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特許7411371糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤
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  • 特許-糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤 図1
  • 特許-糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤 図2
  • 特許-糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤 図3
  • 特許-糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20231228BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20231228BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08F8/00
A61K47/26
A61K47/32
A61K9/127
A61K9/107
C08F20/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019182366
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021055033
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今瀬 将人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 あかね
(72)【発明者】
【氏名】落合 洋文
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178072(JP,A)
【文献】特開2017-081885(JP,A)
【文献】特開2007-153787(JP,A)
【文献】特開2019-085520(JP,A)
【文献】特開2016-198426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C07H
A61K9、47
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含むポリマー構造と、
【化1】

前記ポリマー構造の少なくとも一方の末端に直接または連結基を介して連結されてなる、下記化学式(G):
【化2】

化学式(G)中、
およびRは、互いに独立して、水素原子または下記化学式(Q1)、(Q2)、(Q3)、(Q4)もしくは(Q5):
【化3】

式中、Rは、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはベンジル基である、
で表される基であり、
*1は、前記ポリマー構造または連結基との連結部位を表す、
で表される糖鎖含有基と、
を有する、糖鎖修飾ポリマー。
【請求項2】
前記ポリマー構造の数平均分子量が1000~15000である、請求項1に記載の糖鎖修飾ポリマー。
【請求項3】
前記ポリマー構造に含まれる前記構成単位(A)の質量割合が50~100質量%である、請求項1に記載の糖鎖修飾ポリマー。
【請求項4】
前記ポリマー構造と前記糖鎖含有基とが、下記化学式(L1)または(L2):
【化4】

化学式(L1)および(L2)中、
*3は、前記糖鎖含有基との結合部位を表し、
*4は、前記ポリマー構造との結合部位を表す、
で表される構造を有する連結基を介して連結されてなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の糖鎖修飾ポリマー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の糖鎖修飾ポリマーを含む、医療用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の糖鎖修飾ポリマーを含む、高分子ミセル。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の糖鎖修飾ポリマーを含む、リポソーム。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の糖鎖修飾ポリマー、請求項5に記載の医療用樹脂組成物、請求項6に記載の高分子ミセルまたは請求項7に記載のリポソームから構成された、医薬品添加剤。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の糖鎖修飾ポリマーの製造方法であって、
前記化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含み、一方の末端のみにチオール基もしくはカルボキシル基を有するかまたは一方の末端にチオール基を有し他方の末端にカルボキシル基を有するポリマーと、
下記化学式(G’):
【化5】

化学式(G’)中、
およびRは、互いに独立して、水素原子または下記化学式(Q1)、(Q2)、(Q3)、(Q4)もしくは(Q5):
【化6】

式中、Rは、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはベンジル基である、
で表される基であり、
Xは、脱離基を表す、
で表される糖鎖と、
を反応させることを含む、製造方法。
【請求項10】
前記ポリマーの数平均分子量が1000~15000である、請求項9に記載の糖鎖修飾ポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記ポリマーに含まれる前記構成単位(A)の質量割合が50~100質量%である、請求項9または10に記載の糖鎖修飾ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖修飾ポリマーおよびその製造方法、並びにこれを用いた医療用樹脂組成物および医薬品添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物送達システム(すなわち、ドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System))に基づく製剤(DDS製剤)の開発が積極的に行われてきている。最近のDDS製剤にあっては、アクティブターゲッティング療法における分子標的治療薬と、パッシブターゲッティング療法におけるナノテクノロジーによって医薬を標的細胞に集積し易くした製剤がある。
【0003】
このパッシブターゲッティング療法に利用されている物質としては、リポソームや高分子ミセルがある。薬物のキャリアとなるリポソームや高分子ミセルには、例えば、薬物が不必要な部位に到達することにより引き起こされる副作用を回避し、必要な量の薬物を標的部位に到達しうる標的指向機能を有することが求められる。このような要請に応じて、例えば、リポソームを構成する脂質の種類の選択、表面の糖鎖による修飾、該糖鎖の種類の選択などの手段を用いて改変された種々の材料が検討されている。その一例として、特許文献1には、標的部位へ効率よく到達することができるリポソームを提供することを目的として、所定の構造を有する糖鎖を脂質と結合させた糖脂質誘導体を、リポソーム構成脂質とともに用いてリポソームを形成する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-153787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、糖鎖で修飾された構造を有する材料を用いた高分子ミセルの開発を進めてきた。そしてその過程において、特許文献1に記載されているような材料を用いて高分子ミセルを作製することを試みた。しかしながら、特許文献1に記載されているような材料を用いた場合には高分子ミセルを作製することができないことが判明した。糖鎖で修飾された構造を有する材料を用いた高分子ミセルを作製することができれば、糖鎖の種類を適切に選択することで当該高分子ミセルを特定の組織へと標的化することも可能となり、新たな薬物送達システムの開発にも資することになる。
【0006】
そこで本発明は、糖鎖で修飾された構造を有する材料を用いた高分子ミセルの作製を可能としうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、特定のアクリル系単量体由来の構成単位を有するポリマーを、所定の構造を有する糖鎖で修飾した糖鎖修飾ポリマーが、上記課題を解決しうる高分子ミセルの作製原料として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態によれば、下記化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含むポリマー構造と、
【0009】
【化1】
【0010】
前記ポリマー構造の少なくとも一方の末端に直接または連結基を介して連結されてなる、下記化学式(G):
【0011】
