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特許7411476リチウムイオン二次電池用非水電解液及びその製造方法、非水電解液用調製液、並びに、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用非水電解液及びその製造方法、非水電解液用調製液、並びに、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231228BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231228BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231228BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231228BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020059148
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158041
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸司
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203556(JP,A)
【文献】特開2019-172574(JP,A)
【文献】特開平09-092280(JP,A)
【文献】特開2017-152259(JP,A)
【文献】特開2016-081609(JP,A)
【文献】特開2005-306619(JP,A)
【文献】特開2008-222484(JP,A)
【文献】特表2014-528890(JP,A)
【文献】特開2018-172266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
C07D317/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、非水溶媒と、錯化合物と、を含有するリチウムイオン二次電池用非水電解液であって、
前記非水溶媒が、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種と、エチレンカーボネートであるECと、を含み、
前記錯化合物が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含み、
前記錯化合物中の前記LiPF部位、前記LiDFP部位、及び前記EC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量がリチウムイオン二次電池用非水電解液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される、
リチウムイオン二次電池用非水電解液。
【請求項2】
前記錯化合物において、
前記LiDFP部位に対する前記LiPF部位のモル比が、0.95~1.05であり、
前記LiDFP部位に対する前記EC部位のモル比が、10以上18未満である、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
【請求項3】
リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物である正極活物質を含む正極を備えるリチウムイオン二次電池の電解液として用いられる、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
【請求項4】
非水溶媒と、錯化合物と、を含有する非水電解液用調製液であって、
前記非水溶媒が、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記錯化合物が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含み、
前記錯化合物中の前記LiPF部位、前記LiDFP部位、及び前記EC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される、
非水電解液用調製液。
【請求項5】
請求項4に記載の非水電解液用調製液と、電解質と、を混合する工程を含む、リチウムイオン二次電池用非水電解液の製造方法。
【請求項6】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液と、
を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物である正極活物質を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液と、
を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用非水電解液及びその製造方法、非水電解液用調製液、並びに、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、リチウムイオン二次電池の非水電解液用の添加剤として、ジフルオロリン酸リチウムが知られている。
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池を保存する場合に自己放電を抑制し、充電後の保存特性を向上させる優れた非水系電解液として、有機溶媒と溶質とを含有する電解液が開示されている。この電解液は、有機溶媒が、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3439085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジフルオロリン酸リチウムを添加した非水電解液を用いる上記従来のリチウムイオン二次電池について、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗の低減に関し、更なる改善の余地があった。
【0005】
本開示の一態様の目的は、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させることができるリチウムイオン二次電池用非水電解液及びその製造方法、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗が低減されたリチウムイオン二次電池、並びに、上記リチウムイオン二次電池用非水電解液の製造に好適な非水電解液用調製液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 電解質と、非水溶媒と、錯化合物と、を含有するリチウムイオン二次電池用非水電解液であって、
前記非水溶媒が、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種と、エチレンカーボネートであるECと、を含み、
前記錯化合物が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含み、
前記錯化合物中の前記LiPF部位、前記LiDFP部位、及び前記EC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量がリチウムイオン二次電池用非水電解液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される、
リチウムイオン二次電池用非水電解液。
<2> 前記錯化合物において、
前記LiDFP部位に対する前記LiPF部位のモル比が、0.95~1.05であり、
前記LiDFP部位に対する前記EC部位のモル比が、10以上18未満である、
<1>に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
<3> リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物である正極活物質を含む正極を備えるリチウムイオン二次電池の電解液として用いられる、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
<4> 非水溶媒と、錯化合物と、を含有する非水電解液用調製液であって、
前記非水溶媒が、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記錯化合物が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含み、
前記錯化合物中の前記LiPF部位、前記LiDFP部位、及び前記EC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される、
非水電解液用調製液。
<5> <4>に記載の非水電解液用調製液と、電解質と、を混合する工程を含む、リチウムイオン二次電池用非水電解液の製造方法。
