(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】固定構造、レンズ鏡筒、及び、光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20231228BHJP
【FI】
G02B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020040605
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】澤木 亮二
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-184960(JP,A)
【文献】特開2010-191070(JP,A)
【文献】実開昭61-179520(JP,U)
【文献】特開2008-262098(JP,A)
【文献】特開2005-156970(JP,A)
【文献】中国実用新案第201859250(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒において被固定部材を筒部材に固定する固定構造であって、
前記筒部材には、取付穴が形成され、
前記被固定部材には、締結穴、及び、前記締結穴の周囲に凹部が形成され、
貫通孔を有する円筒状のコマが、当該コマの被固定部材側の縁が前記被固定部材の凹部内に位置するように前記筒部材の前記取付穴に配置され、かつ、締結部材が前記コマの前記貫通孔を通り、前記締結穴に締結されることにより前記被固定部材が前記筒部材に固定されており、
前記被固定部材の前記凹部には突起部が形成されるとともに、前記コマの前記被固定部材側の縁には逃げ部が形成され、
前記逃げ部及び前記突起部の少なくとも一方の周方向の端部に傾斜面が形成され、
固定状態において、前記コマの前記逃げ部に前記被固定部材の前記突起部が入り込んでいることを特徴とする固定構造。
【請求項2】
前記コマの前記筒部材側の面には切り欠き部が形成されている、
請求項1に記載の固定構造。
【請求項3】
固定状態において、前記コマは前記筒部材の表面から突出していない、
請求項1又は2に記載の固定構造。
【請求項4】
前記被固定部材は、前記筒部材の内側に配置されている、
請求項1~3の何れか1項に記載の固定構造。
【請求項5】
筒部材と、
前記筒部材に固定された被固定部材とを備え、
前記被固定部材は、前記筒部材に請求項1~4の何れか1項に記載の固定構造により固定されている、レンズ鏡筒。
【請求項6】
光学機器本体と、請求項5に記載のレンズ鏡筒と、を備える、光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒における固定構造、この固定構造を備えるレンズ鏡筒、及び、光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レンズ鏡筒では、レンズ保持枠などの被固定部材がレンズ鏡筒を構成する筒部材に固定される。レンズ鏡筒内の被固定部材を筒部材に固定するための固定構造には、光学性能を担保するため、高い位置精度が要求される。しかしながら、レンズ鏡筒を構成する部材の加工精度や仕上がりには、ばらつきがあり、被固定部材を直接筒部材に固定すると必ずしも高い位置精度が得られない。
【0003】
そこで、レンズ鏡筒内に部材を高い位置精度で固定するための固定構造として、特許文献1に記載されているように、レンズ鏡筒の筒部材に取付穴を形成しておき、この取付穴にコマをはめ込んでコマの外周面を取付穴の内周面に係合させ、ねじなどの締結部材をコマの貫通穴に挿入して被締結部材を固定する方法が用いられている。このコマを用いた固定構造では、被固定部材の取付穴にコマをはめ込み、コマの締結穴に締結部材を貫入して固定するため、部材の取付穴の大きさの微小な差異はコマによって調節される。