(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】複合材翼、回転機械及び複合材翼の成形方法
(51)【国際特許分類】
F01D 5/14 20060101AFI20231228BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F01D5/14
F01D5/28
(21)【出願番号】P 2020046583
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昌美
(72)【発明者】
【氏名】岡部 良次
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】橘 孝洋
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187019(JP,A)
【文献】特表2018-538481(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0010807(US,A1)
【文献】特開2019-001024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/14
F01D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と樹脂とを含む複合材を用いて形成され、正圧面と負圧面とを有する複合材翼において、
前記正圧面と前記負圧面とを結ぶ方向である翼厚方向において、前記正圧面側の部位となる腹側部位と、
前記翼厚方向において、前記負圧面側の部位となる背側部位と、
流体が流通する流通方向の上流側となる前縁側に設けられる金属シールド部と、を備え、
前記金属シールド部は、
前縁側に設けられる本体部と、
前記本体部の前記流通方向の下流側となる後縁側に設けられ、前記腹側部位と前記背側部位との間に設けられる埋め込み部と、を有し、
前記金属シールド部の前記翼厚方向における板厚は、前記本体部から前記埋め込み部へ向かって薄くな
っており、
前記本体部は、外表面側となる外表面部位と、前記外表面部位の内側の部位となる内側部位とを含み、
前記金属シールド部は、少なくとも前記外表面部位が中実構造となっており、少なくとも前記埋め込み部がラティス構造となっている複合材翼。
【請求項2】
前記本体部は、前縁側の端部から前記正圧面を経て後縁側に至るまでの長さが、前縁側の端部から前記負圧面を経て後縁側に至るまでの長さと比べて長い請求項1に記載の複合材翼。
【請求項3】
前記金属シールド部は、
前記埋め込み部に設けられ、前記埋め込み部から前記翼厚方向に突出する抜け止め部を、さらに有する請求項1または2に記載の複合材翼。
【請求項4】
前記ラティス構造は、前記腹側部位との接合界面、及び前記背側部位との接合界面において、前記樹脂が含浸している請求項
1から3のいずれか1項に記載の複合材翼。
【請求項5】
前記ラティス構造の内部に充填される発泡剤を、さらに備える請求項
1から4のいずれか1項に記載の複合材翼。
【請求項6】
前記ラティス構造は、前記腹側部位と接する部位及び前記背側部位と接する部位に、突起部が設けられる請求項
1から
5のいずれか1項に記載の複合材翼。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1項に記載の複合材翼を周方向に沿って複数配置する回転機械。
【請求項8】
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の複合材翼を成形する複合材翼の成形方法であって、
前記腹側部位及び前記背側部位は、強化繊維シートを積層して成形され、
前記背側部位を成形するための背側成形型に、前記強化繊維シートを積層して前記背側部位を形成するステップと、
前記腹側部位を成形するための腹側成形型に、前記強化繊維シートを積層して前記腹側部位を形成するステップと、
前記金属シールド部の前記本体部を前記前縁側に配置すると共に、前記埋め込み部を前記腹側部位と前記背側部位との間に配置して、前記背側部位と前記腹側部位とを重ね合わせるステップと、
前記金属シールド部、前記背側部位及び前記腹側部位を接合するステップと、を備え
、
前記背側部位と前記腹側部位とを重ね合わせるステップでは、
前記腹側部位の内側に、硬化前の接着剤シートを配置し、
前記接着剤シートを挟んで、前記腹側部位の前縁側に、前記金属シールド部を配置し、
前記金属シールド部の前記埋め込み部上に、発泡剤を配置し、