【化2】
【0012】
化学式(G)中、
およびRは、互いに独立して、水素原子または下記化学式(Q1)、(Q2)、(Q3)、(Q4)もしくは(Q5):
【0013】
【化3】
【0014】
式中、Rは、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはベンジル基である、
で表される基であり、
*1は、前記ポリマー構造または連結基との連結部位を表す、
で表される糖鎖含有基とを有する糖鎖修飾ポリマーが提供される。この糖鎖修飾ポリマーは、医療用樹脂組成物、高分子ミセル、リポソーム等の用途に利用可能であり、また、これらの材料は医薬品添加剤として用いられうる。
【0015】
また、本発明の他の形態によれば、上述した糖鎖修飾ポリマーの製造方法もまた、提供される。具体的に、当該製造方法は、上記化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含み、数平均分子量が1000~15000であり、一方の末端のみにチオール基もしくはカルボキシル基を有するかまたは一方の末端にチオール基を有し他方の末端にカルボキシル基を有するポリマーと、
下記化学式(G’):
【0016】
【化4】
【0017】
化学式(G’)中、
およびRは、互いに独立して、水素原子または下記化学式(Q1)、(Q2)、(Q3)、(Q4)もしくは(Q5):
【0018】
【化5】
【0019】
式中、Rは、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはベンジル基である、
で表される基であり、
Xは、脱離基を表す、
で表される糖鎖とを反応させることを含むものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、糖鎖で修飾された構造を有する材料を用いた高分子ミセルの作製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る糖鎖含有基の代表的な例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る糖鎖含有基の代表的な例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る糖鎖含有基の代表的な例を示す図である。
図4】実施例1~5において作製された糖鎖修飾ポリマーで修飾されたリポソームの細胞毒性を評価する目的で、細胞生存率を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一形態は、上述した化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含むポリマー構造と、上述した化学式(G)で表される糖鎖含有基とを有する、糖鎖修飾ポリマーに関するものである。
【0023】
このような構成を有する糖鎖修飾ポリマーにおいて、ポリマー構造(化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含む)は比較的高い疎水性を示す。一方、当該糖鎖修飾ポリマーにおいて、糖鎖含有基(化学式(G)で表される)は比較的高い親水性を示す。このため、本形態に係る糖鎖修飾ポリマーは両親媒性物質としての性質を有することとなる。その結果、高い高分子ミセルの形成能を示すものと推定されている。
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。さらに、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0025】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」は同義語として扱う。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味し、アクリレートおよびメタクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。さらに、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%の条件で測定する。
【0026】
<糖鎖修飾ポリマー>
上述したように、本発明の一形態に係る糖鎖修飾ポリマーは、上述した化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含むポリマー構造と、上述した化学式(G)で表される糖鎖含有基とを有するものである。以下、これらの構成要素について、詳細に説明する。なお、本明細書中、糖鎖を構成する糖残基について、マンノース残基をMan、グルコース残基をGlc、N-アシルグルコサミン残基をGlcNAc、ガラクトース残基をGal、シアル酸残基をNeuAcと表記する場合がある。
【0027】
(ポリマー構造)
本発明の一形態に係る糖鎖修飾ポリマーに含まれるポリマー構造は、上述した化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含む。この構成単位(A)は、下記の化学構造を有する単量体(メトキシエチルアクリレート)に由来するものである。
【0028】
【化6】
【0029】
ここで、本明細書において「単量体(P)由来の構成単位(Q)」(Pは任意の適切な符号を表し、(P)の表記はない場合もある)とは、代表的には、「単量体(P)」(または単に「単量体」)が有する重合性二重結合が重合によって開き、重合体の少なくとも一部を構成する単位(Q)(Qは任意の適切な符号を表し、(Q)の表記はない場合もある)となったものを意味する。上記「単量体(P)由来の構成単位」には、上記のように単量体(P)(または単に「単量体」)が重合して形成される構成単位(下記に示す具体例では一般式(Q)で表される構成単位)と同じ構造であれば、別の製法によって形成された構成単位であってもよい。
【0030】
上述したメトキシエチルアクリレートを重合することにより、当該単量体に含まれるエチレン性二重結合が切断されて化学式(M)のカッコ内で表される構成単位が生じる。
【0031】
本発明の一形態に係る糖鎖修飾ポリマーに含まれるポリマー構造に含まれる上記構成単位(A)の質量割合は、例えば1~100質量%であり、好ましくは20~100質量%であり、より好ましくは50~100質量%であり、さらに好ましくは60~100質量%であり、いっそう好ましくは80~100質量%であり、特に好ましくは90~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。構成単位(A)の割合が上記の範囲内の値であれば、本発明の作用効果を奏することができる。
【0032】
本発明の一形態に係る糖鎖修飾ポリマーに含まれるポリマー構造が構成単位(A)以外の構成単位(以下、単に「構成単位(B)」とも称する)を含む場合、構成単位(B)は任意のラジカル重合性単量体(以下、共重合によって構成単位(B)となる単量体を「単量体(b)」とも称する)に由来するものでありうる。上記ポリマー構造が構成単位(B)を含む場合、当該ポリマー構造に占める構成単位(B)の質量割合は、例えば99質量%以下であり、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、いっそう好ましくは20質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下である。
【0033】
単量体(b)としては、例えば、メトキシエチルアクリレート以外のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体、ビニルモノマーなどが挙げられる。これらの単量体(b)もまた、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
前記メトキシエチルアクリレート以外のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基の炭素数が1~4であり、アルキル基の炭素数が1~4であるアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのアルコキシアルキル(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前記水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどのヒドロキシアルキル基の炭素数が2~4であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
前記ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体としては、例えば、下記化学式(2)で表される単量体などが挙げられる。
【0037】
【化7】
【0038】
式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、Rは、炭素数2~18のアルキレン基を表し、Rは、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表し、Xは、炭素数1~5のアルキレン基、-CO-基、またはRC=CR-基がビニル基であるときは直接結合を表し、mは、-(RO)-基の平均付加モル数であり、1~300の数を表す。なお、式(2)中、(RO)が2種以上のROから構成される場合には、2種以上のROは、ランダム、ブロック、交互のいずれの結合形態であってもよい。
