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特許7411468ワイヤ付きステント及びカテーテル・ステント・システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ワイヤ付きステント及びカテーテル・ステント・システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20231228BHJP
   A61F 2/95 20130101ALI20231228BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61F2/90
A61F2/95
A61M25/00 620
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020052300
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151314
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-01-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】512046383
【氏名又は名称】大塚メディカルデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】土井 裕太
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】井上 哲男
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513505(JP,A)
【文献】特開2016-185206(JP,A)
【文献】特表平6-511162(JP,A)
【文献】国際公開第2018/236414(WO,A1)
【文献】特表2018-538027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61F 2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤと、前記ワイヤの遠位側に連結されたステントとを備え、網目状コイルと螺旋状コイルとが重畳した構造を有するカテーテルに挿入して用いられるワイヤ付きステントであって、
前記ワイヤには、遠位側の領域に、近位側から遠位側に向けて全体がテーパー状に縮径し、前記カテーテルの内表面との間の摺動性を高めるための層である高摺動性部が形成され、
前記ステントには、近位側の端部にマーカーが連結されており、
前記ワイヤの遠位端と前記マーカーの近位端が直接接続されている、ワイヤ付きステント。
【請求項2】
前記高摺動性部の外表面の表面粗さRaが0.5nm以上2.0nm未満である、請求項1に記載のワイヤ付きステント。
【請求項3】
前記高摺動性部は、疎水性材料からなる固体層からなる、請求項1に記載のワイヤ付きステント。
【請求項4】
前記高摺動性部は、親水性材料からなる流動層からなる、請求項1に記載のワイヤ付きステント。
【請求項5】
前記ステントは、前記カテーテルと共に頭蓋内のM1領域以降の領域へ到達して用いられる、請求項1~4のいずれかに記載のワイヤ付きステント。
【請求項6】
前記ステントは、前記M1領域以降の領域において、脳血管に発生した血栓の回収に用いられる、請求項5に記載のワイヤ付きステント。
【請求項7】
ワイヤ付きステントと、前記ワイヤ付きステントが挿入されて用いられるカテーテルとを備えるステント・カテーテル・システムであって、
前記ワイヤ付きステントは、
遠位側の領域に、近位側から遠位側に向けて全体がテーパー状に縮径し、前記カテーテルの内表面との間の摺動性を高めるための層である高摺動性部が形成されたワイヤと、
前記ワイヤの遠位側に連結され、近位側の端部にマーカーが連結されたステントと
を有し、
前記カテーテルは、網目状コイルと螺旋状コイルとが重畳した構造を有しており、
前記ワイヤ付きステントのうち、前記ワイヤの遠位端と前記マーカーの近位端が直接接続されている、ステント・カテーテル・システム。
【請求項8】
前記カテーテルは、内表面に凹凸を有する、請求項7に記載のステント・カテーテル・システム。
【請求項9】
