(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】量子カスケードレーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/34 20060101AFI20231228BHJP
H01S 5/227 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01S5/34
H01S5/227
(21)【出願番号】P 2020066829
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】金子 祐士
(72)【発明者】
【氏名】高木 康文
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-294252(JP,A)
【文献】特開2019-047065(JP,A)
【文献】特開2013-179210(JP,A)
【文献】特開2012-054474(JP,A)
【文献】特開2016-076612(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083896(WO,A1)
【文献】特開2018-152430(JP,A)
【文献】特開2014-236075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0333482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、量子カスケード構造を有する活性層を含み、前記半導体基板上に形成された半導体積層体と、前記半導体積層体における前記半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、前記半導体基板における前記半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、を備える量子カスケードレーザ素子の製造方法であって、
前記半導体基板となる複数の部分を含み且つ第1主面及び第2主面を有する半導体ウェハを用意し、前記半導体積層体となる複数の部分を含む半導体層を前記第1主面に形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記半導体積層体となる前記複数の部分のそれぞれがリッジ部を有
し且つ前記リッジ部が前記活性層の少なくとも一部を含むように、前記半導体層の一部をエッチングによって除去する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記リッジ部における前記半導体ウェハとは反対側の表面のうちの少なくとも一部が露出するように、前記半導体ウェハ及び前記半導体層における前記第2主面とは反対側の表面に絶縁層を形成する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記半導体積層体となる前記複数の部分に、前記第1電極となる複数の金属メッキ層を形成し、
前記リッジ部の幅方向における前記活性層の少なくとも一部の両側に前記複数の金属メッキ層のそれぞれの一部が位置するように、前記複数の金属メッキ層のそれぞれに前記リッジ部を埋め込む第4工程と、
前記第4工程の後に、前記複数の金属メッキ層のそれぞれの間の領域に保護部材が配置された状態で、前記複数の金属メッキ層のそれぞれにおける前記半導体ウェハとは反対側の表面を研磨によって平坦化する第5工程と、
前記第2電極となる複数の部分を含む電極層を前記第2主面に形成する第6工程と、
前記第5工程及び前記第6工程の後に、前記保護部材が除去され
且つ前記複数の金属メッキ層のそれぞれの前記表面が平坦化された状態で、前記量子カスケードレーザ素子となる複数の部分を互いに仕切るラインに沿って前記半導体ウェハ及び前記半導体層を劈開させる第7工程と、を備える、量子カスケードレーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記第4工程においては、前記ラインに沿って前記半導体層上にマスク部材を形成し、前記マスク部材が有する複数の開口を介して前記複数の金属メッキ層を形成する、請求項1に記載の量子カスケードレーザ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第5工程においては、前記マスク部材を前記保護部材として用いる、請求項2に記載の量子カスケードレーザ素子の製造方法。
【請求項4】
前記第4工程においては、前記リッジ部の前記表面のうちの前記少なくとも一部を覆うと共に前記絶縁層を覆うように、前記第1電極となる金属下地層を形成し、前記金属下地層上に前記複数の金属メッキ層を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子の製造方法。
