(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】全固体電池および全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231228BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231228BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231228BHJP
H01M 50/538 20210101ALI20231228BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20231228BHJP
H01M 50/593 20210101ALI20231228BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20231228BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20231228BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/13
H01M50/538
H01M50/586
H01M50/593
H01M50/105
H01M50/184 C
(21)【出願番号】P 2019003020
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 英之
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154138(JP,A)
【文献】特開2012-243395(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016112(WO,A1)
【文献】特開2015-133292(JP,A)
【文献】特許第3982221(JP,B2)
【文献】特開2003-123743(JP,A)
【文献】特開2010-067443(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107210453(CN,A)
【文献】特開2012-038425(JP,A)
【文献】特開平03-127466(JP,A)
【文献】特開2019-021621(JP,A)
【文献】特許第5599366(JP,B2)
【文献】特開2014-130754(JP,A)
【文献】特開平03-116661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 4/13
H01M 50/50
H01M 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層と、を含む電極積層体が厚さ方向に複数積層された全固体電池
の製造方法において、
前記電極積層体のそれぞれは、積層される前に予め1つ1つ個別に製造されたものであり
、正極集電体と、負極集電体と、を備え
、前記正極集電体が、前記電極積層体のそれぞれの前記正極層同士を電気的に接続するように、折込まれて配置されており
、前記負極集電体が、前記電極積層体のそれぞれの前記負極層同士を電気的に接続するように、折込まれて配置されており
、前記電極積層体のそれぞれの側方に配置された絶縁材をさらに備え、前記電極積層体のそれぞれは、前記絶縁材で囲まれている
全固体電池を製造するにあたり、
縁部に絶縁材が接着された正極集電体/負極集電体に、第1の電極積層体を正極層/負極層が接するように、かつ前記絶縁材によって囲われるように配置する第1工程と、
前記第1の電極積層体の負極層/正極層に接するように、縁部に絶縁材が接着された負極集電体/正極集電体を配置する第2工程と、
第2工程における負極集電体/正極集電体に第2の電極積層体の負極層/正極層が接するように、かつ前記絶縁材によって囲われるように配置する第3工程と、
前記第2の電極積層体の正極層/負極層に接するように、前記正極集電体/負極集電体を折込む第4工程と、
第4工程における正極集電体/負極集電体に第3の電極積層体の正極層/負極層が接するように、かつ前記絶縁材によって囲われるように配置する第5工程と、
第5工程における前記第3の電極積層体の負極層/正極層に接するように、前記負極集電体/正極集電体を折込む第6工程と、
を含み、
前記第1の電極積層体、前記第2の電極積層体、前記第3の電極積層体のそれぞれは、予め1つ1つ個別に製造されたものであること
を特徴とする全固体電池
の製造方法。
【請求項2】
第4工程における折込方向と、第6工程における折込方向が互いに交差する
ことを特徴とする請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
正極集電体の周縁の一部は、外部との電気的接続を行うための正極導出部として突出しており、
