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  • 特許-履物底体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】履物底体
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20231228BHJP
   A43B 13/22 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A43B13/14 A
A43B13/22 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019225393
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021094071
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 耕平
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-135773(JP,A)
【文献】特開2019-025076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0293314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/14
A43B 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物の底面を構成する履物底体であって、
前記底面の前端から後端にまで連続して延びるセンター陸部と、
前記センター陸部の幅方向両側に縦溝を挟んで設けられた一対のサイド陸部と、を有し、
前記センター陸部が、前記後端において最も幅が広く、且つ、前後両側から幅が狭くなる括れ部分を少なくとも1箇所に備えており、
前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
前記括れ部分が、少なくとも前記中足部に設けられている、ことを特徴とする履物底体。
【請求項2】
一対の前記サイド陸部に、
それぞれ、一端が前記縦溝に連なるとともに他端が前記一端よりも前側において前記底面の外周縁に連なるように、斜め前方に延びる複数本の前方外向き溝と、
それぞれ、一端が前記縦溝に連なり、他端が前記一端よりも後側において前記底面の外周縁に連なるとともに、少なくとも1本の前記前方外向き溝と交差するように、斜め後方に延びる複数本の後方外向き溝と、が設けられている、請求項1に記載の履物底体。
【請求項3】
前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
複数本の前記前方外向き溝と複数本の前記後方外向き溝とが、少なくとも前記中足部に設けられている、請求項に記載の履物底体。
【請求項4】
前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
前記前足部において、前記前方外向き溝の溝幅が、前記後方外向き溝の溝幅よりも大きい、請求項またはに記載の履物底体。
【請求項5】
前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
前記後足部において、前記後方外向き溝の溝幅が、前記前方外向き溝の溝幅よりも大きい、請求項の何れか1項に記載の履物底体。
【請求項6】
1本の前記前方外向き溝、1本の前記後方外向き溝及び前記縦溝の一部が、それぞれ湾曲するとともに互いに連結して、前記底面の外周縁の側から前記センター陸部の側に向けて凸となる山形溝を形成している、請求項の何れか1項に記載の履物底体。
【請求項7】
それぞれの前記サイド陸部の平均幅が、前記センター陸部の平均幅の、1.5~3.0倍である、請求項1~の何れか1項に記載の履物底体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物の底面を構成する履物底体に関する。
【背景技術】
【0002】
靴底などの、履物の底面を構成する履物底体には、その履物の種類に応じて、種々の性能が要求される。
例えば、通勤用の靴の靴底としては、快適に長く歩けるように、前後方向に柔軟に湾曲変形することができるものが求められる。また、ロコモティブシンドロームを予防するためには、幼少期における土踏まずのアーチ形成が重要であることから、幼児用の靴の靴底としても、前後方向に柔軟に湾曲変形することができる靴底が求められる。
上記の要求を満たすために、従来、履物底体の底面に設けられる溝パターンに種々の工夫がなされている。
【0003】
