レジメンは、主治医及び他の臨床学的因子により決定される。1人の患者のための投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、性別、投与される特定の化合物、投与の時間と経路、治療の種類、健康状態、及び同時に投与される他の薬物を含む多くの要因に依存する。「有効な量」は、疾患の経過と重症度に影響を及ぼし、それによりそのような病状の減少又は寛解を引き起こすのに十分な量の活性成分を指し、既知の方法を用いて決定され得る。
【0064】
処置方法
また本明細書には、幾つかの実施形態において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の投与を含む、必要とする個体の免疫系を刺激する方法及び使用も提供される。幾つかの例において、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の投与は、標的抗原を発現する細胞の方へと細胞毒性を誘導及び/又は維持する。幾つかの例において、標的抗原を発現する細胞は、癌細胞又は腫瘍細胞、ウイルス感染細胞、細菌感染細胞、自己反応性T又はB細胞、損傷した赤血球細胞、動脈プラーク、又は繊維症組織である。
【0065】
また本明細書には、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質を個体に投与する工程を含む、標的抗原に関連した疾患、障害、又は条件の処置の方法及び使用も提供される。標的抗原に関連する疾患、障害、又は疾病は、限定されないが、ウイルス感染、細菌感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応、アテローム性動脈硬化症、又は線維症を含む。他の実施形態において、標的抗原に関連する疾患、障害、又は疾病は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫障害、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生性反応、移植片対宿主疾患、又は宿主対移植片疾患である。1つの実施形態において、標的抗原に関連する疾患、障害、又は疾病は、癌である。1つの例において、癌は血液癌である。別の例において、癌は固形腫瘍癌である。
【0066】
本明細書で使用されるように、幾つかの実施形態において、「処置(treatment)」、「処置すること(treating)」、又は「処置された(treated)」は、治療的処置を指し、その目的は、望まれない生理的疾病、障害、又は疾患を遅くする(和らげる)こと、又は有益或いは所望の臨床結果を得ることである。本明細書に記載される目的のために、有益な又は所望の臨床結果は、限定されないが、症状の緩和;疾病、障害、又は疾患の範囲の減少;疾病、障害、又は疾患の状態の安定化(即ち、悪化しない);疾病、障害、又は疾患の発症又は進行の遅延;疾病、障害、又は病状の改善;及び、疾病、障害、又は疾患の検知可能又は検知不能にかかわらない寛解(部分的又は総合的の何れか)、或いは増大又は改善を含む。処置は、過剰なレベルの副作用がない、臨床的に著しい反応を誘発することを含む。処置は、処置を受けない場合に予期される生存率と比較して、生存率を延ばすことも含む。他の実施形態において、「処置」、「処置すること」、「処置された」は、予防的な手段を指し、その目的は、例えば疾患にかかった人(例えば、乳癌などの疾患の遺伝マーカーを運ぶ個体)における、望まれない生理的疾病、障害、又は疾患の発症を遅らせること、又はそれらの重症度を減らすことである。
【0067】
本明細書に記載される方法の幾つかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、特定の疾患、障害、又は疾病の処置のための薬剤と組み合わせて投与される。薬剤は、限定されないが、抗体を含む治療薬、小分子(例えば化学療法剤)、ホルモン(ステロイド、ペプチドなど)、放射線治療薬(γ線、X線、及び/又は、放射性同位体、マイクロ波、UV放射などの配向された送達)、遺伝子治療薬(例えばアンチセンス、レトロウイルスの治療など)、及び他の免疫療法薬を含む。幾つかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、下痢止め剤、抗催吐薬、鎮痛薬、オピオイド、及び/又は非ステロイド性抗炎症剤と組み合わせて投与される。幾つかの実施形態において、三重特異性抗原結合タンパク質は、手術の前、間、或いは後に投与される。
【0068】
<特定の定義>
本明細書で使用されるように、「消失半減期」は、GoodmanとGillmanのThe Pharmaceutical Basis of Therapeutics 21-25 (Alfred Goodman Gilman, Louis S. Goodman, and Alfred Gilman, eds., 6th ed. 1980)に記載されるように、その通常の意味で使用される。簡潔に、この用語は、薬物消失の時間経過の定量的測度を包含することを意味している。薬物濃度は通常、消失プロセスの飽和に必要なものに匹敵しないため、大抵の薬剤の消失は急激的なものである(即ち、一次速度論に従う)。急激なプロセスの速度は、時間の単位当たりの分数変化率を表すその速度定数kにより、又は、処理の50%の完了に必要な時間であるその半減期t1/2によって表され得る。これらの2つの定数の単位は、それぞれ時間-1(time-1)及び時間(time)である。一次反応速度定数及び反応の半減期は単純に関連づけられ(k×t1/2=0.693)、適宜交換され得る。一次消失キネティクスは、薬物の一定の画分が時間単位ごとに消失されることを命令するため、薬物濃度対時間の対数のプロットは、初期分布段階後(即ち、薬物吸収と分布が完了した後)の全ての時間で直線状である。薬物消失の半減期は、そのようなグラフから正確に判定され得る。