負極集電体の周縁の一部は、外部との電気的接続を行うための負極導出部として突出しており、
前記正極集電体および前記負極集電体のそれぞれの周縁の一部が突出したものである前記正極導出部および前記負極導出部が、電気を外部へ取り出すためのリードとして機能する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の全固体電池
の製造方法。
【請求項4】
正極導出部および負極導出部は、それぞれ少なくとも片面にシーラントが貼り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の全固体電池
の製造方法。
【請求項5】
前記電極積層体の1つ1つが製造される際に、極層密着体と前記電極積層体とが予めまとめて成型または焼結されることで、各電極積層体の正極層および負極層の少なくとも一方の表面には、それぞれ前記極層密着体が密着して配置されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の全固体電池
の製造方法。
【請求項6】
電極積層体のそれぞれが、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層と、を含む電極成型体が直列接続にて複数積層されたものであること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の全固体電池
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池およびその製造方法に関し、特に電極積層体が複数積層された全固体電池とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池構造の一形態として、正極側の活物質と負極側の活物質との間に配置される電解質として固体電解質を用いた全固体電池がある。全固体電池は電解質として電解液を用いた電池に比べ、液漏れのおそれがない、難燃性である、など安全性が高い。またエネルギー密度が高く、電池の体積寸法が小さくとも高容量が得られる。こうした全固体電池は例えば電動機や電子機器の電源として利用することができる。
【0003】
特許文献1に記載されている全固体電池は、一対の電極とその電極間に配置された固体電解質層からなる電極体が複数積層されて積層体となっており、積層体内の複数の電極体の負極同士、および正極同士がそれぞれ並列集電体で電気的に並列に接続されたものが全体として一つの全固体電池となっている。
【0004】
この特許文献1における全固体電池では、外部に電気を取り出す際に用いる正極端子用集電体と負極端子用集電体が積層体の側面に配置されていて、並列集電体がこの正極端子用集電体と負極端子用集電体に接続されている。したがって正極端子用集電体と負極端子用集電体から電気が取り出される際には、並列集電体内で電子が積層方向(上下方向)とは交差する方向(左右方向)へと移動することになる。特許文献1における全固体電池では、並列集電体内で左右方向に移動する電子の移動経路を確保しやすくするために、並列集電体の厚みを大きくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1における全固体電池において、厚み寸法の大きい並列集電体が全固体電池内に複数存在するため、電池全体の厚み寸法も大きくなってしまう。また、並列集電体がそれとは別体の部材である正極端子用集電体と負極端子用集電体に接続されるため、その接続部分で電気抵抗が増加してしまい、全固体電池からの電気の取り出し効率が低下してしまう。
【0007】
また、積層体内で電極体の各電極と面接触する並列集電体は、電極と十分に密着していなければ接触面の界面抵抗が大きくなり電池性能を損なってしまうが、単純に電極体と並列集電体とを重ねていくだけでは十分な密着はなされない。電極体と並列集電体とを予めまとめて成型したり、焼結したりすることで十分な密着がなされるが、こうした密着度を高めるための加工を、電極体と並列集電体が複数積層されて積層体が形成された後に行うことは困難である。
【0008】
このように、従来の全固体電池においては電池性能を低減してしまう要素があった。こうした問題点に鑑み、本発明は、全固体電池およびその製造方法において電池性能の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る実施形態の一つとしての全固体電池の製造方法は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層と、を含む電極積層体が厚さ方向に複数積層された全固体電池の製造方法において、前記電極積層体のそれぞれは、積層される前に予め1つ1つ個別に製造されたものであり、正極集電体と、負極集電体と、を備え、前記正極集電体が、前記電極積層体のそれぞれの前記正極層同士を電気的に接続するように、折込まれて配置されており、前記負極集電体が、前記電極積層体のそれぞれの前記負極層同士を電気的に接続するように、折込まれて