例えば特許文献1には、靴底の底面の幅方向中央部分に、一対の縦溝により区画して前後方向に延びて設けられたセンター陸部を、複数の幅方向溝によって前後方向に並ぶ複数部分に分割した構成とすることで、前後方向への柔軟性を高めるようにした靴底が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/137068号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の靴底のように、センター陸部を、複数の幅方向溝によって前後方向に並ぶ複数部分に分割した構成では、前後方向の柔軟性を得ることはできるが、靴底に前後方向軸を中心とした捻じれが生じ易く、この点で改良の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、前後方向への柔軟性を確保しつつ捻じれを抑制可能な履物底体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0008】
(1)履物の底面を構成する履物底体であって、
前記底面の前端から後端にまで連続して延びるセンター陸部と、
前記センター陸部の幅方向両側に縦溝を挟んで設けられた一対のサイド陸部と、を有し、
前記センター陸部が、前記後端において最も幅が広く、且つ、前後両側から幅が狭くなる括れ部分を少なくとも1箇所に備えており、
前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
前記括れ部分が、少なくとも前記中足部に設けられている、ことを特徴とする履物底体。
【0010】
)一対の前記サイド陸部に、
それぞれ、一端が前記縦溝に連なるとともに他端が前記一端よりも前側において前記底面の外周縁に連なるように、斜め前方に延びる複数本の前方外向き溝と、
それぞれ、一端が前記縦溝に連なり、他端が前記一端よりも後側において前記底面の外周縁に連なるとともに、少なくとも1本の前記前方外向き溝と交差するように、斜め後方に延びる複数本の後方外向き溝と、が設けられている、上記(1)に記載の
履物底体。
【0011】
)前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
複数本の前記前方外向き溝と複数本の前記後方外向き溝とが、少なくとも前記中足部に設けられている、上記()に記載の履物底体。
【0012】
)前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
前記前足部において、前記前方外向き溝の溝幅が、前記後方外向き溝の溝幅よりも大きい、上記()または()に記載の履物底体。
【0013】
)前記底面を、
足裏の踵に対応する後足部と、
前記足裏の土踏まずに対応する中足部と、
前記足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部と、に分けた場合において、
前記後足部において、前記後方外向き溝の溝幅が、前記前方外向き溝の溝幅よりも大きい、上記()~()の何れか1つに記載の履物底体。
【0014】
)1本の前記前方外向き溝、1本の前記後方外向き溝及び前記縦溝の一部が、それぞれ湾曲するとともに互いに連結して、前記底面の外周縁の側から前記センター陸部の側に向けて凸となる山形溝を形成している、上記()~()の何れか1つに記載の履物底体。
【0015】
)それぞれの前記サイド陸部の平均幅が、前記センター陸部の平均幅の、1.5~3
.0倍である、上記(1)~()の何れか1つに記載の履物底体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前後方向への柔軟性を確保しつつ捻じれを抑制可能な履物底体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態である靴底を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態である靴底(履物底体)1について、詳細に説明する。
【0019】
図1に示す履物底体としての靴底1は、履物である靴の底面2を構成するものである。
靴底1が設けられる靴は、例えば幼児用の靴や通勤用の靴(革靴)など、種々の靴であってよい。本実施の形態では、靴底1は、幼児用の靴に用いられるものである。
【0020】
一般に、靴は、足の裏側に配置されるソール部3と、ソール部3に支持されて足の表側を被覆するアッパー部(不図示)とを備えており、靴底1はソール部3の下面に設けられて靴の底面2を構成する。靴の底面2は、靴の着用者が歩行する際に、地面や路面、床面などに接触する部分である。
【0021】
なお、本発明の履物底体は、例えばサンダル等の、靴以外の履物の底面を構成するものに適用することもできる。
【0022】
