(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】妥当性確認方法、妥当性確認システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0635 20230101AFI20231228BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20231228BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20231228BHJP
【FI】
G06Q10/0635
G05B23/02 302R
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020058259
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】森田 克明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康文
【審査官】大野 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-059597(JP,A)
【文献】特開2012-252519(JP,A)
【文献】特開2010-089760(JP,A)
【文献】特開2019-197329(JP,A)
【文献】特開2015-049775(JP,A)
【文献】特開2012-008744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0067400(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0010230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって実行される妥当性確認方法であって、
確率論的リスク評価モデルから出力されるカットセットの特徴量を演算するステップと、
前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行するステップと、
前記階層的クラスタリングによって生成された各々の第1クラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出するステップと、
抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報を受け付けるステップと、
を有
し、
前記演算するステップでは、1つの前記カットセットについて、当該カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語の当該カットセットにおける出現回数と他の前記カットセットにも前記単語が出現するかどうかの傾向とを数値化した値を前記特徴量として算出し、
前記妥当性の評価結果は、前記カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、前記基事象の組合せ条件に誤りがないかどうか、についての技術者による評価結果を含み、
前記確率論的リスク評価モデルの修正情報には、前記妥当性の評価結果が、誤りがあることを示す評価結果の場合に、前記技術者によって作成された当該誤りを修正するための情報が含まれる、
妥当性確認方法。
【請求項2】
前記評価結果が妥当とされた前記カットセットの前記特徴量に基づいて、非階層的クラスタリングによって1又は複数の第2クラスを生成し、前記第2クラスの重心と前記カットセットが妥当であるとみなせる範囲とを演算するステップと、
前記抽出するステップで、抽出しなかった前記カットセットについて、前記範囲に基づいて妥当性を判定するステップと、
前記判定するステップにて、妥当ではないと判定された前記カットセットについて、さらに前記重心からの距離に基づく選別を行うステップと、
選別された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報を受け付けるステップと、
をさらに有する請求項1に記載の妥当性確認方法。
【請求項3】
前記選別を行うステップでは、前記重心からの距離が離れているものから順に所定個の前記カットセットを選別する、
請求項2に記載の妥当性確認方法。
【請求項4】
前記選別を行うステップでは、さらに階層的クラスタリングを行ってクラスタを生成し、当該クラスタごとに前記重心からの距離が離れているものから順に所定個の前記カットセットを選別する、
請求項2に記載の妥当性確認方法。
【請求項5】
前記特徴量は前記カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語を、テキスト分析することによりベクトル化した値である、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の妥当性確認方法。
【請求項6】
前記抽出するステップでは、前記階層的クラスタリングによって生成された各々の前記第1クラスから前記特徴量の近接性が所定値より低い前記カットセットを抽出する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の妥当性確認方法。
【請求項7】
前記抽出するステップでは、前記階層的クラスタリングによって生成された各々の前記第1クラスから前記カットセットの発生確率に基づいて前記カットセットを抽出する。
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の妥当性確認方法。
【請求項8】
請求項1に記載の妥当性確認方法を、妥当性がないと判断される前記カットセットが抽出されなくなるまで繰り返し実行し、その後、請求項2に記載の前記演算するステップと、請求項2に記載の前記判定するステップと、請求項2に記載の前記選別を行うステップと、請求項2に記載の前記修正情報を受け付けるステップと、を実行する、
妥当性確認方法。
【請求項9】
確率論的リスク評価モデルから出力されるカットセットの特徴量を演算する特徴量演算部と、
前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行する階層的クラスタリング部、
前記階層的クラスタリングによって生成された各々の第1クラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出する抽出部と、
抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報を受け付ける修正受付部と、
を有
し、
前記特徴量演算部は、1つの前記カットセットについて、当該カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語の当該カットセットにおける出現回数と他の前記カットセットにも前記単語が出現するかどうかの傾向とを数値化した値を前記特徴量として算出し、
