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特許7411360抵抗器の熱解析装置、熱解析プログラム及びモデル生成プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】抵抗器の熱解析装置、熱解析プログラム及びモデル生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20231228BHJP
   G06F 30/398 20200101ALI20231228BHJP
   G06F 119/08 20200101ALN20231228BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/398
G06F119:08
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019162896
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021043516
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋稔
(72)【発明者】
【氏名】平沢 浩一
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218605(JP,A)
【文献】特開2005-346527(JP,A)
【文献】NEGREA, C. et al.,ADVANCED ELECTRO-THERMAL MODELING FOR SURFACE MOUNT RESISTORS,U.P.B. Scientific Bulletin [online],2014年,Series C, Vol. 76, Iss. 1,pp. 105-118,[検索日 2023.09.22],インターネット,URL,https://www.scientificbulletin.upb.ro/rev_docs_arhiva/full247_285468.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/30 -30/398
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板から離間する中間部と、その両側において前記基板の配線に接続する端子部と、を備える抵抗器の温度を解析するコンピュータに
前記中間部を模擬する中間ノードと、
前記両側の少なくとも一方の端子部を模擬し、前記一方の端子部から前記配線に当接する前記基板に向かって熱を伝える第1経路の起点となる端子ノードと、
前記端子ノードと前記中間ノードとの間を接続する熱抵抗と、
前記配線を前記一方の端子部が接合される接合部位と他の配線部位とに分割した境界を模擬し、前記一方の端子部から前記配線の境界に熱を伝える第2経路の終点となる分割ノードと、を含み、
前記第2経路は、前記端子ノードと前記分割ノードとの間を接続する抵抗器の熱解析モデルを準備する手順と、
前記中間ノードの発熱量として所定の値を設定する手順と、
前記熱解析モデルを用いて前記抵抗器の温度を解析する手順と、
を実行させるための抵抗器の熱解析プログラム
【請求項2】
請求項1に記載された抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記第1経路の終点は、前記接合部位と前記基板の絶縁基材との境界を模擬する境界ノードである、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記接合部位の配線領域を模擬し、前記一方の端子部からの熱を前記基板に伝える第1分岐路及び前記一方の端子部からの熱を前記他の配線部位に伝える第2分岐路の起点となる配線ノードと、
前記配線ノードと前記端子ノードとの間を接続する接続経路と、を含み、
前記第1経路は、前記接続経路と前記第1分岐路とを有し、
前記第2経路は、前記接続経路と前記第2分岐路とを有する、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記端子ノードは、
前記端子部のうち前記中間部に隣接する内側領域を模擬し、前記内側領域から前記基板への第1内側経路の起点となる内側ノードと、
前記中間部から離間するとともに前記内側領域に隣接する外側領域を模擬し、前記外側領域から前記基板への第1外側経路の起点となる外側ノードと、を含み、
前記熱抵抗は、前記中間ノードと前記内側ノードとの間を接続する第1熱抵抗、及び前記内側ノードと前記外側ノードとの間を接続する第2熱抵抗を有し、
前記第2経路は、前記外側ノードと前記分割ノードとの間を接続する、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項5】
請求項4に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記内側ノードに対して接続される熱容量をさらに含む、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記一方の端子部は、電極材上に抵抗体が積層された構造であり、
前記内側ノードは、前記基板に対して直交する方向と前記両側の端子部間の方向とに平行な面である前記抵抗体の側面の中心部を模擬するノードであり、
前記外側ノードは、前記外側領域の外側端部を模擬するノードであり、
前記第2熱抵抗の値は、前記抵抗器に所定の電力を印加することによって前記中心部に生じる温度と前記外側端部に生じる温度との差分に基づいて定められる、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか一項に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記第1熱抵抗及び前記第2熱抵抗の少なくとも一方の端点は、当該端点が属する領域の外面を模擬する外面ノードに接続される、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項8】
請求項7に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記外面ノードは、前記中間部のうち前記基板に対向する外面を模擬するノードである、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記熱抵抗の値は、前記抵抗器の熱抵抗と前記接合部位の熱抵抗とに基づいて定められる、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記中間ノードに対して接続される熱容量をさらに含む、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の抵抗器の熱解析プログラムであって、
前記両側の端子部のうち他方を模擬する他方の端子ノードと、
前記他方の端子ノードと前記中間ノードとの間を接続する他方の熱抵抗と、
前記配線を前記他方の端子部が接合される接合部位と他の配線部位とに分割した境界を模擬する他方の分割ノードと、
前記他方の端子ノードと前記他方の分割ノードとの間を接続する他方の第2経路と、を含む、
抵抗器の熱解析プログラム
【請求項12】
基板から離間する中間部と、その両側において前記基板の配線に接続する端子部と、を備える抵抗器の温度を解析する熱解析装置であって、
前記中間部を模擬する中間ノードと、前記両側の少なくとも一方の端子部を模擬し前記一方の端子部から前記配線に当接する前記基板に向かって熱を伝える第1経路の起点となる端子ノードと、前記端子ノードと前記中間ノードとの間を接続する熱抵抗と、を備える熱解析モデルを準備する準備部と、
前記中間ノードの発熱量として所定の値を設定する設定部と、
前記熱解析モデルを用いて前記抵抗器の温度を解析する解析部と、を含み、
前記熱解析モデルは、前記配線を前記一方の端子部が接合される接合部位と他の配線部位とに分割した境界を模擬し、前記接合部位を介して前記一方の端子部から前記境界に熱を伝える第2経路の終点となる分割ノードを備え、前記第2経路は、前記端子ノードと前記分割ノードとの間を接続する、
抵抗器の熱解析装置。
【請求項13】
請求項12に記載の抵抗器の熱解析装置であって、
前記設定部は、前記端子ノードの発熱量として、前記端子部の損失電力を示す特定の値を設定する、
抵抗器の熱解析装置。
【請求項14】
請求項13に記載の抵抗器の熱解析装置であって、
前記特定の値は、前記配線の延在方向における前記端子部の基板側両端に生じる電圧に基づいて定められる、
抵抗器の熱解析装置。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の抵抗器の熱解析装置であって、
前記特定の値は、前記抵抗器の抵抗値が小さくなるほど前記端子ノードの発熱量が大きくなるように定められる、
抵抗器の熱解析装置。
【請求項16】
請求項13から請求項15までのいずれか一項に記載の抵抗器の熱解析装置であって、
前記端子ノードは、前記端子部のうち前記中間部に隣接する内側領域を模擬する内側ノードと、前記中間部から離間するとともに前記内側領域に隣接する外側領域を模擬する外側ノードと、を含み、
前記熱抵抗は、前記中間ノードと前記内側ノードとの間を接続する第1熱抵抗、及び前記内側ノードと前記外側ノードとの間を接続する第2熱抵抗を有し、
前記設定部は、前記内側ノードの発熱量として前記特定の値を設定する、
抵抗器の熱解析装置。
【請求項17】
請求項16に記載の抵抗器の熱解析装置であって、
前記中間ノードの発熱量と前記内側ノードの発熱量とを互いに関係付けたテーブルを保持するメモリをさらに含み、
前記設定部は、前記中間ノードの発熱量として前記所定の値を取得すると、前記テーブルを参照して前記所定の値に関連付けられた前記特定の値を前記内側ノードに設定する、
抵抗器の熱解析装置。
【請求項18】
基板から離間する中間部と、その両側において前記基板の配線に接続する端子部と、を備える抵抗器の熱解析モデルを生成するコンピュータに、
前記中間部を模擬する中間ノードを設定する手順と、
前記両側の少なくとも一方の端子部を模擬し、前記一方の端子部から前記配線に当接する前記基板に向かって熱を伝える第1経路の起点となる端子ノードを設定する手順と、
前記端子ノードと前記中間ノードとの間を接続する熱抵抗を設定する手順と、
前記配線を前記一方の端子部が接合される接合部位と他の配線部位とに分割した境界を模擬し、前記一方の端子部から前記配線の境界に熱を伝える第2経路の終点となる分割ノードを設定する手順と、
前記第2経路の起点を前記端子ノードに設定する手順と、
を実行させるためのモデル生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗器の温度を解析する熱解析装置、熱解析プログラム及びモデル生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体集積回路を半導体チップの熱源となる部位から基板に対して垂直方向に上下に分け、その上側領域と下側領域とを2つの熱抵抗で表現した熱解析モデルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-218605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の熱解析モデルを、半導体集積回路とは構造や物性が異なる抵抗器の熱解析に適用した場合には、抵抗器の熱源となる中間部において基板に直交する方向への熱の伝達が二つの熱抵抗によって模擬される。しかしながら、熱の伝達の仕方は、基板の違いによって異なるにも関わらず、この点が上記モデルにおいては考慮されていないことから、抵抗器の温度を精度よく解析することが難しかった。
【0005】
本発明は、簡易な構成により基板の影響を考慮した抵抗器の熱解析を行う熱解析装置、熱解析プログラム及びモデル生成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、抵抗器の熱解析プログラムは、基板から離間する中間部と、その両側において前記基板の配線に接続する端子部と、を備える抵抗器の温度を解析するコンピュータに、抵抗器の熱解析モデルを準備する手順と、前記中間部を模擬する中間ノードの発熱量として所定の値を設定する手順と、前記熱解析モデルを用いて前記抵抗器の温度を解析する手順と、を実行させるためのプログラムである。この熱解析モデルは、前記中間部を模擬する中間ノードと、前記両側の少なくとも一方の端子部を模擬し、前記一方の端子部から前記配線に当接する前記基板に向かって熱を伝える第1経路の起点となる端子ノードと、前記端子ノードと前記中間ノードとの間を接続する熱抵抗と、を含む。さらに熱解析モデルは、前記配線を前記一方の端子部が接合される接合部位と他の配線部位とに分割した境界を模擬し、前記一方の端子部から前記配線の境界に熱を伝える第2経路の終点となる分割ノードを含み、前記第2経路は、前記端子ノードと前記分割ノードとの間を接続する。
【発明の効果】
【0007】
抵抗器の熱解析において抵抗器の端子部から基板への熱の伝達の仕方は、基板の熱抵抗、例えば基板に形成される配線の熱抵抗等の違いによって変わる。上述の態様によれば、熱解析モデルにおいて端子ノードと分割ノードとの間に第2経路が設けられているので、基板の熱抵抗の違いに合わせて抵抗器内の熱伝導を模擬することが可能となる。それゆえ、簡易な構成により基板の影響を考慮した抵抗器の熱解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態における抵抗器の温度を解析する熱解析装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、解析対象である抵抗器の構造を例示する斜視図である。
図3図3は、熱解析装置に接続される記憶装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、本実施形態における抵抗器の熱解析方法を示すフローチャートである。
図5図5は、本実施形態における抵抗器の熱解析を行う基本モデルの構成を示す図である。
図6図6は、抵抗器の基本モデルを特定のソフトウェアに適用した熱解析モデルの一例を示す図である。
図7図7は、本実施形態における熱解析モデルの生成方法を示すフローチャートである。