図1に示す靴底1は右足用の靴のものである。右足用の靴の靴底と左足用の靴の靴底とは、互いに左右対称の関係にあるので、以下では、右足用の靴の靴底1についてのみ説明する。
【0023】
靴底1は、センター陸部10と、センター陸部10の幅方向両側に縦溝11、12を挟んで設けられた一対のサイド陸部13、14とを有している。
【0024】
センター陸部10は、一対の縦溝11、12の間に区画形成されており、底面2の前端2aから後端2bにまで延びている。一対の縦溝11、12は、それぞれ底面2を前後方向に貫通しており、底面2の前端2aの側及び後端2bの側において底面2の外側に開放されている。
ここで、底面2の足裏の爪先側に対応する側を前方、足裏の踵側に対応する側を後方とし、底面2の全長が最も長くなる部分において前方から後方に延びる線を底面2の軸線Lとしたとき、軸線Lと底面2の外周縁との前方側の交点の部分を底面2の前端2aとし、軸線Lと底面2の外周縁との後方側の交点の部分を底面2の後端2bとする。また、底面2の幅方向は、軸線Lに垂直な方向とする。
【0025】
センター陸部10は、溝やサイプ(切れ目)を有することなく前端2aから後端2bにまで連続して延びている。したがって、センター陸部10は、歩行時等において、前端2aと後端2bとの間の全部分において地面ないし路面等に接触することができる。なお、センター陸部10は、前端2aと後端2bとの間の前後方向の全範囲において、軸線Lを含む幅で延びている。
【0026】
センター陸部10は、底面2の後端2bにおいて、その幅が最も広くなっている。ここで、センター陸部10の幅は、軸線Lに垂直な方向の幅である。
【0027】
センター陸部10は、後端2bから前方に向けて幅を減少させた後、幅を増減しつつ前端2aに向けて延びており、前端2aと後端2bとの間に、括れ部分10aを少なくとも1箇所に備えている。括れ部分10aは、センター陸部10の幅が前側及び後側の両側から狭くなることで括れた部分である。本実施の形態では、センター陸部10は、9箇所に括れ部分10aを備えている。図1においては、それぞれの括れ部分10aの最も幅が狭い部分に破線を付してある。
より具体的には、縦溝11、12は、それぞれ底面2の外周縁の側からセンター陸部10の側に向けて(幅方向内側に向けて)凸となる複数の湾曲部分を前後方向に連ねた形状を有しており、縦溝11の湾曲部分の頂点位置と縦溝12の湾曲部分の頂点位置とが互いに前後にずれていることで、センター陸部10に、9つの括れ部分10aが不規則な配置で並べて設けられている。センター陸部10は、括れ部分10aが設けられた部分において、他の部分よりも容易に前後方向に湾曲変形することができる。
なお、センター陸部10ないし靴底1の前後方向への湾曲変形とは、センター陸部10ないし靴底1の前端2aに対応する部分が、後端2bに対応する部分に対して底面2に垂直な方向に変位するようにセンター陸部10ないし靴底1の全部または一部が湾曲するように変形することである。
【0028】
このように、本実施の形態の靴底1では、底面2に、前端2aから後端2bにまで連続して延びるセンター陸部10を設けるとともに、センター陸部10の少なくとも1箇所に、括れ部分10aを設けるようにしたので、底面2に、前端2aから後端2bにまで連続して延びるセンター陸部10を設けるようにしても、当該センター陸部10が、括れ部分10aにおいて前後方向に容易に湾曲変形するができるようにして、靴底1の前後方向への柔軟性を高めることができる。また、センター陸部10を、溝やサイプ(切れ目)により前後方向に分断することなく、底面2の前端2aから後端2bにまで連続して延びる構成としたので、センター陸部10により、底面2の、軸線Lを中心とした捻じれ方向についての捻じれ剛性を高めることができる。したがって、本実施の形態の靴底1によれば、前後方向への柔軟性を確保しつつ捻じれを抑制することができる。
また、本実施の形態の靴底1は、前後方向への柔軟性を備えるとともに捻じれを抑制可能な構成であるので、当該靴底1を備えた靴を着用した着用者が歩行等をする際、靴底1が捻じれを抑制された状態で前後方向に柔軟に湾曲変形することにより、着用者の土踏まずのアーチ形成が促進される。このように、本実施の形態の靴底1によれば、着用者の土踏まずのアーチ形成を促進して、ロコモティブシンドロームを予防することができる。
さらに、本実施の形態の靴底1によれば、歩行時等において靴底1に捻じれが生じるのを抑制することができるので、この靴底1が設けられた靴の型崩れを抑制することができる。
【0029】
本実施の形態の靴底1では、底面2に、前端2aから後端2bにまで連続して延びるセンター陸部10を設けるようにしたので、溝やサイプ(切れ目)により前後方向に分断された複数の陸部を備える構成に比べて、靴底1の耐摩耗性を高めることができる。