【請求項5】
前記第5工程においては、前記複数の金属メッキ層のそれぞれの前記表面を前記研磨によって平坦化した後に、前記保護部材を除去し、前記金属下地層のうち前記ラインに沿った部分をエッチングによって除去する、請求項4に記載の量子カスケードレーザ素子の製造方法。
【請求項6】
前記第4工程においては、前記複数の金属メッキ層をAuのメッキによって形成し、
前記第5工程においては、前記複数の金属メッキ層のそれぞれの前記表面を化学機械研磨によって平坦化する、請求項1~5のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子カスケードレーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の量子カスケードレーザ素子として、半導体基板と、半導体基板上に形成された半導体積層体と、半導体積層体における半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、半導体基板における半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、を備える量子カスケードレーザ素子であって、活性層を含む半導体積層体がリッジ部を有し、当該リッジ部が第1電極に埋め込まれたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような量子カスケードレーザ素子では、リッジ部が第1電極に埋め込まれているため、十分な放熱性を確保することができる。しかも、リッジ部の両側に埋め込み成長層を形成する場合に比べて、量子カスケードレーザ素子の製造工程を単純化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような量子カスケードレーザ素子をサブマウント等の支持部に実装する際には、半田部材等の接合部材を用いて、支持部の電極パッドに第1電極又は第2電極を接合する場合がある。支持部の電極パッドに第1電極を接合する場合に、リッジ部が埋め込まれた第1電極の表面が平坦化されていないと、支持部における量子カスケードレーザ素子の支持状態が不安定になる。一方、支持部の電極パッドに第2電極を接合する場合に、リッジ部が埋め込まれた第1電極の表面が平坦化されていないと、第1電極に対してワイヤボンディングを実施する際にその位置の自由度が制限される。
【0005】
本発明は、リッジ部が埋め込まれた第1電極の表面が平坦化された量子カスケードレーザ素子を効率良く且つ歩留まり良く製造することができる量子カスケードレーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の量子カスケードレーザ素子の製造方法は、半導体基板と、量子カスケード構造を有する活性層を含み、半導体基板上に形成された半導体積層体と、半導体積層体における半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、半導体基板における半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、を備える量子カスケードレーザ素子の製造方法であって、半導体基板となる複数の部分を含み且つ第1主面及び第2主面を有する半導体ウェハを用意し、半導体積層体となる複数の部分を含む半導体層を第1主面に形成する第1工程と、第1工程の後に、半導体積層体となる複数の部分のそれぞれがリッジ部を有するように、半導体層の一部をエッチングによって除去する第2工程と、第2工程の後に、リッジ部における半導体ウェハとは反対側の表面のうちの少なくとも一部が露出するように、半導体ウェハ及び半導体層における第2主面とは反対側の表面に絶縁層を形成する第3工程と、第3工程の後に、半導体積層体となる複数の部分に、第1電極となる複数の金属メッキ層を形成し、複数の金属メッキ層のそれぞれにリッジ部を埋め込む第4工程と、第4工程の後に、複数の金属メッキ層のそれぞれの間の領域に保護部材が配置された状態で、複数の金属メッキ層のそれぞれにおける半導体ウェハとは反対側の表面を研磨によって平坦化する第5工程と、第2電極となる複数の部分を含む電極層を第2主面に形成する第6工程と、第5工程及び第6工程の後に、保護部材が除去された状態で、量子カスケードレーザ素子となる複数の部分を互いに仕切るラインに沿って半導体ウェハ及び半導体層を劈開させる第7工程と、を備える。
【0007】
