(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】エポキシ変性シリコーン微粒子及びその製造方法、並びに該微粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物及び封止材
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20231228BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231228BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20231228BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08G59/20
C08L63/00 A
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2019202357
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】井口 良範
(72)【発明者】
【氏名】酒井 美緒
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-085753(JP,A)
【文献】特開2017-110092(JP,A)
【文献】特開2014-015522(JP,A)
【文献】特開2009-280767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均粒径0.1~100μmを有するシリコーンゴム球状微粒子が(B)ポリオルガノシルセスキオキサンで被覆されて成るシリコーン微粒子であり、前記(B)ポリオルガノシルセスキオキサンがエポキシ基含有脂環式炭化水素基を有することを特徴とする、エポキシ変性シリコーン微粒子。
【請求項2】
前記(A)成分のシリコーンゴムが下記式(1)で表される構造を有する、請求項1記載のエポキシ変性シリコーン微粒子
-(R
1
2SiO)
a- (1)
(上記式(1)において、R
1は互いに独立に、炭素数1~20の、置換または非置換の一価炭化水素基、又は、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、アクリロキシ基、及びメタクリロキシ基から選択される反応性基含有有機基であり、aは5~5,000の整数である)。
【請求項3】
(A)シリコーンゴム球状微粒子100質量部に対する(B)ポリオルガノシルセスキオキサンの量が1~500質量部である、請求項1または2記載のエポキシ変性シリコーン微粒子。
【請求項4】
前記(B)成分が、エポキシ当量2000~100000g/molを有する、請求項1~3のいずれか1項記載のエポキシ変性シリコーン微粒子。
【請求項5】
前記(B)ポリオルガノシルセスキオキサンにおいて、エポキシ基含有脂環式炭化水素基以外のケイ素原子に結合する有機基がメチル基である、請求項1~4のいずれか1項記載のエポキシ変性シリコーン微粒子。
【請求項6】
前記エポキシ基含有脂環式炭化水素基が下記式(2)~(5)のいずれかで表される、請求項1記載のエポキシ変性シリコーン微粒子
【化1】
(上記各式において、R
4は単結合又は炭素数1~6の二価炭化水素基である)。
【請求項7】
前記エポキシ基含有脂環式炭化水素基が下記式(3)で表される、請求項6記載のエポキシ変性シリコーン微粒子
【化2】
(上
記式において、R
4は単結合又は炭素数1~6の二価炭化水素基である)。
【請求項8】
(A)シリコーンゴム球状微粒子の平均粒径が0.1~30μmである、請求項1~7のいずれか1項記載のエポキシ変性シリコーン微粒子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載のエポキシ変性シリコーン微粒子の製造方法であって、上記シリコーンゴム球状微粒子の水分散物中で(b1)オルガノトリアルコ
キシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランとを加水分解及び縮合反応させて前記シリコーンゴム球状微粒子表面にエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサンを形成する工程を含む、前記製造方法。
【請求項10】
前記加水分解及び縮合反応をpH11.5~13.5で行う、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記加水分解及び縮合反応をアンモニア水存在下で行い、該アンモニア水の量が前記(b1)及び(b2)成分の合計100質量部に対し25%アンモニア水溶液として200~800質量部である、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランの質量比が、(b1)オルガノトリアルコキシシランの質量:(b2)エポキシトリアルコキシシランの質量=99:1~50:50である、請求項9~11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項記載のエポキシ変性シリコーン微粒子を0.5~20質量%含有する、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項13記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化して成る硬化物。
【請求項15】
請求項14記載の硬化物で封止された半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ変性シリコーン微粒子に関し、特にはシリコーンゴムの柔らかさを有しながら熱硬化性樹脂中で凝集せず、熱硬化性樹脂との密着性に優れているシリコーン微粒子及びその製造方法に関する。さらには、該微粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物、並びに封止材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランジスタ、IC等の電子部品装置の素子封止の分野では生産性、コスト等の面から樹脂による封止が主流となっている。封止用の樹脂としては、電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等の諸特性のバランスに優れるエポキシ樹脂が主に使用されている。しかしながら、エポキシ樹脂は硬くて脆いという欠点があるため、封止用として使用するには、エポキシ樹脂自体を変性したり、もしくはエポキシ樹脂に応力緩和効果のある添加剤を加え使用している。