【実施例
【0069】
実施例1:CD20に対する典型的な三重特異性抗原結合タンパク質の構築
scFv CD3結合ドメインの生成
ヒトCD3ε鎖の正準配列は、Uniprot Accession No.P07766である。ヒトCD3γ鎖の正準配列は、Uniprot Accession No.P09693である。ヒトCD3δ鎖の正準配列は、Uniprot Accession No.P043234である。CD3ε、CD3γ、又はCD3δに対する抗体を、親和性成熟などの既知の技術を介して生成する。マウス抗CD3抗体を出発物質として使用する場合、マウス抗CD3抗体のヒト化は臨床設定に望ましいものであり、ここでマウスに特異的な残基は、本明細書に記載される三重特異性抗原結合タンパク質の処置を受ける被験体においてヒト-抗-マウス抗原(HAMA)応答を誘発し得る。ヒト化は、CDR領域及び/又はフレームワーク領域への他の修飾を随意に含む、適切なヒト生殖系列アクセプター・フレームワーク上にマウス抗CD3抗体からCDR領域を移植することにより、達成される。本明細書で提供されるように、抗体及び抗体フラグメントの残基の番号付けは、Kabat (Kabat E. A. et al, 1991; Chothia et al, 1987)に従っている。
【0070】
それ故、ヒト又はヒト化抗CD3抗体を使用して、三重特異性抗原結合タンパク質のCD3結合ドメインのためのscFv配列を生成する。ヒト又はヒト化のVL及びVHドメインをコードするDNA配列を獲得し、構成物のコドンを随意に、ホモサピエンス由来の細胞における発現のために最適化する。VLとVHのドメインがscFvに現われる順番を変更し(即ち、VL-VH、又はVH-VLの配向)、「G4S」(SEQ ID NO:58)又は「GS」(SEQ ID NO:58)のサブユニット(GS)(SEQ ID NO:56)の3つのコピーが可変ドメインに結合して、scFvドメインを作成する。抗CD3 scFvプラスミド構築物は、任意のFlag、His、又は他の親和性タグを持つことができ、HEK293、又は他の適切なヒト或いは哺乳動物の細胞株へと電気穿孔され、精製される。検証アッセイは、FACSによる結合解析、Proteonを使用する動力学解析、及びCD3発現細胞の染色を含む。
【0071】
scFv CD20結合ドメインの生成
CD20は、Bリンパ球上に存在する細胞表面タンパク質の1つである。CD20抗原は、正常及び悪性のプレBリンパ球及び成熟Bリンパ球に見出され、B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)の90%以上においてそれらを含んでいる。抗原は、造血幹細胞、活性化Bリンパ球(形質細胞)、及び正常組織には存在しない。そのため、マウス由来の大半の抗体の一部が記載された:1F5、2B8/C2B8、2H7、及び1H4。
【0072】
CD20に対するscFv結合ドメインを、CD3に対するscFv結合ドメインの生成のための上記方法と同様に生成する。
【0073】
三重特異性抗原結合タンパク質をコードするDNA発現構築物のクローン化
抗CD3 scFvドメインを使用して、抗CD20 scFvドメインとHSA結合ドメイン(例えば、ペプチド又はVHドメイン)と組み合わせて三重特異性抗原結合タンパク質を構築し、ドメインを図1に示されるように組み立てる。CHO細胞における三重特異性抗原結合タンパク質の発現のために、全てのタンパク質ドメインのコード配列を、哺乳動物発現ベクター系へとクローン化する。簡潔に、ペプチドリンカーL1及びL2と共に、CD3結合ドメイン、HSA結合ドメイン、及びCD20結合ドメインをコードする遺伝子配列を別々に合成し、サブクローン化する。その後、結果として生じる構成物を、「CD20結合ドメイン-L1-CD3結合ドメイン-L2-HSA結合ドメイン」の順で共にライゲートして、最終的な構成物を得る。タンパク質の分泌及び精製をそれぞれ促進するために、N末端シグナルペプチド及びC末端ヘキサヒスチジン(6xHis)-タグのコード配列(SEQ ID NO:59)を含むように、全ての発現構築物を設計する。
【0074】
安定してトランスフェクトされたCHO細胞における三重特異性抗原結合タンパク質の発現
CHO細胞発現系(Flp-In(登録商標), Life Technologies)、CHO-K1チャイニーズハムスター卵巣細胞の誘導体(ATCC、CCL-61)(Kao and Puck, Proc. Natl. Acad Sci USA 1968; 60(4):1275-81)を使用する。Life Technologiesにより提供される標準の細胞培養プロトコルに従って、付着細胞を二次培養する。
