(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系複合フィルムおよびそれを用いた積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B32B27/32
(21)【出願番号】P 2020038445
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019077508
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】三好 克典
(72)【発明者】
【氏名】豊島 裕
(72)【発明者】
【氏名】松浦 洋一
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168151(JP,A)
【文献】特開2015-168150(JP,A)
【文献】特開2013-079085(JP,A)
【文献】特開2015-212078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(A)の少なくとも片面にシール層(B)が積層されてなるポリプロピン系複合フィルムであって、
基材層(A)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)を75~90重量%、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)を10~25重量%含む樹脂組成物であり、
シール層(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)を30~40重量%、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)を30~50重量%、ホモポリプロピレン(b3)を15~25重量%、直鎖状低密度ポリエチレン(b4)を3~10重量%、結晶核剤(b5)を50~5000ppm含み、前記の(b1)、(b2)、(b5)が下記の条件を満たす樹脂組成物であることを特徴とするポリプロピン系複合フィルム。
プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1):メルトフローレートが1~3g/10分、20℃キシレン不溶部の割合が75~90重量%、該不溶部の極限粘度([η]
H)が1.7~2.2dl/g、20℃キシレン可溶部の割合が10~25重量%、該可溶部の極限粘度([η]
EP)が2.5~3.5dl/g
プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2):メルトフローレートが4~10g/10、20℃キシレン不溶部の割合が80~95%重量%、該不溶部の極限粘度([η]
H)が1.4~1.8dl/g、該可溶部の極限粘度([η]
EP)が1.5~2.0dl/g
結晶核剤(b5):リン酸金属塩およびジカルボン酸金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の結晶核剤
【請求項2】
フィルム厚さが20~150μmで、基材層(A)とシール層(B)の厚さ比率が、3:1~15:1である請求項1に記載のポリプロピレン系複合フィルム。
【請求項3】
シール層(B)の中心線平均表面粗さ(Ra)が0.15μm以上である請求項1または2に記載のポリプロピレン系複合フィルム。
【請求項4】
シール層(B)どうしのブロッキング剪断力が10N/12cm
2以下である請求項1~3のいずれかに記載のポリプロピレン系複合フィルム。
【請求項5】
耐熱基材層、ガスバリア層、請求項1~4のいずれかに記載のポリプロピレン系複合フィルムがこの順で、シール層(B)が耐熱基材層の反対側になるように積層された積層体であって、シール層(B)の面どうしを230℃でヒートシールした後、130℃・30分のレトルト処理した後の剥離強度が、23℃の雰囲気下で30N/15mm以上であり、80℃の雰囲気下で1~10N/15mmであることを特徴とする積層体。
【請求項6】
耐熱基材層が、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルムおよび印刷紙からなる群から選ばれる一つである請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
ガスバリア層が、金属箔、金属蒸着二軸延伸ポリアミドフィルムおよび金属蒸着二軸延伸ポリエステルフィルムからなる群から選ばれる一つである請求項5または6に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト用途に好適に使用できるポリプロピレン系複合フィルムおよびそれを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、120℃~135℃の高温でレトルト殺菌されるレトルト包装用のシーラントフィルムとしては、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする無延伸フィルム(以下CPPと称することがある。)が使用されてきた。その主たる使用方法は、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(以下PETと称することがある。)、ナイロン延伸フィルム(以下ONと称することがある。)、アルミニウム箔(以下Al箔と称することがある。)等のラミネート基材層と貼合わせ、PET/ON/Al箔/CPP、PET/Al箔/ON/CPP、または、PET/Al箔/CPPなる構成の積層体とした後、製袋して使用されるというものである。また、最内面を構成するCPPには耐低温衝撃性、ヒートシール性、耐ブロッキング性等の物性が要求されてきた。
【0003】
また、近年のレトルト食品の普及に伴い、包装袋外観への要求レベルが高くなってきており、レトルト殺菌後、積層体表面に生じる微細な凹凸状外観、いわゆるユズ肌の発生を極力抑えることが望まれ、更に、レトルト食品包装袋使用時の利便性から、電子レンジ加熱時にシール部から通蒸することにより、包装袋が破袋して内容物が飛散あるいは洩出することを防止する機能の要望がある。
【0004】
しかしながら、レトルト用のCPPでは滑剤添加に制限があるため滑り性が悪く、フィルム製膜工程やスリット工程でしわが入り、また、他基材と積層した包装材として長期保存や夏場の高温状態で保存すると、積層体のCPPとラミネート基材層が粘着するいわゆるブロッキング現象が起こり、積層フィルムが巻き出し難くなって製袋作業性が低下し、また、内容物充填作業性も著しく低下する問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、従来、ブロッキング防止剤、例えば耐水表面処理をしたデンプン等の粉をシーラントにふりかけてブロッキングを防止する方法、いわゆるパウダリング法によりブロッキングを回避する方法が採用されてきた。しかし、パウダリング法は、製袋の外観が損なわれたり、パウダーが充填する食品に混入し、味覚に悪影響をおよぼしたりする等、商品価値を落とす要因となっており、パウダリングの必要のない、いわゆるノンパウダーで使用でき、かつ包装材または包装袋のシーラントとしてレトルト用途に好適に使用できるポリプロピレン系フィルムの開発が強く望まれていた。
【0006】
上記問題を解決する方法として、特許文献1では、基材層とシーラント層とを積層した積層フィルムであって、かつ前記の基材層が多層共押出し製膜で形成され、当該多層共押出し製膜の最外層を滑剤、および/またはアンチブロッキング剤を含有する易滑性層とする積層体、およびそれを用いた包装容器として提案がなされているが、有機滑剤を含有しているため、シーラント押出工程、スリット工程、製袋工程においてロールに有機滑剤が転写して生産性が悪くなり、また、有機滑剤が充填する食品に混入し、味覚に悪影響をおよぼしたりする等、商品価値を落とす要因となっていた。
【0007】
特許文献2では、(1)密度0.930g/cm3以上、ビカット軟化点が105~125℃、かつメルトフローレートが2~ 25g/10分の範囲にあるメタロセン触媒又はシングルサイト触媒による中密度ポリエチレンが40重量% ~90重量% と、(2)密度0.929g/cm3以下のメタロセン触媒又はシングルサイト触媒による直鎖状低密度ポリエチレンが10重量%~60重量%からなるポリエチレン組成物を押し出しコーティングにより基材にラミネート層を形成する際に、表面粗度Rzを5~12μm に調整すると共に穴径を小さくし、かつ穴数を少なくした冷却ロールを使用して粉ふりかけなしで加工できるとして提案がなされているが、レトルトの主流であるハイレトルト用途(125℃~135℃殺菌)に対応できるものではなかった。
【0008】
また、特許文献3では、レトルト用の低温衝撃性、ゆず肌、滑り性、ノンパウダーを目的にした処方として、基材層をプロピレン・エチレンブロック共重合体+直鎖状低密度ポリエチレンとし、シール層をプロピレン・エチレンブロック共重合体+プロピレン・エチレンランダム共重合体+プロピレン重合体+直鎖状低密度ポリエチレンの2層積層のフィルムが提案されているが、従来のパウダリング法に比べると滑り性に劣り、また、レトルト食品を電子レンジ等で加熱する際に、シール部からの通蒸が不十分で、包装袋が破袋して内容物が飛散あるいは洩出する問題があった。
【0009】