【0003】
応力緩和のある添加剤としてはアクリルゴム、エポキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、シリコーンゴム粉体などが一般に知られている。しかしながら、アクリルゴムはエポキシとの化学的反応点が無いため密着性が悪いという欠点がある。また、エポキシ変性シリコーンオイルやアミノ変性シリコーンオイルは分子量が低いために応力緩和効果が充分でないという欠点があり、シリコーンゴム粉体ではエポキシ樹脂との相溶性が悪く、均一に分散しないという欠点があった。
【0004】
例えば、特開2007-23061号公報では流動性向上の目的でエポキシ変性低分子量シリコーンをエポキシ樹脂に添加したエポキシ樹脂組成物を開示している。しかし、エポキシ変性低分子量シリコーンはエポキシ樹脂との相溶性が悪いため、応力緩和効果を得るために十分な量のエポキシ変性低分子量シリコーンを添加しようとすると、エポキシ樹脂と均一に混和することが難しい。
【0005】
特開2018-172545号公報ではエポキシ樹脂とエポキシ変性シリコーンを含む圧縮成形用固形封止材を開示し、反り挙動の安定性に優れる結果を得ている。しかし、それらだけでは応力緩和効果が充分ではなく、改善の余地があった。
【0006】
また、特開2007-146148号公報ではシリコーンオイルをコアとし、アクリルなどの有機重合体でシェル化したコアシェル型シリコーン化合物をエポキシ樹脂に添加することで、弾性率低減を達成している。特開平8-85753では、シリコーンゴム球状微粒子にオルガノシルセスキオキサン樹脂を被覆したシリコーン微粒子をエポキシ樹脂に添加することで、分散性を向上させている。しかし、アクリルやシリコーンのシェル部分はエポキシ樹脂との化学的結合が無いため密着性が低く、またアクリルはエポキシ樹脂硬化温度以下のTgであるため、溶融凝集して均一に分散できない可能性があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-23061号公報
【文献】特開2018-172545号公報
【文献】特開2007-146148号公報
【文献】特開平8-85753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シリコーンゴムの柔らかさを有しながら熱硬化性樹脂中で凝集せず、熱硬化性樹脂との密着性に優れているシリコーン微粒子及びその製造方法を提供すること、さらには該微粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物並びに封止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、エポキシ基含有有機基を有するポリオルガノシルセスキオキサンでシリコーンゴム球状微粒子を被覆した、コアシェル構造を有するエポキシ変性シリコーン微粒子が、シリコーンゴムの特性を有し、且つ、凝集防止による良好な分散性を有し、さらには熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂に対して化学的な反応点を持つため、これらの樹脂に対する密着性・結合性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は (A)平均粒径0.1~100μmを有するシリコーンゴム球状微粒子が(B)ポリオルガノシルセスキオキサンで被覆されて成るシリコーン微粒子であり、前記(B)ポリオルガノシルセスキオキサンがエポキシ基含有有機基を有することを特徴とする、エポキシ変性シリコーン微粒子を提供する。
更に本発明は、該エポキシ変性シリコーン微粒子を含む熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ変性シリコーン微粒子は、シリコーンゴムの柔らかさを有し、熱硬化性樹脂、特にはエポキシ樹脂中で凝集せず分散性に優れる。また熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂との密着性に優れる。更にはエポキシ変性シリコーン微粒子を配合することにより、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械特性に優れた硬化物を与える熱硬化性樹脂組成物及び封止材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例9、10、13、比較例6及び9で得た硬化物の切断面を測定したSEM画像である。
【
図2】
図2は、実施例14、15、16、比較例10及び11で得た硬化物の切断面を測定したSEM画像である。
【
図3】
図3は、実施例9及び比較例6のSEM画像の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0014】
本発明のエポキシ変性シリコーン微粒子は(A)平均粒径が0.1~100μmのシリコーンゴム球状微粒子に(B)エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンを被覆してなるコアシェル構造の微粒子である。
【0015】
(A)シリコーンゴム球状微粒子のシリコーンゴムは、分子構造式中に下記一般式(1)で示される線状オルガノポリシロキサンブロックを有しており、ゴム弾性をもつ球状のシリコーン硬化物からなるものである。
-(R1
2SiO)a- (1)
上記式(1)において、R1は、炭素数1~20の、置換または非置換の1価炭化水素基、または、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、アクリロキシ基、及びメタクリロキシ基などの反応性基含有有機基から選択される基である。該炭素数1~20の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基などのアルキル基、フェニル基、及びトリル基などのアリール基、ビニル基、及びアリル基などのアルケニル基、β-フェニルエチル基、及びβ-フェニルプロピル基などのアラルキル基等が挙げられる。また置換された基としては上記炭化水素基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がハロゲン原子等に置換された基が挙げられ、例えば、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などの1価ハロゲン化炭化水素基が挙げられる。好ましくは、R1の90モル%以上がメチル基であるのがよい。
