(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231228BHJP
H05B 3/68 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H05B3/68
(21)【出願番号】P 2019200564
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佳祐
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-049425(JP,A)
【文献】特開2006-310832(JP,A)
【文献】特開2017-103325(JP,A)
【文献】特開2004-111107(JP,A)
【文献】特開2017-195276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0045618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H05B 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略垂直な第1の表面を有する板状体と、
前記板状体の内部に配置されたヒータ電極であって、前記第1の方向視で線状の抵抗発熱体であるヒータライン部を有するヒータ電極と、
前記板状体の内部に配置され、前記第1の方向視で、所定の並び方向に並ぶ複数の特定部であって、それぞれ、前記第1の方向に延びている、孔または導電部である複数の特定部と、
を備え、前記第1の表面に対象物が配置される加熱装置において、
前記ヒータ電極が有する前記ヒータライン部は、前記第1の方向視で、
前記並び方向に延びている第1のヒータライン部と、
前記並び方向に延び、かつ、前記第1のヒータライン部よりも前記複数の特定部に近い位置に配置された第2のヒータライン部と、
前記並び方向に延び、かつ、前記第2のヒータライン部に対して前記第1のヒータライン部とは反対側に配置されている第3のヒータライン部、を有し、
前記複数の特定部のうち、第1の特定部の中心と前記第1のヒータライン部とを最短距離で結ぶ直線を第1の仮想直線とし、前記第1の特定部と隣り合う第2の特定部の中心と前記第1のヒータライン部とを最短距離で結ぶ直線を第2の仮想直線としたときに、
前記第2のヒータライン部は、前記第1の方向視で、
前記第1の仮想直線を通り、前記第1のヒータライン部側に凸状に曲がっている
第2の凸状ライン部分と、
前記第2の仮想直線を回避するように延び、前記第1のヒータライン部とは反対側に凹状に曲がっている
第2の凹状ライン部分と、を有
し、
前記第1のヒータライン部の上下方向視での形状は、前記第2のヒータライン部の前記第2の凸状ライン部分と同じ方向側に凸状に曲がっている第1の凸状ライン部分を有する形状であり、
前記第3のヒータライン部の上下方向視での形状は、前記第2のヒータライン部の前記第2の凹状ライン部分と同じ方向側に凹状に曲がっている第3の凹状ライン部分を有する形状である、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱装置において、
前記第2のヒータライン部は、前記第2の凸状ライン部分と前記第2の凹状ライン部分とを1組として複数組有し、
前記第1のヒータライン部は、前記組ごとに、前記第2の凸状ライン部分に対応する前記第1の凸状ライン部分を有し、
前記第3のヒータライン部は、前記組ごとに前記第2の凹状ライン部分に対応する前記第3の凹状ライン部分を有している、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の加熱装置において、
前記第1の特定部と前記第2の特定部との中心間距離は、60mm以下である、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項4】
請求項1
から請求項3までのいずれか一項に記載の加熱装置において、
前記複数の特定部は、前記第1の特定部とは反対側で前記第2の特定部と隣り合う第3の特定部を有し、
前記第3の特定部と前記第1のヒータライン部とを最短距離で結ぶ直線を第3の仮想直線とするとき、
前記第2のヒータライン部は、さらに、前記第3の仮想直線を通り、前記第1のヒータライン部側に凸状に曲がっている第2の凸状ライン部分を有する、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
請求項4に記載の加熱装置において、
前記第1の特定部と前記第2の特定部との中心間距離と、前記第2の特定部と前記第3の特定部との中心間距離とは、いずれも、60mm以下である、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項6】
請求項1から
請求項5までのいずれか一項に記載の加熱装置において、
前記第1のヒータライン部と前記
第2の凹状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離は、前記第1のヒータライン部と前記
第2の凸状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離より短い、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項7】
請求項1から
請求項6までのいずれか一項に記載の加熱装置において、
前記第3のヒータライン部と前記
第2の凸状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離は、前記第3のヒータライン部と前記
第2の凹状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離より短い、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項8】
請求項1から
請求項7までのいずれか一項に記載の加熱装置において、
前記板状体は、前記第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有するセラミックス部材と、第3の表面を有し、前記第3の表面が前記セラミックス部材の前記第2の表面側に位置するように配置され、熱伝導率が前記セラミックス部材の熱伝導率より高い材料により形成されたベース部材と、前記セラミックス部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間に配置され、前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備え、