この量子カスケードレーザ素子の製造方法では、第1電極となる複数の金属メッキ層のそれぞれにリッジ部を埋め込んだ後に、複数の金属メッキ層のそれぞれの間の領域に保護部材が配置された状態で、複数の金属メッキ層のそれぞれの表面を研磨によって平坦化する。これにより、リッジ部が埋め込まれた第1電極の表面を効率良く平坦化することができる。しかも、複数の金属メッキ層のそれぞれの表面を研磨によって平坦化する際に、半導体ウェハ及び半導体層を劈開させるための領域が保護部材によって保護される。これにより、当該領域に傷等が付くのが防止されるため、半導体ウェハ及び半導体層を精度良く劈開させることができる。以上により、この量子カスケードレーザ素子の製造方法によれば、リッジ部が埋め込まれた第1電極の表面が平坦化された量子カスケードレーザ素子を効率良く且つ歩留まり良く製造することができる。
【0008】
本発明の量子カスケードレーザ素子の製造方法では、第4工程においては、ラインに沿って半導体層上にマスク部材を形成し、マスク部材が有する複数の開口を介して複数の金属メッキ層を形成してもよい。これによれば、半導体ウェハ及び半導体層を劈開させるための領域を除く領域に、複数の金属メッキ層を効率良く形成することができる。
【0009】
本発明の量子カスケードレーザ素子の製造方法では、第5工程においては、マスク部材を保護部材として用いてもよい。これによれば、複数の金属メッキ層の形成、及び複数の金属メッキ層のそれぞれの表面の研磨をより効率良く実施することができる。
【0010】
本発明の量子カスケードレーザ素子の製造方法では、第4工程においては、リッジ部の表面のうちの少なくとも一部を覆うと共に絶縁層を覆うように、第1電極となる金属下地層を形成し、金属下地層上に複数の金属メッキ層を形成してもよい。これによれば、複数の金属メッキ層をより確実に形成することができる。
【0011】
本発明の量子カスケードレーザ素子の製造方法では、第5工程においては、複数の金属メッキ層のそれぞれの表面を研磨によって平坦化した後に、保護部材を除去し、金属下地層のうちラインに沿った部分をエッチングによって除去してもよい。これによれば、半導体ウェハ及び半導体層をより精度良く劈開させることができる。
【0012】
本発明の量子カスケードレーザ素子の製造方法では、第4工程においては、複数の金属メッキ層をAuのメッキによって形成し、第5工程においては、複数の金属メッキ層のそれぞれの表面を化学機械研磨によって平坦化してもよい。これによれば、半田部材等の接合部材の濡れ性が確保された第1電極を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リッジ部が埋め込まれた第1電極の表面が平坦化された量子カスケードレーザ素子を効率良く且つ歩留まり良く製造することができる量子カスケードレーザ素子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態の量子カスケードレーザ素子の断面図である。
【
図2】
図1に示されるII-II線に沿っての量子カスケードレーザ素子の断面図である。
【
図3】
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図4】
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図5】
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図6】
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図7】
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図8】
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図9】
図1に示される量子カスケードレーザ素子を備える量子カスケードレーザ装置の断面図である。
【
図10】
図1に示される量子カスケードレーザ素子を備える量子カスケードレーザ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[量子カスケードレーザ素子の構成]
【0016】
図1及び
図2に示されるように、量子カスケードレーザ素子1は、半導体基板2と、半導体積層体3と、絶縁膜4と、第1電極5と、第2電極6と、を備えている。半導体基板2は、例えば、長方形板状のSドープInP単結晶基板である。一例として、半導体基板2の長さは2mm程度であり、半導体基板2の幅は500μm程度であり、半導体基板2の厚さは百数十μm程度である。以下の説明では、半導体基板2の幅方向をX軸方向といい、半導体基板2の長さ方向をY軸方向といい、半導体基板2の厚さ方向をZ軸方向という。
【0017】