【0016】
上記式(1)において、aは5~5000の整数であり、好ましくは10~1,000の数である。aが5未満では線状オルガノポリシロキサンの特徴が十分に表れず、内部応力緩和の効果が十分に得られなくなる。また、aの最大値は特に定めるものではないが、実際に5,000より大きいとシリコーンゴム微粒子の製造が困難となる。
【0017】
シリコーンゴム球状微粒子はその粒子中にシリコーンオイル、オルガノシラン、無機粉末、有機系粉末などを含有していてもよい。シリコーンゴム球状微粒子は平均粒径0.1~100μmを有することが必要とされ、好ましい範囲は1~30μmである。シリコーンゴム球状微粒子の平均粒径が上記下限値未満であると、粒子の流動性が低くなり、凝集性も高くなる恐れがある。また、平均粒径が上記上限値超を有すると、基材の特性を損なう恐れがある。尚、本発明において平均粒径とは、レーザー回折型粒度分布測定装置を用いて測定される、体積基準の平均粒径である。
【0018】
このシリコーンゴム球状微粒子の製造は、メトキシシリル基(≡SiOCH3)とヒドロキシシリル基(≡SiOH)などとの縮合反応、メルカプトシリル基(≡SiSH)とビニルシリル基(≡SiCH=CH2)とのラジカル反応、ビニルシリル基(≡SiCH=CH2)と≡SiH基との付加反応によるものなどが例示されるが、反応性、反応工程上の点からは付加反応によるものとすることが好ましい。例えば(a)ビニル基含有オルガノポリシロキサンと(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサンを(c)白金系触媒の存在下で付加反応させ硬化させる組成物とすることが好ましい。
【0019】
上記(a)成分はシリコーンゴム球状微粒子を与えるオルガノポリシロキサンの主成分であり、(c)成分の触媒作用により(b)成分と付加反応して硬化する成分である。この(a)成分は1分子中にけい素原子に結合したビニル基を少なくとも2個有することが必要であり、このビニル基は分子のどの部分に存在しても良いが、少なくとも分子の末端に存在することが好ましい。ビニル基以外のけい素原子に結合した有機基としては前述のR1と同様の基が挙げられる、好ましくは該有機基のうち90モル%以上がメチル基であることが望ましい。また(a)ビニル基含有オルガノポリシロキサンの分子構造は直鎖状であっても分岐状であっても、さらにはこれらの混合物であっても良く、分子量も特に限定されるものではないが、硬化物がゴム状弾性体となるには25℃における粘度が1cP以上であることが好ましい。
【0020】
(a)成分は、例えば、下記式で表される直鎖状、環状、又は分岐状のオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【化1】
(上記式中、b及びcは、b+c=3を満たす、0~3の整数であり、dは正数であり、eは0または正数であり、且つ2b+e≧2である)
【化2】
(上記式中、fは2以上の正数であり、gは0又は正の整数であり、且つf+gは4~8である)
【化3】
(上記式中、hは1、2又は3であり、iは0、1又は2であり、且つh+i=3であり、j、kおよびLは正数である)
【0021】
(b)成分は、(a)成分の架橋剤である。該成分中のケイ素原子に結合した水素原子(以下、ヒドロシリル基ということもある)が、(c)触媒の作用により(a)成分中のビニル基と付加反応して硬化する。従って、該(b)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有することが必要である。また、該水素原子以外に、ケイ素原子に結合する有機基は、上記R1のために例示した1価の有機基から選択される基であればよい。好ましくは、ケイ素原子に結合した有機基の合計モルに対して90モル%以上がメチル基であることが好ましい。該(b)成分の分子構造は特に限定されるものではなく、直鎖状、分岐状又は環状の何れでも、またこれらの混合物であっても良い。分子量も特に限定はないが、成分(a)との相溶性を良好にするためには、25℃の粘度1~10,000cPを有することが好ましい。
【0022】
(b)成分の添加量は、(a)成分中のビニル基1個に対する該(b)成分中にあるヒドロシリル基の個数比が0.5~20、好ましくは0.5~5となる量とすればよい。(b)成分量が上記下限値未満であると良好な硬化性を得にくくなる。また(b)成分量が上記上限値超えであると、硬化後のゴムの物理的性質が低下するため好ましくない。
【0023】
(b)成分としては、例えば、下記式で表される直鎖状、環状、又は分岐状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンが挙げられる。
【化4】
(式中、mは0又は1であり、nは2又は3であり、且つm+n=3であり、pは0または正数であり、qは0または正数であり、且つ2m+q≧2である)
【化5】
(式中、rは2以上の正数であり、sは0又は正数であり、且つr+sは4~8である)
【化6】
(式中、tは1、2又は3であり、uは0、1又は2であり、且つ(t+u)=3であり、v、w及びxは正数である)
【0024】
(c)成分は、上記(a)成分が有するケイ素原子結合ビニル基と、上記(b)成分が有するヒドロシリル基とを付加反応させる触媒であり、従来公知の付加反応触媒から適宜選択されればよい。例えば、白金担持カーボン或はシリカ、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-リン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、白金配位化合物等の白金系触媒が挙げられる。
【0025】
(c)成分の量は上記付加反応を進行させる触媒量であればよいが、上記(a)成分に対する白金原子の量が1~100ppmとなる範囲が好ましい。1ppm未満では硬化が遅くなるうえ触媒毒の影響も受けやすい一方、100ppmを超えても特に硬化速度の向上等を期待することができず経済性の面で好ましくない。
【0026】
シリコーンゴム球状微粒子の製造方法としては、例えば、上記(a)成分を(c)成分の存在下で(b)成分と反応させ、硬化させることにより球状微粒子を作ればよい。より詳細には、例えば(a)成分と(b)成分を高温のスプレードライ中で硬化させる方法、有機溶媒中で硬化させる方法、これをエマルジョンとしたのち硬化させる方法などが挙げられる。中でも、後述する本発明のシリコーン微粒子の製造方法においてシリコーンゴム球状微粒子の水分散液を用いるため、シリコーンのエマルジョン中で硬化させる方法が最も好ましい。