前記複数の特定部の少なくとも1つは、前記ベース部材に形成された孔である、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項9】
請求項1から
請求項8までのいずれか一項に記載の加熱装置において、
前記加熱装置は、静電チャックである、
ことを特徴とする加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、ヒータ電極を備える加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体を製造する際にウェハが配置される装置として、静電チャックが用いられる。静電チャックは、所定の方向(以下、「第1の方向」という)に略垂直な略平面状の表面(以下、「吸着面」という)を有するセラミックス部材と、セラミックス部材の内部に設けられたチャック電極とを備えており、チャック電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、セラミックス部材の吸着面にウェハを吸着して保持する。
【0003】
静電チャックの吸着面に保持されたウェハの温度が所望の温度にならないと、ウェハに対する各処理(成膜、エッチング等)の精度が低下するおそれがあるため、静電チャックにはウェハの温度分布を制御する性能が求められる。そのため、例えば、セラミックス部材の内部に、線状の抵抗発熱体であるヒータライン部を有するヒータ電極が設けられている。ヒータ電極に電圧が印加されると、ヒータ電極が発熱することによってセラミックス部材が加熱され、これにより、セラミックス部材の吸着面の温度制御(ひいては、吸着面に保持されたウェハの温度制御)が実現される。
【0004】
ここで、静電チャックのセラミックス部材には、例えばリフトピン用の貫通孔のように、ヒータ電極のヒータライン部を配置できない特定部が存在する。このため、例えば、第1の方向視で、ヒータ電極が同心円状の複数のヒータライン部を有する構成において、一部のヒータライン部をリフトピン用の貫通孔を避けるように湾曲させて配置する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、リフトピン用の貫通孔に限られず、例えば、セラミックス部材に形成された孔(例えばガス流路)や、セラミックス部材の内部に配置された導電部(例えば導電パッドやビア)も、セラミックス部材における上記特定部になり得る。このため、第1の方向視で複数の特定部の近くに位置する一のヒータライン部の形状を、該複数の特定部のそれぞれを避けるように複数の湾曲部分を有する形状にすることが想定される。このような構成では、複数のヒータライン部が密集することに起因して高温領域が生じる可能性が高い。しかし、従来、この点について十分に検討されていなかった。
【0007】
なお、このような課題は、静電引力を利用してウェハを保持する静電チャックに限らず、ヒータ電極を備える加熱装置(半導体製造用部品)一般に共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される加熱装置は、第1の方向に略垂直な第1の表面を有する板状体と、前記板状体の内部に配置されたヒータ電極であって、前記第1の方向視で線状の抵抗発熱体であるヒータライン部を有するヒータ電極と、前記板状体の内部に配置され、前記第1の方向視で、所定の並び方向に並ぶ複数の特定部であって、それぞれ、前記第1の方向に延びている、孔または導電部である複数の特定部と、を備え、前記第1の表面に対象物が配置される加熱装置において、前記ヒータ電極が有する前記ヒータライン部は、前記第1の方向視で、前記並び方向に延びている第1のヒータライン部と、前記並び方向に延び、かつ、前記第1のヒータライン部よりも前記複数の特定部に近い位置に配置された第2のヒータライン部と、を有し、前記複数の特定部のうち、第1の特定部の中心と前記第1のヒータライン部とを最短距離で結ぶ直線を第1の仮想直線とし、前記第1の特定部と隣り合う第2の特定部の中心と前記第1のヒータライン部とを最短距離で結ぶ直線を第2の仮想直線としたときに、前記第2のヒータライン部は、前記第1の方向視で、前記第1の仮想直線を通り、前記第1のヒータライン部側に凸状に曲がっている凸状ライン部分と、前記第2の仮想直線を回避するように延び、前記第1のヒータライン部とは反対側に凹状に曲がっている凹状ライン部分と、を有する。
【0011】
本加熱装置では、ヒータ電極のヒータライン部は、第1のヒータライン部と第2のヒータライン部とを含んでおり、これらの第1のヒータライン部と第2のヒータライン部とは、いずれも、概ね、複数の特定部の並び方向に延びている。第2のヒータライン部は、第1のヒータライン部よりも複数の特定部に近い位置に配置されており、第1の特定部と第2の特定部とに応じて曲がっている凸状ライン部分と凹状ライン部分とを有する。すなわち、凸状ライン部分は、第1の方向視で、第1の特定部に対して第1のヒータライン部と同じ側に凸状に曲がっている。一方、凹状ライン部分は、第1の方向視で、第2の特定部に対して第1のヒータライン部とは反対側に凹状に曲がっている。このため、例えばヒータ電極のヒータライン部が、互いに隣り合う第1の特定部と第2の特定部との両方に対して同じ側に凸状に曲がっている構成に比べて、第1の方向視で複数の特定部の周辺にヒータライン部が密集することに起因して高温領域が生じることを抑制することができる。
【0012】
(2)上記加熱装置において、前記第1の特定部と前記第2の特定部との中心間距離は、60mm以下である構成としてもよい。本加熱装置によれば、特定部が密集しているため、特に本発明を適用することが有効である。
【0013】
(3)上記加熱装置において、前記複数の特定部は、前記第1の特定部とは反対側で前記第2の特定部と隣り合う第3の特定部を有し、前記第3の特定部と前記第1のヒータライン部とを最短距離で結ぶ直線を第3の仮想直線とするとき、前記第2のヒータライン部は、さらに、前記第3の仮想直線を通り、前記第1のヒータライン部側に凸状に曲がっている第2の凸状ライン部分を有する構成としてもよい。本加熱装置によれば、例えばヒータ電極のヒータライン部が、互いに隣り合う3つの特定部の全てに対して同じ側に凸状に曲がっている構成に比べて、第1の方向視で複数の特定部の周辺にヒータライン部が密集することに起因して高温領域が生じることを抑制することができる。