半導体積層体3は、半導体基板2の表面2aに形成されている。半導体積層体3は、量子カスケード構造を有する活性層31を含んでいる。半導体積層体3は、所定の中心波長(例えば、中赤外領域の波長であって、4~11μmのいずれかの値の中心波長)を有するレーザ光を発振するように構成されている。本実施形態では、半導体積層体3は、下部クラッド層32、下部ガイド層(図示省略)、活性層31、上部ガイド層(図示省略)、上部クラッド層33及びコンタクト層(図示省略)が半導体基板2側からこの順序で積層されることで構成されている。上部ガイド層は、分布帰還(DFB:distributed feedback)構造として機能する回折格子構造を有している。
【0018】
活性層31は、例えば、InGaAs/InAlAsの多重量子井戸構造を有する層である。下部クラッド層32及び上部クラッド層33のそれぞれは、例えば、SiドープInP層である。下部ガイド層及び上部ガイド層のそれぞれは、例えば、SiドープInGaAs層である。コンタクト層は、例えば、SiドープInGaAs層である。
【0019】
半導体積層体3は、Y軸方向に沿って延在するリッジ部30を有している。リッジ部30は、下部クラッド層32における半導体基板2とは反対側の部分、並びに、下部ガイド層、活性層31、上部ガイド層、上部クラッド層33及びコンタクト層によって構成されている。X軸方向におけるリッジ部30の幅は、X軸方向における半導体基板2の幅よりも小さい。Y軸方向におけるリッジ部30の長さは、Y軸方向における半導体基板2の長さに等しい。一例として、リッジ部30の長さは2mm程度であり、リッジ部30の幅は数μm~十数μm程度であり、リッジ部30の厚さは数μm程度である。リッジ部30は、X軸方向において半導体基板2の中央に位置している。X軸方向におけるリッジ部30の両側には、半導体積層体3を構成する各層が存在していない。
【0020】
半導体積層体3は、リッジ部30の光導波方向Aにおいて対向する第1端面3a及び第2端面3bを有している。光導波方向Aは、リッジ部30の延在方向であるY軸方向に平行な方向である。第1端面3a及び第2端面3bは、光出射端面として機能する。第1端面3a及び第2端面3bのそれぞれは、Y軸方向において対向する半導体基板2の両側面のそれぞれと同一平面上に位置している。
【0021】
絶縁膜4は、リッジ部30における半導体基板2とは反対側の表面30aが露出するように、リッジ部30の側面30b及び下部クラッド層32の表面32aに形成されている。リッジ部30の側面30bは、X軸方向において対向するリッジ部30の両側面のそれぞれである。下部クラッド層32の表面32aは、下部クラッド層32のうちリッジ部30を構成していない部分における半導体基板2とは反対側の表面である。絶縁膜4は、例えば、SiN膜又はSiO2膜である。
【0022】
第1電極5は、半導体積層体3における半導体基板2とは反対側の表面3cに形成されている。半導体積層体3の表面3cは、リッジ部30の表面30a、リッジ部30の側面30b及び下部クラッド層32の表面32aによって構成された面である。Z軸方向から見た場合に、第1電極5の外縁は、半導体基板2及び半導体積層体3の外縁の内側に位置している。第1電極5は、リッジ部30の表面30a上においてはリッジ部30の表面30aに接触しており、リッジ部30の側面30b上及び下部クラッド層32の表面32a上においては絶縁膜4に接触している。これにより、第1電極5は、コンタクト層を介して上部クラッド層33に電気的に接続されている。
【0023】
第1電極5は、金属下地層51と、金属メッキ層52と、を有している。金属下地層51は、半導体積層体3の表面3cに沿って延在するように形成されている。金属下地層51は、例えば、Ti/Au層である。金属メッキ層52は、リッジ部30が金属メッキ層52に埋め込まれるように金属下地層51上に形成されている。金属メッキ層52は、例えば、Auメッキ層である。金属メッキ層52における半導体基板2とは反対側の表面52aは、Z軸方向に垂直な平坦面である。一例として、金属メッキ層52の表面52aは、化学機械研磨によって平坦化された研磨面であり、金属メッキ層52の表面52aには、研磨痕が形成されている。なお、リッジ部30が金属メッキ層52に埋め込まれるとは、金属メッキ層52のうちX軸方向においてリッジ部30の両側に位置する部分の厚さ(Z軸方向における当該部分の厚さ)がZ軸方向におけるリッジ部30の厚さよりも大きい状態で、リッジ部30が金属メッキ層52に覆われることを意味する。
【0024】
第2電極6は、半導体基板2における半導体積層体3とは反対側の表面2bに形成されている。第2電極6は、例えば、AuGe/Au膜、AuGe/Ni/Au膜又はAu膜である。第2電極6は、半導体基板2を介して下部クラッド層32に電気的に接続されている。
【0025】