また、特許文献4では、電子レンジ等で加熱する際にシール力が低下して通蒸するテープをシール層の一部に挿入する構成の包装袋が提案されているが、ラミネートや製袋工程が複雑となり、製袋品の歩留まりが悪く、コスト高になる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-284126号公報
【文献】特開2004-338147号公報
【文献】特開2015-168151号公報
【文献】特開2005-178813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者らは従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、前記問題であった課題を解決するポリプロピレン系複合フィルムおよびそれを用いた積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、基材層(A)の少なくとも片面にシール層(B)が積層されてなるフィルムであって、基材層(A)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)を75~90重量%、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)を10~25重量%含む樹脂組成物であり、シール層(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)を30~40重量%、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)を30~50重量%、ホモポリプロピレン(b3)を15~25重量%、直鎖状低密度ポリエチレン(b4)を3~10重量%、結晶核剤(b5)を50~5000ppm含み、前記の(b1)、(b2)、(b5)が下記の条件を満たす樹脂組成物であるポリプロピン系複合フィルムである。
プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1):メルトフローレートが1~3g/10分、20℃キシレン不溶部の割合が75~90重量%、該不溶部の極限粘度([η]H)が1.7~2.2dl/g、20℃キシレン可溶部の割合が10~25重量%、該可溶部の極限粘度([η]EP)が2.5~3.5dl/g
プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2):メルトフローレートが4~10g/10分、20℃キシレン不溶部の割合が80~95%重量%、該不溶部の極限粘度([η]H)が1.4~1.8dl/g、該可溶部の極限粘度([η]EP)が1.5~2.0dl/g
結晶核剤(b5):リン酸金属塩およびジカルボン酸金属塩からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の結晶核剤。
【0013】
また、本発明は、耐熱基材層、ガスバリア層、上記に記載のポリプロピレン系複合フィルムがこの順で、シール層(B)が耐熱基材層の反対側になるように積層された積層体であって、シール層(B)の面どうしを230℃でヒートシールした後、130℃・30分のレトルト処理した後の剥離強度が、23℃の雰囲気下で30N/15mm以上であり、80℃の雰囲気下で1~10N/15mmである積層体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、包装袋のシーラントとして、ヒートシール性と耐低温衝撃性に優れ、耐ブロッキング性に優れるためにノンパウダーで使用でき、耐ユズ肌性に優れることでレトルト用途にも好適に使用でき、さらに、レトルト食品を充填した包装袋を電子レンジ等で加熱する際にシール力が低下して通蒸することにより、包装袋が破袋して内容物が飛散あるいは洩出することを防止できるポリプロピレン系複合フィルムおよびそれを用いた積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のポリプロピレン系複合フィルムおよびそれを用いた積層体について具体的に説明する。
【0016】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、基材層(A)とシール層(B)からなるポリプロピレン系複合フィルムであって、基材層(A)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)75~90重量%と、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)を10~25重量%混合した樹脂組成物からなる。
【0017】
ここで、基材層(A)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)は、該ブロック共重合体の20℃キシレン不溶部の割合が75~90重量%で、可溶部の割合が10~25重量%であり、該不溶部の極限粘度(以下、[η]Hと称す)が1.7~2.2dl/gであり、該可溶部の極限粘度(以下、[η]EPと称す)が2.5~3.5dl/gであることが好ましい。なお上記20℃キシレン不溶部、および該可溶部とは、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体ペレットを沸騰キシレンに完全に溶解させた後20℃に降温し、4時間以上放置し、その後これを析出物と溶液とに濾別した際、析出物を20℃キシレン不溶部と称し、溶液部分(濾液)を乾固して減圧下70℃で乾燥して得られる部分を該20℃キシレン可溶部と称す。
【0018】
かかる20℃キシレン不溶部はプロピレン・エチレンブロック共重合体中のポリプロピレンからなる海成分に相当し、キシレン可溶部はポリエチレンおよびエチレン・プロピレン共重合ゴム成分からなる島成分に相当する。これら不溶部と可溶部の割合については、不溶部の割合が80~85重量%であることがより好ましい。該不溶部が75重量%より小さければ、耐屈曲白化性が低下し、該不溶部が90重量%より大きいと、耐熱性が不足する。
【0019】
また、キシレン不溶部の極限粘度([η]H)は、1.7~2.2dl/gの範囲であり、より好ましくは、1.8~2.0dl/gの範囲である。該極限粘度([η]H)が1.7dl/gより小さいと、海成分のポリプロピレンの分子量が小さいことで耐低温衝撃性が不十分となり、2.2dl/gより大きいと、反対にポリプロピレンの分子量が大きくなりすぎて、耐屈曲白化性が低下する。
【0020】
また、キシレン可溶部の極限粘度([η]EP)は、2.5~3.5dl/gの範囲であり、より好ましくは、2.7~3.3dl/gの範囲である。キシレン可溶部の極限粘度([η]EP)が2.5dl/gより小さいとフィルムがベタつくなど耐ブロッキング性が悪化し、3.5dl/gより大きいとポリエチレンおよびエチレン・プロピレン共重合ゴム成分からなる島成分の分散粒子径が大きくなり、ゲル、フィッシュアイ等が発生する懸念があり、油性食品を包装した場合、耐屈曲白化性が低下し、また、耐ユズ肌性が低下する。
【0021】
なお、上記キシレン可溶部のエチレン含有量は20~50重量%の範囲が好ましく、より好ましくは、25~40重量%の範囲である。該含有率が20重量%より小さいと低温での耐低温衝撃性が低下し、逆に50重量%より大きいと耐ブロッキング性が不十分となりやすい。
【0022】
また、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)のメルトフローレート(単位g/10分、以下、MFRと略称する)としては、キャスト成形性の観点及び耐低温衝撃性の低下やゲル、フィッシュアイの発生懸念の観点から1~3g/10分の範囲が好ましく、より好ましくは、1~2.5g/10分の範囲である。MFRが1g/10分未満では溶融粘度が高すぎて、製膜時に安定して口金から押出しするのが難しく、MFRが3g/10分を越えると耐低温衝撃性が低下する。
【0023】
ここで、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)のキシレン不溶分及び可溶分の極限粘度、及びMFRの調整方法としては、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体の重合時の各工程で水素ガスや金属化合物などの分子量調整剤を加える方法、パウダー状で得られた重合体を溶融混練しペレタイズする際に添加剤を添加する方法、パウダーで得られた重合体を溶融混練しペレタイズする際の混練条件を調整する方法等を挙げることができる。
【0024】
なお、本発明に用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体の製造方法としては、触媒を用いて原料であるプロピレンやエチレンなどを重合させる方法が挙げられる。ここで、触媒としてはチーグラー・ナッタ型やメタロセン触媒などを用いることができ、例えば、特開平07-216017号公報に挙げられるものを好適に用いることができる。具体的には(1)Si-O結合を有する有機ケイ素化合物及びエステル化合物の存在下、一般式Ti(OR)aX4-a(式中、Rは炭素数が1~20の炭化水素基、Xはハロゲン原子、0<a≦4を満たし、好ましくは2≦a≦4、特に好ましくはa=4である。)で表されるチタン化合物を有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エステル化合物で処理した後、エーテル化合物と四塩化チタンの混合物もしくはエーテル化合物と四塩化チタンとエステル化合物の混合物で処理することにより、得られる3価のチタン化合物含有固体触媒、(2)有機アルミニウム化合物、(3)電子供与性化合物(ジアルキルジメトキシシラン等が好ましく用いられる)よりなる触媒系が挙げられる。