【0014】
(4)上記加熱装置において、前記第1の特定部と前記第2の特定部との中心間距離と、前記第2の特定部と前記第3の特定部との中心間距離とは、いずれも、60mm以下である構成としてもよい。本加熱装置によれば、特定部が密集しているため、特に本発明を適用することが有効である。
【0015】
(5)上記加熱装置において、前記第1のヒータライン部と前記凹状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離は、前記第1のヒータライン部と前記凸状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離より短い構成としてもよい。本加熱装置によれば、第1のヒータライン部について、凹状ライン部分に対応する特定部付近での無駄な形状変化を抑制しつつ、凸状ライン部分に対応する特定部の周辺にヒータライン部が密集することに起因して高温の温度特異点が生じることを抑制することができる。
【0016】
(6)上記加熱装置において、前記ヒータ電極が有する前記ヒータライン部は、さらに、前記第1の方向視で、前記並び方向に延び、かつ、前記第2のヒータライン部に対して前記第1のヒータライン部とは反対側に配置されている第3のヒータライン部を含んでおり、前記第3のヒータライン部と前記凸状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離は、前記第3のヒータライン部と前記凹状ライン部分に対応する前記特定部との最短距離より短い構成としてもよい。本加熱装置によれば、第3のヒータライン部について、凸状ライン部分に対応する特定部付近での無駄な形状変化を抑制しつつ、第1の方向視で特定部の周辺にヒータライン部が密集することに起因して高温の温度特異点が生じることを抑制することができる。
【0017】
(7)上記加熱装置において、前記板状体は、前記第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有するセラミックス部材と、第3の表面を有し、前記第3の表面が前記セラミックス部材の前記第2の表面側に位置するように配置され、熱伝導率が前記セラミックス部材の熱伝導率より高い材料により形成されたベース部材と、前記セラミックス部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間に配置され、前記セラミックス部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備え、前記複数の特定部の少なくとも1つは、前記ベース部材に形成された孔である構成としてもよい。本加熱装置によれば、ベース部材に形成された孔に起因してベース部材の吸引効果がばらつくことを抑制しつつ、第1の方向視で複数の特定部の周辺にヒータライン部が密集することに起因して高温領域が生じることを抑制することができる。
【0018】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、保持装置、静電チャック、半導体製造用部品、CVDヒータ等のヒータ装置、真空チャック、その他のヒータ電極を備える加熱装置、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】実施形態における静電チャック100のXY平面(上面)構成を概略的に示す説明図である。
【
図4】
図3のX1部分におけるヒータ電極50の配線パターンを示す説明図である。
【
図5】比較例の静電チャック100aにおけるヒータ電極50aの配線パターンを示す説明図である。
【
図6】特定部の中心間距離Lと特定部の近傍の相対温度ΔT(℃)との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、本実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、本実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図であり、
図3は、本実施形態における静電チャック100のXY平面(上面)構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0021】
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス部材10およびベース部材20を備える。セラミックス部材10とベース部材20とは、セラミックス部材10の下面S2(
図2参照)とベース部材20の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。静電チャック100は、特許請求の範囲における板状体に相当し、上下方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0022】
セラミックス部材10は、上述した配列方向(Z軸方向)に略直交する略円形平面状の上面(以下、「吸着面」という)S1を有する板状部材であり、セラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)により形成されている。セラミックス部材10の直径は例えば50mm以上、500mm以下程度(通常は200mm以上、350mm以下程度)であり、セラミックス部材10の厚さは例えば1mm以上、10mm以下程度である。本明細書では、Z軸方向に直交する方向を「面方向」といい、
図3に示すように、面方向の内、吸着面S1の中心点Pxを中心とする円周方向を「円周方向CD」といい、面方向の内、円周方向CDに直交する方向を「径方向RD」という。吸着面S1は、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、下面S2は、特許請求の範囲における第2の表面に相当する。
【0023】
図2に示すように、セラミックス部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されたチャック電極40が配置されている。上下方向視でのチャック電極40の形状は、例えば略円形である。チャック電極40に電源(図示しない)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミックス部材10の吸着面S1に吸着固定される。