以上のように構成された量子カスケードレーザ素子1では、第1電極5及び第2電極6を介して活性層31にバイアス電圧が印加されると、活性層31から光が発せられ、当該光のうち所定の中心波長を有する光が分布帰還構造において共振させられる。これにより、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3a及び第2端面3bのそれぞれから出射される。なお、第1端面3a及び第2端面3bの一方の端面に低反射膜が形成されている場合には、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3a及び第2端面3bの他方の端面からも出射されるが、所定の中心波長を有するレーザ光は、低反射膜が形成された一方の端面から高出力で出射される。また、第1端面3a及び第2端面の一方の端面に高反射膜が形成されていてもよい。その場合には、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3a及び第2端面の他方の端面から出射される。
[量子カスケードレーザ素子の製造方法]
【0026】
上述した量子カスケードレーザ素子1の製造方法について、
図3~
図8を参照して説明する。なお、
図3~
図8には、それぞれが量子カスケードレーザ素子1となる複数の部分のうちの隣り合う2つの部分のみが示されている。
【0027】
まず、
図3の(a)に示されるように、第1主面200a及び第2主面200bを有する半導体ウェハ200を用意し、半導体ウェハ200の第1主面200aに半導体層300を形成する(第1工程)。半導体ウェハ200は、それぞれが半導体基板2となる複数の部分を含んでいる。半導体ウェハ200は、例えば、SドープInP単結晶(100)ウェハである。半導体層300は、それぞれが半導体積層体3となる複数の部分を含んでいる。半導体層300は、例えば、MO-CVDによって各層(すなわち、下部クラッド層32、下部ガイド層、活性層31、上部ガイド層、上部クラッド層33及びコンタクト層のそれぞれとなる層)をエピタキシャル成長させることで形成される。
【0028】
第1工程の後に、
図3の(b)に示されるように、半導体層300において半導体積層体3となる部分がリッジ部30を有するように、半導体層300の一部をエッチングによって除去する(第2工程)。これにより、半導体層300に複数のリッジ部30が形成される。半導体層300の一部を除去するためのエッチングは、例えば、ドライエッチングである。
【0029】
第2工程の後に、
図4の(a)に示されるように、各リッジ部30の表面30aが露出するように、半導体層300における第2主面200bとは反対側の表面に絶縁層400を形成する(第3工程)。絶縁層400は、それぞれが絶縁膜4となる複数の部分を含んでいる。なお、第2工程において半導体ウェハ200の表面が部分的に半導体層300側に露出した場合には、絶縁層400は、半導体ウェハ200及び半導体層300における第2主面200bとは反対側の表面に形成される。
【0030】
第3工程の後に、
図4の(b)に示されるように、各リッジ部30の表面30aを覆うと共に絶縁層400を覆うように、金属下地層510を形成する(第4工程)。金属下地層510は、それぞれが金属下地層51となる複数の部分を含んでいる。金属下地層510は、例えば、Ti及びAuをこの順序でスパッタすることで形成される。
【0031】
続いて、
図5の(a)に示されるように、ラインLに沿って半導体層300上にマスク部材Mを形成する(第4工程)。ラインLは、それぞれが量子カスケードレーザ素子1となる複数の部分を互いに仕切るラインである。つまり、ラインLは、半導体ウェハ200及び半導体層300の劈開予定ラインである。マスク部材Mは、例えば、レジストによって、金属下地層510を介して半導体層300上に形成される。ラインLに沿って延在するマスク部材Mの幅は、例えば、100μm程度である。
【0032】
続いて、
図5の(b)に示されるように、マスク部材Mが有する複数の開口Maを介して、金属下地層510上に複数の金属メッキ層520を形成し、各金属メッキ層520にリッジ部30を埋め込む(第4工程)。各金属メッキ層520は、金属メッキ層52となる部分である。本実施形態では、複数の金属メッキ層520がAuのメッキによって形成される。ことのき、各金属メッキ層520では、埋め込まれたリッジ部30に対応する部分が凸状を呈する。
【0033】
以上のように、第4工程においては、それぞれが半導体積層体3となる部分に複数の金属メッキ層520を形成し、各金属メッキ層520にリッジ部30を埋め込む。なお、
図5の(a)及び(b)のそれぞれにおいて、右側の図は、左側の図に示されるr-r線に沿っての断面図である(後述する
図6の(a)及び(b)においても同様)。
【0034】
第4工程の後に、