【0025】
上記プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造方法として、生産性及び耐低温衝撃性の観点から、第1工程で実質的に不活性剤の不存在下にプロピレンを主体とした重合体部分を重合し、次いで第2工程で気相中にてエチレン・プロピレン共重合体を重合する方法を用いるのが好ましい。
【0026】
ここでプロピレンを主体とした重合体部分は、耐熱性、剛性などの観点から、融点が160℃以上のプロピレン単独重合体が好ましいが、融点が160℃以上の範囲のものであれば、プロピレンと少量のエチレン、1-ブテンなどのα-オレフィンとの共重合体であってもよい。
【0027】
本発明において、基材層(A)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)に、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)を混合することにより、プロピレン・エチレンブロック共重合体よりも低いガラス転移点の成分を増やすことで耐低温衝撃性と耐折曲げ白化性を向上させることができ、レトルト用途包装材に使用する際に、内容物の油性食品によるフィルムの膨潤による凹凸(ユズ肌)の発生を抑制することができる(耐ユズ肌性向上)。
【0028】
上記直鎖状低密度ポリエチレン(a2)は、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等との共重合体であり、一般的に知られている方法によって製造され市販されているものが使用できる。直鎖状低密度ポリエチレン(a2)の密度は0.900~0.935/cm3のものが好ましく、より好ましくは、0.915~0.930/cm3の範囲である。直鎖状低密度ポリエチレン(a2)の密度が0.900g/cm3未満では、ヒートシール力が低下することがあり、0.935g/cm3より大きい場合は、分散性が低下して耐ユズ肌性、耐屈曲白化性、耐低温衝撃性が低下することがある。
【0029】
また、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)のMFRは、1~20g/10分の範囲であり、より好ましくは、3~10g/10分の範囲であることが、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)への分散性が良くて、耐ユズ肌性と耐屈曲白化性が向上するので好ましい。
【0030】
基材層(A)は、上記の直鎖状低密度ポリエチレンを10~25重量%混合することが必要である。10重量%未満の場合、耐ユズ肌性、耐屈曲白化性、耐低温衝撃性が低下し、25重量%を超える場合は、分散性が低下して製膜においてスジ状の欠点ができ、また、基材層(A)とシール層(B)間の層間密着力が低下して、レトルト処理後のヒートシール強度が低下する。
【0031】
基材層(A)を構成する樹脂は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)と直鎖状低密度ポリエチレン(a2)のみとすることが耐低温衝撃性と耐ユズ肌性を発現するために好ましいが、環境的な理由からフィルム製膜時の厚さ調整部や除去されたエッジ部分が回収され、シール層(B)の樹脂とともに基材層(A)の原料として再利用されることから、これら特性を損なわない範囲で他の樹脂が添加されることは許容される。基材層(A)におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)および直鎖状低密度ポリエチレン(a2)以外の樹脂の割合は上記理由により20重量%未満が好ましく、さらに好ましくは10重量%未満である。
【0032】
次に、シール層(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)30~40重量%と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)30~50重量%と、ホモポリプロピレン(b3)15~25重量%と、直鎖状低密度ポリエチレン(b4)3~10重量%と、結晶核剤(b5)50~5000ppmを混合した樹脂組成物からなる。
【0033】
シール層(B)の機能は、耐低温衝撃性、ヒートシール性、シール層どうしの耐ブロッキング性、電子レンジ加熱時の通蒸性であり、これらの樹脂を上記割合で配合することで、これらの特性がバランス良く発現できる。
【0034】
本発明におけるシール層(B)に用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)は、メルトフローレートが1~3g/10分の範囲で、20℃キシレン不溶部の割合が75~90重量%で、該不溶部の極限粘度([η]H)が1.7~2.2dl/gであり、20℃キシレン可溶部の割合が10~25重量%で、該可溶部の極限粘度([η]EP)が2.5~3.5dl/gである。
【0035】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)のMFRは、2~3g/10分の範囲であると、製膜性が安定してより好ましい。1g/10分未満では溶融粘度が高すぎて、他の樹脂の分散性が低下して、レトルト処理後の耐ユズ肌性、耐屈曲白化性が低下する。また、MFRが3g/10分を越えると耐低温衝撃性が低下する。
【0036】
該(b1)の不溶部の割合は75~90重量%の範囲であり、より好ましくは78~85重量%の範囲である。該(b1)の不溶部が75重量%より少ないと耐屈曲白化性が低下し、該(b1)の不溶部が90重量%より多いと、耐低温衝撃性が低下する。
【0037】
また、該(b1)のキシレン不溶部の極限粘度([η]H)は、1.7~2.2dl/gであり、より好ましく、1.8~2.0dl/gの範囲である。該極限粘度([η]H)が1.7dl/gより小さいと耐低温衝撃性が低下し、2.2dl/gより大きいと耐屈曲白化性が低下する。また、該(b1)のキシレン可溶部の極限粘度([η]EP)が2.5dl/gより小さいと耐ブロッキング性が低下し、3.5dl/gより大きいと耐ユズ肌性が低下する。
【0038】
本発明におけるシール層(B)の組成中のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)の役割は、シール層(B)の表面を粗面化して耐ブロッキング性を向上させて、ノンパウダーの機能を付与することである。
【0039】
該プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)は、20℃キシレン不溶部の割合が80~95重量%で、該(b2)の不溶部の極限粘度([η]H)が1.4~1.8dl/gであり、20℃キシレン可溶部の割合が5~20重量%で、該(b2)の可溶部の極限粘度([η]EP)が1.5~2.0dl/gであることを満たす必要がある。該(b2)の20℃キシレン不溶部の割合は、より好ましくは85~90重量%である。20℃キシレン不溶部の割合が80重量%未満で、可溶部の割合が20重量%を超えると、レトルト処理後のヒートシール力が低下し、耐ユズ肌性が低下する。20℃キシレン不溶部の割合が95重量%を超え、可溶部の割合が5重量%未満では、シール層表面の粗面化が不十分となり、耐ブロッキング性が低下し、耐低温衝撃性が不十分となる。
【0040】
また、該(b2)のキシレン不溶部の極限粘度([η]H)は、好ましくは1.5~1.7dl/gの範囲である。キシレン不溶部の極限粘度([η]H)が1.4dl/gより小さいと、レトルト処理後のヒートシール強度、耐低温衝撃性が不十分となり、1.8dl/gより大きいと耐ユズ肌性や耐屈曲白化性が低下する。
【0041】
また、該(b2)のキシレン可溶部の極限粘度([η]EP)は、好ましくは1.6~1.8dl/gの範囲である。キシレン可溶部の極限粘度([η]EP)が1.5dl/gより小さいとフィルムがベタつくなど耐ブロッキング性が低下し、2.0dl/gより大きいと、レトルト処理後の耐屈曲白化性が不十分となる。
【0042】
また、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)のMFRは、シール層(B)の表面を微細に粗面化するために4~10g/10分の範囲で、好ましくは、4~7g/10分の範囲である。MFRが4g/10分未満では表面粗さが小さくなって耐ブロッキング性が低下し、MFRが10g/10分を超えると耐低温衝撃性が低下する。
【0043】
該シール層(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)を、30~50重量%混合する必要があり、好ましくは35~45重量%の範囲である。30重量%未満では表面の凹凸形成が不十分で表面粗さが小さく、耐ブロッキング性が低下してノンパウダー化が不十分となり、50重量%を超えると、耐低温衝撃性が低下する。
【0044】
本発明におけるシール層(B)のホモポリプロピレン(b3)とは、プロピレン単独の重合体であるホモポリプロピレンである。ホモポリプロピレン(b3)を混合することで耐ブロッキング性がより改善され、更に、80℃以上でヒートシール強度が低下して、レトルト食品包装材を電子レンジで加熱する際に通蒸することができる。
【0045】