【0024】
セラミックス部材10の内部には、また、セラミックス部材10の吸着面S1の温度制御(すなわち、吸着面S1に保持されたウェハWの温度制御)のためのヒータ電極50と、ヒータ電極50への給電のための構成とが配置されている。これらの構成については、後に詳述する。
【0025】
ベース部材20は、例えばセラミックス部材10と同径の、または、セラミックス部材10より径が大きい円形平面の板状部材であり、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。ベース部材20の直径は例えば220mm以上、550mm以下程度(通常は220mm以上、350mm以下)であり、ベース部材20の厚さは例えば20mm以上、40mm以下程度である。
【0026】
ベース部材20は、セラミックス部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接合部30によって、セラミックス部材10に接合されている。接合部30は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。接合部30の厚さは、例えば0.1mm以上、1mm以下程度である。上面S3は、特許請求の範囲における第3の表面に相当する。
【0027】
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却され、接合部30を介したベース部材20とセラミックス部材10との間の伝熱(熱引き)によりセラミックス部材10が冷却され、セラミックス部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。
【0028】
A-2.ヒータ電極50等の構成:
次に、ヒータ電極50の構成およびヒータ電極50への給電のための構成について詳述する。
【0029】
上述したように、静電チャック100は、ヒータ電極50を備える(
図2参照)。ヒータ電極50は、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されている。なお、本実施形態では、ヒータ電極50は、チャック電極40より下側に配置されている。
【0030】
ヒータ電極50は、上下方向視で線状の抵抗発熱体であるヒータライン部500を有する。ヒータライン部500は、吸着面S1の中心点Pxを中心とする同心円状の複数のヒータライン部(例えば後述の
図4に示す第1のヒータライン部510等)を含んでいる。本実施形態では、
図3に示すように、ヒータライン部500は、上下方向視で中心点Pxを中心として螺旋状に形成された形状になっている。
【0031】
また、
図2に示すように、静電チャック100は、ヒータ電極50への給電のための構成を備えている。具体的には、静電チャック100は、ドライバ電極60を備える。なお、本実施形態では、ドライバ電極60は、ヒータ電極50より下側に配置されている。ドライバ電極60は、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されている。ドライバ電極60は、面方向に平行な所定の領域を有するパターンである一対のドライバ電極61,62を含んでいる。なお、各ドライバ電極61,62は、次の要件を満たすという点で、ヒータ電極50と相違する。
要件:各ドライバ電極61,62の断面積は、ヒータ電極50の断面積の10倍以上である。
【0032】
ヒータ電極50の一方の端部は、導電性材料により形成された第1のヒータ側ビア721を介して、一方の第1のドライバ電極61に導通しており、ヒータ電極50の他方の端部は、導電性材料により形成された第2のヒータ側ビア722を介して、他方のドライバ電極62に導通している。
【0033】
また、
図2に示すように、静電チャック100には、ベース部材20の下面S4からセラミックス部材10の内部に至る複数の端子用孔120が形成されている。
図2には一対の端子用孔120のみ示されており、
図3には5つの端子用孔120のみ示されている。各端子用孔120は、ベース部材20を上下方向に貫通する貫通孔22と、接合部30を上下方向に貫通する貫通孔32と、セラミックス部材10の下面S2側に形成された凹部12とが、互いに連通することにより構成された一体の孔である。ベース部材20に形成された貫通孔22は、特許請求の範囲におけるベース部材に形成された孔に相当する。
【0034】
複数の端子用孔120の1つには、柱状の第1の給電端子741が収容されている。また、この1つの端子用孔120を構成するセラミックス部材10の凹部12の底面には、第1の電極パッド731が設けられている。第1の給電端子741は、例えばろう付け等により第1の電極パッド731に接合されている。また、第1の電極パッド731は、第1の給電側ビア711を介して、一方のドライバ電極61に導通している。同様に、複数の端子用孔120の別の1つには、柱状の第2の給電端子742が収容されている。また、該別の1つの端子用孔120を構成するセラミックス部材10の凹部12の底面には、第2の電極パッド732が設けられている。第2の給電端子742は、例えばろう付け等により第2の電極パッド732に接合されている。また、第2の電極パッド732は、第2の給電側ビア712を介して、他方のドライバ電極62に導通している。なお、給電端子741,742、電極パッド731,732、および、給電側ビア711,712は、すべて、導電性材料により形成されている。
【0035】
2つの端子用孔120のそれぞれに収容された一対の給電端子741,742は、電源(図示せず)に接続されている。電源からの電圧は、一対の給電端子741,742、一対の電極パッド731,732、および、一対の給電側ビア711,712を介して一対のドライバ電極61,62に供給され、さらに、一対のヒータ側ビア721,722を介してヒータ電極50に印加される。これにより、各ヒータ電極50が発熱し、セラミックス部材が加熱され、これにより、セラミックス部材の吸着面の温度制御(ひいては、吸着面に保持されたウェハの温度制御)が実現される。なお、複数の端子用孔120は、ヒータ電極50に限らず、例えば、チャック電極40や、図示しない熱電対等に導通された給電端子などが収容される。
【0036】
A-3.静電チャック100における特定部:
