(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】楽音信号の増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 3/20 20060101AFI20231228BHJP
H03F 3/18 20060101ALI20231228BHJP
H03F 3/181 20060101ALI20231228BHJP
H03G 3/20 20060101ALI20231228BHJP
H03G 5/00 20060101ALI20231228BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H03F3/20
H03F3/18
H03F3/181
H03G3/20 Z
H03G5/00
H04R3/00 310
(21)【出願番号】P 2019239930
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志田 光男
(72)【発明者】
【氏名】森本 善信
(72)【発明者】
【氏名】高田 剛右
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-135177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0033318(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0136278(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第19953119(DE,A1)
【文献】特開2003-264435(JP,A)
【文献】特開2016-171559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
H04R 3/00
H03G 1/00-3/34
H03G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽音信号の入力端子と、
第1の電源及び第2の電源を用いて前記楽音信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路の出力端に接続された
共振回路とを含み、
前記共振回路は、
入力端と出力端とを有し、前記入力端が前記増幅回路の出力端に接続され、前記出力端がスピーカ負荷に接続されたコイルと、
前記コイルの出力端と前記スピーカ負荷との間に設けられた分岐点に接続されたアノードを有する第1のダイオードと、
前記第1のダイオードのカソードに接続された一端と前記第1の電源に接続された他端とを有する第1のコンデンサと、
前記分岐点に接続されたカソードを有する第2のダイオードと、
前記第2のダイオードのアノードに接続された一端と前記第2の電源に接続された他端とを有する第2のコンデンサと、
前記第1のダイオードのカソードと前記第1のコンデンサの一端との間に接続された一端と前記第2のダイオードのアノードと前記第2のコンデンサの一端との間に接続された他端とを有する抵抗と
を含む増幅器。
【請求項2】
前記共振回路の出力波形は、前記コイル、前記第1のコンデンサ、及び前記第2のコンデンサにより、前記増幅回路の出力端からの入力波形に応じた波形の立ち上がり時および立ち下がり時に複数のピークを有する共振波を含み、前記共振波の第1のピークのピーク値は、前記第1の電源又は前記第2の電源の電源電圧を超過する請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記共振回路は、前記増幅回路から正側の入力波形が入力される場合に、前記コイルと、前記第1のダイオードと、前記第1のコンデンサと、前記第1のダイオードのカソードと前記第1のコンデンサの一端との間に接続された一端と、他端が前記第2の電源に接続された第2のコンデンサの一端に接続された他端とを有する抵抗とを含む回路として動作する請求項1に記載の増幅器。
【請求項4】
前記共振回路は、前記増幅回路の出力端から負側の入力波形が入力される場合に、前記コイルと、前記第2のダイオードと、前記第2のコンデンサとを含み、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のコンデンサの一端との間に接続された一端と、他端が前記第1の電源に接続された第1のコンデンサの一端と接続された他端とを有する抵抗とを含む回路として動作する請求項3に記載の増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音信号の増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空管の電気的特性を模擬する回路をギターアンプに適用することが知られており、真空管アンプ独特の入出力特性を模擬する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ギター入力信号のレベルに応じて、フィルタ乗数を調整することにより、真空管アンプ独特の歪感を模擬した発明が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭59-051167号公報
