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  • 特許-ポリマーアクチュエータ製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ポリマーアクチュエータ製造装置
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/38 20060101AFI20231228BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20231228BHJP
   D02G 3/12 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
D02G3/38
D02G3/44
D02G3/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019178644
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055205
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 準
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026966(JP,A)
【文献】特開2006-241613(JP,A)
【文献】特開2013-136862(JP,A)
【文献】特開2012-087429(JP,A)
【文献】国際公開第2019/104164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
B25J 1/00-21/02
B81B 1/00- 7/04
B81C 1/00-99/00
F03G 1/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1原糸である高分子繊維に撚りを加えて撚糸状高分子繊維を生成する撚糸機構と、
前記撚糸機構から連続的に提供される前記撚糸状高分子繊維に第2原糸である線状導電体を巻き付ける巻付機構と、
前記線状導電体が巻き付けられた前記撚糸状高分子繊維を巻き取る巻取機構と、を備え
前記撚糸機構は、
前記高分子繊維が巻かれた第1原糸ボビンを保持する撚糸用中空スピンドルと、
前記撚糸用中空スピンドルを回転駆動させる撚糸用駆動部と、
前記撚糸用中空スピンドルの回転トルクが伝達されて前記撚糸用中空スピンドルの軸周りに回転し、前記第1原糸ボビンから巻き解かれた前記高分子繊維を前記撚糸用中空スピンドルの内側に案内するガイド体と、を有し、
前記巻付機構は、
前記線状導電体が巻かれた第2原糸ボビンを保持する中空スピンドルと、
前記中空スピンドルの内側を挿通した前記撚糸状高分子繊維の外周部に前記第2原糸ボビンから巻き解かれた前記線状導電体が巻き付くように前記中空スピンドルを回転駆動させる駆動部と、を有することを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポリマーアクチュエータ製造装置において、
前記撚糸状高分子繊維が送られる経路において前記巻付機構よりも上流側に配置された第1送り機構と、
前記経路において前記巻付機構よりも下流側に配置された第2送り機構と、をさらに備え、
前記撚糸状高分子繊維を送る前記第1送り機構の送り速度、および、前記線状導電体が巻き付けられた前記撚糸状高分子繊維を送る前記第2送り機構の送り速度は、個々に制御されていることを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載のポリマーアクチュエータ製造装置において、
前記線状導電体のうち前記巻付機構と前記巻取機構との間を搬送させる領域を加熱する第2原糸加熱部をさらに備えることを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【請求項4】
請求項に記載のポリマーアクチュエータ製造装置において、
前記第2原糸加熱部は、前記撚糸状高分子繊維に巻き付けられた前記線状導電体に対して互いに異なる位置で接触する一対の電極体を有することを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【請求項5】
請求項に記載のポリマーアクチュエータ製造装置において、
前記撚糸機構は、前記撚糸用中空スピンドルの前記回転トルクを減少させながら前記ガイド体に伝達するトルク伝達部をさらに備えることを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【請求項6】
請求項または請求項に記載のポリマーアクチュエータ製造装置において、
少なくとも一部が前記撚糸用中空スピンドルの内側に配置され、かつ、前記撚糸状高分子繊維を加熱する筒状の第1原糸加熱部をさらに備えることを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のポリマーアクチュエータ製造装置において、