また、本実施の形態の靴底1では、センター陸部10を、歩行等により摩耗が生じ易い底面2の後端2bにおいて最も幅が広くなる形状としたので、靴底1の耐摩耗性をより高めることができる。
【0030】
本実施の形態において、靴底1は、底面2を、足裏の踵に対応する後足部2Aと、足裏の土踏まずに対応する中足部2Bと、足裏の土踏まずより爪先側の部分に対応する前足部2Cと、に分けた場合において、括れ部分10aを、少なくとも中足部2Bに設けた構成とするのが好ましい。本実施の形態では、9箇所の括れ部分10aのうち、2箇所の括れ部分10aを中足部2Bに設けるようにしている。
【0031】
ここで、後足部2Aと中足部2Bとの境界は、底面2の幅方向の外側(右足用の場合には幅方向の右側、左足用の場合には幅方向の左側)において、後端2bから外方に凸となる形状で延びる外周縁が内方に凸となる形状に変曲する後端側変曲点P1を通り、且つ軸線Lに垂直な直線により規定されるものとする。また、中足部2Bと前足部2Cとの境界は、底面2の幅方向の外側において、前端2aから外方に凸となる形状で延びる外周縁が内方に凸となる形状に変曲する前端側変曲点P2を通り、且つ軸線Lに垂直な直線により規定されるものとする。
【0032】
このように、括れ部分10aを、少なくとも中足部2Bに設けた構成とすることにより、足裏の土踏まずに対応する部分において、靴底1の前後方向への柔軟性を高めることができる。したがって、当該靴底1を備えた靴を着用した着用者が歩行等をする際、靴底1が、足裏の土踏まずに対応する部分において前後方向により柔軟に湾曲変形することができるようにして、土踏まずのアーチ形成をより促進することができる。これにより、当該靴底1を、ロコモティブシンドロームをより効果的に予防可能なものとすることができる。
【0033】
本実施の形態において、靴底1は、一対のサイド陸部20、30に、それぞれ、複数本の前方外向き溝21、31と、複数本の後方外向き溝22、32とを設けた構成とするのが好ましい。本実施の形態では、サイド陸部20に、6本の前方外向き溝21と5本の後方外向き溝22とが設けられ、サイド陸部30に、7本の前方外向き溝31と5本の後方外向き溝32とが設けられている。
【0034】
サイド陸部20に設けられた6本の前方外向き溝21は、それぞれ一端が縦溝11に連なるとともに他端が一端よりも前側において底面2の外側の外周縁に連なるように、斜め前方に延びている。なお、6本の前方外向き溝21は、互いに前後方向に間隔を空けて配置されている。また、6本の前方外向き溝21は、それぞれ底面2の外側の外周縁において底面2の外側に開放されている。
本実施の形態においては、6本の前方外向き溝21は、それぞれ一端から他端に向けて徐々に溝幅が広がるとともに、前方側に凸となるように僅かに湾曲している。
【0035】
サイド陸部20に設けられた5本の後方外向き溝22は、それぞれ一端が縦溝11に連なり、他端が一端よりも後側において底面2の外側の外周縁に連なるとともに、少なくとも1本の前方外向き溝21と交差するように、斜め後方に延びている。なお、5本の後方外向き溝22は、互いに前後方向に間隔を空けて配置されている。また、最も前方側の後方外向き溝22以外の4本の後方外向き溝22は、それぞれ底面2の外側の外周縁において底面2の外側に開放されている。
本実施の形態においては、5本の後方外向き溝22のうち、前方側の3本の後方外向き溝22は、それぞれ一端と他端との間で溝幅がほぼ一定であるとともに、後方側に凸となるように僅かに湾曲している。これに対し、後方側の2本の後方外向き溝22は、それぞれ一端から他端に向けて徐々に溝幅が広がるとともに、後方側に凸となるように僅かに湾曲している。
【0036】
同様に、サイド陸部30に設けられた7本の前方外向き溝31は、それぞれ一端が縦溝12に連なるとともに他端が一端よりも前側において底面2の内側の外周縁に連なるように、斜め前方に延びている。なお、7本の前方外向き溝31は、互いに前後方向に間隔を空けて配置されている。また、7本の前方外向き溝31は、それぞれ底面2の内側の外周縁において底面2の外側に開放されている。
本実施の形態においては、7本の前方外向き溝31は、それぞれ一端から他端に向けて徐々に溝幅が広がるとともに、前方側に凸となるように僅かに湾曲している。
【0037】
サイド陸部30に設けられた5本の後方外向き溝32は、それぞれ一端が縦溝12に連なり、他端が一端よりも後側において底面2の内側の外周縁に連なるとともに、少なくとも1本の前方外向き溝31と交差するように、斜め後方に延びている。なお、5本の後方外向き溝32は、互いに前後方向に間隔を空けて配置されている。また、5本の後方外向き溝32は、それぞれ底面2の内側の外周縁において底面2の外側に開放されている。