【0027】
上記シリコーンをエマルジョン中で硬化させる方法とは、(a)ビニル基含有オルガノポリシロキサンと(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサンの所定量を混合してオルガノポリシロキサン組成物を調製し、次いで得られた組成物に水と界面活性剤を添加した上で、市販のホモミキサーなどを用いてこれをエマルジョン化する方法が挙げられる。
界面活性剤としては、硬化反応に悪影響を及ぼすことの少ないポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤が好ましい。該界面活性剤の添加量は、エマルジョン100質量部に対して0.01~20質量部の範囲がよく、好ましい範囲は0.05~10質量部である。上記下限値未満では、微細な粒子とすることができず、上記上限値超えでは、後記する製造方法にて該水分散液を使用する場合に、シリコーン微粒子表面にポリオルガノシルセスキオキサンを被覆させることが困難となる。
【0028】
該エマルジョン中における上記(a)成分と(b)成分の合計量は、エマルジョン100質量部中に1~80質量部の範囲、より好ましくは10~60質量部の範囲のものとすることがよい。上記下限値未満では効率的に不利であり、上記上限値より多いと独立した硬化粒子のエマルジョンとすることができないおそれがある。また、その中でもa/bの割合は、0.5~15、好ましくは1~10に調整することが好ましい。なお、このシリコーンゴム球状微粒子中にシリコーンオイル、シラン、無機系粉末、有機系粉末などを含有させる場合には、このエマルジョン化をする際にこのオルガノポリシロキサン組成物中にこれらを混合しておけばよい。
【0029】
(c)白金系触媒を添加して上記オルガノポリシロキサンを硬化させてシリコーンゴム硬化物の分散体とする。該白金系触媒としては、公知の反応制御剤を添加してもよいし、この白金系触媒および反応制御剤が水に分散し難いものである場合には界面活性剤を用いて水分散が可能となるようにしてから添加してもよい。これにより(A)平均粒径0.1~100μmを有するシリコーンゴム球状微粒子の水分散液を得ることができる。
【0030】
本発明のシリコーン微粒子は、上記シリコーンゴム球状微粒子が(B)エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサンで被覆されているものであり、該ポリオルガノシルセスキオキサンがエポキシ基含有有機基を有することを特徴とする。(B)エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンは、シリコーンゴム球状微粒子の表面全面に均一に被覆していてもよいし、微粒子表面の一部を被覆していてもよい。エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンの量は、シリコーンゴム球状微粒子100質量部に対し1~500質量部とすることがよく、好ましくは5~100質量部であるのがよい。ポリオルガノシルセスキオキサン量が上記下限値未満では得られるシリコーン微粒子の流動性、分散性および基材との相溶性が乏しくなる恐れがある。また、上記上限値超えでは、シリコーンゴム球状微粒子の特性が十分に発揮されなくなる恐れがある。また、該ポリオルガノシルセスキオキサンにおいて、エポキシ基含有有機基以外のケイ素原子に結合する有機基は、メチル基、エチル基、及びプロピル基等のアルキル基であればよいが、特にメチル基であることが好ましい。
【0031】
エポキシ基含有有機基は特に限定されず、例えば、エポキシ基、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基、グリシジルアミノ基、及びこれらの基が炭素数1~20の置換又は非置換のアルキル基に結合してなる基が挙げられる。より詳細には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及び(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられ、脂環式エポキシ基でもよい。
【0032】
(B)エポキシ基含有有機基は、好ましくは、エポキシ基を有する脂環式炭化水素基であることが好ましく、特には下記式(2)~(5)で示される基のいずれかであるのが好ましい。
【化7】
上記各式において、R
4は、互いに独立に、単結合又は炭素数1~6の二価炭化水素基であり、好ましくは、炭素数2~4の二価炭化水素基である。該エポキシ変性シリコーン微粒子が有するエポキシ当量は、特に制限されないが、エポキシ樹脂に対する相溶性や密着性の観点から、粒子表面のエポキシ当量は2000~100000g/molであることが好ましい。該エポキシ当量は電位差滴定法を用いて定量する。
【0033】
製造方法
本発明のシリコーン微粒子は、平均粒径0.1~100μmを有するシリコーンゴム球状微粒子の水分散物に、アルカリ性物質またはアルカリ性水溶液と、(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランとの混合物を添加し、(b1)及び(b2)成分を加水分解及び縮合反応させる工程を含む製造方法により得られる。シリコーンゴム球状微粒子の水分散物とは、上述した方法で製造された水分散物をそのまま使用してもよいし、該水分散物をさらに水で希釈したものでもよい。該シリコーンゴム球状微粒子の水分散物100質量部中に含まれるシリコーンゴム微粒子の量は、1~60質量部の範囲、好ましくは5~40質量部とすることがよい。シリコーンゴム微粒子の含有量が上記下限値未満では、目的とするシリコーン微粒子の生成効率が低くなる。また上記上限値超では、エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンをシリコーンゴム球状微粒子に被覆させることが困難となり、粒子の凝集、融着が生じることもあるため、好ましくない。
【0034】