前記背側部位の内側に、硬化前の接着剤シートを配置する複合材翼の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材翼、回転機械及び複合材翼の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材翼として、航空機のガスタービンエンジンのファンブレードに適用したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。ファンブレードは、複合翼形部分と、前縁部分に設けられる金属製前縁シールドとを有している。ファンブレードは、金属製前縁シールドを設けることで、バードストライクや砂塵等の衝突から、ファンブレードを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
産業用ガスタービンにおいても、複合材翼の適用が検討されている。産業用ガスタービンでは、圧縮機入口の上流吸気口に、吸気フィルターが設置されており、航空機用ガスタービンエンジンのように使用中に鳥や砂塵が侵入することは考慮する必要は無い。しかし、外気温が低い場合に、吸気口や圧縮機の前段に発生する氷が、後段の翼に衝突する恐れがある。そのため、産業用ガスタービンの動翼に、複合材翼を用いるには、耐衝撃性を向上させる必要がある。
【0005】
このため、産業用ガスタービンの圧縮機の動翼にも、特許文献1のように、複合翼形部分を、金属製前縁シールドによって外側から挟み込むように被覆することが考えられる。この場合、前縁から後縁に向かう複合材翼の剛性は、金属製前縁シールドが設けられる部位と、金属製前縁シールドが設けられない部位との間で大きく変化する。前縁と後縁とを結ぶ翼幅方向において、複合材翼の剛性が大きく変化すると、複合材翼に対して応力が作用した場合、応力集中が発生する可能性がある。
【0006】
そこで、本開示は、前縁側から後縁側に亘って剛性の変化を抑制することで、応力集中の発生を抑制することができる複合材翼、回転機械及び複合材翼の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の複合材翼は、強化繊維と樹脂とを含む複合材を用いて形成され、正圧面と負圧面とを有する複合材翼において、前記正圧面と前記負圧面とを結ぶ方向である翼厚方向において、前記正圧面側の部位となる腹側部位と、前記翼厚方向において、前記負圧面側の部位となる背側部位と、流体が流通する流通方向の上流側となる前縁側に設けられる金属シールド部と、を備え、前記金属シールド部は、前縁側に設けられる本体部と、前記本体部の前記流通方向の下流側となる後縁側に設けられ、前記腹側部位と前記背側部位との間に設けられる埋め込み部と、を有し、前記金属シールド部の前記翼厚方向における板厚は、前記本体部から前記埋め込み部へ向かって薄くなる。
【0008】
本開示の回転機械は、上記の複合材翼を周方向に沿って複数配置する。
【0009】
本開示の複合材翼の成形方法は、上記の複合材翼を成形する複合材翼の成形方法であって、前記腹側部位及び前記背側部位は、強化繊維シートを積層して成形され、前記背側部位を成形するための背側成形型に、前記強化繊維シートを積層して前記背側部位を形成するステップと、前記腹側部位を成形するための腹側成形型に、前記強化繊維シートを積層して前記腹側部位を形成するステップと、前記金属シールド部の前記本体部を前記前縁側に配置すると共に、前記埋め込み部を前記腹側部位と前記背側部位との間に配置して、前記背側部位と前記腹側部位とを重ね合わせるステップと、前記金属シールド部、前記背側部位及び前記腹側部位を接合するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、前縁側から後縁側に亘って剛性の変化を抑制することで、応力集中の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る複合材翼を備えた回転機械の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る複合材翼を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態3に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態4に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態5に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態6に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、複合材翼の金属シールド部の一例を模式的に示す説明図である。
【
図10】
図10は、複合材翼の金属シールド部の一例を模式的に示す説明図である。
【
図11】
図11は、複合材翼の金属シールド部の一例を模式的に示す説明図である。
【
図12】
図12は、複合材翼のラティス構造を模式的に示す説明図である。
【
図13】