【0075】
懸濁液中の成長に対する適応のために、細胞を組織培養フラスコから引き離し、無血清培地に配する。懸濁液に適応した細胞を、10%のDMSOを含む培地に凍結保存する。
【0076】
分泌された三重特異性抗原結合タンパク質を安定して発現させる、組換え型CHO細胞株を、懸濁液に適応した細胞のトランスフェクションにより生成する。抗菌性のヒグロマイシンBでの選択中、生細胞密度を週に2回測定し、細胞を遠心分離し、0.1×10生細胞/mLの最大密度で新鮮な選択培地の中で再懸濁する。三重特異性抗原結合タンパク質を安定して発現させる細胞プールを選択の2-3週後に回収し、その時点で細胞は振盪フラスコの標準培地に移される。組換え型分泌タンパク質の発現を、タンパク質のゲル電気泳動又はフローサイトメトリーの実行により確認する。安定した細胞プールを、DMSO含有培地に凍結保存する。
【0077】
三重特異性抗原結合タンパク質を、細胞培養上清への分泌により安定してトランスフェクトされたCHO細胞株の10日間の流加回分培養において生成する。典型的に>75%の培養物の生存率で、細胞培養上清を10日後に採取した。サンプルを一日おきに生成培養物から集め、細胞密度と生存率を評価する。採取の当日、更なる使用の前に、細胞培養上清を遠心分離と真空濾過により取り除く。
【0078】
細胞培養上清におけるタンパク質発現の力価及び生成物の保全性をSDS-PAGEにより分析する。
【0079】
三重特異性抗原結合タンパク質の精製
三重特異性抗原結合タンパク質から、2工程の手順でCHO細胞培養上清を精製する。構築物を、第1工程で親和性クロマトグラフィーにさらし、第2工程でSuperdex 200の上で分取サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)にさらす。サンプルを緩衝液交換し、限外濾過により濃縮することで>1mg/mLの典型的な濃度とする。最終サンプルの純度及び均質性(典型的に>90%)を、還元条件及び非還元条件下でのSDS PAGE、次いで抗HSA又は抗イディオタイプ抗体を使用する免疫ブロット法、同様に分析SEC、それぞれによって評価した。精製されたタンパク質を、使用するまで-80℃でアリコートとして保存した。
【0080】
実施例2:フローサイトメトリーによる抗原親和性の判定
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、ヒトCD3とCD20細胞及びカニクイザルCD3とCD20細胞に対するそれらの結合親和性について試験する。
【0081】
CD3及びCD20細胞を、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の100μLの連続希釈でインキュベートする。FACS緩衝液での3回の洗浄後、細胞を、氷の上で45分間、同じ緩衝液の中、10μg/mLのマウスモノクローナル抗イディオタイプ抗体0.1mLでインキュベートする。2回目の洗浄サイクルの後、細胞を、以前と同じ条件下で15μg/mLのFITC共役ヤギ抗マウスIgG抗体0.1mLでインキュベートする。対照として、細胞を、抗His IgG、その後、三重特異性抗原結合タンパク質が無いFITC共役ヤギ抗マウスIgG抗体でインキュベートする。その後、細胞を再び洗浄し、死細胞を除外するために2μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI)を含有する0.2mLのFACS緩衝液中で再懸濁した。1×10の生細胞の蛍光を、MXPソフトウェア(Beckman-Coulter, Krefeld, Germany)を使用するBeckman-Coulter FC500 MPLフローサイトメーター、又は、Incyteソフトウェア(Merck Millipore, Schwalbach, Germany)を使用するMillipore Guava EasyCyteフローサイトメーターを用いて測定する。細胞サンプルの平均蛍光強度を、CXPソフトウェア(Beckman-Coulter, Krefeld, Germany)又はIncyteソフトウェア(Merck Millipore, Schwalbach, Germany)を使用して計算する。第二・第三の試薬単独で染色した細胞の蛍光強度値を控除した後、この値を、GraphPad Prism(version 6.00 for Windows, GraphPad Software, La Jolla California USA)の1サイト結合(双曲線)の方程式でのKD値の計算に使用する。
【0082】
CD3結合親和性と交差反応性、CD3Jurkat細胞とカニクイザルCD3HSC-F細胞株(JCRB,cat.:JCRB1164)上での滴定及びフローサイトメトリー実験において評価する。CD20no結合と交差反応性を、ヒトCD20腫瘍細胞株上で評価する。交差反応性のKD比率を、組換え型ヒト抗原又は組換え型カニクイザル抗原を発現させるCHO細胞株上で判定されたKD値を使用して、計算する。
【0083】
実施例3:細胞毒性アッセイ
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、CD20標的細胞へのT細胞依存性の細胞毒性の媒介に対して、インビトロで評価する。