配置されており、前記電極積層体のそれぞれの側方に配置された絶縁材をさらに備え、前記電極積層体のそれぞれは、前記絶縁材で囲まれている全固体電池を製造するにあたり、縁部に絶縁材が接着された正極集電体/負極集電体に、第1の電極積層体を正極層/負極層が接するように、かつ前記絶縁材によって囲われるように配置する第1工程と、前記第1の電極積層体の負極層/正極層に接するように、縁部に絶縁材が接着された負極集電体/正極集電体を配置する第2工程と、第2工程における負極集電体/正極集電体に第2の電極積層体の負極層/正極層が接するように、かつ前記絶縁材によって囲われるように配置する第3工程と、前記第2の電極積層体の正極層/負極層に接するように、前記正極集電体/負極集電体を折込む第4工程と、第4工程における正極集電体/負極集電体に第3の電極積層体の正極層/負極層が接するように、かつ前記絶縁材によって囲われるように配置する第5工程と、第5工程における前記第3の電極積層体の負極層/正極層に接するように、前記負極集電体/正極集電体を折込む第6工程と、を含み、前記第1の電極積層体、前記第2の電極積層体、前記第3の電極積層体のそれぞれは、予め1つ1つ個別に製造されたものであることを特徴とする。また、本発明の更なる実施形態に係る全固体電池の製造方法においては、上記の第4工程における折込方向と、第6工程における折込方向が互いに交差しているとよい。
【0011】
また、本発明の更なる実施形態に係る全固体電池の製造方法においては、正極集電体の周縁の一部は、外部との電気的接続を行うための正極導出部として突出しており、負極集電体の周縁の一部は、外部との電気的接続を行うための負極導出部として突出しており、前記正極集電体および前記負極集電体のそれぞれの周縁の一部が突出したものである前記正極導出部および前記負極導出部が、電気を外部へ取り出すためのリードとして機能するとよい。
【0012】
また、本発明の更なる実施形態に係る全固体電池の製造方法においては、正極導出部および負極導出部は、それぞれ少なくとも片面にシーラントが貼り付けられているとよい。
【0013】
また、本発明の更なる実施形態に係る全固体電池の製造方法においては、前記電極積層体の1つ1つが製造される際に、極層密着体と前記電極積層体とが予めまとめて成型または焼結されることで、各電極積層体の正極層および負極層の少なくとも一方の表面には、それぞれ前記極層密着体が密着して配置されているとよい。
【0014】
また、本発明の更なる実施形態に係る全固体電池の製造方法においては、電極積層体のそれぞれが、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層と、を含む電極成型体が直列接続にて複数積層されたものであるとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の全固体電池によれば、正極集電体と負極集電体のそれぞれが正極層同士、負極層同士を電気的に接続しながらつづら折り状に折込まれて配置されることで、厚みの薄い集電体であっても複数の正極層、負極層を並列に接続することが可能であり、全固体電池の全体としての厚み寸法が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る実施形態の一例における全固体電池の積層構造を概略的に示す斜視図。
【
図2】
図1に示す積層構造の全固体電池が筐体で覆われた状態を示す断面図。
【
図3】
図2における負極集電体およびその上下領域を示す拡大断面図。
【
図4】
図2における正極集電体およびその上下領域を示す拡大断面図。
【
図5】本発明に係る実施形態の一例における全固体電池の製造方法での第1工程を示す平面図。
【
図6】
図5の第1工程に続く第2工程を示す平面図。
【
図7】
図6の第2工程に続く第3工程を示す平面図。
【
図8】
図7の第3工程に続く第4工程を示す平面図。
【
図9】
図8の第4工程に続く第5工程を示す平面図。
【
図10】
図9の第5工程に続く第6工程を示す平面図。
【
図11】本発明に係る実施形態の別例における全固体電池の積層構造を概略的に示す断面図。
【
図12】本発明に係る実施形態の更なる別例における全固体電池の積層構造を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明に係る実施形態の一例における全固体電池10の積層構造を概略的に示す斜視図である。
図1に示す通り、全固体電池10は、電極積層体20が厚さ方向Zに複数(ここでは3つ)積層された構造となっており、これら電極積層体20同士の間には正極集電体30または負極集電体40が配置されている。
【0019】
各電極積層体20は、正極層23と、負極層24と、これら正極層23と負極層24との間に配置された固体電解質層29とを含んでいる。