該(b3)の230℃でのMFRは、1~20g/10分の範囲が好ましく、より好ましくは1~10g/10分の範囲、さらに好ましくは5~8g/10分の範囲である。該(b3)のMFRが1g/10分未満では、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)および(b2)への分散性が悪くなることがあり、80℃以上でヒートシール強度が高く、レトルト食品包装材を電子レンジで加熱する際の通蒸性が低下することがある。MFRが20g/10分を超えると耐低温衝撃性とレトルト処理後のヒートシール強度が低下することがある。
【0046】
シール層(B)のホモポリプロピレン(b3)の混合量は、15~25重量%であることが必要である。ホモポリプロピレン(b3)が15重量%未満の場合、耐ブロッキング性の改善と電子レンジで加熱する際の通蒸性が十分でなく、25重量%を超えると、耐低温衝撃性とレトルト処理後のヒートシール強度が低下する。
【0047】
本発明におけるシール層(B)の直鎖状低密度ポリエチレンは(b4)は、耐ユズ肌性と耐屈曲白化性の改善を目的に混合される。
【0048】
該直鎖状低密度ポリエチレン(b4)は、上記基材層(A)の直鎖状低密度ポリエチレン(a2)同様に、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等との共重合体であり、一般的に知られている方法によって製造され市販されているものが使用できる。該(b4)の密度は、0.900~0.935/cm3であることが好ましく、より好ましくは、0.915~0.930/cm3の範囲である。該(b4)の密度が0.900g/cm3未満ではレトルト処理後のヒートシール力が低下することがあり、0.935g/cm3より大きい場合は、分散性が低下し、耐ユズ肌性と耐屈曲白化性が低下することがある。
【0049】
また、直鎖状低密度ポリエチレン(b4)のMFRは1~20g/10分の範囲であることが好ましい。MFRが1g/10分未満では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)への分散性が悪くなって耐ユズ肌性と耐屈曲白化性が低下し、MFRが20g/10分を超えるとレトルト処理後のヒートシール力が低下することがある。
【0050】
シール層(B)への直鎖状低密度ポリエチレン(b4)の混合量は、3~10重量%であることが必要である。混合量が3重量%未満の場合は耐ユズ肌性と耐屈曲白化性が低下し、10重量%を超えると耐ブロッキング性とレトルト処理後のヒートシール強度が低下する。
【0051】
さらに、本発明におけるシール層(B)に、リン酸金属塩、ジカルボン酸金属塩の少なくとも1種の結晶核剤(b5)を50~5000ppm、より好ましくは100~3000ppm混合することにより、シール層表面の結晶性を高くして微細な凹凸を形成して表面粗さと耐ブロッキング性を満足させることができ、更に、電子レンジ加熱の際に通蒸できるように80℃での剥離強度を1~10N/15mmにコントロールすることができる。
【0052】
当該結晶核剤(b5)が50ppm未満の場合は、耐ブロッキング性が低下し、電子レンジ加熱の際の通蒸性も不十分となる。5000ppmより多い場合では、更なる耐ブロッキング性の向上は認められず、レトルト処理により臭気が出ることがあるので、好ましくない。
【0053】
本発明における、該リン酸金属塩としては、リン酸エステル系化合物等を挙げることができ、なかでも芳香族リン酸エステル金属塩が本発明の目的のため好ましい。
【0054】
具体的には、ナトリウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-エチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-i-プロピルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-ビス(4-t-オクチルフェニル)フォスフェート、カリウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、マグネシウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、アルミニウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4-i-プロピル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス-(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-チオビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-チオビス-(4-t-オクチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-(4,4’-ジメチル-5,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[(4,4-’ジメチル-6,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4-m-ブチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-エチルフェニル)フォスフェート、カリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム-ビス[2,2-’エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニウム-トリス[2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェル)フォスフェート]およびアルミニウム-トリス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]およびこれらの2種以上の混合物を例示することができる。
【0055】
特にナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
【0056】
また、該ジカルボン酸金属塩は、特開2015-212078号公報に開示されている下記の構造式(i)で表される化合物である。
【0057】
【0058】
(式(i)中、M1およびM2は、ナトリウム、水素、カルシウム、ストロンチウムまたはリチウムであり、同じものであっても異なるものであっても良い。R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、水酸基、炭素数1~9のアルコキシ基、炭素数1~9のアルキレンオキシ基、アミノ基、炭素数1~9のアルキルアミノ基、またはフェニル基であり、同じものであっても異なるものであっても良い。R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11のうちの任意の2つが結合して、それらが結合している式(i)に描かれたシクロヘキサン環炭素原子と一緒に、炭素数3~6の飽和炭化水素環を形成していても良い。R2およびR3は、トランス配置であっても、シス配置であっても良い。
【0059】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1~9のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。炭素数1~9のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。炭素数1~9のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。炭素数1~9のアルキレンオキシ基としては、例えば、下記の式で表される基等が挙げられる。
【0060】
R(R’O)n-
(式中、Rは、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、R’は、炭素数2または3個のアルキレン基を表し、nは、2~4の整数を表す。ただし、RおよびR’の合計の炭素数は、9個以下である。)
炭素数1~9のアルキレンオキシ基が、上式で表される基である場合に、好ましくは、H(CH2CH2O)2-、H(CH2CH2O)3-、H(CH2CH2O)4-、CH3(CH2CH2O)2-、CH3(CH2CH2O)3-、CH3(CH2CH2O)4-、CH3CH2(CH2CH2O)2-、CH3CH2(CH2CH2O)3-、(CH3)2CH(CH2CH2O)2-、(CH3)2CH(CH2CH2O)3-、H((CH3)CHCH2O)2-、H((CH3)CHCH2O)3-、CH3((CH3)CHCH2O)2-、またはCH3CH2((CH3)CHCH2O)2-である。
【0061】
ジカルボン酸金属塩として、好ましくは、下記の構造式(ii)で示されるジナトリウム-ビシクロ(2,2,1)ヘプタン-2,3-ジカルボキシラート、または下記構造式(iii)で示される1,2-シクロヘキサンジカルボキシル酸カルシウム塩が好ましい。
【0062】
【0063】