【0084】
蛍光標識化CD20REC-1細胞(マントル細胞リンパ腫細胞株、ATCC CRL-3004)を、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の存在下で、エフェクター細胞として無作為なドナー又はCB15 T細胞(標準化されたT細胞株)の分離されたPBMCで、インキュベートする。37℃で4時間のインキュベーションの後、湿らされたインキュベーターにおいて、標的細胞から上清への蛍光色素の放出を分光蛍光計中で判定する。実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質無しでインキュベートされた標的細胞、及び、インキュベーションの終わりにサポニンの添加により完全に溶解された標的細胞は、負及び正の対照としてそれぞれ役立つ。
【0085】
測定された残る標的生細胞に基づき、特定の細胞溶解のパーセンテージを、以下の式に従い計算する:[1-(生きた標的(サンプル)の数/生きた標的(自発性)の数)]×100%。S字状の用量応答曲線とEC50値を、GraphPadソフトウェアを使用して非線形回帰/4つのパラメータのロジスティックフィットにより計算する。与えられた抗体濃度について得られた溶解値を使用して、Prismソフトウェアを用いて4つのパラメータのロジスティックフィット分析によりS字状の用量応答曲線を計算する。
【0086】
実施例4:三重特異性抗原結合タンパク質の薬物動態
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、動物研究において半減期消失について評価する。
【0087】
三重特異性抗原結合タンパク質を、0.5mg/kgのボーラス注射としてカニクイザルの筋肉内に投与する。別のカニクイザル群は、CD3及びCD20に対する結合ドメインを持つがHSA結合を欠いている、同等のサイズのタンパク質を受ける。第3及び第4の群は、CD3とHSAの結合ドメインを持つタンパク質、及びCD20とHSAの結合ドメインを持つタンパク質それぞれを受け、共に、三重特異性抗原結合タンパク質と同等のサイズである。試験群はそれぞれ5匹のサルから成る。血清サンプルを示された時点で得て、連続希釈し、タンパク質の濃度を、CD3及び/又はCD20に対する結合ELISAを使用して判定する。
【0088】
被験物質の血漿濃度を使用して薬物動態解析を行う。各被験物質に関する群平均血漿データは、投薬後の時間(time post-dosing)に対してプロットされた時、多指数のプロファイルに一致する。データは、分布及び消失の段階のために、ボーラス入力及び一次反応速度定数を伴う標準の2つの区画モデルにより適合される。静脈内投与のデータの最良適合に関する一般的な方程式は、次のとおりである:c(t)=Ae-αt+Be-βt、ここで、c(t)は時間tでの血漿濃度であり、AとBはY軸上の切片であり、αとβは、それぞれ分布及び消失の段階の明白な一次反応速度定数である。α-段階は、クリアランスの初期段階であり、動物の全ての細胞外液へのタンパク質の分布を反映するが、減衰曲線の第2又はβ-段階部分は真性血漿の除去を表わす。そのような方程式に適合する方法は、当該技術分野で周知である。例えば、A=D/V(α-k21)/(α-β)、B=D/V(β-k21)/(α-β)、及びαとβ(α>βについて)は、V=分布容積、k10=排出速度、k12=区画1から区画2への移送速度、k21=区画2から区画1への移送速度、及びD=投与量の推定されたパラメータを用いる、二次方程式:r+(k12+k21+k10)r+k21k10=0のルートである。
【0089】
データ分析:濃度対時間のプロファイルのグラフを、KaleidaGraph (KaleidaGraph(商標) V. 3.09 Copyright 1986-1997. Synergy Software. Reading, Pa.)を使用して作成した。報告可能なものより少ない(LTR)ものとして報告された値は、PK分析には含まれず、図表で表わされない。薬物動態パラメータを、WinNonlinソフトウェア(WinNonlin(登録商標) Professional V. 3.1 WinNonlin(商標) Copyright 1998-1999. Pharsight Corporation. Mountain View, Calif.)を使用したコンパートメント解析により判定する。Ritschel W A and Kearns G L, 1999, IN: Handbook Of Basic Pharmacokinetics Including Clinical Applications, 5th edition, American Pharmaceutical Assoc., Washington, D.Cに記載されるように、薬物動態パラメータを計算する。
【0090】
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質は、HSA結合ドメインを欠くタンパク質と比較して、消失半減期の増加など、薬物動態パラメータを改善したことが予測される。
【0091】
実施例5:異種移植腫瘍モデル