図1に示す通り電極積層体20はその表裏(正極層23と負極層24のどちらを図中の上側とするか)が交互に入れ替わるように積み重ねられている。そして、正極集電体30は複数の電極積層体20の正極層23を互いに電気的に接続するように配置されている。同様に、負極集電体40は複数の電極積層体20の負極層24を互いに電気的に接続するように配置されている。
【0020】
正極集電体30は、図中の最下段に位置する電極積層体20の正極層23の下方に配置されて正極層23と電気的に接続されているとともに、つづら折り状に折込まれることにより曲げ部36を経由して中央段の電極積層体20の正極層23と、最上段の電極積層体20の正極層23との間へと導かれており、最下段の正極層23を最上段、中央段の正極層23と電気的に接続している。
【0021】
負極集電体40は、中央段の電極積層体20の負極層24と、最下段の電極積層体20の負極層24との間に配置されてこれらを電気的に接続しているとともに、つづら折り状に折込まれることにより曲げ部46を経由して最上段に位置する電極積層体20の負極層24の上方へと導かれており、この最上段の負極層24を最下段、中央段の負極層24と電気的に接続している。
【0022】
ここで、正極集電体30の折込方向(図中X方向)と負極集電体40の折込方向(図中Y方向)とは互いに交差している。そのため、正極集電体30の曲げ部36は電極積層体20からX方向に突出する一方で、負極集電体40の曲げ部46は電極積層体20からY方向に突出することになり、正極集電体30の曲げ部36と負極集電体40の曲げ部46とが接触することはない。すなわち、全固体電池10の正極と負極とが内部で短絡してしまうことがない構造となっている。
【0023】
正極集電体30の、厚み方向Zにおける図中の最下段の部分は、その周縁の一部(ここではY方向の図中右側端部の手前側)が電極積層体20の外側(Y方向)に突出してタブ状の正極導出部32となっている。負極集電体40の最上段の部分は、その周縁の一部(ここではY方向の図中左側端部の奥側)が電極積層体20の外側(Y方向)に突出してタブ状の負極導出部42となっている。これらの正極導出部32および負極導出部42から全固体電池10の電気が外部へと取り出される。
【0024】
図2に、
図1の積層構造を持つ全固体電池10が筐体50で覆われた状態を示す。
図2においては、
図1に示すA-A線に沿った切り口での全固体電池10の断面構造を示している。
図2に示す通り、各電極積層体20の側方には絶縁材62が配置されており、電極積層体20を構成する各層(正極層23、負極層24、固体電解質層29)の側面は外部と電気的に絶縁されている。絶縁材62のそれぞれは接着部材64(例えば両面テープ)により正極集電体30または負極集電体40の表面に接着されても良い。なお
図1においては、絶縁材62および接着部材64のうち手前側(図中の左下側)に位置する部分を仮想線で示している。
【0025】
複数積層された電極積層体20を覆う筐体50としては例えばアルミラミネートを用いることができる。アルミラミネートが積層された電極積層体20および正極集電体30、負極集電体40の全体を包み込み、正極導出部32および負極導出部42のみが外部へ露出するように真空封止が行われることで、正極導出部32および負極導出部42が、全固体電池10の電気を外部へ取り出すためのリードとして機能するようになる。
【0026】
ここで、前述の通り正極導出部32および負極導出部42はそれぞれ正極集電体30および負極集電体40の周縁の一部が突出したものであるため、正極導出部32および負極導出部42をリードとして用いることができ、効率よく電気を外部へ取り出すことができる。
【0027】
ところで、正極集電体30および負極集電体40としては十分に薄い(例えば10-20μmの厚みの)金属箔を用いることが望ましいが、これの一部をそのまま正極導出部32および負極導出部42として筐体50の外部へ露出させると、簡単に破れてしまうなどのおそれがあり、外部との接続用の端子として用いるには強度に不足がある。そこで
図2に示すように、正極導出部32および負極導出部42の、筐体50外部へと露出する部分の片面(ここでは
図2中の下面)には、露出する面全体を覆うように補強シーラント54が貼り付けられている。補強シーラント54が例えば熱融着により正極導出部32および負極導出部42と一体となるように貼り付けられていれば、正極導出部32および負極導出部42の機械的強度は補強シーラント54(例えば合成樹脂)によって補強され、簡単には破損しなくなる。
【0028】
また、正極導出部32および負極導出部42の、補強シーラント54と反対側の面(ここでは上面)には、導出部シーラント52が貼り付けられている。導出部シーラント52が覆う範囲は補強シーラント54よりも小さく、外部との電気的接続のための端子やリードとして用いることができるように、正極導出部32および負極導出部42の上面の一部が露出したままとなっている。そして、導出部シーラント52と補強シーラント54は、