【0039】
式(2)において、Rは、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基である。Rのなかでは、水素原子および炭素数1~20の炭化水素基が好ましく、炭素数1~10の炭化水素基がより好ましく、炭素数1~3の炭化水素基がよりいっそう好ましく、炭素数1または2の炭化水素基がさらに好ましい。炭化水素基のなかでは、アルキル基またはアルケニル基が好ましく、炭素数1~20のアルキル基がより好ましく、炭素数1~10のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~3のアルキル基がさらにいっそう好ましい。
【0040】
式(2)において、式:-RO-で表されるオキシアルキレン基は、炭素数2~18のオキシアルキレン基である。オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシ-1-ブテン基、オキシ-2-ブテン基などが挙げられる。これらのオキシアルキレン基のなかでは、炭素数2~8のオキシアルキレン基が好ましく、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などの炭素数2~4のオキシアルキレン基がより好ましく、オキシエチレン基がさらに好ましい。
【0041】
化学式(2)において、mは、式:-RO-で表わされるオキシアルキレン基の平均付加モル数である。平均付加モル数は、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体1モルにおけるオキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。mの下限値は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは8以上である。mの上限値は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。
【0042】
Xは、炭素数1~5のアルキレン基、-CO-基、またはRC=CR-基がビニル基であるときは直接結合を表す。これらの基のなかでは、-CO-基が好ましい。
【0043】
ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体としては、例えば、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコールエステル単量体、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノマレイン酸エステルなどが挙げられる。
【0044】
不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物は、不飽和基を有するアルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した化合物である。不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-2-プロペニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(1,1-ジメチル-2-プロペニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテルなどが挙げられる。
【0045】
ポリアルキレングリコールエステル系単量体は、不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された単量体である。
【0046】
前記ポリアルキレングリコールエステル系単量体としては、例えば、アルコールに炭素数2~18のオキシアルキレン基が1~300モル付加したアルコキシポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物が好ましい。アルコキシポリアルキレングリコールのなかでは、オキシエチレン基を主成分とするものが好ましい。前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの炭素数1~30の脂肪族アルコール、シクロヘキサノールなどの炭素数3~30の脂環族アルコール、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オールなどの炭素数3~30の不飽和アルコールなどが挙げられる。前記エステル化物としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリエチレングリコールポリブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールエステル系単量体のなかでは、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどの(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0047】
前記ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ジアミノメチル(メタ)アクリレート、ジアミノエチル(メタ)アクリート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジエチルアミノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、スチレン、アジリジン類、2-(メタ)アクリロイルオキシメチルホスホリルコリン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソプロピルアクリルアミド、ビニルアルコール、ビニルホルムアミド、ビニルイソブチルアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0048】
本発明の一形態に係る糖鎖修飾ポリマーに含まれるポリマー構造は、同一の種類または異なる種類の重合体同士を結合させることによって得られるブロック共重合体の構成を有していてもよい。
【0049】
上記ポリマー構造の数平均分子量(Mn)は、耐溶血性に優れ、リポソームに対する修飾性にも優れるといった観点から、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、さらに好ましくは3000以上である。また、上記重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは15000以下であり、より好ましくは14000以下であり、さらに好ましくは13000以下である。なお、上記重合体の数平均分子量(Mn)の値は、後述する実施例において、製造例1~5で得られた重合体についてのMnの測定方法に基づいて測定したときの値を意味する。
【0050】
上記ポリマー構造の分子量分布([重合平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]の値)は、耐溶血性に優れ、リポソームに対する修飾性にも優れるといった観点から、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~3であり、さらに好ましくは1~2であり、さらに好ましくは1~1.5であり、さらに好ましくは1~1.3である。
【0051】
上記ポリマー構造は、メトキシエチルアクリレートおよび必要に応じて単量体(b)を含む単量体組成物を重合することにより得られる重合体から構成されうる。上記単量体組成物を重合させる方法としては、例えば、ラジカル重合法、原子移動ラジカル重合法、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法などに代表されるリビングラジカル重合法、イオン重合法、開環重合法、配位重合法、重縮合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
単量体組成物を重合させる際には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロエタン、ジクロロエタンなどのハロゲン原子含有溶媒;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒などの有機溶媒や、水が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒の量は、重合条件、単量体組成物の組成、得られる重合体の濃度などを考慮して適宜決定すればよい。
【0053】
単量体組成物を重合させる際には、重合体の分子量を調整したり、炭化水素基を導入したりするために、連鎖移動剤を用いることができる。
【0054】