なお、本発明は、さらに糖類系結晶核剤も100~3000ppm含有しても良い。ただし、含有量が多いとレトルト後のフィルムの臭気が悪くなることがあるため、好ましくは200~2000ppmである。その際、より優れた電子レンジ加熱の際の通蒸性を満足することができる。糖類系結晶核剤には、ソルビトール系、ノニトール系、キシリトール系等があり、具体的には、ビス-1,3:2,4-(3’-メチル-4’-フルオロ-ベンジリデン)1-プロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1’-メチル-2’-プロペニルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2’,3’-ジブロモプロピルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2’-ブロモ-3’-ヒドロキシプロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’-ブロモ-4’-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、モノ2,4-(3’-ブロモ-4’-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(4’-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-メチルソルビトール、1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトール、ビス-1,3:2,4-(4’-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフトアルデヒドベンジリデン)1-アリルキシリトール、ビス-1,3:2,4-(3’,4’-ジメチルベンジリデン)1-プロピルキシリトール等が挙げられる。
【0064】
本発明で用いる結晶核剤(b5)については、マスターバッチで用いた方が分散性の問題から好ましい。マスターバッチのベースレジンとしては、例えば、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)、ホモポリプロピレン(b3)のいずれかの樹脂であることが好ましい。
【0065】
本発明におけるシール層(B)の中心線平均表面粗さ(Ra)は0.15μm以上、好ましくは0.2~0.35μmの範囲が耐ブロッキング性とヒートシール強度から好ましい。
【0066】
また、本発明におけるシール層(B)どうしのブロッキング剪断力は10N/12cm2以下、より好ましくは7N/12cm2以下である。ブロッキング剪断力が10N/12cm2を超えると、長期保存や夏場の高温状態で保存後に、フィルムが巻き出し難くなって他基材とのラミネート性および製袋作業性の悪化や、包装袋の口が開けづらくなって内容物充填性が著しく低下することがある。
【0067】
また、本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、厚さが20~150μmが好ましく、より好ましくは40~100μmである。フィルム厚さが20μm未満ではヒートシール力が不足し、150μmを超えるとラミネート加工性が低下してコストアップになることがある。
【0068】
また、基材層(A)とシール層(B)の厚さの比率は、耐低温衝撃性およびヒートシール強度のバランスを考慮すると、3:1~15:1であることが好ましい。
【0069】
本発明においては、耐熱基材層とガスバリア層と本発明のポリプロピレン系複合フィルムを積層して積層体とした後、該ポリプロピレン系複合フィルムのシール層(B)どうしを230℃でヒートシール後、130℃・30分のレトルト処理した後の剥離強度が、23℃の雰囲気下で30N/15mm以上であり、より好ましくは35~45N/15mmの範囲であり、80℃の雰囲気下で1~10N/15mm、より好ましくは3~7N/15mmの範囲である。上記23℃の雰囲気下での剥離強度が30N/15mm未満では、レトルト食品包装において耐低温衝撃性が低下して内容物保護性に劣ることがあり、また、該80℃の雰囲気下での剥離強度が1N/15mm未満では、レトルト食品を入れた包装袋を電子レンジ加熱時に内容物が洩出することがあり、10N/15mmを超えると、電子レンジ加熱時に通蒸性が悪くて包装袋が破袋して内容物が飛散あるいは洩出することがある。
【0070】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、1軸または2軸の溶融押出機2台を用いて、1台の押出機から基材層(A)樹脂として、上記の(a1)と(a2)を混合して得られた混練物をフィルターで濾過して押出し、もう1台の押出機から、シール層(B)樹脂として、上記の(b1)、(b2)、(b3)、(b4)(b5)の5成分を通常の方法で混合して得られた混練物をフィルターで濾過して押出して、フィードブロック法、ピノール法、マルチマニホールド法などで複合化して、T型ダイまたは環状のダイからフィルム状に押し出すことによって製造できる。溶融押出機から押出す溶融ポリマの温度は通常200~300℃が適用できるが、ポリマの分解を防ぎ良好な品質のフィルムを得るためには、220~270℃が好ましい。Tダイから押出す場合は、押出されたフィルムは20~65℃の一定温度に設定した冷却ロールに接触させて、冷却・固化させた後巻き取る。環状ダイから押出す場合は、一般にインフレーション法と呼ばれる方法でバブルを形成し、これを冷却・固化させた後、無延伸フィルムの状態で巻き取る。
【0071】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、単独で包装用のフィルムとして使用することもできるが、一般のAl箔を含むレトルト食品包装材として好ましく使用できる。
【0072】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で各層に、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、帯電防止剤、塩酸吸収剤、アンチブロッキング剤、滑剤等を含むことができる。これらの添加剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
ここで酸化防止剤の具体例としては、ヒンダードフェノール系として、2,6-ジ-t-ブチルフェノール(BHT)、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(“イルガノックス”1076、“Sumilizer”BP-76)、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(“イルガノックス”1010、“Sumilizer”BP-101)、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(“イルガノックス”3114、Mark AO-20)等が例示される。また、ホスファイト系(リン系)酸化防止剤として、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(“Irgafos” 168、Mark 2112)、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4-4’-ビフェニレン-ジホスホナイト(“Sandstab”P-EPQ)、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(“Ultranox”626,Mark PEP-24G)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(Mark PEP-8)等が挙げられる。中でもこれらのヒンダードフェノール系とホスファイト系の両機能を合わせ持つ6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]-ジオキサホスフェピン(“Sumilizer”GP)、及び、アクリル酸2[1-2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル]エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニル(“Sumilizer”GS)が好ましく、特に、この両者の併用は、フィルム製膜に際し、特に20℃キシレン可溶部の分解抑制に効果を発揮し、耐低温衝撃性と耐ブロッキング性の両立に大きく寄与することから好ましい。かかるキシレン可溶部の分解が促進されると耐ブロッキング性が悪化する。
【0074】
尚、酸化防止剤の添加量としては、用いる酸化防止剤の種類にもよるが、100~10000ppmの範囲で適宜設定すればよい。
【0075】
また、中和剤としては、ハイドロタルサイト類化合物、水酸化カルシウムなどがフィルム製膜時の発煙低下に好ましい。
【0076】
また、本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、他基材とのラミネートのために、基材層(A)の表面を通常工業的に実施されるコロナ放電処理、窒素や炭酸ガス雰囲気下でのコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理などの表面処理を施して、濡れ指数を37mN/m以上にすることが好ましい。
【0077】