その結果、取付位置の精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、コマを用いた固定構造では、筒部材の取付穴の内周面とコマの外周面が隙間なく係合しているため、修理などでレンズ鏡筒を分解する場合、筒部材からコマを取り外すことが困難であり、コマや筒部材を破損させてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑み成されたものであり、分解時に筒部材からコマを容易に取り外すことができる固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固定構造は、被固定部材を筒部材に固定する固定構造であって、筒部材には、取付穴が形成され、被固定部材には、締結穴、及び、締結穴の周囲に凹部が形成され、貫通孔を有する円筒状のコマが、コマの被固定部材側の縁が被固定部材の凹部内に位置するように筒部材の取付穴に配置され、かつ、締結部材がコマの貫通孔を通り、締結穴に締結されることにより被固定部材が筒部材に固定されており、被固定部材の凹部には突起部が形成されるとともに、コマの被固定部材側の縁には逃げ部が形成され、逃げ部及び突起部の少なくとも一方の周方向の端部に傾斜面が形成され、固定状態において、コマの逃げ部に被固定部材の突起部が入り込んでいる、ことを特徴とする。
【0008】
筒部材からのコマの取り外しを困難にさせる要因は、筒部材の取付穴の内周面にコマの外周面が隙間なくはまり込んでいることである。これに対し、本発明は、固定状態において、コマの逃げ部に被固定部材の突起部が入り込んでいる。そして、コマの逃げ部及び被固定部材の突起部の少なくとも一方の周方向の端部に傾斜面が形成されているため、コマを回転させることにより、逃げ部の縁と突起部とが当接して、コマが持ち上がる。これにより筒部材からコマを容易に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分解時に筒部材からコマを容易に取り外すことができる固定構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態によるレンズ鏡筒における固定構造を含む部分の軸線方向に沿った断面図である。
【
図2】
図1に示す固定構造の、レンズ鏡筒の径方向外方から見た斜視図である。
【
図3】
図1に示す固定構造のレンズ鏡筒の被固定部材の締結穴の近傍を拡大して示す、径方向外方から見た斜視図である。
【
図4A】
図1に示す固定構造におけるコマを示す、頭部側から見た斜視図である。
【
図4B】
図1に示す固定構造におけるコマを示す、小径部側から見た斜視図である。
【
図4C】
図1に示す固定構造におけるコマを示す、コマの軸線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるレンズ鏡筒における固定構造を含む部分の軸線方向に沿った断面図である。
図2は、
図1に示す固定構造の、レンズ鏡筒の径方向外方から見た斜視図である。
図1における左右方向が、レンズ鏡筒の光軸に沿った方向であり、上方が光軸から離間する方向であり、下方が光軸に向かう方向である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の固定構造2は、レンズ鏡筒1における、被固定部材30を筒部材20に固定するための構造であり、コマ40及び締結部材としてのねじ8を用いて、被固定部材30を筒部材20の径方向内側に固定している。
【0013】
レンズ鏡筒1は、例えば、カメラ本体に取り付けられて光学機器としてのカメラを構成する。本実施形態のレンズ鏡筒1は複数の筒部材が同心同軸に配置され、レンズ鏡筒1の内側には複数のレンズ群が配置されている。レンズ鏡筒1は、複数の筒部材を入れ子状に進退させることにより、全長を変更することができ、また、これとともに複数のレンズ群を光軸方向に移動させることにより、広角状態と望遠状態とを切り替えることができる。本実施形態において、筒部材20は、レンズ鏡筒1を構成する円筒形の部材である。また、被固定部材30は、レンズ群を保持するレンズ枠を支持する支持部材である。
【0014】
図2に示すように、筒部材20は、略円筒形状であり、径方向に延びる断面円形の取付穴20Aが形成されている。
図1に示すように、取付穴20Aは、レンズ鏡筒1の径方向外方(レンズ鏡筒の光軸から離間する方向)に位置する大径穴部20Bと、径方向内側に位置(レンズ鏡筒の光軸に向かう方向)する小径穴部20Cと、を含む。大径穴部20Bの内径は、小径穴部20Cの内径よりも大きい。
【0015】
図3は、