連鎖移動剤としては、例えば、チオ酢酸ナトリウム、チオ酢酸カリウムなどのチオ酢酸アルカリ金属塩、システイン、システアミン、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトエタンスルホン酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩などの親水性チオール系連鎖移動剤;2-アミノプロパン-1-オールなどの1級アルコール、イソプロパノールなどの2級アルコール、亜リン酸、次亜リン酸およびそれらの塩(例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなど)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸およびそれらの塩(例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウムなど)などの非チオール系の連鎖移動剤;ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、チオコレステロール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2-メルカプトプロピオン酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシルエステル、オクタン酸2-メルカプトエチルエステル、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、デカントリチオール、ドデシルメルカプタンなどの疎水性チオール系連鎖移動剤などが挙げられる。また、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合を行う場合には、連鎖移動剤として可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤を用いる必要がある。このようなRAFT剤としては、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸、2-シアノ-2-プロピルベンゾチオエート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボネート、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸、シアノメチルドデシルチオカルボネート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモチオエート、ビス(チオベンゾイル)ジスルフィド、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィドなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
連鎖移動剤の量は、単量体組成物に含まれる単量体の種類、重合温度などの重合条件、目標とする重合体の分子量などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。ただし、数平均分子量が数千~数万の重合体を得る場合には、単量体100質量部あたり、連鎖移動剤の量が0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましい。
【0056】
単量体組成物を重合させる際には、重合開始剤を用いることができる。
【0057】
重合開始剤としては、例えば、アゾイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-ジメトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メトキシプロパンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチル-2-プロペニルプロパンアミド)、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス[2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジtert-ブチルパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどのラジカル重合開始剤;ブロモメチルベンゼン、1-(ブロモメチル)-4-メチルベンゼン、2-ブロモイソ酪酸エチル、2-ブロモイソ酪酸ヒドロキシエチル、ビス[2-(2’-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィド、2-ブロモイソ酪酸10-ウンデセニル、4-(1-ブロモエチル)安息香酸などのリビングラジカル重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
重合開始剤の量は、得られる重合体の所望する物性などに応じて適宜設定すればよいが、通常、単量体100質量部あたり、重合開始剤の量は、好ましくは0.001~20質量部であり、より好ましくは0.005~10質量部である。
【0059】
単量体組成物を重合させる際の重合条件は、重合方法に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。重合温度は、好ましくは室温~200℃、より好ましくは40~140℃である。また、単量体組成物を重合させる際の雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。反応時間は、単量体の重合反応が完結するように適宜設定すればよい。
【0060】
以上のようにして好ましくは単量体組成物を重合させることにより、本発明に係るポリマー構造を構成しうる重合体を得ることができる。ここで、得られる重合体は、その末端に官能基を有していることが好ましい。上記の方法により得られる重合体がその末端に官能基を有すると、当該官能基を介して後述する糖鎖含有基との連結を容易に行うことができ、ポリマー構造と糖鎖含有基とが連結されてなる糖鎖修飾ポリマーの製造に有利である。なお、本発明に係るポリマー構造を構成しうる重合体がその末端に官能基を有する場合、当該官能基は、当該重合体の片末端のみに存在していてもよく、両末端に存在していてもよい。また、上記重合体の末端に存在する官能基は、本発明に係るポリマー構造が後述する所定の糖鎖含有基と連結される側に位置していてもよいし、これとは反対の側に位置していてもよい。
【0061】
本発明に係るポリマー構造を構成しうる重合体が有しうる官能基としては、アニオン性官能基、カチオン性官能基、ノニオン性官能基および両性官能基が好ましい。当該官能基は、反応性官能基であることが好ましい。好適な反応性官能基としては、-SH基、式:-COOM(Mは水素原子またはアルカリ金属原子を表す)で表される基、水酸基、アリル基、エポキシ基、アルデヒド基、-NH基、CONH-基などが挙げられる。前記Mとしては、例えば、ナトリウム原子、カリウム原子などのアルカリ金属原子が挙げられる。重合体がその末端に官能基を有する場合、当該官能基の数は、特に限定されないが、好ましくは1~6個であり、より好ましくは1~4個であり、さらに好ましくは1~2個である。
【0062】
本発明に係るポリマー構造を構成しうる重合体の末端に官能基を導入するためには、当該重合体に官能基を導入するための官能基含有化合物を用いることができる。当該重合体の末端に官能基を導入するための官能基含有化合物としては、例えば、チオ酢酸ナトリウム、チオ酢酸カリウムなどのチオ酢酸アルカリ金属塩、システイン、システアミン、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトエタンスルホン酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩などのチオール系連鎖移動剤;4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メトキシプロパンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチル-2-プロペニルプロパンアミド)、2,2’-ビス(2-イミダゾリン-2-イル)[2,2’-アゾビスプロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス[2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン二塩酸塩、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどの官能基が導入された重合開始剤などが挙げられる。これらの官能基含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上述した官能基含有化合物のなかには、上述した連鎖移動剤や重合開始剤に該当するものが含まれるが、連鎖移動剤や重合開始剤に該当する官能基含有化合物は、連鎖移動剤または重合開始剤と、官能基含有化合物のうちの一方のみの目的で用いられてもよいし、双方の目的で用いられてもよい。
【0063】