図8図8は、第2実施形態における基本モデルの構成を示す図である。
図9図9は、基板に形成される配線の厚みと抵抗器内部の温度分布との関係を示す図である。
図10図10は、抵抗器の基本モデルを特定のソフトウェアに適用した熱解析モデルの一例を示す図である。
図11図11は、抵抗器の熱解析モデルを構成するノードの設定例を示す図である。
図12図12は、抵抗器の熱解析モデルを構成する熱抵抗の設定例を示す図である。
図13図13は、本実施形態における熱解析モデルの生成方法を示すフローチャートである。
図14図14は、熱解析モデルの生成方法に含まれる配線領域生成処理の一例を示すフローチャートである。
図15A図15Aは、熱解析モデルの解析精度を説明するための図である。
図15B図15Bは、解析精度の比較対象として配線領域を設けない熱解析モデルの構成例を示す図である。
図16A図16Aは、第3実施形態における基本モデルの構成を示す図である。
図16B図16Bは、本実施形態における基本モデルの他の例を示す図である。
図17図17は、熱解析モデルにおける中間ノードに接続される熱容量の設定例を示す図である。
図18図18は、基本モデルによる過渡状態における抵抗器温度の解析精度を説明する図である。
図19A図19Aは、第4実施形態における熱解析モデルの構成を示す図である。
図19B図19Bは、本実施形態における熱解析モデルの他の例を示す図である。
図20図20は、第5実施形態における熱解析モデルを構成する端子ノードの発熱量に関する図である。
図21図21は、本実施形態における抵抗器の熱解析方法を示すフローチャートである。
図22図22は、抵抗器への印加電力と端子部の損失電力との関係を示す図である。
図23図23は、第6実施形態における熱解析モデルを構成する端子部内側ノードの発熱量の設定手法を説明するための図である。
図24図24は、本実施形態における抵抗器の熱解析方法を示すフローチャートである。
図25図25は、抵抗器の熱解析方法による抵抗器温度の解析精度を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における抵抗器の熱解析装置10の構成例を示すブロック図である。
【0011】
熱解析装置10は、基板上に実装される電子部品の温度分布を解析するコンピュータであり、特に抵抗器の温度を解析する装置である。熱解析装置10は、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバス等によって構成される。
【0012】
熱解析装置10を構成するプロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)又はDSP(digital signal processor)等である。熱解析装置10の入出力インターフェースには、入力装置20、記憶装置30及び表示装置40がそれぞれ接続される。
【0013】
入力装置20は、マウス、キーボード及びタッチパネル等である。記憶装置30は、HDD(hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)又は光学ドライブ等である。
【0014】
記憶装置30には、基板上に実装される電子部品の熱流体解析を行うための熱解析プログラムが格納されている。さらに記憶装置30には、基板上に実装される電子部品のうち解析対象である抵抗器についての熱回路網データが格納されている。この抵抗器の熱回路網データは、上記熱解析プログラムを実行する際に必要となる電子回路の解析モデルを生成するためのプログラムである。なお、本実施形態では記憶装置30が熱解析装置10とは独立して設けられているが、熱解析装置10に記憶装置30が実装されてもよい。
【0015】
表示装置40は、液晶ディスプレイ又はプロジェクタ等である。表示装置40は、電子回路の解析モデル又は熱解析装置10による解析結果等を表示する。
【0016】
通信処理装置50は、外部端末との間で通信を行い、外部端末から受信したデータを記憶装置30に記録する。例えば、通信処理装置50は、入力装置20からの情報に基づいて、インターネット網及び電話網等のネットワーク51を通じて外部のサーバ等から、上記熱解析プログラム及び熱回路網データ等の種々のプログラムを受信する。通信処理装置50は、受信した種々のプログラムを記憶装置30に記録する。
【0017】
なお、通信処理装置50は、USB(universal serial bus)メモリ又はCD-ROM(Compact Disc Read only memory)等から、熱解析装置10によって実行される種々のプログラムを受信してもよい。また、
【0018】
次に、熱解析装置10の機能構成について詳細に説明する。
【0019】
熱解析装置10は、設定部11と、解析モデル生成部12と、解析部13と、出力部14と、を備える。熱解析装置10における各部位の機能は、RAMに読み込まれた熱解析プログラムをプロセッサが実行することによって実現される。
【0020】
設定部11は、基板上に実装された電子部品の熱解析を行うための解析条件を設定する。設定部11は、入力装置20からの情報に基づき、例えば解析条件として基板及び電子部品の寸法及び物性値、並びに電子部品に供給される印加電力等を設定する。
【0021】
解析モデル生成部12は、抵抗器の熱解析モデルを準備(用意)する準備部を構成する。解析モデル生成部12は、設定部11からの指示に従って、記憶装置30から少なくとも抵抗器の熱回路網データを読み込み、その熱回路網データに基づき抵抗器の熱解析に必要となる電子回路の解析モデルを生成する。
【0022】
解析部13は、解析モデル生成部12で生成された電子回路の解析モデルを用いて抵抗器の温度を解析する。解析部13は、設定部11により抵抗器への印加電力として所定の値が設定されると、その設定値に基づき熱抵抗モデルの所定部位の温度を解析する。
【0023】
本実施形態では、基板及び抵抗器以外の電子部品の熱流体解析については有限要素法が用いられ、抵抗器の熱解析については熱回路網法が用いられる。以下では、有限要素法を適用した熱流体解析モデルのことを詳細モデルと称し、熱回路網法を適用した熱解析モデルのことを熱抵抗モデルと称する。
【0024】
なお、詳細モデルを用いた熱流体解析においては、部品内部の寸法及び物性値等の詳細情報が必要となるが、実際には部品メーカ等から部品に関する詳細情報を入手することは困難である。また、詳細モデルは、解析対象の部品領域を格子状に多数の要素で構成するものであるため、解析精度が高いものの、解析に要する時間が長くなる。一方、熱抵抗モデルは、熱抵抗を用いて部品の熱伝導を簡易的に模擬するものであり、詳細モデルに比べて熱解析の要素となる熱抵抗の設定数は少なく解析時間も短い。
【0025】
出力部14は、解析部13によって解析された抵抗器の各部位の温度をグラフ化し、コンピュータグラフィクス又はアニメーションにより可視化する所定の画像処理を実行する。出力部14は、その所定の画像処理によって生成される画像を表示装置40に出力する。
【0026】
次に、図2を参照して、熱解析装置10の解析対象である抵抗器の構造について簡単に説明する。
【0027】
図2は、本実施形態における抵抗器8の形状を示す斜視図である。
【0028】
抵抗器8は、電流を検出するのに用いられる金属板抵抗器であり、例えばチップ抵抗器である。抵抗器8の抵抗値は、数百mΩ(ミリオーム)よりも小さな値であり、例えば、数百μΩ(マイクロオーム)又は数mΩである。
【0029】
抵抗器8は、板状の抵抗体8aと、抵抗体8aの一方の面に所定間隔で積層される一対の電極材8bと、を備える。抵抗体8aとしては、例えばCu-Ni系、Ni-Cr系、又はCu-Mn系等の材料が用いられ、電極材8bとしては、例えばCu等が用いられる。抵抗器8は、一対の電極材8b間の方向である抵抗器8の長手方向に抵抗体8aの中心から対称に形成される。
【0030】
電極材8bの外面のうち抵抗体8a及び電極材8bの積層方向の接合面81aは、ハンダを用いて、基板に形成される配線に接続される。抵抗器8が通電することにより、正極配線から、一方の電極材8bを介して負極配線に接合された他方の電極材8bに電流が流れると、一対の電極材8b間の抵抗体8aに印加された電力が熱エネルギーに変換される。通常、抵抗器8への印加電力の殆どは熱エネルギーに変換されることから、抵抗器8の発熱量は、抵抗器8への印加電力と同等であるとみなすことができる。
【0031】
以下の説明においては、抵抗体8aのうち基板から離間する部分であって特に熱が発生する部分を、中間部80と称する。さらに、抵抗体8aのうち中間部80を除いた両側部分と一対の電極材8bとで構成される部分であって基板の配線に接続される部分を、端子部81と称する。端子部81は、上述のとおり、電極材8b上に抵抗体8aが積層された構造である。
【0032】
抵抗器8への印加電力により中間部80において発生する熱は、主に端子部81から基板に伝達される。その他に、中間部80において発生する熱は、抵抗器8の外面のうち、基板に対向する下面80aから空隙を介して基板に伝達され、下面80aと反対側の上面80bから空気等の外気に伝達される。
【0033】
図3は、本実施形態における記憶装置30の内部構成を示すブロック図である。
【0034】
記憶装置30は、熱解析プログラム記憶部31と、ライブラリデータ記憶部32と、部品形状データ記憶部33と、を備える。
【0035】
熱解析プログラム記憶部31には、上述のように熱解析装置10の各部位の動作を制御する熱解析プログラムが格納されている。この熱解析プログラムとしては、例えば専用の熱流体解析ソフトウェア又は汎用の三次元CFD(数値流体力学:Computational Fluid Dynamics)ソフトウェア等が用いられる。
【0036】
ライブラリデータ記憶部32には、熱解析プログラムの実行中において設定部11からの指示により読み込まれる部品データが格納されている。ライブラリデータ記憶部32は、抵抗器熱解析モデル記憶部321と、特定部品三次元データ記憶部322と、を備える。
【0037】
抵抗器熱解析モデル記憶部321には、上述の抵抗器8についての熱回路網データが格納される。抵抗器8の熱回路網データには、熱回路網法を用いて抵抗器8の温度を解析する熱抵抗モデルが含まれている。
【0038】
本実施形態の熱回路網データには、抵抗器8内部の熱伝導を模擬する熱抵抗に加え、抵抗器8の形状を形作る頂点又は曲線等の位置を特定するための形状データが含まれている。この形状データは、例えば、抵抗器8の種類又は製品ごとに生成されている。このように、抵抗器熱解析モデル記憶部321は、抵抗器8の熱抵抗モデルを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0039】
特定部品三次元データ記憶部322には、配線を含む基板又は特定の電子部品についての寸法及び物性値を含む三次元データが格納されている。特定の電子部品は、例えば、半導体チップ及び基板ヒータ等が挙げられる。三次元データは、詳細モデルの作成等に用いられる。
【0040】
部品形状データ記憶部33には、基板又は電子部品についての詳細な寸法を示す形状データが格納される。形状データは、上述の三次元データと同様、詳細モデルの作成に用いられる。形状データとしては例えばCAD(computer aided design)データが挙げられる。
【0041】
次に、図4を参照して、抵抗器8の温度を解析する熱解析方法について説明する。
【0042】
図4は、本実施形態における熱解析方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0043】
ステップS1において解析モデル生成部12は、基板に関する三次元データに基づいて、基板を含む電子回路基板の詳細モデルM1を作成する。三次元データは、設定部11により各部品の寸法及び物性値が設定されたデータでもよく、あらかじめ部品の詳細な寸法が設定されたCADデータであってもよい。
【0044】
ステップS2において解析モデル生成部12は、記憶装置30の抵抗器熱解析モデル記憶部321から抵抗器8の熱回路網データを読み込み、その熱回路網データに基づいて抵抗器8の熱抵抗モデルM2を生成する。
【0045】
なお、解析モデル生成部12は、設定部11により設定される境界条件に基づいて、抵抗器8の熱抵抗モデルM2を電子回路基板の詳細モデルM1に熱的に接続して電子回路の解析モデルMを生成する。具体的には、設定部11は、抵抗器8の熱抵抗モデルM2を電子回路基板の詳細モデルM1上に配置し、抵抗器8の端子部81から基板へ熱が伝達するよう境界条件を設定する。
【0046】
ステップS3において設定部11は、電子回路の解析モデルMに含まれる抵抗器8の熱抵抗モデルM2に対し、抵抗器8の発熱量として所定の値を設定する。ここにいう所定の値は、抵抗器8への印加電力Pであり、例えば解析者が入力装置20を操作することによって設定される。抵抗器8への印加電力Pは、四端子法によって検出される。
【0047】
ステップS4において解析部13は、電子回路の解析モデルMを用いて、設定部11により設定された所定の値に基づき、中間部80及び一対の端子部81の各部位の温度を解析する。
【0048】
ステップS5において出力部14は、抵抗器8の各部位の解析結果を表示装置40に表示するように所定の画像処理を実行する。
【0049】
次に、図5を参照して、抵抗器8の熱抵抗モデルM2の基本構成について説明する。
【0050】
図5は、本実施形態における熱抵抗モデルM2の基本構成を表した基本モデルMB2を示す回路図である。
【0051】
ここでは、基本モデルMB2とともに、抵抗器8を基板9に実装した電子回路の断面形状が重ねて示されている。基板9は、FR4(ガラス・エポキシ基板)等の絶縁基材91の表面にCu等からなる一対の配線92を形成したプリント配線板である。
【0052】
まず、抵抗器8の基本モデルMB2には、熱源となる中間部80を表す中間領域HAと、一対の端子部81の各々を表す端子部領域TAと、各端子部81が接合された配線92の接合部位92aの各々を表す配線領域WAと、が設定される。
【0053】
中間領域HAは、抵抗器8に印加電力が供給されたときに抵抗器8において特に発熱する発熱領域である。端子部領域TAは、中間領域HAから基板9に熱を伝える伝熱領域である。中間領域HA及び端子部領域TAは、抵抗器8の寸法に基づいて設定される。配線領域WAは、絶縁基材91の厚み方向及び配線92の延在方向の双方に熱を伝える伝熱領域であり、抵抗器8の寸法及び基板9の配線92の寸法に基づいて設定される。