図13は、複合材翼の成形方法に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0013】
[実施形態1]
実施形態1に係る複合材翼10は、例えば、発電用ガスタービンまたはガスタービンエンジン等の回転機械1に設けられ、回転機械1の動翼または静翼に適用可能である。回転機械1としてガスタービンに適用して説明する。
【0014】
図1は、実施形態1に係る複合材翼を備えた回転機械の模式図である。
図1に示すように、回転機械1は、圧縮機5と、タービン6と、燃焼器7とを備える。圧縮機5は、複数の動翼からなる動翼段と、複数の静翼からなる静翼段とが交互に配設されている。動翼段は、複数の動翼が回転軸の周方向に沿って並べて設けられる。圧縮機5は、回転軸が回転することで、外部から取り込まれた空気を圧縮して、燃焼器7に供給される。
【0015】
燃焼器7は、圧縮機5で圧縮された圧縮空気と、燃料とを混合し、燃料を燃焼させることで、燃焼ガスを生成する。タービン6は、複数の静翼からなる動翼段と、複数の静翼からなる静翼段とが交互に配設されている。タービン6は、燃焼器7からの燃焼ガスによって、回転軸を回転駆動させる。
【0016】
(複合材翼)
次に、
図2及び
図3を参照して複合材翼10について説明する。
図2は、実施形態1に係る複合材翼を模式的に示す斜視図である。
図3は、実施形態1に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、複合材翼10は、動翼となっており、固定端となる翼根21側から自由端となる翼頂22側に向かって延在している。ここで、翼根21側と翼頂22側とを結ぶ方向が、翼長方向となっており、
図2に示すL方向となっている。また、複合材翼10は、
図2の翼長方向に直交する方向の一方側が前縁側となっており、他方側が後縁側となっている。そして、前縁側と後縁側とを結ぶ方向が、翼幅方向となっており、
図2に示すW方向となっている。前縁側は、複合材翼10を通過する流体の流通方向において上流側となっており、後縁側は下流側となっている。
【0017】
複合材翼10は、強化繊維及び樹脂からなる複合材を用いて成形される。また、
図3に示すように、複合材翼10は、翼幅方向に亘って湾曲して形成されており、複合材翼10の内側から外側に向かって凸となる側が背側となっており、複合材翼10の内側から外側に向かって凹となる側が腹側となっている。ここで、背側と腹側とを結ぶ方向が、翼厚方向となっており、
図3に示すT方向となっている。背側の翼面は、複合材翼10を流体が流通するときに負圧面となるサクション側となっており、腹側の翼面は、正圧面となるプレッシャー側となっている。
【0018】
複合材翼10は、背側の部位である背側翼部材(背側部位)12と、腹側の部位である腹側翼部材(腹側部位)14と、背側翼部材12と腹側翼部材14との前縁側に設けられる金属シールド部15とを備えている。
【0019】
背側翼部材12は、強化繊維に樹脂を含浸させた強化繊維シートとしてのプリプレグを、複数積層して熱硬化させたものとなっている。背側翼部材12は、後述する背側成形型32によって成形される。背側翼部材12は、複合材翼10の外表面が凸となる湾曲形状に形成されている。また、背側翼部材12は、複合材翼10の内面が凹となる湾曲形状に形成されている。
【0020】
腹側翼部材14は、背側翼部材12と同様に、強化繊維に樹脂を含浸させた強化繊維シートとしてのプリプレグを、複数積層して熱硬化させたものとなっている。腹側翼部材14は、後述する腹側成形型34によって成形される。腹側翼部材14は、複合材翼10の外表面が凹となる湾曲形状に形成されている。また、腹側翼部材14は、複合材翼10の内面が凸となる湾曲形状に形成されている。
【0021】
そして、背側翼部材12の翼幅方向における後縁側と、腹側翼部材14の翼幅方向における後縁側とは、複合材翼10の翼厚方向の中心を含む面となる中立面Pにおいて接合されている。つまり、背側翼部材12の後縁側の内面と、腹側翼部材14の後縁側の内面とは、中立面Pにおいて接合されている。
【0022】
金属シールド部15は、前縁側に設けられる本体部15aと、後縁側に設けられる埋め込み部15bと、を有している。金属シールド部15は、金属を用いて形成され、例えば、金属インクを用いた3Dプリンタ等により造形される。
【0023】
本体部15aは、複合材翼10において、外部に露出する部位となっている。本体部15aは、金属からなる中実構造となっている。本体部15aは、複合材翼10の中立面P上における前縁側の端部から、正圧面を経て後縁側に至る正圧側翼面と、複合材翼10の中立面P上における前縁側の端部から、負圧面を経て後縁側に至る負圧側翼面と、を有する。
【0024】