<6> 正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液と、
を備えるリチウムイオン二次電池。
<7> リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物である正極活物質を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
<3>に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液と、
を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させることができるリチウムイオン二次電池用非水電解液及びその製造方法、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗が低減されたリチウムイオン二次電池、並びに、上記リチウムイオン二次電池用非水電解液の製造に好適な非水電解液用調製液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を示す概略断面図である。
図2】実施例1及び比較例1における、Li-NMR分析結果である。
図3】実施例1及び比較例1における、19F-NMR分析結果である。
図4】実施例1及び比較例1における、19F-NMR分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0010】
〔非水電解液用調製液〕
本開示の非水電解液用調製液は、
非水溶媒と、錯化合物と、を含有し、
非水溶媒が、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
錯化合物が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含み、
錯化合物中のLiPF部位、LiDFP部位、及びEC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiCl(塩化リチウム)を基準とするLi-NMR分析による化学シフト値の共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaF(フッ化ナトリウム)を基準とする19F-NMR分析による化学シフト値の共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される。
【0011】
本開示の非水電解液用調製液は、リチウムイオン二次電池用非水電解液(以下、単に「非水電解液」ともいう)の調製に用いられる液体である。
本開示において、「調製」の語は、作製及び製造の各々と同義である。
本開示の非水電解液用調製液によって調製されたリチウムイオン二次電池用非水電解液によれば、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させることができる。
より詳細には、LiDFP部位を含む上記錯化合物を含有する調製液を用いて調製された非水電解液は、公知の添加剤である単体のLiDFPを添加して調製された非水電解液と比較して、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させる効果に優れる(例えば、後述の実施例参照)。
かかる効果が奏される理由は明らかではないが、LiDFP部位を含む上記錯化合物を含有する調製液を用いて調製された非水電解液では、かかる錯化合物の構造が、非水電解液中においても安定的に維持され、この錯化合物が、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗の低減に寄与するためと考えられる。
本開示の非水電解液用調製液は、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させる効果を有するので、リチウムイオン二次電池のレート特性及びサイクル特性を向上させる効果を有することも期待される。
【0012】
(非水溶媒)
本開示の非水電解液用調製液は、非水溶媒を含有する。
非水溶媒は、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
非水溶媒は、DMCを含むことが特に好ましい。
非水溶媒は、DMC、EMC及びDEC以外のその他の溶媒種を少なくとも1種含んでいてもよい。
その他の溶媒種については、後述するリチウムイオン二次電池用非水電解液に含有され得る溶媒種を適宜参照できる。
本開示の非水電解液用調製液において、非水溶媒の全量中に占める、DMC、EMC及びDECの合計量の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0013】
(錯化合物)
本開示の非水電解液用調製液は、錯化合物を含有する。
錯化合物は、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含む。
【0014】
(NMR分析による共鳴ピーク)
本開示の非水電解液用調製液は、
錯化合物中のLiPF部位、LiDFP部位、及びEC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による化学シフト値の共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による化学シフト値の共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される。
【0015】
上記-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測される共鳴ピークは、錯化合物中のLiの共鳴ピークである。
上記-72.605ppm~-72.620pmの範囲内に観測される共鳴ピーク及び上記-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内に観測される共鳴ピークは、いずれも、錯化合物中のFの共鳴ピークである。
【0016】
本開示の非水電解液用調製液は、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70であり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%であり、LiPFの濃度が1mol/Lであることには限定されない。
具体的には、「体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、・・・」とは、非水電解液用調製液の組成を、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液(即ち、後述の液体試料)の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなる組成に調整して得られた液体試料について、上記Li-NMR分析及び上記19F-NMR分析を行った場合に、上述した各共鳴ピークが観測されることを意味する。
【0017】
一般に、核磁気共鳴(NMR)は、原子核のスピン状態に関する現象である。
原子核は固有の核スピン量子数をもっている。このような原子核は、軸まわりに回転する小さな磁石の性質をもっており、磁場の中ではスピン状態によっていくつかのエネルギー準位に分裂(Zeeman効果)する。
核磁気共鳴(NMR)測定では、この分裂したエネルギー準位間のエネルギー差を検出することによって原子(核)の状態を測定する。
原子(核)は、電子によって遮蔽されており、電子密度が高いほど遮蔽効果が大きくなるため、原子(核)が受ける有効磁場が共鳴する周波数が低くなる。
【0018】
Li-NMR分析において、LiPF中のLiの共鳴ピークは、周辺の原子がLi原子に及ぼす相互作用により異なるが、およそ-0.270ppm~-0.290ppmの範囲内に観測される。
LiPF中のLiの共鳴ピークは、LiPFに対してECが配位している下記比較錯体(X)を含む溶液(例えば、リチウム二次電池用非水電解液)では、例えば-0.279ppm付近に観測される(後述の比較例1参照)。
下記比較錯体(X)は、LiPF及びECを含む一般的なリチウム二次電池用非水電解液に含有されると考えられる錯体である。
【0019】
【化1】
【0020】
比較錯体(X)を含む溶液に対し、上述のように組成を調整した後の本開示の非水電解液用調製液では、Li-NMR分析におけるLiの共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測される。この共鳴ピークは、上記比較錯体(X)を含む溶液の場合(-0.279ppm付近)と比較して、低周波数側にシフトしている。
【0021】
19F-NMR分析において、LiPF中のFの共鳴ピークは、周辺の原子がF原子に及ぼす相互作用により異なるが、およそ-72.000ppm~-74.000ppmの範囲内に観測される。