【0054】
続いて基本モデルMB2には、中間領域HAに属する中間ノードNhsと、一対の端子部領域TAに属する端子ノードNtと、が設定される。
【0055】
中間ノードNhsは、抵抗器8のホットスポットを模擬するノードである。端子ノードNtは、端子部81から、その端子部81が接合される配線92の接合部位92aに当接する基板9に向かって熱を伝える第1経路P1及び第2経路P2の起点となるノードである。中間ノードNhs及び端子ノードNtは、各ノードに属する領域内の任意の位置に設定可能である。
【0056】
続いて、中間ノードNhsと一対の端子ノードNtとの間を接続する一対の第1熱抵抗Rhsが基本モデルMB2に設定される。
【0057】
第1熱抵抗Rhsの値は、基本モデルMB2とは別の詳細モデルを用いて抵抗器8の温度分布を解析した結果、又は抵抗器8の特定部位の温度を実測した結果等に基づいてあらかじめ定められる。なお、本実施形態では第1熱抵抗Rhsが一つの熱抵抗によって構成されているが、第1熱抵抗Rhsは、温度の解析ポイント数を増やすために複数の熱抵抗成分を直列に接続した構成でもよく、複数の熱抵抗成分を並列に接続した構成であってもよい。これらの構成は、第1熱抵抗Rhsと同様の機能を有するものとして同一視することができる。
【0058】
このように、基本モデルMB2においては、中間ノードNhsを中心として一対の第1熱抵抗Rhsが基板9の表面に沿って左右に配置される。
【0059】
さらに本実施形態では、基本モデルMB2の配線領域WAにおいて、配線92の接合部位92aと絶縁基材91との境界を模擬する境界ノードNbと、配線92を接合部位92aと他の配線部位92bとに分割した境界を模擬する分割ノードNdと、が設定される。
境界ノードNbは、第1経路P1の終点となるノードであり、分割ノードNdは、端子部81から配線92の接合部位92aの境界に熱を伝える第2経路P2の終点となるノードである。
【0060】
さらに、基本モデルMB2には、端子部領域TAごとに、境界ノードNbと端子ノードNtとの間を接続する第1経路P1と、端子ノードNtと分割ノードNdとの間を接続する第2経路P2と、が設定される。
【0061】
最後に、図4で述べた電子回路の解析モデルMを生成するために、基板9の熱伝導を模擬した詳細モデルM1に対し、抵抗器8の基本モデルMB2が熱的に接続される。
【0062】
具体的には、配線領域WAの分割ノードNdが属する境界に対して当接する他の配線部位92bを模擬した詳細モデルM1の各格子に対し、分割ノードNdの熱量が均等に割り当てられるように境界条件が設定される。また、配線領域WAの境界ノードNbが属する境界に対して当接する詳細モデルM1の各格子に対し、境界ノードNbの熱量が均等に割り当てられるように境界条件が設定される。なお、詳細モデルM1の境界条件は、詳細モデルM1において格子の位置が中間部80から離れるほど格子に割り当てられる熱量が小さくなるように設定されてもよい。
【0063】
次に、抵抗器8の基本モデルMB2を構成する各要素の機能について説明する。
【0064】
まず、基本モデルMB2において、中間部80から両側の端子部81に流れる熱の伝達を模擬する一対の第1熱抵抗Rhsが設定される理由について説明する。
【0065】
一般的な半導体回路においては、その熱源となる発熱部に生じる熱は、基板の表面に対して、直交する方向を示す垂直方向に伝達されやすく、平行な方向を示す水平方向には伝達されにくい。このため、一般的な熱解析モデルにおいては発熱部から端子部への熱の伝達については考慮されていなかった。
【0066】
一方、抵抗器においては、半導体回路の水平方向の熱抵抗に比べて、中間部の水平方向の熱抵抗が大きいことから、中間部から端子部の各々に流れる熱は伝達されにくい。これに加え、本実施形態の抵抗器8は、中間部80が基板9から離間する構造であるため、中間部80から端子部81への水平方向の熱伝導がより一層悪くなる。
【0067】
このように、抵抗器8においては、中間部80から空隙を介して基板9の絶縁基材91に伝達される垂直方向の熱量に比べて、中間部80から各端子部81を介して基板9の配線92に伝達される熱量が大きくなる。
【0068】
そのため、抵抗器8の基本モデルMB2においては、配線92の延在方向、すなわち基板9の表面に沿って第1熱抵抗Rhsが設定されるので、中間部80から両側の端子部81を介して互いに異なる配線92へ伝達される熱が模擬される。
【0069】
これにより、基本モデルMB2における中間ノードNhsの熱は配線92の接合部位92aに向かって伝達されるので、中間ノードNhsで算出されるホットスポットの温度は、上述の垂直方向の熱伝導のみを模擬した一般的な熱解析モデルに比べて低下する。それゆえ、ホットスポットの算出温度は真値に近づくことになるので、ホットスポットの解析誤差を小さくすることができる。
【0070】
続いて、基本モデルMB2において、端子部81から配線92の接合部位92aを介して絶縁基材91に熱を伝える第1経路P1と、端子部81から配線92の接合部位92aの境界に熱を伝える第2経路P2と、が設定される理由について説明する。
【0071】
抵抗器8が実装される基板9においては、抵抗器8の端子部81の直下の絶縁基材91に熱が主に伝達する。しかしながら、FR4のように絶縁基材91の熱抵抗が相対的に大きい基板、又は配線92が相対的に厚い基板においては、抵抗器8から接合部位92aを介して配線92の延在方向に熱が伝わりやすくなり、この現象が解析結果に影響を与えることを発明者らは知見した。
【0072】
この点を考慮し、本実施形態では、端子部81の直下の絶縁基材91に熱を伝える第1経路P1に加え、配線92の延在方向に熱を伝える第2経路P2が設定されている。これにより、絶縁基材91の厚み方向の熱抵抗が配線92の延在方向の熱抵抗よりも小さい基板9では、抵抗器8の端子部81から直下の絶縁基材91に熱が伝わりやすくなるので、端子ノードNtの熱が主に第1経路P1を介して境界ノードNbに伝達される。
【0073】
一方、絶縁基材91の厚み方向の熱抵抗が配線92の延在方向の熱抵抗よりも大きい基板9では、抵抗器8の端子部81から配線92の延在方向に熱が伝わりやすくなるので、端子ノードNtの熱が第2経路P2を介して分割ノードNdにも伝達される。
【0074】
このように、基本モデルMB2に第1経路P1及び第2経路P2が設定されることにより、基板9の熱伝導の違いに合わせて抵抗器8から基板9への放熱を精度よく模擬することが可能となる。
【0075】
次に、図6を参照して、抵抗器8の基本モデルMB2を特定の熱解析プログラム上で実現した熱抵抗モデルM2の構成について説明する。特定の熱解析プログラムの一例として、図6では、シーメンス社製の三次元CFDソフトの「Simcenter Flotherm」又はこれを改良したCFDソフトが使用されることを想定している。
【0076】
図6は、本実施形態における抵抗器8の熱抵抗モデルM2の構成例を示す図である。
【0077】
熱抵抗モデルM2は、図5に示した基本モデルMB2を構成する第1経路P1及び第2経路P2に代えて、配線領域WAに属する配線ノードNwと、熱抵抗r1と、熱抵抗r2と、熱抵抗r30と、を備えている。
【0078】
配線ノードNwは、配線領域WAを模擬するノードであり、配線領域WA内の任意の位置に設定可能である。
【0079】
熱抵抗r30は、端子ノードNtと配線ノードNwとの間を接続する接続経路である。熱抵抗r30については、端子部領域TAと配線領域WAとの境界に接合面ノードを設定し、その接合面ノード及び配線ノードNw間を接続する熱抵抗と、接合面ノード及び端子ノードNt間を接続する熱抵抗と、によって熱抵抗r30を構成してもよい。
【0080】
熱抵抗r1は、配線ノードNwと境界ノードNbとの間を接続する第1分岐路であり、熱抵抗r2は、配線ノードNwと分割ノードNdとの間を接続する第2分岐路である。第1分岐路及び第2分岐路の起点はともに配線ノードNwである。熱抵抗r1と熱抵抗r30とは、図5に示した第1経路P1に対応し、熱抵抗r2と熱抵抗r30とは、図5に示した第2経路P2に対応する。
【0081】
熱抵抗r1,r2,r30の各々は、端子部81の熱を伝える熱経路として設定された要素であり、これらの各値は、配線92における接合部位92aの熱抵抗と抵抗器8の熱抵抗とを考慮して定められる。例えば、第1熱抵抗Rhsの設定値に接合部位92aの熱抵抗が加味される場合は、熱抵抗r1,r2,r30の各々には、Simcenter Flothermにおいて熱抵抗値が十分に小さな値である「0.1」が設定される。
【0082】
このように、配線ノードNwが熱抵抗モデルM2に設定されることにより、熱抵抗r1,r2,r30が設定可能となるので、図5に示した第1経路P1及び第2経路P2の機能を実現することができる。また、熱抵抗r1,r2,r30が熱抵抗モデルM2に設定されることにより、接合部位92aの熱抵抗について配線92の厚み方向の成分及び延在方向の成分を容易に考慮することが可能となる。
【0083】
上述の構成に加え、熱抵抗モデルM2には、中間部80の下面80a及び上面80bをそれぞれ模擬する外面ノードNs1及びNs2と、端子部81の上面80bを模擬する外面ノードNs3と、が設定される。さらに、熱抵抗r33と、一対の熱抵抗r40と、熱抵抗r43と、が熱抵抗モデルM2に設定される。
【0084】
熱抵抗r33は、中間ノードNhsと外面ノードNs2との間を接続する熱経路であり、熱抵抗r43は、中間ノードNhsと外面ノードNs1との間を接続する熱経路である。熱抵抗r40は、端子ノードNtと外面ノードNs3との間を接続する熱経路である。熱抵抗r33,r40,r43の各々は、熱経路として設定された要素であり、これらの各々には「0.1」が設定される。
【0085】
このように、熱抵抗r40,r43が熱抵抗モデルM2に設定されることにより、抵抗器8の上面80bから外気への放射及び対流による熱伝導が模擬されるので、抵抗器8の各部位の温度をより精度よく解析することが可能になる。
【0086】
さらに熱抵抗r33が熱抵抗モデルM2に設定されることにより、中間部80の下面80aの温度を解析することが可能になり、解析者にとっては中間部80から絶縁基材91への放射熱の影響を把握することができる。
【0087】
なお、本実施形態では外気の影響等を考慮するために熱抵抗r33,r40,r43が設定されたが、このような熱抵抗は、基板に実装される部品の熱解析において当然に必要とされるものであり、熱抵抗モデルM2の構成として含めることができる。
【0088】
また、本実施形態の熱抵抗モデルM2では、第1熱抵抗Rhs、第1経路P1を構成する熱抵抗r1,r30及び第2経路P2を構成する熱抵抗r2,r30が中間ノードNhsを基点として左右の双方に設定されたが、いずれか一方のみに設定されてもよい。この場合、第1熱抵抗Rhsの値は二分の一の値を設定する。図5に示した基本モデルMB2についても同様である。
【0089】
そして熱解析装置10は、変更後の値に基づいて、片側の熱抵抗モデルを用いて中間ノードNhs、端子ノードNtの各温度を解析する。また、熱抵抗r33,r43を設定する場合は、外面ノードNs1,Ns2から外気に伝達される熱量も片側だけになるため、外面ノードNs1及びNs2の表面積を二分の一に変更すればよい。
【0090】
このように、第1熱抵抗Rhs、第1経路P1及び第2経路P2の要素を用いて抵抗器8の片側のみ模擬した基本モデルMB2及び熱抵抗モデルM2であっても、第1実施形態と同じように、基板9の影響を考慮して抵抗器8の温度を解析することができる。
【0091】
次に、図7を参照して、熱抵抗モデルM2の生成方法について説明する。
【0092】
図7は、本実施形態における熱抵抗モデルM2の生成方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0093】
まず、熱抵抗モデルM2には、図5で述べたように、三次元の抵抗器8の寸法に基づいて抵抗器8の形状が設定される。例えば、抵抗器8の中間部80に対応する中間領域HAが設定され、三次元の中間領域HAの重心を起点として両側に端子部領域TAがそれぞれ設定される。さらに基板9の寸法に基づいて、抵抗器8の端子部81に当接する配線92の接合部位92aに対応する配線領域WAが設定される。
【0094】
ステップS1において図1に示した熱解析装置10を構成するプロセッサは、熱抵抗モデルM2の中間領域HAに中間ノードNhsを設定する。中間ノードNhsは、表示画面において、例えば三次元の中間領域HAの重心に表示されるように配置される。
【0095】
中間ノードNhsには、中間ノードNhsで算出される温度が抵抗器8のうちどの部位に対応する温度であるのかを示す対応情報が設定される。本実施形態の対応情報には、図2に示した中間部80における上面80bの中心位置に対応する中間領域HAの位置を示す座標が設定されている。
【0096】
ステップS22においてプロセッサは、端子部領域TAごとに、端子部領域TAに属する端子ノードNtを設定する。端子ノードNtは、例えば、三次元の端子部領域TAの重心に表示されるよう配置される。
【0097】
端子ノードNtは、端子部81から配線92の接合部位92aに向かって熱を伝える第1経路P1の起点となるノードである。本実施形態において第1経路P1の終点は、配線92の接合部位92aと絶縁基材91との境界を模擬する境界ノードNbに設定される。
【0098】
本実施形態においてプロセッサは、第1経路P1を生成するにあたり、配線領域WA内に配線ノードNwを設定し、配線ノードNw及び端子ノードNt間を接続する熱抵抗r30と、配線ノードNw及び分割ノードNd間を接続する熱抵抗r1と、を設定する。
【0099】
ステップS23においてプロセッサは、端子部領域TAごとに、中間ノードNhsと端子ノードNtとの間を接続する第1熱抵抗Rhsを設定する。
【0100】
ステップS24においてプロセッサは、配線領域WAごとに、配線92を接合部位92a及び他の配線部位92bに分割した境界線に対応する分割ノードNdを設定する。
【0101】
ステップS25においてプロセッサは、端子ノードNtと分割ノードNdとの間を接続する第2経路P2を設定する。本実施形態においてプロセッサは、第2経路P2を生成するにあたり、配線ノードNwと分割ノードNdとの間を接続する熱抵抗r2を設定する。