埋め込み部15bは、本体部15aの後縁側に設けられ、複合材翼10において、内部に埋め込まれる部位となっている。埋め込み部15bは、背側翼部材12と腹側翼部材14との間に設けられ、背側翼部材12と腹側翼部材14とにより挟み込まれている。埋め込み部15bは、本体部15a側から後縁側へ向かって、翼厚方向における板厚が薄くなっている。
【0025】
また、金属シールド部15は、翼幅方向における長さが、複合材翼10の全幅に対して半分よりも短い長さとなっている。
【0026】
[実施形態2]
次に、
図4を参照して、実施形態2に係る複合材翼30について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図4は、実施形態2に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【0027】
実施形態2の複合材翼30は、
図4に示す翼長方向に直交する面で切った断面において、本体部15aの負圧側翼面における前縁側の端部から後縁側までの長さL1が、本体部15aの正圧側翼面と、における前縁側の端部から後縁側までの長さL2に比べて長く形成されている。
【0028】
[実施形態3]
次に、
図5を参照して、実施形態3に係る複合材翼40について説明する。なお、実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図5は、実施形態3に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【0029】
実施形態3の複合材翼40は、
図5に示す翼長方向に直交する面で切った断面において、埋め込み部15bから翼厚方向に突出する抜け止め部15cを、さらに有するものとなっている。抜け止め部15cは、埋め込み部15bに対して翼厚方向の両側に突出しており、翼厚方向の厚みを一部厚くした形状となっている。このため、金属シールド部15は、背側翼部材12及び腹側翼部材14の接合時に、背側翼部材12と腹側翼部材14との間に挟み込まれる形状となっている。
【0030】
[実施形態4]
次に、
図6を参照して、実施形態4に係る複合材翼50について説明する。なお、実施形態4では、重複した記載を避けるべく、実施形態1から3と異なる部分について説明し、実施形態1から3と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図6は、実施形態4に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【0031】
実施形態4の複合材翼50は、
図6に示す翼長方向に直交する面で切った断面において、金属シールド部15の本体部15aは、外表面側となる外表面部位18aと、外表面部位18aの内側の部位となる内側部位18bと、を含んでいる。外表面部位18aは、金属からなる中実構造となっている。内側部位18b及び埋め込み部15bは、ラティス構造となっている。ラティス構造は、格子状の骨組みが周期的に配置された構造となっている。
【0032】
なお、内側部位18bは、中実構造であってもよい。つまり、金属シールド部15は、少なくとも外表面部位18aが中実構造であり、少なくとも埋め込み部15bがラティス構造であれば、他の部位は、中実構造であっても、ラティス構造であってもよい。
【0033】
[実施形態5]
次に、
図7を参照して、実施形態5に係る複合材翼60について説明する。なお、実施形態5では、重複した記載を避けるべく、実施形態1から4と異なる部分について説明し、実施形態1から4と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図7は、実施形態5に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【0034】
実施形態5の複合材翼60は、
図7に示す翼長方向に直交する面で切った断面において、背側翼部材12と腹側翼部材14との接合面に、接着剤層61が形成されたものとなっている。接着剤層61は、熱硬化性樹脂を含む接着剤シートを、接合時において、背側翼部材12と腹側翼部材14との間に挟み込んで加熱することにより形成される。また、実施形態5の複合材翼60は、実施形態4のラティス構造と背側翼部材12との接合界面、及びラティス構造と腹側翼部材14との接合界面において、接着剤としての樹脂が含浸している。つまり、ラティス構造と背側翼部材12との間、及びラティス構造と腹側翼部材14との間に、接着剤シートを挟み込んで加熱することにより、ラティス構造に樹脂が含浸する。
【0035】
[実施形態6]
次に、
図8を参照して、実施形態6に係る複合材翼70について説明する。なお、実施形態6では、重複した記載を避けるべく、実施形態1から5と異なる部分について説明し、実施形態1から5と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図8は、実施形態6に係る複合材翼を模式的に示す断面図である。
【0036】
実施形態6の複合材翼70は、
図7に示す翼長方向に直交する面で切った断面において、実施形態4及び実施形態5のラティス構造の内部に充填される発泡剤71をさらに備える。発泡剤71は、発泡前に、背側翼部材12と腹側翼部材14との間に配置され、この後、加熱されて発泡することで、ラティス構造の内部に充填される。発泡剤71は、樹脂成分と発泡成分と繊維成分とを含んで構成されている。樹脂成分は、加熱されることで硬化するものであり、強化繊維シートに含まれる樹脂と同じものとしてもよい。発泡成分は、加熱されることで発泡するものであり、例えば、加熱されることで発泡成分が炭酸ガス等となり樹脂成分内に気泡を生じさせている。繊維成分は、発泡成分による発泡をムラのない安定した発泡形態となるように添加される。
【0037】
(ラティス構造)
次に、
図9から
図11を参照して金属シールド部15について説明する。
図9から
図11は、複合材翼の金属シールド部の一例を模式的に示す説明図である。金属シールド部15は、実施形態4から実施形態6に示すように、少なくとも外表面部位18aが中実構造であり、少なくとも埋め込み部15bがラティス構造となっている。
【0038】
図9に示す金属シールド部15は、内側部位18bがラティス構造となっている。
図9に示すように、金属シールド部15は、複合材翼40,50,60の翼頂22側(チップ側)において、翼厚方向の厚みが薄くなっており、翼根21側において、翼厚方向の厚みが厚くなっている。
【0039】
図10に示す金属シールド部15は、内側部位18bが中実構造となっている。また、埋め込み部15bの前縁側における内側の部位が中実構造となっている。
図10に示すように、金属シールド部15は、複合材翼40,50,60の翼頂22側(チップ側)において、翼厚方向の厚みが薄くなっており、翼根21側において、翼厚方向の厚みが厚くなっている。
【0040】
図11に示す金属シールド部15は、内側部位18bが中実構造となっている。なお、埋め込み部15bは全てラティス構造となっている。
図11に示すように、金属シールド部15は、複合材翼40,50,60の翼頂22側(チップ側)において、翼厚方向の厚みが薄くなっており、翼根21側において、翼厚方向の厚みが厚くなっている。
【0041】
図9から
図11に示すように、金属シールド部15は、中実構造とラティス構造との割合について特に限定されない。中実構造とラティス構造との割合は、複合材翼10に要求される性能に応じて適宜設定される。複合材翼10を動翼として適用する場合には、回転による遠心力が作用するため、例えば、
図9に示す金属シールド部15を適用することで、軽量化を図ってもよい。また、複合材翼10を静翼として適用する場合には、剛性を高くするため、例えば、
図10に示す金属シールド部15を適用してもよい。また、中実構造とラティス構造との割合は、翼長方向において変化させてもよい。例えば、複合材翼10を動翼として適用する場合、翼頂(チップ)側に向かうにつれて、中実構造よりもラティス構造の割合が多くなってもよい。さらに、ラティス構造において、ラティスの気孔率を、0よりも大きく50以下となる範囲で変化させてもよい。
【0042】
次に、
図12を参照してラティス構造について説明する。
図12は、複合材翼のラティス構造を模式的に示す説明図である。ラティス構造は、背側翼部材12と接する部位、及び腹側翼部材14と接する部位に、突起部81が設けられる。突起部81は、ラティス構造の外面に複数設けることで剣山形状に形成される。突起部81は、背側翼部材12及び腹側翼部材14に食い込むことで、金属シールド部15と背側翼部材12との接合強度、及び金属シールド部15と腹側翼部材14との接合強度を高めている。
【0043】
(複合材翼の成形方法)
次に、
図13を参照して、上記した複合材翼70の成形方法について説明する。なお、以下の説明では、実施形態6の複合材翼70を成形する場合について説明する。複合材翼70の成形方法は、積層工程S1と、設置工程S2と、型合わせ工程S3と、硬化工程S4とを順に行っている。
【0044】
積層工程S1では、背側翼部材12の成形前である背側積層体12aを形成する背側積層工程と、腹側翼部材14の成形前である腹側積層体14aを形成する腹側積層工程とを行っている。
【0045】
背側積層工程では、背側翼部材12を成形するための背側成形型26にプリプレグを積層して背側積層体12aを形成する。背側成形型26は、背側翼部材12の外表面を成形する成形面を有する。背側成形型26は、背側翼部材12の外表面を凸となる湾曲形状に成形すべく、凹状に窪んで形成されている。背側積層工程では、プリプレグを数プライ積層するごとに真空引きを行って、背側積層体12aを形成している。
【0046】