図1に示す固定構造のレンズ鏡筒の被固定部材の締結穴の近傍を拡大して示す、径方向外方から見た斜視図である。
図3に示すように、被固定部材30は、ねじ8を通すための締結穴30A及び、その周囲に形成された円環状の凹部30Bが形成されている。凹部30Bの内径は、コマ40の大径部44の外径と略等しい。
【0016】
締結穴30Aは、円柱状であり径方向に延びており、内周面に螺条が形成されている。凹部30B内には、締結穴30Aの縁に沿って円筒状の円筒部30Dが立設されている。円筒部30Dの外径は、コマ40の第2の大径孔部40Dの内径と略等しい。また、円環状の凹部30Bの底面には、円筒部30Dの外面から締結穴30Aの径方向外方に延びるように突起部30Cが形成されている。突起部30Cは、等脚台形の断面を有し、周方向両側面が傾斜面として形成されている。
【0017】
図4A~
図4Cは、
図1に示す固定構造におけるコマを示し、
図4Aは頭部側から見た斜視図、
図4Bは小径部側から見た斜視図、
図4Cはコマの軸線に沿った断面図である。
図4に示すように、コマ40は、略円筒状に形成されており、軸方向に延びる貫通孔40Aを有する。コマ40は、頭部42と、頭部42に連続して軸方向に延びる大径部44と、大径部44に連続して軸方向に延びる小径部46と、を有する。頭部42の外径は、大径部44の外径よりも大きく、筒部材20の取付穴20Aの大径穴部20Bの内径と略等しい。大径部44の外径は小径部46の外径よりも大きく、筒部材20の取付穴20Aの小径穴部20Cの内径と略等しい。小径部46の外径は被固定部材30の凹部30Bの外径と略等しい。頭部42の上面には、径方向に延びる一対の切り欠き部42Aが貫通孔40Aを挟んだ位置に形成されている。
【0018】
貫通孔40Aの軸方向中間部には、径方向内方に向かって突出する円環突出部40Fが全周にわたって形成されている。貫通孔40Aは、円環突出部40Fよりも頭部42側の第1の大径孔部40Bと、円環突出部40Fよりも小径部46側の第2の大径孔部40Dと、第1の大径孔部40B及び第2の大径孔部40Dの間に位置し、円環突出部40Fの径方向内側の小径孔部40Cと、を含む。第1の大径孔部40Bの内径は小径孔部40Cの内径よりも大きく、ねじ8の頭部8Aの外径よりも大きい。第2の大径孔部40Dの内径は、被固定部材30の円筒部30Dの外径よりもわずかに大きい。小径孔部40Cの内径は、ねじ8の頭部8Aの外径よりも小さく、ねじ8の軸部8Bの外径よりもわずかに大きい。コマ40の小径部46の下縁には、一対の逃げ部40Eが形成されている。逃げ部40Eは、貫通孔40Aを挟んで反対側の位置に形成されている。逃げ部40Eは、周方向両側が傾斜面として形成されており、逃げ部40Eの深さは、被固定部材30の凹部30Bに形成された突起部30Cの高さよりも大きい。
【0019】
ねじ8は、略円筒状の軸部8Bと、軸部8Bの一端に取り付けられた頭部8Aとを有する。軸部8Bの外周面には、締結穴30Aの内周面の螺条に螺合可能な螺条が形成されている。
【0020】
次に、本実施形態の固定構造による被固定部材30の筒部材20への固定方法について説明する。まず、被固定部材30の締結穴30Aが筒部材20の取付穴20Aと同軸になるように、被固定部材30を筒部材20の径方向内側に配置する。そして、筒部材20の取付穴20Aにコマ40を小径部46が径方向内側に位置するように挿入する。これにより、コマ40の大径部44が取付穴20Aの小径穴部20C内に位置するとともに、コマ40の頭部42が取付穴20Aの大径穴部20B内に位置し、コマ40は筒部材20の表面から突出しなくなる。さらに、コマ40の小径部46が筒部材20の内側まで進出し、小径部46が被固定部材30の凹部30B内に入り込み、小径部46の下縁が凹部30Bの底面に当接する。また、この状態において、コマ40の逃げ部40E内に被固定部材30の凹部30Bに形成された突起部30Cが位置している。
【0021】
そして、この状態でねじ8の軸部8Bをコマ40の貫通孔40Aに挿入し、ドライバーなどの工具でねじ8を回転させて、被固定部材30の締結穴30Aに螺合させる。これにより、ねじ8の頭部8Aが円環突出部40Fの径方向外側の面に当接し、コマ40がねじ8により被固定部材30に固定される。さらに、コマ40の大径部44が、筒部材20の小径穴部20C内に嵌め込まれ、コマ40の頭部42が筒部材20の大径穴部20B内に位置することにより、筒部材20に対してコマ40が固定される。このような構成により、コマ40及びねじ8により、被固定部材30が筒部材20に固定される。