静電チャック100は、複数の特定部を備える。複数の特定部は、静電チャック100の内部に配置され、かつ、上下方向視で面方向に並ぶように配置されている。各特定部は、上下方向に延びている孔、または、上下方向に延びている導電部である。特定部は、物理的な理由や静電チャック100の温度分布上の理由により、ヒータ電極50のヒータライン部500の配線パターンに制約を与える。具体的には、特定部の例として、次のものが挙げられる。
【0037】
<静電チャック100の内部に形成された導電部>
(1)セラミックス部材10の内部に配置され、ヒータ電極50が配置された仮想平面上に存在する第1の導電部(ヒータ電極50と同一層上に存在する導電部):このような第1の導電部が存在する場合、ヒータ電極50のヒータライン部500の上下方向視での形状を、該第1の導電部を避けるように曲がった形状にせざるを得ない。第1の導電部は、例えば、チャック電極40や熱電対(図示しない)等と端子用孔120とを電気的に接続するビア(図示しない)である。
(2)セラミックス部材10またはベース部材20の内部に配置され、かつ、上記仮想平面に存在しないが、電流集中等によって高温の温度特異点になり得る第2の導電部:このような第2の導電部が存在する場合、ヒータ電極50のヒータライン部500の配線パターンが物理的に制約されることはないが、上下方向視で該第2の導電部の中心に重なるようにヒータライン部500が配置されると、さらに高温の温度特異点が顕著になる。そこで、このような第2の導電部が存在する場合、ヒータ電極50のヒータライン部500の上下方向視での形状を、少なくとも該第2の導電部の中心を避けるように曲がった形状にすることが好ましい。本実施形態では、第2の導電部は、例えば、給電端子741,742等の端子や給電側ビア711,712である。
【0038】
<静電チャック100の内部に形成された孔>
(1)ヒータ電極50が配置された仮想平面上に存在する第1の孔(ヒータ電極50と同一層上に存在する孔):このような第1の孔が存在する場合、ヒータ電極50のヒータライン部500の上下方向視での形状を、該第1の孔を避けるように曲がった形状にせざるを得ない。第1の孔は、例えば、静電チャック100を上下方向に貫通するリフトピン用孔(図示しない)や、セラミックス部材10の内部に形成されたガス流路のうち上下方向に延びている部分(図示しない)。
(2)セラミックス部材10、ベース部材20または接合部30の内部に配置され、かつ、上記仮想平面に存在しないが、高温の温度特異点になり得る第2の孔:このような第2の孔が存在する場合、ヒータ電極50のヒータライン部500の配線パターンが物理的に制約されることはないが、上下方向視で該第2の孔の中心に重なるようにヒータライン部500が配置されると、さらに高温の温度特異点が顕著になる。そこで、このような第2の孔が存在する場合、ヒータ電極50のヒータライン部500の上下方向視での形状を、少なくとも該第2の孔の中心を避けるように曲がった形状にすることが好ましい。本実施形態では、第2の孔は、例えば端子用孔120(凹部12、貫通孔22,32)やガス流路である。
【0039】
A-4.ヒータ電極50におけるヒータライン部500の構成:
図4は、
図3のX1部分におけるヒータ電極50の配線パターンを示す説明図である。
図4には、7つのヒータライン部500(510~570)が例示されている。
図3および
図4に示すように、上下方向視で5つの端子用孔120(以下、「端子用孔120群」という)が円周方向CDに並ぶように配置されている。円周方向CDに互いに隣り合う端子用孔120同士の中心間距離Lは、60mm以下であり、30mm以下であってもよい。なお、特定部(端子用孔120)の上下方向視での形状が非円形である場合、特定部の中心は、特定部の上下方向視での形状の外接円の中心である。円周方向CDは、特許請求の範囲における並び方向に相当する。
【0040】
図4に示すように、7つのヒータライン部500(510~570)の上下方向視での形状は、いずれも、全体として、円周方向CDに延びている円弧状である。第1のヒータライン部510は、上下方向視で、端子用孔120群に対して径方向RDの外側に配置されている。第3のヒータライン部530は、上下方向視で、端子用孔120群に対して径方向RDの内側に配置されている。第2のヒータライン部520は、第1のヒータライン部510および第3のヒータライン部530よりも端子用孔120群に近い位置に配置されている。具体的には、第2のヒータライン部520の少なくとも一部(円周方向CDに沿った部分)は、中心点Pxを中心とし、かつ、端子用孔120群を通過する仮想円M上に位置する。
【0041】
第2のヒータライン部520の上下方向視での形状は、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とが1つずつ交互に並んでいる形状である。第2の凸状ライン部分522は、1つの端子用孔120に対して第1のヒータライン部510と同じ側(径方向RDの外側)に凸状に湾曲している部分である。第2の凹状ライン部分524は、1つの端子用孔120に対して第3のヒータライン部530と同じ側(径方向RDの内側)に凹状に湾曲している部分である。具体的には、一の端子用孔120(第1の端子用孔121、第3の端子用孔123、第5の端子用孔125)の中心と第1のヒータライン部510とを最短距離で結ぶ直線を第1の仮想直線B1とする。また、上記一の端子用孔120と隣り合う他の端子用孔120(第2の端子用孔122、第4の端子用孔124)の中心と第1のヒータライン部510とを最短距離で結ぶ直線を第2の仮想直線B2とする。第2の凸状ライン部分522は、第1の仮想直線B1を通り、第1のヒータライン部510側に凸状に曲がっている部分である。第2の凹状ライン部分524は、第2の仮想直線B2を回避するように延び、第1のヒータライン部510とは反対側に凹状に曲がっている部分である。第1の端子用孔121と第3の端子用孔123と第5の端子用孔125とは、特許請求の範囲における第1の特定部、第3の特定部に相当し、第2の端子用孔122と第4の端子用孔124とは、特許請求の範囲における第2の特定部に相当する。また、第1の仮想直線B1は、特許請求の範囲における第1の仮想直線と第3の仮想直線とに相当する。
【0042】