図6の(a)に示されるように、各金属メッキ層520の間の領域(隣り合う金属メッキ層520の間の領域)にマスク部材Mが配置された状態で、各金属メッキ層520における半導体ウェハ200とは反対側の表面520aを研磨によって平坦化する(第5工程)。本実施形態では、マスク部材Mが保護部材として用いられつつ、各金属メッキ層520の表面520aが化学機械研磨によって一括で平坦化される。続いて、
図6の(b)に示されるように、マスク部材Mを除去し、
図7の(a)に示されるように、金属下地層510のうちラインLに沿った部分をエッチングによって除去する(第5工程)。
【0035】
第5工程の後に、
図7の(b)に示されるように、半導体ウェハ200の第2主面200bを研磨し、半導体ウェハ200を薄化する。続いて、
図8の(a)に示されるように、半導体ウェハ200の第2主面200bに電極層600を形成する(第6工程)。電極層600は、それぞれが第2電極6となる複数の部分を含んでいる。電極層600には、半導体ウェハ200の第2主面200bに形成された状態で、例えば、合金熱処理が施される。なお、第6工程は、第5工程の後に限定されず、他のタイミングで実施されてもよい。ただし、第6工程において半導体ウェハ200を薄化する場合には、薄化した半導体ウェハ200をワックスで支持基板に貼り付ける必要があるが、一般的なワックスの耐熱温度が第3工程における絶縁層400の形成温度よりも低いため、第6工程は、第3工程の後に実施されることが好ましい。一例として、第6工程は、第3工程と第4工程との間で実施されてもよいし、或いは第4工程と第5工程との間で実施されてもよい。
【0036】
第5工程及び第6工程の後に、
図8の(b)に示されるように、マスク部材Mが除去された状態で(すなわち、半導体ウェハ200及び半導体層300を劈開させるための領域(ストリート領域)が露出した状態で)、ラインLに沿って半導体ウェハ200及び半導体層300を劈開させる(第7工程)。ストリート領域の幅は、例えば、100μm程度である。これにより、複数の量子カスケードレーザ素子1が得られる。
[量子カスケードレーザ装置の構成]
【0037】
上述した量子カスケードレーザ素子1を備える量子カスケードレーザ装置10Aについて、
図9を参照して説明する。
図9に示されるように、量子カスケードレーザ装置10Aは、量子カスケードレーザ素子1と、支持部11と、接合部材12と、CW駆動部(駆動部)13と、を備えている。
【0038】
支持部11は、本体部111と、電極パッド112と、を有している。支持部11は、例えば、本体部111がAlNによって形成されたサブマントである。支持部11は、半導体積層体3が半導体基板2に対して支持部11側に位置した状態(すなわち、エピサイドダウンの状態)で、量子カスケードレーザ素子1を支持している。
【0039】
接合部材12は、エピサイドダウンの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第1電極5とを接合している。接合部材12は、例えば、AuSn部材等の半田部材である。接合部材12のうち電極パッド112と第1電極5との間に配置された部分の厚さは、例えば、数μm程度である。
【0040】
CW駆動部13は、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。CW駆動部13は、支持部11の電極パッド112及び量子カスケードレーザ素子1の第2電極6のそれぞれに電気的に接続されている。CW駆動部13を電極パッド112及び第2電極6のそれぞれに電気的に接続するために、電極パッド112及び第2電極6のそれぞれに対してワイヤボンディングが実施される。
【0041】
上述した量子カスケードレーザ素子1を備える量子カスケードレーザ装置10Bについて、
図10を参照して説明する。
図10に示されるように、量子カスケードレーザ装置10Bは、量子カスケードレーザ素子1と、支持部11と、接合部材12と、パルス駆動部(駆動部)14と、を備えている。
【0042】
支持部11は、本体部111と、電極パッド112と、を有している。支持部11は、例えば、本体部111がAlNによって形成されたサブマントである。支持部11は、半導体基板2が半導体積層体3に対して支持部11側に位置した状態(すなわち、エピサイドアップの状態)で、量子カスケードレーザ素子1を支持している。
【0043】
接合部材12は、エピサイドアップの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第2電極6とを接合している。接合部材12は、例えば、AuSn部材等の半田部材である。接合部材12のうち電極パッド112と第2電極6との間に配置された部分の厚さは、例えば、数μm程度である。
【0044】