また、本発明のポリプロピレン系複合フィルムを用いた積層体は、具体的には本発明のポリプロピレン系複合フィルムのシール層(B)とは反対側に、耐熱基材層として、二軸延伸ポリアミドフィルム(ON)、二軸延伸ポリエステルフィルム(PET)および印刷紙から選ばれた少なくとも1層を用い、ガスバリア層として、金属箔(Al箔)、金属蒸着二軸延伸ポリアミドフィルム(蒸着ON)、金属蒸着二軸延伸ポリエステルフィルム(蒸着PET)から選ばれる少なくとも1層を積層した積層体である。これらの代表的な積層体構成は、PET/Al箔/ポリプロピレン系複合フィルム、PET/ON/Al箔/ポリプロピレン系複合フィルム、PET/Al箔/ON/ポリプロピレン系複合フィルム、ON/ポリプロピレン系複合フィルム、PET/蒸着ON/ポリプロピレン系複合フィルム、ON/蒸着PET/ポリプロピレン系複合フィルムである。
【0078】
かかる積層体の製造方法は、積層体を構成するフィルムを接着剤で貼合わせる通常のドライラミネート法が好適に採用できるが、必要に応じて直接本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を押出してラミネートする方法も採用できる。
【0079】
これら積層体はポリプロピレン系複合フィルムのシール層(B)を袋の内面として、平袋(平パウチ)、スタンディングパウチなどに製袋加工され使用される。
【0080】
また、これら積層体の積層構造は、包装袋の要求特性(例えば包装する食品の品質保持期間を満たすためのバリア性能、内容物の重量に対応できるサイズ・耐低温衝撃性、内容物の視認性など)に応じて適宜選択される。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。また、本発明の詳細な説明および実施例中の各評価項目の測定値は、下記の方法で測定した。
【0082】
(1)20℃キシレン不溶部と可溶部の含有量
ポリプロピレンペレット5gを沸騰キシレン(関東化学(株)製1級)500mlに完全に溶解させた後に、20℃に降温し、4時間以上放置する。その後、これを析出物と溶液とに濾過して、可溶部と不溶部に分離した。不溶部の重量は、析出部を減圧下70℃で乾燥後、その重量を23℃で測定して含有量(重量%)を求めた。また、可溶部は濾液を乾固して減圧下70℃で乾燥後、その重量を測定して含有量(重量%)を求めた。
【0083】
(2)重合体および組成物の極限粘度
ウベローデ型粘度計を用いて。135℃テトラリン中で測定を行った。
【0084】
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS K-7210-1999に準拠し、プロピレン・エチレンブロック共重合体およびホモプロピレンは温度230℃、直鎖状低密度ポリエチレンは温度190℃で、それぞれ荷重21.18Nにて測定した。
【0085】
(4)密度
JIS K-7112-1999に基づき、密度勾配管による測定方法で測定した。
【0086】
(5)ブロッキング剪断力
幅30mmで長さ100mmのフィルムサンプルを準備し、シール層どうしを30mm×40mmの範囲を重ね合わせて、500g/12cm2の荷重をかけ、80℃のオーブン内で24時間加熱処理した後、23℃、湿度65%RHの雰囲気下に30分以上放置した後、オリエンテック社製テンシロンを使用して300mm/分の引張速度で剪断剥離力を測定した。 本測定法で剪断剥離力が10N/12cm2以下であれば耐ブロッキング性に優れて、ノンパウダーで包装材に使用できる。
【0087】
(6)フィルム厚さおよび厚さ構成
フィルム厚さは、ダイヤルゲージを用い、JIS K7130(1992)A-2法に準じて、フィルムの任意の10ヶ所について厚さを測定した。その平均値を10で除してフィルム厚さとした。
【0088】
また、積層フィルムの場合の各層の厚さは、積層フィルムをエポキシ樹脂に包埋しフィルム断面をミクロトームで切り出し、該断面を走査型電子顕微鏡で3,000倍の倍率で観察して、各層の厚さを算出した。
【0089】
(7)耐低温衝撃性
厚さ12μmのPETフィルムと厚さ15μmのONフィルムと厚さ9μmのAl箔と評価するポリプロピレン系複合フィルムをこの順にウレタン系接着剤を用いて通常のドライラミネート法で貼合わせ、40℃で3日間エージングして、次の構成の積層体を作成した。
積層体構成:PET/接着剤/ON/接着剤/Al箔/接着剤/フィルム(接着剤面=基材層、最外層=シール層)。
【0090】
上記の積層体2枚を、評価するフィルムのシール層が袋の内面になるようにして、富士インパルス社製CA-450-10型ヒートシーラーを使用し、加熱時間1.4秒(シール温度:約230℃)、冷却時間3.0秒で、製袋サイズ150mm×285mmの包装袋を作成した。この包装袋に濃度0.1重量%の食塩水1000cm3を充填した後、上記と同じ条件でシールして密閉し、130℃で30分レトルト処理する。次に、レトルト処理後の袋を0℃の冷蔵庫で24時間保管した後、冷蔵庫から取り出して、10秒以内に23℃雰囲気下で55cmの高さから平らな床面に落下させ(n数20個)、破袋に至るまでの回数を記録する。本評価法ではn数20個の平均値で15回以上を耐低温衝撃性良好とした。
【0091】
(8)耐ユズ肌性
(7)項で作成した包装袋に、市販のレトルトカレー(ハウス食品(株)のレトルトカレー“ククレカレー”・辛口)を充填した後、上記と同じ条件でシールして密閉し、130℃で30分レトルト処理をした直後の積層体表面の凹凸発生状況を目視判定した。凹凸が全く発生しないものをランクl、凹凸が僅かに発生するものをランク2、凹凸が軽度に発生するものをランク3、凹凸が明確に発生するものをランク4、凹凸が重度に発生するものをランク5として評価した。本評価法でランク1~3までが実用性があり、耐ユズ肌性良好とした。
【0092】
(9)剥離強度
(7)項と同じ積層体の2枚のシール層(B)どうしを、平板ヒートシーラーを使用し、シール温度230℃(下板加熱なし)、シール圧力98kPa、シール時間1秒の条件でヒートシールしたサンプルを、130℃で30分レトルト処理した後、23℃に冷却した。その後、オリエンテック社製テンシロンを使用して、本サンプルを23℃の雰囲気下と、80℃のオーブン中で300mm/分の引張速度で剥離強度を測定した。本測定法で23℃での剥離強度が30N/15mm 以上であれば、通常のレトルト用途で良好に使用でき、80℃のオーブン中で1~10N/15mmの範囲であれば、レトルト食品包材のパウチを電子レンジで加熱の際に内容物保護と通蒸性の両立ができ、電子レンジ加熱で良好に使用できる。
【0093】
(10)表面粗さ
(株)小坂研究所製の全自動微細形状測定機(SURFCORDER ET4000A)を用いて、JIS-B-0601-1982に定める測定方法により、シール層(B)表面の中心線平均粗さ(Ra)を求めた。測定方向はフィルムの流れ方向(TD方向)に直交する方向とした。
【0094】
(11)耐屈曲白化性
ポリプロピレン系複合フィルム単体を130℃で30分レトルト処理した後、(株)東洋精機製作所製MIT屈曲試験器を用いて、サンプル幅10mm、屈曲角度135度(左右)、荷重5.04Nの条件で、100回屈曲した後、屈曲部の白化状況を目視判定した(n数5個)。全く白化しないものをランク1、僅かに白化するものをランク2、軽度に白化するものをランク3、明確に白化するものをランク4、白化して屈曲部が白くきつい線状となるものをランク5として評価した。本評価方法でランク1、2を耐屈曲白化性良好(○)とし、ランク4、5を耐屈曲白化性不良(×)とした。
【0095】
本発明において用いた各種原料組成と原料処方については、表1にまとめて記した。また、その原料処方によるフィルム特性と積層体の特性を表2にまとめて記した。
【0096】
(1)プロピレン・エチレンブロック共重合体
上記、重合条件を変更して、20℃キシレン不溶部、可溶部の含有量、その極限粘度[η]H、[η]EP、MFRを変更したプロピレン・エチレンブロック共重合体を作成し、その組成を表1にまとめて記した。
【0097】
(2)直鎖状低密度ポリエチレン(a2)、(b4)
直鎖状低密度ポリエチレンは、下記の市販のものを用いた。
【0098】
密度0.921g/cm3で、MFR2.2g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学(株)製“スミカセンE”のFV205)。
【0099】
(3)ホモポリプロピレン(b3)
ホモポリプロピレンは、下記の市販のものを用いた。
【0100】
230℃でのMFRが7.5g/10分の、ホモポリプロピレン(住友化学(株)製“ノーブレン”FLX80E4)。
【0101】
(4)結晶核剤(b5)
結晶核剤は、下記の市販のものを用いた。
【0102】
結晶核剤のジカルボン酸金属塩として、ジナトリウム-ビシクロ(2,2,1)ヘプタン-2,3-ジカルボキシラート(ミリケンケミカルから入手可能な“HYPERFORM(登録商標)”HPN-68L)を用いた(核剤-1)。
【0103】
結晶核剤のリン酸金属塩として、リン酸エステル金属塩であるナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート(ADEKA製“アデカスタブ”NA-11)を用いた(核剤-2)。
【0104】
[実施例1~3]