該水分散物には界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を添加することで、水分散物中に含まれるシリコーン球状微粒子の分散性を上げることができ、また、後記するエポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンがシリコーンゴム球状微粒子表面へ均一に被覆することができる。界面活性剤の種類は特に制限はなく、従来公知のものから適宜選択されればよい。例えば、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン系界面活性剤、アルキルベタイン等の両性イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤、有機スルホン酸塩、アルキル硫酸塩エステル等の陰イオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの1種、または2種以上の併用であってもよい。
【0035】
シリコーンゴム球状微粒子の水分散物に添加されるアルカリ性物質またはアルカリ性水溶液は、後記する(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランの加水分解縮合を促進させるために機能するものである。該アルカリ性物質又はアルカリ性水溶液はpHが9.5~13.8、特に11.5~13.5の範囲にあることが好ましい。pHが上記下限値未満では、(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランの混合物の加水分解縮合が十分に進行せず、またそれに伴って粒子相互の融着を生じる場合もあるため好ましくない。pHが上記上限値超えであると、オルガノトリアルコキシシランとエポキシトリアルコキシシランの加水分解速度が大きくなるため、シリコーンゴム微粒子表面以外の部分で加水分解反応を生じ、シリコーンゴム微粒子表面上でポリオルガノシルセスキオキサンを効率よく生成することが困難となる恐れがある。当該製造方法では、例えばメチルトリアルコキシシランのみを反応させる場合と比較して、pHをより高くする必要がある。これは、エポキシトリアルコキシシランの加水分解縮合が遅い事に起因している。
【0036】
アルカリ物質またはアルカリ性水溶液は、オルガノトリアルコキシシランとエポキシトリアルコキシシランの加水分解縮合反応の触媒作用を有する限り任意のものであればよい。例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、アンモニアまたはモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン等のアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。中でも、水への溶解性、触媒活性に優れ、且つ揮発させることにより粉末から容易に除去可能であることから、アンモニアが最も好適であり、一般に市販されているアンモニア水溶液(濃度25重量%)を用いればよい。また、アンモニア水溶液の添加量は、シラン化合物(上記(b1)と(b2)の合計)100質量部に対して、25%アンモニア水の量が80~1000質量部、好ましくは200~800質量部であるのがよい。アンモニアが少ないと、シリコーンゴム粒子を被覆せず、シランのホモ粒子が生成するおそれがある。
【0037】
上記した通り(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランとを加水分解及び縮合反応することで、(A)シリコーンゴム球状微粒子表面に、エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンを形成する。(b1)オルガノトリアルコキシシランは、下記一般式(3)で表すことができる。
R2Si(OR3)3 (3)
上記式(3)において、R2は炭素数1~20の一価炭化水素基であり、上述したR1の為に例示した1価炭化水素基が挙げられ、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5のアルキル基である。R3はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~6のアルキル基である。
【0038】
上記式(3)で表されるオルガノトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシキラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、及びブチルトリメトキシシランが挙げられる。(b1)成分として最も好ましくはメチルトリメトキシシランである。
【0039】
(b2)エポキシトリアルコキシシランは、エポキシ含有有機基を有するトリアルコキシシランである。該(b2)は、特には上記一般式(3)で表され、R2で示す基がエポキシ含有有機基で置換された化合物である。エポキシ含有有機基とは上記した通りである。
【0040】
該エポキシトリアルコキシシランは、好ましくはエポキシ基を有する脂環式炭化水素基を有することが好ましく、特には下記式(2)~(5)で示される基を有するのが好ましい。
【化8】
上記各式において、R
4は、互いに独立に、単結合又は炭素数1~6の二価炭化水素基であり、好ましくは、炭素数2~4の二価炭化水素基である。
【0041】
(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランの質量比は、(b1)オルガノトリアルコキシシランの質量:(b2)エポキシトリアルコキシシランの質量=99:1~50:50が好ましく、より好ましくは99:1~80:20である。(b2)成分量が多すぎると、粉体化できなくなるおそれがあり、好ましくない。
【0042】
シリコーンゴム球状微粒子に対する(b1)オルガノトリアルコキシシラン及び(b2)エポキシトリアルコキシシランの量は、シリコーンゴム球状微粒子の水分散液の水100質量部に対して、20質量部以下とすることがよい。(b1)成分及び(b2)成分量が多すぎると塊状物が発生するおそれがあるので好ましくない。また、加水分解縮合時にあまり強く撹拌すると、特にオルガノトリアルコキシシランの量が多い場合には、粒子同士の凝集あるいは融着を生じる傾向がある。従って、できるだけ穏やかな条件で撹拌を行うことが好ましい。用いる撹拌装置としては、一般にプロペラ翼、平板翼等が好適である。なお、加水分解縮合時の反応温度は、0~60℃、特には5~20℃の範囲とすることがよい。反応温度が0℃未満では液が凝固してしまい、また60℃より高くすると生成したポリオルガノシルセスキオキサンのみからなる粒子が生成し、粒子相互が凝集あるいは融着を生ずることがあるためである。