本実施の形態においては、5本の後方外向き溝32のうち、最前方の1本の後方外向き溝32と、後方側から2本の後方外向き溝32は、それぞれ一端から他端に向けて徐々に溝幅が広がるとともに、後方側に凸となるように僅かに湾曲している。その他の2本の後方外向き溝32は、それぞれ一端と他端との間で溝幅がほぼ一定であるとともに、後方側に凸となるように僅かに湾曲している。
【0038】
このように、一対のサイド陸部20、30に、それぞれ、複数本の前方外向き溝21、31と、複数本の後方外向き溝22、32とを設けた構成とすることで、サイド陸部20、30を、斜めの格子状に溝が設けられたものとすることができる。これにより、当該靴底1を備えた靴を着用した着用者が歩行等をする際に、靴底1が、土踏まずの変形に合わせた形状に変形し易くして、当該着用者の、土踏まずのアーチ形成をより促進することができる。よって、当該靴底1を、ロコモティブシンドロームをより効果的に予防可能なものとすることができる。
【0039】
本実施の形態において、靴底1は、複数本の前方外向き溝21、31と、複数本の後方外向き溝22、32とを、少なくとも中足部2Bに設けた構成とするのが好ましい。当該構成により、当該靴底1を備えた靴を着用した着用者が歩行等をする際に、靴底1が、土踏まずに対応した部分において、より効果的に土踏まずの変形に合わせた形状に変形することができるようにして、当該着用者の、土踏まずのアーチ形成をより効果的に促進することができる。よって、当該靴底1を、ロコモティブシンドロームをより効果的に予防可能なものとすることができる。
【0040】
本実施の形態において、靴底1は、前足部2Cにおいて、前方外向き溝21、31の溝幅が、後方外向き溝22、32の溝幅よりも大きい構成とするのが好ましい。
このような構成とすることで、靴底1の排水性を高めて、高い防滑性を実現することができる。すなわち、靴底1を適用した靴を履いた歩行時等において、歩行の動作に伴い、濡れた路面等に前足部2Cが後端2bの側から前端2aの側に向かって徐々に路面等に接する際に、路面等の水が、前方外向き溝21、31に取り込まれるとともに前方外向き溝21、31に沿って斜め前方へ流れて、靴底1における前足部2Cの外側に排出される。このように、比較的溝幅の広い前方外向き溝21、31によって、歩行時等において濡れた路面等に前足部2Cが接したときの靴底1の排水性を高めることができる。
一方、後方外向き溝22、32を比較的溝幅の狭いものとすることによって、上記の通りに濡れた路面等に前足部2Cが接したときの靴底1の排水性を高めつつ、前足部2Cに設けられた溝内への石などの異物の噛み込みを抑制することができる。
【0041】
本実施の形態において、靴底1は、後足部2Aにおいて、後方外向き溝22、32の溝幅が、前方外向き溝21、31の溝幅よりも大きい構成とするのが好ましい。
このような構成により、下り坂における靴底1の排水性を高めることができる。すなわち、靴底1を適用した靴を履いた下り坂の歩行時等において、歩行の動作に伴い、濡れた路面等に後足部2Aが接する際に、路面等の水が、後方外向き溝22、32に取り込まれるとともに後方外向き溝22、32に沿って斜め後方へ流れて、靴底1における後足部2Aの外側に排出される。このように、比較的溝幅の広い後方外向き溝22、32によって、下り坂の歩行時等において濡れた路面等に後足部2Aが接したときの靴底1の排水性を高めることができる。
一方、前方外向き溝21、31を比較的溝幅の狭いものとすることによって、上記の通りに濡れた路面等に後足部2Aが接したときの靴底1の排水性を高めつつ、後足部2Aに設けられた溝内への石などの異物の噛み込みを抑制することができる。
【0042】
また、本実施の形態においては、前方外向き溝21及び後方外向き溝22を湾曲した形状としているので、上記のように濡れた路面等を歩行する際に、前方外向き溝21ないし後方外向き溝22に取り込まれた水の外部への排出が促進されるようにして、靴底1の排水性ないし耐滑性をより高めることができる。
【0043】
さらに、本実施の形態においては、前足部2Cにおいて前方外向き溝21は斜め前方に向けて徐々に溝幅が広がる形状に形成され、後足部2Aにおいて後方外向き溝22は斜め後方に向けて徐々に溝幅が広がる形状に形成されているので、上記のように濡れた路面等を歩行する際に、前方外向き溝21ないし後方外向き溝22に取り込まれた水の外部への排出がさらに促進されるようにして、靴底1の排水性ないし耐滑性をより高めることができる。
【0044】
本実施の形態において、靴底1は、サイド陸部20、30において、1本の前方外向き溝21、31、1本の後方外向き溝22、32及び縦溝11、12の一部が、それぞれ湾曲するとともに互いに連結して、底面2の外方の外周縁の側からセンター陸部10の側に向けて凸となる山形溝を形成する構成とすることができる。