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を、異種移植モデルにおいて評価する。
【0092】
メスの免疫不全NOD/scidマウスを亜致死的に照射し(2Gy)、4×10のRamos RA1細胞を右背部の速腹部へと皮下に播種させた。腫瘍が100~200mmに到達したら、動物を3つの処置群に割り当てる。群2と3(各々8匹の動物)に、1.5×10の活性化ヒトT細胞を腹腔内注射する。3日後、続いて群3の動物を、実施例1の50μgの三重特異性抗原結合タンパク質の合計9回の静脈内投与で処置する(qdx9d)。群1と2をビヒクルのみで処置する。体重と腫瘍容積を30日間測定する。
【0093】
実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質で処置した動物は、それぞれのビヒクルで処置した対照群に比べて、腫瘍増殖を統計的に著しく遅延させたことが、予測される。
【0094】
実施例6:B細胞リンパ腫患者に対する実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の投与のための、概念実証の臨床試験プロトコル
これは、B細胞リンパ腫の処置として、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質を研究するための第I/II相の臨床試験である。
【0095】
研究目的:
【0096】
第1:実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の最大耐用量
【0097】
第2:実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質のインビトロでの応答が臨床応答に関連するかどうかを判定すること
【0098】
第I相
【0099】
最大耐用量(MTD)を、試験の第I相セクションにおいて判定する。
1.1 最大耐用量(MTD)を、試験の第I相セクションにおいて判定する。
1.2 適格基準を満たす患者を、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質に対する試験に参加させる。
1.3 目標は、参加者において重度又は手に余る副作用無しに、安全に投与され得る実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の最高用量を識別することである。与えられた用量は、以前の研究に登録された参加者の数、及び用量にどれくらい十分な耐性があったかに依存する。全ての参加者が同じ用量を受けるとは限らない。
【0100】
第II相
2.1 次の第II相セクションをMTDにおいて処理し、その目標は、実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質による治療が、少なくとも20%の応答率を結果としてもたらすかどうかを判定することである。
第II相の第1の目的---実施例1の三重特異性抗原結合タンパク質の治療により、少なくとも20%の患者が臨床応答(芽細胞応答、微細な応答、部分応答、又は完全応答)を達成したかどうかを判定すること
【0101】
適格性:
2001~2007年の、現行のWorld Health Organisation Classificationに従い、組織学的に確認され新たに診断された、活動的なB細胞リンパ腫
疾患の任意のステージ。
R-CHOP又はR-CHOP様のレジメン(+/-移植)による処置。
年齢≧18歳
カルノフスキーパフォーマンスステータス≧50%又はECOGパフォーマンスステータス0-2
平均余命≧6週
【0102】
実施例7:三重特異性抗原結合分子の結合および細胞毒性活性を評価する方法
<タンパク質産生>
三重特異性分子の配列を、リーダー配列が先行し、6xヒスチジンタグ(Histidine Tag)(SEQ ID NO:59)が後続して、哺乳動物発現ベクターpCDNA 3.4(Invitrogen)へとクローン化した。Expi293F細胞(Life Technologies A14527)を、Expi293培地中の0.2-8x1e6細胞/mlでOptimum Growth Flasks (Thomson)において懸濁液中で維持した。精製されたプラスミドDNAを、Expi293 Expression System Kit(Life Technologies A14635)プロトコルに従って、Expi293細胞へトランスフェクトし、トランスフェクション後4-6日間維持した。調整培地を、親和性および脱塩のクロマトグラフィーによって部分的に精製した。続いて、三重特異性タンパク質を、イオン交換によって磨き、または代替的に、Amicon Ultraの遠心濾過ユニット(EMD Millipore)で濃縮し、Superdex 200のサイズ排除培地(GE Healthcare)に適用し、賦形剤を含有している中性緩衝液中に溶解した。フラクションプール(Fraction pooling)および最終的な純度を、SDS-PAGEおよび分析的なSECによって評価した。
【0103】
<親和性測定>
すべての結合ドメイン分子の親和性を、Octetの機器を使用して、バイオレイヤー干渉法によって測定した。
【0104】