【0043】
上記加水分解及び縮合反応時において、アルカリ性物質またはアルカリ性水溶液は、(b1)オルガノトリアルコキシシラン及び(b2)エポキシトリアルコキシシランと同時に添加してもよいし、これらの添加後に添加してもよい。また、(b1)オルガノトリアルコキシシランと(b2)エポキシトリアルコキシシランの添加量が多い場合には、アルカリ性物質又はアルカリ性水溶液を予めシリコーンゴム球状微粒子の水分散液に添加しておくことが好ましい。(b1)オルガノトリアルコキシシラン及び(b2)エポキシトリアルコキシシランは、反応系に一度に添加してもよいが、量が多いときには一度に添加すると粒子相互に凝集あるいは融着が生ずることがあるので、時間をかけて徐々に少量ずつ添加するのが好ましい。
【0044】
加水分解及び縮合反応中における撹拌は、上記(b1)成分及び(b2)成分の添加終了後、加水分解及び縮合反応が完結するまではしばらく継続しておくことがよい。また、加水分解及び縮合反応を完結させるために加熱をしてもよく、さらに必要であれば酸性物質を添加して中和を行なってもよい。これにより、シリコーンゴム球状微粒子表面にエポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンが形成される。すなわち、エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサンで被覆されたシリコーン球状微粒子を得ることができる。反応終了後は、例えば加熱脱水、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の方法により分散液を濃縮した後に必要に応じて水洗を行い、さらに常圧もしくは減圧下での加熱乾燥、気流中に分散液を噴霧するスプレードライ、流動熱媒体を使用しての加熱乾燥などにより水分の除去を行えばよい。得られたシリコーン微粒子が若干凝集を生じている場合には、ジェットミル、ボールミル、またはハンマーミルなどの粉砕機を適宜使用して解砕を行なってもよい。
【0045】
熱硬化性樹脂組成物
本発明はさらに、該エポキシ変性シリコーン微粒子を含む熱硬化性樹脂組成物を提供する。エポキシ変性シリコーン微粒子の配合量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して0.5~30質量部、好ましくは2~20質量部であるのがよい。また、熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して、エポキシ変性シリコーン微粒子を0.5~20質量%、好ましくは2~15質量%で含有するのがよい。当該範囲で本発明のシリコーン微粒子を配合することで、シリコーンゴムの柔らかさを樹脂硬化物に付与することができ、また、シリコーン微粒子は熱硬化性樹脂組成物中で凝集せず、熱硬化性樹脂と良好な密着性を示すことができる。
【0046】
熱硬化性樹脂とは、架橋構造体を形成して樹脂層を硬化させる反応性の官能基を有する化合物である。該熱硬化性樹脂としては、アクリレート化合物、エポキシ化合物、ビスマレイミド化合物、シアネート化合物、及びフェノール化合物等を挙げることができる。中でも、樹脂層の粘度及び熱硬化性組成物の硬化物の熱膨張率の観点から、アクリレート化合物、エポキシ化合物、ビスマレイミド化合物、及びフェノール化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アクリレート化合物、エポキシ化合物、及びビスマレイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、硬化速度の観点から、アクリレート化合物及びエポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはエポキシ樹脂である。
【0047】
エポキシ樹脂としては、特に制限は無く、熱硬化性樹脂組成物、特には封止用エポキシ樹脂組成物に一般に用いるエポキシ樹脂であればよい。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの(ノボラック型エポキシ樹脂);ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のジグリシジルエーテル(ビスフェノール型エポキシ樹脂);アルキル置換又は非置換のビフェノール等のジグリシジルエーテル(ビフェニル型エポキシ樹脂);スチルベン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノ-ル類の共縮合樹脂のエポキシ化物(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂);ナフタレン環を有するエポキシ樹脂(ナフタレン型エポキシ樹脂);フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるアラルキル型フェノール樹脂;ナフトール・アラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;テルペン変性エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;脂環族エポキシ樹脂;硫黄原子含有エポキシ樹脂;などが挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、特に制限されないが、充分な硬化性を得る観点からは、熱硬化性樹脂組成物の固形分の質量に対して、例えば、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。熱硬化性樹脂の含有量は、樹脂層の流動性の観点からは、樹脂層、又は熱硬化性樹脂組成物の固形分の質量に対して、例えば、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0049】
また、熱硬化性樹脂組成物は更に硬化剤を含むのが好ましい。硬化剤は、熱硬化性樹脂組成物、特には封止用エポキシ樹脂組成物に一般に用いる硬化剤であればよく、特に制限はない。例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノール・アラルキル樹脂;ナフトール・アラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;フェノール・ノボラック構造とフェノール・アラルキル構造がランダム、ブロック又は交互に繰り返された共重合型フェノール・アラルキル樹脂;パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;シクロペンタジエン型フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;などが挙げられる。これら硬化剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