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、基材層(A)の樹脂として、表1に示したプロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)と、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)として、密度0.921g/cm3で、MFR2.0g/10分の、直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学(株)製“スミカセン”E(登録商標)のFV205)を用いた。表1に示した本発明の範囲の下限から上限まで混合樹脂組成比を変更し、温度260℃に温調された押出機に供給して溶融混練した。また、シール層(B)の樹脂として、表1に示したプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)と、ホモポリプロピレン(b3)として、230℃でのMFRが7.5g/10分のホモポリプロピレン(住友化学(株)製“ノーブレン(登録商標)”FLX80E4)と、直鎖状低密度ポリエチレン(b4)として、密度0.921g/cm3で、MFR2.0g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学(株)製“スミカセン”EのFV205)と、結晶核剤(b5)として、ジカルボン酸金属塩のジナトリウム-ビシクロ(2,2,1)ヘプタン-2,3-ジカルボキシラート(ミリケンケミカル社製“HYPERFORM(登録商標)”HPN-68L)を用いた。表1に示した混合樹脂組成でもう1台の温度260℃に温調された二軸押出機に供給して溶融混練し、共押出し用のマルチマニホールド口金で、2層に積層してフィルム状に押出し、45℃の冷却ロールに接触させて冷却・固化させた後、基材層(A)の面をコロナ放電処理して、厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。
【0105】
基材層(A)とシール層(B)の厚さ比率は、5:1であった。得られたポリプロピレン系複合フィルムの特性と、同じくポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。本実施例1~3のポリプロピレン系複合フィルムは、ブロッキング剪断力が低くてノンパウダーで使用でき、耐低温衝撃性、ヒートシール強度にも優れ、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。
【0106】
さらに、上記(8)の耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0107】
[実施例4、5]
実施例1において、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)と(b2)の混合比を、本発明の範囲内で変更した以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。本実施例4、5のポリプロピレン系複合フィルムは、ブロッキング剪断力が低くてノンパウダーで使用でき、耐低温衝撃性、ヒートシール強度にも優れ、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。
【0108】
さらに、上記(8)の耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0109】
[実施例6、7]
実施例6では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)として、MFRが1.5g/10分で、20℃キシレン溶出での不溶部の割合が75重量%で、可溶部の割合が25重量%のプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、実施例7では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)として、MFRが2.8g/10分で、20℃キシレン溶出での不溶部の割合が90重量%で、可溶部の割合が10重量%のプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。本実施例6、7のポリプロピレン系複合フィルムは、いずれもブロッキング剪断力が低くてノンパウダーで使用でき、耐低温衝撃性、ヒートシール強度にも優れ、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。
【0110】
さらに、上記(8)の耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、いずれも通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0111】
[実施例8、9]
実施例8では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)として、20℃キシレン溶出での不溶部の極限粘度が下限の1.7dl/gで、可溶部の極限粘度が下限の2.5dl/gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、実施例9では、20℃キシレン溶出での不溶部の極限粘度が上限の2.2dl/gで、可溶部の極限粘度が上限の3.5dl/gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。本実施例8、9のポリプロピレン系複合フィルムは、ブロッキング剪断力が低くてノンパウダーで使用でき、耐低温衝撃性、ヒートシール強度にも優れ、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。
【0112】
さらに、上記(8)の耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、いずれも通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0113】
[実施例10、11]
実施例10、実施例11は、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)として、本発明の範囲で、20℃キシレン溶出の不溶成分と可溶成分の割合が下限と上限のプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。本実施例10、実施例11のポリプロピレン系複合フィルムは、ノンパウダーで使用しても耐ブロッキング性に優れ、耐低温衝撃性、ヒートシール強度にも優れ、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。
【0114】
さらに、実施例1と同じく耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0115】
[実施例12、13]
実施例12では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)として、本発明の範囲で、20℃キシレン溶出の不溶成分と可溶成分の粘度が下限の原料を用い、実施例13では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)として、MFRが8g/10分で、20℃キシレン溶出の不溶成分と可溶成分の粘度が上限の原料を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。本実施例12、13のポリプロピレン系複合フィルムは、ノンパウダーで使用しても耐ブロッキング性に優れ、耐低温衝撃性、ヒートシール強度にも優れ、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。
【0116】
さらに、実施例1と同じく耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0117】
[実施例14、15]
実施例1において、実施例14ではシール層(B)の結晶核剤(b5)の混合量を5000ppmとし、実施例15では、結晶核剤(b5)として、リン酸金属塩のリン酸エステル金属塩であるナトリウム-2,2’-メチレン-ビス4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート(ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)NA-11)(核剤―2)を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。実施例14、実施例15のフィルムはノンパウダーで使用しても耐ブロッキング性に優れ、耐低温衝撃性、シール強度にも優れたものであり、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。さらに、実施例1と同じく耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0118】
[実施例16、17、18]
実施例1において、実施例16では基材層(A)とシール層(B)の厚さ構成比を15:1とし、実施例17では、押出吐出量を一定にして製膜速度を上げて、フィルムの厚さを30μmとし、実施例18では、押出吐出量を一定にして製膜速度を下げて、フィルムの厚さを120μmとした以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表1に示した。実施例16、実施例17、実施例18のポリプロピレン系複合フィルムは、ブロッキング剪断力が低くてノンパウダーで使用でき、耐低温衝撃性、シール強度にも優れたものであり、耐ユズ肌性にも優れレトルト用途にも十分な性能を有するものであった。さらに、実施例1と同じく耐ユズ肌性の評価で、サンプルを電子レンジで加熱時して通蒸性を確認したところ、通蒸して包装袋が破袋して内容物が飛散や洩出することがなかった。