また、重合開始剤としてリビング重合開始剤を用いる場合には、当該リビング重合開始剤を用いて調製された重合体の末端に存在するハロゲン原子に官能基含有化合物を反応させることによって当該重合体の末端に官能基を導入してもよい。このようなハロゲン原子と反応して上記重合体の末端に官能基を導入しうる官能基含有化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピルジアミンなどのアミン化合物、エタンジチオール、プロパンジチオール、ヘキサデカンジチオールなどのジチオール化合物、アリルメルカプタンなどをはじめ、システイン、システアミン、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトエタンスルホン酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩などのチオール化合物などが挙げられる。
【0064】
重合体の末端に官能基を導入するための官能基含有化合物の量は、重合体を構成する単量体(構成単位)の種類、重合温度などの重合条件、目標とする重合体の分子量などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。数平均分子量が数千~数万の重合体を得る場合には、単量体100質量部あたり、連鎖移動剤の量が0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましい。
【0065】
本発明に係るポリマー構造を構成しうる重合体の末端に官能基を導入する方法としては、例えば、
(1)重合開始剤として前記官能基が導入された重合開始剤の存在下で単量体組成物を重合して重合体を得る方法、
(2)連鎖移動剤として前記官能基が導入された連鎖移動剤の存在下で単量体組成物を重合して重合体を得る方法、
(3)重合体の末端に存在するハロゲン原子と官能基含有化合物とを反応させる方法
などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0066】
(糖鎖含有基)
本発明に係る糖鎖修飾ポリマーは、上述した「化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含むポリマー構造」に加えて、所定の構造を有する糖鎖含有基をも有する点に特徴がある。具体的に、当該糖鎖含有基は、下記化学式(G)で表されるものである。ここで、当該糖鎖含有基は、上述したポリマー構造の少なくとも一方の末端に直接連結されているか、または連結基を介して連結されている。
【0067】
【化8】
【0068】
化学式(G)において、*1は、上記ポリマー構造または連結基との結合部位を表す。また、化学式(G)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または下記化学式(Q1)、(Q2)、(Q3)、(Q4)もしくは(Q5)で表される基である。なお、下記式中、Rは、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはベンジル基である。
【0069】
【化9】
【0070】
本形態に係る糖鎖修飾ポリマーは、化学式(G)におけるRおよびRが上記構成を有する構造からなるため、体内に投与した場合に特に目的とする臓器へ優位に蓄積することができる。前記RおよびRは、少なくとも一方が水素原子以外の基であることが好ましい。
【0071】
特に、化学式(G)におけるRおよびRが式(Q1)または(Q2)、特に(Q1)である構造を有する糖鎖含有基を含む糖鎖修飾ポリマーは、インフルエンザウイルスを認識(結合)する部位となるシアル酸末端を表面に有するため、インフルエンザウイルス感染阻害剤として好適である。より詳細には、シアル酸の2位の炭素とガラクトースの6位の炭素とがα結合した構成を有する式(Q1)の糖鎖は、ヒトインフルエンザウイルスによって特異的に認識される、これに対し、シアル酸の2位の炭素とガラクトースの3位の炭素とがα結合した構成を有する式(Q2)の糖鎖は、トリインフルエンザウイルスによって特異的に認識されることが知られている。このように糖鎖の結合様式がウイルスの宿主域に影響するという点でも、糖鎖修飾ポリマーを構成する糖鎖の具体的な構成が重要であると考えられる。
【0072】
本発明の一実施形態に係る糖鎖含有基の代表的な例を、図1図3の(i)~(vii)に示す。以下、これらの糖鎖含有基を簡易に表記する場合があり、例えば、式(i)を「2,6-ジシアロ糖鎖含有基」、式(ii)を「2,3-ジシアロ糖鎖含有基」、式(iii)を「2,6-モノシアロ糖鎖含有基」、式(iv)を「2,3-モノシアロ糖鎖含有基」、式(v)を「アシアロ糖鎖含有基」、式(vi)を「ジGlcNAc含有基」、式(vii)を「ジMan糖鎖含有基」とも称する。
【0073】
本発明に係る糖鎖含有基は、特許文献1を含む従来公知の知見を適宜参照することにより、入手することが可能である。
【0074】
(連結基)
上述したように、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーにおいて、糖鎖含有基は、ポリマー構造の少なくとも一方の末端に直接連結されているか、または連結基を介して連結されている。なかでも、生体内における組織に対する標的化性能を向上させるという観点から、糖鎖含有基は、連結基を介して上記ポリマー構造の末端に連結されていることが好ましい。糖鎖含有基が連結基を介してポリマー構造の末端に連結されている場合、当該連結基の具体的な形態について特に制限はなく、これらの2つの構造を化学的に連結可能な任意の2価の基が採用されうる。一例として、ポリマー構造と前記糖鎖含有基とは、下記の化学式(L1)または(L2)で表される構造を有する連結基を介して連結されていることが好ましい。このような連結基を介してポリマー構造と糖鎖連結基とが間接的に連結されている形態は、生体内における組織に対する標的化性能を向上させるという観点から好ましい。
【0075】
【化10】
【0076】
ここで、化学式(L1)および(L2)中、*3は、前記糖鎖含有基との結合部位を表す。また、化学式(L1)および(L2)中、*4は、前記ポリマー構造との結合部位を表す。
【0077】
(製造方法)
本発明に係る糖鎖修飾ポリマーは、上述した本発明に係るポリマー構造を構成しうる重合体と、同様に上述した糖鎖含有基を構成しうる糖鎖とを反応させることによって製造することができる。本発明の他の形態によれば、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーを製造するための代表的な方法もまた、提供される。以下では、このような製造方法の一例について説明するが、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーの技術的範囲が下記の製造方法によって製造されたもののみに限定されるわけではない。
【0078】
本発明の他の形態に係る製造方法は、本発明に係るポリマー構造を構成しうるポリマー(少なくとも一方の末端に官能基を有するもの)と、前記ポリマーが有する官能基と反応しうる官能基を末端に有する糖鎖とを反応させるものである。より具体的に、当該製造方法は、上述した化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含み、一方の末端のみにチオール基もしくはカルボキシル基を有するかまたは一方の末端にチオール基を有し他方の末端にカルボキシル基を有するポリマーと、下記化学式(G’)で表される糖鎖とを反応させることを含むものである。
【0079】
【化11】
【0080】
化学式(G’)において、RおよびRは上記と同様の定義である。また、化学式(G’)において、Xは、脱離基を表す。本明細書において、「脱離基」とは、一般的に求核体による置換反応過程において脱離する傾向を有し、脱離することにより通常負電荷を帯びる官能基である。このような脱離基(X)としては、例えば、Br基、I基、Cl基、ヒドロキシスクシンイミジル基、ヒドロキシフタルイミジル基、ペンタフルオロフェノーリル基、4-クロロベンジルアルコール基、TsO基等が含まれる。脱離基(X)は、好ましくはBr基、I基またはCl基であり、最も好ましくはBr基である。
【0081】
本形態に係る製造方法において、上述したような糖鎖と反応するポリマーは、上述した化学式(M)のカッコ内で表される構成単位(A)を含むものである。また、当該ポリマーの数平均分子量は、好ましくは1000~15000である。このような特徴を有するポリマーの好ましい形態については、本発明の一形態に係る糖鎖修飾ポリマーに含まれるポリマー構造の欄において説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。そして、上述したような糖鎖と反応するポリマーは、一方の末端のみにチオール基もしくはカルボキシル基を有するかまたは一方の末端にチオール基を有し他方の末端にカルボキシル基を有するものである。ここで、糖鎖と反応するポリマーがメトキシエチルアクリレートのホモポリマー(単独重合体)である場合を例に挙げて説明すると、上述したような糖鎖と反応するポリマーは、化学式(p1’)、(p1”)または(p2’)で表される構造を有するものである。
【0082】
【化12】
【0083】
なお、化学式(p1’)、(p1”)および(p2’)中、nは、構成単位の繰り返し数を表し、ポリマーの数平均分子量の規定を満足する整数である。
【0084】