本実施の形態では、サイド陸部20においては、一番前方の前方外向き溝21と前方から3つ目の後方外向き溝22とが縦溝11の前方から2つ目の湾曲部分を介して互いに連結して山形溝を形成し、前方から2つ目の前方外向き溝21と前方から4つ目の後方外向き溝22とが縦溝11の前方から3つ目の湾曲部分を介して互いに連結して山形溝を形成し、前方から3つ目の前方外向き溝21と前方から5つ目の後方外向き溝22とが縦溝11の前方から4つ目の湾曲部分を介して互いに連結して山形溝を形成している。また、サイド陸部30においては、一番前方の前方外向き溝31と前方から2つ目の後方外向き溝32とが縦溝12の前方から2つ目の湾曲部分を介して互いに連結して山形溝を形成し、前方から2つ目の前方外向き溝31と前方から3つ目の後方外向き溝32とが縦溝12の前方から3つ目の湾曲部分を介して互いに連結して山形溝を形成し、前方から3つ目の前方外向き溝31と前方から4つ目の後方外向き溝32とが縦溝12の前方から4つ目の湾曲部分を介して互いに連結して山形溝を形成し、前方から4つ目の前方外向き溝31と前方から5つ目の後方外向き溝32とが縦溝12の前方から5つ目の湾曲部分部を介して互いに連結して山形溝を形成している。
このような構成とすることで、センター陸部10に設けられる括れ部分10aの形状を、滑らかに幅が増減する形状として、センター陸部10の耐久性を高めることができる。
また、上記構成ないし効果を奏する靴底1を、より美観の高いものとすることができる。
【0045】
本実施の形態において、靴底1は、それぞれのサイド陸部20、30の平均幅が、センター陸部10の平均幅の、1.5~3.0倍である構成とするのが好ましい。
サイド陸部20、30の幅に対して、センター陸部10の幅が広すぎると、前方外向き溝21、31及び後方外向き溝22、32を設けることが可能な領域が相対的に小さくなって靴底1の排水性を確保することが困難になるとともに、センター陸部10の剛性が高くなって靴底1の前後方向への柔軟性が低下する。一方、サイド陸部20、30の幅に対して、センター陸部10の幅が狭すぎると、センター陸部10による捻じれ防止の効果が低下するとともに、耐摩耗性も低下することになる。
これに対し、それぞれのサイド陸部20、30の平均幅を、センター陸部10の平均幅の、1.5~3.0倍とすることにより、靴底1の排水性、前後方向の柔軟性、捻じれ防止性及び耐摩耗性の各性能を、高い次元でバランス良く得ることができる。
【0046】
上記実施の形態において、靴底1は、ゴム成分と、フィラーとを含むゴム組成物から形成されたものとすることができる。
以下に、靴底1を形成するのに好ましいゴム組成物の、各成分について説明する。
【0047】
ゴム成分は、例えば、優れた補強性及び耐摩耗性を得ることができる観点から、ジエン系ゴムを含有するのが好ましい。
前記ゴム成分は、前記ジエン系ゴム100%で構成することもできるが、ジエン系以外のゴムを含有することもできる。なお、優れた補強性及び耐摩耗性を得ることができる観点から、前記ゴム成分におけるジエン系ゴムの含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
ここで、前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
また、非ジエン系ゴムとしては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。
なお、これらのゴムについては、1種単独で用いてもよいし、2種以上のブレンドとして用いてもよい。また、これらのゴムについては、未変性のゴムでも、変性されたゴムでもよい。
【0049】
前記ジエン系ゴムの中でも、前記ゴム成分はポリイソプレンゴムを5質量%以上含有することが好ましく、8質量%以上含むことがより好ましい。ゴム組成物の補強性をより向上できるためである。
なお、靴底1の耐滑性(グリップ性)を高いレベルで維持する観点からは、前記ゴム成分中の前記ポリイソプレンゴムの含有量が、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
ゴム組成物は、前記ゴム成分中に少なくともブタジエンゴムを含むことが好ましい。耐摩耗性向上の観点から、前記ゴム成分中はブタジエンゴムを20質量%以上含有することが好ましく、25%以上含むことがさらに好ましい。
なお、前記ゴム成分中の前記ブタジエンゴムの含有量が、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
ゴム組成物は、前記ゴム成分中に少なくともスチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。濡れた路面等での耐滑性(ウェットグリップ性)向上の観点から、前記ゴム成分中はスチレンブタジエンゴムを50質量%以上含有することが好ましく、55%以上含むことが更に好ましい。