パルス駆動部14は、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。レーザ光のパルス幅は、例えば、50~500nsであり、レーザ光の繰り返し周波数は、例えば、1~500kHzである。パルス駆動部14は、支持部11の電極パッド112及び量子カスケードレーザ素子1の第1電極5のそれぞれに電気的に接続されている。パルス駆動部14を電極パッド112及び第1電極5のそれぞれに電気的に接続するために、電極パッド112及び第1電極5のそれぞれに対してワイヤボンディングが実施される。
【0045】
以上のように構成された各量子カスケードレーザ装置10A,10Bでは、支持部11側にヒートシンク(図示省略)が設けられている。そのため、量子カスケードレーザ素子1がエピサイドダウンの状態で支持部11に実装されている構成(
図9に示されるエピサイドダウンの構成)は、量子カスケードレーザ素子1がエピサイドアップの状態で支持部11に実装されている構成(
図10に示されるエピサイドアップの構成)に比べ、半導体積層体3の放熱性を確保し易い。したがって、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように駆動される場合には、エピサイドダウンの構成が有効である。特に、中赤外領域における比較的短波長の中心波長(例えば、4~11μmのうちの4~6μmのいずれかの値の中心波長)を有するレーザ光を発振するように半導体積層体3が構成されており、且つ量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように駆動される場合には、エピサイドダウンの構成が有効である。ただし、条件等によっては、エピサイドダウンの構成において、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように駆動されることに限定されず、エピサイドアップの構成において、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように駆動されることに限定されない。
【0046】
なお、
図9に示されるエピサイドダウンの構成では、第1電極5の金属メッキ層52の表面52aが平坦化されているため、支持部11における量子カスケードレーザ素子1の支持状態が安定する。一方、
図10に示されるエピサイドアップの構成では、第1電極5の金属メッキ層52の表面52aが平坦化されているため、第1電極5に対してワイヤボンディングを実施する際にその位置の自由度が大きくなる。このように、量子カスケードレーザ素子1において第1電極5の金属メッキ層52の表面52aが平坦化されている構成は、エピサイドダウンの構成が採用されるかエピサイドアップの構成が採用されるかにかかわらず、極めて有効である。
[作用及び効果]
【0047】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、各金属メッキ層520にリッジ部30を埋め込んだ後に、各金属メッキ層520の間の領域にマスク部材Mが配置された状態で、各金属メッキ層520の表面520aを研磨によって平坦化する。これにより、リッジ部30が埋め込まれた第1電極5の表面を効率良く平坦化することができる。しかも、各金属メッキ層520の表面520aを研磨によって平坦化する際に、半導体ウェハ200及び半導体層300を劈開させるための領域がマスク部材Mによって保護される。これにより、当該領域に傷等が付くのが防止されるため、半導体ウェハ200及び半導体層300を精度良く劈開させることができる。以上により、量子カスケードレーザ素子1の製造方法によれば、リッジ部30が埋め込まれた第1電極5の表面が平坦化された量子カスケードレーザ素子1を効率良く且つ歩留まり良く製造することができる。
【0048】
なお、通常であれば、活性層31に負荷が掛かることを懸念し、リッジ部30上に形成された電極層の表面を研磨によって平坦化することを避けたい。上述した量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、各金属メッキ層520にリッジ部30を埋め込んだ後に、各金属メッキ層520の間の領域にマスク部材Mが配置された状態で、各金属メッキ層520の表面520aを研磨によって平坦化するため、活性層31に掛かる負荷が軽減される。
【0049】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、ラインLに沿って半導体層300上にマスク部材Mを形成し、マスク部材Mが有する複数の開口Maを介して複数の金属メッキ層520を形成する。これにより、半導体ウェハ200及び半導体層300を劈開させるための領域を除く領域に、複数の金属メッキ層520を効率良く形成することができる。