頭蓋内のM1領域以降の領域へ到達して用いられる、請求項7又は8に記載のステント・カテーテル・システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ付きステント及びカテーテル・ステント・システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管に発生した血栓を捕捉するために、ワイヤと、その遠位側に連結されたステントとを備えるカテーテル・ステント・システム(以下、「CSシステム」ともいう)が用いられている。このようなCSシステムによれば、血管内に挿入したステントにより血栓を捕捉した後、カテーテルを介してワイヤを引き込み、血栓をステントと共に体内から引き出すことにより、血栓を回収することができる。CSシステムに用いられるカテーテルとして、2種類のコイルが重畳した構造を有するカテーテルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-185206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記カテーテルは、先端部の柔軟性が高く、また先端部へのトルク伝達性にも優れている。しかし、上記カテーテルは、2種類のコイルが重畳しているため、そのコイルを被覆している樹脂の内表面に、重畳したコイルの段差に対応した凹凸が形成されている。一方、カテーテルに挿入されるワイヤ付きステントは、ワイヤの遠位側にコイル状部材が連結されている。このコイル状部材は、金属の線材を螺旋状に巻き回したものであるため、外側に凹凸が形成されている。
【0005】
上記カテーテルに従来のワイヤ付きステントを挿入して用いると、カテーテルの内表面の凹凸と、ワイヤに連結されたコイル状部材の凹凸とが擦れ合い、カテーテル内でのワイヤ付きステントの摺動抵抗が大きくなる。カテーテル内におけるワイヤ付きステントの摺動抵抗が大きくなると、施術者がワイヤを押し込んだり、引き込んだりする際の操作性が悪くなる。そのため、内表面に凹凸を有するカテーテルに挿入されたワイヤ付きステントの操作性を向上させることが求められている。
【0006】
本発明の目的は、操作性をより向上させたワイヤ付きステント及びカテーテル・ステント・システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、ワイヤと、前記ワイヤの遠位側に連結されたステントとを備え、網目状コイルと螺旋状コイルとが重畳した構造を有するカテーテルに挿入して用いられるワイヤ付きステントであって、前記ワイヤには、遠位側の領域に、近位側から遠位側に向けて全体がテーパー状に縮径し、前記カテーテルの内表面との間の摺動性を高めるための層である高摺動性部が形成され、前記ステントには、近位側の端部にマーカーが連結されており、前記ワイヤの遠位端と前記マーカーの近位端が直接接続されている、ワイヤ付きステントに関する。
【0009】
上記高摺動性部の外表面の表面粗さRaが0.5nm以上2.0nm未満としてもよい。
【0010】
上記高摺動性部は、疎水性材料からなる固体層であってもよい。
【0011】
上記高摺動性部は、親水性材料からなる流動層であってもよい。
【0012】
上記前記ステントは、前記カテーテルと共に頭蓋内のM1領域以降の領域へ到達して用いられてもよい。
【0013】
上記ステントは、前記M1領域以降の領域において、脳血管に発生した血栓の回収に用いられてもよい。
【0014】
第2の発明は、ワイヤ付きステントと、前記ワイヤ付きステントが挿入されて用いられるカテーテルとを備えるステント・カテーテル・システムであって、前記ワイヤ付きステントは、遠位側の領域に、近位側から遠位側に向けて全体がテーパー状に縮径し、前記カテーテルの内表面との間の摺動性を高めるための層である高摺動性部が形成されたワイヤと、前記ワイヤの遠位側に連結され、近位側の端部にマーカーが連結されたステントとを有し、前記カテーテルは、網目状コイルと螺旋状コイルとが重畳した構造を有しており、前記ワイヤ付きステントのうち、前記ワイヤの遠位端と前記マーカーの近位端が直接接続されている、ステント・カテーテル・システムに関する。
【0015】
上記カテーテルは、内表面に凹凸を有していてもよい。
【0016】
上記カテーテルは、頭蓋内のM1領域以降の領域へ到達して用いられてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、操作性をより向上させたワイヤ付きステント、カテーテル及びカテーテル・ステント・システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ワイヤ付きステント10の構成を示す図である。
図2】カテーテル・ステント・システム1の構成を示す概念図である。
図3】カテーテル20における網目状コイル211及び螺旋状コイル212の構成を示す概念図である。
図4】(A)~(E)は、カテーテル・ステント・システム1により血管内の血栓を除去する手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るワイヤ付きステント、カテーテル及びカテーテル・ステント・システムの実施形態について説明する。なお、本明細書に添付した図面は、いずれも模式図であり、理解しやすさ等を考慮して、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更又は誇張している。また、図面においては、部材の断面を示すハッチングを適宜に省略する。