上述したようなポリマーと糖鎖とを反応させる際の反応条件について特に制限はない。ただし、上記ポリマーと糖鎖との反応は求核置換反応として進行しうる。このため、この反応は、例えば、塩基の存在下、溶媒中で実施することができる。本反応で用いられる塩基としては、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の無機塩基、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の低級アルコキシドが挙げられる。また、求核性が低い有機塩基として、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、DBUなどが好ましく用いられる。また、溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロルエタンなどの塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、エーテル、ジイソプルイピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素、これらの混合溶媒などが挙げられる。本反応は通常-80℃付近~溶媒の沸点付近、好ましくは0~60℃で行うことができる。また、反応は常圧下、加圧下、減圧下のいずれの圧力条件下で行われてもよいが、通常は常圧下で当該反応は進行しうる。このようにして得られた反応物は、常法に従って精製されてもよい。
【0085】
<糖鎖修飾ポリマーの用途>
本発明に係る糖鎖修飾ポリマーは、生体適合性が高いことから、医療用途に好適に用いられうる。すなわち、本発明の他の形態によれば、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーを含む医療用樹脂組成物が提供される。この医療用樹脂組成物は、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーからなるものであってもよいし、他の成分をさらに含むものであってもよい。他の成分としては、例えば、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、リン酸緩衝生理食塩水、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤、生体内で許容される生理的pH緩衝液などが挙げられる。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0086】
本発明に係る糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物は、医薬品添加剤として好適に用いられうる。医薬品添加剤としては、例えば、医薬などを保持するための担体などが挙げられる。本発明に係る両親媒性化合物または医療用樹脂組成物で医薬などを保持する方法としては、例えば、糖鎖修飾ポリマーを構成するポリマー構造または糖鎖含有基に医薬などを結合させることによって担体と医薬などとを複合化させる方法、糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物と医薬などとを均一な組成となるように混合する方法、医薬などの粒子を糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物で被覆する方法、脂質と糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物との混合物を粒子化させ、得られる粒子の内部に医薬などを内包させる方法、医薬などをリポソームで内包させた粒子を糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物で被覆することにより、糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物の外皮の内部に当該粒子を内包させる方法、医薬などとリポソームとの混合物の粒子を糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物で被覆することにより、糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物の外皮の内部に当該粒子を内包させる方法、医薬などを糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物でミセル化させることにより、医薬などを内包させる方法、医薬などを糖鎖修飾ポリマーおよびリポソームを構成する脂質でリポソーム化させることにより、医薬などを内包させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0087】
上記リポソームは、例えば、脂質をtert-ブチルアルコールなどの溶媒に溶解させた後、凍結乾燥する方法、薬物を溶解させた溶液を脂質に添加することによって脂質を膨潤させて超音波で分散させた後、得られた分散体にポリエチレングリコール-フォスファチジルエタノールアミンなどを添加する方法などによって調製することができる。
【0088】
リポソームは、カチオン化剤でカチオン化されていることが好ましい。カチオン化剤としては、従来公知のものが適宜選択されて用いられうる。リポソームは、例えば、水素化大豆レシチン、コレステロール、3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩などをtert-ブチルアルコールなどの溶媒に溶解させ、得られた脂質混合溶液を凍結させることによって得ることができる。リポソームを構成する脂質は、生体内で安定である。当該脂質としては、炭素原子数8以上の炭化水素基の供給源として上記で例示したものが同様に用いられうる。
【0089】
なお、上記の例ではリポソームを挙げたが、リポソームの代わりに、例えば、エマルション、ナノ粒子、マイクロ粒子、高分子化合物などを用いることができる。
【0090】
医薬としては、生物学的または薬理学的に活性な医薬を用いることができる。医薬としては、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウイルス剤、抗癌効果増強剤、免疫増強剤、免疫調節剤、免疫回復剤、放射線増感剤、放射線防護剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、うっ血除去薬、抗真菌剤、抗関節炎薬、抗喘息薬、血管新生阻害剤、酵素剤、抗酸化剤、ホルモン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖剤、平滑筋細胞の遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖促進剤、血管内皮細胞の増殖抑制剤、インターフェロン、インターロイキン、コロニー刺激因子、サイトカイン、腫瘍壊死因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、幹細胞因子、β型トランスフォーミング増殖因子、肝細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、エリスロポエチン、ワクチン、タンパク質、ムコタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、糖鎖、アンチセンス、リボザイム、デコイ、核酸、抗体などが挙げられる。これらの医薬は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0091】
医薬を投与する対象としては、ヒト、サル、ネズミ、家畜などの哺乳動物が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0092】
医薬を注射によって投与する場合、例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、皮内注射、腫瘍内注射などにより、医薬を体内に注射することができる。ここで、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーは、単独で生理的条件下において高分子ミセルを形成しうる性質を有するものである。したがって、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーまたは医療用樹脂組成物の好適な用途の1つは、高分子ミセル等の形態で医薬などを保持するための担体として用いられる医薬品添加剤である。そして、当該医薬品添加剤は、注射剤の形態で投与される医薬品に添加されるものであることが好ましい。
【0093】
本発明に係る両親媒性化合物または医療用樹脂組成物に保持させる医薬の量は、医薬が投与される対象、医薬の種類などによって異なることから、一概には決定することができない。通常、本発明に係る両親媒性化合物または医療用樹脂組成物に含まれる固形分100gあたり、医薬の量が1μg~50g程度であることが好ましい。
【実施例
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
[重合体の平均分子量の測定]