図2に示すように、正極導出部32および負極導出部42が筐体50の外部へと突き出る部分において、筐体50と正極導出部32および負極導出部42との間を封止している。具体的には導出部シーラント52が正極導出部32および負極導出部42の上面と筐体50の天井側(上方部)との間を封止し、補強シーラント54が正極導出部32および負極導出部42の下面と筐体50の底面側(下方部)との間を封止している。
【0029】
図3は
図2中の領域R1の拡大断面図であり、負極集電体40と、それを上下から挟み込む2つの電極積層体20の構造を示している。先述の通り、負極集電体40は、上方側の電極積層体20の負極層24と下方側の電極積層体20の負極層24との間に配置されている。ここで、
図3に示す通り、負極集電体40とその上下の負極層24との間には、負極側の極層密着体44が配置されている。したがって、負極集電体40は、この極層密着体44を介して負極層24と電気的に接続していることになる。
【0030】
図4は
図2中の領域R2の拡大断面図であり、正極集電体30と、それを上下から挟み込む2つの電極積層体20の構造を示している。先述の通り、正極集電体30は、上方側の電極積層体20の正極層23と下方側の電極積層体20の正極層23との間に配置されている。ここで、
図4に示す通り、正極集電体30とその上下の正極層23との間には、正極側の極層密着体34が配置されている。したがって、正極集電体30は、この極層密着体34を介して正極層23と電気的に接続していることになる。
【0031】
図3,
図4に示す正極側の極層密着体34および負極側の極層密着体44は、電極積層体20が複数積層されるよりも前に、予め電極積層体20へと貼り付けられている。すなわち、電極積層体20の1つ1つが製造される際に、その電極積層体20の正極層23の表面には正極側の極層密着体34が、負極層24の表面には負極側の極層密着体44が、それぞれ密着するように貼り付けられる。電極積層体20が複数積層された後ではなく、電極積層体20の1つ1つが製造される際であれば、極層密着体34,44と電極積層体20とを予めまとめて成型したり、焼結したりすることで、正極層23および負極層24と極層密着体34,44との間を十分に密着させることができ、正極層23および負極層24と極層密着体34,44との間の界面抵抗を小さくすることができる。
【0032】
そして、これら正極側の極層密着体34および負極側の極層密着体44と、正極集電体30および負極集電体40がいずれも金属製であれば、極層密着体34,44と正極集電体30,負極集電体40との間の接触は金属同士の接触となり、接触抵抗の小さいものとなる。したがって、電極積層体20に正極側の極層密着体34および負極側の極層密着体44が密着して貼り付けられていることにより、正極層23または負極層24から正極集電体30または負極集電体40へと至る電気の流れにおいて大きな抵抗が生じることが無く、正極集電体30と負極集電体40を通じた電気の取り出し効率が高くなる。
【0033】
図5から
図10にかけて、本発明に係る実施形態の一例における全固体電池の製造方法を示す。これらの図は、説明されている各工程が完了した状態を示している。まず、第1の工程として、
図5の平面図に示すように、平面状に広げられた正極集電体30の上に、最下段となる1つ目の電極積層体20が配置される。正極集電体30の周縁の一部(ここでは図中Y方向端部)に設けられている正極導出部32は平面視において電極積層体20の周縁から突出する状態になる。このとき、電極積層体20は、その正極層23が正極集電体30に接するように配置される。そのため、
図5に示すように、電極積層体20の上面には負極層24、およびその表面に配置された負極側の極層密着体44が現れる。前述の通り、極層密着体44は電極積層体20が製造される際に予め負極層24の表面に貼り付けられている。
【0034】
なお、図示の簡略化のため
図5においては正極集電体30の寸法が平面内の一方向(Y方向)においては電極積層体20と同じで、もう一方向(X方向、後の第4工程における正極集電体30の折込方向)では電極積層体20の2倍の大きさとしているが、実際には
図1,
図2に示す曲げ部36を確保するためX方向寸法は電極積層体20のX方向寸法の2倍よりもやや大きくなっていることが望ましい。また正極集電体30は実際にはY方向寸法も電極積層体20よりやや大きく、正極集電体30の表面の縁部には予め
図2に示す絶縁材62が、接着部材64を介して電極積層体20の平面視寸法に相当する領域を囲うようにして接着されている。電極積層体20は平面内でその絶縁材62によって囲われた部分に配置されるようにするとよい。正極集電体30の曲げ部36および負極集電体40の曲げ部46となる分の余剰寸法、および絶縁材62と接着部材64の描写については簡略化のため
図6から
図10においても省略する。
【0035】
次に第2工程として、第1工程で配置された電極積層体20の上面に表れている負極層24(正確にはその表面に配置された負極側の極層密着体44)の上に、