前記妥当性の評価結果は、前記カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、前記基事象の組合せ条件に誤りがないかどうか、についての技術者による評価結果を含み、
前記確率論的リスク評価モデルの修正情報には、前記妥当性の評価結果が、誤りがあることを示す評価結果の場合に、前記技術者によって作成された当該誤りを修正するための情報が含まれる、
妥当性確認システム。
【請求項10】
前記評価結果が妥当とされた前記カットセットの前記特徴量に基づいて、非階層的クラスタリングによって1又は複数の第2クラスを生成し、前記第2クラスの重心と前記カットセットが妥当であるとみなせる範囲とを演算する非階層的クラスタリング部と、
前記抽出部が抽出しなかった前記カットセットについて、前記範囲に基づいて妥当性を判定する判定部と、
前記判定部によって、妥当ではないと判定された前記カットセットについて、さらに前記重心からの距離に基づく選別を行う選別部と、
をさらに有し、
前記修正受付部は、選別された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報を受け付ける、
請求項9に記載の妥当性確認システム。
【請求項11】
コンピュータに、
確率論的リスク評価モデルから出力されるカットセットの特徴量を演算するステップと、
前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行するステップと、
前記階層的クラスタリングによって生成された各々の第1クラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出するステップと、
抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報を受け付けるステップと、
を実行させるプログラム
であって、
前記演算するステップでは、1つの前記カットセットについて、当該カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語の当該カットセットにおける出現回数と他の前記カットセットにも前記単語が出現するかどうかの傾向とを数値化した値を前記特徴量として算出し、
前記妥当性の評価結果は、前記カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、前記基事象の組合せ条件に誤りがないかどうか、についての技術者による評価結果を含み、
前記確率論的リスク評価モデルの修正情報には、前記妥当性の評価結果が、誤りがあることを示す評価結果の場合に、前記技術者によって作成された当該誤りを修正するための情報が含まれる、
プログラム。
【請求項12】
前記評価結果が妥当とされた前記カットセットの前記特徴量に基づいて、非階層的クラスタリングによって1又は複数の第2クラスを生成し、それぞれの前記第2クラスの重心と前記カットセットが妥当であるとみなせる範囲とを演算するステップと、
前記抽出するステップで、抽出しなかった前記カットセットについて、前記範囲に基づいて妥当性を判定するステップと、
前記判定するステップにて、妥当ではないと判定された前記カットセットについて、さらに前記重心からの距離に基づく選別を行うステップと、
選別された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報を受け付けるステップと、
をさらに実行させる請求項11に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、確率論的リスク評価モデルの妥当性確認方法、妥当性確認システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントのリスク評価に確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment:PRA)モデル(以下、PRAモデルと記載する。)が用いられることがある(特許文献1)。リスク評価の精度を保つため、技術者が、PRAモデルに基づいて生成される頂上事象のカットセットを手作業で確認することがある。
【0003】
特許文献2には、トレーニングデータの特徴ベクトルをクラスタリングし、クラスタリングされた特徴ベクトルを用いて、認識すべきデータの特徴ベクトルを補間演算した後に音声認識モデルに入力して、音声認識モデルを最適に調整する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5480033号公報
【文献】国際公開第2018/005858号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子力発電プラントのPRAモデルから出力される頂上事象のカットセットの数は、1プラントあたり、数万から数十万になることがあるため、これら全てを手作業で確認するのは困難である。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる妥当性確認方法、妥当性確認システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の妥当性確認方法は、コンピュータによって実行される妥当性確認方法であって、PRAモデルから出力されるカットセットの特徴量を演算するステップと、前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行するステップと、前記階層的クラスタリングによって生成された各々のクラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出するステップと、抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果を取得するステップと、前記評価結果が妥当ではない場合、前記PRAモデルの修正情報を受け付けるステップと、を有し、前記演算するステップでは、1つの前記カットセットについて、当該カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語の当該カットセットにおける出現回数と他の前記カットセットにも前記単語が出現するかどうかの傾向とを数値化した値を前記特徴量として算出し、前記妥当性の評価結果は、前記カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、前記基事象の組合せ条件に誤りがないかどうか、についての技術者による評価結果を含み、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報には、前記妥当性の評価結果が、誤りがあることを示す評価結果の場合に、前記技術者によって作成された当該誤りを修正するための情報が含まれる。