PSMA親和性を、120秒間ヒトPSMA-Fcタンパク質(100nM)を抗ヒトIgG Fcバイオセンサー上に充填することによって測定し、続いて、60秒のベースラインで測定し、その後、180秒間三重特異性分子の希釈系列でセンサー先端部をインキュベートすることによって会合を測定し、続いて、50秒間解離した。EGFRおよびCD3の親和性を、120秒間、それぞれ(100nM)、ヒトEGFR-Fcタンパク質またはヒトCD3-Flag-Fcタンパク質を抗ヒトIgG Fcバイオセンサー上へと充填することによって測定し、続いて、60秒のベースラインで測定し、その後、180秒間三重特異性分子の希釈系列でセンサー先端部をインキュベートすることによって会合を測定し、続いて、300秒間解離した。ヒト血清アルブミン(HSA)に対する親和性を、ビオチン化アルブミンをストレプトアビジンバイオセンサー上へと充填することによって測定し、その後、CD3親和性測定と同じ動態パラメーターに従って測定した。すべての工程を、リン酸緩衝食塩水における0.25%のカゼイン中で30℃で実行した。
【0105】
<細胞毒性アッセイ>
腫瘍細胞を死滅させるようにT細胞に指向する、三重特異性分子を含むT細胞エンゲージャー(engagers)の能力を測定するために、ヒトT細胞依存性細胞毒性(TDCC)アッセイが使用される(Nazarian et al. 2015. J Biomol Screen. 20:519-27)。このアッセイにおいて、T細胞および標的癌細胞株の細胞は、384ウェルのプレートにおいて10:1の比率で一緒に混合され、様々な量のT細胞エンゲージャーが加えられる。48時間後、T細胞は洗浄され、T細胞によって死滅されなかったプレート標的細胞に結合されたままにされる。残りの生細胞を定量化するために、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)が使用される。
【0106】
<サイトカインアッセイ>
T細胞が標的細胞の存在下で三重特異性分子によって活性化されるという証拠を得るために、TNFアルファおよびインターフェロンガンマのためのAlphaLISAアッセイ(Perkin Elmer)が使用される。このアッセイに関しては、初代ヒトT細胞およびヒト腫瘍細胞が、細胞毒性アッセイ下で記載されるような試験分子の存在下でインキュベートされる。インキュベーションの48時間後、アッセイ上清の2マイクロリットルの分割量が、製造業者の指示に従って分析される。
【0107】
<拡散アッセイ>
マトリゲル(Matrigel)(75μL)の層を、24ウェルのトランスウエル(Transwell)のインサート(0.4μm)に加え、その後、PBSを、上部および下部のチャンバーに加え(それぞれ、100μLおよび1025μL)、4℃で一晩平衡化した。100pmolのIgGまたはFab(ヤギ抗ヒトFc、Jackson ImmunoResearch)三重特異性分子を、上部チャンバーに加え、下部チャンバーへの各分子の拡散を、各分子に特異的なELISAによって経時的に定量化した。IgGおよびFabを、ELISAプレート上で固定されたロバ抗ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch)によって捕捉し、ホースラディッシュペルオキシダーゼが抱合したロバ抗ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch)およびTMB開発で検出した。三重特異性分子を、ELISAプレート上で固定されたヒト血清アルブミン(Athens Research & Technology)によって捕捉し、ホースラディッシュペルオキシダーゼが抱合した抗His抗体(Genscript)およびTMB開発で検出した。
【0108】
各時間点での相対的拡散を、次のように計算した:(時間=tでの下部チャンバーにおける濃度)/(時間=tでの上部チャンバーにおける濃度)
【0109】
IgG分子とFabまたは三重特異性分子との間の拡散の統計的有意差を、独立t検定を使用して特定した。
【0110】
実施例8:EGFR標的化三重特異性分子のための親和性測定
EGFR標的化分子における3つの結合ドメインの親和性を、Octetの機器を使用してバイオレイヤー干渉法によって測定し、表1に要約する。
【0111】
EGFR結合ドメインが分子のN末端で位置付けられる三重特異性分子は、中央またはC末端位置においてEGFR結合ドメインを含有していた三重特異性分子と比較して、EGFRに対する著しくより高い親和性を示した。同様に、N末端でアルブミン結合ドメインを含有している三重特異性分子も、中間またはC末端位置においてアルブミンを含有している三重特異性分子よりHSAに対するより高い親和性を示した。対照的に、すべての三重特異性分子は、三重特異性分子内の結合ドメインの位置とは無関係に、ヒトCD3に対する非常に類似した親和性を示した。
【0112】
実施例9:PSMA標的化三重特異性分子のための親和性測定
PSMA標的化分子における3つの結合ドメインの親和性を、Octetの機器を使用してバイオレイヤー干渉法によって測定し、表2に要約する。
【0113】