LiPF中のFの共鳴ピークは、上記比較錯体(X)を含む溶液では、例えば、-72.580ppm付近と、-73.830ppm付近と、に観測される(後述の比較例1参照)。Fの共鳴ピークが2本観測される理由は、比較錯体(X)中に、Liに隣接するFと、Liに隣接しないFと、が存在するためであると考えられる。
【0022】
比較錯体(X)を含む溶液に対し、上述のように組成を調整した後の本開示の非水電解液用調製液では、19F-NMR分析におけるFの共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される。これらの各共鳴ピークは、比較錯体(X)を含む溶液の場合(-72.580ppm付近及び-73.830ppm付近)と比較して、低周波数側にシフトしている。
【0023】
上述した通り、組成を調整した本開示の非水電解液用調製液では、比較錯体(X)を含む溶液に対し、Li及びFの各共鳴ピークが、それぞれ、低周波数側にシフトしている。
このことは、組成を調整した本開示の非水電解液用調製液は、比較錯体(X)を含む溶液と比較して、Li近傍の電子密度及びF近傍の電子密度が高いことを意味する。
この理由は、非水電解液用調製液に含まれる錯化合物において、Liに対し、理論配位数(即ち4;上述した比較錯体(X)参照)を超える数の過剰のECが配位していることに起因すると推測される。
これにより、調製された非水電解液において、錯化合物の構造が安定的に維持され、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させる効果が発現されると考えられる。
【0024】
(モル比〔EC部位/LiDFP部位〕)
上記錯化合物において、LiDFP部位に対するEC部位のモル比(モル比〔EC部位/LiDFP部位〕)は、好ましくは10以上18未満である。
モル比〔EC部位/LiDFP部位〕が10以上である場合には、調製された非水電解液において、錯化合物の安定性がより向上し、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させる効果がより効果的に発現される。
【0025】
モル比〔EC部位/LiDFP部位〕が18未満である場合には、錯化合物から非水電解液に持ち込まれるEC量がある程度制限されるので、非水電解液中の溶媒組成の制約がより少なくなる。
【0026】
(モル比〔LiPF部位/LiDFP部位〕)
上記錯化合物において、LiDFP部位に対するLiPF部位のモル比(モル比〔LiPF部位/LiDFP部位〕)は、錯化合物の安定性の観点から、好ましくは0.95~1.05である。
【0027】
上記錯化合物において、より好ましい態様は、モル比〔LiPF部位/LiDFP部位〕)が0.95~1.05であり、かつ、モル比〔EC部位/LiDFP部位〕)は、10以上18未満である態様である。
【0028】
(非水電解液用調製液の製造方法の一例(製法A))
次に、本開示の非水電解液用調製液の製造方法を製造するための製造方法の一例(以下、「製法A」とする)について説明する。
製法Aは、LiPFと、LiDFPと、ECと、DMC、EMC、及びDECからなる群から選択される少なくとも1種を含む非水溶媒と、を混合することにより、LiPF部位とLiDFP部位とEC部位とを含む錯化合物と非水溶媒とを含む非水電解液用調製液を得る工程を含む。
製法Aは、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0029】
非水電解液用調製液を得る工程において、LiDFPに対するLiPFの仕込みモル比(即ち、仕込みモル比〔LiPF/LiDFP〕)は、好ましくは0.95~1.05である。
仕込みモル比〔LiPF/LiDFP〕が0.95~1.05である場合には、安定性に優れた錯化合物が形成される。
【0030】
非水電解液用調製液を得る工程において、LiDFPに対するに対するECの仕込みモル比(即ち、仕込みモル比〔EC/LiDFP〕)は、好ましくは10以上18未満である。
仕込みモル比〔EC/LiDFP〕が10以上18未満である場合には、安定性に優れた錯化合物が得られ、かつ、非水電解液の溶媒組成の制約がより少なくなる。
【0031】
非水電解液用調製液を得る工程において、仕込みモル比〔(DMC、EMC、及びDEC)/EC〕は、0.2~1.5であることが好ましい。
仕込みモル比〔(DMC、EMC、及びDEC)/EC〕が0.2以上である場合には、ECがより溶解しやすくなり、その結果、錯化合物の形成性がより向上する。
仕込みモル比〔(DMC、EMC、及びDEC)/EC〕が1.5以下である場合には、非水電解液を調製する際の溶媒組成の制約をより少なくすることができる。
【0032】
〔リチウムイオン二次電池用非水電解液の製造方法の一例〕
本開示のリチウムイオン二次電池用非水電解液の製造方法の一例は、上述した本開示の非水電解液用調製液と、電解質と、を混合する工程を含む。
本一例に係る製造方法によれば、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させることができるリチウムイオン二次電池用非水電解液を製造できる。
【0033】
本一例における混合する工程では、必要に応じ、上述した非水電解液用調製液と、電解質と、その他の成分と、を混合してもよい。
その他の成分としては、非水溶媒、公知の添加剤等が挙げられる。
電解質及びその他の成分については、後述するリチウムイオン二次電池用非水電解液の項を参照できる。
【0034】
〔リチウムイオン二次電池用非水電解液〕
本開示のリチウムイオン二次電池用非水電解液(以下、「本開示の非水電解液」ともいう)は、
電解質と、非水溶媒と、錯化合物と、を含有するリチウムイオン二次電池用非水電解液であって、
非水溶媒が、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種と、エチレンカーボネートであるECと、を含み、
錯化合物が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含み、
錯化合物中のLiPF部位、LiDFP部位、及びEC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量がリチウムイオン二次電池用非水電解液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される。
【0035】
本開示の非水電解液によれば、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させることができる。
より詳細には、LiDFP部位を含む錯化合物を含有する本開示の非水電解液は、公知の添加剤である単体のLiDFPを添加して調製された非水電解液と比較して、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させる効果に優れる(例えば、後述の実施例参照)。
かかる効果が奏される理由は明らかではないが、LiDFP部位を含む上記錯化合物を含有する非水電解液では、上記錯化合物の構造が、非水電解液中においても安定的に維持され、この錯化合物が、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗の低減に寄与するためと考えられる。
本開示の非水電解液は、リチウムイオン二次電池の初期及び充放電サイクル後の電池抵抗を低減させる効果を有するので、リチウムイオン二次電池のレート特性及びサイクル特性を向上させる効果を有することも期待される。
【0036】
(電解質)
本開示の非水電解液は、電解質を含有する。
電解質としてはリチウム塩が好ましい。
リチウム塩としては、例えば;
ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム(LiTaF)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li10Cl10)等の無機酸陰イオン塩;
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CFSON)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(CSON)等の有機酸陰イオン塩;
等が挙げられる。
中でも、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が好ましい。
本開示の非水電解液は、リチウム塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0037】
本開示の非水電解液における電解質の濃度は、0.1mol/L~3mol/Lが好ましく、0.5mol/L~2mol/Lがより好ましい。
また、本開示の非水電解液におけるLiPFの濃度は、0.1mol/L~3mol/Lが好ましく、0.5mol/L~2mol/Lがより好ましい。