【0008】
また、本開示の妥当性確認システムは、PRAモデルから出力されるカットセットの特徴量を演算する特徴量演算部と、前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行する階層的クラスタリング部、前記階層的クラスタリングによって生成された各々のクラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出する抽出部と、抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記PRAモデルの修正情報を受け付ける修正受付部と、を有し、前記特徴量演算部は、1つの前記カットセットについて、当該カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語の当該カットセットにおける出現回数と他の前記カットセットにも前記単語が出現するかどうかの傾向とを数値化した値を前記特徴量として算出し、前記妥当性の評価結果は、前記カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、前記基事象の組合せ条件に誤りがないかどうか、についての技術者による評価結果を含み、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報には、前記妥当性の評価結果が、誤りがあることを示す評価結果の場合に、前記技術者によって作成された当該誤りを修正するための情報が含まれる。
【0009】
また、本開示のプログラムは、コンピュータに、PRAモデルから出力されるカットセットの特徴量を演算するステップと、前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行するステップと、前記階層的クラスタリングによって生成された各々のクラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出するステップと、抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果を取得するステップと、前記評価結果が妥当ではない場合、前記PRAモデルの修正情報を受け付けるステップと、を実行させるプログラムであって、前記演算するステップでは、1つの前記カットセットについて、当該カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語の当該カットセットにおける出現回数と他の前記カットセットにも前記単語が出現するかどうかの傾向とを数値化した値を前記特徴量として算出し、前記妥当性の評価結果は、前記カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、前記基事象の組合せ条件に誤りがないかどうか、についての技術者による評価結果を含み、前記確率論的リスク評価モデルの修正情報には、前記妥当性の評価結果が、誤りがあることを示す評価結果の場合に、前記技術者によって作成された当該誤りを修正するための情報が含まれる。
【発明の効果】
【0010】
上述の妥当性確認方法、妥当性確認システム及びプログラムによれば、PRAモデルの妥当性を効率的に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る妥当性確認システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る妥当性確認処理の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る頂上事象のカットセットを説明するための図である。
【
図4】実施形態に係るカットセットの一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る階層的クラスタリングについて説明する図である。
【
図6】実施形態に係る非階層的クラスタリングについて説明する図である。
【
図7】実施形態に係る妥当性確認システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下、本開示の妥当性確認システムについて、
図1~
図7を参照しながら説明する。
(システム構成)
図1は、実施形態に係る妥当性確認システムの一例を示すブロック図である。
妥当性確認システム1は、PRAモデルを構成する頂上事象のカットセットの妥当性確認作業を支援する。図示するように妥当性確認システム1は、PRAモデル管理装置10と、妥当性確認支援装置20とを備える。PRAモデル管理装置10と妥当性確認支援装置20は通信可能に接続されている。
【0013】
(PRAモデル管理装置の構成)
PRAモデル管理装置10は、カットセット出力部11と、修正受付部12と、記憶部13とを備える。
カットセット出力部11は、PRAモデルを解析して、頂上事象のカットセットを出力する。頂上事象とは、例えば、原子力発電プラントにおける重大な事故事象である。頂上事象のカットセットとは、頂上事象を引き起こす、1または複数の基事象の組合せである。基事象は、例えば、ポンプの起動失敗、逆止弁の開失敗など、重大な事故事象に繋がる個々の事故事象である。以下、頂上事象のカットセットを単にカットセットと記載する。例えば、原子力発電プラントの場合、PRAモデルから出力されるカットセットの数は、数万から数十万になることがある。PRAモデルから出力される複数のカットセットをカットセットリストと呼ぶ。
修正受付部12は、PRAモデルに対する修正指示を受け付け、PRAモデルを修正する。
記憶部13は、PRAモデルを記憶する。PRAモデルには、FT(Fault Tree)やET(Event Tree)が含まれている。
【0014】
(妥当性確認支援装置の構成)
妥当性確認支援装置20は、カットセット取得部21と、特徴量演算部22と、階層的クラスタリング部23と、抽出部24と、非階層的クラスタリング部25と、選別部26と、出力部27と、記憶部28と、を備える。
カットセット取得部21は、PRAモデル管理装置10が出力したカットセットを取得する。
特徴量演算部22は、カットセット取得部21が取得した各カットセットの特徴量を演算する。具体的には、カットセットに含まれる基事象のID(識別情報)は、所定のルールに従ってコード化されているが、コード化されたテキストデータを所定の単位に分節し、分節された文字列を単語、カットセットを文書のように扱って、tfidfやword2vec等のテキスト分析を用いて、カットセットに出現する単語に基づく特徴量を演算する。演算結果の特徴量は、ベクトルとして表される。このベクトルの各要素は、基事象IDから分節して得られる文字列(単語)についてテキスト分析した値である。
【0015】
階層的クラスタリング部23は、特徴量演算部22が演算したカットセットの特徴量に基づいて、階層的クラスタリングを実行し、PRAモデルから生成された全カットセットを、類似するカットセット同士に分類する。