【0102】
ステップS25の処理が完了すると、プロセッサは、抵抗器8の熱抵抗モデルM2を示す熱回路網データを生成して図3に示した抵抗器熱解析モデル記憶部321に記憶することによって、一連の処理手順を終了させる。なお、ステップS21乃至S25の処理手順については順番を入れ替えてもよい。
【0103】
次に、第1実施形態の基本モデルMB2及び熱抵抗モデルM2を用いることによって得られる作用効果について説明する。
【0104】
本実施形態における基本モデルMB2は、基板9から離間する中間部80と、その両側において基板9の配線92に接続する端子部81と、を備える抵抗器の温度を解析する熱解析モデルである。この基本モデルMB2は、抵抗器8の中間部80を模擬する中間ノードNhsと、両側の少なくとも一方の端子部81を模擬し一方の端子部81から配線92に当接する基板9に向かって熱を伝える第1経路P1の起点となる端子ノードNtと、端子ノードNtと中間ノードNhsとの間を接続する第1熱抵抗Rhsと、を含む。
【0105】
上述の基本モデルMB2は、配線92を一方の端子部81が接合される接合部位92aと他の配線部位92bとに分割した境界を模擬し、一方の端子部81から配線92を分割した境界に熱を伝える第2経路P2の終点となる分割ノードNdをさらに含む。そして第2経路P2は、端子ノードNtと分割ノードNdとの間を接続する。
【0106】
また、本実施形態における熱解析プログラムは、抵抗器8の温度を解析する熱解析装置10を構成するコンピュータに実行させるためのプログラムである。この熱解析プログラムは、図4に示したように、上述の基本モデルMB2を準備するステップS2と、中間ノードNhsの発熱量として所定の値を設定するステップS3と、基本モデルMB2を用いて抵抗器8の温度を解析する手順であるステップS4と、を含む。
【0107】
また、本実施形態におけるモデル生成プログラムは、熱解析装置10を構成するコンピュータに実行させるためのプログラムである。このモデル生成プログラムは、図7に示したように、中間ノードNhsを設定する手順であるステップS21と、端子ノードNtを設定する手順であるステップS22と、を含む。さらにモデル生成プログラムは、第1熱抵抗Rhsを設定する手順であるステップS23と、分割ノードNdを設定する手順であるステップS24と、第2経路P2の起点を端子ノードNtに設定する手順であるステップS25と、を含む。
【0108】
抵抗器8の熱解析において抵抗器8の端子部81から基板9への熱の伝達の仕方は、基板9の熱抵抗の違いによって変わる。例えば、絶縁基材91の熱抵抗が相対的に小さい基板9、又は配線92が相対的に薄い基板9では、抵抗器8から端子部81の直下の絶縁基材91に熱が伝わりやすくなる。一方、絶縁基材91の熱抵抗が相対的に大きい基板9又は配線92が相対的に厚い基板9では、抵抗器8から接合部位92aを介して配線92の延在方向に熱が伝わりやすくなる。
【0109】
このような点を考慮し、本実施形態によれば、基本モデルMB2においては端子ノードNtと分割ノードNdとの間に第2経路P2が設けられるので、基板9の熱抵抗の違いに合わせて熱の伝達を精度よく模擬することができる。それゆえ、簡易な構成により、基板9の影響を考慮した抵抗器8の熱解析を行うことができる。
【0110】
また、本実施形態における基本モデルMB2は、他方の端子部81を模擬する他方の端子ノードNtと、他方の端子ノードNtと中間ノードNhsとの間を接続する他方の第1熱抵抗Rhsと、を含む。さらに基本モデルMB2は、他方の配線92を他方の端子部81が接合される接合部位92aと他の配線部位92bとに分割した境界を模擬する他方の分割ノードNdと、他方の端子ノードNtと他方の分割ノードNdとの間を接続する他方の第2経路P2と、を含む。
【0111】
これにより、基本モデルMB2は、中間部80に生じる熱が両側の端子部81にそれぞれ伝達されて基板9へ放熱される現象を同時に模擬することができる。また、双方の端子部81の熱抵抗が異なる抵抗器8であっても、第1熱抵抗Rhsの各々に異なる値を設定することができるので、熱抵抗が非対称である抵抗器8の熱解析を精度よく行うことができる。
【0112】
また、本実施形態の基本モデルMB2において第1経路P1の終点は、配線92の接合部位92aと基板9の絶縁基材91との境界を模擬する境界ノードNbに設定される。
【0113】
これにより、基本モデルMB2では、抵抗器8の熱抵抗だけでなく配線92の接合部位92aの熱抵抗を加味することが可能となる。したがって、基本モデルMB2を使用する解析者は、詳細モデルM1において配線92のうち抵抗器8の熱伝導に寄与する接合部位92aの熱抵抗を設定しなくても、基板9の影響を考慮した抵抗器8の熱解析を精度よく行うことができる。
【0114】
また、本実施形態における熱抵抗モデルM2は、接合部位92aの配線領域WAを模擬する配線ノードNwと、配線ノードNwと端子ノードNtとの間を接続する接続経路としての熱抵抗r30と、を含む。この配線ノードNwは、一方の端子部81からの熱を基板9に伝える第1分岐路を構成する熱抵抗r1の起点となるとともに、一方の端子部81からの熱を他の配線部位92bに伝える第2分岐路を構成する熱抵抗r2の起点となる。このため、熱抵抗モデルM2において、熱抵抗r30と熱抵抗r1とは基本モデルMB2の第1経路P1をなし、熱抵抗r30と熱抵抗r2とは基本モデルMB2の第2経路P2をなす。
【0115】
このように、配線領域WAにおいて配線ノードNwが設定されることにより、端子部81とは別個に配線92の厚み方向の熱抵抗r1と配線92の延在方向の熱抵抗r2とが設定可能となるので、配線92の熱伝導を的確に模擬することが可能となる。
【0116】
また、本実施形態における第1熱抵抗Rhsの端点となる中間ノードNhs及び端子ノードNtのうち少なくとも一方のノードは、そのノードが属する領域の外面を模擬する外面ノードNs1乃至Ns3に接続される。これにより、熱抵抗モデルM2において、抵抗器8の外面から外気に放射される熱を加味することができる。
【0117】
また、本実施形態における外面ノードNs1は、中間部80において基板9に対向する下面80aを模擬するノードである。このように、外面ノードNs1が熱抵抗モデルM2に設定されることにより、中間部80の下面80aから空隙を介して基板9の絶縁基材91に輻射される電磁波等を加味することができる。したがって、解析者は、中間部80に生じる熱が下面80aに対向する基板9の表面に与える影響を把握することできる。
【0118】
また、本実施形態における第1熱抵抗Rhsは、一つの熱抵抗によって構成されているが、複数の熱抵抗によって構成されてもよい。第1熱抵抗Rhsが複数の熱抵抗によって構成される例としては、複数の熱抵抗を並列又は直列に接続した構成であり、このような構成であっても上記実施形態と同様の作用効果を得られる。
【0119】
また、本実施形態における第1熱抵抗Rhsの値は、例えば、抵抗器8の熱抵抗と配線92における接合部位92aの熱抵抗とに基づいて定められる。このように、第1熱抵抗Rhsに接合部位92aの熱抵抗を加味した場合には、第1経路P1及び第2経路P2において接合部位92aの熱抵抗を省略することにより、接合部位92aの熱抵抗が二重に考慮されるのを回避することができる。
【0120】
(第2実施形態)
次に、図8乃至図14を参照し、第2実施形態における抵抗器8の熱抵抗モデルM3の構成について説明する。
【0121】
図8は、第2実施形態における熱抵抗モデルM3の基本構成を表した基本モデルMB3を示す回路図である。
【0122】
本実施形態では端子部領域TAが二つに分けられている点が第1実施形態とは異なる。図8には、本実施形態の基本モデルMB3とともに、図5と同様、抵抗器8を基板9に実装した電子回路の断面形状が重ねて示されている。
【0123】
抵抗器8の基本モデルMB3には、図5に示した基本モデルMB2と同様、中間領域HAと、一対の端子部領域TAと、一対の配線領域WAと、が設定される
【0124】
本実施形態において端子部領域TAは、端子部81のうち中間部80に隣接する内側領域を模擬する内側ノード領域NAiと、端子部81のうち中間部80から離間するとともに内側領域に隣接する外側領域を模擬する外側ノード領域NAoと、に分けられる。
【0125】
そして基本モデルMB3には、中間領域HAに属する中間ノードNhsと、一対の内側ノード領域NAiに属する端子部内側ノードNtiと、一対の外側ノード領域NAoに属する端子部外側ノードNtoと、が設定される。中間ノードNhs、端子部内側ノードNti及び端子部外側ノードNtoは、各ノードに属する領域内の任意の位置に設定可能である。
【0126】
端子部内側ノードNtiは、端子部81の内側領域から基板9への第1内側経路P1iの起点となり、端子部外側ノードNtoは、端子部81の外側領域から基板9への第1外側経路P1oの起点となる。
【0127】
続いて、基本モデルMB3には、端子部領域TAごとに、中間ノードNhs及び端子部内側ノードNti間を接続する第1熱抵抗Rhsと、端子部内側ノードNti及び端子部外側ノードNto間を接続する第2熱抵抗Rmと、が設定される。
【0128】
第2熱抵抗Rmは、第1内側経路P1i及び第1外側経路P1o間に存在する配線92における接合部位92aの熱抵抗に対して並行に配置される。本実施形態の第2熱抵抗Rmの値には、配線92における接合部位92aの熱抵抗が考慮される。
【0129】
第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各値は、詳細モデルを用いて抵抗器8の温度分布を解析した結果、又は抵抗器8の特定部位の温度を実測した結果等に基づいてあらかじめ定められる。第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各値の設定手法については図12を参照して後述する。
【0130】
このように、基本モデルMB3には、中間ノードNhsを中心として第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmを直列に接続した構成が基板9の表面に沿って左右に配置される。
【0131】
本実施形態では第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各々が一つの熱抵抗によって構成されているが、これに限られるものではない。例えば、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各々は、温度の解析ポイント数を増やすために複数の熱抵抗成分を直列に接続した構成でもよく、複数の熱抵抗成分を並列に接続した構成であってもよい。これらの構成は、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmと同様の機能を有するものとして同一視することができる。
【0132】
また、基本モデルMB3の配線領域WAは、端子部81の内側領域に当接する配線92の接合部位92aを模擬する配線内側領域WAiと、端子部81の外側領域に当接する配線92の接合部位92aを模擬する配線外側領域WAoと、に分けられる。
【0133】
配線内側領域WAiの各々には、端子部81の内側領域に当接する接合部位92aと絶縁基材91との境界を模擬する境界内側ノードNbiが設定される。さらに配線外側領域WAoの各々には、端子部81の外側領域に当接する接合部位92aと絶縁基材91との境界を模擬する境界外側ノードNboと、配線92を接合部位92aと他の配線部位92bとに分割した境界を模擬する分割ノードNdと、が設定される。
【0134】
境界外側ノードNboは、第1外側経路P1oの終点となるノードであり、分割ノードNdは、端子部81の外側領域から配線92の接合部位92aと他の配線部位92bとの境界に熱を伝える第2外側経路P2oの終点となるノードである。
【0135】
続いて、基本モデルMB3には、端子部領域TAごとに、境界内側ノードNbiと端子部内側ノードNtiとの間を接続する第1内側経路P1iと、境界外側ノードNboと端子部外側ノードNtoとの間を接続する第1外側経路P1oと、が設定される。さらに基本モデルMB3には、図5に示した基本モデルMB2と同様、端子部外側ノードNtoと分割ノードNdとの間を接続する第2外側経路P2oと、が設定される。
【0136】
最後に、図4で述べた電子回路の解析モデルMを生成するために、基板9の熱伝導を模擬した詳細モデルM1に対し、抵抗器8の基本モデルMB3が熱的に接続される。
【0137】
具体的には、配線外側領域WAoの分割ノードNdが属する境界に対して当接する他の配線部位92bの境界を模擬した詳細モデルM1の各格子に対し、分割ノードNdの熱量が均等に割り当てられるように境界条件が設定される。
【0138】
さらに、配線領域WAに当接する絶縁基材91を模擬した詳細モデルM1の各格子に対して、境界外側ノードNbo及び境界内側ノードNbiの各熱量が均等に割り当てられるように境界条件が設定される。なお、詳細モデルM1の境界条件は、詳細モデルM1において格子の位置が中間部80から離れるほど格子に割り当てられる熱量が小さくなるように設定されてもよい。
【0139】
次に、基本モデルMB3を構成する各要素の機能について詳細に説明する。
【0140】
まず、基本モデルMB3には、図5に示した基本モデルMB2と同様、抵抗器8の中間部80から両側の端子部81に流れる熱の伝達を模擬する一対の第1熱抵抗Rhsが設定される。この理由については図5で述べたとおりである。
【0141】
続いて、基本モデルMB3において端子部81の内側領域から外側領域への熱の伝達を模擬する第2熱抵抗Rmが各端子部領域TAに設定される理由について以下に説明する。
【0142】
配線92の接合部位92aには、配線92の延在方向における熱抵抗が第2熱抵抗Rmに対して並列に存在する。このため、配線92の延在方向における接合部位92aの熱抵抗が変わると、端子部81の内側領域から接合部位92aへの放熱量が、端子部81の外側領域から接合部位92aへの放熱量に比べて大きく変化する。
【0143】
ただし、端子部81の熱抵抗に比べて中間部80の熱抵抗が十分に大きな一般的な抵抗器を使用する場合、又は抵抗器8への印加電力Pが比較的小さい場合には、中間部80から端子部81を介して配線92へ放熱される熱量は小さくなる。このような場合は、配線92の延在方向における接合部位92aの熱抵抗の大きさが変わったとしても、端子部81の内側領域から接合部位92aへの放熱量は大きく変化しない。