電解質の濃度が0.1mol/L以上である場合には、電池の性能及び寿命特性がより向上する。
電解質の濃度が3mol/L以下である場合には、低温下での電池の性能がより向上する。
【0038】
(非水溶媒)
本開示の非水電解液は、非水溶媒を含有する。
非水溶媒は、ジメチルカーボネートであるDMC、エチルメチルカーボネートであるEMC、及びジエチルカーボネートであるDECからなる群から選択される少なくとも1種と、エチレンカーボネートであるECと、を含む。
本開示の非水電解液において、非水溶媒の全量中に占める、DMC、EMC、DEC及びECの合計量の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0039】
本開示の非水電解液における非水溶媒は、DMC、EMC、DEC、及びEC以外のその他の溶媒種を含んでいてもよい。
その他の溶媒種としては、例えば、環状カーボネート類(但し、ECを除く)、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類(但し、DMC、EMC、及びDECを除く)、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類及び含フッ素鎖状エーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0040】
環状カーボネート類(但し、ECを除く)としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、及びブチレンカーボネート(BC)等が挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。
鎖状カーボネート類(但し、DMC、EMC、及びDECを除く)としては、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、及びジプロピルカーボネート(DPC)等を挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等が挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトンが挙げられる。
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンが挙げられる。
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタンが挙げられる。
その他にも、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類が挙げられる。
これらの溶媒種は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
非水溶媒中に占める、環状カーボネート類(ECを含む)及び鎖状カーボネート類(DMC、EMC、及びDECを含む)の割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。
非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の割合は、100質量%であってもよい。
【0042】
本開示の非水電解液中に占める非水溶媒の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
本開示の非水電解液中に占める非水溶媒の割合の上限は、他の成分(電解質、添加剤等)の含有量にもよるが、上限は、例えば99質量%であり、好ましくは97質量%であり、更に好ましくは90質量%である。
【0043】
(錯化合物)
本開示の非水電解液は、錯化合物を含有する。
錯化合物は、ヘキサフルオロリン酸リチウムであるLiPFからなるLiPF部位と、ジフルオロリン酸リチウムであるLiDFPからなるLiDFP部位と、エチレンカーボネートであるECからなるEC部位と、を含む。
本開示の非水電解液に含有される錯化合物は、前述した、本開示の非水電解液用調製液における錯化合物と同様の錯化合物であり、好ましい態様も同様である。
【0044】
本開示の非水電解液中における錯化合物の含有量は、適宜調整できる。
本開示の非水電解液中において、錯化合物のLiDFP部位の含有量(即ち、LiDFP量に換算された錯化合物の含有量)は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~2質量%であり、より好ましくは0.1質量%~1質量%である。
【0045】
(その他の成分)
本開示の非水電解液は、上述した成分以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、公知の非水電解液用添加剤が挙げられる。
【0046】
(NMR分析による共鳴ピーク)
本開示の非水電解液は、錯化合物中のLiPF部位、LiDFP部位、及びEC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合に、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量がリチウムイオン二次電池用非水電解液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、
LiClを基準とするLi-NMR分析による共鳴ピークが、-0.280ppm~-0.288ppmの範囲内に観測され、
NaFを基準とする19F-NMR分析による共鳴ピークが、-72.605ppm~-72.620pmの範囲内と、-73.860ppm~-73.870ppmの範囲内と、に観測される。
【0047】
本開示の非水電解液は、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70であり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%であり、LiPFの濃度が1mol/Lであることには限定されない。
具体的には、「体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように組成を調整した際に、・・・」とは、非水電解液の組成を、体積比〔EC:(DMC、EMC及びDEC)〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液用調製液(即ち、後述の液体試料)の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなる組成に調整して得られた液体試料について、上記Li-NMR分析及び上記19F-NMR分析を行った場合に、上述した各共鳴ピークが観測されることを意味する。
【0048】
本開示の非水電解液における各共鳴ピークは、それぞれ、前述した本開示の非水電解液用調製液における各共鳴ピークと同様であり、技術的な意味もそれぞれ同様である。
本開示の非水電解液における各共鳴ピークについては、前述した本開示の非水電解液用調製液における各共鳴ピークの説明を参照できる。
【0049】
上述した本開示の非水電解液は、特に、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)である正極活物質を含む正極を備えるリチウムイオン二次電池における電解液として、好適に用いることができる。
リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)については後述する。
リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)である正極活物質を含むリチウムイオン二次電池では、EC等を含む非水電解液の分解に起因してNiが非水電解液中に溶出しやすい。Niの溶出により、正極活物質の結晶構造が変化し、Liの挿入脱離が高抵抗化し、その結果、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗が増加しやすい。
かかるリチウムイオン二次電池の非水電解液として、本開示の非水電解液を用いた場合には、上記正極活物質の表面に、上記錯化合物によって良質なSEI(Solid Electrolyte Interface)膜が形成され、その結果、上述した問題(初期及び充放電サイクル後の電池抵抗の増加)が改善される。
【0050】
(非水電解液の製造方法)
以上で説明した本開示の非水電解液を製造する方法には特に限定はない。
本開示の非水電解液は、含有される各成分を混合する公知の方法によって製造できる。
また、本開示の非水電解液は、前述した「リチウムイオン二次電池用非水電解液の製造方法の一例」によって製造することもできる。
【0051】
〔リチウムイオン二次電池〕
本開示のリチウムイオン二次電池は、
正極と、
負極と、
正極と負極との間に配置されたセパレータと、
上述した本開示の非水電解液と、
を備える。
【0052】