抽出部24は、階層的クラスタリングによって生成された各クラスの中から技術者が確認するカットセットのサンプルを抽出する。
【0016】
非階層的クラスタリング部25は、技術者によって妥当であると確認されたカットセットの集合を対象として、k-means法などの非階層的クラスタリングを行う。
選別部26は、非階層的クラスタリングの結果に基づいて、カットセットの中から不適切である可能性が高いカットセットを選別する。
【0017】
出力部27は、階層的クラスタリングの結果、非階層的クラスタリングの結果などを表示装置に表示したり、電子データとして出力したりする。
記憶部28は、カットセットリスト、処理中のデータなどを記憶する。
【0018】
(動作)
次に
図2~
図6を用いて、妥当性確認システム1の動作について説明する。
図2は、実施形態に係る妥当性確認処理の一例を示す図である。
妥当性確認システム1の動作は、テキスト分析と階層的クラスタリングにより、偏りなく確認対象のカットセットを抽出し、技術者の確認を求めることにより、妥当なカットセットを偏りなく蓄積する処理(後述するS1~S8)と、蓄積された妥当なカットセットを学習して、学習結果に基づいて不適切なカットセットを選別する処理(後述するS9~S13)の2段階で構成されている。以下、これらの処理について説明する。
【0019】
まず、技術者が、PRAモデル管理装置10へカットセットリストを出力するよう指示する。カットセット出力部11は、記憶部13からPRAモデルを読み出して、カットセットを出力する。ここで、
図3を参照する。
【0020】
図3は、実施形態に係る頂上事象のカットセットを説明するための図である。
図3にPRAモデルに含まれるFTの一例を示す。
図3の円で示したA~Eは基事象を示し、四角で示したP~Qは中間事象を示し、ORゲートは、基事象A、C、中間事象Pの何れかが発生すると、頂上事象が発生することを示す。上のANDゲートは、基事象Bと中間事象Qが発生すると、中間事象Pが発生することを示している。さらに下のANDゲートは、基事象Dと基事象Eが発生すると、中間事象Qが発生することを示している。
図3のFTの場合、頂上事象を引き起こすカットセットは、(1)基事象A、(2)基事象B、基事象D、基事象Eの組合せ、(3)基事象Cである。PRAモデル管理装置10のカットセット出力部11は、例えば、
図3のFTに基づいて、カットセット1(基事象A)、カットセット2(基事象B、基事象D、基事象E)、カットセット3(基事象C)を含むカットセットリストを出力する(S1)。
【0021】
妥当性確認支援装置20では、カットセット取得部21が、カットセット出力部11が出力したカットセットリストを取得する(S2)。記憶部28は、カットセットリストを記憶する。妥当性確認支援装置20は、取得したカットセットリストに含まれるカットセットの妥当性を確認する作業を効率化、省力化する機能を提供する。
図4を参照する。
【0022】
図4は、実施形態に係るカットセットの一例を示す図である。
図4に
図3のFTに基づくカットセットを示す。IDはカットセットのID、発生確率はカットセットの事象が発生する確率、基事象はカットセットに含まれる基事象を示す。
図4の例の場合、ID=1は、
図3で説明したカットセット1に相当し、確率はX1%、このカットセットを構成する基事象は基事象Aである。確率の算出方法については、公知のため説明しないが、例えば、
図3のFT及び図示しないETに基づいて算出することができる。例えば、ID=2のカットセット(
図3で説明したカットセット2に相当)の場合、カットセット2の事象が発生する確率X2%は、基事象B、基事象D、基事象Eが発生する確率に基づいて算出される。確率は、リスクの大きさを示す。ここで、X1%>X3%>X2%が成立するとする。
図4に例示するカットセットは3個の為、技術者は全てを確認することができるが、カットセットが全部で数万個あり、カットセット1の確率X1%とカットセット3の確率X3%が確率の観点から数万個のうちの上位(例えば、上から100個以内)に入り、カットセット2の確率X2%が数万個のうちの下位に順位付けられるとする。確率が大きいカットセットは、それだけ頂上事象(事故)を引き起こしやすいという意味で重要である。その為、技術者は、例えば、確率が高い(リスクが高い)カットセットから順に妥当性の確認を行う。
【0023】
図3のFTに誤りがあり、
図3の下のANDゲートはORゲートが正しいとする。この場合、カットセット2は誤りであって、正しいFTから出力されるカットセットリストには、基事象Bと基事象Dから構成されるカットセット2aと、基事象Bと基事象Eから構成されるカットセット2bと、上記のカットセット1と、カットセット3と、が含まれる。カットセット2aの確率をX2a%、カットセット2bの確率をX2b%とし、例えば、確率X2a%が上位に順位付けられるとするならば、本来であれば、高リスクのカットセット2aは技術者によって確認されるはずのカットセットである。しかし、PRAモデル(例えば、FT)の誤りにより、カットセットの確率が小さく算出されている場合、技術者の確認の対象から漏れる可能性がある。仮にPRAモデルが正しく、カットセット2aが出力されていれば、カットセット2aに関する基事象Bと基事象Dについて、注意が向けられ、リスク情報活用の観点に基づき、頂上事象の発生確率を低減するための対策を講じることが可能となる。しかし、PRAモデルの誤りにより、発生確率が高いカットセット2aが出力されない場合、カットセット2aは見過ごされ、それが原因でリスク低減のための対策が講じられない可能性がある。妥当性確認支援装置20は、カットセットの確率の高低に関わらず、広い範囲のカットセットを対象に妥当性の確認が行えるよう、カットセットを抽出し、技術者へ提示する。
【0024】
図2に戻り、妥当性確認支援装置20の処理について説明する。まず、特徴量演算部22が、カットセット取得部21が取得したカットセットリスト内の各カットセットについて、「(1)テキスト分析によるカットセットのベクトル化」を実行する(S3)。基事象はコード化されたテキストデータとして表すことができる。例えば、基事象AのIDは、
図4に例示するように“Aa1bbb1052A”である。例えば、先頭の3桁“Aa1”はプラントの系統ID、次の4桁”bbb1”は故障モードID、最後の4桁“052A”は故障に関する機器番号を示している。このように基事象IDには、故障事象が生じた機器、系統、故障の種類に関する情報が含まれている。そこで、カットセットを文章として捉え、カットセットに含まれる各基事象の基事象IDを、系統ID、故障モードID、機器番号等の意味のある要素(単語)に分節して、これらの単語のカットセットにおける重要度や意味をテキスト分析によって分析し、その分析結果をカットセットの特徴量として扱う。このような考えに基づいて、特徴量演算部22は、カットセットに含まれる基事象のテキストデータに対してテキスト分析を行って、カットセットを数値化、ベクトル化する。後述するように、カットセットをベクトル化することにより、ベクトルの近接性(テキストの類似性)に基づいてカットセットを分類することができるようになる。