本実施形態では、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とは、いずれも、上下方向視で、端子用孔120の円弧に沿うように配置されている。また、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524との幅は、ヒータライン部500における他の部分(円周方向CDに沿った部分)の幅より広い。このため、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524との断面積が、ヒータライン部500における他の部分の断面積より大きくなっており、その結果、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とにおける発熱による温度上昇が抑制されている。第2の凸状ライン部分522は、特許請求の範囲における凸状ライン部分に相当し、第2の凹状ライン部分524は、特許請求の範囲における凹状ライン部分に相当する。
【0043】
第1のヒータライン部510の上下方向視での形状は、第2のヒータライン部520の第2の凸状ライン部分522に対応して径方向RDの外側に凸状に曲がっている第1の凸状ライン部分512を有する形状である。第4のヒータライン部540は、第1のヒータライン部510に対して径方向RDの外側に配置されている。第4のヒータライン部540の上下方向視での形状は、第1のヒータライン部510と略同一であり、第2の凸状ライン部分522に対応して径方向RDの外側に凸状に曲がっている第4の凸状ライン部分542を有する形状である。ただし、第1の凸状ライン部分512と第4の凸状ライン部分542とは、いずれも、第2の凸状ライン部分522に比べて、突出度合い小さく、緩やかな曲線になっている。
【0044】
第5のヒータライン部550は、第4のヒータライン部540に対して径方向RDの外側に配置されている。第5のヒータライン部550の上下方向視での形状は、全長にわたって円周方向CDに沿った円弧状である。なお、第2の凸状ライン部分522と第1の凸状ライン部分512との最短距離D1(径方向RDの距離)と、第1の凸状ライン部分512と第4の凸状ライン部分542との最短距離D4と、第4の凸状ライン部分542と第5のヒータライン部550の最短距離D5とは、互いに略同一である。これらの最短距離D1,D4、D5は、径方向RDに互いに隣り合う2つのヒータライン部500における径方向RDに沿った部分同士の最短距離D10より短い。このため、
図4に示すように、第2の凸状ライン部分522付近は、ヒータライン部500が相対的に密集するため、高温の温度特異点HPになりやすい。
【0045】
第3のヒータライン部530の上下方向視での形状は、第2のヒータライン部520の第2の凹状ライン部分524に対応して径方向RDの内側に凹状に曲がっている第3の凹状ライン部分532を有する形状である。第6のヒータライン部560は、第3のヒータライン部530に対して径方向RDの内側に配置されている。第6のヒータライン部560の上下方向視での形状は、第3のヒータライン部530と略同一であり、第2の凹状ライン部分524に対応して径方向RDの内側に凹状に曲がっている第6の凹状ライン部分562を有する形状である。
【0046】
ただし、第3の凹状ライン部分532と第6の凹状ライン部分562とは、いずれも、第2の凹状ライン部分524に比べて、突出度合い小さく、緩やかな曲線になっている。第7のヒータライン部570は、第6のヒータライン部560に対して径方向RDの外側に配置されている。第7のヒータライン部570の上下方向視での形状は、全長にわたって円周方向CDに沿った円弧状である。なお、第2の凹状ライン部分524と第3の凹状ライン部分532との最短距離D3と、第3の凹状ライン部分532と第6の凹状ライン部分562との最短距離D6と、第6の凹状ライン部分562と第7のヒータライン部570の最短距離D7とは、互いに略同一である。また、これらの最短距離D3,D6、D7は、径方向RDに互いに隣り合う2つのヒータライン部500(510~570)における径方向RDに沿った部分同士の上記最短距離D10より短い。このため、
図4に示すように、第2の凹状ライン部分524付近は、ヒータライン部500が相対的に密集するため、高温の温度特異点HPになりやすい。
【0047】
第1のヒータライン部510と第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)との最短距離D8は、第1のヒータライン部510と第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)との最短距離D1より短い。また、第3のヒータライン部530と第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)との最短距離D9は、第3のヒータライン部530と第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)との最短距離D3より短い。
【0048】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態に係る静電チャック100では、ヒータ電極50のヒータライン部500は、第1のヒータライン部510と第2のヒータライン部520とを含んでおり、これらの第1のヒータライン部510と第2のヒータライン部520とは、いずれも、概ね、複数の端子用孔120(特定部)の並び方向に延びている。第2のヒータライン部520は、第1のヒータライン部510よりも複数の端子用孔120に近い位置に配置されており、例えば第3の端子用孔123と第2の端子用孔122とに応じて曲がっている第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とを有する。すなわち、第2の凸状ライン部分522は、上下方向視で、第3の端子用孔123に対して第1のヒータライン部510と同じ側に凸状に曲がっている。一方、第2の凹状ライン部分524は、上下方向視で、第2の端子用孔122に対して第1のヒータライン部510とは反対側に凹状に曲がっている。このため、例えばヒータ電極50のヒータライン部500が、互いに隣り合う第2の端子用孔122と第3の端子用孔123との両方に対して同じ側に凸状に曲がっている構成に比べて、上下方向視で複数の端子用孔120の周辺にヒータライン部500が密集することに起因して高温の温度特異点HPが密集し、高温領域MP(
図5参照)が生じることを抑制することができる。次に具体的に説明する。