【0021】
図1は、ワイヤ付きステント10の構成を示す図である。図2は、カテーテル・ステント・システム1の構成を示す概念図である。図3は、カテーテル20における網目状コイル211及び螺旋状コイル212の構成を示す概念図である。
なお、本明細書では、CSシステム(カテーテル・ステント・システム)1の軸線方向LDにおいて、施術者から離れた側を遠位側D1とし、施術者に近い側を近位側D2として説明する。
【0022】
本実施形態のCSシステム1は、後述するように、ワイヤ付きステント10と、カテーテル20とを備えている。
図1に示すように、ワイヤ付きステント10は、主な構成として、ステント11と、プッシャワイヤ12と、被覆層(高摺動性部)13とを備えている。
【0023】
ステント11は、血栓を捕捉する部分である。ステント11は、略円筒形状に構成されている。ステント11の周壁は、ワイヤ状の材料により囲まれた複数のクローズドセル11aにより構成されている。本明細書において、ステント11の周壁とは、ステント11の略円筒構造において、円筒の内部と外部とを隔てる部分を意味する。クローズドセルとは、開口又は隔室ともいい、ステント11のメッシュパターンを形成するワイヤ状の材料で囲まれた開口部分をいう。なお、図1は、無負荷状態のステント11を示している。無負荷状態とは、ステント11が縮径されていない状態をいう。
【0024】
上記のような構造のステント11は、例えば生体適合性材料、特に好ましくは超弾性合金から形成されたチューブを、レーザ加工することにより作製される。超弾性合金チューブから作製する場合、コストを低減させるため、2~3mm程度のチューブをレーザ加工後、所望する径まで拡張させ、チューブに形状記憶処理を施すことにより作製することが好ましい。なお、ステント11は、レーザ加工に限らず、例えば切削加工等の他の方法によって作製することも可能であるし、ワイヤ状に成形した金属線を筒状に編み込むことによっても作製できる。
【0025】
ステントの材料としては、材料自体の剛性が高く且つ生体適合性が高い材料が好ましい。このような材料としては、例えばチタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、鉄、クロム、コバルト、アルミニウム、モリブデン、マンガン、タンタル、タングステン、ニオブ、マグネシウム、カルシウム、これらを含む合金等が挙げられる。また、このような材料として、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリエーテル、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂材料を用いることもできる。更に、このような材料として、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリεカプロラクトン等の生分解性樹脂(生分解性ポリマー)等を用いることもできる。
【0026】
これらの中でも、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、マグネシウム又はこれらを含む合金が望ましい。合金としては、例えばNi-Ti合金、Cu-Mn合金、Cu-Cd合金、Co-Cr合金、Cu-Al-Mn合金、Au-Cd-Ag合金、Ti-Al-V合金等が挙げられる。また、合金としては、マグネシウムと、Zr、Y、Ti、Ta、Nd、Nb、Zn、Ca、Al、Li、Mn等との合金が挙げられる。これらの合金の中では、Ni-Ti合金が望ましい。
【0027】
ステント11の近位側D2の端部は、マーカー14に連結されている。マーカー14は、ステント11の近位側D2の端部の位置を確認するための目印となる部材である。マーカー14の近位側D2には、プッシャワイヤ12が連結されている。
プッシャワイヤ12は、ステント11を移動させる際に、施術者により操作される部材である。施術者は、プッシャワイヤ12の近位側D2に連結された操作部(不図示)を介してプッシャワイヤ12を押し込んだり、引き込んだりすることにより、カテーテル20(後述)内又は血管内において、ステント11を移動させることができる。
【0028】
プッシャワイヤ12の遠位側D1の領域には、被覆層13が形成されている。被覆層13は、カテーテル20(後述)の内表面との摺動性を高めるために形成される層である。被覆層13は、プッシャワイヤ12の遠位側D1の領域の外表面を覆うように形成されている。プッシャワイヤ12の遠位側D1の領域とは、例えば、プッシャワイヤ12の遠位側D1の端部から近位側D2の方向に向かって50~3000mmの範囲をいう。被覆層13の遠位側D1の端部は、接着剤(不図示)を介してマーカー14に接合されている。なお、被覆層13の遠位側D1の端部は、図1に示すようにマーカー14との間に隙間なく接合されることが好ましいが、マーカー14との間に数mm程度の隙間があってもよい。