【0025】
次にカットセットの特徴量の演算、つまり、カットセットのベクトル化の一例について具体的に説明する。説明の便宜のため、カットセットリストには、カットセット1~3のみが含まれ、カットセット1は基事象Aのみ、カットセット2は基事象Bのみ、カットセット3は基事象Cのみを含むものとする。基事象A~Cの基事象IDを
図4に示す。まず、各カットセットのベクトルの次元を、全カットセット(カットセット1~3)に存在する全ての基事象(基事象A~C)の基事象IDを分節して得られる要素(単語)の数とする。具体的には、基事象AのIDは、“Aa1”、“bbb1”、“052A”に分節され、基事象BのIDは、“Aa1”、“ddd2”、“052A”に分節され、基事象CのIDは、“Aa2”、“ccc3”、“024B”に分節されることから、要素の数は、“Aa1”、“Aa2”、“bbb1”、“ccc3”、“ddd2”、“052A”、“024B”の7つとなり、ベクトルの次元数は7となる。例えば、特徴量演算部22は、カットセット1~3のそれぞれについて(単語“Aa1”についてのテキスト分析値、単語“Aa2”についてのテキスト分析値、単語“bbb1”についてのテキスト分析値、単語“ccc3”についてのテキスト分析値、単語“ddd2”についてのテキスト分析値、単語“052A”についてのテキスト分析値、単語“024B”についてのテキスト分析値)で表されるベクトルを作成する。テキスト分析とは、例えば、tfidfである。例えば、カットセット1のベクトルの要素の1つ目、単語“Aa1”についてのtfidfによるテキスト分析値は、以下の式によって演算することができる。
【0026】
tf(“Aa1”、カットセット1)=カットセット1(“Aa1bbb1052A”)内における“Aa1”の出現回数/カットセット1の全ての単語(“Aa1”と、”bbb1“と、”052A”)の出現回数の和・・・(1)
idf(“Aa1”)=log(総カットセット数(=3)/単語“Aa1”が出現するカットセット数(=2))・・・(2)
カットセット1の1つ目の要素のテキスト分析値(tfidf)=tf(“Aa1”、カットセット1)×idf(“Aa1”)=式(1)×式(2)・・・(3)
【0027】
あるカットセット内での出現回数は多いが(tfが大きい)、他のカットセットには出現していない(idfが大きい)単語は、tfidfによるテキスト分析値が大きくなる。また、それ以外の単語はtfidfが小さくなる。例えば、複数のカットセットに出現している単語は、各カットセットの特徴を表しているとは言えないためtfidfの値は小さい。一方、特定のカットセットのみに出現している単語は、カットセットの特徴を表していると言えるためtfidfの値は大きくなる。tfidfにより、カットセットにおける単語の重要度を算出できる。このような性質を有するtfidfによる分析値を各要素とするベクトルを作成することで、基事象IDを構成するテキスト(単語の組合せ)の観点からカットセットの特徴を表すことができる。ベクトルの要素の値は、word2vecによって演算してもよい。
【0028】
特徴量演算部22が、各カットセットを表すベクトルを演算すると、次に階層的クラスタリング部23が、全カットセットのベクトルを対象に「(2)階層的クラスタリング」を行って、ベクトルが類似するカットセット同士を同じクラスに分類する(S4)。階層的クラスタリング部23は、ベクトルの距離が近いカットセット同士で集合(クラスタ)にしていく過程を、最終的に全カットセットが1つのクラスタに統合されるまで繰り返す。この処理は、カットセットに含まれる単語のテキスト分析結果が、基事象の組み合わせの類似度を表すと想定して、カットセットをカテゴライズするために行う。
図5に階層的クラスタリングの結果の一例を示す。
【0029】
次に抽出部24が、階層的クラスタリングによって生成したクラスタ群を、任意の階層(
図5の閾値L1)で分割し、クラスに分ける(S5)。
図5の樹形図(デンドログラム)の下に記載したC1~C20の各々が、閾値L1で分割したときに生成されるクラスである。閾値L1は、予め定められていてもよいし、分割後のクラス数が予め定められていて、このクラス数に応じて、抽出部24が閾値L1を設定してもよい。抽出部24は、分割後のクラスについて、「(3)各クラスから一部のカットセットを抽出する」(S6)。各クラスには、ベクトルが類似するカットセットが集まっているので、全クラスからカットセットを抽出することで、数万個以上存在するカットセットの中から代表的なサンプルを偏りなく抽出することができる。抽出部24は、例えば、各クラスから全く任意に1又は複数のカットセットを抽出してもよいし、満遍なくカットセットを抽出するためにベクトルの近接性が所定の閾値よりも低いカットセットの組み合わせを抽出してもよい。あるいは、各クラスから1つだけカットセットを抽出する場合、抽出部24は、各クラスのベクトルの重心を演算し、重心に最も近いカットセットを抽出してもよい。また、抽出部24は、閾値L1の他にカットセット抽出用に閾値L2(
図5)を設定し、閾値L2によって分割されたクラスから、例えば1つずつ(複数でも良い)のカットセットを抽出してもよい。また、抽出部24は、各クラスC1~C20の各々から、
図4に例示する確率に基づいてカットセットを抽出してもよい。例えば、抽出部24は、各クラス内の確率が最上位から順に所定個のカットセットを抽出し、最下位から順に所定個のカットセットを抽出したり、確率が所定の範囲内のものから任意にカットセットを抽出したりしてもよい。また、抽出部24は、確率とベクトルを組み合わせて、例えば、各クラス内の確率が最上位のものから順にベクトルの近接性が所定以上離れていることを条件に所定個のカットセットを抽出してもよい。抽出部24は、抽出したカットセットのIDを記憶部28に記録する。これは、後に再びS6の処理を行うときに、過去に抽出したカットセットを抽出しないようにするためである。
【0030】
抽出部24がカットセットを抽出すると、出力部27が、抽出されたカットセットを表示装置などに出力する。次に「(4)技術者による妥当性確認」を行う。技術者は、各クラスタから抽出されたカットセットを手作業により確認する。例えば、技術者は、カットセットに含まれる基事象に誤りがないか、余計な基事象が含まれていないか、基事象の組合せ条件(OR、AND)に誤りがないかどうか等を確認する。誤りがあった場合、技術者は、修正指示情報をPRAモデル管理装置10に入力し、PRAモデル管理装置10は、「(5)不適切なカットセットが同定された場合、PRAモデルを修正」する(S7)。具体的には、PRAモデル管理装置10では、修正受付部12が、PRAモデルの修正指示情報を取得し、修正指示情報に基づいて、記憶部13のPRAモデルを修正する。カットセットに誤りが無い場合、技術者は、「(6)不適切なカットセットが同定されなければ妥当性確認支援装置20へ入力」を行う(S8)。妥当性確認支援装置20では、カットセット取得部21が、技術者による確認済みのカットセットを、確認済みであることを示す目印を付けて記憶部28に記録する。