更に、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、熱硬化性樹脂と硬化剤との硬化反応を促進するための硬化促進剤、各種の無機質充填剤、例えば溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ボロンナイトライド、窒化アルミニウム、窒化珪素、マグネシア、マグネシウムシリケート、及びアルミニウム等を配合することができる。またその他、熱硬化性樹脂組成物に配合される公知の添加剤を本発明の効果を損ねない限りにおいて、適宜配合することができる。
【0051】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、従来公知の方法に従えばよい。例えば、上記各成分を常法に準じて混合することにより得ることができる。本発明のエポキシ変性シリコーン微粒子を含む熱硬化性樹脂組成物、特に好ましくはエポキシ樹脂組成物は、封止材として応力緩和の観点から優れている。従って、本発明の熱硬化性樹脂組成物は半導体素子等の封止材として有用であり、例えば公知の塗布方法により被対象物、例えば電子回路基板等に塗工し、封止材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0053】
(A)シリコーンゴム球状微粒子の調整
[調製例A1]
下記式(1)で表されるメチルビニルシロキサン(動粘度8.5mm2/s、ビニル価0.21(mol/100g))280g、下記式(2)で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(動粘度121mm2/s、H価0.85mol/100g)80gを、容器1リットルのガラスビーカーに仕込み、ホモミキサーを用いて2,000rpmで撹拌混合した。その後、ポリオキシエチレン(付加モル数=9モル)ラウリルエーテル1.1g、水330gを加えて6,000rpmで撹拌を継続したところ、転相が起り増粘が認められた。ここに希釈水940gを投入し希釈した後、高圧ホモジナイザーを圧力300BARかけて2回行い、O/W型エマルジョンであるシリコーンオイルエマルジョンが得られた。なお高圧ホモジナイザー洗浄水として50g使用した。
ついで、このシリコーンオイルエマルジョンを錨型撹拌翼による撹拌装置の付いたガラスフラスコに移し、室温で撹拌下に塩化白金酸-オレフィン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5%)0.5gとポリオキシエチレン(付加モル数=9モル)ラウリルエーテル1.2gの混合物を添加し、12時間反応を行ったところ、シリコーンゴム球状微粒子の水分散液(以下、シリコーンゴム球状微粒子水分散液-1と称す)が得られた。固形分は約21%であった。シリコーンゴム球状微粒子の体積平均粒径は2.5μmであり、この分散液の数gを室温乾燥したところ、弾性のある白色のゴム粉末が得られた。
シリコーンゴム球状粒子を構成するゴムの硬度を以下のように測定した。
下記式(1)で示されるメチルビニルポリシロキサン、下記式(2)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン、及び白金-オレフィン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5%)を上記配合割合で混合し、厚みが10mmになるようアルミシャーレに流し込んだ。25℃で24時間放置後、50℃の恒温槽内で1時間加熱し、シリコーンゴムを得た。
ゴム硬度をデュロメーターAで測定したところ75であった。
【0054】
[調製例A2]
下記式(1)で表されるメチルビニルシロキサン(動粘度8.5mm
2/s、ビニル価0.21(mol/100g))512g、下記式(2)で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(動粘度121mm
2/s、H価0.85mol/100g)144gを、容器1リットルのガラスビーカーに仕込み、ホモミキサーを用いて2,000rpmで撹拌混合したのち、NIKKOLBB-10 3.7gNIKKOLBB-20 5.6g、水312gを加えて6,000rpmで撹拌を継続したところ、転相が起り増粘が認められた。ここに希釈水1375gを投入し希釈した後、高圧ホモジナイザーを圧力400BARかけて2回行い、O/W型エマルジョンであるシリコーンオイルエマルジョンが得られた。なお高圧ホモジナイザー洗浄水として900g使用した。
ついで、このエマルジョンを錨型撹拌翼による撹拌装置の付いたガラスフラスコに移し、室温で撹拌下に塩化白金酸-オレフィン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5%)1.9g とNIKKOLBB-101.9gの混合物を添加し、15時間反応を行ったところ、シリコーンゴム球状微粒子の水分散液(以下、シリコーンゴム球状微粒子水分散液-2と称す)が得られた。固形分は約20%であった。シリコーンゴム球状微粒子の体積平均粒径は0.8μmであり、この分散液の数gを室温乾燥したところ、弾性のある白色のゴム粉末が得られた。
シリコーンゴム球状粒子を構成するゴムの硬度を以下のように測定した。下記式(1)で示されるメチルビニルポリシロキサン、下記式(2)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン、及び白金-オレフィン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5%)を上記配合割合で混合し、厚みが10mmになるようアルミシャーレに流し込んだ。25℃で24時間放置後、50℃の恒温槽内で1時間加熱し、シリコーンゴムを得た。ゴム硬度をデュロメーターAで測定したところ75であった。
【化9】
【化10】
【0055】
エポキシ変性シリコーン微粒子の製造
実施例1