なお、耐摩耗性を高いレベルで維持する観点からは、前記ゴム成分中の前記スチレンブタジエンゴムの含有量が、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
ゴム組成物に含むフィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、クレー、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
【0053】
フィラーとしては、例えばシリカ及びカーボンブラックを用いることができる。フィラーがシリカ及びカーボンブラックである場合、黒色の靴底1に使用することができる。また、フィラーとしては、シリカのみを用いることもできる。フィラーがシリカである場合、カラーの靴底1に使用することができる。
【0054】
シリカは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられる。シリカは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
シリカのBET比表面積は、適宜選択すればよく、例えば、40~350m2/g、または80~300m2/gであり、または150~280m2/gである。
【0056】
BET比表面積は、BET法により求めた比表面積のことであり、ASTM D4820-93に準拠して測定した値を指す。
【0057】
フィラー中のシリカの割合は、適宜調節すればよく、例えば、フィラーの総質量に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、または95質量%以上である。また、例えば、フィラー中のシリカの割合は、フィラーの総質量に対して、100質量%以下、100質量%未満、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下である。
【0058】
カーボンブラックとしては、例えば、高、中または低ストラクチャーのSAF、ISAF、ISAF-HS、IISAF、N339、HAF、FEF、GPF、SRFグレードなどのカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
カーボンブラックのBET比表面積は、適宜選択すればよく、例えば、40~350m2/g、または80~200m2/gである。
【0060】
フィラー中のカーボンブラックの割合は、適宜調節すればよく、例えば、フィラーの総質量に対して、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上である。また、例えば、フィラー中のカーボンブラックの割合は、フィラーの総質量に対して、100質量%以下、100質量%未満、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、または5質量%以下である。
【0061】
フィラーの配合量は、適宜調節すればよく、例えば、ゴム成分100質量部に対して、60~80質量部である。
【0062】
ゴム組成物には、ゴム成分とフィラーに加えて、ゴム工業界で通常使用される成分、例えば、スチレン・アルキレンブロック共重合体、熱可塑性樹脂、軟化剤、加硫促進剤、シランカップリング剤、加硫剤、グリセリン脂肪酸エステル、老化防止剤、加硫促進助剤、有機酸化合物などを、適宜選択して含有することができる。
【0063】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0064】
例えば、前記実施の形態においては、センター陸部10の9箇所に括れ部分10aを設けるようにしているが、少なくとも1箇所に括れ部分10aが設けられていればよい。また、括れ部分10aを設ける場所も種々変更可能である。
【0065】
サイド陸部20、30に設ける前方外向き溝21、31及び後方外向き溝22、32の本数や形状も種々変更可能である。この場合、前方外向き溝21、31及び後方外向き溝22、32の本数や形状に合わせて、縦溝11、12の形状も種々変更可能である。
また、サイド陸部20、30に前方外向き溝21、31及び後方外向き溝22、32を設けない構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0066】
1:靴底(履物底体)、2:底面、2a:前端、2b:後端、2A:後足部、2B:中足部、2C:前足部、3:ソール部、10:センター陸部、10a:括れ部分、11:縦溝、12:縦溝、20:サイド陸部、21:前方外向き溝、22:後方外向き溝、30:サイド陸部、31:前方外向き溝、32:後方外向き溝、L:軸線、P1:後端側変曲点、P2:前端側変曲点
図1