【0031】
以上が、テキスト分析技術を用いた妥当なカットセットの学習処理である。妥当性確認システム1は、「(4)技術者による妥当性確認」にて、不適切なカットセットが同定されなくなるまで、S1~S8の処理を繰り返し行う。2回目以降の処理では、抽出部24は、1度抽出したカットセットを再び抽出せず、他のカットセットを抽出する。S1~S8の処理を繰り返すと、記憶部28には、不適切ではないと確認されたカットセットが蓄積される。蓄積された確認済みのカットセットは、階層的クラスタリングによって生成された各クラスから抽出されたカットセットであるから、全カットセット中に存在する様々なカットセットを代表するカットセットであると考えられる。
【0032】
不適切なカットセットが同定されなくなると、技術者は、不適切なカットセットの抽出処理を実行するよう妥当性確認支援装置20へ指示する。すると、非階層的クラスタリング部25は、記憶部28に蓄積された不適切ではないと確認されたカットセットを対象に、「(7)k-means法によるクラスタリング」を実行する(S9)。非階層的クラスタリング部25は、k-means法によって、確認済みカットセットのベクトルの近接性に基づいて、確認済みカットセットを予め設定されたクラス数に分類し、各クラスの重心と、重心を中心とする確認済みカットセットのベクトルが分布する範囲を演算する。また、非階層的クラスタリング部25は、抽出部24によって抽出されなかったカットセット、不適切ではないと確認されたもの以外のカットセット(これらを未確認カットセットと呼ぶ。)について、k-means法によって生成された各クラスに基づく評価を行う。
図6にk-means法によって生成されたクラスの一例を示す。
図6に示すのは、カットセットのベクトル空間である。便宜上ベクトル空間を2次元で示し、1つのクラスのみを示している。
図6に示す星印の点は、このクラスの重心である。丸印の点は、技術者による確認済みカットセットのベクトルを示している。×印の点と三角印の点は何れも未確認カットセットのベクトルを示している。円61は、重心を中心に確認済みのカットセットが含まれる範囲を示している。非階層的クラスタリング部25は、クラスに分類された確認済みのカットセットのうち、重心からの距離が一番遠いカットセットを特定し、特定したカットセットから重心までの距離を半径とする円61を規定する。円62は、未確認カットセットについて、適切なカットセットであると判断する許容範囲を示している。非階層的クラスタリング部25は、例えば、円61の半径×所定の係数によって演算される長さを半径とする円62によって許容範囲を規定する。非階層的クラスタリング部25は、全ての未確認カットセットの各々について、重心からの距離を演算し、円61に含まれるか否か、円62に含まれるか否かを判定する。
【0033】
非階層的クラスタリング部25は、円62に含まれる未確認カットセットを適切なカットセット、円62の外に位置する未確認カットセットを不適切なカットセットと判定する(S10)。非階層的クラスタリング部25は、未確認カットセットごとに判定結果を記憶部28に記録する。非階層的クラスタリング部25は、S9で生成された全てのクラスについて、重心や許容範囲等の演算を行い、S10の判定を行う。ここで、不適切なカットセットと判定された全ての未確認カットセットを技術者が確認すると、PRAモデルの精度を高めることができるが、不適切と判定された未確認カットセットの数が膨大になると、技術者が確認しきれない可能性がある。一方、PRAモデルに含まれている誤った要素(基事象や論理式)に関連するカットセットを1つでも確認し、その誤った要素を修正することができるならば、誤った要素に関連するカットセットは全て正しく修正される。従って、PRAモデルに存在する誤った要素に関連するカットセットの何れか1つを的確に選んで、技術者に確認を求めることができれば、技術者は、少数のカットセットだけを確認すれば良く、効率的にPRAモデルを修正することができる。
【0034】
上記のような考えに基づいて、選別部26は、S10で不適切と判定されたカットリストの中から、実際に不適切な可能性が高いカットセットを選別する(S11)。具体的には、選別部26は、「(8)各クラスの重心からの距離に基づく分類」を行う。(a)例えば、選別部26は、不適切と判定されたカットセット(
図6の三角印)のうち、重心からの距離が遠いものから順に所定個を選んで、選んだカットセットを実際に不適切な可能性が高いカットセットとする。(b)あるいは、選別部26は、不適切と判定されたカットセットについて、階層的クラスタリング部23を用いて階層的クラスタリングを行う。そして、階層的クラスタリングによって生成された各クラスから、重心からの距離が遠い順に所定個のカットセットを選んで、これらを実際に不適切な可能性が高いカットセットとする。階層的クラスタリングによって、不適切と判定されたカットリストをカテゴライズすることにより、例えば、PRAモデルに存在する誤りによって生成されたカットセットを1又は複数の特定のクラスへ分類できる可能性がある。そして、分類されたクラスにおいて重心からの距離が遠いものを選べば、実際に不適切な可能性が高いカットセットを選択できる確度を高めることが期待できる。また、階層的クラスタリングを利用することで、偏りなく実際に不適切な可能性が高いカットセットを選別することができる。なお、クラスから不適切な可能性が高いカットセットを選ぶ方法は、S6で説明したものと同様の方法であっても良い。(c)また、例えば、選別部26は、不適切と判定されたカットセットのうち、重心からの距離が所定値以上のものを全て選んで、これらを実際に不適切な可能性が高いカットセットしてもよい。妥当性が確認されたカットセットのベクトルからの距離が遠いカットセットを選択することで、上記で説明したPRAモデルの誤った要素に関連するカットセットを選ぶ可能性を高めることができる。選別部26は、S9で生成された全てのクラスについて、S11の選別処理を行う。
【0035】
選別部26は、S11で選別した、全ての実際に不適切な可能性が高いカットセットの中から「(9)一部のカットセットを抽出」し、出力部27へ出力する(S12)。実際に不適切な可能性が高いカットセットの数が所定数以下であれば、選別部26は、実際に不適切な可能性が高いカットセットを全て出力部27へ出力してもよい。出力部27は、選別されたカットセットの一部又は全部を表示装置などに出力する。次に「(10)技術者による妥当性確認」を行う。技術者は、実際に不適切な可能性が高いカットセットについて、妥当性の確認を行う。PRAモデル管理装置10は、「(11)不適切なカットセットが同定された場合、PRAモデルを修正」する(S13)。具体的には、修正受付部12が、PRAモデルの修正指示情報を取得し、記憶部13のPRAモデルを修正する。