本開示のリチウムイオン二次電池において、本開示の非水電解液中における上記錯化合物は、リチウムイオン二次電池を製造する前の非水電解液に予め添加(即ち、含有)されていたものであってもよい。即ち、上記錯化合物を含有する非水電解液を用い、本開示のリチウムイオン二次電池を製造してもよい
また、本開示のリチウムイオン二次電池において、非水電解液中における上記錯化合物は、リチウムイオン二次電池を製造した後、リチウムイオン二次電池中の非水電解液に対して添加されたものであってもよい。例えば、まず、上記錯化合物を含有しない非水電解液を用いてリチウムイオン二次電池を製造し、次いで、製造されたリチウムイオン二次電池の非水電解液中に上記錯化合物を添加することにより、本開示のリチウムイオン二次電池を製造してもよい。また、まず、上記錯化合物を含有する非水電解液を用いてリチウムイオン二次電池を製造し、次いで、製造されたリチウムイオン二次電池の非水電解液中に対し上記錯化合物を更に添加することにより、本開示のリチウムイオン二次電池を製造してもよい。
【0053】
以下、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例について、図1を参照しながら説明するが、本開示のリチウムイオン二次電池は、以下の一例には限定されない。
【0054】
図1は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例である、リチウムイオン二次電池1を示す概略断面図である。
リチウムイオン二次電池1は、積層型リチウムイオン二次電池の一例である。
本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池としては、この積層型リチウムイオン二次電池以外にも、例えば、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いた構造を有する、捲回型のリチウムイオン二次電池も挙げられる。
【0055】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、正極リード21及び負極リード22が取り付けられた電池素子10を含む。リチウムイオン二次電池1は、電池素子10がラミネートフィルムで形成された外装体30の内部に封入された構造を有している。
リチウムイオン二次電池1では、正極リード21及び負極リード22が、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
正極リード21及び負極リード22は、例えば超音波溶接や抵抗溶接などにより正極集電体及び負極集電体に取り付けることができる。
なお、図示しないが、正極リード及び負極リードが、外装体30の内部から外部に向かって、同一方向に導出されていてもよい。
【0056】
本一例において、電池素子10は、薄板上の正極集電体11Aの両方の主面(即ち、おもて面及びうら面)上に正極合材層11Bが形成されてなる正極11と、セパレータ13と、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる負極12と、が積層された構造を有している(図1参照)。
この構造において、正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bと、がセパレータ13を介して向き合っている。
【0057】
リチウムイオン二次電池1の外装体30の内部には、本開示の非水電解液(不図示)が注入されている。この非水電解液が、正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bに含浸されて、1つの単電池層14が形成されている。
リチウムイオン二次電池1では、この単電池層14が複数積層されることにより、これら複数の単電池層14が電気的に並列接続されている。
【0058】
以下、本開示のリチウムイオン二次電池における、非水電解液以外の各要素について説明する。
【0059】
(負極)
本開示のリチウムイオン二次電池は、負極を備える。
負極は、負極集電体及び負極合材層を含み得る。
負極合材層は、負極集電体の片面のみに設けられていてもよいし、負極集電体の両面に設けられていてもよい。
例えば、上記一例における負極12は、負極集電体12Aの片面又は両面に、負極合材層12Bが設けられた構成を有する。
負極合材層は、負極活物質及びバインダーを含む。負極合材層は、更に、導電助材を含むことが好ましい。
【0060】
負極集電体としては、導電性を有すればよく、各種のものを使用することができるが、例えばは、金属製又は合金製のものが用いられる。
具体的には、負極集電体として、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、アルミニウム又は銅が好ましい。
ここで、アルミニウムは純アルミニウム及びアルミニウム合金を意味し、「銅」は、純銅又は銅合金を意味する。
負極集電体として、特に好ましくは銅箔である。
銅箔としては特に限定されないが、圧延銅箔、電解銅箔、等が挙げられる。
【0061】
負極合材層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。
また、負極合材層の厚みは、200μm以下とすることが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは75μm以下である。
負極合材層の厚みを上記範囲にすれば、高い充放電レートでの充放電に対し、リチウムの十分な吸蔵・放出機能が実現し易い
【0062】
上述の負極合材層は、負極活物質、導電助材及びバインダーを含み得る。
【0063】
-負極活物質-
負極活物質としては、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、および、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。
これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。
【0064】
上記炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛等)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。
上記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。
上記炭素材料の粒径は特に限定されないが、例えば5μm~50μm、好ましくは20μm~30μmである。
【0065】
非晶質炭素材料として、具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
【0066】
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。
人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。
黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。
黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、及びスズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
【0067】
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0068】
-導電助材-
負極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
公知の導電助材としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック(登録商標)#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックス(登録商標)L等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven(登録商標)7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex(登録商標) SC ULTRA、Conductex 975ULTRA等、PUER BLACK(登録商標)100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH(商品名)1400、1300、900、Vulcan(登録商標)XC-72R、BlackPearls(登録商標)2000、LITX(登録商標)-50、LITX-200等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco(登録商標)250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラック(登録商標)EC-300J、EC-600JD(アクゾ社製)、デンカブラック(登録商標)、デンカブラックHS-100、FX-35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等が挙げられる。
グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
-バインダー-
バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロースから選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
負極合材層用のバインダーとしては、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースを適宜混合したものを用いることが望ましい。
【0070】
負極合材層中におけるバインダーの含有量は、負極合材層の物性(電解液浸透性・剥離強度)と電池性能との両立の観点から、負極合材層に対し、0.1質量%~4質量%であることが好ましい。
バインダーの含有量が0.1質量%以上である場合には、負極集電体に対する負極合材層の接着性、及び、負極活物質同士の結着性がより向上する。
バインダーの含有量を4質量%以下である場合には、負極合材層中における負極活物質の量をより多くすることができるので、電池容量がより向上する。
【0071】
-その他の成分-
負極合材層には、上記各成分に加えて、その他の成分が含まれていてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0072】
-負極合材層の形成方法-
負極合材層は、例えば、負極活物質及びバインダーを含む負極合材スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって製造することができる。
負極合材スラリーに含まれる溶媒としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用してもよい。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、これらを水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0073】
負極集電体への負極合剤スラリーの塗布方法及び乾燥方法は特に限定されない。
塗布方法としては、例えば、スロット・ダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティング等が挙げられる。
乾燥方法としては、温風、熱風及び低湿風による乾燥;真空乾燥;赤外線(例えば遠赤外線)照射による乾燥が挙げられる。
乾燥時間及び乾燥温度については、特に限定されないが、乾燥時間は例えば1分~30分であり、乾燥温度は例えば40℃~80℃である。
負極合材層の製造方法は、負極集電体上に負極合剤スラリーを塗布し、乾燥させた後、金型プレス、ロールプレス等を用いた加圧処理により、負極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。
【0074】
(正極)
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極を備える。
正極は、正極集電体及び正極合材層を含み得る。
正極合材層は、正極集電体の片面のみに設けられていてもよいし、正極集電体の両面に設けられていてもよい。
例えば、上記一例における正極11は、正極集電体11Aの片面又は両面に、正極合材層11Bが設けられた構成を有する。
正極合材層は、正極活物質及びバインダーを含む。正極合材層は、更に、導電助剤を含むことが好ましい。
【0075】
正極集電体としては、導電性を有する各種材料を使用することができるが、例えばは、金属製又は合金製のものが用いられる。
具体的には、正極集電体として、アルミニウム(即ち、純アルミニウム又はアルミニウム合金)、ニッケル、SUS等が挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、アルミニウムが好ましい。
正極集電体として、特に好ましくは、アルミニウム箔である。
アルミニウム箔としては特に限定されないが、A1085材、A3003材、等が挙げられる。
【0076】
正極合材層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。
また、正極合材層の厚みは、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは75μm以下である。
正極合材層の厚みが上記範囲にすれば、高い充放電レートでの充放電に対し、リチウムの十分な吸蔵・放出機能が実現しやすい。
【0077】
以下、正極合材層に含有され得る、正極活物質、導電助材、及びバインダーについて説明する。
【0078】
-正極活物質-
正極活物質としては、リチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質を用いることができる。
正極活物質として、好ましくは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素として含む酸化物である。
上記酸化物は、リチウム及びニッケル以外の金属元素(例えば、遷移金属元素、典型金属元素等)を少なくとも一種含んでいてもよい。この場合、リチウム及びニッケル以外の金属元素の含有割合は、原子数換算で、ニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合で含むことが好ましい。
Li及びNi以外の金属元素としては、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される一種または二種以上の金属元素が挙げられる。
これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0079】
好ましい正極活物質としては、下記式(1)で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(NCA)が挙げられる。
LiNi1-x-yCoAl … 式(1)
〔式(1)中、tは、0.95以上1.15以下であり、xは、0以上0.3以下であり、yは、0以上0.2以下であり、x及びyの合計は、0.5未満である。〕
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が挙げられる。
【0080】
好ましい正極活物質としては、下記式(2)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(NCM)も挙げられる。
LiNiCoMn … 式(2)
〔式(2)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
NCMは体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れている。
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1等が挙げられる。
【0081】
正極合材層中の正極活物質の含有量は、例えば10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。
また、正極合材層中の正極活物質の含有量は、例えば99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0082】
-導電助剤-
正極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
正極合材層中に含まれ得る導電助材の具体例及び好ましい態様は、負極合材層中に含まれ得る導電助材の具体例及び好ましい態様と同様である。
【0083】
-バインダー-
バインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、及びゴム粒子等が挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子等が挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、フッ素樹脂が好ましい。
バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0084】
-その他の成分-
正極合材層には、上記各成分に加えて、その他の成分が含まれていてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、および消泡剤等が挙げられる。
【0085】
-正極合材層の形成方法-
正極合材層は、例えば、正極活物質及びバインダーを含む正極合材スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって製造することができる。