【0022】
次に、本実施形態の固定構造を分解する方法ついて説明する。
まず、ねじ8をドライバーなどの工具で回転させて、被固定部材30の締結穴30Aから取り外す。これにより、被固定部材30が筒部材20から離脱可能な状態となる。次に、コマ40の切り欠き部42Aに、マイナスドライバーなどの工具をはめ込み、コマ40を回転させる。コマ40が回転すると、コマ40の逃げ部40Eの一方の傾斜面が、被固定部材30の凹部30Bに設けられた突起部30Cの傾斜面と当接する。そして、さらにコマ40を回転させることにより、コマ40の回転力が、傾斜面によりコマ40を被固定部材30の凹部30Bから浮き上がらせるような力に変換される。これにより、コマ40が筒部材20の取付穴20Aから浮き上がり、コマ40の頭部42が筒部材20の外面(
図1の上方の面)から突出するため、コマ40を容易に取り外すことができる。
【0023】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
従来の固定構造では、筒部材の取付穴にコマが隙間なくはまり込んでいるため、分解時にコマを取り外すのが困難であった。これに対し、本実施形態では、固定状態において、コマ40の逃げ部40Eに被固定部材30の突起部30Cが入り込んでいる。そして、コマ40の逃げ部40E及び被固定部材30の突起部30Cの周方向の端部に傾斜面が形成されているため、コマ40を回転させることにより、逃げ部40Eの縁と突起部30Cとが当接して、コマ40が持ち上がる。これにより筒部材20の取付穴20Aからコマ40を容易に取り外すことができる。
【0024】
また、本実施形態では、コマ40の頭部42の外方の面には、切り欠き部42Aが形成されている。これにより、切り欠き部42Aに工具を挿入することで、容易にコマ40を回転させることができる。
【0025】
また、レンズ鏡筒をコンパクト化するため、レンズ鏡筒を構成する筒部材20の外方には、他の筒部材などの部材が当接状態で配置することが好ましい。これに対して、本実施形態の固定構造2では、固定状態において、コマ40が筒部材20の表面から突出していない。このため、レンズ鏡筒を構成する筒部材20の外方には、他の筒部材などの部材を配置することができ、レンズ鏡筒をコンパクト化することができる。そして、コマ40が筒部材20の表面から突出していないと、コマ40の取り外しが困難になるが、本実施形態の固定構造によれば、上記の通り、コマ40を回転させることにより、容易にコマ40を取り外すことができる。
【0026】
また、本実施形態では、被固定部材30は筒部材20の内側に配置されている。これにより、コマ40が筒部材20の外側に位置するため、容易にコマ40の取り外しを行うことができる。
【0027】
なお、本実施形態では、被固定部材30の突起部30C及びコマ40の逃げ部40Eの双方の断面が等脚台形であり、周方向両側に傾斜部を有しているが、被固定部材30の突起部30C及びコマ40の逃げ部40Eの少なくとも一方の周方向の端部に傾斜面が形成されればよい。
【0028】
また、本実施形態では、被固定部材30が筒部材20の内側に配置されているが、これに限らず、筒部材20の外側に固定する場合であっても、本発明を適用できる。
【0029】
また、本実施形態では、被固定部材30として、レンズ群を保持するレンズ枠を支持する支持部材を固定する場合について説明したが、これに限らず、他の部材を筒部材に固定する場合にも、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 レンズ鏡筒
2 固定構造
8 ねじ
8A 頭部
8B 軸部
20 筒部材
20A 取付穴
20B 大径穴部
20C 小径穴部
30 被固定部材
30A 締結穴
30B 凹部
30C 突起部
30D 円筒部
40 コマ
40A 貫通孔
40B 第1の大径孔部
40C 小径孔部
40D 第2の大径孔部
40E 逃げ部
40F 円環突出部
42 頭部
42A 切り欠き部
44 大径部
46 小径部