前記撚糸状高分子繊維のうち前記巻付機構よりも上流側の領域を加熱する第1原糸加熱部をさらに備えることを特徴とするポリマーアクチュエータ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーアクチュエータ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工筋肉などの分野で利用されるポリマーアクチュエータが知られている。例えば、特許文献1,2には、撚糸状の高分子繊維に対して線状導電体が巻き付けられた構成を有するポリマーアクチュエータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-42783号公報
【文献】特開2019-26966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来には、特許文献1,2に記載のポリマーアクチュエータを製造するための装置が存在せず、短寸のポリマーアクチュエータを手作業で製造しており、大量生産が困難である。
【0005】
本発明は、ポリマーアクチュエータを効率的に製造できるポリマーアクチュエータ製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置は、第1原糸である高分子繊維に撚りを加えて撚糸状高分子繊維を生成する撚糸機構と、前記撚糸状高分子繊維に第2原糸である線状導電体を巻き付ける巻付機構と、前記線状導電体が巻き付けられた前記撚糸状高分子繊維を巻き取る巻取機構と、を備えることを特徴とする。
【0007】
ここで、「高分子繊維」としては、特に限定されないが、特開2016-42783号公報などで挙げられる繊維を利用できる。例えば、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリカーボネート繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などが挙げられる。
また、「撚糸状高分子繊維」とは、撚りを加えられた高分子繊維である。撚糸状高分子繊維に加えられる撚りの状態は、コイル状であってもよいし、非コイル状であってもよい。
また、「線状導電体」としては、特に限定されないが、特開2016-42783号公報などで挙げられる導電体を利用できる。例えば、金属ワイヤやカーボンナノチューブの糸などが挙げられる。
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置は、紡績技術を利用した撚糸機構、巻付機構および巻取機構を備えることで、高分子繊維の撚糸、撚糸状高分子繊維に対する線状導電体の巻付、および、線状導電体が巻き付けられた撚糸状高分子繊維の巻取を行うことができる。これにより、ポリマーアクチュエータを効率的に製造することができる。
【0008】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置において、前記巻付機構は、前記線状導電体が巻かれた第2原糸ボビンを保持する中空スピンドルと、前記中空スピンドルの内側を挿通した前記撚糸状高分子繊維の外周部に前記第2原糸ボビンから巻き解かれた前記線状導電体が巻き付くように前記中空スピンドルを回転駆動させる駆動部と、を有することが好ましい。
本発明によれば、巻付機構は、撚糸機構から連続的に提供される撚糸状高分子繊維に対して、線状導電体を連続的に巻き付けることができる。このため、ポリマーアクチュエータをより効率的に製造することができる。
【0009】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置は、前記撚糸状高分子繊維が送られる経路において前記巻付機構よりも上流側に配置された第1送り機構と、前記経路において前記巻付機構よりも下流側に配置された第2送り機構と、をさらに備え、前記撚糸状高分子繊維を送る前記第1送り機構の送り速度、および、前記線状導電体が巻き付けられた前記撚糸状高分子繊維を送る前記第2送り機構の送り速度は、個々に制御されていることが好ましい。
本発明によれば、撚糸状高分子繊維のうち、第1送り機構と第2送り機構との間を搬送させる領域、すなわち巻付機構を経由する領域において、撚糸状高分子繊維の張力を調整でき、撚糸状高分子繊維に対する線状導電体の巻き付き状態を安定化できる。
【0010】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置において、前記線状導電体のうち前記巻付機構と前記巻取機構との間を搬送させる領域を加熱する第2原糸加熱部をさらに備えることが好ましい。
本発明によれば、線状導電体が巻き付けられた撚糸状高分子繊維の表面を溶融させ、線状導電体を撚糸状高分子繊維の表面に密着させることができる。これにより、線状導電体の脱離や脱落を好適に抑制できる。また、撚糸状高分子繊維に対する線状導電体の巻き付け位置のズレを好適に抑制できる。
【0011】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置において、前記第2原糸加熱部は、前記撚糸状高分子繊維に巻き付けられた前記線状導電体に対して互いに異なる位置で接触する一対の電極体を有することが好ましい。