図6に示すように負極集電体40が配置され、負極層24に負極集電体40が接触させられる。この負極集電体40は、X方向の寸法が電極積層体20と同じで、Y方向(後の第6工程における負極集電体40の折込方向)の寸法が電極積層体20の2倍である(正確にはX方向,Y方向ともにもう少し大きい寸法である)。またこの負極集電体40の周縁のY方向端部には負極導出部42が設けられている。
【0036】
次に第3工程として、第2工程で配置された負極集電体40の上に、
図7に示すように2つ目の電極積層体20が配置される。このとき、電極積層体20は、その負極層24が下面側となって負極集電体40に接するように配置される。そのため、
図7に示すように、電極積層体20の上面には正極層23、およびその表面に予め貼り付けられている正極側の極層密着体34が現れる。ここでも図示は省略しているが、負極集電体40の表面には予め電極積層体20の配置領域を囲うように絶縁材62が接着部材64を介して接着されており、電極積層体20はその絶縁材62で囲われた領域に配置される。
【0037】
次に第4工程として、第3工程で配置された電極積層体20の上面に表れている正極層23(正極側の極層密着体34)の上に、第1工程の時点で配置されていた正極集電体30のうち電極積層体20が配置されていない部分が被さるように、
図7の矢印で示す折込方向(X方向)に正極集電体30が折込まれる。その結果、
図8に示すように、平面視で最上面には正極集電体30が現れることとなり、2つ目の電極積層体20上面の正極層23に正極集電体30が接触した状態となる。
【0038】
次に第5工程として、第4工程で折込まれて最上面に現れた正極集電体30の上に、
図8に示すように、最上端となる3つ目の電極積層体20が配置される。このとき、電極積層体20は、その正極層23が下面側となって正極集電体30に接するように配置される。そのため、
図9に示すように、電極積層体20の上面には負極層24と負極側の極層密着体44が現れる。ここでも正極集電体30表面上に予め接着された絶縁材62の図示は省略している。
【0039】
次に第6工程として、第5工程で配置された電極積層体20の上面に表れている負極層24(負極側の極層密着体44)の上に、第2工程で配置された負極集電体40のうち電極積層体20が配置されていない部分が被さるように、
図9の矢印で示す折込方向(Y方向)に負極集電体40が折込まれる。その結果、
図10に示すように、平面視で最上面には負極集電体40が現れることとなり、最上段の電極積層体20上面の負極層24に負極集電体40が接触した状態となる。このとき、負極集電体40の周縁のY方向端部に設けられていた負極導出部42も最上段に現れる。
【0040】
以上の工程により、
図1の斜視図に示す積層構造と同様の全固体電池10が得られる。これをアルミラミネートなどの筐体50で覆うことにより、
図2に示す全固体電池10となる。なお
図5から
図10にかけては省略したが、正極導出部32および負極導出部42には、予め
図2に示す導出部シーラント52および補強シーラント54が取り付けられていることが望ましい。すなわち、第1工程で正極集電体30が配置されるよりも前に、予め正極集電体30の正極導出部32の片面には補強シーラント54が、もう片面には導出部シーラント52が取り付けられているとよい。同様に、第2工程で負極集電体40が配置されるよりも前に、予め負極集電体40の負極導出部42の片面には補強シーラント54が、もう片面には導出部シーラント52が取り付けられているとよい。
【0041】
なお、以上の工程においては最下段に正極集電体30を配置し、最終的に最上段に負極集電体40が配置されるものとして説明したが、上記の説明における正極/負極を入れ替えることで、最下段に負極集電体40を配置し、最上段に正極集電体30が配置されるように全固体電池10の製造を行うこともできる。
【0042】
以上の工程を経た製造方法によって製造された本実施形態の全固体電池10は、正極集電体30と負極集電体40のそれぞれが正極層23同士、負極層24同士を電気的に接続しながらつづら折り状に折込まれて配置されることになるので、例えば10μm程度の薄い金属箔を正極集電体30および負極集電体40として複数の正極層、負極層を並列に接続することが可能であり、全固体電池10の全体としての厚み寸法が小さくなる。さらに正極集電体30と負極集電体40の折込方向が互いに交差しているため、全固体電池10の内部で正極集電体30と負極集電体40とが短絡してしまうことがない。
【0043】
また、電極積層体20は積層させていく工程が始まる前に予め1つ1つを個別に製造しておくことができるため、電極積層体20個別の出来具合について事前に検査を行うことができるので、実際に使用する電極積層体20は良品のみとすることができ、全固体電池10の製造歩留りが向上する。
【0044】
また、正極集電体30の一部が正極導出部32、負極集電体40の一部が負極導出部42となっており、これら正極導出部32と負極導出部42によって全固体電池10と外部との電気的接続が行われることにより、正極集電体30と負極集電体40は、これらとは別体の部材を経由することなく直接外部へと電気を送り出すことになるため、全固体電池10と外部との電気的接続において余分な電気抵抗の増加が発生しない。