【0049】
図5は、比較例の静電チャック100aにおけるヒータ電極50aの配線パターンを示す説明図である。
図5に示すように、比較例でも、ヒータ電極50aのヒータライン部500aは、複数の端子用孔120(121~125)の中心を避けるように曲がった形状になっている。このため、比較例によれば、ベース部材20において熱引きの効果が低い端子用孔120の中心に重なるようにヒータライン部が形成された構成に比べて、端子用孔120(特定部)の存在に起因する高温の温度特異点の発生を抑制することができる。
【0050】
しかし、比較例では、複数の端子用孔120の近傍に高温領域MPが発生し易いという問題がある。すなわち、比較例では、ヒータ電極50aのヒータライン部500aは、複数の端子用孔120(510~570)の全てに対して同じ側に凸状に曲がっている構成である。具体的には、第2のヒータライン部520aは、複数の第2の凸状ライン部分522aを有しているが、上記実施形態の第2の凹状ライン部分524に相当する部分を有していない。要するに、ヒータライン部500aは、複数の端子用孔120の中心を避けるため、全体にわたって、複数の端子用孔120に対して径方向RDの外側に曲がった形状になっている。このため、ヒータライン部500aの密集に起因する複数の高温の温度特異点HPが、第2のヒータライン部520aの径方向RDの外側に集中する。その結果、複数の端子用孔120の近傍に高温領域MPが発生する。
【0051】
これに対して、
図4に示すように、本実施形態では、第2のヒータライン部520の上下方向視での形状は、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とが交互に並んでいる形状である。このため、本実施形態によれば、比較例に比べて、ヒータライン部500aの密集に起因する複数の高温の温度特異点HPが分散されるため、複数の端子用孔120の近傍に高温領域MPが発生することを抑制できる。
【0052】
本実施形態では、円周方向CDに互いに隣り合う端子用孔120同士の中心間距離Lは、60mm以下である。このような構成では、特定部が密集しているため、特に本発明を適用することが有効である。ここで、
図6は、特定部(端子用孔120)の中心間距離Lと特定部の近傍の相対温度ΔT(℃)との関係を示す説明図である。相対温度は、測定温度から所定の基準温度を引いた温度である。第1のグラフG1は、上記実施形態の静電チャック100について、端子用孔120同士の中心間距離Lが互いに異なる複数のサンプルについて、ヒータ電極50の発熱時における端子用孔120の近傍の相対温度を示したものである。第2のグラフG2は、上記比較例の静電チャック100aについて、端子用孔120同士の中心間距離Lが互いに異なる複数のサンプルについて、ヒータ電極50aの発熱時における端子用孔120の近傍の相対温度を示したものである。
【0053】
図6によれば、本実施形態によれば、比較例に比べて、高温領域の発生が抑制され、特定部の近傍の温度上昇を抑制することができることが分かる。また、端子用孔120同士の中心間距離Lは、30mm以下、20mm以下、さらには、10mm以下になると、実施形態と比較例との効果の差が顕著になる。このため、端子用孔120同士の中心間距離Lが30mm以下の構成、20mm以下の構成、さらには、10mm以下の構成に本発明を適用することが特に有効であることが分かる。
【0054】
本実施形態では、第2のヒータライン部520の上下方向視での形状は、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とが交互に並んでいる形状である。これにより、第2のヒータライン部520における第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とが不規則に並んでいる構成に比べて、上下方向視で複数の特定部の周辺にヒータライン部500が密集することに起因して高温領域MPが生じることを、効果的に抑制することができる。
【0055】
本実施形態では、第1のヒータライン部510と第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)との最短距離D8は、第1のヒータライン部510と第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)との最短距離D1より短い。これにより、本実施形態によれば、第1のヒータライン部510について、第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)付近での無駄な形状変化を抑制しつつ、第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)の周辺にヒータライン部500が密集することに起因して高温の温度特異点が生じることを抑制することができる。
【0056】
本実施形態では、第3のヒータライン部530と第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)との最短距離D9は、第3のヒータライン部530と第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)との最短距離D3より短い。これにより、本実施形態によれば、第3のヒータライン部530について、第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)付近での無駄な形状変化を抑制しつつ、上下方向視で端子用孔120の周辺にヒータライン部500が密集することに起因して高温の温度特異点が生じることを抑制することができる。
【0057】
本実施形態によれば、ベース部材20に形成された孔(端子用孔120)に起因してベース部材20の吸引効果がばらつくことを抑制しつつ、上下方向視で複数の特定部(端子用孔120)の周辺にヒータライン部500が密集することに起因して高温領域が生じることを抑制することができる。
【0058】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0059】