【0144】
しかしながら、近年においては、抵抗器8への印加電力Pが増加する傾向にあり、これにより中間部80から端子部81への放熱量が増大する傾向にある。特に、中間部80が基板9から離間した抵抗器8においては、基板9から離間していな抵抗器に比べて中間部80から端子部81への放熱量がさらに大きくなる。
【0145】
これに加え、抵抗値が小さい抵抗器8においては、抵抗器8の長手方向における中間部80の熱抵抗が相対的に小さくなるので、中間部80から端子部81への放熱量が増大する。したがって、配線92の厚みの違いに起因する端子部81から配線92への放熱量の変化についてもより一層大きくなる。
【0146】
このような観点から、配線92の延在方向における接合部位92aの熱抵抗Rwの違いによっては、抵抗器8の熱解析に与える影響が大きくなることを発明者らは知見した。この点について、図9を参照し、配線92の厚みと中間部80の温度分布との関係について簡単に説明する。
【0147】
図9は、詳細モデルを用いて解析した抵抗器8の温度分布の一例を示す図である。ここでは、横軸が抵抗器8の長手方向における中間部80の上面80bの中心からの距離を示し、縦軸が抵抗器8の内部温度を示す。
【0148】
図9に示すように、中間部80の上面80bの中心から端子部81における接合面81aの隅位置までの温度分布は、配線92の厚みに応じて変化する。例えば、配線92の厚みが小さくなるほど、すなわち基板9の放熱性が悪くなるほど、端子部81の内部温度が上昇しやすくなり、中間部80のうち温度が最大となるホットスポットの温度が上昇する。そのため、解析者により詳細モデルM1に設定される配線92の厚みが、本実施形態の基本モデルMB3の作成時に定められた想定値から外れると、解析誤差が大きくなってしまう。
【0149】
この対策として、端子部領域TAに第2熱抵抗Rmが設定されることにより、配線92の接合部位92aの熱抵抗の大きさに応じて変化する端子部81から配線92への放熱量を精度よく模擬することが可能になる。
【0150】
続いて、基本モデルMB3において、端子部81の直下の絶縁基材91に熱を伝える第1内側経路P1i及び第1外側経路P1oに加え、配線92の延在方向に熱を伝える第2外側経路P2oが設定される理由について説明する。
【0151】
通常、抵抗器8が実装された基板9においては、抵抗器8の中間部80で発生した熱が端子部81の直下に伝達される。しかしながら、FR4のように絶縁基材91の熱抵抗が相対的に大きい基板、又は配線92が相対的に厚い基板においては、抵抗器8から接合部位92aを介して配線92の延在方向に熱が伝わりやすくなり、この現象が解析結果に影響を与えてしまうことを発明者らは知見した。
【0152】
この対策として本実施形態では、第1内側経路P1i及び第1外側経路P1oに加え、第2外側経路P2oが設定されることにより、基板9の熱伝導の違いに合わせて抵抗器8から基板9への放熱を精度よく模擬することができる。
【0153】
例えば、絶縁基材91の厚み方向の熱抵抗が配線92の延在方向の熱抵抗よりも小さい基板9では、抵抗器8の端子部81から直下の絶縁基材91に伝わりやすくなる。それゆえ、端子部内側ノードNti及び端子部外側ノードNtoの熱が主に第1内側経路P1i及び第1外側経路P1oを介して境界内側ノードNbi及び境界外側ノードNboに伝達される。
【0154】
一方、絶縁基材91の厚み方向の熱抵抗が配線92の延在方向の熱抵抗よりも大きい基板9では、端子部81から配線92の延在方向に熱が伝わりやすくなるので、端子部外側ノードNtoの熱が主に第2外側経路P2oを介して分割ノードNdに伝達される。
【0155】
最後に、基本モデルMB3において配線領域WAが設定される理由について説明する。
【0156】
上述のとおり、配線92の厚みに起因する抵抗器8から基板9への熱伝導の変化に対応するには、配線92における接合部位92aの熱抵抗を考慮することが必要となる。このため、配線92における接合部位92aを表す配線領域WAが設定される。
【0157】
本実施形態では、第2熱抵抗Rmにおいて接合部位92aの熱抵抗が考慮されているため、詳細モデルM1を用いて配線92の接合部位92aまで模擬してしまうと、接合部位92aの熱抵抗が二重に考慮されることになる。その結果、解析精度が低下する。
【0158】
この対策として、配線92における接合部位92aの熱抵抗が二重に考慮されるのを回避するために、配線領域WAにおいて接合部位92aの熱抵抗が省略されている。これにより、配線92の厚みに起因する抵抗器8から基板9への熱伝導の変化に対応させることができるとともに、接合部位92aの二重考慮に伴う解析誤差を小さくすることができる。
【0159】
次に、図10及び図11を参照して、特定の熱解析プログラム上のライブラリに格納される抵抗器8の熱回路網データについて説明する。
【0160】
図10は、抵抗器8の熱回路網データによって生成される熱抵抗モデルM3の構成例を示す図である。
【0161】
熱抵抗モデルM3は、図8に示した基本モデルMB3の第1内側経路P1iに代えて、配線内側領域WAiに属する配線内側ノードNwi及び熱抵抗r11と、熱抵抗r31と、を備えている。さらに熱抵抗モデルM3は、第1外側経路P1oに代えて、配線内側領域WAiに属する配線外側ノードNwo及び熱抵抗r12と、熱抵抗r32と、を備えている。
【0162】
配線内側ノードNwiは、配線内側領域WAiを模擬するノードであり、配線内側領域WAi内の任意の位置に設定可能であり、配線外側ノードNwoは、配線外側領域WAoを模擬するノードであり、配線外側領域WAo内の任意の位置に設定可能である。
【0163】
熱抵抗r31は、端子部内側ノードNtiと配線内側ノードNwiとの間を接続する接続経路であり、熱抵抗r32は、端子部外側ノードNtoと配線外側ノードNwoとの間を接続する接続経路である。熱抵抗r31については、内側ノード領域NAiと配線内側領域HAiとの境界に接合面ノードを設定し、その接合面ノード及び配線内側ノードNwi間を接続する熱抵抗と、接合面ノード及び端子部内側ノードNti間を接続する熱抵抗と、よって熱抵抗r31を構成してもよい。熱抵抗r32についても同様である。
【0164】
熱抵抗r11は、配線内側ノードNwiと境界内側ノードNbiとの間を接続する熱経路であり、熱抵抗r12は、配線外側ノードNwoと境界外側ノードNboとの間を接続する熱経路である。熱抵抗r11と熱抵抗r31とは、図8に示した第1内側経路P1iに対応し、熱抵抗r12と熱抵抗r32とは、図8に示した第1外側経路P1oに対応する。
【0165】
これに加え、本実施形態の熱抵抗モデルM3は、図8に示した基本モデルMB3の第2外側経路P2oに代えて、熱抵抗r22を備えている。熱抵抗r22は、配線外側ノードNwoと分割ノードNdとの間を接続する熱経路であり、端子部81から配線92の延在方向における熱の伝達を模擬するものである。
【0166】
このように、配線内側ノードNwi及び配線外側ノードNwo間を遮断し、配線外側ノードNwo及び分割ノードNd間を接続することで、接合部位92aの二重考慮を回避しつつ、抵抗器8について基板9の伝熱特性を加味した熱解析を行うことができる。
【0167】
なお、熱抵抗r11,r12,r22,r31,r32の各々は、端子部81の熱を伝える熱経路として設定された要素であり、これらの各値は、配線92の接合部位92aの熱抵抗と抵抗器8の熱抵抗とを考慮して定められる。本実施形態では、第2熱抵抗Rmの設定値に接合部位92aの熱抵抗が加味されているため、熱抵抗r11,r12,r22,r31,r32の各々に、Simcenter Flothermにおいて熱抵抗値が設定可能な範囲の下限値である「0.1」が設定される。
【0168】
また、熱抵抗モデルM3には、図6に示した熱抵抗モデルM2と同様、外面ノードNs1,Ns2と、熱抵抗r33,r43と、が設定される。さらに熱抵抗モデルM3には、端子部領域TAごとに、端子部81の内側領域の上面80bを模擬する外面ノードNs31と、端子部81の外側領域の上面80bを模擬する外面ノードNs32と、熱抵抗r41と、熱抵抗r42と、が設定される。
【0169】
熱抵抗r41は、端子部内側ノードNtiと外面ノードNs31との間を接続する熱経路であり、熱抵抗r42は、端子部外側ノードNtoと外面ノードNs32との間を接続する熱経路である。熱抵抗r41,r42は、熱経路として設定された要素であり、これらの各々には「0.1」が設定される。
【0170】
このように、熱抵抗r41,r42,r43が熱抵抗モデルM3に設定されることにより、図5に示した熱抵抗モデルM2と同様、抵抗器8の上面80bから外気への放射及び対流による熱伝導が模擬されるので、抵抗器8における各部位の温度をより精度よく解析することが可能になる。
【0171】
なお、本実施形態では外気の影響等を考慮するために熱抵抗r41乃至r43が設定されたが、このような熱抵抗は、部品の熱解析において当然に必要とされるものであり、本実施形態の熱抵抗モデルM2の構成として同一視することができる。
【0172】
次に、図11を参照して、抵抗器8の熱抵抗モデルM3の各要素を示す熱回路網データの形式について簡単に説明する。
【0173】
図11は、本実施形態における抵抗器8の熱回路網データに示される各熱抵抗の値を示す図である。
【0174】
本実施形態では、第1熱抵抗Rhsには二桁程度の値[℃/W]が設定され、例えば、十五程度の熱抵抗値が設定される。そして第2熱抵抗Rmには一桁程度の値[℃/W]が設定され、例えば四程度の熱抵抗値が設定される。これらの設定手法については図12を参照して後述する。
【0175】
また、熱抵抗r11,r12,r22,r31,r32の各々は、熱経路として設定されたものであり、熱抵抗r1乃至r3の各々には、Simcenter Flothermにおいて設定可能な範囲の下限値である「0.1」が設定される。熱抵抗r33,r41乃至r43についても同様である。
【0176】
なお、熱回路網データには、熱抵抗モデルM3の基準位置(例えば三次元の中間領域HAの重心)を基点とした各ノードの位置関係を示す位置データに加え、抵抗器8の形状を形作る複数の頂点の位置を特定した形状データが設定されている。
【0177】
また、本実施形態では外気の影響を考慮するために熱抵抗r33及び熱抵抗r41乃至r43が設定されたが、これに限られるものではない。例えば、これらを設定しなくても外気の影響が考慮されるような熱解析プログラムを使用する場合、又は、外気の影響が軽微である場合には、熱抵抗r33及び熱抵抗r41乃至r43を省略してもよい。また、解析モデルの熱抵抗の値を「0」に設定可能な熱解析プログラムが使用される場合は、熱抵抗r1乃至r3及び熱抵抗r11乃至r13の各々に「0」を設定してもよい。
【0178】
次に、図12を参照して、熱抵抗モデルM2の各ノードに対応する抵抗器8の対応部位について説明する。
【0179】
図12は、熱抵抗モデルM2による熱解析の際に各ノードから算出される算出温度と、各ノードによって特定される抵抗器8の対応部位の温度と、の対応関係を示す図である。
【0180】
ここでは、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各値を設定するにあたり、基板9及び抵抗器8を模擬した詳細モデルの解析結果が使用される。この詳細モデルを用いて印加電力Pを供給した状態での抵抗器8の温度分布の解析結果が熱抵抗モデルM3に重ねて示されている。詳細モデルの解析結果については、抵抗器8の内部温度が高くなるほど色が濃くなるように表されている。
【0181】
中間ノードNhsの算出温度は、中間部80のうち温度が最も高くなる部位であるホットスポットの温度を表すように決定される。
【0182】
具体的には、第1熱抵抗Rhsの値を計算するにあたり、中間ノードNhsの算出温度が中間部80におけるホットスポットの温度に対応するよう、詳細モデルの解析結果のうち中間部80の上面80bにおける中心位置の解析温度Thsが用いられる。
【0183】
端子部内側ノードNtiの算出温度は、端子部81のうち熱抵抗モデルM2の解析精度が高くなる部位に相当する中間点の温度を表すように決定される。
【0184】
具体的には、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各値を計算するにあたり、端子部内側ノードNtiの算出温度が端子部81の中間点の温度に対応するよう、端子部81に含まれる抵抗体8aの側面81bの中心位置の解析温度Tmが用いられる。なお、抵抗体8aの側面81bは、抵抗器8の長手方向と端子部81の積層方向との双方に平行な面である。
【0185】
端子部外側ノードNtoの算出温度は、端子部81のうち抵抗器8の長手方向の外側端部に位置する終端点の温度を表すように決定される。
【0186】
具体的には、第2熱抵抗Rmの値を計算するにあたり、端子部内側ノードNtiの算出温度が端子部81の終端点の温度に対応するよう、電極材8bにおける接合面81aの隅位置の解析温度Ttが用いられる。
【0187】
第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmは、抵抗器8への印加電力Pと、抵抗器8の対応位置での解析温度Ths、Tm及びTtと、を用いて次の式(1)及び(2)のように計算される。
【0188】
【数1】
【数2】
【0189】
第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各々の計算値は、抵抗器8の熱回路網データに設定される。計算に用いた解析温度Ths、Tm及びTtは、基板9に抵抗器8を実装した電子回路を模擬した詳細モデルを用いて抵抗器8の各部位の温度を解析した結果であり、配線92の熱抵抗が加味されたものである。それゆえ、少なくとも第2熱抵抗Rmの計算値には、配線92の接合部位92aの熱抵抗Rwが加味されている。
【0190】
このように第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各値を設定した熱抵抗モデルM3を用いて抵抗器8の温度を解析することにより、各ノードの算出温度を、上述の抵抗器8の対応部位での温度として扱うことができる。
【0191】