【文献】特許第3336089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、真空管アンプの波形形状は模擬できても、電源電圧を超える波形を出力することができなかった。
【0005】
本発明は、電源電圧を超える楽音信号の波形を出力可能な増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施例の一つは、電源と、
楽音信号の入力端子と、
前記電源を用いて前記楽音信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路の出力端に接続され、前記電源の電圧値を超える波形を出力する回路と、を含む増幅器である。回路は、例えば跳ね上げ回路である。
【0007】
増幅器は、前記跳ね上げ回路の出力端がスピーカ負荷に直列接続されている、構成を採用し得る。また、増幅器における前記回路は、前記回路の出力波形を制御する跳ね上げ制御回路を含む構成を採用し得る。
【0008】
また、増幅器における、前記跳ね上げ回路は、誘導性負荷と容量性負荷とから構成される共振回路である構成を採用し得る。また、前記跳ね上げ回路は、誘導性負荷と、第1の容量性負荷と、前記誘導性負荷と前記容量性負荷との間に接続された整流素子とを含む共振回路である、構成を採用してもよい。また、前記跳ね上げ回路は、誘導性負荷と、第1の容量性負荷と、ダンピング要素を含む第2の容量性負荷と、前記誘導性負荷と前記第1の容量性負荷との間に接続された整流素子とを含む共振回路である、構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ギターアンプに適用可能な増幅器(パワーアンプ)の回路構成を示す。
【
図5】
図5は、真空管アンプの入出力波形の例を示す。
【
図6】
図6は、跳ね上げ回路に対する入力波形と、第1~第3の跳ね上げ回路の出力波形を示す。
【
図7】
図7は、第1の跳ね上げ回路の出力波形を示す。
【
図8】
図8は、第3の跳ね上げ回路の出力波形を示す。
【
図9】
図9は、第3の跳ね上げ回路に正側の入力信号が入力される場合における等価回路を示す。
【
図10】
図10は、第3の跳ね上げ回路に負側の入力信号が入力される場合における等価回路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、増幅回路の実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、実施形態の構成に限定されない。
図1は、ギターアンプに適用可能な増幅器1(増幅回路:パワーアンプ)の回路構成を示す。増幅器1は、真空管アンプを模擬した波形が得るように構成される。
図2は、電源電圧VCC及びVEEを示す。
【0011】
図1において、オペアンプIC1、抵抗R1及び抵抗R2は、入力端子t1から入力される入力信号e1の増幅回路10である。所定周波数のパルスである入力信号e1を出力する発振器12が入力端子t1に接続されている。入力信号は、ギターアンプに接続されるエレキギターの演奏による楽音信号である。なお、
図1に示す増幅回路10は、非反転増幅回路であるが、反転増幅回路を適用してもよい。
【0012】
増幅器の出力端子t2には、スピーカ負荷30が接続される。スピーカ負荷30は、スピーカユニットの純抵抗成分である抵抗R5と、寄生誘導成分L2とからなる。スピーカユニットは、一般的なギターアンプに採用されるスピーカユニットを想定する。
【0013】
増幅回路10と出力端子t2との間には、跳ね上げ回路20(第1の跳ね上げ回路)が挿入されている。すなわち、増幅回路10からの信号は、跳ね上げ回路20を通過した後に、スピーカ負荷30に接続される。跳ね上げ回路20は、
図1に示す例では、誘導性負荷であるコイルL1と、容量性負荷であるコンデンサC1及びC2とから構成される共振回路である。但し、
図3に示すように、ダンピング抵抗R6及びR7を追加した共振回路である跳ね上げ回路20A(第2の跳ね上げ回路)を採用してもよい。或いは、
図4に示すように、整流素子であるダイオードD1及びD2と、抵抗R3とを追加した跳ね上げ回路20B(第3の跳ね上げ回路)の構成を採用してもよい。
【0014】
図
5は、真空管アンプに、周期1kHzの矩形波(
図4の上段)を入力した場合に観測されるスピーカ負荷への出力波形(
図4の下段)を示す。真空管アンプによれば、以下の特徴を有する、いわゆる跳ね上がり波形出力が観測される。
(1)波形の立ち上がり及び立下り時に、特に大きく跳ね上がる(オーバーシュートを生じる)。
(2)跳ね上がりのピーク電圧値(波高値)は、電源電圧よりも大きな値となる。
【0015】
図1に示した増幅器に対する入力信号(e1)として、正側波形と負側波形による周期1kHzの矩形波を採用する。これは、エレキギターの出力楽音波形の想定のうち、ギターをピッキングした直後のいわゆるアタック波形の特性を観測するのに適した波形である。