上記実施形態における静電チャック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。静電チャック100は、第1の方向に略垂直な一の仮想平面上に配置された複数のヒータ電極を備える構成であってもよい。また、静電チャック100は、上下方向の位置が互いに異なる複数の層のそれぞれにヒータ電極を備える構成であってもよい。具体的には、本実施形態において、ヒータ電極50の上に、別のヒータ電極(例えば第1の方向に略垂直な一の仮想平面上に配置された複数のヒータ電極)が配置された構成であってもよい。このような構成では、複数のヒータ電極のそれぞれとセラミックス部材10の下面S2側に配置された給電端子とを電気的に接続するための複数の導電部(ビア等)によってヒータ電極50の配線パターンが制約される。これらの複数の導電部は、特許請求の範囲における特定部に相当する。このため、このような構成に本発明を適用することは特に有効である。また、ヒータ電極50の形状は、螺旋形状に限定されず、環状形状、円弧形状や直線形状等でもよい。
【0060】
上記実施形態において、第1のヒータライン部510から第7のヒータライン部570は、1つのヒータ電極50が有するヒータライン部500の各部分であったが、互いに別のヒータ電極のヒータライン部であってもよい。また、第2のヒータライン部520の上下方向視での形状は、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とを1つずつ有する形状であってもよいし、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とが複数個ずつ交互に並んでいる形状であってもよい。また、ヒータライン部500における凸状ライン部分(第2の凸状ライン部分522等)や凹状ライン部分(第2の凹状ライン部分524等)の上下方向視での形状は、曲線状に限らず、折れ線状等であってもよい。
【0061】
上記実施形態において、ベース部材20に形成された貫通孔22の数は、5つであったが、これに限定されず、5つ以外の数であってもよい。
【0062】
上記実施形態において、複数の特定部(端子用孔120)の並ぶ方向は、円周方向CDであったが、例えば直線方向であってもよい。また、上記実施形態では、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524とは、上下方向視で、端子用孔120の円弧に沿うように配置されていたが、第2の凸状ライン部分522や第2の凹状ライン部分524の少なくとも一部が、端子用孔120と重なるように配置されてもよいし、端子用孔120の外側に配置されてもよい。また、第2の凸状ライン部分522と第2の凹状ライン部分524との幅は、ヒータライン部500における他の部分の幅と略同一であってもよい。
【0063】
本実施形態において、第1のヒータライン部510と第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)との最短距離D8は、第1のヒータライン部510と第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)との最短距離D1と同じでもよいし、該最短距離D1より長くてもよい。また、本実施形態において、第3のヒータライン部530と第2の凸状ライン部分522に対応する端子用孔120(121,123,125)との最短距離D9は、第3のヒータライン部530と第2の凹状ライン部分524に対応する端子用孔120(122,124)との最短距離D3と同じでもよいし、該最短距離D3より長くてもよい。
【0064】
また、上記実施形態において、各ビアは、単数のビアにより構成されてもよいし、複数のビアのグループにより構成されてもよい。また、上記実施形態において、各ビアは、ビア部分のみからなる単層構成であってもよいし、複数層構成(例えば、ビア部分とパッド部分とビア部分とが積層された構成)であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、セラミックス部材10の内部に1つのチャック電極40が設けられた単極方式が採用されているが、セラミックス部材10の内部に一対のチャック電極40が設けられた双極方式が採用されてもよい。また、上記実施形態の静電チャック100における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
【0066】
上記実施形態では、板状部材として、セラミックス部材10とベース部材20と接合部30とを備える静電チャック100を例示したが、セラミックス部材単体、セラミックス部材と支持部材とを備える加熱装置などでもよい。また、板状部材は、セラミックス以外の材料(例えば金属や樹脂)により形成されたものでもよい。
【0067】
上記実施形態では、ベース部材として、金属製のベース部材20を例示したが、熱伝導率がセラミックス部材の熱伝導率より高い材料により形成されたベース部材であればよい。
【0068】
また、本発明は、セラミックス部材10とベース部材20とを備え、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック100に限らず、ヒータ電極を備える板状部材を含むもの(例えば、CVDヒータ等のヒータ装置、真空チャック等の加熱装置(保持装置、半導体製造装置用部品)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
10:セラミックス部材 12:凹部 20:ベース部材 21:冷媒流路 22,32:貫通孔 30:接合部 40:チャック電極 50,50a:ヒータ電極 60(61,62):ドライバ電極 100,100a:静電チャック 120:端子用孔 121:第1の端子用孔 122:第2の端子用孔 123:第3の端子用孔 124:第4の端子用孔 125:第5の端子用孔 500,500a:ヒータライン部 510:第1のヒータライン部 512:第1の凸状ライン部分 520,520a:第2のヒータライン部 522,522a:第2の凸状ライン部分 524:第2の凹状ライン部分 530:第3のヒータライン部 532:第3の凹状ライン部分 540:第4のヒータライン部 542:第4の凸状ライン部分 550:第5のヒータライン部 560:第6のヒータライン部 562:第6の凹状ライン部分 570:第7のヒータライン部 711,712:給電側ビア 721,722:ヒータ側ビア 731,732:電極パッド 741,742:給電端子 B1:第1の仮想直線 B2:第2の仮想直線 HP:温度特異点 L:中心間距離 M:仮想円 MP:高温領域 S1:吸着面 W:ウェハ