以上のように、中間ノードNhs及び端子部外側ノードNtoでは、電子回路の熱設計に必要とされる抵抗器8の所定部位の温度を算出することができる。これにより、解析者は、抵抗器8のホットスポットと抵抗器8の長手方向の外側端部との温度差を把握することができる。
【0192】
さらに端子部内側ノードNtiについては、端子部81を構成する抵抗体8aの側面81bの中心位置の温度が算出されるよう第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmを決定することによって、各ノードの解析精度を向上させることができる。
【0193】
次に、図13及び図14を参照して、熱抵抗モデルM3の生成方法について説明する。
【0194】
図13は、本実施形態における熱抵抗モデルM3の生成方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0195】
まず、熱抵抗モデルM3には、三次元の抵抗器8の寸法に基づいて抵抗器8の形状が設定される。例えば、中間部80に対応する三次元の中間領域HAの重心を基点として端子部領域TAごとに内側ノード領域NAi及び外側ノード領域NAoが設定される。
【0196】
ステップS21において熱解析装置10を構成するプロセッサは、熱抵抗モデルM3の中間領域HAにおいて中間ノードNhsを設定する。中間ノードNhsは、図1に示した表示装置40の表示画面において、例えば中間領域HAの重心に表示されるように配置される。
【0197】
また、中間ノードNhsには、中間ノードNhsの算出温度が抵抗器8のどの部位の温度に対応するのかを示す対応情報が設定される。本実施形態の対応情報には、中間ノードNhsの位置として、図12に示した中間部80の上面80bにおける中心位置を示す座標が設定されている。
【0198】
ステップS22aにおいてプロセッサは、端子部領域TAの各々に対して、内側ノード領域NAiに属する端子部内側ノードNtiを設定する。端子部内側ノードNtiは、例えば、三次元の内側ノード領域NAiの重心に表示されるよう配置される。また、端子部内側ノードNtiの対応情報には、端子部内側ノードNtiの位置として、図12に示した抵抗体8aの側面81bにおける中心位置を示す座標が設定されている。
【0199】
ステップS22bにおいてプロセッサは、端子部領域TAの各々に対して、外側ノード領域NAoに属する端子部外側ノードNtoを設定する。端子部外側ノードNtoは、例えば、外側ノード領域NAoの重心に表示されるよう配置される。また、端子部外側ノードNtoの対応情報には、端子部外側ノードNtoの位置として、図12に示した電極材8bの接合面81aの隅位置を示す座標が設定されている。
【0200】
ステップS23aにおいてプロセッサは、端子部領域TAごとに、中間ノードNhsと端子部内側ノードNtiとの間を接続する第1熱抵抗Rhsを設定する。第1熱抵抗Rhsの値は、例えば、上式(1)を用いてあらかじめ計算される。
【0201】
ステップS23bにおいてプロセッサは、端子部領域TAごとに、端子部内側ノードNtiと端子部外側ノードNtoとの間を接続する第2熱抵抗Rmを設定する。第2熱抵抗Rmの値は、例えば、上式(2)を用いてあらかじめ計算される。
【0202】
ステップS240においてプロセッサは、端子部領域TAの各々に当接する一対の配線領域WAを生成する配線領域生成処理を実行する。配線領域生成処理については、図13を参照して後述する。
【0203】
ステップS26においてプロセッサは、中間ノードNhsと外面ノードNs1との間を接続する熱抵抗r33を設定するとともに、中間ノードNhsと外面ノードNs2との間を接続する熱抵抗r43を設定する。
【0204】
ステップS27においてプロセッサは、端子部領域TAの各々に対して、端子部内側ノードNtiと外面ノードNs31との間を接続する熱抵抗r41を設定するとともに、端子部外側ノードNtoと外面ノードNs32との間を接続する熱抵抗r42を設定する。
【0205】
ステップS27の処理が終了すると、プロセッサは、抵抗器8の熱抵抗モデルM3を示す熱回路網データを生成して抵抗器熱解析モデル記憶部321に記憶することによって、一連の処理手順を終了させる。なお、ステップS21乃至S27の処理手順については順番を入れ替えてもよい。
【0206】
図14は、ステップS240において実行される配線領域生成処理の処理手順例を示すフローチャートである。
【0207】
配線領域生成処理を実行するにあたり、図13に示したステップS23bの処理が完了すると、ステップS241においてプロセッサは、熱抵抗モデルM3において、端子部領域TAごとに、端子部81に当接する配線92における接合部位92aの領域を模擬する配線領域WAを設定する。本実施形態の配線領域WAは、内側ノード領域NAiに当接する配線内側領域WAiと、外側ノード領域NAoに当接する配線外側領域WAoと、に分けられている。
【0208】
ステップS242においてプロセッサは、配線領域WAの各々に対して、配線内側領域WAiに属する配線内側ノードNwiを設定する。配線内側ノードNwiは、配線内側領域WAi内の任意の位置に設定可能である。
【0209】
ステップS243においてプロセッサは、配線領域WAの各々に対して、配線外側領域WAoに属する配線外側ノードNwoを設定する。配線外側ノードNwoは、配線外側領域WAo内の任意の位置に設定可能である。
【0210】
ステップS251においてプロセッサは、配線領域WAごとに、端子部内側ノードNtiと配線内側ノードNwiとの間を接続する接続経路として熱抵抗r31を設定する。さらにプロセッサは、配線領域WAごとに、端子部内側ノードNtiと配線内側ノードNwiとの間を接続する接続経路として熱抵抗r32を設定する。
【0211】
ステップS252においてプロセッサは、配線内側領域WAiの各々に対して、絶縁基材91を模擬した詳細モデルに対して接続される配線内側領域WAiの境界面を模擬する境界内側ノードNbiを設定する。これとともにプロセッサは、配線外側領域WAoの各々に対して、絶縁基材91を模擬した詳細モデルM1に対して接続される配線外側領域WAoの境界面を模擬する境界外側ノードNboを設定する。
【0212】
境界内側ノードNbiは、配線内側領域WAiの境界面内の任意の位置に設定可能であり、境界外側ノードNboは、配線外側領域WAoの境界面内の任意の位置に設定可能である。
【0213】
ステップS253においてプロセッサは、配線領域WAの各々に対して、境界内側ノードNbiと配線内側ノードNwiとの間を接続する熱抵抗r11を設定する。
【0214】
ステップS254においてプロセッサは、配線領域WAの各々に対して、境界外側ノードNboと配線外側ノードNwoとの間を接続する第1分岐路として熱抵抗r12を設定する。
【0215】
ステップS255においてプロセッサは、配線領域WAの各々に対して、配線外側領域WAoの分割ノードNdと配線外側ノードNwoとの間を接続する第2分岐路として熱抵抗r22を設定する。
【0216】
ステップS255の処理が完了すると、配線領域生成処理を終了して図13に示したステップS26の処理に戻る。
【0217】
次に、図15A及び図15Bを参照して、抵抗器8の熱抵抗モデルM2の解析精度について説明する。
【0218】
図15Aは、熱抵抗モデルM3の解析精度と配線領域WAを設定しない熱抵抗モデルM9の解析精度との比較結果を示す図である。図15Bは、熱抵抗モデルM9の構成を示す図である。熱抵抗モデルM9には、配線領域WAが設定されておらず、端子部81の内側領域及び外側領域の接合面81aを模擬する接合面ノードNc1及びNc2がそれぞれ第1内側経路P1i及び第1外側経路P1oの終点となる。
【0219】
図15Aの縦軸は、抵抗器8の上面80bの中心位置と抵抗器8の長手方向における接合面81aの隅位置との温度差ΔTであり、熱抵抗モデルM3では中間ノードNhsの算出温度と端子部外側ノードNtoの算出温度との差分である。
【0220】
図15Aに示すように、熱抵抗モデルM9を用いたときの温度差ΔTは、基板9に抵抗器8を実装した電子回路を模擬した詳細モデルに比べて、3℃程度小さくなっている。これに対し、本実施形態の熱抵抗モデルM3の温度差ΔTは、詳細モデルに比べて、1℃程度の誤差に抑えられていることがわかる。
【0221】
次に、第2実施形態の基本モデルMB3及び熱抵抗モデルM3を用いることによって得られる作用効果について説明する。
【0222】
本実施形態の基本モデルMB3は、端子部81のうち中間部80に隣接する内側領域を模擬する端子部内側ノードNtiと、端子部81のうち中間部80から離間するとともに内側領域に隣接する外側領域を模擬する端子部外側ノードNtoと、を含む。端子部内側ノードNtiは、中間部80の内側領域から基板9への第1内側経路P1iの起点となり、端子部外側ノードNtoは、前記外側領域から前記基板への第1外側経路P1oの起点となる。端子部内側ノードNtiと端子部外側ノードNtoとは、第1実施形態の基本モデルMB2における端子ノードNtに相当する。
【0223】
これに加え、基本モデルMB3は、中間ノードNhsと端子部内側ノードNtiとの間を接続する第1熱抵抗Rhs、及び、端子部内側ノードNtiと端子部外側ノードNtoとの間を接続する第2熱抵抗Rmを有する。さらに基本モデルMB3は、端子部外側ノードNtoと配線領域WAの分割ノードNdとの間を接続する第2外側経路P2oを有する。第1熱抵抗Rhsと第2熱抵抗Rmとは、第1実施形態の基本モデルMB2における第1熱抵抗Rhsに相当し、第2外側経路P2oは、基本モデルMB2の第2経路P2に相当する。
【0224】
本実施形態によれば、基本モデルMB2には、抵抗器8の長手方向に沿って第1熱抵抗Rhsが設定されているので、中間部80から端子部81への熱の伝達を模擬することができる。さらに、端子部領域TAには第2熱抵抗Rmが設定されているので、図6で述べたように、第2熱抵抗Rmに並列に存在する接合部位92aの熱抵抗の大きさに応じて端子部81から基板9間の温度差を正確に模擬することが可能になる。
【0225】
具体的には、端子部81から基板9間の温度差は、次式(3)のように、端子部81の第2熱抵抗Rmと配線92の延在方向における接合部位92aの熱抵抗Rwとの合成熱抵抗Rtによって決まる。
【0226】
【数3】
【0227】
式(3)の関係から、配線92の延在方向における接合部位92aの熱抵抗Rwが大きくなるにつれて、合成熱抵抗Rtが大きくなり、端子部81の温度上昇が大きくなる。このように、接合部位92aの熱抵抗Rwに対して並列に第2熱抵抗Rmを備えることにより、接合部位92aの熱抵抗Rwと端子部81の熱抵抗との大小関係によって変化する端子部81の内側領域から基板9間の温度差を正確に模擬することができる。
【0228】
例えば、配線92の厚み又は材料の違いによって接合部位92aの熱抵抗Rwが変化したとしても、その接合部位92aの熱抵抗Rwの変化に合わせて実際の熱伝導と同じように第1内側経路P1iを通過する放熱量が変化するので、解析精度が向上する。すなわち、基板9を構成する配線92の熱抵抗の違いに起因する解析精度の低下を抑制することができる。
【0229】
さらに本実施形態によれば、基本モデルMB2において第2外側経路P2oが設定されているので、絶縁基材91の熱抵抗が比較的大きい基板9が使用される場合であっても、端子部81の外側領域から配線92の延在方向に熱を的確に伝達することができる。すなわち、基板9の放熱特性の違いに合わせて抵抗器8の熱解析を行うことができる。
【0230】
これに加え、本実施形態の基本モデルMB3は、詳細モデルに比べて、基本モデルMB3に設定される要素が少ないため、抵抗器8の熱解析に要する時間を短縮することができる。また、詳細モデルを作成するには抵抗器8の詳細情報が必要になり、解析者の作業が煩雑になるのに対し、基本モデルMB3であれば、解析者が電子回路の解析モデルMを簡易に生成することができる。
【0231】
したがって、本実施形態によれば、簡易な構成により基板9の影響を考慮した抵抗器8の熱解析を行うことができる。
【0232】
また、本実施形態では、熱抵抗モデルM3の解析対象である抵抗器8の端子部81は、電極材8b上に抵抗体8aが積層された構造である。熱抵抗モデルM3において端子部内側ノードNtiは、図12に示したように、抵抗体8aの側面81bの中心部を模擬するノードであり、抵抗体8aの側面81bは、基板9の表面に対して直交する方向と両側の端子部81間の方向とに対して平行な面である。
【0233】
このように、端子部内側ノードNtiにおいて端子部81のうち抵抗体8aの側面81bの中心部の温度が算出されるように、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの値を決めることによって、熱抵抗モデルM3による解析精度を向上させることができる。
【0234】
この理由については、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各々の計算に用いられる詳細モデルの解析結果が影響しているものと考えられる。具体的には、端子部81の側面81bの中心部は、抵抗体8aを構成する四つの面からの距離がほぼ等しく、詳細モデルを用いた熱流体解析においては境界面で生じる演算誤差が小さくなりやすい。このため、図12で述べたように、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各々の計算において誤差が小さい端子部81の側面81bの中心部の解析温度Tmを採用したことにより、熱抵抗モデルM3の解析精度が向上したものと考えられる。
【0235】
また、熱抵抗モデルM3の端子部外側ノードNtoは、端子部81の外側領域における外側端部を模擬するノードとして設定される。これにより、熱解析装置10により熱抵抗モデルM2を用いて端子部81内の外側端部の温度が算出され、その算出温度を表示装置40に表示させることが可能になる。このため、解析者は、電子回路の熱設計に必要とされる端子部81における外側端部の温度を把握することができる。
【0236】
また、熱抵抗モデルM3における第2熱抵抗Rmの値は、所定の印加電力Pを抵抗器8に与えることによって、端子部81の側面81bにおける中心部に生じる温度と、端子部81における外側端部に生じる温度と、の差分に基づいて定められる。この差分は、実測値でも、推定値であってもよい。
【0237】