正極合材スラリーに含まれる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶媒が好ましい。
正極合材層の形成方法の好ましい態様は、前述した、負極合材層の形成方法の好ましい態様と同様である。
【0086】
(セパレータ)
本開示のリチウムイオン二次電池は、セパレータを備える。
セパレータ(例えば、上記一例におけるセパレータ13)は、正極と負極との間に配置される。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂を含む多孔質の平板が挙げられる。また、セパレータとしては、上記樹脂を含む不織布も挙げられる。
好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性樹脂シートが挙げられる。
【0087】
セパレータの厚みは、例えば15μm~30μmとすることができる。
好ましい一態様として、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなる多孔性樹脂層を備えた、シャットダウン機能を有するセパレータが挙げられる。この態様によれば、セパレータの温度が熱可塑性樹脂の軟化点に達すると熱可塑性樹脂が融解して細孔が目詰まりすることにより電流を遮断することができる。
【0088】
本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極活物質の表面上及び負極活物質の表面上の少なくとも一方に、本開示の錯化合物に由来するSEI被膜を含むことが好ましい。
かかるSEI被膜によって、リチウムイオン二次電池の初期又は充放電サイクル後の電池抵抗の増大を有意に抑制することができる。
【実施例
【0089】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
なお、特記しない限り、「室温」は25℃を意味し、「%」は質量%を意味する。また、「wt%」は、「質量%」と同義である。
【0090】
〔実施例1〕
<錯化合物1(EC/LiPF/LiDFP=0.60/0.04/0.04(モル比))及びDMCを含む非水電解液用調製液1の作製>
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、及び排気ラインを備えた200mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、エチレンカーボネート(EC)(52.836;0.60mol)と、非水溶媒としてのジメチルカーボネート(DMC)(67.560g;0.75mol)と、を入れ、室温で攪拌することにより、ECを溶解させて溶液を得た。
得られた溶液に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)(6.076g;0.04mol)及びジフルオロリン酸リチウム(LiDFP)(4.316g;0.04mol)を添加し、次いで室温で1時間撹拌することにより、錯化合物1(EC/LiPF/LiDFP=0.60/0.04/0.04(モル比))及びDMCを含む非水電解液用調製液1を得た。
【0091】
<非水電解液1(錯化合物添加)の作製>
非水溶媒としてのジメチルカーボネート(DMC)(668.458g)に、非水溶媒としてのエチレンカーボネート(EC)(332.464g)と、電解質としてのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)(144.595g)と、を添加し、室温で1時間撹拌した。ここに、上述の非水電解液用調製液1を添加し、さらに室温で1時間撹拌し、非水電解液1(錯化合物添加)を得た。
ここで、非水電解液用調製液1の添加量は、錯化合物1中のLiPF部位、LiDFP部位、及びEC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合、体積比〔EC:DMC〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液1の全量に対して0.4質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように調整した。
【0092】
〔比較例1〕
<比較非水電解液1(LiDFP添加)の作製>
DMC、EC、LiDFP、及びLiPFを用い、体積比〔EC:DMC〕が30:70であり、LiDFPの含有量が非水電解液1の全量に対して0.4質量%であり、LiPFの濃度が1mol/Lである比較非水電解液1を作製した。
【0093】
<NMR分析>
実施例1の非水電解液1(錯化合物添加)及び比較非水電解液1(LiDFP添加)について、以下の条件にて、NMR分析(詳細には、Li-NMR及び19F-NMR分析)を行った。
【0094】
-NMR分析の条件-
装置 :Bruker製 AVANCEIII600
核種 :Li、19
試験管 :5mmφ
測定温度 :室温
測定溶媒 :NMR測定用溶媒による希釈なし。試料(非水電解液)をそのまま測定。
化学シフトの基準:塩化リチウム(LiCl)、重水に溶解したフッ化ナトリウム(NaF)を二重管で測定。
試料調整 :試料(非水電解液)をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で開封し、NMR試料管に採取。
【0095】
図2は、実施例1及び比較例1における、Li-NMR分析結果である。
図3及び図4は、いずれも、実施例1及び比較例1における、19F-NMR分析結果である。
【0096】
図2に示すように、実施例1では、Liの共鳴ピークは、-0.280~-0.288ppmの範囲内(詳細には、-0.284ppm)に観測された。
これに対し、比較例1では、Liの共鳴ピークは、-0.279ppmに観測された。
図3に示すように、実施例1では、Fの共鳴ピークは、-72.605~-72.620pmの範囲内(詳細には、-72.612ppm)に観測された。
これに対し、比較例1では、Fの共鳴ピークは、-72.580ppmに観測された。
図4に示すように、実施例1では、Fの共鳴ピークは、-73.860~-73.870ppmの範囲内(詳細には、-73.865ppm)に観測された。
これに対し、比較例1では、Fの共鳴ピークは、-73.830ppmに観測された。
【0097】
以上の結果から、実施例1の非水電解液1中のLi及びFは、それぞれ、比較例1の比較非水電解液1中のLi及びFと比較して、共鳴ピークが低周波数側にシフトしていることがわかる。
即ち、実施例1の非水電解液1は、比較例1の比較非水電解液1と比較して、Li及びF近傍の電子密度が高いことがわかる。
以上の結果は、比較例1の比較非水電解液1では、Liに対し、理論配位数(即ち4;上述した比較錯体(X)参照)のECが配位しているのに対し、実施例1の非水電解液1では、Liに対し、理論配位数を超える数の過剰のECが配位していることを示していると考えられる。
【0098】
〔実施例101〕
<リチウムイオン二次電池の作製>
以下の操作により、リチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」ともいう)を作製した。
【0099】
(負極の作製)
負極活物質としての天然黒鉛960g及び導電助材としてのSuper-P(導電性カーボン、BET比表面積62m/g)10gに対し、1%-CMC水溶液(即ち、カルボキシメチルセルロース(CMC)の1質量%水溶液)を450g加え、30分間混合した。
得られた混合物に対し、1%-CMC水溶液300gを加えて30分間混練した後、更に、1%-CMC水溶液250gを加えて30分間混練した。
得られた混練物に対し、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)(40%乳化液)50gを加えて30分間混合した後、真空脱泡を30分間行った。
以上により、固形分濃度45%の負極合材スラリーを得た。
【0100】
乾燥後の塗布質量が11.0mg/cmになるように、上記負極合材スラリーを、負極集電体としての銅箔(厚み10μm)の片面の一部に塗布し乾燥させた。次いで、銅箔の反対面(未塗工面)の一部に、塗布質量が11.0mg/cmになるように、上記負極合材スラリーを塗布し乾燥させた。
こうして得た両面塗工(22.0mg/cm)された銅箔を、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥させ、次いで、小型プレス機を用い、プレス密度が1.45g/cmとなるように圧縮することにより、負極原反を得た。
この負極原反は、負極集電体としての銅箔と、銅箔の両面に設けられた負極合材層と、を含む。銅箔の両面は、それぞれ、負極合材層が形成された領域と、負極合材層が形成されていない領域(即ち、余白)と、を含む。
上記負極原反をスリットすることにより、おもて面側に、58mm×372mmの負極合材層と、タブ溶接用余白と、を含み、裏面側に、58mm×431mmの負極合材層と、タブ溶接用余白と、を含む、負極A-1を得た。