後述する製造例1~5において製造された重合体(ポリマー構造を構成しうる前駆体)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。この際、測定条件は、以下の通りとした。
【0096】
〔重合体の数平均分子量の測定条件〕
・測定機器:東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC
・分子量カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel SupermultiporeHZ-Mを2本直列に接続
・溶離液:THF
・検量線用標準物質:ポリスチレン
・測定用溶液の調製:THFに重合体を溶解させて重合体の濃度が0.2質量%の溶液を調製し、当該溶液をフィルターで濾過した後の濾液を使用する。
【0097】
[分子量チャートのピークトップ]
後述する製造例1~5において製造された重合体(糖鎖修飾工程の前後)の分子量チャートのピークトップについても、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。この際、測定条件は、以下の通りとした。
【0098】
〔重合体の測定条件〕
・測定機器:東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC
・分子量カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel SuperAWM-HとSuperAW2500を2本直列に接続
・溶離液:10mmol/L臭化リチウム添加ジメチルホルムアミド
・検量線用標準物質:ポリスチレン
・測定用溶液の調製:ジメチルホルムアミドに重合体を溶解させて重合体の濃度が0.2
質量%の溶液を調製し、当該溶液をフィルターで濾過した後の濾液を使用する。
【0099】
[ポリマー(重合体)の製造例]
(製造例1)
3方コック付きシュレンク管に、メトキシエチルアクリレート1.0g、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート0.012g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.007g、n-ブタノール1.7g、および酢酸n-ブチル1.7gを仕込んだ。次いで、管内部の窒素置換を行い、80℃にて1時間撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製した。次に、得られた重合体0.1g、プロピルアミン150μL、テトラヒドロフラン3.5mL、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩7.5mgを仕込み室温にて終夜撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製することで、末端にチオール基を有するポリメトキシエチルアクリレート(重合体1)を得た。得られた重合体1の数平均分子量は、6010であった。
【0100】
(製造例2)
3方コック付きシュレンク管に、メトキシエチルアクリレート1.0g、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート0.037g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.022g、n-ブタノール1.7g、および酢酸n-ブチル1.7gを仕込んだ。次いで、管内部の窒素置換を行い、80℃にて1時間撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製した。次に、得られた重合体0.1g、プロピルアミン400μL、テトラヒドロフラン3.5mL、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩22.5mgを仕込み室温にて終夜撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製することで、末端にチオール基を有するポリメトキシエチルアクリレート(重合体2)を得た。得られた重合体2の数平均分子量は、2060であった。
【0101】
(製造例3)
3方コック付きシュレンク管に、メトキシエチルアクリレート1.0g、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸0.009g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.004g、n-ブタノール1.7g、および酢酸n-ブチル1.7gを仕込んだ。次いで、管内部の窒素置換を行い、80℃にて1時間撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製することで、末端にカルボキシ基を有するポリメトキシエチルアクリレート(重合体3)を得た。得られた重合体3の数平均分子量は、10500であった。
【0102】
(製造例4)
3方コック付きシュレンク管に、メトキシエチルアクリレート1.0g、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸0.047g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.022g、n-ブタノール1.7g、および酢酸n-ブチル1.7gを仕込んだ。次いで、管内部の窒素置換を行い、80℃にて1時間撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製することで、末端にカルボキシ基を有するポリメトキシエチルアクリレート(重合体4)を得た。得られた重合体4の数平均分子量は、2900であった。
【0103】
(製造例5)
3方コック付きシュレンク管に、メトキシエチルアクリレート1.0g、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸0.015g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.007g、n-ブタノール1.7g、および酢酸n-ブチル1.7gを仕込んだ。次いで、管内部の窒素置換を行い、80℃にて1時間撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製した。次に得られた重合体0.1g、プロピルアミン150μL、テトラヒドロフラン3.5mL、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩7.5mgを仕込み室温にて終夜撹拌した。得られた反応液をジエチルエーテル中に滴下し精製することで、末端にチオール基およびカルボキシ基をそれぞれ有するポリメトキシエチルアクリレート(重合体5)を得た。得られた重合体5の数平均分子量は、5700であった。
【0104】
[糖鎖修飾ポリマーの製造例]
以下の手法により、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーを製造した。なお、糖鎖としては、以下のヒト型糖鎖(末端にブロモアセチル基を有する)を用いた。
【0105】
ヒト型糖鎖:N-[O-[N-acetyl-1-(phenylmethyl)-α-neuraminosyl]-(2→6)-O-β-D-galactopyranosyl-(1→4)-O-2-(acetylamino)-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl-(1→2)-O-α-D-mannopyranosyl-(1→3)-O-[O-[N-acetyl-1-(phenylmethyl)-α-neuraminosyl]-(2→6)-O-β-D-galactopyranosyl-(1→4)-O-2-(acetylamino)-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl-(1→2)-α-D-mannopyranosyl-(1→6)]-O-β-D-mannopyranosyl-(1→4)-O-2-(acetylamino)-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl-(1→4)-2-(acetylamino)-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl]-2-bromoacetamide
(実施例1)
1.5mLエッペンドルフチューブに、上記で製造した重合体1 0.020g、ヒト型糖鎖8.4mg、N,N-ジイソプロピルエチルアミン10μL、およびジメチルホルムアミド200μLを仕込み、室温にて3日間撹拌した。得られた反応溶液を凍結乾燥することで糖鎖修飾ポリマーを得た。なお、この反応の前後において、重合体の分子量チャートのピークトップが23200から29000へと変化したことから、重合体1がヒト型糖鎖で修飾されたことが確認できた。
【0106】
(実施例2)