【0036】
技術者が手動で数十万規模のカットセットを確認する場合、リスクが上位のカットセットから優先的に確認することがある。
【0037】
これに対し、本実施形態によれば、全カットセットに対する階層的クラスタリングにより、全体から基事象の組み合わせの観点で代表的なカットセットを満遍なく抽出し、カットセットの妥当性の確認を行うことができる(S1~S8)。これにより、リスクの高低に関わらず、全体的に偏りなくカットセットの確認を行うことができる。また、S1~S8の処理を繰り返し行うことで、PRAモデルの精度を高めることができる。
【0038】
また、階層的クラスタリングでは、確認済カットセットと未確認カットセットのベクトルの類似性を定量的に比較できないところ、S9~S12の処理では、非階層的クラスタリングであるk-means法を用いて各クラスの重心と未確認カットセットとのベクトル空間上の距離を算出し、近い場合は「適切」、遠い場合は「不適切」と判定する。これにより、S1~S8の処理で技術者が妥当と判断したカットセットに基づいて、妥当と考えられるカットセットとの類似性が低く、実際に不適切な可能性が高いと考えられるカットセットを自動的に抽出して技術者に提示することができる。これにより、技術者は、少ない作業量で効率よく不適切なカットセットを確認し、PRAモデルを修正することができる。
【0039】
また、カットセットの確認作業は、安全性向上の観点から技術者によって継続的に実行される作業である。本実施形態の妥当性確認システム1を導入することによって、確認作業の効率化、省力化の効果を長期的に享受することができる。
【0040】
上記実施形態では、原子力発電プラントにおいて作成されたPRAモデルのカットセットの確認作業を省力化・効率化するについて述べた。上述の通り、原子力発電プラントでは、カットセットの数が数万~数十万に達することがあり、本実施形態のPRAモデルの妥当性確認方法は有効である。しかし、妥当性確認システム1の適用分野は、原子力プラントに限定されない。PRAモデルを用いてリスク評価を行うどのような産業分野にも適用が可能である。
また、階層的クラスタリング、非階層的クラスタリングの具体的手法についても特に上記した手法に限定するものでは無く、同様の手法を用いることができる。
【0041】
図7は、妥当性確認システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述のPRAモデル管理装置10、妥当性確認支援装置20は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0042】
なお、PRAモデル管理装置10、妥当性確認支援装置20の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
PRAモデル管理装置10、妥当性確認支援装置20は、それぞれ通信可能な複数のコンピュータ900によって構成されていても良い。また、PRAモデル管理装置10、妥当性確認支援装置20が1台のコンピュータ900によって構成されていても良い。
【0043】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0044】
<付記>
各実施形態に記載の確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の妥当性確認方法、妥当性確認システム1及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)第1の態様に係る確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の妥当性確認方法は、確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)から出力されるカットセットの特徴量を演算するステップ(S3)と、前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行するステップ(S4)と、前記階層的クラスタリングによって生成された各々のクラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出するステップ(S6)と、抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果を取得するステップ(S7、S8)と、前記評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正情報を受け付けるステップ(S7)と、を有する。
【0046】
カットセットの特徴量を演算し数値化することにより、全カットセットを対象にクラスタリングを行うことができる。全てのカットセットを対象に階層的クラスタリングを行うことにより、全体を代表的するカットセットを抽出することができる。代表的なカットセットを抽出して確認作業を行うので偏りなく省力的にカットセットの確認を行うことができる。
【0047】
(2)第2の態様に係る妥当性確認方法は、(1)の妥当性確認方法であって、前記評価結果が妥当とされた前記カットセットの前記特徴量に基づいて、非階層的クラスタリングによって1又は複数の第2クラスを生成し、前記第2クラスの重心と前記カットセットが妥当であるとみなせる範囲とを演算するステップ(S9)と、前記抽出するステップ(S6)で、抽出しなかった前記カットセットについて、前記範囲に基づいて妥当性を判定するステップ(S10)と、前記判定するステップにて、妥当ではないと判定された前記カットセットについて、さらに前記重心からの距離に基づく選別を行うステップ(S11)と、選別された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正情報を受け付けるステップ(S13)と、をさらに有する。
【0048】
これにより、技術者が妥当性を確認したカットセットに基づいて、未確認のカットセットの妥当性を自動的に判定することができる。また、妥当ではない(不適切)と判定されたカットセットについても、さらにクラスの重心からの距離に基づく選別を行うことで、不適切な可能性が高いカットセットを技術者に提示することができる。
(1)と(2)の妥当性確認方法により、膨大な量のカットセットの妥当性を効率的かつ、漏れを少なく確認することが可能となる。
【0049】
(3)第3の態様に係る妥当性確認方法は、(2)の妥当性確認方法であって、前記選別を行うステップでは、前記重心からの距離が離れているものから順に所定個の前記カットセットを選別する。
【0050】
(4)第4の態様に係る妥当性確認方法は、(2)の妥当性確認方法であって、前記選別を行うステップでは、さらに階層的クラスタリングを行ってクラスタを生成し、当該クラスタごとに前記重心からの距離が離れているものから順に所定個の前記カットセットを選別する。