本発明によれば、一対の電極体間を搬送させる線状導電体を通電加熱することができる。これにより、線状導電体を簡易な構成によって迅速に加熱できる。
【0012】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置において、前記撚糸機構は、前記高分子繊維が巻かれた第1原糸ボビンを保持する撚糸用中空スピンドルと、前記撚糸用中空スピンドルを回転駆動させる撚糸用駆動部と、前記撚糸用中空スピンドルの回転トルクが伝達されて前記撚糸用中空スピンドルの軸周りに回転し、前記第1原糸ボビンから巻き解かれた前記高分子繊維を前記撚糸用中空スピンドルの内側に案内するガイド体と、を有することが好ましい。
本発明によれば、高分子繊維は、回転するガイド体に案内されることによって撚りを加えられる。また、高分子繊維は、その材質上、撚糸により生じる応力が大きいが、本発明のような撚糸方式(いわゆるアップツイスト法)によれば、高分子繊維の撚り戻りを抑制し、安定した撚りを加えることができる。
【0013】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置であって、前記撚糸機構は、前記撚糸用中空スピンドルの前記回転トルクを減少させながら前記ガイド体に伝達するトルク伝達部をさらに備えることが好ましい。
本発明によれば、撚糸用中空スピンドルの回転速度とは別にガイド体の回転速度を調整することができる。これにより、撚糸状高分子繊維に好ましくない変形(例えばスナールや破断など)が生じることを抑制できる。
【0014】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置であって、少なくとも一部が前記撚糸用中空スピンドルの内側に配置され、かつ、前記撚糸状高分子繊維を加熱する筒状の第1原糸加熱部をさらに備えることが好ましい。
本発明によれば、撚糸状高分子繊維に対して、当該撚糸状高分子繊維が撚糸用中空スピンドルの内側に案内されて直ぐに加熱処理を行うことができる。これにより、撚糸状高分子繊維の撚り戻しを好適に抑制することができ、撚糸状高分子繊維における撚り角をより大きくすることができる。
【0015】
本発明のポリマーアクチュエータ製造装置は、前記撚糸状高分子繊維のうち前記巻付機構よりも上流側の領域を加熱する第1原糸加熱部をさらに備えることが好ましい。
すなわち、本発明において、第1原糸加熱部は、撚糸用中空スピンドルの内側に配置されることに限定されず、撚糸状高分子繊維のうち巻付機構よりも上流側の領域を加熱することで、撚糸状高分子繊維の撚り戻しを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ポリマーアクチュエータを効率的に製造できるポリマーアクチュエータ製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るポリマーアクチュエータ製造装置を示す模式図。
図2】前記実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置により製造されるポリマーアクチュエータを示す模式図。
図3】前記実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置における撚糸機構を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1を示す模式図である。本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1は、第1原糸である高分子繊維Y1に対して撚りを加えると共に、撚りを加えられた高分子繊維Y1(撚糸状高分子繊維Yt1)に対して第2原糸である線状導電体Y2を巻き付けることにより、図2に示すようなポリマーアクチュエータY3を製造するものである。
なお、高分子繊維Y1としては、例えば、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリカーボネート繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などが挙げられる。
また、線状導電体Y2としては、例えば、金属ワイヤや炭素をベースにした糸状材料(炭素繊維やカーボンナノチューブ糸など)が挙げられる。
その他、ポリマーアクチュエータY3の具体的な構成については、特開2016-42783号公報や特開2019-26966号公報を参照できる。
【0019】
〔ポリマーアクチュエータ製造装置1の構成〕
図1に示すように、ポリマーアクチュエータ製造装置1は、高分子繊維Y1に対して撚りを加える撚糸機構3と、撚糸状高分子繊維Yt1を加熱する第1原糸加熱部5と、撚糸状高分子繊維Yt1の張力を調整する張力調整機構6と、撚糸状高分子繊維Yt1に対して線状導電体Y2を巻き付ける巻付機構7と、撚糸状高分子繊維Yt1に巻き付けられている線状導電体Y2を加熱する第2原糸加熱部8と、線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1(ポリマーアクチュエータY3)を巻き取る巻取機構9と、を備えている。
以下、各構成について、高分子繊維Y1(撚糸状高分子繊維Yt1)の搬送経路Rに従って説明する。
【0020】
撚糸機構3は、第1原糸ボビン21を保持する中空スピンドル31と、中空スピンドル31を回転駆動させるモータ32と、中空スピンドル31に設けられたトルク伝達部4と、トルク伝達部4に設けられたガイド体33とを有する。
第1原糸ボビン21は、外周面に高分子繊維Y1を巻回して保持するように構成された筒状部材である。本実施形態の第1原糸ボビン21は、中空の筒部211と、筒部211の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた一対のフランジ部212とを有しており、フランジ部212には、凹部213が設けられている。
【0021】
中空スピンドル31は、中空の筒部313と、筒部313の外周部に設けられた円板状のボビン受部315とを有している。この中空スピンドル31は、筒部313が第1原糸ボビン21の内側を挿通し、ボビン受部315が第1原糸ボビン21を下側から支持することで、第1原糸ボビン21を保持する。
また、ボビン受部315には、フランジ部212の凹部213に係合する凸部317が設けられている。このため、モータ32により駆動された中空スピンドル31が回転するとき、第1原糸ボビン21は中空スピンドル31と共に回転する。
モータ32は、歯車やプーリー等により構成される伝達機構321を介して、中空スピンドル31を回転軸C1周りに回転駆動させる。
【0022】
トルク伝達部4は、中空スピンドル31の回転トルクをガイド体33に伝達可能であるように、中空スピンドル31に対して第1原糸ボビン21より上側に設けられている。
ここで、本実施形態のトルク伝達部4の構造について、図3を参照して簡単に説明する。
本実施形態のトルク伝達部4は、例えば非接触構造の可変トルク制御装置である。具体的には、トルク伝達部4は、中空スピンドル31に対してカプラ35により連結された中空軸41と、中空軸41に一体的に設けられた円板42と、中空軸41に対してベアリング43を介して設けられたケース44と、ケース44に設けられた複数の磁石45,46と、を有する。
【0023】
中空軸41は、中空スピンドル31と共に回転軸C1周りに回転可能である。この中空軸41の内側空間は、中空スピンドル31の内側空間に連通している。
ケース44は、回転軸C1方向に円板42を挟む位置に配置された上側板部442および下側板部444を有する。上側板部442には磁石45が設けられると共に、下側板部444には磁石46が設けられている。これらの磁石45,46は、円板42を挟んで対向配置されている。
また、ケース44は、回転軸C1を中心とする上側板部442および下側板部444の相対回転位置を調整可能に構成されている。すなわち、上側板部442および下側板部444にそれぞれ設けられた磁石45,46は、回転軸C1を中心とする相対回転位置を調整可能である。
【0024】
このようなトルク伝達部4では、中空スピンドル31と共に中空軸41が回転するとき、磁石45,46間の磁力線により、円板42の回転を制動する抵抗力が生じる。すなわち、円板42とケース44との相対回転を妨げる抵抗力が生じるため、中空スピンドル31の回転トルクが円板42を介してケース44に伝達される。
ここで、ケース44に伝達される回転トルクは、磁石45,46の相対回転位置によって調整される。例えば、回転トルクは、磁石45,46間で対向する磁極が異なる場合に最小トルクとなり、磁石45,46間で対向する磁極が同じになる場合に最大トルクになる。
本実施形態において、ケース44に伝達される回転トルクは、ケース44が中空スピンドル31よりも遅い速度で回転するように調整されている。
【0025】
ガイド体33は、上述したトルク伝達部4のケース44に固定されており、このケース44と共に回転軸C1周りに回転する。すなわち、ガイド体33は、トルク伝達部4により調整された速度によって回転する。このガイド体33は、例えばワイヤ等により構成され、トルク伝達部4に対して径方向外側に配置されるリング部332を有している。
【0026】
以上に説明した撚糸機構3では、中空スピンドル31の回転数が所定値に達すると、第1原糸ボビン21に巻かれた高分子繊維Y1が、回転による遠心力で第1原糸ボビン21から巻き解かれる。第1原糸ボビン21から巻き解かれた高分子繊維Y1は、回転するリング部332を挿通することで撚りを加えられ、撚糸状高分子繊維Yt1となってトルク伝達部4の中空軸41の内側に案内される。この撚糸状高分子繊維Yt1は、さらに中空スピンドル31の内側に案内され、後述の第1原糸加熱部5に導かれる。
なお、撚糸機構3において高分子繊維Y1に加えられる撚りは、コイル状であってもよいし、非コイル状であってもよい。
【0027】
第1原糸加熱部5は、いわゆる筒状ヒーターにより構成される。例えば、第1原糸加熱部5は、電極に接続された導電性の筒体であってもよいし、発熱線が配線された筒体であってもよい。この第1原糸加熱部5は、回転軸C1に沿って配置され、第1原糸加熱部5の少なくとも一部(図1中の第1原糸加熱部5の上側部分)は、中空スピンドル31の内側に配置されている。
撚糸機構3から導かれた撚糸状高分子繊維Yt1は、第1原糸加熱部5の内側を通過することで、繊維が軟化する温度に加熱される。第1原糸加熱部5を挿通した後の撚糸状高分子繊維Yt1は、ガイドローラ63によって、後述の第1送り機構61へ導かれる。
【0028】
張力調整機構6は、第1送り機構61と、第2送り機構62とを有している。
第1送り機構61は、搬送経路Rにおいて第1原糸加熱部5より下流であって、かつ、巻付機構7よりも上流に配置されている。この第1送り機構61は、いわゆるニップロールを構成するものであり、従動ローラ611と、不図示のモータ等により回転駆動される駆動ローラ613とを有する。駆動ローラ613は、各従動ローラ611との間に撚糸状高分子繊維Yt1を挟んで送り出す。
【0029】
第2送り機構62は、搬送経路Rにおいて巻付機構7よりも下流であって、かつ、巻取機構9よりも上流に配置されている。この第2送り機構62は、いわゆるニップロールを構成するものであり、従動ローラ622と、不図示のモータ等により回転駆動される駆動ローラ624とを有する。駆動ローラ624は、撚糸状高分子繊維Yt1(線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1)を従動ローラ622との間に挟んで送り出す。
なお、図1に示す従動ローラ611,622の数は、例示であり、1以上であれば限定されない。
【0030】
第1送り機構61の送り速度(駆動ローラ613の周速度)と、第2送り機構62の送り速度(駆動ローラ624の周速度)とは、それぞれ個別に制御されている。本実施形態では、第1送り機構61の送り速度を第2送り機構62の送り速度よりも遅い速度に設定することで、第1送り機構61と第2送り機構62との間を送られる撚糸状高分子繊維Yt1の張力を高めている。
【0031】
巻付機構7は、第1送り機構61と第2送り機構62との間に配置されており、第2原糸ボビン22を保持する中空スピンドル71と、中空スピンドル71を回転駆動させるモータ72と、を有する。
第2原糸ボビン22は、外周面に線状導電体Y2を巻回して保持するように構成された筒状部材である。具体的には、第2原糸ボビン22は、中空の筒部221と、筒部221の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた一対のフランジ部222とを有する。フランジ部222には、凹部223が設けられている。
【0032】
中空スピンドル71は、中空の筒部713と、筒部713の外周部に設けられた円板状のボビン受部715とを有している。この中空スピンドル71は、筒部713が第2原糸ボビン22の内側を挿通し、ボビン受部715が第2原糸ボビン22を下側から支持することで、第2原糸ボビン22を保持する。
また、ボビン受部715には、フランジ部222の凹部223に係合する凸部717が設けられている。このため、モータ72に駆動された中空スピンドル71が回転するとき、第2原糸ボビン22は中空スピンドル71と共に回転する。
モータ72は、歯車やプーリー等により構成される伝達機構721を介して、中空スピンドル71を回転軸C2周りに回転駆動させる。
【0033】
この巻付機構7では、中空スピンドル71の回転数が所定値に達すると、第2原糸ボビン22に巻かれた線状導電体Y2が、回転による遠心力で第2原糸ボビン22から巻き解かれる。これと同時に、張力調整機構6により張力を調整された撚糸状高分子繊維Yt1が、中空スピンドル71の内側を通過する。
ここで、第2原糸ボビン22から巻き解かれた線状導電体Y2は、中空スピンドル71の内側から送り出された撚糸状高分子繊維Yt1を回転中心として回転することにより、撚糸状高分子繊維Yt1の外周部に供給され、撚糸状高分子繊維Yt1に巻き付いていく。
線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1(ポリマーアクチュエータY3)は、第2送り機構62を経由して第2原糸加熱部8へ送られる。
【0034】
第2原糸加熱部8は、第2送り機構62と巻取機構9との間に配置された一対の電極体81,82を有する。電極体81,82は、搬送経路Rにおいて互いに異なる位置に配置されており、撚糸状高分子繊維Yt1に巻き付けられた線状導電体Y2に対してそれぞれ接触する。
【0035】
この第2原糸加熱部8では、電源83から電極体81,82に対して電圧(例えば100V)を加えることより、電極体81,82間を搬送させる線状導電体Y2に抵抗熱が生じ、当該線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1の表面が溶融する。これにより、線状導電体Y2が撚糸状高分子繊維Yt1の表面に密着する。
なお、図1に示される電極体81,82は、ロッド形状であるが、ローラ形状であってもよく、他の形状であってもよい。
【0036】
巻取機構9は、巻取ボビン23を保持するスピンドル91と、当該スピンドル91を回転駆動させるモータ92とを有する。
巻取ボビン23は、外周面にポリマーアクチュエータY3が巻回される筒状部材である。巻取ボビン23は、スピンドル91により保持され、スピンドル91と共に回転する。モータ92が回転駆動させると、巻取ボビン23は、ポリマーアクチュエータY3を巻き取る。