1.5mLエッペンドルフチューブに、上記で製造した重合体2 0.020g、ヒト型糖鎖24.5mg、N,N-ジイソプロピルエチルアミン10μL、およびジメチルホルムアミド200μLを仕込み、室温にて3日間撹拌した。得られた反応溶液を凍結乾燥することで糖鎖修飾ポリマーを得た。なお、この反応の前後において、重合体の分子量チャートのピークトップが2000から6000へと変化したことから、重合体2がヒト型糖鎖で修飾されたことが確認できた。
【0107】
(実施例3)
1.5mLエッペンドルフチューブに、上記で製造した重合体3 0.020g、ヒト型糖鎖4.8mg、N,N-ジイソプロピルエチルアミン10μL、およびジメチルホルムアミド200μLを仕込み、室温にて3日間撹拌した。得られた反応溶液を凍結乾燥することで糖鎖修飾ポリマーを得た。なお、この反応の前後において、重合体の分子量チャートのピークトップが13000から18000へと変化したことから、重合体3がヒト型糖鎖で修飾されたことが確認できた。
【0108】
(実施例4)
1.5mLエッペンドルフチューブに、上記で製造した重合体4 0.020g、ヒト型糖鎖17.4mg、N,N-ジイソプロピルエチルアミン10μL、およびジメチルホルムアミド200μLを仕込み、室温にて3日間撹拌した。得られた反応溶液を凍結乾燥することで糖鎖修飾ポリマーを得た。なお、この反応の前後において、重合体の分子量チャートのピークトップが2250から6530へと変化したことから、重合体4がヒト型糖鎖で修飾されたことが確認できた。
【0109】
(実施例5)
1.5mLエッペンドルフチューブに、上記で製造した重合体5 0.020g、ヒト型糖鎖18mg、N,N-ジイソプロピルエチルアミン10μL、およびジメチルホルムアミド200μLを仕込み、室温にて3日間撹拌した。得られた反応溶液を凍結乾燥することで糖鎖修飾ポリマーを得た。なお、この反応の前後において、重合体の分子量チャートのピークトップが12500から15200へと変化したことから、重合体5がヒト型糖鎖で修飾されたことが確認できた。
【0110】
(比較例1)
下記の方法により、C18アミドカルボン酸化合物を製造した。
【0111】
イソオクタデシルコハク酸無水物(東京化成工業株式会社製)1gを塩化メチレン10mLに溶かし、この溶液にステアリルアミン0.85gおよびトリエチルアミン0.4mLを室温で加え、12時間反応させた。エバポレーターを用いて反応液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、C18アミドカルボン酸化合物を収率58%で得た。次に、得られたC18アミドカルボン酸化合物33mgと、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)一水和物8mgとを塩化メチレン0.3mLに懸濁させ、この懸濁液に1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩9.6mg加え、室温にて2時間反応させた。得られた反応液に2,6-ジシアロ糖鎖アスパラギン39.3mgをDMSO 1.4mLに溶解したDMSO溶液と、ジイソプロピルエチルアミン29.3μLとを混合させ、室温にて12時間反応させた。エバポレーターを用いて反応終了後の混合液を濃縮し、セファデックスG-25ゲルカラムを用いて精製することにより、Asn結合型2,6-ジシアロ糖鎖C18脂質誘導体40.0mgを収率81%で得た。
【0112】
[リポソームの製造例]
水素添加大豆由来ホスファチジルコリン(Avanti Polar Lipids社)17.6mg、およびコレステロール(東京化成工業株式会社)4.7mgを20mLのメタノールに溶解した後、200mL容のナスフラスコに入れ、65℃のウォーターバス中でエバポレートして、脂質膜を形成させた。ここに20w/v%のグルコースを含むPBSを3mL加え、密栓して65℃にて30分間温浴し、水和させて脂質懸濁液とした。この脂質懸濁液をマイクロテストチューブに移し、4倍量のPBSを加えた後、15000×Gで20分間遠心分離して、形成したリポソームを沈殿させた。遠心分離後、上清を捨て、新たにPBSを1mL加えて再懸濁したものを、65℃に温めたエクストルーダー(ポアサイズ0.1μm)で整粒し、脂質当量として12.9mg/mLのリポソーム懸濁液を得た。リポソーム懸濁液の濃度測定はラボアッセイ(商標)りん脂質(富士フイルム和光純薬株式会社)を用い、測定プロトコルは添付のマニュアルに準拠した。
【0113】
[リポソームへの糖鎖修飾ポリマーの修飾]
上記実施例1~5で作製した糖鎖修飾ポリマーのそれぞれを、2w/v%または4w/v%となるようPBSに溶解して、濃度の異なる溶液を調製した。この溶液のそれぞれと、上記で調製したリポソーム懸濁液とを等体積で混合して10℃にて60分間静置し、実施例の糖鎖修飾ポリマーをリポソームに修飾した。ここで、実施例1で得られた糖鎖修飾ポリマーを用いてリポソームを修飾した場合には、リポソームを構成する脂質二重膜に、糖鎖修飾ポリマーのポリマー構造が挿入されることで、リポソーム表面が糖鎖修飾ポリマーの糖鎖含有基によって修飾(被覆)されたような構造が得られていると推測される。なお、上記の溶液に代えて同体積のPBSを混合して反応したものを対照区とした。その後、15000×Gで20分間遠心分離し、上清を除いて未反応の化合物を除去し、形成した沈殿をPBSで再懸濁した。そして、ゼータサイザーナノZS(マルバーン・パナリティカル社)で各リポソームの粒子径を測定した。その結果、対照区ではリポソームの粒子径が160.6±5.2nmであった。これに対し、2w/v%および4w/v%の糖鎖修飾ポリマー溶液で修飾したリポソームの粒子径はそれぞれ、172.3±4.7nmおよび173.4±6.1nmであり、両親媒性化合物を用いた修飾による粒子径の増大が確認された。
【0114】
[培養細胞を用いた糖鎖修飾ポリマー修飾リポソームの細胞毒性試験]
終濃度10w/v%でウシ胎児血清(FBS)(DSファーマバイオメディカル社)を添加したDMEM培地(ナカライテスク社)を用いてマウス由来線維芽細胞であるL929細胞(DSファーマバイオメディカル社)の培養を行った。5.0×10細胞/cmとなるように100mmセルカルチャーディッシュ(BD Falcon社)に播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。100mmセルカルチャーディッシュで70%コンフルエントの状態まで培養したL929細胞を、0.25w/v%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理し、前述の血清添加DMEM培地を添加してトリプシン反応を停止させて、L929細胞懸濁液を得た。0.4w/v%トリパンブルー溶液(富士フイルム和光純薬(株))を用いてL929細胞懸濁液中の細胞数を測定した。細胞懸濁液を1ウェルあたりの細胞数が2.5×10細胞となるよう96ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンス社)に播種し、37℃、5%CO条件下で24時間培養した。24時間後、各ウェルから培地を50μLずつ除去した。次いで、前述の「リポソームへの糖鎖修飾ポリマーの修飾」の項の記載に従い、上記実施例1~5で作製した糖鎖修飾ポリマーの2w/v%溶液を用いて得られた修飾リポソーム懸濁液または無修飾リポソーム懸濁液(いずれも5mg-脂質/mL)を50μLずつ加えて、37℃、5%CO条件下で24時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルに細胞増殖キットII(XTT)(シグマアルドリッチ社)試薬を51μLずつ加え、37℃、5%CO条件下で3時間インキュベートした。その後、プレートリーダーSH-9000(コロナ電気株式会社)で吸光度を測定した。測定プロトコルはキットに添付のマニュアルに準拠した。修飾リポソーム懸濁液の替わりにPBSを加えて試験したウェルの測定値と、各サンプルを加えたウェルの測定値を基に、L929細胞の生存率を以下の式から算出した。
【0115】
(生存率)[%]=(各サンプルを加えたウェルの測定値)÷(PBSを加えたウェルの測定値)×100
結果を図4に示す。図4に示すように、いずれの糖鎖修飾ポリマーを修飾したリポソームもL929細胞の生存率に有意な差を与えず、顕著な細胞毒性は見られなかった。
【0116】
[糖鎖修飾ポリマーによる高分子ミセル形成能の確認]
上記実施例1~5で作製した糖鎖修飾ポリマーおよび比較例1で作製したAsn結合型2,6-ジシアロ糖鎖C18脂質誘導体のそれぞれを、0.1w/v%または1w/v%となるようPBSに溶解して、溶液を調製した。そして、それぞれの溶液に含まれる粒子の粒子径を、以下の条件で測定した。結果を下記の表1に示す。
【0117】
〔測定条件〕
・測定機器:マルバーン社製、ゼータサイザー ナノ ZSP
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示すように、実施例で作製された糖鎖修飾ポリマーはPBS中で一定の粒子径ピークが確認された。これに対し、比較例1で作製したAsn結合型2,6-ジシアロ糖鎖C18脂質誘導体ではこのような粒子径ピークは確認されなかった。このことから、本発明に係る糖鎖修飾ポリマーは、単独でも生理的条件下において高分子ミセルを形成しうる性質を有するものであることがわかる。
図1
図2
図3
図4