【0050】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、複数の金属メッキ層520を形成する際にマスクとして用いたマスク部材Mを、各金属メッキ層520の表面520aを研磨によって平坦化する際に保護部材として用いる。これにより、複数の金属メッキ層520の形成、及び各金属メッキ層520の表面520aの研磨をより効率良く実施することができる。
【0051】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、各リッジ部30の表面30aを覆うと共に絶縁層400を覆うように金属下地層510を形成し、金属下地層510上に複数の金属メッキ層520を形成する。これにより、複数の金属メッキ層520をより確実に形成することができる。
【0052】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、各金属メッキ層520の表面520aを研磨によって平坦化した後に、マスク部材Mを除去し、金属下地層510のうちラインLに沿った部分をエッチングによって除去する。これにより、半導体ウェハ200及び半導体層300をより精度良く劈開させることができる。
【0053】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、複数の金属メッキ層520をAuのメッキによって形成し、各金属メッキ層520の表面520aを化学機械研磨によって平坦化する。これにより、半田部材等の接合部材12の濡れ性が確保された第1電極5を得ることができる。
【0054】
なお、複数の金属メッキ層520をCuのメッキによって形成した場合には、各金属メッキ層520の表面520aを化学機械研磨によって平坦化する技術は成熟している。しかし、半田部材等の接合部材12の濡れ性を確保するためには、各金属メッキ層520の表面520aにAu層を形成する必要があり、量子カスケードレーザ素子1の製造工程が煩雑なものとなる。これに対し、複数の金属メッキ層520をAuのメッキによって形成した場合には、各金属メッキ層520の表面520aを化学機械研磨によって平坦化するための条件出しが必要となるものの、条件出しが成されれば、量子カスケードレーザ素子1の製造工程が単純なものとなる。
[変形例]
【0055】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、活性層31には、公知の量子カスケード構造を適用することができる。また、半導体積層体3には、公知の積層構造を適用することができる。一例として、半導体積層体3において、上部ガイド層は、分布帰還構造として機能する回折格子構造を有していなくてもよい。
【0056】
また、絶縁膜4は、リッジ部30の表面30aのうちの少なくとも一部が露出するように形成されていればよい。つまり、量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、リッジ部30の表面30aのうちの少なくとも一部が露出するように絶縁層400を形成すればよい。ただし、量子カスケードレーザ素子1において、リッジ部30の表面30aの全体が露出するように絶縁膜4が形成されていると、第1電極5とリッジ部30との接触面積が増えるため、リッジ部30において広い電流注入領域を確保することができ、高効率な光出力特性を得ることが可能となる。
【0057】
また、Z軸方向から見た場合に、第1電極5のうちの金属下地層51の外縁は、半導体基板2及び半導体積層体3の外縁に一致していてもよい。つまり、量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、金属下地層510のうちラインLに沿った部分をエッチングによって除去しなくてもよい。その場合にも、半導体ウェハ200及び半導体層300を精度良く劈開させることができる。なお、Z軸方向から見た場合に、第1電極5のうちの金属下地層51の外縁が、少なくとも第1端面3a及び第2端面3bに一致していると、第1端面3a及び第2端面3bでの放熱性を確保することができる。
【0058】
量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、各金属メッキ層520の表面520aを研磨によって平坦化する際に、マスク部材Mとは別に、各金属メッキ層520の間の領域に保護部材を配置してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…量子カスケードレーザ素子、2…半導体基板、2b…表面、3…半導体積層体、3c…表面、5…第1電極、6…第2電極、30…リッジ部、30a…表面、31…活性層、51…金属下地層、52…金属メッキ層、200…半導体ウェハ、200a…第1主面、200b…第2主面、300…半導体層、400…絶縁層、510…金属下地層、520…金属メッキ層、520a…表面、600…電極層、L…ライン、M…マスク部材、Ma…開口。