【0029】
被覆層13は、疎水性樹脂の固体層により形成することができる。疎水性樹脂の固体層としては、例えば、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等の材料が用いられる。これらの材料は、表面の摩擦抵抗が小さい(摺動性が高い)ため、カテーテル20の内表面に形成された凹凸との擦れ合いによる摺動抵抗を低減することができる。なお、被覆層13は、上述したプッシャワイヤ12の遠位側D1の領域に形成されていればよく、軸線方向LD長さがこの領域の長さより短くてもよいし、長くてもよい。
【0030】
被覆層13は、親水性樹脂の流動層により形成することもできる。親水性の流動層としては、例えば、ヒアルロン酸、MPCポリマー等の材料が用いられる。これらの材料は、プッシャワイヤ12の外表面に塗布することにより、表面の摩擦抵抗が小さな(摺動性が高い)半固定層となる。そのため、カテーテル20の内表面に形成された凹凸との擦れ合いによる摺動抵抗を低減することができる。
【0031】
本実施形態のワイヤ付きステント10において、高摺動性部を、外表面の表面粗さ(算出平均粗さ)Raが0.5nm以上2.0nm未満の部材により形成してもよい。本形態において、高摺動性部は、人体に対して安全な物性を有していれば、どのような材料により形成してもよい。また、本形態のワイヤ付きステント10において、プッシャワイヤ12の遠位側D1とステント11との間にコイル状部材含む構成としてもよい。その場合、コイル状部材の外表面に、上記表面粗さRaの条件を満たす部材を形成することにより、コイル状部材を高摺動性部として構成することができる。すなわち、本発明に係るワイヤ付きステントは、ワイヤの遠位側の領域に高摺動性部が形成されていれば、コイル状部材を含まない構成としてもよいし、コイル状部材を含む構成としてもよい。
本実施形態のワイヤ付きステント10において、被覆層13を形成しない構成としてもよい。本形態においては、プッシャワイヤ12の遠位側D1の領域が高摺動性部となる。なお、本形態のワイヤ付きステント10において、高摺動性部には、コイル状部材は含まれない。
【0032】
図2に示すように、本実施形態のCSシステム1は、上記のように構成されたステント11と、カテーテル20と、を備えている。ステント11は、縮径された状態でカテーテル20内に挿入される。図2では、縮径されたステント11の断面を模式的に示している。図2に示すCSシステム1において、プッシャワイヤ12は、ステント11を血管内の目的部位へ送り込む際には遠位側D1へ押し出され、ステント11を体内から回収する際には近位側D2へ引き出される。
【0033】
また、図2の拡大領域Aに示すように、カテーテル20は、芯材21と、この芯材21を被覆する樹脂層22とから構成されている。芯材21は、後述する網目状コイル211と、螺旋状コイル212とが重畳された構造を有するため、カテーテル20の内表面23及び外表面24には、上記2つのコイルの段差に対応した凹凸が形成されている。
【0034】
図3に示すように、芯材21は、網目状コイル211と、螺旋状コイル212とから構成されている。網目状コイル211は、金属の線材が網目状に編み込まれた部分である。網目状コイル211は、カテーテル20において、軸線方向LDの全域に形成されている。螺旋状コイル212は、網目状コイル211の外周側に、金属の線材が螺旋状に巻き付けられた部分である。
【0035】
図3に示すように、本実施形態のカテーテル20は、網目状コイル211と、螺旋状コイル212とが重畳された重畳部21Aと、網目状コイル211のみで構成された網目部21Bとから構成されている。網目部21Bは、主にカテーテル20の遠位側D1の領域に形成されている。カテーテル20の遠位側D1を網目状コイル211のみで構成することにより、カテーテル20の先端部(遠位側D1)の柔軟性を高めることができる。なお、カテーテル20において、軸線方向LDの全域を重畳部21Aで構成してもよい。
【0036】
上記のように構成されたカテーテル20の外径は、例えば、0.55~2.10mmである。また、内径は、例えば、0.33~1.78mmである。網目状コイル211と、螺旋状コイル212とが重畳された領域において、内表面を形成する樹脂層の表面粗さ(算出平均粗さ)Raは、例えば、1~50μm程度である。
【0037】
次に、本実施形態のステント11を備えたステント・カテーテル・システム1の使用方法の一例を説明する。
図4(A)~(E)は、ステント・カテーテル・システム1により血管内の血栓を除去する手順を示す模式図である。図4(A)~(E)においては、ステント11の展開状態を分かり易くするため、カテーテル20内のステント11及びプッシャワイヤ12を実線で示している。
【0038】
まず、図4(A)に示すように、患者の血管BV内にカテーテル20を挿入し、病変部位となる血栓BCの位置まで到達させる。カテーテル20は、その先端が血栓BCの遠位側D1に達するまで送り込まれる。なお、カテーテル20は、血栓BCを貫通していなくてもよく、例えば、血栓BCと血管BVの内表面との間に挿入されていてもよい。
続いて、ステント11を縮径した状態でカテーテル20内に挿入する。ステント11は、摺動性が高められているため、細いカテーテル内に挿入した場合でも、従来のステントと比較して、より軽い力で押し込むことができる。
【0039】
次に、図4(B)に示すように、プッシャワイヤ12を操作して、カテーテル20の内腔に沿って、縮径した状態のステント11を押し込む。そして、ステント11の先端を、血栓BCよりも遠位側D1に位置させる。
【0040】
次に、図4(C)に示すように、血栓BCの位置でカテーテル20の先端からステント11を押し出して展開させる。具体的には、カテーテル20を図4(B)に示す位置から近位側D2に引き込むことにより、ステント11は、相対的にカテーテル20から押し出されて展開する。ステント11は、その全体がカテーテル20から押し出される。
【0041】
次に、図4(D)に示すように、プッシャワイヤ12と共にカテーテル20を近位側D2へ引き込む。これにより、図4(E)に示すように、血栓BCを捕捉したステント11を体内から引き出すことができる。
以上の手順でCSシステム1を操作することにより、血栓BCを体内から回収できる。なお、図4(A)~(E)は、血栓BCを回収する作業の概略を示したものであり、実際に血栓BCを体内から回収する作業には、病変部位等に応じて種々の手順が含まれる。
【0042】
上述した実施形態のCSシステム1によれば、プッシャワイヤ12の遠位側D1とマーカー14との間に、摺動性の高い被覆層13が形成されているため、カテーテル20の内表面に形成された凹凸との擦れ合いによる摺動抵抗をより低減することができる。これによれば、施術者は、プッシャワイヤ12をより小さな力で押し込んだり、引き込んだりすることができるため、CSシステム1の操作性をより向上させることができる。
【0043】
また、実施形態のCSシステム1は、主に脳血管に発生した血栓の回収に用いられるが、その中でも、頭蓋骨のM1領域以降の領域は、血管の内径が小さく、屈曲した部位も多く存在している。そのような部位では、使用されるカテーテルの内径も小さくなるため、従来のワイヤ付きステントでは、カテーテル内での摺動抵抗が大きく、操作性が悪化する。これに対して、本実施形態のCSシステム1によれば、カテーテル内でのワイヤ付きステントの摺動抵抗をより低減できるため、頭蓋骨のM1領域以降の領域においても、優れた操作性を得ることができる。
【0044】
次に、本発明に係るワイヤ付きステントの摺動性に関する試験結果について説明する。
実施例1~3として、摺動性の高い3種類のワイヤ付きステントを作製した。このうち、実施例1のワイヤ付きステントは、プッシャワイヤ12の遠位側D1の外表面に、厚さ0.05mm、長さ250mmのPTFE層(固体層)を形成して高摺動性部とした。実施例2のワイヤ付きステントは、プッシャワイヤ12の遠位側D1の外表面に、ヒアルロン酸の樹脂層(流動層)を厚さ0.001mm、長さ250mm塗布して高摺動性部とした。実施例3のワイヤ付きステントは、プッシャワイヤの遠位側D1に、コイル状部材を入れずにステントを連結した。実施例3では、プッシャワイヤの遠位側D1の領域が高摺動性部となる。また、従来例として、プッシャワイヤの遠位側D1とステントとの間にコイル状部材を備えたワイヤ付きステントを作製した。従来例は、一般に広く使用されている既製品である。これら4種類のワイヤ付きステントについて、下記の測定条件で引張荷重を測定した。
【0045】
使用機器:カテーテル:
芯材となる網目状コイルと螺旋状コイルとが重畳され、内表面を形成する樹脂層の表面粗さ(算出平均粗さ)Raが1.5nmであるカテーテル
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:60mm/min
引張距離:ステント有効長+10mm
試験温度:37±2℃
【0046】
試験方法:
(1)恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する。
(2)カテーテルを恒温槽の中に設置する。
なお、カテーテルは、実際に体内の屈曲した部位を通過することを想定し、半径5mmの円弧からなるS字形とした。
(3)ステントの先端がカテーテルのS字形に曲げた個所よりも遠位側に位置するまでカテーテルの手元側からワイヤ付きステントを挿入する。