【0119】
[比較例1、2]
比較例1、2では、基材層(A)の樹脂組成物として、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a1)と、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)の混合割合を、本発明の上限または下限を外れた組成とした以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例1のフィルムでは、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)の混合量が本発明の上限を超えているため、シール層(B)との層間密着力が低下して、ヒートシール力が低いものとなった。
【0120】
また、比較例2のフィルムでは、直鎖状低密度ポリエチレン(a2)の混合量が本発明の下限未満であるため、耐ユズ肌性と、耐屈曲白化性と、耐低温衝撃性が低いものであった。
[比較例3、4]
比較例3、比較例4では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)の20℃キシレン不溶部と可溶部の割合がそれぞれ上限、下限の範囲を外れている以外は実施例1と同様にして、厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例3では、該20℃キシレン不溶部の割合が本発明の下限未満の70重量%と低く、可溶部の割合が30重量%と高いために耐屈曲白化性が低下し、比較例4では、該不溶部の割合が95重量%と高いために、耐低温衝撃性が低下した。
【0121】
[比較例5、6]
比較例5では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)として、20℃キシレン溶出での不溶部の極限粘度が、本発明の範囲の下限未満の1.6dl/gで、可溶部の極限粘度が本発明の範囲の下限未満の2.2dl/gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、比較例6では、20℃キシレン溶出での不溶部の極限粘度が本発明の範囲の上限を超えた2.5dl/gで、可溶部の極限粘度が、本発明の範囲の上限の4.0dl/gを超えたプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例5では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)の不溶部および可溶部の極限粘度が低いために、ブロッキング剪断力が高くて製袋後の開封性に劣り、また、耐低温衝撃性にも劣ったものであった。比較例6では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)の不溶部および可溶部の極限粘度が高いために、耐ユズ肌性と耐屈曲白化性に劣るものであった。
【0122】
[比較例7、8]
比較例7では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)として、MFRが本発明の範囲の下限未満の0.7g/10分gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、比較例8では、MFRが本発明の範囲の上限を超えた4.0g/10分gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例7では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)のMFRが低いために、耐ユズ肌性、耐屈曲白化性におとり、また、23℃でのヒートシール強度と80℃でのヒートシール強度が低いために実用に耐えないものであった。比較例8では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)のMFRが高いために、耐低温衝撃性に劣性に劣ったものであった。
【0123】
[比較例9、10]
比較例9、比較例10では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)の20℃キシレン不溶部と可溶部の割合がそれぞれ上限、下限の範囲を外れている原料を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例9では、(b2)の該20℃キシレン不溶部の割合が本発明の下限未満の75重量%と低く、可溶部の割合が高いために、耐ユズ肌性、耐屈曲白化性におとり、また、23℃でのヒートシール強度と80℃でのヒートシール強度が低いために実用に耐えないものであった。比較例10では、(b2)の該不溶部の割合が90重量%より大きいために、シール層(B)の表面粗さが小さくなってブロッキング剪断力が高く、本発明の使用目的であるノンパウダー性能に劣り、また、耐低温衝撃性に劣ったものであった。
【0124】
[比較例11、12]
比較例11では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)として、20℃キシレン溶出での不溶部の極限粘度が、本発明の範囲の下限未満の1.3dl/gで、可溶部の極限粘度が本発明の範囲の下限未満の1.4dl/gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、比較例12では、20℃キシレン溶出での不溶部の極限粘度が本発明の範囲の上限を超えた2.0dl/gで、可溶部の極限粘度本発明の範囲の上限の2.2dl/gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例11では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)の不溶部および可溶部の極限粘度が低いために、ブロッキング剪断力が高く、耐低温衝撃性に劣り、また、23℃でのヒートシール強度と80℃でのヒートシール強度が低いために実用に耐えないものであった。比較例12では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)の不溶部および可溶部の極限粘度が高いために、耐ユズ肌性、耐屈曲白化性に劣るものであった。
【0125】
[比較例13、14]
比較例13では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)として、MFRが本発明の範囲の下限未満の3.0g/10分gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、比較例14では、MFRが本発明の範囲の上限を超えた12g/10分gのプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。比較例13では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)のMFRが低いために、シール層の表面粗さRaが小さくなってブロッキング剪断力が高くなり、製袋後の開封性に劣ったものであった。比較例14では、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)のMFRが高いために、耐低温衝撃性に劣ったものであった。
【0126】
[比較例15、16]
比較例15、比較例16では、シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(b1)、プロピレン・エチレンブロック共重合体(b2)、ホモポリプロピレン(b3)、直鎖状低密度ポリエチレン(b4)の混合比が本発明の範囲を外れている以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。
【0127】
該(b1)、(b2)、(b3)、(b4)の混合比が発明の範囲を外れると、本発明の課題の耐ブロッキング剪断性、耐ユズ肌性、耐屈曲白化性、耐低温衝撃性、ヒートシール強度、電子レンジ加熱時の通蒸性などの特性を満足することができず、電子レンジ加熱用のレトルト用積層体として実用に耐えないものであった。
【0128】
[比較例17]
比較例17では、実施例1において、シール層(B)の結晶核剤の混合比が本発明の範囲の下限未満の処方とした以外は、実施例1と同様にして厚さ70μmのポリプロピレン系複合フィルムを得た。得られたポリプロピレン系複合フィルム特性とポリプロピレン系複合フィルムを他基材と積層した積層体の特性を表2に示した。本フィルムは、シール層(B)の表面粗さが小さくなってブロッキング剪断力が高くなり、製袋後の開封性に劣り、また、80℃でのヒートシール強度が高くて、電子レンジ加熱時の通蒸性に劣ったものであった。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、包装袋のシーラントとして、ヒートシール性と耐低温衝撃性に優れ、耐ブロッキング性に優れるためにノンパウダーで使用でき、耐ユズ肌性に優れることでレトルト用途にも好適に使用でき、さらに、レトルト食品を充填した包装袋を電子レンジ等で加熱する際にシール力が低下して通蒸することにより、包装袋が破袋して内容物が飛散あるいは洩出することを防止できることにより、電子レンジ加熱用のレトルト食材の包装材に好適に使うことができる。