500mlリットルのガラスフラスコに水54.3g、前記調製例A1で得たシリコーンゴム球状微粒子の水分散液(固形分約21%)を296g、およびアンモニア水(濃度25重量%)42gを仕込み、水温を10℃とし、翼回転数200rpmの条件で錨型撹拌翼により撹拌を行なった。このときの分散液のpHは12.7であった。該分散液にメチルトリメトキシシラン7.3gと(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン0.4gとを均一混合したものを、液温を5~15℃に保ちながら20分かけて滴下し、さらに1時間撹拌を行なった。その後55~60℃まで加熱し、引続き1時間撹拌を行ない、得られた反応溶液を吸引ろ過器を用いてケーキ状物とした後、55℃×16h以上乾燥し、ジェットミル解砕して、エポキシ変性シリコーン微粒子を得た。
【0056】
実施例2~6、比較例13及び14、比較例1~5
下記表1に示す組成及び配合量にて各成分を配合した他は上記製造例1の工程を繰り返してエポキシ変性シリコーン微粒子を製造した。得られたシリコーン微粒子の形状、粒子表面のエポキシ当量、及び体積平均粒径を表1に示す。平均粒径及び粒子表面のエポキシ当量の測定方法は以下の通りである。
[粒子径測定]
各エポキシ変性シリコーン微粒子について、レーザー回折型粒度分布測定装置を使用し、メタノール中屈折率にて粒子径測定を行った。シリコーンゴムベースのみの場合は水で測定した。
[粒子表面のエポキシ当量測定]
各エポキシ変性シリコーン微粒子について、電位差滴定法を用いて粒子表面のエポキシ当量を測定した。即ち、過剰塩酸で被検試料の官能基を塩素化処理した後に、アルカリ試薬で滴定し、未反応の塩酸量を知ることで被検試料中の官能基(エポキシ基)を定量した。
【0057】
【0058】
熱硬化性樹脂組成物の調製
実施例9~16、比較例6~12
エポキシ樹脂、硬化剤、及び上記各実施例で得たシリコーン微粒子を、下記表2又は表3に示す組成及び配合量にて添加し、熱硬化性樹脂組成物を得た。該熱硬化性樹脂組成物を下記の方法に従い、硬化させた。得られた各硬化物について、曲げ試験、及び密着性評価を行った。結果を表2及び表3に示す。尚、上記製造例A1で得た平均粒径2.5μmを有するシリコーンゴム球状微粒子を用いた例についての結果を表2に、上記製造例2で得た平均粒径0.8μmを有するシリコーンゴム球状微粒子を用いた例についての結果を表3に示す。
また、エポキシ樹脂とシリコーン微粒子の混合物の粘度を下記の方法に従い行った。
尚、実施例及び比較例で用いたエポキシ樹脂及び硬化剤を以下に示す。
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物:
ZX-1059(エポキシ当量:160-170、粘度(25℃)1900~2600mPa・s、日鉄ケミカル&マテリアル社製)
・下記式で表される芳香族アミン系触媒:KAYAHARD A-A(日本化薬社製)
【化11】
【0059】
各測定方法及び測定条件は以下の通りである。
[粘度]
エポキシ樹脂ZX-1059と、シリコーン微粒子とを、表2または3記載の割合で混合し、その粘度を、BM型粘度計にてロ―タNo.3を用いて6rpmで25℃で測定した。粘度が低いほどエポキシ樹脂との相溶性が良いと判断できる。
[曲げ試験]
各熱硬化性樹脂組成物を10分間混合した後、60℃で真空脱泡し、4mm厚みの金型に注入した。150℃で4h加熱した後、冷却開放した。得られた硬化物をダイヤモンドカッターにて下記サイズにカットしたものについて曲げ試験を行い、曲げ強さ(MPa)及び曲げ弾性率(MPa)を25℃で測定した。該曲げ試験は、JIS K7171に基づいて、オートグラフ(島津製作所製)を用いて行った。
試験条件は、支点間距離64mm、速度2mm/分、サンプル4mm厚みである。
[密着性]
上記で得た4mm厚の硬化物をダイヤモンドカッターで切断した試験断面の一部を、SEMで3,000~10,000倍に拡大して撮影した。
(面積3000倍:およそ1800μm
2、5000倍:およそ850μm
2、10000倍およそ200μm
2)
実施例9、10、13、14、15、16及び比較例6、9、10及び11で得た硬化物の切断面を測定したSEM画像を
図1及び2に示す。また、実施例9および比較例6のSEM画像の拡大図を
図3に示す。実線の○で囲んだ箇所が樹脂切断面に残っているシリコーン微粒子であり、点線の○で囲んだ箇所が樹脂に結合せず粒子が脱落した箇所である。
図1~3に示す通り、樹脂からシリコーン微粒子が脱落すると切断面に穴が開く。SEM画像を目視で観察し、穴の数を脱落粒子数(樹脂に結合せず脱落した粒子の数)として測定し、切断面に残っている粒子の数を残存粒子数(樹脂に密着又は結合している粒子の数)として測定した。
式[残存粒子/(残存粒子+脱落粒子)]より得られる残存粒子の割合(%)を、表2及び3に示す。該割合が大きいほど、密着性が高いことを示す。
【0060】
【0061】
【0062】
上記表2及び3の実施例に示す通り、本発明のエポキシ変性シリコーン微粒子は、粘度が低い。これは、シリコーン微粒子とエポキシ樹脂との相溶性が上昇している事を意味しており、エポキシ樹脂中で凝集せず分散性に優れるためエポキシ樹脂と混合して適度な粘度を有することができる。また、本発明のシリコーン微粒子を含む樹脂組成物の硬化物は、密着性試験における残存粒子の割合が高く、切断時にシリコーン微粒子の欠落が少ない。すなわち、エポキシ樹脂との密着性に優れることが示される。更には得られた硬化物は曲げ強度、曲げ弾性率等の機械特性に優れる。これに対し、比較例1、2、4のシリコーン微粒子は、比較例6~9及び10に示されるように、エポキシ樹脂に対する密着性に劣る。比較例5のシリコーン微粒子は、比較例11に示されるように、粒子径が小さいため密着性は悪くはないが、樹脂中で粒子が凝集しているため好ましくない。また、比較例9では、エポキシ樹脂と混合したときの粘度が高く、分散性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のエポキシ変性シリコーン微粒子は、シリコーンゴムの柔らかさを有し、熱硬化性樹脂、特にはエポキシ樹脂中で凝集せず分散性に優れる。また熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂との密着性に優れる。また、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械特性に優れた硬化物を与える熱硬化性樹脂組成物及び封止材を提供することができる。該熱硬化性樹脂組成物は半導体素子等の封止材として有用であり、例えば公知の塗布方法により被対象物、例えば電子回路基板等に塗工し、封止材として好適に用いることができる。