【0101】
(正極の作製)
正極活物質としてのNCM523(即ち、LiNi0.5Co0.2Mn0.3)920g、導電助材としてのSuper-P(TIMCAL社製導電性カーボン)20g、及び導電助材としてのKS-6(TIMREX社製鱗片状黒鉛)20gを10分間混合した後、ここにN-メチルピロリドン(NMP)を100g加え、更に20分間混合した。
【0102】
次いで、8%-PVDF溶液(クレハ製PVDFW#7200をNMPに溶解)150gを加えて、30分間混練した後、更に、上記8%-PVDF溶液150gを加えて30分間混練した。その後、上記8%-PVDF溶液200gを加えて30分間混練した。次いで、NMPに溶解した溶液を80g加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP27gを加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。
以上により、固形分濃度60%の正極合材スラリーを得た。
【0103】
乾燥後の塗布質量が19.0mg/cmになるように、上記正極合材スラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み20μm、幅200mm)の片面の一部に塗布し乾燥させた。次いで、反対面(未塗工面)の一部に、同様に塗布質量が19.0mg/cmになるように、上記正極合材スラリーをアルミニウム箔に塗布し乾燥させた。
こうして得た両面塗工(38.0mg/cm)されたアルミニウム箔を、真空乾燥オーブンで130℃、12時間乾燥させ、次いで、35トンプレス機を用い、プレス密度が2.9g/cmとなるように圧縮することにより、正極原反を得た。
この正極原反は、正極集電体としてのアルミニウム箔と、このアルミニウム箔の両面に設けられた正極合材層と、を含む。アルミニウム箔の両面は、それぞれ、正極合材層が形成された領域と、正極合材層が形成されていない領域(即ち、余白)と、を含む。
上記正極原反をスリットすることにより、おもて面側に、56mm×334mmの正極合材層と、タブ溶接用余白と、を含み、裏面側に、56mm×408mmの正極合材層と、タブ溶接用余白と、を含む、正極C-1を得た。
【0104】
(電池の組み立て)
セパレータとしては、空隙率45%、厚み25μmのポリエチレン製多孔質膜(60.5mm×450mm)を用いた。
上記の負極A-1とセパレータと上記の正極C-1とセパレータとを、この順に重ねて捲回し、捲回体を得た。得られた捲回体をプレス成型し、成型体を得た。
次いで、上記成型体における正極C-1の余白部分にアルミニウム製の正極タブを超音波接合機で接合し、上記成型体における負極A-1の余白部分にニッケル製の負極タブを超音波接合機で接合した。正極タブ及び負極タブが接合された成型体をラミネートシートで挟み込み、三辺を加熱シールし、ラミネート体を得た。この際、ラミネート体における加熱シールされた一辺から正極タブ及び負極タブがはみ出すようにした。
【0105】
次に、真空乾燥機を用い、真空引きを行いながら、上記ラミネート体を、70℃で12時間減圧乾燥させた。次に、真空引きを継続しながら、上記ラミネート体の内部に、残りの一辺から、上記非水電解液1(錯化合物添加)を注入し、次いで上記残りの一辺を加熱シールした。電解液の注入量は、4.7gとした。
以上により、電池(即ち、リチウムイオン二次電池)を得た。
【0106】
(電池の活性化処理)
上記電池を、大気下、室温で24時間保持し、次いでこの電池に対し、以下の活性化処理を施した。
-活性化処理-
0.05Cで4時間定電流充電(0.05C-CC)し、次いで12時間休止した。
次に、0.1Cで4.2V(SOC100%)まで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.1Cで定電流放電(0.1C-CC)した。
次に、充放電サイクル(即ち、0.1C-CCCVで4.2Vまでの充電、及び、0.1C-CCで2.8Vまでの放電)を5回繰り返した。
次に、4.2V(SOC100%)の満充電にした状態で、室温で5日間保存した。
【0107】
<電池の性能評価>
上記活性化処理が施された電池について、下記の通り、初期の電池抵抗値及びサイクル試験後の電池抵抗値を測定した。
結果を表1に示す。
表1では、初期の電池抵抗値及びサイクル試験後の電池抵抗値とも、比較例1の値を100とした場合の相対値で表した。
【0108】
(初期の電池抵抗(DC-IR)の測定)
活性化処理後の電池を、室温で定電圧4.2Vまで充電し、次いで室温で0.1C定電流で放電し、放電開始から10秒間における電位低下を測定した。同様に、室温で定電圧4.2Vまで充電し、x=0.2、0.5、1.0として、xC定電流で放電し、放電開始から10秒間における電位低下を測定した。各電流レートで放電した際の電位低下から、放電初期の電池抵抗(直流抵抗;DC-IR)を算出した。
【0109】
(サイクル試験後の電池抵抗(DC-IR)の測定)
活性化処理後の電池に対し、充放電サイクル(詳細には、0.1C-CCCVで4.2Vまでの充電、及び、0.1C-CCで2.8Vまでの放電を1サイクルとする充放電サイクル)を100サイクル施した(サイクル試験)。
次に、4.2V(SOC100%)の満充電にした状態で、室温で5日間保存した。
保存後の電池に対し、初期の電池抵抗(DC-IR)の測定と同様にして、サイクル試験後の電池抵抗(DC-IR)の測定を行った。
【0110】
〔実施例102〕
非水電解液1(錯化合物添加)を、下記の非水電解液2(錯化合物添加)に変更したこと以外は実施例101と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0111】
非水電解液2(錯化合物添加)は、以下の点以外は、非水電解液1(錯化合物添加)と同様にして作製した。
非水電解液2(錯化合物添加)の作製では、錯化合物1中のLiPF部位、LiDFP部位、及びEC部位を、それぞれ、LiPF、LiDFP、及びECとして算入した場合、体積比〔EC:DMC〕が30:70となり、LiDFPの含有量が非水電解液の全量に対して0.8質量%となり、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように、EC、LiPF、及び錯化合物1の仕込み量を調整した。
【0112】
〔比較例101〕
非水電解液1(錯化合物添加)を、下記の比較非水電解液(添加剤無し)に変更したこと以外は実施例101と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0113】
比較非水電解液(添加剤無し)は、LiDFP(5.190g)を添加しなかったこと以外は比較非水電解液1(LiDFP添加)と同様にして作製した。
比較非水電解液(添加剤無し)において、体積比〔EC:DMC〕は30:70であり、LiPFの濃度は1mol/Lである。
【0114】
〔比較例102〕
非水電解液1(錯化合物添加)を、前述した比較非水電解液1(LiDFP添加)に変更したこと以外は実施例101と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0115】
〔比較例103〕
比較非水電解液1(LiDFP添加)を、下記の比較非水電解液(LiDFP添加、LiDFP含有量0.8質量%)に変更したこと以外は比較例102と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0116】
比較非水電解液(LiDFP添加、LiDFP含有量0.8質量%)は、非水電解液の全量に対するLiDFPの含有量が0.8質量%となるようにLiDFPの仕込み量を変更したこと以外は比較非水電解液1(LiDFP添加)と同様にして作製した。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、錯化合物1を含む非水電解液を用いた実施例101及び実施例102の電池は、添加剤を含まない非水電解液を用いた比較例101の電池は勿論、錯化合物1を形成していない単体のLiDFPを含む比較例102及び比較例103の電池に対しても、初期及びサイクル試験後の電池抵抗値が低減していることがわかる。
【0119】
前述した実施例1及び比較例1におけるNMRの結果(図2~4参照)より、実施例101及び102における非水電解液は、比較例102及び103における非水電解液と比較して、Liに配位したECを多く含み、これにより、非水電解液中において錯化合物の構造が安定的に維持され、この錯化合物が、初期及び充放電サイクル後の電池抵抗値の低減に寄与していると考えられる。
【符号の説明】
【0120】
1 リチウムイオン二次電池
10 電池素子
11 正極
11A 正極集電体
11B 正極合材層
12 負極
12A 負極集電体
12B 負極合材層
13 セパレータ
14 単電池層
21 正極リード
22 負極リード
30 外装体
図1
図2
図3
図4