N末端でアルブミン結合ドメインを含有している三重特異性分子は、中間またはC末端位置においてアルブミン結合ドメインを含有している三重特異性分子よりHSAに対する高い親和性を有した。対照的に、CD3結合ドメインの位置は、その標的に対する親和性に影響を与えなかった。同様に、PSMA結合ドメインの位置は、親和性に対する影響をほとんど与えず、すべての三重特異性分子が、互いに3倍以内のヒトPSMAに対する親和性を有していた。
【0114】
実施例10:三重特異性分子を用いる細胞毒性アッセイ
三重特異性分子を、T細胞依存性細胞毒性(TDCC)アッセイにおいて、腫瘍標的依存的な方法でヒト腫瘍細胞を死滅させるように初代ヒトT細胞を誘導する、それらの能力に関して試験した。
【0115】
EGFRまたはPSMAに対する単一ドメイン抗体由来の腫瘍標的化ドメインを含有している三重特異性分子は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)に匹敵する方法で強力な細胞死滅を誘導することができる(図5を参照)。
【0116】
単一ドメイン抗EGFR抗体を有する6つのEGFR標的化三重特異性分子(図4を参照)および抗EGFR scFvを含有している三重特異性分子を、NCI-1563ヒト肺腺癌細胞株を使用してTDCCアッセイにおいて試験した。比較のために、各アッセイにEGFR BiTEを含めた(Lutterbuese et al. 2007. PNAS 107: 12605-12610)。すべての7つのEFGR標的化三重特異性分子の構成が、EGFR BiTEに類似した効力で、標的細胞を有効に死滅させる(表3および4、および図6および8における代表的なデータを参照)ことが実証された。三重特異性分子のTDCC活性に対するアルブミン結合の影響を評価するために、TDCCアッセイをまた、15mg/mlのヒト血清アルブミンの付加とともに実行した。予測通り、アルブミン結合ドメインを欠く、EGFR BiTEの効力は、アルブミンの存在下または不存在下で類似していた。三重特異性分子の効力はアルブミンの存在下で低減したが、低減の程度は分子の構成に依存していた。その効力がアルブミンの存在下で最小に低減した構成は、EGFR-scFv:C:AおよびE:A:C(抗EGFR-scFv:抗CD3E-scFv:抗ALB-sdAbおよび抗EGFR-sdAb:抗ALB-sdAb:抗CD3E-scFv)であった。
【0117】
EGFR標的化三重特異性分子の結果が、すべての三重特異性分子に当てはまり得ることを実証するために、単一ドメイン抗PSMA抗体を有する5つのPSMA標的化三重特異性分子および抗PSMA scFvを含有している三重特異性分子を、22Rv1のヒト前立腺癌上皮細胞株を使用してTDCCアッセイにおいて試験した。比較のために、アッセイにPSMA BiTE(パソツキシズマブ)を含めた。代表的な結果は、表5および図7中に見られる。PSMA標的化三重特異性分子のほとんどは、A:C:P構成(抗PSMA-sdAb:抗CD3E-scFv:抗ALB-sdAb)を有する三重特異性分子を除いて、TDCCアッセイにおいてPSMA BiTEに類似した活性を有していた。これらの三重特異性分子をまた、三重特異性分子のTDCC活性に対するアルブミン結合の影響を評価するために、15mg/mlのヒト血清アルブミンを含むTDCCアッセイにおいて試験した。予測通り、アルブミン結合ドメインを欠く、PSMA BiTEの効力は、アルブミンの存在下または不存在下で類似していた。三重特異性分子の効力はアルブミンの存在下で低減したが、低減の程度は分子の構成に依存していた。その効力がアルブミンの存在下で最小に低減した構成は、P:A:C(抗PSMA-sdAb:抗ALB-sdAb:抗CD3E-scFv)であった。
【0118】
本明細書に記載される三重特異性分子は、標的腫瘍細胞に対する様々なモダリティを利用することができる。図5、6および7は、sdAb由来の腫瘍標的化ドメインを有する三重特異性分子を示し、図7および8は、scFv由来の腫瘍結合ドメインを有する三重特異性分子が等しく好適に作用することができることを示している。図9は、腫瘍標的化ドメインが、sdAbsおよびscFvsのような抗体に由来する構築物に限定されないことを実証しているが、非免疫グロブリンドメインも作用することができる。
本実施例では、ヒト卵巣癌細胞を死滅させるように、静止するヒトT細胞に再指向するために、Her2に特異的な7kDaのfynomerが使用される。
【0119】
実施例11:三重特異性分子を用いるサイトカイン産生アッセイ
本明細書で試験された三重特異性分子が、T細胞を活性化し、腫瘍細胞を死滅させるようにこれらのT細胞に再指向したことを示すために、サイトカインTNFαおよびIFNγの産生を、T細胞が活性化されるとこれらのサイトカインを産生するため、T細胞の細胞死滅活性と平行して測定した。
【0120】
図10および11に示されるように、4つの試験されたEGFRおよびPSMA標的化三重特異性分子は、それらの細胞死滅活性に類似した効力を有して、TNFαおよびインターフェロンγの産生を刺激した。これらのデータは、三重特異性分子が、標的細胞に結合するときにT細胞を活性化するという記述と一致している。
【0121】
実施例12:拡散アッセイ