この構成によれば、熱抵抗モデルM3を用いて解析される中間ノードNhs、端子部内側ノードNti及び端子部外側ノードNtoの各々について算出温度の誤差を小さくすることができる。
【0238】
なお、本実施形態の基本モデルMB3では、図8に示したように、直列に接続された第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmと第1内側経路P1iと第1外側経路P1oと第2外側経路P2oとが中間ノードNhsを基点として左右に設定された。しかしながら、これらの要素は、左右いずれか一方のみに設定されてもよい。熱抵抗モデルM3についても同様である。
【0239】
この場合、抵抗器8への印加電力Pによって発生する熱は抵抗器8の片側のみに伝達されるため、熱解析装置10は、入力装置20から中間ノードNhsに設定された印加電力Pを二分の一の値に変更する。そして熱解析装置10は、変更後の印加電力Pの値に基づき、片側の熱抵抗モデルを用いて中間ノードNhs、端子部内側ノードNti及び端子部外側ノードNtoの各温度を解析する。また、図10に示したように熱抵抗r33及びr43を設定する場合は、外面ノードNs1及びNs2から外気に伝達される熱量も片側だけになるため、外面ノードNs1及びNs2の表面積を二分の一に変更すればよい。
【0240】
このように、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmを用いて抵抗器8の片側のみ模擬した基本モデルMB3及び熱抵抗モデルM3であっても、第1実施形態と同様、基板9の影響を考慮して抵抗器8の温度を解析することができる。
【0241】
また、本実施形態では第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各々は、一つの熱抵抗によって構成されたが、複数の熱抵抗によって構成されてもよい。例えば、複数の熱抵抗を並列又は直列に接続した構成であり、このような構成であっても上記実施形態と同様の作用効果を得られる。
【0242】
(第3実施形態)
上記実施形態では、抵抗器8への印加電力Pを定常的に供給した定常状態における抵抗器8の温度を解析する例について説明した。次に、第3実施形態として、抵抗器8への印加電力Pの供給を開始してから抵抗器8の温度が定常状態に達するまでの過渡状態における抵抗器8の温度を解析する実施形態について図16A及び図16Bを参照して説明する。
【0243】
図16Aは、第3実施形態における基本モデルMB2aの構成を示す回路図である。図16Bは、第3実施形態における基本モデルMB3aの構成を示す回路図である。
【0244】
図16Aに示した基本モデルMB2aは、図5に示した基本モデルMB2の構成に加え、中間部80の熱容量を模擬する熱容量Chsを備えており、熱容量Chsは、中間ノードNhsに対して接続される。図16Bに示した基本モデルMB3aについても同様である。
【0245】
図17は、図16Bに示した基本モデルMB3aにおける熱容量Chsの設定方法を説明するための図である。ここでは、抵抗器8の詳細モデルを用いて解析した過渡状態での中間部80のホットスポットの温度が示されている。
【0246】
図17に示すように、抵抗器8の詳細モデルの解析結果から、定常状態でのホットスポットの解析温度Thsと、過渡状態における時刻Xのホットスポットの解析温度Txとが求められる。そして、解析温度Ths及び解析温度Txと、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmとを用いて、次式(4)のように熱容量Chsが計算される。
【0247】
【数4】
【0248】
熱容量Chsの計算値は、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各計算値とともに抵抗器8の熱回路網データに設定される。ここでは、詳細モデルの解析結果を用いたが、実測結果を用いてもよい。また、図16Aに示した基本モデルMB2aにおける熱容量Chsの設定方法についても同様である。
【0249】
図18は、本実施形態の基本モデルMB3aを用いて解析した過渡状態での中間部80の温度を示す図である。ここでは、熱抵抗モデルM2の解析結果が丸印で示され、詳細モデルの解析結果が三角印で示されている。図18に示すように、熱抵抗モデルM2の解析結果は、詳細モデルの解析結果に対してほぼ同等の精度であることがわかる。また、図16Aに示した基本モデルMB2aについても同様の結果が得られる。
【0250】
以上のように、第3実施形態によれば、基本モデルMB2a,MB3aにおいて、中間ノードNhsに接続される熱容量Chsが設定されることにより、基板9の影響を考慮しつつ、過渡状態における抵抗器8の温度を精度よく解析することができる。
【0251】
なお、本実施形態では図5及び図8に示した基本モデルMB2及びMB3の中間ノードNhsに熱容量Chsを接続したが、図6及び図10に示した熱抵抗モデルM2及びM3の中間ノードNhsに対しても熱容量Chsを接続してもよい。この場合であっても、第3実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0252】
また、本実施形態の基本モデルMB2aでは中間ノードNhsに熱容量Chsを接続したが、中間ノードNhsの他に端子ノードNtに接続してもよい。あるいは、基本モデルMB3aを構成する端子部内側ノードNti及び端子部外側ノードNtoのいずれか一方に熱容量を接続してもよい。このような場合であっても、図17で述べたように抵抗器8の詳細モデルの解析結果又は実測結果を用いて熱容量の値を設定することによって、図18に示した解析結果と同等以上の解析精度を得ることができる。
【0253】
(第4実施形態)
図19Aは、第4実施形態における熱抵抗モデルM2aの構成を示す回路図である。
【0254】
本実施形態の熱抵抗モデルM2aは、図6に示した熱抵抗モデルM2の構成に加え、図16A及び図16Bに示した熱容量Chsと、両側の端子部81の熱容量を模擬した一対の熱容量Cmと、一対の接合面ノードNcと、一対の熱抵抗r0と、を備えている。
【0255】
熱容量Cmは、端子部領域TAごとに端子ノードNtに対して接続される。熱容量Cmの値は、端子部81を構成する抵抗体8a及び電極材8bの比熱及び密度等の熱物性値と、抵抗体8a及び電極材8bの形状と、に基づいてあらかじめ定められる。
【0256】
接合面ノードNcは、配線92が端子部81に接合する接合面を模擬し、熱抵抗r30の終点となるノードである。
【0257】
熱抵抗r0は、接合面ノードNcと配線ノードNwとの間を接続する熱経路である。熱抵抗r0,r30の各々には、Simcenter Flothermにおいて設定可能な範囲の下限値である「0.1」が設定される。
【0258】
図19Bは、第4実施形態における熱抵抗モデルM3aの構成を示す回路図である。
【0259】
本実施形態における熱抵抗モデルM3aは、図10に示した熱抵抗モデルM3の構成に加え、図16A及び図16Bに示した熱容量Chsと、両側の端子部81における内側領域の熱容量を模擬した一対の熱容量Cmと、を備えている。さらに熱抵抗モデルM3aは、端子部領域TAごとに、接合面ノードNc1と、接合面ノードNc2と、熱抵抗r01と、熱抵抗r02と、を備えている。
【0260】
熱容量Cmは、端子部領域TAごとに端子部内側ノードNtiに対して接続される。熱容量Cmの値は、端子部81を構成する抵抗体8a及び電極材8bの比熱及び密度等の熱物性値と、抵抗体8a及び電極材8bの形状と、に基づいてあらかじめ定められる。
【0261】
接合面ノードNc1は、端子部81の内側領域と配線92との接合面を模擬し、熱抵抗r31の終点となるノードであり、接合面ノードNc2は、端子部81の外側領域と配線92との接合面を模擬し、熱抵抗r32の終点となるノードである。
【0262】
熱抵抗r01は、接合面ノードNc1と配線内側ノードNwiとの間を接続する熱経路であり、熱抵抗r02は、接合面ノードNc2と配線外側ノードNwoとの間を接続する熱経路である。熱抵抗r01,r02,r31,r32の各々には、Simcenter Flothermにおいて設定可能な範囲の下限値である「0.1」が設定される。
【0263】
このように、熱抵抗モデルM2a及びM3aには熱容量Chs及び熱容量Cmが設定されているので、抵抗器8における各部位の温度の経時変化を精度よく解析することが可能となる。特に、外部から抵抗器8全体に熱が加えられるような環境においては、端子部81の熱容量が大きくなるにつれて抵抗器8の各部位の温度上昇率が変化しやすくなるので、抵抗器8における各部位の温度の解析精度を高めることができる。
【0264】
例えば、抵抗器8の電極材8bと基板9の配線92との間にハンダを塗り、その状態で基板9を高温のリフロー炉内に搬送することで抵抗器8を配線92にハンダ付けする場合は、ハンダが塗られた接合面81aの温度解析が重要となる。このため、本実施形態の基本モデルMB2a,MB3aを用いることによって、リフロー炉内における抵抗器8の電極材8b及び基板9の配線92間のハンダの温度を精度よく解析することができる。
【0265】
ここで、リフロー炉内のハンダの温度状態を解析する手法について簡単に説明する。まず、図1に示した入力装置20を解析者が操作することにより設定部11は、図19Aに示した外面ノードNs1,Ns2,Ns3又は図19Bに示した外面ノードNs1,Ns2,Ns31,Ns32の各々に対して所定の発熱量を設定する。さらに設定部11は、配線92の接合部位92aを除いた基板9を模擬する詳細モデルM1において、分割ノードNdへの熱量と、境界ノードNbへの熱量又は境界内側ノードNbi及び境界外側ノードNboへの熱量を設定する。これにより、リフロー炉内において抵抗器8の周囲から抵抗器8に与えられる熱量が熱抵抗モデルM2a又はM3aに加味される。
【0266】
そして、熱抵抗モデルM2a又はM3aを用いて接合面ノードNc又は接合面ノードNc1,Nc2の温度解析が、図1に示した解析部13によって行われる。これにより、解析者は、抵抗器8の接合面81aに塗られたハンダが、リフロー炉内においてハンダ付けに必要となる特定の温度まで上昇するか否かを正しく把握することができる。
【0267】
以上のように、第4実施形態の熱抵抗モデルM2a又はM3aにおいて、端子部81の熱容量を模擬する熱容量Cmが設定されることにより、中間部80から基板9への熱伝導において端子部81の熱容量を加味することができる。それゆえ、第3実施形態に比べてホットスポットの温度変化の解析精度を高めることができる。なお、熱抵抗モデルM2aについても同様である。
【0268】
これに加え、熱抵抗モデルM3aにおいて端子部内側ノードNtiに対し熱容量Cmが接続されることにより、外部から抵抗器8の熱が加えられた状態での抵抗器8の温度変化を精度よく解析することが可能となる。
【0269】
例えば、外面ノードNs1,Ns2,Ns31,Ns32及び基板9を模擬した詳細モデルの各々に、外部から抵抗器8へ伝達される熱量が設定されることで、リフロー炉内における抵抗器8及び基板9間のハンダの温度を精度よく解析することもできる。また、抵抗器8よりも発熱量が大きい半導体回路等の電子部品から基板9を介して熱が伝達されるような状況における抵抗器8の温度変化も精度よく解析することが可能となる。
【0270】
なお、第4実施形態では図6及び図10に示した熱抵抗モデルM2及びM3に熱容量Cmを追加したが、図5及び図8に示した基本モデルMB2及びMB3に熱容量Cmを追加してもよい。この場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0271】
(第5実施形態)
第1乃至第4実施形態では、抵抗器8の熱解析を行うにあたり、中間ノードNhsに対してのみ、四端子法を用いて検出された印加電力Pの値が設定された。しかしながら、抵抗値が特定の値よりも小さい抵抗器8においては、中間部80で熱に変換される電力に対して端子部81で熱に変換される電力の割合が大きくなり、解析結果に影響を与えることなることを発明者らは知見した。
【0272】
そこで第5実施形態として、端子部81で熱に変換される電力、すなわち端子部81の損失電力を考慮した抵抗器8の熱解析方法について説明する。本実施形態では、図6に示した熱抵抗モデルM2を用いて抵抗器8の熱解析が行われる。
【0273】
まず、図20を参照して、抵抗器8への印加電力と端子部81の損失電力との関係について説明する。
【0274】
図20は、本実施形態における抵抗器8の電力分布を示す観念図である。
【0275】
四端子法を用いて検出される印加電力Pは、図20に示すように、一方の端子部81における内側隅位置Xi1と他方の端子部81における内側隅位置Xi2との間に生じる電圧の検出値と抵抗器8に流れる電流の検出値とを乗じて算出される。
【0276】
これに対し、端子部81の損失電力P0は、一方の端子部81の内側隅位置Xi1及び外側隅位置Xo1間又は他方の端子部81の内側隅位置Xi2及び外側隅位置Xo2間に生じる電圧の検出値と抵抗器8に流れる電流の検出値とを乗じて算出される。
【0277】
端子部81の損失電力P0は、中間部80への印加電力Pに対して相関性を有しており、印加電力Pが大きくなるほど、端子部81の損失電力P0が大きくなる。
【0278】
また、抵抗器8の抵抗値が小さくなるほど、内側隅位置Xi1と内側隅位置Xi2との間隔が狭くなるので、印加電力Pに対する端子部81の損失電力P0が大きくなる。本実施形態の抵抗器8においては、抵抗器8の抵抗値が数百μΩよりも小さくなるにつれて、抵抗器8の解析結果に与える影響が大きくなる。
【0279】
具体的には、抵抗器8の抵抗値が小さくなるほど、中間部80におけるホットスポット位置Xhsの温度と端子部81における外側隅位置Xo1,Xo2の温度との温度差ΔTの解析精度が低下する。
【0280】
この対策として本実施形態では、図1に示した熱解析装置10の設定部11が熱抵抗モデルM2の中間ノードNhsに印加電力Pを示す所定の値を設定するだけでなく、端子ノードNtに対して端子部81の発熱量として損失電力P0を示す特定の値を設定する。これにより、端子部81の損失電力P0に起因する温度差ΔTの解析精度が低下するのを抑制することができる。
【0281】
次に、図21を参照して、熱解析装置10による抵抗器8の熱解析方法について説明する。
【0282】