なお、巻取ボビン23によるポリマーアクチュエータY3の巻き取り速度と、撚糸機構3による高分子繊維Y1の繰り出し速度とは、撚糸状高分子繊維Yt1に撚り戻りが生じない程度の張力が加わるように相互に調整されている。
【0037】
また、巻取機構9は、第2原糸加熱部8を経由したポリマーアクチュエータY3に係合し、巻取ボビン23の軸方向に沿って往復運動するトラバースガイド93を有していてもよい。トラバースガイド93が往復駆動されると共に巻取ボビン23が回転駆動されることにより、ポリマーアクチュエータY3が巻取ボビン23に適切な形状に巻き取られる。
【0038】
〔効果〕
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1は、第1原糸である高分子繊維Y1に撚りを加えて撚糸状高分子繊維Yt1を生成する撚糸機構3と、撚糸状高分子繊維Yt1に第2原糸である線状導電体Y2を巻き付ける巻付機構7と、線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1(ポリマーアクチュエータY3)を巻き取る巻取機構9と、を備える。
すなわち、本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1は、紡績技術を利用した撚糸機構3、巻付機構7および巻取機構9を備えることで、高分子繊維Y1の撚糸、撚糸状高分子繊維Yt1に対する線状導電体Y2の巻付、および、線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1の巻取を行うことができる。これにより、ポリマーアクチュエータY3を効率的に製造することができる。
【0039】
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1において、巻付機構7は、線状導電体Y2が巻かれた第2原糸ボビン22を保持する中空スピンドル71と、中空スピンドル71の内側を挿通した撚糸状高分子繊維Yt1の外周部に第2原糸ボビン22から巻き解かれた線状導電体Y2が巻き付くように中空スピンドル71を回転駆動させるモータ72(駆動部)と、を有する。
このような構成によれば、巻付機構7は、撚糸機構3から連続的に提供される撚糸状高分子繊維Yt1に対して、線状導電体Y2を連続的に巻き付けることができる。このため、ポリマーアクチュエータY3をより効率的に製造することができる。
【0040】
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1は、搬送経路Rにおいて巻付機構7よりも上流側に配置された第1送り機構61と、搬送経路Rにおいて巻付機構7よりも下流側に配置された第2送り機構62とをさらに備え、撚糸状高分子繊維Yt1を送る第1送り機構61の送り速度、および、線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1を送る第2送り機構62の送り速度は、個々に制御されている。
このような構成によれば、撚糸状高分子繊維Yt1のうち、第1送り機構61と第2送り機構62との間を搬送させる領域、すなわち巻付機構7を経由する領域において、撚糸状高分子繊維Yt1の張力を調整でき、撚糸状高分子繊維Yt1に対する線状導電体Y2の巻き付き状態を安定化できる。
特に、本実施形態では、第1送り機構61による送り速度は、第2送り機構62による送り速度よりも、遅い速度に設定されている。このため、撚糸状高分子繊維Yt1に生じる振動を抑止でき、撚糸状高分子繊維Yt1に線状導電体Y2を安定した螺旋間隔で巻き付けることができる。
【0041】
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1において、線状導電体Y2のうち巻付機構7と巻取機構9との間を搬送させる領域を加熱する第2原糸加熱部8をさらに備える。
このような構成によれば、線状導電体Y2が巻き付けられた撚糸状高分子繊維Yt1の表面を溶融させ、線状導電体Y2を撚糸状高分子繊維Yt1の表面に密着させることができる。これにより、線状導電体Y2の脱離や脱落を好適に抑制できる。また、撚糸状高分子繊維Yt1に対する線状導電体Y2の巻き付け位置のズレを好適に抑制できる。
【0042】
また、本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1において、第2原糸加熱部8は、撚糸状高分子繊維Yt1に巻き付けられた線状導電体Y2に対して互いに異なる位置で接触する一対の電極体81,82を有する。
このような構成によれば、電極体81,82間を搬送させる線状導電体Y2を通電加熱することができる。これにより、線状導電体Y2を簡易な構成によって迅速に加熱できる。
【0043】
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1において、撚糸機構3は、第1原糸ボビン21を保持する中空スピンドル31(撚糸用中空スピンドル)と、中空スピンドル31を回転駆動させるモータ32(撚糸用駆動部)と、中空スピンドル31の回転トルクが伝達されて中空スピンドル31の回転軸C1周りに回転し、第1原糸ボビン21から巻き解かれた高分子繊維Y1を中空スピンドル31の内側に案内するガイド体33と、を備える。