腹側積層工程では、腹側翼部材14を成形するための腹側成形型25にプリプレグを積層して腹側積層体14aを形成する。腹側成形型25は、腹側翼部材14の外表面を成形する成形面を有する。腹側成形型25は、腹側翼部材14の外表面を凹となる湾曲形状に成形すべく、凸状に突出して形成されている。腹側積層工程では、背側積層工程と同様に、プリプレグを数プライ積層するごとに真空引きを行って、腹側積層体14aを形成している。
【0047】
設置工程S2では、腹側積層体14aの内側(
図13の上側)に、硬化前の接着剤層61となる接着剤シートを配置する。また、設置工程S2では、接着剤シートを挟んで、腹側積層体14aの前縁側に、金属シールド部15を配置する。さらに、設置工程S2では、金属シールド部15の埋め込み部15b上に、発泡剤71を配置する。また、設置工程S2では、背側積層体12aの内側(
図13の上側)に、硬化前の接着剤層61となる接着剤シートを配置する。
【0048】
型合わせ工程S3では、背側成形型26と腹側成形型25とを型合わせする。具体的に、型合わせ工程S3では、背側成形型26と腹側成形型25とを型合わせすることで、背側成形型32に積層した背側積層体12aと、腹側成形型34に積層した腹側積層体14aとが、中立面Pにおいて重ね合わされる。なお、型合わせ工程S3では、腹側成形型25を腹側積層工程と同様の状態として下方側に配置し、また、背側成形型26を背側積層工程の状態から上下反転して腹側成形型25の上方側に配置して、背側成形型26と腹側成形型25との型合わせを行う。
【0049】
硬化工程S4では、背側成形型26と腹側成形型25とが近づく方向に加圧しつつ、背側積層体12a、腹側積層体14a、接着剤シート及び発泡剤71を加熱する。硬化工程S4では、加熱することで、発泡剤71が膨張する。このため、複合材翼70の内部の圧力が発泡剤71の膨張によって与えられることから、硬化前の背側積層体12a及び腹側積層体14aは、発泡剤71によって、背側成形型32及び腹側成形型34へ向かって加圧される。そして、発泡剤71の発泡後、接着剤シート(接着剤層61)、発泡剤71の樹脂成分及びプリプレグの樹脂が硬化することで、背側積層体12a、腹側積層体14a及び金属シールド部15は、発泡剤71により加圧された状態で熱硬化する。これにより、硬化後の背側積層体12aである背側翼部材12、硬化後の腹側積層体14aである腹側翼部材14、金属シールド部15及び発泡剤71は一体となり、複合材翼70が成形される。
【0050】
そして、背側成形型32と腹側成形型34とを離れる方向に移動させることで、背側成形型32と腹側成形型34とから、成形された複合材翼70を離形させる。
【0051】
なお、複合材翼70の成形方法では、上記の成形方法に特に限定されない。背側積層体12aを熱硬化して背側翼部材12とし、腹側積層体14aを熱硬化して腹側翼部材14として成形した後に、背側翼部材12、腹側翼部材14及び金属シールド部15を、接着剤層61を介して接合してもよい。
【0052】
また、複合材翼70の成形方法では、強化繊維シートとして、プリプレグを適用し、プリプレグを熱硬化して成形する場合について説明したが、特に限定されない。例えば、複合材翼70の成形方法は、強化繊維シートとして、樹脂が含侵されていないドライ状態の強化繊維基材を適用し、積層後に樹脂を含侵させるRTM成形、または、熱可塑性樹脂を含侵させるプレス成形であってもよい。
【0053】
以上のように、本実施形態に記載の複合材翼10,30,40,50,60,70、回転機械1及び複合材翼10,30,40,50,60,70の成形方法は、例えば、以下のように把握される。
【0054】
第1の態様に係る複合材翼10,30,40,50,60,70は、強化繊維と樹脂とを含む複合材を用いて形成され、正圧面と負圧面とを有する複合材翼10,30,40,50,60,70において、前記正圧面と前記負圧面とを結ぶ方向である翼厚方向において、前記正圧面側の部位となる腹側部位(腹側翼部材14)と、前記翼厚方向において、前記負圧面側の部位となる背側部位(背側翼部材12)と、流体が流通する流通方向の上流側となる前縁側に設けられる金属シールド部15と、を備え、前記金属シールド部15は、前縁側に設けられる本体部15aと、前記本体部15aの前記流通方向の下流側となる後縁側に設けられ、前記腹側部位と前記背側部位との間に設けられる埋め込み部15bと、を有し、前記金属シールド部15の前記翼厚方向における板厚は、前記本体部15aから前記埋め込み部15bへ向かって薄くなる。
【0055】
この構成によれば、金属シールド部15の翼厚を、翼幅方向の前縁側から後縁側に向かって漸次薄くすることができるため、翼幅方向における剛性の急峻な変化を抑制することができる。このため、前縁側から後縁側に亘って複合材翼10,30,40,50,60,70の剛性の変化を抑制することで、応力集中の発生を抑制することができる。