図21は、本実施形態における熱解析方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0283】
本実施形態の熱解析方法は、図4に示した熱解析方法のステップS3の処理に代えて、ステップS31及びS32の処理を備えている。ここでは、ステップS31及びS32の処理についてのみ詳細に説明する。
【0284】
ステップS2において熱解析装置10の解析モデル生成部12が抵抗器8の熱抵抗モデルM2を準備すると、熱解析装置10はステップS31の処理に進む。
【0285】
ステップS31において熱解析装置10の設定部11は、電子回路の解析モデルMを構成する熱抵抗モデルM2の中間ノードNhsに対し、中間部80への印加電力Pの値を設定する。この印加電力Pの値は、四端子法によって検出される所定の値であり、実測値でもよく、シミュレーションによる推定値でもよい。
【0286】
ステップS32において設定部11は、熱抵抗モデルM2の端子ノードNtに対し、端子部81の発熱量として、端子部81の損失電力P0の値を設定する。損失電力P0の値は、配線92の延在方向における端子部81の基板側両端間に生じる電圧に基づいて定められる特定の値であり、実測値でもよく推定値でもよい。
【0287】
例えば、損失電力P0の値は、解析者が入力装置20を操作することによって設定部11に入力される。または、設定部11が、ステップS31で設定した印加電力Pの値に基づいて損失電力P0の値を算出してもよい。この損失電力P0の算出手法については図22を参照して後述する。
【0288】
ステップS4において熱解析装置10の解析部13は、電子回路の解析モデルMを用いて、印加電力P及び損失電力P0の各値に基づき抵抗器8の各部位の温度を解析する。
【0289】
そして熱解析装置10は、ステップS5の処理を実行して一連の処理手順を終了する。
【0290】
次に、図22を参照して、設定部11を用いて端子部81の損失電力P0を算出する手法について説明する。
【0291】
図22は、抵抗器8の中間部80への印加電力Pと端子部81の損失電力P0との関係を示す図である。図22に示すように、印加電力Pの大きさに比例して損失電力P0が大きくなることがわかる。また、抵抗器8の抵抗値が小さくなるほど、損失電力P0が大きくなることがわかる。
【0292】
したがって、抵抗器8の抵抗値ごとに、中間部80への印加電力Pと端子部81の損失電力P0とを互いに関係付けた損失電力テーブルを生成することにより、熱抵抗モデルM2の端子ノードNtに設定される損失電力P0の値を簡易に算出することが可能となる。
【0293】
次に、第5実施形態における抵抗器8の熱解析方法による作用効果について説明する。
【0294】
本実施形態における設定部11は、熱抵抗モデルM2の端子ノードNtの発熱量として、端子部81の損失電力P0を示す特定の値を設定する。これにより、端子部81で熱に変換される損失電力P0が模擬されるので、端子ノードNtで算出される温度の精度を高めることができる。
【0295】
端子ノードNtに設定される損失電力P0の値は、配線92の延在方向における端子部81の基板側両端に生じる電圧に基づいて定められることが好ましい。これにより、端子部81における損失電力P0の誤差が小さくなるので、端子部81の温度を精度よく解析することができる。
【0296】
また、端子ノードNtに設定される損失電力P0の値は、抵抗器8の抵抗値が小さくなるほど端子ノードNtの発熱量が大きくなるように定められる。これにより、抵抗値が小さい抵抗器8であっても端子部81の温度を精度よく解析することができる。
【0297】
なお、本実施形態では抵抗器8の熱解析モデルとして図6に示した熱抵抗モデルM2を用いたが、これに限られるものではない。例えば、抵抗器8の熱解析モデルとしては、熱抵抗モデルM2に代えて、図5に示した基本モデルMB2を用いることができ、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0298】
また、本実施形態では熱抵抗モデルM2に代えて、図16Aに示した基本モデルMB2aを用いることができる。この場合でも、基本モデルMB2aの端子ノードNtに対し、端子部81の損失電力P0が設定されることにより、過渡状態における抵抗器8の端子部81の温度変化について解析精度を向上させることができる。
【0299】
さらに、本実施形態では熱抵抗モデルM2に代えて、図19Aに示した熱抵抗モデルM2aを用いることができる。この場合でも、熱抵抗モデルM2aの端子ノードNtに対し、端子部81の損失電力P0が設定されることにより、外部から抵抗器8に熱が与えられ、且つ、抵抗器8が自己発熱する環境下における端子部81の温度変化について解析精度を向上させることができる。
【0300】
その他に、基本モデルMB2,MB2a及び熱抵抗モデルM2,M2aにおいて図15Bに示したように配線領域WAを設けない熱解析モデルに対しても、本実施形態を適用することができる。この場合でも、本実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0301】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態として、第5実施形態を図10に示した熱抵抗モデルM3に適用した例を説明する。
【0302】
図23は、第6実施形態における熱抵抗モデルM3に対する損失電力P0の設定手法を説明するための図である。
【0303】
図23に示すように、図1に示した熱解析装置10の設定部11は、熱抵抗モデルM3の中間ノードNhsに印加電力Pの値を設定するとともに、端子部内側ノードNtiの各々に対して損失電力P0の値を設定する。
【0304】
図24は、本実施形態における抵抗器8の熱解析方法を示すフローチャートである。
【0305】
本実施形態の熱解析方法は、図21に示した熱解析方法のステップS32の処理に代えて、ステップS32a及びS32bの処理を備えている。ここでは、ステップS32a及びS32bの処理についてのみ詳細に説明する。
【0306】
ステップS31において設定部11は、電子回路の解析モデルMを構成する熱抵抗モデルM3の中間ノードNhsに対し、図21で述べたとおり、中間部80への印加電力Pの値を設定する。
【0307】
ステップS32aにおいて設定部11は、ステップS31で設定された印加電力Pの値に基づいて、端子部内側ノードNtiの発熱量として用いられる端子部81の損失電力P0を算出する。
【0308】
本実施形態では、抵抗器8の抵抗値ごとに、中間ノードNhsの発熱量としての印加電力Pと端子部内側ノードNtiの発熱量としての損失電力P0とを互いに関係付けられた損失電力テーブルが記憶装置30に記憶されている。この損失電力テーブルは、例えば、図22に示した印加電力Pと損失電力P0との関係に基づいて生成される。記憶装置30から読み出される損失電力テーブルは、設定部11を構成するメモリに保持される。
【0309】
そして設定部11は、中間ノードNhsの発熱量として入力装置20から印加電力Pの値を取得すると、損失電力テーブルを参照して、取得した印加電力Pの値に関係付けられた損失電力P0の値を算出する。
【0310】
ステップS32bにおいて設定部11は、熱抵抗モデルM2の端子部内側ノードNtiに対し、端子部81の発熱量として、ステップS32bで算出された端子部81の損失電力P0の値を設定する。
【0311】
熱解析装置10は、ステップS4において印加電力P及び損失電力P0の各値に基づいて抵抗器8の各部位の温度を解析し、ステップS5の処理を実行して一連の処理手順を終了する。
【0312】
次に、図25を参照して、本実施形態における抵抗器8の熱抵抗モデルM3の解析精度について説明する。
【0313】
図25は、本実施形態における熱抵抗モデルM3の解析精度と詳細モデルの解析精度との比較結果を示す図である。図25に示すように、熱抵抗モデルM3の端子部内側ノードNtiに端子部81の損失電力P0の値を設定することにより、詳細モデルとほぼ同等の解析精度になることがわかった。
【0314】
次に、第6実施形態における抵抗器8の熱解析方法による作用効果について説明する。
【0315】
本実施形態における設定部11は、熱抵抗モデルM3における端子部内側ノードNtiの発熱量として損失電力P0を示す特定の値を設定する。これにより、端子部81で熱に変換される損失電力P0が模擬されるので、中間ノードNhsの算出温度と端子部外側ノードNtoの算出温度との温度差ΔTの解析精度を向上させることができる。
【0316】
また、本実施形態では、設定部11は、中間ノードNhsの発熱量としての印加電力Pと端子部内側ノードNtiの発熱量としての損失電力P0を互いに関係付けた損失電力テーブルを保持するメモリを有する。そして設定部11は、熱抵抗モデルM3の中間ノードNhsの発熱量として印加電力Pの値を取得すると、メモリに保持された損失電力テーブルを参照して、取得した値に関連付けられた損失電力P0の値を端子部内側ノードNtiに設定する。
【0317】
このように、中間ノードNhsに設定した印加電力Pの値を用いて端子部81の損失電力P0の値が端子部内側ノードNtiに設定されるので、解析者は損失電力P0の値を入力装置20に入力する必要がなくなる。したがって、簡易にかつ精度よく、抵抗器8の各部位の温度を解析することができる。
【0318】
なお、本実施形態における抵抗器8の熱解析モデルとしては、熱抵抗モデルM3に代えて、図8に示した基本モデルMB3を用いることができ、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0319】
また、本実施形態では熱抵抗モデルM3に代えて、図16Bに示した基本モデルMB3aを用いることができる。この場合でも、基本モデルMB3aの端子部内側ノードNtiに対し、端子部81の損失電力P0が設定されることにより、過渡状態における抵抗器8の端子部81の温度変化について解析精度を向上させることができる。
【0320】
さらに、本実施形態では熱抵抗モデルM2に代えて、図19Aに示した熱抵抗モデルM3aを用いることができる。この場合でも、熱抵抗モデルM3aの端子ノードNtに対し、端子部81の損失電力P0が設定されることにより、外部から抵抗器8に熱が与えられ、且つ、抵抗器8が自己発熱する環境下における端子部81の温度変化について解析精度を向上させることができる。
【0321】
その他に、基本モデルMB3,MB3a及び熱抵抗モデルM3,M3aにおいて図15Bに示したように配線領域WAを設けない熱抵抗モデルに対しても、本実施形態を適用することができる。この場合でも、本実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0322】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0323】
例えば、上記実施形態では配線92が絶縁基材91の表面に積層された基板9に抵抗器8を実装したが、配線92が絶縁基材91の内部に形成された基板9に対して抵抗器8を実装しても本実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0324】
また、上記実施形態では第2熱抵抗Rmの値があらかじめ定められていたが、これに限られるものではない。例えば、解析モデル生成部12が熱回路網データに基づき熱抵抗モデルM3,M3aを生成した後、解析者の入力操作により設定部11が配線92の厚みに応じて第2熱抵抗Rmの値を変更してもよい。あるいは、配線92の厚みと第2熱抵抗Rmの値との関係を示す熱抵抗テーブルを用意し、配線92の厚みを熱抵抗モデルM3,M3aの所定の欄に設定することによって、第2熱抵抗Rmの値を変更するようにしてもよい。
【0325】
また、上記実施形態では基板9及び抵抗器8以外の電子部品の熱解析モデルとして有限要素法を適用した詳細モデルを使用したが、例えば有限差分法又は有限体積法等を適用した解析モデル、又は六つ以上の熱抵抗で模擬したDELPHIモデル等を使用してもよい。
【0326】
また、上記実施形態では端子部81が抵抗体8a及び電極材8bにより構成されるものであったが、端子部81が電極材8bのみにより構成される抵抗器を解析対象としてもよい。この場合には、一対の電極材8bの対向面間に抵抗体8aが挟み込まれ、抵抗体8a全体が中間部80を構成することとなる。この場合であっても上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0327】
また、上記実施形態では、解析者が電子回路の解析モデルMを作成しやすいように、熱抵抗モデルM2には、各ノードNhs、Nti及びNtoが属する各領域HA、TAi及びTAoが、抵抗器8の寸法に合わせて設定されている。しかしながら、各領域HA、TAi及びTAoを省略し、第1熱抵抗Rhs及び第2熱抵抗Rmの各値及び位置関係のみ基本モデルMB2,MB3又は熱抵抗モデルM2,M3等に設定してもよい。
【符号の説明】
【0328】
10 熱解析装置
11 設定部
12 解析モデル生成部(準備部)
13 解析部
8(8a、8b) 抵抗器(抵抗体、電極材)
80 中間部
81 端子部
9 基板
91 絶縁基材
92(92a、92b) 配線(接合部位、他の配線部位)
MB2、MB2a、MB3、MB3a 基本モデル(熱解析モデル)
M2、M2a、M3、M3a 熱抵抗モデル(熱解析モデル)
Nhs 中間ノード
Nt(Nti、Nto) 端子ノード(端子部内側ノード、端子部外側ノード)
Nw(Nwi、Nwo) 配線ノード(配線内側ノード、配線外側ノード)
Nb(Nbi、Nbo) 境界ノード(境界内側ノード、境界外側ノード)
Nd 分割ノード
Ns1、Ns2、Ns3(Ns31、Ns32) 外面ノード
Rhs、Rm 第1熱抵抗、第2熱抵抗(熱抵抗)
P1(r1、r30) 第1経路(第1分岐路、接続経路)
P1i(r11、r31) 第1内側経路(第1経路)
P2i(r12、r32) 第2内側経路(第1経路)
P2(r2、r30) 第2経路(第2分岐路、接続経路)
P2o(r22、r32o) 第2外側経路(第2経路)
Chs、Cm 熱容量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18
図19A
図19B
図20
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図22
図23
図24
図25