本明細書で分析された三重特異性分子は、従来のIgG分子より小さく、したがって、モノクローナル抗体より速く拡散し、より好適に組織に浸透することが予期される。この特性を評価するために、マトリゲルによる拡散/移動アッセイを開発した。この目的のために、トランスウエルのアッセイプレートを、多くの組織中で見られる複合細胞外環境に類似しているゼラチン様タンパク質の混合物である、マトリゲルでコーティングした。三重特異性分子、全長IgGまたはFabフラグメントを、上部チャンバーに加えた。8時間および12時間後、下部チャンバーを、マトリックスを通って移動することができる巨大分子の量に関して評価した。図12に示されるように、三重特異性分子は、全長IgG分子よりはるかに速い速度で両方の時間点で移動した。
【0122】
実施例13:ヒトCD3εに対する様々な親和性を有する抗CD3 scFv変異体の特定
<親の抗CD3εファージの特徴づけ>
親の抗CD3εは、ビオチン-CD3εに対する優れた結合およびビオチン-HSAに対する低い結合を示した(図13)。
【0123】
<抗CD3ε scFvファージライブラリー>
重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3ドメインのための単一の置換ライブラリーを提供した。残基は、変異原性によって一度に一つずつ変えられた。
【0124】
<クローンの選択および結合親和性の判定>
単一の置換ライブラリーを、ビオチン化huCD3εに結合させ、洗浄し、溶出し、カウントした。ビオチン化cynoCD3を、ラウンド1の選択標的として使用し、2つの独立したライブラリー(~2x選択)からの組み合わせのファージ結合後4時間洗浄した。ビオチン化hu-CD3を、ラウンド2の選択標的として使用し、両方のライブラリー(<2x選択)の結合後3時間洗浄した。第2ラウンドの選択からのPCRedインサートを、pcDNA3.4 His6発現ベクターへとサブクローン化した。180のクローンを選択し、DNAを、精製し、配列決定し、Expi293へとトランスフェクトした。ヒトCD3εに対する親和性の範囲を有する16のクローンのパネルを、より正確なKd判定のために選択した(表6)。
【0125】
表1は、3つの標的抗原に対するEGFR標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の親和性を要約する。表の略語に対するキー:E=抗EGFR単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0126】
【表1】
【0127】
表2は、3つの標的抗原に対するPSMA標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の親和性を要約する。表の略語に対するキー:P=抗PSMA単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0128】
【表2】
【0129】
表3は、細胞死滅アッセイにおけるEGFR標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の効力を要約する。EC50値はモル濃度として示される。表の略語に対するキー:E=抗EGFR単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0130】
【表3】
【0131】
表4は、細胞死滅アッセイにおけるEGFR標的化scFv抗体を含有している三重特異性分子およびBiTE分子の効力を要約する。EC50値はモル濃度として示される。表の略語に対するキー:E=抗EGFR単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0132】
【表4】
【0133】
表5は、細胞死滅アッセイにおけるPSMA標的化単一ドメイン抗体を含有している三重特異性分子の効力を要約する。EC50値はモル濃度として示される。表の略語に対するキー:P=抗PSMA単一ドメイン抗体、C=抗CD3E scFv、A=抗アルブミン単一ドメイン抗体。
【0134】
【表5】
【0135】
表6は、CD3e scFvファージライブラリーの結合親和性を要約する。
【0136】
【表6】
【0137】
【表7-1】
【0138】
【表7-2】
【0139】
【表7-3】
【0140】
【表7-4】
【0141】
【表7-5】
【0142】
【表7-6】
【0143】
【表7-7】
【0144】
【表8-1】
【0145】
【表8-2】
【0146】
【表8-3】
【0147】
【表8-4】
【0148】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され記載されているが、そのような実施形態が例示目的のみで提供されることは当業者にとって明白となる。多くの変更、変化および置換が、本発明から逸脱することなく当業者に想到される。本明細書に記載される本発明の実施形態の様々な代案が、本発明の実施において利用され得ることを理解されたい。以下の請求項は本発明の範囲を定義するものであり、これらの請求項の範囲内の方法および構造並びにそれらの同等物が、それによって包含されるものであることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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