【0056】
第2の態様として、前記本体部15aは、前縁側の端部から前記正圧面を経て後縁側に至るまでの長さL1が、前縁側の端部から前記負圧面を経て後縁側に至るまでの長さL2と比べて長い。
【0057】
この構成によれば、正圧側となる長さL1を長くすることができるため、正圧面側における金属シールド部15の被覆面積を、負圧面側に比して大きくすることができる。このため、複合材翼10,30,40,50,60,70の正圧面側における保護をより強化することができる。
【0058】
第3の態様として、前記金属シールド部15は、前記埋め込み部15bに設けられ、前記埋め込み部15bから前記翼厚方向に突出する抜け止め部15cを、さらに有する。
【0059】
この構成によれば、複合材翼10,30,40,50,60,70が動翼である場合、複合材翼10,30,40,50,60,70に作用する遠心力によって、金属シールド部15が逸脱することを、抜け止め部15cにより規制することができる。
【0060】
第4の態様として、前記本体部15aは、外表面側となる外表面部位18aと、前記外表面部位18aの内側の部位となる内側部位18bとを含み、前記金属シールド部15は、少なくとも前記外表面部位18aが中実構造となっており、少なくとも前記埋め込み部15bがラティス構造となっている。
【0061】
この構成によれば、ラティス構造とすることで、複合材翼10,30,40,50,60,70の軽量化を図ることができる。このため、複合材翼10,30,40,50,60,70が動翼に適用される場合、遠心荷重の増加を抑制することができる。また、ラティス構造とすることで、翼幅方向における剛性の急峻な変化をより抑制することができる。
【0062】
第5の態様として、前記ラティス構造は、前記腹側部位との接合界面、及び前記背側部位との接合界面において、前記樹脂が含浸している。
【0063】
この構成によれば、接合界面に接着剤としての樹脂を含浸させることができるため、ラティス構造と腹側部位との接合強度、ラティス構造と背側部位との接合強度を向上させることができる。
【0064】
第6の態様として、前記ラティス構造の内部に充填される発泡剤71を、さらに備える。
【0065】
この構成によれば、ラティス構造に発泡剤71が充填されることで、発泡剤71の膨張による加圧力によって、金属シールド部15周りにおけるボイドの発生を抑制することができる。また、加圧力によって、腹側部位、背側部位及び金属シールド部15を成形型に押し付けることができるため、成形精度の向上を図ることができる。
【0066】
第7の態様として、前記ラティス構造は、前記腹側部位と接する部位及び前記背側部位と接する部位に、突起部81が設けられる。
【0067】
この構成によれば、ラティス構造と腹側部位との接合強度、ラティス構造と背側部位との接合強度を向上させることができる。
【0068】
第8の態様に係る回転機械1は、上記の複合材翼10,30,40,50,60,70を周方向に沿って複数配置する。
【0069】
この構成によれば、応力集中を抑制した耐久性の高い複合材翼10,30,40,50,60,70を用いた回転機械1を提供することができる。
【0070】
第9の態様に係る複合材翼10,30,40,50,60,70の成形方法は、上記の複合材翼10,30,40,50,60,70を成形する複合材翼10,30,40,50,60,70の成形方法であって、前記腹側部位及び前記背側部位は、強化繊維シートを積層して成形され、前記背側部位を成形するための背側成形型26に、前記強化繊維シートを積層して前記背側部位を形成するステップS1と、前記腹側部位を成形するための腹側成形型25に、前記強化繊維シートを積層して前記腹側部位を形成するステップS1と、前記金属シールド部15の前記本体部15aを前記前縁側に配置すると共に、前記埋め込み部15bを前記腹側部位と前記背側部位との間に配置して、前記背側部位と前記腹側部位とを重ね合わせるステップS3と、前記金属シールド部15、前記背側部位及び前記腹側部位を接合するステップS4と、を備える。
【0071】
この構成によれば、金属シールド部15の翼厚を、翼幅方向の前縁側から後縁側に向かって漸次薄くした複合材翼10,30,40,50,60,70を成形することができる。このため、応力集中の発生を抑制した複合材翼10,30,40,50,60,70を成形することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 回転機械
5 圧縮機
6 タービン
7 燃焼器
10,30,40,50,60,70 複合材翼
12 背側翼部材
14 腹側翼部材
15 金属シールド部
15a 本体部
15b 埋め込み部
15c 抜け止め部
18a 外表面部位
18b 内側部位
25 腹側成形型
26 背側成形型
61 接着剤層
71 発泡剤
81 突起部