(4)引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージとワイヤ付きステントの手元側とを接続する。
(5)カテーテルとワイヤ付きステントとをS字形とした状態で、引き込み装置により一定の規定スピードでワイヤ付きステントを手元方向に引っ張る。
(6)ワイヤ付きステントを有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張荷重の最大値、最小値を記録する。
【0047】
実施例1~3及び比較例のワイヤ付きステントについて、上記試験を複数回繰り返して数値を測定した。そして、引張荷重の平均値が1N未満を「〇」、1N以上3N未満を「△」、3N以上を「×」とした。このうち、「×」の評価をNG、「△」及び「〇」の評価をOKとした。なお、「△」は、実用的にはOKのレベルであるが、「〇」よりわずかに評価が下がることを意味する。
【0048】
実施例1~3及び比較例の各ワイヤ付きステントについて、上記試験による評価結果を表1に示す。
【表1】
【0049】
表1に示すように、実施例1~3のワイヤ付きステントは、いずれも引張荷重の平均値が1N未満となり、評価は「〇」となった。また、比較例のワイヤ付きステントは、引張荷重の平均値が3N以上となり、評価は「×」となった。
以上の結果から、実施例1~3のワイヤ付きステントは、いずれも操作性に優れていることが明らかとなった。とくに、プッシャワイヤ12の遠位側D1の外表面にPTFE層を形成した実施例1、ヒアルロン酸の樹脂層を形成した実施例2は、引張荷重の平均値が
0.7N以下となり、操作性がより優れていることが明らかとなった。
【0050】
また、上記試験の他に、実施例1~3及び比較例の各ワイヤ付きステントについて、上記試験と同じS字形のカテーテルにワイヤ付きステントを挿入し、被験者20人にプッシャワイヤを押し込んだり、引き込んだりさせる動作を数回行わせて、操作性を評価する官能試験を行った。その結果、実施例1~3のワイヤ付きステントについては、すべての被験者において操作性が向上したと評価された。一方、比較例のワイヤ付きステントについては、操作性が向上したと評価した被験者はいなかった。
【0051】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の技術的範囲内に含まれる。また、実施形態に記載した効果は、本開示から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、実施形態に記載したものに限定されない。なお、上述の実施形態及び後述する変形形態は、適宜に組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0052】
(変形形態)
実施形態のワイヤ付きステント10において、プッシャワイヤ12の遠位側D1とステント11との間にコイル状部材を設け、コイル状部材の外表面に被覆層13(図1参照)を形成してもよい。本形態によれば、コイル状部材と被覆層13の全体を高摺動性部として構成することができる。本形態において、被覆層13は、疎水性樹脂の固体層により形成してもよいし、親水性樹脂の流動層により形成してもよい。
【0053】
実施形態では、ワイヤ付きステント10に回収型のステント11を連結する例について説明したが、ワイヤ付きステント10に連結されるステントは、留置型であってもよい。その場合、例えば、収縮させたバルーンの外側を縮径したステントで包み、病変部位でバルーンを膨らませ、血管を押し広げると共に、ステントを拡張させる。その後、バルーンをしぼませて、プッシャワイヤと共にバルーンを回収することにより、ステントのみを病変部位に留置させることができる。
【0054】
実施形態では、高摺動性部(例えば、被覆層13)の外表面の表面粗さRaを0.5nm以上2.0nm未満とする例について説明した。これに限らず、高摺動性部の外表面を、例えば、JIS B 0601で規定される平均高さZcで10~100μmとしてもよい。
【0055】
実施形態では、被覆層13を、疎水性樹脂の固体層により形成する例について説明すると共に、親水性樹脂の流動層により形成してもよいことを説明した。これに限らず、被覆層13を、疎水性材料からなる固体層により形成してもよい。疎水性材料からなる固体層としては、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等が挙げられる。また、被覆層13を、親水性材料からなる流動層により形成してもよい。親水性材料からなる流動層としては、例えば、シリコーン等が挙げられる。
【符号の説明】
【0056】
1 カテーテル・ステント・システム
10 ワイヤ付きステント
11 ステント
12 プッシャワイヤ
13 被覆筒
20 カテーテル
21 芯材
211 網目状コイル
212 螺旋状コイル
図1
図2
図3
図4