【0045】
また正極導出部32および負極導出部42それぞれの少なくとも片面にシーラント(導出部シーラント52や補強シーラント54)が貼り付けられていることにより、正極集電体30および負極集電体40が薄い金属箔であっても、正極導出部32および負極導出部42の機械的強度がシーラントによって補強される。
【0046】
また正極層23や負極層24の表面に極層密着体34,44が配置され、この極層密着体34,44が正極集電体30や負極集電体40を挟み込む構造であるので、正極層23と負極層24に対しては極層密着体34,44が密着し、極層密着体34,44と正極集電体30または負極集電体40との接触は金属などの伝導体同士の接触となり、全固体電池10内における層間の界面抵抗が小さくなる。
【0047】
以上の実施形態においては、電極積層体20が正極層23、負極層24、および固体電解質層29をそれぞれ1層ずつ有するものとして説明したが、1つの電極積層体20がこれらの層を複数含んでいてもよい。例えば
図11に示すように、正極層23と、負極層24と、これら正極層23と負極層24との間に配置された固体電解質層29とを含む電極成型体26が直列接続にて複数(ここでは2つ)積層されたものが1つの電極積層体20となっていてもよい。この場合、1つの電極積層体20に正極層23、負極層24、および固体電解質層29がそれぞれ2層ずつ含まれることになる。電極積層体20内で直列接続されている電極成型体26同士の間には直列集電体25が配置されている。詳しくは、2つの電極成型体26同士の境目において、一方の電極成型体26の正極層23と、他方の電極成型体26の負極層24とを電気的に接続するように直列集電体25が配置されている。なお、
図11では電極成型体26が2つ直列接続されたものを1つの電極積層体20としているが、3つ以上の電極成型体26が直列接続されていてもよい。
【0048】
このように電極成型体26が直列接続にて複数積層されたものを電極積層体20として用いると、全固体電池10の容量や出力電圧をより広い範囲とすることができる。
【0049】
なお、以上の各実施形態においては、電極積層体20が3つ積層されたものとしているが、必要な電池性能(寸法、エネルギー密度、容量、出力電圧など)に応じて、3つよりも多くの電極積層体20が積層されてもよい。3つよりも多くの電極積層体20が積層されている場合、正極集電体30および負極集電体40はつづら折り状に何度も折込まれることとなる。具体的には
図5の第1工程および
図6の第2工程において、折込方向(X方向またはY方向)に寸法の大きくなった正極集電体30と負極集電体40が配置され、
図7の第3工程から
図10の第6工程までが何度も繰り返されることになる。その際、正極集電体30の曲げ部36および負極集電体40の曲げ部46は、それぞれの折込方向において手前側・奥側の交互に配置される。
【0050】
図12に、3つよりも多くの電極積層体20が積層されている場合の積層構造の一部を断面図として示す。
図12において負極集電体40の曲げ部46が図中の左側と右側に交互に現われていることからもわかるように、3つよりも多くの電極積層体20が積層される場合、正極集電体30および負極集電体40はつづら折り状に折り込まれて配置される。ここで、正極集電体30と負極集電体40の折込方向が互いに交差していることにより、正極集電体30と負極集電体40の両方がつづら折り状に折り込まれても、正極集電体30と負極集電体40とが接触(短絡)してしまうことはない。なお
図12において、正極集電体30は、負極集電体40の折込方向(図中の左右、Y方向)と交差する方向(図の紙面に垂直な方向、X方向)に折り込まれており、その曲げ部36は、紙面よりも手前側(仮想線)と奥側(実線)の交互に現われる。
【0051】
また、正極集電体30および負極集電体40と、正極層23および負極層24との間の界面抵抗が十分に少ないならば必ずしも
図3、
図4に示す極層密着体34,44はなくともよいが、正極層23と正極集電体30との界面、または負極層24と負極集電体40との界面のいずれかの界面抵抗が大きい場合、少なくともその電極側には極層密着体を設けることが望ましい。
【0052】
また、正極集電体30および負極集電体40の厚みが大きくて正極導出部32および負極導出部42の機械的強度が補強シーラント54なしでも十分に確保できる場合や、筐体50を正極導出部32や負極導出部42へ直接溶着するなどして導出部シーラント52なしで封止が行えるような場合には、必ずしも導出部シーラント52や補強シーラント54が正極導出部32および負極導出部42に貼り付けられている必要はない。
【符号の説明】
【0053】
10 全固体電池
20 電極積層体
23 正極層
24 負極層
29 固体電解質層
30 正極集電体
34 極層密着体
40 負極集電体
44 極層密着体
54 補強シーラント
62 絶縁材