【0016】
図6は、跳ね上げ回路20、20A、及び20Bの入出力波形を示す。
図6の最上段は、
図1の観測点(2)における波形、すなわち、跳ね上げ回路に対する入力波形を示す。
図6の上から2段目、及び
図7は、跳ね上げ回路20を採用した場合における、
図1中の観測点(3)の波形、すなわち、跳ね上げ回路20の出力波形を示す。
【0017】
入力波形に対し、跳ね上げ回路20の出力波形は、波形の立ち上がり時及び立下り時において、複数のピークを有する共振波(リンギング)が発生する。共振を含めた第1ピークの波高値は電源電圧(±40V)を超えてり、いわゆる跳ね上げ効果が発生している。これは、波形の立ち上がりと立ち下り時においてL1と(C1+C2)による共振が起こ
るためである。
【0018】
しかし、
図7に示すように、第1ピークのオーバーシュートに続いて、第1ピークのア
ンダーシュートやその後の第2ピーク以降のピークが発生し、波打ちながら減衰する状態となっている。このように、
図5に示したような、真空管アンプの波形の特徴
である、波形の立上がリ時及び立下り時に特に大きく跳ね上がる(跳ね下がる)波形とならない。
【0019】
図6の上から3段目に示す出力波形は、最上段の入力波形に対する、跳ね上げ回路20Aの出力波形(
図1の観測点(3)での波形)を示す。跳ね上げ回路20の出力波形(
図6中の上から2段目)に比べると、抵抗R6及びR7によるダンピング効果が加わること
により、コイルL1とコンデンサC1の共振、及びコイルL1とコンデンサC2の共振が抑
制されている。
【0020】
もっとも、跳ね上げ回路20Aの出力波形でも、第1ピークのオーバーシュート及び第1ピークのアンダーシュートに続く、第2以降のピークが発生しており(リンギングが生じており)、真空管アンプの出力波形(
図5)のような、1回のオーバーシュートやアンダーシュートがおきる波形とならない。
【0021】
図6の上から4段目(最下段)、及び
図8に示す出力波形は、最上段の入力波形に対する、跳ね上げ回路20Bの出力波形(
図1の観測点(3)での波形)を示す。跳ね上げ回路20Bの出力波形では、入力パルスの立ち上がり及び立ち下がりに対応する立ち上がり時及び立下り時において、第1ピークを有する共振波(オーバーシュート及びアンダーシュート)が発生する。共振を含めた第1ピークの波高値は電源電圧(±40V)を超えており、いわゆる跳ね上げ効果が発生している。
【0022】
また、跳ね上げ回路20及び20Aとの比較において、跳ね上げ回路20Bでは、第1ピークのオーバーシュート及びアンダーシュート以降における振れ幅が殆どなく、リンギングが生じていないと云える。すなわち、真空管アンプの出力波形に近い波形となる。
【0023】
図9は、跳ね上げ回路20Bに対して正側の入力波形を入力した場合における、跳ね上げ回路20Bの等価回路を示す。等価回路は、第1の容量性負荷であるコンデンサC1と、ダンピング要素である抵抗R3を含む第2の容量性負荷であるコンデンサC2と、誘導性負荷であるコイルL1とコンデンサC1との間に接続された整流素子であるダイオードD1とを含む。この回路を用いて跳ね上げ回路20Bの動作を説明すると、コイルL1と、コンデンサC1及びC2との共振によって、
図8に示した第1ピークのオーバーシュートが発生する。このとき、ダンピング抵抗R3を介さないコンデンサC1とコイルL1と
の共振が支配的な影響を与える。この間、ダンピング抵抗R3を介してコンデンサC2に遅れて電荷がチャージされる。
【0024】
第1ピークのオーバーシュートの後では、コイルL1とコンデンサC1との共振により
第1ピークのアンダーシュートやその後の第2ピーク以降のピークを誘発する。しかし、コンデンサC2に電荷が遅れてチャージされていることにより、抵抗R3とコンデンサC2によって構成される積分回路により、コイルL1とコンデンサC1とによる共振により
誘発される第1ピークのアンダーシュートやその後の第2ピーク以降のピークの発生が抑
制される。
【0025】
図10は、跳ね上げ回路20Bに対して負側の入力波形を入力した場合における、跳ね上げ回路20Bの等価回路を示す。
図10の構成は、
図9の構成との比較において、コンデンサC1とコンデンサC2との機能的役割が入れ替わることになるが、上記した正側波形入力時の説明と同じ原理で動作する。
【0026】
なお、コイルLやコンデンサCの代わりに、電子回路等で構成した電子誘導性負荷や電子容量性負荷を適用してもよい。以上のように、実施形態に係る増幅器1の跳ね上げ回路20、20A、20Bによれば、跳ね上げ回路によって、入力パルスの立ち上がり及び立ち下がりに応じて、電源電圧を超えるオーバーシュート及びアンダーシュートが生じた出力波形を得ることができる。また、跳ね上げ回路20Aや20Bによれば、リンギングを抑えて真空管アンプの出力波形に近似した出力波形を得ることができる。実施形態にて示した構成は、目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・増幅器
10・・・増幅回路
20、20A、20B・・・跳ね上げ回路
30・・・スピーカ負荷