このような構成によれば、高分子繊維Y1は、回転するガイド体33に案内されることによって撚りを加えられる。また、高分子繊維Y1は、その材質上、撚糸により生じる応力が大きいが、本実施形態の撚糸方式(いわゆるアップツイスト法)によれば、高分子繊維Y1の撚り戻りを抑制し、安定した撚りを加えることができる。
【0044】
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1において、撚糸機構3は、中空スピンドル31の回転トルクを制限しながらガイド体33に伝達するトルク伝達部4をさらに備える。
このような構成によれば、中空スピンドル31の回転速度とは別にガイド体33の回転速度を調整することができる。これにより、撚糸状高分子繊維Yt1に好ましくない変形(例えばスナールや破断など)が生じることを抑制できる。
【0045】
本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1は、少なくとも一部が中空スピンドル31の内側に配置され、撚糸状高分子繊維Yt1を加熱する筒状の第1原糸加熱部5をさらに備える。
このような構成によれば、撚糸状高分子繊維Yt1に対して、当該撚糸状高分子繊維Yt1が中空スピンドル31の内側に案内されて直ぐに加熱処理を行うことができる。これにより、撚糸状高分子繊維Yt1の撚り戻しを好適に抑制することができ、撚糸状高分子繊維Yt1における撚り角をより大きくすることができる。例えば、加熱されない状態の撚糸状高分子繊維Yt1における最大撚り角が40~45°程度である場合、加熱された撚糸状高分子繊維Yt1における最大撚り角は、50°程度にまで向上させることができる。
なお、上述した本実施形態のポリマーアクチュエータ製造装置1の効果は、日本紡織機械製造株式会社製の試験機を用いて確認された。
【0046】
〔変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
【0047】
例えば、前記実施形態の撚糸機構3では、ガイド体33がトルク伝達部4に設けられているが、本発明はこれに限られない。例えば、撚糸機構3がトルク伝達部4を有さない場合、ガイド体33は、第1原糸ボビン21の上部に取り付けらてもよい。
また、前記実施形態の撚糸機構3は、撚糸形式としてアップツイスト法を実施する構成を有しているが、他の撚糸形式を実施する構成であってもよい。撚糸形式としては、従来技術として存在する様々な形式を利用できる。
【0048】
前記実施形態のトルク伝達部4は、上述したような非接触構造の可変トルク制御装置であることに限定されず、中空スピンドル31のトルクを減少してガイド体33に伝達可能なものであれば、様々な磁力ブレーキを利用できる。
【0049】
前記実施形態の第1送り機構61および第2送り機構62は、それぞれニップロールを構成しているが、本発明はこれに限られず、他の種類の送り機構であってもよい。
【0050】
前記実施形態の第1原糸加熱部5は、筒状であるが、本発明はこれに限られず、他の形状の加熱部を有してもよい。また、第1原糸加熱部5は、その全体が中空スピンドル31の内側に配置されてもよいし、巻付機構7よりも上流側であれば中空スピンドル31の外側に配置されてもよい。
【0051】
前記実施形態の第2原糸加熱部8は、通電加熱を行う一対の電極体81,82であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2原糸加熱部8は、第1原糸加熱部5のような筒状の加熱部であってもよいし、他の形状の加熱部であってもよい。
また、前記実施形態の第2原糸加熱部8は、第2送り機構62の下流に配置されているが、巻付機構7と巻取機構9との間であれば、第2送り機構62の上流に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…ポリマーアクチュエータ製造装置、21…第1原糸ボビン、211…筒部、212…フランジ部、213…凹部、22…第2原糸ボビン、221…筒部、222…フランジ部、223…凹部、23…巻取ボビン、3…撚糸機構、31…中空スピンドル(撚糸用中空スピンドル)、313…筒部、315…ボビン受部、317…凸部、32…モータ(撚糸用駆動部)、321…伝達機構、33…ガイド体、332…リング部、35…カプラ、4…トルク伝達部、41…中空軸、42…円板、43…ベアリング、44…ケース、442…上側板部、444…下側板部、45,46…磁石、5…第1原糸加熱部、6…張力調整機構、61…第1送り機構、611…従動ローラ、613…駆動ローラ、62…第2送り機構、622…従動ローラ、624…駆動ローラ、63…ガイドローラ、7…巻付機構、71…中空スピンドル、713…筒部、715…ボビン受部、717…凸部、72…モータ(駆動部)、721…伝達機構、8…第2原糸加熱部、81,82…電極体、9…巻取機構、91…スピンドル、92…モータ、93…トラバースガイド、C1,C2…回転軸、R…搬送経路、Y1…高分子繊維、Y2…線状導電体、Y3…ポリマーアクチュエータ、Yt1…撚糸状高分子繊維。
図1
図2
図3