【0051】
(3)~(4)の妥当性確認方法により、より確実に、実際に不適切である可能性が高いカットセットを選択することができる。また、(4)の妥当性確認方法によれば、不適切である可能性が高いカットセットにある傾向がある場合、階層的クラスタリングによって、その傾向を有したカットセットを一つのクラスに集めることにより、効率良く、実際に不適切である可能性が高いカットセットを選択することができる。
【0052】
(5)第5の態様に係る妥当性確認方法は、(1)~(4)の妥当性確認方法であって、前記特徴量は前記カットセットを構成する基事象を示すテキストデータに出現する単語をテキスト分析することによりベクトル化した値である。
【0053】
これにより、カットセットの基事象のテキストデータに含まれるその基事象に関する単語の観点から、カットセットの特徴量を演算することができる。
【0054】
(6)第6の態様に係る妥当性確認方法は、(1)~(5)の妥当性確認方法であって、前記抽出するステップでは、前記階層的クラスタリングによって生成された各々の前記第1クラスから前記特徴量の近接性が所定値より低い前記カットセットを抽出する。
【0055】
(7)第7の態様に係る妥当性確認方法は、(1)~(5)の妥当性確認方法であって、前記抽出するステップでは、前記階層的クラスタリングによって生成された各々の前記第1クラスから前記カットセットの発生確率に基づいて前記カットセットを抽出する。
【0056】
(6)~(7)の妥当性確認方法により、確認対象のカットセットを広範な範囲から偏りなく抽出することができる。
【0057】
(8)第8の態様に係る妥当性確認方法は、(1)~(7)の妥当性確認方法であって、(1)に記載の妥当性確認方法を、妥当性がないと判断される前記カットセットが抽出されなくなるまで繰り返し実行し、その後、(2)に記載の前記演算するステップと、(2)に記載の前記判定するステップと、(2)に記載の前記選別を行うステップと、(2)に記載の前記修正情報を受け付けるステップと、を実行する。
【0058】
これにより、妥当性が確認されたカットセットを蓄積しつつ、確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)を修正し、請求項1に記載の妥当性確認方法では、不適切なカットセットが見つけられなくなった段階で、妥当性確認済みのカットセットに基づく学習(非階層的クラスタリング)により、未確認のカットセットから実際に不適切である可能性が高いカットセットを選別するので、効率的、省力的に不適切なカットセットを見つけ出して、確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正を行うことができる。
【0059】
(9)第9の態様に係る妥当性確認システムは、確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)から出力されるカットセットの特徴量を演算する特徴量演算部22と、前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行する階層的クラスタリング部23、前記階層的クラスタリングによって生成された各々の第1クラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出する抽出部24と、抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正情報を受け付ける修正受付部12と、を有する。
【0060】
(10)第10の態様に係る妥当性確認システムは、(9)の妥当性確認システムであって、前記評価結果が妥当とされた前記カットセットの前記特徴量に基づいて、非階層的クラスタリングによって1又は複数の第2クラスを生成し、前記第2クラスの重心と前記カットセットが妥当であるとみなせる範囲とを演算する非階層的クラスタリング部25と、前記抽出部24が、抽出しなかった前記カットセットについて、前記範囲に基づいて妥当性を判定する判定部(非階層的クラスタリング部25)と、前記判定部(非階層的クラスタリング部25)によって、妥当ではないと判定された前記カットセットについて、さらに前記重心からの距離に基づく選別を行う選別部26と、をさらに有し、前記修正受付部12は、選別された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正情報を受け付ける。
【0061】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)から出力されるカットセットの特徴量を演算するステップと、前記カットセットについて、前記特徴量に基づく階層的クラスタリングを実行するステップと、前記階層的クラスタリングによって生成された各々の第1クラスに含まれる前記カットセットの中から1つまたは複数を抽出するステップと、抽出された前記カットセットについての妥当性の評価結果を取得するステップと、前記評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正情報を受け付けるステップと、を実行させる。
【0062】
(12)第12の態様に係るプログラムは、(11)のプログラムであって、前記コンピュータ900に、前記評価結果が妥当とされた前記カットセットの前記特徴量に基づいて、非階層的クラスタリングによって1又は複数の第2クラスを生成し、前記第2クラスの重心と前記カットセットが妥当であるとみなせる範囲とを演算するステップと、前記抽出するステップで、抽出しなかった前記カットセットについて、前記範囲に基づいて妥当性を判定するステップと、前記判定するステップにて、妥当ではないと判定された前記カットセットについて、さらに前記重心からの距離に基づく選別を行うステップと、選別された前記カットセットについての妥当性の評価結果が妥当ではない場合、前記確率論的リスク評価モデル(PRAモデル)の修正情報を受け付けるステップと、をさらに実行させる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・妥当性確認システム
10・・・PRAモデル管理装置
11・・・カットセット出力部
12・・・修正受付部
13・・・記憶部
20・・・妥当性確認支援装置
21・・・カットセット取得部
22・・・特徴量演算部
23・・・階層的クラスタリング部
24・・・抽出部
25・・・非階層的クラスタリング部
26・・・選別部
27・・・出力部
28・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU、
902・・・主記憶装置、
903・・・補助記憶装置、
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース